(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20220524BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20220524BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220524BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220524BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M4/36 C
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2020525442
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021787
(87)【国際公開番号】W WO2019239924
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2018112462
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100092071
【氏名又は名称】西澤 均
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【氏名又は名称】野末 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】林 剛司
(72)【発明者】
【氏名】常松 淳司
(72)【発明者】
【氏名】帆前 雅博
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/098970(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0149061(US,A1)
【文献】国際公開第2014/175350(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/049723(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/058
H01M 4/13-4/1399
H01M 4/36-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な正極活物質を有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な負極活物質を有する負極と、
前記正極および前記負極の間に介在するセパレータと、
比誘電率が20以上の極性溶媒を含む非水電解質と、
を備え、
前記正極活物質を構成する正極活物質粒子の表面には、炭素化合物を含む被覆層が形成され、かつ、前記被覆層には、酸性官能基が含まれており、
前記正極活物質および前記被覆層からなる複合体に占める前記酸性官能基の量は、0.004mmol/g以上0.0062mmol/g以下であ
り、
前記複合体に占める前記被覆層の割合は、0.1重量%以上5重量%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記複合体の比表面積は、9.0m
2/g以上であることを特徴とする請求項
1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質は、化学式Li
xM
yP
zO
4-δ(ただし、0.5<x/y<1.5、y/z>1、δは酸素欠損量、Mは、Fe、Mn、Co、およびNiのうちの少なくとも1種類を含む)で表されるオリビン型リン酸リチウム化合物であることを特徴とする請求項1
または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いことから、例えば、小型電子機器の電源や車両駆動用電源として幅広く使用されている。
【0003】
そのようなリチウムイオン二次電池の一つとして、特許文献1には、オリビン型リチウムリン酸化物を正極活物質として用いるリチウムイオン二次電池が開示されている。そして、この特許文献1には、オリビン型リチウムリン酸化物の電子伝導性が乏しいことに鑑みて、正極活物質としてオリビン型リチウムリン酸化物の炭素複合体を用いるとともに、正極活物質層の厚さを最適化することにより、負荷特性と電池容量を両立させることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、オリビン型リチウムリン酸化物の導電性を改善するために、オリビン型リチウムリン酸化物を含む正極活物質粒子の内部に、炭素からなる導電パスを組み込んだリチウムイオン二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3997702号公報
