(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】安定な偽型化レンチウイルス粒子及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220524BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220524BHJP
C12N 15/49 20060101ALI20220524BHJP
C12N 15/48 20060101ALI20220524BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220524BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20220524BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220524BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220524BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220524BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220524BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220524BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220524BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20220524BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12N7/01 ZNA
C12N15/49
C12N15/48
C12N5/10
C12N15/867 Z
A61K35/76
A61K48/00
A61P31/00
A61P35/02
A61P37/02
A61K39/00 A
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2018555222
(86)(22)【出願日】2017-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2017059465
(87)【国際公開番号】W WO2017182607
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2019-11-28
(32)【優先日】2016-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ガリー,アンヌ
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/087748(WO,A1)
【文献】特表2010-535495(JP,A)
【文献】特表2008-507272(JP,A)
【文献】特表2007-510412(JP,A)
【文献】特表2004-508808(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0207226(US,A1)
【文献】The Journal of Immunology,2007年,Vol.179,p.1210-1224
【文献】Journal of Virology,2001年,Vol.75, No.7,p.3488-3489
【文献】Journal of Virology,2004年,Vol.78, No.2,p.1050-1054
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12N 7/01
C12N 15/49
C12N 5/078
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内在性レトロウイルスのシンシチン(ERVシンシチン)を用いて偽型化され、目的の異種遺伝子をパッケージングし、
調製物の凍結及び解凍
前又は後に
1×10
5
ng p24/mLより高い物理的
粒子、及び/又は
2×10
4
形質導入単位(TU)/mLより高い感染性
粒子の力価を有する、
濃縮された安定なレンチウイルス粒子
の調製物。
【請求項2】
請求項1記載の
濃縮された安定な偽型化レンチウイルス粒子
の調製物を得るための方法であって、以下の工程:
a)適当な細胞株において少なくとも1つのプラスミドをトランスフェクトすることであって、前記の少なくとも1つのプラスミドは目的の異種遺伝子、レトロウイルスのrev、gag、及びpol遺伝子、ならびにERVシンシチンをコードする核酸を含み;
b)a)において得られたトランスフェクト細胞をインキュベートし、ERVシンシチンを用いてそれぞれ偽型化された安定なレンチウイルス粒子を産生すること、及び目的の異種遺伝子をパッケージングすること;及び
c)b)において得られた安定なレンチウイルス粒子を収集し、濃縮
し、1×10
5
ng p24/mLより高い物理的粒子、及び/又は2×10
4
TU/mLより高い感染性粒子の力価を有する、濃縮された安定なレンチウイルス粒子の調製物を得ることを含む、
方法。
【請求項3】
レトロウイルスのrev、gag、及びpol遺伝子が、レンチウイルスのrev、gag、及びpol遺伝子、 好ましくはHIV-1のrev、gag、及びpol遺伝子である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ERVシンシチンが、HERV-W、HERV-FRD、マウスシンシチンA、マウスシンシチンB、シンシチン-Ory1、シンシチン-Car1及びシンシチン-Rum1からなる群より選択され、好ましくはERVシンシチンは、HERV-W、HERV-FRD及びマウスシンシチンAからなる群より選択され、さらに好ましくはERVシンシチンは、HERV-W又はHERV-FRDである、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
工程c)の終了時に産生された感染性粒子の力価が、
1×10
5
TU/mLより高く、好ましくは1×10
6
TU/mLより高く、好ましくは2×10
6
TU/mLより高く、及び/又は工程c)の終了時に産生された物理的粒子の力価が
、1.1×10
5ng p24/mLより高く、より好ましくは1.5×10
5ng p24/mLより高い、請求項2~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
ERVシンシチンが、HERV-W、HERV-FRD、マウスシンシチンA、マウスシンシチンB、シンシチンOry1、シンシチンCar1及びシンシチンRum1からなる群より選択され、好ましくは、ERVシンシチンが、HERV-W、HERV-FRD及びマウスシンシチンAからなる群より選択され、さらにより好ましくは、ERVシンシチンは、HERV-W又はHERV-FRDである、請求項
1記載の粒子
の調製物。
【請求項7】
感染
性粒子の力価が、
1×10
5
TU/mLより高く、好ましくは1×10
6
TU/mLより高く、好ましくは2×10
6
TU/mLより高く、及び/又
は物理
的粒子の力価が
、1.1×10
5ng p24/mLより高い、より好ましくは1.5×10
5ng p24/mLより高
い、請求項1
又は6記載の粒子
の調製物。
【請求項8】
医薬としての使用のための、好ましくは遺伝子療法もしくは免疫療法における、又はワクチンとしての、又は免疫予防における使用のための、請求項1、
6又は
7のいずれか一項記載の粒子
の調製物。
【請求項9】
免疫細胞、好ましくはB細胞又は骨髄細胞の形質導入のための、請求項1、
6又は
7のいずれか一項記載の粒子
の調製物のインビトロでの使用。
【請求項10】
バイオテクノロジー工学のための、好ましくは免疫グロブリンを産生するための、請求項1、
6、
7又は
9のいずれか一項記載の粒子
の調製物のインビトロでの使用。
【請求項11】
免疫細胞を形質導入することによる治療のための使用のための、好ましくは免疫不全、自己免疫、感染性疾患、又はB細胞関連癌を処置するための使用のための、請求項1、
6又は
7のいずれか一項記載の粒子
の調製物。
【請求項12】
医薬としての使用のための、又は診断目的のための、請求項1、
6又は
7のいずれか一項記載の粒子
の調製物を用いて感染させた免疫細胞のサンプル。
【請求項13】
請求項1、
6又は
7のいずれか一項記載の粒子
の調製物を用いて、免疫細胞、好ましくは、場合により以前に刺激された、ナイーブ免疫細胞を感染させる工程を含む、改変され目的の異種遺伝子を発現する免疫細胞を得るためのエクスビボの方法。
【請求項14】
LAH4ペプチド又はその機能的誘導体、好ましくはLAH4-A4ベクトフシン1の存在において実施する、及び/又は免疫細胞が、B細胞、T細胞、樹状細胞、単球、及びマクロファージより選ばれる、好ましくはB細胞である、請求項
13記載のエクスビボでの方法。
【請求項15】
請求項
13又は
14のいずれか一項記載のエクスビボの方法であって、以下の工程:
-場合により、IL-7を含む培地中でナイーブ免疫細胞をインキュベートすることによりそれらを刺激すること、及び
-LAH4ペプチド又はその機能的誘導体の存在において、請求項1、
6又は
7のいずれか一項記載の前記粒子を用いて刺激されたか又はされていない、ナイーブ免疫細胞を感染させること
を含む、方法。
【請求項16】
請求項
13~
15のいずれか一項記載のエクスビボの方法により入手可能な、目的の前記異種遺伝子を含む免疫細胞、好ましくはB細胞、より好ましくはナイーブB細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、安定な偽型化レンチウイルス粒子及び特に治療におけるその使用に関する。本発明はまた、そのような安定な偽型化レンチウイルス粒子を調製するための方法を指す。本発明はまた、ベクトフシンの存在において、そのような偽型化レンチウイルス粒子を使用し、好ましくは最小限又は無の予備活性化を用いてヒト末梢血ナイーブB細胞及び単球細胞に形質導入するインビトロの方法に関する。
【0002】
発明の背景
遺伝子治療アプローチは、しばしば、組換えウイルスベクターによる標的細胞の低い形質導入効率により妨げられる。レトロウイルスベクター、特にヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)ベースのレンチウイルスベクター(LV)は、遺伝子治療のための有望な媒体である。これらのベクターは、種々の疾患、例えば免疫不全、神経変性疾患もしくは神経学的疾患、貧血、又はHIV感染などを処置するために臨床応用において現在使用されている。
【0003】
レトロウイルスベクターの応用の一部は、エクスビボでの特定の標的細胞、例えばCD34マーカーを発現するリンパ球又は造血幹/前駆細胞などの形質導入に依存する。LVを使用してTリンパ球を形質導入し、癌、例えば難治性慢性リンパ球性白血病(CLL)などの処置のための長期生存CAR-T細胞を生成する(Porter et al, Science Transl. Med. 7: 303ra139 2015)。LVを使用し、遺伝的起源の種々の免疫疾患、血液疾患、代謝疾患、又は神経変性疾患の自己遺伝子治療のためにCD34+細胞を形質導入する(Wagemaker G. Hum Gene Ther. 2014 Oct;25(10):862-5. doi: 10.1089/hum.2014)。レンチウイルスベクターは、種々のウイルスエンベロープ糖タンパク質を用いて偽型化し、それにより特異的な細胞指向性特性を粒子に付与することができる汎用ツールである(Buchholz et al. Trends Biotechnol. 2015 Dec; 33(12):777-90. doi: 10.1016/j.tibtech.2015.09.008.)。
【0004】
組換えレンチウイルス粒子の使用に伴う制限因子は、組換えレンチウイルス粒子の産生の間に高度な感染力価を得る能力である。この制限を回避する1つの方法は、精製工程の間にウイルス上清を濃縮することである。しかし、精製プロトコールは、ウイルス粒子を偽型化するために使用されるエンベロープ糖タンパク質に依存し、一部のLVについて確立することは困難である。従って、多くのレンチウイルスベクター調製物は低力価を有し、形質導入の有効性は制限される。
【0005】
別の制限因子は、初代細胞を形質導入することが困難であり、そのため、それらはしばしば形質導入するために活性化されなければならず、それによりそのナイーブ状態が失われることである。
【0006】
最後に、別の制限因子は、レンチウイルスベクター自体が標的細胞に感染する能力である。いくつかのエンベロープ糖タンパク質(例えばVSV-G又はRD114TRなど)を使用してレンチウイルスベクターを偽型化し、標的細胞(例えばCD34+細胞及び初代血液細胞など)上で可変性の感染性を有することができる。
シンシチンは、融合特性を有する内在性レトロイルスウイルス(ERVシンシチン)エンベロープ糖タンパク質である(Dupressoir et al., 2005; Lavialle et al., 2013)。
ERVW-1遺伝子(ENSG00000242950;シンシチン 1又はHERV-Wとしても公知である)によりコードされるヒト内在性レトロイルスエンベロープ糖タンパク質は、特許出願EP2385058においてその融合特性について記載されている。前記出願には、合胞体の形成による、癌処置におけるその使用が記載されている。
一部の試験では、293T細胞を形質転換することが可能な感染性ウイルスを得るために、HERV-Wエンベロープを用いてHIV-1ビリオン(MLV粒子ではない)を偽型化する可能性が示されている。しかし、そのようなHERV-W粒子は、濃縮、凍結、及び解凍によって力価がかなり低下したため、安定ではなかった(An et al, Journal of Virology, Apr 2001, p.3488-3489)。R細胞質内領域の欠失が、HIV-1由来の遺伝子導入ベクターの融合及び偽型力価を増加させるために使用された(Lavillette et al 2002)。ERVFRD-1遺伝子(ENSG00000244476;シンシチン2又はHERV-FRDとしても公知である)によりコードされる糖タンパク質が、SIVベクターを偽型化するために使用され、報告によれば、HIV又はMLV偽型として作用するが、非常に低い力価であり、機能試験を妨げ、HERV-FRD HIV偽型に関する情報はほとんど入手できない(Blaise et al, Journal of Virology, Jan 2004, p.1050-1054)。
【0007】
このように、例えば、特定の標的細胞への遺伝子の送達を改善するために、ウイルス又はウイルスベクター、特に安定なウイルス又はウイルスベクターの形質導入効率を改善するための手段が必要とされている。具体的には、安定であり、したがって工業的規模で得ることができるウイルス又はウイルスベクターについての必要性がある。新たな生物学的特性を提示するツールとして、インビトロ又はインビボで使用することができる安定なベクターについての必要性もある。
【0008】
インビトロ又はインビボで特定の細胞のみを標的とするために、ウイルス又はウイルスベクターを用いて選択的に細胞に形質導入するプロセスについての必要性もある。そのようなウイルス又はウイルスベクターは、完全に寛容化され、標的細胞について特異的であり、複数回投与のために適当でなければならないであろう。
【0009】
