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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】曲げセンサおよび電子機器
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/30 20060101AFI20220524BHJP
   H01L 41/04 20060101ALI20220524BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
G01B7/30 B
H01L41/04
H01L41/113
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022506802
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2021020899
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020104439
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 勇希
(72)【発明者】
【氏名】長森 しおり
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-038710(JP,A)
【文献】特開2017-033505(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0169091(US,A1)
【文献】国際公開第2019/021856(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/30
H01L 41/04
H01L 41/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り曲げ可能な基材に配置される圧電素子と、
前記圧電素子に生じる電圧を検知する電圧検出回路と、
前記電圧検出回路で検出した電圧を積分して積分値を算出し、前記積分値と前記基材の折り曲げ角度とを対応付ける演算部と、
を備え、
前記演算部は、前記積分値の最大値を応力緩和作用による減少値で補正した補正積分値を予め算出し、
前記補正積分値を前記基材の第1折り曲げ角度に対応付け、
算出した積分値を前記補正積分値に基づいて正規化する、
曲げセンサ。
【請求項2】
前記演算部は、前記積分値が前記補正積分値を超えた場合に、前記積分値を前記補正積分値との差分に基づいて変更する、
請求項1に記載の曲げセンサ。
【請求項3】
前記演算部は、正規化した前記積分値が前記第1折り曲げ角度を超えた場合に、前記正規化した前記積分値を前記第1折り曲げ角度に変更する、
請求項1または請求項2に記載の曲げセンサ。
【請求項4】
前記演算部は、正規化した前記積分値が第2折り曲げ角度を超える、または第3折り曲げ角度未満となる場合に、前記積分値を所定値に補正する、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の曲げセンサ。
【請求項5】
前記演算部は、正規化した前記積分値が第4折り曲げ角度未満となり、かつ前記電圧が所定の条件を満たす場合に、前記正規化した積分値をリセットする、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の曲げセンサ。
【請求項6】
前記演算部は、前記電圧値のオンライン平均を求め、
所定時間以上電圧の変動がない場合に、前記オンライン平均に基づいて基準電圧を設定する、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の曲げセンサ。
【請求項7】
前記演算部は、前記積分値が第2所定値を超える場合に前記積分値を前記第2所定値に設定して前記基準電圧を更新する、
請求項6に記載の曲げセンサ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の曲げセンサを備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げセンサおよび電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、操作面に対する押圧を検出する圧電センサを備えるタッチ式入力装置が各種考案されている。例えば、特許文献1は、操作板(ガラス板など)と圧電センサとが積層したタッチ式入力装置を開示している。
