(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】アプセット溶接装置およびアプセット溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/02 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
B23K11/02 310
(21)【出願番号】P 2018146660
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】508283875
【氏名又は名称】株式会社恵信工業
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】林 義信
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-009278(JP,U)
【文献】実開昭62-159980(JP,U)
【文献】特開平01-210178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/02
B23K 11/04
B23K 11/24
B23K 11/30
B21F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1棒鋼と第2棒鋼の軸芯を一致させた状態で、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼を各別に把持する第1クランプおよび第2クランプと、
前記第1クランプおよび前記第2クランプを介して前記第1棒鋼および前記第2棒鋼に通電する通電部と、
前記第1クランプおよび前記第2クランプの少なくとも一方に設けられ、前記第1棒鋼の第1端面と前記第2棒鋼の第2端面とを前記軸芯に沿って互いに押し付ける加圧部と、
前記通電部および前記加圧部の動作を制御する制御部と、
前記第1端面と前記第2端面との当接部位に対向配置され、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼に通電・加圧した際に、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼の溶接部
における外周面のうち周方向に沿った一部に接する当接面を有する壁部材と、
を備えたアプセット溶接装置。
【請求項2】
前記当接面が平面である請求項1に記載のアプセット溶接装置。
【請求項3】
前記当接面が、通電・加圧する前の前記第1棒鋼および前記第2棒鋼の外面形状に沿った曲面である請求項1に記載のアプセット溶接装置。
【請求項4】
前記当接面がセラミックス材で構成されている請求項1から3の何れか一項に記載のアプセット溶接装置。
【請求項5】
第1棒鋼と第2棒鋼の軸芯を一致させた状態で、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼を第1クランプおよび第2クランプによって各別に把持する把持工程と、
前記第1クランプおよび前記第2クランプを介して前記第1棒鋼および前記第2棒鋼に通電する通電工程と、
前記第1クランプおよび前記第2クランプの少なくとも一方を駆動して、前記第1棒鋼の第1端面と前記第2棒鋼の第2端面とを前記軸芯に沿って互いに押し付ける押付工程とを有し、
前記第1端面と前記第2端面との当接部位に対し、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼の外周面の一部に壁部材を対向配置し、前記押付工程において、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼の溶接部の形状を前記壁部材の当接面によって規定するアプセット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二本の棒鋼を各別にクランプで保持し、通電しつつ互いに加圧することで棒鋼どうしを溶接するアプセット溶接装置およびアプセット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアプセット溶接技術としては、例えば以下の特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1に記載されたアプセット溶接技術は、二本の鉄筋どうしを接合する際に、接合部の下半分を覆う半割りガイドと、接合部の上半分を覆う別の半割ガイドとを用意し、これら半割ガイドどうしに掛金を掛けて二本の鉄筋の周囲に環状の壁部を形成する。
