(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】建物内生息害虫防除方法、および建物内生息害虫防除用組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 37/22 20060101AFI20220524BHJP
A01N 25/06 20060101ALI20220524BHJP
A01N 25/18 20060101ALI20220524BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
A01N37/22 101
A01N25/06
A01N25/18 103A
A01P7/04
(21)【出願番号】P 2019510009
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012888
(87)【国際公開番号】W WO2018181533
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2017072196
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303020956
【氏名又は名称】三井化学アグロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】野村 路一
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】宮地 隆太
(72)【発明者】
【氏名】三木 彩雅
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真也
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/018714(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/166252(WO,A1)
【文献】特開2011-157296(JP,A)
【文献】特開2014-181188(JP,A)
【文献】特開2010-035522(JP,A)
【文献】特開2014-101349(JP,A)
【文献】特開2002-186400(JP,A)
【文献】特開2002-338404(JP,A)
【文献】特開2002-020202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/22
A01N 25/06
A01N 25/18
A01P 7/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、Qは無置換のフェニル基または一つのフッ素原子で2位、3位又は4位が置換されたフェニル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Y
1およびY
2はそれぞれ独立に、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフルオロメチル基を表す。)で表されるアミド誘導体の少なくとも1種を有効成分として含有する
抵抗性建物内生息害虫防除用組成物を
、一般式(1)で表されるアミド誘導体の量に換算して、建物内の体積(m
3
)当たり5~100mgで建物内の空間に処理することを特徴とする、
抵抗性建物内生息害虫防除方法。
【請求項2】
前記一般式(1)中、Y
1はトリフルオロメチル基を表し、Y
2は臭素原子またはヨウ素原子を表す、請求項1に記載の
抵抗性建物内生息害虫防除方法。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるアミド誘導体が、2-フルオロ-3-(N-メチルベンズアミド)-N-(2-ブロモ-6-トリフルオロメチル-4-(ヘプタフルオロプロパン-2-イル)フェニル)ベンズアミドである、請求項2に記載の
抵抗性建物内生息害虫防除方法。
【請求項4】
防除される
抵抗性建物内生息害虫が、クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)、トコジラミ(Cimex lectularius)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)およびケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3の何れか一項に記載の
抵抗性建物内生息害虫防除方法。
【請求項5】
前記
抵抗性建物内生息害虫防除用組成物が全量噴射型エアゾール剤であり、前記全量噴射型エアゾール剤を建物内の空間に噴霧処理することを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の