【文献】特開2003-203628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のリチウムイオン二次電池のように、正極活物質層の厚さを最適化するだけでは、個々の正極活物質粒子の導電性は変わらないため、負荷特性の改善の余地がある。
【0007】
また、特許文献2には、導電パスを構成する炭素の詳細な状態についての記載がないため、導電パスが十分であるか不明である。したがって、正極活物質粒子の内部に組み込まれた導電パスが不十分である場合には、負荷特性が十分に向上するとは言えない。
【0008】
また、正極活物質に対する非水電解質の濡れ性が悪い場合には、負荷特性が低くなることが知られている。しかしながら、特許文献1および2では、正極活物質に対する非水電解質の濡れ性については全く考慮されておらず、特許文献1および2で示されている要件を満たすだけでは、必ずしも十分な負荷特性が得られない場合があるものと考えられる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、負荷特性を向上させることが可能なリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池は、
リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な正極活物質を有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な負極活物質を有する負極と、
前記正極および前記負極の間に介在するセパレータと、
比誘電率が20以上の極性溶媒を含む非水電解質と、
を備え、
前記正極活物質を構成する正極活物質粒子の表面には、炭素化合物を含む被覆層が形成され、かつ、前記被覆層には、酸性官能基が含まれており、
前記正極活物質および前記被覆層からなる複合体に占める前記酸性官能基の量は、0.004mmol/g以上0.0062mmol/g以下であり、
前記複合体に占める前記被覆層の割合は、0.1重量%以上5重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
また、前記複合体の比表面積は、9.0m2/g以上であってもよい。
【0013】
前記正極活物質は、化学式LixMyPzO4-δ(ただし、0.5<x/y<1.5、y/z>1、δは酸素欠損量、Mは、Fe、Mn、Co、およびNiのうちの少なくとも1種類を含む)で表されるオリビン型リン酸リチウム化合物としてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、正極活物質粒子の表面に、炭素化合物を含む被覆層が形成され、かつ、被覆層には酸性官能基が含まれており、正極活物質および被覆層からなる複合体に占める酸性官能基の量が0.004mmol/g以上0.0062mmol/g以下で、複合体に占める被覆層の割合は、0.1重量%以上5重量%以下であり、非水電解質が比誘電率20以上の極性溶媒を含むことにより、炭素化合物を含む被覆層による電子伝導性の向上と、正極活物質に対する非水電解質の濡れ性の向上とを両立させることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の負荷特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態におけるリチウムイオン二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに具体的に説明する。
【0017】
以下では、セパレータを介して正極および負極を交互に複数積層して形成された積層体と、非水電解質とを、外装体内に収容した構造のリチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態におけるリチウムイオン二次電池100の断面図である。このリチウムイオン二次電池100は、正極11と負極12がセパレータ13を介して交互に複数積層されることによって形成されている積層体10と、非水電解質14とがラミネートケース20内に収容された構造を有している。すなわち、リチウムイオン二次電池100は、正極11と、負極12と、セパレータ13と、非水電解質14とを備える。
【0019】
外装体であるラミネートケース20は、一対のラミネートフィルム20aおよび20bの周縁部同士を熱圧着して接合することにより形成されている。
【0020】
ラミネートケース20内に収容されている非水電解質14は、比誘電率が20以上の極性溶媒を含む。比誘電率が20以上の極性溶媒を含む非水電解質14として、例えば、比誘電率が90のエチレンカーボネートを含む非水電解液を用いることができる。
