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特許7078345膣内薬剤送達および/または膣内診断を行なうシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】膣内薬剤送達および/または膣内診断を行なうシステム
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20220524BHJP
   A61B 5/07 20060101ALI20220524BHJP
   A61J 3/07 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
A61M37/00 550
A61B5/07
A61J3/07 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2015560658
(86)(22)【出願日】2014-03-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2016-04-04
(86)【国際出願番号】 EP2014054148
(87)【国際公開番号】W WO2014135521
(87)【国際公開日】2014-09-12
【審査請求日】2017-03-02
【審判番号】
【審判請求日】2019-08-01
(31)【優先権主張番号】13158451.8
(32)【優先日】2013-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515245343
【氏名又は名称】リ・ガリ・ベスローテン・フエンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】LI GALLI B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デ・ラート,ウィルヘルムス・ニコラース・ジェラルドゥス・マリア
【合議体】
【審判長】佐々木 一浩
【審判官】村上 聡
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0274105(US,A1)
【文献】英国特許出願公告第1471465(GB,A)
【文献】特表2013-505804(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0034901(US,A1)
【文献】米国特許第3789838(US,A)
【文献】特表2002-510799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M37/00
A61B5/07
A61J3/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膣内薬剤送達および膣内診断を行なうシステムであって、
電子カプセルを備え、前記電子カプセルは、該電子カプセルの膣内配置のために構成された位置決め部材に接続され、
前記電子カプセルは、全身作用する薬学的活性な化合物用のリザーバと、1つ以上の診断センサまたはラボオンチップと、リザーバから前記化合物を膣内に分配するための分配器と、送信手段とを備え、
前記リザーバに含有された薬学的活性な化合物の放出パターンは、
-前記センサにより測定されたデータを記録する体外の受信装置により、前記センサにより測定されたデータに従って調整されること、
-前記センサによって行われ、前記センサにより前記分配器に送信された測定結果に基づき、必要に応じてパラメータの実測値を所望のパラメータ値と比較した後、前記分配器により直接に制御されること、
-前記システムが、体外と通信し医師に情報を送信すること、
のいずれによっても調整でき、
前記システムを装着した個人の特定のニーズに適合した個別投薬を可能とする、システム。
【請求項2】
前記位置決め部材は、実質的に閉合した外周形状を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記実質的に閉合した外周形状は、2つの部分から形成され、一方の部分が他方の部分よりも大きく、
前記部分の各々は、平面を規定し、
第1部分により規定された平面は、第2部分により規定された平面に対してオフセットされている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記位置決め部材は、8字形状である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
少なくとも1つのカプセルは、前記2つの部分の間に配置される、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記位置決め部材は、洋梨形状である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
