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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】イオン液体含有積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/00 20060101AFI20220524BHJP
   B01D 61/38 20060101ALI20220524BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20220524BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220524BHJP
   B32B 5/32 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
B01D69/00 500
B01D61/38
B01D69/10
B01D69/12
B32B5/32
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019519156
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2018017120
(87)【国際公開番号】W WO2018211944
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2017099324
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】中村 敏和
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 真男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇将
(72)【発明者】
【氏名】後藤 友尋
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0283839(US,A1)
【文献】特開2010-214324(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118776(WO,A1)
【文献】特開2008-142709(JP,A)
【文献】特開2015-160159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体含有液(A)を空隙に保持したイオン液体親和性多孔質層(C)と、イオン液体非親和性多孔質層(B)とを含むイオン液体含有積層体であって、
前記イオン液体親和性多孔質層(C)が、粒子状の無機材料を含むイオン液体含有積層体
【請求項2】
無機材料が、個数基準で平均粒径0.001~10μmの金属酸化物粒子を含む請求項記載のイオン液体含有積層体。
【請求項3】
イオン液体親和性多孔質層(C)の平均厚みが、0.01~100μmである請求項1又は2記載のイオン液体含有積層体。
【請求項4】
イオン液体含有液(A)が、アンモニウム類、イミダゾリウム類及びホスホニウム類から選択されるカチオンと、フッ素含有アニオン、シアノ基含有アニオン及びアミノ酸由来のアニオンから選択されるアニオンとを含むイオン液体を含む請求項1~のいずれかに記載のイオン液体含有積層体。
【請求項5】
イオン液体親和性多孔質層(C)が、内部の空隙100体積部に対して、イオン液体含有液(A)を1~100体積部の割合で含む請求項1~のいずれかに記載のイオン液体含有積層体。
【請求項6】
イオン液体非親和性多孔質層(B)が、ポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂及びセルロース誘導体から選択される少なくとも1種の樹脂を含み、かつイオン液体非親和性多孔質層(B)のイオン液体含有液(A)に対する接触角が、90~150°である請求項1~のいずれかに記載のイオン液体含有積層体。
【請求項7】
イオン液体含有液(A)が、イオン液体と相溶可能な第2の液体をさらに含む請求項1~のいずれかに記載のイオン液体含有積層体。
【請求項8】
第2の液体がポリアミン類である請求項記載のイオン液体含有積層体。
【請求項9】
イオン液体と第2の液体との割合が、前者/後者(モル比)=25/75~75/25である請求項又は記載のイオン液体含有積層体。
【請求項10】
イオン液体非親和性多孔質層(B)と、イオン液体親和性多孔質層(C)とを備えた積層体において、イオン液体親和性多孔質層(C)の空隙に、イオン液体含有液(A)を含む液体を含浸させる工程を含む請求項1~のいずれかに記載のイオン液体含有積層体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離機能などを備えたイオン液体を安定に保持(又は固定)できるイオン液体含有積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体は、カチオンとアニオンとから構成され、常温常圧下で液体として存在する物質として知られており、その高い熱的安定性(又は難燃性)、高い電気化学的安定性、低い揮発性などの、従来の溶媒とは異なる特異的な性質が注目されている。また、イオン液体は、カチオン種とアニオン種とを適宜選択して組み合わせることにより、種々の特性を調整できるため、電気化学デバイス、分離精製材料、反応溶媒など、様々な用途への展開が検討されている。なかでも、イオン液体のガス吸収特性などを利用した分離精製材料の開発が進められている。
【0003】
例えば、特開2016-10760号公報(特許文献1)には、1級又は2級アミノ基と、特定の骨格とを有するアミニウムをカチオンとするイオン液体が、酸性ガス化学吸収液として利用できることが開示されている。この文献の実施例では、反応容器12内に収容された前記酸性ガス化学吸収液中に、ガス導入管16を用いて二酸化炭素を流通させる装置が記載されている。
【0004】
しかし、イオン液体を液状のまま用いるため取り扱い難く、装置の設置作業が煩雑になり易い。
【0005】
また、特開2015-124264号公報(特許文献2)には、ポリエチレングリコール骨格を有する多官能性チオール化合物と、ポリエチレングリコール骨格を有する多官能性ビニル化合物とをエンチオール反応させて得られるポリマーに、イオン液体などの液体を含むゲル状薄膜が開示されている。このゲル状薄膜は、液体含有率が高く、高強度かつ高耐圧性を有し、優れた気体透過性能を有する気体分離膜として利用できること、また、多孔質膜上にコーティングして複合膜とすることで薄膜化可能であることなどが記載されている。この文献の実施例では、4官能の前記チオール化合物と、4官能の前記ビニル化合物とを反応させたポリマーに、イオン液体などの液体を含有させたゲル状薄膜を調製している。特に、実施例6及び7では、ポリスルホン層の上にゲル状薄膜を形成した複合膜を調製している。
【0006】
