(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】機能性膜を含む合わせガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20220524BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20220524BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C03C27/12 D
B32B17/10
B32B27/30 102
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017099028
(22)【出願日】2017-05-18
【審査請求日】2020-05-15
(32)【優先日】2016-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512192277
【氏名又は名称】クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp-Reis-Strasse 4, D-65795 Hattersheim am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ ケラー
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-509794(JP,A)
【文献】特表2008-513342(JP,A)
【文献】特開平02-212140(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026487(WO,A1)
【文献】特表2003-516921(JP,A)
【文献】特開2001-163640(JP,A)
【文献】特開2014-037347(JP,A)
【文献】特開2003-252656(JP,A)
【文献】特開2015-147725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00-29/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚のガラス板と、これらのガラス板の間の、
ポリビニルアセタールPAおよび任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含む少なくとも1つの膜Aと、
ポリビニルアセタールPBおよび少なくとも1つの可塑剤WBを含む少なくとも1つの膜Bと、
高分子膜Cと、
からなる合わせガラスにおいて、
- 膜Aが、1質量%未満の可塑剤WAを含み、
- 膜Bが、少なくとも16質量%の可塑剤WBを含み、
- 膜Cが、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ乳酸(PLA)、酢酸セルロースまたはイオノマーを含み、
膜Cが、膜Aと膜Bとの間に配置されており、
膜Aの厚さが、10μm~80μmであ
り、
合わせガラスの辺縁部で膜Aと膜Bとが直に接しているか、合わせガラスの辺縁部で2枚のガラス板と膜Bとが直に接していることを特徴とする、合わせガラス。
【請求項2】
膜Cが10%伸びる際の引張応力は、膜Bが10%伸びる際の引張応力の少なくとも100%であることを特徴とする、請求項1に記載の合わせガラス。
【請求項3】
膜Cが、遮熱機能を備えていることを特徴とする、請求項1または2に記載の合わせガラス。
【請求項4】
膜Cが、金属製の遮熱コーティングを備えていることを特徴とする、請求項3に記載の合わせガラス。
【請求項5】
膜Cが、遮熱性粒子を含むことを特徴とする、請求項3に記載の合わせガラス。
【請求項6】
膜
Aが、遮熱性粒子を含むことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項7】
前記膜Aが、6質量%~26質量%のビニルアルコール基の割合を有するポリビニルアセタールPAを含み、前記膜Bが、14質量%~26質量%のビニルアルコール基の割合を有するポリビニルアセタールPBを含むことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項8】
前記膜Bが、カルボン酸のアルカリ金属塩および/またはカルボン酸のアルカリ土類金属塩を0.001質量%~0.1質量%含むことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項9】
