(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】低融点金属部付きヒューズエレメント材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01H 69/02 20060101AFI20220524BHJP
H01H 85/06 20060101ALI20220524BHJP
H01H 85/08 20060101ALI20220524BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20220524BHJP
B23K 9/23 20060101ALI20220524BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
H01H69/02
H01H85/06
H01H85/08
B23K9/04 B
B23K9/23 J
B23K9/173 A
(21)【出願番号】P 2018101522
(22)【出願日】2018-05-28
【審査請求日】2021-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】成枝 宏人
(72)【発明者】
【氏名】樋上 直太
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-130277(JP,A)
【文献】特開平9-231899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 69/02
H01H 85/06
H01H 85/08
B23K 9/04
B23K 9/23
B23K 9/173
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる板状の基材の一方の主面の所定の部分に、その金属より低い融点の金属からなる低融点金属線材を離間して対向させた状態で、その低融点金属線材と基材との間に電流を流すことにより、アークを発生させるとともに低融点金属線材の先端部分を溶融させて溶融金属を形成し、この溶融金属を基材に接触させた後に低融点金属線材を基材から離れる方向に移動させて溶融金属を低融点金属線材から引き離した後、溶融金属を冷却することにより、基材の一方の主面の所定の部分に低融点金属部を溶着させることを特徴とする、低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法。
【請求項2】
前記アークおよび前記溶融金属を大気から遮蔽保護するシールドガスを流しながら、前記アークを発生させるとともに前記溶融金属を形成することを特徴とする、請求項1に記載の低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法。
【請求項3】
前記シールドガスが、不活性ガスからなることを特徴とする、請求項2に記載の低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法。
【請求項4】
前記低融点金属線材が、錫または錫合金からなるワイヤであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法。
【請求項5】
前記基材が、銅または銅合金からなることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法。
【請求項6】
前記基材が、銅または銅合金からなる板材を錫めっきした錫めっき材であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法。
【請求項7】
前記低融点金属線材と前記基材との間に流す電流が1~100Aであることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法。
【請求項8】
前記低融点金属線材と前記基材との間に電流を流す時間が1~50ミリ秒であることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低融点金属部付きヒューズエレメント材およびその製造方法に関し、特に、金属からなる基材の表面に、その金属より低い融点の金属からなる低融点金属部が形成されたヒューズエレメント材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒューズエレメント(ヒューズの可溶体)は、電気回路に過負荷や短絡による過電流が流れたときに、回路と電源との間を遮断して回路を保護するために、回路と電源との間に設けられている。このヒューズエレメントとして、回路に過電流が流れたときに溶断して、回路に流れる電流を瞬時(速動的)に遮断することができるように、比較的高融点の可溶金属からなる基材を使用し、回路に小電流が長時間流れたときに溶断して、回路に流れる電流を所定時間経過後(遅動的)に遮断することができるように、基材の可溶金属の融点よりも低い融点の可溶金属からなる低融点金属部を基材上に設けたヒューズエレメントが知られている。
【0003】
