(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】振動発生装置
(51)【国際特許分類】
A63B 21/005 20060101AFI20220524BHJP
A63B 22/06 20060101ALI20220524BHJP
A61H 1/00 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
A63B21/005
A63B22/06 Z
A61H1/00 311D
(21)【出願番号】P 2017205274
(22)【出願日】2017-10-24
【審査請求日】2020-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】道辻 善治
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2007-0038636(KR,A)
【文献】特開2014-230605(JP,A)
【文献】特開2015-019691(JP,A)
【文献】特開2008-272361(JP,A)
【文献】特開平11-253572(JP,A)
【文献】特開平05-180245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 1/00-71/16
A61H 1/00- 5/00
A61H 99/00
F16D 25/00-39/00
F16D 48/00-48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状の固定部材と、
前記固定部材の径方向の内側にて前記固定部材に対して同軸的に回転可能に支持された円盤状の可動部材であって、前記固定部材の内周縁部と前記可動部材の外周縁部とが前記固定部材及び前記可動部材の軸方向に空間を挟んで対向するように配置された可動部材と、
前記空間に充填され、磁場の印加に応じて粘弾性が変化する機能性流体と、
前記空間に充填された前記機能性流体に対して前記軸方向に沿う向きに磁場を印加する制御部と、を有し、
前記制御部は、時間に応じて変化する信号に基づいて前記磁場を生成し、前記可動部材と前記固定部材との間の摺動抵抗に振動を発生させる振動発生部を備え
、
前記可動部材の外周面には、前記径方向の外側に突出する複数の板状部が、前記軸方向に間隔を空けて前記軸方向に並ぶように設けられ、
前記可動部材の前記外周面と前記径方向に対向配置された前記固定部材の内周面には、前記径方向の外側に窪む複数の凹部が、前記複数の板状部に対応して前記軸方向に間隔を空けて前記軸方向に並ぶように、且つ、前記複数の板状部をそれぞれ収容するように、設けられ、
前記複数の板状部の各々について、前記板状部の前記軸方向の両端外面と、前記板状部を収容する前記凹部の前記軸方向の両端内面とが、前記軸方向に前記空間を挟んで対向するように配置されている、
振動発生装置。
【請求項2】
前記可動部材が回転軸と連結され、
前記振動発生部は、前記回転軸の回転抵抗に対して振動を発生させる、
請求項1に記載の振動発生装置。
【請求項3】
前記振動発生部は、周期的な矩形波に基づいて前記磁場を変化させる、
請求項1又は請求項2に記載の振動発生装置。
【請求項4】
前記振動発生部は、時間に応じて変化する信号に一定の電圧を重畳させることによって、一定の摺動抵抗に重畳させて振動を発生させる、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動発生装置に関し、特に電場又は磁場の印加に応じて粘弾性が変化する機能性流体を利用する振動発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1の筋力訓練・評価装置は、筋力訓練者の操作入力で動作する可動体と、磁場の強さに応じて粘性を変化させる磁気粘性流体を用いて可動体の動きに負荷を与えることを示している。また、磁気粘性流体を可変磁場内に配し、負荷を検出するセンサ部を設け、センサの出力に応じて負荷を制御している。
【0003】
特許文献2の筋力訓練装置は、訓練者の動作途中においても負荷強度又は負荷様式の組合せを可変に呈示するための技術を示している。具体的には、操作部の回転に連動して回転する可動体と、回転駆動体によって回転する可動体と、電場の強さに応じて変化する粘性により第2の可動体から第1の可動体側にトルクを伝達する電気粘性流体と、操作部に加わる負荷を検出するセンサ部および操作部1の回転角度を検出するセンサ部を備え、各センサの出力に応じて電場および回転駆動体が制御される。
【0004】