抵抗性建物内生息害虫防除方法。
【請求項6】
前記
抵抗性建物内生息害虫防除用組成物が燻煙剤であり、前記燻煙剤を建物内の空間に燻煙処理することを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の
抵抗性建物内生息害虫防除方法。
【請求項7】
下記一般式(1)
【化2】
(式中、Qは無置換のフェニル基または一つのフッ素原子で2位、3位又は4位が置換されたフェニル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Y
1およびY
2はそれぞれ独立に、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフルオロメチル基を表す。)で表されるアミド誘導体の少なくとも1種を有効成分として含有
し、一般式(1)で表されるアミド誘導体の量に換算して、建物内の体積(m
3
)当たり5~100mgで建物内の空間に処理するための、抵抗性建物内生息害虫防除用組成物。
【請求項8】
前記一般式(1)中、Y
1はトリフルオロメチル基を表し、Y
2は臭素原子またはヨウ素原子を表す、請求項7に記載の
抵抗性建物内生息害虫防除用組成物。
【請求項9】
前記一般式(1)で表されるアミド誘導体が、2-フルオロ-3-(N-メチルベンズアミド)-N-(2-ブロモ-6-トリフルオロメチル-4-(ヘプタフルオロプロパン-2-イル)フェニル)ベンズアミドである、請求項8に記載の
抵抗性建物内生息害虫防除用組成物。
【請求項10】
防除される
抵抗性建物内生息害虫が、クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)、トコジラミ(Cimex lectularius)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)およびケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項7~9の何れか一項に記載の
抵抗性建物内生息害虫防除用組成物。
【請求項11】
前記
抵抗性建物内生息害虫防除用組成物が全量噴射型エアゾール剤または燻煙剤である、請求項7~10の何れか一項に記載の
抵抗性建物内生息害虫防除用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物内に生息する害虫を防除するための、建物内生息害虫防除用組成物、および建物内生息害虫防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物内に生息する害虫を防除する方法として、害虫防除成分を含有する組成物を害虫に対して直接スプレーする方法や、害虫防除成分を含有する組成物を建物内に燻蒸または燻煙処理する方法等が用いられてきた。害虫防除成分としては、ピレスロイド系化合物やカーバメート系化合物等が知られている。ピレスロイド系化合物は、ノックダウン作用を有するため害虫に対する即効性に優れており、かつ忌避効果を有することも知られている。また、ピレスロイド系化合物は分解が速く、人畜に対する安全性にも優れている。
しかし、ピレスロイド系化合物に対して抵抗性を獲得した害虫が出現しており問題となっている。
【0003】
また、害虫防除作用を有するアミド誘導体として種々の化合物およびその使用方法が開示されている(例えば、特許文献1~3参照)。特許文献1~3には、特定の化学構造を有するアミド誘導体が建物内生息害虫を防除しうる旨が記されているものの、具体的に有効な薬量及び使用方法の詳細については開示されておらず、上記アミド誘導体を用いた建物内生息害虫防除方法については、実質的に開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2010/018714号
【文献】国際公開第2007/013150号
【文献】国際公開第2016/166252号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたとおり、建物内生息害虫を防除するために、前記の建物内生息害虫防除方法では十分ではなく、改良の余地がある。例えば、抵抗性を獲得した建物内生息害虫の防除方法や、長期残効性を有する薬剤や防除方法の開発は殆ど知られていない。
【0006】
したがって本発明は、持続性に優れ、かつ抵抗性建物内生息害虫に対しても有効な、建物内生息害虫防除方法、および建物内生息害虫防除用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するため手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、一般式(1)で表されるアミド誘導体が、忌避効果を示さず、熱などに比較的安定であり、遅効的な作用を有し、残効性に優れることを見出した。
