IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アステラス製薬株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人国立がん研究センターの特許一覧

特許7078237抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体及び抗TSPAN8抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体及び抗TSPAN8抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220524BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220524BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220524BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220524BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220524BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220524BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220524BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220524BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220524BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220524BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2022502914
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2021041839
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2020189988
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【弁理士】
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】天田 由幸
(72)【発明者】
【氏名】由利 正利
(72)【発明者】
【氏名】山宿 大介
(72)【発明者】
【氏名】堤 剛
(72)【発明者】
【氏名】楠▲崎▼ 佑子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博己
(72)【発明者】
【氏名】千脇 史子
(72)【発明者】
【氏名】小松 将之
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-166174(JP,A)
【文献】特開2019-104699(JP,A)
【文献】特表2016-513713(JP,A)
【文献】Biomolecules,2020年03月03日,Vol.10,No.3,388, pp.1-13
【文献】Cancers,2019年02月04日,Vol.11, No.2,179, pp.1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TSPAN8及びCD3に結合する二重特異性抗体であって、
(a)抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗TSPAN8抗体のFab領域、
(b)抗CD3抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域、並びに、
(c)(a)のFab領域の重鎖フラグメントに連結される第一Fcポリペプチド及び(b)の抗CD3-scFv領域に連結される第二FcポリペプチドからなるFc領域、
を含み、
抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域が、配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含み、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域が、配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む;又は、
抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域が、配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含み、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域が、配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む、
二重特異性抗体。
【請求項2】
請求項1に記載の二重特異性抗体であって、
抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域が、配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなり、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域が配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる;又は、
抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域が、配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなり、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域が配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる、
二重特異性抗体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の二重特異性抗体であって、
抗TSPAN8抗体のFab領域が、配列番号6のアミノ酸番号1から219までのアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる;又は、
抗TSPAN8抗体のFab領域が、配列番号10のアミノ酸番号1から219までのアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる、
二重特異性抗体。
【請求項4】
抗CD3抗体の重鎖可変領域が、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含み、抗CD3抗体の軽鎖可変領域が、配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
抗CD3抗体の重鎖可変領域が配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなり、抗CD3抗体の軽鎖可変領域が配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
抗CD3-scFv領域が配列番号14のアミノ酸番号1から254までのアミノ酸配列からなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
TSPAN8及びCD3に結合する二重特異性抗体であって、
(a)抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗TSPAN8抗体のFab領域、
(b)抗CD3抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域、並びに、
(c)(a)のFab領域の重鎖フラグメントに連結される第一Fcポリペプチド及び(b)の抗CD3-scFv領域に連結される第二FcポリペプチドからなるFc領域、
を含み、
該二重特異性抗体は、配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む;又は、
該二重特異性抗体は、配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む、
二重特異性抗体。
【請求項8】
TSPAN8及びCD3に結合する二重特異性抗体であって、
(a)抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗TSPAN8抗体のFab領域、
(b)抗CD3抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域、並びに、
(c)(a)のFab領域の重鎖フラグメントに連結される第一Fcポリペプチド及び(b)の抗CD3-scFv領域に連結される第二FcポリペプチドからなるFc領域、
を含み、
該二重特異性抗体は、配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む;又は、
該二重特異性抗体は、配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む、
二重特異性抗体。
【請求項9】
LALA変異(L234A及びL235A(ここで、前記変異位置はヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸位置である))を含むFc領域を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
N297G変異(ここで、前記変異位置はヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸位置である)を含むFc領域を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
ノブズ・イントゥー・ホールズ(Knobs into holes)変異を含むFc領域を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
LALA変異、N297G変異、及びノブズ・イントゥー・ホールズ変異を含むFc領域を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
ノブズ・イントゥー・ホールズ変異が、Fc領域を形成する1つのFcポリペプチドにおけるT366W変異、並びにFc領域を形成するもう1つのFcポリペプチドにおけるT366S、L368A及びY407V変異である(ここで、前記変異位置はヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸位置である)、請求項11又は12に記載の二重特異性抗体。
【請求項14】
第一Fcポリペプチドが配列番号6の235から451までのアミノ酸配列からなり、第二Fcポリペプチドが配列番号14の270から486までのアミノ酸配列からなるFc領域を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項15】
抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結され、抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結されている、請求項1~14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項16】
TSPAN8及びCD3に結合する二重特異性抗体であって、
(a)抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗TSPAN8抗体のFab領域、
(b)抗CD3抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域、並びに、
(c)(a)のFab領域の重鎖フラグメントに連結される第一Fcポリペプチド及び(b)の抗CD3-scFv領域に連結される第二FcポリペプチドからなるFc領域、
を含み、
配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖、及び配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二ポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む、二重特異性抗体。
【請求項17】
翻訳後修飾された、請求項1~16のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項18】
翻訳後修飾が、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化及び/又は重鎖C末端リジン欠失である、請求項17に記載の二重特異性抗体。
【請求項19】
配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む、宿主細胞。
【請求項20】
配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む、宿主細胞。
【請求項21】
配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む、宿主細胞。
【請求項22】
TSPAN8及びCD3に結合する二重特異性抗体の生産方法であって、請求項19~21のいずれか一項に記載の宿主細胞を培養する工程を含む、生産方法。
【請求項23】
請求項1~18のいずれか一項に記載の二重特異性抗体及び薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項24】
がんの治療に使用するための、請求項1~18のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項25】
がんの治療のための、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項26】
がんの治療のための医薬組成物の製造における、請求項1~18のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの治療に用いる医薬組成物の有効成分として有用な抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体及び抗TSPAN8抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
転移性胃がんとは、原発性胃がんが筋層より深く浸潤し、胃壁を包む漿膜を破り、リンパ節や腹腔、さらに血液やリンパ液を介して種々の臓器に転移した状態をいい、転移性胃がん患者の半数以上の患者で腹腔への播種が認められる。末期の患者では、腹膜播種によって引き起こされた腹水貯留を原因とする腹部の腫れ、継続的な膨満感、痛み、吐き気、呼吸困難、不眠症及び疲労等の症状が知られている(World J.Gastroenterol.、2016、Vol.22、p.6829-6840、Int.J.Cancer、2010、Vol.127、p.2209-2221)。しかしながら、胃がん腹膜播種患者の手術による完全な治癒は困難であり、胃がん腹膜播種の標準療法である化学療法も有効性が十分ではないため、これらの患者の5年生存率は約2%と非常に予後が悪く、胃がん腹膜播種に対する有効な治療法が望まれている。また、腹膜播種は、卵巣がん・大腸がん・すい臓がん等を原発とする多くのがん患者でも認められており(Int.J.Adv.Res.、2016、Vol.4、p.735-748)、これらの患者に対する治療法も確立されていない。
【0003】
がん治療用抗体の開発において、がん細胞に選択的な発現を示す腫瘍関連抗原(Tumor Associated Antigen;TAA)を種々の方法により同定する試みがなされている。その方法の一つとして、がん細胞を動物に免疫して抗体を作製し、がん細胞に発現するTAAに結合する抗体を取得する方法が報告されている(Biochem.Biophys.Res.Commun.、2018、Vol.505、p.181e-186、FEBS Open Bio、2017、Vol.7、p.627-635)。
【0004】
テトラスパニン8(Tetraspanin-8;TSPAN8)はテトラスパニンファミリーに属する4回膜貫通タンパク質であり、小細胞外ループ(small extracellular loop;SEL)と大細胞外ループ(large extracellular loop;LEL)という2つの細胞外ループ領域と3つの細胞質ドメインを有し、足場タンパク質として多種多様な膜貫通タンパク質及び細胞質タンパク質を有する分子クラスターを形成する。TSPAN8は細胞接着、細胞運動性、細胞の活性化及び増殖等に対して関与することが知られており、胃がん、膵がん、大腸がん、肝臓がん等で高発現が認められ、TSPAN8発現亢進とがんの進展又は転移との関連性等が報告されている(非特許文献1)。抗TSPAN8抗体を用いたがんの診断や治療を目指した研究が行われている(特許文献1~2、及び非特許文献1~2)。
【0005】
分化抗原群3(Cluster of Differentiation 3;CD3)は、T細胞表面においてT細胞受容体(T cell receptor;TCR)と複合体を形成することによりT細胞に活性化シグナルを伝達するタンパク質である。CD3は、ガンマ(γ)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ゼータ(ζ)及びイータ(η)鎖の5種類のサブユニットからなる複合体であり、各サブユニットはεγ、εδ、ζζの3種類の二量体を形成する。CD3は正常T細胞及び腫瘍性T細胞のいずれにも発現していることからT細胞のマーカーとして使用されており、また、がん治療を目的とした各種抗TAA抗体と抗CD3抗体を含む二重特性抗体の医薬品としての応用が種々報告されている(非特許文献3)。
【0006】
低い抗体濃度でがん細胞選択的な細胞傷害活性を得ることができる画期的な方法として、種々の抗体フォーマットからなる二重特異性T細胞リクルート抗体(bispecific T-cell-recruiting antibodies)が報告されており、T細胞媒介性免疫療法に対するそれらの抗体の効果が検討されつつある(非特許文献4)。二重特異性T細胞リクルート抗体は、がん細胞表面に発現するTAAに対する抗体と、T細胞に結合する抗体を含む二重特異性抗体である。T細胞に結合する抗体としては、抗CD3抗体が多く用いられている。抗TAAと抗CD3抗体を含む分子の二重特異性T細胞リクルート抗体は、標的がん細胞と細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T Lymphocyte;CTL)の物理的距離を近づけ、抗CD3抗体によってCTLを活性化し、CTLの細胞傷害活性によってがん細胞を殺傷する(Redirected T Cell Cytotoxicity;RTCC)。抗CD3-抗上皮細胞接着分子(Epithelial Cell Adhesion Molecule;EpCAM)二重特異性抗体であるカツマキソマブ(catumaxomab)や抗CD3-抗CD19(Cluster of Differentiation 19)二重特異性抗体であるブリナツモマブ(blinatumomab)は既に臨床における効果が確認されており(Int.J.Cancer、2010、Vol.127、p.2209-2221、N.Engl.J.Med.、2017、Vol.376、p.836-847)、現在も種々のTAAに対する二重特異性T細胞リクルート抗体の研究開発がなされている。しかしながら、現在までに、抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2012/010696号
【文献】国際公開2015/130115号
【非特許文献】
【0008】
【文献】バイオモレキュールズ(Biomolecules)、(スイス)、2020;10(3):p.383
【文献】キャンサーズ(Cancers)、(スイス)、2019;11(2):p.179
【文献】ファーマコロジー アンド セラピューティクス(Pharmacology and Therapeutics)、(英国)、2018;182:p.161-175
【文献】マブス(mAbs)、2017:9(2):p.182-212
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ヒトの治療に用いることができる抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体及び抗TSPAN8抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、がん細胞に選択的な治療薬の創成を目的として、患者から単離したがん腹膜播種細胞をヒ卜モノクローナル抗体産生マウスに免疫して抗体を取得する手法により抗TSPAN8抗体である16B11及び16B12を取得した(実施例1)。該抗体は、正常細胞に発現しているTSPAN8に比べてがん腹膜播種細胞に発現しているTSPAN8に強く結合した(実施例1~5)。16B11及び16B12のエピトープ解析により、該抗体はヒトTSPAN8のアミノ酸番号126から155のアミノ酸配列からなる領域をエピトープとして認識すること、さらに、ヒトTSPAN8の131番目のトレオニンが該抗体との結合に必須であることが分かった(実施例4)。また、16B11のFc領域をヒト配列にした完全ヒト抗体である16B11.1を作製し(実施例3)、該完全ヒト抗体が60As6-Luc/GFP細胞に対して細胞傷害活性を示すことを見出した(実施例6)。
さらに、T細胞による抗原選択的な抗腫瘍活性を高めるために、配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域及び配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域、並びに配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域を含む、抗TSPAN8-抗CD3二重特異的抗体を作製した(実施例7)。この二重特異性抗体は、TSPAN8及びCD3に結合し(実施例8)、細胞表面にTSPAN8を発現するがん細胞に対して細胞傷害活性を示し(実施例9、10、12-1、12-2)、in vivoにおいてマウスの生存期間を延長し、抗腫瘍作用を発揮することを確認した(実施例11及び12-3)。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[55]に関する。
[1] TSPAN8及びCD3に結合する二重特異性抗体であって、
(a)抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗TSPAN8抗体のFab領域、
(b)抗CD3抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域、並びに、
(c)(a)のFab領域の重鎖フラグメントに連結される第一Fcポリペプチド及び(b)の抗CD3-scFv領域に連結される第二FcポリペプチドからなるFc領域、
を含む、二重特異性抗体。
[2] [1]に記載の二重特異性抗体であって、
抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域が、配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含み、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域が、配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む;又は、
抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域が、配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含み、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域が、配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む、
二重特異性抗体。
[3] [1]に記載の二重特異性抗体であって、
抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域が、配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなり、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域が配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる;又は、
抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域が、配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなり、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域が配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる、
二重特異性抗体。
[4] [1]に記載の二重特異性抗体であって、
抗TSPAN8抗体のFab領域が、配列番号6のアミノ酸番号1から219までのアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる;又は、
抗TSPAN8抗体のFab領域が、配列番号10のアミノ酸番号1から219までのアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる、
二重特異性抗体。
[5] 抗CD3抗体の重鎖可変領域が、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含み、抗CD3抗体の軽鎖可変領域が、配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[6] 抗CD3抗体の重鎖可変領域が配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなり、抗CD3抗体の軽鎖可変領域が配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる、[1]~[4]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[7] 抗CD3-scFv領域が配列番号14のアミノ酸番号1から254までのアミノ酸配列からなる、[1]~[4]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[8] [1]に記載の二重特異性抗体であって、
該二重特異性抗体は、配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む;又は、
該二重特異性抗体は、配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む、
二重特異性抗体。
[9] [1]に記載の二重特異性抗体であって、
該二重特異性抗体は、配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む;又は、
該二重特異性抗体は、配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む、
二重特異性抗体。
[10] LALA変異(L234A及びL235A(ここで、前記変異位置はヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸位置である))を含むFc領域を含む、[1]~[9]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[11] N297G変異(ここで、前記変異位置はヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸位置である)を含むFc領域を含む、[1]~[10]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[12] ノブズ・イントゥー・ホールズ(Knobs into holes)変異を含むFc領域を含む、[1]~[11]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[13] LALA変異、N297G変異、及びノブズ・イントゥー・ホールズ変異を含むFc領域を含む、[1]~[12]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[14] ノブズ・イントゥー・ホールズ変異が、Fc領域を形成する1つのFcポリペプチドにおけるT366W変異、並びにFc領域を形成するもう1つのFcポリペプチドにおけるT366S、L368A及びY407V変異である(ここで、前記変異位置はヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸位置である)、[12]又は[13]に記載の二重特異性抗体。