【0004】
これら半割ガイドの中で鉄筋どうしをアプセット溶接することで、接合部に形成される膨らみの外径を一定範囲に矯正することができる。また、溶接時に発生するスパッタが周囲に飛散するのを半割りガイドによって防止することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のアプセット溶接技術では、組み合わせた半割ガイドの軸芯と鉄筋の軸芯とを一致させないと溶接部の膨出高さが周方向に沿って不均一となるため、半割ガイドの設置作業が煩雑となる。
【0007】
また、溶接部の周囲を取り囲む必要があるから、半割ガイドが複数必要になるなど、溶接装置の構成部品数が多くなる。
【0008】
さらに、半割ガイドは、鉄筋どうしの溶接の度に脱着を要するうえに、溶接する鉄筋の外径に応じて取り換える必要がある。よって、溶接作業を効率化するにも限界がある。
【0009】
このように、上記従来のアプセット溶接技術にあっては未だ改善すべき点があり、溶接膨出部の整形機能が高く作業性に優れたアプセット溶接装置およびアプセット溶接方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(特徴構成)
本発明に係るアプセット溶接装置の特徴構成は、第1棒鋼の軸芯と第2棒鋼の軸芯を一致させた状態で、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼を各別に把持する第1クランプおよび第2クランプと、
前記第1クランプおよび前記第2クランプを介して前記第1棒鋼および前記第2棒鋼に通電する通電部と、
前記第1クランプおよび前記第2クランプの少なくとも一方に設けられ、前記第1棒鋼の第1端面と前記第2棒鋼の第2端面とを前記軸芯に沿って互いに押し付ける加圧部と、
前記通電部および前記加圧部の動作を制御する制御部と、
前記第1端面と前記第2端面との当接部位に対向配置され、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼に通電・加圧した際に、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼の溶接部における外周面のうち周方向に沿った一部に接する当接面を有する壁部材と、を備えた点にある。
【0011】
(効果)
本構成によれば、棒鋼どうしの溶接部に膨出部が形成される際に、壁部材の当接面によって溶接部における外周面のうち周方向に沿った一部について膨出部が形成されるのを阻止することができる。例えば、鉄筋コンクリート構造物の柱や梁には、棒鋼の端部どうしを溶接して環状に形成したフープ筋を設置するが、このようなフープ筋を製造する場合に、本溶接装置は極めて有効である。すなわち、溶接部の膨出規制部位をフープ筋の外側に設定することで、溶接部の膨出によるフープ筋の外径寸法の拡大が防止される。よって、コンクリートを打設した際にフープ筋の最外面から外側に存在するコンクリートの被り厚さを大きく確保することができる。
【0012】
本構成の壁部材は、二本の棒鋼の端面どうしの当接部位に対向配置されるから、溶接時に形成される膨出部のうち変形を規制する領域はほんの一部に過ぎない。よって、変形規制に要する壁部材の反力が小さくて済み、溶接装置の構造強化の必要性も少ない。
【0013】
また、本構成の壁部材は、二本の棒鋼の外面に対向する状態に例えば一つだけ設けることができ、溶接装置の構成が極めて簡単で設置作業の負担も少ない。溶接する棒鋼の外径を変更する場合には、壁部材を適宜変更するだけで良い。
【0014】
このように、本構成のアプセット溶接装置であれば、装置の構成は簡略なものとしつつ、所期の形状を備えた溶接部を極めて効率的に得ることができる。
【0015】
(特徴構成)
本発明に係るアプセット溶接装置においては、前記当接面を平面に構成しておくと好都合である。
【0016】
(効果)
第1棒鋼および第2棒鋼のクランプ状態によっては、溶接部の位置が押し付け方向に沿って変化し、あるいは、第1棒鋼等のサイズによっては前記押し付け方向に対して垂直方向つまり鉛直方向に変化する場合がある。しかし、当接面が平面であれば、溶接位置が変化した場合でも、当接面の何れかの位置が溶接部に当接可能である。よって、一つの壁部材を設けるだけで、溶接部の位置変化に対応することができ、アプセット溶接装置の構成を簡略化することができる。