前記膜Cが、前記膜Bよりも小さな表面積を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項10】
前記膜Cが、少なくとも1つの開口部を有し、その結果、前記開口部によって前記膜Bが前記膜Aと直に接することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項11】
前記膜Bが、くさび形の厚さプロファイルを有することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項12】
前記膜Bが、着色された領域を有することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項13】
前記膜Aが、着色された領域を有することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項14】
前記膜Aが、150ppm未満の塩化物イオンおよび/または硝酸イオンおよび/または硫酸イオンを含むことを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項15】
前記膜Aおよび前記膜Bが、60℃で1時間保持した場合に押出方向で25%未満の熱収縮を示す、請求項1から14までのいずれか1項に記載の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能化高分子膜を備えた合わせガラスであって、該機能化高分子膜が、ポリビニルアセタールをベースとし、高い可塑剤含分を有する膜と低い可塑剤含分を有する膜の2枚の膜の間に挟まれている合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
任意に機能化された高分子薄膜を積層体中に埋め込むことによって、例えば遮熱や耐貫通性の向上といった付加的な特徴を示す合わせガラスを提供することは知られている。この目的でPET薄膜が広く使用されている。なぜならば、PET薄膜は高い弾性係数を有し、耐熱性が良好であり、また例えば遮熱材料のスパッタリングにより容易に機能化することができるためである。
【0003】
遮熱特性を有する合わせガラス板を製造するためには、可塑剤を含有するポリビニルアセタールの複数の層の間に、IRを吸収するように、またはIRを反射するようにコーティングされたPET薄膜が埋め込まれる。この系は、ガラス表面の直上でのPETの溶融が不可能であることから、常に少なくとも3つの膜の層(機能化PET 1層、PVB膜 2層)を使用しなければならないという欠点を有する。この技術は、例えば米国特許出願公開第2011/00767473号明細書(US2011/00767473)に記載されている。しかし、機能化PET薄膜はガラスには接着しないため、これを2つの接着層の間に埋め込む必要がある。このサンドイッチ体は取扱いが困難であり、また標準的な接着層が使用される場合には非常に厚みがある。
【0004】
この代替物として、国際公開第2005/059013号(WO 2005/059013 A1)では、PVB膜に特別な印刷インキを印刷することによって吸熱性ナノ粒子を適用することが提案されている。しかし、この印刷によって、ガラス表面へのこの膜の接着特性に悪影響が生じうる。
【0005】
積層プロセスにおいて空気を容易に除去すべく、PVB膜は粗面化された表面を有していなければならないことから、この粗面化表面に施与されるPET薄膜は、ガラス表面との圧着の後におそらく光学的にむらがあるものと考えられる。さらに、厚みのある、可塑化された膜ウェブは、ロールから引き出す際に引き延ばされ、そしてその後で再び収縮しうることから、膜の印刷が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2011/00767473号明細書
【文献】国際公開第2005/059013号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明が取り組む課題は、自動車または建築物の窓に必要とされるような合わせグレージングに不可欠な安全性や厚さ特性を犠牲にすることなく、任意に機能化された高分子膜を含む中間層の膜を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
例えば、可塑剤を少量含有しているか、または可塑剤を含有していないポリビニルアセタールベースの薄膜と、PETから製造された高分子膜とを有利に組み合わせることが可能であること、そして、これらの膜は、合わせガラス積層体に典型的な製造方法を用いて、一方のガラス表面の上で直接、溶融させることができることが判明した。
【0009】
