(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂発泡体及びその成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/10 20060101AFI20220524BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C08J9/10 CES
B60R13/02 A
B60R13/02 B
B60R13/02 C
(21)【出願番号】P 2017224467
(22)【出願日】2017-11-22
【審査請求日】2020-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】高杉 基
(72)【発明者】
【氏名】宇野 拓明
(72)【発明者】
【氏名】杉江 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】三上 洋輝
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-227930(JP,A)
【文献】特開平07-018108(JP,A)
【文献】特開2004-204154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/10
B60R 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂を含むポリオレフィン系樹脂発泡性組成物を発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡体であって、
気泡のアスペクト比A(MD平均気孔径(Dx)/TD平均気泡径(Dy))が1.5~1.9であり、
MDの平均気孔径が360~396μmであり、
前記ポリオレフィン系樹脂は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、50~80質量部のポリプロピレン系樹脂を含むポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項2】
厚さが1.5mm以上である請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、20~50質量部の、ポリエチレン系樹脂及びポリオレフィン系ゴムからなる群から選択される少なくとも1種のポリオレフィン系高分子材料をさらに含む請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂発泡体の発泡倍率が15~35cm
3/gある請求項1~3のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体を用いた成形体。
【請求項6】
車両用内装材である請求項
5に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂発泡体及びそのポリオレフィン系樹脂発泡体を用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオレフィン系樹脂発泡体は、断熱材やクッション材等として広範な分野で使用されており、例えば、自動車等の車両においては、天井材、ドア、インスツルメントパネル、コンソールボックス、リヤホイルハウスカバー、ラゲージハウスカバー、トランクルームカバー等の車両内装材として汎用されている。このような車両用内装材に使用されるポリオレフィン系樹脂発泡体として、例えば、特許文献1に記載されているものが従来技術として知られている。
ポリオレフィン系樹脂発泡体の製造では、発泡性シートを加熱炉内に通して加熱発泡させるとき、発泡性シートを送り込むスピード(入口スピード)に比べて、発泡シートを巻取るスピード(出口スピード)を大きくすることが一般的である。例えば、特許文献1に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体では、入口スピードに対する出口スピードの比(出口スピード/入口スピード)は約4である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたようなポリオレフィン系樹脂発泡体を用いて、複雑な形状に真空成形すると、良好には成形できない場合があった。
そこで、本発明は、優れた成形性を有するポリオレフィン系樹脂発泡体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、所定のアスペクト比の気泡を有するポリオレフィン系樹脂発泡体が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記[1]~[8]に関する。
[1]ポリオレフィン系樹脂を含むポリオレフィン系樹脂発泡性組成物を発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡体であって、気泡のアスペクト比A(MD平均気孔径(Dx)/TD平均気泡径(Dy))が1.3~2.1であるポリオレフィン系樹脂発泡体。
[2]厚さが1.5mm以上である上記[1]に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
[3]ポリオレフィン系樹脂は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、50~80質量部のポリプロピレン系樹脂を含む上記[1]又は[2]に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