[15] 第一Fcポリペプチドが配列番号6の235から451までのアミノ酸配列からなり、第二Fcポリペプチドが配列番号14の270から486までのアミノ酸配列からなるFc領域を含む、[1]~[14]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[16] 抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結され、抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結されている、[1]~[15]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[17] [1]に記載の二重特異性抗体であって、
配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖、及び配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む、二重特異性抗体。
[18] 翻訳後修飾された、[2]~[17]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[19] 翻訳後修飾が、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化及び/又は重鎖C末端リジン欠失である、[18]に記載の二重特異性抗体。
[20] 下記(a)~(e)からなる群より選択されるポリヌクレオチド:
(a)配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(d)配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(e)配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
[21] 下記(a)~(c)からなる群より選択されるポリヌクレオチド:
(a)配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
[22] [20]又は[21]に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
[23] [22]に記載の発現ベクターで形質転換された、宿主細胞。
[24] 配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む、宿主細胞。
[25] 配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む、宿主細胞。
[26] TSPAN8及びCD3に結合する二重特異性抗体の生産方法であって、[23]~[25]のいずれか一項に記載の宿主細胞を培養する工程を含む、生産方法。
[27] [1]~[19]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体及び薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
[28] がんの治療に使用するための、[1]~[19]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[29] がんの治療のための、[27]に記載の医薬組成物。
[30] [1]~[19]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の治療有効量を対象に投与する工程を含む、がんを治療する方法。
[31] がんの治療のための医薬組成物の製造における、[1]~[19]のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の使用。
[32] ヒトTSPAN8発現がん細胞に選択的に結合する抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
[33] 配列番号2のアミノ酸番号126から155までのヒトTSPAN8の領域に存在する少なくとも1個のアミノ酸に結合する、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
[34] [33]に記載の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントであって、前記ヒトTSPAN8の領域に存在する少なくとも配列番号2のアミノ酸番号131のアミノ酸に結合する、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
[35] 下記(a)及び(b)から選択される抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント:
(a)配列番号4のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント;
(b)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
[36] 下記(a)及び(b)から選択される、[35]に記載の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント:
(a)配列番号4のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント;
(b)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
[37] 下記(a)及び(b)から選択される、[35]に記載の抗TSPAN8抗体:
(a)配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗TSPAN8抗体;
(b)配列番号10のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗TSPAN8抗体。
[38] ヒトTSPAN8発現がん細胞に対する結合に関して[33]~[37]のいずれか一項に記載の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントと競合する、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
[39] T細胞又はNK細胞の表面抗原に対する抗体又はその抗原結合フラグメントと連結された、[32]~[38]のいずれか一項に記載の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
[40] T細胞の表面抗原がCD3である、[39]に記載の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
[41] T細胞の表面抗原に対する抗原結合フラグメントが抗CD3抗体のscFvである、[40]に記載の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
[42] 翻訳後修飾された、[32]~[41]のいずれか一項に記載の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
[43] 翻訳後修飾が、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化及び/又は重鎖C末端リジン欠失である、[42]に記載の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
[44][32]~[43]のいずれか一項に記載の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの融合体又は複合体、或いは[32]~[43]のいずれか一項に記載の抗TSPAN8又はその抗原結合フラグメントを細胞表面に発現させた細胞。
[45] 下記(a)~(d)からなる群より選択される、ポリヌクレオチド:
(a)配列番号4のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(d)配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
[46] 下記(a)~(d)からなる群より選択されるポリヌクレオチド:
(a)配列番号4のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号10のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(d)配列番号12のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
[47] [45]又は[46]に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
[48] [47]に記載の発現ベクターで形質転換された、宿主細胞。
[49] 下記(a)又は(b)より選択される、宿主細胞:
(a)[45]に記載の抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び[45]に記載の抗体の抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む、宿主細胞;
(b)[46]に記載の抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び[46]に記載の抗体の抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む、宿主細胞。
[50] 抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの生産方法であって、[48]又は[49]のいずれかの宿主細胞を培養する工程を含む、生産方法。
[51] がんの治療に使用するための、[32]~[43]のいずれか一項に記載の抗TSPAN8抗体若しくはその抗原結合フラグメント、又は[44]に記載の融合体、複合体若しくは細胞。
[52] [32]~[43]のいずれか一項に記載の抗TSPAN8抗体若しくはその抗原結合フラグメント、又は[44]に記載の融合体、複合体若しくは細胞を含み、さらに薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
[53] がんの治療のための、[52]に記載の医薬組成物。
[54] [32]~[43]のいずれか一項に記載の抗TSPAN8抗体若しくはその抗原結合フラグメントの治療有効量を対象に投与する工程、又は[44]に記載の融合体、複合体若しくは細胞の治療有効量を対象に投与する工程を含む、がんを治療する方法。
[55] がんの治療のための医薬組成物の製造における、[32]~[43]のいずれか一項に記載の抗TSPAN8抗体若しくはその抗原結合フラグメントの使用、又は[44]に記載の融合体、複合体若しくは細胞の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異的抗体は、がん抗原であるTSPAN8とT細胞表面分子であるCD3の両方に結合し、がん細胞とT細胞の物理的な距離を近づけることにより、T細胞によるがん細胞殺傷作用を増強させるものである。また、本発明の抗TSPAN8抗体は、TSPAN8に結合することにより、がん細胞を殺傷する効果を有する。本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異的抗体及び抗TSPAN8抗体、又は前記抗体を含む医薬組成物は、がんの治療のために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1-1】図1-1は、抗TSPAN8抗体(16B11、16B12、9F6、18C10)のKM-291-Asに対する結合性をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の16B11、16B12、9F6、18C10は抗体名を表す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の白抜きは陰性コントロール抗体の結合を表し、濃い灰色は抗TSPAN8抗体の結合を示す。
図1-2】図1-2は、抗TSPAN8抗体(16B11、9F6、18C10)のKM-555-Asに対する結合性をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の16B11、9F6、18C10は抗体名を表す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の白抜きは陰性コントロール抗体の結合を表し、濃い灰色は抗TSPAN8抗体の結合を示す。
図1-3】図1-3は、抗TSPAN8抗体(16B11、9F6、18C10)のKM-556-Asに対する結合性をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の16B11、9F6、18C10は抗体名を表す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の白抜きは陰性コントロール抗体の結合を表し、濃い灰色は抗TSPAN8抗体の結合を示す。
図2-1】図2-1は、抗TSPAN8抗体(16B11、16B12、9F6、5B7、12C12、13A9、15D1、TAL69)の培養ヒト腹膜中皮細胞に対する結合性をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の白抜きは陰性コントロール抗体の結合を表し、濃い灰色は抗TSPAN8抗体の結合を示す。
図2-2】図2-2は、抗TSPAN8抗体(18C10、19E4、21F7、TAL69)の培養ヒト腹膜中皮細胞に対する結合性をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の白抜きは陰性コントロール抗体の結合を表し、濃い灰色は抗TSPAN8抗体の結合を示す。
図3-1】図3-1は、抗TSPAN8抗体(16B11、16B12、9F6、18C10、TAL69)のKM-501-Asに対する結合性をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の白抜きは陰性コントロール抗体の結合を表し、濃い灰色は抗TSPAN8抗体の結合を示す。
図3-2】図3-2は、抗TSPAN8抗体(16B11、16B12、9F6、18C10、TAL69)のKM-503-Asに対する結合性をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の白抜きは陰性コントロール抗体の結合を表し、濃い灰色は抗TSPAN8抗体の結合を示す。
図4図4は、抗TSPAN8抗体(16B11、16B12、9F6、5B7、12C12、13A9、15D1、18C10、19E4、21F7、TAL69)のヒト臍帯血管内皮細胞 ドナー2に対する結合性をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の白抜きは陰性コントロール抗体の結合を表し、濃い灰色は抗TSPAN8抗体の結合を示す。
図5-1】図5-1は、抗TSPAN8抗体(16B11、16B12、TAL69)のヒトマウスTSPAN8-GFPキメラタンパク質又はヒトラットTSPAN8-GFPキメラタンパク質を発現したCHO-K1細胞(キメラタンパク発現CHO-K1細胞)に対する結合性をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の灰色は野生型ヒトTSPAN8発現CHO-K1細胞、黒色はキメラタンパク発現CHO-K1細胞、白抜きはモック細胞への抗TSPAN8抗体の結合を示す。実験はduplicateで実施した。
図5-2】図5-2はヒト、マウス、ラット及びカニクイザルの4種類のTSPAN8タンパク質のアミノ酸番号126~155からなる配列の相同性を示す。アスタリスクは完全一致のアミノ酸であることを示し、ドットは4種のうちの3種が同一のアミノ酸であることを示す。スペースは2種以上が異なるアミノ酸であることを示す。
図5-3】図5-3は抗TSPAN8抗体(16B11、16B12、TAL69)のヒトTSPAN8タンパク質のT131A変異体又はT131N変異体に対する結合性をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の灰色は野生型ヒトTSPAN8発現CHO-K1細胞、黒色は変異体発現CHO-K1細胞、白抜きはモック細胞への抗TSPAN8抗体の結合を示す。実験はduplicateで実施した。
図6-1】図6-1は、16B11のNSC-15CFへの結合に対する他の抗TSPAN8抗体(Competitor(CPTR):16B11、9F6、18C10、TAL69)による競合作用をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の灰色は陰性コントロール抗体存在下での蛍光標識16B11の結合を、黒色は各CPTR存在下での蛍光標識16B11の結合を示し、白抜きは蛍光標識16B11未染色のヒストグラムを示す。
図6-2】図6-2は、蛍光標識抗TSPAN8抗体(16B11、9F6、18C10)のNSC-15CFへの結合に対する16B12による競合作用をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の灰色は陰性コントロール抗体存在下での蛍光標識抗TSPAN8抗体の結合を、黒色は16B12存在下での蛍光標識抗TSPAN8抗体の結合を示し、白抜きは蛍光標識抗体未染色のヒストグラムを示す。
図6-3】図6-3は、16B12のNSC-15CFへの結合に対する他の抗TSPAN8抗体(CPTR:16B12、16B11、9F6、18C10、TAL69)による競合作用をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の灰色は陰性コントロール抗体存在下での蛍光標識16B12の結合を、黒色は他の抗TSPAN8抗体(CPTR)存在下での蛍光標識16B12の結合を示し、白抜きは蛍光標識抗体未染色のヒストグラムを示す。
図7図7は、60As6-Luc/GFP細胞とヒトNK細胞の共培養系における、16B11.1の細胞傷害活性を示す。横軸は抗体濃度、縦軸は60As6-Luc/GFP細胞から産生されるルシフェラーゼ活性から算出された細胞傷害活性を示す。●、▲はそれぞれ対照抗体、16B11.1の各濃度における細胞傷害活性の平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図8図8は、TSPAN8のLEL領域ペプチド及びCD3εδ複合タンパクに対する抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の結合活性を示す。横軸は抗体濃度、縦軸は抗体の結合量を示す。図8-1、図8-2はそれぞれ、TSPAN8のLEL領域ペプチド、CD3εδ複合タンパクに対する抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の結合量の平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図9図9は、60As6-Luc/GFP細胞とヒト末梢血単核細胞の共培養系における抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の細胞傷害活性を示す。横軸は抗体濃度、縦軸は60As6-Luc/GFP細胞の抗体添加3日後の蛍光面積において抗体無添加を100%とした時の細胞増殖(%)を示す。●は抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の各濃度における細胞増殖の平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図10-1】図10-1は、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体のヒト胃がん患者腹水細胞中の胃がん細胞に対する細胞傷害活性を示す。横軸は抗体濃度、縦軸は胃がん細胞の抗体添加3日後の生細胞数において抗体無添加を100%とした時の生細胞数(%)を示す。●、■はそれぞれ対照抗体、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の各濃度における生細胞数(%)の平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図10-2】図10-2は、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体によるヒト胃がん患者腹水細胞中のCD4陽性T細胞の活性化をCD25の発現誘導で示した図である。横軸は抗体濃度を示す。縦軸は、腹水中CD4陽性T細胞に抗体を添加した3日後のCD25発現量の倍率変化を示す。●、■はそれぞれ対照抗体、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の各濃度におけるCD25の発現量の倍率変化の平均値を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図10-3】図10-3は、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体によるヒト胃がん患者腹水細胞中のCD8陽性T細胞の活性化をCD25の発現誘導で示した図である。横軸は抗体濃度を示す。縦軸は、腹水中CD8陽性T細胞に抗体を添加した3日後のCD25発現量の倍率変化を示す。●、■はそれぞれ対照抗体、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の各濃度におけるCD25の発現量の倍率変化の平均値示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図11-1】図11-1は胃がん腹膜播種モデルにおける抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の抗腫瘍効果を示す。縦軸は腹腔中の60As6-Luc/GFP細胞が発現するルシフェラーゼによるルシフェリンの発光量の平均値を示す。エラーバーは標準誤差を示す。横軸は抗体投与量を示す。有意確率P値は、ダネットの多重比較検定により対照群の発光量と抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体投与群の発光量を比較することにより求めた。図中の**は、P値が有意水準0.01より小さい群を示す。
図11-2】図11-2は胃がん腹膜播種モデルにおける抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体による生存日数に対する効果を示す。縦軸は生存率を示す。横軸はがん細胞移植後日数を示す。抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体及びExpanded panT細胞は▲で示される60As6-Luc/GFP移植後7、10日後に投与された。
図12図12は、16B11の様々ながん細胞株に対する結合性をフローサイトメトリー法により測定した結果を示す。図の横軸は蛍光強度を表し、縦軸はセルカウントを表す。図中の白抜きは陰性コントロール抗体の結合を表し、濃い灰色は16B11の結合を示す。
図13-1】図13-1は、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体によるヒト末梢血単核細胞共培養下での様々ながん細胞株に対する細胞傷害活性を示す。横軸は抗体濃度、縦軸は各がん細胞株の抗体添加3日後の生細胞数において抗体無添加を100%とした時の生細胞数(%)を示す。各シンボルは抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の各濃度における各がん細胞株の生細胞数(%)の平均値(quadruplicate)を示す。
図13-2】図13-2は、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体によるヒト末梢血単核細胞と様々ながん細胞株共培養中のCD4陽性T細胞の活性化をCD25の発現誘導で示した図である。横軸は抗体濃度を示す。縦軸は抗体を添加した3日後のCD4陽性T細胞のCD25発現量の倍率変化を示す。各シンボルは抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の各濃度におけるCD25の発現量の倍率変化の平均値(quadruplicate)を示す。
図13-3】図13-3は、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体によるヒト末梢血単核細胞と様々ながん細胞株を共培養中のCD8陽性T細胞の活性化をCD25の発現誘導で示した図である。横軸は抗体濃度を示す。縦軸は、抗体を添加した3日後のCD8陽性T細胞のCD25発現量の倍率変化を示す。各シンボルは抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の各濃度におけるCD25の発現量の倍率変化の平均値(quadruplicate)を示す。
図14図14はヒトPBMC移入HT-29細胞皮下担癌モデルにおける抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の抗腫瘍効果を示す。図14-1は抗体投与開始後の日数における腫瘍体積の平均値及びエラーバーは標準誤差を示す。図14-2は投与開始11日後の各個体の腫瘍体積の値及び横線は平均値と標準誤差を示し、横軸は抗体投与量を示す。有意確率P値は、ダネットの多重比較検定によりPBS投与群の腫瘍体積と抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体投与群の腫瘍体積を比較することにより求めた。図中の**は、P値が有意水準0.01より小さい群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について詳述する。
【0015】
<定義>
本明細書の用語は、以下で特に定義されない限り、当該技術分野で当業者に一般に使用されている意味にて使用される。
【0016】
抗体(又は免疫グロブリン)とは、単一の配列を有する重鎖2本と、単一の配列を有する軽鎖2本からなる左右対称Y字型の構造を有する4本鎖構造からなる糖タンパク質をいう。抗体にはIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEの5つのクラスが存在する。抗体分子の基本構造は各クラス共通であり、分子量5万~7万の重鎖2本と2万~3万の軽鎖2本がジスルフィド結合及び非共有結合によって結合し、分子量15万~19万のY字型の4本鎖構造からなる抗体分子を形成する。重鎖は、通常約440個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、クラスごとに特徴的な構造をもち、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに対応してそれぞれ、Igγ、Igμ、Igα、Igδ、Igεとよばれる。さらにIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のサブクラスが存在し、それぞれに対応する重鎖はIgγ1、Igγ2、Igγ3、Igγ4とよばれる。軽鎖は、通常約220個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、L型とK型の2種が知られており、それぞれIgλ、Igκという。前記2種の軽鎖は、いずれの種類の重鎖とも対をなすことができる。
【0017】
抗体分子の鎖内ジスルフィド結合は、重鎖には4つ(Igμ、Igεには5つ)、軽鎖には2つ存在し、アミノ酸100~110残基ごとに1つのループを成している。それらの立体構造は各ループ間で類似していて、構造単位又はドメインとよばれる。重鎖、軽鎖ともにN末端に位置するドメインは可変領域とよばれ、同種動物の同一クラス(又はサブクラス)から産生された抗体であっても多様なアミノ酸配列を有し、抗体と抗原との結合特異性結合に関与することが知られている。可変領域よりも下流のC末端側のドメインのアミノ酸配列は、各クラス又はサブクラスごとにほぼ一定で、定常領域とよばれている。重鎖は、N末端からC末端に向かって重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)を有する。CHはさらにN末端側からCH1ドメイン、CH2ドメイン、及びCH3ドメインの3つのドメインに分けられる。軽鎖は、N末端からC末端に向かって軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を有す。
【0018】
