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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/10 20060101AFI20220524BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20220524BHJP
   B29C 51/36 20060101ALI20220524BHJP
   B29C 51/42 20060101ALI20220524BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20220524BHJP
   B32B 15/095 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
B29C51/10
B29C45/14
B29C51/36
B29C51/42
B32B15/088
B32B15/095
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018139950
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2019098741
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2017227823
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501073426
【氏名又は名称】ダイセルパックシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】半田 通
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-014431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14,51/10,51/36,51/42
B32B 15/088,15/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分を含む成形品を製造するための方法であって、
前記ポリアミド樹脂からなる基材シートを構成するポリアミド樹脂が、結晶融解温度(Tm1)と結晶化温度(Tc1)を有しているものであり、
前記ポリアミド樹脂からなる基材シートをTm1-10℃~Tm1+50℃の温度で加熱する第1工程、
その後、前記温度で加熱状態のポリアミド樹脂からなる基材シートをTc1-50℃以下に調整した金型内に入れた状態で真空成形または圧空成形する第2工程を有しており、
得られた成形品の基材シートが成形された部分のヘイズが50%以下のものである、成形品の製造方法。
【請求項2】
第2工程が、前記温度で加熱状態のポリアミド樹脂からなる基材シートをTc1-80℃以下に調整した金型内に入れた状態で真空成形または圧空成形する工程である、請求項1記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
第2工程において使用するポリアミド樹脂からなる基材シートが、着色されているか、模様が印刷されているか、または着色されかつ模様が印刷されているものである、請求項1または2記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
ポリアミド樹脂シートからなる基材シートが成形された部分を含む成形品を製造するための方法であって、
前記ポリアミド樹脂からなる基材シートを構成するポリアミド樹脂が、結晶融解温度(Tm1)と結晶化温度(Tc1)を有しているものであり、
前記ポリアミド樹脂からなる基材シートをTm1-10℃以上の温度で加熱する第1工程、
その後、前記温度で加熱状態のポリアミド樹脂からなる基材シートと、着色されているか、模様が印刷されているか、または着色されかつ模様が印刷されている他の熱可塑性樹脂シートを積層したものをTc1-50℃以下に調整した金型内に入れた状態で真空成形または圧空成形する第2工程を有しており、
得られた成形品のうち、前記ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分のヘイズが50%以下のものである、成形品の製造方法。
【請求項5】
ポリアミド樹脂シートからなる基材シートが成形された部分を含む成形品を製造するための方法であって、
前記ポリアミド樹脂からなる基材シートを構成するポリアミド樹脂が、結晶融解温度(Tm1)と結晶化温度(Tc1)を有しているものであり、
前記ポリアミド樹脂からなる基材シートをTm1-10℃以上の温度で加熱する第1工程、