少なくとも1つのカプセルは、前記2つの平面の間の継ぎ目に配置される、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記位置決め部材は、摩擦増強手段を備える、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記摩擦増強手段は、膣粘膜皺を模擬する表面によって形成される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記位置決め部材は、リザーバを備える、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記リザーバの壁は、前記リザーバの内容物に対して透過性である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記リザーバは、吸収促進添加剤を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記システムは、薬剤およびホルモンの全身送達に使用される、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記位置決め部材には、その表面において、微絨毛形状にした隆起が設けられている、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記システムは、血糖値を測定するためのセンサと、インスリンを分配するための手段と、グルカゴンを分配するための手段と、測定された血糖値および所望の血糖値に基づき、分配されるインスリンの量および必要に応じてグルカゴンの量を決定するための手段と備える、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記センサと前記分配するための手段と前記決定するための手段との少なくとも一方は、少なくとも1つの電子カプセル内に配置される、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記システムは、薬剤またはホルモンの血中値を測定するためのセンサと、薬剤またはホルモンを分配するための手段と、測定された薬剤またはホルモンの血中値および所望の薬剤またはホルモンの血中値に基づき、分配される薬剤またはホルモンの量を決定するための手段とを備える、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項18】
前記パラメータは、受精率パラメータを含む、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膣内薬剤送達および/または診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膣内配置用の薬剤送達装置は、従来技術において周知である。このような装置は、通常リング状であり、予め定義されたパターンで放出される1種類以上の薬剤、特にステロイドホルモンを装填しているポリマから形成される。所望の放出パターンを得るために、これらのリングに、異なる濃度の異なる薬剤を含む異なる区画室または異なる材料からなる異なる層を設けてもよい。
【0003】
よく知られた例は、Nuvaring(登録商標)(EP-0876815)である。Nuvaringは、熱可塑性ポリマコアおよびこのコアを被覆する膜からなる。エストロゲン物質およびプロゲストゲン物質が、所望の放出パターンをもたらす濃度でポリマコア内に溶解されている。
【0004】
US4237885は、ポリマ材料からなるチューブまたはコイルに関する。チューブは、スペーサによって隔離された部分に分割され、これらの部分の各々が、異なる活性物質を含有し、チューブの端部を互いに接合することによって、リングを形成する。
【0005】
US4596576は、2つの区画室を有する膣内リングを開示している。各区画室は、異なる活性物質を含有する。放出率の変動につながるさまざまな活性物質の混合を避けるために、2つの区画室をストッパによって互いに隔離する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の1つ以上の活性物質を長期間にわたって実質的に一定の放出率で放出する放出装置は、避妊、ホルモン補充療法または局所療法の分野における特定の用途に有用であると証明されたが、放出パターンが予めプログラムされたため、治療期間中に変更することができないという欠点を有する。具体的に、これらの放出装置は、一日のうち特定の時間にまたは一ヶ月のうち特定の日数に周期的な放出パターンまたは周期的な放出を設定することができず、一定時間のうち特定の時間点で放出を開始することもできない。一部の疾患治療計画または薬剤治療計画に対して、たとえば、ドーパ薬剤によるパーキンソン病を治療する場合、頻繁な経口投与だけでは、この疾患を最適に治療できない。