そのため、一般式(1)で表されるアミド誘導体を有効成分として含有する建物内生息害虫防除用組成物によって建物内の空間を処理することにより、長期間にわたり建物内生息害虫防除が可能で、かつ、ドミノ効果も期待できることを見出した。また、一般式(1)で表されるアミド誘導体を有効成分として含有する建物内生息害虫防除用組成物が、抵抗性建物内生息害虫に対しても有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
<1> 下記一般式(1)
【化1】
(式中、Qは無置換のフェニル基または一つのフッ素原子で2位、3位又は4位が置換されたフェニル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Y
1およびY
2はそれぞれ独立に、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフルオロメチル基を表す。)で表されるアミド誘導体の少なくとも1種を有効成分として含有する建物内生息害虫防除用組成物を建物内の空間に処理することを特徴とする、建物内生息害虫防除方法。
【0009】
<2> 前記一般式(1)中、Y1はトリフルオロメチル基を表し、Y2は臭素原子またはヨウ素原子を表す、<1>に記載の建物内生息害虫防除方法。
【0010】
<3> 前記一般式(1)で表されるアミド誘導体が、2-フルオロ-3-(N-メチルベンズアミド)-N-(2-ブロモ-6-トリフルオロメチル-4-(ヘプタフルオロプロパン-2-イル)フェニル)ベンズアミドである、<2>に記載の建物内生息害虫防除方法。
【0011】
<4> 防除される建物内生息害虫が、クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)およびトコジラミ(Cimex lectularius)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)およびケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、<1>~<3>の何れか一項に記載の建物内生息害虫防除方法。
【0012】
<5> 前記建物内生息害虫防除用組成物が全量噴射型エアゾール剤であり、前記全量噴射型エアゾール剤を建物内の空間に噴霧処理することを特徴とする、<1>~<4>の何れか一項に記載の建物内生息害虫防除方法。
【0013】
<6> 前記建物内生息害虫防除用組成物が燻煙剤であり、前記燻煙剤を建物内の空間に燻煙処理することを特徴とする、<1>~<4>の何れか一項に記載の建物内生息害虫防除方法。
【0014】
<7> 下記一般式(1)
【化2】
(式中、Qは無置換のフェニル基または一つのフッ素原子で2位、3位又は4位が置換されたフェニル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Y
1およびY
2はそれぞれ独立に、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフルオロメチル基を表す。)で表されるアミド誘導体の少なくとも1種を有効成分として含有する建物内生息害虫防除用組成物。
【0015】
<8> 前記一般式(1)中、Y1はトリフルオロメチル基を表し、Y2は臭素原子またはヨウ素原子を表す、<7>に記載の建物内生息害虫防除用組成物。
【0016】
<9> 前記一般式(1)で表されるアミド誘導体が、2-フルオロ-3-(N-メチルベンズアミド)-N-(2-ブロモ-6-トリフルオロメチル-4-(ヘプタフルオロプロパン-2-イル)フェニル)ベンズアミドである、<8>に記載の建物内生息害虫防除用組成物。
【0017】
<10> 防除される建物内生息害虫が、クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)およびトコジラミ(Cimex lectularius)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)およびケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、<7>~<9>の何れか一項に記載の建物内生息害虫防除用組成物。
【0018】
<11> 前記建物内生息害虫防除用組成物が全量噴射型エアゾール剤または燻煙剤である、<7>~<10>の何れか一項に記載の建物内生息害虫防除用組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、殺虫性、持続性に優れ、かつ抵抗性建物内生息害虫に対しても有効な、建物内生息害虫防除方法および建物内生息害虫防除用組成物を提供することができる。