その後、前記温度で加熱状態のポリアミド樹脂からなる基材シートと、ポリアミド樹脂シートと金属層からなる積層シートを前記金属層が中間層になるように積層して、Tc1-50℃以下に調整した金型内に入れた状態で真空成形または圧空成形する第2工程を有しており、
得られた成形品のうち、前記ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分のヘイズが50%以下のものである、成形品の製造方法。
【請求項6】
第2工程で使用する積層シートが、一面側に凹凸を有する熱可塑性ポリウレタン層と、前記凹凸面に形成された金属層を有しているものである、請求項5記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
得られた成形品に含まれているポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分のヘイズが40%以下のものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂が、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12から選ばれるものである、請求項1~7のいずれか1項記載の成形品の製造方法。
【請求項9】
前記成形品が、通信端末機器用のケース、装飾用品、容器(前記通信端末機器用を除く)または前記容器部品として使用されるものである、請求項1~8のいずれか1項記載の成形品の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項記載の製造方法により成形品を製造した後、
得られた成形品とポリウレタン樹脂を使用してインサート成形し、前記成形品とポリウレタン樹脂からなる複合樹脂成形品を得る、複合樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
前記複合樹脂成形品が、スパイクシューズの靴底の全部または一部として使用されるものである、請求項10記載の複合樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明部分を含む成形品の製造方法と、前記製造方法で得られた透明部分を含む成形品を利用した複合樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマーなどを使用した各種用途に使用する透明成形品の発明が知られている(特許文献1~10)。これらの成形品の製造方法としては射出成形が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-510677号公報
【文献】特許5937814号公報
【文献】特許5677840号公報
【文献】特許5681911号公報
【文献】特許5725730号公報
【文献】特許5808887号公報
【文献】特許5384334号公報
【文献】特許5384508号公報
【文献】特許4416073号公報
【文献】特表2009-540087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、真空成形法または圧空成形法を適用してポリアミド樹脂からなる基材シートから透明部分を含む成形品を製造する方法と、前記製造方法を利用した複合樹脂成形品の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分を含む成形品を製造するための方法であって、
前記ポリアミド樹脂からなる基材シートを構成するポリアミド樹脂が、結晶融解温度(Tm1)と結晶化温度(Tc1)を有しているものであり、
前記ポリアミド樹脂からなる基材シートをTm1-10℃以上の温度で加熱する第1工程、
その後、前記温度で加熱状態のポリアミド樹脂からなる基材シートをTc1-50℃以下に調整した金型内に入れた状態で真空成形または圧空成形する第2工程を有しており、
得られた成形品のヘイズが50%以下のものである、成形品の製造方法を提供する。
【0006】
また本発明は、上記の製造方法により成形品を製造した後、
得られた成形品とポリウレタン樹脂を使用してインサート成形し、前記成形品とポリウレタン樹脂からなる複合樹脂成形品を得る、複合樹脂成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法により得られる成形品は、ヘイズ値が50%以下である肉眼により透明な部分を含んでいるため、着色されたり、模様が付されたりした部分が鮮明であり、美観を高めることができる。このため、各種用途に適用したときの製品価値を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<透明部分を含む成形品の製造方法>