[4]前記ポリオレフィン系樹脂は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、20~50質量部の、ポリエチレン系樹脂及びポリオレフィン系ゴムからなる群から選択される少なくとも1種のポリオレフィン系高分子材料をさらに含む上記[3]に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
[5]前記ポリオレフィン系樹脂発泡体の発泡倍率が15~35cm3/gある上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
[6]前記ポリオレフィン系樹脂発泡体のMDの平均気孔径が360~500μmである上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
[7]上記[1]~[6]のいずれか1つに記載のポリオレフィン系樹脂発泡体を用いた成形体。
[8]車両用内装材である上記[7]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、成形性の優れたポリオレフィン系樹脂発泡体及びそれを用いた成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体におけるMD及びTDを説明するための図である。
【
図2】
図2は、本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体における気孔のMD平均気孔径(Dx)及びTD平均気泡径(Dy)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[ポリオレフィン系樹脂発泡体]
本発明は、ポリオレフィン系樹脂発泡性成形体を発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡体であり、気泡のアスペクト比A(MD平均気孔径(Dx)/TD平均気泡径(Dy))が1.3~2.1である。本発明のポリオレフィン系樹脂発泡性成形体は、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂発泡性成形体を架橋し、発泡させてなるポリオレフィン系樹脂発泡体である。
なお、本発明において「MD」は、「Machine Direction」を意味し、発泡体の押出方向等と一致する方向を意味する。また、「TD」は、「Transverse Direction」を意味し、MDに直交しかつ発泡体に平行な方向を意味する。また、
図1及び
図2に示すように、発泡体1のMD平均気泡径(Dx)は、発泡体1のMDにおける気泡10の平均気泡径であり、TD平均気泡径(Dy)は、発泡体1のTDにおける気泡10の平均気泡径である。
【0009】
[ポリオレフィン系樹脂]
樹脂組成物(a)に含まれるポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂及びポリオレフィン系ゴムからなる群から選択される少なくとも1種のポリオレフィン系高分子材料とを含む。
【0010】
ポリオレフィン系樹脂に含まれるポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体が挙げられる。プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、ランダムブロック共重合体の何れであってもよいが、ランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)であることが好ましい。
プロピレンと他のオレフィンとの共重合体において、プロピレンと共重合される他のオレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等のα-オレフィンが挙げられ、これらの中ではエチレンが特に好ましい。すなわち、ポリプロピレン樹脂としてはエチレン-プロピレンランダム共重合体が好ましい。
なお、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、通常、プロピレンが90~99.5重量%、プロピレン以外のα-オレフィンが0.5~10質量%であるが、プロピレンが95~99重量%、プロピレン以外のα-オレフィンが1~5質量%であることが好ましい。
【0011】
ポリプロピレン系樹脂は、そのメルトフローレート(以下、「MFR」ともいう)が0.4~4.0g/10分であることが好ましく、0.5~2.5g/10分であることがより好ましい。上記のMFRを有するポリプロピレン系樹脂を使用することで、樹脂組成物(a)をポリオレフィン系樹脂発泡体に加工する際の成形性、及びポリオレフィン系樹脂発泡体を二次加工する際の成形性を良好にしやすくなる。
上記のポリプロピレン系樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、MFRは、JIS K7210に基づき、温度230℃、荷重2.16kgfの条件で測定された値である。
【0012】
ポリオレフィン系樹脂におけるポリプロピレン系樹脂の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、50~80質量部であり、好ましくは55~75質量部であり、より好ましくは57~73質量部であり、さらに好ましくは60~70質量部である。ポリプロピレン系樹脂の含有量が50~80質量部であると、耐熱性及び柔軟性を兼ね備えたポリオレフィン系発泡体を得ることができる。
