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特許7078228検体の一段階のキャピラリ等電集束及び移動
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】検体の一段階のキャピラリ等電集束及び移動
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20220524BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220524BHJP
【FI】
G01N27/447 335Z
G01N27/62 X
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2018501229
(86)(22)【出願日】2017-09-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 US2017052952
(87)【国際公開番号】W WO2018057885
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-15
(31)【優先権主張番号】62/399,267
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515249905
【氏名又は名称】ユニヴァーシティー オブ ノートル ダム デュ ラック
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ドビチ, ノーマン
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ, グイジェ
(72)【発明者】
【氏名】スゥン, リャンリャン
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-516078(JP,A)
【文献】特開2009-210356(JP,A)
【文献】特開2003-035698(JP,A)
【文献】特開2001-083119(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0140180(US,A1)
【文献】特表2005-530151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一段階のキャピラリ等電集束(cIEF)及び化学的移動のための方法であって、
(a)アノード端及びカソード端を有する分離キャピラリで分離を行うステップであって、前記分離キャピラリの前記カソード端は、質量分析計における動電学的にポンピングされたナノエレクトロスプレーエミッタに連結されている、ステップと;
(b)前記分離キャピラリの前記アノード端に、まずある長さのアルカリ溶液を、次に両性電解質及び検体を含む混合物を部分的に充填するステップと;
(c)前記ナノエレクトロスプレーエミッタに、酸性シース電解質溶液及びアノード電解質溶液を供給するステップであって、前記アノード電解質溶液は、 ~C カルボン酸を含む、ステップと;
(d)前記分離キャピラリの前記アノード及び前記カソード端に電圧を印加するステップと;
(e)前記検体の等電集束、及びそれに付随する前記分離キャピラリの前記カソード端に向けた前記検体の化学的移動を誘発するステップと;
(f)ナノエレクトロスプレーを形成するステップであって、前記酸性シース電解質溶液は、前記分離キャピラリの前記カソード端から流出する前記混合物を包み込む、ステップと
を含み、前記アルカリ溶液及び前記アノード電解質溶液によりpH勾配が確立されて、前記検体の等電集束を誘発し、前記酸性シース電解質溶液によってより低いpHに前記アルカリ溶液が滴定されるにつれて、前記検体は化学的に移動され、次いで前記酸性シース電解質溶液により前記質量分析計に向けて動電学的にポンピングされ、それによって、電圧が印加された際にナノエレクトロスプレーを形成する、方法。
【請求項2】
前記アルカリ溶液が、最初の充填後に、少なくとも1cmの前記分離キャピラリ内の長さを有し、前記分離キャピラリの内径が、300μm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ溶液が、水酸化アンモニウムを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
両性電解質及び検体を含む前記混合物が、最初の充填後に、少なくとも1cmの前記分離キャピラリ内の長さを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記アノード電解質溶液が、ギ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記両性電解質が、pH単位当たりの緩衝能力、直線pH勾配、及び両性電解質にわたる均一な導電性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記両性電解質のpH単位当たりの前記緩衝能力が、pH3~10、pH3~6、pH5~8、又はpH7~10の範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記酸性シース電解質溶液が、化学的移動剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記酸性シース電解質溶液が、ギ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酸性シース電解質溶液が、アルコール又はアセトニトリルをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
等電集束及び化学的移動のために印加される前記電圧が、50V/cm~500V/cmの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
