IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許-二次電池用正極活物質および二次電池 図1
  • 特許-二次電池用正極活物質および二次電池 図2
  • 特許-二次電池用正極活物質および二次電池 図3
  • 特許-二次電池用正極活物質および二次電池 図4
  • 特許-二次電池用正極活物質および二次電池 図5
  • 特許-二次電池用正極活物質および二次電池 図6
  • 特許-二次電池用正極活物質および二次電池 図7
  • 特許-二次電池用正極活物質および二次電池 図8
  • 特許-二次電池用正極活物質および二次電池 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】二次電池用正極活物質および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220524BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220524BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220524BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220524BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20220524BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220524BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M10/052
H01M50/105
H01M10/0566
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020571120
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2020003095
(87)【国際公開番号】W WO2020162277
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019019689
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄木 淳史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晋
(72)【発明者】
【氏名】早崎 真治
(72)【発明者】
【氏名】高橋 翔
(72)【発明者】
【氏名】藤川 隆成
(72)【発明者】
【氏名】倉塚 真樹
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-335278(JP,A)
【文献】特開2004-253174(JP,A)
【文献】特開2018-073686(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077231(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
H01M 10/052
H01M 50/105
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表される層状岩塩型のリチウムニッケル複合酸化物を含む中心部と、
前記中心部の表面を被覆すると共にホウ素化合物を含む被覆部と
を備え、
X線回折法およびシェラー(Scherrer)の式を用いて算出される(104)面の結晶子サイズは、40.0nm以上74.5nm以下であり、
BET比表面積測定法を用いて測定される比表面積は、下記の式(2)で表される条件を満たし、
X線光電子分光法を用いて測定されたC1sスペクトルおよびO1sスペクトルに基づいて算出されると共に下記の式(3)で表される第1元素濃度比は、0.08以上0.80以下であり、
前記X線光電子分光法を用いて測定されたLi1sスペクトル、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されると共に下記の式(4)で表される第2元素濃度比は、0.60以上1.50以下であり、
前記X線光電子分光法を用いて測定されたB1sスペクトル、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されると共に下記の式(5)で表される第3元素濃度比は、0.15以上0.90以下である、
二次電池用正極活物質。
Lia Ni1-b b c ・・・(1)
(Mは、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも1種である。a、bおよびcは、0.8<a<1.2、0≦b≦0.4および0<c<3を満たす。)
-0.0160×Z+1.72≦A≦-0.0324×Z+2.94 ・・・(2)
(Zは、(104)面の結晶子サイズ(nm)である。Aは、比表面積(m2 /g)である。)
R1=I1/I2 ・・・(3)
(R1は、第1元素濃度比である。I1は、C1sスペクトルに基づいて算出されるCO3 濃度(原子%)である。I2は、O1sスペクトルに基づいて算出されるMe-O濃度(原子%)である。ただし、Me-Oは、式(1)中のLi、NiまたはMと結合されていると共に結合エネルギーが528eV以上531eV以下である範囲内にスペクトルが検出されるO由来の酸化物である。)
R2=I3/I4 ・・・(4)
(R2は、第2元素濃度比である。I3は、Li1sスペクトルに基づいて算出されるLi濃度(原子%)である。I4は、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されるNi濃度(原子%)とCo濃度(原子%)とMn濃度(原子%)とAl濃度(原子%)との和である。)
R3=I5/I4 ・・・(5)
(R3は、第3元素濃度比である。I4は、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されるNi濃度(原子%)とCo濃度(原子%)とMn濃度(原子%)とAl濃度(原子%)との和である。I5は、B1sスペクトルに基づいて算出されるB濃度(原子%)である。)
【請求項2】
前記比表面積は、0.53m2 /g以上1.25m2 /g以下である、
請求項1記載の二次電池用正極活物質。
【請求項3】
体積基準の粒度分布の粒子径D50は、11.8μm以上14.4μm以下である、
請求項1または請求項2に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記体積基準の粒度分布の粒子径D10は、2.8μm以上4.0μm以下であると共に、
前記体積基準の粒度分布の粒子径D90は、22.7μm以上26.3μm以下である、
請求項3記載の二次電池用正極活物質。
【請求項5】
圧縮密度は、3.40g/cm3 以上3.60g/cm3 以下である、
請求項3または請求項4に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項6】
体積基準の粒度分布は、2つ以上のピークを有する、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記体積基準の粒度分布は、粒子径が3μm以上7μm以下である範囲内に第1ピークを有すると共に、前記粒子径が14μm以上30μm以下である範囲内に第2ピークを有する、
請求項6記載の二次電池用正極活物質。
【請求項8】
圧縮密度は、3.45g/cm3 以上3.70g/cm3 以下である、
請求項6または請求項7に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項9】
正極活物質を含む正極と、負極と、電解液とを備え、
前記正極活物質は、下記の式(1)で表される層状岩塩型のリチウムニッケル複合酸化物を含む中心部と、前記中心部の表面を被覆すると共にホウ素化合物を含む被覆部とを備え、
X線回折法およびシェラー(Scherrer)の式を用いて算出される前記正極活物質の(104)面の結晶子サイズは、40.0nm以上74.5nm以下であり、
BET比表面積測定法を用いて測定される前記正極活物質の比表面積は、下記の式(2)で表される条件を満たし、
X線光電子分光法を用いて測定された前記正極活物質のC1sスペクトルおよびO1sスペクトルに基づいて算出されると共に下記の式(3)で表される第1元素濃度比は、0.08以上0.80以下であり、
前記X線光電子分光法を用いて測定された前記正極活物質のLi1sスペクトル、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されると共に下記の式(4)で表される第2元素濃度比は、0.60以上1.50以下であり、
前記X線光電子分光法を用いて測定された前記正極活物質のB1sスペクトル、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されると共に下記の式(5)で表される第3元素濃度比は、0.15以上0.90以下である、
二次電池。
Lia Ni1-b b c ・・・(1)
(Mは、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも1種である。a、bおよびcは、0.8<a<1.2、0≦b≦0.4および0<c<3を満たす。)
-0.0160×Z+1.72≦A≦-0.0324×Z+2.94 ・・・(2)
(Zは、正極活物質の(104)面の結晶子サイズ(nm)である。Aは、正極活物質の比表面積(m2 /g)である。)
R1=I1/I2 ・・・(3)
(R1は、第1元素濃度比である。I1は、C1sスペクトルに基づいて算出されるCO3 濃度(原子%)である。I2は、O1sスペクトルに基づいて算出されるMe-O濃度(原子%)である。ただし、Me-Oは、式(1)中のLi、NiまたはMと結合されていると共に結合エネルギーが528eV以上531eV以下である範囲内にスペクトルが検出されるO由来の酸化物である。)
R2=I3/I4 ・・・(4)
(R2は、第2元素濃度比である。I3は、Li1sスペクトルに基づいて算出されるLi濃度(原子%)である。I4は、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されるNi濃度(原子%)とCo濃度(原子%)とMn濃度(原子%)とAl濃度(原子%)との和である。)
R3=I5/I4 ・・・(5)
(R3は、第3元素濃度比である。I4は、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されるNi濃度(原子%)とCo濃度(原子%)とMn濃度(原子%)とAl濃度(原子%)との和である。I5は、B1sスペクトルに基づいて算出されるB濃度(原子%)である。)
【請求項10】
さらに、前記正極、前記負極および前記電解液を収納するフィルム状の外装部材を備えた、
請求項9記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、層状岩塩型のリチウムニッケル複合酸化物を含む二次電池用正極活物質およびその二次電池用正極活物質を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が広く普及している。このため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度を得ることが可能である電源として、二次電池の開発が進められている。この二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その正極は、正極活物質を含んでいる。
【0003】
正極活物質の構成は、二次電池の電池特性に影響を及ぼすため、その正極活物質の構成に関しては、様々な検討がなされている。具体的には、熱安定性を向上させるために、ホウ酸リチウムを表面に有する粒子状のリチウム複合酸化物(Lix Niy Coz (1-y-z) w )が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。サイクル特性などの向上させるために、粒子表面のアルカリ量が所定の範囲内となるように設定された粒子状のリチウム複合酸化物(Lix Ni1-y y 2+α)が用いられている(例えば、特許文献2参照。)。出力特性を向上させるために、X線光電子分光法の分析結果に基づいて算出されるピーク強度比が所定の範囲内となるように設定されたリチウム複合酸化物(Lix (Ni1-y Coy 1-z z 2 )が用いられている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-335278号公報
【文献】国際公開第2012/133436号パンフレット
【文献】特開2004-327246号公報
【発明の概要】
【0005】
二次電池が搭載される電子機器は、益々、高性能化および多機能化している。このため、電子機器の使用頻度は増加していると共に、電子機器の使用環境は拡大している。よって、二次電池の電池特性に関しては、未だ改善の余地がある。
【0006】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた電池特性を得ることが可能な二次電池用正極活物質および二次電池を提供することにある。
【0007】