【0013】
樹脂組成物(a)に含まれるポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン系樹脂及びポリオレフィン系ゴムからなる群から選択される少なくとも1種のポリオレフィン系高分子材料をさらに含んでもよい。樹脂組成物(a)に含まれるポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン系樹脂をさらに含むことが好ましい。
【0014】
ポリオレフィン系樹脂に含まれるポリエチレン系樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。直鎖状低密度ポリエチレンを用いることにより、発泡体に柔軟性を付与するとともに、樹脂発泡体の薄型化が可能になる。また、直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレン(例えば、全モノマー量に対して75質量%以上、好ましくは90質量%以上)と必要に応じて少量のα-オレフィンとを共重合することにより得られる直鎖状低密度ポリエチレンがより好ましい。
α-オレフィンとして、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、及び1-オクテン等が挙げられる。なかでも、炭素数4~10のα-オレフィンが好ましい。
ポリエチレン樹脂、例えば上記した直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、0.910~0.950g/cm3が好ましく、0.910~0.930g/cm3がより好ましい。ポリエチレン樹脂としては、複数のポリエチレン樹脂を用いることもでき、また、上記した密度範囲以外のポリエチレン樹脂を加えてもよい。
【0015】
ポリオレフィン系樹脂に含まれるポリオレフィン系ゴムとしては、2種以上のオレフィン系モノマーが実質的にランダムに共重合した非晶質又は低結晶性のゴム状物質が好ましく、成形性及び柔軟性をバランスよく向上させる観点から、エチレン-α-オレフィン系共重合ゴムを含むものがより好ましい。
エチレン-α-オレフィン系共重合ゴムに使用されるα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等の炭素数3~15、好ましくは炭素数3~10のα-オレフィンの1種又は2種以上が挙げられる。これらの中ではプロピレン及び1-ブテンが好ましく、プロピレンがより好ましい。
また、ポリエチレン系樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。
【0016】
エチレン-α-オレフィン系共重合ゴムは、エチレン単位及びα-オレフィン単位に加え、他のモノマー単位を有していてもよい。
前記他のモノマー単位を形成するモノマーとしては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の炭素数4~8の共役ジエン;ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ジシクロオクタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン等の炭素数5~15の非共役ジエン;酢酸ビニル等のビニルエステル化合物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらのモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では炭素数5~15の非共役ジエンが好ましく、入手容易性の観点から、5-エチリデン-2-ノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン(DCPD)がより好ましい。
【0017】
エチレン-α-オレフィン系共重合ゴムのエチレン単位の含有量は、通常30~85質量%、好ましくは40~80質量%、より好ましくは45~75質量%であり、プロピレン等の炭素数3~15、好ましくは3~10のα-オレフィン単位の含有量は、通常10~60重量%、好ましくは15~50重量%であり、非共役ジエン等のその他の単量体単位の含有量は、通常0~20重量%、好ましくは1~10重量%である。
【0018】
エチレン-α-オレフィン系共重合ゴムは、そのムーニー粘度(ML1+4,100℃)が15~85であるものが用いられる。ムーニー粘度を上記範囲内とすることで、柔軟性及び成形性をバランスよく向上させることが可能になる。また、柔軟性及び成形性をより良好にするために、オレフィン系ゴムの上記ムーニー粘度は、25~75であることがより好ましく、30~70であることがさらに好ましい。なお、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)はJIS K6300-1に準拠して測定することができる。
【0019】
また、ポリオレフィン系ゴムとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)も使用可能である。オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)は、一般的には、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンをハードセグメントとし、EPM、EPDMなどのゴム成分をソフトセグメントとするものである。オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)は、ブレンド型、動的架橋型、重合型のいずれも使用可能である。
オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)は、そのMFRが0.8~5.0g/10分であることが好ましく、1.5~4.0g/10分であることがより好ましい。上記のMFRを有するオレフィン系熱可塑性エラストマーを使用することで、樹脂組成物(a)を発泡体に加工する際の成形性、及び発泡体を二次成形する際の成形性を良好にしやすくなる。なお、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)のMFRは、JIS K7210に基づき、温度230℃、荷重2.16kgfの条件で測定された値である。
【0020】
ポリオレフィン系ゴムの好適な具体例としては、エチレン-プロピレン共重合体ゴム(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム(EPDM)及びオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)が挙げられるが、EPDM単独又はEPDMとTPOとの併用が好ましい。なお、EPDMとしては、エチレン-プロピレン-5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合ゴム、エチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエン共重合ゴムが挙げられ、これらの中では、エチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエン共重合ゴムが好ましい。
【0021】
オレフィン系ゴムは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
ポリオレフィン系樹脂におけるポリエチレン系樹脂及びポリオレフィン系ゴムからなる群から選択される少なくとも1種のポリオレフィン系高分子材料の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、20~50質量部であり、好ましくは25~45質量部であり、より好ましくは27~43質量部であり、さらに好ましくは30~40質量部である。上記ポリオレフィン系高分子材料の含有量が10質量部以上であると、ポリオレフィン系樹脂発泡体の柔軟性が良好になる。
【0023】
[その他の成分]
ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂単独で、又はポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂及びポリオレフィン系ゴムから選択される少なくとも1種のポリオレフィン系化合物とのみで構成されてもよい。しかし、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、ポリオレフィン系樹脂は、それら以外の樹脂成分を含んでいてもよい。
かかる樹脂成分としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アルキルアクリレ-ト共重合体、又はこれらに無水マレイン酸を共重合した変性共重合体等が挙げられる。
【0024】
ポリオレフィン系樹脂発泡体の熱安定性及び機械的強度を向上させるとともに柔軟性及び成形性を確保するという観点から、樹脂組成物(a)における上記オレフィン系樹脂の含有量は、好ましくは80~99質量%であり、より好ましくは83~98質量%である。
【0025】
<添加剤>
樹脂組成物(a)は、上記オレフィン系樹脂以外に添加剤として、通常、発泡剤を含有する。また、樹脂組成物(a)は架橋助剤及び酸化防止剤の一方又は両方を含有することが好ましい。
【0026】
(発泡剤)
樹脂組成物(a)を発泡させる方法としては、化学的発泡法、物理的発泡法がある。化学的発泡法は、樹脂組成物(a)に添加した化合物の熱分解により生じたガスにより気泡を形成させる方法であり、物理的発泡法は、低沸点液体(発泡剤)を樹脂組成物(a)に含浸させた後、発泡剤を揮発させてセルを形成させる方法である。発泡法は特に限定されないが、均一な独立気泡発泡体を得る観点から、化学的発泡法が好ましい。
発泡剤としては、熱分解型発泡剤が使用され、例えば分解温度が160~270℃程度の有機系又は無機系の化学発泡剤を用いることができる。
有機系発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸金属塩(アゾジカルボン酸バリウム等)、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、ヒドラゾジカルボンアミド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、トルエンスルホニルヒドラジド等のヒドラジン誘導体、トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド化合物等が挙げられる。
【0027】
無機系発泡剤としては、酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、無水クエン酸モノソーダ等が挙げられる。
