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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】分離膜及び分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/00 20060101AFI20220524BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20220524BHJP
   B01D 71/14 20060101ALI20220524BHJP
   B01D 71/22 20060101ALI20220524BHJP
   B01D 71/38 20060101ALI20220524BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20220524BHJP
   B01D 71/48 20060101ALI20220524BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20220524BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20220524BHJP
   B01D 71/58 20060101ALI20220524BHJP
   B01D 71/62 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
B01D69/00
B01D69/08
B01D71/14
B01D71/22
B01D71/38
B01D71/40
B01D71/48
B01D71/52
B01D71/56
B01D71/58
B01D71/62
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021503175
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048299
(87)【国際公開番号】W WO2021132399
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2019231580
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栄村 弘希
(72)【発明者】
【氏名】高田 皓一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 万里奈
(72)【発明者】
【氏名】花川 正行
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-111476(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021545(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/131209(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/182027(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/182028(WO,A1)
【文献】特開2017-213515(JP,A)
【文献】特開昭58-074327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
D01F 2/00 - 2/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステル及びポリアミドからなる群から選ばれる熱可塑性高分子を主成分Aとする分離膜であって、
前記分離膜の長手方向に垂直な断面において、前記分離膜の一方の表面から、前記分離膜の厚み方向に順に、等間隔に5分割した各領域を、領域1~5とし、
各領域で抽出された孔をすべての孔の総面積に対する孔面積比率で重みづけした平均孔径を各領域における面積平均孔径Dとし、
各領域で抽出された孔をすべての孔の個数に対する個数比率で重みづけした平均孔径を各領域における数平均孔径Dとし、
前記面積平均孔径Dより大きい孔径を有する孔を粗大孔とし、
前記数平均孔径Dより小さい孔径を有する孔を微細孔とし、
前記粗大孔同士の最近接距離の平均をLとして、
各前記粗大孔の中心から前記Lより小さい距離にある前記微細孔の個数平均Wを算出したとき、
前記領域1~5の全てにおいて、下記式で定義される数平均孔径変化率αが-0.25以上0.25以下であり、
前記領域1~5の少なくとも1つが、以下の(a)及び(b)の要件を満たす領域Pである分離膜。
(a)前記面積平均孔径D/前記数平均孔径Dが2.50以上6.00以下である。
(b)前記微細孔の個数平均Wが10個以上30個以下である。
(式)
α=(D-Di+1)/D
(D: 領域iの数平均孔径)
ただし、領域5における数平均孔径変化率は、下記式で定義される。
α=(D-D)/D
【請求項2】
前記領域Pにおいて、前記微細孔が占める面積比率が3%以上20%以下である請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記領域Pの(前記L-前記D)/前記Dが2.1以上7.5以下である請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項4】
前記領域Pにおいて、前記Lの変動係数が50%~0.1%である請求項1~3のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項5】
前記領域1~5のすべてが前記領域Pである請求項1~4のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項6】
前記領域Pにおいて、孔径が1600nm~3000nmである細孔の、全細孔に対する面積比率が50%以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項7】
前記領域Pにおいて、孔径が1600nm~3000nmである細孔の変動係数が40%以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項8】
前記主成分Aの含有量が、前記分離膜の全成分を100質量%としたときに、95質量%以上である請求項1~7のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項9】
前記分離膜が前記主成分A以外の親水性高分子を含み、X線光電子分析(ESCA)測定で算出される表面濃度において、前記主成分Aに対する前記親水性高分子の元素比率が15atomic%以上である請求項1~8のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項10】
セルロースエステル、セルロースエーテル、ポリアミド、ポリ脂肪酸ビニルエステル、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル及びこれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つを前記主成分A以外の成分として含む請求項1~9のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項11】
ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル及びこれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つを前記主成分A以外の成分として含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項12】
ポリビニルピロリドン及びポリビニルピロリドン成分を含む共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つを前記主成分A以外の成分として含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項13】
脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体を前記主成分A以外の成分として含む、請求項12に記載の分離膜。
【請求項14】
形状が中空糸状である、請求項1~13のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項15】
前記分離膜の長手方向に垂直な断面において、全断面積に対するマクロボイドが占める面積比率が10%以下である、請求項1~14のいずれか1項に記載の分離膜。
【請求項16】
下記(1)~(3)の工程を含む、主成分がセルロースエステルである分離膜の製造方法。
(1)15重量%以上40重量%以下のセルロースエステルと、40重量%以上84重量%以下の数平均分子量が200以上であり、主成分と相溶する副成分Bと、1重量%以上20重量%以下の数平均分子量が1000以上であるポリエチレングリコールを溶融混練することで樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程。
(2)前記樹脂組成物を吐出口金から吐出することで成形し、各成分が均一に分散している樹脂成形物を調製する成形工程。
(3)主成分に対する溶解度パラメータ距離Raが10以上かつ25以下の範囲の溶媒θに前記樹脂成形物を浸漬させる浸漬工程。
【請求項17】
前記浸漬工程における前記溶媒θが有機溶媒を含み、前記有機溶媒の主成分に対する溶解度パラメータ距離Raが4以上かつ12以下の範囲である請求項16に記載の分離膜の製造方法。
【請求項18】
熱処理工程を含む請求項16又は17に記載の分離膜の製造方法。
【請求項19】
下記(1)~(3)の工程を含む、主成分がポリアミドである分離膜の製造方法。
(1)15重量%以上40重量%以下のポリアミドと、40重量%以上84重量%以下の数平均分子量が200以上であり、主成分と相溶する副成分Bと、1重量%以上20重量%以下の数平均分子量が1000以上であるポリエチレングリコールを溶融混練することで樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程。
(2)前記樹脂組成物を吐出口金から吐出することで成形し、各成分が均一に分散している樹脂成形物を調製する成形工程。
(3)ハンセン溶解度パラメータのδが10以上の溶媒に前記樹脂成形物を浸漬させる浸漬工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜及び分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分離膜は、河川や海水、下廃水から濁質やイオンを取り除き、工業用水や飲料水を製造するための水処理用膜、人工腎臓や血漿分離等の医療用膜、果汁濃縮等の食品・飲料工業用膜、炭酸ガス等を分離するガス分離用膜等、幅広い分野で使用されている。
大部分の分離膜はポリマーを素材としている。その中でも、親水性樹脂であるセルロース系樹脂及びナイロン系樹脂からなる分離膜は、透過性能に優れる特徴を有する。セルロース系樹脂はさらに、塩素系の殺菌剤に強いという耐塩素性能を有することから水処理用膜をはじめとする分離膜として広く用いられている。また、ナイロン系樹脂は、耐溶剤性を有することから有機溶剤ろ過膜として、用いられている。
【0003】
分離膜においては、透過性能と分離性能が高いことが求められるが、透過性能と分離性能とはトレードオフの関係にある。そのため、透過性能と分離性能を同時に向上させることは難しく、様々な検討がなされてきた。
また、透過性能と分離性能だけでなく、モジュール化やろ過中に膜が物理的に破断し、欠点となることを防ぐために、膜強度が高いことも分離膜として重要である。膜中を占める細孔の割合を小さくする、すなわち、空隙率を下げることで、膜強度を高めることができるが、透過性能も同時に低下するため、透過性能と膜強度もトレードオフの関係にある。
【0004】
例えば、特許文献1では、表面や断面に溝及び空隙を有することで分離性能を維持しながら、セルロースエステル分離膜の透過性を高める技術が開示されている。
特許文献2は、樹脂組成物を溶媒中に浸漬して相分離させ、高空隙率でありながら、均一な構造を得ることで、高透過性と高強度を実現する技術が開示されている。
特許文献3では、分離膜中に孔径が異なる層を複数有する複合構造を、特許文献4、非特許文献1においては、一方の表面から膜表面に垂直な方向に孔径が漸次的に変化する傾斜構造をもうけることで透過性能と分離性能を両立した分離膜を得る技術が開示されている。
特許文献5では、熱と溶媒による相分離を組み合わせることで得られる二重相分離構造を有する分離膜に関する技術が開示されている。ここでの二重相分離構造とは、粗大孔と粗大孔を形成する骨格内に微細孔を有する構造である。
特許文献6では、水溶性塩粒子を分散させた溶液を相分離させ、相分離によって形成する微細孔と水溶性塩粒子が溶解除去することで形成する粗大孔を有する分離膜を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/159333号
【文献】国際公開第2018/182028号
【文献】日本国特開2019-111476号公報
【文献】日本国特開2002-306937号公報
【文献】日本国特開2017-213515号公報
【文献】日本国特開2014-237125号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ind.Eng.Chem.Res.2011,50,3798-3817.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、被処理液に含まれる成分の種類、濃度が高くなっているだけでなく、過酷な運転条件でろ過を行うため、分離膜の要求特性がさらに高まっている。従来の分離膜であっても、実液を長時間ろ過すると、ファウリングによる目詰まりや、膜破れが起こり、その透過性能及び除去性能が低下することが問題となっていた。
