(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 19/06 20060101AFI20220524BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20220524BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
H01Q19/06
H01Q13/08
H01Q21/06
(21)【出願番号】P 2020548242
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2019033975
(87)【国際公開番号】W WO2020066451
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2018181165
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】二神 大
(72)【発明者】
【氏名】根本 崇弥
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/115372(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/003374(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/125716(WO,A1)
【文献】特開2005-130464(JP,A)
【文献】特開平03-139903(JP,A)
【文献】特開平01-243605(JP,A)
【文献】特開昭63-224507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/00- 21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に設けられた放射素子及びグランド導体を含むパッチアンテナと、
平面視において前記放射素子と重なるように配置され、前記放射素子から見て前記グランド導体とは反対側に配置された均質な誘電体部材と
を有し、
前記放射素子の法線方向を高さ方向とし、前記高さ方向に対して垂直な仮想平面を基準面としたとき、前記誘電体部材は前記基準面に対して傾斜した側面
、前記放射素子側を向く底面、及び底面とは反対側を向く上面を有し、
前記放射素子の励振方向に関する寸法を前記誘電体部材の比誘電率の平方根で除した値を基準値としたとき、
前記誘電体部材の上面の面積が前記基準値の1.8倍の直径を持つ円の面積以上、かつ3.8倍の直径を持つ円の面積以下であるという特徴、
前記誘電体部材の底面の面積が前記基準値の35倍の直径を持つ円の面積以下であるという特徴、
前記誘電体部材の底面の面積が前記基準値の6.3倍の直径を持つ円の面積以上であるという特徴、
前記誘電体部材の高さが前記基準値の3.2倍以下という特徴、及び
前記誘電体部材の高さが前記基準値の1.5倍以上という特徴
からなる群より選択された少なくとも一つの特徴を備えたアンテナ装置。
【請求項2】
前記誘電体部材は、前記高さ方向に平行に入射する電波に対して焦点を持たない請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記誘電体部材の形状は、円錐、円錘台、角錘、または角錘台である請求項
1または2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記誘電体部材は、前記高さ方向に平行な軸を回転中心として回転対称性を持つ請求項1乃至
3のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
1つの前記放射素子及び1つの前記誘電体部材が1つの構成単位となり、複数の前記構成単位が前記基板に設けられてアレイアンテナが構成されている請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
基板に設けられた放射素子及びグランド導体を含むパッチアンテナと、
平面視において前記放射素子と重なるように配置され、前記放射素子から見て前記グランド導体とは反対側に配置された誘電体部材と
を有し、
前記放射素子の法線方向を高さ方向とし、前記高さ方向に対して垂直な仮想平面を基準面としたとき、前記誘電体部材は前記基準面に対して傾斜した側面を
、前記放射素子側を向く底面、及び底面とは反対側を向く上面を有し、
前記誘電体部材は、前記高さ方向に平行に入射する電波に対して焦点を持た
ず、