これらの中では、微細な気泡を得る観点、及び経済性、安全面の観点から、アゾ化合物、ニトロソ化合物が好ましく、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミンがより好ましく、アゾジカルボンアミドが特に好ましい。
発泡剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
熱分解型発泡剤の添加量は、発泡体の気泡が破裂せずに適切に発泡させる観点から、樹脂成分100質量部に対して1~25質量部が好ましく、1.5~15質量部がより好ましく2~10質量部がさらに好ましい。
【0028】
(架橋助剤)
架橋助剤としては、多官能モノマーを使用することができる。例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の3官能(メタ)アクリレート系化合物;トリメリット酸トリアリルエステル、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸トリアリルエステル、トリアリルイソシアヌレート等の1分子中に3個の官能基を持つ化合物;1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート等の2官能(メタ)アクリレート系化合物、ジビニルベンゼン等の1分子中に2個の官能基を持つ化合物;フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、エチルビニルベンゼン、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。これらの中では、3官能(メタ)アクリレート系化合物がより好ましい。
架橋助剤は、単独で又は2以上を組み合わせて用いることができる。
架橋助剤を樹脂組成物(a)に添加することによって、少ない電離性放射線量で樹脂組成物(a)を架橋することが可能になる。そのため、電離性放射線の照射に伴う各樹脂分子の切断、劣化を防止することができる。
架橋助剤の含有量は、樹脂組成物(a)を発泡する際に、架橋度の調整、制御の容易さの観点から、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.2~20質量部が好ましく、0.5~15質量部がより好ましい。
【0029】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。これらの中では、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤と硫黄系酸化防止剤とを併用することがより好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)等が挙げられる。
これらの酸化防止剤は、単独で又は2以上を組み合わせて用いることができる。
酸化防止剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.2~5質量部がより好ましい。
また、樹脂組成物(a)は、必要に応じて、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、尿素等の分解温度調整剤、難燃剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、充填剤、顔料等の上記以外の添加剤を含有してもよい。
さらに、樹脂組成物(a)は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂を含有してもよい。
【0030】
[ポリオレフィン系樹脂発泡体]
上述したように、本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体(以下、単に「発泡体」ともいう)は、上記した樹脂組成物(a)を発泡してなるものである。
(気孔アスペクト比)
本発明の発泡体における気泡のアスペクト比A(MD平均気孔径(Dx)/TD平均気泡径(Dy))は1.3~2.1である。気孔のアスペクト比A(Dx/Dy)の値が1.3未満であると発泡体の成形性が悪くなるともにクッション性も悪くなる。また、気孔のアスペクト比A(Dx/Dy)の値が2.1よりも大きいと、発泡体の成形性が悪くなる。発泡体の成形性及びクッション性の観点から、発泡体における気泡のアスペクト比A(MD平均気孔径(Dx)/TD平均気泡径(Dy))は、好ましくは1.4~2.1であり、より好ましくは1.5~2.1であり、さらに好ましくは1.6~2.1であり、さらに好ましくは1.6~2.0である。
なお、気泡のアスペクト比Aは、後述する実施例の方法にしたがって測定することができる。
【0031】
(MD平均気孔径)
本発明の発泡体におけるMD平均気孔径(Dx)は、好ましくは360~500μmであり、より好ましくは365~430μmであり、さらに好ましくは370~410μmmである。MD平均気孔径(Dx)が上記範囲内であると、良好な柔軟性と良好な成形性とを兼ね備えた発泡体を得ることができる。
なお、MD平均気孔径(Dx)は、後述する実施例の方法にしたがって測定することができる。
【0032】
(発泡倍率)
柔軟性及び成形性が良好な発泡体を得るという観点から、本発明の発泡体における発泡倍率は、好ましくは15~35cm3/gであり、より好ましくは20~30cm3/gであり、さらに好ましくは24~28cm3/gである。
なお、発泡体の発泡倍率は、後述する実施例の方法にしたがって測定することができる。
【0033】
(厚さ)