驚くべきことに、本発明者らは、安定であり、凍結させてもよい、特定のエンベロープ糖タンパク質を用いて偽型化されたレンチウイルス粒子を得るためのプロセスを精巧に作り上げた。前記レンチウイルス偽型化粒子によって、選択された標的細胞、特に免疫細胞の形質導入も改善される。これによって前記粒子の治療範囲が広がる。前記偽型化レンチウイルス粒子は、実際に免疫細胞、特にB細胞、T細胞、及び樹状細胞に形質導入するのに効率的であり、細胞欠損の機能的補正が可能になる。さらに、これらのレンチウイルス偽型化ベクターはインビボで投与することができ、CD19+脾臓B細胞形質導入の証拠を伴う脾臓及び骨髄において、検出可能で、安定で、耐容性良好な遺伝子導入に導く。
【0010】
このように、前記偽型化レンチウイルス粒子の使用は、胎盤機能不全、癌、感染性疾患、免疫不全、自己免疫に苦しむ患者のための、又は遺伝子治療のための、又はワクチンとして、もしくはバイオテクノロジー工学ツールとして有望な戦略である。
【0011】
発明の概要
本発明は、目的の異種遺伝子を含む安定な偽型化レンチウイルス粒子を得るための方法に関し、以下の工程を含む:
a)適当な細胞株において少なくとも1つのプラスミドをトランスフェクトすることであって、前記の少なくとも1つのプラスミドは目的の異種遺伝子、レトロウイルスのrev、gag、及びpol遺伝子、ならびにERVシンシチンをコードする核酸を含む;
b)ERVシンシチンを用いてそれぞれ偽型化された安定なレンチウイルス粒子を産生するようにa)において得られたトランスフェクト細胞をインキュベートすること、及び目的の異種遺伝子をパッケージングすること;及び
c)b)において得られた安定なレンチウイルス粒子を収集し、濃縮すること。
本発明に従った方法によって、目的の異種遺伝子を含む安定な偽型化レンチウイルス粒子の高い物理力価ならびに高い感染力価を得ることが可能になる。
【0012】
また、ERVシンシチンを用いて偽型化し、目的の異種遺伝子をパッケージングする安定なレンチウイルス粒子を提供する。それらは、上記の段落に記載する方法により入手可能でありうる、又は得てもよい。前記の安定な偽型化レンチウイルス粒子は薬物として有用でありうる。特に、前記の安定な偽型化レンチウイルス粒子は、遺伝子治療において又は免疫療法において、特にワクチンとして又は免疫予防において有用でありうる。
【0013】
本発明はまた、シンシチン1(HERV-W)及びシンシチン2(HERV-FRD)のそれぞれについての同族受容体、例えばASCT2、ASCT1、又はMFSD2aなどを発現する細胞、例えばヒト絨毛癌細胞、ヒト上皮細胞、及びヒト免疫細胞、例えばB細胞、T細胞、又はCD11c+細胞など、例えば骨髄細胞など(例、顆粒球、単球、及びそれらの前駆細胞)に形質導入することによる治療のために使用するための、目的の異種遺伝子を含む、ERVシンシチンを用いて偽型化されたレンチウイルス粒子、好ましくは目的の異種遺伝子を含む、ERVシンシチンを用いて偽型化された安定なレンチウイルス粒子に関する。本発明はまた、マウスB細胞及びT細胞に効率的に形質導入するためにERVシンシチンを用いて偽型化されたレンチウイルス粒子を使用する能力に関する。
【0014】
本発明はまた、自己免疫、感染性疾患、胎盤機能障害(例えば子癇前症など)、血液脳関門を含む疾患、もしくはB細胞関連癌を含む癌の治療のために、又はマウスにおいてこれらの疾患のモデルを作製するために使用される、目的の遺伝子を含む、ERVシンシチンを用いて偽型化されたレンチウイルス粒子、好ましくは目的の異種遺伝子を含む、ERVシンシチンを用いて偽型化された安定なレンチウイルス粒子に関する。
【0015】
目的の異種遺伝子を含む、ERVシンシチンを用いて偽型化された安定なレンチウイルス粒子は、免疫細胞、好ましくはB細胞又はCD11c+細胞、例えば骨髄細胞(例、顆粒球、単球、及びそれらの前駆細胞)などのインビトロ形質導入にも有用でありうる。免疫細胞、好ましくはB細胞の形質導入は、バイオテクノロジー工学において、例えば免疫グロブリンの産生、又は免疫細胞、好ましくはB細胞工学において用途を見出しうる。
【0016】
本発明はまた、好ましくはLAH4ペプチド又はその機能的誘導体の存在において、目的の異種遺伝子を含む、ERVシンシチンを用いて偽型化されたレンチウイルス粒子、好ましくは目的の異種遺伝子を含む、ERVシンシチンを用いて偽型化された安定なレンチウイルス粒子を用いて免疫細胞に感染させる工程を含む、目的の異種遺伝子を発現するように改変された免疫細胞を得るためのエクスビボのプロセスに関する。
【0017】
本発明はまた、バイオテクノロジー工学のための、目的の異種遺伝子を含む、ERVシンシチンを用いて偽型化された安定なレンチウイルス粒子、好ましくは目的の異種遺伝子を含む、ERVシンシチンを用いて偽型化された安定なレンチウイルス粒子の使用に関する。特に、それらは、特定の産物、例えば免疫グロブリンなどを産生するために、細胞株、好ましくはB細胞株を作製するために使用されうる。本発明の安定な粒子はまた、特にマウスにおいて試験のモデルを作製するために(マウスモデルを得るために)使用されうる。これは、疾患機序、特にB細胞疾患又はB細胞媒介疾患の探索、ワクチン接種の目的のための産物を発現する樹状細胞及び/又は骨髄細胞の作製、あるいは特定の治療効果を伴う産物の産生のために有用でありうる。
【0018】
本発明に従い、ERVシンシチンを、HERV-W、HERV-FRD、マウスシンシチンA、マウスシンシチンB、シンシチンOry1、シンシチンCar1、及びシンシチンRum1ならびにそれらの機能的オルソログからなる群より選択し、好ましくは、ERVシンシチンを、HERV-W、HERV-FRD、及びマウスシンシチンAからなる群より選択し、さらにより好ましくは、ERVシンシチンはHERV-W又はHERV-FRDである。
【0019】
発明の詳細な説明
本発明者らは驚くべきことに、高い融合特性を有するERVシンシチン、例えばヒトシンシチン1(HERV-W)、ヒトシンシチン2(HERV-FRD)、及びマウスシンシチンAなどを、組換えHIV-1由来レンチウイルスについての偽型を得るために使用してもよいことを発見した。実施例において明らかに実証するように、結果は、細胞株に対して選択的指向性を有する、目的の遺伝子を含む安定で感染性のレンチウイルス粒子を産生することが可能であることを示す。驚くべきことに、シンシチン偽型化レンチウイルス粒子によって、注目すべきことに、ベクトフシン1(カチオン性形質導入添加剤)の存在においてヒト初代Bリンパ球ならびにCD11c+骨髄細胞及び/又は樹状細胞を効率的に形質導入することができる。
【0020】
このように、本発明者らは、安定で感染性であり、凍結させてもよい、ERVシンシチンを用いて偽型化されたレンチウイルス粒子を得るための方法を精巧に作り上げた。レンチウイルスの偽型化粒子によって、選択された標的細胞、特に免疫細胞、特にB細胞、T細胞、及び樹状細胞の形質導入が改善される。
【0021】
本発明の詳細な実施形態を以下に記載する。
【0022】
本発明は、目的の異種遺伝子を含む安定な偽型化レンチウイルス粒子を得るための方法に関し、以下の工程を含む:
a)適当な細胞株において少なくとも1つのプラスミドをトランスフェクトすることであって、前記の少なくとも1つのプラスミドは目的の異種遺伝子、レトロウイルスのrev、gag、及びpol遺伝子、ならびにERVシンシチンをコードする核酸を含む;
b)ERVシンシチンを用いてそれぞれ偽型化されたレンチウイルス粒子を産生するようにa)において得られたトランスフェクト細胞をインキュベートすること、及び目的の異種遺伝子をパッケージングすること;及び
c)b)において得られた安定なレンチウイルス粒子を収集し、濃縮すること。
【0023】
好ましくは、本発明に従った方法の工程c)は、工程b)において産生される安定なレンチウイルス粒子を上清から収集、濃縮、及び/又は精製する工程を含む。このように、好ましくは、工程c)の濃縮は、b)において得られた、収集された安定なレンチウイルス粒子を遠心分離及び/又は精製することを含む。前記の収集は、当技術分野において周知の方法に従って実施してもよい。好ましくは、レンチウイルスベクターは、トランスフェクト細胞の融合前に、より好ましくはトランスフェクション後20時間~72時間の間、好ましくは24時間後に収集する。好ましくは、収集工程は、好ましくはトランスフェクション後20~72時間の間、好ましくはトランスフェクション後20~30時間の間、より好ましくは24時間後に実施される、単一のレンチウイルス収集からなる。
【0024】
本発明に従ったERVシンシチンは、内在性レトロウイルス(ERV)の科に属する真獣類哺乳動物からの高度に融合性のエンベロープ糖タンパク質を指す。これらのタンパク質は、胎盤における優先的な発現を呈し、培養細胞中に導入された場合にシンシチン形成を誘導する遺伝子によりコードされる(Lavialle et al., 2013)。
【0025】
本発明に従ったERVシンシチンは、ヒトシンシチン(例、HERV-W及びHERV-FRD)、マウスシンシチン(例、シンシチンA及びシンシチンB)、シンシチンOry1、シンシチンCar1、シンシチンRum1、又はそれらの機能的オルソログより選択することができる(Dupressoir et al., 2005; Lavialle et al., 2013)。
【0026】
機能的オルソログは、オルソログ遺伝子によりコードされ、融合性を示すオルソログタンパク質を意図する。融合特性はDupressoirら(PNAS 2005)において記載されている融合アッセイで評価してもよい。簡単に説明すると、細胞を、例えば、リポフェクタミン(Invitrogen)及び5×105個細胞について約1~2μgのDNA又はリン酸カルシウム沈殿(Invitrogen、5×105個細胞について5~20μgのDNA)を使用することによりトランスフェクションする。プレートは、一般的に、トランスフェクション後の24~48時間に細胞融合について検証する。合胞体は、May-Grunwald染色及びGiemsa染色(Sigma)を使用して視覚化することができ、融合指数は[(N-S)/ T]×100として算出することができ、式中、Nは合胞体中の核の数、Sは合胞体の数、Tは計数された核の総数である。
【0027】
ヒトシンシチンはHERV-W及びHERV-FRDを包含する。これらのタンパク質の機能的オルソログはヒト科において見出すことができる。HERV-Wは、ヒト内在性レトロウイルス(HERV)の科に属する高度に融合性の膜糖タンパク質を指す。HERV-Wはエンベロープ糖タンパク質である。シンシチン1とも呼ばれる。それは、Ensemblデータベース中に示す配列を有し、転写物ERVW-1-001、ENST00000493463に対応する。対応するcDNAは、配列番号1に示す配列を有する。HERV-FRDはまた、ヒト内在性レトロイルス(HERV)の科に属する高度に融合性の膜糖タンパク質を指す。HERV-FRDはエンベロープ糖タンパク質であり、シンシチン2とも呼ばれる。それは、Ensemblデータベース中に示す配列を有し、転写物ERVFRD-1、ENSG00000244476に対応する。対応するcDNAは、配列番号2に示す配列を有する。
【0028】
マウスシンシチンはマウスシンシチンA(即ち、ハツカネズミシンシチンA、synA)及びマウスシンシチンB(即ち、ハツカネズミシンシチンB、synB)を包含する。これらのタンパク質の機能的オルソログはネズミ科において見出すことができる。マウスシンシチンAはシンシチンA遺伝子によりコードされる。シンシチンAは、EnsemblデータベースSyna ENSMUSG00000085957中に示す配列を有する。対応するcDNAは、配列番号40に示す配列を有する。マウスシンシチンBはシンシチンB遺伝子によりコードされる。シンシチンBは、EnsemblデータベースSynb ENSMUSG00000047977中に示す配列を有する。対応するcDNAは、配列番号41に示す配列を有する。
【0029】
シンシチンOry1はシンシチンOry1遺伝子によりコードされる。シンシチンOry1の機能的オルソログはウサギ科(典型的にはウサギ及びノウサギ)において見出すことができる。
【0030】
シンシチンCar1はシンシチンCar1遺伝子によりコードされる。シンシチンCar1の機能的オルソログはローラシア獣上目からの肉食哺乳動物において見出すことができる(Cornelis et al., 2012; Lavialle et al., 2013)。
【0031】
シンシチンRum1はシンシチンRum1遺伝子によりコードされる。シンシチンRum-1の機能的オルソログは反芻哺乳動物において見出すことができる。
【0032】
本発明の種々の実施形態において、本発明に従ったERVシンシチンを、典型的には、HERV-W、HERV-FRD、シンシチンA、シンシチンB、シンシチンOry1、シンシチンCar1、及びシンシチン Rum1ならびにそれらの機能的オルソログからなる群より選択することができ;好ましくは、ERVシンシチンを、HERV-W、HERV-FRD、マウスシンシチンA、及びそれらの機能的オルソログからなる群より選択し、より好ましくは、ERVシンシチンを、HERV-W、HERV-FRD、及びマウスシンシチンAからなる群より選択し、さらにより好ましくは、ERVシンシチンはHERV-W又はHERV-FRDである。
【0033】
本発明に従った方法によって、目的の異種遺伝子を含む安定な偽型化レンチウイルス粒子の高い物理力価ならびに高い感染力価を得ることが可能になる。実際に、目的の異種遺伝子を含む安定な偽型化レンチウイルス粒子は、本発明の方法のおかげで高い物理力価で得られ、特にB細胞又は骨髄細胞を形質導入するために感染性であり、したがって効率的である。
【0034】
「物理力価」は産生されるレンチウイルス粒子の数を意味する。物理力価は、当技術分野において公知の古典的な方法に従って測定してもよく、それらは、例えば、実施例に例証するp24 ELISAにより、自動カウンター、例えばMalvernからのNanosight NS300装置(製造者の説明書を使用)などを用いた直接粒子計数により、RT(逆転写酵素)ELISA(Cire et al, Plosone, July 2014, Vol.9, Issue 7, Immunization of mice with lentiviral vectors targeted to MHC class II+ cells is due to preferential transduction of dendritic cells in vivoに記載される通り)により、又はウイルスRNA RT-qPCRによりレンチウイルス粒子を定量するために一般に使用される。
「高い物理力価」は、200ng p24/mLより高い、好ましくは210ng p24/mLより高い、さらにより好ましくは300ng p24/mLより高い、工程b)の終了時に産生される粒子の力価を意味する。より好ましくは、工程b)の終了時に産生される、ERVシンシチンを用いて偽型化された粒子(例えばHERV-Wなど)の物理力価は、300ng p24/mLより高く、好ましくは400ng p24/mLより高い。より好ましくは、工程b)の終了時に産生される、ERVシンシチンを用いて偽型化された粒子(例えばHERV-FRDなど)の物理力価は、210ng p24/mLより高く、好ましくは300ng p24/mLより高い。
「高い物理力価」はまた、1×105ng p24/mLより高い、好ましくは1.1×105ng p24/mLより高い、より好ましくは1.5×105ng p24/mLより高い、工程c)の終了時に産生される(即ち、濃縮される) 粒子の力価を意味する。より好ましくは、工程c)の終了時に産生される、ERVシンシチンを用いて偽型化された粒子(例えばHERV-Wなど)の物理力価は、2.2×105ng p24/mLより高い、好ましくは3.0×105ng p24/mLより高い、さらにより好ましくは4、0×105ng p24/mLより高い。より好ましくは、工程c)の終了時に産生される、ERVシンシチンを用いて偽型化される粒子(例えばHERV-FRDなど)の物理力価は、1.1×105ng p24/mLより高い、好ましくは1.5×105ng p24/mLより高い。
【0035】