可塑剤を含有するポリビニルアセタールで形成される少なくとも1つの層と組み合わせることで、合わせガラス積層体に通常必要とされる安全特性を得ることができる。
【0010】
したがって、本発明は、
2枚のガラス板と、これらのガラス板の間の、
ポリビニルアセタールPA、および任意に少なくとも1つの可塑剤WAを含む少なくとも1つの膜Aと、
ポリビニルアセタールPB、および少なくとも1つの可塑剤WBを含む少なくとも1つの膜Bと、
高分子膜Cと、
からなる合わせガラスにおいて、
- 膜Aが、16質量%未満の可塑剤WAを含み、
- 膜Bが、少なくとも16質量%の可塑剤WBを含み、
- 膜Cが、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ乳酸(PLA)、酢酸セルロースまたはイオノマーを含み、
膜Cが、膜Aと膜Bとの間に配置されていることを特徴とする合わせガラスに関する。
【0011】
膜Cは、好ましくは、10μm~1000μm、好ましくは20μm~500μm、より好ましくは30μm~200μm、最も好ましくは40μm~150μmの範囲の厚さを有する。膜Aの厚さは、10μm~150μmであり、好ましくは20μm~120μmである。
【0012】
本発明の好ましい一実施形態では、DIN EN ISO 527-1/527-3(23℃/30% RH)により測定した場合に、膜Cが10%伸びる際の引張応力は、膜Bが10%伸びる際の引張応力の少なくとも100%であり、好ましくは膜Bが10%伸びる際の引張応力の少なくとも150%であり、最も好ましくは膜Bが10%伸びる際の引張応力の少なくとも200%である。この実施形態によって、耐貫通性が向上した合わせガラスが提供された。
【0013】
別の実施形態では、膜Cは遮熱機能を備えている。「遮熱機能」との用語は、以下のように測定された日射熱取得率(total solar transmittance、TTS)が低下した膜を指す:
TTS(ベース膜としての膜C)-TTS(遮熱特性を有する膜C)10%超、12.5%超、15%超、17.5%超または20%超
日射熱取得率(TTS)は、2mm×2.1mmの透明ガラス(例えばPlanilux(登録商標))と、膜Bとしての標準的な自動車用膜(例えばTROSIFOL VG R10 0.76)とを、膜Cおよび膜A(それぞれ遮熱機能を有しない膜として)と組み合わせたものからなる試験積層体において、膜Cが遮熱機能を有する積層体と比較して、ISO 13837:2008(v=14m/s;%での値)によって測定される。
【0014】
さらに、遮熱機能を有する膜Cは、遮熱効率に対する光透過率(TL、EN 410;2011により測定、%での値)の比が高いことより定められうる。本発明により使用される遮熱膜Cは、好ましくは、1.2超の、または1.25超の、または1.30超の、または1.35超の、または1.40超の、または1.45超の、TL/TTSの比率を有する。
【0015】
膜Cの遮熱機能は、金属コーティングにより提供されることができ、例えば銀、金、インジウム、アルミニウムまたはロジウムを含む金属コーティングにより提供されることができる。こうしたコーティングは、1nm~500nmの厚さを有することができ、また例えば化学蒸着法による施与が可能である。このような遮熱膜の良好な商業的一例は、EASTMAN社製XIR(登録商標)SOLAR CONTROL FILMであり、これは、熱放射を反射するものの、比較的高い光透過率を保持する、異なった種類の金属コーティングを担持するPET基材膜からなる。
【0016】
別の一実施形態では、膜Cは、遮熱性粒子、例えばITO、ATO、AZO、IZO、アンチモン酸亜鉛、錫ドープ酸化亜鉛、ケイ素ドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、タングステン酸塩、例えばLiWO3、NaWO3、CsWO3、六ホウ化ランタンまたは六ホウ化セリウムを含んでいてよい。
【0017】
さらなる実施形態では、膜Aおよび/または膜Bが、上述の遮熱性粒子を含んでいてよい。膜Cの遮熱機能に加えてさらに膜Aおよび/または膜Bの遮熱特性を備えることもできるし、これとは別に備えることもできる。
【0018】
遮熱性粒子は、好ましくは5nm~500nmの平均直径を有する。膜A、膜Bおよび/または膜C中の、またはこれらの膜上の遮熱性粒子の割合は、1質量%~20質量%であってよく、好ましくは2質量%~10質量%であってよい。膜B中の、または膜B上の遮熱性粒子の割合は、0.05質量%~2質量%であってよく、好ましくは0.2質量%~1質量%であってよい。
【0019】
