IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清紡ケミカル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-軌道パッドの製造方法 図1
  • 特許-軌道パッドの製造方法 図2
  • 特許-軌道パッドの製造方法 図3
  • 特許-軌道パッドの製造方法 図4
  • 特許-軌道パッドの製造方法 図5
  • 特許-軌道パッドの製造方法 図6
  • 特許-軌道パッドの製造方法 図7
  • 特許-軌道パッドの製造方法 図8
  • 特許-軌道パッドの製造方法 図9
  • 特許-軌道パッドの製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】軌道パッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   E01B 9/68 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
E01B9/68
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018037547
(22)【出願日】2018-03-02
(65)【公開番号】P2019152020
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100204043
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 美和
(72)【発明者】
【氏名】富士本 明
(72)【発明者】
【氏名】石田 義明
(72)【発明者】
【氏名】林 聖人
(72)【発明者】
【氏名】花岡 秀之
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224459(JP,A)
【文献】特開2010-064273(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0119822(KR,A)
【文献】特開2016-183549(JP,A)
【文献】特開2006-265841(JP,A)
【文献】特開2008-049711(JP,A)
【文献】特開平02-261644(JP,A)
【文献】特開昭53-074952(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0017227(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 1/00-26/00
E01B 27/00-37/00
B29C 45/14
B29C 45/16
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペーサー及び/又は可動部を有する金型内に第1原料を導入し第1成形体を成形した後、前記第1成形体の少なくとも一部を前記金型から取り外すことなく、
前記スペーサーの存在していた空間及び/又は前記可動部を移動させて生じた空間に第2原料を導入し第2成形体を成形する軌道パッドの製造方法。
【請求項2】
前記金型が、前記スペーサーを有する第1金型及び前記可動部を有する第2金型からなる請求項1に記載の軌道パッドの製造方法。
【請求項3】
前記第1金型が上金型であり、前記第2金型が下金型である請求項1又は2に記載の軌道パッドの製造方法。
【請求項4】
前記金型は、前記スペーサー及び前記可動部の双方を有しており、前記スペーサーの存在していた空間及び前記可動部を移動させて生じた空間に前記第2原料を導入する際に、前記スペーサーの存在していた空間と前記可動部を移動させて生じた空間とが、連通した連通空間となっている請求項1乃至3に記載の軌道パッドの製造方法。
【請求項5】
前記連通空間は、前記第1成形体の上面の少なくとも一部と、前記第1成形体の側面の少なくとも一部とに跨って延在している請求項4に記載の軌道パッドの製造方法。
【請求項6】
前記第1原料及び前記第2原料が、いずれもウレタン原料である請求項1乃至5に記載の軌道パッドの製造方法。
【請求項7】
前記第2原料が樹脂化反応する際に前記第1成形体と反応接着する請求項1乃至6に記載の軌道パッドの製造方法。
【請求項8】
前記第1成形体及び前記第2成形体の一方が軟質層からなり、他方が硬質層からなる請求項1乃至7に記載の軌道パッドの製造方法。
【請求項9】