特許文献3の重力可変負荷発生装置は、人の筋力訓練装置等に利用される。この技術では、負荷要素を動作すると、トルク、角度の各物理諸量が物理諸量検出器に伝達される。その出力信号は増幅器で増幅され、一方に於いて、微分回路から粘性信号及び微分回路から慣性信号を導入される。他方に於いて、増幅器から弾性信号及び重力信号として導入される。この合成信号がドライバー回路に通電し、摩擦要素2に通電する。そして、負荷要素は連続的に重力が可変され、負荷要素により人が筋力訓練を行なうことができる。
【0005】
また、特許文献4の共振運動デバイスは、ユーザの血流改善のために、モータを使って振動を発生させるための技術を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-126122号公報
【文献】特開2008-272361号公報
【文献】特開平5-180245号公報
【文献】特開2017-148483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば特許文献4に示されているように、運動デバイスで発生した振動を人間に与えることにより、人間の血流改善の可能性がある。また、このような振動は、例えば人間の老化に伴う骨密度低下の防止にも役立つと考えられる。
【0008】
しかしながら、特許文献4の技術では振動を発生させるためにモータなどの特別なアクチュエータを必要とする。また、このようなアクチュエータは消費電力が大きく、しかも壊れやすいという課題を有する。
【0009】
一方、特許文献1および特許文献2の技術では磁気粘性流体を利用するので、モータなどの特別なアクチュエータを必要としない。しかし、特許文献1および特許文献2の装置は、規則的な振動を発生させるための特別な構成を有していないので、人間の血流改善や、老化に伴う骨密度低下の防止の用途では十分な性能が得られない可能性がある。
【0010】
なお、本発明の振動発生装置は、特許文献1~特許文献4のような健康器具あるいはトレーニング器具に限らず、振動を必要とする様々な分野で利用することが想定される。例えば、工場等に設置される振動ホッパの振動発生源として本発明の振動発生装置を利用することも考えられる。すなわち、ベルトコンベアで搬送される物品にベルトコンベアの所定位置で振動を与えれば、その位置で物品をベルトコンベアの側部に落下させることが可能である。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、モータなどの特別なアクチュエータを必要とすることなく、所望の振動を発生することが可能な振動発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するために、本発明に係る振動発生装置は、下記(1)~(4)を特徴としている。
(1) リング状の固定部材と、
前記固定部材の径方向の内側にて前記固定部材に対して同軸的に回転可能に支持された円盤状の可動部材であって、前記固定部材の内周縁部と前記可動部材の外周縁部とが前記固定部材及び前記可動部材の軸方向に空間を挟んで対向するように配置された可動部材と、
前記空間に充填され、磁場の印加に応じて粘弾性が変化する機能性流体と、
前記空間に充填された前記機能性流体に対して前記軸方向に沿う向きに磁場を印加する制御部と、を有し、
前記制御部は、時間に応じて変化する信号に基づいて前記磁場を生成し、前記可動部材と前記固定部材との間の摺動抵抗に振動を発生させる振動発生部を備え、
前記可動部材の外周面には、前記径方向の外側に突出する複数の板状部が、前記軸方向に間隔を空けて前記軸方向に並ぶように設けられ、
前記可動部材の前記外周面と前記径方向に対向配置された前記固定部材の内周面には、前記径方向の外側に窪む複数の凹部が、前記複数の板状部に対応して前記軸方向に間隔を空けて前記軸方向に並ぶように、且つ、前記複数の板状部をそれぞれ収容するように、設けられ、
前記複数の板状部の各々について、前記板状部の前記軸方向の両端外面と、前記板状部を収容する前記凹部の前記軸方向の両端内面とが、前記軸方向に前記空間を挟んで対向するように配置されている、
振動発生装置。
【0013】
上記(1)の構成の振動発生装置によれば、モータなどの特別なアクチュエータを必要とすることなく、所望の振動を発生することが可能である。例えば、機能性流体としてMR流体(Magneto Rheological Fluid)を利用する場合には、制御部が機能性流体に対して磁場を印加することにより、機能性流体内の強磁性体粒子は、互いに引きつけ合って鎖状のクラスター構造を形成し半固体化する。そして、可動部材と固定部材とが相対的に移動する際に、クラスター構造に剪断応力が発生し、可動部材と固定部材との相対的な動きに対して抵抗力となる。また、制御部内の振動発生部は、時間的に変化する信号に基づいて磁場を生成するので、可動部材と固定部材との間に作用する抵抗力も時間的に変化する。したがって、抵抗力の変化により、可動部材と固定部材との間の摺動抵抗に振動が発生する。
【0014】