前記誘電体部材の底面の中心、上面の中心、及び前記放射素子の中心が、平面視において一致するアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アレイアンテナを構成する複数の単位アンテナの各々の上に誘電体等価物を配置した誘電体装荷アレイアンテナが知られている(特許文献1参照)。この単位アンテナにはパッチアンテナが用いられ、各パッチの上に、直方体状に構成された誘電体が配置される。この誘電体の縦、横、高さの寸法は、それぞれ波長の1.25倍、1.25倍、及び1.42倍である。このように誘電体を配置することにより、各単位アンテナの開口効率が増大される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘電体を装荷したアンテナ装置において、より広帯域化することが求められている。本発明の目的は、広帯域化することが可能なアンテナ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一観点によると、
基板に設けられた放射素子及びグランド導体を含むパッチアンテナと、
平面視において前記放射素子と重なるように配置され、前記放射素子から見て前記グランド導体とは反対側に配置された均質な誘電体部材と
を有し、
前記放射素子の法線方向を高さ方向とし、前記高さ方向に対して垂直な仮想平面を基準面としたとき、前記誘電体部材は前記基準面に対して傾斜した側面、前記放射素子側を向く底面、及び底面とは反対側を向く上面を有し、
前記放射素子の励振方向に関する寸法を前記誘電体部材の比誘電率の平方根で除した値を基準値としたとき、
前記誘電体部材の上面の面積が前記基準値の1.8倍の直径を持つ円の面積以上、かつ3.8倍の直径を持つ円の面積以下であるという特徴、
前記誘電体部材の底面の面積が前記基準値の35倍の直径を持つ円の面積以下であるという特徴、
前記誘電体部材の底面の面積が前記基準値の6.3倍の直径を持つ円の面積以上であるという特徴、
前記誘電体部材の高さが前記基準値の3.2倍以下という特徴、及び
前記誘電体部材の高さが前記基準値の1.5倍以上という特徴
からなる群より選択された少なくとも一つの特徴を備えたアンテナ装置が提供される。
【0006】
本発明の他の観点によると、
基板に設けられた放射素子及びグランド導体を含むパッチアンテナと、
平面視において前記放射素子と重なるように配置され、前記放射素子から見て前記グランド導体とは反対側に配置された誘電体部材と
を有し、
前記放射素子の法線方向を高さ方向とし、前記高さ方向に対して垂直な仮想平面を基準面としたとき、前記誘電体部材は前記基準面に対して傾斜した側面を、前記放射素子側を向く底面、及び底面とは反対側を向く上面を有し、
前記誘電体部材は、前記高さ方向に平行に入射する電波に対して焦点を持たず、
前記誘電体部材の底面の中心、上面の中心、及び前記放射素子の中心が、平面視において一致するアンテナ装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
上述の誘電体部材をパッチアンテナに装荷することにより、広帯域化を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施例によるアンテナ装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施例によるアンテナ装置の断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施例によるアンテナ装置のリターンロスS11と周波数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、第1実施例によるアンテナ装置の誘電体部材の高さHを0.5mm、底面の直径LDを5mmに固定し、上面の直径UDを変化させたときのリターンロスS11と周波数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、第2実施例によるアンテナ装置の斜視図である。
【
図6】
図6は、第2実施例によるアンテナ装置のリターンロスS11と周波数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、第3実施例によるアンテナ装置の斜視図である。
【
図8】
図8Aは、第3実施例によるアンテナ装置のアンテナゲインと、法線方向からx軸方向への傾斜角θxとの関係を示すグラフであり、
図8Bは、第3実施例によるアンテナ装置のアンテナゲインと、法線方向からy軸方向への傾斜角θyとの関係を示すグラフである。
【
図9】
図9A及び
図9Bは、それぞれ第4実施例及びその変形例によるアンテナ装置の斜視図である。
【
図10】
図10は、第5実施例による通信装置の部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施例]
図1から
図4までの図面を参照して、第1実施例によるアンテナ装置について説明する。
