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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】変化する密度を有する磨耗性被覆
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/04 20060101AFI20220524BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20220524BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20220524BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20220524BHJP
   F01D 11/12 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
B22F7/04 E
F01D25/00 L
F02C7/00 C
F01D5/28
F01D11/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018549628
(86)(22)【出願日】2016-12-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 FR2016053358
(87)【国際公開番号】W WO2017103420
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-12-11
(31)【優先権主張番号】1562318
(32)【優先日】2015-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】315008740
【氏名又は名称】サフラン エアークラフト エンジンズ
(73)【特許権者】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ サイアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】518105530
【氏名又は名称】ユニベルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワズィエーム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ シャルル アラン ル ビエ
(72)【発明者】
【氏名】ジョフロワ シュバリエ
(72)【発明者】
【氏名】ロマン エフェル
(72)【発明者】
【氏名】クロード エストゥールネ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-バティスト モタン
(72)【発明者】
【氏名】セルジュ ジョルジュ ブラディミル セレズネフ
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-092842(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0266093(US,A1)
【文献】特公昭49-023985(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
C22C 1/04- 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変化する密度のタービン又は圧縮機リング用の磨耗性被覆のための製造方法であって、前記方法は、
第1のレベル(A)に位置するその表面(33s)を有する第1の部分(33)と、前記第1のレベル(A)とは異なる第2のレベル(B)に位置するその表面(34s)を有する第2の部分(34)と、を有する基板(32)を提供するステップと、
前記基板(32)の前記第1の部分(33)と前記第2の部分(34)上に前駆体材料(35)を堆積させるステップと、
前記基板(32)と支持面(42)との間において前記前駆体材料(35)を圧縮するステップと、
前記基板(32)の前記第1の部分(33)上において15%未満の最終気孔率を有しかつ第1の密度を有する第1の部分(36a)と、更に前記基板(32)の前記第2の部分(34)上において20%より大きい最終気孔率を有しかつ前記第1の密度とは異なる第2の密度を有する第2の部分(36b)と有する、タービン又は圧縮機リング用の磨耗性被覆(36)を得るために、このように圧縮された前記前駆体材料(35)を焼結するステップと、を具備し、