【0008】
特許文献1に記載の方法においては、空隙構造が小さく、透過性能が不十分である。
また、特許文献2に記載された分離膜は、均一な構造であるため、分離性能と膜強度は高いが、透過性能に課題がある。
特許文献3及び4に記載の分離膜では、分離性能を担う層や領域に微細孔が集中している。そのため、その部分での目詰まりが一旦起こると、急激に透水性が低下するため長時間ろ過が困難である。
特許文献5に記載の分離膜は、分画粒子径と表面孔径とが一致しており、内部の微細孔の透過性能への寄与が小さい。また、特許文献4及び5の方法で得られる膜は、傾斜構造であるため、膜強度は小さく、細径の中空糸膜を製造することが困難である。また、ナイロンを主成分とする場合、ナイロンは溶媒への溶解性が乏しく、第1凝固浴の温度を高温にする必要があるため、特許文献5に記載の製造方法を、ナイロンを主成分とする分離膜に適応することは困難である。
特許文献6は、水溶性塩粒子を用いるが、溶液中で粒子を均一に分散せず、均一な構造が得られないため、得られる膜強度として実用に耐え得るものではない。
【0009】
そこで本発明は、高い膜強度を有すると同時に高い透過性能と除去性能とを長時間維持可能である分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決のため鋭意検討を行った結果、粗大孔と微細孔を有し、粗大孔のまわりに一定数の微細孔が存在することが、高い膜強度を有すると同時に高い透過性能と除去性能とを長時間維持可能とするために重要であることを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明は、以下の[1]~[20]に関する。
[1]セルロースエステル及びポリアミドからなる群から選ばれる熱可塑性高分子を主成分Aとする分離膜であって、
前記分離膜の長手方向に垂直な断面において、前記分離膜の一方の表面から、前記分離膜の厚み方向に順に、等間隔に5分割した各領域を、領域1~5としたとき、
前記領域1~5の全てにおいて、数平均孔径変化率αが-0.25以上0.25以下であり、
前記領域1~5の少なくとも1つが、以下の(a)及び(b)の要件を満たす領域Pである分離膜。
(a)面積平均孔径D/数平均孔径Dが2.50以上6.00以下である。
(b)前記面積平均孔径Dより大きい孔径を有する孔を粗大孔とし、前記数平均孔径Dより小さい孔径を有する孔を微細孔とし、前記粗大孔同士の最近接距離の平均をLとしたときに、各前記粗大孔の中心から前記Lより小さい距離にある前記微細孔の個数平均Wが10個以上30個以下である。
[2]前記領域Pにおいて、前記微細孔が占める面積比率が3%以上20%以下である前記[1]に記載の分離膜。
[3]前記領域Pの(前記L-前記D)/前記Dが2.1以上7.5以下である前記[1]又は[2]に記載の分離膜。
[4]前記領域Pにおいて、前記Lの変動係数が50%~0.1%である前記[1]~[3]のいずれか1に記載の分離膜。
[5]前記領域1~5のすべてが前記領域Pである前記[1]~[4]のいずれか1に記載の分離膜。
[6]前記領域Pにおいて、孔径が1600nm~3000nmである細孔の、全細孔に対する面積比率が50%以上である前記[1]~[5]のいずれか1に記載の分離膜。
[7]前記領域Pにおいて、孔径が1600nm~3000nmである細孔の変動係数が40%以下である前記[1]~[6]のいずれか1に記載の分離膜。
[8]前記主成分Aの含有量が、前記分離膜の全成分を100質量%としたときに、95質量%以上である前記[1]~[7]のいずれか1に記載の分離膜。
[9]前記分離膜が前記主成分A以外の親水性高分子を含み、X線光電子分析(ESCA)測定で算出される表面濃度において、前記主成分Aに対する前記親水性高分子の元素比率が15atomic%以上である前記[1]~[8]のいずれか1に記載の分離膜。
[10]セルロースエステル、セルロースエーテル、ポリアミド、ポリ脂肪酸ビニルエステル、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル及びこれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つを前記主成分A以外の成分として含む前記[1]~[9]のいずれか1に記載の分離膜。
[11]ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル及びこれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つを前記主成分A以外の成分として含む、前記[1]~[10]のいずれか1に記載の分離膜。
[12]ポリビニルピロリドン及びポリビニルピロリドン成分を含む共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つを前記主成分A以外の成分として含む、前記[1]~[10]のいずれか1に記載の分離膜。
[13]脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体を前記主成分A以外の成分として含む、前記[12]に記載の分離膜。
[14]形状が中空糸状である、前記[1]~[13]のいずれか1に記載の分離膜。
[15]前記分離膜の長手方向に垂直な断面において、全断面積に対するマクロボイドが占める面積比率が10%以下である、前記[1]~[14]のいずれか1に記載の分離膜。
[16]下記(1)~(3)の工程を含む、主成分がセルロースエステルである分離膜の製造方法。
(1)15重量%以上40重量%以下のセルロースエステルと、40重量%以上84重量%以下の数平均分子量が200以上であり、主成分と相溶する副成分Bと、1重量%以上20重量%以下の主成分と非相溶である副成分Cを溶融混練することで樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程。
(2)前記樹脂組成物を吐出口金から吐出することで成形し、各成分が均一に分散している樹脂成形物を調製する成形工程。
(3)主成分に対する溶解度パラメータ距離Raが10以上かつ25以下の範囲の溶媒θに前記樹脂成形物を浸漬させる浸漬工程。
[17]前記浸漬工程における前記溶媒θが有機溶媒を含み、前記有機溶媒の主成分に対する溶解度パラメータ距離Raが4以上かつ12以下の範囲である前記[16]に記載の分離膜の製造方法。
[18]熱処理工程を含む前記[16]又は[17]に記載の分離膜の製造方法。
[19]下記(1)~(3)の工程を含む、主成分がポリアミドである分離膜の製造方法。
(1)15重量%以上40重量%以下のポリアミドと、40重量%以上84重量%以下の数平均分子量が200以上であり、主成分と相溶する副成分Bと、1重量%以上20重量%以下の主成分と非相溶である副成分Cを溶融混練することで樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程。
(2)前記樹脂組成物を吐出口金から吐出することで成形し、各成分が均一に分散している樹脂成形物を調製する成形工程。
(3)ハンセン溶解度パラメータのδが10以上の溶媒に前記樹脂成形物を浸漬させる浸漬工程。
[20]数平均分子量が1000以上であるポリエチレングリコールを副成分Cとして用いる前記[16]~[19]のいずれか1に記載の分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い膜強度を有すると同時に高い透過性能と除去性能とを長時間維持可能である分離膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、横軸に解析画像における輝度を示し、縦軸に該当する輝度におけるピクセル個数を示す、ピクセル個数の分布を示す概略図である。
図2図2は、ある膜の二つの領域X及びYを示す図である。
図3図3は、粗大孔からLより小さい距離にある微細孔の個数の算出方法の概略図である。
図4図4は、実施例1の断面中央のSEM画像である。
図5図5は、図4を2値化した画像から粗大孔と微細孔を抽出した画像である。
図6図6は、比較例4の断面中央のSEM画像である。
図7図7は、比較例8の断面中央のSEM画像である。
図8図8は、実施例1の領域3における、孔径に対する面積比率のヒストグラムである。
図9図9は、比較例3の領域3における、孔径に対する面積比率のヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。本明細書において、質量基準の割合(百分率、部など)は、重量基準の割合(百分率、部など)と同じである。
【0015】
本発明の分離膜は、セルロースエステル及びポリアミドからなる群から選ばれる熱可塑性高分子を主成分Aとする分離膜であって、前記分離膜の長手方向に垂直な断面において、前記分離膜の一方の表面から、前記分離膜の厚み方向に順に、等間隔に5分割した各領域を、領域1~5としたとき、領域1~5の全てにおいて、数平均孔径変化率αが-0.25以上0.25以下であり、前記領域1~5の少なくとも1つが、以下の(a)及び(b)の要件を満たす領域Pである。
(a)面積平均孔径D/数平均孔径Dが2.50以上6.00以下である。
(b)前記面積平均孔径Dより大きい孔径を有する孔を粗大孔とし、前記数平均孔径Dより小さい孔径を有する孔を微細孔とし、前記粗大孔同士の最近接距離の平均をLとしたときに、各前記粗大孔の中心から前記Lより小さい距離にある前記微細孔の個数平均Wが10個以上30個以下である。
【0016】
(分離膜の原料となる樹脂組成物)
本発明の分離膜は、セルロースエステル及びポリアミドからなる群から選ばれる主成分Aを含む。ここで「主成分」とは、分離膜の全成分中において、質量基準で最も多く含有される成分をいう。
【0017】
本発明の分離膜は、例えば、原料となる樹脂組成物を吐出口金から吐出して形成することができる。上記の樹脂組成物は、下記(1)に記載の主成分Aを含む。樹脂組成物はさらに、(2)に記載の副成分B、(3)に記載の副成分C及び/又は(4)に記載の添加剤を含んでいても構わない。
【0018】
(1)主成分A
本発明の分離膜が含有する主成分Aは、セルロースエステル及びポリアミドからなる群から選ばれる熱可塑性高分子である。主成分Aは、被処理液が水である場合には、セルロースエステル、ポリアミドのいずれも好ましく、より親水性が高いセルロースエステルが特に好ましい。一方で、被処理液が有機溶媒である場合には、ポリアミドが好ましい。
【0019】
セルロースエステルとしては、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等のセルロースエステル、セルロースアセテートプロピオネート又はセルロースアセテートブチレート等が挙げられる。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、MXDナイロン又はナイロン12等が挙げられる。
【0020】
セルロースエステルについては、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定により算出されるセルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は、5万~25万であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)が5万以上であることで、分離膜の製造時にセルロースエステルを溶融する際の熱分解が抑制され、かつ、分離膜の膜強度が十分なものとなる。一方で、重量平均分子量(Mw)が25万以下であることで、溶融粘度が過度に高くならず、安定した溶融製膜が可能となる。
【0021】
ポリアミドについては、相対粘度が2.00以上7.00以下であることが好ましく、2.50以上6.50以下であることが好ましい。相対粘度が2以上であることで、膜の膜強度が十分なものとなる。一方で、相対粘度が7.00以下であることで、溶融粘度が過度に高くならず、安定した溶融製膜が可能となる。
【0022】
本発明の分離膜の主成分Aの含有量は、分離膜の全成分を100質量%としたときに、十分なものとするため、90質量%~100質量%であることが好ましく、95質量%~100質量%がさらに好ましく、98質量%~100質量%が特に好ましい。
【0023】
(2)副成分B
本発明の分離膜は副成分Bを含有してもよい。副成分Bは、数平均分子量が200以上の主成分と相溶する化合物であり、全成分を100質量%としたときに、主成分Aとその化合物の含有量をそれぞれ80質量%、20質量%となるように溶融混練し、急冷した樹脂組成物が以下1、2の条件を満たす化合物が好ましい。
1.樹脂組成物の示差走査熱量測定の昇温過程において、ガラス転移点が1つだけである。
2.樹脂組成物の示差走査熱量測定の昇温過程において、化合物由来の結晶融解ピークが観察されない。
上記条件を満たすことで、主成分Aと後述の副成分Cとが存在する条件下においても、樹脂成形物が均一な状態になりやすくなり、得られる分離膜が良好な透過性能と分離性能を発現しやすい。
【0024】
溶融混練の温度は、主成分の融点+20℃またはガラス転移温度+20℃の高い方の温度が好ましい。副成分Bは個々の化合物が主成分と相溶するのであれば、複数の化合物を用いてもよい。
【0025】
副成分Bは、親水性高分子(ただし、主成分A以外の親水性高分子)であることが好ましい。親水性高分子であることで、分離膜中に残存した際にファウリングを抑制することができる。「親水性高分子」とは、親水基を有する高分子であって、かつ、その高分子からなる皮膜との水との接触角が、60°以下であるものをいう。ここで「親水基」とは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、ピロリドン基又はアミド基等をいう。