図1は、第1実施例によるアンテナ装置の斜視図である。誘電体からなる基板10の一方の面である上面に放射素子11が配置されており、内層にグランド導体15が配置されている。放射素子11とグランド導体15とがパッチアンテナを構成する。放射素子11は正方形の平面形状を持つ。なお、放射素子11の平面形状を長方形、円形等にしてもよい。
【0010】
平面視において放射素子11と重なるように、基板10の上(放射素子11から見てグランド導体15とは反対側)に誘電体部材20が配置されている。誘電体部材20は均質な誘電体材料で形成された一体成形品であり、接着剤等で放射素子11及び基板10に接着される。誘電体部材20の内部の誘電率は均一である。基板10の下面に給電線12が配置されている。給電線12は、グランド導体15に設けられたクリアランスホール内のビアホールを通って放射素子11に結合している。
【0011】
誘電体部材20は円錘台形状を有する。誘電体部材20は、放射素子11側を向く円形の底面、底面とは反対側を向く円形の上面、及び底面と上面とを接続する側面を有する。底面と上面とは平行であり、上面は底面より小さく、底面の中心及び上面の中心を通過する平面における誘電体部材20の断面は等脚台形である。本明細書において放射素子11の法線方向を高さ方向と定義し、高さ方向に対して垂直な仮想平面を基準面ということとする。誘電体部材20の側面は基準面に対して傾斜している。誘電体部材20は、例えば低温同時焼成セラミックス(LTCC)等のセラミックス、またはポリイミド等の樹脂で形成することができる。例えば、LTCCの比誘電率εrは約6.4であり、ポリイミドの比誘電率εrは約3である。
【0012】
平面視において誘電体部材20の底面の中心、上面の中心、及び放射素子11の中心が一致する。誘電体部材20の底面は、平面視において放射素子11を内包する。より一般的には、誘電体部材20の底面は、平面視における放射素子11の最小包含円より大きい。ここで、「最小包含円」は、平面上の有界な領域を含む最小の円を意味する。有界な領域が正方形または長方形である場合には、4つの頂点を通過する円周で囲まれた領域が最小包含円になる。
【0013】
図2は、第1実施例によるアンテナ装置の断面図である。基板10の上面に放射素子11が配置されており、内層にグランド導体15が配置されており、下面に給電線12が配置されている。給電線12は、グランド導体15に設けられたクリアランスホールを通るビア導体13を介して放射素子11に結合している。基板10と誘電体部材20との間に接着剤層17が配置されている。なお、
図2では、給電線12が基板10の下面に配置された例を示しているが、給電線12を基板10の内層に配置してもよい。
【0014】
誘電体部材20の底面の直径をLDで表し、上面の直径をUDで表し、高さをHで表す。放射素子11の一辺の長さをLで表し、厚さをT1で表す。グランド導体15の厚さをT2で表す。基板10のうち、放射素子11とグランド導体15との間の部分の厚さをT3で表し、グランド導体15よりも下側の部分の厚さをT4で表す。一例として、直径LD=5mm、直径UD=1mm、高さH=0.5mmである。
【0015】
次に、第1実施例の優れた効果について説明する。
本願の発明者らが行ったシミュレーションによると、第1実施例によるアンテナ装置は、従来の直方体の誘電体部材を配置する場合と比べて広帯域化を図ることが可能になることが確認された。広帯域化されるのは、放射素子11(
図1)から放射された電波が誘電体部材20の中で反射して複共振が生じるためと考えられる。
【0016】
次に、
図3及び
図4を参照して、本願の発明者らが行ったシミュレーションについて説明する。
誘電体部材20の高さ、底面及び上面の寸法を変化させて、50GHzから70GHzまでの周波数域においてリターンロスS11を求めた。放射素子11の一辺の長さLを0.8mmとした。放射素子11の厚さT1及びグランド導体15の厚さT2を、共に15μmとした。基板10の厚さT3、T4(
図2)を、それぞれ100μm、65μmとした。誘電体部材20及び基板10の比誘電率εrを6.4とした。
【0017】
図3は、リターンロスS11と周波数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。横軸は周波数を単位「GHz」で表し、縦軸はリターンロスS11を単位「dB」で表す。
図3のグラフの実線及び破線に付されたカッコつきの3つの数字は、左から順番に高さH、底面の直径LD、及び上面の直径UDを単位「mm」で表している。参考のために、誘電体部材の形状を直方体にした場合のリターンロスS11を、隙間で区切った線要素が相対的に長い破線で示す。
【0018】