このようなヒューズエレメントを設けたヒューズとして、金属製の可溶体に包着部を設けて、低融点金属からなるチップを包着させるとともに、その可溶体に断面積の小さい狭あい部を設け、この狭あい部の近傍に放熱板を配設したヒューズが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、導電性金属で形成された可溶体の中央部に設けた幅狭の溶断部を一対の端子部に連成した遅断ヒューズにおいて、溶断部の両端近傍に、可溶体の導電性金属より融点の低い低融点部材を一旦溶融させた後に凝固させて一対の断面積増大部を形成した遅断ヒューズが提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、一対の箱型端子をリンク状に連結する高融点の可溶金属エレメントの略中央に、還元性元素を含有する低融点の可溶金属エレメントからなる溶断部を設けた、低融点金属付きヒューズが提案されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、電気回路に接続される一対の電子接続部相互を電気的に接続するための可溶体に、この可溶体より低い融点の金属からなる溶融金属粒を噴出または滴下して、可溶体の溶断特性を調整する低融点金属塊を設けたヒューズが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-14494号公報(段落番号0019)
【文献】特開平7-130277号公報(段落番号0014)
【文献】特開平9-231899号公報(段落番号0008)
【文献】特開2003-257301号公報(段落番号0011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のヒューズを製造するためには、金属製の可溶体に低融点金属からなるチップを包着させる(加締める)工程が必要であり、製造コストが増大する。また、特許文献1のヒューズでは、金属製の可溶体に低融点金属からなるチップを包着させているため、可溶体とチップとの間の接触状態がばらついたり、チップの表面が環境や時間の経過により酸化して溶断特性がばらついたり悪化するおそれがある。
【0006】
また、特許文献2の遅断ヒューズを製造するためには、可溶体に低融点部材を加締めた後に、低融点部材にフラックスを塗布し、レーザービーム照射やリフロー炉などにより、予め低融点部材を溶融させる工程が必要であり、製造コストが増大する。また、特許文献2の遅断ヒューズを製造するために、低融点部材にフラックスを塗布しないと、低融点部材が溶融しても可溶体に接合することができないので、フラックスを塗布する必要があり、低融点部材を凝固させた後に可溶体上にフラックスが残留していると、ヒューズとしての長期信頼性が悪化するので、可溶体に残留するフラックスを除去する工程も必要となり、製造コストが増大する。
【0007】
また、特許文献3のヒューズを製造するためには、高融点の可溶金属エレメントの嵌合部に低融点の可溶金属を嵌合する工程が必要であり、製造コストが増大する。
【0008】
さらに、特許文献4のヒューズを製造するために、可溶体より低い融点の金属からなる溶融金属粒を噴出または滴下して、可溶体の溶断特性を調整する低融点金属塊を形成しているが、低融点金属塊の接触面積を増大させ、低融点金属塊の可溶体に対する固着力を向上させるために、低融点金属塊の収容部を可溶体に形成する工程が必要であり、製造コストが増大する。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、ヒューズエレメント材の基材上に低融点金属部が精度良く固着した安価な低融点金属部付きヒューズエレメント材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、金属からなる板状の基材の一方の主面の所定の部分に、その金属より低い融点の金属からなる低融点金属線材を離間して対向させた状態で、その低融点金属線材と基材との間に電流を流すことにより、アークを発生させるとともに低融点金属線材の先端部分を溶融させて溶融金属を形成し、この溶融金属を基材に接触させた後に低融点金属線材を基材から離れる方向に移動させて溶融金属を低融点金属線材から引き離した後、溶融金属を冷却することにより、基材の一方の主面の所定の部分に低融点金属部を溶着させて、低融点金属部付きヒューズエレメント材を製造すれば、ヒューズエレメント材の基材上に低融点金属部が精度良く固着した安価な低融点金属部付きヒューズエレメント材を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法は、金属からなる板状の基材の一方の主面の所定の部分に、その金属より低い融点の金属からなる低融点金属線材を離間して対向させた状態で、その低融点金属線材と基材との間に電流を流すことにより、アークを発生させるとともに低融点金属線材の先端部分を溶融させて溶融金属を形成し、この溶融金属を基材に接触させた後に低融点金属線材を基材から離れる方向に移動させて溶融金属を低融点金属線材から引き離した後、溶融金属を冷却することにより、基材の一方の主面の所定の部分に低融点金属部を溶着させることを特徴とする。