【0003】
操作板は、操作面と操作面に対向する裏面とを有する。圧電センサは、接着剤または粘着剤を介して操作板の裏面に貼付されている。圧電センサは、圧電フィルムと、圧電フィルムの両面に設けられた第1電極および第2電極と、を有する。
【0004】
以上の構成において、ユーザが操作板を押圧すると、操作板は押圧された方向に凸となるように撓む。圧電センサも、押圧された方向に凸となるように撓む。これにより圧電フィルムが歪む。圧電フィルムが歪むことによって第1電極と第2電極との間に電圧が発生する。そのため、圧電センサは、第1電極と第2電極との間に発生した電圧から、ユーザが加えた荷重(押圧)を検出することができる。
【0005】
しかしながら、操作板及び圧電センサが押圧された方向に凸となるように撓むと、接着剤または粘着剤も押圧された方向に凸となるように撓む。そして、接着剤または粘着剤は、変形した形状から、元の形状に復元しようとする。
【0006】
そのため、接着剤または粘着剤は、荷重が変化する方向とは逆方向へ応力緩和作用を生じる。ユーザが荷重を変化させ始めた直後から荷重が接着剤または粘着剤によって緩和されるが、応力緩和作用は、荷重の変化が終わった後も続く。これにより、圧電センサは、荷重の変化が終わった後、荷重の変化に対応する電圧とは逆方向の電圧を出力する。
【0007】
よって、従来のタッチ式入力装置が圧電センサの出力電圧を積分した場合、荷重の変化が終わった後、積分値が応力緩和作用の出力分、減少してしまう。すなわち、荷重の変化が終わった後、ユーザが加えている力は変わらないにも係らず、積分値が応力緩和作用の出力分、減少してしまう。
【0008】
そこで、特許文献2には、圧電センサの出力電圧と基準電圧との差分が閾値を超えるか否かを判定し、差分が閾値を超えたとき、閾値を超えた区間の検出値を積分し、閾値の絶対値を大きくする構成が開示されている。そのため、特許文献2の構成は、応力緩和作用による逆方向の検出値を積分しない。
【0009】
一方で、特許文献3には、折り曲げ可能なディスプレイおよび携帯端末機器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-69264号公報
【文献】特開2017-33505号公報
【文献】特開2018-72663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2の構成は、変形が小さく、かつ長時間維持されない押圧センサに適用しているため、応力緩和作用による検出値を排除したことによる誤差の影響は少ない。しかし、特許文献3のような折り曲げ可能な装置は、変形が大きく、かつ長時間維持されるため、仮に特許文献2の様な押圧センサにおける閾値の制御手法を採用すると、応力緩和作用による検出値を排除したことによる誤差が無視できない程度になる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、折り曲げ可能な機器において応力緩和作用の影響を抑えながらも誤差を抑えることができる曲げセンサおよび電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る曲げセンサは、折り曲げ可能な基材に配置される圧電素子と、前記圧電素子に生じる電圧を検知する電圧検出回路と、前記電圧検出回路で検出した電圧を積分して積分値を算出し、前記積分値と前記基材の折り曲げ状態とを対応付ける演算部と、を備え、前記演算部は、前記積分値の最大値を応力緩和作用による減少値で補正した補正積分値を予め算出し、前記補正積分値を前記基材の第1折り曲げ状態に対応付け、算出した積分値を前記補正積分値に基づいて正規化する。
【0014】
演算部は、積分の最大値(応力緩和作用により積分値が減少するよりも前の最大値)から応力緩和作用による減少値(ΔS)を差分した補正積分値を予め求め、当該補正積分値を第1状態(例えば開閉角度180°)に対応付ける。そして、演算部は、求めた各積分値を補正積分値に基づき、正規化する(例えば0~180°に正規化する)。これにより、曲げセンサは、応力緩和作用による積分値の低下を考慮しつつも折り曲げ状態を正確に検出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、折り曲げ可能な機器において応力緩和作用の影響を抑えながらも誤差を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(A)は曲げセンサ1を備えた電子機器100の斜視図であり、(B)は折り曲げた状態の電子機器100の斜視図である。