等電集束の後に、前記分離キャピラリの手動による物理的操作なしに化学的移動が自動的に続く、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記分離キャピラリが、ポリマーでコーティングされた内側表面を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマーが、直鎖ポリアクリルアミド(LPA)を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記分離キャピラリが、少なくとも10cmの長さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記分離キャピラリの前記カソード端の先端の外径が、前記分離キャピラリの残りの外径に対して低減されている、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記分離キャピラリの前記カソード端の先端の外径が、前記分離キャピラリの内径より20%~50%大きい、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記検体が、タンパク質、又は薬物-タンパク質複合体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記質量分析計により検出されたタンパク質、又は薬物-タンパク質複合体の電気泳動図のピークが、分解される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記電気泳動図が、再現可能である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
一段階のキャピラリ等電集束(cIEF)及び化学的移動のためのキットであって、(a)アルカリ溶液と、(b)アノード電解質溶液と、(c)酸性シース電解質溶液と、(d)両性電解質と、(e)請求項1に記載の方法に従って使用するための説明書とを備えるキット。
【請求項22】
前記アルカリ溶液が、水酸化アンモニウムを含む、請求項21に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願]
本出願は、35U.S.C. §119(e)の下で、2016年9月23日に出願された米国仮特許出願第62/399,267号に対する優先権を主張し、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[政府支援]
本発明は、国立衛生研究所により授与された助成金番号R01GM096767の下で政府援助によりなされた。政府は本発明においてある特定の権利を有する。
【0003】
[発明の背景]
Hjerten及びZhu(J. Chomatogr. 1985、346、265)により初めて示されたキャピラリ等電集束法(cIEF)は、タンパク質及びペプチド分析のための強力な方法であることが証明されている。cIEFは、典型的には、二段階プロセスとして行われ、集束(分離)段階の後に移動段階が続く。集束中、タンパク質又はペプチドは、その等電点(pI)に基づいて分離される。分離キャピラリ内で集束されたバンドを画像化するために、光学的検出が使用され得る。
【0004】
あるいは、集束された試料は、キャピラリの遠位端に配置された検出器まで移動される。2種類の移動手法が典型的に使用される。流体圧式移動は、圧力、真空又はサイフォンを使用して生成される。あるいは、Hjerten(J. Chromatogr. 1987、387、127~138)により初めて提案されたような化学的移動が、カソード電解質をより低いpHの緩衝液に変更することにより行われる。化学的移動は、圧力移動中の層流に起因するTaylor分散を回避する。
【0005】
cIEFは、UV吸光度、レーザ誘起蛍光、及び質量分析を含む一連の検出器に結合されている。質量分析は、正確な分子量及び断片化情報等の情報に富んだ同定を提供する。cIEFを質量分析にオンラインで結合するにはいくつかの課題があるが、いくつかの報告では、タンパク質又はペプチドの複雑な混合物が分析されている。
【0006】
しかしながら、初期のcIEF-MS実験法は、キャピラリの大掛かりな手動操作を必要とする化学的移動を使用していた。集束は、専用貯蔵部内の適切な緩衝液を使用して、オフラインで行われた。集束後、キャピラリは、酸性シース電解質が移動緩衝液として機能し、試料を質量分析計まで付勢するための化学的移動を生成するエミッタ内に、手動で挿入された。この手動操作は、時間を要し、煩雑であり、自動化を妨げ、この技術の実際の適用を制限する。
【0007】
したがって、オフライン集束及び化学的移動のためのキャピラリの面倒で大掛かりな手動操作を必要としないcIEF-MS実験を行う必要がある。
【0008】
[概要]
自動化された化学的移動のためのサンドイッチ注入法に基づくキャピラリ等電集束(cIEF)システムが、本明細書において説明される。このシステムは、質量分析計(例えばイオントラップ又は飛行時間型質量分析計)への動電学的にポンピングされたナノエレクトロスプレーインターフェースに結合された。ナノエレクトロスプレーエミッタは、酸性シース電解質を使用した。自動化された集束及び移動を実現するために、まず水酸化アンモニウムのプラグがキャピラリ内に注入され、続いて混合試料及び両性電解質のセクションが注入された。集束中、NHOセクションは、カソード電解質として機能した。集束が進行するにつれて、NHOセクションが、酸性シース緩衝液によってより低いpHの緩衝液まで滴定された。水酸化アンモニウムが酸性シース流動電解質により消費されると、化学的移動が自動的に開始し、次いで電解質は移動溶液として機能した。本開示において、NHOセクション及び試料の長さが最適化された。長さ1メートルのキャピラリにおいて、NHOセクションの比較的短いプラグ(3cm)は、急速な泳動及び妥当な分離分解能の両方をもたらした。自動化CIEF-MSシステムは、ミオグロビン及びシトクロムCに対して、3回の分離で8.5%のベースピーク強度相対標準偏差、及び0.6%以下の泳動時間相対標準偏差を生じた。
