(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】パターン形成方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/26 20060101AFI20220524BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20220524BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220524BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20220524BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05D3/00 D
B05D7/24 301M
B05C5/00 101
B41J2/01 109
B41J2/01 401
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2022504059
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2021029174
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2020147933
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 正好
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-289722(JP,A)
【文献】特開2006-150788(JP,A)
【文献】特開2015-33657(JP,A)
【文献】特開2019-217669(JP,A)
【文献】特開2009-230018(JP,A)
【文献】特開2019-5946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B05C 5/00-5/04
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターンの画像データに基づくインクジェット印刷方式によるパターン形成方法であって、
複数のノズル孔が一列方向に並んだインク吐出装置のノズル列方向に対して垂直及び平行に複数回移動してノズルから印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、
前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ、
前記パターンの前記画像データを構成する各画素の階調又は濃度に対応させて、前記基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液量が、
隣接するドットと一定の周期性を有さなく、パターンの塗膜全体としては、均一ではないように制御する
ことを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
パターンの画像データに基づくインクジェット印刷方式によるパターン形成方法であって、
複数のノズル孔が一列方向に並んだインク吐出装置のノズル列方向に対して垂直及び平行に複数回移動してノズルから印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、
前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ、
前記基板上に形成する前記パターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液滴の着弾が複数回にわたり、かつ、
前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記画像データを構成する各画素が配列された行及び列の順番のとおりでなく、かつ一定の周期性を有さないように制御する
ことを特徴とするパターン形成方法。
【請求項3】
パターンの画像データに基づくインクジェット印刷方式によるパターン形成方法であって、
複数のノズル孔を有するインク吐出装置又は印刷媒体としての基板が複数回移動し、前記インク吐出装置のノズルから前記印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、
前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ、
前記基板上に形成する前記パターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液滴の着弾が複数回にわたり、かつ、
前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しな
いように制御する
ことを特徴とするパターン形成方法。
【請求項4】
前記パターンの前記画像データを、重ねて印刷した場合に各画素が重ならないよう、かつ、前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しないように、複数に分割し、
前記分割した前記画像データを順次重ねて印刷する
ことを特徴とする請求項3に記載のパターン形成方法。
【請求項5】
前記インク吐出装置が、相対的に主走査方向に往復移動し、
往路及び復路どちらにおいてもインクの液滴を吐出する
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のパターン形成方法。
【請求項6】
前記インク吐出装置が、相対的に副走査方向に対して正方向及び逆方向の組み合わせで移動する
ことを特徴とする請求項3から請求項5までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項7】
前記基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液量が、前記パターンの前記画像データを構成する各画素の階調又は濃度に対応し、隣接するドットと一定の周期性を有さなく、パターンの塗膜全体としては、均一ではないように制御する
ことを特徴とする請求項3から請求項6までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項8】
前記基板上に形成されるパターン部と非パターン部の境界のパターン部内側の縁を形成するドットの1ドットあたりのインクの液量が略同一となるように制御する
ことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項9】
凸形状部分のある基板に対して、凸形状部分の縁を形成するドットの1ドットあたりのインクの液量が略同一となるように制御する
ことを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項10】
凸形状部分のある基板に対して、凸形状部の底面の内側と外側との境界の外側の縁を形成するドットが、凸形状部の縁を形成するドットより1ドットあたりのインク液量が多くなるように制御する
ことを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項11】
凸形状部分のある基板に対して、凸形状部の底面の内側と外側との境界の外側の縁の面を形成するドットの液量が、凸形状部に接する面から外側方向の面にかけて連続的に変化するよう制御する
ことを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項12】
前記パターンを構成するドットの塗膜の平均厚さが、15μm以上であるように制御する
ことを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項13】
前記パターンを構成する各ドットの塗膜の形成のために着弾させる前記インクの液量を複数変える
ことを特徴とする請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項14】
前記インクとして、ホットメルトタイプ、ゲル化タイプ又はチキソトロピータイプのいずれかのタイプのインクを用いる
ことを特徴とする請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項15】
前記インクとして、ソルダーレジストインクを用いる
こと特徴とする請求項1から請求項14までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項16】
パターンの画像データに基づきパターンを形成するインクジェット印刷装置であって、
請求項1から請求項15までのいずれか一項に記載のパターン形成方法によりパターンを形成する
ことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン形成方法に関する。より詳しくは、高精細でスジやまだらムラがない、インクジェット印刷方式によるパターン形成を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機能性材料を含むインクを用いたインクジェット印刷方式(以下において、単に「インクジェット方式」ともいう。)により、電子デバイスのパターンを形成する技術の研究開発が進められている。
【0003】
特許文献1には液滴吐出方式(インクジェット方式)による層間絶縁膜を有する多層配線基板の製造方法が開示されているが、基板とインクの組み合わせによってはバルジが発生するといった問題や、異なる基板に跨ってパターン形成を行う場合に、各基板のインクに対する濡れ性の違いにより、インクが濡れ性の高い基板側に流れてしまうといった問題が生じた。
【0004】
そこで、特許文献2には、絶縁膜形成材料の液滴を基板上の下地の濡れ特性に基づいて、周縁部からの距離を異ならせて塗布する方法が開示されている。しかし、各下地の濡れ特性が大きく異なると、インクが流れてしまうといった問題が生じた。また、凹凸のある基板に跨ってパターン形成を行う場合においても、インクが流れてしまうといった問題が生じた。
【0005】
これを受けて、本願発明者の発明を開示した特許文献3において、インクジェット法による絶縁層のパターン形成における、出射時及び着弾後のインクの粘度を規定することにより上記問題の解決を図ったが、用いた相変化機構を有する絶縁層形成インクは、着弾後のドット固定性が高いため、スキャン方向でスジ状のムラの発生については、更なる改善の余地があると考えられる。
【0006】
また、特許文献4では、インクジェット方式のワンパスプリンタにおいて、隣接する複数の画素を一組のグループとし、グループ内のある一画素で吐出する液滴量を調整することにより、一組のグループ内の吐出する画素数を減らし、搬送方向の光沢スジを抑制することができると記載されている。しかし、この方法をマルチパス方式において適用すると、搬送方向と直交する方向のスジが見られることが、我々の検討でわかった。
【0007】
高精細なパターン印刷を目的として高解像度にする場合、主にマルチパス方式が用いられるが、マルチパス方式での印刷はパス間の時間が長く、スジ状のムラが起こりやすい。
なお、スジ状のムラは、外観だけでなく、絶縁膜や導電膜を形成する際には、絶縁ムラや導電ムラとなってしまうため、大きな問題となる。
【0008】
さらに、基板の凸部にパターンを形成する場合、段差の部分でパターンの被覆が十分でなくなり、絶縁や導電不良が発生するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-309369号公報
【文献】特開2010-231287号公報
【文献】国際公開第2015/002316号
【文献】特開2012-162057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、高精細でスジやまだらムラがなく、絶縁体や導電体といった機能性材料を含むインクを用いた場合においても、絶縁特性や導電特性が均一であり、かつ、塗膜の密着が良好な、インクジェット印刷方式によるパターン形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程においてスジやまだらムラの原因が、インク液滴を着弾させる位置の周期性或いはランダム性と関連していることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0012】
1.パターンの画像データに基づくインクジェット印刷方式によるパターン形成方法であって、
複数のノズル孔が一列方向に並んだインク吐出装置のノズル列方向に対して垂直及び平行に複数回移動してノズルから印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、
前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ、
前記パターンの前記画像データを構成する各画素の階調又は濃度に対応させて、前記基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液量が、
隣接するドットと一定の周期性を有さなく、パターンの塗膜全体としては、均一ではないように制御する
ことを特徴とするパターン形成方法。
【0013】
2.パターンの画像データに基づくインクジェット印刷方式によるパターン形成方法であって、
複数のノズル孔が一列方向に並んだインク吐出装置のノズル列方向に対して垂直及び平行に複数回移動してノズルから印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、
前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ、
前記基板上に形成する前記パターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液滴の着弾が複数回にわたり、かつ、