【0017】
また、壁部材は、溶接時のスパッタが付着し、或いは、使用に伴って当接面が乱れるなど消耗品である。よって、壁部材の当接面を平面にすることで、壁部材の構造が極めて簡略なものとなり、壁部材のコスト削減が可能である。
【0018】
(特徴構成)
本発明に係るアプセット溶接装置においては、前記当接面が、通電・加圧する前の前記第1棒鋼および前記第2棒鋼の外面形状に沿った曲面であってもよい。
【0019】
(効果)
本構成の溶接装置で例えば環状のフープ筋を製造する場合、壁部材を第1棒鋼および第2棒鋼の最外面に対向配置する。これにより、フープ筋の外径寸法の拡大を防止することができる。ただし、フープ筋を実際の柱や梁の内部に設置する場合には、柱等の長手方向に対してフープ筋の環状面が垂直とならず傾いて設置されることがある。
【0020】
フープ筋を溶接形成する場合、直線状の棒鋼を環状に曲げて端部どうしを溶接する。この場合、第1棒鋼および第2棒鋼は同じ棒鋼の一端と他端となる。壁部材の当接面はフープ筋の環状面に対して垂直に設置される。仮に当接面が上記平面であれば、溶接部には一部が平面状に規制された膨出領域が形成される。
【0021】
このような膨出部を有するフープ筋が傾いて設置されると、平面状に形成された膨出部の一部が棒鋼本体の最外径の位置よりも外方に変位する。このため、コンクリートの被り厚さが僅かであるが減少する。
【0022】
そこで、本構成の如く、壁部材の表面を第1棒鋼および第2棒鋼の外面形状に沿った曲面とすることで、当該曲面によって形成される膨出部表面の略全ての位置は、棒鋼本体の最外方位置に対して棒鋼の断面中心がある側にオフセットしたものとなる。この結果、仮にフープ筋が傾いた姿勢で柱などに設置された場合でもコンクリートの被り厚さが損なわれないフープ筋を得ることができる。
【0023】
(特徴構成)
本発明に係るアプセット溶接装置においては、前記当接面をセラミックス材で構成することができる。
【0024】
(効果)
セラミックス材は、耐熱性を有し比較的高い圧縮応力を有する。よって、溶接時のスパッタに耐えつつ適切な反力を発揮することができる。このため長期使用が可能であり、経済効果に優れている。
【0025】
(特徴手段)
本発明に係るアプセット溶接方法の特徴手段は、
第1棒鋼の軸芯と第2棒鋼の軸芯を一致させた状態で、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼を第1クランプおよび第2クランプによって各別に把持する把持工程と、
前記第1クランプおよび前記第2クランプを介して前記第1棒鋼および前記第2棒鋼に通電する通電工程と、
前記第1クランプおよび前記第2クランプの少なくとも一方を駆動して、前記第1棒鋼の第1端面と前記第2棒鋼の第2端面とを前記軸芯に沿って互いに押し付ける押付工程とを有し、
前記第1端面と前記第2端面との当接部位に対し、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼の外周面の一部に壁部材を対向配置し、前記押付行程において、前記第1棒鋼および前記第2棒鋼の溶接部の形状を前記壁部材の当接面によって規定する点に特徴を有する。
【0026】
(効果)
本方法によれば、棒鋼どうしの溶接部に膨出部が形成される際に、壁部材の当接面によって膨出部の一部の形状を規制することができる。よって、例えばフープ筋を製造する場合に、膨出を規制する部位をフープ筋の外側に設定することで、フープ筋の外径寸法の拡大が防止される。よって、コンクリートを打設した際にフープ筋の最外面から外側に存在するコンクリートの被り厚さを最大に確保することができる。
【0027】
また、壁部材の構成が単純であり、二本の棒鋼に対する設置も容易であるから、アプセット溶接装置の構成は簡略なものとしつつ、所期の形状を備えた溶接部を効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態に係る壁部材を有するアプセット溶接装置の要部を示す斜視図
【
図5】第2実施形態に係る壁部材の外観を示す斜視図
【
図6】第2実施形態に係る壁部材の配置態様を示す説明図
【