VH及びVLに存在する3つの相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列は変化が非常に大きく、可変領域の可変性に寄与している。CDRは、重鎖と軽鎖のN末端それぞれにCDR1、CDR2、CDR3の順番で存在するおよそ5~10アミノ酸残基からなる領域であって、抗原結合部位を形成する。一方、可変領域のCDR以外の部分はフレームワーク領域(FR)とよばれ、FR1~4からなり、アミノ酸配列の変化は比較的少ない。
【0019】
抗体をタンパク質分解酵素のパパインで処理すると、3つの抗体断片が得られる。N末端側の2つの断片はFab(抗原結合断片、Fragment,antigen binding)領域と呼ばれている。本明細書において、「Fab領域」とは、重鎖のVHとCH1ドメイン及び軽鎖(VLとCL)からなる領域を指し、当該Fab領域が構成する先端部分の抗原結合部位で抗原と結合する。本明細書において、「重鎖フラグメント」とは、Fab領域を構成する重鎖のVHとCH1ドメインからなるフラグメントを指す。
また、C末端側の断片をFc(結晶化可能断片、Fragment,crystallizable)領域とよぶ。本明細書において、「Fcポリペプチド」は、重鎖のCH2ドメイン及びCH3ドメインからなるポリペプチドをいい、「Fc領域」は2つのFcポリペプチドからなる複合体を指す。
重鎖フラグメントとFcポリペプチドはヒンジ領域とよばれる部分で繋がっている。また、抗体の2本の重鎖はヒンジ領域でジスルフィド結合している。
【0020】
本明細書において「抗原」とは、一般的に用いられている意味で用いられ、特に、抗体、抗原結合フラグメント等の抗原結合タンパク質が特異的に結合し得る分子又は分子の一部を表す用語として用いられる。抗原はタンパク質、核酸等の分子であり得る。1つの抗原は、異なる抗体等と相互作用することができる1つ又はそれ以上のエピトープを有する場合もある。
【0021】
本明細書において「エピトープ」又は「抗原決定基」とは、抗原結合タンパク質が認識して結合する抗原の特定の構造単位を意味し、抗体又はT細胞受容体等の抗原結合タンパク質によって結合され得るあらゆる決定基を含む。エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基又はスルホニル基等の分子の化学的に活性な表面基を含むことができ、特異的な三次元構造の特徴及び/又は特異的な電荷的特長を有することができる。抗原がタンパク質である場合、抗体等に直接接触する特定のアミノ酸を含む。一般に、特定の標的抗原に対して特異的な抗体は、タンパク質及び/又は高分子の複雑な混合物中において、標的抗原上のエピトープを優先的に認識する。エピトープは、表面に接触可能なアミノ酸残基及び/又は糖側鎖からなる場合が多く、通常は6~10個のアミノ酸や5~8個の単糖の配列から成る。エピトープは、特有の3次元構造特性と、特有の電荷特性を有することがある。エピトープは、結合に直接関与するアミノ酸残基と、結合に直接的には関与しないその他のアミノ酸残基を含んでよい。抗原結合タンパク質が結合するエピトープの同定は、例えば、質量分析法(例えば、水素-重水素交換質量分析(Hydrogen/Deuterium eXchange Mass Spectrometry;HDX-MS)、アラニンスキャニング変異誘発法、結晶解析法、ペプチド競合法等の当業者に周知の方法を用いて同定することができる。
【0022】
本明細書において「競合」又は「競合する」とは、2種類以上の抗体を同時に又は連続的に反応液に添加した場合に、一方の抗体が他方の抗体の抗原への結合を妨げることにより、他方の抗体の抗原に対する結合能が低下することをいう。
【0023】
本明細書において「抗原結合フラグメント」とは、抗体に由来する抗原結合活性を有する少なくとも1つのポリペプチド鎖を含む分子である。代表的な抗原結合フラグメントとしては、一本鎖可変領域フラグメント(scFv)、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)フラグメントが挙げられる。scFvは、リンカーで連結されたVHとVLから構成される、一価の抗原結合フラグメントである。Fabフラグメントは、軽鎖と、重鎖のVH、CH1ドメインを含むフラグメントから構成される、一価の抗原結合フラグメントである。Fab’フラグメントは、軽鎖と、重鎖のVH、CH1ドメインとヒンジ領域の一部とを含むフラグメントから構成される、一価の抗原結合フラグメントであり、このヒンジ領域の部分には重鎖間S-S結合を構成していたシステイン残基が含まれる。F(ab’)フラグメントは、Fab’フラグメントがジスルフィド結合で繋がっている二価の分子である。一価とは、抗原結合部位を1つ含むことを、二価とは、抗原結合部位を2つ含むことを意味する。
本明細書において「scFv領域」とは、リンカーで連結されたVHとVLを含む、一価の抗原結合フラグメントを含む領域を指す。
【0024】
片腕(One-armed)抗体も抗原結合フラグメントの一種であり、1つのFab領域及び1つのFc領域を含み、該Fab領域の重鎖フラグメントが、該Fc領域の2つのFcポリペプチドのうちの1つに連結された構造を有する。1つの実施形態において、片腕抗体は、1つの重鎖(VH、CH1ドメイン、ヒンジ領域、Fcポリペプチド(CH2ドメイン及びCH3ドメイン))、1つの軽鎖(VL及びCL)、及びFcポリペプチドを含む。
【0025】
本明細書において「多重特異性抗体」とは、2以上の異なる抗原に特異的に結合することができる抗体をいい、結合する抗原の数により、例えば、二重特異性抗体、三重特異性抗体と呼ばれる。多重特異性抗体には、それぞれ異なる抗原に結合することができる2以上の抗体及び/又は抗原結合フラグメントの複合体が含まれ、本明細書中で使用される「抗体」は、文脈上特に制限されない限り、多重特異性抗体を含む。
【0026】
本明細書において「二重特異性抗体」とは、2つの異なる抗原に特異的に結合することができる抗体をいう。「抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体」とは、TSPAN8に対する結合活性及びCD3に対する結合活性を有する二重特異性抗体を意味する。
【0027】
本明細書において「ヒト抗体」は、ヒト免疫グロブリンアミノ酸配列を有する抗体を表す。本明細書において「ヒト化抗体」は、CDR以外のアミノ酸残基の一部、大部分、又は全部が、ヒト免疫グロブリン分子に由来するアミノ酸残基で置換された抗体を表す。ヒト化の方法としては、特に制限されないが、例えば、米国特許第5225539号、米国特許第6180370号等を参照してヒト化抗体を作製することができる。
【0028】
本明細書中で使用される抗体のアミノ酸残基番号はKabatナンバリング又はEUインデックス(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed,1991,NIH Publication No.91-3242)を指定することで、それらのナンバリングシステムに従って規定することができる。
【0029】
本明細書において、「第一」又は「第二」という用語は、部分の各種類が2つ以上存在する場合、便宜上区別するために使用される。このような用語の使用は、明瞭に述べているのでない限り、特定の順序や意味を付与することを意図しているのではない。
【0030】
本明細書において、「連結」又は「連結された」とは、複数の成分(例えば、Fab領域及びFcポリペプチド)が、直接又は一つ若しくは複数の仲介物(例えば、ペプチドリンカー)を介して結合していることを意味する。本明細書において「ペプチドリンカー」とは、可変領域間を連結するための、遺伝子工学により導入し得る1以上の任意のアミノ酸残基を意味する。本発明で使用されるペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能である。
【0031】
本明細書において、「同一性」とは、EMBOSS Needle(Nucleic Acids Res.、2015、Vol.43、pW580-W584)を用いて、デフォルトで用意されているパラメータによって得られたIdentityの値を意味する。前記のパラメータは以下のとおりである。
Gap Open Penalty = 10
Gap Extend Penalty = 0.5
Matrix = EBLOSUM62
End Gap Penalty = false
【0032】
本明細書において、「対象」とは、その予防又は治療を必要とするヒト又はその他の動物を意味する。ある態様では、その予防又は治療を必要とするヒトである。
【0033】
<本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体>
本発明は、以下に示すTSPAN8及びCD3に結合する二重特異性抗体(「抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体」とも称する)を提供する:
TSPAN8及びCD3に結合する二重特異性抗体であって、
(a)抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗TSPAN8抗体のFab領域、
(b)抗CD3抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域、並びに
(c)(a)のFab領域の重鎖フラグメントに連結される第一Fcポリペプチド及び(b)の抗CD3-scFv領域に連結される第二FcポリペプチドからなるFc領域、
を含む、二重特異性抗体。
【0034】
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、第一の抗体の1つのFab領域、第二の抗体のscFv領域、及び1つのFc領域を含む構造を有する。このような構造の抗体は、「栓抜き(Bottle-opener)型抗体」とも呼ばれている(国際公開2014/110601号)。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、ヒト抗体又はヒト化抗体である。
【0035】
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、Fab領域として、抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント、及び抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる、抗TSPAN8抗体Fab領域を含む。
【0036】
1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域は、配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含み、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域は、配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む。
【0037】
1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域は、配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含み、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域が、配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む。
【0038】
1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域は、配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなり、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域は、配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる。
【0039】
1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域は、配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなり、抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域が配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる。
【0040】
抗TSPAN8抗体Fab領域の重鎖フラグメントのCH1ドメインが由来する重鎖定常領域としては、Igγ、Igμ、Igα、Igδ又はIgεのいずれの定常領域も選択可能である。Igγとしては、例えば、Igγ1、Igγ2、Igγ3又はIgγ4から選択することが可能である。1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体Fab領域の重鎖フラグメントは、ヒトIgγ1定常領域に由来するCH1ドメインを含む。
【0041】
抗TSPAN8抗体Fab領域の軽鎖のCLとしては、Igλ又はIgκのいずれの定常領域も選択可能である。1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体Fab領域は、Igκ定常領域であるCLを含む。1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体Fab領域の軽鎖は、ヒトIgκ定常領域であるCLを含む。
【0042】
1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体Fab領域は、配列番号6のアミノ酸番号1から219までのアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる。1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体Fab領域は、配列番号10のアミノ酸番号1から219までのアミノ酸配列からなる重鎖フラグメント及び配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖からなる。
【0043】
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、scFv領域として、抗CD3抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域を含む。本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体において、当該分野で公知の抗CD3-scFv領域又は当該分野で公知の抗CD3抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列情報に基づいて作製した抗CD3抗体のscFv領域を使用してもよい。公知の抗CD3抗体としては、OKT3、UTCH1、L2K、TR66等のクローンが知られており、それらの配列は二重特異性抗体として使用されている(Pharmacol.Ther.、2018、Vol.182、p.161-175)。
【0044】
1つの実施形態において、抗CD3抗体の重鎖可変領域は、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含み、抗CD3抗体の軽鎖可変領域は、配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む。
【0045】
1つの実施形態において、抗CD3抗体の重鎖可変領域は、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなり、抗CD3抗体の軽鎖可変領域は、配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる。
【0046】
抗CD3-scFv領域において、抗CD3抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域を連結するペプチドリンカーの種類及び長さは特に限定されず、当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは5アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。ペプチドリンカーとして、例えば、グリシン-セリンリンカー(GSリンカー)や、グリシン-リジン-プロリン-グリシン-セリンリンカー(GKPGSリンカー)を使用することができる。このようなリンカーとしては、例えば、以下が挙げられる。
Ser
Gly-Ser
Gly-Gly-Ser
Ser-Gly-Gly
Gly-Gly-Gly-Ser (配列番号15)
Ser-Gly-Gly-Gly (配列番号16)
Gly-Gly-Gly-Gly-Ser (配列番号17)
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly (配列番号18)
Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser (配列番号19)
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly (配列番号20)
Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Ser (配列番号21)
Ser-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly (配列番号22)
(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)n
(Ser-Gly-Gly-Gly-Gly)n
Gly-Lys-Pro-Gly-Ser (配列番号23)
(Gly-Lys-Pro-Gly-Ser)n
上記のnは1以上の整数を示す。ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0047】
1つの実施形態において、抗CD3-scFv領域は、配列番号14のアミノ酸番号1から254までのアミノ酸配列からなる。
【0048】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域の抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む。
【0049】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む。
【0050】
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体において、Fc領域を構成する第一Fcポリペプチド及び第二Fcポリペプチドが由来する重鎖定常領域としては、Igγ、Igμ、Igα、Igδ又はIgεのいずれの定常領域も選択可能である。Igγとしては、例えば、Igγ1、Igγ2、Igγ3又はIgγ4から選択することが可能である。1つの実施形態において、第一Fcポリペプチド及び第二Fcポリペプチドは、ヒトIgγ1定常領域に由来するFcポリペプチドである。
【0051】
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体におけるFc領域は、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)や補体依存性傷害活性(CDC)を低下させる変異を含んでもよい。L234Aとは、ヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸234位のロイシンのアラニンへの置換である。L235Aとは、ヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸235位のロイシンのアラニンへの置換である。ヒトIgγ1定常領域L234A及びL235Aのアミノ酸変異を「LALA変異」という。当該変異は、抗体の抗体依存性細胞傷害活性や補体依存性傷害活性を低下させることが知られている(Mol.Immunol.、1992、Vol.29、p.633-639;J.Immunol.、2000、Vol.164、p.4178-4184)。
【0052】
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体におけるFc領域は、さらに他の公知技術に基づく変異を含んでもよい。例えば、Fc領域は、N297G変異(Protein cell、2018、Vol.9 、p.63-73)又はノブズ・イントゥー・ホールズ(Knobs into holes)技術に基づく変異(以下、「ノブズ・イントゥー・ホールズ変異」とも称する)を含んでもよい。ノブズ・イントゥー・ホールズ技術は、一方の重鎖のCH3領域に存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob;突起)に置換し、もう一方の重鎖のCH3領域に存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole;空隙)に置換することにより、突起が空隙内に配置されるようにして、重鎖のヘテロ二量体化を促進し、目的のヘテロ二量体化抗体分子を効率的に取得できる技術である(Nature、1994、Vol.372、p.379-383;Nature Biotech.、1998、Vol.16、p.677-681;J.Mol.Biol.、1997、Vol.270、p.26-35;Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2013、Vol.110、p.E2987-E2996)。
【0053】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、L234A及びL235Aのアミノ酸変異(LALA変異)を含むFc領域を含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、N297G変異を含むFc領域を含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、ノブズ・イントゥー・ホールズ変異を含むFc領域を含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、L234A及びL235Aのアミノ酸変異(LALA変異)、N297G変異、及びノブズ・イントゥー・ホールズ変異のうちの1つ以上の変異を含むFc領域を含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、L234A及びL235Aのアミノ酸変異(LALA変異)、N297G変異、及びノブズ・イントゥー・ホールズ変異を含むFc領域を含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体に含まれるノブズ・イントゥー・ホールズ変異は、そのFc領域を形成する1つのFcポリペプチドにおけるT366W変異、並びにそのFc領域を形成するもう1つのFcポリペプチドにおけるT366S、L368A及びY407V変異(国際公開1998/050431号を参照)である。
【0054】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号6のアミノ酸番号235から451までのアミノ酸配列からなる第一Fcポリペプチド及び配列番号14のアミノ酸番号270から486までのアミノ酸配列からなる第二FcポリペプチドからなるFc領域を含む。
【0055】
なお、本明細書において、LALA変異、N297G変異、ノブズ・イントゥー・ホールズ変異等のアミノ酸変異の記載は、ヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸位置に基づくものである。例えば、前述の通り、L234Aとは、ヒトIgγ1定常領域におけるEUインデックスに従うアミノ酸234位のロイシンのアラニンへの置換である。
【0056】
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体において、抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントとFcポリペプチド(第一Fcポリペプチド)は、ヒンジ領域を介して連結され、抗TSPAN8抗体の重鎖を構成してもよい。
また、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体において、抗CD3-scFv領域とFcポリペプチド(第二Fcポリペプチド)は、ヒンジ領域を介して連結されても良い。
【0057】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結された抗TSPAN8抗体の重鎖を含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結されたポリペプチドを含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、及び抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結されたポリペプチドを含む。
【0058】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結されたポリペプチドを含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結されたポリペプチドを含む。
【0059】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結されたポリペプチドを含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結されたポリペプチドを含む。
【0060】
1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結された抗TSPAN8抗体の重鎖は、配列番号6又は10のアミノ酸配列からなる。1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結された抗TSPAN8抗体の重鎖は、配列番号6のアミノ酸配列からなる。1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体の軽鎖は、配列番号8又は12のアミノ酸配列からなる。1つの実施形態において、抗TSPAN8抗体の軽鎖は、配列番号8のアミノ酸配列からなる。1つの実施形態において、抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドがヒンジ領域を介して連結されたポリペプチドは、配列番号14のアミノ酸配列からなる。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号6又は10のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメント、配列番号8又は12のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖及び第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、並びに配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメント、配列番号8又は12のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖及び第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、並びに配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む。
【0061】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖、及び配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む、二重特異性抗体である。
【0062】
本明細書において「翻訳後修飾」とは、抗体を細胞内で発現させた場合に抗体が翻訳後に修飾を受けることをいう。翻訳後修飾の例として、重鎖N末端のグルタミン又はグルタミン酸のピログルタミル化、グリコシル化、酸化、脱アミド化、糖化等の修飾や、重鎖C末端のリジンのカルボキシペプチダーゼによる切断によるリジン欠失が挙げられる。種々の抗体において、このような翻訳後修飾が生じることが知られている(J.Pharm.Sci.、2008、Vol.97、p.2426-2447)。
【0063】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、翻訳後修飾されていてもよい。1つの実施形態において、翻訳後修飾は重鎖可変領域N末端のピログルタミル化及び/又は重鎖C末端リジン欠失である。N末端のピログルタミル化又はC末端リジン欠失による翻訳後修飾が抗体の活性に影響を及ぼすものではないことは当該分野で知られている(Analytical Biochemistry、2006、Vol.348、p.24-39)。
【0064】