親水性高分子としては、例えば、ポリエステル、ポリアミドや、ポリアクリル酸メチル等のポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ脂肪酸ビニルエステル、ポリビニルピロリドン、セルロースエステル、セルロースエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド又はそれらの共重合体等が挙げられ、セルロースエステル、セルロースエーテル、ポリアミド、ポリ脂肪酸ビニルエステル、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル及びこれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つが好ましい。親水性高分子としては、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル及びこれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つがより好ましい。又は、親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン及びポリビニルピロリドン成分を含む共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つがより好ましい。ポリビニルピロリドン及びポリビニルピロリドン成分を含む共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つとしては、ポリビニルピロリドン又は脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体がさらに好ましく、脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体がよりさらに好ましい。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6又はナイロン11等が挙げられる。セルロースエステルとしては、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート若しくはセルロースブチレート等のセルロースエステル、セルロースアセテートプロピオネート又はセルロースアセテートブチレート等が挙げられる。
【0026】
主成分Aがセルロースアセテートプロピオネートの場合、副成分Bとしては、ポリビニルピロリドン及びポリビニルピロリドン成分を含む共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つが好ましく、ポリビニルピロリドン又は脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体がより好ましく、脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとのランダム共重合体がさらに好ましい。上記化合物を用いることで良好な透過性能を発現する。
【0027】
主成分Aがポリアミドの場合、副成分Bとしては、ポリビニルピロリドン、脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体、ポリビニルアルコールが好ましく、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールが特に好ましい。
【0028】
上記化合物を副成分Bとすることにより、樹脂組成物を均一にすることができる。また、製造工程における加工性を高めるために、数平均分子量1000未満のポリエチレングリコールを副成分B中に含むことが好ましい。この場合のポリエチレングリコールの数平均分子量は200以上1000未満がより好ましく、400以上1000未満が特に好ましい。
【0029】
GPC測定により算出される副成分Bの重量平均分子量(Mw)は、600~5万が好ましく、1000~5万がより好ましく、5000~5万であることが特に好ましい。重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であることで、後述する浸漬工程の溶出が抑制され、かつ、分離膜の膜強度が十分なものとなる。一方で、重量平均分子量(Mw)が5万以下であることで、溶融粘度が過度に高くならず、安定した溶融製膜が可能となる。
【0030】
GPC測定により算出される副成分Bの数平均分子量(Mn)は、600~5万が好ましく、1000~5万がより好ましく、5000~5万であることが特に好ましい。数平均分子量(Mn)が上記範囲内であることで、後述する浸漬工程の溶出が抑制され、かつ、分離膜の膜強度が十分なものとなる。一方で、数平均分子量(Mn)が5万以下であることで、溶融粘度が過度に高くならず、安定した溶融製膜が可能となる。
【0031】
本発明の分離膜は、膜強度を維持するため、全成分に対する副成分Bの比率は、10~0質量%であることが好ましく、5~0質量%がより好ましい。主成分Aに対する副成分Bの比率は、IR測定で求めることができる。
【0032】
(3)副成分C
本発明の分離膜は副成分Cを含有してもよい。副成分Cは、主成分と非相溶である親水性高分子(ただし、主成分A以外の親水性高分子)であり、副成分Cは、全成分を100質量%としたときに、主成分Aとその化合物の含有量をそれぞれ80質量%、20質量%となるように溶融混練し、急冷した樹脂組成物が以下1、2のいずれかの条件を満たす化合物であることが好ましい。
1.樹脂組成物の示差走査熱量測定の昇温過程において、ガラス転移点が2つ以上である。
2.樹脂組成物の示差走査熱量測定の昇温過程において、化合物由来の結晶融解ピークが観察される。
また、副成分Cは個々の化合物が主成分と非相溶であれば、複数の化合物を用いてもよい。
【0033】
本発明において、良好な加工性を発現すために、副成分Cは副成分Bと相溶することが好ましい。ここで、副成分Bと相溶する副成分Cとは、全成分を100質量%としたときに、副成分Bと副成分Cの含有量をそれぞれ80質量%、20質量%となるように溶融混練し、急冷した樹脂組成物が以下1、2のいずれかの条件を満たす化合物である。
1.樹脂組成物の示差走査熱量測定の昇温過程において、ガラス転移点が1つだけである。
2.樹脂組成物の示差走査熱量測定の昇温過程において、化合物由来の結晶融解ピークが観察されない。
【0034】
副成分Cとして使用できる親水性高分子として、具体的には副成分Bでの親水性高分子として例示した親水性高分子やポリエチレングリコール等が挙げられる。副成分Cとしてはポリエチレングリコールが好ましく、その数平均分子量は主成分に合わせて適宜選択すればよいが、例えば600以上が好ましく、1000以上がより好ましい。
【0035】
主成分がセルロースアセテートプロピオネートの場合、副成分Cとしては、数平均分子量が2000以上であるポリエチレングリコールが好ましく、数平均分子量が2000以上9000以下であるポリエチレングリコールがより好ましく、数平均分子量が3000以上9000以下であるポリエチレングリコールがさらに好ましく、3000以上6000以下であるポリエチレングリコールが特に好ましい。上記範囲内よりポリエチレングリコールの数平均分子量が小さいと、セルロースエステルとの相溶性が高くなりすぎるため、得られる分離膜の透過性能が低下しやすい。上記範囲内よりポリエチレングリコールの数平均分子量が高いと、樹脂成形物を相溶させることが困難となりやすく、得られる分離膜の分離性能が低下しやすい。
【0036】
主成分がポリアミドの場合、副成分Cとしては、数平均分子量が600以上であるポリエチレングリコールが好ましい。ポリエチレングリコールの数平均分子量は3000以下であることが好ましく、2000以下がさらに好ましい。副成分Cとしては、数平均分子量が600以上1000以下であるポリエチレングリコールが特に好ましい。上記化合物を副成分Cとすることにより、樹脂組成物を均一にすることができ、形状が均一な分離膜を得ることができる。上記範囲内よりポリエチレングリコールの数平均分子量が小さいと、ポリアミドとの相溶性が高くなりすぎるため、得られる分離膜の透過性能が低下しやすい。上記範囲内よりポリエチレングリコールの数平均分子量が高いと、樹脂成形物を相溶させることが困難となりやすく、得られる分離膜の分離性能が低下しやすい。
【0037】
分離膜の膜強度を維持するため、全成分に対する副成分Cの比率は、10~0質量%であることが好ましく、5~0質量%であることがより好ましい。主成分Aに対する副成分Cの比率は、IR測定で求めることができる。
【0038】
(4)添加剤
本発明の分離膜を構成する樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、主成分A、副成分B、及び副成分C以外の添加剤を含有していても構わない。
添加剤としては、例えば、セルロースエーテル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ポリビニル化合物、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスルホン若しくはポリエーテルスルホン等の樹脂、有機滑剤、結晶核剤、有機粒子、無機粒子、末端封鎖剤、鎖延長剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、着色防止剤、艶消し剤、抗菌剤、制電剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、抗酸化剤、イオン交換剤、消泡剤、着色顔料、蛍光増白剤又は染料等が挙げられる。
【0039】
(分離膜の形状)
本発明の分離膜の形状は特に限定されないが、中空を有する糸状、すなわち中空糸状の形状を有する分離膜(以下、「中空糸膜」)、又は、平面状の形状を有する分離膜(以下、「平膜」)が好ましい。中でも、中空糸膜はモジュールに高効率に充填可能であり、モジュールの単位体積当たりの有効膜面積を大きくできるため、より好ましい。
【0040】
分離膜の厚みは、透過性能と膜強度とを両立させる観点から、10~500μmであることが好ましく、30~200μmであることがさらに好ましく、30~150μmがより好ましく、50~100μmが特に好ましい。
【0041】
また分離膜が中空糸膜である場合、モジュールに充填した際の有効膜面積と、膜強度を両立させる観点から、中空糸膜の外径が50~2500μmであることが好ましく、100~1500μmであることがより好ましく、200~1000μmであることがさらに好ましく、300~600μmであることが特に好ましい。
【0042】
また分離膜が中空糸膜である場合、中空部を流れる流体の圧損と、座屈圧との関係から、中空糸膜の中空率が15~70%であることが好ましく、20~65%であることがより好ましく、25~60%であることがさらに好ましい。
中空糸の外径や中空率を上記範囲に調整する方法として、例えば、中空糸膜を製造する際の吐出口金の孔の形状、又は、巻取速度/吐出速度で表されるドラフト比の変更が挙げられる。
【0043】
(断面膜構造)
本発明の分離膜は、セルロースエステル、ポリアミドから選ばれる熱可塑性高分子を主成分Aとする分離膜であって、
前記分離膜の長手方向に垂直な断面において、前記分離膜の一方の表面から、前記分離膜の厚み方向に順に、等間隔に5分割した各領域を、領域1~5としたとき、領域1~5の全てにおいて、数平均孔径変化率αが-0.25以上0.25以下を満たし、前記領域1~5の少なくとも1つが、以下の2つの要件を満たす領域Pである。
(a)面積平均孔径D/数平均孔径Dが2.50以上6.00以下である。
(b)前記面積平均孔径より大きい孔径を有する孔である粗大孔同士の最近接距離の平均をLとしたときに、各粗大孔の中心からLより小さい距離にある前記数平均孔径より小さい孔径を有する孔である微細孔の個数平均Wが10個以上35個以下である。
ここでの膜の厚み方向とは、平膜の場合、表面に対して、垂直な方向であり、中空糸膜の場合、長手方向に垂直な方向である。
【0044】
面積平均孔径D、数平均孔径D、数平均孔径変化率αの算出のためには、分離膜中の各孔の孔径を算出する必要がある。
分離膜中の各孔の孔径の算出方法としては、まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、倍率5000倍で、分離膜の長手方向に垂直な断面を観察する。平膜の場合は、長手方向に垂直な断面とは、膜表面に対して垂直な断面である。
【0045】
分離膜の一方の表面から、分離膜の厚み方向に順に、等間隔に5分割した各領域1~5を設定する。中空糸の場合、外表面側の領域を領域1と設定する。平膜の場合は、二つの表面のうち、後述する数平均孔径が小さい領域を領域1と設定する。設定した各領域のそれぞれにおいて、(膜厚/5)μm×(膜厚/5)μm正方形の顕微鏡画像を取得し、その画像中に含まれるすべての孔の孔径を算出する。膜厚が50μm以下の場合は、膜厚方向の1辺が(膜厚/5)μm、膜厚方向に垂直な方向の1辺を20μmとする長方形の顕微鏡画像を取得し、その画像中に含まれるすべての孔の孔径を算出する。膜の表面に接する領域1及び5については、顕微鏡視野の1辺が膜表面となるようにする。領域2~4については、各領域の中心を顕微鏡視野の中心とし、顕微鏡観察を行う。孔の抽出は、画像解析ソフト「ImageJ」において、解析画像を二値化した後に行う。横軸に解析画像における輝度を示し、縦軸に該当する輝度におけるピクセル個数を示す、ピクセル個数の分布を図1に示す。2値化の閾値はピクセル個数の最大点と輝度が最大点に最も近い極大点の間にある極小点を閾値として、閾値より輝度が小さい部分を細孔として粒子解析により孔の面積を求める。極大点が2個未満の場合は、最大点の輝度が小さくなる側のショルダーピークの途中の変曲点を閾値とする。さらに、得られた二値化した画像に対し、全ピクセルをそのピクセルの近傍3×3ピクセルの中央値に置き換えるノイズ除去(ImageJにおけるDespeckleに相当)を10回行った画像を解析画像として用いる。孔の抽出は、ImageJのAnalyze Particlesコマンドにより抽出する。各孔の孔径dは、孔の面積を画像処理により測定し、同面積の真円の孔を仮定して、下記式(1)より算出する。
【0046】
【数1】
【0047】
各領域における面積平均孔径とは、各領域で抽出された孔をすべての孔の総面積に対する孔面積比率を重みづけした平均孔径である。すなわち、下記式(2)より算出する。