本発明の組成物および防除方法は、処理区域から害虫を逃避させることがなく、しかも長期間殺虫効果が持続するため、より徹底した建物内生息害虫防除が達成される。また、組成物の処理の頻度を従来よりも減らすことが期待できる。
本発明の組成物および防除方法は、組成物に接触した害虫が、組成物を害虫の巣に持ち帰り、巣に潜む害虫までも駆除する効果(ドミノ効果)が期待できる。
更に、本発明の組成物を全量噴射型エアゾール剤、または燻煙剤とすることにより、組成物を建物内のあらゆる場所に到達させることが可能となるため、本発明の効果の発現にとって、より有効である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例において使用した試験室およびスリットボックスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、発明の実施形態を説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
【0022】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0023】
本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0024】
本明細書における化学構造式は、水素原子を省略した簡略構造式で記載する場合がある。
【0025】
本発明に係る建物内生息害虫防除用組成物(以下、単に「組成物」とも称する。)は、下記一般式(1)で表されるアミド誘導体の少なくとも1種を有効成分として含有する。かかる構成であることにより、本発明に係る組成物によって建物内の空間等を処理することで、持続性に優れ、かつ抵抗性建物内生息害虫に対しても有効であり、高い建物内生息害虫防除効果を示すことができる。
【0026】
【0027】
一般式(1)中、Qは無置換のフェニル基または一つのフッ素原子で2位、3位又は4位が置換されたフェニル基を表す。即ちフッ素原子で置換されたフェニル基とは、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基が例示される。
置換基Qとしては、好ましくは、無置換のフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、4-フルオロフェニル基である。
【0028】
一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。
【0029】
一般式(1)中、Y1およびY2はそれぞれ独立に、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフルオロメチル基を表す。好ましくは、Y1はトリフルオロメチル基を表し、Y2は臭素原子またはヨウ素原子を表す。
【0030】
置換基Q、R、Y1およびY2の任意の組み合わせは、本明細書の記載の範囲に含まれる。
【0031】
本発明に用いる一般式(1)で表されるアミド誘導体は、その構造式中に、1個または複数個の不斉炭素原子または不斉中心を含む場合があり、2種以上の光学異性体が存在する場合もあるが、各々の光学異性体及びそれらが任意の割合で含まれる混合物をも全て包含するものである。また、本発明に用いる一般式(1)で表されるアミド誘導体は、その構造式中に、炭素-炭素二重結合に由来する2種以上の幾何異性体が存在する場合もあるが、各々の幾何異性体及びそれらが任意の割合で含まれる混合物をも全て包含するものである。
【0032】
一般式(1)で表される化合物は、以下の式(2)で表される2-フルオロ-3-(N-メチルベンズアミド)-N-(2-ブロモ-6-トリフルオロメチル-4-(ヘプタフルオロプロパン-2-イル)フェニル)ベンズアミドであることが好ましい。
【0033】
【0034】
本発明で用いる一般式(1)で表されるアミド誘導体は、例えば、国際公開第2010/013567号等の明細書に記載の方法に準じて製造することができる。
【0035】
本発明で用いる一般式(1)で表されるアミド誘導体は、忌避効果が低いため、建物内生息害虫が処理区域から逃避することなく、処理した組成物に接触する頻度が増し、遅効性と相まって、ベッド内部、寝具、薬剤組成物が到達しにくい場所、害虫の繁殖場所、いわゆる害虫の巣に薬剤を生きたまま持ち帰ることが可能であり、このことにより、ドミノ効果を発揮することが可能となる。
【0036】
本発明において建物とは、戸建て住戸、集合住宅はもとより、飲食店、商店、事務所、工場、病院、宿泊施設、等の主に人が活動する建築物を指し、建物内とは、そのような建物の室内や、階段、廊下など、建物の内部全体または部屋等の一部を指す。