Farsonら(Hum. Gene Ther. 2001)に従い、p24の1フェムトグラム(fg)はレンチウイルスの12の物理的粒子(pp)に相当すると推定することができる。理論に拘泥することを望まないが、本発明者らは、p24に基づいて得られたこの算出された数の物理的粒子は、自動カウンター(例えばNanosight NS300装置)を用いた直接的な粒子計数により得られた値と比較してわずかに過大評価される。なぜなら、p24単独でも考慮されるからである。一般的に、p24 ELISAを用いて算出した粒子が、自動カウンターを用いて測定した粒子よりも平均で約4倍多いと推定することができる(下記の実施例3における補足表S6を参照のこと)。このように、1×105ng p24/mLより高い物理力価は、Nanosight計数により測定される通り、算出される物理粒子1.2×1012(pp)/mLより高い、又は約3×1011pp/mLより高い物理力価に相当する。
【0036】
「感染力価」は機能的レンチウイルス粒子の数を意味する。感染力価は、当技術分野において公知の古典的方法に従って、例えば、形質導入単位力価(TU/ml)を算出するためのフローサイトメトリーにより、又は感染性ゲノム(ig/mL)を測定するためのqPCR(実施例において例証する)により測定してもよい。そのような方法を記載した刊行物はKutner RH, Zhang XY, Reiser J (2009). Production, concentration and titration of pseudotyped HIV-1-based lentiviral vectors. Nature protocols 4: 495-505である。本発明のレンチウイルス粒子の感染力価は、許容細胞株、好ましくは293T細胞、又は別の許容細胞(例えばA20細胞など)の感染時に、より好ましくは、本明細書に記載する滴定方法を本願の実験例のセクションに使用して測定する。
「高感染力価」は、2E+04TU/mlより高い、好ましくは1E+05TU/mlより高い、より好ましくは1E+06TU/mlより高い、さらにより好ましくは2+06TU/mlより高い、工程c)の終了時に産生される感染性粒子の力価を意味する。より好ましくは、工程c)の終了時に産生される、HERV-Wを用いて偽型化された粒子の感染力価は、1,2E+05TU/mlより高く、好ましくは2E+05TU/mlより高く、より好ましくは 1E+06TU/mlより高く、さらにより好ましくは1.5E+06TU/mlより高い。より好ましくは、工程c)の終了時に産生される、HERV-FRDを用いて偽型化された粒子の感染力価は、2E+04TU/mlより高く、好ましくは2E+05TU/mlより高く、より好ましくは1E+06TU/mlより高く、さらにより好ましくは2.5E+06TU/mlより高い。好ましくは、そのような高感染力価は、293T細胞感染及び本明細書中の実施例に記載する滴定方法を使用して測定する。
【0037】
本発明はまた、HERV-W又はHERV-FRDを用いて偽型化し、目的の異種遺伝子をパッケージングする安定なレンチウイルス粒子に関する。これは、上記の方法により入手可能でありうる、又は得てもよい。
【0038】
「安定」は、ERVシンシチン(例えば以前に定義したERVシンシチンなど)を用いて偽型化され、HERV-W、HERV-FRD、より優先的には、マウスシンシチンAを用いて偽型化され、そして本発明の目的の異種遺伝子をパッケージングし、293T細胞又は別の許容細胞株、例えばA20細胞を感染させた、安定なレンチウイルス粒子の感染力価を、2つの連続する時点の間で最大10により分割したことを意味する。2つの連続する時点は、数週間(例えば1~3週間など)の期間を表しうる。2つの連続する時点はまた、数ヶ月、例えば1、2、もしくは3ヶ月、又は6、9、10ヶ月、又はさらに12もしくは18ヶ月などの期間を表しうる。本発明に従ったレンチウイルス偽型化粒子は凍結してもよく、それらはその安定性特性を保持する。それらは実際に、非常に低温の処理、例えば凍結又は凍結保存などに耐性である。それらはまた、中温処理に耐性でありうる:それらが上記の安定性特性を提示するや否や、それらは本発明に相当する。
そのようなレンチウイルス偽型化粒子は、このように、それらの融合特性及び感染特性、ならびに特にインビボで目的の遺伝子を送達するその能力を維持しながら、遠心分離及び/又は凍結することができる。ここでも、本発明に従った目的の異種遺伝子をパッケージングする安定な偽型化レンチウイルス粒子は、高い物理力価ならびに高い感染力価を提示する。
【0039】
「異種」遺伝子は、レトロウイルスのrev、gag、及びpol遺伝子の1つと異なる生物から由来する遺伝子を意味する。
「目的の遺伝子」は遺伝子の機能的なバージョンを意味する。機能的バージョンとは、前記遺伝子の野生型バージョン、同じ科に属する変異型遺伝子、又はコードされたタンパク質の機能性を保存する切断型バージョンを意味する。
目的の遺伝子は、患者において欠損している又は非機能的である遺伝子、あるいは免疫原性タンパク質(例えばウイルスタンパク質、細菌タンパク質、又は腫瘍抗原など)をコードする遺伝子から由来しうる。目的の異種遺伝子はまた、レポーター遺伝子(診断目的のため、及び標的タンパク質のリガンドを同定するために有用)、自殺遺伝子、又は治療用RNAをコードする(即ち、標的DNA又はRNA配列に相補的なアンチセンスRNA、又はgRNA、RNAi、例えばshRNAなどをコードする)遺伝子でありうる。目的の遺伝子は、コードされたタンパク質、ペプチド、又はRNAを産生することができる。
「偽型」は、以下を含むレンチウイルス粒子を意味する:
-ウイルスから由来するエンベロープ糖タンパク質であって、前記ウイルスは前記レンチウイルス粒子が由来するウイルスとは異なる;
-修飾されたエンベロープ糖タンパク質。そのような場合において、天然ウイルスエンベロープ糖タンパク質は、変異により又は任意の他のアミノ酸修飾により修飾されうる;又は
-キメラ糖タンパク質。そのような糖タンパク質は、ウイルス糖タンパク質の少なくとも一部と別の配列の間での融合タンパク質である。
【0040】
工程a)において、適当な細胞株を、少なくとも1つのプラスミドを用いてトランスフェクトする。好ましくは、トランスフェクションは一過性トランスフェクションである。
【0041】
好ましくは、適当な細胞株を、少なくとも1、2、3、又は4つのプラスミドを用いてトランスフェクトする。これらの細胞型には、レンチウイルスのライフサイクルを支持する任意の真核細胞が含まれる。
【0042】
好ましくは、適当な細胞株は、シンシチンの融合効果の破局的な結果に抵抗性の安定した細胞株又は細胞株であり、粒子を産生する間に増殖を継続するようにする。前記の適当な細胞株は哺乳動物細胞株、好ましくはヒト細胞株である。そのような細胞の代表的な例には、ヒト胎児腎(HEK)293細胞及びその誘導体、HEK293T細胞、ならびに接着細胞として増殖するその能力について選択された、又は無血清条件下で浮遊状態において増殖するように適合された細胞のサブセットが含まれる。そのような細胞は高度にトランスフェクション可能である。
一実施形態において、適当な細胞株は、目的の異種遺伝子、レトロウイルスのrev、gag、及びpol遺伝子、ならびに好ましくは誘導型でERVシンシチン(例えばHERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAなど)をコードする核酸である5つの配列の少なくとも1つ、最大4つを既に発現している。そのような場合において、工程a)は、前記細胞株においてまだ発現されていない少なくとも1つの配列を含む少なくとも1つのプラスミドを用いて前記細胞株をトランスフェクトする工程を含む。プラスミド混合物、又は単一プラスミド(1つだけのプラスミドが使用される場合)は、工程a)において前記細胞株中にトランスフェクトされた場合、前記細胞株が上記の5つの全ての配列を発現するように選ぶ。
例えば、適当な細胞株がレトロウイルスのrev、gag、及びpol遺伝子を発現する場合、トランスフェクトされるプラスミド又はプラスミドの混合物は、発現される残りの配列、即ち、目的の異種遺伝子及びERVシンシチン(例えばHERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAなど)をコードする核酸を含む。
【0043】
1つの単一プラスミドを使用する場合、それは目的の5つの全ての配列、即ち:
-目的の異種遺伝子、
-rev、gag、及びpol遺伝子、ならびに
-以前に記載したERVシンシチンをコードする、特にHERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAをコードする核酸を含む。
【0044】
2又は3のプラスミドを使用する場合(プラスミド混合物)、それらの各々が、前の段落に記載する目的の配列の一部を含み、プラスミド混合物が、上で引用する全ての目的の配列を含むようにする。
【0045】
好ましくは、4つのプラスミドを使用し、四重トランスフェクションは以下を含む:
-第1のプラスミドは目的の遺伝子を含み、
-第2のプラスミドはrev遺伝子を含み、
-第3のプラスミドはgag及びpol遺伝子を含み、ならびに
-第4のプラスミドは、以前に記載したERVシンシチンをコードする、特にHERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAをコードする核酸を含む。
前記四重トランスフェクションは、好ましくは、4つのプラスミド間の特定の比率で実施する。異なるプラスミド間のモル比は、産生のスケールアップを最適化するために適合させることができる。当業者であれば、目的のレンチウイルスを産生するために使用する特定のプラスミドにこのパラメータを適応することができる。特に、第1、第2、第3、第4のプラスミドの重量比は、好ましくは、(0.8-1.2):(0.1-0.4);(0.5-0.8):(0.8-1.2)、より好ましくは約1:0.25;0.65:1である。
【0046】
rev、gag、及びpol遺伝子はレトロウイルス性であり、好ましくはレンチウイルス性である。好ましくは、それらはHIV遺伝子、好ましくはHIV-1遺伝子であるが、EIAV(馬伝染性貧血ウイルス)、SIV(サル免疫不全ウイルス)、Foamyウイルス、又はMLV(マウス白血病ウイルス)ウイルス遺伝子でもよい。
ERVシンシチン(例えば以前に定義したERVシンシチンなど)をコードし、より好ましくはHERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAをより優先的にコードする核酸は、DNA又はcDNA配列である。好ましくは、それは、配列番号1、2、又は40にそれぞれ列挙するcDNA配列、あるいは、そのような配列番号1、2、又は40と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%の同一性をそれぞれ提示する配列に対応する。好ましくは、工程a)は、少なくとも配列番号3又は4に列挙するcDNA配列を含む、好ましくはそれからなる、少なくともプラスミドのトランスフェクションを含む。
用語「同一性」は、2つのポリペプチド分子間又は2つの核酸分子間の配列類似性を指す。両方の比較配列中の位置が同じ塩基又は同じアミノ酸残基により占められる場合、それぞれの分子はその位置で同一である。2つの配列間の同一性のパーセンテージは、2つの配列により共有されるマッチング位置の数を、比較位置の数で除し、100を掛けた数に対応する。一般的に、2つの配列を整列させて最大の同一性を与える場合に比較を行う。同一性は、例えば、GCG(Genetics Computer Group、GCG Package、Version 7(ウィスコンシン州マジソン)用のプログラムマニュアル)パイルアッププログラム、又は配列比較アルゴリズム(例えばBLAST、FASTA、又はCLUSTALWなど)のいずれかを使用したアラインメントにより算出してもよい。
【0047】
使用されうるエンベロープ糖タンパク質をコードするプラスミドは、当業者に公知であり、例えば市販のpCDNA3、バックボーン、又は類似の発現系を使用した、例えばCMVプロモーターを使用した任意の他のプラスミドカセット、例えばMertenら(Hum Gene Ther., 2011)に記載されるpKGプラスミドなどである。
【0048】
工程a)に従い、当技術分野において公知の種々の技術を、核酸分子を細胞中に導入するために用いてもよい。そのような技術には、化合物、例えばリン酸カルシウム、カチオン性脂質、カチオン性ポリマーを使用した化学促進トランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、例えばリポフェクタミン(Lipofectamine 2000又は3000)などのカチオン性リポソームなど、ポリエチレンイミン(PEI)、非化学的方法、例えばエレクトロポレーション、粒子衝撃、又はマイクロインジェクションなどが含まれる。
本発明の好ましい実施形態に従い、工程a)のトランスフェクションは、リン酸カルシウムを使用して行う。
【0049】
典型的には、工程a)は、リン酸カルシウムの存在において、4つのプラスミドを用いた293T細胞の一過性トランスフェクション(四重トランスフェクション)により実施してもよい。4つのプラスミドは、好ましくは以下である:HIV-1 gag及びpol遺伝子を発現するpKLプラスミド、HIV-1 rev遺伝子を発現するpKプラスミド、細胞プロモーター、例えばヒトホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーターなどの制御下で目的の異種遺伝子を発現するpCCLプラスミド 及びERVシンシチン(例えば以前に定義したERVシンシチウムなど)を発現し、CMVプロモーターからHERV-W(シンシチン1)、HERV-FRD(シンシチン2)、又はマウスシンシチンA糖タンパク質をより優先的に発現するpCDNA3プラスミド。
【0050】
次に、工程a)の後、本発明に従った方法は、a)において得られたトランスフェクト細胞をインキュベートする工程b)を含み、それらは、好ましくは上清中にERVシンシチン(例えば以前に定義したERVシンシチンなど)を用いて偽型化され、目的の異種遺伝子を含む、HERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いてより優先的に偽型化されたレンチウイルス粒子を産生するようにする。実際、一度、工程a)が実施されると、得られた細胞のインキュベーションが実施される。これは、ERVシンシチン(例えば以前に定義したERVシンシチンなど)を用いて偽型化され、HERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いてより優先的に偽型化され、目的の異種遺伝子を含む安定なレンチウイルス粒子の上清中での産生に導く。
トランスフェクション後、トランスフェクト細胞は、このように、トランスフェクション後20~72時間、特に24時間後に含まれる時間にわたり増殖させる。
特定の実施形態において、細胞を培養するために使用される培地は、糖(例えばグルコースなど)を含む古典的培地(例えばDMEMなど)である。好ましくは、培地は無血清培地である。培養は、懸濁液中の細胞の培養に適応させた多数の培養装置(例えばマルチスタックシステム又はバイオリアクターなど)で行ってもよい。バイオリアクターは、使い捨て(ディスポーザブル)又は再利用可能なバイオリアクターでありうる。バイオリアクターは、例えば、培養容器又はバッグ及びタンクリアクターより選択してもよい。非限定的な代表的なバイオリアクターには、ガラスバイオリアクター(例、B-DCU(登録商標)2L-10L、Sartorius)、ロッキング運動撹拌機、例えばウェーブバイオリアクター(例、Cultibag RM10L-25L、Sartorius)などを利用した使い捨てバイオリアクター、使い捨て撹拌タンクバイオリアクター(Cultibag STR(登録商標)50L、Sartorius)、又はステンレス鋼タンクバイオリアクターが含まれる。
【0051】