【0012】
この低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法において、アークおよび溶融金属を大気から遮蔽保護するシールドガスを流しながら、アークを発生させるとともに溶融金属を形成するのが好ましい。また、シールドガスが不活性ガスからなるのが好ましく、低融点金属線材が錫または錫合金からなるワイヤであるのが好ましく、基材が銅または銅合金からなるのが好ましい。また、基材として、銅または銅合金からなる板材を錫めっきした錫めっき材を使用してもよい。また、低融点金属線材と基材との間に流す電流が1~100Aであるのが好ましく、低融点金属線材と基材との間に電流を流す時間が1~50ミリ秒であるのが好ましい。
【0013】
また、本発明による低融点金属部付きヒューズエレメント材は、銅または銅合金からなる基材の一方の主面の所定の部分に、錫または錫合金からなる低融点金属部が溶着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ヒューズエレメント材の基材上に低融点金属部が精度良く固着した安価な低融点金属部付きヒューズエレメント材およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法の実施の形態に使用することができる溶接機を概略的に示す図である。
【
図2A】本発明による低融点金属部付きヒューズエレメント材の実施の形態から作製したヒューズエレメントの一例を示す平面図である。
【
図3A】実施例1のヒューズエレメント材の低融点金属部が基材に溶着した部分の上面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による低融点金属部付きヒューズエレメントの製造方法の実施の形態では、金属からなる(細長い)板状の基材の一方の主面の所定の部分に、その金属より低い融点の金属からなる低融点金属線材を離間して対向させた状態で、その低融点金属線材と基材との間に電流を流すことにより、アークを発生させるとともに(このアークを熱源として)低融点金属線材の先端部分を溶融させて溶融金属を形成し、この溶融金属を基材に接触させた後に低融点金属線材を基材から離れる方向に移動させて溶融金属を低融点金属線材から引き離した後、溶融金属を冷却することにより、基材の一方の主面の所定の部分に低融点金属部を溶着させる。
【0017】
基材は、ヒューズエレメント(ヒューズの可溶体)の材料として使用されている銅、銀、金、アルミニウム、ニッケル、チタンまたはこれらのいずれかの金属の合金などの比較的高融点の金属からなり、銅または銅合金からなるのが好ましい。この基材をヒューズエレメントの材料として使用してヒューズエレメントを作製した場合に、基材に回路短絡のような大電流が流れたときにヒューズエレメントの溶断部(細長い板状の基材の細くなった部分)が溶断して、回路に流れる電流を瞬時に遮断することができるようになっている。なお、銅または銅合金からなる板材に(好ましくは電気めっきやホットディップ錫めっきにより厚さ0.5~10μmの)錫めっき層を形成した錫めっき材を基材として使用してもよい。また、電気めっきにより錫めっき層を形成した後にリフロー処理したリフロー錫めっき材を基材として使用してもよい。
【0018】
低融点金属線材は、錫、鉛、亜鉛またはこれらのいずれかの金属の合金などの比較的低融点の金属からなり、錫または錫合金からなるのが好ましい。この低融点金属線材を溶融させて形成した溶融金属を冷却させることによって基材に低融点金属部を溶着(固着)させたヒューズエレメント材を使用したヒューズエレメントを作製し、このヒューズエレメントの低融点金属部に低電流が長時間流れ続けると、低融点金属部の金属(好ましくは錫または錫合金)と基材の高融点金属(好ましくは銅または銅合金)との間に(高融点金属の融点よりも低い融点の)合金相が形成され、所定時間経過後にヒューズエレメントが溶断するようになっている。なお、低融点金属部を基材に溶着させるために、低融点金属線材として市販のSnワイヤを使用することができる。このSnワイヤは、Sn合金からなるワイヤでもよいが、フラックス除去工程を必要としないようにするために、(フラックスが添加されていない)純Snからなるのが好ましく、純度95質量%以上のSnからなるのがさらに好ましく、純度99質量%以上のSnからなるのがさらに好ましく、純度99.9質量%以上のSnからなるのが最も好ましい。
【0019】
基材の一方の主面の所定の部分への低融点金属部の溶着は、(ワイヤなどの溶接材料そのものが電極となって溶接を行う)溶極式の(アークを熱源とするアーク溶接の一種でシールドガスを流してアークと溶融金属を大気から遮蔽しながら溶接を行う)ガスシールドアーク溶接によって行うことができ、このガスシールドアーク溶接の一種でシールドガスとして不活性ガスを使用するミグ(MIG(Metal Inert Gas))溶接によって行うのが好ましい。
【0020】
本発明による低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法の実施の形態に使用することができる溶接機を