【0048】
【数2】
【0049】
各領域における数平均孔径とは、各領域で抽出された孔をすべての孔の個数に対する個数比率を重みづけした平均孔径であり、dの算術平均である。すなわち、下記式(3)より算出する。
【0050】
【数3】
【0051】
一般に、面積平均孔径の値は、数平均孔径と同等またはそれ以上となる。例えば、図2中のある膜の領域Xの面積平均孔径(186nm)が数平均孔径(117nm)よりも大きいのに対して、領域Yの面積平均孔径、数平均孔径は、どちらも100nmである。これは、面積は孔径の2乗に比例するため、相対的に大きな孔の面積比率は個数比率よりも大きくなり、面積平均孔径の値をより大きくしやすいためである。領域Yのようにすべての孔のサイズが同一の場合、面積比率と個数比率が一致する。そのため、発明者らは、面積平均孔径/数平均孔径は孔径分布の幅を表す指標であり、面積平均孔径/数平均孔径が1に近いほど、孔径分布が狭く、1より大きいほど、領域内に孔径の異なる様々な孔が存在することを表していると考えている。これは、重量平均分子量/数平均分子量が高分子の分子量分布の広がりの指標となる考え方に類似している。本明細書においては、Dより孔径が大きい孔を粗大孔、Dより孔径が小さい孔を微細孔とする。
【0052】
数平均孔径変化率αは、下記式で定義される。
α=(D-Di+1)/D
(D: 領域iの数平均孔径)
ただし、領域5における数平均孔径変化率は、下記式で定義される。
α=(D-D)/D
【0053】
前記粗大孔同士の最近接距離の平均Lは、孔径を算出する際に2値化された解析画像より算出される。微細孔前記粗大孔同士の最近接距離の平均Lは、ある領域において、前記粗大孔がn個あった場合、それぞれの孔について、残りの粗大孔との距離の最小値l~lを求めた際の、l~lの算術平均である。ここで、2つの孔の距離は、孔の面積中心間を結ぶ直線の距離である。また、各粗大孔の中心からLより小さい距離にある前記数平均孔径より小さい孔径を有する孔である微細孔の個数平均Wも、孔径を算出する際に2値化された解析画像より算出される。そのため、粗大孔Zの内側に存在する微細孔は、Wの算出に用いる微細孔の個数には含まない。粗大孔のそれぞれに対して、その孔中心からLより小さい距離にある前記微細孔の個数平均Wとは、前記粗大孔がn個あった場合、それぞれの孔について、その孔中心からLより小さい距離にある前記微細孔の個数w~wを求めた際の、w~wの算術平均Wである。
【0054】
図3に、ある粗大孔Zの中心からLより小さい距離にある微細孔の個数の算出方法の概略を示す。粗大孔ZからLより小さい距離にある微細孔は、粗大孔Zの中心を中心とする半径Lの円の中に含まれる。図3の場合、粗大孔Zの中心からLより小さい距離にある微細孔の個数は8個となる。Wが大きいほど、粗大孔の周りに微細孔が多く存在することを表している。図4は、本発明の分離膜の断面SEM画像であり、そのSEM画像を上記の方法で2値化し、粗大孔1と微細孔2を抽出した画像が図5である。各孔の面積中心は、SEM画像をImageJのAnalyze Particlesコマンドで解析することで、画像中における位置座標として得られる。その位置座標を用いることで、各孔の距離を求めることができる。前記個数平均Wが高いほど、粗大孔の周辺に微細孔が多く存在していることを表している。本発明者らは、粗大孔の周りに微細孔が一定量存在することで、粗大孔を透過する被処理水が微細孔にも透過するため、透過性能と分離性能を両立することができると考えている。
【0055】
本発明の分離膜は、前記領域1~5全てにおいて、数平均孔径変化率αが-0.25以上0.25以下である。数平均孔径変化率は、厚み方向の孔径の変化率を表しており、数平均孔径変化率αの絶対値が大きいほど、膜構造が傾斜構造となり、小さいほど、均一構造となる。数平均孔径変化率αが上記範囲内であることで良好な膜強度を発現することができる。高い膜強度の発現のために、領域1~5において、数平均孔径変化率αが-0.15以上を満たす領域を有することが好ましく、-0.10以上がより好ましい。また、領域1~5において、数平均孔径変化率αが0.15以下を満たす領域を有することが好ましく、0.10以下がより好ましい。
【0056】
本発明の分離膜は、前記領域1~5の少なくとも1つが、以下の(a)及び(b)の要件を満たす領域Pである。
(a)面積平均孔径D/数平均孔径Dが2.50以上6.00以下である。
(b)前記面積平均孔径より大きい孔径を有する孔である粗大孔同士の最近接距離の平均をLとしたときに、各粗大孔の中心からLより小さい距離にある前記数平均孔径より小さい孔径を有する孔である微細孔の個数平均Wが10個以上35個以下である。
【0057】
領域Pは、(a)を満たすことで、領域P中において、透過性能を高める粗大孔が多く存在する。一方で、領域Pは、(b)を満たすことで、領域P中において、粗大孔の周辺に分離性能を高める微細孔が多く存在している。領域Pを有することで、高い透過性能と分離性能を両立することができる。本発明者らは、分離膜が領域Pを有することで、被処理水が粗大孔と微細孔にも透過するため、透過性能と分離性能を両立することができると考えている。本発明の分離膜は、透過性能と分離性能を両立するために、前記領域1~5の複数の領域が領域Pであることが好ましく、2個以上の領域が領域Pであることが好ましく、3個以上がより好ましく、4個以上がさらに好ましく、領域1~5のすべてが領域Pであることが特に好ましい。
【0058】
本発明の分離膜の領域Pにおいて、面積平均孔径D/数平均孔径Dは2.50~6.00であり、3.00~6.00であることがより好ましい。面積平均孔径D/数平均孔径Dが上記範囲を満たすことで、良好な透過性能と分離性能を発現する。面積平均孔径D/数平均孔径Dが上記範囲より高くなると、被処理水が粗大孔のみを透過することで分離性能が低下する可能性がある。また、面積平均孔径D/数平均孔径Dが上記範囲より小さくなると、透過性能が低下する可能性がある。
【0059】
本発明の分離膜の領域Pにおいて、前記個数平均Wが10個~35個であることが好ましく、10個~30個がより好ましく、10個~25個がさらに好ましく、10個~20個が特に好ましい。Wが上記範囲を満たすことで、良好な透過性能と分離性能を発現する。Wが上記範囲内より大きくなると、透過性能が低下する可能性がある。
【0060】
本発明の分離膜は、領域1~5の中で領域P以外の領域において、面積平均孔径D/数平均孔径Dが2.00~20.00であることが好ましく、2.50~10.00であることがより好ましく、2.50~6.00であることがさらに好ましく、3.00~6.00であることが特に好ましい。上記範囲を満たすことで、良好な透過性能と分離性能を発現する。面積平均孔径D/数平均孔径Dが上記範囲より高くなると、被処理水が粗大孔のみ透過することで分離性能が低下する可能性がある。また、面積平均孔径D/数平均孔径Dが上記範囲より小さくなると、透過性能が低下する可能性がある。良好な透過性能と分離性能を発現するために、面積平均孔径D/数平均孔径Dが上記範囲内である領域が複数あることが好ましい。
【0061】
本発明の分離膜は、領域1~5の中で領域P以外の領域において、前記個数平均Wが8個~50個であることが好ましく、10個~40個がより好ましく、10個~35個がさらに好ましく、10個~30個がよりさらに好ましく、11個~25個が特に好ましく、12個~20個がさらに特に好ましい。上記範囲を満たすことで、良好な透過性能と分離性能を発現する。Wが上記範囲内より大きくなると、透過性能が低下する可能性がある。また、Wが上記範囲内より小さくなると、分離性能が低下する可能性がある。良好な透過性能と分離性能を発現するために、前記個数平均Wが上記好ましい範囲内である領域が複数あることが好ましい。
【0062】
本発明の分離膜は、前記領域1~5すべてにおいて、面積平均孔径D/数平均孔径Dが2.00~20.00であることが好ましく、2.50~10.00であることがより好ましく、3.00~6.00であることがさらに好ましい。上記範囲を満たすことで、良好な透過性能と分離性能を発現する。面積平均孔径D/数平均孔径Dが上記範囲より高くなると、被処理水が粗大孔のみ透過することで分離性能が低下する可能性がある。また、面積平均孔径D/数平均孔径Dが上記範囲より小さくなると、透過性能が低下する可能性がある。
【0063】
本発明の分離膜は、前記領域1~5の面積平均孔径D/数平均孔径Dの平均が2.00~20.00であることが好ましく、2.50~10.00であることがより好ましく、3.00~6.00であることがさらに好ましい。領域1~5の面積平均孔径D/数平均孔径Dの平均が上記範囲を満たすことで、良好な透過性能と分離性能を発現する。面積平均孔径D/数平均孔径Dが上記範囲より高くなると、被処理水が粗大孔のみ透過することで分離性能が低下する可能性がある。また、面積平均孔径D/数平均孔径Dが上記範囲より小さくなると、透過性能が低下する可能性がある。
【0064】
本発明の分離膜は、領域Pにおいて、粗大孔同士の最近接距離の平均Lの変動係数が50%~0.1%であることが好ましく、40%~0.1%であることがより好ましく、30%~0.1%であることがさらに好ましく、28%~0.1%であることがよりさらに好ましく、20%~0.1%であることが特に好ましい。粗大孔同士の最近接距離の平均Lの変動係数は、粗大孔の分散度合を表していると考えられる。すなわち、上記変動係数が小さいほど、粗大孔は分離膜中に均一に存在していると考えられる。Lの変動係数が上記範囲を満たすことで、高い分離性能を発揮することができる。
【0065】
本発明の分離膜は、領域1~5の中で領域P以外の領域において、粗大孔同士の最近接距離の平均Lの変動係数が50%~0.1%であることが好ましく、40%~0.1%であることがより好ましく、30%~0.1%であることがさらに好ましく、28%~0.1%であることがよりさらに好ましく、20%~0.1%であることが特に好ましい。Lの変動係数が上記範囲を満たすことで、高い分離性能を発揮することができる。
【0066】
本発明の分離膜は、前記領域1~5のすべてにおいて、粗大孔同士の最近接距離の平均Lの変動係数が50%~0.1%であることが好ましく、40%~0.1%であることがより好ましく、30%~0.1%であることがさらに好ましく、28%~0.1%であることがよりさらに好ましく、20%~0.1%であることが特に好ましい。Lの変動係数が上記範囲を満たすことで、高い分離性能を発揮することができる。
【0067】
本発明の分離膜は、前記領域1~5の粗大孔同士の最近接距離の平均Lの変動係数の平均が50%~0.1%であることが好ましく、40%~0.1%であることがより好ましく、30%~0.1%であることがさらに好ましく、28%~0.1%であることがよりさらに好ましく、20%~0.1%であることが特に好ましい。領域1~5のLの変動係数の平均が上記範囲を満たすことで、高い分離性能を発揮することができる。
【0068】
本発明の分離膜は、前記領域1~5すべてにおいて、前記個数平均Wが8個~50個であることが好ましく、10個~40個がより好ましく、10個~35個がさらに好ましく、10個~30個がよりさらに好ましく、11個~25個が特に好ましく、12個~20個がさらに特に好ましい。Wが上記範囲を満たすことで、良好な透過性能と分離性能を発現できる。Wが上記範囲内より高くなると、透過性能が低下する可能性がある。また、Wが上記範囲内より小さくなると、分離性能が低下する可能性がある。
【0069】
本発明の分離膜は、前記領域1~5の前記個数平均Wの平均が8個~50個であることが好ましく、10個~40個がより好ましく、10個~35個がさらに好ましく、10個~30個がよりさらに好ましく、11個~25個が特に好ましく、12個~20個がさらに特に好ましい。領域1~5のWの平均が上記範囲を満たすことで、良好な透過性能と分離性能を発現する。Wが上記範囲内より高くなると、透過性能が低下する可能性がある。また、Wが上記範囲内より小さくなると、分離性能が低下する可能性がある。
【0070】
本発明の分離膜の領域Pにおいて、微細孔が占める面積比率が3~20%であることが好ましく、5~13%であることがより好ましく、8~13%であることがさらに好ましい。ここでの微細孔とは、数平均孔径Dより小さい孔径を有する孔である。前記微細孔が占める面積比率が上記範囲内であることで、良好な透過性能と分離性能を発現することができる。前記微細孔が占める面積比率が上記範囲内より高くなると、被処理液が過度に小さい孔に流れ、ろ過抵抗が高くなる可能性がある。前記微細孔が占める面積比率が上記範囲内より小さくなると、被処理液が粗大孔のみを透過し、分離性能が低下する可能性がある。
【0071】
本発明の分離膜は、領域1~5の中で領域P以外の領域において、微細孔が占める面積比率が3~20%であることが好ましく、5~13%であることがより好ましく、8~13%であることがさらに好ましい。前記微細孔が占める面積比率が上記範囲内であることで、良好な透過性能と分離性能を発現することができる。前記微細孔が占める面積比率が上記範囲内より高くなると、被処理液が過度に小さい孔に流れ、ろ過抵抗が高くなる可能性がある。前記微細孔が占める面積比率が上記範囲内より小さくなると、被処理液が粗大孔のみを透過し、分離性能が低下する可能性がある。また、良好な透過性能と分離性能を発現するために、微細孔が占める面積比率が上記範囲内である領域が複数あることが好ましい。
【0072】
本発明の分離膜は、前記領域1~5すべてにおいて、微細孔が占める面積比率が3~20%であることが好ましく、5~13%であることがより好ましく、8~13%であることがさらに好ましい。前記微細孔が占める面積比率が上記範囲内であることで、良好な透過性能と分離性能を発現することができる。前記微細孔が占める面積比率が上記範囲内より高くなると、被処理液が過度に小さい孔に流れ、ろ過抵抗が高くなる可能性がある。前記微細孔が占める面積比率が上記範囲内より小さくなると、被処理液が粗大孔のみを透過し、分離性能が低下する可能性がある。
【0073】