【0021】
ラミネートケース20の一方端側からは、正極端子16aが外部に導出されており、他方端側からは、負極端子16bが外部に導出されている。複数の正極11は、リード線15aを介して、正極端子16aと接続されている。また、複数の負極12は、リード線15bを介して、負極端子16bと接続されている。
【0022】
正極11は、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な正極活物質を有する。より具体的には、正極11は、上記正極活物質を含む正極合材層および正極集電体を有する。正極合材層は、正極集電体の両面に形成されている。正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの金属箔である。
【0023】
正極活物質は、例えば、化学式LixMyPzO4-δ(ただし、0.5<x/y<1.5、y/z>1、δは酸素欠損量、Mは、Fe、Mn、Co、およびNiのうちの少なくとも1種類を含む)で表されるオリビン型リン酸リチウム化合物である。そのようなオリビン型リン酸リチウム化合物として、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO4(LFPとも呼ばれる))を用いることができる。ただし、LiFePO4のFeサイトの一部は、Mg、Ca、Ti、Cr、Zr、Zn、およびNbからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素で置換されていてもよい。また、Liサイトの一部がNaで置換されていてもよいし、Pサイトの一部がSiで置換されていてもよい。
【0024】
正極合材層は、正極活物質の他に、導電助剤およびバインダを含んでいてもよい。正極活物質は、正極合材層中に、50重量%以上99重量%以下の割合で含まれていることが好ましい。
【0025】
本実施形態では、正極活物質を構成する正極活物質粒子の表面に、炭素化合物を含む被覆層が形成されている。被覆層には、酸性官能基が含まれている。そして、正極活物質および被覆層により、正極活物質の複合体(以下では、単に複合体と呼ぶ)が形成されている。
【0026】
ただし、正極活物質粒子の表面全体が被覆層で覆われている必要はない。また、被覆層には、例えば、酸性官能基を有していない炭素が含まれていてもよい。
【0027】
複合体は、例えば、正極活物質の構成材料と、還元性を有する炭水化物とを混合して得られる混合物を、不活性雰囲気中で加熱処理することによって作製することができる。ただし、混合物を加熱処理する際、加熱処理後に酸性官能基を含む炭素化合物が得られるように、熱処理雰囲気、加熱温度、加熱時間などを調整する。還元性を有する炭水化物として、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、デキストリンなどの糖類、セルロース、アルデヒド基やケトン基などの還元性官能基を有するものなどを用いることができる。
【0028】
酸性官能基の種類に特に制約はないが、例えば、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、およびキノン基からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0029】
本実施形態では、正極活物質および被覆層からなる複合体に占める酸性官能基の量は、0.004mmol/g以上0.0062mmol/g以下である。酸性官能基の量が上記の要件を満たし、かつ、非水電解質14に比誘電率が20以上の極性溶媒を含む構成とすることにより、炭素化合物を含む被覆層による電子伝導性の向上と、正極活物質に対する非水電解質14の濡れ性の向上によるリチウムイオンの吸蔵・放出の促進とを両立させることができる。これにより、上記構成を備えていない従来のリチウムイオン二次電池と比べて、本実施形態におけるリチウムイオン二次電池100では、負荷特性が向上する。
【0030】
ここで、正極活物質粒子の表面に、酸性官能基が含まれない炭素からなる被覆層、すなわち、本発明の要件を備えていない被覆層を形成した場合について考察する。この場合、正極活物質粒子に炭素が付着していない構成と比べると、炭素が付着していることにより、電子伝導性は向上するが、酸性官能基が含まれない炭素によって正極活物質粒子が覆われることにより、正極活物質によるリチウムイオンの吸蔵・放出が円滑に行われなくなると考えられる。
【0031】
しかしながら、本実施形態におけるリチウムイオン二次電池100によれば、正極活物質粒子の表面に、酸性官能基を有する炭素化合物を含む被覆層を形成するとともに、酸性官能基の含有量を上記の量とし、非水電解質14に比誘電率が20以上の極性溶媒を含む構成とすることにより、電子伝導性の向上と正極活物質に対する非水電解質14の濡れ性の向上とを両立させることができる。
