(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】補強パネル、コンクリート構造物の補強方法および補強パネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220524BHJP
E04C 2/26 20060101ALI20220524BHJP
B32B 3/02 20060101ALI20220524BHJP
B32B 3/10 20060101ALI20220524BHJP
B32B 13/14 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E04C2/26 Q
B32B3/02
B32B3/10
B32B13/14
(21)【出願番号】P 2018139717
(22)【出願日】2018-07-25
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000194756
【氏名又は名称】成和リニューアルワークス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】新藤 竹文
(72)【発明者】
【氏名】池山 正一
(72)【発明者】
【氏名】松岡 康訓
(72)【発明者】
【氏名】菅野 道昭
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-328319(JP,A)
【文献】特開2014-070474(JP,A)
【文献】特開2013-19138(JP,A)
【文献】特許第4151011(JP,B2)
【文献】特開2002-250136(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/55660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04C 2/00- 2/54
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一板材と、繊維シートと、第二板材とが順に積層されてなる補強パネルであって、
前記第一板材に開口部が形成されているとともに、前記繊維シートが前記開口部において裏面側に露出しており、
前記第一板材および前記繊維シートが、前記第二板材よりも側方に張り出していて、
前記開口部において、前記繊維シートの裏面に粒状体が付着していることを特徴とする、補強パネル。
【請求項2】
前記粒状体が、砂であることを特徴とする、請求項1に記載の補強パネル。
【請求項3】
前記第一板材が、枠状であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の補強パネル。
【請求項4】
前記第一板材に複数の前記開口部が形成されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の補強パネル。
【請求項5】
複数の請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の補強パネルをコンクリートに接着するコンクリート構造物の補強方法であって、
隣り合う前記補強パネルの前記第一板材の端面同士を突き合わせた状態で、両前記補強パネルを前記コンクリートに固定する作業と、
前記第一板材の前記第二板材から張り出した部分の表面において、前記繊維シート同士を連結する作業と、
隣り合う前記補強パネルの前記第二板材同士の間に接合部材を接着する作業と、
前記開口部にセメント系充填材を注入する作業と、を備えていることを特徴とする、コンクリート構造物の補強方法。
【請求項6】
前記第二板材に注入孔が形成されており、前記注入孔から前記開口部に前記セメント系充填材を注入することを特徴とする、請求項5に記載のコンクリート構造物の補強方法。
【請求項7】
前記第一板材と前記コンクリートとの間にシール材を介設することを特徴とする、請求項5または請求項6に記載のコンクリート構造物の補強方法。
【請求項8】
第二板材の裏面に繊維シートを接着する第一工程と、
開口部が形成された第一板材を前記繊維シートの裏面に接着する第二工程と、
前記開口部内において、前記繊維シートの裏面に粒状体を付着させる第三工程と、を備える補強パネルの製造方法であって、
前記第二工程において、前記開口部の表面側を前記第二板材で遮蔽することを特徴とする、補強パネルの製造方法。
【請求項9】
前記第一工程では、前記第二板材の裏面に前記繊維シートを重ねた後、当該繊維シートに接着剤を含浸させ、