本技術の一実施形態の二次電池用正極活物質は、下記の式(1)で表される層状岩塩型のリチウムニッケル複合酸化物を含む中心部と、その中心部の表面を被覆すると共にホウ素化合物を含む被覆部とを備えたものである。X線回折法およびシェラー(Scherrer)の式を用いて算出される(104)面の結晶子サイズは、40.0nm以上74.5nm以下である。BET比表面積測定法を用いて測定される比表面積は、下記の式(2)で表される条件を満たす。X線光電子分光法を用いて測定されたC1sスペクトルおよびO1sスペクトルに基づいて算出されると共に下記の式(3)で表される第1元素濃度比は、0.08以上0.80以下である。X線光電子分光法を用いて測定されたLi1sスペクトル、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されると共に下記の式(4)で表される第2元素濃度比は、0.60以上1.50以下である。X線光電子分光法を用いて測定されたB1sスペクトル、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されると共に下記の式(5)で表される第3元素濃度比は、0.15以上0.90以下である。
【0008】
Lia Ni1-b b c ・・・(1)
(Mは、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも1種である。a、bおよびcは、0.8<a<1.2、0≦b≦0.4および0<c<3を満たす。)
【0009】
-0.0160×Z+1.72≦A≦-0.0324×Z+2.94 ・・・(2)
(Zは、(104)面の結晶子サイズ(nm)である。Aは、比表面積(m2 /g)である。)
【0010】
R1=I1/I2 ・・・(3)
(R1は、第1元素濃度比である。I1は、C1sスペクトルに基づいて算出されるCO3 濃度(原子%)である。I2は、O1sスペクトルに基づいて算出されるMe-O濃度(原子%)である。ただし、Me-Oは、式(1)中のLi、NiまたはMと結合されていると共に結合エネルギーが528eV以上531eV以下である範囲内にスペクトルが検出されるO由来の酸化物である。)
【0011】
R2=I3/I4 ・・・(4)
(R2は、第2元素濃度比である。I3は、Li1sスペクトルに基づいて算出されるLi濃度(原子%)である。I4は、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されるNi濃度(原子%)とCo濃度(原子%)とMn濃度(原子%)とAl濃度(原子%)との和である。)
【0012】
R3=I5/I4 ・・・(5)
(R3は、第3元素濃度比である。I4は、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されるNi濃度(原子%)とCo濃度(原子%)とMn濃度(原子%)とAl濃度(原子%)との和である。I5は、B1sスペクトルに基づいて算出されるB濃度(原子%)である。)
【0013】
本技術の一実施形態の二次電池は、正極活物質を含む正極と負極と電解液とを備え、その正極活物質が上記した本発明の一実施形態の二次電池用正極活物質と同様の構成を有するものである。
【0014】
本技術の一実施形態の二次電池用正極活物質または二次電池によれば、その正極活物質が上記した構成および物性を有しているので、優れた電池特性を得ることができる。
【0015】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本技術の一実施形態の二次電池の構成を表す分解斜視図である。
図2図1に示した電極体の構成を表す断面図である。
図3図2に示した正極集電体の構成を表す平面図である。
図4図2に示した負極集電体の構成を表す平面図である。
図5】本技術の一実施形態の正極活物質の構成を模式的に表す平面図である。
図6】正極活物質の比表面積(結晶子サイズ)に関する適正範囲を表す図である。
図7】X線光電子分光法の分析範囲およびワルダー法の測定範囲を説明するための平面図である。
図8】正極活物質に関する体積基準の粒度分布の一例を表す図である。
図9】変形例1の二次電池の構成を表す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.二次電池
1-1.構成
1-1-1.全体の構成
1-1-2.正極活物質の構成および物性
1-2.動作
1-3.製造方法
1-3-1.正極活物質の製造方法
1-3-2.二次電池の製造方法
1-4.作用および効果
2.変形例
3.二次電池の用途
【0018】
<1.二次電池>
まず、本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。なお、本技術の一実施形態の二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」と呼称する。)は、ここで説明する二次電池の一部(一構成要素)であるため、その正極活物質に関しては、以下で併せて説明する。
【0019】
この二次電池は、後述するように、リチウム(リチウムイオン)の吸蔵現象および放出現象を利用して電池容量が得られるリチウムイオン二次電池である。
【0020】
<1-1.構成>
以下では、二次電池の全体の構成に関して説明したのち、正極活物質の構成および物性に関して説明する。
【0021】
<1-1-1.全体の構成>
図1は、本技術の一実施形態の二次電池である二次電池10の分解斜視構成を表している。図2は、図1に示した電極体20の断面構成を表している。図3は、図2に示した正極集電体21Aの平面構成を表していると共に、図4は、図2に示した負極集電体22Aの平面構成を表している。
【0022】
ただし、図1では、電極体20と外装部材30(第1部材30Aおよび第2部材30B)とが互いに離れた状態を示している。図2では、複数の正極集電体21A(図3に示した正極集電体露出部21N)同士が互いに接合される前の状態を示していると共に、複数の負極集電体22A(図4に示した負極集電体露出部22N)同士が互いに接合される前の状態を示している。
【0023】
この二次電池10は、例えば、図1に示したように、電池素子である積層型の電極体20と、フィルム状の外装部材30とを備えている。すなわち、ここで説明する二次電池10は、例えば、外装部材30の内部に矩形状の電極体20が収納されたラミネートフィルム型の非水電解質二次電池である。この二次電池10では、小型化、軽量化および薄型化を実現可能である。
【0024】
電極体20には、正極リード11が取り付けられていると共に、負極リード12が取り付けられている。この電極体20は、主面20Aと、その主面20Aとは反対側の主面20Bとを有しており、その主面20Aは、長手方向の辺部20Cと、短手方向の辺部20Dとを有している。
【0025】
正極リード11および負極リード12は、外装部材30の内部から外部に向かって同一方向に導出されており、例えば、薄板状または網目状である。正極リード11および負極リード12は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケルまたはステンレスなどの金属材料を含んでいる。
【0026】
外装部材30と正極リード11との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム13が挿入されていると共に、外装部材30と負極リード12との間には、同様に密着フィルム13が挿入されている。密着フィルム13は、正極リード11および負極リード12に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂を含んでいる。
【0027】
[外装部材]
外装部材30は、例えば、柔軟性(可撓性)を有しており、電極体20(正極21、負極22および電解液など)を収納している。この外装部材30は、例えば、互いに分離された2枚のフィルム(第1部材30Aおよび第2部材30B)を含んでおり、その第1部材30Aおよび第2部材30Bは、電極体20を介して互いに重ねられている。第1部材30Aおよび第2部材30Bのそれぞれの4辺同士が互いに密着されているため、第1部材30Aおよび第2部材30Bのそれぞれの周縁部に密着部が形成されている。なお、第1部材30Aは、電極体20を収容するための収容部31を有しており、その収容部31は、例えば、深絞り加工により形成されている。
【0028】
この外装部材30は、例えば、熱融着樹脂層、金属層および表面保護層が内側(電極体20に近い側)からこの順に積層されたラミネートフィルムである。熱融着樹脂層は、例えば、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどの高分子材料を含んでいる。金属層は、例えば、アルミニウムなどの金属材料を含んでいる。表面保護層は、例えば、ナイロンなどの高分子材料を含んでいる。具体的には、外装部材30は、例えば、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムが内側からこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムである。第1部材30Aおよび第2部材30Bのそれぞれの外縁部(熱融着樹脂層)同士は、例えば、融着処理または接着剤を利用して互いに密着されている。
【0029】
ただし、外装部材30は、上記したアルミラミネートフィルムの代わりに、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。また、外装部材30は、アルミニウム箔の片面または両面に高分子フィルムが積層されたラミネートフィルムでもよい。
【0030】
[電極体]
電極体20は、例えば、図1および図2に示したように、正極21と、負極22と、セパレータ23と、液状の電解質である電解液とを備えている。この電極体20では、複数の正極21および複数の負極22がセパレータ23を介して交互に積層されており、電解液は、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれに含浸されている。
【0031】
この二次電池10では、充電途中において負極22の表面にリチウム金属が析出することを防止するために、その負極22の単位面積当たりの電気化学容量が正極21の単位面積当たりの電気化学容量よりも大きくなっていることが好ましい。
【0032】
[正極]
正極21は、例えば、図2に示したように、正極集電体21Aと、その正極集電体21Aの両面に設けられた正極活物質層21Bとを含んでいる。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0033】
正極集電体21Aは、例えば、図3に示したように、正極活物質層21Bが形成される矩形状の正極活物質層形成部21Mと、その正極活物質層21Bが形成されない矩形状の正極集電体露出部21Nとを含んでいる。正極活物質層形成部21Mの両面には、例えば、上記したように、正極活物質層21Bが形成されている。正極集電体露出部21Nは、正極活物質層形成部21Mの一部が延設された部分であり、その正極活物質層形成部21Mの幅(X軸方向の寸法)よりも狭い幅を有している。ただし、図3中において二点鎖線で示したように、正極集電体露出部21Nは、正極活物質層形成部21Mの幅と同じ幅を有していてもよい。複数の正極集電体露出部21N同士は、互いに接合されており、正極リード11は、その互いに接合された複数の正極集電体露出部21Nに接合されている。
【0034】
この正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔またはステンレス箔などの金属箔である。正極活物質層21Bは、電極反応物質であるリチウムを吸蔵放出可能である正極活物質を含んでおり、その正極活物質は、複数の粒子状である。この正極活物質層21Bは、必要に応じて、結着剤および導電剤などの添加剤のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0035】
正極活物質は、リチウムを吸蔵放出可能である正極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その正極材料は、リチウム含有化合物を含んでいる。このリチウム含有化合物は、リチウム(Li)を構成元素として含む化合物の総称である。
【0036】
具体的には、リチウム含有化合物は、下記の式(1)で表される層状岩塩型のリチウムニッケル複合酸化物である。すなわち、リチウムニッケル複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を有している。電池電圧が低くても高い電池容量が安定して得られるからである。なお、リチウムの組成(a)は、充放電状態に応じて異なるため、aの値は、完全放電状態の値を表している。
【0037】
Lia Ni1-b b c ・・・(1)
(Mは、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも1種である。a、bおよびcは、0.8<a<1.2、0≦b≦0.4および0<c<3を満たす。)
【0038】
このリチウムニッケル複合酸化物は、式(1)から明らかなように、リチウムと共にニッケル(Ni)を構成元素として含む複合酸化物であり、必要に応じて追加金属元素(M)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0039】
具体的には、リチウムニッケル複合酸化物は、例えば、下記の式(1-1)、式(1-2)および式(1-3)のそれぞれで表される化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0040】