例えば、リターンロスS11が-10dB以下の範囲を、アンテナ装置が高効率で送受信を行うことができる周波数帯域と考えることができる。リターンロスS11が-10dB以下になる周波数帯域が広くなると、「広帯域化」されたということができる。直方体の誘電体部材の寸法は、周波数帯域幅が最も広くなるように最適化した。最適化した直方体の誘電体部材を用いたときの周波数帯域幅は約8GHzである。円錐台形状の誘電体部材20を用いた第1実施例においては、例えば高さHが0.5mm以上1mm以下の範囲、底面の直径LDが2mm以上11mm以下の範囲、上面の直径UDが0.6mm以上1.2mm以下の範囲に、誘電体部材を直方体にした場合と比べて広帯域化される好ましい条件が存在することがわかる。誘電体部材20の寸法のこの範囲を、第1好適範囲ということとする。
【0019】
図4は、誘電体部材20の高さHを0.5mm、底面の直径LDを5mmに固定し、上面の直径UDを変化させたときのリターンロスS11と周波数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
図4において実線で示すように、上面の直径UDが0.8mm以上1.2mm以下の範囲内で、誘電体部材を直方体にした場合と比べて広帯域化が実現されていることがわかる。このように、上面の直径UDを最適値から±20%変化させても、十分な広帯域化が実現される。最適値とは、着目するパラメータ以外のパラメータを固定し、着目するパラメータの値を変化させたときに、周波数帯域幅が最も広くなるときの値を意味する。
【0020】
同様に、高さH、または底面の直径LDを最適値から±20%変化させても、十分な広帯域化が実現されると考えられる。
【0021】
図3に示したシミュレーション結果から、高さHを0.5mmにし、上面の直径UDを1mmにしたとき、底面の直径LDが5mm以上11mm以下の範囲で広帯域化が実現されていることがわかる。高さH及び上面の直径UDを±20%変化させて、高さHが0.4mm以上0.6mm以下の範囲、及び上面の直径UDが0.8mm以上1.2mm以下の範囲で、底面の直径LDを5mm以上11mm以下の範囲内に設定することにより十分な広帯域化が実現可能であると考えられる。誘電体部材20の寸法のこの範囲を、第2好適範囲ということとする。
【0022】
さらに、
図3に示したシミュレーション結果から、底面の直径LDを2mmにしたとき、高さHが0.8mm以上1mm以下の範囲、及び上面の直径UDが0.6mm以上1.2mm以下の範囲で広帯域化が実現されていることがわかる。底面の直径LDを±20%変化させて、底面の直径LDが1.6mm以上2.4mm以下の範囲で、高さHを0.8mm以上1mm以下の範囲内に設定し、上面の直径UDを0.6mm以上1.2mm以下の範囲内に設定することにより十分な広帯域化が実現可能であると考えられる。誘電体部材20の寸法のこの範囲を、第3好適範囲ということとする。
【0023】
誘電体部材20の上述の好ましい寸法は、誘電体部材20内の電波の波長によって変化する。誘電体部材20内の電波の波長は、放射素子11の励振方向に関する寸法及び誘電体部材20の比誘電率εrによって変化する。より具体的には、誘電体部材20内の電波の波長は、放射素子11の励振方向に関する寸法を、比誘電率εrの平方根で除した値(以下、基準値ということとする。)に依存する。
【0024】
第1実施例の上記シミュレーションでは、放射素子11の一辺の長さLを0.8mmとしたため、放射素子11の励振方向に関する寸法は0.8mmである。さらに、上記シミュレーションでは誘電体部材20の比誘電率εrを6.4とした。従って、この場合の基準値は約0.316mmである。誘電体部材20の寸法の好ましい範囲は、この基準値に基づいて決定すればよい。
【0025】
誘電体部材20の寸法の上述の第1好適範囲は、基準値に基づいて以下のように表すことができる。高さHの第1好適範囲は基準値の1.5倍以上3.2倍以下であり、底面の直径LDの第1好適範囲は基準値の6.3倍以上35倍以下であり、上面の直径UDの第1好適範囲は基準値の1.8倍以上3.8倍以下になる。
【0026】
誘電体部材20の寸法の上述の第2好適範囲は、基準値に基づいて以下のように表すことができる。高さHの第2好適範囲は基準値の1.2倍以上1.9倍以下であり、底面の直径LDの第2好適範囲は基準値の15倍以上35倍以下であり、上面の直径UDの第2好適範囲は基準値の2.5倍以上3.8倍以下になる。
【0027】
誘電体部材20の寸法の上述の第3好適範囲は、基準値に基づいて以下のように表すことができる。高さHの第3好適範囲は基準値の2.5倍以上3.2倍以下であり、底面の直径LDの第3好適範囲は基準値の5倍以上7.6倍以下であり、上面の直径UDの第3好適範囲は基準値の1.8倍以上3.8倍以下になる。
【0028】
さらに、誘電体部材20は均質な誘電体材料で形成されており、二次接着部や機械的接合部を持たない一体成形品である。このため、傾斜した側面を滑らかにすることが容易である。側面を滑らかにすることにより、電波の散乱を抑制することができる。また、誘電体部材20の内部に界面が存在しないため、界面に起因する電波の散乱が生じない。その結果、散乱による損失を抑制することができる。さらに、二次接着や機械的接合を行わないため、製造が容易であり、個体間の品質のばらつきも生じにくい。