【0009】
したがって、本開示は、一段階のキャピラリ等電集束(cIEF)及び化学的移動のための方法であって、
(a)アノード端及びカソード端を有する分離キャピラリで分離を行うステップであって、分離キャピラリのカソード端は、質量分析計における動電学的にポンピングされたナノエレクトロスプレーエミッタに連結されている、ステップと;
(b)分離キャピラリのアノード端に、まずある長さのカソード電解質溶液を、次に両性電解質及び検体を含む混合物を部分的に充填するステップと;
(c)ナノエレクトロスプレーエミッタに、酸性シース電解質溶液及びアノード電解質溶液を供給するステップであって、アノード電解質溶液は、分離キャピラリのカソード端から流出することによりナノエレクトロスプレーエミッタ内に供給される、ステップと;
(d)分離キャピラリのアノード及びカソード端に電圧を印加するステップと;
(e)検体の等電集束、及びそれに付随する分離キャピラリのカソード端に向けた検体の化学的移動を誘発するステップと;
(f)ナノエレクトロスプレーを形成するステップであって、酸性シース電解質溶液は、分離キャピラリのカソード端から流出する混合物を包み込む、ステップと
を含み、カソード電解質溶液及びアノード電解質溶液によりpH勾配が確立されて、検体の等電集束を誘発し、酸性シース電解質溶液によってより低いpHにカソード電解質溶液が滴定されるにつれて、検体は化学的に移動され、次いで酸性シース電解質溶液により質量分析計に向けて動電学的にポンピングされ、それによって、電圧が印加された際にナノエレクトロスプレーを形成する、方法を提供する。
【0010】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある特定の実施形態又は様々な態様をさらに示すために含まれる。いくつかの場合において、本発明の実施形態は、本明細書に示される詳細な説明と組み合わせて添付の図面を参照することにより、最も良く理解され得る。説明及び添付の図面は、本発明のある特定の具体例、又はある特定の態様を強調し得る。しかしながら、当業者には、例又は態様の一部が、本発明の他の例又は態様と組み合わせて使用されてもよいことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】動電学的にポンピングされたエレクトロスプレーインターフェースに基づく自動化CIEF-MSの図である。
図2】[図2A~2D]60cmの試料注入、並びに1cm(A)、3cm(B)、5cm(C)、及び10cm(D)の0.3% NHOプラグ長さでの自動化CIEF-MS/MSからの、ミオグロビン及びシトクロムCの混合物のベースピーク電気泳動図である。
図3】[図3A~3C]長さ3cmの0.3% NHOプラグ長さ、並びに50cm(A)、60cm(B)及び80cm(C)の試料プラグ長さで自動化cIEF-MS/MSシステムを使用した、シトクロムC(1)、ミオグロビン(2)、ベータ-ラクトグルブリン(lactoglublin)(3)、及び炭酸脱水酵素(4)の混合物のベースピーク電気泳動図である。
図4】50cmの試料プラグ長さ及び3cmの0.3% NHO注入での、ミオグロビン及びシトクロムCの3回のcIEF-MS/MS分離のベースピーク電気泳動図である。
【0012】
[詳細な説明]
キャピラリ等電集束法において、検体は、集束段階中に分離される。検出及び単離されるには、検体は、検出点を通過して移動しなければならない。この分離プロセスは、集束段階に従う。キャピラリ電気泳動機器における検出点は、分離キャピラリの出口端部に向けて配置される。タンパク質又はペプチド混合物が、cIEFプロセスにおいてそのpIに従って分類されたら、個々の検体ゾーンは、検出点の前にキャピラリに沿って最低pIから最高pIまで分布する。したがって、検体ゾーンは、キャピラリ出口に向かって移動し、検出点を通過しなければならない(Agilent Technologies primer、5991-1660EN、T. Kristlらによる、Principles and Application of Capillary Isoelectric Focusing 2014を参照されたい)。この目的のために確立された手法が、化学的移動である。実際には、これは面倒な手動の二段階プロセスであった。
【0013】
化学的移動において、アノード電解質(anolyte)又はカソード電解質(catholyte)は、高いイオン強度又は異なるpHを有する別の電解質溶液で置き換えられる。試料検体及び担体両性電解質は、正味電荷を獲得し、出口に向けて移動し始め、それにより検出点を通過する。例えば、弱酸の溶液が、カソード電解質を置き換えるために使用され得る。化学的移動剤(弱酸)からの陰イオンは、カソード側からキャピラリに進入し、一方アノード電解質からのヒドロニウムイオンは、アノード側からキャピラリに進入する。pH勾配は、弱酸及び担体両性電解質により乱され、検体には、正味正電荷が付与され、これがカソードに、すなわち検出点が位置するキャピラリ側に向かうその移動をもたらす。したがって、上述の手動の二段階プロセスは、開示されるサンドウィッチ注入法によって一段階に低減されている。
【0014】
さらに、我々のグループは、以前に、極めて安定で低いシース流速を提供するキャピラリ電気泳動MSのための動電学的に付勢されるシース流動ナノスプレーインターフェースを開発した。我々は、生成物枯渇組み換え治療試料の分析のためにcIEFをESI-MSに結合し、迅速分析において、37の宿主細胞タンパク質に対応する53のペプチドを同定した。我々はまた、等電集束においてpH勾配を生成するためのアミノ酸の使用を開発し、RAW264.7トリプシン消化物から100を超えるタンパク質及び300を超えるペプチドを同定した。我々はまた、神経成長因子による処置後のiTRAQ標識化PC12細胞分化の定量的プロテオーム解析に、アミノ酸両性電解質によるcIEFを使用した。そして、合計で2,329のペプチド及び835のタンパク質群が定量された。96の差次的発現タンパク質が同定された。