Lia Ni1-b-c-d Cob Alc M1d e ・・・(1-1)
(M1は、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも1種である。a、b、c、dおよびeは、0.8<a<1.2、0≦b≦0.2、0≦c≦0.1、0≦d≦0.1、0<e<3および0≦(b+c+d)≦0.3を満たす。)
【0041】
Lia Ni1-b-c-d Cob Mnc M2d e ・・・(1-2)
(M2は、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも1種である。a、b、c、dおよびeは、0.8<a<1.2、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、0<e<3および0.1≦(b+c+d)≦0.7を満たす。)
【0042】
Lia Ni1-b-c-d-e Cob Mnc Ald M3e f ・・・(1-3)
(M3は、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)およびジルコニウム(Zr)のうちの少なくとも1種である。a、b、c、d、eおよびfは、0.8<a<1.2、0≦b≦0.2、0<c≦0.1、0<d≦0.1、0≦e≦0.1、0<f<3および0<(b+c+d+e)≦0.3を満たす。)
【0043】
式(1-1)に示した化合物は、ニッケルコバルトアルミニウム系のリチウムニッケル複合酸化物である。式(1-2)に示した化合物は、ニッケルコバルトマンガン系のリチウムニッケル複合酸化物である。式(1-3)に示した化合物は、ニッケルコバルトマンガンアルミニウム系のリチウムニッケル複合酸化物である。ただし、式(1-1)および式(1-2)の双方により表される化合物が存在する場合には、その化合物は式(1-1)により表される化合物に該当することとする。
【0044】
より具体的には、式(1-1)に示した化合物は、例えば、LiNiO2 、LiNi0.9 Co0.1 2 、LiNi0.85Co0.1 Al0.052 、LiNi0.90Co0.05Al0.052 、LiNi0.82Co0.14Al0.042 、LiNi0.78Co0.18Al0.042 およびLiNi0.90Co0.06Al0.042 などである。式(1-2)に示した化合物は、例えば、LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 2 、LiNi0.8 Co0.1 Mn0.1 2 、LiNi0.9 Co0.05Mn0.052 、LiNi0.3 Co0.3 Mn0.3 2 およびLiNi0.84Co0.08Mn0.082 などである。式(1-3)に示した化合物は、例えば、LiNi0.80Co0.10Mn0.05Al0.052 などである。
【0045】
特に、リチウムニッケル複合酸化物の表面は、ホウ素化合物により被覆されている。すなわち、正極活物質(正極材料)は、リチウムニッケル複合酸化物と共に、そのリチウムニッケル複合酸化物の表面を被覆するホウ素化合物を含んでいる。このホウ素化合物は、ホウ素(B)を構成元素として含む化合物の総称である。リチウムニッケル複合酸化物の表面が電気化学的に安定化するため、そのリチウムニッケル複合酸化物の表面における電解液の分解反応が抑制されるからである。ホウ素化合物の種類は、特に限定されないが、例えば、ホウ酸(H3 BO3 )、四ホウ酸リチウム(Li2 4 7 )、五ホウ酸アンモニウム(NH4 5 8 )、メタホウ酸リチウム(LiBO2 )および酸化ホウ素(B2 3 )などである。
【0046】
正極材料としてホウ素化合物により表面が被覆されたリチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質は、二次電池10の電池特性を向上させるために、所定の構成および物性を有している。この正極活物質の構成および物性の詳細に関しては、後述する。
【0047】
なお、正極活物質は、さらに、他の正極材料(他のリチウム含有化合物)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この他のリチウム含有化合物は、層状岩塩型の他のリチウム含有化合物でもよいし、スピネル型のリチウム含有化合物でもよいし、オリビン型のリチウム含有化合物でもよい。層状岩塩型の他のリチウム含有化合物は、例えば、LiCoO2 などのリチウム複合酸化物である。スピネル型のリチウム含有化合物は、例えば、LiMn2 4 などのリチウム複合酸化物である。オリビン型のリチウム含有化合物は、例えば、LiFePO4 、LiMnPO4 およびLiMn0.5 Fe0.5 PO4 などのリチウムリン酸化合物である。
【0048】
また、正極活物質は、さらに、リチウムを構成元素として含まない化合物(非リチウム含有化合物)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この非リチウム含有化合物は、例えば、MnO2 、V2 5 、V6 13、NiSおよびMoSなどの無機化合物である。
【0049】
結着剤は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、スチレンブタジエンゴムおよびカルボキシメチルセルロースなどの高分子材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、結着剤は、例えば、2種類以上の高分子材料の共重合体でもよい。
【0050】
導電剤は、例えば、黒鉛、カーボンブラックおよびケッチェンブラックなどの炭素材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、導電剤は、例えば、導電性を有する材料であれば、金属材料でもよいし、導電性高分子材料でもよい。
【0051】
[負極]
負極22は、例えば、図2に示したように、負極集電体22Aと、その負極集電体22Aの両面に設けられた負極活物質層22Bとを含んでいる。ただし、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0052】
負極集電体22Aは、例えば、図4に示したように、負極活物質層22Bが形成される矩形状の負極活物質層形成部22Mと、その負極活物質層22Bが形成されない矩形状の負極集電体露出部22Nとを含んでいる。負極活物質層形成部22Mの両面には、例えば、上記したように、負極活物質層22Bが形成されている。負極集電体露出部22Nは、負極活物質層形成部22Mの一部が延設された部分であり、その負極活物質層形成部22Mの幅(X軸方向の寸法)よりも狭い幅を有している。この負極集電体露出部22Nは、正極集電体露出部21Nと重ならないように配置されている。ただし、図4中において二点鎖線で示したように、負極集電体露出部22Nは、負極活物質層形成部22Mの幅と同じ幅を有していてもよい。複数の負極集電体露出部22N同士は、互いに接合されており、負極リード12は、その互いに接合された複数の負極集電体露出部22Nに接合されている。
【0053】
この負極集電体22Aは、例えば、銅箔、ニッケル箔またはステンレス箔などの金属箔である。負極活物質層22Bは、例えば、電極反応物質であるリチウムを吸蔵放出可能である負極活物質を含んでいる。この負極活物質層22Bは、必要に応じて、結着剤および導電剤などの添加剤のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。結着剤および導電剤に関する詳細は、上記した通りである。
【0054】
負極活物質は、リチウムを吸蔵放出可能である負極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その負極材料は、例えば、炭素材料および金属系材料などである。もちろん、負極材料は、炭素材料および金属系材料の双方(混合物)でもよい。
【0055】
炭素材料は、例えば、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維および活性炭などである。
【0056】
金属系材料は、金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料である。この金属系材料は、合金でもよいし、化合物でもよいし、混合物でもよい。また、金属系材料は、結晶質でもよいし、非晶質でもよい。金属元素および半金属元素は、例えば、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)および白金(Pt)などである。合金は、2種類以上の金属元素からなる合金でもよいし、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを含んでいてもよいし、1種類以上の非金属元素を含んでいてもよい。合金の組織は、例えば、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物またはそれらの2種類以上の共存構造などである。化合物は、例えば、酸化物などである。
【0057】
なお、負極材料は、例えば、金属酸化物および高分子材料などでもよい。金属酸化物は、例えば、リチウム複合酸化物、酸化鉄、酸化ルテニウムおよび酸化モリブデンなどであり、そのリチウム複合酸化物は、例えば、チタン酸リチウム(Li4 Ti5 12)などのリチウムチタン複合酸化物である。高分子材料は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンおよびポリピロールなどである。
【0058】
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22との間に介在しており、その正極21と負極22との接触に起因する短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させる。このセパレータ23は、例えば、高分子材料およびセラミック材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含む多孔質膜であり、2種類以上の多孔質膜の積層体でもよい。高分子材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリテトラフルオロエチレンなどであり、それらの2種類以上の混合物でもよいし、それらの2種類以上の共重合体でもよい。
【0059】
[電解液]
電解液は、溶媒および電解質塩を含んでおり、さらに、添加剤のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0060】
溶媒は、例えば、非水溶媒であり、その非水溶媒を含む電解液は、いわゆる非水電解液である。溶媒(非水溶媒)の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0061】
具体的には、非水溶媒は、例えば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、ラクトン、鎖状カルボン酸エステル、ニトリル(モノニトリル)化合物、不飽和環状炭酸エステル、ハロゲン化炭酸エステル、スルホン酸エステル、酸無水物、ジシアノ化合物(ジニトリル化合物)、ジイソシアネート化合物およびリン酸エステルなどである。優れた容量特性、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0062】
環状炭酸エステルは、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび炭酸ブチレンなどである。鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルなどである。ラクトンは、例えば、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンなどである。鎖状カルボン酸エステルは、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルおよびプロピオン酸プロピルなどである。ニトリル化合物は、例えば、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリルおよびスクシノニトリル、アジポニトリルなどである。不飽和環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンおよび炭酸メチレンエチレンなどである。ハロゲン化炭酸エステルは、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンおよび炭酸フルオロメチルメチルなどである。スルホン酸エステルは、例えば、1,3-プロパンスルトンおよび1,3-プロペンスルトンなどである。酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水エタンジスルホン酸、無水プロパンジスルホン酸、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸および無水スルホ酪酸などである。ジニトリル化合物は、例えば、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリルおよびフタロニトリルなどである。ジイソシアネート化合物は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートなどである。リン酸エステルは、例えば、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチルなどである。