【0007】
また、すべての薬剤およびホルモンが先行技術の装置に使用された薬学的に許容されるポリマに溶解できるとは限らないことは、分かった。
【0008】
さらに、個別医療の場合、患者の特定のニーズに適合したインタラクティブな投薬または患者の特定の体重または性別に調整したインタラクティブな投薬をする必要がある。最後には、かなりの数の化合物は、現在では(吸収不良、短い半減期および他の消化管に関連する理由によって)経口投与に適しておらず、侵襲性非経口投与(たとえば、毎日の注射による避妊など)を介しても非常に不便である。
【0009】
本発明の目的は、薬剤の全身送達に特に有用であり、上述の欠点を回避し、診断に適しており、インタラクティブ投薬および個別投薬を与えることができる膣内薬剤送達装置を提供することである。本発明のさらなる目的は、今までにヒト薬剤および動物薬剤に、特にヒト薬剤に適していないかなりの数の化合物を使用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、電子カプセルを含む膣薬剤送達および/または診断装置に関する。電子カプセルは、膣内配置のために構成された位置決め部材に接続されている。また、装置は、1つ以上のカプセル、特に2つまたは3つのカプセルを含んでもよい。本出願において、「カプセル」または「1つのカプセル」を言及する場合、この用語は、「少なくとも1つのカプセル」または「1つ以上のカプセル」を意味することもある。
【0011】
電子カプセルは、薬剤リザーバと、診断手段と、リザーバから薬剤を膣内に分配するための手段とから選択される1つ以上の構成要素を備える。電子カプセルは、これらの構成要素に加えて、他の機能を実行する他の構成要素を備えてもよい。カプセルは、これらの構成要素のさまざまな組合せを備えてもよく、および/または装置は、1つ以上の所望の機能を実行し、対応する構成要素を含む複数のカプセルを備えてもよい。薬剤リザーバは、カプセルに組み込むことができ、または薬剤ストックリザーバとして機能するおよび/または薬剤を分配するための放出リザーバとして機能する別個の実体として使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の膣内装置は、全身作用する薬学的活性な化合物の送達を可能にする。
装置を診断の目的または意図に使用する場合、カプセルのは、薬剤リザーバおよび分配手段の代わりにまたは薬剤リザーバおよび分配手段に加えて、診断手段を備える。
【0013】
位置決め部材は、好ましくは、実質的に閉合した外周形状を有する。位置決め部材は、その寸法安定性を向上させるために、好ましくは完全に閉合されるが、完全に閉合されていない部材も、本発明の一部である。
【0014】
位置決め部材は、異なる形状を有することができる。一実施形態において、実質的に閉合した外周形状は、2つの部分から形成され、一方の部分が他方の部分よりも大きい。小径部分は、膣の遠位部に配置されるのに対し、大径部分は、膣の近位部に近い位置、すなわち膣口に近い位置に配置されている。好ましくは、位置決め部材の部分の各々は、平面を規定し、第1部分により規定された平面は、第2部分により規定された平面に対してオフセットされている。よって、位置決め部材の2つの部分は、同一平面に位置しておらずまたは同一平面に位置する必要がない。
【0015】
好ましい実施形態において、位置決め部材は、8字形状である。位置決め部材におけるカプセルの位置を変えることができるが、カプセルを子宮腔の出口/入口である子宮頸に最も近い位置に確保するために、カプセルは、好ましくは、2つのリング構造を連結する2つの部分の間に配置される。
【0016】
カプセルは、好適には位置決め部材の一体な部分であり、すなわち位置決め部材に組み込まれるが、より緩い方法で位置決め部材に接続されてもよい。
【0017】
代替的な実施形態において、位置決め部材は、洋梨形状である。好適には、使用時に、洋梨形状の小さい部分は、膣の遠位端に配置され、大きい部分は、近位端に配置される。また、この構成では、位置決め部材の両方の部分は、平面を規定し、第1部分により規定された平面は、第2部分により規定された平面に対してオフセットされている。
【0018】
洋梨形状の実施形態において、カプセルは、好適には、2つの平面の間の継ぎ目に配置される。装置は、2つ以上の電子カプセルを含んでもよい。洋梨形状の場合、装置は、少なくとも1つのカプセル、好適には2つのカプセルを有する。2つのカプセルの両方を2つの平面の間の継ぎ目に配置する場合、装置は、対称的構成を有する。