【0037】
そして、建物内の空間とは、上記の建物内の内部空間全体及び部分を指し、建物内の空中、建物内を構成している壁の表面、床面、天井表面、箪笥、ソファーやベッド等の家具とこれら表面との間の空間はもとより、壁の内部空間、天井裏、床下を包含する。
【0038】
本発明の建物内生息害虫防除方法により防除される建物内生息害虫とは、人間の生活上有害な生物であり、家屋害虫、住宅害虫、室内害虫、家庭害虫等と呼ばれる害虫を包含する。そのようなものとして、具体的には例えば、以下の害虫を挙げることができるが、本発明における建物内生息害虫としてはこれらに限定されるものではない。本発明の防除対象とする代表的な建物内生息害虫としては、ゴキブリ類、シラミ類、ノミ類、ダニ類が挙げられる。
【0039】
ゴキブリ目(Blattodea)として、クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)、ヤマトゴキブリ(Periplaneta japonica)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)、ワモンゴキブリ(Periplaneta Americana)等、
カメムシ目(Hemiptera)として、トコジラミ(Cimex lectularius)、タイワントコジラミ(Cimex hemipterus)等、
ノミ目(Siphonaptera)として、ネコノミ(Ctenocephalidae felis)、イヌノミ(Ctenocephalides canis)、ニワトリノミ(Echidnophaga gallinacea)、ヒトノミ(Pulex irritans)、ケオプスネズミノミ(Xenopsylla cheopis)等、
ダニ目(Acari)として、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)等のヒョウヒダニ類、ケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)、コウノホシカダニ(Lardoglyphus konoi)、ムギコナダニ(Aleuroglyphus ovatus)等のコナダニ類、
などが挙げられる。
【0040】
上記の中で、本発明の防除対象として特に好適な建物内生息害虫としては、クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)、トコジラミ(Cimex lectularius)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)およびケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)が例示される。
【0041】
また本発明に係る組成物は、一般式(1)で表されるアミド誘導体に加えて、一般的に知られている他の殺虫成分(害虫防除成分)及び/又は共力剤をさらに1種または2種以上含有していてもよい。他の殺虫成分としては、例えば、
dd-T-シフェノトリン、アクリナトリン、ペルメトリン、フェノトリン、d-フェノトリン、アレスリン、d-アレスリン、dd-アレスリン、ピレトリン、プラレトリン、シフェノトリン、シフルトリン、ベータシフルトリン、ビフェントリン、シクロプロトリン、シハロトリン、ラムダシハロトリン、ガンマシハロトリン、シペルメトリン、シグマシペルメトリン、アルファシペルメトリン、ゼータシペルメトリン、ジメフルトリン、エンペントリン、デルタメトリン、テラレスリン、テフルトリン、フェンバレレート、エスフェンバレレート、フルシトリネート、フルフェンプロックス、フルメトリン、フルバリネート、タウフルバリネート、プロフルトリン、ハルフェンプロックス、イミプロトリン、ベンフルスリン、レスメトリン、d-レスメトリン、シラフルオフェン、トラロメトリン、テトラメトリン、d-テトラメトリン、フラメトリン、メトフルトリン、フェンプロパトリン、トランスフルトリン、エトフェンプロックス等のピレスロイド系化合物、
アセフェート、ブタチオホス、クロルエトキシホス、クロルフェンビンホス、クロルピリホス、クロルピリホスメチル、シアノホス、ダイアジノン、DCIP、ジクロフェンチオン、ジクロルボス、ジメトエート、ジメチルビンホス、ジスルホトン、EPN、エチオン、エトプロホス、エトリムホス、フェンチオン、フェニトロチオン、ホスチアゼート、ホルモチオン、イソフェンホス、イソキサチオン、マラチオン、メスルフェンホス、メチダチオン、モノクロトホス、ナレッド、パラチオン、ホサロン、ホスメット、ピリミホスメチル、ピリダフェンチオン、キナルホス、フェントエート、プロフェノホス、プロパホス、プロチオホス、ピラクロホス、サリチオン、スルプロホス、テメホス、テルブホス、トリクロルホン、カズサホス等の有機リン系化合物、