【0029】
さらに、第1実施例の誘電体部材20の形状は円錐台であるため、その高さ方向に平行に入射する電波に対して焦点を持たない。例えば、誘電体部材が焦点を持つ場合には、焦点に放射素子を配置すると、放射素子と誘電体部材とが誘電体レンズアンテナとして動作する。この場合、誘電体部材と放射素子との相対位置がずれると、アンテナ特性が大きく変化してしまう。第1実施例では、誘電体部材20が焦点を持たないため、誘電体部材20と放射素子11(
図1)との相対的な位置ずれに対するアンテナ装置の特性の変化が少ない。このため、アンテナ装置の組み立て時に、放射素子を焦点位置に合わせるというような極めて高い位置精度が要求されない。
【0030】
第1実施例では、アンテナ装置に装荷される誘電体部材20として、均質であり、かつ焦点を持たないものを用いたが、「均質であること」、及び「焦点を持たないこと」の少なくとも一方の条件を満たす誘電体部材20を用いてもよい。
【0031】
[第2実施例]
次に、
図5及び
図6を参照して第2実施例によるアンテナ装置について説明する。以下、第1実施例によるアンテナ装置(
図1、
図2)と共通の構成については説明を省略する。
【0032】
図5は、第2実施例によるアンテナ装置の斜視図である。第1実施例では、誘電体部材20(
図1)が円錐台形状であるが、第2実施例では、誘電体部材20が円錐形状である。これは、第1実施例の誘電体部材20の上面の直径UD(
図2)が0の場合に相当する。
【0033】
図6は、第2実施例によるアンテナ装置のリターンロスS11と周波数との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。横軸は周波数を単位「GHz」で表し、縦軸はリターンロスS11を単位「dB」で表す。
図6のグラフの実線及び破線に付されたカッコつきの2つの数字は、左から順番に高さH及び底面の直径LDを表している。参考のために、誘電体部材の形状を直方体とした場合のリターンロスS11を、隙間で区切った線要素が相対的に長い破線で示す。
【0034】
円錐形状の誘電体部材20の高さHが0.5mm以上2.5mm以下の範囲、及び底面の直径LDが2mm以上11mm以下の範囲で、誘電体部材20を直方体にした場合と同等かそれ以上の広帯域化を実現可能であることがわかる。このように、誘電体部材20を円錐形状にしても、第1実施例と同様の優れた効果が得られる。
【0035】
[第3実施例]
次に、
図7、
図8A、及び
図8Bを参照して第3実施例によるアンテナ装置について説明する。以下、第1実施例によるアンテナ装置(
図1、
図2)と共通の構成については説明を省略する。
【0036】
図7は、第3実施例によるアンテナ装置の斜視図である。第1実施例では、基板10の上に1つの放射素子11と1つの誘電体部材20とが配置されている。第3実施例では、1つの放射素子11と1つの誘電体部材20とが1つの構成単位25となり、複数の構成単位25が1枚の基板10に配置されている。例えば9個の構成単位25が3行3列の行列状に配置されており、アレイアンテナを構成している。
【0037】
平面視において放射素子11から給電線12が延びる方向をx軸の正の方向とし、それに直交する方向をy軸方向とし、基板10の上面の法線方向をz軸の正の方向とするxyz直交座標系を定義する。第3実施例によるアンテナ装置のアンテナゲインと、法線方向(z軸の正方向)からの傾斜角との関係をシミュレーションによって求めた。
【0038】
図8Aは、アンテナゲインと、法線方向からx軸方向への傾斜角θxとの関係を示すグラフである。
図8Bは、アンテナゲインと、法線方向からy軸方向への傾斜角θyとの関係を示すグラフである。
図8A及び
図8Bのグラフの横軸は、それぞれ傾斜角θx及びθyを単位「度」で表し、縦軸はアンテナゲインを単位「dB」で表す。
図8A及び
図8Bのグラフの太い実線は、第3実施例によるアンテナ装置のアンテナゲインを示し、破線は、誘電体部材20(
図7)を直方体形状にしたアンテナ装置のアンテナゲインを示し、細い実線は、誘電体部材を配置しないアンテナ装置のアンテナゲインを示す。なお、円錐台形状の誘電体部材20の高さを1mm、底面の直径を2mm、上面の直径を0.6mmとした。直方体形状の誘電体部材20の底面を一辺の長さが2.5mmの正方形とし、高さを0.5mmとした。これらの形状及び寸法は、好ましいアンテナ特性が得られるように最適化した値である。放射素子11の中心間距離を、x軸方向及びy軸方向の両方において2.5mmとした。動作周波数は60GHzとした。
【0039】