(2) 前記可動部材が回転軸と連結され、
前記振動発生部は、前記回転軸の回転抵抗に対して振動を発生させる、
上記(1)に記載の振動発生装置。
【0015】
上記(2)の構成の振動発生装置によれば、回転軸の回転抵抗に対して振動が発生する。したがって、例えばトレーニング機器において、訓練者がペダルを漕ぐ力によって発生する回転軸の回転に対して周期的に変動する抵抗を与えることができ、訓練者は振動を感じることができる。しかも、訓練者がペダルを漕ぐ操作を終了すれば、可動部材と固定部材との相対移動がなくなって振動も停止するので、訓練者に対して余分な負荷をかけることもなく、特別な制御も不要である。
【0016】
(3) 前記振動発生部は、周期的な矩形波に基づいて前記磁場を変化させる、
上記(1)又は(2)に記載の振動発生装置。
【0017】
上記(3)の構成の振動発生装置によれば、矩形波を利用して磁場を周期的に変化させるので、可動部材と固定部材との間に発生する応力を急激に変化させることができる。したがって、より大きな振動が発生することになり、例えばトレーニング機器において、人体の骨密度増加等の観点から好ましい結果が得られる。
【0018】
(4) 前記振動発生部は、時間に応じて変化する信号に一定の電圧を重畳させることによって、一定の摺動抵抗に重畳させて振動を発生させる、
上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の振動発生装置。
【0019】
上記(4)の構成の振動発生装置によれば、信号の時間変化により振動を、一定電圧の重畳により摺動抵抗をそれぞれ調整できるので、一定の摺動抵抗が加わっている状態で振動を発生させることができる。したがって、振動発生装置をトレーニング機器に適用した場合には、振動によって骨密度増加などの効果が見込まれるのみならず、摺動抵抗によってカロリーの消費や筋肉量の増加も合わせて期待できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の振動発生装置によれば、モータなどの特別なアクチュエータを必要とすることなく、所望の振動を発生することが可能である。
【0021】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、MRトレーニング装置の使用例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、MRトレーニング装置に含まれる制動機構の外観および断面構造を表す斜視図である。
【
図3】
図3は、制動機構の断面の一部分を表す断面図である。
【
図4】
図4は、
図3の一部分を拡大した状態を表す断面図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、互いに磁場の状態が異なる2つの状態におけるMR流体の状況を表す断面図である。
【
図6】
図6は、MRトレーニング装置に含まれる電気回路の構成例を示すブロック図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、電磁石コイルに印加する電圧の例を示す波形図である。
【
図8】
図8は、電磁石コイルに流れる電流とMR流体により発生するトルクとの関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、電磁石コイルに印加する矩形波の電圧とMR流体により発生するトルクとの関係の例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0024】
<装置の外観および使用例>
本発明の振動発生装置を含むMRトレーニング装置10の外観および使用例を
図1に示す。このMRトレーニング装置10は、訓練者13が、老化による骨密度低下防止、あるいは血流改善のための運動に役立てることができる。また、この運動において、MRトレーニング装置10は、訓練者13に対して規則的に繰り返す機械振動を与えることができる。
【0025】
図1に示したMRトレーニング装置10は、機器フレーム11、支持部12、制動機構14、およびペダル付き操作部15を備えている。訓練者13は、
図1に示すように支持部12に跨がり、自転車の場合と同じように足をペダル付き操作部15に乗せた状態で、ペダル付き操作部15に対して漕ぐ操作を行うことができる。
【0026】
ペダル付き操作部15は、制動機構14の回転軸に連結されている。訓練者13がペダル付き操作部15を漕ぐと、制動機構14の回転軸が回転する。制動機構14はこの回転軸の回転に対して制動をかけ、訓練者13の運動に対して負荷をかけることができる。また、この負荷には制動機構14が発生する振動が伴う。この振動により、例えば訓練者13の老化による骨密度低下を防止する効果が得られる。したがって、