インキュベーション後、得られた安定なレンチウイルス粒子を収集し、濃縮する。これは工程c)である。好ましくは、b)において得られた安定なレンチウイルス粒子は、トランスフェクト細胞の融合前に、より好ましくはトランスフェクション後24時間で収集する。好ましくは、b)において得られた上清中に存在する安定なレンチウイルス粒子を遠心分離及び/又は精製する。前記濃縮工程c)は、当技術分野における任意の公知の方法、例えば遠心分離、限外濾過/ダイアフィルトレーション、及び/又はクロマトグラフィーなどにより実施してもよい。
【0052】
一実施形態に従い、上清は、40000~60000gの間で、1時間~3時間1℃~5℃の温度で遠心分離し、安定な偽型化ウイルス粒子の遠心分離を得るようにする。
好ましくは、遠心分離は、1時間30分~2時間30分間2℃~5℃、好ましくは約4℃の温度で45000~55000gの間のスピードで実施する。この工程の終了時に、粒子を遠心分離物の形態で濃縮し、これを使用してもよい。
【0053】
別の実施形態に従い、工程c)はクロマトグラフィー(例えば陰イオン交換クロマトグラフィー又はアフィニティークロマトグラフィーなど)である。陰イオン交換クロマトグラフィーを、限外ろ過の工程、特にタンジェンシャルフローフィルトレーションを含む限外ろ過/ダイアフィルトレーションの前又は後に行ってもよい。陰イオン交換クロマトグラフィーは、例えば、弱陰イオン交換クロマトグラフィー(DEAE(D)-ジエチルアミノエチル、PI-ポリエチレンイミンを含む)である。
【0054】
この方法によって、ERVシンシチン(例えば以前に定義したERVシンシチンなど)を用いて偽型化され、HERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いてより優先的に偽型化されたレンチウイルス粒子を得ることが可能になる。前記粒子は、上記の方法のおかげで、それらは、実施例に示すように、分解されることなく濃縮することができるため安定である。さらに、前記粒子は目的の異種遺伝子を含む。
【0055】
好ましくは、ERVシンシチウム(例えば以前に定義したERVシンシチウムなど)を用いて偽型化され、HERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いてより優先的に偽型過され、本発明に従った目的の遺伝子をパッケージングする安定なレンチウイルス粒子は、医薬的に許容可能な担体中に懸濁し、医薬組成物を得るようにする。
「医薬的に許容可能な担体」は、適宜、哺乳動物、特にヒトに投与した場合、有害な、アレルギー性の、又は他の都合の悪い反応を産生しない賦形剤を指す。医薬的に許容可能な担体又は賦形剤は、任意の型の非毒性固体、半固体もしくは液体充填剤、希釈剤、カプセル化材料、又は製剤補助剤を指す。
好ましくは、医薬組成物は賦形剤を含み、それは、注射することが可能な製剤用に医薬的に許容可能である。これらは、特に、等張性の無菌生理食塩水(リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、もしくは塩化マグネシウムなど、又はそれらの塩の混合物)又は乾燥した、特に凍結乾燥した組成物であってもよく、それによって、場合に依存し、滅菌水又は生理食塩水の添加時に注射溶液の構成が可能になる。
注射可能な使用のために適切な医薬形態には、滅菌水溶液又は懸濁液が含まれる。この溶液又は懸濁液は、エンベロープを有するウイルスに適合し、標的細胞中へのウイルスの侵入を妨げない添加剤を含みうる。全ての場合において、形態は無菌でなければならず、簡単な注射可能性が存在する程度まで流動性でなければならない。それは、製造及び保存の条件下で安定でなければならず、微生物(例えば細菌及び真菌など)の混入作用に対して保存されなければならない。適当な溶液の例は、緩衝液、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)などである。
【0056】
本発明の安定な偽型化レンチウイルス粒子は、目的の異種遺伝子をパッケージングするため、医薬品として使用してもよい。
実際に、本願において提供する結果は、本発明のシンシチン偽型化レンチウイルスベクターがヒトにおける免疫療法において使用することができ、ヒト疾患におけるB細胞を機能的に補正することができることを明らかに実証する。さらに、本発明のシンシチン偽型化ベクターは、インビボでB細胞を標的とすることができる。本明細書において示すデータは、遺伝子導入が長期間にわたり観察されるため、これらの新たなツールがインビボで非常に良好に許容されることを例証した。インビボでの適用のために、標的細胞(例えばB細胞など)の効率的な形質導入を、ベクトフシン1を必要とすることなく得ることができる。
このように、安定な偽型化レンチウイルス粒子は、遺伝子治療もしくは免疫療法において、又はワクチンとして、又は免疫予防において使用されうる。
遺伝子治療は、遺伝子導入、遺伝子編集、エキソンスキッピング、RNA干渉、トランススプライシング、又は核、ミトコンドリア、もしくは共存DNA(細胞中に含まれるウイルス配列)中に含まれるものを含む、細胞中の任意のコード配列又は調節配列の任意の他の遺伝子改変により実施することができる。
遺伝子治療の主な2つの型は以下である:
-欠損/異常遺伝子の置換を目的とした治療:これは置換遺伝子治療である;
-遺伝子編集を目的とした治療:そのような場合において、目的は、目的とする遺伝子が発現されるように必要なツールを細胞に提供することである:これは遺伝子編集治療である。
【0057】
置換遺伝子治療において、目的の遺伝子は、例えば遺伝病での場合のように、患者において欠損又は変異している遺伝子の補正バージョンでありうる。そのような場合において、目的の遺伝子によって、欠損又は変異した遺伝子の発現が回復されうる。免疫細胞において、好ましくはB細胞、T細胞、単球、又は樹状細胞において、より好ましくはB細胞において一度補正されると、患者の疾患又は症状を改善する疾患を示す患者における欠損又は変異遺伝子が特に興味深い。遺伝的に欠損したB細胞中での変異遺伝子の例は以下の通りである:
-X連鎖性重症複合免疫不全症(SCID-X1)(患者はT-NK-B +表現型を有する)において、又は遺伝子治療により既に処置されているが、B細胞補正が誘発されなかったSCID-X1患者についてガンマ鎖をコードする遺伝子;
-共通の可変免疫不全症(CVID)において変異しているTACI(膜貫通アクチベーター及びカルシウムモジュレーター及びシクロフィリンリガンド相互作用因子)をコードする遺伝子TNFRSF13B;
-共通の可変免疫不全症(CVID)において変異しうるCD19又はBAFFR遺伝子;
-特にCD40をコードする遺伝子の変異により起こされる高免疫グロブリンMに関与する遺伝子のいずれか;
-幹細胞ベースの遺伝子治療により既に処置され、B細胞補正が不完全であるWAS患者を含むWiskott-Aldrich症候群において変異したWAS遺伝子;
-ファンコニ貧血サブタイプのいずれか、例えばFancA又はFancCにおいて変異しているFanc遺伝子;
-高免疫グロブリンEに関与する遺伝子のいずれか。
このように、これらの遺伝子は目的の遺伝子として使用することができた。
【0058】
食細胞機能の遺伝性疾患、特に非機能性又は異常な単球又は樹状細胞の産生に導き、前記単球又は樹状細胞中の原因遺伝子を発現又は補正することにより処置することができる遺伝性疾患における変異遺伝子の例は以下である:ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS遺伝子)、肉芽腫性疾患(CGD、CYBB、又はP47遺伝子)、白血球接着欠損症(LAD)、IL12/23欠損症(IL12 P40、P70、IL23鎖)、HLAに非存在に起因する裸リンパ球症候群、自己炎症性障害、例えば家族性地中海熱(ピリン遺伝子)又はクリオピリン関連疾患(NALP3変異)など。
【0059】
置換遺伝子治療はまた、癌を処置するために使用することができうる。癌における目的の遺伝子は、腫瘍細胞の細胞周期又は代謝及び遊走を調節する、あるいは腫瘍細胞死を誘導することができうる。例えば、誘導性カスパーゼ9をB細胞白血病又はB細胞リンパ腫において発現させ、好ましくは持続的な抗腫瘍免疫応答を誘発するための併用治療において細胞死をトリガーすることができうる。
【0060】
ERVシンシチン(例えばシンシチン1又はシンシチン2など)の受容体を発現する細胞を含む疾患も、これらの細胞中への遺伝子導入により処置することができうる。例えば、胎盤細胞を処置することができうる妊娠病理を引用することができる:癌、例えば悪性細胞を処置することができうる白血病、リンパ腫、又は固形腫瘍細胞(ASCT2又はMFSD2aを発現することが公知である乳房又は肺腫瘍細胞を含む)など;血液脳関門の内皮細胞を処置することができうる神経学的状態;又はこれらの細胞が関与する任意の遺伝的もしくは後天的状態。
【0061】
遺伝子治療において、免疫細胞工学、好ましくはB細胞工学のための治療において、前記免疫細胞を形質導入することにより、本発明の安定な偽型化レンチウイルス粒子を使用することが可能でありうる。B細胞において免疫抑制タンパク質(例えばIL-10)を発現させることにより調節性B細胞を生成すること、又は免疫調節タンパク質(例えば抗体又は融合タンパク質など)の産生を誘導することが可能でありうる。
【0062】
遺伝子スプライシング、発現、もしくは調節又は遺伝子編集に有利な配列を挿入することも可能でありうる。ツール(例えばCRISPR/Cas9など)をこの目的のために使用してもよい。これは、自己免疫又は癌の場合においてB細胞中での遺伝子発現を改変するために、又はB細胞中でのウイルスの周期を撹乱させるために使用することができうる。そのような場合において、好ましくは、目的の異種遺伝子は、gRNA、ヌクレアーゼ、DNA鋳型、及びRNAi成分(例えばshRNAなど)より選択する。
遺伝子編集の特定の例は、ワルデンストレームマクログロブリン血症の処置であろう:そのような疾患において、(MYD88)の点変異(L265P)が患者の80~88%のB細胞中で観察されており、これらの腫瘍細胞の生存及び持続性に寄与する。このように、罹患患者においてこの遺伝子の補正バージョンを遺伝子編集することにより、これは、この疾患に対する効果的な治療に寄与しうる。
【0063】
本発明の安定な偽型化レンチウイルス粒子は、異なる受容体を通じて同じ細胞を標的とするために一緒に又は連続的に使用することができうる。これは、遺伝子編集プラットフォームの複数の成分を細胞に加える必要がある戦略(例えば遺伝子編集など)において利点となりうる。
【0064】
遺伝子編集治療において、本発明の安定な偽型化レンチウイルス粒子を用いて免疫細胞、好ましくはB細胞を形質導入することも可能でありうる。好ましくは次に、目的の異種遺伝子が免疫グロブリンをコードする場合、次に形質導入されたB細胞は対応する免疫グロブリンを産生することができる。例は、病原体、例えばウイルス(狂犬病、HIV、エボラ、インフルエンザ、CMV、Zika)又は寄生虫(T.クルーズ、P.ファルシパルム)などの特異的認識を付与する可変免疫グロブリン領域の公知の配列を操作することでありうるが、それは、予防的もしくは治療的使用のために又は診断のために使用することができうる。
形質導入された免疫細胞がマクロファージである場合、次に治療は、抗炎症治療、寛容誘導、又はワクチン接種でありうる。
形質導入された免疫細胞がB細胞である場合、次に治療は、自己免疫疾患を処置するためでありうる。
形質導入された免疫細胞が樹状細胞である場合、次に治療はワクチンとしてでありうる。
例えば、同種異系の臓器ドナーに特異的な主要又は副組織適合抗原を用いて形質導入されたレシピエントの未成熟樹状細胞を使用し、レシピエントにおいて同種異系の臓器移植寛容を誘導してもよい。
また、抗原提示細胞(例えばヒトB細胞、ヒト骨髄性樹状細胞、又は単球など)の遺伝子操作を介した免疫療法の適用は、感染性疾患に対して防御するためのワクチン接種の目的のための抗原提示のために;癌を処置するために;あるいは炎症性免疫成分を用いて疾患(例えば糖尿病又はアルツハイマー病など)を処置するため、又は臓器もしくは骨髄移植を促進するために、細胞特異的又は抗原特異的免疫寛容を誘導する目的のために、これらの細胞中に、免疫調節配列と関連する又はしない抗原性配列を含む組換え遺伝子発現カセットを導入することにより見出されうる。
【0065】
遺伝子治療において、標的組織は免疫細胞だけでなく、胎盤ならびにシンシチン媒介性異種融合が生じる任意の組織、又はシンシチンの受容体を発現する任意の組織もしくは任意の細胞でもありうる。例として、子癇前症を予防するために胎盤を処置する可能性が含まれる。子癇前症は妊産婦死亡率の主要な原因であり、一部の試験では、子癇前症の胎盤において、異なって発現されたマイクロRNAによってTGF-β2応答が脱調節されることが検出されている(Zhou et al Sci Rep. 2016 Jan 29;6:19910. doi: 10.1038/srep19910.)。恐らくは、シンシチン偽型化ベクターの使用を通じた胎盤細胞における遺伝子導入又は遺伝子編集によって、この問題が補正されうる。恐らくは、標的組織は骨格筋でありうる。なぜなら、シンシチンが筋芽細胞中で発現されて、筋芽細胞間の融合に寄与しうることが最近示されたためである(Frese et al., 2015)。恐らくは、骨格筋細胞上の受容体を認識しうるシンシチン偽型化ベクターが、筋肉遺伝子治療のために使用されうる。
【0066】
本明細書で使用するように、用語「患者」は哺乳動物を意味する。好ましくは、本発明に従った患者はヒトである。
免疫細胞は、免疫系に含まれる細胞である。それは、特にB細胞、T細胞、NK細胞、マクロファージ、及び樹状細胞を含む。
B細胞(又はBリンパ球)は、抗体の産生に関与する免疫細胞であり、体液性免疫応答に含まれる。
樹状細胞は免疫細胞であり、それはアクセサリーである:それは抗原提示細胞である。その主な機能は、抗原材料を処理し、それをその細胞表面上でT細胞に提示することである。
T細胞(又はTリンパ球)は、細胞媒介性免疫応答に含まれる免疫細胞である。それは、キラーT細胞、ヘルパーT細胞、及びガンマデルタT細胞より選んでもよい。
【0067】
安定な偽型化レンチウイルス粒子は、免疫療法において、又はワクチンとして、又は免疫予防において使用してもよい。そのような場合において、目的の異種遺伝子は、免疫原性タンパク質、例えばウイルスタンパク質、細菌タンパク質、又は腫瘍抗原などをコードしてもよい。そのような場合において、遺伝子の発現によって免疫応答が刺激されて、免疫化が可能になる。これはワクチンに相当する。免疫予防において、目的の異種遺伝子は、免疫不全患者において悪性形質転換を起こしうるB細胞ウイルス感染(例えばEBV感染など)を予防するタンパク質をコードしてもよい。
このように、本発明はまた、免疫細胞、好ましくはB細胞を形質導入することによる治療のための、ERVシンシチン(例えば以前に定義したERVシンシチンなど)を用いて偽型化され、HERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いてより優先的に偽型化され、目的の異種遺伝子をパッケージングする安定なレンチウイルス粒子の使用に関する。
【0068】
本発明はまた、ヒトB細胞における生物工学のための、ERVシンシチン(例えば以前に定義したERVシンシチンなど)を用いて偽型化され、HERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いてより優先的に偽型化され、目的の異種遺伝子をパッケージングする安定なレンチウイルス粒子の使用に関する。例えば、病原体(例えばHIV-1など)又は寄生虫(例えばプラスモジウムなど)に対して向けられた組換え抗体をヒトB細胞中での遺伝子導入により発現させて、これらの病原体の迅速な認識及び中和毒素を促進することからなる、ベクター化抗体のB細胞中での産生を引用することができる。異なる系においてマウス中でベクター化された組換え抗体の例が、「Balazs AB, et al. Nat Med. 2014 Mar;20(3): 296-300. doi: 10.1038/nm」又は「Deal C et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Aug 26; 111(34): 12528-32. doi: 10.1073/pnas.1407362111」に記載されている。