前記基板(32)は、2つの長手方向肩部(33)の間において長手方向の溝(31)を有しており、前記2つの長手方向肩部(33)は、前記基板(32)の前記第1の部分の一部を形成し、前記長手方向の溝(31)の底部は、前記基板の前記第2の部分の一部を形成することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基板(32)の前記第2の部分(34)が、前記基板のブランク(30)内において少なくとも1つの溝(31)を機械加工することにより得られる、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記支持面(42)は、少なくとも、前記基板(32)の前記第1の部分(33)及び前記第2の部分(34)に対して横方向に延びる方向において、連続的且つ直線的である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記磨耗性被覆(36)の前記第1の部分(36a)は、5%未満の最終気孔率を有する、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記磨耗性被覆(36)の前記第2の部分(36b)は、30%より大きい最終気孔率を有する、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基板の前記第1の部分及び前記第2の部分上に前記前駆体材料を堆積させるステップの前に、前記基板(132)の前記第2の部分上に裏打ち層(137)を、焼結することにより形成するステップであって、前記裏打ち層の前記最終気孔率は15%未満であるステップ、を更に具備することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記前駆体材料を焼結するステップの後に、前記磨耗性被覆(236)の少なくとも一部において表面層(238)を焼結させることにより形成するステップであって、前記表面層は15%未満の最終気孔率を有するステップを更に具備する、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記基板は、リング構成部(11)である、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変化する密度の磨耗性被覆を製造する方法、更に変化する密度のその様な磨耗性被覆に関する。
【背景技術】
【0002】
その様な磨耗性被覆は、例えば、特には、回転機械のリングに取り付けて回転翼の先端において封止部を前記機械に提供するために、使用されてもよい。その様な磨耗性被覆は、航空分野、及び最も特には航空機ターボジェットにおけるタービンリングに取り付けることに特に適している。
【0003】
多くの回転機械において、回転子の翼の先端に面する、磨耗性軌道を有する、固定子リングを設けることが現在行われている。その様な軌道は、回転翼と接触すると、翼に比べてより容易に摩耗する、所謂「磨耗性」材料を用いて製作される。これにより、回転子と固定子との間において最小限の間隙を確保し、それにより翼が固定子に対して擦れた場合に翼を損傷する恐れがなく、回転機械の性能を向上させる。反対に、その様な擦れは、摩耗性軌道を磨耗させ、それにより固定子リングの直径を回転子に対して非常に接近して自動的に適合させる。従って、その様な磨耗性軌道は、しばしば、タービンエンジンの圧縮機内において所定位置に設置される。
【0004】
対照的に、その様な機械のタービン、特に物理的化学的条件が極めて厳しい、高圧タービンにおいて、磨耗性軌道は、遥かにより稀にしか使用されない。
【0005】
具体的には、燃焼室からの燃焼ガスは、非常に高い温度及び圧力レベルにおいて高圧タービンに侵入し、それにより従来の磨耗性軌道の早期の浸食をもたらす。
【0006】
そのような状況下において、タービンリングを保護するために、被覆にとって効果的に磨耗性であるにはあまりにも大き過ぎる密度を呈すると共にリングを浸食及び腐食から保護するように作用する、材料の熱障壁型被覆をタービンリングに提供することがしばしば好ましい。
【0007】
それにもかかわらず、その様な状況下において、固定子との接触の際に翼の完全性がもはや保証されず、そのことは、回転子と固定子との間により大きな隙間を設ける必要があり、それにより翼の先端を通過する漏れ速度を増加させ、更に従ってタービンの性能を低下させることを意味することは当然に理解可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、磨耗性被覆を製造する方法及び上述の既知の構成に固有の欠点を少なくとも部分的に回避するその様な磨耗性被覆のための実際の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、変化する密度の磨耗性被覆のための製造方法を提供しており、この方法は、第1のレベルに位置するその表面を有する第1の部分と、第1のレベルとは異なる第2のレベルに位置するその表面を有する第2の部分と、を有する基板を提供するステップと、基板の第1と第2の部分上に前駆体材料を堆積させるステップと、基板と支持面との間において前駆体材料を圧縮するステップと、基板の第1の部分上において第1の部分を有していて且つ第1の密度を有していて、更に基板の第2の部分上において第2の部分を有していて且つ第1の密度とは異なる第2の密度を有する、磨耗性被覆を得るために、このように圧縮された前駆体材料を焼結するステップと、を具備する。