【0063】
この他、非水溶媒は、例えば、N,N-ジメチルフォルムアミド、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリシノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシドおよびエチレンスルフィドなどでもよい。
【0064】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩である。電解質塩(リチウム塩)の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。電解質塩の含有量は、特に限定されないが、例えば、溶媒に対して0.3mol/kg~3.0mol/kgである。
【0065】
具体的には、リチウム塩は、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチルリチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、フルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムおよびビス(オキサラト)ホウ酸リチウムなどである。
【0066】
<1-1-2.正極活物質の構成および物性>
図5は、本技術の一実施形態の正極活物質である正極活物質100の平面構成を模式的に表している。
【0067】
この正極活物質100は、図5に示したように、中心部110と、その中心部110の表面を被覆する被覆部120とを備えている。中心部110は、複数の粒子状であり、上記したリチウムニッケル複合酸化物を含んでいる。被覆部120は、上記したホウ素化合物を含んでいる。なお、被覆部120は、図5に示したように、中心部110の表面の全体を被覆していてもよいが、その中心部110の表面の一部だけを被覆していてもよい。
【0068】
この正極活物質100では、例えば、リチウムニッケル複合酸化物を含む複数の一次粒子G1が集合しているため、その複数の一次粒子G1により二次粒子G2(中心部110)が形成されている。これにより、ホウ素化合物(被覆部120)は、例えば、二次粒子G2の表面を被覆している。なお、ホウ素化合物の一部は、一次粒子G1に固溶していると考えられる。
【0069】
この正極活物質100、すなわち被覆部120(ホウ素化合物)により表面を被覆された中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)は、上記したように、二次電池10の電池特性を向上させるために、所定の構成および物性を有している。以下では、正極活物質100の必須要件に関して説明したのち、その正極活物質100の任意要件に関して説明する。
【0070】
[必須要件]
具体的には、正極活物質100の構成および物性に関して、以下で説明する5つの条件(第1条件~第5条件)が同時に満たされている。
【0071】
(第1条件)
X線回折法(X-ray diffraction (XRD))およびシェラー(Scherrer)の式を用いて算出される正極活物質100の(104)面の結晶子サイズZ(nm)は、40.0nm~74.5nmである。
【0072】
(第2条件)
BET比表面積測定法を用いて測定される正極活物質100の比表面積A(m2 /g)は、下記の式(2)で表される条件を満たしている。ただし、下限値を算出するために用いられる「-0.0160×Z」の値は、小数点第3位を四捨五入した値とすると共に、上限値を算出するために用いられる「-0.0324×Z」の値は、小数点第3位を四捨五入した値とする。以下では、式(2)で表される比表面積Aの範囲、すなわち結晶子サイズZとの関係において規定される比表面積Aの範囲を「適正範囲」と呼称する。ここで説明した比表面積Aの適正範囲の導出理論に関しては、後述する。
【0073】
-0.0160×Z+1.72≦A≦-0.0324×Z+2.94 ・・・(2)
(Zは、正極活物質100の(104)面の結晶子サイズ(nm)である。Aは、正極活物質100の比表面積(m2 /g)である。)
【0074】
図6は、正極活物質100の比表面積A(結晶子サイズZ)に関する適正範囲を表している。図6では、横軸が結晶子サイズZ(nm)を表していると共に、縦軸が比表面積A(m2 /g)を表している。
【0075】
上記した第1条件および第2条件に基づいて、結晶子サイズZおよび比表面積Aのそれぞれが取り得る値の範囲は、図6に示したように、2つの直線L(実線L1および破線L2)で規定される範囲Qである。図6では、範囲Qに網掛けを施している。比表面積A=y、結晶子サイズZ=xとすると、実線L1は、y=-0.0324x+2.94で表される直線であり、破線L2は、y=-0.0160x+1.72で表される直線である。
【0076】
(第3条件)
X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy(XPS))を用いて測定された正極活物質100の炭素(C)1sスペクトルおよび酸素(O)1sスペクトルに基づいて算出される元素濃度比、すなわち下記の式(3)で表される元素濃度比R1(第1元素濃度比)は、0.08~0.80である。この元素濃度比R1は、主に、正極活物質100の表面における残存リチウム成分(Li2 CO3 )の分布状態を表すパラメータであると考えられる。
【0077】
R1=I1/I2 ・・・(3)
(R1は、元素濃度比である。I1は、C1sスペクトルに基づいて算出されるCO3 濃度(原子%)である。I2は、O1sスペクトルに基づいて算出されるMe-O濃度(原子%)である。ただし、Me-Oは、式(1)中のLi、NiまたはMと結合されていると共に結合エネルギーが528eV以上531eV以下である範囲内にスペクトルが検出されるO由来の酸化物である。)
【0078】
(第4条件)
XPSを用いて測定された正極活物質100のリチウム(Li)1sスペクトル、ニッケル(Ni)2p3/2 スペクトル、コバルト(Co)2p3/2 スペクトル、マンガン(Mn)2p1/2 スペクトルおよびアルミニウム(Al)2sスペクトルに基づいて算出される他の元素濃度比、すなわち下記の式(4)で表される元素濃度比R2(第2元素濃度比)は、0.60~1.50である。この元素濃度比R2は、主に、正極活物質100の表面におけるリチウムの分布状態を表すパラメータであると考えられる。
【0079】
R2=I3/I4 ・・・(4)
(R2は、元素濃度比である。I3は、Li1sスペクトルに基づいて算出されるLi濃度(原子%)である。I4は、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されるNi濃度(原子%)とCo濃度(原子%)とMn濃度(原子%)とAl濃度(原子%)との和である。)
【0080】
(第5条件)
XPSを用いて測定された正極活物質100のホウ素(B)1sスペクトル、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されるさらに他の元素濃度比、すなわち下記の式(5)で表される元素濃度比R3(第3元素濃度比)は、0.15~0.90である。この元素濃度比R3は、正極活物質100の表面におけるホウ素の分布状態を表すパラメータであると考えられる。
【0081】
R3=I5/I4 ・・・(5)
(R3は、第3元素濃度比である。I4は、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトルおよびAl2sスペクトルに基づいて算出されるNi濃度(原子%)とCo濃度(原子%)とMn濃度(原子%)とAl濃度(原子%)との和である。I5は、B1sスペクトルに基づいて算出されるB濃度(原子%)である。)
【0082】
中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)および被覆部120(ホウ素化合物)を含む正極活物質100に関して第1条件および第2条件が満たされているのは、結晶子サイズZとの関係において比表面積Aが適正化されるからである。これにより、反応性の正極活物質100の表面において電解液の分解反応が抑制されると共に、その電解液の分解反応に起因した不要なガスの発生も抑制される。よって、充放電を繰り返しても、放電容量が低下しにくくなると共に、ガスも発生しにくくなると考えられる。
【0083】
また、第1条件および第2条件が満たされている場合において、さらに、第3条件、第4条件および第5条件が満たされているのは、正極活物質100の表面状態(リチウム、ホウ素および残存リチウム成分のそれぞれの分布状態)が適正化されるからである。すなわち、正極活物質100の表面において、残存リチウム成分の残存量が適正に抑えられながら、被覆部120により中心部110の表面が適正に被覆される。これにより、残存リチウム成分の残存に起因したガスの発生が抑制されながら、中心部110においてリチウムイオンが入出力されやすくなると共に、その中心部110の表面において電解液の分解反応が抑制される。この場合には、特に、二次電池10(正極活物質100)が高温環境中において使用(充放電)または保存されても、電解液の分解反応が効果的に抑制されると考えられる。
【0084】
残存リチウム成分とは、正極活物質100の製造過程において、その正極活物質100中に残存する不要な成分である。この残存リチウム成分は、例えば、炭酸リチウム(Li2 CO3 )および水酸化リチウム(LiOH)であり、二次電池10の充放電時において不要なガスの発生要因となる。
【0085】
(測定方法および測定条件)
ここで、上記した5つの条件(第1条件~第5条件)に関連する一連のパラメータの測定方法および測定条件などの詳細は、以下で説明する通りである。
【0086】
結晶子サイズZは、XRDを用いた正極活物質100の分析結果に基づいて求められるパラメータであり、上記したように、下記の式(6)で表されるシェラー(Scherrer)の式を用いて算出される。
【0087】
Z=Kλ/Bcosθ ・・・(6)
(Kは、シェラー(Scherrer)の定数である。λは、X線の波長(nm)である。Bは、結晶子サイズによる半価幅の広がり(°)である。θは、ブラッグ角、すなわち回折角2θの半分の値(°)である。)
【0088】
XRDを用いて正極活物質100を分析する場合には、例えば、株式会社リガク製の全自動多目的X線回折装置 SmartLabを用いる。この場合には、ゴニオメータ=SmartLab、アタッチメント=標準χクレードル、モノクロメータ=Bent、スキャンモード=2θ/θ、スキャンタイプ=FT、X線=CuKα線、照射強度=45kV/200mA、入射スリット=1/2deg、受光スリット1=1/2deg、受光スリット2=0.300mm、スタート=15、ストップ=90、ステップ=0.02とする。これに伴い、式(6)に示したシェラー(Scherrer)の式では、K=0.89、λ(CuKα線の波長)=0.15418nm、B=半価幅とする。
【0089】
比表面積A(m2 /g)は、正極活物質100の単位質量当たりの表面積であり、上記したように、BET比表面積測定法を用いて測定される。このBET比表面積測定法は、複数の粒子状の正極活物質100に窒素分子(N2 )を吸着させることにより、その窒素分子の吸着量に基づいて正極活物質100の比表面積を測定する気体吸着法である。比表面積Aを測定する場合には、例えば、株式会社マウンテック製の全自動比表面積測定装置 Macsorb(登録商標)を用いる。この場合には、正極活物質100の質量を5gとすると共に、脱気条件を250℃×40分間とする。
【0090】
XPSを用いて正極活物質100を分析する場合には、例えば、アルバック・ファイ株式会社製のX線光電子分光分析装置 Quantera SXMを用いる。このXPSの分析結果(C1sスペクトル、O1sスペクトル、Li1sスペクトル、Ni2p3/2 スペクトル、Co2p3/2 スペクトル、Mn2p1/2 スペクトル、Al2sスペクトルおよびB1sスペクトル)では、一連のピークの強度が自動的に測定されたのち、その測定結果に基づいてCO3 濃度、Me-O濃度、Li濃度、B濃度、Ni濃度、Co濃度、Mn濃度およびAl濃度が算出(換算)される。これにより、元素濃度比R1~R3が算出される。
【0091】
残存リチウム成分の残存量は、例えば、ワルダー(Warder)法を用いて測定される。ここでは、例えば、炭酸リチウム(Li2 CO3 )および水酸化リチウム(LiOH)のそれぞれの残存量を調べる場合に関して説明する。
【0092】
残存量を調べる場合には、最初に、所定量(Sg)の正極活物質100を秤量したのち、その正極活物質100をサンプル瓶に入れる。ここでは、例えば、S=10(g)とする。続いて、サンプル瓶に撹拌子と共に超純水(50ml=50cm3 )を投入したのち、スターラを用いて超純水を撹拌(撹拌時間=1時間)する。続いて、撹拌後の超純水を静置(静置時間=1時間)させることにより、フィルタ付きシリンジを用いて超純水の上澄み液を採取したのち、その上澄み液を濾過する。続いて、ホールピペットを用いて濾過後の上澄み液(10ml)を採取したのち、その上澄み液を共栓付三角フラスコに入れる。
【0093】
続いて、上澄み液にフェノールフタレイン溶液を1滴加えたのち、スターラを用いて上澄み液を撹拌しながら、滴定溶液(濃度Mの塩酸(HCl))を用いて液色(赤色)が消失するまで滴定することにより、その塩酸の滴下量(Aml)を読み取る。ここでは、例えば、濃度M=0.02mol/l(=0.02mol/dm3 )とする。続いて、上澄み液にブロモフェノールブルー溶液を2滴加えたのち、スターラを用いて上澄み液を撹拌しながら、上記した滴定溶液を用いて液色が青色から黄緑色に変化する(青色が消失する)まで滴定することにより、その塩酸の滴下量(Bml)を読み取る。滴定装置としては、例えば、平沼産業株式会社製の自動滴定装置 COM-1600を用いる。
