(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20220524BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20220524BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
H01G9/00 290F
H01G9/028 Z
H01G9/15
(21)【出願番号】P 2018028796
(22)【出願日】2018-02-21
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金本 和之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 政幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智彦
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-218920(JP,A)
【文献】特開2011-029340(JP,A)
【文献】特開2006-024708(JP,A)
【文献】特開2012-151147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00-9/18
H01G 9/21-9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜を形成させた陽極金属上に、電解質塩を保持させる工程(a)、固体電解質層を形成させる工程(b)を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法において、前記電解質塩を保持させる工程(a)が、イオン性液体
10重量部に対し、溶媒10~30重量部に希釈した前処理液を準備し、該前処理液を前記陽極金属上に接触させ、溶媒を蒸発させることにより、誘電体酸化皮膜上に電解質塩を保持させる工程
であって、
前記イオン性液体が、含フッ素有機アニオンを含み、該アニオンがビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオンを少なくとも有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記溶媒がメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とした請求項
1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記イオン性液体が、非ポリマーの窒素オニウムカチオンを含み、該カチオン部位がイミダゾリウム及び/又はピリジニウム骨格を少なくとも有することを特徴とする請求項1
又は2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記誘電体酸化皮膜を形成させた陽極金属が、タンタル、チタン及びニオブからなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の焼結体であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子は、優れた安定性及び導電性を有することから、固体電解コンデンサ用電解質に適用されている。
【0003】
これらの導電性高分子は一般に、溶媒に不溶あるいは難溶、かつ、不融であるため成形、加工が困難である。
【0004】
固体電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属上に、導電性高分子を含有する固体電解質層を形成してなるものが知られている。
【0005】
導電性高分子を含有する固体電解質層の形成方法としては、化学酸化重合法が知られている。化学酸化重合法では、例えば、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上にて、モノマー化合物を含む溶液及び酸化剤を付着、接触させることで重合せしめ、前記弁作用金属上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成することができる。
【0006】
しかし、この化学酸化重合法では、所望の容量出現率及びESR、耐久性、特に耐湿性が得られないという問題がある。
【0007】
特許文献1には、陰極層に、分解点が少なくとも300℃の常温溶融塩と、導電性高分子とからなる陰極層を形成させた固体電解コンデンサが開示されている。しかし、該固体電解コンデンサは、所望の容量出現率及びESR、高耐久性、高耐湿性が得られないという問題があった。
【0008】
以上より、優れた電気特性を有し、高耐久性、高耐湿性を具備する固体電解コンデンサの製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の製造方法では、所望の容量出現率とESR、耐久性、耐湿性が得られないという問題がある。従って本発明は、優れた容量出現率とESRを兼ね備え、高耐久性、特に高耐湿性を有する固体電解コンデンサの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、イオン性液体を溶媒にて所定濃度に希釈した前処理液を用いることで、意外にも容量出現率とESR、耐久性、耐湿性が格段に優れる方法を提供できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0013】
第一の発明は、誘電体酸化皮膜を形成させた陽極金属上に、電解質塩を保持させる工程(a)、固体電解質層を形成させる工程(b)を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法において、前記電解質塩を保持させる工程(a)が、イオン性液体を溶媒にて所定濃度に希釈した前処理液を準備し、該前処理液を前記陽極金属上に接触させ、溶媒を蒸発させることにより、誘電体酸化皮膜上に電解質塩を保持させる工程であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0014】
第二の発明は、前記前処理液は、イオン性液体10重量部に対し、溶媒10~30重量部にて希釈したものであることを特徴とする前記第一の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0015】
第三の発明は、前記溶媒がメタノール、エタノール及びイソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とした前記第一又は第二の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0016】
第四の発明は、前記イオン性液体が、非ポリマーの窒素オニウムカチオンを含み、該カチオン部位がイミダゾリウム及び/又はピリジニウム骨格を少なくとも有することを特徴とする前記第一から第三の発明のいずれか一つに記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0017】
