(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】圧力制御弁
(51)【国際特許分類】
F16K 17/06 20060101AFI20220524BHJP
F16K 47/02 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
F16K17/06 A
F16K47/02 D
(21)【出願番号】P 2020570293
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2019004438
(87)【国際公開番号】W WO2020161862
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 涼太
【審査官】篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-240993(JP,A)
【文献】特開2017-067095(JP,A)
【文献】国際公開第2017/046955(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0326721(US,A1)
【文献】特開2008-045746(JP,A)
【文献】実開昭62-167977(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 17/06
F16K 47/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バランスピストン型の圧力制御弁において、
高圧ラインに連通する第1のオリフィスを有するとともに、内部に中間室を有するバランスピストンと、
前記バランスピストンと当接する弁座を備え、前記バランスピストンをスライド可能に収納するスリーブと、
前記第1のオリフィスから前記中間室への作動液の流入を制御するためのパイロットリリーフ弁と、
前記パイロットリリーフ弁と当接する弁座を備えるシート部材と、
前記シート部材と当接した状態において、前記パイロットリリーフ弁と前記シート部材との間にダンピング室を形成するとともに、前記中間室と前記ダンピング室とを連通する第2のオリフィスを有し、前記シート部材と当接する位置と前記シート部材から離隔する位置との間を移動可能なキャップ部材と、
前記バランスピストンと前記キャップ部材との間に設けられ、前記バランスピストンを前記弁座の方向に付勢するとともに、前記キャップ部材を前記シート部材の方向に付勢する第1のスプリングと、
を備え、
前記パイロットリリーフ弁が前記シート部材から離隔する方向に移動するとき、前記キャップ部材は前記シート部材に押しつけられ、
前記第1のスプリングは、前記パイロットリリーフ弁が前記シート部材から離隔する方向に移動するとき、前記ダンピング室と前記第2のオリフィスにより、前記パイロットリリーフ弁におけるフラッタリングの発生が抑制される一方で、前記パイロットリリーフ弁が前記シート部材に近接する方向に移動するとき、前記キャップ部材が前記シート部材から離隔して、前記中間室と前記ダンピング室が同圧となることにより、前記パイロットリリーフ弁の応答性の低下が防止されるような付勢力を有していることを特徴とする圧力制御弁。
【請求項2】
さらに、
前記パイロットリリーフ弁を前記シート部材に向けて付勢する第2のスプリングと、
前記
第2のスプリングによる付勢力を調整する圧力調整ネジと、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の圧力制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リリーフ弁として使用される圧力制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、リリーフ弁として使用される従来の圧力制御弁の断面図である。なお、
図5においては、圧力制御弁がコントロールバルブ等におけるハウジング100に装着された状態を示している。
【0003】
図5に示す従来の圧力制御弁は、高圧ライン20における作動液の圧力が一定以上となったときに、作動液を高圧ライン20から低圧ライン30に流出させることで、ハウジング100内の作動液の圧力が一定以上となることを防止するためのものである。この圧力制御弁は、バルブボディ7に支持されるスリーブ10と、このスリーブ10内においてスリーブ10に対して摺動可能に配設されたバランスピストン8とを備えたバランスピストン型の構成となっている。
【0004】