【0094】
最後に、下記の式(7)を用いて炭酸リチウムの残存率(%)を算出すると共に、下記の式(8)を用いて水酸化リチウムの残存率(%)を算出する。
【0095】
炭酸リチウムの残存率(%)=[(M×2B×(f/1000)×0.5×73.892×5)/S]×100 ・・・(7)
(Sは、正極活物質100の重量(g)である。Aは、フェノールフタレイン溶液を用いた1回目の終点までの滴下量(ml)である。Bは、フェノールフタレイン溶液を用いた1回目の終点からブロモフェノールブルー溶液を用いた2回目の終点までの滴下量(ml)である。fは、滴定溶液の濃度に依存する因子である。Mは、滴定溶液の濃度(mol/l)である。)
【0096】
水酸化リチウムの残存率(%)=[(M×(A-B)×(f/1000)×23.941×5)/S]×100 ・・・(8)
(Sは、正極活物質100の重量(g)である。Aは、フェノールフタレイン溶液を用いた1回目の終点までの滴下量(ml)である。Bは、フェノールフタレイン溶液を用いた1回目の終点からブロモフェノールブルー溶液を用いた2回目の終点までの滴下量(ml)である。fは、滴定溶液の濃度に依存する因子である。Mは、滴定溶液の濃度(mol/l)である。)
【0097】
ここで、図7は、XPSの分析範囲およびワルダー法の測定範囲を説明するために、図5に対応する平面構成を表している。ただし、図7では、図示内容を簡略化するために、図5に示した正極活物質100の一部、すなわち中心部110の一部(1個の一次粒子G1(G1A))と共に被覆部120の一部だけを拡大している。
【0098】
図7に示したように、XPSを用いて残存リチウム成分を分析可能である範囲は、正極活物質100の表面近傍の範囲だけであり、すなわち相対的に狭い範囲F1である。これに対して、ワルダー法を用いて残存リチウム成分を測定可能である範囲は、正極活物質100の表面から内部に至る範囲であり、すなわち相対的に広い範囲F2である。
【0099】
[任意要件]
この他、正極活物質100に関して、さらに、以下で説明する一連の条件が満たされていてもよい。
【0100】
具体的には、比表面積Aは、0.53m2 /g~1.25m2 /gであることが好ましい。電解液の分解反応が十分に抑制されると共に、ガスの発生も十分に抑制されるからである。
【0101】
また、体積基準の粒度分布の粒子径は、特に限定されない。中でも、粒子径D50は、11.8μm~14.4μmであることが好ましい。この場合には、粒子径D10は2.8μm~4.0μmであることが好ましいと共に、粒子径D90は22.7μm~26.3μmであることが好ましい。単位重量当たりのエネルギー密度が担保されながら、短絡の発生および正極活物質層21Bの剥離が抑制されるからである。これらの粒子径は、例えば、株式会社島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置 SALD-2100を用いて測定可能である。
【0102】
詳細には、粒子径が小さすぎると、正極21の作製時において正極活物質層21Bを圧縮成型した際に、その正極活物質層21Bが正極集電体21Aから剥離しやすくなる。また、正極活物質100の表面積が増加することに起因して導電剤および結着剤などの添加量を増加させなければならなくなるため、単位重量当たりのエネルギー密度が低下しやすくなる。一方、粒子径が大きすぎると、正極活物質100がセパレータ23を貫通しやすくなるため、正極21および負極22において短絡が発生しやすくなる。
【0103】
上記した体積基準の粒度分布の粒子径に関する条件が満たされている場合には、圧縮密度は、3.40g/cm3 ~3.60g/cm3 であることが好ましい。高いエネルギー密度が担保されながら、ガスの発生が抑制されるからである。
【0104】
詳細には、圧縮密度が3.40g/cm3 よりも小さいと、正極21(正極活物質層21B)中において正極活物質100が充填されにくくなるため、単位重量当たりのエネルギー密度が低下しやすくなる。一方、圧縮密度が3.60g/cm3 よりも大きいと、正極活物質100が割れやすくなるため、反応性を有する新生面の形成に起因してガスが発生しやすくなる。
【0105】
この圧縮密度(g/cm3 )は、いわゆるPress density (体積密度)であり、例えば、以下で説明する手順により測定される。最初に、乳鉢に正極活物質100およびセルロースを投入したのち、その乳鉢を用いて正極活物質100とセルロースとを均一に混合させることにより、混合試料を得る。この場合には、混合比(重量比)を正極活物質100:セルロース=98:2とする。続いて、混合試料1gを計量したのち、プレス治具を用いて一定圧力で混合試料をプレス(プレス圧=60MPa)することにより、所定の面積(cm2 )を有するペレット状となるように混合試料を成型する。続いて、混合試料の厚さ(cm)を測定する。この場合には、互いに異なる5箇所において厚さを測定したのち、その5箇所の厚さの平均値を算出する。続いて、混合試料の重量(g)を測定する。最後に、厚さおよび重量の測定結果に基づいて、圧縮密度=重量/(面積×厚さ)を算出する。
【0106】
また、2種類以上の平均粒径を有する正極活物質100を用いることにより、その正極活物質100に関する体積基準の粒度分布は、2つ以上のピークを有していることが好ましい。体積基準の粒度分布が1つのピークだけを有している場合と比較して、正極21(正極活物質層21B)中において正極活物質100が充填されやすくなるからである。また、正極活物質100同士の接触点数が増加することにより、正極21の作製時(正極活物質層21Bの圧縮成型時)において圧縮成型時の力が分散されやすくなるため、その正極活物質100が割れにくくなるからである。これにより、単位重量当たりのエネルギー密度が増加する。また、反応性を有する新生面の形成に起因する電解液の分解反応が抑制されるため、その電解液の分解反応に起因したガスの発生も抑制される。この体積基準の粒度分布は、例えば、上記したレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定可能である。
【0107】
図8は、体積基準の粒度分布の一例を表している。図8では、横軸が粒子径(μm)を表していると共に、縦軸が相対粒子量(%)を表している。中でも、図8に示したように、体積基準の粒度分布が2つのピークP(P1,P2)を有している場合(2粒子混合系)には、その体積基準の粒度分布は、粒子径が3μm~7μmである範囲Q1内に1つ目のピークP1(第1ピーク)を有していると共に、粒子径が14μm~30μmである範囲Q2内に2つ目のピークP2(第2ピーク)を有していることが好ましい。体積基準の粒度分布の粒子径(D10,D50,D90)が上記した条件を満たしている場合において、正極21(正極活物質層21B)中において正極活物質100が最密充填構造を形成しやすくなるからである。図8では、範囲Q1,Q2のそれぞれに網掛けを施している。
【0108】
上記した体積基準の粒度分布における2つのピークP(P1,P2)の粒子径に関する条件が満たされている場合には、圧縮密度は、3.45g/cm3 ~3.70g/cm3 であることが好ましい。上記した体積基準の粒度分布の粒子径に関する条件が満たされている場合と同様の理由により、高いエネルギー密度が担保されながら、ガスの発生が抑制されるからである。
【0109】
<1-2.動作>
この二次電池10では、例えば、充電時において、正極21(正極活物質層21B)からリチウムイオンが放出されると共に、そのリチウムイオンが電解液を介して負極22(負極活物質層22B)に吸蔵される。また、二次電池10では、例えば、放電時において、負極22からリチウムイオンが放出されると共に、そのリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0110】
一対の電極(正極21および負極22)当たりの完全充電状態における開回路電圧(すなわち電池電圧)は、特に限定されないため、4.20V未満でもよいが、4.20V以上でもよい。中でも、電池電圧は、4.25V以上であることが好ましく、4.25V~6.00Vであることがより好ましい。電池電圧が4.20Vである場合と比較して、同じ種類の正極活物質を用いても単位質量当たりのリチウムの放出量が増大するからである。この場合には、高いエネルギー密度を得るために、上記した単位質量当たりのリチウムの放出量に応じて正極活物質の量と負極活物質の量とが互いに調整される。
【0111】
<1-3.製造方法>
以下では、図5を参照しながら正極活物質100の製造方法に関して説明したのち、図1図4を参照しながら正極活物質100を用いた二次電池10の製造方法に関して説明する。
【0112】
<1-3-1.正極活物質の製造方法>
正極活物質100を製造する場合には、例えば、以下で説明するように、前駆体の作製工程、第1焼成工程、水洗工程および被覆工程(第2焼成工程)をこの順に行う。
【0113】
[前駆体の作製工程]
最初に、原材料として、リチウムの供給源(リチウム化合物)と、ニッケルの供給源(ニッケル化合物)と、必要に応じて追加金属元素(式(1)に示したM)の供給源(追加化合物)とを準備する。以下では、例えば、追加化合物(追加金属元素)を用いる場合に関して説明する。リチウム化合物は、例えば、無機系化合物でもよいし、有機系化合物でもよい。このリチウム化合物の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。ここでリチウム化合物に関して説明したことは、ニッケル化合物および追加化合物に関しても同様である。
【0114】
リチウム化合物の具体例を挙げると、以下の通りである。無機系化合物であるリチウム化合物は、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、臭素酸リチウム、ヨウ素酸リチウム、酸化リチウム、過酸化リチウム、硫化リチウム、硫化水素リチウム、硫酸リチウム、硫酸水素リチウム、窒化リチウム、アジ化リチウム、亜硝酸リチウム、リン酸リチウム、リン酸二水素リチウムおよび炭酸水素リチウムなどである。有機系化合物であるリチウム化合物は、例えば、メチルリチウム、ビニルリチウム、イソプロピルリチウム、ブチルリチウム、フェニルリチウム、シュウ酸リチウムおよび酢酸リチウムなどである。
【0115】
続いて、純水などの水性溶媒を用いてニッケル化合物および追加化合物を溶解させたのち、共沈法を用いて共沈物(ニッケル複合共沈水酸化物)を得る。この場合には、最終的に得られる中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)の組成に応じて、ニッケル化合物と追加化合物との混合比を調整する。また、共沈用のアルカリ化合物として、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)および水酸化アンモニウム(NH4 OH)などの水酸化物のうちのいずれか1種類または2種類以上を用いる。続いて、ニッケル複合共沈水酸化物を水洗したのち、そのニッケル複合共沈水酸化物を乾燥させる。
【0116】
ここで、上記したように、粒子径が互いに異なる2種類の正極活物質100(大粒径粒子および小粒径粒子からなるBi-model設計)を用いる場合には、共沈法を用いてニッケル複合共沈水酸化物を得る際に、共沈時の反応時間を調整することにより、そのニッケル複合共沈水酸化物の二次粒子G2の粒径を調整する。これにより、相対的に大きな所望の平均粒径を有するニッケル複合共沈水酸化物(大粒径粒子)と、相対的に小さな所望の平均粒径を有するニッケル複合共沈水酸化物(小粒径粒子)とが得られる。
【0117】
最後に、リチウム化合物と、ニッケル複合共沈水酸化物と、必要に応じて追加化合物とを混合することにより、前駆体を得る。この場合には、最終的に得られる中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)の組成に応じて、ニッケル化合物とニッケル複合共沈水酸化物と追加化合物との混合比を調整する。
【0118】
この前駆体の作製工程では、ニッケル複合共沈水酸化物の二次粒子G2の粒径を調整することにより、比表面積Aを制御可能である。
【0119】
[第1焼成工程]
リチウム化合物およびニッケル複合共沈水酸化物と共に必要に応じて追加化合物を含む前駆体を焼成する。これにより、リチウムとニッケルと追加金属元素とを構成元素として含む化合物(リチウムニッケル複合酸化物)が形成されるため、そのリチウムニッケル複合酸化物を含む中心部110が得られる。ここで得られるリチウムニッケル複合酸化物では、複数の一次粒子G1のほとんどが凝集しているため、その複数の一次粒子G1のほとんどが二次粒子G2を形成している。
【0120】
焼成温度などの条件は、特に限定されないため、任意に設定可能である。中でも、焼成温度は、650℃~850℃であることが好ましい。安定な組成を有するリチウムニッケル複合酸化物が再現性よく製造されやすくなるからである。
【0121】
詳細には、焼成温度が650℃よりも低いと、リチウム化合物が拡散しにくくなると共に、R3m層状岩塩型の結晶構造が十分に形成されにくくなる。一方、焼成温度が850℃よりも高いと、リチウムニッケル複合酸化物の結晶構造中においてリチウム化合物の揮発に起因したリチウムの欠損が発生しやすくなると共に、そのリチウムの欠損箇所(空のサイト)に他原子が混入することに起因してリチウムニッケル複合酸化物の組成が非化学量論組成になる傾向が強くなる。この他原子は、例えば、リチウム(Li+ )のイオン半径とほぼ等しいイオン半径を有するニッケル(Ni2+)などである。