ヒトB細胞における生物工学はまた、遺伝子、例えば抗アポトーシス遺伝子又はB細胞癌遺伝子(例えばBcl6又はBclXなど)などを用いて抗原応答性ヒトB細胞(例えば、CD27 +胚中心B細胞)を、「Kwakkenbos MJ et al. Nat Med. 2010 Jan;16(1):123-8. doi: 10.1038/nm.2071. Generation of stable monoclonal antibody-producing B cell receptor-positive human memory B cells by genetic programming」に記載されているように、病原体に応答するそのような細胞を増殖させ、それらの抗体配列を選択する目的のために、不死化させるための遺伝子導入を使用することからなりうる。
【0069】
ERVシンシチン(例えば以前に定義したERVシンシチンなど)を用いて偽型化され、より優先的には、HERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いて偽型化され、目的の異種遺伝子をパッケージングする前記レンチウイルス粒子は、例えば注射により患者自体に投与してもよい。そのような場合において、免疫細胞の形質導入はインビボで行われる。別の代替法では、患者の免疫細胞、好ましくはB細胞又はそれらの前駆細胞のサンプルを先に採取し、次に前記レンチウイルス粒子をサンプルの免疫細胞又はそれらの前駆細胞中に注入し(即ち、インビトロ)、処理サンプルを最終的に患者に再投与する。この後者の場合において、前記レンチウイルス粒子を用いて感染させ、このように目的の異種遺伝子を含む免疫細胞又はそれらの前駆細胞のサンプルが医薬品である。このように、本発明はまた、治療において、又は(目的の異種遺伝子がレポーター遺伝子である場合に)診断目的のために、前記レンチウイルス粒子を用いて感染させた免疫細胞又はそれらの前駆細胞のサンプルの使用を目的とする。
【0070】
本発明はまた、免疫不全、自己免疫、感染性疾患、又はB細胞関連癌を処置するための、異種遺伝子を含むHERV-W又はHERV-FRDを用いて偽型化されたレンチウイルス粒子の使用に関する。
「免疫不全」は、微生物(細菌性、ウイルス性、寄生虫性)感染の数もしくは重症度の増加又は抗腫瘍サーベイランスの低下及び癌の頻度の増加に導く状態を意味する。
この目的のために、目的の異種遺伝子は、自殺遺伝子、「ドミナントネガティブ」遺伝子、標的細胞活性化をブロックする抗体をコードする遺伝子、癌遺伝子の発現を補正するタンパク質をコードする遺伝子、又は B細胞の形質転換体ウイルス(例えばバーキット症候群の場合におけるEBVなど)のウイルスサイクルを低下又は変化させるタンパク質をコードする遺伝子でありうる。
【0071】
「自己免疫」は自己免疫疾患を意味する。それらは、前記身体の健常細胞に対する身体の異常な免疫応答を含む状態に相当する。自己免疫は臓器又は組織に限定されうる。自己免疫疾患、特にB細胞枯渇戦略(即ち、リツキシマブ)による処置に感受性であり、それらを死滅させる意図で(例えばカスパーゼ9又は誘導性カスパーゼ9 、チミジンキナーゼ、又は任意の他の「自殺遺伝子」など)、又は免疫調節遺伝子(例えばIL-10など)を発現することによりそれらの機能を免疫調節する意図で、病的B細胞において遺伝子を発現させることにより処置することができうる自己免疫疾患は、例えば以下である:関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、特発性血小板減少性紫斑病、抗好中球細胞質抗体関連血管炎(ANCA血管炎)、グレーブス病、全身性硬化症、自己免疫性溶血性貧血、尋常性天疱瘡、寒冷凝集素疾患、シェーグレン症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、クリオグロブリン血症、IgM媒介性ニューロパチー、多発性硬化症、視神経脊髄炎、特発性膜性腎症、皮膚筋炎、自己免疫性神経障害、血友病A、又は臓器拒絶による臓器移植(腎臓)合併症もしくは移植片対宿主病により起こされる骨髄移植合併症。
【0072】
「感染性疾患」は、病原性微生物(例えば細菌、ウイルス、寄生虫、又は真菌など)により起こされる疾患を意味する;この疾患は、直接的又は間接的に、ある人から別の人に伝染しうる。細菌感染症は、連鎖球菌、ブドウ球菌、及び大腸菌に起因しうる。ウイルス感染症は、パピローマウイルス科、ポリオーマウイルス科(BKウイルス、JCウイルス)、ヘルペスウイルス科(単純ヘルペスウイルス1型又は2型、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン-バールウイルス、サイトメガロウイルス)、ポックスウイルス科(天然痘)、ヘパドナウイルス科(B型肝炎)パルボウイルス科(パルボウイルスB19)、カリシウイルス科(ノルウォークウイルス)、ピコルナウイルス科(コクサッキーウイルス、A型肝炎ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス)、コロナウイルス科(Coronoviridae)(重症急性呼吸器症候群ウイルス)、フラビウイルス科(C型肝炎ウイルス、黄熱病ウイルス、デングウイルス、ウエストナイルウイルス、TBEウイルス、ジカウイルス、レトロウイルス科(HIV)、フィロウイルス科(エボラウイルス、マールブルクウイルス)、オルトミクソウイルス科(インフルエンザウイルス)、パラミクソウイルス科(麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、呼吸器合胞体ウイルス)、及びラブドウイルス科(狂犬病ウイルス)に起因しうる。寄生虫感染症は、原生生物(例えばプラスモジウム属など)、蠕虫生物、又は外部寄生虫に起因しうる。真菌感染症は、癜風、皮膚糸状菌(ミクロスポルム、トリコフィトン、エピデルモフィトン)、又はカンジダ・アルビカンスに起因しうる。
【0073】
本明細書中で使用するように、用語「B細胞関連癌」は、B細胞の無秩序な細胞増殖により典型的に特徴付けられる哺乳動物における病理学的状態を指す。B細胞悪性腫瘍は、急性リンパ性白血病、慢性リンパ球性白血病、多発性骨髄腫、ワルデンスレームマクログロブリン血症、又は任意の型のB細胞リンパ腫(プソクローヌス・ミオクローヌスを含む)、及び任意の型のウイルス誘発B細胞病理、例えばエプスタイン・バーウイルスによるものなどでありうるが、それにおいて、治療効果は、細胞周期モジュレーター又は抗発癌遺伝子配列(例えば、p53、癌遺伝子に対するアンチセンス配列、癌遺伝子に対するshRNAなど)又は自殺遺伝子(例えばicasp9、チミジンキナーゼなど)又は抗ウイルス配列又は腫瘍細胞による病的分子の増殖、拡散、もしくは産生を停止させるために感受性である任意の遺伝子配列(特定の遺伝子変異、例えばワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症の場合におけるMyD88中の変異などが存在する場合での遺伝子編集のための配列、又は重要なウイルスライフサイクル遺伝子を編集するための配列、又は抗腫瘍免疫応答を活性化する配列を含む)の遺伝子導入、あるいはこれらのアプローチの任意の組み合わせにより得ることができうる。
【0074】
本発明の文脈において、用語「処置する」又は「処置」は、本明細書で使用するように、そのような用語が適用される障害又は状態の進行を逆転、軽減、又は阻害すること、又はそのような用語が適用される障害又は状態の1つ又は複数の症状の進行を逆転、軽減、又は阻害することを意味する。
【0075】
最後に、本発明は、LAH4ペプチド又はその機能的誘導体、好ましくはベクトフシン1の存在において、ERVシンシチン(例えば以前に記載したERVシンシチンなど)を用いて偽型化され、特にHERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いて偽型化され、目的の異種遺伝子をパッケージングする安定なレンチウイルス粒子を用いて免疫細胞を感染させる工程を含む、目的の異種遺伝子を発現するように改変された免疫細胞を得るためのエクスビボのプロセスに関する。
好ましくは、免疫細胞は、B細胞、T細胞、樹状細胞、及びマクロファージより選ぶ。
好ましくは、免疫細胞はナイーブである。好ましい実施形態に従い、ナイーブ免疫細胞は以前に刺激されていない。
別の実施形態に従い、刺激が使用される場合、刺激工程は最小であり、ナイーブB細胞の生存を保つように、ナイーブ免疫細胞を、IL-7を含む培地中でインキュベートすることにより実施する。
【0076】
このように、好ましくは、本発明に従った目的の異種遺伝子を発現するように改変された免疫細胞を得るためのエクスビボのプロセスは、LAH4ペプチド又はその機能的誘導体の存在において、ERVシンシチン(例えば以前に記載したERVシンシチンなど)を用いて偽型化され、特にHERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いて偽型化され、目的の異種遺伝子をパッケージングする安定なレンチウイルス粒子を用いて、ナイーブ免疫細胞、特にナイーブB細胞を直接感染させる工程を含む。前記のナイーブ免疫細胞は以前に刺激していない。本発明はまた、前記のエキソビボのプロセスにより入手可能な、目的の異種遺伝子を含むナイーブ免疫細胞、好ましくはナイーブB細胞に関する。
別の実施形態に従い、本発明に従った目的の異種遺伝子を発現するように改変された免疫細胞を得るためのエクスビボのプロセスは、以下の工程も含みうる:
-場合により、IL-7を含む培地中でナイーブ免疫細胞をインキュベートすることによりそれらを刺激し、次に
-LAH4ペプチド又はその機能的誘導体の存在において、以前に記載したERVシンシチンを用いて偽型化され、特に、目的の遺伝子を含む、HERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いて偽型化されたレンチウイルス粒子を用いて刺激された、又はされていないナイーブ免疫細胞を感染させる。本発明はまた、前記のエキソビボのプロセスにより入手可能な、以前に刺激されたナイーブ免疫細胞に関する。
好ましくは、LAH4ペプチド又はその機能的誘導体、好ましくはベクトフシン1が、特に7~20μg/ml、より好ましくは10~15μg/mlの濃度で存在する。
【0077】
本発明の文脈において、「LAH4ペプチド」は、配列番号5からなるアミノ酸配列を伴うペプチドを指す。本明細書で使用するように、用語「LAH4機能的誘導体」は、その配列が、 LAH4ペプチドの一次構造に基づいて設計されており、ウイルス又はウイルスベクターの形質導入効率を改善する能力を有する任意のペプチドを意味する。特定の実施形態において、LAH4機能的誘導体は、真核細胞、特にヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、又はハムスターの細胞、特にヒトCD34+細胞において、以前に記載したERVシンシチンを用いてキャプシド化され、特にHERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAエンベロープを用いてキャプシド化されたウイルスの形質導入効率を改善する能力を有するペプチドである。
LAH4ペプチド又はその機能的誘導体は、配列番号5~31に示す配列の間で選択してもよい:
【化1】
好ましくは、LAH4ペプチドの機能的誘導体を使用する。好ましくは、前記の機能的誘導体はLAH4-A4であり、ベクトフシン1とも呼ばれ、配列番号18を有する。
【0078】
本発明はまた、本発明の安定な偽型化レンチウイルス粒子、又は前記の安定な粒子でトランスフェクトされた免疫細胞を薬理学的に許容可能な媒質中に含む医薬組成物に関する。「薬理学的に許容可能な媒質」は患者への投与に適合する賦形剤を意味する。
【0079】
本発明はまた、特にマウスにおいて(マウスモデルを得るように)動物モデルを作製するための、以前に記載したERVシンシチンを用いて偽型化され、特に、目的の異種遺伝子を含む、HERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いて偽型化された安定なレンチウイルス粒子、好ましくは以前に記載したERVシンシチンを用いて偽型化され、特に、目的の異種遺伝子を含む、HERV-W、HERV-FRD、又はマウスシンシチンAを用いて偽型化された安定なレンチウイルス粒子の使用に関する。これは、疾患機序、特にB細胞疾患を探索するのに有用でありうる。
【0080】
本発明を、本明細書で以下の実施例を用いて例示するが、それらは限定的ではない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1】
図1:種々の形質導入添加剤の存在におけるシンシチン 偽型化ベクターを用いたBeWO細胞の形質導入。BeWO細胞を、添加剤である硫酸プロタミン(PS)、ポリブレン(PB)、又はベクトフシン1(VF1)の非存在又は存在において、LV-VSVg(10
8TU/ml)又はLV-Syn2(10
5TU/ml)のいずれかと、GFPコードベクターを用いて感染させ、導入遺伝子の発現を、3日後にFACSにより測定した。ゲート中の生存GFP +細胞のパーセンテージを示す。1つの実験からの結果。
【
図2】
図2:シンシチン偽型化ベクター及びベクトフシン1(VF-1)を用いた293T細胞の形質導入。A.B.VF1の存在におけるシンシチン偽型化ベクターの用量依存的効果を示す3つのうちの1つの代表的な実験。293T細胞を、VF1の非存在又は存在において、10
4~10
5TU/mlの範囲のベクター濃度を使用して、GFPをコードするLV-Syn1(A)又はLV-Syn2(B)と培養した。GFP発現を、3日後にFACSにより測定した。C.VF1の増強効果は、マンホイットニー検定を使用した5~6の実験において示すように、統計的に有意である。D.FACSにより測定したGFPの発現とqPCRにより測定した細胞1個当たりのベクターコピー数(VCN)との相関を、異なるベクター濃度を試験する3つの別々の実験から得た。
【
図3】
図3:シンシチン偽型化ベクターを用いた初代血球サブセットの形質導入。ヒト末梢血単核細胞(PBMC)(4~9の別々の血液ドナー)を、VF1の非存在又は存在において、細胞(活性化なし)の単離直後、又はIL-7(10ng/mL)を用いた細胞の一晩培養に続いて、GFPをコードするLV-Syn1又はLV-Syn2ベクター(10
5TU/ml)を用いて感染させた。3日後、GFPを、生細胞(CD3+CD19+CD11c-T細胞;CD3+CD19+CD11c-B細胞;CD3-CD19-CD11c+骨髄樹状細胞)、ナイーブ(CD27-)又は記憶(CD27+)B細胞の異なるサブセットにおいてFACSにより測定した。
【
図4】
図4:血液細胞サブセットに対するシンシチン偽型化ベクターの用量依存的効果。IL-7と一晩インキュベートし、次にVF1の存在において濃度10
5ng/mL及び10
6TU/mlでΔNGFR をコードするLNG-Syn1及びLV-Syn2を用いて形質導入したPBMCの3名のドナーでの代表的な結果。導入遺伝子発現を、3日後にFACSにより測定した。
【
図5】
図5:シンシチン偽型化ベクターを用いたCD11c+血液細胞の形質導入。全PBMC(2つの別々の実験において試験した2名のドナー)又はプラスチック付着PBMC(別の実験において試験した1名のドナー)を、VF1(12μg/ml)の存在において、GFPをコードするLV-Syn1もしくはLV-Syn2(2×10
5TU/ml)又はLV-VSVg(10