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、ヒトTSPAN8(遺伝子番号:NM_004616.2)及びヒトCD3εδ複合タンパク(CD3ε遺伝子番号:NM_000733.3、CD3δ遺伝子番号:NM_000732.4又はNM_001040651.1)に結合する。ヒトTSPAN8及びヒトCD3εδ複合タンパクに結合するか否かは、公知の結合活性測定方法を用いて確認することができる。結合活性を測定する方法としては、例えば、Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)法、フローサイトメトリー法等の方法が挙げられる。ELISA法を用いる場合は、例えば実施例8に記載される方法を用いることができ、フローサイトメトリー法を用いる場合には、例えば実施例1に記載される方法を用いることができる。
【0065】
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、本明細書に開示される、抗TSPAN8抗体及び抗CD3-scFv領域の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列情報等に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者であれば作製し得る。また、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体の抗CD3-scFv領域は、公知の抗CD3抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列情報等に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者であれば作製し得る。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、ヒト化抗体又はヒト抗体である。ヒト化抗体の作製にあたっては、当業者に周知の方法を用いて、適宜バックミューテーションを導入してもよい(Bioinformatics、2015、Vol.31、p.434-435)。本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体は、特に限定されるものではないが、例えば、後述の<本発明の二重特異性抗体を生産する方法及び該方法により生産される本発明の二重特異性抗体>に記載の方法に従い製造することができる。
【0066】
<本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチド>
本発明はまた、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体を生産するために使用されうる、以下のポリヌクレオチド(「本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチド」とも称する)を提供する。
(1)抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドを含む抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(2)抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(3)抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドを含むポリペプチドを含むポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0067】
上記(1)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドである:
(a)配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0068】
上記(1)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドである:
(a)配列番号の6アミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0069】
上記(1)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドは、配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0070】
上記(2)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドである:
(a)配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0071】
上記(2)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドである:
(a)配列番号の8アミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0072】
上記(2)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドは、配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0073】
上記(3)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドは、以下のポリヌクレオチドである:
配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、並びに配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0074】
上記(3)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドは、以下のポリヌクレオチドである:
配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0075】
上記(3)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドは、配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0076】
本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドは、その塩基配列に基づき、当該分野で公知の方法を使用して、当業者であれば作製し得る。例えば、本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドは、当該分野で公知の遺伝子合成方法を利用して合成することが可能である。このような遺伝子合成方法としては、国際公開番号90/07861号に記載の抗体遺伝子の合成方法等の当業者に公知の種々の方法が使用され得る。
【0077】
<本発明の二重特異性抗体の発現ベクター>
本発明はまた、以下の(1)~(3)に記載の本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドを含む発現ベクター(「本発明の二重特異性抗体の発現ベクター」とも称する)を提供する。これらのポリヌクレオチドは、それぞれが別々のベクターに含まれていてもよく、又は複数のポリヌクレオチドが1つのベクターに含まれていてもよい。
(1)抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(2)抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(3)抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドを含むポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0078】
上記(1)のポリヌクレオチドを含む本発明の二重特異性抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0079】
上記(1)のポリヌクレオチドを含む本発明の二重特異性抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号の6アミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0080】
上記(1)のポリヌクレオチドを含む本発明の二重特異性抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む。
【0081】
上記(2)のポリヌクレオチドを含む本発明の二重特異性抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0082】
上記(2)のポリヌクレオチドを含む本発明の二重特異性抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号の8アミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0083】
上記(2)のポリヌクレオチドを含む本発明の二重特異性抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む。
【0084】
上記(3)のポリヌクレオチドを含む本発明の二重特異性抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下のポリヌクレオチドを含む:
配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、並びに配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0085】
上記(3)のポリヌクレオチドを含む本発明の二重特異性抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下のポリヌクレオチドを含む:
配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0086】
上記(3)のポリヌクレオチドを含む本発明の二重特異性抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む。
【0087】
1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体の発現ベクターは、以下の(a)~(e)より選択される1以上の数のポリヌクレオチドを含む発現ベクターである:
(a)配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(c)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
(d)配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
(e)配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、並びに配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0088】
1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体の発現ベクターは、以下の(a)~(e)より選択される1以上の数のポリヌクレオチドを含む発現ベクターである:
(a)配列番号の6アミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号の8アミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(c)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
(d)配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
(e)配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0089】
1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体の発現ベクターは、以下の(a)~(c)より選択される1以上の数のポリヌクレオチドを含む発現ベクターである:
(a)配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(c)配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0090】
本発明の二重特異性抗体の発現ベクターは、真核細胞(例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母)及び/又は原核細胞(例えば、大腸菌)等の各種宿主細胞中において本発明のポリヌクレオチドを産生できるものである限り、特に制限されるものではない。このような発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。プラスミドベクターとしては、例えば、pcDNAシリーズ(Thermo Fisher Scientific社)、pALTER(登録商標)-MAX(プロメガ)、pHEK293 Ultra Expression Vector(タカラバイオ社)、pEE6.4又はpEE12.4(Lonza Biologics社)等を使用することができる。ウイルスベクターとしては、例えば、レンチウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルスを使用することができる。例えば、細胞へ本発明のポリヌクレオチドを導入するためにレンチウイルスを使用する場合、当該レンチウイルスは、pLVSIN-CMV/EF1αベクター(タカラバイオ社)、pLentiベクター(Thermo Fisher Scientific社)等を用いることができる。1つの実施形態において、本発明の二重特異性抗体の発現ベクターに使用されるベクターは、pcDNATM3.4-TOPO(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社)及びpcDNATM3.1(Thermo Fisher Scientific社)である。
【0091】
本発明の二重特異性抗体の発現ベクターは、本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドに動作可能なように連結されたプロモーターを含み得る。動物細胞で本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、CMV、RSV、SV40などのウイルス由来プロモーター、アクチンプロモーター、EF(elongation factor)1αプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが挙げられる。細菌(例えば、エシェリキア属菌)で本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、λPLプロモーター、tacプロモーターなどが挙げられる。酵母で本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、GAL1プロモーター、GAL10プロモーター、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが挙げられる。
【0092】
宿主細胞として、動物細胞、昆虫細胞又は酵母を用いる場合、本発明の二重特異性抗体の発現ベクターは、開始コドン及び終止コドンを含み得る。この場合、エンハンサー配列、本発明の抗体又はその重鎖若しくは軽鎖をコードする遺伝子の5’側及び3’側の非翻訳領域、分泌シグナル配列、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、あるいは複製可能単位などを含んでいてもよい。宿主細胞として大腸菌を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドン、ターミネーター領域、及び複製可能単位を含み得る。本発明の発現ベクターは、目的に応じて通常用いられる薬剤選択マーカー遺伝子(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子)を含んでいてもよい。
【0093】
<本発明の形質転換された宿主細胞>
本発明はまた、本発明の二重特異性抗体の発現ベクターによって形質転換された宿主細胞(「本発明の形質転換された宿主細胞」とも称する)を提供する。本発明の形質転換された宿主細胞は、本発明の二重特異性抗体の発現ベクターによる形質転換によって、以下の(1)~(3)の本発明の二重特異性抗体のポリヌクレオチドの1つ又は複数のポリヌクレオチドを含んでよく、1つの実施形態において、本発明の形質転換された宿主細胞は、以下の(1)~(3)のポリヌクレオチドを全て含む:
(1)抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(2)抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(3)抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドを含むポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0094】
形質転換される宿主細胞としては、使用する発現ベクターに適合し、該発現ベクターで形質転換されて、抗体又は融合体を発現することができるものである限り、特に限定されるものではない。形質転換される宿主細胞としては、例えば、本発明の技術分野において通常使用される従来細胞又は人工的に樹立された細胞など種々の細胞(例えば、動物細胞(例えば、CHO-K1細胞、ExpiCHO-S(登録商標)細胞、CHOK1SV細胞、CHO-DG44細胞、HEK293細胞、NS0細胞)、昆虫細胞(例えば、Sf9)、細菌(エシェリキア属菌など)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)など)が挙げられる。1つの実施形態において、本発明の宿主細胞はCHO-K1細胞、又はExpiCHO-S細胞である。
【0095】
宿主細胞を形質転換する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、又はリポフェクション方等の当業者に一般的に用いられる方法を使用することができる。
【0096】
形質転換された宿主細胞の選別は、当業者に一般に使用されている方法にて行うことができる。選別方法には、例えば、薬剤選択マーカー遺伝子とテトラサイクリン、アンピシリン、ネオマイシン又はハイグロマイシン等の薬剤を用いた薬剤選択法や、限外希釈法、シングルセルソーティング法、又はコロニーピックアップ法等の細胞単離法を用いることができる。
【0097】
上記(1)のポリヌクレオチドを含む本発明の形質転換された宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0098】
上記(1)のポリヌクレオチドを含む本発明の形質転換された宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号の6アミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0099】
上記(1)のポリヌクレオチドを含む本発明の形質転換された宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む。
【0100】
上記(2)のポリヌクレオチドを含む本発明の形質転換された宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0101】
上記(2)のポリヌクレオチドを含む本発明の形質転換された宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号の8アミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0102】
上記(2)のポリヌクレオチドを含む本発明の形質転換された宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む。
【0103】
上記(3)のポリヌクレオチドを含む本発明の形質転換された宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下のポリヌクレオチドを含む:
配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、並びに配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0104】
上記(3)のポリヌクレオチドを含む本発明の形質転換された宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下のポリヌクレオチドを含む:
配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域、配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0105】
上記(3)のポリヌクレオチドを含む本発明の形質転換された宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFvと第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む。
【0106】
1つの実施形態において、本発明の形質転換された宿主細胞は、以下の(a)~(e)より選択される1つ以上のポリヌクレオチドを含む宿主細胞である:
(a)配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(c)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(d)配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(e)配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、並びに配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0107】
1つの実施形態において、本発明の形質転換された宿主細胞は、以下の(a)~(e)より選択される1つ以上のポリヌクレオチドを含む宿主細胞である:
(a)配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(b)配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(d)配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(e)配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の重鎖可変領域及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFvと第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0108】
1つの実施形態において、本発明の形質転換された宿主細胞は、以下の(a)~(c)から選択されるポリヌクレオチドを含む宿主細胞である:
(a)配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(c)配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFvと第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0109】
1つの実施形態において、本発明の形質転換された宿主細胞は、配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号14のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む。
【0110】
<本発明の二重特異性抗体を生産する方法>
本発明はまた、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体を生産する方法(「本発明の生産方法」とも称する)を提供する。本発明の生産方法には、<本発明の形質転換された宿主細胞>に記載の形質転換された宿主細胞を培養し、該細胞又は該培養上清中に該抗体を発現させる工程、該抗体を回収、単離、精製する方法等が含まれうるが、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体が生産される限りにおいて、これらの方法に限定されるものではない。
【0111】
本発明の形質転換された宿主細胞の培養は公知の方法により行うことができる。培養条件、例えば、温度、培地のpH及び培養時間は、当業者により適宜選択されうる。宿主細胞が動物細胞の場合、培地としては、例えば、約5~20%の胎児牛血清を含むMEM培地(Science、1959、Vol.130、p.432-437)、DMEM培地(Virol.、1959、Vol.8、p.396)、RPMI-1640培地(J.Am.Med.Assoc.、1967、Vol.199、p.519)、199培地(Exp.Biol.Med.、1950、Vol.73、p.1-8)等を用いることができる。培地のpHは、例えば、約6~8であり、培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約30~40℃で約15~336時間行われる。宿主細胞が昆虫細胞の場合、培地としては、例えば、胎児牛血清を含むGrace’s培地(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、1985、Vol.82、p.8404)等を用いることができる。培地のpHは、例えば、約5~8であり、培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約20~40℃で約15~100時間行われる。宿主細胞が大腸菌又は酵母である場合、培地としては、例えば、栄養源を含有する液体培地が適当である。栄養培地は、例えば、形質転換された宿主細胞の生育に必要な炭素源、無機窒素源、又は有機窒素源を含んでいる。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖等が、無機窒素源又は有機窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液等が挙げられる。所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類)、抗生物質(例えば、テトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン)等を含んでいてもよい。培地のpHは、例えば、約5~8である。宿主細胞が大腸菌の場合、培地としては、例えば、LB培地、M9培地(Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory、Vol.3、A2.2)等を用いることができる。培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約14~43℃で約3~24時間行われる。宿主細胞が酵母の場合、培地としては、例えば、Burkholder最小培地(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、1980、Vol.77、p.4505)等を用いることができる。培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約20~35℃で約14~144時間行われる。上述のような培養により、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体を発現させることができる。
【0112】
本発明の生産方法は、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体を発現させる工程に加えて、さらには、該形質転換された宿主細胞から抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体を回収、単離又は精製する工程を含むことができる。単離又は精製方法としては、例えば、塩析、溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過などの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。1つの実施形態において、培養上清中に分泌された抗体は、各種クロマトグラフィー、例えば、プロテインAカラム又はプロテインGカラムを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製することができる。
【0113】
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体には、本発明の生産方法によって生産され抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体も含まれる。
【0114】