【0015】
本開示では、動電学的に付勢されるシース流動CE-MSナノスプレーインターフェースに基づくcIEF-MSを自動化するためのサンドイッチ注入法が説明される。
【0016】
[定義]
以下の定義は、本明細書及び特許請求の範囲の明確で一貫した理解を提供するために含まれる。本明細書において使用される場合、列挙された用語は、以下の意味を有する。本明細書において使用される全ての他の用語及び語句は、当業者により理解されているようなその通常の意味を有する。そのような通常の意味は、Hawley’s Condensed Chemical Dictionary 第14版、R.J. Lewis著、John Wiley&Sons、New York、N.Y.、2001等の専門用語辞典を参照することにより得ることができる。
【0017】
本明細書における「一実施形態」、「実施形態」等への言及は、説明される実施形態が、特定の態様、特徴、構造、部分、又は特性を含み得るが、全ての実施形態がその態様、特徴、構造、部分、又は特性を含むとは限らないことを示す。さらに、そのような語句は、必ずではないが、本明細書の他の部分において参照された同じ実施形態を示し得る。さらに、特定の態様、特徴、構造、部分、又は特性がある実施形態と関連して説明されている場合、明示的に説明されているか否かを問わず、そのような態様、特徴、構造、部分、又は特性を、他の実施形態と関連させる、又は結び付けることは、当業者の知識の範囲内である。
【0018】
文脈上異なる定義が明示されていない限り、単数形「a」「an」及び「the」は複数形の言及も含む。したがって、例えば、「化合物」への言及は、複数のそのような化合物を含み、したがって、化合物Xは、複数の化合物Xを含む。さらに、請求項は、いかなる任意選択の要素も除外するように作成され得ることが留意される。したがって、この陳述は、本明細書に記載の任意の要素、及び/若しくは請求要素の列挙に関連する排他的用語、例えば「唯一」、「~のみ」等の使用、又は「否定的」限定の使用の先行記述としての役割を果たすことを意図する。
【0019】
「及び/又は」という用語は、この用語が関連する項目の任意の1つ、項目の任意の組合せ、又は項目の全てを意味する。「1つ又は複数」及び「少なくとも1つ」という語句は、特にその使用の文脈に照らして読めば、当業者に容易に理解される。例えば、この語句は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、10個、100個、又は列挙された下限値よりおよそ10倍、100倍若しくは1000倍高い任意の上限値を意味し得る。
【0020】
当業者に理解されるように、成分の量、分子量等の特性、反応条件等を表すものを含む全ての数字は、近似値であり、全ての場合において「約」という用語により任意選択で修飾されるものとして理解される。これらの値は、本明細書における説明の教示を利用して当業者が得ようとしている所望の特性に依存して変動し得る。また、そのような値は、そのそれぞれの試験測定において見られる標準偏差から必然的に生じる変動性を本来含有することが理解される。先行詞「約」の使用により値が近似値として表される場合、修飾語「約」のない特定の値もまた、さらなる態様を形成することが理解される。
【0021】
「約」及び「およそ」という用語は、同義的に使用される。これらの用語は共に、指定された値の±5%、±10%、±20%、又は±25%の変動を示し得る。例えば、「約50」パーセントは、いくつかの実施形態において、45~55パーセントの、又は特定の請求項により別様に定義されるような変動を有し得る。整数範囲の場合、「約」という用語は、範囲の各端で列挙された整数より大きい、及び/又は小さい1つ又は2つの整数を含み得る。本明細書において別様に示されない限り、「約」及び「およそ」という用語は、個々の成分、組成物、又は実施形態の機能性の点で等価である、列挙された範囲に近い値、例えば重量パーセンテージを含むことを意図する。「約」及び「およそ」という用語はまた、本段落において上述されたように、列挙された範囲の端点を修飾し得る。
【0022】
当業者に理解されるように、ありとあらゆる目的において、特に文章による説明の提供に関して、本明細書において列挙された全ての範囲は、そのありとあらゆる可能な部分範囲及び部分範囲の組合せ、並びにその範囲を構成する個々の値、特に整数値もまた包含する。したがって、2つの特定の単位の間の各単位もまた開示されることが理解される。例えば、10~15が開示される場合、11、12、13、及び14もまた、個々に、及び範囲の一部として開示される。列挙された範囲(例えば重量パーセンテージ又は炭素群)は、範囲内のそれぞれの特定の値、整数、小数、又は同一性を含む。任意の列挙された範囲は、少なくとも等価な2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、又は10分の1に分割された同じ範囲についても十分に説明するものであり有効であることが、容易に理解され得る。非限定的な例として、本明細書において議論される各範囲は、下限側の3分の1、中間の3分の1、及び上限側の3分の1等に容易に分割され得る。同じく当業者に理解されるように、「~まで」、「少なくとも」、「~を超える」、「未満」、「超」、「以上」等の用語は全て、列挙された数を含み、そのような用語は、その後上述のような部分範囲に分割され得る範囲を示す。同様にして、本明細書において列挙された全ての比率もまた、より広い比率に含まれる全ての部分比率を含む。したがって、基、置換基、及び範囲に対して列挙された特定の値は、例示のみを目的とし、それらは、基及び置換基に対する他の定義された値、又は定義された範囲内の他の値を除外しない。さらに、範囲のそれぞれの端点は、他の端点に関連して、及び他の端点とは独立して共に有意であることが理解される。