前記第1成形体が軟質層からなり、前記第2成形体が硬質層からなる請求項1乃至8に記載の軌道パッドの製造方法。
【請求項10】
前記スペーサー及び前記可動部が離型性を有する請求項1乃至9に記載の軌道パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道パッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道用の車両がレール上を走行する際には車両からの振動や騒音が発生する。このような振動や騒音を軽減するために、レールと枕木、又はレールとタイプレートとの間に軌道パッドが設けられている。該軌道パッドとしては、例えば、ゴム材からなる軌道パッド、ゴム材の上面に鋼板が接着された鋼板付き軌道パッド、発泡ゴムより成形される基板部と、該基板部の上面に固着され、摩擦係数が該基板部の上面の摩擦係数よりも低い合成樹脂より形成される表層部とを具備してなる軌道パッドなどが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
従来、軌道パッドを成形する際、複数回の成形工程を経るときには、複数の金型を用意し、第一の成形工程終了後に成形物を金型から脱型し、該成形物を別の金型に移し、さらなる成形工程を実施していた(例えば、特許文献2)。また、ゴム製軌道パッドではレールの振動防止のために、ばね定数を下げる必要があり、該軌道パッドの片面又は両面に溝等を形成することが多い。このような溝は、例えば、挿脱可能な溝形成用棒部材が所定の位置に設けられた金型内に材料を充填し成形した後、該溝形成用棒部材を引き抜くことにより形成することができる(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-224459号公報
【文献】特開2013-002256号公報
【文献】特開2011-038319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の製造方法では、工程数が多くなるため作業効率が悪く、また、金型を複数用意する必要があることからコストが高くなるという問題があった。また、第一の成形工程終了後に成形物を型から外すと該成形物が収縮し、さらに、作業に時間がかかると成形物の収縮がより大きくなることから、第二の成形工程開始時の成形物の形状が安定しないという問題もあった。同様に、第一の成形工程終了後に成形物を型から外す際、バリ付着部における成形物の一部がバリと共に金型に残り、形状に隙間等ができることがあった。また、特許文献3に記載の製造方法では、製造工程が煩雑となるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、工程数を削減し、作業効率を高めるとともに、形状安定性に優れた軌道パッドを得ることができる軌道パッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本願開示は、以下に関する。
[1]スペーサー及び/又は可動部を有する金型内に第1原料を導入し第1成形体を成形した後、前記スペーサーの存在していた空間及び/又は前記可動部を移動させて生じた空間に第2原料を導入し第2成形体を成形する軌道パッドの製造方法。
[2]前記金型が、前記スペーサーを有する第1金型及び前記可動部を有する第2金型からなる上記[1]に記載の軌道パッドの製造方法。
[3]前記第1金型が上金型であり、前記第2金型が下金型である上記[1]又は[2]に記載の軌道パッドの製造方法。
[4]前記金型は、前記スペーサー及び前記可動部の双方を有しており、前記スペーサーの存在していた空間及び前記可動部を移動させて生じた空間に前記第2原料を導入する際に、前記スペーサーの存在していた空間と前記可動部を移動させて生じた空間とが、連通した連通空間となっている上記[1]乃至[3]に記載の軌道パッドの製造方法。
[5]前記連通空間は、前記第1成形体の上面の少なくとも一部と、前記第1成形体の側面の少なくとも一部とに跨って延在している上記[4]に記載の軌道パッドの製造方法。
[6]前記第1原料及び前記第2原料が、いずれもウレタン原料である上記[1]乃至[5]に記載の軌道パッドの製造方法。
[7]前記第2原料が樹脂化反応する際に前記第1成形体と反応接着する上記[1]乃至[6]に記載の軌道パッドの製造方法。
[8]前記第1成形体及び前記第2成形体の一方が軟質層からなり、他方が硬質層からなる上記[1]乃至[7]に記載の軌道パッドの製造方法。
[9]前記第1成形体が軟質層からなり、前記第2成形体が硬質層からなる上記[1]乃至[8]に記載の軌道パッドの製造方法。