バランスピストン8は、付勢手段としてのスプリング9により、高圧ライン20側の端部がスリーブ10に形成された弁座領域と当接する方向に付勢されている。また、このバランスピストン8には、高圧ライン20とバランスピストン8内部の中間室11とを連通するオリフィス8cが形成されている。このオリフィス8cを通過する作動液の流れが生ずると、バランスピストン8の高圧ライン20側と低圧ライン30側との間に圧力差が生ずる。そして、バランスピストン8における上流面(高圧ライン20側の面)8aに作用する作動液の圧力が、下流面(低圧ライン30側の面)8bに作用する圧力とスプリング9による付勢力の合計値を上回ると、バランスピストン8がスリーブ10内を摺動してスリーブ10における弁座領域から離隔する。これにより、高圧ライン20から低圧ライン30に至る作動液の通路が開口し、高圧ライン20の余剰作動液を低圧ライン30に流出させることで、ハウジング100内の作動液の最大圧力を保証している。
【0005】
このバランスピストン8は、パイロット方式によって移動する。すなわち、バランスピストン8におけるオリフィス8cの通過流量を制御するため、バランスピストン8の下流にパイロットリリーフ弁1が配設されている。このパイロットリリーフ弁1は、スプリング2の作用により、スリーブ10の一端に配設されたシート部材3における弁座面に向けて付勢されている。このパイロットリリーフ弁1のシート部材3に対する付勢力は、圧力調整ネジ6により調整することができる。パイロットリリーフ弁1における上流面(シート部材3側の面)に作用する作動液の圧力がスプリング2による付勢力を上回ると、パイロットリリーフ弁1はシート部材3の弁座面から離間し、中間室11内の作動液を低圧ライン30に流出させる。これにより、バランスピストン8におけるオリフィス8c内を作動液が通過し、バランスピストン8における上流面8aと下流面8bとの間に圧力差が生じることで、バランスピストン8が開弁する。
【0006】
以上のような構成を有する圧力制御弁は、特許文献1における従来技術として開示されている。なお、特許文献1においては、バランスピストン8に生ずるフラッタリング(チャタリング)を防止するため、バランスピストン8とシート部材3との間にダンパを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5に示す構成を有する圧力制御弁においては、パイロットリリーフ弁1がシート部材3における弁座面から離隔するときに、パイロットリリーフ弁1には慣性力が働くため、パイロットリリーフ弁1に対する作動液の圧力とスプリング2による付勢力とのバランス位置をオーバーラップして開口面積が大きくなり、パイロット流量が過大に流れる現象が生ずる。このような現象が発生したときには、バランスピストン8における中間室11の圧力降下が大きくなるため、パイロットリリーフ弁1に作用する作動液の液圧が小さくなり、スプリング9による付勢力によってパイロットリリーフ弁1はシート部材3から離隔する方向に押し戻される。そうすると、パイロットリリーフ弁1とシート部材3との間の開口面積が小さくなるため、中間室11内の液圧は再度上昇する。このような動作が繰り返されることによるパイロットリリーフ弁1の発振は、フラッタリング(チャタリング)と呼ばれ、フラッタリングにより、圧力制御弁において振動や騒音が発生する。
【0009】
このような問題を解決するため、シート部材にダンピング室を形成した圧力制御弁も提案されている。
図6は、リリーフ弁として使用される改良された圧力制御弁の断面図である。なお、
図6においては、圧力制御弁がコントロールバルブ等におけるハウジング100に装着された状態を示している。
【0010】
図6に示す圧力制御弁においては、シート部材4内にダンピング室12を形成するとともに、このダンピング室12とバランスピストン8における中間室11とを連通するオリフィス4aを形成している。このような構成を有する圧力制御弁によれば、ダンピング室12とオリフィス4aの作用により、パイロットリリーフ弁1がシート部材4から離隔する方向に移動するときに、パイロットリリーフ弁1に対して減衰力が作用する。この減衰力により、パイロットリリーフ弁1における慣性によるオーバーラップを抑制して、フラッタリングの発生を抑制することが可能となる。
【0011】
一方、
図6に示す圧力制御弁においては、パイロットリリーフ弁1がシート部材4に近接する方向に移動するときに、ダンピング室12内の圧力が上昇する。これにより、パイロットリリーフ弁1に作用する作動液の圧力が大きくなり、パイロットリリーフ弁の応答性が悪くなる。バランスピストン8はパイロットリリーフ弁1の開閉動作に対応して開閉制御されていることから、パイロットリリーフ弁1の応答性の低下により開閉動作が不安定になると、作動液の圧力制御のバランスが乱れ、パイロットリリーフ弁1またはバランスピストン8が発振し、圧力制御弁において振動や騒音が発生する。