図1における制動機構14が本発明の振動発生装置を含んでいる。
【0027】
<制動機構14の詳細>
MRトレーニング装置10に含まれる制動機構14の外観および断面構造を
図2に示す。また、
図2における制動機構14の断面部Paの構成を
図3に示す。また、
図3の一部分を拡大した状態を
図4に示す。
【0028】
図2に示すように、制動機構14は外形がリング状に形成された固定部材21と、円盤状のディスクロータ22とを備えている。固定部材21は機器フレーム11に固定されている。ディスクロータ22は、固定部材21に支持され、固定部材21の内側で回動可能な状態になっている。また、ディスクロータ22の中央部は円筒状回転軸23と連結されている。
【0029】
この円筒状回転軸23が
図1に示したペダル付き操作部15と連結されている。したがって、訓練者13がペダル付き操作部15を漕ぐことにより、円筒状回転軸23が回転し、ディスクロータ22も回転する。
【0030】
図2および
図3に示すように、固定部材21の内側には電磁石コイル27および電磁石ヨーク28が配置されている。電磁石コイル27は、ディスクロータ22の外周と対向する位置にリング状に形成されている。また、電磁石ヨーク28は強磁性体である鉄心により構成され、電磁石コイル27の外側を取り囲むような形状に形成されている。
【0031】
図3に示すように、固定部材21の内側に配置されたオイルシール24と、ディスクロータ22との間の空間25aには、MR流体(Magneto Rheological Fluid)26が充填されている。このMR流体26は、例えば油などの液体中に、鉄粉のような強磁性体粒子が多数分散した状態で存在しているものである。強磁性体粒子の粒径は、数[μm]程度である。
【0032】
図3に示すように、ディスクロータ22の外周に近い部分では、薄板状に形成された複数の板状部が互いに間隔を空けた状態で厚み方向に並ぶように配置されている。また、ディスクロータ22の複数の板状部の間に、固定部材21側の薄い板状部が重なるように配置されている。つまり、ディスクロータ22側の薄い板状部と固定部材21側の薄い板状部とが積層されたような状態になっている。但し、これらの間には間隙が存在する。これらの間隙の空間25bは、空間25aと連通しているので、空間25bについてもMR流体26で満たされている。
【0033】
電磁石ヨーク28は、ディスクロータ22側の薄い板状部と固定部材21側の薄い板状部とを外側からサンドイッチ状に挟み込むように形成されている。例えば、
図3に示した電磁石コイル27の状態において紙面に垂直な方向について上方から下方に向けて電流を流すと、電磁石コイル27の回りに
図3に示すような磁界29が発生する。この磁界29は、磁気抵抗が小さい電磁石ヨーク28内を通るように磁路を形成する。
【0034】
したがって、ディスクロータ22側の薄い板状部と固定部材21側の薄い板状部とが積層されている箇所の空間25bにおいて、電磁石コイル27はMR流体26に対して比較的強い磁場を与えることができる。また、電磁石コイル27により磁場を発生すると、
図4に示すように、各空間25bのMR流体26において、多数の強磁性体粒子26aが互いに引きつけ合って鎖状のクラスターを形成する。このような状態で、固定部材21とディスクロータ22との相対移動の動きに対して制動力が発生する。詳細については後述する。
【0035】
<制動力発生の原理>
互いに磁場の状態が異なる2つの状態におけるMR流体の状況を
図5(a)および
図5(b)に示す。
【0036】
外側から磁場を印加しない状態では、
図5(a)に示すように、MR流体26内の各強磁性体粒子26aは分散した状態で存在している。したがって、
図5(a)の状態ではディスクロータ22の回転動作に対して制動力は発生しない。
【0037】
一方、外側から磁場を印加すると
図5(b)に示すように、MR流体26内の各強磁性体粒子26aが互いに引きつけ合って鎖状のクラスター構造を形成し半固体化する。すなわち、ディスクロータ22と固定部材21との間が、鎖状のクラスター構造を介して連結される。そして、ディスクロータ22の回転に伴ってディスクロータ22が固定部材21に対して相対移動する際に、鎖状のクラスター構造が剪断する。また、剪断する直前に応力が発生し、この応力が固定部材21とディスクロータ22との間の摺動抵抗、すなわち回転に対する制動力として作用する。
【0038】
また、磁場の印加が継続している状況では、剪断した鎖状のクラスター構造は、すぐに近傍の断片(強磁性体粒子26aの集合)と結合し、新たな鎖状のクラスター構造を形成する。この鎖状のクラスター構造が、ディスクロータ22の回転に伴って再び剪断し、これに伴って応力が発生する。上記のような動作の連続的な繰り返しにより、制動力の発生が継続する。なお、この制動力による運動エネルギーの変化分は、MR流体26の熱エネルギーに変換される。