シミュレーション結果から、放射素子11の各々に円錐台の誘電体部材20を装荷することにより、誘電体部材を装荷しない場合と比べて、-30°以上30°以下の傾斜角の範囲において大きなアンテナゲインが得られていることがわかる。また、誘電体部材20を直方体形状にした構成と比べても、-30°以上30°以下の傾斜角の範囲において大きなアンテナゲインが得られていることがわかる。このように、円錐台の誘電体部材20をアレイアンテナに適用することにより、大きなアンテナゲインを得ることができる。また、第1実施例と同様に、広帯域化を図ることが可能になる。
【0040】
[第4実施例]
次に、
図9Aを参照して第4実施例によるアンテナ装置について説明する。以下、第1実施例によるアンテナ装置(
図1、
図2)と共通の構成については説明を省略する。
【0041】
図9Aは、第4実施例によるアンテナ装置の斜視図である。第1実施例の誘電体部材20(
図1)は円錐台形状である。これに対し、第4実施例の誘電体部材20は四角錘台形状である。誘電体部材20の底面及び上面の各辺は、放射素子11の辺と平行に配置されている。第1実施例の場合と同様に、平面視において誘電体部材20の底面の中心、上面の中心、及び放射素子11の中心は同じ位置に配置されている。
【0042】
次に、第4実施例の誘電体部材20の好ましい寸法について説明する。第4実施例の誘電体部材20の高さの好ましい範囲は、第1実施例の誘電体部材20の高さの好ましい範囲と同一である。誘電体部材20の底面及び上面の好ましい寸法は、その面積で規定するとよい。底面及び上面の面積の好ましい範囲は、それぞれ第1実施例の誘電体部材20の円形の底面及び円形の上面の面積の好ましい範囲と同一である。
【0043】
次に、第4実施例の優れた効果について説明する。誘電体部材20を四角錘台形状にしても、誘電体部材20の内部で電波が反射して複共振が生じる。このため、第1実施例の場合と同様に、アンテナ装置の広帯域化を図ることができる。
【0044】
次に、第4実施例の変形例について説明する。誘電体部材20を
図9Bに示すように四角錘形状としてもよい。さらに、誘電体部材20を底面及び上面が四角形以外の多角形である角錘台形状または角錐形状としてもよい。
【0045】
アンテナ特性の方位依存性を少なくするために、誘電体部材20を、高さ方向に平行な軸を回転中心として回転対称性を持つ形状とすることが好ましい。誘電体部材20の底面及び上面が長方形である場合には、誘電体部材20は2相対称性を持ち、正方形である場合には4相対称性を持ち、円形である場合には円対称性を持つ。
【0046】
[第5実施例]
次に、
図10を参照して第5実施例による通信装置について説明する。
図10は、第5実施例による通信装置の部分斜視図である。第5実施例による通信装置は、筐体30、及び筐体30に収容されたアンテナ装置32を含む。なお、
図10では、筐体30の一部分のみを示している。アンテナ装置32として、第3実施例によるアンテナ装置(
図7)が用いられる。
【0047】
筐体30の一部がアンテナ装置32の基板10の上面に間隔を隔てて対向している。筐体30のうち基板10の上面に対向する部分(以下、アンテナ対向部分という。)は金属等の導電性材料で形成されている。筐体30のアンテナ対向部分に複数の円形の開口31が設けられている。複数の開口31は放射素子11に対応して配置されており、平面視において放射素子11は対応する開口31に包含される。
【0048】
次に、第5実施例の優れた効果について説明する。
第5実施例では、放射素子11から放射された電波が、金属等の筐体30で遮蔽されることなく、開口31を通って筐体30の外側の空間に放射される。電波を筐体30の外に効率的に放射させるために、開口31は、対応する放射素子11の3dBビーム幅の範囲を包含する大きさとすることが好ましい。さらに、放射素子11に対応して配置された開口31の他に、放射素子11に対応する部分以外にも開口31を設けてもよい。これにより、法線方向から傾斜した方向でのアンテナゲインの低下が抑制されるという効果が得られる。
【0049】
次に、第5実施例の変形例について説明する。
第5実施例では、開口31の形状を円形にしているが、他の形状としてもよい。なお、特定の面内でビームフォーミングを行う場合、開口31の形状を、ビームフォーミングを行う面と平行な方向に長い形状、例えば楕円やレーストラック型の形状にしてもよい。この場合、ビームフォーミングを行う面に平行な方向に並ぶ複数の放射素子11に対して、1つの開口31を設けてもよい。
【0050】
第5実施例では、開口31を開放させた状態にしているが、開口31を誘電体部材で塞いでもよい。
【0051】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0052】
10 基板
11 放射素子
12 給電線
13 ビア導体
15 グランド導体
17 接着剤層
20 誘電体部材
25 構成単位
30 筐体
31 開口
32 アンテナ装置