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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】精密工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/24 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
B23Q17/24 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019011735
(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公開番号】P2020116713
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2020-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】有松 洋平
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-138188(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087411(WO,A1)
【文献】特開平08-294849(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0314146(US,A1)
【文献】特開2013-122956(JP,A)
【文献】特開平05-318287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00,17/09,17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を用いて、加工対象物を精密加工する精密工作機械であって、
前記工具を支持する工具支持部と、
前記工具支持部を移動可能な移動機構と、
前記工具支持部または前記移動機構に固定され、前記工具に対する前記加工対象物の加工点を撮像する撮像部を有する1または複数の撮像装置と、
を備え、
前記撮像部は、前記加工対象物に向くように配置され、前記工具に対して前記加工対象物を接触させて加工する加工中に、前記工具の刃先に接触する前記加工点を、撮像された画像の1ドットあたりの被写体の寸法が0.03mm以下となる条件で、撮像する、精密工作機械。
【請求項2】
請求項1に記載の精密工作機械であって、
前記撮像装置の少なくとも1つは、
前記撮像部の所定部位から前記加工点までの距離をDmmとし、前記撮像部の視野角をθdegとし、前記撮像部で撮像された画像の長辺を1としたときの短辺の比率をxとし、前記長辺のドット数をRsaとしたとき、次式
【数1】
の関係が成立する、精密工作機械。
【請求項3】
請求項2に記載の精密工作機械であって、
前記画像の長辺と短辺の比は16:9である、精密工作機械。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の精密工作機械であって、
前記撮像部は、前記加工点に対して光を照射する照射部を有する、精密工作機械。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の精密工作機械であって、
前記撮像装置の少なくとも1つは、柔軟性を有する棒状に形成される、精密工作機械。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の精密工作機械であって、
前記撮像装置の少なくとも1つは、前記撮像部の向きを調整する調整機構を有する、精密工作機械。
【請求項7】
工具を用いて、加工対象物を精密加工する精密工作機械であって、
前記工具を支持する工具支持部と、
前記工具支持部を移動可能な移動機構と、
前記工具支持部または前記移動機構に固定され、前記工具に対する前記加工対象物の加工点を撮像する撮像部を有する1または複数の撮像装置と、
前記撮像部の向きを調整する調整機構を駆動する駆動部と、
前記駆動部を制御する駆動制御部と、
を備え、
前記撮像部は、前記加工対象物に向くように配置され、前記工具に対して前記加工対象物を接触させて加工する加工中に、前記工具の刃先に接触する前記加工点を撮像し、
前記駆動制御部は、前記工具の種類、大きさ、または、長さに応じて、前記駆動部を制御する、精密工作機械。
【請求項8】
請求項7に記載の精密工作機械であって、
前記駆動制御部は、加工プログラムで指定される前記加工点が変わる場合には、前記撮像部が前記加工点に追従するように、前記駆動部を制御する、精密工作機械。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の精密工作機械であって、