膜Aおよび/または膜Cは、導電性構造、例えば加熱ワイヤ、アンテナまたは光学機能を有する他の層を含んでいてよく、また装飾的に印刷されてもよい。膜Cが金属でコーティングされる場合には、そのようなコーティングも同様に抵抗加熱体として使用することができる。
【0020】
膜Aおよび膜Bは、積層前の出発状態で、そしてさらには合わせガラス積層体中に位置する中間層スタックにおいて、単一種の可塑剤を含んでいてもよいし、組成が異なる可塑剤や組成が同一である可塑剤の任意の混合物を含んでいてもよい。「組成が異なる」との用語は、可塑剤の種類および混合物中でのその割合の両方を指す。膜Cが膜Bと膜Aとの間に挟まれているガラス積層体の領域においては、膜Aと膜Bとの間では、可塑剤はマイグレーションを生じえないか、または極めてゆっくりとしか生じえない。膜Cを有していないガラス積層体(例えば積層されたエッジ部でのカットアウトされたまたはバックカットされた範囲)の領域では、膜Aおよび膜Bは、好ましくは、完成した積層体において同一の可塑剤WAおよびWBを有する。
【0021】
可塑剤を含有する本発明により使用される膜Bは、少なくとも16質量%の、例えば16.1質量%~36.0質量%の、好ましくは22.0質量%~32.0質量%の、特に26.0質量%~30.0質量%の可塑剤を含む。
【0022】
本発明により使用される膜Aは、16質量%未満(例えば15.9質量%)の、12質量%未満の、8質量%未満の、6質量%未満の、4質量%未満の、3質量%未満の、2質量%未満の、1質量%未満の可塑剤を含んでいてよく、またさらには可塑剤を含んでいなくてもよい(0.0質量%)。可塑剤含分の低い膜Aは、好ましくは0.0質量%~8質量%の可塑剤を含む。
【0023】
本発明による方法において、膜Aは、1つ以上の膜Bの厚さの20%以下の、好ましくは15質量%以下の、好ましくは10%以下の厚さを有する。
【0024】
膜Aの厚さは、10μm~150μmであり、好ましくは20μm~120μmであり、好ましくは30μm~100μmであり、好ましくは40μm~80μmであり、最も好ましくは50μm~70μmである。
【0025】
膜Aは、膜Bとは別個に製造(例えば押出)され、可塑剤をまったく含有していないか、またはわずかな割合の可塑剤を含有している。膜Aが遮熱性粒子を備えている場合に、こうした低い可塑剤含分は、この遮熱性粒子の分散には悪影響を及ぼさない。
【0026】
膜Bの厚さは、450μm~2500μmであり、好ましくは600μm~1000μmであり、好ましくは700μm~900μmである。複数の膜Bを使用する場合にも、その全厚さについて同じことが該当する。膜Bを、サンドイッチ体の製造前に延伸させ、かつ/またはさらに湾曲するようにスクリーン(例えばフロントガラス)の形状に適合させる場合には、積層の時点での規定の厚さは、さらに最大で20%低減しうる。
【0027】
少なくとも1つの薄膜Aを、ガラス積層体の内側の1つのガラス表面に対して配置し、一方で、少なくとも1つの膜Cを、本発明によるガラス積層体において膜Aと膜Bとの間に封入する。膜Aを2つのガラス表面に施与することも可能であり、その結果、例えばガラス/膜A/膜C/膜B/膜C/膜A/ガラスといった層配列を有する合わせガラスが提供される。ここで、膜Aおよび膜Cの装飾は、同一であっても相違してもよい。
【0028】
自動車用グレージングの場合には、審美上および安定上の理由から、合わせガラス積層体のエッジをシーラントで封止することは好ましくない。こうした封止によって、そのようなグレージングの、エッジ欠陥の形成、例えば互いの層の分離(層間剥離)、または積層体のエッジにまで達するIR吸収層の腐食もしくは化学的変性の生じやすさが高まる。
【0029】
本発明による方法では、膜Cが合わせガラス積層体中のあらゆる箇所で該積層体のエッジ部分に達するというわけではないように、膜Cを調整して切断して配置することができる。特に膜Cは、エッジ領域において少なくとも1枚のガラス板と比較して少なくとも1mmだけ小さくてもよく、その結果、このエッジ領域における膜Aと膜Bとが互いに直に接しているとともに、これらの膜と少なくとも1枚のガラス板とが直に接している。
【0030】
別の実施形態では、膜Aおよび膜Cのいずれもが、膜Bおよび少なくとも1枚のガラス板と比較して少なくとも1mmだけ小さく、その結果、積層体の辺縁部は膜Bのみによってシールされ、この場合、この膜Bはこのエッジ領域において内側の両方のガラス表面に接している。
【0031】
さらに、ガラス/膜のサンドイッチ体への挿入前に、薄膜Cが任意の幾何学的パターンの開口部、例えば通路、孔またはスリットを有するように薄膜Cを穿孔することができる。
【0032】