【0010】
本方法は、変化する密度の被覆を得ることを可能にする。具体的には、基板の第1の部分と第2の部分との間のレベル(高さ)の差により、圧縮ステップの間において実現可能な体積減少は、基板が初期状態において支持面により近い場合に、より大きいものであり、例えば、第2のレベルが第1のレベルよりも深いと仮定すると、基板の第1の部分上に位置する前駆体材料の部分は従って、基板の第2の部分上に位置する前駆体材料の部分よりも大きく圧縮される。従って、より大きな圧力が前駆体材料のこの部分に存在しており、それにより焼結後の材料の密度がより高くなる。逆に、前駆体材料の第2の部分において、圧縮がより小さいので、材料の気孔率の減少、従ってその高密度化も同様により小さい。本開示において、用語「気孔率」は、該材料の全体体積で割った、問題の材料の粒子間の間隙の体積の比を指定するように使用される。更に、本開示において、磨耗性被覆の第1と第2の部分と同様に、基板の第1と第2の部分は、基板の第1と第2の部分が意図される機能を果たし得るために、重要な寸法からなることが理解されるべきである。従って、図において見られ得るように、基板の各部分、及び従って磨耗性被覆の各部分は、2ミリメートル(mm)より大きい、好適には5mmより大きい幅と、従って、やはりより長い長さと、を有する。
【0011】
その様な状況下において、この方法を用いて、局部的に異なる要件又は制約を満たすために、被覆の最終気孔率、及び従って密度を局所的に調整することが可能である。例えば、浸食に敏感な被覆のこれらの区域に高い密度を提供すること、及び移動体と接触するべき、被覆のこれらの区域に、より低い密度を提供して、それによりその様な区域の容易に摩耗する性質を補強することを可能にする。更に、より低い密度の第2の被覆部分をマスクし(覆い)更に従って保護するような状態で、第1の被覆部分、即ちより高い密度の部分を配置することが可能である。
【0012】
特定の実施例において、基板の第2の部分は、基板のブランク(白紙体)において少なくとも1つの溝部を機械加工することにより得られる。従って、その様な2階層の基板は、規則的なブランクを製造し、次いで単に、ブランクにおいて溝部を所望の位置において機械加工すれば十分であるので、製造が容易である。
【0013】
別の実施例において、基板の第1の部分は、基板のブランク上に少なくとも1つの低い壁を追加することにより得られる。この方法は、溝部を機械加工するのに十分ではない厚さの既存の部分を修理するのに特に適している。
【0014】
特定の実施例において、低い壁は、焼結により、特には放電プラズマ焼結(SPS)式の焼結方法により、基板用のブランク上に直接的に製造される。
【0015】
別の実施例において、低い壁は、独立して製造され、更に溶接又はろう付けにより、上に取り付けられる。特に、タングステン不活性ガス(TIG)式溶接方法により、上に取り付けられてもよい。
【0016】
特定の実施例において、支持面は連続的である。支持面は、段差又はレベルの任意の別の突然の変化等の任意の不連続性を有さないことが理解されるべきである。
【0017】
特定の実施例において、支持面は、少なくとも、基板の第1と第2の部分に対して横方向に延びる方向において直線状である。従って、基板の第1の部分と第2の部分の両方を通過していて且つ支持面が直線である、断面平面が存在する。
【0018】
特定の実施例において、支持面は、筒状の構成部、好適には円筒状の構成部の形態である。
【0019】
特定の実施例において、支持面は成形型の表面である。
【0020】
特定の実施例において、磨耗性被覆の第1の部分は、15%未満、好適には5%未満の最終気孔率を有する。従って、被覆の第1の部分は、浸食に耐えるのに十分高い密度を有する。
【0021】
特定の実施例において、磨耗性被覆の第2の部分は、20%より大きい、好適には30%より大きい最終気孔率を有する。従って、被覆の第2部分は、容易に磨耗する挙動を呈するのに十分に低い密度を有する。
【0022】
特定の実施例において、磨耗性被覆の第1の部分は、圧縮及び焼結ステップ中に少なくとも150%、及び好適には少なくとも250%で高密度化される。本開示において、「高密度化」という用語は、前駆体材料が堆積された時のそれの初期ステップと、圧縮及び焼結ステップの後に得られるそれの最終ステップとの間において磨耗性被覆を作成する、材料の密度の増加を意味するように使用される。換言すれば、高密度化は、初期密度で割った、最終密度と初期密度との間の差である。
【0023】
特定の実施例において、磨耗性被覆の第2の部分は、圧縮及び焼結ステップの間に最大150%、好適には最大100%で高密度化される。
【0024】