【0122】
なお、リチウム3dサイトにニッケルが混入すると、そのニッケルの混入領域が立方岩塩相(岩塩ドメイン)になる。この岩塩ドメインは、電気化学的に不活性であると共に、リチウムサイトに混入されたニッケルは、リチウム単独相の固相拡散を阻害しやすい性質を有している。よって、二次電池10の電池特性(電気抵抗特性を含む。)の低下を誘発しやすくなる。
【0123】
なお、前駆体の焼成時において不要な還元反応が発生することを抑制するために、酸素雰囲気中において前駆体を焼成することが好ましい。この還元反応は、例えば、ニッケルの還元反応(Ni3+→Ni2+)などである。
【0124】
この第1焼成工程では、焼成温度を調整することにより、比表面積Aおよび結晶子サイズZを制御可能である。
【0125】
[水洗工程]
純水などの水性溶媒を用いて、中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)を洗浄する。この場合には、必要に応じて、攪拌機などを用いて中心部110を機械的に洗浄してもよい。洗浄時間などの条件は、特に限定されないため、任意に設定可能である。
【0126】
この水洗工程では、洗浄時間を調整することにより、元素濃度比R1,R2を制御可能であり、すなわち残存リチウム成分の残存量を制御可能である。
【0127】
[被覆工程(第2焼成工程)]
中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)にホウ素化合物を混合したのち、その混合物を焼成する。この場合には、中心部110の表面におけるホウ素の存在量(被覆量)が所望の値となるように、その中心部110とホウ素化合物との混合比を調整する。これにより、中心部110の表面にホウ素化合物が定着することにより、その中心部110の表面がホウ素化合物により被覆されるため、そのホウ素化合物を含む被覆部120が形成される。よって、中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)および被覆部120(ホウ素化合物)を含む正極活物質100が得られる。
【0128】
この被覆工程(第2焼成工程)では、ホウ素化合物の添加量を調整することにより、元素濃度比R3を制御可能であり、すなわちホウ素化合物によるリチウムニッケル複合酸化物の表面の被覆状態を制御可能である。また、焼成温度を調整することにより、元素濃度比R1,R2を制御可能である。
【0129】
<1-3-2.二次電池の製造方法>
二次電池10を製造する場合には、例えば、以下で説明するように、正極21の作製工程、負極22の作製工程、電解液の調製工程および二次電池10の組み立て工程をこの順に行う。
【0130】
[正極の作製工程]
最初に、正極活物質100と、結着剤と、導電剤とを混合することにより、正極合剤とする。続いて、分散用の溶媒中に正極合剤を分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製する。分散用の溶媒の種類は、特に限定されないが、例えば、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤である。続いて、正極集電体21A(正極活物質層形成部21M)の両面に正極合剤スラリーを塗布することにより、正極活物質層21Bを形成する。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。これにより、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが形成されるため、正極21が作製される。
【0131】
[負極の作製工程]
最初に、負極活物質と、結着剤と、導電剤とを混合することにより、負極合剤とする。続いて、分散用の溶媒中に負極合剤を分散させることにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。分散用の溶媒の種類は、特に限定されないが、例えば、N-メチル-2-ピロリドンおよびメチルエチルケトンなどの有機溶剤である。続いて、負極集電体22A(負極活物質層形成部22M)の両面に負極合剤スラリーを塗布することにより、負極活物質層22Bを形成する。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層22Bを圧縮成型する。これにより、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが形成されるため、負極22が作製される。
【0132】
[電解液の調製工程]
溶媒に電解質塩を加えたのち、その溶媒を撹拌する。これにより、溶媒により電解質塩が溶解されるため、電解液が調製される。
【0133】
[二次電池の組み立て工程]
最初に、複数の正極21と複数の負極22とをセパレータ23を介して交互に積層させることにより、積層体を形成する。続いて、複数の正極集電体露出部21N同士を互いに接合させると共に、その接合された複数の正極集電体露出部21Nに正極リード11を接合させる。また、複数の負極集電体露出部22N同士を互いに接合させると共に、その接合された複数の負極集電体露出部22Nに負極リード12を接合させる。正極リード11および負極リード12のそれぞれの接合方法は、特に限定されないが、例えば、超音波溶接、抵抗溶接または半田付けなどである。
【0134】
続いて、第1部材30Aと第2部材30Bとの間に積層体を配置したのち、その積層体を介して第1部材30Aおよび第2部材30Bを互いに重ね合わせる。続いて、第1部材30Aおよび第2部材30Bのそれぞれのうちの一辺の外周縁部を除いた残りの三辺の外周縁部同士を互いに密着させることにより、袋状の外装部材30の内部に積層体を収納する。第1部材30Aおよび第2部材30Bを互いに密着させる方法は、特に限定されないため、例えば、熱融着法を用いてもよいし、接着剤を用いてもよい。
【0135】
最後に、袋状の外装部材30の内部に電解液を注入したのち、第1部材30Aおよび第2部材30Bのそれぞれの残りの一辺の外周縁部同士を互いに密着させることにより、その外装部材30を密封する。この場合には、外装部材30(第1部材30Aおよび第2部材30B)と正極リード11との間に密着フィルム13を挿入すると共に、その外装部材30と負極リード12との間に密着フィルム13を挿入する。なお、正極リード11および負極リード12のそれぞれに予め密着フィルム13を取り付けておいてもよい。これにより、積層体に電解液が含浸されるため、電極体20が形成される。また、外装部材30の内部に電極体20が収納されると共に、その外装部材30の内部から外部に正極リード11および負極リード12が導出されるため、二次電池10が組み立てられる。よって、ラミネートフィルム型の二次電池10が完成する。
【0136】
<1-4.作用および効果>
この二次電池10では、正極21は、中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)および被覆部120(ホウ素化合物)を含む正極活物質100を備えており、その正極活物質100の構成および物性に関して、上記した5つの条件(第1条件~第5条件)が同時に満たされている。この場合には、上記したように、リチウムイオンの入出力が担保されながら、電解液の分解反応が抑制されると共にガスの発生も抑制される。よって、充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくくなると共に二次電池10が膨れにくくなるため、優れた電池特性を得ることができる。
【0137】
特に、正極活物質100の比表面積Aが0.53m2 /g~1.25m2 /gであれば、電解液の分解反応が十分に抑制されると共にガスの発生も十分に抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0138】
また、正極活物質100に関する体積基準の粒度分布の粒子径D50が11.8μm~14.4μmであれば、単位重量当たりのエネルギー密度が担保されながら短絡の発生および正極活物質層21Bの剥離が抑制されるため、より高い効果を得ることができる。この場合には、粒子径D10が2.8μm~4.0μmであると共に、粒子径D90が22.7μm~26.3μmであれば、さらに高い効果を得ることができる。また、正極活物質100の圧縮密度が3.40g/cm3 ~3.60g/cm3 であれば、高いエネルギー密度が担保されながらガスの発生が抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0139】
また、正極活物質100に関する体積基準の粒度分布が2つ以上のピークを有していれば、正極21(正極活物質層21B)中において正極活物質100が充填されやすくなると共に割れにくくなることにより、単位重量当たりのエネルギー密度が増加すると共に電解液の分解反応およびガスの発生が抑制されるため、より高い効果を得ることができる。この場合には、体積基準の粒度分布が2つのピーク(粒子径が3μm~7μmである範囲内のピークおよび粒子径が14μm~30μmである範囲内のピーク)を有していれば、正極活物質100が最密充填構造を形成しやすくなるため、さらに高い効果を得ることができる。また、正極活物質100の圧縮密度が3.45g/cm3 ~3.70g/cm3 であれば、高いエネルギー密度が担保されながらガスの発生が抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0140】
また、正極21、負極22および電解液がフィルム状の外装部材30の内部に収納されていれば、内圧の変化に起因して変形しやすい外装部材30を用いたラミネートフィルム型の二次電池10において、上記したように、ガスの発生が抑制される。よって、膨れが顕在化しやすいラミネートフィルム型の二次電池10を用いた場合においても、その二次電池10が膨れることを効果的に抑制することができる。
【0141】
この他、二次電池10に用いられる正極活物質100は、中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)および被覆部120(ホウ素化合物)を含んでおり、その正極活物質100の構成および物性に関して、上記した5つの条件が同時に満たされている。よって、上記した理由により、正極活物質100の構成および物性が適正化されるため、その正極活物質100を用いた二次電池10において優れた電池特性を得ることができる。
【0142】
<2.変形例>
上記した二次電池10の構成は、以下で説明するように、適宜、変更可能である。なお、以下で説明する一連の変形例に関しては、任意の2種類以上が互いに組み合わされてもよい。
【0143】
[変形例1]
図1に示したように、2枚の外装部材30(第1部材30Aおよび第2部材30B)を用いた。しかしながら、図1に対応する図9に示したように、2枚の外装部材30の代わりに、折り畳み可能である1枚の外装部材30を用いてもよい。この1枚の外装部材30は、例えば、第1部材30Aの一辺と、その第1部材30Aの一辺に対向する第2部材30Bの一辺とが互いに連結された構成を有している。この場合においても、外装部材30の内部に電極体20が収納されるため、同様の効果を得ることができる。
【0144】
[変形例2]
液状の電解質である電解液を用いた。しかしながら、電解液の代わりに、ゲル状での電解質である電解質層を用いてもよい。この場合には、電極体20が電解質層を備えており、その電極体20では、複数の正極21および複数の負極22がセパレータ23および電解質層を介して交互に積層されている。電解質層は、正極21とセパレータ23との間に介在していると共に、負極22とセパレータ23との間に介在している。この電解質層は、電解液と、その電解液を保持する高分子材料とを含んでおり、その高分子材料は、電解液により膨潤されている。ゲル状の電解質では、高いイオン伝導率が得られると共に、電解液の漏液が抑制される。なお、電解液と高分子材料との混合比は、任意に設定可能である。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどの単独重合体でもよいし、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などの共重合体でもよいし、双方でもよい。この場合においても、正極21と負極22との間において電解質層を介してリチウムイオンが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。
【0145】
[変形例3]
セパレータ23は、例えば、基材層と、その基材層に設けられた高分子層とを含んでいてもよい。この高分子層は、基材層の片面だけに設けられていてもよいし、その基材層の両面に設けられていてもよい。
【0146】
基材層は、例えば、上記した多孔質膜である。高分子層は、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料を含んでいる。物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。なお、高分子層は、例えば、複数の無機粒子を含んでいてもよい。発熱などに起因して二次電池10が高温化した際に、複数の無機粒子により放熱されるため、その二次電池10の安全性が向上するからである。無機粒子の種類は、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムなどの絶縁性粒子である。この基材層および高分子層を含むセパレータ23は、例えば、高分子材料および有機溶剤などを含む前駆溶液が基材層の両面に塗布されることにより形成される。
