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特許7078390横断部材とリングスタックとを備える、無段変速機に用いられる駆動ベルト、およびその製造方法
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  • 特許-横断部材とリングスタックとを備える、無段変速機に用いられる駆動ベルト、およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】横断部材とリングスタックとを備える、無段変速機に用いられる駆動ベルト、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/16 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
F16G5/16 C
【請求項の数】 1
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017245189
(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2018112312
(43)【公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】1042192
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】コルネリス ヨハネス マリア ファン デル メーア
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-537570(JP,A)
【文献】特開2005-207494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ベルト(6)の製造方法であって、該駆動ベルト(6)は、リングスタック(9)と複数の横断部材(10)とを備え、該横断部材(10)は、連続的に可動に前記リングスタック(9)に配置されており、前記横断部材(10)には、前記リングスタック(9)を収容するための開口(33)が設けられており、該開口(33)は、該開口(33)の下側で、それぞれの前記横断部材(10)のベース部分(13)の上側における支持面(42)により画定されており、前記ベース部分(13)には、前記横断部材(10)の前側本体面(11)の部分により成される揺動縁部(18)が設けられており、該揺動縁部(18)は、それぞれの前記横断部材(10)の前記ベース部分(13)の幅寸法(W)にわたって幅方向で延在しており、前記揺動縁部(18)は、当該幅方向に対して垂直に凸状に湾曲しており、前記ベース部分(13)には、前記支持面(42)と前記横断部材(10)の前記前側本体面(11)との間の移行縁部(50)が設けられており、前記製造方法において、前記横断部材(10)を前記リングスタック(9)に取り付ける前に、前記横断部材(10)の幅(W)および移行縁部(50)の曲率半径の双方ミリメートルで測定し、ΔWm < 0.005*e^(10*Rte)の関係を満たす前記横断部材(10)だけを前記リングスタック(9)に配置し、Rteは、前記駆動ベルト(6)の全ての前記横断部材(10)の前記移行縁部(50)の平均曲率半径であり、eは、自然対数の底であり、ΔWmは、前記駆動ベルト(6)の全ての前記横断部材(10)の間の幅寸法(W)の最大の差であることを特徴とする、駆動ベルト(6)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2つのプーリと駆動ベルトとを備える無段変速機に用いられる駆動ベルトに関する。そのような駆動ベルトは、国際特許出願である国際公開第2015/063132号において公知であり、各々が互いに重ね合わされた連続的ないくつかのバンド、つまり平らで薄いリングのスタックに取り付けられた横断部材の列を含む。横断部材は、リングスタックのそれぞれの周部分を収容しかつ制限する開口を形成する一方、リングスタックの周に沿って動くことが可能である。この特別なタイプの駆動ベルトは、プッシュタイプの駆動ベルトまたはブッシュベルトとも称される。本開示は、両方の設計の駆動ベルトを製造する方法にも関する。
【0002】
後述の記載において、軸方向、半径方向および周方向は、円形姿勢で配置されたときの駆動ベルトに関して規定されている。さらに、横断部材の厚さ寸法は、駆動ベルトの周方向に規定されており、横断部材の高さ寸法は、前記半径方向に規定されており、横断部材の幅方向は、前記軸方向に規定されている。
【0003】