フィプロニル等のN-フェニルピラゾール系化合物、
プロポクスル、アラニカルブ、ベンフラカルブ、BPMC、カルバリル、カルボフラン、カルボスルファン、クロエトカルブ、エチオフェンカルブ、フェノブカルブ、メソミル、メチオカルブ、NAC、オキサミル、ピリミカーブ、XMC、チオジカルブ、キシリカルブ、アルジカルブ等のカーバメート系化合物、
メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物、
イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、ジノテフラン、アセタミプリド、ニテンピラム、チアクロプリド等のネオニコチノイド系化合物、
ピリプロキシフェン、メトプレン、ハイドロプレン、フェノキシカルブ、エトキサゾール、クロルフルアズロン、トリアズロン、ノバルロン、ヘキサフルムロン、ジフルベンズロン、シロマジン、フルフェノクスロン、テフルベンズロン、トリフルムロン、ルフェヌロン等の昆虫成長制御剤、
ミルベマイシン、アバメクチン、イベルメクチン等のマクロライド系化合物、
クロラントラニリプロール、シアントラニリプロール、シクラニリプロール、テトラニリプロール、フルベンジアミド、シハロジアミド等のジアミド系化合物、
を例示することができる。
【0042】
共力剤としては、例えば、ピペロニルブトキサイド、O-プロパルギル-O-プロピルフェニルホスホネート(NIA16388)、イソボルニルチオシアノアセテート(IBTA)、N-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]-ヘプタ-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド(MGK-264)、2,2’,3,3,3,3’,3’,3’-オクタクロロジプロピルエーテル(S-421)、サイネピリン500、プロピルアイソム、ピペロニルシクロネン、セサモリン、セサメックス、セサミン、サルホキサイド、サフロキサン、安息香酸ベンジル等の化合物を例示することができる。
【0043】
一般式(1)で表されるアミド誘導体は本発明の組成物中に好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.05~20質量%となるように配合するのがよい。
【0044】
さらに本発明の組成物中における一般式(1)で表されるアミド誘導体と他の殺虫成分の配合比としては、質量比で、一般式(1)で表されるアミド誘導体:他の殺虫成分=1:0.05~20であることが好ましい。
【0045】
本発明の組成物は、各種製剤として用いることができる。例えば、エアゾール剤、スプレー剤、全量噴射型エアゾール剤、加熱蒸散剤、燻煙剤、液剤、粉剤等が挙げられる。これらの製剤とするには、例えば、水、エタノール、プロパノール等のアルコール、エステル、エーテル、ケロシン等の炭化水素系溶剤、POEアルキルエーテル、POE硬化ヒマシ油、アルキル硫酸塩、四級アンモニウム塩等の界面活性剤、液化石油ガス、ジメチルエーテル、代替フロン等の噴射剤、タルク、シリカ、カオリン等の無機化合物、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の粘結剤等を用いて、混合や撹拌、造粒や打錠等により各種製剤とすることができる。さらに必要に応じて、噴霧装置を備えたハンドスプレー容器やエアゾール缶、電気ヒーターや発熱剤を用いた加熱蒸散装置等により建物内に本発明の組成物を処理して建物内生息害虫を防除することができる。
【0046】
建物内の空間への本発明の組成物の処理は、上記の組成物をその剤型に適した方法、それぞれの製剤で通常行われる方法で薬剤を処理することにより達成される。
【0047】
本発明の組成物の処理量は、建物内生息害虫の種類や発生数、組成物の剤型や助剤の種類や配合量により適宜変更可能であるが、一般式(1)で表されるアミド誘導体の量に換算して、建物内の体積(m3)当たり5~100mgが好ましく、より好ましくは10~50mgである。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
<全量噴射型エアゾール剤>
式(2)の化合物を1.67w/v%含む無水エタノール30mlと、ジメチルエーテル70mlとを容器に充填し、全量噴射型エアゾール剤とした。
【0049】
[実施例2]
<全量噴射型エアゾール剤>
式(2)の化合物を3.33w/v%含む無水エタノール30mlと、ジメチルエーテル70mlとを容器に充填し、全量噴射型エアゾール剤とした。
【0050】
[実施例3]
<加水発熱型の燻煙剤>