本発明の分離膜は、前記領域1~5の微細孔が占める面積比率の平均が3~20%であることが好ましく、5~13%であることがより好ましく、8~13%であることがさらに好ましい。領域1~5の微細孔が占める面積比率の平均が上記範囲内であることで、良好な透過性能と分離性能を発現することができる。前記微細孔が占める面積比率が上記範囲内より高くなると、被処理液が過度に小さい孔に流れ、ろ過抵抗が高くなる可能性がある。前記微細孔が占める面積比率が上記範囲内より小さくなると、被処理液が粗大孔のみを透過し、分離性能が低下する可能性がある。
【0074】
本発明の分離膜の領域Pにおいて、(粗大孔同士の最近接距離の平均L-面積平均孔径D)/数平均孔径Dが2.1以上7.5以下であることが好ましく、2.5以上7.0以下がより好ましく、2.5以上6.5以下がさらに好ましく、2.5以上5.5以下がよりさらに好ましく、3.0以上5.0以下が特に好ましい。この数値は、近接する2つの粗大孔の間にある微細孔の個数の指標である。(L-D)/Dが上記範囲内であることで、良好な透過性能と分離性能を発現することができる。この数値が上記範囲内より高くなると、被処理液が過度に小さい孔に流れ、ろ過抵抗が高くなる可能性がある。この数値が上記範囲内より小さくなると、被処理液が粗大孔のみを透過し、分離性能が低下する可能性がある。
【0075】
本発明の分離膜は、領域1~5の中で領域P以外の領域において、(粗大孔同士の最近接距離の平均L-面積平均孔径D)/数平均孔径Dが2.1以上7.5以下であることが好ましく、2.5以上7.0以下がより好ましく、2.5以上6.5以下がさらに好ましく、2.5以上5.5以下がよりさらに好ましく、3.0以上5.0以下が特に好ましい。(L-D)/Dが上記範囲内であることで、良好な透過性能と分離性能を発現することができる。この数値が上記範囲内より高くなると、被処理液が過度に小さい孔に流れ、ろ過抵抗が高くなる可能性がある。この数値が上記範囲内より小さくなると、被処理液が粗大孔のみを透過し、分離性能が低下する可能性がある。
【0076】
本発明の分離膜は、前記領域1~5すべてにおいて、(粗大孔同士の最近接距離の平均L-面積平均孔径D)/数平均孔径Dが2.1以上7.5以下であることが好ましく、2.5以上7.0以下がより好ましく、2.5以上6.5以下がさらに好ましく、2.5以上5.5以下がよりさらに好ましく、3.0以上5.0以下が特に好ましい。(L-D)/Dが上記範囲内であることで、良好な透過性能と分離性能を発現することができる。この数値が上記範囲内より高くなると、被処理液が過度に小さい孔に流れ、ろ過抵抗が高くなる可能性がある。この数値が上記範囲内より小さくなると、被処理液が粗大孔のみを透過し、分離性能が低下する可能性がある。
【0077】
本発明の分離膜は、前記領域1~5の(粗大孔同士の最近接距離の平均L-面積平均孔径D)/数平均孔径Dの平均が2.1以上7.5以下であることが好ましく、2.5以上7.0以下がより好ましく、2.5以上6.5以下がさらに好ましく、2.5以上5.5以下がよりさらに好ましく、3.0以上5.0以下が特に好ましい。領域1~5の(L-D)/Dの平均が上記範囲内であることで、良好な透過性能と分離性能を発現することができる。この数値が上記範囲内より高くなると、被処理液が過度に小さい孔に流れ、ろ過抵抗が高くなる可能性がある。この数値が上記範囲内より小さくなると、被処理液が粗大孔のみを透過し、分離性能が低下する可能性がある。
【0078】
本発明の分離膜の領域Pにおいて、数平均孔径Dが10~1000nmであることが好ましく、25~800nmであることがより好ましく、100~700nmであることがさらに好ましく、250~600nmであることが特に好ましい。数平均孔径Dが上記範囲内であることで、MF膜(Microfiltration Membrane)として良好な透過性能と分離性能を発現することができる。
【0079】
本発明の分離膜は、領域1~5の中で領域P以外の領域において、数平均孔径Dが10~1000nmであることが好ましく、25~800nmであることがより好ましく、100~700nmであることがさらに好ましく、250~600nmであることが特に好ましい。数平均孔径Dが上記範囲内であることで、MF膜として良好な透過性能と分離性能を発現することができる。
【0080】
本発明の分離膜は、前記領域1~5すべてにおいて、数平均孔径Dが10~9000nmであることが好ましく、25~800nmであることがより好ましく、100~700nmであることがさらに好ましく、250~600nmであることが特に好ましい。数平均孔径Dが上記範囲内であることで、MF膜として良好な透過性能と分離性能を発現することができる。
【0081】
本発明の分離膜の領域Pにおいて、面積平均孔径Dが20~90000nmであることが好ましく、100~6000nmであることがより好ましく、300~3000nmであることがさらに好ましく、500~2000nmであることが特に好ましい。面積平均孔径Dが上記範囲内であることで、MF膜として良好な透過性能と分離性能を発現することができる。
【0082】
本発明の分離膜は、領域1~5の中で領域P以外の領域において、面積平均孔径Dが20~90000nmであることが好ましく、100~6000nmであることがより好ましく、300~3000nmであることがさらに好ましく、500~2000nmであることが特に好ましい。面積平均孔径Dが上記範囲内であることで、MF膜として良好な透過性能と分離性能を発現することができる。
【0083】
本発明の分離膜は、前記領域1~5すべてにおいて、面積平均孔径Dが20~90000nmであることが好ましく、100~6000nmであることがより好ましく、300~3000nmであることがさらに好ましく、500~2000nmであることが特に好ましい。面積平均孔径Dが上記範囲内であることで、MF膜として良好な透過性能と分離性能を発現することができる。
【0084】
本発明の分離膜は、領域Pにおいて、孔径が1600nm~3000nmである細孔の全細孔に対する面積比率が50%以上であることが好ましい。かかる面積比率が上記範囲内であることで、MF膜として、良好な透過性能と分離性能を発現することができる。
【0085】
本発明の分離膜は、領域Pにおいて、孔径が1600nm~3000nmである細孔の変動係数が40%以下であることが好ましい。かかる変動係数が上記範囲内であることで、MF膜として、良好な透過性能と分離性能を発現することができる。
【0086】
本発明の分離膜は、前記分離膜の長手方向に垂直な断面において、全断面積に対するマクロボイドが占める面積比率が10~0%であることが好ましく、5~0%であることがより好ましく、3~0%であることがさらに好ましく、1~0%であることが特に好ましい。マクロボイドとは、孔径が10μm以上の孔のことである。マクロボイドは、粗大孔のなかで特に大きい孔であり、分離性能と膜強度を極端に低下させる可能性がある。ここでの、全断面積に対するマクロボイドが占める面積比率とは、分離膜の長手方向に垂直な断面において、二つの膜表面の中点を中心に(膜厚)μm×(膜厚)μm正方形の顕微鏡画像を取得し、その画像中に含まれる膜断面積に対する、マクロボイドの総面積の割合である。全断面積に対するマクロボイドが占める面積比率が上記範囲内であることで、高い強度と分離性能を発現することができる。また、マクロボイドのアスペクト比が10~0.1であることが好ましく、5~0.2であることがより好ましく、2~0.5であることがさらに好ましい。アスペクト比が上記範囲内であることで、膜強度が良好なものとなる。ここで、マクロボイドのアスペクト比とは、マクロボイドの縁上の2点を結んだときに最も短い直線と長い直線の長さの比である。
【0087】
(表面組成)
本発明の分離膜は、主成分A以外の親水性高分子を含み、X線光電子分析(ESCA)測定で算出される表面組成において、主成分Aに対する親水性高分子の元素比率が15atomic%以上であることが好ましい。主成分A以外の親水性高分子とは例えば、上述した副成分Bや、副成分Cとして用いられる親水性高分子等である。かかる元素比率が上記範囲内であることで、ろ過運転中のファウリングを抑制することができる。また、膜強度の観点から、ESCA測定で算出される表面濃度において、主成分に対する親水性高分子の元素比率が99atomic%以下であることが好ましい。ただし、ESCA測定で親水性高分子の表面濃度を算出するためには、親水性高分子が、主成分には含まれない元素を含む必要がある。
【0088】
(製造方法)
本発明において、主成分Aがセルロースエステルである場合の分離膜の製造方法は、下記(1)~(3)の工程を含む。
(1)15重量%以上40重量%以下のセルロースエステルと、40重量%以上84重量%以下の数平均分子量が200以上であり、主成分と相溶する副成分Bと、1重量%以上20重量%以下の主成分と非相溶である副成分Cを溶融混練することで樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程。
(2)前記樹脂組成物を吐出口金から吐出することで成形し、各成分が均一に分散している(相溶している)樹脂成形物を調製する成形工程。
(3)主成分に対する溶解度パラメータ距離が10以上かつ25以下の範囲の溶媒θに前記樹脂成形物を浸漬させる浸漬工程。
【0089】
本発明において、主成分Aがポリアミドである場合の分離膜の製造方法は、下記(1)~(3)の工程を含む。
(1)15重量%以上40重量%以下のポリアミドと、40重量%以上84重量%以下の数平均分子量が200以上であり、主成分と相溶する副成分Bと、1重量%以上20重量%以下の主成分と非相溶である副成分Cを溶融混練することで樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程。
(2)前記樹脂組成物を吐出口金から吐出することで成形し、各成分が均一に分散している(相溶している)樹脂成形物を調製する成形工程。
(3)ハンセン溶解度パラメータのδが10以上の溶媒に前記樹脂成形物を浸漬させる浸漬工程。
【0090】
上記の調製工程で調製される樹脂組成物に占める主成分Aの割合は、15~40質量%である必要があるが、15~35質量%であることがより好ましく、20~35質量%であることがさらに好ましく、20~30質量%であることが特に好ましい。主成分Aの割合が上記範囲内であることで、前記成形工程で良好な加工性を示しながら、透過性能が良好な膜を得ることができる。また、主成分Aの割合が高すぎると、各成分が均一に分散している樹脂成形物を得ることが困難となる。
【0091】
上記の調製工程で調製される樹脂組成物に占める副成分Bの割合は、40~84質量%である必要がある。副成分Bの割合は、45~80質量%であることが好ましく、50~75質量%であることがより好ましい。副成分Bの割合がこの範囲であることで、前記成形工程で良好な加工性を示しやすい。また、副成分Bの割合がこの範囲であることで、主成分Aと副成分Cを含有する状況においても、均一な樹脂成形物が得られ、透過性能と分離性能が良好な分離膜を得ることができる。
【0092】
上記の調製工程で調製される樹脂組成物に占める副成分Cの割合は、1~20質量%である必要がある。副成分Cの割合は、1~15質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。副成分Cの割合がこの範囲であることで、前記成形工程で良好な加工性を示しやすい。また、副成分Cの割合が高すぎると、各成分が均一に分散している樹脂成形物を得ることが困難となる。また、成形工程での加工性も悪化する。
【0093】
上記の調製工程で調製される樹脂組成物に占める数平均分子量1000以下200以上の化合物の割合は、20~0.01質量%であることが好ましく、10~0.05質量%であることがより好ましい。数平均分子量1000以下200以上の化合物の割合がこの範囲であることで、前記成形工程で良好な加工性を示しやすい。
【0094】
上記の調製工程で調製される樹脂組成物に占める重量平均分子量10000以上の化合物の割合は、99~50質量%であることが好ましく、99~55質量%であることがより好ましく、99~75質量%であることがさらに好ましく、99~80質量%が特に好ましい。重量平均分子量10000以上の化合物の割合がこの範囲であることで、前記成形工程で良好な加工性を示しやすい。
【0095】
次に、本発明の分離膜の製造方法を、分離膜が中空糸状の形状を有する中空糸膜の場合を例に具体的に説明する。
【0096】
樹脂組成物調製工程は、15重量%以上40重量%以下の主成分Aと、40重量%以上84重量%以下の数平均分子量が200以上であり、主成分と相溶する副成分Bと、1重量%以上20重量%以下の主成分と非相溶である副成分Cとを溶融混練して、樹脂組成物を調製する工程である。樹脂組成物は必要に応じて、上記した添加剤を含有しても構わない。
【0097】
得られる分離膜が良好な透過性能と分離性能を発現するためには、樹脂組成物調製工程で得られる樹脂組成物が均一であることが好ましい。ここでの、均一であるとは、樹脂組成物中に100nm以上の島成分を有しないことである。島成分の有無については、樹脂組成物の断面を透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡で観察して確認することができる。
【0098】
樹脂組成物を均一にするためには、樹脂組成物の成分の種類や含有量を適宜調整するか、混練時間を長くしたり混練時の練り強度を高めたりする必要がある。主成分がセルロースエステルの場合、例えば、副成分Cとして数平均分子量が8000より大きいポリエチレングリコールを5重量%より多く含有すると、樹脂組成物の各成分を均一にするのが困難となりやすい。そのため、副成分Cとして数平均分子量が8000より大きいポリエチレングリコールを用いる場合、樹脂組成物中の副成分Cは5重量%以下が好ましく、2.5重量%以下がより好ましく、2重量%以下がさらに好ましい。また、副成分Cとして数平均分子量が3000より大きいポリエチレングリコールを用いる場合、樹脂組成物中の副成分Cは15重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。
【0099】