特定の実施例において、基板の第1と第2の部分上に前駆体材料を堆積させるステップの前に、この方法は、基板の第2の部分上に焼結することにより裏打ち層を形成するステップを更に具備しており、裏打ち層は、15%未満、更に好適には5%未満の気孔率を有する。この裏打ち層は、磨耗性被覆の第2の部分の下にある高密度化層を保護するように機能し、その第2の部分は、ほとんど高密度化されない。従って基体は、被膜を通過して移動する物体が最大予想オフセット(偏倚)よりも大きな半径方向オフセットを受ける場合に、保護されたままである。これは、特に、例えば、移動体の大きな不均衡が生じた場合に、基板を保護するように作用する。
【0025】
特定の実施例において、前駆体材料を焼結するステップの後に、この方法は、磨耗性被覆の少なくとも一部分、好適にはその中央部分上に焼結させることにより表面層を形成するステップを更に具備しており、表面層は、15%未満、及び好適には5%未満の最終気孔率を有する。この層は、被覆がほとんど表面粗さを有さないことを確保することを可能にする。この層は、磨耗性被覆の全表面上に形成されることが好ましい。
【0026】
特定の実施例において、表面層の厚さは、0.05mm~0.10mmの範囲にある。
【0027】
特定の実施例において、前駆体材料は、金属又はセラミックの粉末である。
【0028】
特定の実施例において、基板は、リング構成部である。特には、基板は、タービンの固定子に取り付けるためのタービンリング構成部であってもよい。
【0029】
特定の実施例において、基板の第1の部分は、基板の第2の部分に沿って延びている。
【0030】
特定の実施例において、基板は、2つの長手方向の肩部の間において延びる長手方向の溝を有しており、肩部は、基板の第1の部分の一部を形成しており、そして溝の底部は、基板の第2の部分の一部を形成する。この方法の終わりにおいて、これは、例えば回転子の翼に接触する可能性のある区域において、低い密度の紐体、即ち摩耗し易いものをもたらしており、そして磨耗性紐体の両側においてより大きな密度の被覆の2つの紐体は、例えば、空気の流れの軸方向流により引き起こされる、浸食から、磨耗性紐体を保護するように作用する。
【0031】
本開示は、また、変化する密度の磨耗性軌道を提供しており、変化する密度の磨耗性軌道は、第1の密度を有する焼結材料を具備する第1の部分と、第1の部分と隣接していて且つ第1の部分と同一平面にあって且つ第1の密度とは異なる第2の密度を有する焼結材料を具備する、第2の部分と、を具備する。上記で説明したように、これにより、浸食に対してより敏感な区域を保護することが可能となる一方で、移動体に接触するべき区域において容易に磨耗可能な層を提供する。
【0032】
特定の実施の形態において、磨耗性軌道の第1の部分の厚さは、第2の部分の厚さよりも薄い。
【0033】
特定の実施の形態において、磨耗性軌道は、上記の実施例のいずれか1つに従う製造方法を使用して得られる。
【0034】
本開示はまた、上記の実施の形態のいずれか1つに従う磨耗性軌道を具備する、タービン又は圧縮機リングを提供する。
【0035】
本開示はまた、上記の実施の形態のいずれかに従う磨耗性軌道あるいはタービン又は圧縮機リングを具備する、タービンエンジンを提供する。
【0036】
上記の特徴と利点、及び別のものは、提案された装置及び方法の例の以下の詳細な説明を読むことで明らかになる。詳細な説明は、添付図面を参照する。
【0037】
添付の図面は、本発明の原理を例示するために図式的であり、且つとりわけそのことを目的とする。
【0038】
図面において、ある図から別の図へ、同一の要素(又は要素の一部分)は、同じ参照符号により識別される。更に、異なる例に属しているがしかし類似する機能を有する、要素(又は要素の一部分)は、100、200等により増大された数値の参照符号により図面において識別される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、本発明のタービンエンジンの断面図である。
図2図2は、本発明の固定子リングの一例の断片的斜視図である。
図3A図3Aは、本発明の例示的な方法における様々な連続的ステップの中の一つを示す。
図3B図3Bは、本発明の例示的な方法における様々な連続的ステップの中の一つを示す。
図3C図3Cは、本発明の例示的な方法における様々な連続的ステップの中の一つを示す。
図3D図3Dは、本発明の例示的な方法における様々な連続的ステップの中の一つを示す。
図3E図3Eは、本発明の例示的な方法における様々な連続的ステップの中の一つを示す。
図4図4は、磨耗性軌道の第2の例の断面図である。
図5図5は、磨耗性軌道の第3の例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明をより具体的にするために、方法及び摩耗性軌道の例は、添付の図面を参照して以下で詳細に説明される。本発明はこれらの実施例に限定されないことが想起されるべきである。
【0041】