[10]前記スペーサー及び前記可動部が離型性を有する上記[1]乃至[9]に記載の軌道パッドの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工程数を削減し、作業効率を高めるとともに、形状安定性に優れた軌道パッドを得ることができる軌道パッドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第一実施形態にかかる軌道パッドの製造方法に用いられる軌道パッド用金型の模式図である。
図2図1に示す軌道パッド用金型のII-II線に沿う概略断面図である。
図3図2に示す軌道パッド用金型内に第1原料を導入し第1成形体を成形した状態を示す該軌道パッド用金型の概略断面図である。
図4図3に示す軌道パッド用金型において、原料導入部の容積を増加させ該金型と第1成形体との間に第2原料を導入する空間を生じさせた状態を示す該軌道パッド用金型の概略断面図である。
図5図4に示す軌道パッド用金型において、原料導入部の容積を増加させ該金型と第1成形体との間に生じた空間に第2原料を導入し第2成形体を成形した状態を示す該軌道パッド用金型の概略断面図である。
図6】本発明の第二実施形態にかかる軌道パッドの製造方法に用いられる軌道パッド用金型の模式図である。
図7図6に示す軌道パッド用金型内に第1原料を導入し第1成形体を成形した状態を示す該軌道パッド用金型のVII-VII線に沿う概略断面図である。
図8図7に示す軌道パッド用金型において、原料導入部の容積を増加させ該金型と第1成形体との間に第2原料を導入する空間を生じさせた状態を示す該軌道パッド用金型の概略断面図である。
図9図8に示す軌道パッド用金型において、該金型と第1成形体との間に生じた空間に第2原料を導入し第2成形体を成形した状態を示す該軌道パッド用金型の概略断面図である。
図10】実施例及び比較例において得られた第1成形体の寸法測定箇所を示す、第1成形体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の軌道パッドの製造方法は、スペーサー及び/又は可動部を有する金型内に第1原料を導入し第1成形体を成形した後、前記スペーサーの存在していた空間及び/又は前記可動部を移動させて生じた空間に第2原料を導入し第2成形体を成形することを特徴とする。
本発明の軌道パッドの製造方法によれば、金型内の空間(原料導入部)のサイズを拡大することができるため、一つの金型内で第1成形体を成形した後、さらに第2成形体を成形することができる。これにより、金型の数が減らせ、工程数を削減することができ、作業効率を高めることができる。また、第1成形体を成形した後、該成形体を金型から取り出す必要がないため、成形体の収縮及び脱型時におけるバリに起因した成形物の隙間の発生が起こりにくくなり、形状安定性に優れた軌道パッドを得ることができる。
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態にかかる軌道パッドの製造方法について説明する。軌道パッドの形状についても例を挙げて説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0013】
第一実施形態にかかる軌道パッドの製造方法を、図1図5を用いて説明する。
図1は、本発明の第一実施形態にかかる軌道パッドの製造方法に用いられる軌道パッド用金型10の模式図である。軌道パッド用金型10は、第1金型aと、第2金型bとを有する。
図2は、該軌道パッド用金型10のII-II線に沿う概略断面図である。但し、図2は、第1金型aと、第2金型bとを型締めした状態を示す。また、図2中、図1における軌道パッド用金型10が有する取っ手Sは省略する。
第2金型bは、第1金型aと対向させる面に、原料を導入可能な空間である原料導入部1を有する。また、第1金型aには、第2金型bと対向させる面に、原料導入部1の容積を増減可能なスペーサー2が設けられている。第2金型bにおいて、原料導入部1の一対の側面に、それぞれ矢印A,Bで示す方向(すなわち、原料導入部1の側面から離反する方向A及び原料導入部1の側面に接近する方向B)に摺動可能な可動部3a、3bが設けられている。
スペーサー2を有する第1金型aを、スペーサーを有さない金型c(後述する図4参照)に交換し、第2金型bが有する可動部3a、3bを矢印のA方向に所定の位置まで移動させることにより、該原料導入部1の容積を増加させることができる。一方、スペーサーを有さない金型c(後述する図4参照)を、スペーサー2を有する第1金型aに交換し、第2金型bが有する可動部3a、3bを矢印のB方向に所定の位置まで移動させることにより、該原料導入部1の容積を減少させることができる。