したがって、膜Cは少なくとも1つの開口部を有することができ、その結果、この開口部によって膜Bと膜Aとが互いに直に接する。したがって特に、合わせガラスのある箇所に開口部を得ることができ、ここで、この箇所とは、この箇所の後ろでは、さもなくばセンサ要素、光学要素および/またはアンテナ要素の機能が例えば金属遮熱層によって妨害されるものと考えられる箇所である。
【0033】
膜Cは、積層体において、合わせガラス中のあらゆる箇所で膜Cが該積層体のすべてのエッジに達するというわけではないようなサイズおよび位置を有していてもよい。特に、この膜は、ガラス板および/膜Bおよび/または膜Aよりも小さくてもよい。
【0034】
例えば、膜Aおよび膜Bは、ガラス板と同一のサイズを有し、膜Cは、これらより小さなサイズを有していてもよく、その結果、積層体の辺縁部で膜Aと膜Bとが直に接していてもよい。
【0035】
別の実施形態では、膜Aおよび膜Cは同一のサイズではあるが、膜Bよりも小さいサイズを有し、その結果、積層体および封入された膜Aおよび膜Cの辺縁部で2枚のガラス板と膜Bとが直に接する。
【0036】
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明による合わせガラスの一実施形態であって、膜Aおよび膜Bがガラス板と同一のサイズを有し、膜Cがより小さなサイズを有し、その結果、積層体の辺縁部で膜Aと膜Bとが直に接していることを示す図。
【
図2】本発明による合わせガラスの一実施形態であって、膜Aおよび膜Cが、同一のサイズではあるが、膜Bよりも小さいサイズを有し、その結果、積層体および封入された膜Aおよび膜Cの辺縁部で2枚のガラス板と膜Bとが直に接していることを示す図。
【0038】
さらに別の実施形態では、膜Cは、膜Aおよび膜Bと同一(すなわち100%)のサイズを有していてもよく、また、最終的な合わせガラスの表面積の、または積層体中の膜Aおよび膜Bの表面積の、99%未満の、95%未満の、90%未満の、80%未満の、60%未満の、50%未満の、好ましくは40%未満の、30%未満の、20%未満の、15%未満のサイズを有することができる。
【0039】
本発明により使用される膜Aおよび膜Bは、ポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールのコポリマーのアセタール化により製造される、ポリビニルアセタールを含む。
【0040】
これらの膜は、複数のポリビニルアセタールであって、それぞれ異なるポリビニルアルコール含分、アセタール化度、残留アセテート含分、エチレン割合、分子量および/またはアセタール基のアルデヒドの異なる鎖長を有するポリビニルアセタールを含んでいてよい。
【0041】
特に、ポリビニルアセタールの製造に使用されるアルデヒドまたはケト化合物は、2個~10個の炭素原子を含み、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよく(すなわち「n」型であっても「イソ」型であってもよく)、これによって、対応する直鎖状または分枝鎖状のアセタール基が生成される。それに応じて、ポリビニルアセタールを「ポリビニル(イソ)アセタール」または「ポリビニル(n)アセタール」と呼ぶ。
【0042】
本発明により使用されるポリビニル(n)アセタールは、特に、少なくとも1つのポリビニルアルコールと、2個~10個の炭素原子を含む1つ以上の脂肪族の非分枝鎖状ケト化合物との反応により生じる。この目的を達成するためには、n-ブチルアルデヒドが好ましく使用される。
【0043】
膜Aまたは膜Bにおけるポリビニルアセタールの製造に使用されるポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールのコポリマーは、同一であっても相違していてもよく、純粋であっても、重合度または加水分解度の異なるポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールのコポリマーの混合物であってもよい。
【0044】
膜Aまたは膜Bにおけるポリビニルアセタールのポリ酢酸ビニル含分は、適切な鹸化度のポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールのコポリマーの使用によって調節可能である。ポリ酢酸ビニルの含分はポリビニルアセタールの極性に影響を及ぼし、その際、それぞれの層の可塑剤相容性および機械的強度も変化する。多数のアルデヒドまたはケト化合物の混合物を用いてポリビニルアルコールまたはエチレンビニルアルコールのコポリマーのアセタール化を行うことも可能である。
【0045】