【0019】
さらなる実施形態において、位置決め部材は、平坦なディスクとして構成される。よって、位置決め部材の2つの部分は、異なる平面ではなく同一平面に位置する。この形状を膣の上下壁と平行にまたは同一平面に配置することによって、診断パラメータを交換するおよび/または薬剤を放出するための接触面を最大にすることができる。
【0020】
本発明のさらなる実施形態は、魚形状またはイルカ形状の装置を提供する。この形状の好ましい実施形態において、より大きい部分は、開放しておらず閉合しており、電子カプセルのさまざまな構成要素を含む。好適には、リング構造は、膣内装置を囲み、追加の剛性を与える。個体膣の解剖学的構造への適応を可能にするために、リング構造は、開放部分および閉合部分が接合する箇所でより柔軟であってもよい。
【0021】
薬剤は、特殊出口などを介して、装置のリムまたはフレームの壁に設けられた孔から放出することができる。さらなる実施形態において、位置決め部材は、その表面において、特に微絨毛形状にした隆起のような接触および/または吸収促進手段を設けている。一実施形態において、隆起は、微絨毛の形に似ている。別の実施形態において、位置決め部材は、特定のナノ構造によって部分的にまたは完全に覆われており、膣壁との相互作用によって、放出される物質に対する透過性を一時的に増加することができる。
【0022】
本発明の装置は、使用時に膣から圧出されるべきではない。位置決め部材に、さまざまな圧出禁止手段を単独でまたは組合わせて設けることができる。
【0023】
一実施形態において、装置は、膣の横壁に締付けられる。最適の締付けを得るために、位置決め部材は、好適にはリング状である。
【0024】
好ましい実施形態において、位置決め部材は、摩擦増強手段を備える。摩擦増強手段は、膣との適合性を有するべきであり、薬剤送達および/または診断装置が使用中に、損傷または刺激を引き起こさないように選択される。摩擦増強手段は、好適には、粗面によって形成され、好ましくは、膣粘膜皺を模擬する表面によって形成される。よって、表面は、膣粘膜皺と同一の形状を有するかまたは相補的な形状を有する。粗い表面は、ギザギザ状、鋸歯状、隆起状、切込状または他の形状にすることができる。
【0025】
これらの摩擦増強手段は、薬剤送達および/または診断装置を膣内の所望の位置および所望の向きに安定化させることを援助する。摩擦強化手段は、装置と膣壁との間の接触を向上させることによって、薬剤のより良い移送を可能にし、リングの圧出を防止する。
【0026】
摩擦増強手段は、位置決め部材のより柔軟な部位に配置することができ、圧力下で位置決め部材の変位を阻止することができる。
【0027】
膣内装置が平坦ではなく位置決め部材の下部で湾曲されまたはアーチ状に形成された場合、膣壁に真空固定することによって、変位を防止する。湾曲またはアーチが位置決め部材の上部に設けられた場合、後腟円蓋に真空固定することが可能である。
【0028】
好ましくは、膣粘膜による吸収を確実に最適化するために、少なくとも位置決め部材のカプセルに最も近い部分が、薬剤をプログラムしたように位置決め部材のより大きな表面にわたって連続的または間欠的に分配することができるように、本発明の膣内薬剤送達装置を構成する。
【0029】
さらなる実施形態において、位置決め部材は、リザーバ、特に放出リザーバを備えている。このリザーバは、位置決め部材の中空部分によって形成されてもよく、個別の区画室であってもよい。
【0030】
このリザーバは、好適にはカプセルに接触することができ、カプセルから分配された薬剤の少なくとも一部を受取るために使用することができる。好適には、このリザーバの壁は、リザーバの内容物に対して透過性である。薬剤は、一旦周囲と接触すると、リザーバの透過性壁を通って放出される。これによって、薬剤は、より大きな表面上に分配され、膣壁との密接かつ増加したコンタクトがなされる。透過性のリザーバ壁を調整することによって、薬剤を持続的に徐放することができる。代替的には、薬剤を定期的にリザーバに放出すると、薬剤を断続的に放出することができる。このことは、たとえば、消退出血を誘発するためにホルモン投与を月ごとに中止することが望ましい避妊薬療法において、有用である。
【0031】
位置決め部材のリザーバは、カプセルによって分配された物質を受取るために使用されてもよく、異なる内容物を含有していてもよい。
【0032】
一実施形態において、リザーバは、カプセルの内容物と混合することができる流体を含有する。カプセルの内容物は、流体中に溶解される固体化合物、たとえば粉末であってもよく、流体そのものであってもよい。混合は、電子カプセルのポンプによって行うことができる。その後、得られた混合物または溶液は、位置決め部材の別の中空部に格納され、所望の時間および所望の速度で中空部から放出することができる。好適には、このような放出は、拡散によって行われる。