少なくとも1つの前記撮像装置の前記撮像部で撮像された前記画像と、前記画像のなかで指定された一部の領域を拡大した拡大領域画像との少なくとも一方が表示される表示部を備える、精密工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具を用いて、10nm以下の加工指令にしたがって加工対象物を精密加工する精密工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、面粗さがナノメートルレベルでワークを機械加工するための精密工作機械が開示されている。この精密工作機械では、熱変位に起因する誤差を最小にするため、加工点に対して主要構造部分が対称構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-058263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、精密工作機械による精密加工では、工具に対する加工対象物の加工点の状態を詳細に観察し、加工の状態を把握しながら加工することが必要になる場合が多くある。この場合、オペレータが加工点に顔を近づけて目視にて観察することが一般的であった。しかし、目視にて観察する場合、加工により生じる切粉が目に入る、機械に頭が衝突する、あるいは、不意に工具に身体が接触するなどといった危険性が問題となる。
【0005】
そこで、本発明は、安全性に優れた精密工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様は、工具を用いて、10nm以下の加工指令にしたがって加工対象物を精密加工する精密工作機械であって、前記工具を支持する工具支持部と、前記工具支持部を移動可能な移動機構と、前記工具支持部または前記移動機構に固定され、前記工具に対する前記加工対象物の加工点を撮像する撮像部を有する1または複数の撮像装置と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、移動機構の移動に応じて工具支持部が移動しても、その工具支持部に支持される工具に対する撮像装置の相対位置を変化させることなく、1または複数の撮像装置で加工点を捉えることができる。したがって、作業者に対して、加工点に近づかせることなく加工点を観察させることができ、安全性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施の形態の精密工作機械の構成を示す模式図である。
図2】撮像装置が取り付けられた状態を示す図である。
図3】撮像部の構成例を示す図である。
図4】画像の1ドット当たりの被写体の長さを計算したときの表(1)である。
図5】画像の1ドット当たりの被写体の長さを計算したときの表(2)である。
図6】画像の1ドット当たりの被写体の長さを計算したときの表(3)である。
図7】画像の1ドット当たりの被写体の長さを計算したときの表(4)である。
図8】画像の1ドット当たりの被写体の長さを計算したときの表(5)である。
図9】画像の1ドット当たりの被写体の長さを計算したときの表(6)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0010】
〔実施の形態〕
図1は、本実施の形態の精密工作機械10の構成を示す模式図である。精密工作機械10は、工具TLを用いて、10nm以下の加工指令にしたがって加工対象物WKを精密加工するものである。この精密工作機械10は、本実施の形態では、工具TLに対して回転状態の加工対象物WKを接触させて加工する旋盤機である。
【0011】
精密工作機械10は、基礎ベッド12、主軸台14、工具台16、撮像装置18および制御装置20を有する。
【0012】
基礎ベッド12は、主軸台14および工具台16の台座である。なお、図1では、主軸台14の主軸シャフト14aが延びている方向(軸方向)は前後方向とし、基礎ベッド12の載置面Fに平行な面内で軸方向に対して直交する方向は左右方向とし、当該載置面Fおよび軸方向に対して直交する方向は上下方向とする。下方向は、重力が働く方向とする。
【0013】
基礎ベッド12の載置面Fには、主軸台14を移動可能な移動機構として主軸テーブル12aが設けられる。主軸テーブル12aは、基礎ベッド12に対して主軸台14を左右方向へ移動可能であり、この主軸テーブル12a上に主軸台14が載置される。
【0014】
また、基礎ベッド12の載置面Fには、工具台16を移動可能な移動機構として工具テーブル12bおよび回転テーブル12cが設けられる。工具テーブル12bは、基礎ベッド12に対して工具台16を前後方向へ移動可能であり、この工具テーブル12b上に回転テーブル12cが設けられる。回転テーブル12cは、上下方向の軸を回転軸として回転可能であり、この回転テーブル12c上に工具台16が載置される。なお、回転テーブル12cはなくてもよい。