【0023】
また、メンバーが一般的な様式で、例えばマーカッシュ群内に一緒にグループ化されている場合、本発明は、列挙された群全体をまとめて包含するだけでなく、群の各メンバーを個々に、及び主要群の全ての可能な部分群を包含することが、当業者に容易に理解される。さらに、全ての目的において、本発明は、主要群だけでなく、群のメンバーの1つ又は複数を含まない主要群もまた包含する。したがって、本発明は、列挙された群のメンバーの任意の1つ又は複数の明示的な除外を想定している。したがって、開示されたカテゴリー又は実施形態のいずれにも、例えば明示的な否定的限定における使用のために、列挙された要素、種、又は実施形態の任意の1つ又は複数がそのようなカテゴリー又は実施形態から除外され得る条件が適用され得る。
【0024】
「接触させる」という用語は、細胞又は分子レベルを含め、触れさせる、接触を生じさせる、又は密接若しくは近接させる行為、例えば、溶液中、反応混合物中、in vitro、又はin vivo等で、生理的反応、化学反応、又は物理的変化をもたらすことを指す。
【0025】
「実質的に」という用語は、本明細書において使用される場合、広義の用語であり、ほぼ指定されたものであるが必ずしも完全ではないことを含む(但しそれに限定されない)、その通常の意味で使用される。例えば、この用語は、完全な数値の100%ではない可能性がある数値を示し得る。完全な数値は、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約15%、又は約20%少なくてもよい。
【0026】
「分離キャピラリ」という用語は、一般に、その内側表面内及びその長さにわたって検体を精製された物質に分離することができる、狭い口径を有する管状デバイスを示す。分離キャピラリは、作製されてもよい、又は様々な物質であってもよい。分離キャピラリは、コーティング、固定相、移動相、又はそれらの組合せを備えてもよい。
【0027】
「電気泳動」という用語は、電場内の荷電種の示差的移動速度に基づく検体の分離を示す。
【0028】
「電気浸透流」という用語は、電気泳動の特性を示す。例えば分離キャピラリの軸に沿って電解質溶液に電場が印加された場合、キャピラリの壁に近い移動性の過剰のカチオンは、その溶媒和殻を引きずりながら反対電荷の電極に引かれる。電気浸透流現象はまた、シース電解質の貯蔵部に印加された電位がインターフェースを通してシース流体を動電学的に付勢(又はポンピング)し、エレクトロスプレーを生成する際に、エレクトロスプレーインターフェースのガラスエミッタ内で生じる。
【0029】
「両性電解質」という用語は、酸性及び塩基性基の両方を含有し、ある特定のpH範囲においてほとんどの場合両性イオンとして存在する両性分子を示す(例えばタンパク質及びポリペプチド)。平均電荷がゼロであるpHは、分子の等電点(pI)として知られている。両性電解質は、等電集束における使用のための安定なpH勾配を確立するために使用される。
【0030】
「アノード電解質」及び「カソード電解質」という用語は、溶液中の異なる電解質種を示し、アノード電解質はアノードの近くに位置し、カソード電解質はカソードの近くに位置する。
【0031】
「長さ」という用語は、本明細書において使用される場合、ある特定の内径を有する分離キャピラリ内の長さを有する溶液、例えば両性電解質及び検体の混合物を含む試料の量を示す。「長さ」という用語はまた、本明細書において使用される場合、「プラグ」という用語と同義である。例えば、試料のプラグ、又はカソード電解質のプラグは、例えば、キャピラリ内に注入又は何らかの形で導入された試料の溶液、又はカソード電解質の溶液を示し、導入された試料又はカソード電解質の溶液の量は、キャピラリの全長の割合(又はパーセンテージ)であるキャピラリ内の長さを有する。
【0032】
[発明の実施形態]
様々な実施形態において、一段階のキャピラリ等電集束(cIEF)及び化学的移動のための方法が開示され、方法は、
(a)アノード端及びカソード端を有する分離キャピラリで分離を行うステップであって、分離キャピラリのカソード端は、質量分析計における動電学的にポンピングされたナノエレクトロスプレーエミッタに連結されている、ステップと;
(b)分離キャピラリのアノード端に、まずある長さのカソード電解質溶液を、次に両性電解質及び検体を含む混合物を部分的に充填するステップと;
(c)ナノエレクトロスプレーエミッタに、酸性シース電解質溶液及びアノード電解質溶液を供給するステップであって、アノード電解質溶液は、分離キャピラリのカソード端から流出することによりナノエレクトロスプレーエミッタ内に供給される、ステップと;
(d)分離キャピラリのアノード及びカソード端に電圧を印加するステップと;
(e)検体の等電集束、及びそれに付随する分離キャピラリのカソード端に向けた検体の化学的移動を誘発するステップと;
(f)ナノエレクトロスプレーを形成するステップであって、酸性シース電解質溶液は、分離キャピラリのカソード端から流出する混合物を包み込む、ステップと
を含み、カソード電解質溶液及びアノード電解質溶液によりpH勾配が確立されて、検体の等電集束を誘発し、酸性シース電解質溶液によってより低いpHにカソード電解質溶液が滴定されるにつれて、検体は化学的に移動され、次いで酸性シース電解質溶液により質量分析計に向けて動電学的にポンピングされ、それによって、電圧が印加された際にナノエレクトロスプレーを形成する。上記要素(a)~(f)の1つ又は複数は、様々な実施形態において、任意選択で方法から省略されてもよい。
【0033】
追加的実施形態において、分離キャピラリは、シリカキャピラリ、溶融シリカキャピラリ、又は検体を分離するために使用されるキャピラリである。他の実施形態において、分離キャピラリは、ガラス又はポリマーである。さらに他の実施形態において、分離キャピラリは、コーティングされている、又はコーティングされていない。