【0033】
また、リザーバは、カプセルまたは位置決め部材から放出される場所で薬剤を吸収する膣粘膜の吸収力を増大させる他の物質、たとえば吸収促進添加剤を含有してもよい。吸収促進添加剤がカプセルから放出された物質の吸収を増加させるためのものである場合、これらの添加剤を含有するリザーバは、好適にはカプセルに近接してまたは隣接して配置される。
【0034】
本発明の位置決め部材とともに好適に使用される電子カプセルは、WO2011/039680に記載されている。このカプセルは、投与すべき物質を貯蔵するためのリザーバを備える。リザーバは、分配穴を介して、カプセルを取り囲む環境と連通する。リザーバの区画室は、ポンプを収容するモータ区画室から分離されている。好適には、カプセルは、さらに、電子機器の区画室を有する。
【0035】
カプセルは、子宮頚管粘液の品質、ホルモンレベル、グルコースレベル、温度、pHなどに限定されないがそれらを含む患者のさまざまなパラメータを監視するための1つ以上のセンサまたはいわゆる「ラボオンチップ」をさらに備えてもよい。これらのセンサ/チップは、健康診断テストの実行、生化学的パラメータの監視、腫瘍細胞(たとえば、卵巣癌、子宮内膜癌または子宮頸癌など)または膣炎などの感染症または神経学的機能に限定されないこれを含む他の生理的機能の検査を行うことができる。このような検査は、一度だけでまたは繰り返して連続的または断続的に行うことができる。
【0036】
センサは、位置決め部材に設けられてもよい。カプセルは、好適には無線接続を介して体外の受信装置と通信することができる。受信装置は、たとえば、センサによって測定されたデータを記録し、リザーバ内に含まれた物質の放出パターンを調整することができる。このように、装置の全体は、インタラクティブになる。センサにより測定された各種パラメータの値に従って薬剤の放出を調整することによって、薬剤の投与を完全に個別化することができる。
【0037】
代替的には、センサは、分配手段と通信することができ、センサによって行われた測定結果に基づき、分配手段からの活性物質の放出を直接に制御することができる。センサは、好適には特定のパラメータを測定し、必要に応じて実測値を所望のパラメータ値と比較し、活性物質の放出を調整することができる。一実施形態において、たとえば、患者の血液中の血糖値を測定する血糖センサを使用可能である。測定された血糖値に基づいて、同一カプセルまたは別のカプセルのリザーバからのインスリンの放出を制御する。さらなる実施態様において、インスリンおよびグルカゴンの両方を分配することによって、患者の血糖値を減少または増加することができる。
【0038】
さらなる実施態様において、膣内装置は、生殖補助治療において受精率パラメータを測定するために使用することができる。FSH、LHおよび17β-エストラジオールを測定することによって、治療中に特定段階の正確な時機を決定することができる。このような段階は、たとえばホルモンおよび関連薬剤の投与、受精時機および卵胞採取時機を含む。好適には、測定されたパラメータは、次の治療段階のタイミングを決定する医師に伝達される。この実施形態において、装置は、外部と通信し、情報を医師に送信する。
【0039】
本発明の膣内装置のさらなる用途は、血液中特定の薬剤の濃度を測定することに関する。測定された濃度に基づき、所望の濃度と比較して、薬剤の放出を制御または調整することができる。このことは、装置によって、外部からの干渉を受けずに、カプセル内にまたはカプセルの間に行うことができる。この用途は、ドーパによるパーキンソン病の治療に特に適している。
【0040】
上記および他の用途は、個人の特定のニーズに完全に適した高度な個別化医療をもたらす。
【0041】
この特許出願において、薬剤貯蔵手段ならびに薬剤送達手段および/または診断手段を備える電子素子は、「カプセル」と呼ばれている。カプセルという用語は、素子が突出部または隆起部のない平坦外観を有することを意味する。このような形状は、WO2011/039680の好ましい実施形態に開示されている。しかしながら、本発明の装置は、異なる形状の電子素子を備えることができ、電子素子の個別な機能を位置決め部材の個別な場所に組み込むことができる。そのような他の実施形態は、すべて用語「カプセル」に包含されるべきである。したがって、用語「カプセル」は、膣内装置において1つ以上の機能を実行する素子を指する。
【0042】
好ましい実施形態において、位置決め部材は、本発明の膣内装置を挿入または取り外しもしくは使用する時に、膣上皮および子宮頸に損傷を引起さないように構成されている。膣内装置に使用される材料は、承認された医療用のものであり、好ましくは刺激性およびアレルギー性を有しないものである。
【0043】