【0147】
この場合においても、正極21および負極22がセパレータ23を介して互いに分離されるため、同様の効果を得ることができる。なお、セパレータ23が高分子層を含んでいる場合には、電解質層を省略してもよい。高分子層に電解液が含浸されることにより、その電解液により膨潤された高分子層が電解質層と同様の機能を果たすからである。
【0148】
[変形例4]
複数の正極21および複数の負極22がセパレータ23を介して交互に積層された積層型の電極体20を用いたが、その電極体20の構成は、特に限定されない。具体的には、電極体20は、例えば、単一の正極21および単一の負極22がセパレータ23を介して折り畳まれた折り畳み型でもよいし、単一の正極21および単一の負極22がセパレータ23を介して巻回された巻回型でもよい。これらの場合においても、正極21および負極22を用いて充放電可能であるため、同様の効果を得ることができる。
【0149】
<3.二次電池の用途>
二次電池の用途は、その二次電池を駆動用の電源および電力蓄積用の電力貯蔵源などとして利用可能である機械、機器、器具、装置およびシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、主電源の代わりに用いられる電源でもよいし、必要に応じて主電源から切り替えられる電源でもよい。二次電池を補助電源として用いる場合には、主電源の種類は二次電池に限られない。
【0150】
具体的には、二次電池の用途は、例えば、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビおよび携帯用情報端末などの電子機器(携帯用電子機器を含む。)である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。着脱可能な電源としてノート型パソコンなどに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時に備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、二次電池の用途は、上記した用途以外の他の用途でもよい。
【実施例
【0151】
本技術の実施例に関して説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.正極活物質の合成
2.二次電池の作製
3.電池特性の評価
4.比表面積の適正範囲の導出理論
5.考察
6.他の評価および考察
7.まとめ
【0152】
(実験例1-1~1-23)
以下で説明するように、図5に示した正極活物質100を合成すると共に、図1図4に示したラミネートフィルム型の二次電池10を作製したのち、その正極活物質100の物性と共に二次電池10の電池特性を評価した。
【0153】
<1.正極活物質の合成>
前駆体の作製工程では、最初に、水性溶媒(純水)中にニッケル化合物(硫酸ニッケル(NiSO4 ))および追加化合物(硫酸コバルト(CoSO4 ))を投入したのち、その水性溶媒を撹拌することにより、混合水溶液を得た。この場合には、ニッケルとコバルトとのモル比がニッケル:コバルト=84:16となるように、ニッケル化合物とコバルト化合物との混合比を調整した。
【0154】
続いて、混合水溶液を撹拌しながら、その混合水溶液にアルカリ化合物(水酸化リチウム(NaOH)および水酸化アンモニウム(NH4 OH))を加えることにより、共沈法を用いて複数の粒子状の沈殿物(ニッケルコバルト複合共沈水酸化物の二次粒子G2)を得た。この場合には、最終的に2種類の平均粒径(メジアン径)を有する正極活物質100(大粒径粒子および小粒径粒子からなるBi-model設計)を用いるために、その二次粒子G2の粒径を制御することにより、互いに異なる2種類の平均粒径を有する二次粒子G2を得た。
【0155】
続いて、水性溶媒(純水)を用いてニッケルコバルト複合共沈水酸化物を洗浄したのち、そのニッケルコバルト複合共沈水酸化物を乾燥させた。
【0156】
最後に、ニッケルコバルト複合共沈水酸化物にリチウム化合物(水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2 O))および追加化合物(水酸化アルミニウム(Al(OH)3 )を加えることにより、前駆体を得た。この場合には、リチウムとニッケルとコバルトとアルミニウムとのモル比がリチウム:(ニッケル+コバルト+アルミニウム)=103:100となるように、ニッケルコバルト複合共沈水酸化物とリチウム化合物と追加化合物との混合比を調整した。
【0157】
第1焼成工程では、酸素雰囲気中において前駆体を焼成した。第1焼成工程の焼成温度(℃)は、表1に示した通りである。これにより、複数の粒子状のリチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.82Co0.14Al0.042 )が合成されたため、そのリチウムニッケル複合酸化物を含む中心部110が得られた。
【0158】
水洗工程では、最初に、容積が1000ml(=1000cm3 )であるビーカー中に、50gの中心部110と、水性溶媒(純水)500ml(=500cm3 )とを投入した。続いて、攪拌機を用いて水性溶媒を撹拌することにより、その水性溶媒を用いて中心部110を洗浄した。洗浄時間(分)は、表1に示した通りである。続いて、水性溶媒を吸引濾過器に移したのち、濾過物を脱水(脱水時間=10分間)した。続いて、濾過物を乾燥(乾燥温度=120℃)した。続いて、メノウ乳鉢を用いて濾過物を粉砕したのち、粉砕物を真空乾燥(乾燥時間=100℃)した。これにより、水洗された中心部110が得られた。
【0159】
被覆工程(第2焼成工程)では、中心部110とホウ素化合物(ホウ酸(H3 BO3 )とを混合させることにより、混合物を得た。ホウ酸の添加量(質量%)、すなわち中心部110の質量に対するホウ酸の質量の割合は、表1に示した通りである。こののち、酸素雰囲気中において混合物を焼成した。第2焼成工程の焼成温度(℃)は、表1に示した通りである。これにより、図5に示したように、中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)の表面が被覆部120(ホウ素化合物)により被覆されたため、正極活物質100が得られた。
【0160】
なお、表1に示したように、他の複数の粒子状のリチウムニッケル複合酸化物も合成することにより、他の正極活物質100も得た。
【0161】
具体的には、リチウムとニッケルとコバルトとアルミニウムとのモル比を変更して、LiNi0.82Co0.14Al0.042 の代わりにLiNi0.78Co0.18Al0.042 およびLiNi0.90Co0.06Al0.042 のそれぞれを合成したことを除いて同様の手順により、他の正極活物質100を得た。
【0162】
また、追加化合物として水酸化アルミニウムの代わりに水酸化マンガン(Mn(OH)2 )を用いると共にリチウムとニッケルとコバルトとマンガンとのモル比を調整して、LiNi0.82Co0.14Al0.042 の代わりにLiNi0.84Co0.08Mn0.082 を合成したことを除いて同様の手順により、他の正極活物質100を得た。
【0163】
【表1】
【0164】
XRDを用いて正極活物質100を分析したのち、その分析結果((104)面のピーク)に基づいてシェラー(Scherrer)の式を用いて結晶子サイズZ(nm)を算出したところ、表2および表3に示した結果が得られた。また、BET比表面積測定法を用いて正極活物質100の比表面積A(m2 /g)を測定したところ、表2および表3に示した結果が得られた。なお、表2および表3に示した「適正範囲(m2 /g)」は、式(2)から導出される比表面積Aの適正範囲を示している。すなわち、「適正範囲(m2 /g)」の欄中に示されている2つの数値のうち、左側の数値は-0.0160×Z+1.72により算出される値であると共に、右側の数値は-0.0324×Z+2.94により算出される値である。
【0165】
また、XPSを用いて正極活物質100を分析したのち、その分析結果に基づいて元素濃度比R1~R3を算出したところ、表2および表3に示した結果が得られた。
【0166】
【表2】
【0167】
【表3】
【0168】
この他、正極活物質100の圧縮密度を測定したところ、その圧縮密度は3.60g/cm3 であった。正極活物質100に関する体積基準の粒度分布の粒子径を測定したところ、粒子径D50=13.2μm、粒子径D10=3.4μm、粒子径D90=24.5μmであった。
【0169】
また、正極活物質100の体積基準の粒度分布を測定したところ、図8に示したように、2つのピークP、すなわち小粒径粒子に対応するピークP1および大粒径粒子に対応するピークP2が得られた。この体積基準の粒度分布では、1つ目のピークP1に対応する粒子径(ピークトップの粒子径)が4.4μmであると共に、2つ目のピークP2に対応する粒子径が19.1μmであった。なお、小粒径粒子および大粒径粒子の混合比(重量比)は、小粒径粒子:大粒径粒子=30:70とした。
【0170】
<2.二次電池の作製>
正極21の作製工程では、最初に、上記した正極活物質100(中心部110および被覆部120)95.5質量部と、結着剤(ポリフッ化ビニリデン)1.9質量部と、導電剤(カーボンブラック)2.5質量部と、分散剤(ポリビニルピロリドン)0.1質量部とを混合することにより、正極合剤とした。続いて、有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に正極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体21A(アルミニウム箔,厚さ=15μm)のうちの正極活物質層形成部21Mの両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層21Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層21Bを圧縮成型した。
【0171】
負極22の作製工程では、最初に、負極活物質(黒鉛)90質量部と、結着剤(ポリフッ化ビニリデン)10質量部とを混合することにより、負極合剤とした。続いて、有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に負極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体22A(銅箔,厚さ=15μm)のうちの負極活物質層形成部22Mの両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層22Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層22Bを圧縮成型した。
【0172】
電解液の調製工程では、溶媒(炭酸エチレンおよび炭酸エチルメチル)に電解質塩(六フッ化リン酸リチウム)を加えたのち、その溶媒を撹拌した。この場合には、溶媒の混合比(質量比)を炭酸エチレン:炭酸エチルメチル=50:50とすると共に、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0173】
二次電池10の組み立て工程では、最初に、セパレータ23(微孔性ポリエチレンフィルム,厚さ=25μm)を介して複数の正極21と複数の負極22とを交互に積層させることにより、積層体を形成した。続いて、超音波溶接法を用いて、複数の正極集電体露出部21N同士を互いに接合させると共に、複数の負極集電体露出部22N同士を互いに接合させた。続いて、超音波溶接法を用いて、複数の正極集電体露出部21Nの接合体に正極リード11を接合させると共に、複数の負極集電体露出部22Nの接合体に負極リード12を接合させた。
【0174】
続いて、2枚の外装部材30(第1部材30Aおよび第2部材30B)を準備した。この外装部材30としては、熱融着樹脂層(ポリプロピレンフィルム,厚さ=30μm)と、金属層(アルミニウム箔,厚さ=40μm)と、表面保護層(ナイロンフィルム,厚さ=25μm)とがこの順に積層された防湿性のアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、第1部材30Aと第2部材30Bとの間に積層体を配置したのち、熱融着法を用いて第1部材30A(熱融着樹脂層)および第2部材30B(熱融着樹脂層)のそれぞれのうちの三辺の外周縁部同士を互いに密着させることにより、袋状の外装部材30の内部に積層体を収納した。
【0175】
最後に、袋状の外装部材30の内部に電解液を注入したのち、熱融着法を用いて外装部材30を密封した。この場合には、外装部材30(第1部材30Aおよび第2部材30B)と正極リード11との間に密着フィルム13(ポリプロピレンフィルム,厚さ=15μm)を挿入すると共に、外装部材30と負極リード12との間に密着フィルム13を挿入した。これにより、積層体に電解液が含浸されたため、電極体20が形成された。また、外装部材30の内部から外部に正極リード11および負極リード12が導出されながら、その外装部材30の内部に電極体20が収納された。よって、図1図4に示したラミネートフィルム型の二次電池10が完成した。
【0176】
<3.電池特性の評価>