図2】電子機器100の断面模式図である。
図3】曲げセンサ1の電気的構成を示すブロック図である。
図4図4(A)は、開閉角度0°の折り曲げ状態を示す一部断面図であり、図4(B)は、開閉角度15°の折り曲げ状態を示す一部断面図であり、図4(C)は、開閉角度180°の折り曲げ状態を示す一部断面図である。
図5】演算部17の動作を示すフローチャートである。
図6】演算部17の動作を示すフローチャートである。
図7】積分値と開閉角度の関係を示す図である。
図8】積分値と開閉角度変換の動作を示すフローチャートである。
図9】校正モードの動作を示すフローチャートである。
図10】電子機器100の筐体的特徴を用いた積分値の補正手法を示すフローチャートである。
図11】電子機器100の筐体的特徴を用いた別の補正手法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る曲げセンサ1よび当該曲げセンサ1を備えた電子機器100について、図を参照しながら説明する。なお、各図面において、説明の都合上、配線等は省略している。
【0018】
図1(A)は曲げセンサ1を備えた電子機器100の斜視図である。図1(B)は折り曲げた状態の電子機器100の斜視図である。電子機器100は、スマートフォン等の情報処理装置である。
【0019】
図2は、図1(A)に示す電子機器100を図1(A)に示すI-I線で切断した断面模式図である。なお、図2は、説明のために曲げセンサ1を大きく表示し、他の電子部品等は省略している。
【0020】
図1(A)に示すように、電子機器100は、略直方体形状の筐体102を備える。電子機器100は、筐体102に配置された平板状の表面パネル103を備える。表面パネル103は、ユーザが指またはペンなどを用いてタッチ操作を行う操作面として機能する。以下、筐体102の幅方向(横方向)をX方向とし、長さ方向(縦方向)をY方向とし、厚み方向をZ方向として説明する。
【0021】
図2に示すように、電子機器100は、筐体102の内側に表示器104および曲げセンサ1を備える。表示器104および曲げセンサ1は、表面パネル103の筐体102内側の面に形成されている。表面パネル103は透光性を有する。
【0022】
表面パネル103の下面と表示器104の上面は、例えば粘着剤または接着剤で貼り付けられる。また、表示器104の下面と曲げセンサ1の上面は、例えば粘着剤または接着剤で貼り付けられる。
【0023】
なお、曲げセンサ1が透明である場合、曲げセンサ1は表示器104よりも表面パネル103側に配置してもよい。
【0024】
筐体102、表面パネル103、表示器104、および曲げセンサ1は、可撓性を有する。これにより、電子機器100は、折り曲げることができる。この例では、X方向に沿った折り畳み位置Lを折れ曲がり線として折り曲げることができる。また、この例では、表面パネル103を内側にして折り曲げるが、表面パネル103を外側にして折り曲げてもよい。
【0025】
電子機器100は、折り畳み位置Lを軸として0°~180°まで開閉することができる。曲げセンサ1は、電子機器100の折り曲げ状態(現在の開閉角度)を検出する。なお、電子機器100は、屈曲部にヒンジまたは蛇腹構造等を設けることにより開閉可能としてもよい。
【0026】
曲げセンサ1は、圧電素子10、第1電極11、および第2電極12を備える。圧電素子10は平面視して矩形状に形成されている。第1電極11および第2電極12は平膜状であり、圧電素子10と同様に平面視して矩形状に形成されている。なお、圧電素子10、第1電極11、および第2電極12の形状は、矩形状に限らない。
【0027】
圧電素子10は、例えばPVDF(ポリフッ化ビニリデン)またはポリ乳酸等のキラル高分子からなる。ポリ乳酸(PLA)は、L型ポリ乳酸(PLLA)またはD型ポリ乳酸(PDLA)のいずれを用いてもよい。圧電素子10は、平面方向の伸縮により分極し、第1主面および第2主面に電位差を生じる。
【0028】
第1電極11は、グランド電極であり、第2電極12は、検出用電極である。第1電極11は、表示器104に対するノイズシールドとしても機能する。ただし、第2電極12がグランド電極であってもよい。
【0029】
図3は、曲げセンサ1の電気的構成を示すブロック図である。第1電極11および第2電極12は、電圧検出回路15に接続される。電圧検出回路15は、第1電極11および第2電極12の電位差、すなわち圧電素子10で生じる電圧を検出する。電圧検出回路15は、検出した電圧値を演算部17に出力する。