前記接着剤の硬化前に前記第二工程および前記第三工程を実施することを特徴とする、請求項8に記載の補強パネルの製造方法。
【請求項10】
開口部が形成された第一板材の表面に繊維シートを接着する第一工程と、
前記繊維シートの表面に前記開口部の表面側を遮蔽する第二板材を接着する第二工程と、
前記開口部内において、前記繊維シートの裏面に粒状体を付着させる第三工程と、を備えることを特徴とする、補強パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強パネル、この補強パネルを利用したコンクリート構造物の補強方法および補強パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設コンクリート構造物の補強方法として、フレキシブルボード(板材)と繊維シートとが接着剤によって一体化された補強パネルを、既設コンクリート構造物の表面に接着剤により貼り付ける方法が知られている。例えば、特許文献1には、板材と板材の一方の面に接着された繊維シートとで構成された補強パネルを、繊維シート側の面をコンクリート構造物の表面に対向させた状態で固定するとともに、隣り合う補強パネル同士の接合部を塞ぐ接合部材を取り付けた後、コンクリート構造物の表面と補強パネルとの隙間に注入材を注入する補強方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、上層板材と、上層板材よりも張り出した下層板材と、上層板材と下層板材との間に介設されているとともに上層板材よりも側方に張り出した繊維シートとが固着されてなる補強パネルを利用した補強方法が開示されている。この補強方法では、隣り合う補強パネルの下層板材同士を突き合わせた状態で、当該下層板材の表面において繊維シート同士を重ね合わせることで、補強パネル同士を接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3839446号公報
【文献】特開2014-70474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の補強方法は、コンクリート構造物の表面の平滑度によっては、コンクリート表面と補強パネルとが接してしまい、注入材の充填が阻害されるおそれがある。また、隣り合う補強パネル同士の接合部では、繊維シートに予め樹脂含浸させておくことができないため、施工に手間がかかる。また、特許文献1の補強パネルは、地組することができなかった。また、特許文献2の補強方法では、繊維シートをコンクリート表面に直接接着させることができなかった。
このような観点から、本発明は、繊維シートとコンクリート構造物との一体性を確保するとともに、隣り合う補強パネルの繊維シート同士の連続性を確保することを可能とした補強パネルおよびコンクリート構造物の補強方法を提案するとともに、この補強パネルの製造方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の補強パネルは、第一板材と、繊維シートと、第二板材とが順に積層されたものである。前記第一板材には開口部が形成されていて、前記繊維シートが前記開口部において裏面側に露出している。また、前記第一板材および前記繊維シートが、前記第二板材よりも側方に張り出していて、前記開口部において前記繊維シートの裏面に粒状体が付着している。前記粒状体には、砂を使用すればよい。前記第一板材は、枠状であってもよいし複数の開口部が形成されたものであってもよい。
【0007】
また、本発明のコンクリート構造物の補強方法は、補強パネルの第一板材の端面を隣接する他の補強パネルの第一板材の端面と突き合わせた状態で両補強パネルをコンクリート表面に固定する作業と、前記第一板材の前記第二板材から張り出した部分の表面において前記繊維シート同士を連結する作業と、隣り合う補強パネルの第二板材同士の間に接合部材を接着する作業と、前記開口部にセメント系充填材を注入する作業とを備えている。
【0008】
本発明の補強パネルおよびコンクリート構造物の補強方法によれば、第一板材に形成された開口部において繊維シートが露出しているため、繊維シートをコンクリート表面に接着することができる。第一板材の第二板材から張り出した部分を隣り合う補強パネル同士の接合部に使用すれば、繊維シートと接合部材との密着性を確保することができ、ひいては、補強パネル同士の連続性を確保することができる。繊維シートの開口部に面した部分には、粒状材が付着されているため、セメント系充填材との付着性が向上し、その結果、繊維シートとコンクリート表面との一体性が確保されている。