【0014】
上記説明では、スペーサー2を有する第1金型aを、スペーサーを有さない金型c(後述する図4参照)に交換することにより、原料導入部1の容積を増加させているが、第1金型aが有するスペーサー2を取り除くことにより、該原料導入部1の容積を増加させてもよい。また、第2金型bと可動部3a、3bとの間には、該可動部3a、3bの摺動を容易にするためにレール(図示されない)が設けられていてもよく、さらに、該可動部3a、3bを所定の位置に固定する位置決め機構(ストッパー、図示されない)が設けられていてもよい。
図1の軌道パッド用金型10において、第1金型aは上金型であり、第2金型bは下金型であるが、第2金型bが上金型であり、第1金型aが下金型であってもよい。
【0015】
軌道パッド用金型10において、第1金型aと第2金型bとを型締めした際の断面形状は、図2に示すとおりである。
図2において、軌道パッド用金型10内の原料導入部1は略M字形状を有している。すなわち、該原料導入部1の中央部形成用空間xの下面(軌道パッドの下面に相当)は両端付近を除き凹凸のない平らな形状を有しており、中央部形成用空間xの両端のそれぞれには、下方に垂下する立ち壁部形成用空間yが設けられている。これら一方の立ち壁部形成用空間y、中央部形成用空間x、及び他方の立ち壁部形成用空間yが連通されているため、原料導入部1の全体が略M字形状を有している。なお、後述するとおり、中央部形成用空間xのうち立ち壁部形成用空間yに連なる部分(原料導入部1のうち立ち壁部形成用空間yよりも内側の部分)の下面は、平らな形状の中央部よりも一段高くなっているが、同一でもよい。
上記原料導入部1に原料を導入し成形することで、軌道パッドの中央部Xと該軌道パッドの中央部Xの両端のそれぞれに下方に垂下する軌道パッドの立ち壁部Yとを有する軌道パッドが得られる。該軌道パッドは、上記軌道パッドの中央部Xのみからなる凹凸のない板状であってもよいが、周辺部に立ち壁部Yからなる脚部を設けることにより、レールと枕木、又はレールとタイプレートとの間から軌道パッドが欠落するのを防止することができる。このような観点から、軌道パッド用金型10内の上記原料導入部1における立ち壁部形成用空間yの高さh3(スペーサー2と立ち壁部形成用空間yの底面との距離)は中央部形成用空間xの高さh1(スペーサー2と中央部形成用空間xの底面との距離)より大きいことが好ましく、h3とh1との比率(h3/h1)は、好ましくは2.0~3.0、より好ましくは2.5~2.8である。
また、軌道パッドの中央部Xの上面、下面、又は両面には凹凸があってもよく、滑り止めのための形状、例えば溝等をつけた形状にすることもできる。
【0016】
なお、原料導入部1における中央部形成用空間xのうち立ち壁部形成用空間yに連なる部分(原料導入部1のうち立ち壁部形成用空間yよりも内側の部分)の高さh2を、中央部形成用空間xのその他の部分の高さh1と同じ高さとしてもよいが、図2に示すとおり、高さh2を、高さh1より小さくしてもよい。この場合、h1とh2との比率(h1/h2)は、好ましくは1.1~11.8、より好ましくは1.2~2.0である。h1/h2を上記範囲内とすることで、得られる軌道パッドには周辺部に設けられた立ち壁部Yと中央部Xとの間に窪み部分が形成される。
この窪み部分には、以下の効果がある。通常可変パッドは軌道パッドの高さ調節等のために、軌道パッドと枕木又はタイプレートとの間に使用されており、既設可変パッドの両端は樹脂の注入によって膨らみが形成されている。立ち壁部Yを有していない既設の軌道パッドを、立ち壁部Yを有する軌道パッドに交換する際、上述した窪みを有しない軌道パッドを用いると、交換後の軌道パッドの立ち壁部Yの内側の部分に既設の可変パッドの膨らみの部分が当たり、軌道パッド内側の中央部Xと可変パッドの間に隙間が生じる。これによって列車からの荷重・振動を十分に緩衝できなかったり、軌道パッドや可変パッドが欠落することに繋がるおそれもある。この問題に対処するため、可変パッドも軌道パッドと同時に交換する方法も取り得るが、軌道パッドに上記窪み部分を形成することによって既設の可変パッド両端の膨らみが窪みに嵌め込まれ、軌道パッドと可変パッドの間に隙間が生じないため、可変パッドを交換せずとも軌道パッドのみ交換することが可能となる。
【0017】