【0034】
追加的実施形態において、カソード電解質溶液は、最初の充填後に、約又は少なくとも1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、6cm、7cm、8cm、9cm、10cm、15cm、20cm、30cm、40cm、50cm、75cm、又は100cmの分離キャピラリ内の長さを有する。さらに他の実施形態において、カソード電解質溶液は、分離キャピラリ内のある長さを有し、キャピラリの長さは、分離キャピラリの長さの割合又はパーセンテージ(%)として表される。例えば、様々な実施形態において、シリカキャピラリの長さのパーセントとしてのキャピラリ溶液の長さは、約1%~約99%、約2%~約80%、約4%~約60%、約5%~約50%、約5%~約40%、約5%~約30%、約5%~約20%、約5%~約10%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、又は25%である。
【0035】
様々な実施形態において、分離キャピラリの内径は、約1mm、0.5mm、0.4mm、0.3mm、0.25mm、0.2mm、0.1mm、0.05mm、0.025mm、0.01mm若しくは0.005mm、又はそれら未満である。
【0036】
本開示は、本明細書に記載の方法に適合され得る質量分析計(MS)の様々な実施形態を含む。例えば、質量分析計の種類は、これらに限定されないが、イオントラップ質量分析計、飛行時間型質量分析計、誘導結合プラズマMS、マトリックス支援レーザ脱離イオン化MS、表面増強レーザ脱離イオン化MS、タンデムMS、又はそれらの上述の質量分析計の種類の組合せであってもよい。
【0037】
他の実施形態において、カソード電解質溶液は、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、又は任意のアルカリ溶液を含む。アルカリカソード電解質溶液は、0.01M~15M、又は0.1%v/v~99%v/vの塩基であってもよい。様々な他の実施形態において、両性電解質及び検体を含む混合物は、最初の充填後に、少なくとも1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、6cm、7cm、8cm、9cm、10cm、15cm、20cm、30cm、40cm、50cm、75cm、又は100cmの分離キャピラリ内の長さを有する。様々な追加的実施形態において、シリカキャピラリの長さのパーセントとしての混合物の長さは、約1%~約99%、約2%~約80%、約4%~約60%、約5%~約50%、約5%~約40%、約5%~約30%、約5%~約20%、約5%~約10%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、又は25%である。
【0038】
追加的実施形態において、混合物は、1種又は複数種の両性電解質及び1種又は複数種の検体を含む。
【0039】
さらに他の実施形態において、アノード電解質溶液は、(C~C)カルボン酸、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、若しくは酪酸、及び/又は鉱酸、例えば硫酸、リン酸、若しくは塩酸を含む。アノード電解質溶液は、0.01M~15M、又は0.1%v/v~99%v/vの酸であってもよい。
【0040】
様々な他の実施形態において、両性電解質は、pH単位当たりの高い緩衝能力、直線pH勾配、及び両性電解質にわたる均一な導電性を有する。いくつかの好ましい実施形態において、両性電解質は、ファーマライト(Pharmalyte)(登録商標)3-10を含む。他の実施形態において、両性電解質のpH単位当たりの高い緩衝能力は、pH3~10、pH3~4、pH3~5、pH3~6、pH3~7、pH3~8、pH4~7、pH4~8、pH5~8、pH5~9、pH5~10、pH6~8、pH6~9、pH6~10、pH7~9、pH7~10、又はpH8~10の範囲である。
【0041】
追加的実施形態において、酸性シース電解質溶液は、化学的移動剤である。他の実施形態において、酸性シース電解質溶液は、ギ酸、酢酸、(C~C)カルボン酸、硫酸、リン酸、塩酸、又は別の鉱酸を含む。いくつかの実施形態において、酸性シース電解質溶液は、0.01M~15M、又は0.1%v/v~99%v/vの酸であってもよい。
【0042】
様々な実施形態において、酸性シース電解質溶液は、有機溶媒、アルコール、又はアセトニトリルをさらに含む。いくつかの実施形態において、アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、又は任意の(C~C)アルコールであってもよい。さらに他の様々な実施形態において、酸性シース電解質溶液は、約0.1%~約50%のアルコール、又は約1%~約20%のアルコールを含んでもよい。いくつかの追加的実施形態において、酸性シース電解質溶液は、約0.1%~約50%のアセトニトリル、又は約1%~約20%のアセトニトリルを含んでもよい。
【0043】
追加的実施形態において、等電集束及び化学的移動のために印加される電圧は、約50V/cm~約500V/cm、約100V/cm~約400V/cm、又は約150V/cm~約350V/cmの範囲である。他の実施形態において、化学的移動は、分離キャピラリの手動の物理的操作なしに、等電集束に続いて自動的に行われる。
【0044】
さらに他の実施形態において、分離キャピラリは、ポリマーでコーティングされた内側表面を有する。様々な他の実施形態において、ポリマーは、直鎖ポリアクリルアミド、直鎖ポリアクリルアミド(LPA)、又はcIEFに好適な任意のポリマーを含む。追加的実施形態において、分離キャピラリは、少なくとも10cm、20cm、50cm、100cm、500cm、1m、2m、5m、10m、又は100mの長さを有する。
【0045】