式(2)の化合物5w/w%、デンプン2w/w%およびアゾジカルボンアミド93w/w%を含む組成物を造粒し顆粒剤とした。該顆粒剤10gと酸化カルシウム65gとを容器に充填し、加水発熱型の燻煙剤とした。
【0051】
[実施例4]
<加水発熱型の燻煙剤>
式(2)の化合物10w/w%、デンプン2w/w%およびアゾジカルボンアミド88w/w%を含む組成物を造粒し顆粒剤とした。該顆粒剤10gと酸化カルシウム65gとを容器に充填し、加水発熱型の燻煙剤とした。
【0052】
次に、本発明の建物内生息害虫防除方法の有用性について、以下の試験例において具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0053】
<試験例1>抵抗性建物内生息害虫に対する薬効試験
供試薬剤:式(2)で表される化合物
供試虫:チャバネゴキブリ(Blattella germanica)渡田コロニー(感受性系統)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)浜松町コロニー(抵抗性系統)、トコジラミ(Cimex lectularius)帝京大コロニー(感受性系統)、トコジラミ(Cimex lectularius)千葉コロニー(抵抗性系統)
殺虫試験:式(2)で表される化合物のアセトン溶液を、局所施用装置を用いて対象昆虫雌成虫の胸部に施用した。チャバネゴキブリは6日後に、トコジラミは3日後に死虫率を調査し、半数致死薬量を求めた。更に、以下の式により抵抗性比を算出した。
【0054】
抵抗性比=抵抗性系統の半数致死薬量/感受性系統の半数致死薬量
【0055】
結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
トコジラミに対するエトフェンプロックスの抵抗性比は10000以上であったことから、本発明の組成物の優位性が示された。
【0058】
<試験例2>各種建物内生息害虫に対する直接暴露試験
検体:実施例1の全量噴射型エアゾール剤、実施例3の加水発熱型の燻煙剤、実施例4の加水発熱型の燻煙剤
供試虫:クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)兵庫コロニー(抵抗性系統)、トコジラミ(Cimex lectularius)千葉コロニー(抵抗性系統)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pter onyssinus)、ケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)
試験方法:13m
2の試験室に32m
3(1回)/hの換気率で、
図1に示すように配置した試験室内のスリットボックス外とスリットボックス内にゴキブリは10頭、トコジラミは5頭ないし10頭を供試し、検体を試験室中央で処理した2時間後に清潔なプラスチックカップ内に供試虫を回収した。供試虫の回収は、供試場所の区別毎に回収した。即ち、スリットボックス外に供試した個体(オープン)、スリットボックス内に供試し、内部に留まった個体(スリット内)別に供試虫を回収し、それぞれ24時間後および48時間後に生死を調査し、致死率を算出した。ヤケヒョウヒダニおよびケナガコナダニは、スリットボックス外に約100~500頭を供試し、検体を試験室中央で処理した。2時間後に試験室から供試虫を回収し、75%RHの調湿バット中に入れ、24時間後および48時間後に生死を調査し、致死率を算出した。
【0059】
結果を表2に示す。
【0060】
【0061】
本発明の組成物は、建物内生息害虫、特に抵抗性を有する建物内生息害虫に対して高い防除効果を示した。また、本発明に係るアミド誘導体以外の有効成分を用いて同様の試験を行った場合に比べて、本発明の組成物はそれら薬剤に優る防除効果を示した。
【0062】
<試験例3>各種建物内生息害虫に対する残効性試験
検体:実施例2の全量噴射型エアゾール剤、実施例4の加水発熱型の燻煙剤
供試虫:クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)兵庫コロニー(抵抗性系統)、トコジラミ(Cimex lectularius)千葉コロニー(抵抗性系統)
試験方法:13m2の試験室に32m3(1回)/hの換気率で、底面にろ紙を貼付したプラスチックカップ及び化粧板を試験室内に設置し、検体を試験室中央で処理した。2時間後に処理済みプラスチックカップ及び化粧板を回収し、25℃で試験室内に静置して保管した。2週間後および4週間後に、処理済みプラスチックカップ内にトコジラミを10頭ずつ、化粧板上にはゴキブリを9~10頭供試し、24時間後および48時間後に生死を調査し、致死率を算出した。
【0063】
結果を表3に示す。
【0064】
【0065】