図3は、図2に示す軌道パッド用金型10内に第1原料を導入し第1成形体4を成形した状態を示す該軌道パッド用金型10の概略断面図であり、図4は、図3に示す軌道パッド用金型10において、原料導入部1の容積を増加させ第1金型c及び前記可動部3a、3bと第1成形体4との間に第2原料を導入する空間5を生じさせた状態を示す該軌道パッド用金型10の概略断面図であり、図5は、図4に示す軌道パッド用金型10において、第1金型c及び前記可動部3a、3bと第1成形体4との間に生じた空間5に第2原料を導入し第2成形体6を成形した状態を示す該軌道パッド用金型10の概略断面図である。
まず、軌道パッド用金型10内の原料導入部1に、第1原料を導入し第1成形体4を成形する(図3参照)。次いで、スペーサー2を有する第1金型aを、スペーサーを有さない第1金型cに交換し、第2金型bが有する可動部3a、3bを所定の位置まで移動させることで、原料導入部1の容積が増加し、軌道パッド用金型10の第1金型c及び第2金型bと、第1成形体4との間に空間5が形成される(図4参照)。なお、空間5は、スペーサー2の存在していた空間と可動部3a、3bを移動させて生じた空間とが連通した連通空間となっている。該連通空間は、第1成形体4の上面の少なくとも一部と、該第1成形体4の側面の少なくとも一部とに跨って延在している。この連通空間である空間5に第2原料を導入し第2成形体6を成形する(図5参照)。
【0018】
上記軌道パッド用金型10では、第1金型aが有するスペーサー2を、スペーサーを有さない金型cに交換することにより、該原料導入部1の上部の容積を増加させているが、第1金型aが有するスペーサー2の代わりに上下及び/又は左右に移動が可能な可動部(図示されない)を設け、該可動部を所定の位置まで移動させることにより、該原料導入部1の上部の容積を増加させてもよい。
【0019】
ここで、前記スペーサー2及び可動部3a、3bの原料と接する面は離型性を有することが好ましい。前記スペーサー2及び可動部3a、3bを第1成形体4から抵抗が少ない状況で剥がすことができ、例えば第1成形体4及び第2成形体6が双方ともウレタン原料である場合には、以下の効果も期待できる。
すなわち、第1成形体4と第2成形体6とを接着剤を用いることなくウレタンの反応接着を利用して接着するためには、第1成形体4の接着面に離型剤が多く付着する場合には、例えば、離型剤を除去するために脱脂処理またはサンドペーパーで研磨する等の追加の工程を実施することが考えられる。前記スペーサー2及び可動部3a、3bが離型性を有することにより、接着面に離型剤が存在しないか反応接着に問題がないほど少量であれば、上記追加の工程を実施する必要もなく、製造にかかる時間と労力を削減することが可能となる。
スペーサー2及び可動部3a、3bの原料と接する面に離型性を付与する方法としては、スペーサー2及び可動部3a、3bに離型性を有する材料を用いたり、原料と接する面に離型性を付与する方法がある。例えば、離型性を有する又は付与する材料をスペーサー2及び可動部3a、3bに塗布したり、コーティングしたり、または離型性を持ったフィルムを貼付けたりする方法が挙げられる。離型性を付与する材料としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン系樹脂、油脂類、ワックス類等が挙げられる。
なお、第1成形体4と第2成形体6とを接着剤を用いることなくウレタンの反応接着を利用してさらに強固に接着するための方法としては、ワイヤーブラシやブラスト処理等により接着表面を粗す方法やコロナ放電処理、プラズマ処理、プライマー処理等の方法を追加することも考えられる。第1成形体4の接着表面を粗す方法では、アンカー効果が期待でき、また、コロナ放電処理、プラズマ処理、プライマー処理等の方法では、接着表面を改質し、親和性を向上させることでより強固な接着力が期待できる。本発明では、ウレタンの反応接着力を上げるためのさまざまな方法を採用することができる。
【0020】
第1原料は、原料ゴムでもよいが、ウレタン原料であることが好ましく、例えば、ポリオール、ポリイソシアネート及び必要に応じて鎖延長剤を含む混合原液が挙げられる。
ポリオールとしては、例えば、ポリオキシプロピレンポリオール(PPG)、ポリオキシエチレンポリオール(PEG)、プロピレングリコール(PG)とエチレングリコール(EG)の共重合体ポリオール、ポリオキシテトラメチレンポリオール(PTMG)等のポリエーテル系ポリオールを用いることが好ましい。ポリエーテル系ポリオール(特に、PPG、PTMG)は、反応性と共に、耐加水分解性にも優れることから、第1成形体の耐久性及び復元性が高まり易くなる。また、ポリエーテル系ポリオールは、粘度が低く取扱い性も高いという利点もある。