本発明の成形品の製造方法は、ポリアミド樹脂シートからなる基材シートが成形された透明部分を含む成形品を製造する際に真空成形法または圧空成形法を適用する工程を含むことが特徴である。以下、工程に分けて説明する。
また本発明の成形品の製造方法は、単一のシートを使用して製造する実施形態と、複数のシートを使用して製造する実施形態を含んでいる。
なお、本発明におけるシートの厚みは用途に応じて調整されるものであり、フィルムも含むものである。
【0009】
(単一のシートを使用する成形品の製造方法)
第1工程において、ポリアミド樹脂からなる基材シート(結晶化している不透明なポリアミド樹脂シート)をTm1-10℃以上の温度で加熱することで結晶を融解させ、透明なポリアミド樹脂からなる基材シートにする。
第1工程で使用するポリアミド樹脂は、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12およびこれらの混合物から選ばれるものが好ましく、これらの中でもポリアミド12がより好ましい。
ポリアミド樹脂は、各種着色剤(顔料など)を配合することで、成形後に所望の色になるようにすることができる。その他、ポリアミド樹脂には、成形品に用途に応じた性質を付与するため、公知の樹脂添加剤を配合することができる。
第1工程で使用するポリアミド樹脂からなる基材シートの大きさや形状は特に制限されるものではなく、厚みは例えば0.3~1.2mmのものを使用することができる。
【0010】
Tm1は、前記ポリアミド樹脂からなる基材シートを構成するポリアミド樹脂の結晶融解温度である。
第1工程における加熱温度の上限はTm1+50℃が好ましい。
第1工程における加熱方法は特に制限されるものではなく、例えば、赤外線加熱ヒーターなどの熱源を利用して加熱炉などで加熱することができる。
【0011】
第2工程において、その後、前記温度で加熱状態の透明なポリアミド樹脂からなる基材シートをTc1-50℃以下、好ましくはTc1-80℃以下に調整した金型内に入れた状態で真空成形または圧空成形する。
Tc1は、前記ポリアミド樹脂からなる基材シートを構成するポリアミド樹脂の結晶化温度である。
このようにして真空成形または圧空成形することで加熱状態の透明なポリアミド樹脂からなる基材シートは、Tc1-50℃以下(好ましくはTc1-80℃以下)に調整された金型に密着されることで急冷されることになる。
このように急冷することでポリアミド樹脂の結晶の成長が抑制され、高い透明性が維持された状態で所望形状に成形することができる。
【0012】
真空成形法は公知の成形法であり、例えば、プラグアシスト成形、エアースリップ成形などを適用することができる。
プラスアシスト成形は、第1工程で加熱したポリアミド樹脂からなる基材シートを凹形状の型と接触させた状態で真空吸引すると同時にプラグ(補助型)で凹形状の型の上から押さえつけて成形する方法である。プラスアシスト成形法では、凹形状の型の温度をTc1-50℃以下に調整しておく。
エアースリップ成形は、第1工程で加熱したポリアミド樹脂からなる基材シートを圧縮空気により膨らませ、下から凸形状の型を突き上げ、真空吸引することで凸形状の型にポリアミド樹脂からなる基材シートを密着させることで成形する方法である。エアースリップ成形法では、凸形状の型の温度をTc1-50℃以下に調整しておく。
圧空成形法は公知の成形法であり、真空成形において真空吸引する代わりに圧力を加える方法である。
真空成形法と圧空成形法は、1枚のポリアミド樹脂からなる基材シートを使用する単発真空成形(単発圧空成形)、長尺状のポリアミド樹脂からなる基材シートを使用する連続真空成形(連続圧空成形)のいずれの成形法でもよい。
【0013】
上記した第1工程と第2工程の処理により得られた成形品は、ヘイズが50%以下のものであり、好ましくはヘイズが40%以下のものであり、より好ましくはヘイズが30%以下のものである。
その後、得られた成形品は、所望形状になるようにトリミング加工して使用する。
このように本発明の製造方法で得られた成形品はヘイズ値が小さいため、肉眼で見たときに透明であり、着色性が良く、所望の色に着色することができる。このため、製品にしたときの製品価値が高められるので好ましい。なお、ポリアミド樹脂の射出成形品はヘイズ値が劣るため、着色性が劣る。
また得られた成形品は、所望の模様などを印刷することもできる。前記模様は、着色された模様にすることができる。
【0014】
(複数のシートを使用する成形品の製造方法-1)
上記した単一のシートを使用する成形品の製造方法の第1工程と同様にして得た加熱状態の透明なポリアミド樹脂からなる基材シートと、着色されているか、模様が印刷されているか、または着色されかつ模様が印刷されている他の熱可塑性樹脂シートを積層したものを使用して、上記した単一のシートを使用する成形品の製造方法の第2工程と同様にして金型内に入れた状態で真空成形または圧空成形する。