【0015】
主軸台14は、加工対象物WKを支持するワーク支持部であって、前後方向に延びる主軸シャフト14aと、主軸シャフト14aの一端(前端)に設けられる回転体14bとを有する。回転体14bには、不図示の固定具により回転体14bの前面上に加工対象物WKが固定される。つまり、主軸台14では、加工対象物WKが回転可能に支持される。
【0016】
工具台16は、工具TLを支持する工具支持部であり、回転テーブル12cの上面から上方に向かって延びる柱状に形成される。工具台16の上端部には、不図示の固定具により工具TLが固定される。工具台16に固定された工具TLは、工具台16が延びる方向とは略直交する方向に延びている。
【0017】
撮像装置18は、被写体を撮像し、撮像結果として得られる画像を示す画像信号を制御装置20に出力する。制御装置20は、表示部22を有し、撮像装置18から出力される画像信号に示される画像を表示部22に表示する。
【0018】
また、制御装置20は、工具TLを用いて加工対象物WKを加工するための加工プログラムを有する。この制御装置20は、加工プログラムで指定される10nm以下の加工指令にしたがって、主軸台14の主軸シャフト14aと、移動機構(主軸テーブル12a、工具テーブル12bおよび回転テーブル12c)とを適宜制御する。
【0019】
具体的には、制御装置20は、例えば、主軸台14の主軸シャフト14aを回転させながら、加工プログラムで指定される加工点となるように、主軸テーブル12aと工具台16の工具テーブル12bとを相対移動させる。主軸テーブル12aと工具テーブル12bとが相対移動されることで、主軸テーブル12a上の主軸台14に支持される加工対象物WKに対して、工具テーブル12b上の工具台16に固定される工具TLが押し付けられて加工対象物WKが加工される。
【0020】
図2は、撮像装置18が取り付けられた状態を示す図である。撮像装置18は、工具TLに対する加工対象物WKの加工点Pを撮像するものである。この加工点Pは、加工プログラムで指定される。撮像装置18は、中空の棒状を成し、柔軟性を有する。すなわち、撮像装置18は、柔軟性を有する管状に形成され、管状に形成される撮像装置18の一端および他端の少なくとも一方は塞がれる。
【0021】
撮像装置18は、撮像部30および支持部40を有する。撮像部30は、撮像装置18の先端部に位置する。図3は、撮像部30の構成例を示す図である。
【0022】
撮像部30は、少なくとも、対物レンズ32、撮像素子34および照射部36を有する。対物レンズ32は、被写体から撮像部30の先端を介して入射された光を集光して被写体の像をつくるレンズである。
【0023】
撮像素子34は、対物レンズ32によりつくられた像を撮像するものであり、撮像素子34の撮像面には対物レンズ32によりつくられた像が結像される。撮像素子34の信号線は、撮像装置18の管内を通して制御装置20に接続される。なお、撮像素子34と対物レンズ32との間に、対物レンズ32以外の他の1または複数のレンズが設けられていてもよい。この場合、対物レンズ32によりつくられた像は中間像となり、撮像素子34の撮像面には対物レンズ32以外の他の1または複数のレンズによりつくられた像が結像される。
【0024】
制御装置20は、撮像装置18から出力される画像信号に基づいて、工具TLに対する加工対象物WKの加工点Pを含む画像と、その画像のなかで指定された一部の領域を拡大した拡大領域画像との少なくとも一方を表示部22に表示する。これにより、作業者は、加工点Pに近づいて実際に目視することなく、加工点Pを観察することができる。
【0025】
ところで、超精密加工のような微細加工の分野では、工具TLの刃先の微妙な当たり具合を観察する作業が重要である。作業者が加工点Pを目視により観察する場合、一般的には、加工点Pの加工により工具TLに溜まる切り屑の大きさが0.3mm~0.5mm程度になると、作業者は、その切り屑の形状や性状により加工点Pにおける加工状況を視認し、把握することが可能である。
【0026】
図3に示すように、撮像部30の先端部位または対物レンズ32の主点などの撮像部30の所定部位から加工点Pまでの直線距離(以下、対物距離と称する)をDmmとし、撮像部30の視野角(対物レンズ32の画角)をθdegとし、撮像部30で撮像可能な撮像幅をWmmとした場合、直角三角形の公式を用いると、「W=2×D×tan(θ/2)」の関係が成立する。なお、撮像幅Wは、対物レンズ32の視野のなかでの所定の矩形領域の対角線の長さであり、当該矩形領域は撮像素子34において撮像可能な撮像範囲に対応している。つまり、撮像幅Wは、対物レンズ32の視野のなかで、撮像素子34に結像される矩形の撮像領域に対応する領域の対角線の長さを意味する。