第五の発明は、前記イオン性液体が、含フッ素有機アニオンを含み、該アニオンがビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオンを少なくとも有することを特徴とする前記第一から第四の発明のいずれか一つに記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0018】
第六の発明は、前記誘電体酸化皮膜を形成させた陽極金属が、タンタル、チタン及びニオブからなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の焼結体であることを特徴とする前記第一から第五の発明のいずれか一つに記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた電気特性を有し、高耐久性と高耐湿性を具備した固体電解コンデンサの製造方法を提供することができる。すなわち、高静電容量と低ESRとを両立でき、耐湿熱試験において電気特性の経時変化が極めて少なく、高信頼性の固体電解コンデンサの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】耐熱性試験における容量変化率の経時変化を示すグラフである。
【
図2】耐湿性試験における容量変化率の経時変化を示すグラフである。
【
図3】耐湿性試験におけるESRの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明について説明する。
【0022】
本発明の固体電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を形成させた陽極金属上に、電解質塩および固体電解質が形成されてなる固体電解コンデンサである。
【0023】
[誘電体酸化皮膜を形成させた陽極金属]
陽極金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン等の弁作用金属を例示することができる。陽極金属の形状としては、微細な粒子を焼結させた焼結体、エッチング等により粗面化処理した箔状あるいは板状の形状で用いられる。これらの陽極金属の中でも、タンタル、ニオブ、チタンからなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の焼結体であることが好ましい。
【0024】
陽極金属に公知の化成処理を施すことによって弁作用金属の表面に誘電体酸化皮膜を形成することができる。例えば、アジピン酸二アンモニウム等の水溶液中で陽極酸化処理を行い、陽極金属上に誘電体酸化皮膜を形成することができる。
【0025】
[電解質塩]
本発明に用いられる電解質塩は、イオン性液体とすることができる。本発明でいうイオン性液体とは、室温(25℃)で液状を呈する溶融塩(イオン性化合物)のことを指し、カチオン成分とアニオン成分とからなる塩である。
カチオン成分としては、アルキルアンモニウム、アルキルホスホニウム、アルキルピリジニウム、アルキルイミダゾリウム等が挙げられ、又、アニオン成分としては、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホニルイミド、パーフルオロアルキルスルホニルメチド、環状パーフルオロアルキルスルホニルイミド、ヒドロフッ化物、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオン、ビスフルオロメタンスルホニルイミドアニオン等が挙げられる。
これらのカチオン成分の中でも、非ポリマーの窒素オニウムカチオンを有し、該カチオン部位がイミダゾリウム及び/又はピリジニウム骨格を有するものが耐湿熱性の面で好ましい。また、アニオン成分の中でも、含フッ素有機アニオンを有し、該アニオンがビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオンであることが耐湿熱性の面で好ましい。また、カチオン成分として、非ポリマーの窒素オニウムカチオンを有し、該カチオン部位がイミダゾリウム及び/又はピリジニウム骨格を有するものであり、アニオン成分として、含フッ素有機アニオンを有し、該アニオンがビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオンであるものが耐湿熱性の面で好ましい。
【0026】
[前処理液の溶媒]
本発明の前処理液の溶媒は、水又は有機溶媒を用いることができる。
【0027】
有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、セロソルブ類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類等を用いることができる。
【0028】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、n-アミルアルコール、s-アミルアルコール、t-アミルアルコール、アリルアルコール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、2-エチルブタノール、2-オクタノール、n-オクタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、フルフリルアルコール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、ベンジルアルコール、メチルシクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0029】
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル-n-プロピルケトン等が挙げられる。
【0030】
エステル類としては、アセト酢酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸メチル、蟻酸イソブチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸メチル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸メチル、サリチル酸メチル、シュウ酸ジエチル、酒石酸ジエチル、酒石酸ジブチル、フタル酸エチル、フタル酸メチル、フタル酸ブチル、γ-ブチロラクトン、マロン酸エチル、マロン酸メチル等が挙げられる。
【0031】
セロソルブ類としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等が挙げられる。
【0032】
芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0033】
脂肪族炭化水素類としては、ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0034】