8TU/ml)ベクターを用いて形質導入した。細胞を洗浄し、XVivo20+10%FCS+GM-CSF+IL-4中で3~7日間にわたりさらに培養した。A.CD11c+HLD-DR+骨髄細胞の分析のためのゲーティング戦略。B.異なる条件において3日後に得られたCD11c+HLD-DR+細胞の形質導入を示す3つのうちの代表的な実験。
【
図6-1】
図6:血液細胞上でのASCT2及びMFSD2a受容体の発現。A.3つ(各々1名の血液ドナー)のうちの1つの代表的な実験におけるCD19+B細胞、CD3+T細胞、及びCD11c+骨髄樹状細胞中でのASCT2及びMFSD2a発現についてのマルチカラーFACS分析。B.ウサギ免疫グロブリン対照を用いて得られたバックグラウンドのサブトラクション後の、5つの実験における示した受容体を発現する細胞のパーセンテージの平均及び標準偏差。C.PBMC細胞サブセットでのMFSD2a及びASCT2 mRNAのRT-PCR分析(平均2つの実験)。
【
図6-2】
図6:血液細胞上でのASCT2及びMFSD2a受容体の発現。A.3つ(各々1名の血液ドナー)のうちの1つの代表的な実験におけるCD19+B細胞、CD3+T細胞、及びCD11c+骨髄樹状細胞中でのASCT2及びMFSD2a発現についてのマルチカラーFACS分析。B.ウサギ免疫グロブリン対照を用いて得られたバックグラウンドのサブトラクション後の、5つの実験における示した受容体を発現する細胞のパーセンテージの平均及び標準偏差。C.PBMC細胞サブセットでのMFSD2a及びASCT2 mRNAのRT-PCR分析(平均2つの実験)。
【
図7】
図7:遺伝子治療により処置されたSCIDX1患者の血液単核細胞の表現型。フローサイトメトリー分析を実施した:(A)健常なドナーPBMCを用いた比較、(B)患者の末梢血単核細胞(PBMC)の解凍後での比較。
【
図8】
図8-9:Syn Aベクターを用いたマウス脾臓細胞(
図8)及び骨髄細胞(
図9)のLV-形質導入。dNGFRをコードするLV-SynAベクターを、C57Bl/6マウスから得た赤血球枯渇脾臓細胞に加えた。3日後、細胞の表現型及び導入遺伝子発現をフローサイトメトリーにより測定した。
【
図9】
図8-9:Syn Aベクターを用いたマウス脾臓細胞(
図8)及び骨髄細胞(
図9)のLV-形質導入。dNGFRをコードするLV-SynAベクターを、C57Bl/6マウスから得た赤血球枯渇脾臓細胞に加えた。3日後、細胞の表現型及び導入遺伝子発現をフローサイトメトリーにより測定した。
【
図10】
図10:LV-SynAを用いたLucII導入遺伝子のインビボ送達。LucIIをコードするLV-SYn Aの単一ボーラス(C、n=7、流束:1,8.10
8光子/秒)をアルビノースC57Bl/6マウス中に静脈注射した(5×10
5TU/マウスn=3)。対照として、同じ導入遺伝子をコードするLV-VSVg(B、n=4、流束:7.10
8光子/秒)ならびにPBS(A、n=7、流束:1.5.10
4光子/秒)を使用した。導入遺伝子発現の生物発光検出を、LVのIV注入後16日に実施した。麻酔マウスの1匹を開腹して、脾臓の生物発光を確認した(D)。
【
図S1】補足
図S1 A.HEK293T細胞における一過性トランスフェクションによるLV産生のためのプラスミド比の最適化。X軸上に示すように、各々のT175cm
2フラスコ中の種々の量のpcDNA3Syn2プラスミドを使用したGFPをコードするLV-Syn2ベクターの産生。培地を、トランスフェクションの24時間後に回収し、p24をELISAにより測定した。4つの測定値の平均±SDの結果。B.形質導入における用量依存的な増加及び経時的な形質導入の安定性。HEK293T細胞に、GFPをコードするLV-Syn1を増加濃度で形質導入した。細胞を、GFP発現をFACSにより測定した、示した時間(d=日)にわたり培養した。結果を、培養物中のGFP+細胞のパーセンテージとして表す。4つを代表する1つの実験の結果。C.シンシチン偽型化LVを用いた異なる細胞系の比較形質導入。HEK293T細胞、BeWO細胞、又はHCT116細胞に、GFPをコードするLV-Syn1(10
5TU/ml)、LV-Syn2(10
5TU/ml)、又はLV-VSVg(10
6TU/ml)ベクターを用いて形質導入した。GFPの発現を、3日後にFACSにより測定した。293T細胞での5つ及び6つの別々の実験でそれぞれLV-Syn1及びLV-Syn1を用いて得られた結果;BeWO細胞での1つ及び3つの実験ならびにHCT116細胞での2つ及び4つの実験。
【
図S2】補足
図S2 A.ベクターを用いたPBMCの処理スキーム。B.種々のB細胞亜集団の形質導入を分析するためのFACSゲーティング戦略。
【
図S3】補足
図S3 A.CD3-CD19-、HLA-DR+、CD1a+であり、GFP及びCD86又はCD80を発現する、又はしない樹状細胞の形質導入を分析するためのFACSゲーティング戦略。
図5と同じ条件におけるLV-Syn1、LV-Syn2、又はLV-VSVGベクターを用いたPBMCの形質導入及び7日後のCD3-CD19-CD1a+GFP+細胞のサブセットでのCD80及びCD86の発現(四分円において示すパーセンテージ) 。B.Aと同じであり、及び7日後のCD3-CD19+CD14+HLA-DR+細胞のサブセットでのGFPの発現(ヒストグラムにおいて示すパーセンテージ)。
【
図S4】補足
図S4:HEK293T細胞及びHCT116細胞でのASCT2及びMFSD2aについての免疫染色。ヒストグラムは、未染色陰性対照細胞(293T:5%;HCT116:3%)、無関係のIgG及びAlexa647コンジュゲート二次抗体を用いて染色した細胞(293T:及びHCT116:1%)、抗ASCT2及び二次抗体を用いて染色した細胞(293T:12%、HCT116:4%)、ならびに抗MFSD2a及び二次抗体を用いて染色した細胞(293T:99%、HCT116:65%)の平均蛍光強度(MFI)を表す。
【
図S5】補足
図S5:10
6TU/mlベクターを使用した、GFPをコードするLV-Syn1及びLV-Syn2ベクターを用いたRaji細胞及びJurkat細胞の形質導入。細胞を、感染後8日目にFACSにより分析した。
【
図S6】補足
図S6:LV-Syn1ベクターを用いたインビボ形質導入。チャールズリバーから購入した7週齢の雌NSGマウス(Nod/Scid/gc-/-)に、100μL容量中の10
7個のPBMCを眼窩後洞に注射した。24時間後、マウスに、150μLの未希釈のLV-Syn1ベクターを用いて尾静脈に静脈注射した。7日後、マウスを屠殺し、脾臓を回収し、ACKで溶解し、赤血球枯渇画分をFACSにより分析し、CD45+ヒト細胞画分でGFPを測定した。結果は、ヒトGFP+細胞が見出された2匹のマウスでのFACSプロットを示す。
【
図S7】補足
図S7:LV-Syn1又はLV-Syn2ベクターを用いたマウス細胞のエクスビボ形質導入。脾臓細胞は、ACKを用いた赤血球溶解に続いて、6週齢の雌C57Bl/6マウスから得た。細胞は、1又は5×10
5TU/mlのΔNGFRをコードするLV-SYn1又はLV-Syn2及びVF1(12μg/ml)の存在において、100μL中10
6細胞/mLの濃度で、10%FCS及びベータ2メルカプトエタノールを添加したRPMI中で培養した。3日後、ΔNGFRの発現を、生存細胞でのFACSにより測定した。
【
図S8】補足
図S8:マウスB細胞リンパ腫細胞株A20でのLV-SynAの感染力滴定。A20細胞に、VF1(赤色)を伴う、VF1を伴わない(12μg/mlまで)、異なる量のLV-SynAベクター(0、0.2、0.6、1.8、3.2、5.2、及び16.2μL)を用いて形質導入した。細胞を完全培地中で7日間にわたり培養する。qPCRによるシンシチンAのコピー数の評価。
【0082】
実施例1:ヒト内在性レトロウイルスエンベロープ糖タンパク質シンシチン1及びシンシチン2によって、ヒト初代B細胞及び樹状細胞の効果的なレンチウイルス形質導入が可能になる。
【0083】
材料及び方法
【0084】
細胞株
ヒト胚性腎臓293T細胞及びヒト結腸直腸癌HCT116細胞(CCL-247;ATCC、バージニア州マナサス)を、10%の熱不活化ウシ胎児血清(FCS)(Life Technologies)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM+グルタマックス)(Life Technologies、フランス、サントーバン)中で37℃、5%CO2で培養した。ヒト絨毛癌BeWO細胞(CCL-98;ATCC)を、10%FCSを添加したHam’s F12K培地(Life technologies)中で培養した。Raji細胞及びJurkat細胞をXVivo 20培地中で感染させた。
【0085】
シンシチン発現プラスミドのクローニング及びベクターの産生。
ヒトシンシチン1(ERVW-1-001)又はヒトシンシチン2(ERVFRD-1)をコードするプラスミドpCDNA3シンシチン1及びpCDNA3シンシチン2を、NHeI及びXhoI制限酵素を使用し、EnsemblゲノムブラウザENST00000493463及びENSG00000244476転写物配列に対応するそれぞれの合成DNA配列(Gencust、ルクセンブルク、デュドランジュ)をpCDNA3プラスミド(Invitrogen、カリフォルニア州カールスバッド)中にクローニングすることにより構築した。プラスミド配列は、2本鎖配列決定により確認した。シンシチン2プラスミド機能性は、シンシチン2であると予想される65~70Kdのタンパク質を検出する抗HERV-FRD抗体(LS-BIO、フランス、ナンテール)を使用し、293T細胞のトランスフェクションに続いてタンパク質抽出物をイムノブロッティングすることにより確認した。プラスミドを、DNA RNA精製Nucleobondキット(Macherey-Nagel、ドイツ、デューレン)を使用してエンドトキシンフリーで産生した。シンシチン1又はシンシチン2のいずれかを用いて偽型化したレンチウイルス粒子は、リン酸カルシウムを使用し、4つのプラスミドを用いた293T細胞の一過性トランスフェクションにより産生した。各々のT175cm2のフラスコに、HIV-1 gagpol遺伝子を発現する14.6μgのpKLgagpol、HIV-1 rev配列を発現する5.6μgのpKRev、22.5μgの遺伝子導入カセット(ヒトホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーターの制御下で増強緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するpCCL PGK GFP(Charrier et al, 2011)又はヒトPGKプロモーターの制御下で切断型の神経成長因子受容体(NGFR)を発現するpCCL PGKデルタNGFR)、及び22μgのpCDNA3シンシチン1プラスミド又はpCDNA3シンシチン2プラスミドのいずれかを用いてトランスフェクトした。培地を翌日に交換し、ペニシリン及びストレプトマイシンならびに10%FCSを添加したDMEM 4.5g/Lグルコースにより置換した。24時間後、ウイルス粒子を含む培地を回収し、低速で遠心分離し、滅菌濾過し(0.22μm)、4℃で2時間にわたり50,000gの超遠心分離(1900RPM、ローターSW28を用いたBeckman超遠心分離機を使用)により濃縮した。ペレットをPBS中に再懸濁し、分注し、-80℃で保存した。VSVg偽型化粒子は、報告されているように(Merten et al, 2011)、一過性トランスフェクションによっても産生した。
【0086】
形質導入添加剤
ベクトフシン1(VF1)ペプチドは、標準的なフルオレニル-メチルオキシ-塩化カルボニル固相ペプチド合成、それに続くHPLC及び質量分析(Gencust)により合成した。ペプチドをH2O中に可溶化し、分注し、使用まで-80℃で保存した。形質導入実験のために必要である場合、VF1を解凍し、培地中に再懸濁し、ベクター及び細胞に最終濃度12μg/mlで加えた。硫酸プロタミン(PS)(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)及びポリブレン(PB)(Sigma-Aldrich)も即時にベクター及び細胞と希釈し、形質導入培養中でそれぞれ8μg/ml及び6μg/mlの最終濃度で使用した。
【0087】
ベクターのタイトレーション
濃縮して凍結保存したベクターを使用前にタイトレーションした。物理的粒子力価を、以前に報告されたように(Charrier et al, 2011)、p24 ELISA(Alliance(c)HIV-1 Elisaキット、Perkin-Elmer、フランス、ヴィルボン=シュル=イヴェット)により決定した。感染力価は、12μg/mlのVF1の存在においてHEK293T細胞にベクターの連続希釈液を加えることにより決定し、3日後、293T細胞をフローサイトメトリーにより分析し、形質導入単位力価(TU/ml)を算出し、又はqPCRにより、標準的な計算を使用して感染性ゲノム(ig/mL)を測定した(Kutner et al, 2009)。
【0088】
末梢血単核細胞の培養及び形質導入。
EDTAを用いて回収した末梢血は、Etablissement Francaisdu Sang(フランス、エヴリー)から購入した。Ficoll勾配遠心分離(Eurobio、フランス、レ・ジュリス)により精製した末梢血単核細胞(PBMC)を、形質導入のために、無血清培地X-VIVO 20(Lonza、フランス、ルヴァロワ=ペレ)中に懸濁した。一部の実験において、サイトカインIL-7(10ng/μL)(Miltenyi Biotech、ドイツ、ベルギッシュ・グラートバッハ)を形質導入に先立ち一晩培地に加えた。形質導入のために、LV-Syn1もしくはLV-Syn2ベクター(1.105TU/ml)又はLV-VSVg(1.108TU/ml)を、VF1(12μg/ml)の存在において細胞に加えた。6時間後、培地を、10%FCS及びIL-7(10ng/mL)を添加したXVivo20に交換し、細胞を7日間まで培養した。形質導入したB細胞を増殖させるために、CD40L(2μg/ml)及びIL-4(20ng/mL)を培地に加え、細胞をこれらの条件において2週間まで培養した。骨髄性樹状細胞を増殖させるために、hGM-CSF(50ng/mL)及びIL-4(20ng/mL)を培地に加えた。
【0089】
EBV不死化
PBMCをIL-7と一晩培養し、次にベクターを用いて感染させた。6時間後、細胞を洗浄し、B95.8マーモセット細胞上清の存在において、EBV不死化のための標準手順を使用してシクロスポリンと培養した。培地は週2回交換した。
【0090】
SCID-X1患者細胞の形質導入
遺伝子治療により処置されたSCID-X1患者のPBMCを 37℃で迅速に解凍し、次にPBSで2回洗浄した。トリパンブルー計数後、細胞を2μMのCFSE(Molecular Probes、英国ケンブリッジ)で標識し、Lv-Syn1 IL2rgベクターを用いて形質導入し、96ウェル丸底プレート中でCD40リガンド [2μg/ml](Miltenyi Biotec)及びIL-21[50ng/mL](Miltenyi Biotec)の非存在又は存在において培養する(3.105/200μL)。3、6、及び7日間の培養後、B細胞形質導入(即ち、NGFR又はIL2Rg発現)、B細胞増殖(即ち、CFSE希釈)、及びCD19+CD27+細胞の頻度をフローサイトメトリーにより決定した。培地中のヒトIgG分泌をELISA(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)により決定した。
【0091】
インビトロでのB細胞活性化