図7】溶接膨出部によるコンクリートの被り厚さの変化を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔第1実施形態〕
(概要)
本発明に係るアプセット溶接装置Wの第1実施形態について
図1乃至
図4を参照しながら説明する。アプセット溶接装置Wは、
図1に示すように、同じサイズの棒鋼Bである第1棒鋼B1と第2棒鋼B2との軸芯Xを一致させた状態で、第1棒鋼B1および第2棒鋼B2を各別に把持する第1クランプC1および第2クランプC2を備えている。
【0030】
例えば第1クランプC1は、第1棒鋼B1の下方を支持する下クランプC1aと第1棒鋼B1の上方を支持する上クランプC1bとを備えている。下クランプC1aは上下方向には移動せず、上クランプC1bが例えば図外の油圧シリンダによって上下移動可能である。溶接する棒鋼Bの太さに応じて棒鋼Bの把持状態を安定させるために、上クランプC1bおよび下クランプC1aの双方においてチャック部材3が取り換え可能である。
【0031】
チャック部材3には、棒鋼Bのサイズに合わせたV字状の溝部3aが形成されており、棒鋼Bをクランプする際の作業性を高めている。この溝部3aは、棒鋼Bのサイズに応じて形成する位置を変更してある。つまり、
図3に示すごとく、把持した棒鋼Bの背面が、後述する壁部材4の表面と近接するように、溝部3aの位置と壁部材4との間隔を設定してある。
【0032】
下クランプC1aにこのような溝部3aが形成されていれば、棒鋼Bの把持位置が決定される。よって、上クランプC1bのチャック部材3においては溝部3aの形成が必須ではない。例えば、上のチャック部材3には単なる平面が形成されるだけでもよいし、棒鋼Bに対する摩擦を高めるための微小凹凸が形成されるものでもよい。
【0033】
(制御部・通電部)
溶接に際しては、第1棒鋼B1と第2棒鋼B2とに通電しながら第1クランプC1と第2クランプC2とを接近させ、第1棒鋼B1の第1端面B1aと第2棒鋼B2の第2端面B2aとを軸芯Xに沿って互いに押し付ける。第1クランプC1は近接方向には移動せず、第2クランプC2のみが加圧部5によって移動可能である。このように第2クランプC2のみを駆動させることでアプセット溶接装置Wの構造が簡単になる。第2クランプC2の当該移動は、例えば、油圧シリンダやエアシリンダのほか電動モータなど各種の駆動方法を用いることができる。
【0034】
これら第1クランプC1および第2クランプC2における棒鋼Bの挟持動作および第2クランプC2の押付動作は、作業者のスイッチ操作および制御部6による自動動作により行われる。溶接に際しては、通電部7から第1棒鋼B1と第2棒鋼B2とに棒鋼Bのサイズに応じた電流を印加するが、この通電作業も制御部6が制御する。
【0035】
(壁部材)
図4には、本実施形態のアプセット溶接装置Wによって形成した膨出部Fの形状を示す。このように、第1棒鋼B1と第2棒鋼B2との突き合わせ部には、溶融した母材が径方向外側に盛り上がって膨出部Fが形成される。ただし、膨出部Fの一部には、壁部材4によって膨出が阻止された規制面Faが形成される。
図4の例では、当該規制面Faは平面となる。
【0036】
このような平面状の規制面Faを形成するために、
図1および
図3、
図4に示すように、第1クランプC1が設けられた装置本体Waの一部に壁部材4を設けてある。壁部材4は、第1棒鋼B1の第1端面B1aと第2棒鋼B2の第2端面B2aとの当接部位に対し、第1棒鋼B1および第2棒鋼B2の外周面の一部に対向する状態に配置される。壁部材4は第1棒鋼B1および第2棒鋼B2に接触するものであっても良いし、所定の隙間を有するものであっても良い。溶接作業に際し、膨出部Fの一部の形状を矯正できる位置であれば設置位置は任意である。
【0037】
ただし、壁部材4を溶接前の第1棒鋼B1および第2棒鋼B2の外面に当接する状態に配置すると、形成される規制面Faの一部にあっては棒鋼Bの外面からの突出量がゼロとなる。よって、鉄筋コンクリート構造物に用いるフープ筋Bf(後述)を作る場合にはコンクリートの被り厚さの減少を最小に留めることができる。
【0038】
壁部材4は、溶接時のスパッタが付着し、使用に伴って当接面4aが乱れるなど消耗品である。よって、当接面4aを平面にすることで、壁部材4の構造が極めて簡略なものとなり、壁部材4のコストを下げることができる。
【0039】