前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記画像データを構成する各画素が配列された行及び列の順番のとおりでなく、かつ一定の周期性を有さないように制御する
ことを特徴とするパターン形成方法。
【0014】
3.パターンの画像データに基づくインクジェット印刷方式によるパターン形成方法であって、
複数のノズル孔を有するインク吐出装置又は印刷媒体としての基板が複数回移動し、前記インク吐出装置のノズルから前記印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、
前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ、
前記基板上に形成する前記パターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液滴の着弾が複数回にわたり、かつ、
前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しないように制御する
ことを特徴とするパターン形成方法。
【0015】
4.前記パターンの前記画像データを、重ねて印刷した場合に各画素が重ならないよう、かつ、前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しないように、複数に分割し、
前記分割した前記画像データを順次重ねて印刷する
ことを特徴とする第3項に記載のパターン形成方法。
【0016】
5.前記インク吐出装置が、相対的に主走査方向に往復移動し、
往路及び復路どちらにおいてもインクの液滴を吐出する
ことを特徴とする第3項又は第4項に記載のパターン形成方法。
【0017】
6.前記インク吐出装置が、相対的に副走査方向に対して正方向及び逆方向の組み合わせで移動する
ことを特徴とする第3項から第5項までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【0018】
7.前記基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液量が、前記パターンの前記画像データを構成する各画素の階調又は濃度に対応し、隣接するドットと一定の周期性を有さなく、パターンの塗膜全体としては、均一ではないように制御する
ことを特徴とする第3項から第6項までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【0019】
8.前記基板上に形成されるパターン部と非パターン部の境界のパターン部内側の縁を形成するドットの1ドットあたりのインクの液量が略同一となるように制御する
ことを特徴とする第1項から第7項までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【0020】
9.凸形状部分のある基板に対して、凸形状部分の縁を形成するドットの1ドットあたりのインクの液量が略同一となるように制御する
ことを特徴とする第1項から第8項までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【0021】
10.凸形状部分のある基板に対して、凸形状部の底面の内側と外側との境界の外側の縁を形成するドットが、凸形状部の縁を形成するドットより1ドットあたりのインク液量が多くなるように制御する
ことを特徴とする第1項から第9項までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【0022】
11.凸形状部分のある基板に対して、凸形状部の底面の内側と外側との境界の外側の縁の面を形成するドットの液量が、凸形状部に接する面から外側方向の面にかけて連続的に変化するよう制御する
ことを特徴とする第1項から第10項までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【0023】
12.前記パターンを構成するドットの塗膜の平均厚さが、15μm以上であるように制御する
ことを特徴とする第1項から第11項までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【0024】
13.前記パターンを構成する各ドットの塗膜の形成のために着弾させる前記インクの液量を複数変える
ことを特徴とする第1項から第12項までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【0025】
14.前記インクとして、ホットメルトタイプ、ゲル化タイプ又はチキソトロピータイプのいずれかのタイプのインクを用いる
ことを特徴とする第1項から第13項までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【0026】
15.前記インクとして、ソルダーレジストインクを用いる
こと特徴とする第1項から第14項までのいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【0027】
16.パターンの画像データに基づきパターンを形成するインクジェット印刷装置であって、
第1項から第15項までのいずれか一項に記載のパターン形成方法によりパターンを形成する
ことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【発明の効果】
【0028】
本発明の上記手段により、高精細でスジやまだらムラがなく、絶縁体や導電体といった機能性材料を含むインクを用いた場合においても、絶縁特性や導電特性が均一であり、かつ、塗膜の密着が良好な、インクジェット方式によるパターン形成方法を提供することができる。
【0029】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用いることにより、例えば、インクの吐出の安定性が得られやすいため、インクを精度よく基板に付与できる。また、基板に付与されたインクは、基板に対する接触線の固定(ピニング)が速やかに進行し易くなり、インクの流動を防止できることなどが推定されており、バルジの発生を抑制して均一な幅の線の形成や、異なる部材にまたがっての高精細パターンの形成が可能になると考えられる。
【0030】
また、基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液量を、隣接するドットと一定の周期性を有さなく、パターンの塗膜全体としては、均一ではないように制御することで、スキャン方向のスジやまだらムラの発生を抑制でき、スジやまだらムラ起因による絶縁特性や導電特性の不均一をなくすことができる。
【0031】
そして、複数のノズル孔が一列方向に並んだインク吐出装置のノズル列方向に対して垂直及び平行に複数回移動してノズルから印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成するマルチパス方式にすることで、高解像度で高精細なパターンを印刷することが容易になる。
【0032】
本発明に係るインクジェット印刷方式によるパターン形成方法について、従来のパターン形成方法と対比して説明する。
例えば、画像データを解像度600dpiのインクジェットヘッドを用いて、出力解像度が1200dpiとなるように、インクジェットヘッドをノズル列方向に移動して、複数回の移動(パス)で印刷する方法について説明する。
【0033】
図1に示すインクジェット印刷方式は、ブロック方式といわれるもので、1回目の搬送方向のスキャンで、同一ノズルで印刷し、ヘッドを1200dpiの出力解像度の距離(21.2μm)だけノズル列方向に移動し2回目のスキャンで1200dpiの印刷が完了する。
この場合、
図1のとおり液滴の着弾は図示するように「1スキャン」及び「2スキャン」と連続で行われ、搬送方向にスジが発生しやすくなる。
【0034】
図2に示すインクジェット印刷方式は、インターリーブ方式といわれるもので、1回目の搬送方向のスキャンで、同一ノズルにより1画素とばしで印刷し、2回目の搬送方向のスキャンで1回目のスキャンで印刷された部分の間の画素を印刷し、その後ヘッドを1200dpiの解像度の距離(21.2μm)だけノズル列方向に移動し、同様に3回目、4回目と印刷して出力解像度1200dpiの印刷が完了する。
この場合も図示するように着弾順が「1スキャン」~「4スキャン」のように周期的になり、スジが発生しやすくなる。
【0035】
図3に示すインクジェット印刷方式は、本発明に係るいわゆる「ランダム」な着弾であるランダムマルチパス方式である。着弾順がランダムになるように合計8回のパスで1200dpiの印刷を完了している。なお、パス回数はさらに多くしてもかまわない。また、搬送方向をさらに間引いてパス回数を増やしてもよい。
このランダムマルチパス方式によれば、液滴の着弾がランダムに行われるので、スジが目立たなくなる。
【0036】
なお、本発明でいう「ランダム」とは、後述する条件範囲内に制御することを前提とした条件下でのパターンの形成方法において、ドットの液量又はドットの相互の位置関係等について、全体的な同一性又は周期性等の規則性が無い無作為性又は予測不可能性が認識される状態をいう。具体的には、例えば
図3に示されている状態をいう。
【0037】
以上の、対比例から推察されるように、本発明の効果の発現理由としては、本発明のパターン形成方法においては、インク液滴の着弾箇所及び順序のランダム性により、印刷された画像における隣接する各画素又はドット間で周期性が無く全体的にスジやムラが発生しにくくなったものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】ブロック方式によるパターン形成方法を示す模式図
【
図2】インターリーブ方式によるパターン形成方法を示す模式図
【
図3】本発明に係るランダムマルチパス方式によるパターン形成方法を示す模式図
【
図4】各画素の階調又は濃度が均一な画像データを示す図
【
図5】各画素の階調又は濃度が一定の周期性を有する画像データを示す図
【
図6】隣接する画素と一定の周期性を有さない256階調のグレー画像を示す図
【
図7】
図6の画像データを基に印刷し形成されたドットの液量配分のイメージ図
【
図8A】マルチパス方式によるインクジェット印刷装置を示す模式図(正面図)
【
図8B】マルチパス方式によるインクジェット印刷装置を示す模式図(上面図)
【
図9】解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて1200dpiの印刷をブロック印字により行う方法を示す図
【
図10】形成されるドットの液量が均一なランダムマルチパス方式に用いられる画像データを示す図
【
図11】解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて1200dpiの印刷をランダムな着弾で行う方法を示す図
【
図19】印刷物3のφ500μmの抜き円の100倍での光学顕微鏡の写真
【
図21】印刷物4のφ500μmの抜き円の100倍での光学顕微鏡の写真
【
図22】Cu配線パターンのついたプリント基板の拡大模式図
【
図23】実施例5のプリント基板の上に印刷する画像データを示す図
【
図28】印刷物9(比較例1)の100倍での光学顕微鏡の写真
【
図29】ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて解像度2400dpiの印刷をランダムな着弾かつ分割印刷(画像分割数2)で行う方法を示す図
【
図30A】ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて解像度2400dpiの印刷をランダムな着弾かつ分割印刷(画像分割数4)で行う方法を示す図(1スキャン~8スキャン)
【
図30B】ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて解像度2400dpiの印刷をランダムな着弾かつ分割印刷(画像分割数4)で行う方法を示す図(9スキャン~16スキャン)
【
図31】ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて解像度2400dpiの印刷をランダムな着弾で行う方法を示す図
【
図32】ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて解像度2400dpiの印刷をランダムな着弾かつ分割印刷(画像分割数2)で行う方法のうち、1スキャン及び5スキャンにおいて、左端のノズルと真ん中のノズルからそれぞれ吐出された、液滴を着弾させるドットの位置を同一とする場合について示す図
【
図33】マルチパス方式によるインクジェット印刷装置100を示す上面図
【
図34】インクジェット印刷装置1(ヘッドがX方向に移動し、基板がY方向に移動する)で印刷を行う方法を示す図
【
図35】インクジェット印刷装置100(ヘッドがY方向に移動し、基板がX方向に移動する)で印刷を行う方法を示す図
【
図36】基板がX方向にもY方向にも移動するインクジェット印刷装置で印刷を行う方法を示す図
【
図37】ヘッドがX方向にもY方向にも移動するインクジェット印刷装置で印刷を行う方法を示す図
【
図38】インク吐出装置が、相対的に主走査方向に往復移動し、往路及び復路どちらにおいてもインクの液滴を吐出する双方向印刷を行う方法を示す図
【
図39】インク吐出装置が、相対的に副走査方向に対して正方向及び逆方向の組み合わせで移動する正逆混合印刷を行う方法を示す図
【
図40】ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを4個用いて、解像度2400dpiの印刷を分割印刷で行う方法を示す図
【
図41】ノズル列の方向が、X方向及びY方向どちらとも垂直又は平行でなく、斜めである場合の印刷方法を示す図
【
図42】インク吐出装置自体の方向が、X方向及びY方向どちらとも垂直又は平行でなく、斜めである場合の印刷方法を示す図