【0032】
また、複合体に占める被覆層の割合は、0.1重量%以上5重量%以下であることが好ましい。複合体に占める被覆層の割合を、0.1重量%以上5重量%以下とすることにより、被覆層を介した電子伝導ネットワークが効率良く形成され、抵抗の高い正極活物質内部のリチウム拡散距離を小さくすることができるため、リチウムイオン二次電池100の負荷特性を向上させることができる。正極活物質内部のリチウム拡散距離をより小さくして負荷特性をさらに向上させるため、複合体に占める被覆層の割合は、1重量%以上2重量%以下であることがより好ましい。
【0033】
複合体の比表面積は、9.0m2/g以上であることが好ましい。複合体の比表面積を9.0m2/g以上とすることにより、正極活物質内部のリチウム拡散距離を小さくすることができ、負荷特性を向上させることができる。正極活物質内部のリチウム拡散距離をより小さくして負荷特性をさらに向上させるために、複合体の比表面積は、10m2/g以上13m2/g以下であることがより好ましい。
【0034】
負極12は、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な負極活物質を有する。より具体的には、負極12は、上記負極活物質を含む負極合材層および負極集電体を有する。負極合材層は、負極集電体の両面に形成されている。
【0035】
負極活物質の種類に特に制約はないが、例えば、黒鉛(グラファイト)、ハードカーボン、およびソフトカーボンなどの炭素系化合物や、チタン酸リチウムやMOx(ただし、MはTi、Si、Sn、Cr、Fe、およびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは0.9≦x≦2.0の範囲内の数値である。)で表される組成を有する金属酸化物、珪素、珪素酸化物、珪素含有合金、珪素含有化合物、錫、錫酸化物、錫含有合金、および錫含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む合金系の物質を用いることができる。
【0036】
負極集電体は、例えば、銅などの金属箔である。負極合材層は、負極活物質の他に、導電助剤およびバインダを含んでいてもよい。
【0037】
セパレータ13は、正極11および負極12の間に介在している。セパレータ13としては、リチウムイオン二次電池に使用可能な種々のセパレータを特に制約なく用いることができる。
図1に示すセパレータ13は袋状の形状を有するが、シート状の形状を有するものであってもよいし、九十九折りの形状を有するものであってもよい。
【0038】
<実施例>
(酸性官能基量の測定)
正極活物質として、リン酸鉄リチウム粒子の表面に、酸性官能基を有する炭素化合物を含む被覆層が形成されたリン酸鉄リチウムの粉末(以下、LFP粉末と呼ぶ)を用意した。表面に被覆層が形成された複合体であるリン酸鉄リチウム粒子の平均粒径D50は、1μm以上11μm以下であり、比表面積は、10m2/g以上12m2/g以下であった。
【0039】
用意したLFP粉末について、被覆層に含まれる酸性官能基の量を逆滴定法により測定した。逆滴定法とは、既知の濃度の塩基性溶液にLFP粉末を混ぜて、LFP粉末と未反応の塩基性溶液を酸性溶液で滴定することで反応した塩基性溶液量を求め、反応した塩基量から酸性官能基量を求める方法である。
【0040】
具体的には、容器にLFP粉末を3g秤量し、温度25℃、湿度50%の恒温恒湿槽で6時間以上安定化処理をした後、塩基性溶液としてメチルイソブチルケトン(MIBK)にピリジンを0.01mol/Lになるように混合した溶液30mlを加えて密栓し、超音波洗浄機で1時間、超音波分散した。分散液を遠心分離し、分取した上澄み液10mlをMIBKで希釈し、過塩素酸0.01mol/LのMIBK溶液で滴定した。LFP表面の酸性官能基によって消費されたピリジン量から、複合体に占める酸性官能基の量(酸点量)、および被覆層に占める酸性官能基の量(酸点量)を求めた。
【0041】
なお、複合体であるLFP粉末を作製する際のリン酸鉄リチウムの量から、複合体に占める正極活物質の量、および複合体に占める被覆層の量は、事前に求めておくことができる。すなわち、複合体に占める酸性官能基の量を求めることができれば、被覆層に占める酸性官能基の量も求めることができる。
【0042】
ここでは、後述する表1に示すように、複合体に占める酸性官能基の量、および複合体に占める炭素化合物の量が異なる7種類のLFP粉末を用意し、後述する方法により、負荷特性を評価するための7種類の電池を作製した。
【0043】
(正極の作製)