図1に概略的に示す。
【0021】
図1に示すように、(図示しない)ワイヤフィーダから送給された低融点金属線材としてのSnワイヤ10は、略鉛直方向に延びる(テーパ状の先端部以外は)略円筒形のシールドガスノズル12内の長手方向に延びる略中央部に配置された(略鉛直方向に延びる略円筒形の)コンタクトノズル14の上面の開口部からコンタクトノズル14の内面に当接しながらコンタクトノズル14を貫通して、その先端部が基材16の上面から2~15mm程度離間してその上面の所定の部分に対向するように配置されるようになっている。このようにSnワイヤ10の先端部が基材16の上面に対向した状態で、電源18によりSnワイヤ10と基材16との間に所定の電流(好ましくは1~100A、さらに好ましくは2~80A、最も好ましくは3~50Aの電流であり、20A以下の電流でも十分)を所定の時間(好ましくは1~50ミリ秒、さらに好ましくは1~10ミリ秒)流すことにより、アーク20を発生させるとともに(このアーク20を熱源として)Snワイヤ10の先端部分を溶融させて溶融金属(溶融Sn)を形成し、この溶融Snを基材16の上面に接触させた後にSnワイヤ10を基材16から離れる方向に移動させて溶融SnをSnワイヤ10から引き離した後、溶融Snを冷却することにより、基材16の上面の所定の部分にSnからなる低融点金属部を溶着させるようになっている。なお、発生したアーク20と形成された溶融Snを外気から遮蔽保護するために、(アルゴンガスなどの不活性ガスからなる)シールドガス22が、(図示しない)シールドガス供給部から、シールドガスノズル12とコンタクトノズル14との間の環状部を通過して、基材16の上面まで流れるようになっている。
【0022】
なお、このような基材16の一方の主面の所定の部分への低融点金属部の溶着は、溶極式のガスシールドアーク溶接の一種であるミグ溶接によって行う場合、溶接機の電源としてコールドメタルトランスファー(CMT)電源が備えられ、CMTプロセスが適用可能なミグ溶接機を使用して行うのが好ましい。CMTプロセスは、CMT電源による精密なデジタル波形制御性能を有し、溶接電流や溶接時間を精密に制御することができるとともに、溶接電流や溶接時間の設定に応じて(Snワイヤ10などの)溶接ワイヤを下方(順方向)および上方(逆方向)に移動させる制御を行うことができる。また、CMT電源においてSnワイヤ10と基材16の接触(短絡)が検知されると、アーク20が消えて電流が低下し、その電流の低下の直後に、Snワイヤ10を基材16から離れる方向に移動させて溶融SnをSnワイヤ10から切り離した後、溶融Snを冷却することにより、基材16の上面の所定の部分にSnからなる低融点金属部を溶着させて、低融点金属部付きヒューズエレメント材を製造することができる。
【0023】
このような低融点金属部付きヒューズエレメント材の製造方法の実施の形態により、銅または銅合金からなる基材の一方の主面の所定の部分に、錫または錫合金からなる低融点金属部が溶着したヒューズエレメント材を製造することができる。なお、このヒューズエレメント材では、銅または銅合金からなる基材と錫または錫合金からなる低融点金属部との界面に1~50μmのCu-Sn合金層が形成されているのが好ましい。
【0024】
この低融点金属部付きヒューズエレメント材は、ヒューズエレメントの材料として使用することができる。例えば、この低融点金属部付きヒューズエレメント材を使用して
図2Aおよび
図2Bに示すようなヒューズエレメントを製造することができる。このヒューズエレメントでは、細長い板状の基材16の一部に狭隘部(幅が狭くなった部分)24が形成され、基材16に回路短絡のような大電流が流れたときに狭隘部24が溶断部として溶断して、回路に流れる電流を瞬時に遮断することができる。また、このヒューズエレメントの基材16の一方の主面の狭隘部24から離間した部分に低融点金属部26が溶着し、この低融点金属部26に低電流が長時間流れ続けると、低融点金属部26の金属と基材16の高融点金属との間に(高融点金属の融点よりも低い融点の)合金相が形成され、所定時間経過後にヒューズエレメントが溶断するようになっている。なお、低融点金属部の重量は、10~200mgであるのが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明による低融点金属部付きヒューズエレメント材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0026】
[実施例1]
基材として、1.0質量%のNiと0.5質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuであるCu-Ni-Sn-P系合金(DOWAメタルテック株式会社製のNB-105)からなる板材の表面に厚さ1μmのSnめっき層を形成した後にリフロー処理した長さ20mm×幅2mm×厚さ0.64mmのリフローSnめっき付きCu-Ni-Sn-P系銅合金板材を用意した。
【0027】
また、その基材より低い融点の金属(低融点金属)からなるワイヤとして、市販の(スラックスを含有しない)Snワイヤ(Sn99.9質量%以上、直径1.0mm)を用意した。