【
図43】多階調な画像データを使用し、ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて解像度2400dpiの印刷をランダムな着弾で行う方法を示す図
【
図44】解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて2400dpiの印刷をインターリーブ方式かつ分割印刷により行う方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明のパターン形成方法は、パターンの画像データに基づくインクジェット印刷方式によるパターン形成方法であって、複数のノズル孔が一列方向に並んだインク吐出装置のノズル列方向に対して垂直及び平行に複数回移動してノズルから印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ少なくとも、(1)前記パターンの前記画像データを構成する各画素の階調又は濃度に対応させて、前記基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液量が、隣接するドットと一定の周期性を有さなく、パターンの塗膜全体としては、均一ではないように制御する、又は、(2)前記基板上に形成する前記パターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液滴の着弾が複数回にわたり、かつ、前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記画像データを構成する各画素が配列された行及び列の順番のとおりでなく、かつ一定の周期性を有さないように制御する、ことを特徴とする。
この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0040】
また、本発明のパターン形成方法は、(3)パターンの画像データに基づくインクジェット印刷方式によるパターン形成方法であって、複数のノズル孔を有するインク吐出装置又は印刷媒体としての基板が複数回移動し、前記インク吐出装置のノズルから前記印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ、前記基板上に形成する前記パターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液滴の着弾が複数回にわたり、かつ、前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しないように制御する、ことを特徴とする。
【0041】
本発明の実施形態としては、上記(3)のパターン形成方法について、スジやまだらムラ発生を防止する等の観点から、前記パターンの前記画像データを、重ねて印刷した場合に各画素が重ならないよう、かつ、前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しないように、複数に分割し、前記分割した前記画像データを順次重ねて印刷することが好ましい。
【0042】
本発明の実施形態としては、上記(3)のパターン形成方法について、スジやまだらムラ発生を防止する等の観点から、前記インク吐出装置が、相対的に主走査方向に往復移動し、往路及び復路どちらにおいてもインクの液滴を吐出することが好ましい。
【0043】
本発明の実施形態としては、上記(3)のパターン形成方法について、スジやまだらムラ発生を防止する等の観点から、前記インク吐出装置が、相対的に副走査方向に対して正方向及び逆方向の組み合わせで移動することが好ましい。
【0044】
本発明の実施形態としては、上記(3)のパターン形成方法について、スジやまだらムラ発生を防止する等の観点から、前記基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液量が、前記パターンの前記画像データを構成する各画素の階調又は濃度に対応し、隣接するドットと一定の周期性を有さなく、パターンの塗膜全体としては、均一ではないように制御することが好ましい。
【0045】
本発明の実施形態としては、スジやまだらムラ発生を防止する等の観点から、前記基板上に形成されるパターン部と非パターン部の境界のパターン部内側の縁を形成するドットの1ドットあたりのインクの液量が略同一となるように制御することが好ましい。
【0046】
本発明の実施形態としては、絶縁や導電不良などの発生を防ぐ等の観点から、凸形状部分のある基板に対して、凸形状部分の縁を形成するドットの1ドットあたりのインクの液量が略同一となるように制御することが好ましい。
【0047】
本発明の実施形態としては、絶縁や導電不良などの発生を防ぐ等の観点から、凸形状部分のある基板に対して、凸形状部の底面の内側と外側との境界の外側の縁を形成するドットが、凸形状部の縁を形成するドットより1ドットあたりのインク液量が多くなるように制御することが好ましい。
【0048】
本発明の実施形態としては、絶縁や導電不良などの発生を防ぐ等の観点から、凸形状部分のある基板に対して、凸形状部の底面の内側と外側との境界の外側の縁の面を形成するドットの液量が、凸形状部に接する面から外側方向の面にかけて連続的に変化するよう制御することが好ましい。
【0049】
本発明の実施形態としては、絶縁や導電不良などの発生を防ぐ等の観点から、前記パターンを構成するドットの塗膜の平均厚さが、15μm以上であるように制御することが好ましい。
【0050】
本発明の実施形態としては、スジやまだらムラ発生を防止する等の観点から、前記パターンを構成する各ドットの塗膜の形成のために着弾させる前記インクの液量を複数変えることが好ましい。
【0051】
本発明の実施形態としては、高精細パターンの形成性等の観点から、前記インクとして、ホットメルトタイプ、ゲル化タイプ又はチキソトロピータイプのいずれかのタイプのインクを用いることが好ましい。
【0052】
本発明の実施形態としては、発明の目的に合ったアプリケーションの観点から、例えば回路パターンを絶縁膜で保護する場合の問題点を本発明の解決課題としている観点から、前記インクとして、ソルダーレジストインクを用いることが好ましい。
【0053】
本発明のパターン形成方法は、インクジェット印刷装置において、好適に用いられる。
【0054】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0055】
1 本発明のパターン形成方法の概要
本発明のパターン形成方法は、パターンの画像データに基づくインクジェット印刷方式によるパターン形成方法であって、複数のノズル孔が一列方向に並んだインク吐出装置のノズル列方向に対して垂直及び平行に複数回移動してノズルから印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ少なくとも、
(1)前記パターンの前記画像データを構成する各画素の階調又は濃度に対応させて、前記基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液量が、隣接するドットと一定の周期性を有さなく、パターンの塗膜全体としては、均一ではないように制御する、又は
(2)前記基板上に形成する前記パターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液滴の着弾が複数回にわたり、かつ、前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記画像データを構成する各画素が配列された行及び列の順番のとおりでなく、かつ一定の周期性を有さないように制御する、ことを特徴とする。
【0056】
また、(3)パターンの画像データに基づくインクジェット印刷方式によるパターン形成方法であって、複数のノズル孔を有するインク吐出装置又は印刷媒体としての基板が複数回移動し、前記インク吐出装置のノズルから前記印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ、前記基板上に形成する前記パターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液滴の着弾が複数回にわたり、かつ、前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しないように制御する、ことを特徴とする。
【0057】
なお、本発明で用いられるパターン形成方式は、前述のように、複数のノズル孔が一列方向に並んだインク吐出装置のノズル列方向に対して垂直及び平行に複数回移動してノズルから印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出して形成する所謂「マルチパス方式」を用いることを特徴とする。本発明で用いられる装置の詳細については後述する。
【0058】
(3)については、複数のノズル孔を有するインク吐出装置又は印刷媒体としての基板が複数回移動し、前記インク吐出装置のノズルから前記印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式を用いることを特徴とする。
【0059】
また、本発明で用いられるインクは、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であることを特徴とする。インクについての詳細な説明は後述する。
以下において、本発明の実施形態及び構成要素について順次説明する。
【0060】
1.1 ランダムドロップマルチパス方式によるパターン形成方法
本発明に係るパターン形成方法は、パターンの画像データを構成する各画素の階調又は濃度に対応させて、基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いるインクの液量が、隣接するドットと一定の周期性を有さなく、パターンの塗膜全体としては、均一ではないように制御することを特徴とする。
【0061】
なお、ここで、「均一でない」とは、各ドット間では液量の相違差が±5%の範囲内で実質上同じところもあるが、周期的に同じ液量のドットが並ばないことをいう。
ドットの形成に用いるインクの液量が、隣接するドットと一定の周期性を有する例としては、
図4及び
図5に示すような、各画素の階調又は濃度が一定の周期性を有する画像データを用いて印刷しパターン形成を行う場合である。
【0062】
本明細書では、上記制御条件を満たす方式を「ランダムドロップマルチパス方式」と称することにする。
なお、本発明でいう「ランダム」とは、後述する条件範囲内に制御することを前提とした条件下でのパターンの形成方法において、ドットの液量又はドットの相互の位置関係等について、全体的な同一性又は周期性等の規則性が無い無作為性又は予測不可能性が認識される状態をいう。具体的には、例えば
図7に示されている状態をいう。
【0063】
なお、本発明において、「ドット」とは、インクジェット印刷法によって印刷媒体に形成されるインク画像を構成する最小単位の画素をいい、インク液の1液滴で形成される塗膜部分をいう。従って、印刷対象の画像データにおける1画素に対応するインク画像における画素は、複数のドット(液滴)で形成される場合もあり得る。
【0064】
以下、本発明に係るランダムドロップマルチパス方式によるパターン形成方法の実施形態の一例について説明するが、下記例の実施形態・態様に限られず、上記制御条件を満たしていれば、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0065】
本実施形態における画像データ及びインクの液量配分について説明する。
本発明に係るランダムドロップマルチパス方式は、各画素の階調又は濃度に対応させてドットの液量を変えるため、ランダムドロップマルチパス方式の画像データは、例として
図6に示すような、隣接する画素と一定の周期性を有さない256階調のグレー画像であることが好ましい。
【0066】
多階調のランダムな画像データの作製方法としては、グレー画像を画像処理して行うことができる。例えば、256階調の30%グレー画像をアドビ社のPhotoshopでノイズフィルターをかけることで
図16のようなランダムの多階調グレーの画像データを作製できる。
【0067】
この多階調の画像データを基に、例えば、0~86階調の黒部分は7pL、87~172階調のグレー部分は3.5pL、173~255階調の白部分は0pLのように液量を配分することができる。
図7は、
図6の画像データを基に印刷し形成されたドットの液量配分のイメージ図である。液量がランダムに配置されることで、スジやまだらムラの発生が抑制できる。
【0068】
次に、本実施形態におけるインクジェット印刷装置及び印刷方法について説明する。
図8は、本実施形態におけるインクジェット印刷(プリント)装置1を示す模式図である。装置の詳細については後述するが、
図8に示す装置において、X方向のリニアステージ4に、インクを吐出する解像度600dpiのインクジェットヘッド3をつけたキャリッジ2が搭載されており、X方向にヘッド3が移動する。また、Y方向のリニアステージ6には基板を置くテーブル5が搭載され、Y方向(搬送方向)に移動する。
【0069】
本実施形態におけるランダムドロップマルチパス方式によるパターン形成は、ブロック印字により行うことができ、
図9は、解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて1200dpiの印刷をブロック印字により行う方法を示す。
【0070】
図8で示すインクジェットヘッド3がY方向(搬送方向)に移動し、画像データに応じて配分された液量で1スキャン目の印刷を行う。その後、ヘッドがX方向に21.2μm(1200dpiの1画素相当)移動し、画像データに応じて配分された液量で2スキャン目の印刷を行い1200dpiの印刷が完了する。
【0071】
1.2 ランダムマルチパス方式(A)によるパターン形成方法