公知の横断部材の各々は、ベース部分と中央部分と上側部分とから成る。横断部材の中央部分は、横断部材の前記ベース部分と上側部分とを相互接続しながら半径方向に延在している。中央部分の両側で、横断部材は、駆動ベルトのそれぞれのリングスタックを収容するために、開口を、横断部材のベース部分と上側部分との間に形成する。各々の開口において、横断部材の、半径方向外方へ面する下面は、半径方向外側でリングスタックに接触し、これを支持する。横断部材のベース部分に関する、開口のこれらの下面は、以下、支持面と称される。
【0004】
駆動ベルトの横断部材の列において、横断部材の前側本体面の少なくとも一部は、前記列におけるそれぞれ先行の横断部材の後側本体面の少なくとも一部に当接するのに対して、横断部材の後側本体の少なくとも一部は、それぞれ後続の横断部材の前側本体面の少なくとも一部に当接する。横断部材のこれらの前側本体面および後側本体面の少なくとも1つ、たとえば前側本体面は、軸方向に延在する凸状に湾曲した表面部分を含む。この湾曲した表面部分は、前側本体面を、互いに対して所定の角度に向けられた半径方向外側表面部分と半径方向内側表面部分とに分割している。駆動ベルトにおいて当接している横断部材は、互いに対して傾動することができる一方、そのような湾曲した表面部分で、かつこれを介して、相互の接触が維持され、ゆえに、そのような湾曲した表面部分は、以下、傾動縁部と称される。傾動縁部は、駆動ベルトの横断部材の列が、トランスミッションプーリによりもたらされるリングスタックの局所的な湾曲に追従することを可能にする。
【0005】
上述のように、駆動ベルトにおいて、横断部材は、リングスタックの周に沿ってリングスタックに対して可動である。このことは、駆動ベルトの動作中に、リングスタックに、少なくとも別のタイプの駆動ベルトと比べて、プーリの間で駆動ベルトにより伝達されるトルクに関する比較的低いレベルの張力が掛けられるという利点を有する。しかし一方、横断部材とリングスタックとの間のそのような摺動モーメントまたはスリップが、小さいが想定摩擦損失を引き起こすことが知られている。そのような摺動モーメントを、好適には、高さ方向でリングスタックの半径方向内側のできるだけ近くに横断部材の傾動縁部を配置することにより、最小限に抑えることができる。理論的には、この点において、傾動縁部は、好適には、対象となる横断部材の支持面と一致するように配置されている。
【0006】
実際には、傾動縁部は、通常は、支持面の半径方向内側に約1mmの距離を置いて配置されている。しかし実際には、たとえば国際公開第2015/063132号により教示されたように、横断部材の生産に特別な製造工程を採用することにより、前記距離を、0.9mm~0.6mmまたはそれ未満に減少させることができる。
【0007】
横断部材の態様の上記設計および横断部材の効率改善効果は、実際に試験されていて、確認されている。しかし、全部ではないが一部の場合において、これらの試験は、駆動ベルト全体の耐用期間の僅かではあるが極めて不都合な短縮を示しており、この事象は、予想も理解もされなかった。
【0008】
本開示は、駆動ベルト、特に傾動縁部が支持面の半径方向内側0.9mm以内に、より具体的には0.6mm以内に配置されている横断部材を有する駆動ベルトの耐用期間を改善することを目的とする。
【0009】
本開示によれば、そのような改善は、驚くべきことに、駆動ベルトの横断部材の前記ベース部分の幅寸法の偏差をコントロールすることにより、特にこれらの横断部材の支持面と本体面との間の移行縁部の曲率半径に関してそのような幅の偏差をコントロールすることにより、実現することができる。
【0010】
本開示の根底を成す認識によれば、トランスミッションプーリにおける駆動ベルトの個々の横断部材の半径方向の位置は、その幅により決定される。したがって、個々の横断部材の支持面の半径方向位置も、その幅により決定される。したがって、一対の当接している横断部材の一方のより広幅の横断部材の支持面は、前記対偶の他方のより狭幅の横断部材の支持面に対して半径方向外方へ突出する。その結果、リングスタックは、これらの支持面と接触するだけでなく、少なくとも前記より広幅の横断部材の支持面と本体面との間の前記移行縁部の周囲で曲がっている。移行縁部とリングスタックの半径方向内側との間のそのような接触は、特に移行縁部が比較的シャープな縁部である場合に、リング応力レベルを増加させる。実際には、リングパッケージのうちの最も半径方内側のリングの降伏応力が超過され、その最も内側のリングの耐用期間を損なうことすら起こり得る。
【0011】