図1は、本発明のバイパスターボジェット1の断面図であり、断面は、ターボジェットの主軸線Aを含む垂直面上にある。空気流の流れ方向において上流から下流へと進む方向で、ターボジェットは、ファン2と、低圧圧縮機3と、高圧圧縮機4と、燃焼室5と、高圧タービン6と、低圧タービン7と、を具備する。
【0042】
高圧タービン6は、回転子と共に回転する複数の翼6aと、固定子に取り付けられた複数の案内羽根6bと、を有する。タービン6の固定子は、タービン6の可動翼6aに面するように配置された、複数の固定子リング10を具備する。図2において見られるように、各固定子リング10は、複数の構成部11に細分されており、各々は、回転子の半径方向の移動の際に、可動翼6aが擦れる、磨耗性軌道20を備える。
【0043】
その様な摩耗性軌道20の一例は、図3A~3Eを参照して説明される。図3Aにおいて、ブランク(白紙体)30が、当初に設けられる。具体的には、ブランク30は、従来の方法を使用して得られた、リング構成部を具備する。その表面30sは、図3Aの軸方向断面において規則的で直線的であり、更に半径方向断面において円弧状である。
【0044】
図3Bに示されるように、溝31がその後、ブランク30の表面において、長手方向、即ち周方向に機械加工されて溝を形成しており、 これにより、溝31の両側、それぞれ上流及び下流に、2つの肩部33を有する基板32が製造される。
【0045】
これらの2つの肩部は共に、ブランク30の初期レベルに対応する第1のレベルAにおいて延びる、それの表面33sを有する第1の基板部分33を形成する。溝31の底部に位置する基板32の部分は、第1のレベルAに比べてより低く、即ちより深くて且つ溝31の底部に対応する、第2のレベルBにおいて延びるそれの表面34sを有する、第2の基板部分34を形成する。現在の例において、溝31は、12mm深さであり、言い換えれば、レベルAとBの間の差は12mmである。
【0046】
図3Cに示すように、このように形成された基板32はその後、基板32の寸法に対応する、軸方向寸法の成形型40の空洞内に設置される。
【0047】
前駆体材料35、具体的には金属粉末はその後、基板32の全面にわたって均一な状態で堆積される。この様にして、粉末35は、溝31を完全に充填し、更に基板32の肩部33の上のレベルAにわたって一定の厚さの連続層を形成する。従って、粉末35は、粉末35が第3のレベルCに達するまで添加されており、現在の例において、このレベルCは、基板の肩部23のレベルAの20mm上に位置する。現在の例において、粉末は、約100μmを中心とする粒寸法のニッケル粉末であり、それの初期気孔率は、約70%である。
【0048】
当然のことながら、この初期気孔率は、使用される粉末の種類及び所望の最終気孔率に応じて変化してもよく、例えば、約4μm~7μmの粒寸法を有するニッケル粉末に関して、初期気孔率は、約23%~33%であってもよい 。高い初期気孔率を有する粉末は、低密度の磨耗性区域のために使用されることが好ましい。更に、この方法の間に、例えば熱分解ステップの間に、その後除去される、細孔発生剤を、その様な粉末に添加することにより、より大きな初期気孔率を得ることが可能である。
【0049】
対照的に、より低い初期気孔率でより微細な粉末は、後述するように、低い壁、裏打ち層又は低い粗さの表面層の等の、より高い密度区域のために使用可能である。
【0050】
従って、粉末35は、肩部33の上に20mmの厚さの層を、そして中央溝31の上に32mmの厚さの層を形成する。
【0051】
図3Dに示すように、金型40は、その後閉じられる。図3Dの軸方向平面内において直線であって且つ半径方向平面内において円弧状である、それのカバー(覆い)41の支持面42はその後、粉末層35の表面35sに当接する。
【0052】
応力がその後、鋳型40のカバー41に加えられて、粉末層35を押し付け、基板32と鋳型40のカバー41の支持面42との間において粉末層35を圧縮する。この様にして、粉末層35は、具体的には基板の肩部33の上4.2mm、即ちレベルAの上の4.2mmに位置する、第4のレベルDに圧縮される。
【0053】
この圧縮ステップの間に、粉末35の粒子は、お互いに対して密集化され、それにより粒子間に当初に存在する空所の一部において充填しており、その際、このようにして排出される空気は、型40から吐出される。粉末の気孔率は従って、この圧縮ステップ中に減少し、そして粉末の密度は増大する。
【0054】
それにもかかわらず、この高密度化は、粉末層35内における、考慮中の粉末の体積の位置に依存する。具体的に、自然に移動する粉末の現象を無視すると、肩部33と支持面42との間に存在する粉末の体積35aは、実施可能な体積の減少を受け、そして従って溝31内及びその上に存在する粉末の体積35bよりも大きく圧縮される。
【0055】
具体的には、肩33の上では、当初に利用可能な厚さは、レベルAとCとの間のレベルの差、即ちこの例において20mmに対応する一方で、圧縮後の利用可能な厚さは、レベルAとDの間のレベルの差、即ち4.2mmに対応しており、粉末体積35aは従って、体積の79%が減少する。