本発明の実施形態としては、基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いるインクの液滴の着弾が複数回にわたり、かつ、液滴を着弾させるドットの位置が、画像データを構成する各画素が配列された行及び列の順番のとおりでなく、かつ一定の周期性を有さないように制御することも好ましい。
【0072】
本明細書では、上記制御条件を満たす方式を「ランダムマルチパス方式(A)」と称することにする。
【0073】
以下、本発明に係るランダムマルチパス方式(A)によるパターン形成方法の実施形態の一例について説明するが、下記例の実施形態・態様に限られず、上記制御条件を満たしていれば、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0074】
図10は、ランダムマルチパス方式に用いられる画像データであり、各ドットが均一な液量で形成される。また、ランダムマルチパス方式において用いられる
図6のような多階調のランダムな画像データを用いて、異なる液量で各ドットを形成してもよい。
【0075】
本実施形態におけるインクの着弾について説明する。
1回のスキャンにおいて、配列された行及び列の方向に連続せず、間隔をあけて着弾し、その間隔が一定でないようにドットを形成する。2回目以降のスキャンについては、ドットが形成されていない位置に、同様にしてドットを形成し、ドットが重複しないようにする。各回のスキャンにおいて、形成するドットの数は一定でなくてもよい。
なお、スキャンの回数は更に増やしてもよい。
【0076】
次に、本実施形態における印刷方法について説明する
図11は、解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて1200dpiの印刷をランダムな着弾で行う方法を示す。
図3に示す本実施形態におけるランダムマルチパス方式によるパターン形成は、
図11に示すように、インクジェットヘッドがY方向(搬送方向)に4回のスキャンによる印刷をした後、X方向に21.2μm(1200dpiの1画素相当)移動し、再度Y方向に4回のスキャンによる印刷をすることにより、合計8回の移動(パス)で印刷が完了する(装置については、
図8参照。)。
【0077】
1.3 ランダムマルチパス方式(B)によるパターン形成方法
本発明の実施形態としては、パターンの画像データに基づくインクジェット印刷方式によるパターン形成方法であって、複数のノズル孔を有するインク吐出装置又は印刷媒体としての基板が複数回移動し、前記インク吐出装置のノズルから前記印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ、前記基板上に形成する前記パターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液滴の着弾が複数回にわたり、かつ、前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しないように制御することを特徴とする。
【0078】
本明細書では、上記制御条件を満たす方式を「ランダムマルチパス方式(B)」と称することにする。
【0079】
以下、本発明に係るランダムマルチパス方式(B)によるパターン形成方法の実施形態の一例について説明するが、下記例の実施形態・態様に限られず、上記制御条件を満たしていれば、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0080】
1.2に記載のランダムマルチパス方式(A)によるパターン形成方法においては、複数のノズル孔が一列方向に並んだインク吐出装置のノズル列方向に対して垂直及び平行に複数回移動してノズルから印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式を用いているが、本実施形態については、複数のノズル孔を有するインク吐出装置又は印刷媒体としての基板が複数回移動し、前記インク吐出装置のノズルから前記印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式を用いる。
【0081】
具体的には後述するが、発明者が更に検討を重ねたところ、インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向は、ノズル列と垂直又は平行でなくてもよく、インク吐出装置及び印刷媒体としての基板は、どちらか一方のみが移動してパターンを形成しても、両方が移動してパターンを形成してもスジやムラが発生しづらいことがわかった。
【0082】
また、1.2に記載のランダムマルチパス方式(A)によるパターン形成方法においては、液滴を着弾させるドットの位置が、画像データを構成する各画素が配列された行及び列の順番のとおりでなく、かつ一定の周期性を有さないように制御することを特徴としていたが、本実施形態については、インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しないように制御することを特徴としている。つまり、インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において、一定の周期性を有さないようにし、さらに、主走査方向において連続しないよう制御すれば、副走査方向については一部連続していても、スジやムラが発生しづらいことがわかった。
【0083】
1.3.1 分割印刷
本発明の実施形態としては、前記パターンの前記画像データを、重ねて印刷した場合に各画素が重ならないよう、かつ、前記液滴を着弾させる前記ドットの位置が、前記インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しないように、複数に分割し、前記分割した前記画像データを順次重ねて印刷することも好ましい。
【0084】
本明細書では、上記制御条件を満たす印刷方法を「分割印刷」と称することにする。
【0085】
以下、本発明に係る分割印刷によるパターン形成方法の実施形態の一例について説明するが、下記例の実施形態・態様に限られず、上記制御条件を満たしていれば、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0086】
図29は、ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて解像度2400dpiの印刷をランダムな着弾かつ分割印刷で行う方法を示す。
図29では、各ドットが均一な液量で形成されている元画像データを用いるが、
図6のような多階調のランダムな元画像データを用いて、異なる液量で各ドットを形成してもよい。
【0087】
分割印刷では、この元画像データを二つに分割し、分割画像データを作製したのち、分割画像データごとに順次重ねて印刷する。そのため、重ねて印刷した場合に各画素が重ならないように分割画像データを作製する。また、液滴を着弾させるドットの位置が、インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しないように分割画像データを作製する。
【0088】
分割画像データは、アドビ社の画像処理ソフトPhotoshop 2020などの画像処理ソフトで作製することができる。例えば、グレー画像を、Photoshopを用いて誤差拡散法などでモノクロ2階調化し、白と黒のランダムな画像を作製する。次にその画像を色調反転させて白と黒の反転した画像を作製する。得られた2枚の画像は着弾がランダムで重なり合わない黒ベタデータの分割画像となる。
【0089】
以下、分割印刷について、
図29、30及び31を比較して説明する。
図31は、ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて解像度2400dpiの印刷をランダムな着弾で行う方法を示す。この方法では、主走査方向の列ごとに印刷を完了させる。
【0090】
図31では、主走査方向の列の印刷を、例えば1スキャン及び2スキャンの連続する2回のスキャンで完了している。一方、分割印刷では、
図29で示す通り、1スキャン及び5スキャンの連続しない2回のスキャンで完了している。
【0091】
このように、分割印刷では、主走査方向の列の印刷を完了するまでの時間が比較的長くなるため、インクが固定しやすく、インクの流動を抑制でき、スジやムラが発生しにくくなる。
【0092】
図30A及びBは、元画像データを四つに分割し、
図29と同様の分割印刷を行う方法を示す。この場合、主走査方向の列の印刷を1スキャン、5スキャン、9スキャン及び13スキャンの連続しない4回のスキャンで完了している。
【0093】
このように、元画像データの分割数を増やすことにより、主走査方向の列の印刷を完了するまでのスキャン数が増えるため、印刷を完了するまでの時間が更に長くなり、よりスジやムラが発生しにくくなり、表面粗さを低減できる。
【0094】
また、主走査方向の列の印刷が完了するまでに、行の方向にも印刷が行われるため、着弾時の粘度が比較的高いインクや相転移時間の比較的早いインクを用いる場合であっても、主走査方向の線状にインクが固定化されにくく、スジやムラが発生しにくい。さらに、スキャン数が増えることで、隣接する着弾で、先に着弾したインク度(ドット)との相互作用で着弾ずれが起きることを低減でき、パターン形成性が向上する。
【0095】
本実施形態において、ランダムな着弾とは、液滴を着弾させるドットの位置が、インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向において一定の周期性を有さず、主走査方向において連続しないように制御することをいう。
【0096】
図32は、
図29と同様の分割印刷を行う方法を示しているが、1スキャン及び5スキャンにおいて、左端のノズルと真ん中のノズルからそれぞれ吐出された、液滴を着弾させるドットの位置が同一である。
【0097】
本発明の解決課題であるスジやムラは、液滴を着弾させるドットの位置が、主走査方向の列の方向において周期的又は規則的であると発生しやすいが、行の方向において周期的又は規則的であっても発生しづらい。そのため、
図32に示すように、一部のスキャンにおいて、異なるノズルからそれぞれ吐出された液滴を着弾させるドットの位置を同一としても、スジやムラの発生を十分に抑制できる。
【0098】
1.3.2 双方向印刷
本発明の実施形態としては、インク吐出装置が、相対的に主走査方向に往復移動し、往路及び復路どちらにおいてもインクの液滴を吐出することも好ましい。
【0099】
本明細書では、上記制御条件を満たす印刷方法を「双方向印刷」と称することにする。
【0100】
以下、本発明に係る双方向印刷によるパターン形成方法の実施形態の一例について説明するが、下記例の実施形態・態様に限られず、上記制御条件を満たしていれば、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0101】
図38は、インク吐出装置が、相対的に主走査方向に往復移動し、往路及び復路どちらにおいてもインクの液滴を吐出する双方向印刷を行う方法を示す。なお、
図38では、分割印刷を行っているが、必ずしも分割印刷を行う必要はない。
【0102】
1スキャンにおいて、インク吐出装置は、インクの液滴を吐出しながら矢印の方向に相対的に移動(往路移動)する。次に、2スキャンにおいて、1スキャンで形成したドットの列の隣接する右側にドットの列が形成されるよう、インク吐出装置は矢印方向に相対的に移動し、インクの液滴を吐出しながら矢印の方向に相対的に移動(復路移動)する。これを繰り返し、合計8回のスキャンで印刷が完了する。
【0103】
なお、「相対的に移動する」とは、本実施形態においては、インク吐出装置及び印刷媒体としての基板は、どちらか一方のみが移動しても、両方が移動してもよく、インク吐出装置と印刷媒体としての基板との二者の位置関係において、相対的にインク吐出装置が移動することをいう。
【0104】
したがって、
図38の1スキャンにおいては、基板を固定して、インク吐出装置を矢印の方向に移動させてもよいし、インク吐出装置を固定して、基板を矢印とは逆の方向に移動させてもよい。
【0105】
図29で示すような、片方向印刷では、インク吐出装置は相対的に主走査方向に往復移動するが、往路においてのみインクの液滴を吐出し、復路は移動するのみである。よって、双方向印刷を行うことにより、印刷時間を短縮でき、生産性が向上する。
【0106】
1.3.3 正逆混合印刷
本発明の実施形態としては、インク吐出装置が、相対的に副走査方向に対して正方向及び逆方向の組み合わせで移動することも好ましい。
【0107】
本明細書では、上記制御条件を満たす印刷方法を「正逆混合印刷」と称することにする。
【0108】
以下、本発明に係る正逆混合印刷によるパターン形成方法の実施形態の一例について説明するが、下記例の実施形態・態様に限られず、上記制御条件を満たしていれば、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0109】
図39は、インク吐出装置が、相対的に副走査方向に対して正方向及び逆方向の組み合わせで移動する正逆混合印刷を行う方法を示す。なお、
図39では、分割印刷を行っているが、必ずしも分割印刷を行う必要はない。
【0110】
1スキャンで、インク吐出装置は、相対的に主走査方向に移動し、インクの液滴を吐出する。次に、2スキャンにおいて、1スキャンで形成したドットの列の右側にドット一つ分の間隔を開けてドットの列が形成されるよう、インク吐出装置は矢印方向に相対的に移動し、更に主走査方向に移動し、インクの液滴を吐出する。そして、3スキャンにおいて、1スキャンで形成したドットの列と2スキャンで形成したドットの列の間にドットの列が形成されるよう、インク吐出装置は矢印方向に相対的に移動し、更に主走査方向に移動し、インクの液滴を吐出する。これを繰り返し、合計8回のスキャンで印刷が完了する。
【0111】