<本発明の二重特異性抗体の医薬組成物等>
本発明の医薬組成物には、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が含まれる。本発明の医薬組成物は、当該分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用される方法によって調製することができる。これら医薬組成物の剤型の例としては、例えば、注射剤、点滴用剤等の非経口剤が挙げられ、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与等により投与することができる。製剤化にあたっては、薬学的に許容される範囲で、これら剤型に応じた賦形剤、担体、添加剤等を使用することができる。
【0115】
本発明の医薬組成物には、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体の翻訳後修飾体を含み得る。例えば、C末端リジンの欠失やN末端のピログルタミル化の両方又は一方を受けた抗体等を含有する医薬組成物も本発明に含まれる。
【0116】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、以下(a)及び(b)から選択される本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体及び/又は当該抗体の翻訳後修飾体を含有する医薬組成物である:
(a)配列番号6のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号6のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む、二重特異性抗体;
(b)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の重鎖可変領域、及び配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗CD3抗体の軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む、二重特異性抗体。
【0117】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、以下(a)及び(b)から選択される本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体及び/又は当該抗体の翻訳後修飾体を含有する医薬組成物である:
(a)配列番号6のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む、二重特異性抗体;
(b)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖、並びに、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む、二重特異性抗体。
【0118】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、配列番号6のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖フラグメントと第一Fcポリペプチドが連結された抗TSPAN8抗体の重鎖、配列番号8のアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖、及び配列番号14のアミノ酸配列からなる抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドを含む抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体及び/又は当該抗体の翻訳後修飾体を含有する医薬組成物である。
【0119】
製剤化における本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体、抗TSPAN8抗体の添加量は、患者の症状の程度や年齢、使用する製剤の剤型、あるいは抗体の結合力価等により異なるが、例えば、0.001mg/kg~100mg/kg程度を用いることができる。
【0120】
<本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体の医薬用途>
本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体、及びそれらを含有する医薬組成物は、がんの治療のために用いることができる。また、本発明には、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体の治療有効量を対象に投与する工程を包含する、がんを治療する方法が含まれる。また、本発明には、がんの治療に使用するための、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体を含む。また、本発明には、がんの治療用医薬組成物の製造における、本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体の使用が含まれる。本発明による治療の対象となるがんは、特に限定されないが、例えば、種々の腹膜播種がん、胃がん、肺がん、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、ホジキンリンパ腫、ノンホジキンリンパ腫、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、T細胞リンパ腫等の血液がん、骨髄異形成症候群、腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、未分化がん、大細胞がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、中皮腫、皮膚がん、皮膚T細胞リンパ腫、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、膣がん、頸部がん、頭頸部がん、子宮がん、子宮頸がん、肝臓がん、胆のうがん、胆管がん、腎臓がん、膵臓がん、結腸がん、大腸がん、直腸がん、小腸がん、胃がん、食道がん、精巣がん、卵巣がん、脳腫瘍等の固形がん、並びに骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、血管組織及び造血組織のがんの他、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫などの肉腫や、膠芽腫、多形性膠芽腫、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫などの芽腫等が挙げられる。
【0121】
<本発明の抗TSPAN8抗体>
本発明はまた、以下に説明する、ヒトTSPAN8に対する新規な抗TSPAN8抗体又はその結合フラグメントを提供する。本発明により提供される抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントを纏めて「本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント」とも称する。
【0122】
本発明は、ヒトTSPAN8発現がん細胞に選択的に結合する抗TSPAN8抗体又はその結合フラグメントを提供する。
【0123】
本明細書において、「ヒトTSPAN8発現がん細胞に選択的に結合する」とは、ある抗TSPAN8抗体を、 市販抗TSPAN8抗体(TAL69、REA443等)又は市販抗TSPAN8抗体と同様の結合プロファイルを示す抗TSPAN8抗体(例えば9F6、18C10等)と結合活性の比較をした場合に、市販抗体等に比べてヒトTSPAN8発現がん細胞に発現するTSPAN8への結合強度が、3倍以上、好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上であり、且つ、正常細胞に発現するTSPAN8への結合強度が1/3以下、好ましくは1/5以下、さらに好ましくは1/10以下であることを指す。抗体の細胞への結合強度は、例えば実施例1に示すフローサイトメトリー法で得られたMFI(Mean Fluorescence Intensity)値、又は各抗体のMFIより各Isotype MFIを引いて算出したΔMFI値を用いて算出することができる。また、抗体の細胞への結合強度は、がん細胞と正常細胞を用いたELISA法等、当業者が通常使用しうる方法によっても測定及び算出することができる。
ここで、ヒトTSPAN8発現がん細胞とは、がん患者より単離したヒトTSPAN8発現するがん細胞をいい、実施例1-1に記載した患者由来のがん腹膜播種細胞の他に、American Type Culture Collection(ATCC)等の細胞バンク等より入手可能ながん細胞株を用いることができる。がん細胞株としては、例えば、実施例1-1に記載した方法にて患者腹水から樹立された細胞株の他に、AGS、KATOIII、SNU5、SNU16、SNU520、ANU719、NCI-N87、HT-29、LoVo、GP2d、AsPC-1、OE19、Li-7Hs746、NUGC-4、OCUM1、MNK45等のTSPAN8を発現する細胞株を使用することができる。また、正常細胞とは、正常組織由来の細胞をいい、実施例1-5で用いた患者由来腹膜中皮細胞の他に、実施例1-3で用いたヒト末梢血単核細胞、実施例1-3で用いた培養腹膜中皮細胞等の市販の初代培養細胞又は細胞株を使用することができる。1つの実施形態において、正常細胞はTSPAN8を発現している。1つの実施形態において、TSPAN8を発現している正常細胞は患者由来腹膜中皮細胞及び実施例1-3で用いた培養腹膜中皮細胞である。1つの実施形態において、正常細胞はTSPAN8を発現していない細胞である。1つの実施形態において、TSPAN8を発現していない正常細胞は実施例1-3で用いたヒト末梢血単核細胞である。
【0124】
本発明はまた、TSPAN8タンパク質の一部をエピトープとして認識する抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。1つの実施形態において、当該エピトープはTSPAN8のLEL領域に含まれるアミノ酸配列からなる構造単位である。1つの実施形態において、当該エピトープは配列番号2の126から155までのアミノ酸配列で示されるTSPAN8タンパク質の一部の領域からなる構造単位である。1つの実施形態において、当該エピトープは配列番号2の126から155までのアミノ酸配列で示されるTSPAN8タンパク質の一部の領域に含まれる1又は2以上のアミノ酸配列からなる構造単位である。1つの実施形態において、当該エピトープは少なくとも配列番号2のアミノ酸番号131を含む構造単位である。
【0125】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号2のアミノ酸番号126から155までのヒトTSPAN8の領域に存在する少なくとも1個のアミノ酸に結合する。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号2のアミノ酸番号126から155までのヒトTSPAN8の領域に存在する少なくとも1個のアミノ酸に結合し、かつ、ヒトTSPAN8発現がん細胞に選択的に結合する。
【0126】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号2のアミノ酸番号126から155までのヒトTSPAN8の領域に存在する少なくとも配列番号2のアミノ酸番号131のアミノ酸に結合する。1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号2のアミノ酸番号126から155までのヒトTSPAN8の領域に存在する少なくとも配列番号2のアミノ酸番号131のアミノ酸に結合し、かつ、ヒトTSPAN8発現がん細胞に選択的に結合する。
【0127】
抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントが、配列番号2のアミノ酸番号126から155までのヒトTSPAN8の領域に存在するアミノ酸(例えば、配列番号2のアミノ酸番号131のアミノ酸)に結合するか否かは、本願実施例4-1及び4-2に記載のエピトープ同定方法を使用して確認することができる。
【0128】
本発明はまた、以下の(a)及び(b)に示す、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する:
(a)配列番号4のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント;
(b)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
【0129】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントは、以下の(a)及び(b)から選択される、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントである:
(a)配列番号4のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント;
(b)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント又はその抗原結合フラグメント。
【0130】
本発明の抗TSPAN8抗体の重鎖定常領域としては、Igγ、Igμ、Igα、Igδ又はIgεのいずれの定常領域も選択可能である。Igγとしては、例えば、Igγ1、Igγ2、Igγ3又はIgγ4から選択することが可能である。1つの実施形態において、重鎖定常領域はIgγ1定常領域であり、例えば、ヒトIgγ1定常領域である。また、本発明の抗TSPAN8抗体の重鎖定常領域は、ADCCやCDCを低下させるためにLALA変異等のアミノ酸変異を含んでもよい。本発明の抗TSPAN8抗体の軽鎖定常領域としては、Igλ又はIgκのいずれの定常領域も選択可能であり得る。1つの実施形態において、軽鎖定常領域はIgκ定常領域であり、例えば、ヒトIgκ定常領域である。
【0131】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体の抗原結合フラグメントは、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)、又は片腕抗体である。
【0132】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体は、以下の(a)及び(b)から選択される、抗TSPAN8抗体である:
(a)配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗TSPAN8抗体;
(b)配列番号10のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗TSPAN8抗体。
【0133】
本発明はまた、以下の(a)~(d)に示す、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント(これらを纏めて特に「本発明の競合抗TSPAN8抗体」とも称する)を提供する:
(a)ヒトTSPAN8発現がん細胞に対する結合に関して配列番号4のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体と競合する、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント;
(b)ヒトTSPAN8発現がん細胞に対する結合に関して配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体と競合する、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント;
(c)ヒトTSPAN8発現がん細胞に対する結合に関して配列番号34のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号36のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体と競合する、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント;
(d)ヒトTSPAN8発現がん細胞に対する結合に関して配列番号35のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号37のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体と競合する、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
【0134】
本発明の競合抗TSPAN8抗体は、例えば、ヒトTSPAN8発現細胞を抗原として公知の抗体作製技術を用いてヒトTSPAN8に対する抗体を取得し、得られた抗体について、競合対象の抗TSPAN8抗体とのヒトTSPAN8発現細胞に対する結合に関する競合試験を行うことによって、当業者であれば取得可能である。競合試験としては、フローサイトメトリー法等、当業者に公知の方法を用いることができ、例えば、実施例4-3に記載のヒトTSPAN8発現がん細胞を用いた競合試験を使用することができる。競合試験に使用するヒトTSPAN8発現がん細胞としては、前述の種々の細胞が使用可能である。
【0135】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントは、下記(a)及び(b)のいずれかより選択される、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントである:
(a)ヒトTSPAN8発現がん細胞に対する結合に関して配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖と配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗TSPAN8抗体と競合する、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント、
(b)ヒトTSPAN8発現がん細胞に対する結合に関して配列番号10のアミノ酸配列からなる重鎖と配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗TSPAN8抗体と競合する、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
【0136】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントは、下記(c)及び(d)のいずれかより選択される、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントである:
(c)ヒトTSPAN8発現がん細胞に対する結合に関して配列番号34のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と配列番号36のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体と競合する、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント、
(d)ヒトTSPAN8発現がん細胞に対する結合に関して配列番号35のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号37のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む抗TSPAN8抗体と競合する、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント。
【0137】
<本発明の他の二重特異性抗体>
本発明は、T細胞又はナチュラルキラー(Natural Killer;NK)細胞の表面抗原に対する抗体又はその抗原結合フラグメントと連結された本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントを含む二重特異性抗体を提供する。該二重特異性抗体の形状は特に限定されず、例えば非特許文献3又は4に記載されている種々の形状の抗体等、当業者によって一般的に使用されうる形状をとることができる。
【0138】
本発明はまた、以下の二重特異性抗体を提供する:
TSPAN8及びT細胞又はNK細胞の表面抗原に結合する二重特異性抗体であって、
(a)本発明の抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含む重鎖フラグメント及び本発明の抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる、抗TSPAN8抗体のFab領域、
(b)T細胞又はNK細胞の表面抗原に対する抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、T細胞又はNK細胞の表面抗原に対する抗体のscFv領域、及び
(c)(a)のFab領域の重鎖フラグメントに連結された第一Fcポリペプチド及び(b)のscFv領域に連結された第二Fcポリペプチドからなる、Fc領域、
からなる、二重特異性抗体。
【0139】
本発明の他の二重特異性抗体は、当業者であれば、非特許文献4に記載の方法又は<本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体>の記載を参考に一般的な方法を用いて作製することができる。T細胞又はNK細胞の表面抗原に対する抗体としては、現在までに多くの抗体が知られており(Current Opinion in Biotechnology、2020、Vol.65、p.9-16)、これらの抗体の配列情報を使用することができる。本発明の他の二重特異性抗体の実施態様については、抗CD3抗体のscFv領域を用いること以外は、<本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体>に記載のとおりである。本発明の他の二重特異性抗体もまた、がんの治療に使用されうる。
【0140】
1つの実施形態において、本発明の他の二重特異性抗体のT細胞又はNK細胞の表面抗原に対する抗体又はその抗原結合フラグメントとしては、T細胞又はNK細胞の表面抗原に対する抗体又はその抗原結合フラグメントである。1つの実施形態において、当該T細胞又はNK細胞の表面抗原に対する抗体又はその抗原結合フラグメント、抗CD3抗体、抗CD137抗体、抗PD-1(Programmed cell Death - 1)抗体、抗PD-L1(Programmed cell Death 1- Ligand 1)、抗体、抗TIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)抗体、抗CD16抗体、抗NKG2D(Natural Killer Group 2,member D)抗体、又はそれら抗原結合フラグメントである。1つの実施形態において、当該T細胞又に対する抗体又はその抗原結合フラグメントは、抗CD3抗体又はその抗原結合フラグメントである。1つの実施形態において、当該抗CD3抗体の抗原結合フラグメントは、抗CD3抗体のscFvである。
【0141】
<本発明の融合体、複合体及び本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントを細胞表面に発現させた細胞>
本発明はまた、TSPAN8以外の他タンパク質(抗体を含む)やポリペプチドを連結した、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント(「本発明の融合体」ともいう)を提供する。本発明の融合体に用いられるタンパク質やポリペプチドは特に限定されず、例えば、各種抗体、サイトカイン、ケモカイン、ヒト血清アルブミン、各種タグペプチド、人工ヘリックスモチーフペプチド、マルトース結合タンパク質、グルタチオンSトランスフェラーゼ、その他の多量体化を促進しうるペプチド又はタンパク質等を使用しうる。本発明の融合体の1つの実施形態において、タンパク質やポリペプチドが、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントに連結されている。1つの実施形態において、本発明の融合体に用いられるタンパク質やポリペプチドは、例えば顆粒球、ナチュラルキラーT(Natural Killer T;NKT)細胞等の免疫細胞、樹状細胞、マクロファージ等の血球細胞の表面抗原に対する抗体若しくはその抗原結合フラグメント、又は各種インターロイキン(例えばIL-2、IL-7、IL-12、IL-15)等の免疫細胞を活性化するポリペプチドであってよい。この場合、本発明の融合体に用いられるタンパク質やポリペプチドは、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントに直接連結していてもよく、また、任意のリンカー(例えば、ペプチドリンカー)を介して連結させてもよい。
【0142】
本発明はまた、糖質、脂質、金属(放射性同位体を含む)、有機化合物(毒素、近赤外蛍光色素、キレート剤を含む)等(「修飾剤」ともいう)が結合した、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント(「本発明の複合体」ともいう)を提供する。本明細書において、「修飾剤」とは抗体又はその抗原結合フラグメントに直接又はリンカー等を介して結合している、非ペプチド性の物質を指す。本発明の複合体に用いられる修飾剤は特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、糖鎖、リン脂質、放射線同位体(例えば、ジルコニウム-89(89Zr)、イットリウム-90(90Y)、インジウム-111(111In)、アスタチン-211(211At)、アクチニウム-225(225Ac))、有機化合物、毒素、近赤外蛍光色素(例えばIRDye(登録商標))、キレート剤等が挙げられる。当該複合体に用いられる修飾剤は、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントに直接結合していてもよく、また、任意のリンカーを介して結合していてもよい。1つの実施形態において、本発明の複合体は、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの薬物複合体(Antibody Drug Conjugate;ADC)である。ADCに用いられる薬物及びリンカーは、当業者が一般に用いる薬剤及びリンカーの中より選定されうる。1つの実施形態において、本発明の複合体は、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントに放射線同位体が結合した放射性同位体標識抗体である。
【0143】
本発明はまた、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントを細胞表面に発現させた細胞(例えば、Chimeric antigen receptor-T cell;CAR-T細胞)を提供する。このような細胞は、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントをコードするポリヌクレオチドを用いて、当業者であれば作製することができる。本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントを発現させる細胞としては、各種免疫細胞(T細胞、NK細胞、NKT細胞等)を用いることができる。
【0144】
本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント、本発明の融合体、本発明の複合体、及び本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントを細胞表面に発現させた細胞は、ヒトTSPAN8(遺伝子番号:NM_004616.2)に結合する。ヒトTSPAN8への結合は、公知の結合活性測定方法を用いて確認することができる。結合活性を測定する方法としては、例えば、ELISA法、フローサイトメトリー法等の方法が挙げられる。ELISA法を用いる場合は、例えば実施例8に記載される方法を用いることができ、フローサイトメトリー法を用いる場合には、例えば実施例1に記載される方法を用いることができる。
【0145】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント、本発明の融合体、及び複合体並びに本発明の抗TSPAN8抗体若しくはその抗原結合フラグメントを細胞表面に発現させた細胞における抗体又は抗原結合フラグメント部分は、翻訳後修飾されていてもよい。1つの実施形態において、翻訳後修飾が、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化及び/又は重鎖C末端リジン欠失である。
【0146】