図1に示すように、壁部材4は例えば長方形状の板状部材であり、装置本体Waの壁面Wa1に、例えば2本の取付ボルト8によって固定される。壁部材4は、溶接時に溶融した母材によって押されるため、この押圧力に抵抗できるように、壁部材4の背面の少なくとも一部が装置本体Waの壁面Wa1に当接する。尚、壁部材4の背面の全面が壁面Wa1に当接するものであれば、壁部材4の単位面積当たりの荷重負担が最少となり、壁部材4の厚みを薄くすることができる。
【0040】
壁部材4を設置する領域は、第1棒鋼B1と第2棒鋼B2とを突き合わせる位置の近傍に設定すればよい。第1棒鋼B1および第2棒鋼B2が鉄筋である場合、例えば呼び径がD16(公称直径15.9mm)からD32(公称直径31.8mm)までの鉄筋が溶接対象となる。チャック部材3における鉄筋の載置高さを一定とすると、双方の突合位置における軸芯Xの高さは、D16では約8mmであり、D32では約16mmとなって、8mmの変動幅が生じる。
【0041】
よって、壁部材4の高さ方向の寸法は、この8mmの寸法に対し、例えば上下に20mmずつぐらいの幅を持たせて少なくとも約50mmとするのが妥当である。上下に20mmの余裕を持たせておけば、棒鋼Bが壁部材4の縁部に当接することがなく、壁部材4が破損し難くなる。
【0042】
一方、壁部材4の横方向の寸法は、第1棒鋼B1と第2棒鋼B2との当接位置の変動に合わせて設定する。溶接する棒鋼Bの太さにより、第1クランプC1と第2クランプC2との距離が変更される。これは、第1クランプC1および第2クランプC2が電極を兼ねており、第1クランプC1および第2クランプC2からの棒鋼Bの先端までの距離を変えることで棒鋼Bの発熱態様を変化させるためである。
【0043】
例えば、呼び径D16の鉄筋の場合、クランプ間の距離は45mmであり、D32では75mmである。このクランプ間の距離は、第1棒鋼B1が第1クランプC1から突き出した長さと、第2棒鋼B2が第2クランプC2から突き出した長さとの合計である。第1クランプC1は押付方向Yに沿って固定であるから、双方の棒鋼Bの当接位置は、D16の場合には第1クランプC1から22.5mmの位置であり、D32では37.5mmである。よって、当接位置は押付方向Yに沿って15mm変化するから、押付方向Yに沿う寸法は、当接位置から両側に20mm程度の余裕を持たせるとすると、上記15mmに40mmを加えて55mm程度とするのが適切である。
【0044】
このように壁部材4の当接面4aを平面にしておくことで、双方の棒鋼Bの当接位置が押し付け方向あるいは鉛直方向に変化する場合でも、溶接部は当接面4aの何れかの位置に当接可能である。よって、一つの壁部材4を設けるだけで溶接部の位置変化に対応することができる。
【0045】
壁部材4は、例えば、一般の鋼材で構成することができる。鋼材としては、例えばクロムモリブデン鋼を用いると、溶接時のスパッタが付着し難くなる。しかし、スパッタの付着をより少なくするにはセラミックス材を用いると好都合である。セラミックス材は、耐熱性を有し比較的高い圧縮応力を有する。よって、溶接時のスパッタに耐え、適切な反力を発揮することができるため長期の使用が可能であり、経済効果に優れている。
【0046】
ただし、セラミックス材は割れ易いため、装置本体Waの壁面Wa1に対してセラミックス材の背面の全面を当接させるのが好ましい。
図3には、鋼材によるベース板41とセラミックス板42とを組み合わせた例を示すが、ベース板41がセラミックス板42を上手くバックアップするように、ベース板41とセラミックス板42との接触面の形状を適宜設定すればよい。その場合、ベース板41と装置本体Waの壁面Wa1とが接触する面についてはそれ程厳密に設定する必要がなく、セラミックス材を用いる場合でも、壁部材4の構成の簡略化が可能である。
【0047】
また、壁部材4を必要最小限の大きさとし、装置本体Waに対して壁部材4の取付位置を移動できるようにしても良い。例えば、所定サイズのセラミックス板42を一回り大きなサイズのベース板41に固定し、ベース板41の縁部にボルト取付用の複数組の孔を設けておくとよい。
【0048】
〔第2実施形態〕
図5および
図6に示すように、壁部材4の当接面4aは、第1棒鋼B1および第2棒鋼B2の外面形状に沿った曲面に形成することもできる。これは、第1棒鋼B1および第2棒鋼B2を一本の棒鋼Bとして環状に曲げ加工し、壁部材4を用いてフープ筋Bfを溶接製造する場合に有利である。
【0049】