図29で示すような、インク吐出装置の相対的な移動の方向が、一方向のみである正方向印刷では、場合によっては形成したドットに隣接するように更にドットが形成されるため、ドットのインクが固定化する前に隣接するドットが形成され、スジやムラの原因となる。一方、正逆混合印刷では、形成されたドットと間隔を空けてドットが形成されるため、ドットのインクが固定化した後に隣接するドットが形成され、スジやムラが発生しにくくなる。また、正逆混合印刷では、形成されたドットと間隔を空けてドットが形成されるため、隣接する着弾で、先に着弾したインク(ドット)との相互作用で着弾ずれの発生を低減でき、パターン形成性が向上する。
【0112】
1.3.4 ランダムドロップマルチパス方式の適用
本発明の実施形態としては、さらに、基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いるインクの液量が、画像データを構成する各画素の階調又は濃度に対応し、隣接するドットと一定の周期性を有さなく、パターンの塗膜全体としては、均一ではないように制御することも好ましい。
【0113】
図43は、多階調な画像データを使用し、ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて解像度2400dpiの印刷をランダムな着弾で行う方法を示す。
【0114】
本発明に係るランダムマルチパス方式に用いられる画像データとしては、
図31のような画像データを用いて、均一な液量で各ドットを形成してもよいが、
図43のような多階調のランダムな画像データを用いて、各画素の階調又は濃度に対応させて、異なる液量で各ドットを形成してもよい。このように、ランダムドロップマルチパス方式とランダムマルチパス方式を組み合わせることにより、隣接するドットのランダム性が更に高まり、スジやムラがより発生しにくくなる。
【0115】
なお、本発明の実施形態としては、形成するパターンの形状によっては、基板上に形成されるパターン部と非パターン部の境界のパターン部内側の縁を形成するドット(液滴)の1ドット(液滴)あたりのインクの液量が略同一となるように制御することも好ましい。なお、ここで「液量が略同一」とは、液量の相違差が±5%以内であることをいう。
【0116】
また、印刷媒体が電子デバイスの配線基板のように凸形状部分のある基板である場合、凸形状部分のある基板に対して、凸形状部分の縁を形成するドット(液滴)の1ドット(液滴)あたりのインクの液量が略同一となるように制御することも好ましい。
【0117】
さらに、凸形状部分のある基板に対して、凸形状部の底面の内側と外側との境界の外側の縁を形成するドット(液滴)が、凸形状部の縁を形成するドット(液滴)より1ドット(液滴)あたりのインク液量が多くなるように制御することも好ましい。
【0118】
また、凸形状部分のある基板に対して、凸形状部の底面の内側と外側との境界の外側の縁の面を形成するドット(液滴)の液量が、凸形状部に接する面から外側方向の面にかけて連続的に変化するよう制御することも好ましい実施形態である。
【0119】
本発明の実施形態としては、用いるインクの性能及び形成するパターンの目的にもよるが、パターンを構成するドット(液滴)の塗膜の平均厚さが、15μm以上であるように制御することが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0120】
また、上記と同様の観点から、前記パターンを構成する各ドット(液滴)の塗膜の形成のために着弾させる前記インクの液量を複数変えることも好ましい実施形態である。
上記各種実施形態・条件等については、後記する実施例において具体的に説明する。
【0121】
1.4 インク
本発明の形成方法に用いるインクは、インクの吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2の比率η2/η1が100以上であることを特徴とする。
η2/η1を100以上とすることにより、バルジ発生の抑制などができ、高精細なパターンを形成できる。また、η2/η1を200以上、更には500以上とすることにより、異種部材や凹凸のある基板への高精細パターン形成が向上するため好ましい。
【0122】
なお、インク吐出時及び着弾時の粘度は、上記比率を満たす範囲内であれば、特に限定されるものではないが、吐出時の温度を例えば75℃にした時の粘度(η1)は、インクジェットヘッドの吐出性の点から3~15mPa・sの範囲とすることが好ましい。
一方、インク着弾時の温度を室温(25℃)としたときの粘度(η2)は、1×102~1×104mPa・sであることが好ましい。
粘度(η2)が、1×102~1×104mPa・sであることにより、着弾時にインクが基板上で固定化され、バルジなどの発生が抑制できる。
【0123】
本発明に係るパターンの形成方法において、特に当該インクを用いることにより、絶縁や導電不良などの発生を防ぐことが可能である。特に、異なる部材や凸形状のある部材に跨ってパターンを形成する場合において、効果は顕著である。
本発明においては、前記インクとして、後述するようなホットメルトタイプ、ゲル化タイプ又はチキソトロピータイプのいずれかのタイプのインクを用いることが好ましい。
【0124】
<粘度>
「着弾時の温度における粘度η2」とは、基板上におけるインクの濡れ広がりに起因するインクの流動(着弾の衝撃に起因するものではない。)が実質的に生起される前に到達するインクの粘度ということができ、具体的には、インクが基板に着弾してから1秒以内で到達する粘度であるが、本発明では、インクが着弾される際の基板の温度とする。
一方、「吐出時の温度における粘度η1」については、インクがヘッドから吐出された時点のヘッドの温度をとする。
【0125】
粘度測定は、温度制御可能なストレス制御型レオメータ(例えばPhysicaMCR300、AntonPaar社製)に前記インクをセットして100℃に加熱し、降温速度0.1℃/sの条件で、25℃まで冷却し、粘度測定を行う。測定は直径75.033mm、コーン角1.017°のコーンプレート(例えばCP75-1、Anton Paar社製)を用いて行うことができる。
また、温度制御は、温度制御装置を用いて、例えば、PhysicaMCR300に付属のペルチェ素子型温度制御装置(TEK150P/MC1)により行うことができる。
【0126】
<粘度比率η2/η1の制御方法>
本発明に係るインクの粘度比率η2/η1の条件は、例えば、インクの組成、インク着弾時における温度や湿度等の物理的条件の設定などにより適宜満たすことができる。
前記インクとしては、例えばホットメルト、チクソトロピー又はゲル化の何れかの相変化機構により粘度が変化する性能を有することが好ましい。インクの吐出時から着弾時にかけて、インクが相変化機能を発現することによって、本発明に係る粘度比率η2/η1の条件を満たすことができる。
【0127】
「ホットメルト」とは、熱をかけて融かすことをいうが、「ホットメルトによる相変化機構」とは、加熱(溶融)され粘度が低い状態(吐出時)から、冷却されることにより粘度が高い状態(着弾時)へ移行する機構をいう。
ホットメルトによる相変化機構を好適に発現させる観点では、吐出時と、着弾時とで、インクの温度を変化させることが好ましい。例えば、吐出時におけるインク加熱又は着弾時のインク冷却の何れか一方若しくは両方を行うことが好ましい。
【0128】
本発明において、吐出時と、着弾時とで、インクの温度を変化させる場合は、インクジェットヘッドに充填されたインクを加熱するためのヒーター(加熱手段)や、基板を冷却するための冷却手段などのような温度調整手段を適宜用いることができる。
【0129】
「チクソトロピー」とは、ゲルのような塑性固体とゾルのような非ニュートン液体との中間的性質を示す性質で、粘度が時間経過とともに変化するものをいう。
「チクソトロピーによる相変化機構」とは、撹拌や振動などによるせん断応力の作用下での粘度が低い状態(出射時)から、せん断応力の作用が減少されるか又は静止されることにより粘度が高い状態(着弾後)へ移行する相変化機構をいう。
例えば、インクジェットヘッドに充填されたインクに撹拌や振動(微振動)を加えるせん断応力付与手段を適宜用いてチクソトロピーによる相変化機構を発現させることができる。
【0130】
「ゲル化による相変化機構」とは、溶質の独立した運動性により粘度が低い状態(出射時)から、化学的あるいは物理的な凝集によって形成される高分子網目、微粒子の凝集構造などの相互作用により、溶質が独立した運動性を失って集合した構造を形成して、粘度が高い状態(着弾時)へ移行する相変化機構をいう。この場合、インク中に、オイルゲル化剤(詳しくは後述する。)などのようなゲル化剤を含むことが好ましい。
【0131】
ゲル化による相変化機構を好適に発現させる観点では、吐出時と、着弾時とで、インクの温度を変化させることが好ましい。例えば、吐出時にインクをゾル-ゲル相転移温度(ゲル化温度)以上に加熱してゾル化しておき、着弾時にインクがゾル-ゲル相転移温度(ゲル化温度)以下に冷却されることでゲル化する方法が好ましい。
【0132】
<熱硬化性インクジェットインク>
本発明に用いられるインクは、熱硬化性官能基を有する化合物とゲル化剤を含有し、温度によるゾル・ゲル相転移する熱硬化性インクジェットインクであることが好ましい。また、熱硬化性インクジェットインクは、光重合性官能基を有する化合物と光重合開始剤を含有することが更に好ましい。
【0133】
≪熱硬化性官能基≫
熱硬化性官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、マレイミド基、メルカプト基及びアルコキシ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが、熱硬化性の点で好ましい。
【0134】
≪ゲル化剤≫
ゲル化剤は、光及び熱により硬化した硬化膜中に均一に分散した状態で保持されることが好ましく、これにより硬化膜中への水分の浸透を防ぐことができる。
【0135】
このようなゲル化剤は、下記一般式(G1)又は(G2)で表される化合物うちの少なくとも一種の化合物であることが、インクの硬化性を阻害せずに硬化膜中に分散される点で好ましい。さらに、インクジェット印字において、ピニング性が良好で、細線と膜厚が両立した描画ができ、細線再現性に優れる点で好ましい。
一般式(G1):R1-CO-R2
一般式(G2):R3-COO-R4
[式中、R1~R4は、それぞれ独立に、炭素数12以上の直鎖部分を持ち、かつ分岐を持ってもよいアルキル鎖を表す。]
【0136】
一般式(G1)で表されるケトンワックス又は一般式(G2)で表されるエステルワックスは、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基(アルキル鎖)の炭素数が12以上であるため、ゲル化剤の結晶性がより高まり、耐水性が向上する、かつ、下記カードハウス構造においてより十分な空間が生ずる。そのため、溶媒、光重合性化合物等のインク媒体が上記空間内に十分に内包されやすくなり、インクのピニング性がより高くなる。
【0137】
また、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基(アルキル鎖)の炭素数は26以下であることが好ましく、26以下であると、ゲル化剤の融点が過度に高まらないため、インクを吐出するときにインクを過度に加熱する必要がない。
【0138】
上記観点からは、R1及びR2、又は、R3及びR4は炭素原子数12以上23以下の直鎖状の炭化水素基であることが特に好ましい。また、インクのゲル化温度を高くして、着弾後により急速にインクをゲル化させる観点からは、R1若しくはR2のいずれか、又はR3若しくはR4のいずれかが飽和している炭素原子数12以上23以下の炭化水素基であることが好ましい。
【0139】
上記観点からは、R1及びR2の双方、又は、R3及びR4の双方が飽和している炭素原子数11以上23未満の炭化水素基であることがより好ましい。
【0140】
ゲル化剤の含有量は、インクの全質量に対して0.5~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。ゲル化剤の含有量を上記範囲内とすることで、ゲル化剤の溶媒成分に対する溶解性及びピニング性効果が良好となり、さらに硬化膜としたときの耐水性が良好になる。また、上記観点からは、インクジェットインク中のゲル化剤の含有量は、0.5~2.5質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0141】
また、以下の観点から、ゲル化剤は、インクのゲル化温度以下の温度で、インク中で結晶化することが好ましい。ゲル化温度とは、加熱によりゾル化又は液体化したインクを冷却していったときに、ゲル化剤がゾルからゲルに相転移し、インクの粘度が急変する温度をいう。具体的には、ゾル化又は液体化したインクを、粘弾性測定装置(例えば、MCR300、Physica社製)で粘度を測定しながら冷却していき、粘度が急激に上昇した温度を、そのインクのゲル化温度とすることができる。
【0142】
≪光重合性官能基を有する化合物≫
光重合性官能基を有する化合物(光重合性化合物ともいう。)は、活性光線の照射によって重合または架橋反応を生じて重合又は架橋し、インクを硬化させる作用を有する化合物であればよい。光重合性化合物の例には、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物が含まれる。光重合性化合物は、モノマー、重合性オリゴマー、プレポリマー又はこれらの混合物のいずれであってもよい。光重合性化合物は、インクジェットインク中に1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0143】
ラジカル重合性化合物は、不飽和カルボン酸エステル化合物であることが好ましく、(メタ)アクリレートであることがより好ましい。そのような化合物としては、前記の(メタ)アクリル基を有する化合物が挙げられる。
【0144】