【0030】
演算部17は、電圧検出回路15で検出した電圧値を積分して積分値を算出する。演算部17は、算出した積分値と、基材である表面パネル103の折り曲げ状態(開閉角度)を対応付ける。これにより、演算部17は、電子機器100の折り曲げ状態(開閉角度)を検出する。演算部17は、検出した開閉角度の情報を出力する。
【0031】
図4(A)は、開閉角度0°の折り曲げ状態を示す一部断面図であり、図4(B)は、開閉角度15°の折り曲げ状態を示す一部断面図であり、図4(C)は、開閉角度180°の折り曲げ状態を示す一部断面図である。図4(A)~図4(C)は、圧電素子10および基材である表面パネル103のみ表示している。なお、本実施形態では、電子機器100を折り曲げていない状態を開閉角度0°と定義し、電子機器100の最大の折り曲げ状態を開閉角度180°と定義している。ただし、電子機器100を折り曲げていない状態を開閉角度180°と定義し、電子機器100の最大の折り曲げ状態を開閉角度0°と定義してもよい。
【0032】
図4(A)に示す様に、表面パネル103の開閉角度が0°の状態では、圧電素子10は、伸縮しない基準状態である。図4(B)に示す様に表面パネル103を折り曲げると、圧電素子10が伸張する。また、図4(C)に示す様に、表面パネル103を180°折り曲げると、圧電素子10の伸張量は、最大になる。
【0033】
圧電素子10は、伸縮速度に応じた電圧を生じる。例えば、表面パネル103の開閉角度が0°の状態から図4(B)に示す様に表面パネル103を15°程度折り曲げると、圧電素子10は、折り曲げの速度に応じた電圧を生じる。開閉角度を維持した状態では、圧電素子10は、電圧を生じない。したがって、演算部17は、電圧値(基準電圧との差分)を積分し、積分値を開閉角度に対応付ける。
【0034】
図5は、演算部17の動作を示すフローチャートである。演算部17は、まず電圧値を取得する(S11)。演算部17は、ローパスフィルタ(LPF)処理を行ない、ノイズ成分を除去する(S12)。そして、演算部17は、電圧値のオンライン平均を算出する(S13)。オンライン平均は、以下の数式で表される。
【0035】
Aven+1=(Ave+Data)/n
Dataは、n番目に入力した現在の電圧値であり、Aveは、現在のオンライン平均である。演算部17は、メモリ(不図示)にオンライン平均を逐次保持する。メモリには、過去の電圧値は保持しない。これにより、過去のデータを保持するメモリを大容量にする必要が無い。この様に算出したオンライン平均が基準電圧になる。演算部17は、オンライン平均を基準電圧に設定することで、基準電圧更新の変動によるセンサの測定誤差を減少することができる。
【0036】
次に、演算部17は、基準電圧が未設定であるか否かを判断する(S14)。基準電圧が設定済の場合、S17の処理にスルーする(S14→S17)。起動時には、基準電圧は未設定である。したがって、演算部17は、基準電圧が未設定であると判断した場合、基準電圧を設定する。ただし、演算部17は、基準電圧設定条件を満たすか否かを判断する(S15)。例えば、演算部17は、起動後に所定時間(例えば500msec)経過し、かつ電圧値の変動が所定値未満(例えば、現在の電圧値とオンライン平均の差分が、オンライン平均に対して0.1%未満)である場合に、基準電圧設定条件を満たしたと判断する。演算部17は、基準電圧設定条件を満たしていないと判断した場合、動作を終える(S15→END)。演算部17は、基準電圧設定条件を満たしていると判断した場合に、オンライン平均を基準電圧に設定する(S16)。
【0037】
次に、演算部17は、不感帯以上の電圧値が入力されたか否かを判断する(S17)。不感帯とは、例えば、電圧値が所定値未満(例えば、現在の電圧値と基準電圧の差分が、基準電圧に対して0.5%未満)の場合である。演算部17は、電圧値が所定値未満の場合、誤差であるとして入力が無いものとみなし、動作を終える(S17→END)。演算部17は、電圧値が所定値以上であれば、積分値を算出する(S18)。
【0038】
これにより、演算部17は、積分値に応じた開閉角度の情報を出力できる。
【0039】
一方、表面パネル103、表示器104、および曲げセンサ1は、上述した様に接着剤または粘着剤で貼り付けられる。接着剤または粘着剤は、変形した形状から、元の形状に復元しようとする応力緩和作用を生じる。応力緩和作用は、曲げ変形に対する電圧とは逆極性の電圧を生じる。応力緩和作用は、曲げ変形が無くなった後も続く。そのため、曲げ変形が止まった後も、積分値が変動してしまう。