PBMCを、2μMCFSE(Molecular Probes、英国ケンブリッジ)を用いて標識し、96ウェル丸底プレート中でCD40リガンド[2μg/ml](Miltenyi Biotec)及びIL-21[50ng/mL](Miltenyi Biotec)の非存在又は存在において培養した(3.105/200μL)。3、6、及び7日間の培養後、B細胞形質導入(即ち、NGFR又はIL2Rg発現)、B細胞増殖(即ち、CFSE希釈)、及びCD19+CD27++形質芽細胞の頻度をフローサイトメトリーにより決定した。ヒトIgG分泌をELISA(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)により決定した。
【0092】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリーのために使用した抗体は、BD-Biosciences(フランス、ル・ポン=ド=クレ)から購入し、PEコンジュゲート抗CD3及び抗CD1a、Alexa-Fluor 700コンジュゲート抗CD19、APC-H7コンジュゲート抗CD45及び抗IgD、CF594コンジュゲート抗IgM、PeCy7コンジュゲート抗CD27及び抗HLA-DR、APCコンジュゲート抗CD14、V450コンジュゲート抗CD11cを含む。細胞に抗体を加える前に、Fc受容体を、細胞をガンマグロブリン(1mg/mL)(Sigma Aldrich)と4℃で15分間にわたりインキュベートすることによりブロックした。飽和量の抗体を次に、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma Aldrich)を伴うPBS中で、4℃で30分間にわたり加えて、細胞を2回洗浄した。手順の終了時に、7-アミノ-アクチノマイシンD(0.3mg/mL)(Sigma-Aldrich)を加えて、死細胞を排除した。受容体試験のために、ウサギポリクローナル抗SLC1A5(ASCT2)(Abcam、フランス、パリ)、抗MFSD2a(Origene、メリーランド州ロックビル)、又はウサギ免疫グロブリン対照(Origene)を使用し、Alexa647コンジュゲートヤギ抗ウサギ抗体(Thermo Fisher Scientific、メリーランド州ウォルサム)により明らかにした。取得は、Divaソフトウェア(BD-Biosciences)を使用してLSRIIで行い、分析は、Kaluzaソフトウェア(Beckman-Coulter、Villepinte、France)を用いて行った。
ヒトIL2Rgの検出は、PEコンジュゲート抗ヒトCD132抗体(BD bioscience)を使用して実施した。
【0093】
RT-qPCRによるASCT2及びMFSD2A発現の測定。
全RNAを、SV全RNA単離物(Promega、フランス、シャルボニエール=レ=バン)を使用して精製細胞から抽出した。残留DNAを、遊離DNAキット(Ambion、フランス、クールタブフ)を使用してサンプルから除去した。cDNAは、逆転写PCR(Invitrogen)用のプロトコールSuperscript II第一鎖合成システムに従って、ランダムヘキサマーを使用して1μgのRNAから合成した。リアルタイムPCRは、プロトコールSybr Green PCR Master Mix(Applied Biosystem、米国カリフォルニア州フォスターシティ)に従い、0.1μMの各々のプライマーを用いて、LightCycler 480システム(Roche、スイス、バーゼル)を使用して実施した。ASCT2又はMFSD2Aのいずれかの増幅のために使用したプライマー対は、以前に記載されている(Cornelis et al, PNAS, 2008及びToufailly et al, placenta, 2013)。ASCT2プライマーの配列は(センス、5’-GGCTTGGTAGTGTTTGCCAT-3’;アンチセンス、5’-GGGCAAAGAGTAAACCCACA-3’)、及びMFSD2Aプライマーの配列は(センス、5’-CTCCTGGCCATCATGCTCTC-3’;アンチセンス、5’-GGCCACCAAGATGAGAAA-3’)である。本発明者らはまた、TFIID(転写最終II D)プライマーを標準化として使用した。TFIIDプライマー配列は(センス、5’-ACGGACAACTGCGTTGATTTT-3’;アンチセンス、5’-ACTTAGCTGGGAAGCCCAAC-3’)である。結果は、以下の式を使用し、倍率変化で表す:相対存在量=ΔCtを伴う2^-ΔΔCt=Ct ASCT2又はMFSD2A-Ct TFIID及びΔΔCt=ΔCtsample-ΔCtcalibrator。
【0094】
LV-Syn1ベクターを用いたインビボでの形質導入。
チャールズリバーから購入した7週齢の雌NSGマウス(Nod/Scid/gc-/-)に、100μL容量中の107個のPBMCを眼窩後洞に注射した。24時間後、マウスに、150μLの未希釈のLV-Syn1ベクターを尾静脈に静脈注射した。7日後、マウスを屠殺し、脾臓を回収し、ACKを用いて溶解し、赤血球枯渇画分をFACSにより分析した。
【0095】
LV-Syn1又はLV-Syn2ベクターを用いたマウス細胞のエクスビボでの形質導入。
脾臓細胞は、ACKを用いた赤血球溶解に続いて6週齢の雌C57Bl/6マウスから得た。細胞を、1又は5×105TU/mlのΔNGFRをコードするLV-SYn1又はLV-Syn2及びVF1(12μg/ml)の存在において、100μL中106細胞/mLの濃度で、10%FCS及びベータ2メルカプトエタノールを添加したRPMI中で培養した。3日後、ΔNGFRの発現を、生存細胞でのFACSにより測定した。
【0096】
統計分析
統計的有意性を、GraphPad Prismソフトウェア(GraphPad Inc、カリフォルニア州ラホヤ)を使用して、一元配置ANOVA分析、マンホイットニー又はスチューデントのt検定により指定通りに評価した。
【0097】
結果
【0098】
シンシチン1及びシンシチン2偽型化LVは、安定な感染性粒子として産生することができる。
2つのヒト内在性レトロイルスエンベロープ糖タンパク質であるシンシチン1及びシンシチン2を、組換えHIV-1由来のLVについての可能性のある新たな偽型として探索した。これらの糖タンパク質の全長cDNAを、293T細胞中の一過性LV産生系において発現させた。トランスフェクション工程のためのシンシチン1及びシンシチン2プラスミドの量の最適化によって、培地中のp24レベルに基づくLV粒子の産生が増加した(補足
図S1A)。定められた条件(材料及び方法を参照のこと)において、これらのエンベロープのいずれかを用いて偽型化された安定な感染性粒子を産生することが可能であった。異なる導入遺伝子(GFP及びdNGFR)を使用して、平均705ng p24/mL(n=7産生)で滴定されたLV-Syn-1及び平均496ng p24/mL(n=4産生)で滴定されたLV-Syn-2のローストックを収集した(表1)。これらのエンベロープのいずれかを用いて偽型化したレンチウイルス粒子は、VSVg-偽型化粒子に使用したのと同じ条件を使用した超遠心分離により成功裏に濃縮することができた(Charrier et al, 2011)。濃縮ストックを-80℃で凍結保存し、数ヶ月にわたり安定であった。LVストックの解凍時に、4.1±1.7E+05ng p24/mLの力価がLV-Syn1(n=6産生)について、及び1.7±0.6E+05ng p24/mL がLV-Syn2(n=6産生)について得られ、ベクターを、異なる導入遺伝子(GFP又はΔNGFR)をコードするように産生することができた(表1)。
【0099】
【0100】
これらの粒子の感染特性を決定するために、本発明者らは、シンシチン1についてのASCT2受容体及びシンシチン2についての制限されたMFSD2a受容体の両方を発現することが公知であるヒトBeWo絨毛癌細胞株を最初に感染させた(Esnault et al, 2008)。BeWo細胞は、LV-Syn1又はLV-Syn2を用いて効果的に形質導入されなかったのに対し、それらは、VSVg偽型化LVを用いて十分に形質導入された。しかし、カチオン性薬剤、例えば硫酸プロタミン(PS)、ポリブレン(PB)、又はベクトフシン1(VF1)などを加えることによって、LV-Syn2で示されるようにBeWo細胞の形質導入が増強された(
図1)。これらの薬剤のうち、最大レベルの形質導入増強がVF1を用いて得られた。ベクトフシン1は、RD114-TRを含む種々のエンベロープ糖タンパク質を用いて偽型化されたレンチウイルスベクター及びγレトロウイルスベクターの感染力を増強する短いヒスチジンに富む両親媒性ペプチドである(Fenard et al, 2015 et Majdoul et al, 2015)。ベクトフシン1の効果は、シンシチンを用いて以前に試験されておらず、この短いペプチドによってシンシチン偽型化LV粒子の遺伝子伝達能が明らかになる。
VF1の存在において、293T細胞を用量依存的にシンシチン偽型化ベクターのいずれかで形質導入し、BeWo細胞において得られたレベルと同程度のレベルに達することが可能であった(
図2A、B)。対照的に、293T細胞のわずか約1~2%を、この添加剤を用いることなく形質導入した。VF1の増強効果は、LV-Syn1又はLV-Syn2を使用した293T細胞における反復実験にわたり統計的に有意であった(
図2C)。シンシチン偽型化ベクターを用いた293T細胞の形質導入によって、2週間続く連続培養において検証したように、経時的な導入遺伝子の安定したゲノム組込みに導かれた(補足
図S1B)。遺伝子発現のレベルは、細胞1個当たりのコピー数と一致し、経時的な導入遺伝子のサイレンシングの証拠は示さなかった(
図2D)。
LV-Syn1及びLV-Syn2感染性に対するVF1ペプチドの増強効果の発見によって、293T細胞を使用した頑強な感染力滴定アッセイの開発が可能になった。293T細胞株の選択は、実験室においてVSVg偽型化LVを力価測定するために日常的に使用されるHCT116結腸癌細胞の形質導入の失敗により促された。HCT116は、試験した任意の濃度で、及びベクトフシン1の存在においてでさえ、LV-Syn1又はLV-Syn2を用いて形質導入できなかった(補足
図S1C)。また、293T細胞が、より一貫した増殖パターン及び反復実験におけるより高い形質導入レベルの傾向のために、この感染力価アッセイについてはBeWo細胞よりも好まれた(補足
図S1C)。アッセイのために定められた条件(材料及び方法を参照のこと)において、GFPをコードするLV-Syn1及びLV-Syn2の濃縮及び凍結保存バッチの感染力価は、それぞれGFP導入遺伝子については2.8±6×E+06TU/ml(n=6バッチ)及び2.7±6×E+06TU/ml(n=6バッチ)、ならびにdNGFR導入遺伝子については6.3±7.5×E+06TU/ml(n=3バッチ)及び4.4±1.5×E+06TU/ml(n=2バッチ)であった(表1)。このように、シンシチン1及びシンシチン2糖タンパク質によって、rHIVベクターを偽型化し、感染性であり、安定した遺伝子導入のために有用な安定な粒子を得ることができる。それらの感染性には補因子が要求され、細胞レベルで選択的である。
【0101】
LV-Syn1及びLV-Syn2ベクターによって、ナイーブの血液細胞が効率的に形質導入される。
【0102】
シンシチンは細胞性タンパク質であり、インビボでの適用のための免疫学的に許容可能なベクターを誘導するのに有用でありうる。このように、シンシチン偽型化ベクターが血液細胞と相互作用しうるか否かを評価するために、本発明者らは、ベクターをインビトロで末梢血単核細胞(PBMC)に加えた。PBMCは、それらのインビトロでの単離直後に、又はナイーブリンパ球の生存率を維持することを目的としたIL-7の存在における一晩培養に続いて感染させた(補足
図S2A)。感染工程後、細胞をIL-7の存在において培養し、少なくとも3日間にわたり細胞生存率を支持した。全体的に、導入遺伝子の発現は、CD45を発現する全有核細胞集団では低かった(補足表S1)。しかし、ベクターを伴わない偽対照と比較して、有意により高い量の細胞が、VF1の存在において形質導入された(補足表S1)。LV-Syn1の効果はVSVgの効果と同程度であった。IL-7で予備活性化した細胞は、単離直後に感染させた細胞よりも良好に形質導入された。
【表S1】
【0103】
PBMCには、異なる割合で細胞の複数のサブセットが含まれる。
図3及び表2に示すように、導入遺伝子の発現は、CD19+Bリンパ球及びCD11c+骨髄/樹状細胞(PBMC中では少数である)の大部分で見出されたのに対し、CD3+T細胞(PBMC中で多い)のわずかな割合が、CD45+細胞中で得られた全体的に低い形質導入の結果と一致してマークされた。CD19+細胞又はCD11c+細胞の各々の平均59%が、IL-7による予備活性化に続いてLV-Syn1により形質導入された(表2)。293T細胞及びBeWo細胞で観察されたように、VF1を加えることは、この添加剤の非存在において形質導入された細胞がほとんどないため、PBMC形質導入を達成するために必要であった。VF1ペプチドはまた、LV-VSVgによるPBMCの形質導入を増強した。
【0104】
【0105】
注目すべきことに、非活性化CD19+細胞を形質導入することが可能であったが、真のナイーブ細胞がシンシチンにより標的化されうることを示唆する。CD19+B細胞の種々のサブセットが特徴付けられており、以下を含む(Kaminski et al, 2012):ナイーブCD19+CD27-IgD+細胞(集団の50~70%);記憶非スイッチCD19+CD27+IgD+細胞(集団の15~20%);記憶スイッチCD19+CD27+IgD-IgM-細胞(集団の2~5%);記憶スイッチIgMのみのCD19+CD27+IgD-IgM+細胞(集団の2~5%)、及び形質芽細胞CD19+CD27hi(集団の1~2%)。PBMCの感染に続くFACSゲーティング戦略を補足
図S2Bに示す。全体的に、ナイーブ及び記憶B細胞サブセットのいずれも、事前の活性化にもかかわらず、シンシチン偽型化ベクターを用いて効果的に形質導入された(
図3)。より詳細には、全ての記憶B細胞サブセットが、事前の活性化の非存在において形質導入されることが見出された(表3)。そのような非活性化条件において、シンシチン偽型化ベクターは、LV-VSVgよりも効果的にB細胞に形質導入されて、これらの細胞についてのシンシチンの特異的指向性を示唆した。LV-Syn1及びLV-Syn2のB細胞形質導入効果はベクター濃度に依存性であり(
図4)、導入遺伝子非依存性であることが見出された。ほとんど全ての末梢血CD19+細胞は、GFP又はΔNGFRのいずれかをコードする10
6TU/mlのLV-Syn1又はLV-Syn2ベクターを使用して形質導入することができ、それにより、これらの細胞において種々の型の異種タンパク質を発現させる非常に効果的なシステムを提供する。
【0106】
【0107】
機能的B細胞を、シンシチン 偽型化ベクターを用いて安定に形質導入する。
観察された効果が、非特異的であり、偽形質導入又は凝集時に生じうるベクトフシン1の人為的自己蛍光により起こされることを排除するために(Fenard et al 2013)、本発明者らは、ベクターを用いて処理し、経時的に培養した細胞中での前ウイルス組込みを確認した。ベクターを細胞に加えた後、本発明者らはCD40L及びIL-4を加えて8~14日間にわたり培養物を活性化及び増殖させた。そのような培養において、本発明者らは、条件が全ての細胞の生存を確実にするのに最適ではないにもかかわらず、ベクターがベクトフシン1と一緒に加えられた場合に(表4)、特異的にベクターコピーを検出した。また、記憶B細胞の発生のために必須であると以前に報告されたCD40リガンド(CD40L)及びIL-21などのB細胞活性化シグナルを使用して、本発明者らは、形質導入されたB細胞が効率的に活性化されうることを確認した(表5)。CFSEマーキング及びフローサイトメトリーを使用してB細胞分裂及び導入遺伝子発現を検出することにより、本発明者らは、CD40L及びIL-21に応答することが可能な細胞のマーキングならびに活性化B細胞(形質芽細胞腫を含む)表現型を確認した(表5)。機能的B細胞の形質導入をさらに確認するために、本発明者らは、LV-Syn1ベクターを用いて感染させた直後にEBVを使用してPBMCを形質転換し、安定に組込まれたベクター配列を含むリンパ芽球細胞を得た(表4)。これらの結果によって、シンシチンベクターが、機能的な増殖能を保持して増殖する初代B細胞を安定的に形質導入できることが確認される。