フープ筋Bfを柱や梁の主筋に取り付ける場合、フープ筋Bfの施工態様によってはコンクリートの被り厚さが減少する場合がある。
図7には、フープ筋Bfが傾いた状態で配置された例を示す。
図7(a)のフープ筋Bfは、当接面4aが平面である壁部材4を用いて溶接されたものであり、
図7(b)のフープ筋Bfは、当接面4aが曲面である壁部材4を用いて溶接されたものである。
【0050】
図7(a)の場合には、フープ筋Bfが傾くことで、膨出部Fにおける平面状の規制面Faの一部がフープ筋Bfの本体における最外部よりも寸法Lだけ外側に変位する。つまり、コンクリートの被り厚さが寸法Lだけ損なわれることとなる。
【0051】
一方、
図7(b)の場合には、壁部材4によって形成された規制面Faは、フープ筋Bfを形成する棒鋼Bの外面形状に沿った曲面とされる。この曲面は、例えば、フープ筋Bfの軸芯Xに垂直な切断面の半径に対し、長い半径を有する円筒面とする。その結果、形成された規制面Faの全ての領域は、フープ筋Bfの最外方位置に対して軸芯Xがある側にオフセットしたものとなる。この結果、仮にフープ筋Bfが傾いた姿勢で柱などに埋設された場合でもコンクリートの被り厚さが損なわれることがない。
【0052】
〔その他の実施形態〕
当接面4aは、上記平面や円筒面の他に、第1棒鋼B1および第2棒鋼B2の外面形状に沿った曲面等に形成するなど各種の形状に設定可能である。当接面4aの形状は、溶接後に棒鋼Bが用いられる部位の都合等に応じて適宜設定すると良い。また、当接面4aの全体に亘って微小な凹凸を形成してもよい。これにより、膨出部Fの規制面Faの表面に微小凹凸が形成され、コンクリートの付着力をより高めることができる。
【0053】
図8に示すように、壁部材4を構成するベース板41を、例えばくさび状の断面を有するものとしも良い。このようにすると、フープ筋Bfを溶接する場合などに便利である。
【0054】
つまり、環状に成形した棒鋼Bの端部を第1クランプC1と第2クランプC2に装着したとき、フープ筋Bfの姿勢を安定させるためにフープ筋Bfの環状の反対側も何らかの受け部(図外)で保持する必要がある。このとき、受け部の高さが第1クランプC1等と同じ高さになるとは限らず、
図8に示すように第1クランプC1から離れるほど下がった状態にフープ筋Bfが傾斜する場合がある。
【0055】
そこで、ベース板41を
図8に示すように構成し、セラミックス板42の当接面4aをフープ筋Bfの傾きに応じて傾斜させることで、溶接部に形成される規制面Faがフープ筋Bfの環状平面に対して垂直になる。
【0056】
このように当接面4aの傾きを変更するには、ベース板41の形状を変更することの他に、例えば装置本体Waと壁部材4とに亘って両者の隙間を変更する調節ボルト(図外)を複数備えておくなど任意の構成を採ることができる。
【0057】
(実施例)
図9は、当接面4aが平面である壁部材4を用いて得た膨出部Fの外観を示す写真である。
図9(a)は膨出部Fの側面図であり、
図9(b)は膨出部Fの正面図である。壁部材4によって形成された規制面Faには、第1棒鋼B1と第2棒鋼B2との境界を示す細い溝状の未溶着部9が認められない。これは、第1棒鋼B1と第2棒鋼B2との押し付け時に、軟化した母材が当接面4aに強く押し付けられ、未溶着部9が消滅したためである。一般のアプセット溶接では、膨出部Fの中央に第1棒鋼B1と第2棒鋼B2との境界として上記未溶着部9が形成され、引張荷重が作用した場合の破断開始点となる懸念が生じる。しかし、本方法による膨出部Fでは未溶着部9が形成されないため引張強度の向上が期待できる。
【0058】
図9に示す棒鋼Bは、規制面Faが外側になるように曲げ試験を行ったあとの様子でもある。しかし、膨出部Fからの割れは認められず、良好な機械的特性を有する溶接部が得られることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係るアプセット溶接装置は、フープ筋の溶接部など膨出部の拡径を抑えたい部位の溶接作業や、特定方向への曲げ特性に優れた溶接部を得る溶接作業に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
4 壁部材
4a 当接面
5 加圧部
6 制御部
7 通電部
B1 第1棒鋼
B1a 第1端面
B2 第2棒鋼
B2a 第2端面
C1 第1クランプ
C2 第2クランプ
W アプセット溶接装置
X 軸芯