他の実施形態において、分離キャピラリのカソード端の先端の外径は、分離キャピラリの残りの外径に対して低減されている。追加的実施形態において、キャピラリの遠位端の低減された外径を有する先端は、5mm、3mm、2mm、1mm、0.5mm、0.25mm、0.1mm、0.05mm、又は0.02mm未満の長さを有する。様々な実施形態において、先端の外径は、約1%~約80%、約5%~約50%、又は約10%~約30%だけ低減され得る。
【0046】
様々な他の実施形態において、分離キャピラリのカソード端の先端の外径は、分離キャピラリの内径より20%~50%大きい。他の実施形態において、分離キャピラリのカソード端の先端の外径は、分離キャピラリの内径より約10%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、又は80%大きい。
【0047】
さらなる追加的実施形態において、両性電解質及び検体を含む混合物は、2つ以上の異なる検体を含む。他の実施形態において、検体は、ペプチド、タンパク質、又は薬物-タンパク質複合体を含む。様々な実施形態において、質量分析計により検出されたタンパク質又は薬物-タンパク質複合体の電気泳動図のピークは、実質的に分解、部分的に分解、又は完全に分解される。他の実施形態において、電気泳動図は、実質的に再現性がある、又は完全に再現性がある。
【0048】
上記開示の様々な実施形態は、一段階のキャピラリ等電集束(cIEF)及び化学的移動のためのキットであって、(a)カソード電解質溶液と、(b)アノード電解質溶液と、(c)酸性シース電解質溶液と、(d)両性電解質と、任意選択で(e)使用説明書とを備えるキットを含む。キットの他の実施形態において、カソード電解質溶液は、水酸化アンモニウムを含み、アノード電解質溶液は、ギ酸を含み、酸性シース電解質溶液は、ギ酸及び有機溶媒、例えばメタノール又はアセトニトリル、及び両性電解質、例えばファーマライト(登録商標)3-10を含む。いくつかの実施形態において、説明書が含まれ、説明書は、本明細書に開示される意図される使用方法を説明している。
【0049】
[結果及び考察]
(実験計画)
動電学的に付勢されるシース流動ナノスプレーに基づく自動化cIEF-MSは、集束及び移動を自動化するためにサンドイッチ注入法を使用した。図1に示されるように、キャピラリのカソード端は、cIEF-MSプロセス全体にわたりエレクトロスプレーエミッタに保持され、アノード端キャピラリは、PrinCEオートサンプラに固定された。手順の第1段階において、NHOのプラグをキャピラリ内に注入し、続いて試料及び両性電解質の混合物のプラグを注入した。次いで、キャピラリのアノード端を、cIEFのアノード電解質(0.1%ギ酸)のバイアル内に配置した。高電圧の印加により集束が開始され、NHOプラグはcIEFのカソード電解質として機能した。集束後、アノード電解質とNHOセクションとの間でpH勾配が確立された。NHOの量は制限されているため、このセクションは、酸性シース電解質によって、より低いpH値に滴定される。NHOプラグの消費後に、化学的移動が自動的に開始した。
【0050】
(NHOプラグの長さ)
シトクロムC及びミオグロビンの混合物を使用して、タンパク質分離に対する異なる長さのNHOプラグの効果を調査した。図2は、同じ試料プラグ長さ(60cm)及び異なるNHOプラグ長さ(1cm、3cm、5cm、及び10cm)でのcIEF-MSにより生成された、シトクロムC及びミオグロビンのベースピーク電気泳動図を示す。長さ10cmのNHOプラグでは、構成成分は80分後に泳動し、分離は低い分解能を有し、信号強度は低かった。一方、長さ5cm、3cm、及び1cmのNHOプラグ長さで生成された電気泳動図は、同様の分離分解能をもたらし、泳動時間は、NHOプラグ長さに比例して減少した。長さ3cmのNHOプラグは、最高の信号強度を生成した。許容される泳動時間、良好な分離分解能、及び高い信号強度に起因して、長さ3cmのNHOプラグ長がその後の実験に選択された。
【0051】
(試料プラグの長さ)
シトクロムC(pI10)、ミオグロビン(pI7)、ベータ-ラクトグロブリン(pI5.1)、及び炭酸脱水酵素(pI5.4)の混合物を使用して、タンパク質分離に対する試料プラグ長さの効果を調査した。図3は、3cmのNHOプラグ長さ並びに異なる試料プラグ長さ(50cm、60cm、及び80cm)でのcIEF-MSによる、4つのタンパク質のベースピーク電気泳動図を示す。より長い試料プラグは、より長い泳動時間及びより良好な分離分解能をもたらす傾向がある。我々はまた、より低いpI(5.1)値を有するベータ-ラクトグロブリンが、若干より高いpI値(5.4)を有する炭酸脱水酵素より速く泳動することに気付いた。このシフトは、ゾーン電気泳動の構成成分の分離を増大させる比較的長い化学的移動によりもたらされ得る。ベータ-ラクトグロブリンの分子量は18kDaであり、これは、炭酸脱水酵素の分子量(29kDa)よりはるかに小さい。より小さい分子量及び同様のpI値に起因して、ベータ-ラクトグロブリンは、おそらくはより小さいサイズ対電荷比を有し、炭酸脱水酵素より速く移動し、これによってこれらの2つのタンパク質の泳動順序が切り替わり得る。この混合モード分離は、cIEFにおけるこの形態の化学的移動の限界である。
【0052】
(自動化CIEF-MSの再現性)
シトクロムC及びミオグロビンの分離により、自動化cIEF-MSの再現性を調査した。図4は、自動化CIEF-MSによるシトクロムC及びミオグロビンの3回の分離のベースピーク電気泳動図を示す。ベースピーク強度のRSDは、8.5%である。泳動時間のRSDは、シトクロムCに対して0.3%、及びミオグロビンに対して0.6%である。これらの結果は、この自動化されたcIEF-MSの優れた再現性を十分に示している。
【0053】