溶融混練する装置としては、例えば、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー又は単軸若しくは二軸押出機等の混合機が挙げられる。中でも、構造形成剤の分散性を良好にするため、溶融混練する装置としては二軸押出機が好ましく、水分や低分子量物等の揮発物を除去するため、ベント孔付きの二軸押出機がより好ましい。また、樹脂組成物を均一にするために、二軸押出機のスクリュー形状は、ニーダー部分を有することが好ましい。
【0100】
また、樹脂組成物を均一にするために、樹脂組成物調製工程で得られる樹脂組成物を再度溶融混練することが好ましい。
樹脂組成物を均一にするために、主成分A、副成分B及び副成分Cで固体であるものについては、いずれかが粉末状であることが好ましく、すべて粉末状であることがより好ましい。ここでの粉体とは35メッシュの金網を通過する原料のことである。
【0101】
均一な樹脂組成物を得るために、得られた樹脂組成物は、一旦ペレット化し、再度溶融させてから成形工程に供することが好ましい。なお樹脂組成物を一旦ペレット化した場合には、ペレットを乾燥して、水分量を200ppm(質量基準)以下としてから成形工程に供することが好ましい。また、成形工程には、各成分が均一である樹脂組成物を用いるのが好ましい。
【0102】
樹脂組成物調製工程において、溶融混練の回数は2回以上5回以下であることが好ましく、3回以上5回以下であることがより好ましい。上記範囲であることで、樹脂の劣化を抑えながら、均一な樹脂組成物が得られる。ここでの溶融混練の回数とは、原料を一旦溶融させて、スクリューで混練する回数である。例えば、原料を溶融混練して一旦ペレット化し、得られたペレットを再度溶融させてスクリューを通過させ混練し、口金から吐出して成形を行った場合、溶融混練の回数は2回である。原料を溶融混練して一旦ペレット化し、もう一度、溶融混練を行って得たペレットを再度溶融させてスクリューを通過させ混練し、口金から吐出して成形を行った場合、溶融混練の回数は3回である。
【0103】
成形工程は、樹脂組成物調製工程で得られた樹脂組成物を、中央部に気体の流路を配した二重環状ノズルを有する吐出口金から空気中に吐出して、冷却装置により冷却して各成分が均一に混合している樹脂成形物(樹脂成形体)を形成する工程である。樹脂成形体中の各成分が均一であることで、得られる分離膜が良好な透過性能と分離性能を発現する。本発明において、樹脂成形体中の各成分が均一であることは重要である。一般に、主成分Aと副成分Cの関係のような互いに非相溶な2成分が混合物に存在すると、互いに反発し、得られる樹脂組成物及び成形物は、不均一となりやすい。本発明においては、樹脂組成物が主成分A、副成分Bおよび副成分Cの3成分以上を含み、それぞれが特定の濃度であることで樹脂成形物が均一になりやすい。
【0104】
主成分がセルロースエステルである分離膜の製造方法において、分離膜の良好な透過性の発現のため、前記樹脂成形体を熱処理する工程(熱処理工程)を含むことが好ましい。熱処理により良好な透過性が発現する理由としては、熱処理することで樹脂成形体中の主成分Aの配向が緩和されるためと推定される。樹脂成形体は、一旦巻き取り、再度巻き出してから熱処理工程に供しても構わないし、直接熱処理工程に供しても構わない。熱処理の方法としては、例えば、熱処理前の樹脂成形体を加熱ロール上で搬送しながら熱処理する温度まで昇温して熱処理する方法、又は、乾熱オーブン若しくは熱水や溶媒等の加熱液体中を搬送しながら熱処理する温度まで昇温して熱処理する方法等が挙げられる。
【0105】
樹脂成形体を熱処理する温度は、熱収縮応力が最大となる温度をTmaxとしたとき、Tmax-30~Tmax+30℃が好ましい。また熱処理する際の弛緩率は、0.5%~10.0%が好ましく、1.0%~5.0%がより好ましい。樹脂成形体を熱処理する際の温度、及び、弛緩率がそれぞれ上記の範囲内であることで、樹脂成形体中の主成分Aの配向を緩和することができる。
【0106】
主成分がセルロースエステルである分離膜の製造方法において、浸漬工程は、主成分Aに対する溶解度パラメータ距離(Ra)が10~25の範囲の溶媒θに、上記樹脂成形体を浸漬させる工程である。この際、主成分Aと適度な親和性を有する溶媒又は混合溶媒を用いることで、樹脂の極度な膨潤や可塑化を抑制することができる。そのため、樹脂の形状を維持しながら、樹脂成形物に溶媒が浸透する。この際に、樹脂成形物において相分離が起きながら、可塑剤や孔形成剤が溶出していると推定される。溶媒の浸漬時間が長い又は温度が高いほど、空隙率と孔サイズが大きく、膜強度が低くなる傾向がある。本発明において、上記の分離膜を得る観点で、溶媒の選択が重要である。溶媒は、主成分Aと親和性をある程度有する溶媒が好ましい。主成分Aと溶媒との親和性は、3次元ハンセン溶解度パラメータによって見積もることができる(非特許文献1)。具体的には、下記式(4)の溶解度パラメータ距離(Ra)が小さいほど、主成分Aに対する溶媒の親和性が高いことを示す。
【0107】
【数4】
【0108】
ここで、δAd、δAp及びδAhは、主成分Aの溶解度パラメータの分散項、極性項及び水素結合項であり、δBd、δBp及びδBhは、溶媒又は混合溶媒の溶解度パラメータの分散項、極性項及び水素結合項である。
【0109】
混合溶媒の溶解度パラメータ(δMixture)については、下記式(5)により求めることができる。
【0110】
【数5】
【0111】
ここで、φ、δは成分iの体積分率と溶解度パラメータであり、分散項、極性項及び水素結合項それぞれに成り立つ。ここで「成分iの体積分率」とは、混合前の全成分の体積の和に対する混合前の成分iの体積の比率をいう。溶媒の3次元ハンセン溶解度パラメータは、非特許文献1中に記載の値を用いた。記載のない溶媒パラメータについては、チャールズハンセンらによって開発されたソフト「Hansen Solubility Parameter in Practice」に収められている値を用いた。上記のソフト中にも記載がない溶媒やポリマーの3次元ハンセン溶解度パラメータは、上記のソフトを用いたハンセン球法により算出することができる。
【0112】
主成分がセルロースエステルである分離膜の製造方法において、浸漬工程で用いる溶媒θとしては、主成分Aについての良溶媒と非溶媒との混合溶媒であることが好ましい。ここで主成分Aについての良溶媒とは、主成分Aに対するRaの値が12以下である溶媒をいい、主成分Aについての非溶媒とは、主成分Aに対するRaの値が12より大きい溶媒をいう。溶媒θを良溶媒と非溶媒との混合溶媒にすることで、主成分Aの可塑化と相分離とが両立し、均一な構造が形成される。良溶媒としては、主成分Aの過度な可塑化を抑制するため、Raが4以上である溶媒が好ましい。主成分Aがセルロースエステルである場合、Raが4以上である溶媒としては、例えば、有機溶媒が挙げられ、具体的にはγ-ブチルラクトン、アセトン、アセトニトリル、1,4-ジオキサン、酢酸メチル又はテトラヒドロフラン等が挙げられる。引火性の観点からγ-ブチルラクトンが特に好ましい。非溶媒としては、安価であることから、水が好ましい。
【0113】
主成分がポリアミドである分離膜の製造方法において、浸漬工程は、ハンセン溶解度パラメータのδが10以上の溶媒に前記樹脂成形物を浸漬させる浸漬工程である。分離膜の透過性能を高めるために、用いる溶媒のハンセン溶解度パラメータのδは、12以上が好ましく、15以上がより好ましい。δが上記範囲であることで、樹脂が可塑化し、運動性が付与される一方で、樹脂の極度な膨潤や可塑化を抑制することができる。そのため、樹脂の形状を維持しながら、樹脂組成物に溶媒が浸透する。この際に、樹脂組成物の相分離が起きながら、可塑剤や孔形成剤が溶出していると推定される。溶媒の浸漬時間が長い又は温度が高いほど、空隙率と孔サイズが大きく、膜強度が低くなる傾向がある。本発明において、上記の分離膜を得る観点から、溶媒の選択が重要である。
【0114】
主成分がポリアミドである分離膜の製造方法において、浸漬工程で用いる溶媒θとしては、1種類の溶媒でも、複数の溶媒の混合溶媒でもよい。1種類の溶媒を用いる場合、溶媒θとしては、プロピレングリコール、メタノール、イソプロパノール、エタノールが好ましい。複数の溶媒の混合溶媒を用いる場合、溶媒θとしては、有機溶剤(有機溶媒)と水との混合溶媒であることが好ましく、DMF、NMP、トリエチレングリコール、トリアセチン、スルフォラン、DMSO、イソプロパノールから選ばれる有機溶剤(有機溶媒)と水との混合溶媒であることがより好ましい。
【0115】
また、上記の分離膜を得る上で、上記樹脂成形物中に、15重量%以上40重量%以下の主成分Aと、40重量%以上84重量%以下の主成分に相溶する副成分Bと、1重量%以上20重量%以下の主成分と非相溶である副成分Cとを含有し、その樹脂成形体の各成分が均一であることは、非常に重要である。まず、主成分Aと相溶性が異なる副成分BとCを含有することで、粗大孔を形成し、その樹脂成形体の各成分が均一であることで、粗大孔のまわりに微細孔が共存するような構造となり、本発明の効果を示す膜が得られると推定される。
【実施例
【0116】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0117】
[測定及び評価方法]
(1)主成分A、副成分B及び副成分Cの重量平均分子量(Mw)
主成分A、副成分B及び副成分Cの濃度が0.15質量%となるようにテトラヒドロフラン又はその他の溶媒に完全に溶解させ、GPC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件の下、Waters2690でGPC測定を行い、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
カラム : TSK gel GMHHR-H(東ソー株式会社製)を2本連結
検出器 : Waters2410 示差屈折計RI
流速 : 1.0mL/分
注入量 : 200μL
【0118】
(2)分離膜の厚み方向における断面の観察と孔径測定
分離膜を液体窒素で凍結した後、分離膜の厚み方向の断面(長手方向に垂直な断面)が露出するように、応力を加えることにより(適宜カミソリ又はミクロトーム等を用いて)割断した。露出した分離膜の断面を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製SU1510)を用いて、20nm/pixelの解像度、倍率5000倍で観察し、一方の表面からもう一方の表面まで連続的に画像を取得した。輝度・コントラストは、自動機能で調節した。観察条件は以下の通りである。
(スパッタリング)
装置:株式会社日立ハイテク製(E-1010)
蒸着時間:40秒
電流値:20mA
(SEM)
装置:株式会社日立ハイテク製(SU1510)
加速電圧:5kV
プローブ電流:30
中空糸膜の場合、分離膜の外表面の3箇所から、分離膜の膜厚方向に順に、等間隔に5分割した各領域1~5をそれぞれ設定した。各領域のD、D、Wについては、3箇所の算術平均とした。平膜の場合は、一方の表面の3箇所から分離膜の膜厚方向に順に、等間隔に5分割した各領域1~5をそれぞれ設定した。各領域のD、D、Wについては、3箇所の算術平均とした。また、全断面積に対するマクロボイドが占める面積比率を算出する際の断面画像は、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製SU1510)を用いて、20nm/pixelの解像度、倍率1000倍で観察した。
【0119】
(3)分離膜の厚み(μm)
上記(2)の分離膜の厚み方向の断面を、光学顕微鏡により観察して撮影し、分離膜の厚みを算出した。より具体的には、無作為に選択した10箇所の厚みを測定し、その算術平均を、分離膜の厚みとした。
【0120】
(4)中空糸膜の外径及び内径(μm)
上記(2)の分離膜の厚み方向の断面を、光学顕微鏡により観察して撮影し、中空糸膜の外径OD及び内径IDを算出した。より具体的には、無作為に選択した10箇所の外径及び内径を測定し、それぞれの算術平均を、中空糸膜の外径R及び内径Rとした。
【0121】
(5)主成分Aに対する副成分Bの比率(重量%)
主成分Aと副成分とを、任意の比率で混合した標準サンプルを数種類用意し、それぞれについてIR測定を行い、得られたスペクトルにおける主成分Aと副成分とをそれぞれ代表するピーク強度比についての検量線を作成した。その後、分離膜についてもIR測定を行い、作成した検量線に基づいて、分離膜の主成分Aの重量比率を求めた。
【0122】
(6)親水性高分子の表面濃度(atomic%)
分離膜に含まれる主成分A以外の親水性高分子の表面濃度は、X線光電子分析(ESCA)測定により求めた。具体的な測定条件は以下の通りとした。
装置:X線光電子分析装置(ESCALAB 220iXL)
励起X線:monochromatic Al Ka1,2線(1486.6eV)
X線径:1mm
光電子脱出角度:90°
【0123】
主成分Aと主成分A以外の親水性高分子とのそれぞれについてESCA測定を行い、得られたスペクトルにおける各元素の1sピークから、主成分A、親水性高分子の元素比を求めた。その後、分離膜についてもESCA測定を行い、得られたスペクトルにおける各元素の1sピークに基づいて、分離膜中の親水性高分子の元素比率を求めた。ESCA測定で親水性高分子の表面濃度を算出するためには、副成分が主成分に含まれない元素を含む必要がある。主成分がセルロースエステル、副成分が脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体の場合、脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体のみがN元素を含むため、表面濃度の算出が可能である。その際、分離膜中の脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体の元素比率は以下の式より算出した。