【0039】
図1に示したMRトレーニング装置10においては、後述する電気回路の制御により、電磁石コイル27が間欠的に且つ周期的に駆動される。そのため、
図5(b)に示すように磁場が印加されて制動力が発生する状態と、
図5(a)に示すように磁場が解除されて制動力が発生しない状態とが交互に生じる。したがって、制動力のトルクに周期的な変動が発生し、これが振動として、ペダル付き操作部15から訓練者13に伝わる。
【0040】
なお、訓練者13がペダル付き操作部15を漕ぐ操作を停止すれば、ディスクロータ22の回転が停止するので、ペダル付き操作部15に加わるトルクの変化、すなわち振動もなくなる。したがって、訓練者13が休憩したいような場合には、ペダル付き操作部15の操作を止めるだけで、振動として余計な負荷が訓練者13に加わるのを自動的に止めることができる。また、訓練を開始する時にも、訓練者13がペダル付き操作部15の操作を開始するまでは振動の発生はなく、ペダル付き操作部15を漕ぐのと同時に振動発生が開始するので、訓練者13にとって扱いやすいMRトレーニング装置10を実現できる。しかも、特別なセンサを設置する必要もないし、複雑な制御も不要である。
【0041】
<電気回路の構成例>
図1に示したMRトレーニング装置10に含まれる電気回路の構成例を
図6に示す。
図6に示した電気回路は、矩形波発生器51、ドライバ回路52、振動周波数調整部53、およびオフセット調整部54を備えている。
【0042】
矩形波発生器51は、連続する矩形波の信号を出力することができる。振動周波数調整部53は、ユーザ等の指示に従い、矩形波発生器51が出力する矩形波の周波数(繰り返し周期の逆数)を変更するための指示を発生する。MRトレーニング装置10を一般的な状態で使用する場合には、矩形波発生器51が出力する矩形波の周波数を例えば50[Hz]程度に定め、発生する振動の基本周波数を100[Hz]に調整することが想定される。
【0043】
なお、矩形波発生器51が出力する信号として、矩形波以外の波形を利用することも考えられるが、例えば正弦波の波形を使用した場合には、矩形波と比べてトルクの変化が緩やかになるため、発生する振動の強度が低下することが想定される。
【0044】
ドライバ回路52は、矩形波発生器51が出力する信号を増幅し、矩形波の電圧VLを電磁石コイル27に印加する。電圧VLの印加によって電磁石コイル27に電流Iが流れる。オフセット調整部54は、ドライバ回路52が出力する電圧VLのオフセットを調整する。ドライバ回路52は、オフセット調整部54が出力するオフセット量に相当する直流バイアス電圧を電圧VLに加算して電磁石コイル27に出力する。
【0045】
なお、オフセットを調整する代わりに、電圧VLの矩形波の振幅を調整してもよいし、両者の調整を併用してもよい。また、振動の周波数や振動の強度を予め最適化した状態に調整してある場合には、振動周波数調整部53およびオフセット調整部54は必ずしも備える必要はない。
【0046】
<電圧VLの波形の例>
電磁石コイル27に印加する電圧VLの波形の例を
図7(a)および
図7(b)に示す。
図7(a)は、オフセットがない場合の電圧VLの波形の例を表し、
図7(b)は、プラス側の直流バイアス電圧が加算されオフセットしている場合の電圧VLの波形の例を表している。
【0047】
図7(a)に示した電圧VLの波形を電磁石コイル27に印加する場合には、電圧VLの振幅に応じたトルクの制動力が負荷としてペダル付き操作部15に加わり、矩形波の極性が切り替わる半周期毎に発生するトルク変化により、振動がペダル付き操作部15に伝わる。また、
図7(b)に示したように電圧VLの波形がオフセットしている場合には、オフセットがない場合と比べて半周期の振幅が増大し、この間の制動トルクが増大される。なお、電圧VLの極性の違いは、トルクや振動強度には影響しない。
【0048】
<トルク特性の具体例>
電磁石コイル27に流れる電流IとMR流体26により発生する制動トルクT[Nm]との関係の具体例を
図8に示す。また、電磁石コイル27に印加する矩形波の電圧VLとMR流体26により発生する制動トルクTとの関係の具体例を
図9に示す。
【0049】
図8に示す特性から明らかなように、電磁石コイル27に流れる電流Iの大きさにほぼ比例するように制動トルクTが変化する。したがって、電磁石コイル27に印加する矩形波の電圧VLが大きくなれば制動トルクTも増大する。
【0050】
また、
図9に示すように、矩形波の電圧VLを電磁石コイル27に印加すると、電圧VLの極性が切り替わる各タイミングで、制動トルクTが急激に変化する。したがって、電圧VLの矩形波の半周期毎に、制動トルクTの変化として振動が発生する。また、電圧VLの矩形波の振幅が大きくなると、振動の大きさも増大する。また、矩形波の代わりに正弦波などの波形を利用することも可能であるが、その場合には振動強度が低下すると考えられる。