【0021】
また、上記ポリエーテル系ポリオール以外に、ジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、ダイマー酸等)とグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1.4-ブタンジオール、1.6-ヘキサンジオール、2-メチルプロパンジオール、3-メチルペンタンジオール等)とを縮合させたポリエステルポリオール(PES)、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)、ポリカーボネートポリオール(PCA)、(水添)ポリブタジエン系ポリオール、(水添)ポリイソプレン系ポリオール等を使用してもよい。
【0022】
ポリイソシアネートとしては、例えば、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソシアン酸メチル(MIC)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を用いることが好ましい。特に、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)系のイソシアネートや、ポリマーの重合又は縮合反応を適当なところで止めたプレポリマーを用いると、反応性が高く、第1成形体4の耐久性及び復元性が高まり易くなり好ましい。
【0023】
鎖延長剤としては、例えば、芳香族ジアミン(例えば3.3’-ジクロロ-4.4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)等)、分子量500以下のグリコール又は多官能アルコール(例えばエチレングリコール、1.4-ブタンジオール、1.6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリメチロールプロパン等)及びそれらのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、ヒドロキノンのエチレンオキサイド付加物、レゾルシンのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
これらのうち、鎖延長剤としては、分子量200以下で1級アルコールの低分子ポリオールが好ましく、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ヒドロキノン、レゾルシンのエチレンオキシド付加物等がより好ましい。
【0024】
上記成分の他に、発泡剤、必要に応じて、触媒、整泡剤等の周知の添加剤を用いることができる。
発泡剤は、例えば、水、低沸点の有機溶剤(シクロペンタン、ジクロロメタン等)、ハロゲン化炭化水素、これらの混合液等が用いられる。なお、ウレタンの発泡には、ポリオールやプレポリマーを空気や窒素を用いて気泡を巻き込む方法も取り得る。
触媒は、例えば、アミン系触媒やスズ系等の金属触媒が用いられる。
整泡剤は、例えば、ポリジメチルシロキサンとポリオキシアルキレンポリオールの共重合体を代表例としたシリコーン系化合物が用いられる。
【0025】
第1成形体4の成形条件としては、加熱温度が好ましくは30~150℃、より好ましくは40~90℃であり、加熱時間が好ましくは5分~120分、より好ましくは10分~60分である。また、成形時点で化学結合レベルでは硬化が十分に完了していないので、後工程としてアフターキュアを行うことが好ましく、その場合の加熱温度は40~90℃、加熱時間は8時間~72時間が好ましい。
なお、第1原料の種類や添加量、反応圧力、ポリオールとポリイソシアネートの配合比率等を適宜調整することにより第1成形体4の硬さを調整することができる。
【0026】
第2原料は、原料ゴムでもよいが、ウレタン原料であることが好ましく、例えば、ポリオール、ポリイソシアネート及び必要に応じて鎖延長剤を含む混合原液が挙げられる。また、発泡剤、触媒、整泡剤等の周知の添加剤を用いることができる。
なお、ポリオール、イソシアネート、鎖延長剤、及び添加剤としては、第1原料で例示したものを挙げることができる。
【0027】