【0012】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、騒音や振動の発生を抑制することが可能な圧力制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、バランスピストン型の圧力制御弁において、高圧ラインに連通するオリフィスが形成され、内部に中間室を有するバランスピストンと、前記バランスピストンと当接する弁座を備え、前記バランスピストンをスライド可能に収納するスリーブと、前記バランスピストンにおけるオリフィスから前記中間室への作動液の流入を制御するためのパイロットリリーフ弁と、前記パイロットリリーフ弁と当接する弁座を備えるシート部材と、前記パイロットリリーフ弁および前記シート部材との間にダンピング室を形成するとともに、前記中間室と前記ダンピング室とを連通するオリフィスが形成され、前記シート部材と当接する位置と前記シート部材から離隔する位置との間を移動可能なキャップ部材と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、パイロットリリーフ弁がシート部材から離隔する方向に移動するときには、キャップ部材におけるダンピング室およびオリフィスの作用によりパイロットリリーフ弁のオーバーラップを抑制し、パイロットリリーフ弁がシート部材に近接する方向に移動するときには、キャップ部材がシート部材から離隔することによりパイロットリリーフ弁の応答性の低下を防止することができる。これにより、圧力制御弁における騒音や振動の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明に係る圧力制御弁における圧力制御動作を示す断面図である。
【
図2】この発明に係る圧力制御弁における圧力制御動作を示す断面図である。
【
図3】この発明に係る圧力制御弁における圧力制御動作を示す断面図である。
【
図4】この発明に係る圧力制御弁における圧力制御動作を示す断面図である。
【
図5】リリーフ弁として使用される従来の圧力制御弁の断面図である。
【
図6】リリーフ弁として使用される改良された圧力制御弁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1から
図4は、この発明に係る圧力制御弁における圧力制御動作を示す断面図である。なお、
図1から
図4においては、圧力制御弁がコントロールバルブ等におけるハウジング100に装着された状態を示している。
【0017】
この圧力制御弁は、例えば、フォークリフト等に搭載される作動液として作動油を使用するコントロールバルブにおいて、高圧ライン20における作動液の圧力が一定以上となったときに、作動液を高圧ライン20から低圧ライン30に流出させることで、ハウジング100内の作動液の圧力が一定以上となることを防止するためのものである。この圧力制御弁は、バルブボディ7に支持される弁収納体としてのスリーブ10と、このスリーブ10内においてスリーブ10に対して摺動可能に配設された主弁体としてのバランスピストン8とを備えたバランスピストン型の構成となっている。
【0018】
バランスピストン8は、付勢手段としてのスプリング9により、高圧ライン20側の端部がスリーブ10に形成された弁座領域と当接する方向に付勢されている。また、このバランスピストン8には、高圧ライン20とバランスピストン8内部の中間室11とを連通するオリフィス8cが形成されている。このオリフィス8cを通過する作動液の流れが生ずると、バランスピストン8の高圧ライン20側と低圧ライン30側との間に圧力差が生ずる。そして、バランスピストン8における上流面(高圧ライン20側の面)8aに作用する作動液の圧力が、下流面(低圧ライン30側の面)8bに作用する圧力とスプリング9による付勢力の合計値を上回ると、バランスピストン8がスリーブ10内を摺動してスリーブ10における弁座領域から離隔する。これにより、高圧ライン20から低圧ライン30に至る作動液の通路が開口し、高圧ライン20の余剰作動液を低圧ライン30に流出させることで、ハウジング100内の作動液の最大圧力を保証している。
【0019】
このバランスピストン8は、パイロット方式によって移動する。すなわち、バランスピストン8におけるオリフィス8cの通過流量を制御するため、バランスピストン8の下流にパイロットリリーフ弁1が配設されている。このパイロットリリーフ弁1は、スプリング2の作用により、スリーブ10の一端に配設されたシート部材3における弁座面に向けて付勢されている。このパイロットリリーフ弁1のシート部材3に対する付勢力は、圧力調整ネジ6により調整することができる。パイロットリリーフ弁1における上流面(シート部材3側の面)に作用する作動液の圧力がスプリング2による付勢力を上回ると、パイロットリリーフ弁1はシート部材3の弁座面から離間し、中間室11内の作動液を低圧ライン30に流出させる。これにより、バランスピストン8におけるオリフィス8c内を作動液が通過し、バランスピストン8における上流面8aと下流面8bとの間に圧力差が生じることで、バランスピストン8が開弁する。
【0020】