カチオン重合性化合物は、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、及びオキセタン化合物などでありうる。カチオン重合性化合物は、インクジェットインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0145】
≪光重合開始剤≫
光重合開始剤は、光重合性化合物がラジカル重合性化合物であるときは、光ラジカル開始剤を用い、前記光重合性化合物がカチオン重合性化合物であるときは、光酸発生剤を用いることが好ましい。
【0146】
光重合開始剤は、本発明のインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。光重合開始剤は、光ラジカル開始剤と光酸発生剤の両方の組み合わせであってもよい。光ラジカル開始剤には、開裂型ラジカル開始剤及び水素引き抜き型ラジカル開始剤が含まれる。
【0147】
≪着色剤≫
本発明に用いられるインクは、必要に応じて着色剤をさらに含有してもよい。着色剤は、染料又は顔料でありうるが、インクの構成成分に対して良好な分散性を有し、かつ耐候性に優れることから、顔料が好ましい。
【0148】
顔料の分散は、顔料粒子の体積平均粒径が、好ましくは0.08~0.5μmの範囲内、最大粒径が好ましくは0.3~10μmの範囲内、より好ましくは0.3~3μmの範囲内となるように行われることが好ましい。顔料の分散は、顔料、分散剤、及び分散媒体の選定、分散条件、及び濾過条件等によって、調整される。
【0149】
なお、顔料の分散性を高めるために、分散剤及び分散助剤をさらに含んでもよい。分散剤及び分散助剤の合計量は、顔料に対して1~50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0150】
本発明に用いられるインクは、必要に応じて顔料を分散させるための分散媒体をさらに含んでもよい。分散媒体として溶剤をインクに含ませてもよいが、形成された印刷物における溶剤の残留を抑制するためには、前述のような光重合性化合物(特に粘度の低いモノマー)を分散媒体として用いることが好ましい。
【0151】
染料を用いる場合には、油溶性染料等が挙げられる。
【0152】
着色剤はインク中に、1種又は2種類以上を含み、所望の色に調色してもよい。着色剤の含有量は、インク全量に対して0.1~20質量%の範囲内であることが好ましく、0.4~10質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0153】
≪その他の成分≫
本発明に用いられるインクは、本発明の効果が得られる範囲において、重合禁止剤、界面活性剤、硬化促進剤、カップリング剤、イオン捕捉剤等のその他の成分を更に含んでいてもよい。これらの成分は、当該インク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。また、硬化性の観点から本来は無溶剤が好ましいが、インク粘度の調整のために溶剤を添加することもできる。
【0154】
≪物性≫
本発明に用いられるインクの25℃における粘度は、1~1×104Pa・sの範囲内であることが、着弾して常温に降温した際にインクを十分にゲル化させ、ピニング性が良好となる点で好ましい。また、インクジェットヘッドからの吐出性をより高める観点からは、本発明のインクの80℃における粘度は、3~20mPa・sの範囲内であることが好ましく、7~9mPa・sの範囲内であることがより好ましい。
【0155】
本発明に用いられるインクは、40℃以上100℃未満の範囲内に相転移点を有することが好ましい。相転移点が40℃以上であると、印刷媒体に着弾後、インクが速やかにゲル化するため、ピニング性がより高くなる。また、相転移点が100℃未満であると、インク取り扱い性が良好になり吐出安定性が高くなる。より低温でインクを吐出可能にし、画像形成装置への負荷を低減させる観点からは、当該インクの相転移点は、40~60℃の範囲内であることがより好ましい。
【0156】
インクジェットヘッドからの吐出性をより高める観点からは、本発明に係る顔料粒子の平均分散粒径は、50~150nmの範囲内であり、最大粒径は300~1000nmの範囲内であることが好ましい。さらに好ましい平均分散粒径は80~130nmの範囲内である。本発明における顔料粒子の平均分散粒径とは、データサイザーナノZSP、Malvern社製を使用して動的光散乱法によって求めた値を意味する。なお、着色剤を含むインクは濃度が高く、この測定機器では光が透過しないので、インクを200倍で希釈してから測定する。測定温度は常温(25℃)とする。
【0157】
≪ソルダーレジストパターンの形成≫
本発明に用いられるインクは、プリント回路基板に用いられるソルダーレジストパターンを形成するためのソルダーレジストインクであることが好ましい。当該インクを用いて、ソルダーレジストパターンを形成したときに、ソルダーレジストパターンへの水分の浸透を防ぐことができ、その結果、プリント回路基板における銅箔とソルダーレジストパターン界面の密着性が良好となり、また、銅のマイグレーションが防止され絶縁性の低下を抑制することができる。
【0158】
本発明に用いられるインクを用いたソルダーレジストパターンの形成方法は、下記(1)インクをインクジェットヘッドのノズルから吐出して、回路形成されたプリント回路基板上に着弾させる工程と、下記(3)インクを加熱して本硬化する工程とを含むことが好ましい。
本発明に用いられるインクに光重合性官能基を有する化合物と光重合開始剤を含有する場合は、上記(1)と(3)の工程の間に、着弾したインクに活性光線を照射してインクを仮硬化させる工程((2)の工程)を含むことが好ましい。
【0159】
(1)の工程:
(1)の工程では、本発明のインクの液滴をインクジェットヘッドから吐出して、印刷媒体であるプリント回路基板上の、形成すべきソルダーレジストパターンに応じた位置に着弾させて、パターニングする。インクジェットヘッドからの吐出方式は、オンデマンド方式とコンティニュアス方式のいずれでもよい。
【0160】
インクの液滴を、加熱した状態でインクジェットヘッドから吐出することで、吐出安定性を高めることができる。吐出される際のインクの温度は、40~100℃の範囲内であることが好ましく、吐出安定性をより高めるためには、40~90℃の範囲内であることがより好ましい。特に、インクの粘度が7~15mPa・sの範囲内、より好ましくは8~13mPa・sの範囲内となるようなインク温度において吐出を行うことが好ましい。
【0161】
ゾル・ゲル相転移型のインクは、インクジェットヘッドからのインクの吐出性を高めるために、インクジェットヘッドに充填されたときのインクの温度が、当該インクの(ゲル化温度+10)℃~(ゲル化温度+30)℃に設定されることが好ましい。インクジェットヘッド内のインクの温度が、(ゲル化温度+10)℃未満であると、インクジェットヘッド内若しくはノズル表面でインクがゲル化して、インクの吐出性が低下しやすい。一方、インクジェットヘッド内のインクの温度が(ゲル化温度+30)℃を超えると、インクが高温になりすぎるため、インク成分が劣化することがある。
【0162】
インクの加熱方法は、特に制限されない。例えば、ヘッドキャリッジを構成するインクタンク、供給パイプ及びヘッド直前の前室インクタンク等のインク供給系、フィルター付き配管並びにピエゾヘッド等の少なくともいずれかをパネルヒーター、リボンヒーター又は保温水等によって加熱することができる。吐出される際のインクの液滴量は、印刷速度及び画質の面から、2~20pLの範囲内であることが好ましい。
【0163】
プリント回路基板は、特に限定されないが、例えば、紙フェノール、紙エポキシ、ガラス布エポキシ、ガラスポリイミド、ガラス布/不繊布エポキシ、ガラス布/紙エポキシ、合成繊維エポキシ、フッ素・ポリエチレン・PPO・シアネートエステル等を用いた高周波回路用銅張積層版等の材質を用いたもので全てのグレード(FR-4等)の銅張積層版、その他ポリイミドフィルム、PETフィルム、ガラス基板、セラミック基板、ウエハ板、ステンレス鋼板等であることが好ましい。
【0164】
(2)の工程:
(2)の工程では、(1)の工程で着弾させたインクに活性光線を照射して、該インクを仮硬化する。活性光線は、例えば電子線、紫外線、α線、γ線、及びエックス線等から選択することができるが、好ましくは紫外線である。紫外線の照射は、例えばPhoseon Technology社製の水冷LEDを用いて、波長395nmの条件下で行うことができる。LEDを光源とすることで、光源の輻射熱によってインクが溶けることによるインクの硬化不良を抑制することができる。
【0165】
紫外線の照射は、370~410nmの範囲内の波長を有する紫外線のソルダーレジストパターン表面におけるピーク照度が、好ましくは0.5~10W/cm2の範囲内、より好ましくは1~5W/cm2の範囲内となるように行う。輻射熱がインクに照射されることを抑制する観点からは、ソルダーレジストパターンに照射される光量は500mJ/cm2未満であることが好ましい。活性光線の照射は、インク着弾後0.001~300秒の間に行うことが好ましく、高精細なソルダーレジストパターンを形成するためには、0.001~60秒の間に行うことがより好ましい。
【0166】
(3)の工程:
(3)の工程では、(2)の仮硬化後、さらにインクを加熱して本硬化する。加熱方法は、例えば、110~180℃の範囲内に設定したオーブンに10~60分投入することが好ましい。
【0167】
なお、本発明に用いられるインクは、前記したソルダーレジストパターン形成用のインクとして用いる他、電子部品用の接着剤や封止剤、回路保護剤などとして用いることもできる。
【0168】
本発明において、ソルダーレジストパターンが設けられる部位は、格別限定されるものではないが、上述したように、異なる部材に跨って形成される場合や、凹凸のある部材に跨って形成される場合は、本発明の効果が特に有意となる。
【0169】
2 インクジェット印刷装置
以下において、本発明において用いることができるマルチパス方式のインクジェット印刷装置(「インクジェットプリント装置」又は「インクジェット記録装置」ともいう。)が備える基本的構成部品の機能について説明する。
【0170】
図8に示す図は、マルチパス方式によるインクジェット印刷装置1を示す模式図;A正面図、B上面図である。
このインクジェット印刷装置1は、基本的には、ヘッド3が往復して重ね印刷を行うマルチパス方式でインクの吐出を行う印刷装置であり、ヘッドを取り付けたキャリッジ2、前記キャリッジ2を移動させるX方向リニアステージ4、基板を設置するテーブル5、前記テーブル5を移動させるY方向リニアステージ6などを備える。
【0171】
インクジェット印刷装置1は、X方向にはヘッド3が移動し、Y方向には基板を設置するテーブル5が移動することによって印刷を行う。
また、図示しないが、インクジェット印刷装置1は、ヘッド3からのインクの吐出を制御する装置、及び、XYステージを制御するコンピュータを備える。XYステージを制御するコンピュータは画像データに基づき、XYステージの動作を制御する。
なお、上記コンピュータは、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えている。
【0172】
X方向の印刷方法としては、ヘッド3を取り付けたキャリッジ2がX方向のリニアステージ4に搭載され、XYステージを制御するコンピュータにより所望の位置に移動されることにより行われる。
また、Y方向の印刷方法としては、基板を設置したテーブル5がY方向に移動し、基板がヘッドの下を通過する際にヘッドからインクが吐出されることにより行われる。Y方向のリニアステージ6に設置されたエンコーダーと、ヘッド3からのインクの吐出を制御する装置とが連動し、エンコーダー信号に応じて、画像データの解像度でインクを吐出する。
【0173】
X方向についてヘッドの解像度より高い解像度で印刷する場合は、X方向に複数回ヘッドを移動して印刷する。
例えば、解像度600dpiのインクジェットヘッド1個で2400dpiを印刷する場合は、ヘッドがY方向に1スキャン目の印刷をした後、X方向に10.6μm(2400dpiの1画素相当)移動し、Y方向に2スキャン目の印刷をする。さらに、ヘッドがX方向に10.6μm移動して、Y方向に3スキャン目の印刷をした後、X方向に10.6μm移動し、Y方向に4スキャン目の印刷をし、完了する。
【0174】
上記では、搬送方向を一方向のみで印刷する場合であるが、往復で印刷する場合(双方向印刷という)もある。
また、印刷領域がヘッド幅より大きい場合は、ヘッド幅分X方向に移動して印刷を行う。
【0175】
発明者が、インクジェット印刷装置について更に検討を重ねたところ、インク吐出装置の主走査方向及び副走査方向は、ノズル列と垂直又は平行でなくてもよく、インク吐出装置及び印刷媒体としての基板は、どちらか一方のみが移動してパターンを形成しても、両方が移動してパターンを形成してもスジやムラが発生しづらいことがわかった。
【0176】
以下、本発明において使用できる上記以外のマルチパス方式インクジェット印刷装置について、説明する。
インク吐出装置(上記「ヘッド」と同義である。)は、インクを吐出するための複数のノズル孔を有する。このノズル孔は、一列に並んでいることが好ましいが、ノズル列と、ヘッドの主走査方向(上記「Y方向」と同義である。)及び副走査方向(上記「X方向」と同義である。)は、垂直又は平行でなくてもよく特に限定されない。
【0177】
図41は、ノズル列の方向が、X方向及びY方向どちらとも垂直又は平行でなく、斜めである場合の印刷方法を示している。ノズル列が斜めであるインクジェット印刷装置についても、本発明のパターン形成方法に用いることができる。
【0178】
図42は、インク吐出装置自体の方向が、X方向及びY方向どちらとも垂直又は平行でなく、斜めである場合の印刷方法を示している。インク吐出装置と主走査方向の角度を適宜変更することにより、形成するドットの間隔を変更することができるため、インク吐出装置を増設することなくノズル解像度を上げることができる。このようなインクジェット印刷装置についても、本発明のパターン形成方法に用いることができる。