本実施形態では、第1原料及び第2原料がいずれもウレタン原料であることが好ましく、第2原料が樹脂化反応する際に、前記第1成形体4と反応接着させることができ、第1成形体4と第2成形体6との接着強度を高めることができる。第1成形体4と第2成形体6との接着強度をより高めるために、脱脂処理、サンディング処理、プライマー、接着剤等を適宜使用しても良いが、ウレタン樹脂の反応接着のみで第1成形体4と第2成形体6を接着させる場合には、接着剤等を使用する工程が不要となるため、作業効率をさらに向上させることができる。
【0028】
また、軌道パッド用金型10内の原料導入部1のサイズを拡大し生じた空間5に第2原料を導入するタイミングとしては、第1成形体4の収縮を抑制する観点から、第1成形体4の成形工程後1時間以内であることが好ましく、30分以内であることがより好ましい。
【0029】
第2成形体6の成形条件としては、加熱温度が好ましくは20~100℃、より好ましくは30~60℃であり、加熱時間が好ましくは5分~120分、より好ましくは10分~60分である。また、成形時点で化学結合レベルでは硬化が十分に完了していないので、後工程としてアフターキュアを行うことが好ましく、その場合の加熱温度は30~60℃、加熱時間は8時間~72時間が好ましい。
なお、第2原料の種類や添加量、反応圧力、ポリオールとポリイソシアネートの配合比率等を適宜調整することにより第2成形体6の硬さを調整することができる。
【0030】
このようにして得られる軌道パッドを構成する第1成形体4及び第2成形体6は、防振性能を高める観点から、一方が軟質層からなり、他方が硬質層からなることが好ましく、さらに、機械的強度を高める観点から、第1成形体4が軟質層からなり、第2成形体6が硬質層からなることが好ましい。
【0031】
次に、第二実施形態にかかる軌道パッドの製造方法を、図6図9を用いて説明する。
図6は、本発明の第二実施形態にかかる軌道パッドの製造方法に用いられる軌道パッド用金型20の模式図である。軌道パッド用金型20において、第一実施形態にかかる軌道パッドの製造方法に用いられる軌道パッド用金型10と異なる点は、第2金型eにおいて、原料導入部11の一対の側面に、原料導入部11の容積を増減可能なスペーサー13a、13bが設けられている点である。
軌道パッド用金型20では、スペーサー12を有する第1金型dを、スペーサーを有さない金型f(後述する図8参照)に交換し、第2金型eが有するスペーサー13a、13bを取り除くことにより、該原料導入部11の容積を増加させることができる。
なお、上記説明では、スペーサー12を有する第1金型dを、スペーサーを有さない金型fに交換することにより、原料導入部11の容積を増加させているが、第1金型dが有するスペーサー12を取り除くことにより、該原料導入部11の容積を増加させてもよい。
【0032】
図7は、図6に示す軌道パッド用金型20内に第1原料を導入し第1成形体14を成形した状態を示す該軌道パッド用金型20のVII-VII線に沿う概略断面図である。但し、図7は、第1金型dと、第2金型eとを型締めした状態を示す。また、図7中、図6における軌道パッド用金型20が有する取っ手Tは省略する。
図8は、図7に示す軌道パッド用金型20において、原料導入部11の容積を増加させ第1金型f及び前記スペーサー13a、13bを取り除いた第2金型eと第1成形体14との間に第2原料を導入する空間15を生じさせた状態を示す該軌道パッド用金型20の概略断面図であり、図9は、図8に示す軌道パッド用金型20において、第1金型f及び前記スペーサー13a、13bを取り除いた第2金型eと第1成形体14との間に生じた空間15に第2原料を導入し第2成形体16を成形した状態を示す該軌道パッド用金型20の概略断面図である。
まず、軌道パッド用金型20内の原料導入部11に、第1原料を導入し第1成形体14を成形する(図7参照)。次いで、スペーサー12を有する第1金型dを、スペーサーを有さない第1金型fに交換し、第2金型eが有するスペーサー13a、13bを取り除くことで、原料導入部11の容積が増加し、軌道パッド用金型20の第1金型f及び第2金型eと、第1成形体14との間に空間15が形成される(図8参照)。この空間15に第2原料を導入し第2成形体16を成形することにより、本実施形態の軌道パッドを得ることができる(図9参照)。
なお、第二実施形態にかかる軌道パッドの製造方法において、用いられる第1原料及び第2原料は第一実施形態と同様である。
【0033】
上記軌道パッド用金型20では、第1金型dが有するスペーサー12を、スペーサーを有さない金型fに交換ことにより、該原料導入部11の容積を増加させているが、第1金型dが有するスペーサー12の代わりに第一実施形態で説明した可動部(図示されない)を設け、該可動部を所定の位置まで移動させることにより、該原料導入部11の容積を増加させてもよい。