以下の実施例は、上記の発明を例示することを意図し、その範囲を狭めるように解釈されるべきではない。実施例は本発明が実践され得る多くの他の様式を示唆するものであることが、当業者には容易に認識される。本発明の範囲内であることを維持しながら、数々の変形及び修正を行うことができることが理解されるべきである。
【実施例
【0054】
[実施例1]
実験の項
(略語)
APS、過硫酸アンモニウム;cIEF、キャピラリ等電集束;DTT、ジチオスレイトール;FA、ギ酸;IAA、ヨードアセトアミド;LPA、直鎖ポリアクリルアミド;MS、質量分析。
【0055】
(試薬)
アクリルアミド、過硫酸アンモニウム、ウシ心臓由来シトクロムc、ウマ骨格筋由来ミオグロビン、牛乳由来ベータ-ラクトグロブリン、ウシ赤血球由来炭酸脱水酵素、尿素、重炭酸アンモニウム(NHHCO)、ジチオスレイトール(DTT)、ヨードアセトアミド(IAA)、及び3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートは、Sigma-Aldrich(St. Louis、MO)から購入した。ギ酸(FA)は、Fisher Scientific(Pittsburgh、PA)から購入した。メタノール及び水は、Honeywell Burdick&Jackson(Wicklow、アイルランド)から購入した。両性電解質(ファーマライト3-10)は、GE Healthcare(Piscataway、NJ、米国)から購入した。コーティングされていない溶融シリカキャピラリ(内径50μm/外径365μm)は、Polymicro Technologies(Phoenix、AZ)から購入した。
【0056】
(直鎖ポリアクリルアミド(LPA)コーティングキャピラリの調製)
我々は、LPAコーティングキャピラリの調製のための単純で再現性のある方法を報告した(Zhuら、Talanta 2016、146、839)。2μL/分の流速でシリンジポンプを使用することにより、キャピラリを1M塩酸で30分間、水で10分間、1M水酸化ナトリウムで30分間、水で10分間洗浄し、最後にメタノールで30分間洗い流した。次いで、キャピラリを、窒素流下で、室温で4時間乾燥させた。次に、メタノール中50%(v/v)の3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートをキャピラリに10分間流して洗浄した。キャピラリの両端を封止し、充填されたキャピラリを室温で24時間インキュベートした。次いで、キャピラリをメタノールで20分間濯ぎ、窒素下で乾燥させた。40mgのアクリルアミドを1mLの水に溶解し、2μLの5%(w/v)過硫酸アンモニウム(APS)を500μLのアクリルアミド溶液に添加した。混合物を30秒間ボルテックスし、窒素を使用して5分間脱気した。次いで、混合物を長さ100cmの前処理されたキャピラリ内に真空により導入した。両端を封止し、キャピラリを50℃の水浴中で30分間インキュベートした。次いで、キャピラリを水で洗浄して過剰な試薬を除去し、使用まで室温で保存した。長さ約1mmのキャピラリの遠位端の外側を、HFで90分間エッチングし、エッチングされた部分の外径を約70μmまで低減したが、HFエッチングの詳細なプロトコルは、Sunら(Angew Chem Int Ed Engl. 2013、52、13661)により説明されている。
【0057】
(試料の調製)
2mM酢酸アンモニウム(約pH6)緩衝液中に溶解したシトクロムc(0.05mg/mL、pI10)、ミオグロビン(0.15mg/mL、pI7)、ベータ-ラクトグロブリン(0.4mg/mL、pI5.1)及び炭酸脱水酵素(0.15mg/mL、pI5.4)を含有する標準タンパク質の混合物を、ダイナミックpHジャンクションに基づくCZE-MS/MS分析のために調製した。タンパク質の同じ混合物を、cIEF分析のためにxx g/mLの両性電解質と混合した。
【0058】
(cIEF-ESI-MS/MS)
上述のように調製されたポリアクリルアミドコーティングキャピラリ(内径50μm、長さ50cm)を、cIEF分離に使用した。PrinCEオートサンプラ(Prince Technologies B.V.、オランダ)を自動注入及び分離電圧制御に使用した。第三世代の動電学的に付勢されるシース流動CE-MSナノスプレーインターフェースを使用して、分離をLTQ-XL(Thermo Fisher Scientific)質量分析計に結合した。600~2000m/zにわたり完全MS走査が取得された。
【0059】
cIEF-ESI-MS/MSの前に、キャピラリを、1,500mbarの圧力で10分間、水で洗浄した。cIEF-MS/MSの間、キャピラリのアノード端をギ酸(0.1%、pH2.5)中に配置し、カソード端をシース電解質(10%メタノールを含む0.1%ギ酸)で充填されたエレクトロスプレーエミッタ(20μm)内に挿入した。200mbarで0.1分、0.3分、0.5分、又は1分での加圧注入を使用して、0.3%NHOのプラグをキャピラリ内に注入し、続いて、200mbarで5分、6分、又は8分での加圧注入を使用することにより、試料/両性電解質のプラグを注入した。集束/移動電圧は、250V/cmであった。
【0060】
開示された実施形態及び例を参照しながら特定の実施形態を上で説明したが、そのような実施形態は単なる例示であり、本発明の範囲を限定しない。以下の特許請求の範囲において定義されるようなより広い態様において、本発明から逸脱することなく、当技術分野における通常の技術に従って変更及び修正を行うことができる。
【0061】
全ての出版物、特許、及び特許文献は、参照することにより個々に組み込まれるのと同等に、参照することにより本明細書に組み込まれる。本開示からは、本開示に矛盾する限定は理解されない。本発明は、様々な特定及び好ましい実施形態及び技術を参照して説明されている。しかしながら、本発明の精神及び範囲内であることを維持しながら、多くの変形及び修正を行うことができることが理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4