膜Aまたは膜Bは、好ましくは、層に対するポリ酢酸ビニル基の割合が同一であるか、または異なっており、0.1モル%~20モル%、好ましくは0.5モル%~3モル%、または5モル%~8モル%であるポリビニルアセタールを含む。
【0046】
出発状態で低い可塑剤含分を有する膜Aで使用されているポリビニルアセタールPAのポリビニルアルコール含分は、6質量%~26質量%、8質量%~24質量%、10質量%~22質量%、12質量%~21質量%、14質量%~20質量%、16質量%~19質量%であってよく、好ましくは16質量%~21質量%または10質量%~16質量%であってよい。
【0047】
出発状態で可塑剤がより多い膜Bで使用されるポリビニルアセタールPBのポリビニルアルコール含分は、14質量%~26質量%、16質量%~24質量%、17質量%~23質量%であってよく、好ましくは18質量%~21質量%であってよい。
【0048】
膜Aまたは膜Bは、好ましくは非架橋ポリビニルアセタールを含む。架橋ポリビニルアセタールの使用も可能である。ポリビニルアセタールの架橋方法は、例えば欧州特許第1527107号明細書(EP 1527107 B1)および国際公開第2004/063231号(WO 2004/063231 A1)(カルボキシル基を含むポリビニルアセタールの熱による自己架橋)、欧州特許出願公開第1606325号明細書(EP 1606325 A1)(ポリアルデヒドで架橋されたポリビニルアセタール)および国際公開第03/020776号(WO 03/020776 A1)(グリオキシル酸で架橋されたポリビニルアセタール)に記載されている。
【0049】
本発明により使用される膜Aおよび/または膜Bは、可塑剤として、以下の群から選択される1つ以上の化合物を含んでいてよい:
- 脂肪族または芳香族の多価酸のエステル、例えばアジピン酸ジアルキル、例えばアジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ヘプチルとアジピン酸ノニルとの混合物、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、およびアジピン酸と脂環式エステルアルコールとのエステル、またはアジピン酸とエーテル化合物を含むエステルアルコールとのエステル、セバシン酸ジアルキル、例えばセバシン酸ジブチル、さらにはセバシン酸と脂環式エステルアルコールとのエステル、またはセバシン酸とエーテル化合物を含むエステルアルコールとのエステル、フタル酸のエステル、例えばフタル酸ブチルベンジル、またはビス-2-ブトキシエチルフタラート。
【0050】
- 脂肪族または芳香族の多価アルコールのエステルもしくはエーテル、または1つ以上の非分枝鎖状もしくは分枝鎖状の脂肪族もしくは芳香族の置換基を有するオリゴエーテルグリコール、例えば、グリセロール、ジグリコール、トリグリコールもしくはテトラグリコールと、直鎖状または分枝鎖状の脂肪族もしくは脂環式のカルボン酸とのエステル;最後に挙げた群の例としては、例えば、ジエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノアート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルヘキサノアート)、トリエチレングリコール-ビス-(2-エチルブタノアート)、テトラエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノアート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘプタノアート、トリエチレングリコール-ビス-n-ヘキサノアート、テトラエチレングリコールジメチルエーテルおよび/またはジプロピレングリコールベンゾアートが挙げられる。
【0051】
- 脂肪族または芳香族エステルアルコールのリン酸エステル、例えばリン酸トリス(2-エチルヘキシル)(TOF)、リン酸トリエチル、リン酸ジフェニル-2-エチルヘキシルおよび/またはリン酸トリクレシル。
【0052】
- クエン酸のエステル、コハク酸のエステルおよび/またはフマル酸のエステル。
【0053】
定義によれば、可塑剤は高い沸点を有する有機液体である。このため、120℃を上回る沸点を有するさらなる種類の有機液体を可塑剤として使用することもできる。
【0054】
出発状態で膜Aに可塑剤WAが存在するという変形形態における膜Aは、そしてさらには膜Bも、可塑剤として特に好ましくは1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル(DINCH)またはトリエチレングリコール-ビス-2-エチルヘキサノアート(3GOまたは3G8)を含む。