なお、開口部へのセメント系充填材の注入は、予め前記第二板材に形成しておいた注入孔から注入するのが望ましい。また、前記第一板材と前記コンクリートとの間にシール材、セメント系材料、接着剤等を介設しておけば、開口部に注入した充填材が四散することを防ぐことができるので、第一板材をアンカーやセメント系充填材によりコンクリート部材により確実に固定することができる。また、セメント系充填材を使用しているため、耐火性に優れている。
【0009】
前記補強パネルの製造は、第二板材の裏面に繊維シートを接着する第一工程と、開口部が形成された第一板材を前記開口部の表面側を前記第二板材で遮蔽するように前記繊維シートの裏面に接着する第二工程と、前記開口部内において、前記繊維シートの裏面に粒状体を付着させる第三工程とにより行う。ここで、「裏面」とは、補強パネルをコンクリート構造物に設置した際のコンクリート構造物側の面である。
なお、粒状体の繊維シートへの付着は、第二板材の裏面に繊維シートを接着する際に当該繊維シートに含浸させた接着剤が硬化する前に粒状体を散布(撒く、敷均す等)することにより行ってもよいし、第二板材に接着した繊維シートの裏面に改めて接着剤を塗布してから粒状体を散布することにより行ってもよい。
補強パネルの製造は、開口部が形成された第一板材の表面に繊維シートを接着する第一工程と、前記繊維シートの表面に前記開口部の表面側を遮蔽する第二板材を接着する第二工程と、前記開口部内において、前記繊維シートの裏面に粒状体を付着させる第三工程とにより行ってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の補強パネルおよびコンクリート構造物の補強方法によれば、繊維シートとコンクリート構造物との一体性を確保するとともに、隣り合う補強パネルの繊維シート同士の連続性を確保することが可能となる。また、本発明の補強パネルの製造方法によれば、コンクリート構造物と一体化した補強構造を構築することが可能な補強パネルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)は本実施形態の補強パネルを表面側から見た斜視図、(b)は同補強パネルを裏面側から見た斜視図である。
【
図3】補強パネルの取付状況を示す部分拡大断面図である。
【
図4】本実施形態のコンクリート構造物の補強方法の作業状況を示す断面図であって、(a)は固定作業、(b)は連結作業である。
【
図5】
図4(b)に続くコンクリート構造物の補強方法の作業状況を示す断面図であって、(a)は連結作業、(b)は接合作業、(c)は充填作業である。
【
図6】付着試験の概要を示す断面図であって、(a)は実施例、(b)は比較例1、(c)は比較例2である。
【
図7】(a)~(c)は、他の形態に係る補強パネルの第一板材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、補強パネル1を既設コンクリート構造物の表面に接着するコンクリート構造物の補強方法について説明する。本実施形態の補強パネル1は、
図1(a)および(b)に示すように、第一板材2、繊維シート3および第二板材4が一体に積層された板状部材である。第一板材2、繊維シート3および第二板材4は、コンクリート構造物側から順に積層されている。
第一板材2には、
図2に示すように、開口部21が形成された枠状板材である。本実施形態の第一板材2は、繊維強化セメント板(いわゆるフレキシブルボード)である。第一板材2には、複数のアンカー孔22が形成されている。本実施形態では、第一板材2には、一対の長辺に沿ってそれぞれ3つ(計6カ所)のアンカー孔22が等間隔に形成されている。なお、アンカー孔22の配置、数および直径等は、限定されるものではなく、適宜決定すればよい。また、アンカー孔22は、補強パネル1の固定方法に応じて形成すればよく、省略してもよい。また、第一板材2を構成する材料は、繊維強化セメント板に限定されるものではなく、例えば、鉄板や高強度の繊維強化セメント板(曲げ強度が約50N/mm
2)を使用してもよい。
【0013】
繊維シート3は、第一板材2の外形と同等の外形を有したシート材である。なお、繊維シート3を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維等を使用すればよい。繊維シート3は、
図1(b)に示すように、開口部21において裏面側(コンクリート構造物との接着面側)に露出している。開口部21に面する繊維シート3の露出面(裏面)には、粒状体5が付着している。そのため、