本発明の発泡体は、特に車両用内装材として用いられていることから、本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体の厚さは、好ましくは1.5mm以上であり、より1.5~10mmであり、さらに好ましくは1.5~8mmであり、さらに好ましくは1.9~5mmである。
なお、発泡体の厚さは、後述する実施例の方法にしたがって測定することができる。
【0034】
本発明の発泡体は、優れた成形性を有するので、車両用内装材用発泡体としての用途、特に自動車用内装用発泡体に適している。
【0035】
<発泡体の製造方法>
発泡体は、例えば、樹脂組成物(a)を溶融混練し、押出し成形してポリオレフィン系樹脂発泡性成形体を作製した後、電離性放射線を照射してポリオレフィン系樹脂発泡性成形体を加熱発泡することにより製造することができる。
具体的には、以下の工程1~3を有する製造方法がより好ましい。
工程1:樹脂組成物(a)を構成する各成分を溶融混練した後、押出し成形してポリオレフィン系樹脂発泡性成形体(以下、発泡性成形体と呼ぶ場合がある)を得る工程
工程2:工程1で得られた発泡性成形体に電離性放射線を照射して、架橋する工程
工程3:工程2で架橋した発泡性成形体を、熱分解型発泡剤の分解温度以上に加熱して発泡させて、発泡体を得る工程
【0036】
工程1では、樹脂組成物(a)を構成する各成分を混練装置に供給して、熱分解型発泡剤の分解温度未満の温度で溶融混練し、その後、溶融混練された樹脂組成物(a)を、好ましくは溶融混練で使用した混練装置で押出し成形して発泡性成形体を作製する。発泡性成形体は、例えばシート状の形状を有する。
ここで使用される混練装置としては、押出機(単軸押出機、二軸押出機等)が好ましい。
押出機の内部の樹脂温度は、好ましくは120~220℃、より好ましくは140~200℃、さらに好ましくは150~195℃である。
【0037】
工程2では、発泡性成形体に電離性放射線が照射される。
電離性放射線としては、例えば、電子線、α線、β線、γ線、X線等が挙げられる。これらの中では、生産性及び照射を均一に行う観点から、電子線が好ましい。
電離性放射線の照射は、発泡性成形体の片面のみに照射してもよいし、両面に照射してもよい。
電離性放射線の加速電圧は、照射する発泡性成形体の厚さにもよるが、例えば、厚さが0.05~3mmの場合、400~1200kVであることが好ましく、500~1100kVであることがより好ましく、600~1000kVであることがより好ましい。
電離性放射線の照射線量は、照射する発泡性成形体の厚さ等を考慮し、表面荒れやひび割れ等生じることなく、所望の架橋度を得ることができる量であれがよいが、通常、0.1~10Mradが好ましく、0.2~5Mradがより好ましく、0.3~3Mradがより好ましい。
【0038】
工程3では、以上のように電離性放射線の照射により発泡性成形体を架橋した後、発泡性成形体を、発泡剤の分解温度以上に加熱して発泡させ、発泡体を得ることができる。また、発泡シートは、発泡後、又は発泡されつつMD又はTDの何れか一方又は双方に延伸されてもよい。しかし、発泡シードは、TDにおいては実質的に無延伸であることが好ましい。TDにおいて、実質的に、無延伸にしつつ、後述するようにスピードの比を一定にすることで、気泡のアスペクト比を所望の範囲に調整しやすくなる。
ここで、発泡性成形体を加熱発泡させる温度は、発泡剤として使用される熱分解型発泡剤の分解温度によるが、通常140~300℃、好ましくは150~280℃、より好ましくは160~260℃である。
具体的には、熱風及び赤外線ヒーターによって上述の加熱発泡させる温度に保持された発泡炉内に発泡性成形体を連続的に送り込んで加熱して、発泡させる。発泡性成形体が発泡炉に進入するときのスピード(入口スピード)に対する発泡性成形体が発泡炉の出口から排出されるときのスピード(出口スピード)の比(出口スピード/入口スピード)の値を調節することによって、発泡体の気泡のアスペクト比A(Dx/Dy)を制御することができる。出口スピードは発泡体の巻取速度に対応する。
所望のアスペクト比の気泡を有する発泡体を得るという観点から、(出口スピード/入口スピード)の値は、好ましくは3.0~5.0であり、より好ましくは3.3~4.5であり、さらに好ましくは3.6~4.2である。
さらに、工程3では、所望のアスペクト比を得る観点から、発泡性成形体又は発泡体のTDにおいては実質的に無延伸とし、MDにおいては出口スピードを抑え、(出口スピード/入口スピード)の値を上述の範囲内にすることが好ましい。
【0039】
ただし、本製造方法は、上記に限定されずに、上記以外の方法により、発泡体を得てもよい。例えば、電離性放射線を照射する代わりに、発泡性組成物に予め有機過酸化物を配合しておき、発泡性組成物を加熱して有機過酸化物を分解させる方法等により架橋を行ってもよい。
【0040】
本発明の発泡体は、独立気泡構造であることが好ましいが、連続気泡を含む独立気泡構造であってもよい。
【0041】
[成形体]
本発明の成形体は本発明の発泡体を用いたものであり、本発明の発泡体を公知の方法で成形して得られるものである。成形体を製造するに際し、基材、表皮材等の他の素材を積層し貼り合せて製造することもできる。
基材は成形体の骨格となるものであり、通常、熱可塑性樹脂が用いられる。基材用の熱可塑性樹脂としては、上述したポリオレフィン系樹脂、エチレンとα-オレフィン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル等との共重合体、ABS樹脂、及びポリスチレン樹脂等を適用することができる。