本発明の組成物は、建物内生息害虫、特に抵抗性を有する建物内生息害虫に対して優れた残効性を示した。また、本発明に係るアミド誘導体以外の有効成分を用いて同様の試験を行った場合に比べて、本発明の組成物はそれら薬剤に優る効果を示した。
また、本発明の組成物は、結果的に優れた殺虫効果を示すが、効果の発現が緩やかで、やや遅効的に殺虫作用を示すことが分かった。
【0066】
<試験例4>加熱揮散試験
検体:式(2)で表される化合物
供試虫:チャバネゴキブリ(Blattella germanica)渡田コロニー(感受性系統)
試験方法:13m
2の試験室に32m
3(1回)/hの換気率で 、
図1に示すように配置した試験室内のスリットボックス外とスリットボックス内にゴキブリ10頭を供試し、検体1gを300℃で加熱した。15時間後に、供試虫の生死を調査し、致死率を算出した。
【0067】
試験の結果、スリットボックス外とスリットボックス内は共にチャバネゴキブリの致死率が100%であり、有効量が揮散していることがわかった。
【0068】
一般式(1)で表されるアミド誘導体は熱で分解し難く、かつ揮散によってもチャバネゴキブリに対して優れた致死率が示された。
【0069】
<試験例5>忌避性試験
検体:式(2)で表される化合物、エトフェンプロックス(対照剤)
供試虫:チャバネゴキブリ(Blattella germanica)伝研コロニー(感受性系統)
試験方法:アセトンで希釈した試験化合物を直径12cmのガラス製円盤上に0.3μg/cm2になるように処理し乾燥させた。内径6cm×高さ0.5cmのペット製カップに切り込みを入れて入り口を作りガラス円盤にかぶせシェルターを作った。30cm×15cmアクリル製箱の中央に無処理および薬剤処理シェルターを配置し、井水およびラット飼料を餌として加え、チャバネゴキブリ雌雄各15頭を放飼した。7日後の生存虫数、死亡虫数、苦悶虫数および生息場所を調査した。更に、以下の式によりKD(ノックダウン)率および忌避率を算出した。
KD率(%)=(死亡虫数+苦悶虫数)/放試虫数×100
忌避率(%)=(1-処理区ゴキブリ頭数/(処理区ゴキブリ頭数+無処理区ゴキブリ頭数))×100
【0070】
結果を表4に示す。
【0071】
【0072】
伝研系チャバネゴキブリは、式(2)の化合物およびエトフェンプロックスが0.3μg/cm2の濃度に処理されたガラス円盤に強制接触させると48時間以内に100%ノックダウンする。本試験において、対照剤のエトフェンプロックスは7日後も生存虫が観察されることから、忌避効果を有することが示された。一方、式(2)で表される化合物は100%ノックダウンしたことから、忌避効果を有さないことが示された。
【0073】
<試験例6>ドミノ効果試験
検体:実施例4の加水発熱型の燻煙剤
供試虫:トコジラミ(Cimex lectularius)帝京大コロニー(感受性系統)
試験方法:13m2の試験室に32m3(1回)/hの換気率で、腰高シャーレを設置し、検体を試験室中央で処理した。2時間後に処理済み腰高シャーレを回収し、トコジラミ1頭を放ち、4時間馴化させた。その後、トコジラミが5頭供試されている無処理の腰高シャーレに、馴化させたトコジラミを放した。72時間後に、薬剤処理した腰高シャーレに接触していないトコジラミの生死を調査し、致死率を算出した。試験は3反復行った。
結果、致死率は66.7%であった。
【0074】
本発明の組成物はドミノ効果を有することを確認した。
【0075】
<試験例7>実地効力試験
検体:実施例4の加水発熱型の燻煙剤
対象害虫:チャバネゴキブリ
実施場所:飲食店舗
面積:厨房16.57m2、その他77.57m2、合計94.14m2
処理検体数:8缶
試験方法:処理前に以下の式で算出されるゴキブリ指数を調査した。店舗内8箇所に検体を置き、燻煙処理の後、喚気しないで11時間密閉状態とし、処理翌日から継時的にゴキブリ指数を調査し、残効性を確認した。
ゴキブリ指数=トラップによるゴキブリの捕獲数/(トラップ設置日数×トラップ設置個数)
【0076】
結果を表5に示す。
【0077】
【0078】
本発明の害虫防除方法及び害虫防除用組成物は、優れた長期残効性を示した。また、本発明の組成物を燻煙剤とすることが、効果の発現にとってより有効であることが示された。
【0079】
2017年3月31日に出願された日本国出願番号第2017-072196号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0080】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る組成物は残効性を有し、かつ抵抗性建物内生息害虫にも有効であることから、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0082】
1 試験室
2 スリットボックス
3 スリット
4 検体