【0108】
【0109】
【0110】
マウス初代B細胞の形質導入
新たに単離したマウス脾臓細胞を、ΔNGFRをコードするLV-Syn1又はLV-SYn2ベクターを用いて3日間にわたり培養した。補足
図S7に示すように、これは、CD19+B細胞の非常に効率的な形質導入をもたらした。これらの培養物中では、ずっと少ないCD19細胞が比例して形質導入され、このように、ヒトと同様にマウスにおいてB細胞についてのシンシチン偽型化ベクターの特定の指向性が確認された。このデータはまた、シンシチン1及びシンシチン2糖タンパク質がマウスの対応物を認識することを示しており、これらの知見によって、これらのベクターを用いた将来の前臨床試験が促進されるであろう。
【0111】
CD11c+細胞の形質導入
図3に示すように、CD19-CD3+CD11c+細胞の大きな割合が、事前の活性化を伴わず、ベクトフシン1の存在においてPBMC由来のLV-Syn1及びLV-Syn2で形質導入された。さらなる表現型分析により、そのようなCD11c細胞も高レベルのHLA-DRを発現し、シンシチン偽型化ベクターを用いて効果的に形質導入されることが示された(
図5)。細胞はGM-CSF+IL-4において増殖し、CD1a、CD80、CD86を発現し、CD14を欠き、それらが未成熟樹状細胞であることを示唆した(補足
図S3A)。また、単球細胞の表現型を有するCD14+HLA-DR+細胞もまた形質導入される(補足
図S3B)。このように、LV-Syn1及びLV-Syn2の両方を、抗原提示細胞において導入遺伝子を発現させるために効果的に使用することができる。
【0112】
LV-Syn1及びLV-Syn2ベクターによって、初代ヒトT細胞は効率的に形質導入されない。
末梢血T細胞は、シンシチン偽型化LVにより効率的に形質導入されなかったが、一部の細胞は、活性化時に形質導入されうる。IL-7を用いた事前の活性化に続き、少量の末梢血T細胞が、LV-Syn1又はLV-Syn2ベクターを用いて形質導入されたが、しかし、これらの効果は実験から実験まで一貫していなかった(
図3及び表2)。事前の活性化がなければ、形質導入レベルは常に低かった。
このように、血球サブセットの異なる形質導入が、シンシチン偽型化ベクターを用いて観察される。
【0113】
血液細胞サブセット及び細胞株でのASCT2及びMFSD2a受容体の発現。
それぞれシンシチン1及びシンシチン2のエントリー受容体であるASCT2及びMFSD2aは、間接免疫蛍光検出を使用し、血液細胞サブセットの細胞表面上で検出した(
図6A)。これらのマーカーを発現する細胞の最も高いパーセンテージはCD19+及びCD11c+細胞であったのに対し、T細胞はこれらの受容体の低レベルを発現した(
図6B)。これらの結果はqRT-PCRにより確認し、ヒトB細胞がMFSD2a及びASCT2を発現することを初めて示す(
図6-C)。ASCT2及びMFSD2aの発現は293T細胞でも見出されたのに対し、ベクターを用いて形質導入されていないHCT116細胞のずっと低いレベルであった(補足
図S4)。試験した細胞では、受容体の発現は、達成された形質導入レベルと十分に相関した。
【0114】
ヒトB及びT細胞株は、シンシチン偽型化ベクターを用いて形質導入する。
初代細胞で得られた結果を延長し、シンシチン偽型化ベクターの細胞特異性をさらに評価するために、本発明者らはヒト細胞株のパネルを形質導入しようと試みた。バーキットリンパ腫Raji B細胞及びJurkat T細胞を試験した。Raji B細胞は、シンシチン偽型化ベクターくぉ用いて形質導入することができた(補足
図S5)。2×10
6TU/mlのLV-Syn2ベクターを使用してRaji細胞において得られた最高レベルは16%に達した(
図4に見られるように、初代B細胞において10
6TU/mlで>90%に達したのに対し)。本発明者らは、Raji細胞がLVを用いた形質導入に許容性であることを確認したが、なぜなら、Raji細胞の88%形質導入が10
8TU/mlのLV-VSVgを用いて形質導入されたためである(補足
図S5の対照、示さず)。1つの実験では、形質導入されたRaji細胞をフローサイトメトリーにより選別し、49日間にわたり培養し、長期間にわたる導入遺伝子の安定な組込みを実証した(補足表S2)。Jurkat T細胞は、シンシチン偽型化ベクターを用いて部分的に形質導入した(補足
図S5)。このように、シンシチン偽型化LVは、一部の細胞株用の遺伝子導入ツールとして使用することができる。B細胞において、形質導入は、確立されたB細胞株よりも初代細胞においてより効果的であるように見える。
【0115】
【0116】
原発性免疫不全における機能的補正。
重症複合免疫不全症1型(SCIDX1)は、インターロイキン2受容体ガンマ鎖(IL2Rg)遺伝子中の変異により起こされるX連鎖性原発性免疫不全症である。同種異系骨髄移植によりこの疾患を治癒することができるが、しかし、一部の患者はB細胞における部分的キメラ化のみを伴い不完全に補正されたままである(Recher et al 2011)。5%未満のB細胞キメラ性を伴う患者は、免疫グロブリンを成熟させ、産生することが不可能なままである。それらのB細胞は、成熟した記憶IgG分泌B細胞になることが不可能なままである。実際に、IL2RgもB細胞の成熟のための必須シグナルを提供するIL-21のための受容体であることが最近発見された(Recher et al 2011)。いくつかの遺伝子治療治験が、造血幹細胞及び前駆細胞におけるIL2Rg遺伝子導入を使用してこの疾患を処置するために試みられている。しかし、患者の条件付けなしでは、遺伝子補正された細胞は、最新の遺伝子治療の治験(Hacein-Bey-Abina et al 2014)において示されるように、補正されたT細胞のみを産生し、B細胞は未補正のままである。結果として、そのような患者のB細胞は非機能的であり、患者は感染を予防するために免疫グロブリン注入に依存したままである。これにより、本発明者らは、遺伝子治療により完全に補正されていない患者において末梢B細胞にIL2Rgを移入するためにシンシチン偽型化ベクターを使用できるか否かを問うた。患者からの細胞を得た。患者の血液単核細胞はCD3+IL2Rg+T細胞を含むが、健常な個体とは対照的に、患者の血液CD19+B細胞は成熟マーカーCD27を発現せず、IL2Rgを発現せず(
図7A及びB)、IgGを産生しなかった(表6)。IL2RgをコードするLVシンシチン1ベクターを用いた遺伝子導入時に、患者細胞は、恐らくは、培養中でのこれらの脆弱な細胞の高レベルの死亡率のために、活性化マーカーが細胞上で検出されなかったにもかかわらず、培地中でIgGを産生することによりCD40L+IL-21に応答することができた。これらの結果によって、末梢血B細胞が遺伝子導入により標的化され、SCIDX1において何らかの機能的補正を提供することができること、及びシンシチン偽型化LVがこの適用のための有用なツールであることが実証される。
【0117】
インビボ実験
LV-Syn1による初代ヒトB細胞の効率的な形質導入によって、このベクターがインビボで機能するか否かを試験することが促された。免疫不全のNSGマウスを、最初にマウス1匹当たり10
7のPBMCを用いて移植し、翌日にLV-Syn1の単回ボーラスを静脈内投与した。7日後、マウスを屠殺し、異なる組織を検証した。3匹中2匹のマウスにおいて、本発明者らは、GFPを少量(3~15%)発現した脾臓中でのCD45+CD19+ヒトB細胞の存在を見出し、それらがインビボで形質導入されたことを示唆する(補足
図S6)。これらの予備的結果は、インビボでヒトB細胞を標的化するためにシンシチン偽型化ベクターを使用する可能性を示唆する。
【0118】
実施例2:LV-SynAを伴うマウスにおけるマウスシンシチンA及びインビボ遺伝子送達。安定な感染性LV-SynA粒子の産生。
【0119】
材料及び方法(実施例1のための材料及び方法も参照のこと)
【0120】
シンシチンAのクローニング及びLV-Syn Aの産生。
a.マウスシンシチンAを発現するプラスミドの生成。
pcDNA3.1真核生物発現プラスミドのHindIII及びXbaI部位中へのマウスシンシチンA cDNAのクローニングは、Genecust(ルクセンブルク、エランジュ)により生成され、以下のプライマーを使用してSyn-Aマウス遺伝子全長cDNA(EnsemblレファレンスENSMUSG00000085957)(配列番号33)(Tm=65℃;GC%=54%;Sigma)を含み、ライゲーションによりpUC-SynAプラスミドからのPCR増幅断片を挿入することによって実施した:フォワード5’AGCAAGCTTATGGTTCGTCCTTGG3’(配列番号32)(Tm=69,8℃;%GC=50%;Sigma、米国セントルイス)及びリバース5’AGCTCTAGACTAGACGGCATCCTC3’(配列番号33)(Tm=65℃;%GC=54%;Sigma)。プラスミドを配列決定(Beckman Coulter Genomics、英国テイクリー)により確認した。
b.Syn-A偽型化レンチウイルスベクターの産生。
DMEM+10%ウシ胎仔血清(FCS)においてT175cm2フラスコ中に播種したHEK293T細胞を以下の4つのプラスミド(フラスコ当たりの量)で同時トランスフェクトした:pKLgagpol(14.6μg)、pKRev(5.6μg)、pcDNA3.1-SynA(20μg)、及び導入プラスミドPRRL-SFFV LucII又はpRRL-SFFV-LucII-2A-ΔNGFR-WPRE(22.5μg)。24時間後、細胞を洗浄し、新鮮な培地を加える。翌日、培地を収集し、1500rpmで5分間にわたり遠心分離して清澄化し、0.45μmでろ過し、次に50000gの超遠心分離により12℃で2時間にわたり濃縮し、使用するまで-80℃で保存する。
c.シンシチンA偽型化LVの滴定。
物理力価を、他の型のLVと同様に、p24 ELISAにより決定した。感染力価を、マウスリンパ腫細胞系A20を使用して感染性ゲノム力価(IG/mL)として決定した。ベクターの連続希釈液を、ベクトフシン1(登録商標)(12μg/μL)の存在においてA20細胞に6時間にわたり加える。培地を新しくし、細胞を7日間にわたりインキュベートし、ゲノムDNAを得て、プライマー:PSIフォワード5’CAGGACTCGGCTTGCTGAAG3’(配列番号34)、PSIリバース5’TCCCCCGCTTAATACTGACG3’(配列番号35)、FAM(6カルボキシフルオレセイン)(配列番号36)を用いて標識されたPSIプローブ5’CGCACGGCAAGAGGCGAGG3’、Titinフォワード5’AAAACGAGCAGTGACGTGAGC3’(配列番号37)、Titinリバース5’TTCAGTCATGCTGCTAGCGC3’(配列番号38)、及びVICを用いて標識されたTitinプローブ5’TGCACGGAAGCGTCTCGTCTCAGTC3’(配列番号39)を用いて、iCycler 7900HT(Applied Biosystems)で二本鎖qPCRを使用して細胞1個当たりのベクターコピー数を測定する。
【0121】
マウスにおけるインビボ生物発光遺伝子導入。
LV-SynAをコードするLucIIベクターを産生し、5×105TUのベクターをアルビノースC57Bl/6マウス中に静脈注射した。対照には、LV-VSVgをコードするLucII及びPBSが含まれた。生物発光の検出のために、マウスをケタミン(100mg/kg)/キシラシン(10mg/kg)を用いて麻酔し、100μLの150μg/ml Dルシフェリンを腹腔内投与し、10分後にCCDカメラISO14N4191(IVISルミナ、Xenogen、米国マサチューセッツ州)を用いて撮影した。3分間の生物発光画像を、15cmの視野、ビニング(分解能)係数4、1/fストップ及びオープンフィルターを使用して得た。目的の領域(ROI)を手作業で(各々の場合における標準領域を使用して)定義し、シグナル強度を、リビングイメージ3.0ソフトウェア(Xenogen)を使用して算出し、1秒当たりの光子として表した。バックグラウンドの光子束を、ベクターが投与されていない対照マウス又は対照筋肉上に描かれたROIから定義した。
【0122】
結果
マウスシンキチンをインビボ適用のために探索した。シンシチンAは非オルソログであるが、ヒトシンシチン1及び2に対する機能的に類似したマウスの対応物である(Dupressoir et al 2005)。本発明者らは、マウスSynAを発現プラスミド中にクローニングし、それを使用してレンチウイルスベクター粒子を産生した。本発明者らは、シンシチンAが、rHIV由来LVを成功裏に偽型化できることを見出した。本発明者らは、安定したLV-SynAを生成するためにヒトシンシチン偽型化LV(プレート当たり22μgのDNA、1回の収集のみ)の産生のために既に定められたのと同じ条件を使用した。LV-Syn Aは、VF1の存在においてマウスA20 Bリンパ腫細胞株を形質導入することにおいて非常に効率的であった(
図S8)(補足表S4)。本発明者らは、SynAが、ヒト初代非活性化マウスB細胞をインビトロで形質導入するために、そのヒト対応物と同様に効率的であることを見出した。
図8及び
図9に見られるように、LV-SynAは、脾臓からの(
図8)及び骨髄(
図9)からの前処理マウスB細胞なしで形質導入することが可能であった。これらの実験はまた、マウスT細胞もまた形質導入することができることを示す。B220低細胞の形質導入によって、未成熟B細胞が形質導入され、生物学的適用のための標的となりうることが示唆される。
興味深いことに、マウスシンシチンAで偽型化されたLVを用いてヒトCD19+B細胞を形質導入することが可能であった(補足表S5)
【0123】
LV-Syn Aは、マウスにおけるインビボでの遺伝子送達のために効率的であることが判明した。
図10は、LucIIをコードするLV-SynAベクターの注入後16日目の導入遺伝子の生物発光検出を示す。ベクターをマウスの尾静脈から注射し、本発明者らは、このためにベクトフシンを使用しなかった。脾臓CD45+CD19+細胞におけるベクターの存在は、フローサイトメトリー細胞選別により脾臓細胞を精製し、q-PCRによる形質導入のレベルを測定することにより確認した(補足表S3)。このように、シンシチンは、インビトロ及びインビボでヒト及びマウスB細胞中への侵入を媒介する特有のツールである。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
実施例3:物理力価の決定:p24 RT ELISAにより得られた物理力価と自動カウンターを用いた直接的粒子カウンティングにより得られた物理力価の間の対応。
【0128】
物理力価を、シンシチン1(S1)、シンシチン2(S2)、シンシチンA(SA)を用いて、又はVSVgを用いて偽型化され、切断型の神経成長因子受容体(ΔNGFR)又は緑色蛍光タンパク質(GFP)のいずれかをコードするHIV-1由来レンチウイルスベクター(LV)のための2つの異なる方法により決定した。LVを一過性トランスフェクションにより産生し、超遠心分離により濃縮し、滴定前に-80℃で凍結保存した。
【0129】
この方法は、(a)サンプル中のp24濃度を測定するELISA、それに続く、1fgのp24が12ppのLVに対応する(Farson et al, 2001)と仮定した物理的粒子(pp)としての力価の計算、又は(b)自動顕微鏡検査法を使用してサンプル中の粒子濃度を直接測定するMalvern Instruments(UK)からのNS300 Nanosight粒子計数器の使用のいずれかからなった。
【0130】
【0131】
平均で、[(平均力価ELISA P24)/(平均力価Nanosight)として得られた力価pp/mL(ELISA P24)と力価pp/mL(Nanosight)の間の変換係数は約3.7、即ち、約4である。
【0132】
【配列表】