【0179】
また、上記インクジェット印刷装置1では、ヘッドがX方向に移動し、基板がY方向に移動することにより印刷を行っているが、ヘッドがY方向に移動し、基板がX方向に移動するインクジェット印刷装置、基板がX方向にもY方向にも移動するインクジェット印刷装置、及び、ヘッドがX方向にもY方向にも移動するインクジェット印刷装置についても、本発明のパターン形成方法に用いることができる。
【0180】
図34は、上記インクジェット印刷装置1で印刷を行う方法を示す。1スキャンでは、ヘッドが固定されており、基板が矢印方向に移動してヘッドの下を通過する際に、ヘッドからインクの液滴が吐出されることにより、基板とヘッドの位置関係において、相対的にヘッドが主走査方向に移動する。ヘッドの解像度より高い解像度で印刷する場合には、2スキャンにおいて、ヘッドが矢印方向に移動し、再度基板が矢印方向に移動してインクの液滴を吐出する。これを繰り返し、印刷が完了する。
【0181】
図33に示すインクジェット印刷装置100では、ヘッド3を取り付けたキャリッジ2がY方向のリニアステージ6に搭載され、XYステージを制御するコンピュータにより所望の位置に移動されることにより行われる。
また、X方向の印刷方法としては、Y方向の主走査方向の印刷を行った後、基板を設置したテーブル5が、X方向に移動し、次のY方向の主走査方向の印刷を行う。
インクジェット印刷装置1と同様に、X方向のリニアステージ4に設置されたエンコーダーと、ヘッド3からのインクの吐出を制御する装置とが連動し、エンコーダー信号に応じて、画像データの解像度でインクを吐出する。
【0182】
図35は、インクジェット印刷装置100で印刷を行う方法を示す。1スキャンでは、固定された基板上をヘッドが主走査方向に移動してインクの液滴を吐出する。次に、2スキャンでは、基板が矢印方向に移動することにより、基板とヘッドの位置関係において、相対的にヘッドが副走査方向に移動する。そして、再度固定された基板上をインク吐出装置が主走査方向に移動してインクの液滴を吐出する。これを繰り返し、印刷が完了する。
【0183】
図36は、基板がX方向にもY方向にも移動するインクジェット印刷装置で印刷を行う方法を示す。1スキャンでは、ヘッドが固定されており、基板が矢印方向に移動してヘッドの下を通過する際に、ヘッドからインクの液滴が吐出されることにより、基板とヘッドの位置関係において、相対的にヘッドが主走査方向に移動する。次に、2スキャンでは、基板が矢印方向に移動することにより、基板とヘッドの位置関係において、相対的にヘッドが副走査方向に移動する。そして、再度固定された基板上をインク吐出装置が主走査方向に移動してインクの液滴を吐出する。これを繰り返し、印刷が完了する。
【0184】
図37は、ヘッドがX方向にもY方向にも移動するインクジェット印刷装置で印刷を行う方法を示す。1スキャンでは、固定された基板上をヘッドが主走査方向に移動してインクの液滴を吐出する。次に、2スキャンにおいて、ヘッドが矢印方向に移動し、再度基板を矢印方向に移動してインクの液滴を吐出する。これを繰り返し、印刷が完了する。
【0185】
また、ヘッドを複数並べてキャリッジに取り付けることにより、スキャン回数を減らし、印刷時間を短縮できる。
【0186】
図40は、ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを4個用いて、解像度2400dpiの印刷を分割印刷で行う方法を示す。4個のインクジェットヘッドは、解像度2400dpiのピッチになるように、ずらしてキャリッジに取り付ける。
【0187】
図30A及びBで示すように、ノズル解像度600dpiのインクジェットヘッドを1個用いて、解像度2400dpiの印刷を、4つの分割画像データを用いて行う場合には、16回のスキャンを行う必要がある。しかし、
図40で示すように、インクジェットヘッドをずらして4個取り付けた場合には、
図30Aにおける1スキャン~4スキャンの工程を、1回のスキャンで行うことができるため、合計4回のスキャンで印刷を完了することができ、印刷時間を短縮できる。
【0188】
本発明におけるランダムマルチドロップ方式で印刷する方法の一つとして、前述したように、多階調のランダムなグレー画像を用い、各画素の階調又は濃度に対応させて液量を制御する方法が挙げられる。
【0189】
例えば、256階調の30%グレー画像をアドビ社のPhotoshopでノイズフィルターをかけることで
図16のようなランダムの多階調グレーの画像データを作製できる。この画像データをもとに、例えば、0~86階調の黒部分は7pL、87~172階調のグレー部分は3.5pL、173~255階調の白部分は0pLのようにインクの液量を配分する。
【0190】
各画素に対応する異なる液量によるドットの形成は、ノズルからインクが吐出する際の吐出波形を変える、若しくは、同一の画素に対して複数のドットを形成することによって可能である。
【0191】
例えば、上記の液量配分の場合、3.5pLの液量のインクジェットヘッドを用いて、0~86階調の黒部分は2滴打ち、87~172階調のグレー部分は1滴打ち、173~255階調の白部分は吐出なしと規定することにより、異なる液量によるドットの形成が可能である。
【0192】
本発明におけるランダムマルチパス方式で印刷する方法としては、元画像をランダムな複数の重なり合わない画像に分割して印刷する方法や、着弾を乱数のような関数を用いてインクジェット吐出制御システムでランダムにする方法などがある。
【0193】
分割画像データは、以下の方法で作製できる。アドビ社の画像処理ソフトPhotoshop 2020などの画像処理ソフトで作製することができ、例えば、グレー画像を、Photoshopを用いて誤差拡散法などでモノクロ2階調化し、白と黒のランダムな画像を作製する。次にその画像を色調反転させて白と黒の反転した画像を作製する。
【実施例】
【0194】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いた場合、それぞれ、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0195】
≪実施例1≫
[インクの調製]
<顔料分散液の調製>
下記に示す分散剤と分散媒をステンレスビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間加熱撹拌溶解し、室温まで冷却した後、これに顔料を加えて、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れ密栓した。これをペイントシェーカーにて、所望の粒径になるまで分散処理した後、ジルコニアビーズを除去した。
【0196】
(イエロー顔料分散体)
分散剤1:EFKA7701(BASF社製) 5.6質量部
分散剤2:Solsperse22000(日本ルーブリゾール社製)
0.4質量部
分散媒:ジプロピレングリコールジアクリレート(0.2%UV-10含有)
80.6質量部
顔料:PY185(BASF社製、パリオトールイエローD1155)
13.4質量部
【0197】
(シアン顔料分散体)
分散剤:EFKA7701(BASF社製) 7質量部
分散媒:ジプロピレングリコールジアクリレート(0.2%UV-10含有)
70質量部
顔料:PB15:4(大日精化製、クロモファインブルー6332JC)
23質量部
【0198】
調製した分散体を下記の配合で混合した後、ADVATEC社製テフロン(登録商標)3μmメンブランフィルターで濾過をし、インクを調製した。なお、インク吐出時の温度が75℃での粘度(η1)は10mPa・sであり、着弾時温度である室温(25℃)での粘度(η2)は1×104mPa・sであった。すなわち粘度比率η2/η1が1000であった。なお、以下に記載する実施例及び比較例においても同じインクを用いた。
【0199】
イエロー顔料分散体 3質量部
シアン顔料分散体 1質量部
ジステアリルケトン 1.1質量部
ベヘニン酸ベヘニル 1.2質量部
エポキシエステル(M-600A:共栄化学社製) 30質量部
TrixeneBI7961(LANXESS社製) 10質量部
ウレタンアクリレート(AH-600:共栄化学社製) 10質量部
M222(Miwon社製) 27.7質量部
EM2382(長興化学社製) 10質量部
光開始剤:ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPO)
3質量部
光開始助剤:2-イソプロピルチオキサントン(ITX) 3質量部
【0200】
[パターンの印刷]
インクジェットヘッド(KM1800iSHC-C:コニカミノルタ社製:解像度600dpi)1個を取り付けたリニアXYステージとコントロールシステム(IJCS-1:コニカミノルタ社製)を用いて、基板である光学用PETフィルムに下記条件で印刷パターンを印刷し、波長395nmのUV-LED光源にて500mJ/cm
2の照射エネルギーで露光・硬化して印刷物1を作製した。印刷物1の100倍での光学顕微鏡の写真を
図13に示す。
【0201】
印刷パターン:70mm×70mmの四角のベタ部にφが100~1000μmの抜き円を配置
ベタ部の画像データ:
図12参照(256階調50%グレーをアドビ社の画像処理ソフトPhotoshop 2020のノイズフィルター処理を用いてランダムな多階調グレーに変換)
解像度:2400dpi×3000dpi(搬送方向)
パス回数:4回(600dpi×4)
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:10.6μm
印刷方式:ブロック
液量配分:0~86階調 3.5pL
87~255階調 0pL(液滴付与なし)
ヘッド温度(インク吐出時温度):75℃
基板温度(インク着弾時温度):室温(25℃)
【0202】
≪実施例2≫
インクジェットヘッド(KM1800iSHC-C:コニカミノルタ社製:解像度600dpi)を1個取り付けたリニアXYステージとコントロールシステム(IJCS-1:コニカミノルタ社製)を用いて、基板である光学用PETフィルムに下記条件で印刷パターンを
図14に示すように600dpiのヘッドを搬送方向移動8回×ヘッドノズル列方向移動1回で数字の順に本実施形態の一例で示したランダムマルチパス方式で印刷し、波長395nmのUV-LED光源にて500mJ/cm
2の照射エネルギーで露光・硬化して印刷物2を作製した。
【0203】
印刷パターン:70mm×70mmの四角の中にφが100~1000μmの抜き円を配置
ベタ部の画像データ:
図15参照
解像度:1200dpi×1200dpi(搬送方向)
パス回数:8回(600dpi×4×2)
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:21.2μm
印刷方式:ランダムパス
液量配分:全面10.5pL
ヘッド温度(インク吐出時温度):75℃
基板温度(インク着弾時温度):室温(25℃)
【0204】
≪実施例3≫
印刷条件を下記条件に変更した以外は実施例1と同様にして印刷物3を作製した。印刷物3の100倍での光学顕微鏡の写真が
図17である。また、φ500μmの抜き円の100倍での光学顕微鏡の写真が
図19である。
【0205】
印刷パターン:70mm×70mmの四角の中にφが100~1000μmの抜き円を配置
抜き円部の画像データ:
図18参照(抜き円の縁取りなし)
ベタ部の画像データ:
図16参照(256階調30%グレーをアドビ社の画像処理ソフトPhotoshop 2020のノイズフィルター処理を用いてランダムな多階調グレーに変換)
解像度:2400dpi×2400dpi(搬送方向)
パス回数:4回(600dpi×4)
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:10.6μm
印刷方式:ブロック
液量配分:0~86階調 7pL
87~172階調 3.5pL
173~255階調 0pL(液滴付与なし)
【0206】
≪実施例4≫
印刷条件を下記条件に変更した以外は実施例3と同様にして印刷物4を作製した。印刷物4のφ500μmの抜き円の100倍での光学顕微鏡の写真が
図21である。
抜き円部の画像データ:
図20(抜き円の縁、1画素が同一液量になるように階調155のグレーで統一)
【0207】
≪実施例5≫
基板をCu厚さ15μm、L/S(ライン/スペース)=100μm/100μmのCu配線パターンをつけたガラスエポキシ基板のプリント基板に変更した以外は、実施例3と同様にして印刷物5を作製した。
Cu配線パターンのついたプリント基板の拡大模式図が
図22であり、その上に印刷する画像データが
図23である。
【0208】
≪実施例6≫
画像データを、
図24に示すように、Cu配線パターンに接する部分の1画素分を液量10.5pLに変更した以外は、実施例5と同様にして印刷物6を作製した。
【0209】
≪実施例7≫
画像データを、
図25に示すように、Cu配線パターンに接する部分の1画素分を液量10.5pLに、その周囲の1画素分を7pLにと連続的な厚さに変更した以外は、実施例5と同様にして印刷物7を作製した。
【0210】
≪実施例8≫
印刷条件を下記条件に変更した以外は実施例5と同様にして印刷物8を作製した。印刷物8の100倍での光学顕微鏡の写真が
図27である。
【0211】
ベタ部の画像データ:
図26参照(256階調グレーを上記と同様のフィルター処理でランダムな多階調に変換)
解像度:1200dpi×1200dpi(搬送方向)
パス回数:2回(600dpi×2)
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:21.2μm
印刷方式:ブロック
液量配分:0~86階調 14pL
87~172階調 7pL
173~255階調 0pL(液滴付与なし)
【0212】
≪実施例9≫