図3に示すように、補強パネル1の凹部の底面(開口部21に面する繊維シート3の裏面)には、多数の凹凸が形成されていて、開口部21に充填されたセメント系材料(無収縮モルタル9)と繊維シート3との一体性が高められている。本実施形態では、粒状体5として、珪砂を使用する。なお、粒状体5を構成する材料は、繊維シート3の裏面(コンクリート構造物との接着面)に凹凸を形成して、セメント系充填材と繊維シート3との一体性を向上させることが可能な材料であれば限定されるものではなく、例えば、珪砂以外の砂(山砂、川砂、砕砂等)であってもよいし、砂以外の粒状体(アルミナやセラミック等)であってもよい。
繊維シート3は、既設コンクリート構造物の構造性能レベル、劣化の進行具合、作用応力等に応じて炭素繊維量を適宜設定する。なお、繊維シート3は、複数枚積層されていてもよい。
【0014】
第二板材4は、第一板材2の外形よりも小さな外形を有した平板である。そのため、第一板材2および繊維シート3は、第二板材4よりも側方に張り出している。本実施形態の第二板材4は、繊維強化セメント板(いわゆるフレキシブルボード)である。第二板材4には、角部と長辺の中央部(計6カ所)にそれぞれアンカー孔41が形成されている。なお、第二板材4のアンカー孔41の位置、数および直径は、第一板材2のアンカー孔22の位置、数および直径に対応している。また、アンカー孔41は、補強パネル1の固定方法に応じて形成すればよく、省略してもよい。第二板材4には、第一板材2の開口部21の位置に対応して、注入孔42および空気抜き孔43が形成されている。本実施形態では、開口部21の対角に配置された一対の角部に対応する位置に、注入孔42と空気抜き孔43がそれぞれ形成されている。なお、注入孔42および空気抜き孔43の配置、数、形状等は限定されるものではなく、適宜決定すればよい。
【0015】
補強パネル1を製造するには、まず、第二板材4の裏面に繊維シート3を接着する(第一工程)。第二板材4への繊維シート3の接着は、第二板材4に繊維シート3を重ねた状態で、接着剤を含浸させることにより行う。このとき、繊維シート3のうち、第二板材4と重なる部分以外の部分(繊維シート3の端部)には、接着剤を含浸させない。なお、繊維シート3は、裏面に接着剤が塗着された第二板材4に重ねてもよい。
次に、第一板材2を繊維シート3の裏面に接着する(第二工程)。第一板材2は、第一工程において繊維シート3に含浸させた接着剤が硬化する前に繊維シート3に密着させる。このとき、第一板材2のアンカー孔22と第二板材4のアンカー孔41との位置を一致させるとともに、第一板材2の開口部21の表面側が第二板材4によって遮蔽されるように(平面視した際に開口部21が第二板材4で覆われるように)、第一板材2を繊維シート3の裏面に重ねる。なお、第一板材2は、繊維シート3の裏面に改めて接着剤を塗布してから繊維シート3の裏面に接着してもよい。
続いて、開口部21内において、繊維シート3の裏面に粒状体5を付着させる(第三工程)。粒状体5は、第一工程において繊維シート3に含浸させた接着剤が硬化する前に開口部21内に散布することにより繊維シート3に付着させる。なお、粒状体5は、繊維シート3の裏面に改めて接着剤を塗着させてから散布してもよい。
【0016】
補強パネル1を利用したコンクリート構造物の補強方法は、固定作業、連結作業、接合作業および充填作業を備えている。
固定作業は、
図4(a)に示すように、隣り合う補強パネル1の第一板材2の端面同士を突き合わせた状態で、両補強パネル1をコンクリート構造物に固定する作業である。このとき、第一板材2とコンクリート面との間にシール材6を介設する。補強パネル1は、アンカー孔22,41に挿通したアンカー7を介してのコンクリート構造物に固定する。このとき、第一板材2は、シール材6を介してコンクリート面Cに密着させる。なお、補強パネル1の固定方法は限定されるものではなく、例えば、第一板材2をコンクリート面Cに接着してもよい。また、シール材6は、必要に応じて介設すればよく、省略してもよい。また、シール材6は、第一板材2の周縁のみに配置してもよい。さらに、シール材6に代えて、セメント系材料や接着剤等を介設してもよい。
【0017】
連結作業は、
図4(b)に示すように、第一板材2の第二板材4から張り出した部分の突き合わせ部(以下、当該突き合わせ部を「接合部8」という)の表面において、繊維シート3同士を連結する作業である。具体的には、まず、隣り合う補強パネル1の接合部8に跨って、接合シート81を配設する。次に、