【0027】
ここで、撮像部30の撮像素子34で撮像された画像の長辺を1としたときの短辺の比率をxとし、その画像における長辺のドット数(画素数)をRsaとしたとき、次式
【0028】
【数1】
【0029】
の関係が成立することが好ましい。(1)式の左辺は、撮像された画像の1ドット当たりの被写体の寸法に相当する。上記のように、作業者が加工点Pを目視により観察する場合に視認可能な切り屑の大きさの最小値が0.3mmであるから、概ね10ドットの集合であれば、被写体(加工点P)を観察することが可能となる。つまり、(1)式は、0.03mm以の解像度があれば、目視と同等以上の解像度で加工点Pの観察が可能であることを示している。
【0030】
図4は、画像の1ドット当たりの被写体の長さを計算したときの表(1)である。具体的に、図4では、視野角θが30度で固定され、撮像素子34で撮像された画像の長辺と短辺との比率が16:9で固定され、画像の長辺のドット数Rsaおよび対物距離Dを可変したときの、画像の1ドット当たりの被写体の長さが(1)式を用いて計算されている。
【0031】
表中の「HD」は、地上デジタル放送のハイビジョンの画像に相当するもので、当該画像の長辺のドット数Rsaは1440ドットである。表中の「FHD」は、フルスペックハイビジョンの画像に相当するもので、当該画像の長辺のドット数Rsaは1920ドットである。表中の「4K」は、UHDTVの画像に相当するもので、当該画像の長辺のドット数Rsaは3840ドットである。
【0032】
例えば、視野角θが30度、撮像素子34で撮像された画像の長辺のドット数Rsaが1440ドットである場合、対物距離Dが90mmより小さければ、撮像素子34で撮像された画像の1ドット当たりの被写体の長さが0.03mm以内に(1)式を用いて計算されることが図4の表から分かる。したがって、対物距離Dが90mm以内に撮像部30が配置されれば、一般的に縦横比率が16:9の表示画面に、目視と同等以上の解像度で加工点Pを観察することができる。
【0033】
また、撮像素子34で撮像された画像の長辺のドット数Rsaが1920ドットまたは3840ドットである場合、対物距離Dが100mmになっても、撮像素子34で撮像された画像の1ドット当たりの被写体の長さが0.03mm以内となり、目視と同等以上の解像度で加工点Pを観察することができる。
【0034】
なお、(1)式のパラメータを適宜変更したときの計算結果を図5図9に示しておく。具体的に、図5では、視野角θが30度で固定され、撮像素子34で撮像された画像の長辺と短辺との比率が1:1で固定され、画像の長辺のドット数Rsaおよび対物距離Dを可変したときの、画像の1ドット当たりの被写体の長さが(1)式を用いて計算されている。
【0035】
図6では、視野角θが45度で固定され、撮像素子34で撮像された画像の長辺と短辺との比率が16:9で固定され、画像の長辺のドット数Rsaおよび対物距離Dを可変したときの、画像の1ドット当たりの被写体の長さが(1)式を用いて計算されている。
【0036】
図7では、視野角θが45度で固定され、撮像素子34で撮像された画像の長辺と短辺との比率が1:1で固定され、画像の長辺のドット数Rsaおよび対物距離Dを可変したときの、画像の1ドット当たりの被写体の長さが(1)式を用いて計算されている。
【0037】
図8では、視野角θが60度で固定され、撮像素子34で撮像された画像の長辺と短辺との比率が16:9で固定され、画像の長辺のドット数Rsaおよび対物距離Dを可変したときの、画像の1ドット当たりの被写体の長さが(1)式を用いて計算されている。
【0038】
図9では、視野角θが60度で固定され、撮像素子34で撮像された画像の長辺と短辺との比率が1:1で固定され、画像の長辺のドット数Rsaおよび対物距離Dを可変したときの、画像の1ドット当たりの被写体の長さが(1)式を用いて計算されている。
【0039】
照射部36は、加工点Pに対して光を照射するものである。この照射部36は、自ら発光した光を照射してもよく、撮像装置18の外部の光源で発光された光を照射してもよい。自ら発光した光を照射する場合、照射部36としては、例えば、点光源LED(light emitting diode)などが挙げられる。一方、撮像装置18の外部の光源で発光された光を照射する場合、照射部36としては、例えば、撮像装置18の外部の光源に光学的に接続され、支持部40の管内を通り撮像部30の管内に配置された光ファイバの先端部、あるいは、その光ファイバの先端部から出射される光を外部に放出するための窓などが挙げられる。
【0040】
なお、図3の例示では、照射部36が自ら発光した光を照射する場合が示されている。この場合、照射部36の信号線は、撮像装置18の管内を通じて制御装置20に接続される。制御装置20は、照射部36から発光する光の強度を変更するように、照射部36を制御してもよい。