表皮材としては、ポリ塩化ビニルシート、ポリ塩化ビニルとABS樹脂との混合樹脂からなるシート、熱可塑性エラストマーシート、天然繊維や人造繊維を用いた織物、編物、不織布、人工皮革や合成皮革等のレザー等が挙げられる。また、本革や、石や木等から転写した凹凸を付したシリコーンスタンパ等を用いて、表面に皮目や木目模様等の意匠が施された複合成形体としてもよい。
表皮材を貼り合わせる方法としては、例えば、押出ラミネート法、接着剤を塗布した後張り合わせる接着ラミネート法、熱ラミネート法(熱融着法)、ホットメルト法、高周波ウェルダー法等が挙げられるが、如何なる方法でも両者が接着されればよい。
【0042】
本発明の成形体の成形方法としては、スタンピング成形法、真空成形法、圧縮成形法、射出成形法等が挙げられる。
本発明の成形体は、車両用内装材として使用することが好ましく、自動車用内装材として使用することがより好ましく、特に自動車分野において、天井材、ドア、インスツルメントパネル等の自動車内装材として好適に使用できる。
【実施例】
【0043】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
以下の化合物を混合してポリオレフィン系樹脂発泡性組成物を得た。
・ポリプロピレン系樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体:住友化学社製、商品名「AD571」、密度0.90g/cm3、MFR0.5g/10分(230℃)):70質量部
・直鎖状低密度ポリエチレン(東ソー社製、商品名「ZF231」、MFR2g/10分(190℃)、密度0.917g/cm3):30質量部
・アゾジカルボンアミド(発泡剤、永和化成工業(株)製商品名「ビニホールAC-K3-TA」、分解温度:210℃):10質量部
・ジラウリルチオプロピオネート(酸化防止剤):1質量部
・ジビニルベンゼン(架橋助剤):3質量部
得られたポリオレフィン系樹脂発泡性組成物を、単軸押出機により、温度185℃で溶融混練して、ポリオレフィン系樹脂発泡性成形体とした。該発泡性成形体の表層を加速電圧650keVにて電離性放射線を1.8Mradで照射し、次いでもう一方の表層を加速電圧800keVにて電離性放射線を1.4Mradで照射して、ポリオレフィン系樹脂発泡性成形体を架橋させた。その後、該ポリオレフィン系樹脂発泡性成形体を、炉内温度250℃の縦型熱風式発泡炉に供給し、進入速度(入口スピード)3.7m/秒、巻取速度(出口スピード)14.0m/秒で連続的に延伸しつつ加熱発泡させ、ポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。このときの入口スピードに対する出口スピードの比(出口スピード/入口スピード)の値は3.8であった。
該ポリオレフィン系樹脂発泡体について、厚さ、発泡倍率、MD平均気泡径、TD平均気泡径、アスペクト比A(Dx/Dy)及び燃焼性評価を下記とおり行った。結果を表1に示した。
【0045】
(実施例2~3、比較例1~2)
入口スピードに対する出口スピードの比(出口スピード/入口スピード)の値を表1のとおり変更した以外は、実施例1と同様にポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。
【0046】
(実施例4、比較例3)
ポリオレフィン系樹脂発泡性組成物の組成及び入口スピードに対する出口スピードの比(出口スピード/入口スピード)の値を表1のとおり変更した以外は、実施例1と同様にポリオレフィン系樹脂発泡体を得た。
【0047】
(厚さ)
発泡体の厚みはダイヤルゲージを用いて計測した。
【0048】
(発泡倍率)
発泡体の密度(見かけ密度)はJISK 7222に準拠して測定した。
そして、発泡体の密度の逆数を発泡倍率とした。
【0049】
(MD及びTDの平均気孔径並びにアスペクト比A(Dx/Dy))
発泡体を50mm四方にカットしたものを測定用の発泡体サンプルとして用意した。これを液体窒素に1分間浸した後にカミソリ刃でMD及びTDに沿ってそれぞれ厚み方向に切断した。この断面をデジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製「VHX-900」)を用いて200倍の拡大写真を撮り、MD及びTDのそれぞれにおける長さ2mm分の切断面に存在する全ての独立気泡について気泡径を測定し、その操作を5回繰り返した。そして、全ての気泡の平均値をMD平均気泡径(Dx)及びTD平均気泡径(Dy)とした。そして、MD平均気泡径(Dx)をTD平均気泡径(Dy)で割り算することによってアスペクト比A(Dx/Dy)を算出した。
【0050】
(発泡体の接着剤接着性及び成形性の評価)
各実施例、比較例で得られた発泡体を表面温度160℃の条件で真空成形機により成形し、直径80mm、高さ56mmの有底円筒のカップ状の成形体に成形した。成形体を目視で観察し、その成形性を以下の3段階で評価した。
×:破れあり、△:破れはないがスケあり、○:全面均等
【0051】
(25%圧縮硬さ)
JIS K6767に準拠して測定し、以下の基準でクッション性を評価した。
(評価基準)
○:25%圧縮硬さが40kPa以上80kPa以下である。
×:25%圧縮硬さが80kPaを越えている。
【0052】
【0053】
表1の結果から明らかなように、気泡のアスペクト比Aが1.3~2.1の範囲内にある実施例1~4のポリオレフィン系樹脂発泡体の成形性は良好であった。一方、気泡のアスペクト比Aが1.6以上である比較例1~3のポリオレフィン系樹脂発泡体の成形性は悪かった。
【符号の説明】
【0054】
1 ポリオレフィン系樹脂発泡体
10 気泡