【0055】
さらに膜Aおよび膜Bは、さらなる添加剤、例えば残量の水、UV吸収剤、酸化防止剤、接着調節剤、蛍光増白剤または蛍光添加剤、安定剤、着色剤、加工助剤、有機ナノ粒子、高熱法シリカおよび/または界面活性物質を含んでいてよい。特に膜Bは、接着調節剤として、カルボン酸のアルカリ金属塩および/またはカルボン酸のアルカリ土類金属塩を0.001質量%~0.1質量%含んでいてよい。
【0056】
膜Cの遮熱層による腐食を回避するために、膜Aは、好ましくは塩化物イオンおよび/または硝酸イオンおよび/または硫酸イオンを150ppm未満含む。
【0057】
したがって、膜Aの塩化物含分は、150ppm未満であってよく、好ましくは100ppm未満であってよく、特に50ppm未満であってよい。理想的な場合には、膜Aの塩化物含分は、10ppm未満であるか、またさらには0ppmである。
【0058】
膜Aの硝酸塩含分は、任意に150ppm未満であってよく、好ましくは100ppm未満であってよく、特に50ppm未満であってよい。理想的な場合には、膜Aの硝酸塩含分は、10ppm未満であるか、またさらには0ppmである。
【0059】
さらに任意で、膜Aの硫酸塩含分は、150ppm未満であってよく、好ましくは100ppm未満であってよく、特に50ppm未満であってよい。理想的な場合には、膜Aの硫酸塩含分は、10ppm未満であるか、またさらには0ppmである。
【0060】
膜Aはさらに、マグネシウムイオンを0ppm超含んでいてよい。マグネシウム含分は、好ましくは5ppm超であり、特に好ましくは10ppm超であり、特に5ppm~20ppmである。
【0061】
膜Cにおけるシワを回避するためには、膜Aおよび膜Bの熱収縮率は低くなければならない。好ましくは、膜AおよびBは、これらの膜が60℃で1h以内に縦方向(押出方向)で25%未満の、より好ましくは15%未満の、または10%未満の、特に好ましくは5%未満の熱収縮を示すように製造される。特定の温度で収縮を測定するために、押出方向に印が付された膜AまたはBの10cm×10cmの試験片を(表面に付着しない自由な移動を提供するために)細粒を散布した平坦なトレー上に置き、60℃に設定されたオーブンに入れて1時間保持する。最終長さを初期長さ(10cm)と比較する。
【0062】
別の実施形態では、膜Aは、膜Bよりも高いガラス転移温度Tg(DSCにより測定)を有する。したがって、膜Aのガラス転移温度Tg(DSCにより測定)は、膜Bのガラス転移温度Tg(DSCにより測定)よりも、5℃超、10℃超または15℃超高い。好ましくは、膜Aは、25℃超の、または30℃超の、または40℃超の、最も好ましくは50℃超のガラス転移温度Tg(DSCにより測定)を有する。
【0063】
本発明はさらに、上記の遮熱性の合わせガラス積層体の製造方法であって、膜Aおよび膜Cを予備積層し、ガラス板上に配置し、次いでこれらの膜を少なくとも1つの膜Bで被覆し、次いで第2のガラス板を施与する方法に関する。より具体的には、適切なカレンダリング装置上で膜Aおよび膜Cを同時に積層し、巻き取り、そして中間的にロールとして貯蔵することができる。この2つの積層膜中間体を、次いで2枚のガラスおよび膜Bと合することにより、本発明による積層体を得ることができる。そのような膜Aと膜Cとの予備積層体を製造する際に、膜Cがその表面のうちの一方に機能性コーティングを担持し、そうした膜Cのコーティング面に膜Aが接着されることが非常に好ましい。
【0064】
本発明によれば、まず温度を上げることにより、膜Aと膜Cとから構成される2層の積層体をガラス板上に全面積にわたって、または局所的に溶融させ、次いでこれを膜Bで被覆することができる。あるいは、膜Aと膜Cとの2層の積層体と膜Bとを2枚のガラス板の間に一緒に配置して、高温で溶融させることもできる。
【0065】
合わせガラスを製造するための積層ステップでは、好ましくは、膜A、膜Cおよび膜Bを2枚のガラス板の間に配置し、このように準備した層状体を、圧力を上げるか、または下げて、温度を高めて圧着することにより積層体を形成する。
【0066】
層状体を積層するために、予備積層体を予め製造して、または予備積層体を予め製造せずに、当業者によく知られた方法を使用することができる。
【0067】
オートクレーブ法として知られる方法を、約10バール~15バールに高めた圧力で、100℃~145℃の温度で約2時間にわたって行うことができる。例えば欧州特許第1235683号明細書(EP 1 235 683 B1)による真空バッグ法または真空リング法は、約200ミリバールで130℃~145℃で機能する。
【0068】