【0041】
支持部40(図2参照)は、撮像部30を支持するものであり、工具台16に固定される。工具台16は、上記のように、加工対象物WKに対して離れる方向(前方向)または近づく方向(後方向)に移動可能な工具テーブル12b上に設けられる。したがって、この工具台16に支持部40が固定された撮像装置18は、その工具台16に支持される工具TLとともに移動する。つまり、工具テーブル12bが移動しても、回転テーブル12cが回転しても、工具台16に設けられる工具TLと撮像装置18との相対位置は変化しない。なお、回転テーブル12cの動きとしては、ある角度範囲内で回るという意味であって、連続回転する必要はない。
【0042】
支持部40の少なくとも一部は、撮像部30の向きを調整する調整機構42を有する。この調整機構42として、例えば、支持部40の管壁に対して支持部40の長手方向に沿って凹凸が交互に形成され、外力により撓むことが可能な蛇腹管などが挙げられる。本実施の形態では、この調整機構42を駆動する駆動部44(アクチュエータ)と、駆動部44を制御する駆動制御部46とが設けられる。駆動部44は、例えば、支持部40の管内に設けられ、駆動制御部46は、制御装置20に設けられる。
【0043】
駆動制御部46は、工具TLの種類、大きさおよび長さの少なくとも1つと、加工点Pに対する撮像部30の位置(先端位置)とを対応付けたデータベースを保持している。駆動制御部46は、このデータベースと、加工プログラムで指定される工具TLの種類とに基づいて、加工点Pに対する撮像部30の位置を認識する。駆動制御部46は、加工点Pに対する撮像部30の位置を認識すると、認識した撮像部30の位置となるように、駆動部44を制御する。これにより、工具TLが交換されても、加工点Pと撮像部30との相対位置を同程度に保つことができる。
【0044】
また、駆動制御部46は、加工プログラムで指定される加工点Pが変わる場合には、その加工点Pに撮像部30が追従するように、駆動部44を制御する。これにより、加工点Pが変化してもその加工点Pを捉え続けることができる。
【0045】
〔変形例〕
以上、本発明の一例として上記の実施の形態が説明されたが、本発明の技術的範囲は上記の実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記の実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることはもちろんである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。上記の実施の形態に変更または改良を加えた例を以下に記載する。
【0046】
(変形例1)
上記の実施の形態では、撮像装置18は、工具TLを支持する工具支持部である工具台16に固定された。しかし、撮像装置18は、工具台16を移動可能な移動機構である工具テーブル12bまたは回転テーブル12cに固定されてもよい。
【0047】
(変形例2)
上記の実施の形態では、精密工作機械10は、固定された工具TLに対して回転状態の加工対象物WKを接触させて加工する旋盤機であった。しかし、精密工作機械10は、固定された加工対象物WKに対して回転状態の工具TLを接触させて加工するマニシングセンタであってもよい。
【0048】
精密工作機械10がマニシングセンタである場合、工具支持部は主軸頭である。この場合、撮像装置18は、主軸頭または主軸頭を移動可能な移動機構に設けられる。つまり、撮像装置18は、工具TLとの相対位置が変化しない部材に固定されていればよい。
【0049】
(変形例3)
上記の実施の形態では、1つの撮像装置18が工具台16に固定された。しかし、複数の撮像装置18が工具台16に固定されてもよい。工具台16に複数の撮像装置18が固定される場合、複数の撮像装置18の少なくとも1つにおいて上記の(1)式が成立すればよい。
【0050】
なお、複数の撮像装置18ごとに、撮像部30の対物レンズ32の画角、および、撮像部30の撮像素子34の有効画素数の少なくとも一方が異なっていてもよい。また、撮像部30の対物レンズ32の画角、および、撮像部30の撮像素子34の有効画素数の少なくとも一方が、複数の撮像装置18のなかの少なくとも1つで他の撮像装置18と異なっていてもよい。
【0051】
工具台16に複数の撮像装置18が固定される場合、制御装置20は、複数の撮像装置18の少なくとも1つで撮像された加工点Pを含む画像と、その画像の各々のなかで指定された一部の領域を拡大した複数の拡大領域画像とを、表示部22の同一画面に表示してもよく、表示部22の別々の画面に表示してもよい。
【0052】
(変形例4)