(分離膜中の脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体の元素比率)=100×{(脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体単体中の炭素元素比率)+(脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体単体中の酸素元素比率)+(脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体単体中の窒素元素比率)}×(分離膜中の窒素元素比率)/(脂肪酸ビニルとビニルピロリドンとの共重合体単体中の窒素元素比率)(atomic%)
【0124】
(7)空隙率(%)
中空糸膜の糸長L(cm)を測定後、25℃で8時間、真空乾燥させた中空糸膜の質量M(g)を測定した。中空糸膜の密度ρは、上記(4)で測定した外径OD(μm)及び内径ID(μm)の値を用いて、下記式(6)より算出した。
【0125】
【数6】
【0126】
また空隙率ε(%)は、下記式(7)より算出した。
【0127】
【数7】
【0128】
ここでρは、主成分Aの密度である。
【0129】
(8)膜透過流束(m/m/h)
中空状の形状を有する分離膜、すなわち中空糸膜1本からなる有効長さ50mmの小型モジュールを作製した。この小型モジュールに、温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件で、30分間にわたって蒸溜水を送液し、得られた透過水量(m)を測定し、これを単位時間(h)及び単位膜面積(m)当たりの数値に換算し、さらに圧力(50kPa)換算して、純水の透過性能(膜透過流束)(単位=m/m/h)とした。
【0130】
(9)ラテックス阻止率(%)
中空糸膜の分画性能として、83nmポリスチレンラテックス(Pst)粒子の阻止率を測定した。また、83nmのPst粒子は、Seradyn社製のものを使用した。Pst粒子の20ppm(質量基準)懸濁液を調製し、ろ過差圧16kPaの条件で、クロスフロー循環(流量0.7L/min)を行い、ろ過を行った。ガラス製サンプル瓶を用いて、透過水をサンプリングした。はじめの5mLは捨て水とし、5mLずつ合計10mLの透過水をサンプリングした。原水と透過水の波長222nmの吸光度から、粒子濃度を測定し、阻止率を算出した。平膜は直径43mmの円形試料を濾過ホルダー(UHP-43、アドバンテック製)にセットし、はじめの2.5mLは捨て水とし、2.5mLずつ合計5.0mLの透過水をサンプリングした。次に吸光度測定からポリスチレンラテックスの透過量を求め、これから膜のラテックス粒子阻止率を算出した。
【0131】
(10)膜寿命(mL)
中空状の形状を有する分離膜、すなわち中空糸膜について、不織布フィルターを用い、活性炭で前処理を行った琵琶湖水を被処理液とし、圧力50kPaの条件以外は上記(8)と同様にして測定した膜透過流束をFsとしたとき、Fe/Fsの値が0.1以下となるまでの流量(mL)を膜寿命とした。
【0132】
(11)破断強度(MPa)
温度20℃、湿度65%の環境下において、引張試験機(株式会社オリエンテック製テンシロン UCT-100)を用いて、分離膜の長軸方向の引張強度を測定した。具体的には、試料長100mm、引張速度100mm/分の条件にて測定を行い、引張強さから破断強度(引張強度)(MPa)を算出した。なお測定回数は5回とし、破断強度(MPa)はその平均値とした。
【0133】
以下、樹脂組成物における各成分について示す。
[主成分A]
(A1)セルロースエステル:セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基の平均置換度:0.2、プロピオニル基の平均置換度:2.5、重量平均分子量(Mw):18.5万)
(A2)セルロースエステル:
セルロース(コットンリンター)100質量部に、酢酸240質量部とプロピオン酸67質量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172質量部と無水プロピオン酸168質量部をエステル化剤として、硫酸4質量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。
反応後、反応停止剤として酢酸100質量部と水33質量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333質量部と水100質量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6質量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル基及びプロピオニル基の平均置換度は各々1.9、0.7であり、重量平均分子量(Mw)は17.8万であった。
(A3)ナイロン6(アミラン CM1021 (東レ株式会社) 粘度数:179mL/g)
【0134】
[副成分B]
(B1)ポリエチレングリコール、数平均分子量(Mn)600(PEG600 (三洋化成工業株式会社))
(B2)PVP/酢酸ビニル共重合体(Kollidon VA 64 (BASFジャパン株式会社) Mn:4500 Mw:17000)
(B3)PVP(ルビスコール K 17 (BASFジャパン株式会社) Mn:2000 Mw:9000)
【0135】
[副成分C]
(C1)ポリエチレングリコール、数平均分子量(Mn)3400 フレーク状(PEG4000S (三洋化成工業株式会社))
(C2)ポリエチレングリコール、数平均分子量(Mn)8600 粉末状(PEG6000P (三洋化成工業株式会社))
(C3)ポリエチレングリコール、数平均分子量(Mn)10000 フレーク状(PEG10000 (三洋化成工業株式会社))
(C4)ポリエチレングリコール、数平均分子量(Mn)1000 ワックス状(PEG1000 (三洋化成工業株式会社))
【0136】
[酸化防止剤D]
(D1)ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト
【0137】
(実施例1)
主成分A1(25.0質量%)と、副成分B1(5.0質量%)と、副成分B2(60.0質量%)と、副成分C1(9.9質量%)と、酸化防止剤D1(0.1質量%)とを、二軸押出機にて220℃で溶融混練し、均質化した後にペレット化して、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて220℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度190℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量25g/分の条件で、口金孔(c)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に吐出して、樹脂成形物を成形した(成形工程)。得られた樹脂成形物(樹脂成形体)について、原子間力顕微鏡で観察し、樹脂組成物中に100nm以上の島成分を有しなければ「均一に分散」、有していれば「不均一」と評価した。
この樹脂成形物すなわち中空糸を、冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、巻取り速度190m/分となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、弛緩率4.0%で両端固定し、120℃の熱風オーブン中に20分間静置後、40℃の溶出浴(65質量%γ-ブチルラクトン(GBL)水溶液;Ra=16)に20分浸漬させ(浸漬工程)、さらに、蒸留水に10分浸漬して洗浄し、分離膜を得た。図8は、実施例1の領域3における、孔径に対する面積比率のヒストグラムである。孔径分布が広いと同時に、面積平均孔径D/数平均孔径Dが高い。
【0138】
(実施例2)
主成分A1(25.0質量%)と、副成分B1(5.0質量%)と、副成分B2(60.0質量%)と、副成分C1(9.9質量%)と、酸化防止剤D10.1質量%とを、二軸押出機にて220℃で溶融混練し、均質化した後にペレット化して、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて220℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度190℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量25g/分の条件で、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に吐出して、樹脂成形物を成形した(成形工程)。この樹脂成形物すなわち中空糸を、冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、巻取り速度190m/分となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、弛緩率2.0%で両端固定し、120℃の熱風オーブン中に20分間静置後、40℃の溶出浴(65質量%GBL水溶液;D=16)に20分浸漬させ(浸漬工程)、さらに、蒸留水に10分浸漬して洗浄し、分離膜を得た。
【0139】
(実施例3)
主成分A1(25.0質量%)と、副成分B1(5.0質量%)と、副成分B2(60.0質量%)と、副成分C1(9.9質量%)と、酸化防止剤D1(0.1質量%)とを、二軸押出機にて220℃で溶融混練し、均質化した後にペレット化した(調製工程)。この樹脂組成物は、再度、220℃で溶融混練し、均質化した後にペレット化して、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて220℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度190℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量25g/分の条件で、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に吐出して、樹脂成形物を成形した(成形工程)。この樹脂成形物すなわち中空糸を、冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、巻取り速度190m/分となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、40℃の溶出浴(65質量%GBL水溶液;Ra=16)に20分浸漬させ(浸漬工程)、さらに、蒸留水に10分浸漬して洗浄し、分離膜を得た。
【0140】
(実施例4)
主成分A1(25.0質量%)と、副成分B1(5.0質量%)と、副成分B2(55.0質量%)と、副成分C1(14.9質量%)と、酸化防止剤D1(0.1質量%)とを、二軸押出機にて220℃で溶融混練し、均質化した後にペレット化して、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて220℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度190℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量25g/分の条件で、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に吐出して、樹脂成形物を成形した(成形工程)。この樹脂成形物すなわち中空糸を、冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、巻取り速度190m/分となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、弛緩率2.0%で両端固定し、110℃の熱風オーブン中に20分間静置後、40℃の溶出浴(65質量%GBL水溶液;Ra=16)に20分浸漬させ(浸漬工程)、さらに、蒸留水に10分浸漬して洗浄し、分離膜を得た。
【0141】
(実施例5)
主成分A1(25.0質量%)と、副成分B1(5.0質量%)と、副成分B2(68.5質量%)と、副成分C2(1.4質量%)と、酸化防止剤D1(0.1質量%)とを、二軸押出機にて220℃で溶融混練し、均質化した後にペレット化して、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて220℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度210℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量25g/分の条件で、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に吐出して、樹脂成形物を成形した(成形工程)。この樹脂成形物すなわち中空糸を、冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、巻取り速度190m/分となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、弛緩率2.0%で両端固定し、120℃の熱風オーブン中に20分間静置後、40℃の溶出浴(65質量%GBL水溶液;Ra=16)に20分浸漬させ(浸漬工程)、さらに、蒸留水に10分浸漬して洗浄し、分離膜を得た。
【0142】
(実施例6)
主成分A3(30.0質量%)と、副成分B3(60.0質量%)と、副成分C4(10質量%)とを、二軸押出機にて250℃で溶融混練し、ペレット化して、樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。この樹脂組成物は、再度、250℃で溶融混練し、均質化した後にペレット化して、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて250℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度230℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量25g/分の条件で、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に吐出して、樹脂成形物を成形した(成形工程)。この樹脂成形物すなわち中空糸を、冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、巻取り速度190m/分となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、25℃の溶出浴(水)に1時間浸漬させ(浸漬工程)、分離膜を得た。