続いて、上述したLFP粉末の他に、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)を、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用意し、それらを重量比で、LFP粉末:AB:PVdFが85:10:5となるように、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させて、正極スラリーを作製した。
【0044】
この正極スラリーを、ダイコーターを用いて、厚さ20μmで帯状の形状を有するアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥させた。そして、ロールプレス機を用いて、密度が2.0g/cm3となるように圧密化した後、50mm×50mmの寸法になるように切断して、正極を作製した。正極合材層の厚みは、約25μmとなるようにした。
【0045】
(負極の作製)
続いて、負極活物質として天然黒鉛を、バインダとしてPVdFをそれぞれ用意し、それらを重量比で天然黒鉛:PVdFが95:5となるように、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させて、負極スラリーを作製した。
【0046】
作製した負極スラリーを、ダイコーターを用いて、厚さ15μmで帯状の形状を有する銅箔の両面に均一に塗布し、乾燥させた。なお、負極スラリーの塗布量は、負極容量が正極容量の1.8倍となるように調整した。そして、ロールプレス機を用いて、密度が1.3g/cm3となるように圧密化した後、52mm×52mmの寸法になるように切断して、負極を作製した。負極合材層の厚みは、約25μmとなるようにした。
【0047】
(電解液の作製)
続いて、比誘電率が90のエチレンカーボネート(EC)と、比誘電率が2.8のエチルメチルカーボネート(EMC)の体積比がEC:EMC=25:75である混合溶媒を用意した。そして、用意した混合溶媒に、溶媒1リットル当たり1molの6フッ化燐酸リチウム(LiPF6)を溶解させ、さらにビニレンカーボネート(VC)を加えて非水電解液を作製した。ビニレンカーボネートは、作製した非水電解液の全体に対する割合が1.0重量%となるように、加える量を調整した。
【0048】
(電池の作製)
上述した方法により作製した正極と負極を、セパレータを介して、交互に複数積層することにより、積層型の電池素子を作製した。セパレータには、厚さ20μmの微孔性ポリプロピレンフィルムを用いた。
【0049】
続いて、作製した電池素子に、外部接続線と接続するための集電リードを超音波溶着した。そして、三方を熱溶着して作製した、アルミラミネートからなる袋状の外装体に、電池素子を収納した。このとき、集電リードは、外装体の外部に突出するようにした。
【0050】
最後に、袋状の外装体内に、上述した方法により作製した非水電解液を1.6g注入した後、開いている一辺を閉じて封止することにより、電池を作製した。
【0051】
上述したように、複合体に占める酸性官能基の量と複合体に占める炭素化合物の量が異なる7種類のLFP粉末を用いて、後述する表1に示す7種類の電池を作製した。
【0052】
(初回充放電条件)
作製した各電池に対して、25℃の温度条件下において、0.2CAの定電流で、電池の電圧が3.8Vに達するまで充電し、さらに3.8Vの定電圧で10時間充電を行った。
【0053】
その後、25℃の温度条件下において、1CAの定電流で、電池の電圧が2.5Vに達するまで放電を行った。
【0054】
(エージング処理)
作製した各電池に対して、25℃の温度条件下において、1CAの定電流で電池の電圧が3.8Vに達するまで充電し、さらに3.8Vの定電圧で、電流が1/50CAに減衰するまで充電を行った。その後、55℃の温度条件下において、1週間エージング処理を行った。
【0055】
また、初回充放電時およびエージング処理時に、外装体内でガスが生じた場合には、ガスを外装体の外部に放出するデガス処理を行った。
【0056】
(出力特性試験)
<容量検査>
作製した各電池に対して、25℃の温度条件下において、1CAの定電流で、電池の電圧が3.5Vに達するまで充電し、さらに3.5Vの定電圧で、電流が1/50CAに減衰するまで充電を行った。
【0057】
その後、55℃の温度条件下において、1CAの定電流で、電池の電圧が2.5Vに達するまで放電を行って、放電容量を求めた。この放電容量を電池容量とした。各電池の容量を表1に示す。
【0058】
<負荷特性検査>
作製した各電池を25℃の温度条件下において、充電深度(SOC)が50%になるまで充電し、その後、0℃の温度条件下において、10Cの定電流で20秒間充電したときの到達電圧から直流抵抗率を算出した。そして、算出した直流抵抗率を、正極の総面積によって規格化した値を、負荷特性の指標とした。各電池について、正極の総面積によって規格化した直流抵抗率(DCR)を表1に示す。