シート部材3とバランスピストン8との間には、キャップ部材5が配設されている。このキャップ部材5は、シート部材3と当接した状態において、パイロットリリーフ弁1およびシート部材3との間にダンピング室12を形成する。すなわち、キャップ部材5とシート部材3とが当接したときには、
図1に示すように、キャップ部材5とパイロットリリーフ弁1とシート部材3とによりダンピング室12が形成される。この状態においては、キャップ部材5とパイロットリリーフ弁1との間には、わずかな隙間が形成される。キャップ部材5には、バランスピストン8の中間室11とダンピング室12とを連通するオリフィス5aが形成されている。このキャップ部材5は、スプリング9によりシート部材3方向に付勢され、シート部材3と当接する位置とシート部材3から離隔する位置との間を移動可能となっている。
【0021】
次に、以上のような構成を有する圧力調整弁による作動液のリリーフ動作について説明する。
【0022】
高圧ライン20における作動液の圧力が圧力制御弁のリリーフ圧より小さいときには、
図1に示すように、スプリング9の作用によりパイロットリリーフ弁1とシート部材3とが当接しており、高圧ライン20から低圧ライン30に至る通路は、閉じられている。また、バランスピストン8は、スプリング9の作用により、スリーブ10の弁座領域と当接している。
【0023】
高圧ライン20における作動液の圧力が圧力制御弁のリリーフ圧より大きくなると、
図2に示すように、パイロットリリーフ弁1がシート部材3の弁座面から離隔する。これにより高圧ライン20からの作動液がバランスピストン8における中間室11およびキャップ部材5に形成されたオリフィス5aを介して低圧ライン30に流れる。
【0024】
高圧ライン20における作動液の圧力がさらに上昇し、パイロットリリーフ弁1の開度が一定以上となって、バランスピストン8における上流面(高圧ライン20側の面)8aに作用する作動液の圧力が、下流面(低圧ライン30側の面)8bに作用する圧力とスプリング9による付勢力の合計値を上回ると、
図3に示すように、バランスピストン8がスリーブ10内を摺動し、スリーブ10における弁座領域から離隔する。これにより、高圧ライン20から低圧ライン30に至る作動液の通路が開口し、高圧ライン20の余剰作動液を低圧ライン30に流出させることで、ハウジング100内の作動液の最大圧力をリリーフ圧とすることができる。
【0025】
ここで、
図2および
図3に示すパイロットリリーフ弁1がシート部材3から離隔する方向に移動するときには、キャップ部材5の上流側(高圧ライン20側)の圧力が下流側(低圧ライン30側)に比べて大きいため、キャップ部材5はシート部材3に押し付けられ、キャップ部材5とパイロットリリーフ弁1とシート部材3とによりダンピング室12が形成されている。このため、ダンピング室12とオリフィス5aの作用により、パイロットリリーフ弁1がシート部材3から離隔する方向に移動するときに、パイロットリリーフ弁1に対して減衰力が作用する。この減衰力により、パイロットリリーフ弁1における慣性によるオーバーラップを抑制して、フラッタリングの発生を抑制することが可能となる。
【0026】
一方、
図3に示す状態から高圧ライン20における作動液の圧力が低下したときには、バランスピストン8は、
図3に示すスリーブ10の弁座領域から離隔した状態から、
図2に示すスリーブ10の弁座領域と当接した状態となるまで移動する。
【0027】
そして、高圧ライン20における作動液の圧力がさらに低下すると、パイロットリリーフ弁1がシート部材3方向に移動し、やがて、
図4に示すように、パイロットリリーフ弁1とシート部材3とが当接する。この時には、キャップ部材5とパイロットリリーフ弁1とシート部材3とにより形成されるダンピング室12内の作動液の液圧が上昇する。これにより、
図4に示すように、キャップ部材5がシート部材3から離隔する。このため、中間室11とダンピング室12が同圧となり、パイロットリリーフ弁1に対するダンピング効果がなくなる。従って、パイロットリリーフ弁1は抵抗を受けることなく、速やかにシート部材3と当接する位置まで移動する。
【0028】
以上のように、この発明に係る圧力制御弁によれば、パイロットリリーフ弁1がシート部材3から離隔する方向に移動するときには、キャップ部材5におけるダンピング室12およびオリフィス5aの作用によりパイロットリリーフ弁1のオーバーラップを抑制し、パイロットリリーフ弁1がシート部材3に近接する方向に移動するときには、キャップ部材5がシート部材3から離隔することによりパイロットリリーフ弁1の応答性の低下を防止することができる。これにより、圧力制御弁における騒音や振動の発生を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1 パイロットリリーフ弁
2 スプリング
3 シート部材
5 キャップ部材
5a オリフィス
8 バランスピストン
8c オリフィス
9 スプリング
10 スリーブ
11 中間室
12 ダンピング室
20 高圧ライン
30 低圧ライン
100 ハウジング