このとき、金型に接する部分が加熱状態の透明なポリアミド樹脂からなる基材シートになるように配置して真空成形または圧空成形する。
このようにして得られた成形品は、前記ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分(ヘイズが50%以下の部分)と、模様などを有している熱可塑性樹脂シートが成形された部分の二層構造の成形品になっている。
得られた成形品は、前記熱可塑性樹脂シートが成形された部分の模様が透明なポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分を通して見ることができるようになっており、ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分が保護シートの機能を発揮している。
上記の熱可塑性樹脂シートとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12およびこれらの混合物から選ばれるものからなるものが好ましく、これらの中でもポリアミド12からなるものがより好ましい。
【0015】
(複数のシートを使用する成形品の製造方法-2)
上記した単一のシートを使用する成形品の製造方法の第1工程と同様にして得た加熱状態の透明なポリアミド樹脂からなる基材シートと、ポリアミド樹脂シートと金属層からなる第1積層シートを積層したものを使用して、上記した単一のシートを使用する成形品の製造方法の第2工程と同様にして金型内に入れた状態で真空成形または圧空成形する。
このとき、金型に接する部分が加熱状態の透明なポリアミド樹脂からなる基材シートになり、第1積層シートの金属層が中間層になるように配置して真空成形または圧空成形する。
第1積層シートは、ポリアミド樹脂シートの一面に金属層が積層されているものであり、金属層は蒸着により形成された蒸着膜が好ましい。蒸着膜は、1色または2色以上に着色することもできる。
金属層(蒸着膜)を形成するものとしては、アルミニウム、銀、金、チタン、ニッケル、銅、クロム、錫、インジウムなどの金属、アルミナ、シリカなどの金属酸化物などを挙げることができる。
【0016】
このようにして得られた成形品は、前記ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分(ヘイズが50%以下の部分)と第1積層シートが成形された部分からなる三層構造であり、中間層が金属層からなる成形品になっている。
得られた成形品は、透明なポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分を通して中間層の金属層を見ることができるようになっており、ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分が保護シートの機能を発揮している。
成形品の中間層を形成している金属層が光(自然光または人工光)を受けてきらきらと輝くため、よりいっそう美観を向上させることができるため好ましい。
【0017】
(複数のシートを使用する成形品の製造方法-3)
複数のシートを使用する成形品の製造方法-3は、上記の複数のシートを使用する成形品の製造方法-2で使用する第1積層シートに替えて、熱可塑性ポリウレタンシート(基材)/金属層からなる第2積層シートを使用する製造方法である。なお、必要に応じて、第2積層シートは、熱可塑性ポリウレタンシート/金属層/熱可塑性ポリウレタンシートの三層構造にしてもよい。
【0018】
第2積層シートで使用する熱可塑性ポリウレタンは、例えば商品名「ハイグレス」(シーダム(株)製)などの市販品を使用することができる。
熱可塑性ポリウレタンシート(基材)は、エンボス加工などにより微細な凹凸が形成されているものである。
第2積層シートで使用する金属層は、熱可塑性ポリウレタンシート(基材)の表面に蒸着により金属薄膜を形成させる方法、アクリル系やウレタン系の接着剤により金属箔を貼り付ける方法などにより形成されるものである。
接着剤としては、東洋モートン(株)製のエステル系ポリウレタン「TM-595」(主剤)と硬化剤(商品名「CAT-10L,「CAT-RT85」との組み合わせから鳴るドライラミネート系接着剤を使用することができる。
金属層を形成する金属としては、アルミニウム、銀、銅、クロム、スズ、ニッケル、酸化ケイ素、硫化亜鉛から選ばれるものが好ましい。
【0019】
このようにして得られた成形品は、前記ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分(ヘイズが50%以下の部分)と、第2積層シートが成形された部分からなる三層構造のものであり、中間層が金属層からなる成形品になっている。