上記事象の後からの理解によれば、公知の駆動ベルトにおいてそれは重要ではないと結論づけてもよい。というのも、特に、大量生産において、これらの横断部材の幅の通常の変動に関して、駆動ベルトの横断部材の移行縁部が、比較的大きな曲率半径をもって滑らかに丸み付けられているからである。しかし、上述の、支持面と傾動縁部との間の距離の減少とともに、移行縁部の曲率半径も同様に減少させなければならなかった。
【0012】
より具体的には、本開示によれば、経験的に導き出された以下の関係は、駆動ベルトにおいて当接している横断部材の各々の対偶の間の許容されるミリメートルの最大幅偏差ΔWmに近似し、横断部材の支持面と本体面との間の移行縁部のミリメートルの曲率半径Rteに近似する:
ΔWm < 0.005*e^(10*Rte) (1)
ここで、「e」は、自然指数の底を表す。
【0013】
駆動ベルトの傾動縁部と支持面特徴との間の約1mmの距離を有する公知の駆動ベルトにおいて、移行縁部の曲率半径Rteは、0.5mm以上であってもよく、これは、式(1)によれば、0.742mmの最大幅偏差ΔWmを与える。この後者の値は、バリ取りおよび急冷硬化が後に続く(微細)打抜き加工により帯材から横断部材を切断する一般的に採用される製造工程の精度の範囲内で容易に実現されているので、上述の事象は、実際には、公知の駆動ベルトでは生じない。しかし、たとえば支持面の半径方向内側0.7mm~0.4mmの範囲内で傾動縁部の好適な配置を実現するために、移行縁部の曲率が0.3mm以下に減少させられると、最大幅偏差ΔWmは、0.1mm以下へ低下し、これは、一般的に採用される前記製造工程により達成するには問題となり得る。
【0014】
本開示による上述の新規な設計要求は、原則的に、打抜き工程、バレル研磨工程および/または急冷硬化工程の精度を改善することにより実施することができた。しかし、その実施は、全く経済的でも実用的でもないかもしれない。代替例として、本開示は、(a)リングスタックに横断部材が取り付けられる前に横断部材の幅Wを測定し、(b)そのような幅に関して定められた基準を満たす横断部材だけをリングスタックに取り付けるために選択することを提案する。そのように定められた基準は、たとえば、駆動ベルトの全ての横断部材が満たさなければならない幅範囲であってもよい。代替的にまたは追加的に、最大幅偏差は、駆動ベルトの横断部材の列における、リングスタックに取り付けられている全ての連続的な横断部材において当接している、つまり予め取り付けられた横断部材に関して規定されてもよい。
【0015】
以下、さらに図面を参照して、上述された駆動ベルトおよびその製造方法を説明する。図面において、同一の参照符号は、同一のまたは同等の部分を示している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】2つのプーリにわたって走行している駆動ベルトを有する無段変速機の概略斜視図を示す。
図2】駆動ベルトの周方向に向けられた公知の駆動ベルトの概略断面図を示す。
図3】公知の駆動ベルトの横断部材を幅方向で見た概略図を示す。
図4図3に描画された横断部材の関係する部分の拡大図である。
図5】2つのプーリシーブの間に締め付けられた横断部材の概略図である。
図6】駆動ベルトの湾曲した軌道部分の概略図である。
図7】駆動ベルト6の横断部材10の間の最大幅偏差ΔWmに関してモデル化されたリング応力σrが記入された線図である。
【0017】
図1は、たとえば自動車の原動機と駆動輪との間で自動車に利用するための無段変速機を概略的に示している。無段変速機は、概して参照符号1を用いて示されている。無段変速機1は、2つのプーリ2,3と、プーリ2,3の周囲に閉ループで設けられた駆動ベルト6とを有する。プーリ2,3の各々には、プーリ軸4および2つのプーリシーブ7,8が設けられており、そのうちの第1のプーリシーブ7は、それぞれのプーリ2,3のプーリ軸4に固定されていて、そのうちの第2のプーリシーブ8は、そのようなプーリ軸4に対して軸方向に変位可能である一方、回転方向でプーリ軸4に固定されている。トランスミッション1の動作中に、駆動ベルト6は、各々のプーリ2,3において、プーリ2,3のそれぞれのプーリシーブ7,8によりこれらの間で走行半径Rを置いて締め付けられており、走行半径Rは、それぞれ互いに離間する方向へプーリ2,3のプーリシーブ7,8が移動することによりトランスミッションの速度比を変更するために変化させることができる。
【0018】
駆動ベルト6は、以下リングスタック9と称される、相互に半径方向で重ね合わされた連続的なバンドまたはリングの2つのセットを有する。駆動ベルト6の横断部材10は、リングスタック9に配置されていて、駆動ベルト6の全周に沿ってほぼ連続的な列を形成する。簡略化のために、これらの横断部材10の一部だけが図1に示されている。