図5(a)に示すように、接合シート81の表面に、両補強パネル1の繊維シート3の端部を重ねる。接合シート81は、接合部8の表面に接着するとともに、繊維シート3の端部と接着する。なお、補強パネル1に複数枚の繊維シート3が積層されている場合には、複数の接合シート81を積層することで、積層された繊維シート3同士の間に接合シート81を介設させるのが望ましい。ここで、接合シート81を構成する材料は、繊維シート3と同質のシート材とする。
【0018】
接合作業は、
図5(b)に示すように、隣り合う補強パネル1の第二板材4同士の間に接合部材82を接着する作業である。接合部材82は、隣り合う補強パネル1の第二板材4同士の間に形成された隙間と同じ形状の板材であり、第二板材4と同じ材質からなる。接合部材82は、第二板材4同士の間において、接合部8の表面を覆うように繊維シート3の表面に接着する。なお、接合部材82の固定方法は限定されるものではなく、例えば、接合部材82および第一板材2を貫通するアンカーにより固定してもよい。
【0019】
充填作業は、
図5(c)に示すように、開口部21に無収縮モルタル(セメント系充填材)9を注入する作業である。無収縮モルタル9は、第二板材4の注入孔42に接続した注入パイプから注入する。無収縮モルタル9の注入作業は、空気抜き孔43から無収縮モルタル9が流出して、開口部21内への無収縮モルタル9の充填が確認されるまで行う。なお、開口部21へ無収縮モルタル9を充填する際のコンクリート面Cは、湿潤状態であってもよいし、乾燥していてもよい。なお、開口部21に注入するセメント系充填材は、無収縮モルタル9に限定されるものではなく、例えば、ポリマーセメントモルタルやグラウト等を使用してもよい。また、開口部21には、セメント系充填材に代えて、樹脂系注入材(エポキシ樹脂やアクリル樹脂等)を注入してもよい。
【0020】
以上、本実施形態の補強パネル1を利用したコンクリート構造物の補強方法によれば、第一板材2に形成された開口部21において繊維シート3がコンクリート面C側に露出しているため、繊維シート3をコンクリート面Cに直接接着することができる。そのため、繊維シート3とコンクリート構造物との一体性をより確実にし、ひいては、繊維シート3による補強効果を十分に発揮できる。
開口部21に無収縮モルタル9を充填することで、繊維シート3とコンクリート面Cとの一体性を確保することができる。繊維シート3の裏面に粒状体5が付着しているため、繊維シート3と無収縮モルタル9との一体性が確保されており、その結果、繊維シート3とコンクリート面Cとの一体性が確保される。また、開口部21に不燃性の無収縮モルタル9を使用しているため、耐火性に優れた補強構造を構築することができる。
【0021】
第一板材2とコンクリート面Cとの間にシール材6が設けられているため、シール材6によって、開口部21に注入した無収縮モルタル9が四散することを防ぐことができ、かつ、無収縮モルタル9を充填する範囲を補強パネル1毎に区切ることができる。そのため、無収縮モルタル9の未充填箇所が発生するリスクを最小限に抑えることが可能となり、より確実に施工することができる。さらに、第一板材2が、スペーサーとして機能するため、無収縮モルタル9を注入するためのスペース(開口部21)を確実に確保することができる。すなわち、コンクリート面Cに凹凸がある場合であっても、無収縮モルタル9を確実に充填することができる。
【0022】
第二板材4がアンカー固定されているため、無収縮モルタル9の注入圧によって繊維シート3の変形を小さくすることができる。したがって、確実な施工を可能にすることができる。
第一板材2のうち、第二板材4から張り出した部分で隣り合う補強パネル1同士の接合部8を形成することで、繊維シート3と接合部材82との密着性を確保することができ、ひいては、補強パネル1同士の連続性を確保することができる。
第一板材2に開口部21が形成されているため、補強パネル1の軽量化が実現されることで、補強パネル1の取扱い性が向上する。その結果、作業性が向上し、ひいては、工期短縮化を図ることができる。
【0023】
以下、本実施形態の補強パネル1の性能について検証した結果について説明する。本検証では、付着試験を実施して、セメント系充填材(無収縮モルタル9)の付着力に対する粒状体5の効果を確認した。
付着試験は、
図6に示すように、コンクリート部材の表面(コンクリート面C)に、フレキシブルボード(第二板材4)を接着した供試体を製造し、切り込みKにより区画された所定の範囲(矩形状の領域)について、コンクリート面Cからフレキシブルボードを引き剥がした際の接着力を測定した。なお、切り込みKは、フレキシブルボードの表面からコンクリート部材の一部を切断する深さとした。目標接着力は1.5N/mm