【実施例
【0034】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
(1-i:第1成形体の成形)
図3に示す、スペーサー2を有する第1金型a及び第2金型bからなる金型内の原料導入部1に、表1-1に記載の各成分を該質量部で配合した第1原料を導入し、65℃で35分間加熱し第1成形体4を成形した。次いで、金型から第1金型aを外し、第2金型b内で第1成形体4を室温(25℃)で30分間放置した。
【0036】
(1-ii:第2成形体の成形)
次いで、第1成形体4を脱型することなく、第2金型bが有する可動部3a、3bを所定の位置まで移動させ、該第2金型bにスペーサー2を有さない第1金型cを取り付け、該第2金型bと該第1金型cとを組み合わせることで、第1成形体4と第1金型c及び前記可動部3a、3bとの間に空間5を生じさせた(図4参照)。該空間5に、表1-2に記載の各成分を該質量部で配合した第2原料を導入し、45℃で35分間加熱し第2成形体6を成形し、第1成形体4と第2成形体6とが一体となった実施例1の軌道パッドを製造した。
上記実施例1を2サンプル作製し、それぞれサンプル1-1、サンプル1-2とした。
【0037】
(1-iii:第1成形体の寸法測定)
上記サンプル1-1、及びサンプル1-2とは別に寸法測定用の第1成形体4を2サンプル(サンプル1-1用、サンプル1-2用)作製した。すなわち、上記(1-i)において、第2金型b内で室温(25℃)30分間放置した直後に、第1成形体4を脱型して、該第1成形体4の寸法を測定した。該測定は、図10に示す横A-B、横<1>-<2>、横<3>-<4>、縦<1>-<3>、縦<2>-<4>、<1>の箇所の厚み、<2>の箇所の厚み、<3>の箇所の厚み、<4>の箇所の厚みについてそれぞれ物差しを使用して目視により行った。得られた測定値より算出した、金型内寸に対する変化量及びその割合を表2-1に示す。
【0038】
(実施例2)
実施例1の上記(1-i)及び(1-ii)において、第1成形体4を室温(25℃)で60分間放置した以外は、実施例1と同様にして実施例2の軌道パッドを2サンプル作製し、それぞれサンプル2-1、サンプル2-2とした。また、実施例1の(1-i)及び(1-iii)において、第1成形体4を室温(25℃)で60分間放置した以外は、実施例1と同様にして実施例2の寸法測定用の第1成形体4を2サンプル作製し(サンプル2-1用、サンプル2-2用)、その寸法を測定した。得られた測定値より算出した、金型内寸に対する変化量及びその割合を表2-2に示す。
【0039】
(比較例1)
実施例1の上記(1-i)及び(1-iii)において、金型から第1金型aを外したのち、さらに第2金型bから第1成形体4を脱型し、該第1成形体4を可動部3a、3bを所定の位置まで移動させた別の第2金型b内に嵌め、室温(25℃)で30分間放置した以外は、実施例1と同様にして比較例1の軌道パッドを製造し、第1成形体4の寸法を測定した。比較例1を2サンプル作製し、それぞれサンプル3-1、サンプル3-2とした。得られた測定値より算出した、金型内寸に対する変化量及びその割合を表2-1に示す。
【0040】
(比較例2)
比較例1において、第1成形体4を室温(25℃)で60分間放置した以外は、比較例1と同様にして比較例2の軌道パッドを製造し、第1成形体4の寸法を測定した。比較例2を2サンプル作製し、それぞれサンプル4-1、サンプル4-2とした。得られた測定値より算出した、金型内寸に対する変化量及びその割合を表2-2に示す。
【0041】
【表1-1】
【0042】
【表1-2】
【0043】
【表2-1】
【0044】
【表2-2】
【0045】
本発明の製造方法により得られる第1成形体4は、成形後30分経過しても収縮による変化がなく、また、60分経過後においても収縮割合が0.1~0.2%と少なく、形状安定性に優れることがわかった。
【符号の説明】
【0046】
10、20.軌道パッド用金型
S、T.取っ手
a、c、d、f.第1金型
b、e.第2金型
1、11.原料導入部
2、12、13a、13b.スペーサー
3a、3b.可動部
4、14.第1成形体
5、15.空間
6,16.第2成形体
x.中央部形成用空間
y.立ち壁部形成用空間
h1.中央部形成用空間xの高さ
h2.中央部形成用空間xのうち立ち壁部形成用空間yに連なる部分の高さ
h3.立ち壁部形成用空間yの高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10