【0019】
横断部材10は、少なくともリングスタック9の周に沿って、リングスタック9に対して可動に設けられている。結果として、横断部材10が互いに対して押し付けられ、プーリ2,3の回転方向でリングスタック9の周に沿って互いに前方へ押し付けられることにより、摩擦を用いて、トランスミッションプーリ2,3の間でトルクを伝達することができる。横断部材10および駆動ベルト6のリングスタック9(のリング)は、通常は、鋼製である。この特定のタイプのトランスミッション1およびその動作原理は、それ自体広く知られている。
【0020】
図2には、駆動ベルト6の長さ方向または周方向Cに向けられた、つまり駆動ベルト6の幅方向または軸方向Aに対して、かつ高さ方向または半径方向Rに対して垂直に向けられた断面図で、駆動ベルト6の1つの例示的な態様が示されている。図3には、図2の横断部材10だけが軸方向Aで見た側面図で示されている。
【0021】
図2では、リングスタック9が、断面図で示されており、駆動ベルト6の1つの横断部材10が、正面図で示されている。この場合、リングスタック9は、それぞれ5つの、個々の平らで薄くて柔軟な無端リング5から成り、無端リング5は、半径方向Rに相互に同心に重ね合わされていて、それぞれのリングスタック9が形成される。しかし実際には、これらのリングスタック9は、多くの場合、6つ以上の無端リング5、たとえば9つまたは12個の無端リング5を含み、さらに多くも可能である。
【0022】
図2および図3では、横断部材10は、半径方向Rで順に、ほぼ台形のベース部分13と、比較的狭い中央部分14と、ほぼ三角形の上側部分15とを有する。中央部分14の両側において、ベース部分13と上側部分15との間に開口33が形成されており、開口33内にリングスタック9が収容されている。各々の開口33において、ベース部分13の、半径方向外方へ面する支持面42が、動作中に、それぞれのリングスタック9の半径方向内側と接触する。
【0023】
横断部材10の前面は、概して参照符号11によって示されているのに対して、横断部材10の後面は、概して参照符号12によって示されている。以下、前面11および後面12は、概して本体面11,12と称される。駆動ベルト6において、横断部材10の前面11の少なくとも一部は、後続の横断部材10の後面12の少なくとも一部と当接するのに対して、横断部材10の後面12の少なくとも一部は、先行の横断部材10の前面11の少なくとも一部と当接する。
【0024】
横断部材10は、横断部材10の接触面37を介して各々のプーリ2,3のディスク7,8の間に及ぼされる締付力を取り上げる。1つのこのような接触面37は、横断部材10の各々の軸方向側に設けられている。これらの接触面37は、半径方向外方へ互いに拡開しており、これにより、接触面の間に鋭角が形成されており、この鋭角は、ベルト角Φと称され、プーリ2,3のプーリシーブ7,8の間に形成されたプーリ角Θとほぼ一致する。
【0025】
横断部材10には、横断部材10の前面11から突出する突出部40と、後面12に設けられた対応する孔41とが設けられている。駆動ベルト6において、後続の横断部材10の突出部40が、先行の横断部材10の孔41内に少なくとも部分的に配置されており、これにより、駆動ベルト6の周方向Cに対して垂直な平面内のこれらの隣接する横断部材10の相互の変位が阻止されているか、または少なくとも制限されている。
【0026】
横断部材10のベース部分13における前面11に、揺動縁部18が形成されている。揺動縁部18は、前面11の凸状に湾曲した領域により成されていて、この領域は、前記前面11を半径方向Rで、互いに対して所定の角度で方向付けられた2つの部分に分ける。揺動縁部18の重要な機能は、プーリ2,3において、隣接する横断部材10が互いに対して僅かに回転させられた、つまり傾動された位置にあるとき、隣接する横断部材10間に相互のプッシュ接触を提供することである。前記プッシュ接触における最小限の接触応力を好ましい形で実現するために、ならびにこのような接触の安定のために、揺動縁部18は、好適には横断部材10の局所的な幅全体に沿って延在している。本開示の文脈中において、横断部材10の幅Wは、揺動縁部18において規定されている。
【0027】
揺動縁部18は、好適には、支持面42の傍に、つまり最小距離Drcを置いて支持面42の半径方向内側に配置されている。しかし、その距離Drcが小さくなるほど、横断部材10の前面11と支持面42との間の移行縁部50がより鋭くなる。横断部材10の設計におけるこの後者の態様は、図3において点線の円で示された領域Eの拡大図で図4に示されている。図4の左側では、比較的大きな揺動縁部-支持面-距離Drcが示されていて、少なくとも、比較的小さな揺動縁部支持面-距離Drcを有する、図4の右側における横断部材10の設計と比べて、比較的大きな曲率半径Rteが移行縁部50に設けられることを許容している。実際には、図4に示されるように、曲率半径Rteは、大量生産において揺動縁部18が移行縁部50と重畳しないことを確実に保証するために、揺動縁部支持面-距離Drcよりもいくらか小さくなっている。