前記溶媒は混合して用いることができる。
【0035】
前記溶媒の中でも特に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一つであることが、好ましく挙げられる。
【0036】
[イオン性液体を溶媒にて所定濃度に希釈した前処理液]
上述した前処理液は、イオン性液体10重量部に対し、溶媒10~30重量部で希釈したものが好ましく、イオン性液体10重量部に対し、溶媒12~23重量部であることがより好ましく、イオン性液体10重量部に対し、溶媒15~19重量部であることが特に好ましく挙げられる。該範囲にすることで、特に優れた静電容量とESR特性を有する固体電解コンデンサを製造することができる。
【0037】
上述した前処理液は、イオン性液体25~50質量%、溶媒50~75質量%であることが好ましく、イオン性液体30~45質量%、溶媒55~70質量%であることがより好ましく、イオン性液体35~40質量%、溶媒60~65質量%であることが更に好ましく上げられる。該範囲にすることで、特に優れた静電容量とESR特性を有する固体電解コンデンサを製造することができる。
【0038】
[電解質塩を保持させる工程]
上述した電解質塩を保持させる工程を次に述べる。上述した前処理液を、誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属に接触させた後、乾燥させることで、誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属に、電解質塩を保持させたコンデンサ素子を作製する。接触させる方法は、任意の方法でよいが、好ましくは、浸漬させる方法が挙げられる。
【0039】
つまり、誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属を上述した前処理液に浸漬し引き上げた後乾燥して、誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属に電解質塩を付着させる工程を有することが好ましく挙げられる。
【0040】
誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属を、上記前処理液に浸漬し、引き上げた後、乾燥する工程を複数回繰り返してもよい。好ましい回数としては、1~6回が好ましく挙げられ、1~3回がより好ましく挙げられ、1回が特に好ましく挙げられる。
【0041】
乾燥は室温での自然乾燥から加熱乾燥までのいずれでもよいが、80℃以上に加熱して乾燥させるのが好ましく挙げられる。
【0042】
[固体電解質]
前記固体電解質層を形成させる工程に用いられる導電性高分子は、好ましくはドーパントをドープした重合体である。重合体を製造するのに用いるモノマー化合物としては、特に制限されるものではなく、例えば、ピロール類、チオフェン類、アニリン類等を用いることができるが、導電性に優れることから、下記一般式(1)で表されるチオフェン化合物であることがより好ましい。
【0043】
【0044】
上記一般式(1)中、Raは水素原子又は炭素数1~6の直鎖又は分岐状のアルキル基を示し、Xはそれぞれ同一でも異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0045】
上記一般式(1)で表されるチオフェン化合物として、具体的には、3,4-エチレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、プロピル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、プロピル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-エチレンジチアチオフェン、メチル-3,4-エチレンジチアチオフェン、エチル-3,4-エチレンジチアチオフェン、プロピル-3,4-エチレンジチアチオフェン、3,4-プロピレンジチアチオフェン、メチル-3,4-プロピレンジチアチオフェン、エチル-3,4-プロピレンジチアチオフェン、プロピル-3,4-プロピレンジチアチオフェン等が挙げられる。
【0046】
これらの中でも特に固体電解コンデンサにおける電気特性に優れる点より、3,4-エチレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェンが特に好ましく挙げられる。
【0047】
本発明に用いる導電性高分子は、上記一般式(1)で表されるチオフェン化合物等のモノマー化合物を、上記ドーパントの存在下で化学酸化重合することによって得ることができる。化学酸化重合のための酸化剤は例えば特開2010-31160号公報記載の公知の酸化剤を用いることができる。
【0048】
該ドーパントとしては、高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基を有していればよく、硫酸エステル基、リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシル基、スルホ基等が好ましく挙げられる。これらの中でも、ドープ効果の点より、硫酸エステル基、カルボキシル基、スルホ基がより好ましく挙げられ、スルホ基が特に好ましく挙げられる。
【0049】
ドーパントとして、例えば、ヨウ素、臭素、塩素等のハロゲンイオン、ヘキサフルオロリン、ヘキサフルオロヒ素、ヘキサフルオロアンチモン、テトラフルオロホウ素、過塩素酸等のハロゲン化物イオン、又はメタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等のアルキル置換有機スルホン酸イオン、カンファースルホン酸イオン等の環状スルホン酸イオン、又はベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のベンゼンモノもしくはジスルホン酸イオン、2-ナフタレンスルホン酸、1,7-ナフタレンジスルホン酸等のスルホン酸基を1~4個置換したナフタレンスルホン酸のアルキル置換もしくは無置換イオン、アントラセンスルホン酸イオン、アントラキノンスルホン酸イオン、アルキルビフェニルスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のビフェニルスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合体等の高分子スルホン酸イオン等、またはモリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸等のヘテロポリ酸イオン、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸が挙げられる。これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸から選ばれる少なくとも一種がより好ましく挙げられ、パラトルエンスルホン酸が特に好ましく挙げられる。
【0050】