【0040】
特開2017-33505号公報の構成では、応力緩和作用による検出値を排除している。特開2017-33505号公報の構成は、変形が小さく、かつ長時間維持されない押圧センサに適用しているため、応力緩和作用による検出値を排除したことによる誤差の影響は少ない。しかし、本実施形態の曲げセンサ1は、180°程度に折り曲げる電子機器100に適用する。この様な折り曲げ可能な装置は、変形が大きく、かつ長時間維持される。したがって、応力緩和作用による検出値を排除すると誤差の大きさが無視できない値になる。ここで、仮に積分値の最大値を最大の折り曲げ状態(180°)に対応付けると、応力緩和作用により、検出される開閉角度が実際の開閉角度よりも小さくなる。例えば、実際の開閉角度が180°の場合では、応力緩和作用により積分値が低下するため、検出される開閉角度が178°程度に低下する。
【0041】
そこで、本実施形態の曲げセンサ1は、積分値の最大値から応力緩和作用による電圧の減少値を考慮して補正した補正積分値を最大の折り曲げ状態の角度(180°)に対応付け、算出した積分値を角度で正規化する。これにより、曲げセンサ1は、応力緩和作用による積分値の低下を考慮しつつも折り曲げ状態を正確に検出することができる。以下、フローチャートを参照して演算部17の動作を説明する。
【0042】
図6は、演算部17の動作を示すフローチャートである。図7は、積分値と開閉角度の関係を示す図である。
【0043】
まず、演算部17は、積分値が最大値(MAX)よりも大きいか否かを判断する(S21)。最大値とは、電子機器100を180°折り曲げた直後の積分値(応力緩和作用により積分値が減少するよりも前の最大値)である。最大値は予め求めておく。積分値は、理想的にはこの最大値以上になることはない。したがって、演算部17は、積分値が最大値よりも大きい場合、積分値を最大値にセットする(S22)。また、演算部17は、何らかの影響により基準電圧が誤差の影響を受けていると判断して、動的校正モードをオンする(S23)。動的校正モードについては後述する。
【0044】
演算部17は、積分値が最大値以下である場合、さらに、積分値が0よりも小さいか否かを判断する(S24)。積分値は、理想的には0未満になることはない。したがって、演算部17は、積分値が0未満である場合、積分値を0にセットする(S25)。また、演算部17は、動的校正モードをオンする(S23)。
【0045】
次に、演算部17は、積分値が、最大値と応力緩和作用による減少値(ΔS)の差分値よりも大きいか否かを判断する(S26)。応力緩和作用による減少値(ΔS)は、予め求めておく。演算部17は、積分値がMAX-ΔSよりも大きいと判断した場合、積分値を「積分値 +(MAX-ΔS-積分値)×減衰率(例えば0.002)」に補正する(S27)。減衰率は、MAX-ΔSよりも大きい積分値が全て180°の角度に対応する様に、予め求めておく。これにより、積分値がMaX-ΔSを超えても、角度は全て180°に規格化される。
【0046】
図8は、積分値と開閉角度変換の動作を示すフローチャートである。演算部17は、図6のフローチャートで補正された積分値を開閉角度に変換する。すなわち、演算部17は、開閉角度を、角度={積分値/(MAX-ΔS)}×180の数式で求める(S31)。ここで、演算部17は、求めた角度が180を超える場合には、角度を180°にセットする(S32→S33)。また、演算部17は、求めた角度が0未満となる場合には、角度を0°にセットする(S34→S35)。
【0047】
以上の様にして、演算部17は、積分値=MAX-ΔSを180°に対応付けて、求めた各積分値を角度で正規化する。これにより、曲げセンサ1は、応力緩和作用による積分値の低下を考慮しつつも折り曲げ状態を正確に検出することができる。
【0048】
図9は、校正モードの動作を示すフローチャートである。演算部17は、動的校正モードがオンであるか否かを判断する(S41)。演算部17は、動的校正モードがオフの場合、動作を終える。
【0049】
演算部17は、動的校正モードがオンの場合、電圧の微分値が所定値(例えば0.0003)未満であり、かつその状態が所定時間(例えば10msec)以上継続しているか否かを判断する(S42)。演算部17は、電圧の微分値が所定値未満であり、かつその状態が所定時間以上継続している場合に限り、基準電圧を更新する(S43)。すなわち、演算部17は、オンライン平均を基準電圧に設定する。これにより、演算部17は、動作中にも逐次的に基準電圧を校正し、誤差を抑えることができる。