得られた成形品は、透明なポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分を通して中間層の金属層を見ることができるようになっており、ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分が保護シートの機能を発揮している。
第2積層シートを使用すると、光(自然光または人工光)が当たったときに乱反射されることで様々な色(例えば、虹色)に輝いて美観を付与することができるため好ましい。
【0020】
本発明の製造方法により得られたポリアミド樹脂からなる基材シートを含む成形品は、以下の第1実施形態~第4実施形態を含んでいる。
第1実施形態の成形品は、ポリアミド樹脂からなる基材シートのみからなるものであり、成形品のヘイズが50%以下のものである。
第2実施形態の成形品は、ポリアミド樹脂からなる基材シートの成形部分と他の熱可塑性樹脂シート(好ましくはポリアミド樹脂シート)の成形部分からなる二層構造のものであり、ポリアミド樹脂からなる基材シートの成形部分のヘイズが50%以下のものである。他の熱可塑性樹脂シートは、着色されたり、模様が印刷されたりしている。
第3実施形態の成形品は、ポリアミド樹脂からなる基材シートの成形部分と第1積層シート(ポリアミド樹脂シートと金属箔からなる積層シート)の成形部分からなる三層構造のものであり、ポリアミド樹脂からなる基材シートの成形部分のヘイズが50%以下のものである。金属箔は、着色されたり、模様が印刷されたりしていてもよい。
第4実施形態の成形品は、ポリアミド樹脂からなる基材シートの成形部分と第2積層シート(凹凸を有するポリウレタン層と前記凹凸面に形成された金属層からなる積層シート)の成形部分からなる三層構造のものであり、ポリアミド樹脂からなる基材シートの成形部分のヘイズが50%以下のものである。金属層は、着色されたり、模様が印刷されたりしていてもよい。
本発明の製造方法で得られた第1実施形態~第4実施形態の成形品は、携帯電話(スマートフォン)、タブレット型端末機器などの通信端末機器用のケース、各種展示(例えば、ウィンドウディスプレイ用)や催しなどで使用する装飾用品、各種商品(通信端末機器用を除く)の容器または前記容器部品(例えば、容器の中敷き、容器の中蓋、容器カバー)などに使用することができる。
【0021】
<複合樹脂成形品の製造方法>
本発明の複合樹脂成形品の製造方法は、上記した真空成形法を使用する製造方法で得られた成形品(第1実施形態~第4実施形態の成形品)を利用する方法である。
第1工程において、上記した真空成形法を使用する製造方法により第1実施形態~第4実施形態の成形品を製造する。
その後、第2工程において、第1工程で得られた成形品とポリウレタン樹脂を使用してインサート成形し、前記成形品とポリウレタン樹脂からなる複合樹脂成形品を得る。
使用するポリウレタン樹脂は、各種着色剤(顔料など)を配合することで、成形後にポリウレタン樹脂からなる部分が所望の色になるようにすることができる。その他、ポリウレタン樹脂には、用途に応じた性質を付与するため、公知の樹脂添加剤を配合することができる。
【0022】
インサート成形法は、所望の金型内に第1実施形態~第4実施形態の成形品を配置した状態でポリウレタン樹脂を射出成形する方法であり、得られた複合樹脂成形品は、次のいずれかの形態であることが好ましいが、これらの形態に限定されるものではない。
(I)ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分のヘイズが50%以下の部分の一部がポリウレタン樹脂で被覆され、残部が露出されている形態
(II)ポリアミド樹脂からなる基材シートが成形された部分のヘイズが50%以下の部分がポリウレタン樹脂と積層された形態
なお、ポリアミド樹脂としてポリアミド12を使用した場合には、特にポリウレタン樹脂との接着性が良いため、どのような形態にした場合でも接着部分が剥離し難く、耐久性が高められるため好ましい。
【0023】
本発明の製造方法で得られた複合樹脂成形品は、各種競技で使用するスパイクシューズの靴底の全部または一部として使用することができる。
スパイクシューズとして使用するときは、ポリアミド樹脂からなる透明成形品が靴底となり、ポリウレタン樹脂部分が靴底のうちのピン(スパイクピン)となるほか、その他、土踏まずの部分やかかとの部分に相当する部分などをポリウレタン樹脂で形成することができる。
このとき、ポリアミド樹脂からなる透明成形品が靴底は透明のまま、または所望の色に着色され、ポリウレタン樹脂からなるピンは所望の色に着色されたものにすることができ、靴底とピンは同色でも、異なる色でもよい。