【0028】
次に、コールドメタルトランスファー(CMT)(フローニアス社製のCMT溶接機TPS3200、CMT、水冷仕様)のワイヤフィーダに装着したSnワイヤを、その先端部が基材の上面から10mm離間してその上面に対向するように送給した。この状態で、Snワイヤの先端部の周囲にシールドガスとしてアルゴンガスを流しながら、Snワイヤと基材の間に電流15Aを2ミリ秒流してアークを発生させるとともに(このアークを熱源として)Snワイヤの先端部分を溶解させて溶融Snを形成した。この溶融Snが基材の上面に接触して、CMT溶接機のCMT電源においてSnワイヤと基材の短絡が検出されることにより、アークが消えて電流が低下した。この電流の低下の直後に、Snワイヤを基材から離れる方向に移動させて、溶融SnをSnワイヤから切り離すと、溶融Snが冷却されて、基材の上面の所定の部分にSnからなる低融点金属部が溶着することにより、低融点金属部付きヒューズエレメント材を製造した。
【0029】
このようにして製造したヒューズエレメント材の低融点金属部26が基材16に溶着した部分の上面の写真を
図3Aに示し、
図3AのA-A線断面の拡大写真を
図3Bに示し、
図3BのCの部分の拡大写真を
図3Cに示す。基材16に溶着した低融点金属部26の重量を測定したところ、約50mgであった。また、
図3A~
図3Bから、低融点金属部26が良好に基材16に溶着し、低融点金属部26と基材16の界面に接合ボイドなどの欠陥が認められなかった。また、
図3Cから、低融点金属部(Sn)と基材(母材)の界面に厚さ10μm程度のCu-Sn合金層が形成されているのが確認された。
【0030】
[実施例2]
リフローSnめっき付きCu-Ni-Sn-P系銅合金板材の幅を3mmとし、Snワイヤをその先端部が基材の上面から5mm離間してその上面に対向するように送給し、Snワイヤと基材の間に電流70Aを1ミリ秒流した以外は、実施例1と同様の方法により、低融点金属部付きヒューズエレメント材を製造した。
【0031】
このようにして製造したヒューズエレメント材の基材に溶着した低融点金属部の重量を測定したところ、約100mgであった。また、低融点金属部が良好に基材に溶着し、低融点金属部と基材の界面に接合ボイドなどの欠陥が認められなかった。また、低融点金属部と基材の界面に厚さ20μm程度のCu-Sn合金層が形成されているのが確認された。
【0032】
[実施例3]
リフローSnめっき付きCu-Ni-Sn-P系銅合金板材の幅を1.5mmとし、Snワイヤと基材の間に電流8Aを6ミリ秒流した以外は、実施例1と同様の方法により、低融点金属部付きヒューズエレメント材を製造した。
【0033】
このようにして製造したヒューズエレメント材の基材に溶着した低融点金属部の重量を測定したところ、約50mgであった。また、低融点金属部が良好に基材に溶着し、低融点金属部と基材の界面に接合ボイドなどの欠陥が認められなかった。また、低融点金属部と基材の界面に厚さ5μm程度のCu-Sn合金層が形成されているのが確認された。
【0034】
[実施例4]
基材として、1.0質量%のNiと0.5質量%のSnと0.05質量%のPを含み、残部がCuであるCu-Ni-Sn-P系合金(DOWAメタルテック株式会社製のNB-105)からなる板材を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、低融点金属部付きヒューズエレメント材を製造した。
【0035】
このようにして製造したヒューズエレメント材の基材に溶着した低融点金属部の重量を測定したところ、約50mgであった。また、低融点金属部が良好に基材に溶着し、低融点金属部と基材の界面に接合ボイドなどの欠陥が認められなかった。また、低融点金属部と基材の界面に厚さ10μm程度のCu-Sn合金層が形成されているのが確認された。
【0036】
[比較例1]
実施例1と同じSnワイヤから切り出した長さ5mmのSnワイヤの先端部をはんだごてで溶融して、実施例1と同じ基材に溶着させることを試みたが、フラックスを使用しなかったため、溶融Snを冷却して形成した低融点金属部は、基材から(手で)簡単に剥離し、基材に溶着させることはできなかった。
【0037】
[比較例2]
基材の表面に予めフラックス(タムラ化研株式会社製のRMAフラックス ULF-300R)を塗布した以外は、比較例1と同様の方法により、溶融Snを冷却して形成した低融点金属部を基材に溶着させたところ、低融点金属部を基材に溶着させることができたが、基材の表面がフラックスの残渣により変色しており、フラックスを除去する必要があった。
【0038】
[比較例3]
Snワイヤと基材の間に電流277A(一般的な溶接と同じ電流)を流した以外は、実施例1と同様の方法により、実施例1と同じ基材に溶着させることを試みたが、Snワイヤから多量のSnが溶け出して、低融点金属部を基材の所定の部分に溶着させることができなかった。
【符号の説明】
【0039】
10 Snワイヤ
12 シールドガスノズル
14 コンタクトノズル
16 基材
18 電源
20 アーク
22 シールドガス
24 狭隘部
26 低融点金属部