上記の実施の形態では、駆動制御部46が駆動部44を通じて調整機構42を制御することで、自動的に撮像部30の向きを調整した。しかし、作業者が表示部22を観察しながら手作業で撮像部30の向きを調整してもよい。また、作業者が表示部22を観察しながら、撮像部30の向きを調整する指令を入力部から駆動制御部46に与え、駆動制御部46がその指令に基づいて撮像部30の向きを調整してもよい。
【0053】
(変形例5)
上記の実施の形態では、駆動制御部46は、データベースと、加工プログラムで指定される工具TLの種類とに基づいて、加工点Pに対する撮像部30の位置を認識した。しかし、駆動制御部46は、データベースと、作業者の操作に応じて入力部から入力される工具TLの種類とに基づいて、加工点Pに対する撮像部30の位置を認識してもよい。
【0054】
(変形例6)
撮像部30は、制御装置20と無線通信する通信部を有し、当該通信部を用いて撮像素子34で撮像された画像を制御装置20に送信してもよい。また、撮像部30の駆動電力を供給する電池を有していてもよい。
【0055】
(変形例7)
上記の実施の形態および変形例は、矛盾の生じない範囲で任意に組み合わされてもよい。
【0056】
〔技術的思想〕
上記の実施の形態および変形例から把握し得る技術的思想について、以下に記載する。
【0057】
本発明は、工具(TL)を用いて、10nm以下の加工指令にしたがって加工対象物(WK)を精密加工する精密工作機械(10)である。この精密工作機械(10)は、工具(TL)を支持する工具支持部(16)と、工具支持部(16)を移動可能な移動機構(12b、12c)と、工具支持部(16)または移動機構(12b、12c)に固定され、工具(TL)に対する加工対象物(WK)の加工点(P)を撮像する撮像部(30)を有する1または複数の撮像装置(18)と、を備える。
【0058】
この精密工作機械(10)では、1または複数の撮像装置(18)が工具支持部(16)または移動機構(12b、12c)に固定される。このため、移動機構(12b、12c)の移動に応じて工具支持部(16)が移動しても、その工具支持部(16)に支持される工具(TL)に対する撮像装置(18)の相対位置を変化させることなく、1または複数の撮像装置(18)で加工点(P)を捉えることができる。したがって、作業者に対して、加工点(P)に近づかせることなく加工点(P)を観察させることができ、安全性に優れる。
【0059】
撮像装置(18)の少なくとも1つは、撮像部(30)の所定部位から加工点(P)までの距離をDmmとし、撮像部(30)の視野角をθdegとし、撮像部(30)で撮像された画像の長辺を1としたときの短辺の比率をxとし、長辺のドット数をRsaとしたとき、(1)式の関係が成立するようにしてもよい。これにより、加工点(P)を精細に捉え易くなる。なお、上記の画像の長辺と短辺の比は16:9であってもよい。
【0060】
撮像部(30)は、加工点(P)に対して光を照射する照射部(36)を有してもよい。これにより、加工点(P)を明瞭に捉え易くなる。
【0061】
撮像装置(18)の少なくとも1つは、柔軟性を有する棒状に形成されてもよい。これにより、加工領域に柔軟に撮像装置(18)を配置し易くなる。
【0062】
撮像装置(18)の少なくとも1つは、撮像部(30)の向きを調整する調整機構(42)を有してもよい。これにより、加工領域に柔軟に撮像装置(18)を配置し易くなる。
【0063】
精密工作機械(10)は、調整機構(42)を駆動する駆動部(44)と、駆動部(44)を制御する駆動制御部(46)と、を備え、駆動制御部(46)は、工具(TL)の種類、大きさ、または、長さに応じて、駆動部(44)を制御してもよい。これにより、工具(TL)が交換されても、加工点(P)と撮像部(30)との相対位置を同程度に保つことができる。
【0064】
駆動制御部(46)は、加工プログラムの加工指令で指定される加工点(P)が変わる場合には、撮像部(30)が加工点(P)に追従するように、駆動部(44)を制御してもよい。これにより、加工点(P)が変化してもその加工点(P)を捉え続けることができる。
【0065】
精密工作機械(10)は、少なくとも1つの撮像装置(18)の撮像部(30)で撮像された画像と、その画像のなかで指定された一部の領域を拡大した拡大領域画像との少なくとも一方が表示される表示部(22)を備えてもよい。これにより、加工点(P)に近づくことなく加工点(P)を観察することができる。
【符号の説明】
【0066】
10…精密工作機械 12…基礎ベッド
12b…工具テーブル(移動機構) 12c…回転テーブル(移動機構)
14…主軸台 16…工具台(工具支持部)
18…撮像装置 20…制御装置
30…撮像部 32…対物レンズ
34…撮像素子 36…照射部
40…支持部 42…調整機構
44…駆動部 46…駆動制御部
TL…工具 WK…加工対象物
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