2として、測定を3回行ってその平均値を算出した。
【0024】
本付着試験では、実施例として、
図6(a)に示すように、コンクリート面C側から順に無収縮モルタル9、繊維シート3およびフレキシブルボード(第二板材4)を積層した。繊維シート3の裏面(無収縮モルタル9との接触面)には、珪砂(粒状体5)が付着されている。なお、測定は、第二板材4の表面に接着剤Gにより接着した試験治具Tをコンクリート面C(第二板材4)と直交する方向に引っ張ることにより行った。
また、比較例1として、粒状体5を使用しない場合についても実施例と同様に接着力を測定した。
図6(b)に示すように、コンクリート面C側から順に無収縮モルタル9、粒状体5が付着されていない繊維シート3およびフレキシブルボード(第二板材4)を積層した。
さらに、比較例2として、接着剤として一般的に用いられるエポキシ樹脂9aによりフレキシブルボードを接着した場合についても実施例と同様に接着力を測定した。
図6(c)に示すように、コンクリート面C側から順にエポキシ樹脂9a、粒状体5が付着されていない繊維シート3およびフレキシブルボード(第二板材4)を積層した。
試験結果を表1に示す。
【0025】
【0026】
表1に示すように、実施例の付着力の平均値は、2.66N/mm2となり、目標接着力(1.5N/mm2)を上回る結果となった。これは、エポキシ樹脂9aにより接着した比較例2の2.69N/mm2と同程度であった。したがって、本実施形態の補強パネル1を使用すれば、充填材(接着剤)として、セメント系充填材を使用した場合であっても、エポキシ樹脂9aと同程度の一体性を確保できることが確認できた。
一方、繊維シート3に粒状体5が付着されていない比較例1は、接着力が0.21N/mm2となり、目標値を確保することができなかった。そのため、粒状体5によりコンクリートと繊維シート3との一体性が向上することが確認できた。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、第一板材2が、1つの矩形状の開口部21を有した枠状部材である場合について説明したが、開口部21の形状は限定されるものではなく、例えば、小判形(
図7(a)参照)、円形、楕円形、矩形以外の多角形であってもよい。また、第一板材2には、
図7(b)または(c)に示すように、複数の開口部21が形成されていてもよい。なお、この場合における複数の開口部21の形状は限定されるものではなく、矩形状(
図7(b)参照)、その他の多角形状、円形(
図7(c)参照)、楕円形、小判形等であってもよい。
【0028】
前記実施形態では、固定作業において、第一板材2をコンクリート面Cに当接させる場合について説明したが、第一板材2とコンクリート面Cとの間に隙間をあけておき、接着工程において第一板材2をコンクリート面Cに接着してもよい。また、補強パネル1を設置するコンクリート面Cには、目荒らしにより凹凸を形成しておいてもよい。
繊維シート3の接合部8の位置に対応する部分には、予め樹脂を含浸させておいてもよいし、樹脂が未含浸であってもよい。
【0029】
前記実施形態では、補強パネル1同士を、コンクリート面Cに設置した状態で連結する場合について説明したが、複数の補強パネル1を予め連結(地組)してから、コンクリート面Cに設置してもよい。
前記実施形態では、接合部8に接合シート81を配設する場合について説明したが、少なくとも一方の補強パネル1の繊維シート3が第一板材2よりも側方に張り出している場合には、補強パネル1の繊維シート3同士を重ねることで、連結してもよい。
【0030】
補強パネル1を製造する手順は前記実施形態で示した手順に限定されるものではない。例えば、第一板材2の表面に繊維シート3を接着してから、繊維シート3の表面に開口部21の表面側を遮蔽する第二板材4を接着し、その後、開口部21内において繊維シート3の裏面に粒状体5を付着させることにより補強パネル1を製造してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 補強パネル
2 第一板材
21 開口部
22 アンカー孔
3 繊維シート
4 第二板材
41 アンカー孔
42 注入孔
43 空気抜き孔
5 粒状体
6 シール材
7 アンカー
8 接合部(突き合わせ部)
81 接合シート
82 接合部材
9 無収縮モルタル(セメント系充填材)
C コンクリート面