真空積層装置として知られている装置を使用することもできる。これは、加熱および脱気が可能なチャンバからなり、このチャンバ内で、積層されたグレージングを30分~60分以内で積層させることができる。実際に、0.01ミリバール~300ミリバールの減圧および100℃~200℃の、特に130℃~160℃の温度が有効であることが実証された。
【0069】
最も単純なケースでは、合わせガラス積層体を製造するために、膜Aおよび膜Cまたは膜Bをまずガラス板上に配置し、さらなる膜Bまたは膜Cおよび膜Aを同時にまたはその後に配置する。その後、第2のガラス板を施与してガラス膜積層体を製造する。その後、当業者に知られている任意の予備積層法を用いて、余剰の空気を除去することができる。ここで、これらの層はすでに最初に互いに、およびガラスにわずかに接着して結合している。
【0070】
その後、このガラス膜積層体を、オートクレーブプロセスに供することができる。膜Aと膜Cとから構成される予め製造された2層の積層体を、好ましくは第1のガラス板上に配置し、そしてより厚みのある膜Bで被覆し、その後、第2のガラス板を施与する。この方法は、考えられうる数多くの、原則として実施可能な変法で行うことができる。例えば、膜Aと膜Cとから構成される2層の積層体は、適した幅のロールから容易に外されるのに対して、膜Bは、製造すべき合わせガラスのサイズに予め調整して切断されている。このことは、特にフロントガラスまたは他の自動車用グレージング部分の場合には有利である。この場合さらに、比較的厚い膜Bを調整して切断する前に、これをなおも延伸させることが特に有利である。これによって、膜のより経済的な使用が可能となり、また、膜Bが色調を有している場合には、その湾曲をガラス板の上方のエッジに合わせることができる。
【0071】
本発明による合わせガラスを製造するための上記の様式においては、(ガラス表面および膜Cに接する)膜Aと、(膜Aと膜Bとの間に封入される)膜Cと、(膜Cおよび少なくとも1つのガラス表面に接する)膜Bとの相対的な順序を遵守することが重要である。
【0072】
自動車分野において、特にフロントガラスの製造に関しては、上方の領域においてシェードバンドとして知られるものを有する膜が使用されることが多い。この目的を達成するために、膜Aの上方部分と膜Bの上方部分とのいずれをも、適した着色ポリマー溶融物と共に同時押出することができ、また、膜Aおよび膜Bのうちの一方の多層系におけるいくつかの範囲内に異なる色が存在することもできる。本発明においては、このことを、膜Aおよび膜Bのうちの少なくとも一方の完全な着色または部分的な着色によって達成することができる。
【0073】
したがって、本発明によれば、膜Bは、特にすでに予備プロセスステップにおいてフロントガラスの幾何学的形状に合わせられた色調を有することができる。
【0074】
膜Bがくさび形の厚さプロファイルを有することも可能である。膜Aの厚さプロファイルが平坦かつ平行である場合であっても、本発明による合わせガラス積層体はくさび形の厚さプロファイルを得て、そして自動車用フロントガラスにおいてHUDディスプレイに使用されることができる。
【0075】
最も単純なケースでは、膜Bは、シェードバンドを有しているか、または有していない、くさび形の厚さプロファイルを有しているか、または有していない、市販のPVB膜である。着色膜として、IR防御のために中にナノ粒子が分散された膜Bを使用することもできる。当然のことながら、膜Bは音響機能を有する膜であってもよく、その結果、膜Aと組み合わせることで、防音特性のさらなる向上が得られる。当然のことながら、膜Bは上述の多数の機能をすでに併せ持っていてもよい。
【0076】
薄膜Aは、総じて流延成形ラインを使用した押出により、またはインフレーションフィルムの形態で製造される。ここで、メルトフラクチャーを制御することにより、またはパターン化された冷却ロールを追加的に使用する流延成形法を用いて、表面粗さを生じさせることもできる。
【0077】
さらに、すでに製造済みの膜に、少なくとも1対のシリンダー間でエンボス加工を施すことによって、規則的で非確率的な粗さを付与することができる。本発明により使用される膜は、片面に、好ましくは0μm~25μmの粗さRz、好ましくは1μm~20μmのRz、特に好ましくは3μm~15μmのRz、殊に4μm~12μmのRzを有する表面構造を有する。ガラス板と接する膜Aの面が、その厚さの20%以下の表面粗さRzを有する場合に特に好ましい。遮熱コーティングを備えた表面は、好ましくはこのコーティングが施与される前に特に小さい表面粗さを有する。ここで特に、粗さパラメータRaは3μm未満であり、Rzは5μm未満である。