本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント、本発明の融合体、及び本発明の複合体並びに本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントを細胞表面に発現させた細胞は、本明細書に開示される本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントのVH及びVLの配列情報、本発明の融合体に使用される他のペプチド又はタンパク質(例、抗体)、本発明の複合体に用いられる修飾剤の情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者であれば作製し得る。本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントは、特に限定されるものではないが、例えば、<本発明の二重特異性抗体を生産する方法>の項に記載の方法に従って生産することができる。
【0147】
<本発明の抗TSPAN8抗体のポリヌクレオチド、発現ベクター、宿主細胞、及び生産方法>
本発明はまた、以下の(1)~(4)に記載のポリヌクレオチドを提供する:
(1)本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
(2)本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(3)本発明の抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(4)本発明の抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0148】
上記(1)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドである:
(a)配列番号4のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0149】
上記(1)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドである:
(a)配列番号4のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0150】
上記(2)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドである:
(a)配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0151】
上記(2)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドである:
(a)配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0152】
上記(3)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドである:
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0153】
上記(4)のポリヌクレオチドの1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドである:
(a)配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0154】
本項に記載のポリヌクレオチドは、その塩基配列に基づき、当該分野で公知の方法を使用して、当業者であれば作製し得る。
【0155】
本発明はまた、以下の(1)~(4)に記載のポリヌクレオチドのうち1つ又は複数のポリヌクレオチドを含む発現ベクター(「本発明の抗TSPAN8抗体の発現ベクター」とも称する)を提供する。1つの発現ベクターにそれぞれのポリヌクレオチドが1つずつ含まれていても、複数含まれていてもよい。
(1)本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(2)本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(3)本発明の抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(4)本発明の抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0156】
上記(1)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域を含むポリヌクレオチド。
【0157】
上記(1)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0158】
上記(2)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0159】
上記(2)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0160】
上記(3)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0161】
上記(4)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体の発現ベクターの1つの実施形態において、該発現ベクターは、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0162】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体の発現ベクターは、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む発現ベクターである:
(a)配列番号4のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0163】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体の発現ベクターは、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む発現ベクターである:
(a)配列番号4のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0164】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体の発現ベクターは、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む発現ベクターである:
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0165】
本項に記載の発現ベクターは、前述の<本発明の二重特異性抗体の発現ベクター>に記載の方法に準じて、当業者であれば作製し得る。
【0166】
本発明はまた、以下の(1)~(4)のポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞(「本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞」とも称する)を提供する。本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞は、本発明の抗TSPAN8抗体の発現ベクターによる形質転換によって、以下の(1)~(4)のそれぞれのポリヌクレオチドが1つずつ含んでも、複数含んでもよい。
(1)本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド
(2)本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(3)本発明の抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(4)本発明の抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0167】
上記(1)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0168】
上記(1)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0169】
上記(2)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下の(a)及び(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0170】
上記(2)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0171】
上記(3)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0172】
上記(4)のポリヌクレオチドを含む本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞の1つの実施形態において、該宿主細胞は、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0173】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞は、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号8のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号8のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号8のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号10のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号10のアミノ酸番号99から110までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号12のアミノ酸番号24から34までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸番号50から56までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸番号89から96までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0174】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞は、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む宿主細胞である:
(a)配列番号4のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号8のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10のアミノ酸番号1から121までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号12のアミノ酸番号1から107までのアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0175】
1つの実施形態において、本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞は、以下の(a)又は(b)より選択されるポリヌクレオチドを含む宿主細胞である:
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド;
(b)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号12に示されるアミノ酸配列からなる抗TSPAN8抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0176】
本項に記載の宿主細胞は、前述の<本発明の形質転換された宿主細胞>に記載の方法に準じて、当業者であれば作製し得る。
【0177】
本発明はさらに、本発明の抗TSPAN8抗体用の宿主細胞を培養する工程を含む、抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントの生産方法を提供する。本方法は、前述の<本発明の二重特異性抗体を生産する方法>に準じて当業者であれば実施し得る。
【0178】
<本発明の抗TSPAN8抗体等の医薬用途>
本発明はまた、本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメント、本発明の融合体、本発明の複合体及び本発明の抗TSPAN8抗体又はその抗原結合フラグメントを細胞表面に発現させた細胞(纏めて以下本項において「本発明の抗TSPAN8抗体等」と称する)、並びに薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。当該医薬組成物は、がんの治療のために用いることができる。本発明はまた、本発明の抗TSPAN8抗体等の治療有効量を対象に投与する工程を含むがんを治療する方法、がんの治療に使用するための本発明の抗TSPAN8抗体等、がんの治療用医薬組成物の製造における本発明の抗TSPAN8抗体等の使用を提供する。本発明の抗TSPAN8抗体等の医薬用途は、前述の<本発明の二重特異性抗体の医薬組成物等>の記載に準じて当業者であれば実施し得る。本発明の抗TSPAN8抗体等の医薬用途の治療の対象となるがんは、前述の<本発明の二重特異性抗体の医薬組成物等>に記載のがんが挙げられる。
【0179】
<本発明の抗CD3抗体>
本発明はまた、以下に示す、抗CD3抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する:
配列番号14のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号50から68までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号101から114までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域、並びに、配列番号14のアミノ酸番号168から181までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号14のアミノ酸番号197から203までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号14のアミノ酸番号236から244までのアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域を含む、抗CD3抗体又はその抗原結合フラグメント。
【0180】
1つの実施形態において、本発明の抗CD3抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗CD3抗体又はその抗原結合フラグメントである。
【0181】
1つの実施形態において、本発明の抗CD3抗体の抗原結合フラグメントは、scFvである。1つの実施形態において、本発明の抗CD3抗体の抗原結合フラグメントは、配列番号14のアミノ酸番号1から125までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号14のアミノ酸番号146から254までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、抗CD3抗体scFvである。1つの実施形態において、本発明の抗CD3抗体の抗原結合フラグメントは、配列番号14のアミノ酸番号1から254までのアミノ酸配列からなる、抗CD3抗体scFvである。
【0182】
本発明の抗CD3抗体又はその抗原結合フラグメントは、<本発明の抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体>等の本明細書中の記載を参照して、当業者であれば作製し得る。本発明の抗CD3抗体又はその抗原結合フラグメントは、公知の結合活性測定方法を用いて確認することができる。本発明の抗CD3抗体又はその抗原結合フラグメントは、例えば、がんの治療において使用される、腫瘍抗原に対する抗体との二重特異性抗体に使用されうる。
【0183】
本発明についてさらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供するが、これらは例示目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例
【0184】
[実施例1:がん腹膜播種細胞に発現する抗原に選択的に結合する抗体の取得]
[実施例1-1:患者由来のがん腹膜播種細胞の取得]
患者からのがん腹膜播種細胞の取得を以下の方法で行った。患者からのがん腹膜播種細胞取得は、千脇史子、佐々木博己による文献「腹膜転移がん(胃、膵、卵巣がんなど)細胞株の樹立」(佐々木博己編『患者由来がんモデルを用いたがん研究実践ガイド』羊土社、2019年、p.28-37)に記載した方法に準じて行った。患者より採取した腹水をプロテオセーブ(登録商標)SS 50mL遠沈管(住友ベークライト社、MS-52550、以下、「50mL遠沈管」)に分注し、室温、430×gで3分間遠心した。上清を除去した後に、沈殿に溶血緩衝液を添加し、室温で10~20分間溶血させた。溶血緩衝液は、0.75% 塩化アンモニウムを含む17mM Tris-HCL(pH7.65)を孔径0.22μmのフィルターで濾過して調製した。遠心後に上清を除去し、ダルベッコPBS(-)(日水製薬社、05913、以下「PBS(-)」)を50mL加えて細胞を洗浄した。その後、室温、430×gで3分間遠心して細胞を回収した。回収した腹水中の全細胞を10% FBS(Thermo Fisher Scientific社、10270-106)、×1 Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific社、15240062)を含むRPMI-1640(L-グルタミン含有)培地(富士フイルム和光純薬社、189-02025)、(以下、FBS等を添加後の培地を「RPMI-1640培地」と称する。)に再懸濁した。100mmコラーゲンコートディッシュ(以下、「ディッシュ」)(IWAKI社、4020-010)に細胞を5×10~1×10個/10mLずつ播種し、37℃、5% COインキュベーターで培養した。
腹水中の細胞には、接着系細胞と浮遊系細胞が存在する。接着系細胞には、がん細胞だけでなくがん細胞以外の細胞(線維芽細胞、腹膜中皮細胞等)も含まれている。がん細胞以外の細胞ががん細胞より短時間で剥離する性質を利用し、これらの細胞を腹水中の全細胞より分離した。具体的には、前述の腹水中の全細胞を培養したディッシュをPBS(-)で洗浄後、0.05%トリプシン-EDTA(Thermo Fisher Scientific社、15400054)2mLで数分間処理することによってがん細胞以外の細胞を剥離した。剥離した細胞に含まれるがん細胞以外の細胞は、新たなディッシュにて継続培養し、実施例1-5にて使用した。
がん細胞以外の細胞を除いた後、がん細胞がディッシュ面積の80%コンフルエント程度まで増殖した後に、全細胞の1/2を新しいディッシュへ継代する作業を繰り返し、5回以上継代したものを接着系がん細胞とした。浮遊系細胞については、培養ディッシュより培養上清5mLとRPMI-1640培地5mLを新しい100mmディッシュへ播種して継代し、5回以上継代したものを浮遊系がん細胞とした。1人の患者に由来するがん腹膜播種細胞が接着系がん細胞と浮遊系がん細胞の両方を含んだまま増殖する場合は、それらを混合系がん細胞とした。
本明細書において、上記方法にて患者から採取した腹水より単離した接着系がん細胞、浮遊系がん細胞又は混合系がん細胞を総称して「がん腹膜播種細胞」と称する。取得した12細胞(NSC-7C、NSC-9C、NSC-10C、NSC-14C、NSC-15CF、NSC-16C、NSC-20C、NSC-22C、NSC-24C、NSC-32C、NSC-34C及びNSC-35C-1(以下、「12種のがん腹膜播種細胞」とも称する。))を以後の検討に用いた。
【0185】
[実施例1-2:抗胃がん抗原抗体産生ハイブリドーマの作製]
ヒ卜モノクローナル抗体開発技術「ベロシミューン」(VelocImmune(登録商標) antibody technology;Regeneron(米国特許6596541号))マウスを用いてがん腹膜播種細胞に結合する抗胃がん抗原抗体を取得した。
実施例1-1にて取得したがん腹膜播種細胞のうちNSC-10C、NSC-35C-1、NSC-24C、NSC-7C、NSC-14C、NSC-34Cを3細胞ずつに分けて混合し、TiterMax(登録商標)Gold ADJUVANT(MERCK社、T2684)又はPBS(-)に懸濁し、がん腹膜播種細胞懸濁液を調製した。この懸濁液をベロシミューンマウスに免疫し、常法に従いハイブリドーマを作製した。自動ピッキング装置にてハイブリドーマの単コロニーを単離し、モノクローン化ハイブリドーマ細胞(以下、「クローン」)を取得した。単離したクローンを37℃、8% COインキュベーターにて培養し、培養4日後の上清を96ウェルプレートに回収し、以下の実験に用いた。
【0186】
[実施例1-3:がん腹膜播種細胞に選択的に結合する抗胃がん抗原抗体の選別]
1.がん腹膜播種細胞及びEpCAM発現細胞への抗胃がん抗原抗体の結合確認
実施例1-2にて得られたクローンの細胞上清には抗体(以下、「クローン上清に含まれる抗体」)が含まれている。
まず、クローン上清に含まれる抗体と実施例1-1で取得した12種のがん腹膜播種細胞との結合をフローサイトメトリー法にて測定し、がん腹膜播種細胞に強く結合する抗体を産生するクローンを選抜した。フローサイトメトリーには、BV421 Goat Anti-Mouse Ig(Becton, Dickinson and Company社、563846)を用いた。次に、がん抗原であるEpCAMに結合する抗体を提供するクローンを除外するために、クローン上清に含まれる抗体とヒトEpCAM-Myc-DDK発現CHO-K1細胞との結合を測定した。ヒトEpCAM-Myc-DDK発現CHO-K1細胞は、EPCAM(Myc-DDK-tagged)-Human epithelial cell adhesion molecule(EPCAM)(ORIGENE社、RC201989)をCHO-K1細胞(ATCC、CCL-61)にトランスフェクションすることにより作製した。当該細胞とクローン上清に含まれる抗体の結合をフローサイトメトリー法にて測定した。フローサイトメトリー法には、BV421 Goat Anti-Mouse Igを用いた。EpCAM発現細胞に結合活性を示さない上清を提供するクローンを選択するために、当該細胞に結合するクローンを除外した。陽性コントロールとして、CD326(EpCAM) Monoclonal Antibody(1B7)(eBioscience社、14-9326)を使用した。
上記実験により、12種のがん腹膜播種細胞中の10種以上について結合し、且つ、ヒトEpCAMには結合しない抗体を提供するクローンを選定した。
【0187】
2.ヒト末梢血単核細胞に対する抗体の結合確認
さらに、がん腹膜播種細胞に選択的に結合する抗体を提供するクローンを選抜するために、ヒト末梢血単核細胞に結合する抗体を提供するクローンを除外した。
ヒト末梢血単核細胞と各クローンが提供する抗体との結合の測定にはフローサイトメトリー法を用いた。ヒト末梢血由来単核細胞として、Human Mononuclear Cells from Peripheral Blood(hMNC-PB),pooled,ultra-pure(PromoCell社、C-12908)を用いた。フローサイトメトリー法には、PE Goat Anti-Mouse Ig(Multiple Adsorption)(Becton, Dickinson and Company社、550589、以下「PE Goat Anti-Mouse Ig」)、BV421 Mouse Anti-Human CD3(Becton, Dickinson and Company社、562426)、APC Mouse Anti-Human CD14(Becton, Dickinson and Company社、555399)、BB515 Mouse Anti-Human CD19(Becton, Dickinson and Company社、564456)を用いた。
【0188】
3.ハイブリドーマ上清からの抗体精製
実施例1-3の1.及び2.の工程において選別したクローンをCDハイブリドーマメディウム(Thermo Fisher Scientific社、11279023)で培養した。培養上清から、MabSelectSuRe(GEヘルスケア社、17-5438-02)を用いて、抗体を精製した(以下、「精製抗体」)。抗体の精製は常法に従った。
【0189】
4.培養ヒト腹膜中皮細胞に対する精製抗体の結合
がん腹膜播種細胞に選択的に結合する抗体を選抜するために、実施例1-3の3.で得た精製抗体から培養ヒト腹膜中皮細胞に結合する抗体を除外した。培養ヒト腹膜中皮細胞としてHuman Mesothelial Cells(Zenbio社、MES-F、Lot.MESM012916B)(本明細書にて「培養ヒト腹膜中皮細胞」と称す)を用い、Mesothelial Cell Growth Medium(Zenbio社、MSO-1)にて培養した。精製抗体と培養ヒト腹膜中皮細胞との結合の測定にはフローサイトメ卜リ一法を用いた。フローサイトメ卜リ一法には、PE Goat Anti-Mouse Igを用いた。培養ヒト腹膜中皮細胞に結合しない又は弱い結合を示す抗体を選別し、14種の精製抗体を取得した(以下、「14種の精製抗体」)。
【0190】
[実施例1-4:取得された抗体が認識する抗原分子候補の同定]
14種の精製抗体について抗原候補分子の同定を行った。同定方法の例として、16B11、16B12及び21F7における抗原候補分子の同定方法を詳述する。
本実験におけるコントロール抗体として、がん腹膜播種細胞への結合パターンが16B11と異なっていた5D3、9A1、21A3を使用した。
NSC-15CF細胞の細胞破砕液を作製した。細胞破砕液に、16B11、16B12、21F7及びコントロール抗体3種(5D3、9A1、21A3)のうちのいずれか1抗体を添加した。さらにDynabeads Protein G (Life Technologies社、10003D)を加えて攪拌及び洗浄を行った。Dynabeads Protein Gに結合したタンパク質をTripsin/LysC(Promega社、V5072)を用いて消化し、ペプチド混合物を得た。ペプチド混合物を含む溶液をUltiMate 3000 RSnano(Thermo Fisher Scientific社)及びOrbitrap Fusion(Thermo Fisher Scientific社)を用いたLC-MS/MS測定に供した。得られたLC-MS/MSデータをProgenesis QI for Proteomics(Waters社)及びMascot(マトリクスサイエンス社)のソフトを用いて比較定量解析及びペプチド/タンパク質同定を行い、結合タンパク質を同定した。16B11、16B12、又は21F7のデータをそれぞれコントロール抗体のデータと比較し、16B11及び21F7の抗原候補分子としてTSPAN8を同定した。本実験では16B12の抗原候補分子は同定できなかった。
5B7、9F6、12C12、13A9、15D1、18C10及び19E4についても上記と同様の手法を用いて実験を行い、TSPAN8を抗原候補分子として同定した。コントロール抗体として5D3、9A1、21A3に加え24C7を用いた。16B12は、抗原候補分子の同定には至らなかったが、実施例1-3にて16B11と同様の結合プロファイルを示したので、TSPAN8を抗原候補と推定して後の検討を行った。
さらに、抗原を特定するために、ヒトTSPAN8-Myc-DDK発現CHO-K1細胞に対する結合実験を行った。ヒトTSPAN8-Myc-DDK発現CHO-K1細胞は、CHO-K1細胞にTSPAN8(Myc-DDK-tagged)-Human tetraspanin 8(TSPAN8)(ORIGENE社、RC202694)(配列番号2)をトランスフェクションすることにより作製した。結果、16B11、16B12、5B7、9F6、12C12、13A9、15D1、18C10、19E4、21F7の10種の抗体(「10種類の抗TSPAN8抗体」ともいう)がヒトTSPAN8-Myc-DDK発現CHO-K1細胞に結合し、TSPAN8を抗原として認識することが確認された。
【0191】
[実施例1-5:抗TSPAN8抗体の各種細胞に対する結合活性の確認]
1.がん腹膜播種細胞に対する結合活性の確認及び数値化
胃がん患者腹水より単離した7種のがん腹膜播種細胞(KM-291-As、KM-555-As、KM-556-As、P-249-As、KM-568-As、KM-570-As及びKM-577-As)と4種類の抗TSPAN8抗体との結合をフローサイトメトリー法により測定した。