【0056】
対照的に、基板32の第2の部分34上において、当初に利用可能な厚さは、レベルBとCとの間のレベル差、即ちこの例において32mmに対応する一方で、圧縮後に利用可能な厚さは、 レベルB及びDの間のレベル差、即ち16.2mmに対応しており、粉末体積35aは従って、体積が49%が減少する。
【0057】
その様な状況下において、粉末の質量が各粉末体積35a及び35bにおいて一定のままである限り、次の式を用いて材料の高密度化を計算することが可能であり、そこでは、eiは、材料の初期厚さであり、そしてefは、それの最終厚さである。
【数1】
【0058】
従って、第1の粉末体積35aは、第2の粉末体積35bが98%で高密度化される間に、376%で高密度化されることを、即ちその密度が増加することが推測できる。
【0059】
一旦その様な圧縮状態が得られてしまうと、このように異なって圧縮された、粉末層35は、従来の方法を用いて焼結される。
【0060】
焼結ステップの終わりにおいて、図3Eの摩耗性軌道20が得られ、軌道20では、基板32は、溝31の上に載っていて且つ16.2mmの厚さ及び35.7%の最終気孔率を有する第2の部分36bと一緒に、厚さ4.2mm及び最終気孔率14.7%を有する肩部33の上にある、第1の部分36aを有する被覆36において覆われる。
【0061】
この点に関して、最終気孔率Pfは、考慮中の材料の一部分の、初期気孔率Pi及び圧縮率TCの関数として、即ち体積の減少として、一般に計算可能である。
f = Pi(1-TC)
【0062】
当然のことながら、溝31の深さ、粉末35の初期厚さ及び圧縮の大きさは、被覆のための所望の密度及び厚さを達成するために、自由に調整されてもよい。
【0063】
更に、この例において、肩部33のレベル(高さ)より低いレベルBにおいて延びている基板の溝31は、ブランク30を機械加工することにより得られる溝部である。それにもかかわらず、第1の実施例の変形例において、類似の溝は、溝31の両側において肩部33を形成するように、ブランク30上に低い壁を追加することにより得ることができ、その様な状況下において、ブランクの初期レベルは、溝31の底部のレベルBを画定する一方で、壁の頂部は,レベルAを画定する。
【0064】
図4に示す第2の例において、この方法は、2つのレベルA及びBを有する基板132を提供した直後に行われる、追加のステップを有する。例えば0~15%の範囲にある最終気孔率を有する高密度の裏打ち層137は、粉末を焼結させることにより溝131の底部において所定位置に配置される。その後、この方法は、第1の例と比較して変わりないままであり、前駆体材料の層は、肩部133上及び裏打ち層137上に堆積する。
【0065】
この方法の終わりにおいて、図4に示すような磨耗性軌道120がこの様に得られおり、そこでは、より低い密度の第2の被覆部分136が裏打ち層137を覆っており、その裏打ち層は、最大の意図されたオフセット(偏倚)よりも大きく且つ被覆を通過して移動する、物体の半径方向オフセットが存在する場合において、例えば可動体の大きな不均衡が生じた場合において、基板を保護する。
【0066】
第1及び第2の例と互換性があって且つ図5に示される、第3の例において、この方法は、粉末を圧縮及び焼結するステップの直後に行われる、追加のステップを具備しており、この方法の始まりは、第1又は第2の例と比較して変わらないままである。高密度の、即ち0~15%の範囲の最終気孔率を有していて且つ例えば0.05mm~0.10mmの範囲内にある薄い厚さの、表面層238は、変化する密度の被覆236の表面において粉末を焼結させることにより所定位置に配置される。この方法の終わりにおいて、図5の磨耗性軌道220がこの様に得られおり、そこでは、表面層238が被覆236bの全てを覆っており、その表面層は、被覆236bのより低い密度の第2の部分の表面粗さよりも小さい、表面粗さを有しており、それにより空気力学的摩擦を改善する。
【0067】
本開示に記載された例は、非限定的な例示により与えられており、更に当業者は、本開示の観点において、本発明の範囲内に留まる状態で、これらの例を変更するか、又は別のものを、容易に想定することが可能である。
【0068】
更に、これらの実施の形態又は実施例の様々な特徴は、単独で、又はお互いに組み合わされて使用されてもよい。これらの特徴が組み合わされる時に、これらの特徴は、上記で説明されるように又は別の方法で組み合わされてもよく、本発明は、本開示において説明される特定の組み合わせに限定されない。特には、反対に特定されない限り、任意の1つの実施の形態又は実施例を参照して説明される任意の特徴は、任意の別の実施の形態又は実施例に類似の方法で適用されてもよい。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5