【0028】
図4には、移行縁部50は、半径の円弧Rteとして描画されている。しかし実際には、移行縁部50は、一様に形付けられてなくてもよく、この場合少なくとも本開示の文脈中において、移行縁部50の輪郭は、半径の円弧Rte(最も近い適合)で近似されている。したがって、支持面42と本体面11,12との間の移行縁部半径Rteは、重要ではないと見えるかもしれない。しかし、少なくとも、駆動ベルト6の比較的広幅の横断部材10については、この移行縁部50は、実際には、それぞれのリングスタック9の半径方向内側と接触して、リングスタック9の全体の応力レベルを増加している。
【0029】
図5には、プーリシーブ7,8の間で締め付けられるとき、より大きな幅W-bを有するより広幅の横断部材10-bがより小さな幅W-aを有するより狭幅の横断部材10-aの半径方向位置R-aに対していくらか大きな半径方向位置R-bに配置されることが、誇張して示されている。換言すると、実際には、プーリ2,3における駆動ベルト6の前記走行半径Rは、横断部材10のそれぞれの幅W-a、W-bに関して、個々の横断部材10の間で僅かに変動している。前記半径方向位置Rにおける差ΔRは、前記幅W-a、W-bにおける差ΔWと直接に関係している:
ΔR=1/2ΔW/tan(1/2Θ) (2)
【0030】
さらにこの後者の態様は、7つの横断部材10のセットにより、図6に概略的に示されており、横断部材10のうちベース部分13だけが、相互に傾動した位置で、したがって駆動ベルト6の湾曲した軌道部分を形成している位置で描画されている。図6の左側では、全ての横断部材10は、同一の幅Wを有し、これにより、これらの横断部材10は、破線で示されたように、プーリシーブ7,8の間を同一の半径方向位置Rで走行する。図6の右側では、異なる幅W-a,W-bを有する前記横断部材10-a,10-bが、そのような湾曲した軌道部分に位置する。図6から、横断部材10の列において、より狭幅の横断部材10-aに広幅の横断部材10-bが続くとき、後者の横断部材の10の移行縁部50が、破線で示されたように、リングスタック9の半径方向内側で衝突することが明らかであってもよい。
【0031】
駆動ベルト6のリングスタック9の内側リングにおける全体の応力レベルは、そのようなリングと移行縁部50との接触の応力増加効果を含んでモデル化されている。図7は、移行縁部50の曲率半径Rteのいくつかの値において、駆動ベルト6に生じる横断部材10の最大幅偏差ΔWmに関するそのようにモデル化されたリング応力σrの線図を提供している。図7には、動作中に越えてはならない、駆動ベルト6を設計するための臨界リング応力σr-critを表している破線も記入されている。本開示の文脈中において、この臨界設計リング応力σr-critは、10%の安全マージンを引いて、リングの降伏応力から導き出される。この図7から、式(1)に従った、移行縁部半径Rteと最大幅偏差ΔWmとの間の関係を導き出すことができる。
【0032】
図7および式(1)に基づいて、特に横断部材10が、横断部材10の本体面11,12と支持面42との間の移行縁部50の比較的小さな曲率半径Rteをもって製造されているとき、本開示は、横断部材10がリングスタック9に取り付けられる前に横断部材10の幅Wを測定することと、リングスタック9に取り付けるために、横断部材10の測定幅Wに関係する前述の基準を満たす横断部材10だけを選択することを提案する。
【0033】
本開示は、上述の説明の全体および添付図面の全ての詳細に加えて、添付の特許請求の範囲の全ての特徴にも関し、これらの特徴を含む。請求項における括弧書きの符号は、請求項の範囲を限定するのではなく、単に、それぞれの特徴の拘束力のない例として提供されている。請求項に記載された特徴は、場合によって、任意の製品または任意の方法において別々に適用することができるが、同時にこれらの特徴の2つ以上のあらゆる組合せを適用することもできる。
【0034】
本開示によって表された発明は、明細書に明示的に言及された実施の形態および/または例に限定されるのではなく、その補正、変更、変形および実用的な適用も含み、特に当業者には明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7