[固体電解質層を形成させる工程]
前記固体電解層を形成させる工程を次に述べる。上述したモノマー化合物とドーパント及び酸化剤を含む混合溶液を、誘電体酸化皮膜を有し電解質塩を保持した弁作用金属に接触させた後、乾燥させることで、誘電体酸化皮膜を有し、電解質塩を保持した弁作用金属に、導電性高分子を付着させたコンデンサ素子を作製する。接触させる方法は、任意の方法でよいが、好ましくは、浸漬させる方法が挙げられる。
【0051】
つまり、誘電体酸化皮膜を有し電解質塩を保持した弁作用金属を、上述したモノマー化合物とドーパントを含む溶液に浸漬し引き上げた後乾燥して、誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属に導電性高分子を付着させる工程を有することが好ましく挙げられる。
【0052】
誘電体酸化皮膜を有する弁作用金属を、上述したモノマー化合物とドーパント及び酸化剤を含む混合溶液に浸漬し、引き上げた後、乾燥する工程を複数回繰り返してもよい。好ましい回数としては、1~6回が好ましく挙げられ、1~3回がより好ましく挙げられ、1回が特に好ましく挙げられる。
【0053】
固体電解質を形成させる工程は、モノマー化合物とドーパントを含む酸化剤溶液を交互に接触させる化学重合法や、電解重合法や、導電性高分子分散液を前記弁作用金属に接触させる方法も挙げられる。
【0054】
乾燥は室温での自然乾燥から加熱乾燥までのいずれでもよいが、導電性高分子分散液に高沸点有機溶媒を含有させている場合には、150℃以上に加熱して乾燥させるのが好ましく挙げられる。
【0055】
[固体電解コンデンサ]
用いる弁作用金属の種類、形状により、固体電解コンデンサはチップ型とすることができる。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
陽極として大きさが1.3×2.1×1.6mm3のタンタル焼結体を用い、陽極線としてタンタル線を用いた陽極体を0.05重量%燐酸水溶液中で80℃、25Vで150分陽極酸化し、脱イオン水の流水により洗浄して、乾燥を行いコンデンサ素子とした。
【0057】
(前処理液の製造)
1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミド(ビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオン使用、東京化成工業株式会社製)10重量部をメタノール19部で希釈し前処理液を得た。
【0058】
(導電性高分子モノマーとドーパント及び酸化剤を含む混合溶液の製造)
1.0部の2-エチル-2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-1,4-
ジオキシン(2-エチル-EDOT)と3.0部の40%パラトルエンスルホン酸第二鉄/n-ブタノール溶液を混合し、導電性高分子モノマーとドーパント及び酸化剤を含む混合溶液を得た。
【0059】
(電解質塩を保持させる工程)
次に、上記前処理液に、上記コンデンサ素子を5分浸漬し、150℃で5分乾燥させる工程を3回繰り返した後、さらに150℃で1時間熱処理を行って電解質塩を保持させ、コンデンサ素子とした。
【0060】
(固体電解質層を形成させる工程)
次に、上記で得られた導電性高分子モノマーとドーパント及び酸化剤を含む混合溶液に、上記コンデンサ素子を5分浸漬し、150℃で5分乾燥させる工程を3回繰り返した後、さらに150℃で1時間熱処理を行って固体電解質層を形成させ、コンデンサ素子とした。
【0061】
(固体電解コンデンサの作製)
その後、上記で得られたコンデンサ素子の固体電解質上にグラファイト層及び銀ペースト層を順次形成し、銀ペースト層に導電性接着剤を介して陰極リードを、陽極に陽極リードをそれぞれ接続し、固体電解コンデンサを完成させた。
【0062】
(実施例6~10、比較例3~8)
イオン性液体と溶媒の比率を表1に対応するように変えた以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを作製した。
【0063】
(比較例9)
イオン性液体のアニオンをトリフルオロメタンスルホン酸に変えた以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを作製した。
【0064】
(実施例14)
イオン性液体のカチオンをピリジニウム(1-ブチル-ピリジニウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミド、東京化成工業株式会社製)に変えた以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを作製した。
【0065】
(実施例15)
イオン性液体のカチオンをトリメチルプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(東京化成工業株式会社製)に変えた以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを作製した。
【0066】
(比較例1)
実施例1に記載の電解質塩を保持させる工程において、溶媒によるイオン性液体の希釈を行わなかった以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを作製した。
【0067】
(比較例2)
実施例1に記載の電解質塩を保持させる工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを作製した。
【0068】
<固体電解コンデンサの静電容量及びESR特性の評価>
実施例1、6~10、14、15及び比較例1~9より得られた固体電解コンデンサについて、120Hzにおける静電容量(μF)を測定し、100kHzにおける等価直列抵抗(ESR)を測定した。測定結果を表1に示す。前処理液の溶媒重量部は、イオン性液体及び電解コンデンサ用電解液の重量部を10とした場合のものである。
【0069】
【0070】
<固体電解コンデンサの耐熱試験>
実施例1及び比較例2より得られた固体電解コンデンサを、125℃の恒温槽中で付加電圧2.5Vの条件で試験した。5時間後、12時間後、20時間後、29時間後、37時間後の耐熱試験後の固体電解コンデンサの120Hzにおける静電容量(μF)を測定した。測定結果から容量変化率を算出した結果を
図1に示す。
【0071】
<固体電解コンデンサの耐湿性試験>
実施例1及び比較例2より得られた固体電解コンデンサを、60℃、85%RHの恒温槽中、電圧付加無しの条件で試験した。条件下で100時間後、500時間後、1000時間後、1500時間後、2000時間後の固体電解コンデンサの120Hzにおける静電容量(μF)を測定し、100kHzにおける等価直列抵抗(ESR)を測定した。測定結果を
図2、
図3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の固体電解コンデンサは信頼性、耐久性に優れるため、高周波数のデジタル機器等に適用できる。