KM-291-Asは、患者の腹水より実施例1-1と同様の方法を用いて調製した。調製したKM-291-Asには、CD45を発現する血球系細胞が多く含まれていたため、がん細胞を濃縮するために、CD45発現細胞をカラムで除去した。詳細には、5×10個の細胞を含む細胞懸濁液を、CD45 MicroBeads,human(Miltenyi Biotec社、130-045-801)を用い、常法に従いPre-Separation Columns(30μm)(Miltenyi Biotec社、130-041-407)とSeparation Columns(Miltenyi Biotec社、130-042-401)(以下、「Column」)に通した。Column通過液を50mL遠沈管に回収して遠心分離した。沈殿にbuffer 10mLを加え細胞を再懸濁した。この細胞懸濁液から5×10個の細胞を1.5mLマイクロチューブ(WATSON社、131-7155C)へ分取し、遠心分離により沈殿を得た。沈殿に2% FBS、100μg/mL Penicillin-Streptomycin(Thermo Fisher Scientific社、15140-122)を含むPBS(FCM buffer)を950μL加えて細胞懸濁液を調製した。FcR Blocking Reagentを50μL加え、氷中で10分間反応させた。この反応液を7本の1.5mLマイクロチューブへ100μLずつ分注し、以下の方法で細胞の染色を行った。7本中3本のマイクロチューブにmouse IgG1-PE抗体(Miltenyi Biotec社、130-092-212)を5μLずつ加え、次にAlexa Fluor647標識されたコントロール抗体を各マイクロチューブへ2.5μLずつ添加し、Isotype controlとした。コントロール抗体として、mouse IgG2a Isotype control(Becton, Dickinson and Company社、558053)、mouse IgG2b Isotype control(Becton, Dickinson and Company社、558713)、mouse IgG3 Isotype control(Becton, Dickinson and Company社、560803)のいずれか使用した。残り4本のマイクロチューブには、CD326(EpCAM)-PE(Miltenyi Biotec社、130-091-253)を5μLずつ加え、さらに16B11、16B12、9F6、18C10をマイクロチューブにそれぞれ2.5μL(0.25μg/チューブ)ずつ加えて細胞を染色し、4種類の評価抗体サンプルとした。各マイクロチューブは、抗体を添加した後に、氷中で30分間反応させた。FCM buffer 1mLを加えて遠心分離を行い、得られた沈殿に、FCM bufferを500μL加えて細胞を再懸濁した。7-AAD(Becton, Dickinson and Company社、559925)を5μL添加し、5mLセルストレーナーキャップ付きラウンドボトムポリスチレンチューブ(CORNING社、352235)に全量を移し、FACSVerse flow cytometer(Becton, Dickinson and Company社)を用いて測定を行った。データ取得にはBD FACSuiteソフトウェア(Becton, Dickinson and Company社)を用いた。
KM-555-As、KM-556-As、P-249-As、KM-568-As、KM-570-As、KM-577-Asの調製も、KM-291-Asの調製と同様の方法にて行った。KM-555-As、KM-556-Asとの結合測定においては、評価抗体サンプルとして16B11、9F6及び18C10を用いた。P-249-Asとの結合測定においては、評価抗体サンプルとして16B11及び市販抗TSPAN8抗体であるTSPAN8 Antibody,anti-human,REAfinity(130-106-855、Miltenyi社、本明細書において「REA443」)と称する)を用いた。KM-568-As、KM-570-As、KM-577-Asとの結合測定においては評価抗体サンプルとして16B11、9F6、18C10及びREA443を用いた。すべての実験において、Isotype Control Antibody, mouse IgG1(130-113-196, Miltenyi社)をisotype controlに用いた。また、細胞の染色にはIgG2a-VioBlue抗体(Miltenyi Biotec社、130-113-277)及びCD326(EpCAM)-VioBlue抗体(Miltenyi Biotec社、131-113-266)を用いた。
各がん腹膜播種細胞のフローサイトメトリーによる測定結果の解析は、BD FACSuiteソフトウェアを用いて行った。詳細には、FSC-A(lin)/SSC-A(log)にてプロットし、得られた細胞集団にゲートをかけ、再度FSC-W(lin)/FSC-A(lin)で展開し、Singlet集団のみをゲートしてサブセットを作成して解析を行った。KM-291-As細胞の測定結果の解析においては、サブセットを、PE(log)/Alexa Fluor647(log)にて展開した。KM-555-As、KM-556-As、P-249-As、KM-568-As、KM-570-As、KM-577-Asの測定結果の解析においては、VioBlue(log)/Alexa Fluor647(log)で展開したデータを用いた。各サンプルについて1×10個の細胞サブセットについてデータを取得した。取得したfcsファイルをFlowJo(Becton, Dickinson and Company社)で解析し、Alexa Fluor647におけるヒストグラムを作成した。Isotypeと各評価抗体について、陽性集団のAlexa Fluor647のMFIをそれぞれ算出し、各抗体のMFIより各Isotype MFIを引いてΔMFIを算出した(表1)。
得られたヒストグラムの例として、KM-291-Asとの結合測定における16B11及び16B12並びにKM-555-As及びKM-556-Asとの結合測定における16B11、9F6、18C10の結合を示すヒストグラムをそれぞれ図1-1から図1-3に示す。
【0192】
2.培養ヒト腹膜中皮細胞に対する結合活性の確認及び数値化
実施例1-4にて同定された10種類の抗TSPAN8抗体と培養ヒト腹膜中皮細胞の結合活性を測定した。培養ヒト腹膜中皮細胞は正常細胞である。
実施例1-3にて得た10種類の抗TSPAN8抗体及び市販抗TSPAN8抗体のPurified anti-human TSPAN8 Antibody(BioLegend社、363702 Clone TAL69、本明細書にて「TAL69」と称する)の培養ヒト腹膜中皮細胞への結合をフローサイトメトリー法により測定した。2次抗体としてPE Goat Anti-Mouse Igを使用した。得られたヒストグラムを図2-1及び図2-2に示す。また、フローサイトメトリーの結果を、FlowJoを用いて解析することにより、各細胞集団のPEについてのMFIをそれぞれ算出した。陰性コントロール抗体として、Ultra-LEAF Purified Mouse IgG1,κ Isotype Ctrl Antibody(BioLegend社、401408)、Purified NA/LE Mouse IgG2a,κ Isotype Control(Becton, Dickinson and Company社、554645)及びPurified NA/LE Mouse IgG2b,κ Isotype Control(Becton, Dickinson and Company社、559530)の3種の抗体を解析に用いた。16B11、16B12、9F6、18C10及びTAL69のΔMFI値を表1に記載する。抗体のΔMFI値は、各抗体のMFI値から陰性コントロール抗体のMFI値を引いて算出した。
【0193】
3.胃がん腹膜播種患者由来腹膜中皮細胞に対する結合活性の確認及び数値化
ヒト胃がん腹膜播種患者の腹水中から単離された腹膜中皮細胞(本明細書にて「患者由来腹膜中皮細胞」と称する。)であるKM-501-As及びKM-503-Asの取得を以下の方法で行った。
実施例1-1の細胞樹立の過程において、ディッシュ一面に敷石状に増殖した中皮細胞が見られた。この中皮細胞を0.05%トリプシン-EDTAを用いて回収し、10% FBS、×1 Antibiotic-Antimycoticを含むD-MEM(高グルコース)(富士フイルム和光純薬社、044-29765)10mLに再懸濁した。4×10個の細胞を1.5mLマイクロチューブへ分取し、遠心分離後に上清を除去し、FCM bufferを96μL加えて細胞を懸濁した。FcR Blocking Reagentを4μL加え、氷中で10分間反応させた。この反応液50μLを別の1.5mLマイクロチューブへ分注し、細胞2×10個/50μLのマイクロチューブ2本とした。1本のマイクロチューブへCD45-APC抗体(Miltenyi Biotec社、130-091-230)2μL、CD326(EpCAM)-PE(Miltenyi Biotec社、130-113-264)0.5μLを加えた。もう1本のチューブにはmouse IgG2a-APC抗体(Miltenyi Biotec社、130-091-836)2μL、mouse IgG1-PE抗体0.5μLを加えた。それぞれのマイクロチューブを氷中で30分間反応させた。FCM bufferをマイクロチューブに各1mL加え、遠心分離して上清を除去した。沈殿にFCM buffer 500μLを加えて細胞を再懸濁させ、FACSVerseを用いて解析を行った。FSC-A(lin)とSSC-A(log)により細胞集団をゲーティングし、そのサブセットをPE(log)とAPC(log)で再度展開してデータを取得した。取得したfcsファイルをFlowJoで解析した。結果、この細胞集団はCD45陰性且つEpCAM陰性の正常細胞であることが確認できた。当該患者由来腹膜中皮細胞は、腹膜播種時にがん細胞が生着、増殖するための足場となる大網や腸管膜に由来する正常細胞であると考えられる。単離した患者由来腹膜中皮細胞のKM-501-As及びKM-503-Asを以下の実験に使用した。
KM-501-As及びKM-503-Asに対する10種類の抗TSPAN8抗体及びTAL69の結合は、実施例1-5の2.に記載の培養ヒト腹膜中皮細胞に対する結合の測定と同様の方法にて実施した。KM-501-As及びKM-503-Asに対する16B11、16B12、9F6、18C10及びTAL69のヒストグラムを図3-1及び図3-2に、ΔMFI値を表1に記載する。
【0194】
4.培養ヒト臍帯血管内皮細胞に対する結合活性の確認及び数値化
培養ヒト臍帯血管内皮細胞に対する10種類の抗TSPAN8抗体及びTAL69の結合をフローサイトメトリー法により測定した。培養ヒト臍帯血管内皮細胞(PromoCell社、C-12200)はEndothelial Cell Growth Medium 2 Kit(PromoCell社、C-22111)を用いて培養した。陰性コントロール抗体として、Ultra-LEAF Purified Mouse IgG1,κ Isotype Ctrl Antibody、Purified NA/LE Mouse IgG2a,κ Isotype Control、Ultra-LEAF Purified Mouse IgG2b,κ Isotype Ctrl Antibody(BioLegend社、400348)、LEAF Purified Mouse IgG3,κ Isotype Ctrl Antibody(BioLegend社、401310)を用いた。2次抗体としてPE Goat Anti-Mouse Igを使用した。
10種類の抗TSPAN8抗体及びTAL69の結合のヒストグラムを図4に示す。16B11、16B12、9F6、18C10及びTAL69についてのΔMFI値を表1に記載する。ΔMFI値は、各抗体のMFIより陰性コントロール抗体のMFIを引いて算出した。
図1から図4のヒストグラムの結果及び表1の結果より、16B11及び16B12は、がん腹膜播種細胞に対して高い結合を示すが、正常細胞(培養ヒト腹膜中皮細胞、患者由来腹膜中皮細胞、培養ヒト臍帯血管内皮細胞)への結合は低いことが示された。一方、他の抗TSPAN8抗体である9F6、18C10及び市販抗TSPAN8抗体(TAL69又はREA443)のがん腹膜播種細胞に対しての結合は16B11及び16B12よりも低く、正常細胞に対しての結合は16B11及び16B12よりも高いことが示された。この結果から、16B11及び16B12と他の抗TSPAN8抗体(9F6、18C10、TAL69等)とは性質が大きく異なっていることが明らかとなった。
【表1】
【0195】
[実施例2:16B11及び16B12の配列決定]
常法に従い、16B11及び16B12の重鎖及び軽鎖をコ一ドする遺伝子をクロ一ニングし、抗体の配列決定を行った。ベロシミュ一ン技術は、内因性の免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の可変領域が対応するヒ卜可変領域で置換されたトランスジェニックマウスを用いて抗体を作製する技術である。よって、ベロシミュ一ン技術を用いて得られた抗体は、ヒ卜抗体の可変領域とマウス抗体の定常領域を有する抗体(本明細書において「キメラ抗体」とも称する)である。得られた16B11の重鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号34に、該抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号36にそれぞれ示す。得られた16B12の重鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号35に、該抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号37にそれぞれ示す。
【0196】
[実施例3:完全ヒ卜抗TSPAN8抗体の作製]
[実施例3-1:完全ヒ卜抗TSPAN8抗体作製に用いる発現ベクターの作製]
16B11及び16B12の完全ヒト抗体を、実施例2にて同定したヒト可変領域のアミノ酸配列とヒト定常領域のアミノ酸配列とを連結して作製した。
16B11及び16B12の重鎖可変領域のN末に配列番号38に記載のシグナル配列をコードするアミノ酸配列を、C末にヒ卜IgG1定常領域のアミノ酸配列(配列番号4又は10のアミノ酸番号122から451までの配列)をそれぞれ連結したポリペプチドを設計した。さらに、当該ポリペプチドの重鎖可変領域の16から19番目のアミノ酸配列からなるフーリン切断配列(J.Biol.Chem.、1992、Vol.267、p.16396-16402)の16番目のアルギニン(R)をグリシン(G)に置換する変異を導入した。設計したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをpcDNA3.4 TOPO(登録商標)ベクター(Thermo Fisher Scientific社)に導入した。作製した重鎖ベクターをそれぞれpcDNA3.4-16B11.1_HC及びpcDNA3.4-16B12.1_HCと称する。
また、16B11の軽鎖可変領域のN末に配列番号39に記載のシグナル配列をコードするアミノ酸配列を、16B12の軽鎖可変領域のN末に配列番号40に記載のシグナル配列をコードするアミノ酸配列をそれぞれ連結し、両抗体のC末側にヒ卜κ鎖の定常領域アミノ酸配列(配列番号8又は12のアミノ酸番号108から213までの配列)をそれぞれ連結したポリペプチドを設計した。設計したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをpcDNA3.4 TOPO(登録商標)ベクターに導入した。作製した軽鎖ベクターをそれぞれpcDNA3.4-16B11_LC及びpcDNA3.4-16B12_LCと称する。
【0197】
[実施例3-2:完全ヒ卜抗TSPAN8抗体の作製]
pcDNA3.4-16B11.1_HC及びpcDNA3.4-16B11_LCを用いて16B11.1抗体の作製を行った。
詳細には、ExpiCHOExpression Medium(Thermo Fisher Scientific社、A2910001)でおよそ6.0×10個/mLの濃度に達するまで培養されたExpiCHO-S細胞(Thermo Fisher Scientific社、A29127)に対し、pcDNA3.4-16B11.1_HC及びpcDNA3.4-16B11_LCを遺伝子導入試薬ExpiFectamineCHO Transfection Kit(Thermo Fisher Scientific社、A29129)を用いてでトランスフェクションし、12日間培養した。培養上清を、MabSelectSuReを用いて精製し、完全ヒ卜抗体の精製抗体を得た。得られた抗体を16B11.1と称する。16B11.1の重鎖の塩基配列を配列番号3に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号4に、該抗体の軽鎖の塩基配列を配列番号7に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号8にそれぞれ示す。
16B12.1は、pcDNA3.4-16B12.1_HC及びpcDNA3.4-16B12_LCを用いて上記と同様の方法により作製することができる。16B12.1の重鎖の塩基配列を配列番号9に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号10に、該抗体の軽鎖の塩基配列を配列番号11に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号12にそれぞれ示す。
【0198】
[実施例4:抗体の結合する抗原側のエピトープ部位の同定]
[実施例4-1:水素-重水素交換質量分析法によるエピトープマッピング]
16B11.1のエピトープを同定するために、水素-重水素交換質量分析(HDX-MS)を実施した。結果、配列番号2のアミノ酸番号126~155に相当するヒトTSPAN8領域が16B11.1の存在下で重水素交換度が減少する領域として検出された。この結果から、配列番号2のアミノ酸番号126~155に相当するヒトTSPAN8領域が16B11.1のエピトープであると推定された。
【0199】
[実施例4-2:ヒトTSPAN8変異導入による重要エピトープの絞り込み]
実施例4-1で推定された領域が16B11.1のエピトープであるかどうかを確認するために、当該領域をマウス又はラットのTSPAN8の相同する領域と入れ替えたキメラタンパク質を作製して結合を評価した。ヒトTSPAN8のアミノ酸番号126~155に相当するマウスTSPAN8のアミノ酸番号126~155を配列番号41に、ラットTSPAN8のアミノ酸番号126~155を配列番号42に示す。
TSPAN8とGFPの融合タンパク質を発現する細胞を作製するために、実施例1-4で用いたTSPAN8(Myc-DDK-tagged)-Human tetraspanin 8(TSPAN8)(ORIGENE社、RC202694)から制限酵素を用いヒトTSPAN8配列を切り出した。切り出したヒトTSPAN8配列pCMV6-AC-GFPベクター(ORIGENE社、PS100010)にサブクローニングした(以下、「ヒトTSPAN8-GFP発現ベクター」)。更に、In-Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(タカラバイオ社、639633)を用いて、配列番号2に記載のヒトTSPAN8-GFP発現ベクターのアミノ酸番号126~155に相当する配列をマウス又はラットTSPAN8のアミノ酸番号126~155の配列に置換したベクターを作製した。作製したベクターをCHO-K1細胞にそれぞれ導入し、ヒトTSPAN8-GFPタンパク、ヒトマウスTSPAN8-GFPキメラタンパク又はヒトラットTSPAN8-GFPキメラタンパクを一過性に発現する細胞を作製した。作製した細胞をそれぞれ野生型ヒトTSPAN8発現CHO-K1細胞、ヒトマウスTSPAN8キメラタンパク発現CHO-K1細胞又はヒトラットTSPAN8キメラタンパク発現CHO-K1細胞と称する。またpCMV6-AC-GFPベクターをCHO-K1細胞に導入した細胞(モック細胞と称する)を作製した。これらの細胞中のGFP陽性細胞に対する16B11、16B12及びTAL69の結合をフローサイトメトリー法により測定した。TAL69はヒトラット、ヒトマウスTSPAN8キメラタンパク発現CHO-K1細胞のいずれに対しても結合の低下は認められなかった。16B11及び16B12は、ヒトラットTSPAN8キメラタンパク発現CHO-K1細胞に対しては野生型ヒトTSPAN8発現CHO-K1細胞と同等の結合を示した。一方で、ヒトマウスTSPAN8キメラタンパク発現CHO-K1細胞に対しては野生型ヒトTSPAN8発現CHO-K1細胞と比べて結合の減弱が認められた(図5-1)。
ヒトマウスTSPAN8キメラタンパク発現CHO-K1細胞に対する結合活性の減弱に寄与するアミノ酸配列を特定するために、ヒト、マウス、ラット及びカニクイザルのTSPAN8タンパク質について、ヒトTSPAN8のアミノ酸配列の126~155に相当する配列の比較を行った(図5-2)。マウス、ラット及びカニクイザルTSPAN8のアミノ酸配列の126~155に相当する配列をそれぞれ配列番号41、42及び43に示す。結果、マウスのTSPAN8タンパク質のみでアミノ酸配列が異なるのは131番目のアミノ酸だけであった。この情報により、配列番号2に記載のヒトTSPAN8タンパク質の131番目のトレオニン(T)が16B11又は16B12との結合に重要であることが推察された。
さらに、ヒトTSPAN8の131番目のアミノ酸が16B11又は16B12の結合に寄与しているかどうかを確かめるために、当該アミノ酸の置換体を作製した。具体的には、配列番号2のヒトTSPAN8-GFPにおけるヒトTSPAN8のアミノ酸配列の131番目のトレオニン(T)をアラニン(A)又はアスパラギン(N)に置換したヒトTSPAN8-GFP融合タンパク質(それぞれ、「ヒトTSPAN8(T131A)-GFP」又は「ヒトTSPAN8(T131N)-GFP」と称する)をコードする塩基配列を含むベクターを作製し、CHO-K1細胞にそれらベクターを遺伝子導入し、ヒトTSPAN8(T131A)-GFP、ヒトTSPAN8(T131N)-GFPを一過性に発現させた細胞を構築した。構築した細胞をヒトTSPAN8(T131A)発現CHO-K1細胞又はヒトTSPAN8(T131N)細胞と称する。これらの細胞中のGFP陽性細胞に対する16B11、16B12及びTAL69の結合をフローサイトメトリー法により測定した(図5-3)。結果、ヒトTSPAN8(T131A)発現CHO-K1細胞及びヒトTSPAN8(T131N)発現CHO-K1細胞に対する16B11及び16B12の結合は、野生型ヒトTSPAN8発現CHO-K1細胞に対する結合に比べて減弱していた。一方で、TAL69はいずれの細胞に対しても同等の結合活性を示した。結果、エピトープと同定された配列番号2のアミノ酸番号126~155に対応するヒトTSPAN8の領域において、131番目のトレオニンが16B11及び16B12との結合に必須なアミノ酸であることが分かった。
各TSPAN8発現細胞への結合のMFIからモック細胞への結合のMFIを引いて算出したΔMFIの値を表2-1に記載する。また、表2-1の野生型ヒトTSPAN8発現CHO-K1細胞への結合のΔMFIを100とした時のヒトマウスTSPAN8キメラタンパク発現CHO-K1細胞、ヒトラットTSPAN8キメラタンパク発現CHO-K1細胞及びヒトTSPAN8(T131A又はT131N)発現CHO-K1細胞への結合のΔMFI相対値を表2-2に示す。
【表2-1】
【表2-2】
【0200】
[実施例4-3:結合競合実験]
16B11又は16B12と他の抗TSPAN8抗体(9F6、18C10又はTAL69)がTSPAN8との結合において競合するかどうかを調べた。
16B11と他の抗TSPAN8抗体(9F6、18C10又はTAL69)との競合を調べるために、NSC-15CF細胞への16B11の結合量の変化をフローサイトメトリー法により測定した(実験1;図6-1)。具体的には、2×105個のNSC-15CFに、終濃度1μg/mLのAlexa Fluor647標識16B11と他の抗TSPAN8抗体(16B11、9F6、18C10又はTAL69のうちの1抗体)を終濃度100μg/mLとなるように添加し、NSC-15CFへの16B11の結合量をフローサイトメーターにて測定した。陰性コントロール抗体として、Ultra-LEAF Purified Mouse IgG1,κ Isotype Ctrl Antibody、Ultra-LEAF Purified Mouse IgG2a,κ Isotype Ctrl Antibody(BioLegend社、400264)、Ultra-LEAF Purified Mouse IgG2b,κ Isotype Ctrl Antibodyを用いた。結果、16B11の結合は自身の16B11を添加した場合にのみ減弱した。
16B12と他の抗TSPAN8抗体(16B11、9F6、18C10又はTAL69)との競合を調べるために、NSC-15CFへの16B12による16B11、9F6又は18C10の結合量の変化をフローサイトメトリー法により測定した(実験2;図6-2)。具体的には、1×105個のNSC-15CFに、終濃度0.25μg/mLのAlexa Fluor647標識16B11、9F6又は18C10と終濃度100μg/mLの16B12を添加し、NSC-15CFへの16B11、9F6又は18C10の結合量をフローサイトメーターにて測定した。陰性コントロール抗体として、LEAF Purified Mouse IgG3,κ Isotype Ctrl Antibodyを用いた。結果、16B12により16B11の結合が減弱した。その他の抗体の結合には影響しなかった。同様にAlexa Fluor647標識16B12と他の抗TSPAN8抗体(16B11、16B12、9F6、18C10又はTAL69)を用いた競合実験を実施した(実験3;図6-3)。陰性コントロール抗体として、LEAF Purified Mouse IgG3,κ Isotype Ctrl Antibody、Ultra-LEAF Purified Mouse IgG2a,κ Isotype Ctrl Antibody、Ultra-LEAF Purified Mouse IgG2b,κ Isotype Ctrl Antibody及びUltra-LEAF Purified Mouse IgG1,κ Isotype Ctrl Antibodyを用いた。結果、16B12の結合は16B11及び16B12自身を添加した場合にのみ減弱した。16B11及び16B12の結合は互いに競合することから、16B11と16B12は近似のエピトープを認識すると推察された。各標識抗体結合のMFIから未染色細胞のMFIを引いて算出した値においてIsotype Controlを競合抗体として添加した時の値を100とした時の競合抗体添加時の相対値を表3に示す。
【表3】
【0201】
[実施例5:60As6-Luc/GFP細胞の作製]
胃がん患者腹水由来株化細胞である60As6細胞にluciferaseタンパク質及び緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現させた60As6-Luc/GFP細胞を、以下の方法で作製した。
[実施例5-1:Luc/GFPを含むウイルス溶液の作製]
L293T細胞(Thermo Fisher Scientific社、K4975-00)を用い、常法に従ってレンチウイルスの作製を行った。
レンチウイルスの作製には、MISSION(登録商標)Lentiviral Packaging Mix(SIGMA社、SHP001)及びpCDH-CMV-GL3-EF1a-GFP-T2A-puro改変ベクター(広島大学 医系科学研究科 細胞分子生物学研究室 高橋陵宇准教授より寄贈(PLoS One、2015、Vol.10、e0123407、Front Biosci.、2008、Vol.13、p.1619-1633))を用いた。ウイルスを含む細胞の培養上清から、45μm Millex(登録商標)-HVフィルター(Merck Millipore社、SLHV033RS)を用いてウイルスをろ過したものをウイルス溶液とし、-80℃で凍結保存した。
[実施例5-2:60As6細胞へのウイルスの感染]
60As6細胞(国立がん研究センター 柳原 五吉 先生より寄贈)へのウイルスの感染は、常法に従って行った。培地には、10%FBSを含むRPMI-1640を使用した。感染3日後に60As6細胞プレートより培養液を除去し、10%FBS、2μg/mL Puromaycin(Thermo Fisher Scientific社、A-11138-02)含むRPMI-1640(selection培地)へ置換し、培養を継続した。その後、selection培地での培養及び継代を繰り返すことにより未感染の細胞を除去し、ウイルスが完全に除去されたことを確認した。樹立した細胞を60As6-Luc/GFP細胞と称する。この細胞は、luciferase及びGFPを発現していた。さらに、60As6-Luc/GFP細胞は内因性にTSPAN8が高発現していることをフローサイトメトリー法により確認した。
【0202】
[実施例6:完全ヒト抗体である16B11.1のADCC活性評価]
完全ヒト抗体抗TSPAN8抗体の16B11.1によって誘導されるADCC活性を測定した。ADCC活性は、エフェクター細胞が標的細胞を傷害する作用を評価することで測定が可能である。本実施例では、エフェクター細胞であるNK細胞と標的細胞である60As6-Luc/GFP細胞の共培養下において、16B11.1によりNK細胞が活性化され、その結果として60As6-Luc/GFP細胞がADCC活性により傷害される細胞傷害活性を、Luciferaseを指標に測定した。