このような構成は、膣内に配置された電子部品の破損または崩壊の危険性がないため、好適である。
【0044】
好ましい実施形態において、膣の装置は、誤った用量の送達を防止する内蔵予防機能を備える。
【0045】
膣内装置の診断機能は、温度の監視、LHおよびFSHの監視、さまざまなステロイドホルモンの監視、pHの測定、粘度の測定、タンパク質の分析、核酸特にDNA化合物の分析、シグナル伝達分子(たとえば、サイトカイン)または他の生理学的機能たとえば神経的機能の検出に特に関連している。
【0046】
膣内装置は、薬剤送達のために設計される場合に、薬剤貯蔵空間を備える。貯蔵空間が放出部位から離れて配置される場合に、膣内装置は、貯蔵空間から薬剤放出部位までの輸送システムを含んでもよい。放出部位は、好適には、薬剤送達部位に設けられた膜または微孔面である。薬剤の送達は、可変的送達、連続的送達、断続的送達、単一薬剤の送達または他の任意種類の送達であってもよい。
【0047】
薬剤は、好適には、流体溶液、ゲル組成物、必要に応じて粘着性のあるゲル組成物、または泡状組成物として送達される。送達媒体(溶液、ゲル、発泡体または他の流体)の組成は、好適には、膣内の環境(たとえば、pH)を復元または保護するように選択される。
【0048】
電子カプセルは、診断センサを備えた場合、好適には、電子系を診断センサおよび薬剤放出部(貯蔵、輸送、接触面)に連結する内部接続を含む。また、カプセルは、診断データを分析するための手段をさらに含む。好適には、診断データは、カプセル内の記憶手段に記憶され、および/または外部データ装置に送信される。データは、無線で送信することができる。
【0049】
外部の機能制御用の受信機を介して、電子カプセルの機能を制御することが可能である。
【0050】
好適には、カプセルは、保護されたハウジングに埋められ、故障の際に警告信号を発し且つ自動的にオフするシステムを備える。
【0051】
装置は、所望の期間で膣内に配置することができる。避妊の場合、所望の期間は、好適には4週間であるが、より長い期間またはより短い期間も予想できる。
【0052】
装置は、装置の使用中に性交が可能であるように設計される。これは、たとえば、装置が性交時に相手側に損傷を引起すべきではなく、装置によって送達される薬剤が相手側に悪影響を与えるべきではなく、装置が圧出されるべきではないことを意味する。また、性交は、薬剤の不要な放出を誘発すべきではない。さらに、膣内における装置の位置を正確に監視することができる。本明細書に説明した装置の構成は、これらの要件を満たしている。
【0053】
本明細書に説明した装置の構成は、ユーザに容易に受け入れられ、ユーザによって容易に挿入および除去することができる。好適には、装置は、挿入および除去のための明確な指示を同封する。装置を正確な位置に挿入するための追加挿入装置も、本発明の一部である。装置は、指または特別に構成された除去装置によって除去することができる。
【0054】
本明細書に説明した装置の形状は、使用時に快適さをもたらす、すなわち、痛みまたは刺激を引起さない。
【0055】
好ましい実施形態において、装置は、遠隔に制御することができる。
本発明の薬剤送達および/または診断装置は、生殖疾患の周期分析、慢性感染症および自己免疫疾患の診断ならびにその治療に使用することができる。さらに、薬剤治療は、膣萎縮、子宮内膜症の場合だけではなく、関連性のない他の身体障害の場合にも、適用することができる。
【0056】
本発明の薬剤送達および/または診断装置は、用量をより低くすることができるため、膣内投与で有利な用量効果プロファイルを有する薬剤治療に、非常に有用である。また、装置は、肝臓による初回通過効果を回避する必要がある薬剤治療に、非常に有用である。
【0057】
一日に24時間の連続投与を可能にすることは、投与された化合物の全身血清レベルを安定に維持し、頻繁な経口投与によって病気を最適に治療できない場合に(たとえばドーパ投薬によるパーキンソン病を治療する場合に)、治療結果に有益である。さらに、薬剤を「オンデマンド」送達する可能な装置は、たとえば、インスリン依存性糖尿病、パーキンソン病(いわゆるオン/オフエピソード)に利点を有するが、これらに限定されていない。
【0058】
膣内装置(特に、2つのカプセルを有する実施形態)の診断可能性を薬剤送達用途と組み合わせると、膣内装置の診断によって測定されたパラメータ(たとえば、糖尿病患者のインスリン値およびグルコース値)に基づき、投与される化合物の連続的または断続的投与および連続的な調整をもたらすことができる。
【0059】
装置の別の用途は、膣内のpH値を調節することができる。
本発明の特定の実施形態において、本発明の膣内装置は、血糖値を測定するためのセンサと、インスリンを分配するための手段と、グルカゴンを分配するための任意の手段と、測定された血糖値および所望の血糖値に基づき、インスリンの量および必要に応じてグルカゴンの量を決定するための手段と備える。血糖値の経皮測定用のセンサは、当技術分野において公知であり、本発明の装置に使用することができる。