インクジェットヘッド(KM1800iSHC-C:コニカミノルタ社製:ノズル解像度600dpi)1個を取り付けたリニアXYステージとコントロールシステム(IJCS-1:コニカミノルタ社製)を用いて、基板である光学用PETフィルムに下記条件で印刷パターンを印刷し、波長395nmのUV-LED光源にて500mJ/cm2の照射エネルギーで露光・硬化して印刷物11を作製した。
【0213】
印刷パターン:70mm×70mmの四角の中にφが100~1000μmの抜き円を配置
ベタ部の画像データ:
図31、元画像データ参照
解像度:2400dpi×2400dpi(搬送方向)
印刷方向(主走査方向):片方向印刷
印刷方向(副走査方向):正方向印刷
パス回数:8回(600dpi×8)
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:10.6μm
印刷方式:ランダムマルチパス、
図31参照
液量配分:全面3.5pL
ヘッド温度(インク吐出時温度):75℃
基板温度(インク着弾時温度):室温(25℃)
【0214】
≪実施例10≫
[分割印刷(画像分割数2)]
画像データについて、
図29に示す通り、ベタ部の画像データを、重ねて印刷した場合に各画素が重ならないよう、かつ、各画素が配列された行及び列の順番のとおりでなく、一定の周期性を有さないように、画像処理ソフトによって分割し、分割画像データNo.1及びNo.2を作製した。そして、下記条件で、分割画像データごとに順次重ねて印刷した。
画像データ及び印刷条件を下記条件に変更した以外は実施例9と同様にして印刷物12を作製した。
【0215】
印刷パターン:70mm×70mmの四角の中にφが100~1000μmの抜き円を配置
ベタ部の画像データ:
図29、元画像データ参照
画像分割数:2
分割画像データ:
図29、分割画像データ参照
解像度:2400dpi×2400dpi(搬送方向)
パス回数:8回(600dpi×8)
印刷方向(主走査方向):片方向印刷
印刷方向(副走査方向):正方向印刷
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:10.6μm
印刷方式:ランダムマルチパス、
図29参照
液量配分:全面3.5pL
ヘッド温度(インク吐出時温度):75℃
基板温度(インク着弾時温度):室温(25℃)
【0216】
≪実施例11≫
[分割印刷(画像分割数4)]
画像データの分割数及び印刷条件を下記条件に変更した以外は実施例10と同様にして印刷物13を作製した。
【0217】
印刷パターン:70mm×70mmの四角の中にφが100~1000μmの抜き円を配置
ベタ部の画像データ:
図30A及びB、元画像データ参照
画像分割数:4
分割画像データ:
図30A及びB、分割画像データ参照
解像度:2400dpi×2400dpi(搬送方向)
パス回数:16回(600dpi×16)
印刷方向(主走査方向):片方向印刷
印刷方向(副走査方向):正方向印刷
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:10.6μm
印刷方式:ランダムマルチパス、
図30A及びB参照
液量配分:全面3.5pL
ヘッド温度(インク吐出時温度):75℃
基板温度(インク着弾時温度):室温(25℃)
【0218】
≪実施例12≫
[双方向印刷]
印刷条件を下記条件に変更した以外は実施例10と同様にして印刷物14を作製した。
【0219】
印刷パターン:70mm×70mmの四角の中にφが100~1000μmの抜き円を配置
ベタ部の画像データ:
図38、元画像データ参照
画像分割数:2
分割画像データ:
図38、分割画像データ参照
解像度:2400dpi×2400dpi(搬送方向)
パス回数:8回(600dpi×8)
印刷方向(主走査方向):双方向印刷
印刷方向(副走査方向):正方向印刷
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:10.6μm
印刷方式:ランダムマルチパス、
図38参照
液量配分:全面3.5pL
ヘッド温度(インク吐出時温度):75℃
基板温度(インク着弾時温度):室温(25℃)
【0220】
≪実施例13≫
[正逆混合印刷]
印刷条件を下記条件に変更した以外は実施例10と同様にして印刷物15を作製した。
【0221】
印刷パターン:70mm×70mmの四角の中にφが100~1000μmの抜き円を配置
ベタ部の画像データ:
図39、元画像データ参照
画像分割数:2
分割画像データ:
図39、分割画像データ参照
解像度:2400dpi×2400dpi(搬送方向)
パス回数:8回(600dpi×8)
印刷方向(主走査方向):片方向印刷
印刷方向(副走査方向):正逆混合印刷
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:10.6μm
21.2μm(3と4スキャン間、7と8スキャン間)
印刷方式:ランダムマルチパス、
図39参照
液量配分:全面3.5pL
ヘッド温度(インク吐出時温度):75℃
基板温度(インク着弾時温度):室温(25℃)
【0222】
≪実施例14≫
[ランダムドロップマルチパス方式兼ランダムマルチパス方式]
インクジェットヘッド(KM1800iSHC-C:コニカミノルタ社製:ノズル解像度600dpi)1個を取り付けたリニアXYステージとコントロールシステム(IJCS-1:コニカミノルタ社製)を用いて、基板である光学用PETフィルムに下記条件で印刷パターンを印刷し、波長395nmのUV-LED光源にて500mJ/cm2の照射エネルギーで露光・硬化して印刷物16を作製した。
【0223】
なお、画像データの各画素の階調に対応して液量を配分して印刷物16を作製した。
【0224】
印刷パターン:70mm×70mmの四角の中にφが100~1000μmの抜き円を配置
ベタ部の画像データ:
図43、画像データ参照(256階調30%グレーをアドビ社の画像処理ソフトPhotoshop 2020のノイズフィルター処理を用いてランダムな多階調グレーに変換)
解像度:2400dpi×2400dpi(搬送方向)
パス回数:8回(600dpi×8)
印刷方向(主走査方向):片方向印刷
印刷方向(副走査方向):正方向印刷
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:10.6μm
印刷方式:ランダムマルチパス、
図43参照
液量配分:0~86階調 7pL
87~172階調 3.5pL
173~255階調 0pL(液滴付与なし)
ヘッド温度(インク吐出時温度):75℃
基板温度(インク着弾時温度):室温(25℃)
【0225】
≪実施例15≫
[プリント基板への分割印刷(画像分割数2)]
基板をCu厚さ15μm、L/S(ライン/スペース)=100μm/100μmのCu配線パターンをつけたガラスエポキシ基板のプリント基板に変更した以外は、実施例10と同様にして印刷物17を作製した。
【0226】
≪比較例1≫
印刷条件を下記条件に変更した以外は実施例1と同様にして印刷物9を作製した。印刷物9の100倍での光学顕微鏡の写真が
図28である。
【0227】
印刷パターン:70mm×70mmの四角の中にφが100~1000μmの抜き円を配置
ベタ部の画像データ:
図15参照
解像度:2400dpi×2400dpi(搬送方向)
パス回数:4回(600dpi×4)
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:10.6μm
印刷方式:ブロック
液量配分:全面3.5pL
【0228】
≪比較例2≫
基板をCu厚さ15μm、L/S(ライン/スペース)=100μm/100μmのCu配線パターンをつけたガラスエポキシ基板のプリント基板に変更した以外は、比較例1と同様にして印刷物10を作製した。
Cu配線パターンのついたプリント基板の拡大模式図が
図22であり、その上に印刷する画像データが
図23である。
【0229】
≪比較例3≫
印刷条件を下記条件に変更した以外は実施例10と同様にして印刷物18を作製した。
【0230】
印刷パターン:70mm×70mmの四角の中にφが100~1000μmの抜き円を配置
ベタ部の画像データ:
図44、元画像データ参照
画像分割数:2
分割画像データ:
図44、分割画像データ参照
解像度:2400dpi×2400dpi(搬送方向)
パス回数:8回(600dpi×8)
印刷方向(主走査方向):片方向印刷
印刷方向(副走査方向):正方向印刷
パス間ヘッドノズル列方向移動距離:10.6μm
印刷方式:インターリーブ、
図44参照
液量配分:全面3.5pL
ヘッド温度(インク吐出時温度):75℃
基板温度(インク着弾時温度):室温(25℃)
【0231】
[評価]
<スジの評価>
得られた印刷物におけるパターンを目視で確認し、スジの発生を評価した。
◎:スジの発生が見られない
〇:スジ感がわずかに感じられるが、気にならないレベルである
△:スジ感が感じられる
×:スジが目立って感じられる
【0232】
<光沢度>
ハンディ光沢度測定器(PG-II:日本電色工業社製)を用いて、搬送方向と平行及び垂直の方向で60度光沢度を測定した。スジが発生する場合は、平行方向と垂直方向で光沢度の数値が大きく変わり、スジが発生しない場合は、平行方向と垂直方向での数値がほぼ同様の値となる。平行方向と垂直方向の光沢度が3以上異なるとスジ感が目立つようになる。
【0233】
<平均膜厚>
膜厚計(デジマイクロMH-15M+TC-101A:ニコン社製)を用いて、印刷パターン部70mm×70mmの四角の4つの角部と中心部の5点を測定し平均膜厚を算出した。
【0234】
<ピンホール>
印刷パターンを光学顕微鏡で観察しピンホールの有無を評価した。局所的なピンホールがあると、バルクの密着性が劣化してしまうことがある。
【0235】
<パターン形成性>
φ500μmの抜き円を光学顕微鏡で観察し、パターン形成性を評価した。
◎:抜き円の輪郭がほぼ印刷画像を再現している
〇:抜き円の輪郭にやや凹凸があるが、パターン形成性としては問題がない
△:抜き円の輪郭に凹凸が多く、パターン形成性が劣化している
×:抜き円の輪郭がつぶれてしまい、パターン形成ができていない
【0236】
基板にプリント基板を用いた実施例5~8及び比較例2について、以下の評価を行った。
【0237】
<密着性>
印刷パターン部にJIS K5600のクロスカット法に準じて碁盤目状に切り込みを入れ、粘着テープを貼付し、引き剥がすことにより、印刷パターンの付着残存状態を観察し、密着性を評価した。
◎:付着残留率100%
〇:付着残留率80%以上100%未満
△:付着残留率60%以上80%未満
×:付着残留率60%未満
【0238】
<はんだ耐性>
260℃はんだ浴に10秒3回浸漬した後、印刷パターン部にJIS K5600のクロスカット法に準じて碁盤目状に切り込みを入れ、粘着テープを貼付し、引き剥がすことにより、印刷パターンの付着残存状態を観察し、はんだ耐性を評価した。
◎:付着残留率100%
〇:付着残留率80%以上100%未満
△:付着残留率60%以上80%未満
×:付着残留率60%未満
【0239】
<段差追随性>
260℃はんだ浴に10秒3回浸漬した後、Cu配線パターンのある部分とない部分の両方に跨るようにJIS K5600のクロスカット法に準じて碁盤目状に切り込みを入れ、粘着テープを貼付し、引き剥がすことにより、印刷パターンの剥離状態を観察し、密着性を評価した。Cu配線パターンでの段差部で膜厚が薄くなると、段差部での密着性が劣化してしまう。
◎:Cuパターンとの段差部で剥離なし
〇:Cuパターンとの段差部で細い線状の剥離が一部見られる
〇△:Cuパターンとの段差部で連続した線状の剥離が見られる
△:Cuパターンとの段差部で剥離が顕著になり、Cu面が露出している
×:Cuパターンとの段差部で全面にわたり剥離している
【0240】
以上の実験条件及び評価結果を表I及び表IIにまとめて示す。
【0241】
【0242】
【0243】
上記表I及び表IIに示した評価結果等から明らかなように、本発明のパターン形成方法で形成したパターンは、上記各評価項目において、比較例に対して優れていることが分かる。
【0244】
ランダムマルチパス方式については、分割印刷、双方向印刷又は正逆混合印刷を行うことにより、さらにスジやまだらムラが軽減し、パターン形成性が優れることが分かる。また、ランダムマルチパス方式にランダムドロップマルチパス方式を適用することにより、スジやまだらムラが軽減することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0245】
本発明の上記手段により、高精細でスジやまだらムラがなく、絶縁体や導電体といった機能性材料を含むインクを用いた場合においても、絶縁特性や導電特性が均一であり、かつ、塗膜の密着が良好な、インクジェット方式によるパターン形成方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0246】
1 インクジェット印刷装置
2 キャリッジ
3 ヘッド
4 X方向リニアステージ
5 テーブル
6 Y方向リニアステージ
7 プリント基板
8 銅配線部(高さ15μm、幅100μm)
9 インク吐出装置
10 基板(印刷媒体)
100 インクジェット印刷装置
【要約】
本発明の課題は、高精細でスジやまだらムラがなく、絶縁特性や導電特性が均一であり、かつ、塗膜の密着が良好な、インクジェット印刷方式によるパターン形成方法を提供することである。
本発明のパターン形成方法は、複数のノズル孔が一列方向に並んだインク吐出装置のノズル列方向に対して垂直及び平行に複数回移動してノズルから印刷媒体としての基板にインクの液滴を吐出してパターンを形成する方式において、前記インクとして、吐出時の温度における粘度η1と着弾時の温度における粘度η2との比率η2/η1が100以上であるインクを用い、かつ、前記パターンの前記画像データを構成する各画素の階調又は濃度に対応させて、前記基板上に形成するパターンを構成するドットの塗膜の形成に用いる前記インクの液量が、隣接するドットと一定の周期性を有さなく、パターンの塗膜全体としては、均一ではないように制御することを特徴とする。