【0051】
<MRトレーニング装置10の利点>
図1に示したMRトレーニング装置10はMR流体26を利用する制動機構14を採用しているので、電気モータのような固体のアクチュエータを必要としない。したがって、消費電力が小さくなり、しかも壊れにくい装置を容易に実現できる。また、MRトレーニング装置10は振動を発生するので、例えば人間の老化に伴う骨密度低下の防止や、血流の改善にも役立つと考えられる。
【0052】
また、MRトレーニング装置10においては、制動力(抵抗)の変化により振動を発生するので、電磁石コイル27が常時制御状態であったとしても、訓練者13がペダル付き操作部15を漕ぐ操作を行ったときだけ振動が発生する。したがって、訓練者13に優しく、操作性のよいMRトレーニング装置10を提供できる。つまり、訓練の開始前や、訓練終了後に、必要としない負荷が訓練者13に加わるのを自動的に防止できるため安全である。しかも、特別なセンサやスイッチを設置する必要がないし、複雑な制御を実施する必要もないので、MRトレーニング装置10のコストを低減できる。
【0053】
<変形の可能性>
なお、上述のMRトレーニング装置10においては、制動機構14が機能性流体としてMR流体26を採用しているが、MR流体26の代わりにER流体(Electro-Rheological Fluids)など他の機能性流体を利用することも考えられる。但し、ER流体を採用する場合には、MR流体と比べて発生する応力が小さくなる傾向があるので、MRトレーニング装置10の用途ではMR流体の採用が望ましい。
【0054】
上述の実施形態では、本発明の振動発生装置をMRトレーニング装置10に適用した場合を想定しているが、この振動発生装置は様々な用途で利用できる。例えば、工場の製造工程などで利用される振動ホッパーに、本発明の振動発生装置を利用することが考えられる。すなわち、部品などの物品をベルトコンベアで搬送する際に、所定位置で物品に振動を与えることで、物品をベルトコンベアから落下させて仕分けや搬送経路の切替などを行うことができる。その場合は、ベルトコンベアが一定の速度で移動するので、この移動に対して、制動機構14と同様の原理で制動力を与えると共に、電磁石コイル27を交流の信号で間欠的に駆動することにより、連続的な振動を発生できる。
【0055】
また、電磁石コイル27に印加する電圧VLとしては、周期的な波形に限定されず、単発的に変化するもの、時間に対しランダムに変化するもの、周期が変動するもの、周期に揺らぎを含むものなど、制動トルクTの変化によって振動が発生するものであればよく、振動発生装置の用途に応じて最適な波形を選択する。
【0056】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る振動発生装置の特徴をそれぞれ以下[1]~[4]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 固定部材(21)と、
前記固定部材と対向する位置に配置された可動部材(ディスクロータ22)と、
前記可動部材と前記固定部材との間の空間に充填され、電場又は磁場の印加に応じて粘弾性が変化する機能性流体(MR流体26)と、
前記機能性流体に対して電場又は磁場を印加する制御部(ドライバ回路52、電磁石コイル27)とを有し、
前記制御部は、時間に応じて変化する信号に基づいて前記電場又は磁場を生成し、前記可動部材と前記固定部材との間の摺動抵抗に振動を発生させる振動発生部(矩形波発生器51)を備える、
振動発生装置(制動機構14)。
【0057】
[2] 前記可動部材が回転軸(円筒状回転軸23)と連結され、
前記振動発生部は、前記回転軸の回転抵抗に対して振動を発生させる、
上記[1]に記載の振動発生装置。
【0058】
[3] 前記振動発生部は、周期的な矩形波に基づいて前記電場又は磁場を変化させる(
図9参照)、
上記[1]又は[2]に記載の振動発生装置。
【0059】
[4] 前記振動発生部は、時間に応じて変化する信号に一定の電圧を重畳させることによって、一定の摺動抵抗に重畳させて振動を発生させる、
上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の振動発生装置。
【符号の説明】
【0060】
10 MRトレーニング装置
11 機器フレーム
12 支持部
13 訓練者
14 制動機構
15 ペダル付き操作部
21 固定部材
22 ディスクロータ
23 円筒状回転軸
24 オイルシール
25a,25b 空間
26 MR流体
26a 強磁性体粒子
27 電磁石コイル
28 電磁石ヨーク
29 磁界
51 矩形波発生器
52 ドライバ回路
53 振動周波数調整部
54 オフセット調整部
Pa 断面部
VL 電圧