【0060】
好適には、少なくとも1つのセンサと、分配手段と、決定手段とから選択された少なくとも1つの構成要素は、少なくとも1つの電子カプセル内に配置される。他の構成も可能である。
【0061】
さらなる実施形態において、膣内装置は、薬剤の血中値またはホルモンの血中値を測定するためのセンサと、測定された薬剤の血中値またはホルモンの血中値および所望の薬剤またはホルモンの血中値に基づいき、分配される薬剤またはホルモンの量を決定するための手段とを備える。本実施形態において、本発明の装置は、コンパニオン診断として使用される。
【0062】
別の実施形態において、膣内装置は、診断のために構成され、受精率パラメータを測定するためのセンサと、センサによって生成された測定情報を受信機に、特定に外部受信機に送信するための手段とを備える。
【0063】
本発明はさらに、以下の図面に例示される。これらの図面は、決して本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】膣内に配置された本発明の8字形状の薬剤送達および/または診断装置の部分切断斜視図である。
図2】8字形状の膣内装置の上面図である。
図3】膣内に配置された本発明の洋梨形状の薬剤送達および/または診断装置の部分切断斜視図である。
図4】洋梨形状の装置の異なる図である。
図5】膣内に配置された本発明のイルカ形状の薬剤送達および/または診断装置の部分切断斜視図である。
図6】イルカ形状の装置の異なる図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1は、女性被験者の子宮1、子宮頸2および膣4の部分切断斜視図を示している。本発明の8字形状の薬剤送達および/または診断装置5は、膣内に配置されている。装置は、位置決め部材7に設けられた電子カプセル6を備える。位置決め部材7は、接続されている2つの部分8、9を有している。電子カプセル6は、部分8および9の間に位置している。小さい部分8は、子宮頸2を取り囲み、膣粘膜皺11を模擬しかつ膣内装置を所定の位置に保持する粗面10を備える。
【0066】
図2は、本発明の8字形状の薬剤送達および/または診断装置5の異なる図面を示している。図2Aは、8字形状および部分8が部分9よりも小さいことを示す上面図または平面図である。図2Bおよび図2Dの左側面図および右側面図、図2Eおよび図2Cの背面図および正面図は、2つの部分8および9が異なる平面内にあることを示している。
【0067】
図3は、女性被験者の子宮1、子宮頸2および膣4の部分切断斜視図を示している。本発明の洋梨形状の薬剤送達および/または診断装置12は、膣内に位置している。装置は、位置決め部材13に設けられた2つの電子カプセル6を備える。位置決め部材13は、接続されている2つの部分14および15を備える。2つの電子カプセル6は、2つの部分14および15の間の継ぎ目に位置している。小さい部分14は、子宮頸2を取り囲み、膣粘膜皺11を模擬しかつ膣内装置を所定の位置に保持する粗面10を備える。
【0068】
図4は、本発明の洋梨形の薬剤送達および/または診断装置12の異なる図面を示している。図4Aは、2つのカプセル6の洋梨形状および位置を示す上面図または平面図である。図4Bおよび図4Dの左側面図および右側面図、図4Eおよび図4Cの背面図および正面図は、2つの部分14および15が異なる平面内にあることを示している。
【0069】
図5は、本発明の洋梨形の薬剤送達および/または診断装置12の異なる図面を示している。本発明のイルカ形状または魚形状の薬剤送達および/または診断装置16は、膣4の内部に位置している。魚尾の部分は、膣の入口に最も近く位置しており、装置を容易に除去するためのループ17を形成している。他の部分18は、電子カプセルのすべての構成要素、たとえばリザーバ19、診断測定用のセンサ20および電子部品21を備える。形状は、平坦状または一方端部または両方の端部を若干湾曲したアーチ状であってもよい。
【0070】
図6Aは、イルカ形状および2つのカプセルの位置を示す上面図または平面図である。図6Bおよび図6Dの左側面図および右側面図、図6Eおよび図6Cの背面図および正面図は、2つの部分14および15が異なる平面内にあることを示している。
【0071】
図6Bは、膣4に配置されたイルカ形状の装置16を側面から示しいる。この実施形態において、装置は、実質的に平坦であるが、膣の解剖学的構造へのより良好な適合を可能にするために、両方の端部22および23に若干湾曲されている。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E