【0050】
次に、図10は、電子機器100の筐体的特徴を用いた積分値の補正手法を示すフローチャートである。本実施形態の電子機器100は、図4(A)に示した開閉角度0°、図4(B)に示した開閉角度15°、および図4(C)に示した開閉角度180で、それぞれの開閉状態を保持することができる。電子機器100の筐体102は、不図示のバネ等の付勢機能を備える。この付勢機能により、筐体102は、開閉角度15°の状態からさらに開けると、自動的かつ速やかに開閉角度0°に変化する。また、筐体102は、開閉角度0°の状態から筐体102を閉じると、自動的かつ速やかに開閉角度15°に変化する。また、電子機器100の筐体102には、不図示の磁石等の吸着機能を備える。当該吸着機能により、筐体102は、開閉角度165°程度からさらに筐体102を閉じると、筐体102は自動的かつ速やかに開閉角度180°に変化する。
【0051】
演算部17は、これらの筐体的特徴を利用して、積分値を補正してもよい。すなわち、演算部17は、開閉角度が0°または180°に近い場合には、検出角度を0°または180°に近づける処理を行なう。図10に示す様に、演算部17は、開閉角度が162°よりも大きいか否かを判断する(S51)。演算部17は、開閉角度が162°よりも大きいと判断した場合、積分値を、積分値+(MAX-ΔS-積分値)×所定値(例えば0.002)に補正する(S52)。これにより、積分値を緩やかにMAX-ΔSに近づける。
【0052】
また、演算部17は、開閉角度が18°よりも小さい否かを判断する(S53)。演算部17は、開閉角度が18°よりも小さいと判断した場合、積分値を、積分値-(積分値)×所定値(例えば0.002)に補正する(S54)。これにより、積分値を緩やかに0に近づける。
【0053】
そして、演算部17は、開閉角度を、角度={積分値/(MAX-ΔS)}×180の数式で求める(S31)。
【0054】
この様に、曲げセンサ1は、筐体102が開閉角度0°、15°、および180°の状態を安定的に保持する特徴を利用し、開閉角度が18°未満、あるいは162°よりも大きい場合に、積分値をMAX-ΔSまたは0に近づける補正を行うことで、安定的な補正を実現する。
【0055】
図11は、電子機器100の筐体的特徴を用いた別の補正手法を示すフローチャートである。演算部17は、開閉角度が15°未満であるか否かを判断する(S61)。演算部17は、開閉角度が15°未満であると判断した場合、さらに、検出した電圧値と基準電圧の差が0.5mV未満であるか否か(S62)、および0.8mVよりも大きいか否か(S63)を判断する。開閉角度15°の状態から0°の変化時には、筐体102は、一定の速度で開くため、電圧値と基準電圧の差が所定の範囲(この例では、0.5mV~0.8mV)になる。したがって、演算部17は、電圧値と基準電圧の差が所定の範囲(この例では、0.5mV~0.8mV)である場合、開閉角度をΔSの1/4(0.25ΔS)に設定する(S64)。
【0056】
この様に、曲げセンサ1は、筐体102が開閉角度15°から0°まで開く際に、安定的な電圧値が出力される特徴を利用し、開閉角度をΔSの1/4(0.25ΔS)にリセットする補正を行うことで、安定的な補正を実現する。
【0057】
最後に、前記実施形態の説明は、すべての点で例示であり、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲は、特許請求の範囲と均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0058】
1…曲げセンサ
10…圧電素子
11…第1電極
12…第2電極
15…電圧検出回路
17…演算部
100…電子機器
102…筐体
103…表面パネル
104…表示器
【要約】
曲げセンサ(1)は、折り曲げ可能な基材(103)に配置される圧電素子(10)と、前記圧電素子(10)に生じる電圧を検知する電圧検出回路(15)と、前記電圧検出回路(15)で検出した電圧を積分して積分値を算出し、前記積分値と前記基材(103)の折り曲げ状態とを対応付ける演算部(17)と、を備え、前記演算部(17)は、前記積分値の最大値を応力緩和作用による減少値で補正した補正積分値を予め算出し、前記補正積分値を前記基材(103)の第1折り曲げ状態に対応付け、算出した積分値を前記補正積分値に基づいて正規化する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11