NK細胞は、凍結ヒトPBMC(ePBMC(登録商標),Characterized Cryopreserved Human PBMC、Cellular Technology Limited社、CTL-CP1)からNK細胞単離キット(NK Cell Isolation Kit、human、Miltenyi Biotec社、130-092-657)を用いて単離し、NK細胞用培地(NK MACS Medium、Miltenyi Biotec社、130-114-429)にて培養したものを使用した。
丸底96ウェルプレート(Sumitomo Bakelite社、MS-9096U)に5% FBS(Hyclone社、SH30084.03)含有RPMI-1640(SIGMA社、R8758-500mL)培地に懸濁した60As6-Luc/GFP細胞を5×10個/25μL/well、NK細胞を5×10個/50μL/wellずつ播種した。さらに、16B11.1又は陰性コントロール抗体としての自社製の抗KLH抗体(3G6)を終濃度1、10、100、1000、10000ng/mLとなるように希釈した溶液を25μL/well添加し、24時間後のLuciferaseの発光量をルシフェラーゼ定量化キット(ONE-GloLuciferase Assay System、Promega社、E6120)を用いて測定した。Luciferaseの発光量は60As6-Luc/GFP細胞の生存量を示すため、Luciferaseの発光量の減少によりADCC活性による細胞傷害活性を測定することができる。
図7の縦軸は培地のみを測定した場合のLuciferaseの発光量を100%とし、抗体無添加時の60As6-Luc/GFP細胞中のLuciferaseの発光量を0%とした場合の各サンプルのLuciferaseの発光量の相対値を表す。横軸は各ウェルに添加した抗体の濃度を示す。図7に示した通り、16B11.1を添加した場合のみADCC活性により標的細胞が傷害された。
【0203】
[実施例7:抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体の作製]
[実施例7-1:抗TSPAN8抗体の二重特異性抗体ベクター作製]
16B11.1の重鎖のアミノ酸番号238及び239(EUインデックス:234及び235)のアミノ酸をそれぞれロイシン(L)からアラニン(A)に置換したLALA変異(L234A及びL235A)、アミノ酸番号370、372及び411(EUインデックス:366、368及び407)のアミノ酸をそれぞれトレオニン(T)からセリン(S)、LからA、チロシン(Y)からバリン(V)に置換するノブズ・イントゥー・ホールズ(Knobs into holes)変異、並びに、アミノ酸番号301(EUインデックス:297)のアミノ酸をアスパラギン(N)からグリシン(G)に置換する変異を導入した。設計した16B11.1の重鎖アミノ酸配列を配列番号6に示す。作製したベクターをpcDNA3.4-16B11.1_HC_Hと称する。
【0204】
[実施例7-2:抗ヒトCD3抗体の二重特異性抗体ベクター作製]
ヒト化抗CD3抗体の配列設計は、日本特許第5686953号に記載のマウス抗CD3抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列をもとに、文献(Front Biosci.、2008、Vol.13、p.1619-1633)記載の方法に準じて行った。この際に、バックミューテーションを導入した。立体構造情報(PDB Code:5FCS)をMOLSIS Inc.社が提供する統合計算化学システムMOEで解析して、フレームワーク領域内のバックミューテーション導入位置を決定した。ヒト化抗CD3抗体は、重鎖可変領域(配列番号14 アミノ酸番号1から125)、リンカー(配列番号14 アミノ酸番号126から145)、軽鎖可変領域(配列番号14 アミノ酸番号146から254)、ヒンジ(配列番号14 アミノ酸番号255から269)、CH2ドメイン(配列番号14 アミノ酸番号270から379)及び、CH3ドメイン(配列番号14 アミノ酸番号380から486)の順に配置されるように設計した。さらに、配列番号14には(1)アミノ酸番号44とアミノ酸番号247に該当するアミノ酸をシステイン(C)に置換、(2)アミノ酸番号259(EUインデックス:220)のアミノ酸をCからSに置換、(3)アミノ酸番号273及び274(EUインデックス:234及び235)のアミノ酸をLからAに置換するLALA変異、(4)アミノ酸番号405(EUインデックス:366)のアミノ酸をTからトリプトファン(W)に置換するKnobs into holes変異、(5)アミノ酸番号336(EUインデックス:297)のアミノ酸をNからGに置換する変異が導入されている。これらの変異を導入するため、それぞれの変異点を含むアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを合成し、pcDNA3.1(+)ベクター(Thermo Fisher scientific社 、V79020)に挿入した。作製したベクターをpcDNA3.1-m7_scFV_Kと称する。作製したヒト化抗CD3抗体の塩基配列を配列番号13に、アミノ酸配列を配列番号14に示す。
【0205】
[実施例7-3:抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体の作製]
抗TSPAN8抗体のFab領域と、抗CD3抗体のscFv領域と、Fc領域により構成される二重特異性抗体を作製するために、pcDNA3.4-16B11.1_HC_H、pcDNA3.4-16B11_LC、pcDNA3.1-m7_scFV_Kを実施例3の方法と同様にExpiCHO-S(登録商標)細胞にトランスフェクションした。培養上清をMabSelect SuReを用いて精製し、更にゲル濾過カラムHiLoad26/600 Superdex(登録商標) 200pg(GE ヘルスケア社、28-9893-36)を用いて精製することにより、純度95%以上の精製抗体を得た。得られた抗体を抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体と称する。
【0206】
[実施例8:抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体の結合活性評価]
抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体のTSPAN8とCD3に対する結合活性を、TSPAN8のLELタンパク又はCD3εδ複合タンパクを用いたELISA法によりそれぞれ評価した。
詳細には、PBSで希釈したTSPAN8 Protein,Human,Recombinant(SinoBiological社、15683-H07H)又はHuman CellExp CD3 epsilon & CD3 delta Heterodimer, Human Recombinant(BioVision社、P1183-10)1μg/mLを384-Well White Plates, MaxiSorp(Nunc社、460372)に30μL/well添加した。4℃にて終夜静置した後に上清を除去し、Blocking One(Nacalai Tesque社、03953-95)を120μL/well添加した。室温に1時間静置した後に、上清を除去し、TBST buffer(Thermo Fisher scientific社、28360)で2回洗浄後、10% Blocking One含有TBSTで希釈した抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体を30μL/wellずつ添加し、室温にて1時間静置した。抗体溶液を除去し、TBST bufferで2回洗浄後、10% Blocking One含有TBSTで5000倍希釈したGoat Anti-Human Kappa, Mouse ads-HRP(SouthernBiotech社、2061-05)を30μL/well添加し、室温にて30分間静置した。抗体溶液を除去し、TBST bufferで4回洗浄後、BM Chemiluminescence ELISA Substrate(POD)(Roche社、11582950001)を30μL/well添加した。室温にて15分反応させた後に、ARVO X3(Perkin Elmer社)にて化学発光を測定した。結果、TSPAN8及びCD3に対するEC50値はそれぞれ1.0μg/mL(8.1nM)、4.6μg/mL(36nM)と算出された(図8)。
【0207】
[実施例9:抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体のRTCC活性評価]
RPMI-1640(Thermo Fisher Scientific社、11875-119)500mLにFBS 50mL、MEM Non-essential Amino Acid(Merck社、M7145)5mL、Sodium pyruvate(Merck社、S8636)5mL、GlutaMAX I(Thermo Fisher Scientific社、35050-061)5mL、ペニシリンストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific社、15070-063)5mL、HEPES(Thermo Fisher Scientific社、15630-080)5mLを加えたものを培養培地として用いた(以下、本実施例で「培養培地」と称する)。実施例4にて作製した60As6-Luc/GFP細胞を培養培地で2×10個/mLに調製した細胞懸濁液を平底96ウェルプレート(IWAKI社、3860-096)に50μLずつ播種し、37℃、5% COインキュベーターにて培養した。3時間後、培養培地にて1×10個/mLに調製した凍結ヒト末梢血単核細胞(LP.CR.MNC 10M;AllCells LLC社、4W-270)を、培養中の96ウェルプレートに100μLずつ播種した。終濃度0、3、10、30、100、300、1000、3000、10000 ng/mLになるように調製した抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体を50μLずつ添加し、37℃、5% CO培養下、IncuCyte(登録商標) ZOOM(ザルトリウス社)にて各ウェルの蛍光(GFP)面積を3日後に測定した。蛍光面積を細胞増殖の指標とし、図9に細胞増殖曲線を示した。図9の縦軸は、培地のみのウェルの蛍光面積を0%とし、抗体溶液未添加のウェルの蛍光面積を100%とした場合の60As6-Luc/GFP細胞の蛍光面積の相対値を示す。結果、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体はTSPAN8発現胃がん細胞である60As6-Luc/GFP細胞に対し、in vitroにおいて細胞増殖抑制作用を示した。
【0208】
[実施例10:抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体の患者腹水細胞を用いた薬効評価]
患者腹水細胞に含まれるがん細胞及び免疫細胞に抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体が結合すると、免疫細胞が活性化され、がん細胞が傷害される。抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体によるがん細胞傷害作用及び免疫細胞活性化作用を以下の方法で評価した。
患者腹水細胞は実施例1-1と同様に患者腹水を溶血処理まで実施した後、凍結保存された細胞を用いた。融解した細胞を実施例9と同様の培養培地で2×10個/mLとなるように調製し、その細胞溶液を平底96ウェルプレートに100μL/wellずつ播種した。被験抗体として抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体及び対照抗体(16B11.1のFabを抗KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)抗体のFabに置き換えた抗KLH抗体と抗CD3抗体のバイスペシフィック抗体)を使用した。被験抗体は、10μg/mLから10倍公比で0.1ng/mLまで希釈した。被験抗体を、細胞を播種した96ウェルプレートに添加した後に、37℃、5% COインキュベーターにて培養した。培養には、培養培地を使用した。3日後に細胞を回収し、V底マイクロプレートに撒種した。回収時にプレートに接着していた細胞はAccutase(Innovative Cell Technologies社、AT-104)で剥離した後、V底マイクロプレートに添加した。720×g 2分遠心分離した後に上清を除去し、staining buffer(10% FBS含有PBS 0.09% NaN 2mM EDTA)に40分の1量のHuman BD Fc Block(Becton, Dickinson and Company社、564220)を加えた液体を20μL/wellで添加した。それぞれのウェルに対しstaining bufferで希釈したFITC Mouse Anti-Human CD4(Becton, Dickinson and Company社、 550628)、APC-H7 Mouse anti-Human CD8(Becton, Dickinson and Company社、560179)、APC Mouse Anti-Human CD45(Becton, Dickinson and Company社、555485)、PE Mouse Anti-Human CD25(Becton, Dickinson and Company社、555432)、Brilliant Violet 421 anti-human CD326 (EpCAM) Antibody(BioLegend社、324220)を10μL/wellずつ加え、4℃で50分静置した。細胞をstaining bufferで1回洗浄した後、1/200量の7-AAD solutionを含むstaining bufferに再懸濁し、CytoFLEX S(Beckman Coulter社)を用いてフローサイトメトリー法により各種抗体の腹水細胞への結合を測定した。デ一タ解析はFlowJoで行った。生細胞の指標である7-AAD陰性細胞画分について、免疫細胞の指標であるCD45及びがん細胞の指標であるEpCAMで展開した。CD45陰性EpCAM陽性がん細胞はFsc(lin)とSsc(lin)に展開し、断片化した分画を除いた細胞をがん細胞の生細胞数とした。さらに、CD45陽性画分のCD4又はCD8陽性細胞における活性化マーカーのCD25の発現を測定し、anti-CD25-PE蛍光強度のMFIを算出した。図10-1には、がん細胞の生細胞数の変化を示す。縦軸は、抗体溶液未添加時のがん細胞の細胞数を100%とした時の細胞数の相対値を示す。図10-2及び10-3には、被験抗体によるCD4陽性T細胞及びCD8陽性T細胞上のCD25発現量の変化を示す。縦軸は、anti-CD25-PE蛍光強度のMFIの相対値を算出した値を示す。
結果、図10-1に示すように抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体添加により腹水中がん細胞の生細胞数の減少が認められ、図10-2、図10-3に示すように腹水中CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の活性化が観察された。この結果から、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体は腹水中CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞を活性化し腹水中がん細胞を殺傷させることが示唆された。
【0209】
[実施例11:抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体のin vivo抗腫瘍評価]
抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体によるin vivo抗腫瘍作用を、胃がん腹膜播種モデルを用いて評価した。
[実施例11-1:Expanded panT細胞の作製]
PBSで3μg/mLに溶解した抗CD3抗体(BioLegend社、317315)を24ウェルプレート(IWAKI社、3820-024)に250μLずつ添加し、4℃にて静置した。翌日、プレートを培養培地で2度洗浄した後に培養培地を添加し、後述の細胞播種まで室温で静置した。HPBMC,human peripheral blood mononuclear cells,Cryopreserved(LONZA社、CC-2702)からpanT細胞(CD4T細胞及びCD8T細胞の両方を含む)を単離した。単離にはPanT Cell Isolation Kit,human(Miltenyi Biotec社、130-096-535)を用い、添付のプロトコルに基づいて実験を行った。前述の24ウェルプレートから培養培地を除き、プレートに培養培地にて3×10個/mLに調製したpanT細胞を500μLずつ播種した。さらに20ng/mLのヒトIL-2(PeproTech社、200-2)及び2μg/mLの抗CD28抗体(BioLegend社、302923)を含む培養培地を500μLずつ添加し、37℃、5% COインキュベーターにて培養を行った。細胞を、新たなプレート(IWAKI社、3810-006)に培養開始3日後、5日後及び7日後に継代し、終濃度10ng/mLになるようにIL-2を添加した。培養開始7日後と10日後の細胞を回収し、実施例10-2において使用した。ここで単離、増殖させた細胞をExpanded panT細胞と称する。
【0210】
[実施例11-2:胃がん腹膜播種モデルにおける薬効確認]
各群7例の7週齢C.B17/Icr-scid/scidJcl雌マウス(日本クレア社)の腹腔内に1×10個/1mL/PBSの60As6-Luc/GFP細胞を移植した。移植6日後に60As6-Luc/GFP細胞に導入されているLuciferaseによる基質Luciferinの発光量を指標とし、各群が均等になるように群分けを行った。Luciferinの発光量は腫瘍体積を示す指標として用いた。
詳細には、各個体に3mg Luciferin(VivoGlo Luciferin,In Vivo Grade、Promega社、P1043)を0.5mLのPBSに溶解した溶液を腹腔内に投与し、投与10分後に発光量をIVIS Lumina II(perkinelmer社)にて測定した。次に60As6-Luc/GFP細胞移植7日後及び10日後に1×10個のexpanded panT細胞を0.5mLのPBSに懸濁した液及び0、0.3、1.0、3.0mg/kg 抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体を0.2mLのPBSに懸濁した液を腹腔内投与した。胃がん細胞移植14日後に、Luciferinの発光量を測定し、腫瘍体積の増減を評価した。また、同腹膜播種モデルマウスの生存を60As6-Luc/GFP細胞移植34日後まで観察した。図11-1に示す通り、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体投与群において、有意な腫瘍体積縮小作用が示され、図11-2に示す通り、1.0及び3.0mg/kg投与群においては、有意な生存期間延長効果が認められた。表4に生存中央値及び検定結果を示す。表中の有意確率P値は、ログランク検定により対照群(溶媒投与群)の生存期間と抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体投与群の生存期間を比較することにより求めた。**は、P値がボンフェローニの方法にて補正した有意水準0.01/3より小さい群を示す。
【表4】
【0211】
[実施例12:抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体の各癌腫細胞株に対する作用]
[実施例12-1:抗TSPAN8抗体の各癌腫細胞株に対する結合活性の確認]
胃がん細胞株(KATOIII細胞:Japanese Collection of Research Bioresources(JCRB)、JCRB0611、NUGC-4細胞:RIKEN BioResource Research Center(BRC)、RCB1939、60As6-Luc/GFP細胞)、結腸がん細胞株(HT-29細胞:ATCC、HTB-38、LoVo細胞:ATCC、CCL-229、GP2d細胞:The European Collection of Authenticated Cell Cultures(ECACC)、95090714)、膵臓がん細胞株(AsPC-1細胞:ATCC、CRL-1682)、食道がん細胞株(OE19細胞:ECACC、96071721)、肝臓がん細胞株(Li-7細胞:RIKEN BRC、RCB1941)に対するAlexa Fluor647標識16B11の結合をフローサイトメトリー法により測定した。陰性コントロール抗体として、自社製の抗KLH抗体(173A1)をAlexa Fluor647標識して用いた。各癌腫細胞株における16B11と陰性コントロール抗体の結合のヒストグラムを図12に示す。
【0212】
[実施例12-2:抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体の各癌腫細胞株に対するRTCC活性評価]
KATOIII細胞、NUGC-4細胞、HT-29細胞、LoVo細胞、GP2d細胞、AsPC-1細胞、OE19細胞、Li-7細胞を培養培地にて2×10個/mLに調製し、平底96ウェルプレート(IWAKI社、3860-096)に50μLずつ播種し、37℃、5% COインキュベーターにて培養した。培養培地にて1×10個/mLに調製した凍結ヒト末梢血単核細胞(LONZA社、CC-2702)を、培養中の96ウェルプレートに100μLずつ播種した。抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体を、40μg/mL又は20μg/mLを最高濃度とし、2倍公比となるように培養培地で希釈した。希釈した抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体を50μL添加した(最高終濃度は10μg/mL又は5μg/mL)。がん細胞株、凍結ヒト末梢血単核細胞及び抗体を添加した96ウェルプレートを37℃、5% COインキュベーターにて培養した。3日後に細胞を回収し、V底マイクロプレートに撒種した。回収時に培養プレートに接着していた細胞はAccutase(Innovative Cell Technologies社、AT104)で剥離した後、V底マイクロプレートに添加した。720×gにて2分間遠心分離した後に上清を除去し、staining bufferに40分の1量のHuman BD Fc Blockを加えた液体を20μL/well添加した。それぞれのウェルに対しstaining bufferで希釈したAPC Mouse Anti-Human CD4(Becton, Dickinson and Company社、 555349)、APC-H7 Mouse anti-Human CD8、Brilliant Violet 421 Mouse Anti-Human CD45(Becton, Dickinson and Company社、563879)、PE Mouse Anti-Human CD25を10μL/wellずつ加え、4℃で1時間静置した。staining bufferで1回洗浄した後、1/200量の7-AAD solutionを加えた。staining bufferに再懸濁し、CytoFLEX Sを用いてフローサイトメトリー法により各種抗体の結合を測定した。デ一タ解析はFlowJoで行った。生細胞の指標の7-AAD陰性細胞画分中のCD45陰性細胞数をがん細胞の生細胞数とした。抗体溶液未添加を100%とした。さらにCD45陽性画分のCD4又はCD8陽性細胞について活性化マーカーのCD25の発現をanti-CD25-PE蛍光強度のMFIを、抗体溶液未添加を1とした場合の倍率変化としてそれぞれ算出した。結果、図13-1に示すように抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体添加によりTSPAN8発現がん細胞の生細胞数の減少が見られた。さらに、図13-2及び図13-3に示すように、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の活性化がそれぞれ観察された。
【0213】
[実施例12-3:ヒトPBMC移入HT-29細胞皮下担癌モデルにおける薬効確認]
正常ヒトPBMC(Precision for Medicine、33000-10M)を1.25×10個/mLとなるようにPBSに懸濁し、6週齢NOD/Shi-scid,IL-2RγKO(NOG)雌マウス(インビボサイエンス)に2.5×10個/200μLの細胞をマウス尾静脈内に注射した。ヒトPBMC移入の10日後、HT-29細胞を5×10個/mLとなるようにPBSに懸濁し、5×10個/100μLでマウスの皮下に担癌した。HT-29細胞の担癌から10日後にノギスを使って腫瘍体積を測定し、各群均等になるように群分けを行った(n=10)。抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体の投与を同日から開始した。投与初日を0日目と定義した。0、4、7日目にマウスにPBS又は0.3、1、3、10mg/kgの抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体を静脈内投与した。0、4、7、及び11日目に腫瘍体積を測定した(図14-1)。腫瘍体積[mm]は次式で計算した。
(腫瘍長軸の長さ[mm])×(腫瘍短軸の長さ[mm])×0.5
図14-2に示す通り、抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体は、HT-29腫瘍の増殖を0.3、1、3、及び10 mg/kgで有意に抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0214】
本発明の抗TSPAN8抗体及び抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体等の抗TSPAN8抗体の融合体は、がんの治療に有用であると期待される。また、本発明のポリヌクレオチド、発現ベクター、形質転換された宿主細胞、及び抗体を生産する方法は、前記抗TSPAN8抗体及びその融合体を生産するのに有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0215】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列番号2はヒトTSPAN8-Myc-DDKのアミノ酸配列を示し、配列番号1に示される塩基配列は、配列番号2に示されるヒトTSPAN8のアミノ酸配列をコードする塩基配列である。配列番号4、6、又は10は抗TSPAN8抗体の重鎖のアミノ酸配列であり、配列番号3、5、又は9に示される塩基配列は、配列番号4、6、又は10に示される抗TSPAN8抗体の重鎖のアミノ酸配列をコードする塩基配列である。配列番号8又は12の配列は抗TSPAN8抗体の軽鎖のアミノ酸配列であり、配列番号7又は11で示される塩基配列は、配列番号8又は12に示される抗TSPAN8抗体の軽鎖アミノ酸配列をコードする塩基配列である。配列番号14は抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドのアミノ酸配列であり、配列番号13に示される塩基配列は、配列番号14に示される抗CD3-scFv領域と第二Fcポリペプチドが連結されたポリペプチドのアミノ酸配列をコードする塩基配列である。配列番号15~23は発明の詳細な説明にて記載した各種リンカーのアミノ酸配列である。配列番号24~37は16B11及び16B12のCDR及び可変領域のアミノ酸配列である。配列番号38~40はシグナル配列のアミノ酸配列である。配列番号41~43はそれぞれマウス、ラット又はカニクイザルのTSPAN8のアミノ酸番号126~155の領域のアミノ酸配列である。
【要約】
本発明の課題は、ヒトの治療又は予防に用いることができる抗TSPAN8-抗CD3二重特異性抗体及び抗TSPAN8抗体を提供することである。
患者から単離したがん腹膜播種細胞をヒトモノクローナル抗体産生マウスに免疫し、がん腹膜播種細胞に選択的な結合を示した16B11抗体及び16B12抗体を取得した。これらの抗体は、TSPAN8のアミノ酸番号126~155の領域に結合する抗TSPAN8抗体であり、がん腹膜播種細胞に発現するTSPAN8に対して強い結合活性を示した。
さらに、16B11の配列に基づき作製した抗TSPAN8(16B11)-抗CD3二重特異性抗体は、in vitroにおいてTSPAN8発現がん細胞に対する細胞傷害活性を示し、in vivoにおいてTSPAN8発現がん細胞担癌マウスに対する抗腫瘍作用及び腹膜播種モデルマウスの生存期間を延長した。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11-1】
図11-2】
図12
図13-1】
図13-2】
図13-3】
図14-1】
図14-2】
【配列表】
0007078237000001.app