二次電池10の電池特性を評価したところ、表2および表3に示した結果が得られた。ここでは、二次電池10の電池特性として、初回容量特性およびサイクル特性を調べたと共に、正極活物質100の物性を調べるために、ガス発生特性を調べた。この場合には、上記した手順により、残存リチウム成分(炭酸リチウム(Li2 CO3 )および水酸化リチウム(LiOH))の残存量も併せて調べた。
【0177】
二次電池10の初回容量特性を調べる場合には、最初に、二次電池10の状態を安定化させるために、常温環境中(温度=23℃)において二次電池10を1サイクル充放電させた。こののち、同環境中において二次電池10を再び充放電させることにより、初回容量(2サイクル目の放電容量)を測定した。表2および表3に示した初回容量は、実験例1-1の初回容量を100として規格化した値である。
【0178】
充電時には、0.1Cの電流で電池電圧が4.2Vに到達するまで定電流充電したのち、その4.2Vの電池電圧で電流が0.005Cに到達するまで定電圧充電した。放電時には、0.1Cの電流で電池電圧が2.5Vに到達するまで定電流放電した。なお、0.1Cとは、電池容量(理論容量)を10時間で放電しきる電流値であると共に、0.005Cとは、電池容量を200時間で放電しきる電流値である。
【0179】
二次電池10のサイクル特性を調べる場合には、上記した手順により、二次電池10の状態を安定化させたのち、最初に、高温環境中(温度=60℃)において二次電池10を1サイクル充放電させることにより、放電容量(2サイクル目の放電容量)を測定した。続いて、同環境中において二次電池10を100サイクル充放電させることにより、放電容量(102サイクル目の放電容量)を測定した。最後に、容量維持率(%)=(102サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。
【0180】
充電時には、1.0Cの電流で電池電圧が4.2Vに到達するまで定電流充電したのち、その4.2Vの電池電圧で総充電時間が2.5時間に到達するまで定電圧充電した。放電時には、5.0Cの電流で電池電圧が2.5Vに到達するまで定電流放電した。なお、1.0Cとは、電池容量を1時間で放電しきる電流値であると共に、5.0Cとは、電池容量を0.2時間で放電しきる電流値である。
【0181】
正極活物質100のガス発生特性を調べる場合には、最初に、セパレータ23を介して正極21および負極22を積層させることにより、積層体を得た。続いて、充放電可能となるように予めタブが取り付けられたラミネートフィルムを折り畳んだのち、その折り畳まれたラミネートフィルムの間に積層体を挿入した。続いて、ラミネートフィルムのうちの二辺において外周縁部同士を互いに熱融着させることにより、袋状のラミネートフィルムの内部に積層体を収納した。続いて、袋状のラミネートフィルムの内部に電解液を注入したのち、そのラミネートフィルムのうちの残りの一辺において外周縁部同士を互いに熱融着させることにより、ラミネートパックを得た。続いて、ラミネートパックを加圧(圧力=500kP,加圧時間=30秒間)した。これにより、積層体に電解液が含浸されたため、評価用ラミネートセルが作製された。
【0182】
続いて、0.1Cの電流で電圧が4.2Vに到達するまで評価用ラミネートセルを充電(定電流充電)させると共に、その4.2Vの電圧で総充電時間が2.5時間に到達するまで評価用ラミネートセルを充電(定電圧充電)させたのち、アルキメデス法を用いて評価用ラミネートセルの体積(保存前の体積:cm3 )を測定した。続いて、恒温槽(温度=60℃)中において充電状態の評価用ラミネートセルを保存(保存時間=1週間)したのち、再びアルキメデス法を用いて評価用ラミネートセルの体積(保存後の体積)を測定した。最後に、ガス発生量(cc/g=cm3 /g)=[保存後の体積(cm3 )-保存前の体積(cm3 )]/正極活物質100の重量(g)を算出した。このガス発生量は、いわゆる正極活物質100の単位重量当たりにおけるガスの発生量であるため、その正極活物質100の物性(ガス発生特性)を表す指標であり、ひいては二次電池10の膨れ特性を予測するためのパラメータである。
【0183】
<4.比表面積の適正範囲の導出理論>
ここで、結晶子サイズZとの関係において比表面積Aの適正範囲を規定している式(2)の導出理論に関して説明する。
【0184】
式(2)を導出する場合には、最初に、上記したサイクル特性を調べる手順にしたがって、結晶子サイズZおよび比表面積Aのそれぞれを変化させながら容量維持率(%)を調べることにより、結晶子サイズZおよび比表面積Aと容量維持率との対応関係を取得した。この場合には、結晶子サイズZ=40.0nm~80.0nm、比表面積A=0.40m2 /g~1.80m2 /gとした。
【0185】
続いて、容量維持率の許容範囲を85%以上(許容可能な容量維持率の下限値=85%)として、その容量維持率が85%となる場合における結晶子サイズZおよび比表面積Aのそれぞれの値を特定することにより、それらの値をプロットした。
【0186】
続いて、結晶子サイズZおよび比表面積Aをプロットした結果を用いて重回帰分析することにより、図5に示した1つ目の直線L(実線L1)を得た。これにより、結晶子サイズZおよび比表面積Aに基づいて容量維持率を予測可能になった。
【0187】
続いて、水洗工程の洗浄時間を変化させながら比表面積A(m2 /g)を調べることにより、洗浄時間と比表面積Aとの対応関係を取得した。この場合には、比表面積A=0.40m2 /g~1.80m2 /gとした。続いて、水洗時間および比表面積Aのそれぞれの値をプロットしたのち、それらの値を用いて線形近似することにより、近似直線を得た。続いて、ガス発生量の許容範囲を6cm3 /g以下(許容可能なガス発生量の上限値=6cm3 /g)として、近似直線を用いてガス発生量が6cm3 /gとなる場合の比表面積Aを特定した。
【0188】
続いて、結晶子サイズZを変化させながら比表面積Aを調べることにより、同様の手順により、ガス発生量が6cm3 /gとなる場合における比表面積Aを結晶子サイズZごとに特定した。この場合には、結晶子サイズZ=40.0nm~80.0nmとした。
【0189】
続いて、ガス発生量が6cm3 /gとなる場合における結晶子サイズZおよび比表面積Aをプロットすることにより、図5に示した2つ目の直線L(破線L2)を得た。これにより、結晶子サイズZごとに洗浄時間の変動に伴う比表面積Aの上限値を予測可能になった。
【0190】
最後に、2つの直線L(実線L1および破線L2)をグラフ上において重ねることにより、図5に示したように、実線L1および破線L2により規定される範囲Q、すなわち式(2)で表される適正範囲を導出した。この範囲Qは、容量維持率が85以上となると共に各結晶子サイズZにおいて比表面積Aが洗浄時間の変動に伴う上限値となる結晶子サイズZの範囲および比表面積Aの範囲であり、上記した重回帰分析などを利用して理論的に導出された範囲である。
【0191】
<5.考察>
表2および表3に示したように、中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)および被覆部120(ホウ素化合物)を含む正極活物質100を用いた場合には、初回容量、容量維持率およびガス発生量のそれぞれが結晶子サイズZ、比表面積Aおよび元素濃度比R1~R3に応じて変動した。
【0192】
具体的には、結晶子サイズZ=40.0nm~74.5nm、比表面積A=適正範囲、元素濃度比R1=0.08~0.80、元素濃度比R2=0.60~1.50、元素濃度比R3=0.15~0.90であるという5つの条件が同時に満たされている場合(実験例1-1~1-12)には、その5つの条件が同時に満たされていない場合(実験例1-13~1-23)と比較して、正極活物質100に起因するガス発生量が抑えられたため、初回容量が担保されると共にガス発生量が抑制されながら高い容量維持率が得られた。
【0193】
これにより、式(2)に示した比表面積Aの範囲、すなわち結晶子サイズZとの関係において規定された比表面積Aの範囲(図6に示した範囲Q)は、容量維持率の担保およびガス発生量の抑制に寄与する適正範囲であることが確認された。
【0194】
特に、5つの条件が同時に満たされている場合には、比表面積Aが0.53m2 /g~1.25m2 /gであると、ガス発生量が十分に抑えられながら、十分に高い電池容量が得られると共に十分に高い容量維持率も得られた。
【0195】
なお、5つの条件が同時に満たされている場合には、その5つの条件が同時に満たされていない場合と比較して、炭酸リチウムの残存率がほぼ同等以下に抑えられたと共に、水酸化リチウムの残存率が同等に抑えられた。
【0196】
ただし、図7を参照しながら説明したように、XPSを用いた残存リチウム成分の分析可能範囲(範囲F1)は相対的に狭くなるのに対して、ワルダー法を用いた残存リチウム成分の測定可能範囲(範囲F2)は相対的に広くなる。このため、ワルダー法を用いて測定された炭酸リチウムなどの残存リチウム成分の残存量が低くても、ガス発生量が増加する場合があった。この原因は、水洗工程において水洗時間を担保することにより、残存リチウム成分の残存量を減少させても、被覆工程(第2焼成工程)において焼成温度を高くすると、正極活物質100(リチウムニッケル複合酸化物)の内部からリチウムが溶出するため、その正極活物質100の最表面付近において新たに炭酸リチウムが形成されるからであると考えられる。測定可能範囲(範囲F2)が広いワルダー法を用いた場合には、正極活物質100の最表面付近における炭酸リチウムの量を測定することができない。これに対して、測定可能範囲(範囲F1)が狭いXPSを用いた場合には、正極活物質100の最表面付近におけるガス発生源(溶出リチウム)の量を定量化することができる。よって、正極活物質100の最表面付近におけるガス発生源の量が多い場合には、二次電池10においてガス発生量が増加したと考えられる。
【0197】
<6.他の評価および考察>
この他、以下で説明するように、他の評価および考察も行った。
【0198】
(実験例2-1~2-4)
表4に示したように、正極活物質100に関する体積基準の粒度分布の粒子径D10,D50,D90(μm)を変更したことを除いて同様の手順により、二次電池を作製したと共に電池特性(サイクル特性)を評価した。この場合には、表4に示したように、小粒径粒子と大粒径粒子との混合比(重量比)を変更することにより、粒子径D10,D50,D90のそれぞれを変化させた。これに応じて、正極活物質100の圧縮密度(g/cm3 )も変更された。
【0199】
【表4】
【0200】
表4に示したように、粒子径D10=2.8μm~4.0μm、粒子径D50=11.8μm~14.4μmおよび粒子径D90=22.7μm~26.3μmという条件が満たされている場合(実験例1-1,2-1,2-2)には、それらの条件が満たされていない場合(実験例2-3,2-4)と比較して、高い容量維持率が得られた。
【0201】
特に、粒子径D10,D50,D90に関して上記した条件が満たされている場合には、圧縮密度が3.40g/cm3 ~3.60g/cm3 であると、高い容量維持率が得られた。
【0202】
(実験例3-1~3-8)
表5に示したように、体積基準の粒度分布におけるピークP1の粒子径(μm)およびピークP2の粒子径(μm)を変更したことを除いて同様の手順により、二次電池を作製したと共に電池特性(サイクル特性)を評価した。この場合には、表5に示したように、小粒径粒子および大粒径粒子を所定の混合比(重量比)で混合することにより、2つのピークP(P1,P2)を有する正極活物質100を得た。小粒径粒子および大粒径粒子のそれぞれの粒子径D50(μm)は、表5に示した通りである。これに応じて、正極活物質100の圧縮密度(g/cm3 )も変更された。
【0203】
【表5】
【0204】
表5に示したように、ピークP1の粒子径=3.0μm~7.0μmおよびピークP2の粒子径=14.0μm~30.0μmという条件が満たされている場合(実験例1-1,3-1~3-4)には、それらの条件が満たされていない場合(実験例3-5~3-8)と比較して、高い容量維持率が得られた。
【0205】
特に、ピークP1,P2のそれぞれの粒子径に関して上記した条件が満たされている場合には、圧縮密度が3.45g/cm3 ~3.70g/cm3 であると、高い容量維持率が得られた。
【0206】
<7.まとめ>
上記したように、中心部110(リチウムニッケル複合酸化物)および被覆部120(ホウ素化合物)を含む正極活物質100を用いた場合において、その正極活物質100の構成および物性に関して5つの条件が同時に満たされていると、その正極活物質100において優れたガス発生特性が得られた。よって、正極活物質100を用いた二次電池10では、初回容量特性、サイクル特性および膨れ特性(ガス発生特性)のいずれもが良好になったため、優れた電池特性が得られた。
【0207】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら本技術に関して説明したが、その本技術の態様は、一実施形態および実施例において説明された態様に限定されないため、種々に変形可能である。
【0208】
具体的には、本発明の二次電池がラミネートフィルム型の二次電池である場合に関して説明したが、その本発明の二次電池の型は、特に限定されない。具体的には、本発明の二次電池は、例えば、円筒型、角型またはコイン型などの他の型の二次電池でもよい。
【0209】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して他の効果が得られてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9