【0059】
【0060】
表1では、複合体に占める酸性官能基の量と炭素化合物の量が異なる7種類の電池について、複合体に占める酸性官能基の量、複合体に占める炭素化合物の量、電池の直流抵抗率(DCR)、抵抗評価、および、電池容量を示している。試料番号1~5の試料は、複合体に占める酸性官能基の量が0.004mmol/g以上0.0062mmol/g以下であるという本発明の要件を満たす評価用セルである。一方、*が付されている試料番号6および7の試料は、上記本発明の要件を満たさない比較用セルである。
【0061】
表1に示すように、本発明の要件を満たしていない試料番号6の比較用セルの直流抵抗率は87Ωcm2であり、試料番号7の比較用セルの直流抵抗率は72Ωcm2であるが、本発明の要件を満たす試料番号1~5の評価用セルの直流抵抗率は、68Ωcm2以下であった。このため、本発明の要件を満たす試料番号1~5の評価用セルの抵抗評価は「○」とし、本発明の要件を満たしていない試料番号6および7の比較用セルの抵抗評価は、「×」とした。
【0062】
すなわち、正極活物質粒子の表面に、酸性官能基を有する炭素化合物を含む被覆層が形成されており、複合体に占める酸性官能基の量が0.004mmol/g以上0.0062mmol/g以下であるという要件を満たし、かつ、非水電解質に比誘電率が20以上の極性溶媒が含まれているリチウムイオン二次電池は、上記要件を満たさない従来のリチウムイオン二次電池と比べて、直流抵抗率が低くなり、負荷特性が向上する。
【0063】
また、表1には示していないが、非水電解質に、比誘電率が20以上の溶媒が含まれていない電池では、複合体に占める酸性官能基の量が0.004mmol/g以上0.0062mmol/g以下の要件を満たす場合でも、正極活物質に対する電解液の濡れ性が悪くなり、負荷特性が低いことが分かった。
【0064】
すなわち、複合体に占める酸性官能基の量が0.004mmol/g以上0.0062mmol/g以下であり、さらに、非水電解質が比誘電率20以上の極性溶媒を含むという条件を満たすことにより、炭素化合物を含む被覆層による電子伝導性の向上と、正極活物質に対する非水電解質の濡れ性の向上によるリチウムイオンの吸蔵・放出の促進とを両立させることができ、リチウムイオン二次電池の負荷特性が向上する。
【0065】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0066】
上述した実施形態では、セパレータを介して正極および負極を交互に複数積層して形成される積層体と、非水電解質とを外装体内に収容した構造のリチウムイオン二次電池を例に挙げて説明したが、本発明によるリチウムイオン二次電池の構造が上記構造に限定されることはない。例えば、リチウムイオン二次電池は、セパレータを介して積層された正極および負極を巻回して形成される巻回体と、非水電解質とを外装体内に収容した構造であってもよい。また、外装体は、ラミネートケースではなく、金属缶であってもよい。
【0067】
正極活物質として、オリビン型リン酸リチウム化合物を用いる例を挙げて説明したが、正極活物質がオリビン型リン酸リチウム化合物に限定されることはない。ただし、正極活物質として、オリビン型リン酸リチウム化合物を用いて本発明を適用した場合、リチウム拡散抵抗が高く、粒子内の電子伝導性が低いオリビン型リン酸リチウム化合物の欠点を補って、効果的に負荷特性を向上させることができる。すなわち、オリビン型リン酸リチウム化合物の表面に炭素化合物を付着させることによって、電子伝導性を向上させることが可能であるが、このときに、本発明のような構成とすることにより、電子伝導性の向上と、正極活物質に対する非水電解質の濡れ性の向上とを両立させて、効果的に負荷特性を向上させることができる。
【0068】
なお、複合体に占める酸性官能基の量は、電池の製造時に用いる複合体からだけでなく、製造された電池の正極から求めることもできる。例えば、以下の方法により求めることができる。
【0069】
まず、電池の正極から正極合材層を剥がして粉末状にした正極粉末を採取し、採取した正極粉末をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に加えて、バインダであるPVdFを溶解させて除去する。PVdFを除去した粉末にさらにNMPを加えて遠心分離することにより、導電助剤と複合体とを分離し、分離して得られた複合体を用いて、酸性官能基の量を求める。酸性官能基の量は、上述した逆滴定法により求めることができる。
【符号の説明】
【0070】
10 積層体
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 非水電解質
20 ラミネートケース
100 リチウムイオン二次電池