また全体をポリウレタン樹脂で成形した場合に比べると軽量化することができ、耐久性の点でも優れている。
スパイクシューズとしては、サッカー、ラグビー、グランドホッケー、アメリカンフットボール、ゴルフなどの各種スポーツ用スパイクシューズなどに利用することができる。
【0024】
実施例1~3(第1実施形態の成形品)および比較例1~7
(第1工程)
ポリアミド12の基材シート(縦200mm、横200mm、厚み0.5mm)を用意した。ポリアミド12のTm1は177℃、Tc1は149℃であった。
なお、Tm1とTc1は、下記条件で測定した。
測定機器:株式会社日立ハイテクサイエンス製 X-DSC7000
測定条件:窒素雰囲気
20℃→260℃ 10℃/分で昇温
260℃→-10℃ 10℃/分で降温
このシートを赤外線加熱炉内に入れて加熱して、表1に示す温度のシートを得た。
【0025】
(第2工程)
第1工程で加熱した基材シートを表1に示す温度に調整した金型内に入れ、真空成形して、表1に示すヘイズ値の真空成形品を得た。
【0026】
【表1】
【0027】
実施例1~3と比較例1~7の対比から明らかなとおり、本発明の製造方法により得られた成形品は、ヘイズ値が小さく、着色性の良いものであった。
【0028】
実施例4(樹脂複合成形品の製造)
実施例2と同様にして透明成形品を得た。但し、ポリアミド12の基材シートは1.5質量%の顔料(黄緑色顔料)を含むものを使用した。得られた透明成形品は、綺麗に黄緑色に着色されていた。
次に着色された透明成形品とポリウレタン樹脂(日本ミラクトラン株式会社製 ミラクトラン,青色顔料0.9質量%含有)を使用して、次の条件でインサート成形して複合樹脂成形体を得た。
(インサート成形条件)
射出成形機:日精樹脂工業株式会社 PS60E9A
金型温度:40℃
射出圧力:98MPa(1000kg/cm2
【0029】
得られた複合樹脂成形体は、ポリアミド12からなるシート状の透明成形品(黄緑色)の一面側の一部がポリウレタン樹脂(青色)で覆われた状態のものであった。二つの色のコントラストが鮮やかで、心地よい美観を生じさせるものであった。
【0030】
実施例5(第2実施形態の成形品)
実施例2の第2工程において、実施例2の第1工程で加熱した基材シートとチェック模様のポリアミド12シートを表1に示す温度に調整した金型内に入れ(前記基材シートが金型の底面側)、真空成形して二層構造の成形品を得た。
二層構造の成形品は、基材シートが成形された部分(ヘイズ=24.33%)を介して、ポリアミド12シートが成形された部分の鮮やかなチェック模様が肉眼で確認でき、美観を生じさせた。
【0031】
実施例6(第3実施形態の成形品)
実施例1~3と同じポリアミド12シート(縦200mm、横200mm、厚み0.5mm)の表面にアルミニウム蒸着膜からなる金属層が形成された第1積層シートを用意した。
実施例2の第2工程において、実施例2の第1工程で加熱した基材シートと第1積層シートを表1に示す温度に調整した金型内に入れ(前記基材シートが金型の底面側)、真空成形して三層構造の成形品を得た。
三層構造の成形品は、基材シートが成形された部分(ヘイズ=24.33%)を通して、中間層であるアルミニウム蒸着膜が肉眼で確認できた。アルミニウム箔は光を受けるときらきらと輝き、美観を生じさせた。
またアルミニウム蒸着膜の一部を黄色に着色したものを使用して同様に三層構造の成形品を得た。アルミニウム蒸着膜の黄色に着色された部分は、光を受けると黄金色にきらきらと輝くため、よりいっそうの美観を生じさせた。
【0032】
実施例7(第4実施形態の成形品)
片面がエンボス加工された熱可塑性ポリウレタン層/アルミニウム蒸着層/熱可塑性ポリウレタン層(50μm/1μm/100μm)からなる積層フィルム(商品名「ウレタンホログラム,(株)村田金箔製」)からなる積層フィルムを用意した。アルミニウム蒸着層は、熱可塑性ポリウレタン層のエンボス加工面に形成されているため、微細な凹凸が形成されていた。
実施例2の第2工程において、実施例2の第1工程で加熱した基材シートと積層フィルムを表1に示す温度に調整した金型内に入れ(前記基材シートが金型の底面側)、真空成形して三層構造の成形品を得た。
三層構造の成形品は、基材シートが成形された部分(ヘイズ=24.33%)を通して、中間層である微細な凹凸が形成されたアルミニウム蒸着層が肉眼で確認できた。凹凸を有するアルミニウム蒸着層は光を受けるときらきらと虹色に輝くため、よりいっそうの美観を生じさせた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の製造方法で得られる成形品は、スパイクシューズの靴底の全部または一部の製造用材料として利用することができる。