【0143】
(実施例7)
主成分A3(30.0質量%)と、副成分B3(55.0質量%)と、副成分C4(15質量%)とを、二軸押出機にて250℃で溶融混練し、ペレット化して、樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。この樹脂組成物は、再度、250℃で溶融混練し、均質化した後にペレット化して、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて250℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度230℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量25g/分の条件で、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に吐出して、樹脂成形物を成形した(成形工程)。この樹脂成形物すなわち中空糸を、冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、巻取り速度190m/分となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、25℃の溶出浴(水)に1時間浸漬させ(浸漬工程)、分離膜を得た。
【0144】
(比較例1)
浸漬工程に用いる溶出浴を水(Ra=39)にした以外は、実施例3と同様にして分離膜を得た。SEMで断面構造を観察したが、多孔構造が見られず、膜透過流束は0.1以下であった。
【0145】
(比較例2)
浸漬工程に用いる溶出浴を90質量%GBL水溶液(Ra=8)にした以外は、実施例3と同様にして、製膜を行ったが、浸漬工程において、膜形状を維持しなかった。
【0146】
(比較例3)
主成分A1(25.0質量%)と、副成分B1(5.0質量%)と、副成分B2(69.9質量%)と、酸化防止剤D1(0.1質量%)とを、二軸押出機にて220℃で溶融混練し、均質化し、ペレット化して、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて220℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度210℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量25g/分の条件で、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に吐出して、樹脂成形物を成形した(成形工程)。この樹脂成形物すなわち中空糸を、冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、巻取り速度190m/分となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、40℃の溶出浴(65質量%GBL水溶液;Ra=16)に20分浸漬させ(浸漬工程)、さらに、蒸留水に10分浸漬して洗浄し、分離膜を得た。図9は、比較例3の領域3における、孔径に対する面積比率のヒストグラムである。孔径分布が狭いと同時に、面積平均孔径D/数平均孔径Dも小さい。また、実施例1と比べても孔径分布が狭く、面積平均孔径D/数平均孔径Dも実施例1よりも小さい。
【0147】
(比較例4)
主成分A1(25.0質量%)と、副成分B1(5.0質量%)と、副成分B2(67.5質量%)と、副成分C3(2.4質量%)と、酸化防止剤D1(0.1質量%)とを、二軸押出機にて220℃で溶融混練し、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて220℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度210℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量25g/分の条件で、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に吐出して、樹脂成形物を成形した(成形工程)。この樹脂成形物すなわち中空糸を、冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、巻取り速度190m/分となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、25℃の溶出浴(水;Ra=39)に24時間浸漬させ(浸漬工程)、さらに、蒸留水に10分浸漬して洗浄し、分離膜を得た。図6は、比較例4の断面中央のSEM画像である。実施例1と比べても、穴の大きさや数が小さかった。
【0148】
(比較例5)
主成分A2(82.0質量%)と、副成分B1(16.9質量%)と、副成分B2(67.5質量%)と、副成分C2(1.0質量%)と、酸化防止剤D1(0.1質量%)とを、二軸押出機にて220℃で溶融混練し、ペレット化して、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて235℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度235℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量60g/分の条件で、口金孔(弧状のスリット部が3個配置されて1個の吐出孔を形成するタイプ、吐出孔半径0.60mm、スリット間ピッチ0.10mm、スリット巾0.08mm)を72ホール有した口金より下方に紡出した。この紡出した中空糸を、口金の下面から冷却装置(チムニー)上端までの距離Hが30mmとなるように冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、ドラフト比が200となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、50%エタノール水溶液に分離膜を浸漬して添加剤(C)の少なくとも一部を溶出した。その後、イソプロピルアルコールの10wt%水溶液に1時間浸漬して親水化を行った。
【0149】
(比較例6)
主成分A2(70.0質量%)と、副成分B1(9.9質量%)副成分C2(20.0質量%)と、酸化防止剤D1(0.1質量%)とを、二軸押出機にて220℃で溶融混練し、ペレット化して、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて235℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度235℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量60g/分の条件で、口金孔(弧状のスリット部が3個配置されて1個の吐出孔を形成するタイプ、吐出孔半径0.60mm、スリット間ピッチ0.10mm、スリット巾0.08mm)を72ホール有した口金より下方に紡出した。この紡出した中空糸を、口金の下面から冷却装置(チムニー)上端までの距離Hが30mmとなるように冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、油剤を付与して収束させた後、ドラフト比が200となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、50%エタノール水溶液に分離膜を浸漬して添加剤(C)の少なくとも一部を溶出した(浸漬工程)。その後、イソプロピルアルコールの10wt%水溶液に1時間浸漬して親水化を行った。
【0150】
(比較例7)
主成分A1(25.0質量%)と、副成分B1(5.0質量%)と、副成分B2(67.5質量%)と、副成分C3(2.4質量%)と、酸化防止剤D1(0.1質量%)とを、二軸押出機にて220℃で溶融混練し、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて220℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度210℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量25g/分の条件で、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に吐出して、樹脂成形物を成形した(成形工程)。この樹脂成形物すなわち中空糸を、冷却装置へ導き、25℃、風速1.5m/秒の冷却風によって冷却し、巻取り速度190m/分となるようにワインダーで巻き取った。この樹脂成形体を、40℃の溶出浴(65質量%GBL水溶液;Ra=16)に20分浸漬させ(浸漬工程)、さらに、蒸留水に10分浸漬して洗浄し、分離膜を得た。さらに、蒸留水に10分浸漬して洗浄し、分離膜を得た。
【0151】
(比較例8)
アドバンテック セルロース混合エステルタイプ メンブレンフィルター A010Aをそのまま使用した。これは、均一性の高い構造を有した従来膜である。図7は、比較例8の断面中央のSEM画像である。
【0152】
(比較例9)
主成分A3(30.0質量%)と、副成分B3(45.0質量%)と、副成分C4(25質量%)とを、二軸押出機にて250℃で溶融混練し、ペレット化して、樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。この樹脂組成物は、再度、250℃で溶融混練し、均質化した後にペレット化して、溶融紡糸用の樹脂組成物を調製した(調製工程)。この樹脂組成物を80℃で8時間真空乾燥した。樹脂組成物は不均一であった。
乾燥させた樹脂組成物を二軸押出機にて250℃でさらに溶融混練した後に、紡糸温度230℃の溶融紡糸パックへ導入して、吐出量25g/分の条件で、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の外側環状部より下方に吐出したが(成形工程)、吐出が不安定なため、中空糸として採取できなかった。
【0153】
(比較例10)
主成分A1(25.0質量%)と、トリエチレングリコール(55質量%)と、粒径2.2μmの炭酸カルシウム(10質量%)とを、微量混練機(株式会社井元製作所)にて180℃で溶融混練し、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の水凝固浴中に外側環状部より下方に吐出させた。しかし、吐出が不安定なため、糸を採取することが困難であった。
【0154】
(比較例11)
主成分A3(25.0質量%)と、スルホラン(75質量%)と、粒径2.2μmの炭酸カルシウム(10質量%)とを、微量混練機(株式会社井元製作所)にて230℃で溶融混練し、口金孔(二重円管タイプ、吐出孔径8.6mm、スリット巾1.1mm)を1ホール有する吐出口金の水凝固浴中に外側環状部より下方に吐出させた。しかし、吐出が不安定なため、糸を採取することが困難であった。
【0155】
表1、表2に実施例1~7及び比較例1~7における樹脂製造工程時の組成、熱処理工程、浸漬工程の条件一覧を示す。また、表3、表4に実施例1~7及び比較例1~8において得られた分離膜又は使用した従来膜の物性を示す。表3、表4の「領域P」の行には、領域1~5のうち領域Pの要件を満たす領域の番号を示す。
【0156】
【表1】
【0157】
【表2】
【0158】
【表3】
【0159】
【表4】
【0160】
実施例1~7ともに、面積平均孔径D/数平均孔径D、個数平均Wがともに高い領域Pを有することで、高寿命と高阻止率の両方を実現している。比較例1は、浸漬工程で用いる可塑化浴の主成分に対する親和性が低いため、相分離が起こらず、分離膜は多孔構造とならなかった。副成分Cを含有しない樹脂組成物から作成した比較例3は、面積平均孔径D/数平均孔径Dが小さいため、低透水性である。比較例4、5、6は、面積平均孔径D/数平均孔径D、個数平均Wが小さく、数平均孔径より小さい孔径を有する孔が占める面積比率が高いため、透過流束が小さい。これは、各穴が連通していないためと考えられる。一方、比較例7は、比較例4、5、6よりも数平均孔径より小さい孔径を有する孔が占める面積比率が小さく、大きい孔が多く存在しているため、透過流束が高く、高寿命である。しかし、比較例7は、実施例1~7と比べて、個数平均Wが小さく、分離性能は低い。これは、粗大孔のまわりに微細孔が存在しないためと考えられる。これは、樹脂成形体が不均一であることで、島成分が核となり、相分離が起こったためと推定している。比較例8は、均一性の高い構造を有しており、強度は高いが、分離性能と透水性は低い。また比較例8は、比較例3同様に面積平均孔径D/数平均孔径Dが小さいため、低透水性である。比較例9から、副成分Cが20%以上であると、成形が困難になることがわかる。副成分Cが多くなると不均一な樹脂組成物となり、加工性が低下したためと考えられる。また、特許文献6を参考に、塩粒子を添加した溶液の相分離を試みたが、中空糸の採取が困難であった(比較例10、11)。これは塩粒子を添加したことで、不均一な溶液となり、膜強度が低下したためと考えられる。
【0161】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2019年12月23日出願の日本特許出願(特願2019-231580)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
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図9