このようなゲル状薄膜は、ゲルとしてイオン液体を保持できるため、液状のままの形態(例えば、液膜など)に比べて取り扱い易いものの、手で触れると液が付着してべたべたするため、取り扱い性が充分なものとはいえず、ゲル化により粘度が増加するため、気体透過性能の向上には限界がある。また、前記ポリマーを調製するための化合物も高粘度で取り扱い性が低く、薄い塗膜を安定して又は効率よく形成し難いため、薄膜化による気体透過性能の改善も困難である。さらに、前記ポリマーの膜厚を薄く調製できたとしても、液体を含浸してゲル化させるため、膨潤により必然的に膜厚が増加するだけでなく、寸法安定性も低い。そのため、利用用途などが制限される場合がある。
【0007】
なお、特開2001-120940号公報(特許文献3)には、ポリオール類とアミン類とを組み合わせた炭酸ガスキャリアー液(C)を含浸した非ゲル化多孔質膜(A)と、前記キャリアー液(C)に対して撥液性の疎水性多孔質膜(B)とを積層した膜を利用した炭酸ガス分離・除去方法が開示されている。この文献の実施例では、トリエチレングリコール及びジエタノールアミンの混合液を含浸させた親水性ポリテトラフルオロエチレン製多孔質膜と、ポリビニリデンフルオライド製多孔質膜とを積層した膜を調製している。
【0008】
しかし、この文献には、イオン液体について何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-10760号公報(請求項1、実施例、図1
【文献】特開2015-124264号公報(特許請求の範囲、実施例)
【文献】特開2001-120940号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、容易に成形可能であり、かつイオン液体の液体状態を維持しつつ安定に保持(又は固定)できるイオン液体含有積層体及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、イオン液体を含んでいても、取り扱い性(又はハンドリング性)に優れたイオン液体含有積層体及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、膜厚の調整(例えば、薄膜化)が容易であり、気体透過性や耐圧性などの膜性能を簡便に又は効率よく制御できるイオン液体含有積層体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、イオン液体に対して非親和なイオン液体非親和性多孔質層(B)と、イオン液体に対して親和性を示すイオン液体親和性多孔質層(C)とを備えた積層体において、イオン液体親和性多孔質層(C)の空隙にイオン液体含有液(A)を含有させたイオン液体含有積層体は、成形が容易であり、かつイオン液体を液体状態のまま安定に保持(又は固定)できることを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明のイオン液体含有積層体(単に、IL含有積層体ともいう)は、イオン液体含有液(A)[IL含有液(A)又はイオン液体を含む液状組成物(A)ともいう]を空隙に保持したイオン液体親和性多孔質層(C)[IL親和性多孔質層(C)ともいう]と、イオン液体非親和性多孔質層(B)[IL非親和性多孔質層(B)ともいう]とを含む。
【0015】
前記イオン液体親和性多孔質層(C)[イオン液体親和性多孔質層(C)を構成する材質(又は形成成分)]は、無機材料を含んでいてもよく、例えば、個数基準で平均粒径0.001~10μm程度の金属酸化物粒子を含んでいてもよい。前記イオン液体親和性多孔質層(C)の平均厚みは、0.01~100μm程度であってもよい。
【0016】
前記イオン液体含有液(A)は、イオン液体を含み、このイオン液体は、アンモニウム類、イミダゾリウム類及びホスホニウム類から選択されるカチオンと、フッ素含有アニオン、シアノ基含有アニオン及びアミノ酸由来のアニオンから選択されるアニオンとを含んでいてもよい。
【0017】
前記イオン液体親和性多孔質層(C)は、空隙100体積部に対して、前記イオン液体含有液(A)を1~100体積部程度の割合で含んでいてもよい。
【0018】
前記イオン液体非親和性多孔質層(B)[イオン液体非親和性多孔質層(B)を構成する材質(又は形成成分)]は、ポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂及びセルロース誘導体から選択される少なくとも1種の樹脂を含んでいてもよく、イオン液体非親和性多孔質層(B)の前記イオン液体含有液(A)に対する接触角は、90°以上(例えば、90~150°)程度であってもよい。
【0019】
前記イオン液体含有液(A)は、イオン液体と相溶可能な第2の液体(例えば、促進輸送剤)をさらに含んでいてもよい。第2の液体はポリアミン類であってもよい。イオン液体と第2の液体との割合は、前者/後者(モル比)=25/75~75/25程度であってもよい。
【0020】
本発明は、前記イオン液体非親和性多孔質層(B)と、前記イオン液体親和性多孔質層(C)とを備えた積層体(IL未含有積層体ともいう)において、イオン液体親和性多孔質層(C)の空隙に、イオン液体含有液(A)を含む液体を含浸させる工程(含浸工程)を含む前記IL含有積層体を製造する方法も包含する。
【0021】
なお、本願明細書及び特許請求の範囲において、「イオン液体非親和性多孔質層(B)」及び「イオン液体親和性多孔質層(C)」の親和性及び非親和性は、前記2つの多孔質層のイオン液体に対する接触角により評価できる。すなわち、前記2つの多孔質層のうち、IL含有積層体が含有するイオン液体(又はイオン液体含有液(A))に対する接触角が相対的に大きい層がイオン液体非親和性多孔質層(B)、相対的に小さい層がイオン液体親和性多孔質層(C)であることを意味する。また、接触角は、慣用の方法、例えば、温度27℃、湿度55%RH、大気圧(1気圧:101.3kPa)の環境下、多孔質層上に液を滴下してCCDカメラなどにより側面から観察し、滴下直後(例えば、1秒後)の観察画像を解析する方法などにより測定できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、イオン液体含有液(A)を空隙に保持したイオン液体親和性多孔質層(C)と、イオン液体非親和性多孔質層(B)とを含むため、IL含有積層体は容易に成形可能であり、かつイオン液体を液体状態のまま(ゲル化などにより粘度を増加することなく)安定に保持(又は固定)できる。また、IL含有積層体は、イオン液体を含んでいても、表面におけるべたつきなどを抑制でき、取り扱い性(又はハンドリング性)に優れている。さらに、本発明のIL含有積層体は、膜厚の調整(例えば、薄膜化)が容易であるため、気体透過性や耐圧性などの膜性能を簡便に又は効率よく制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例31で調製したIL含有積層体の断面観察画像である。
図2図2は、実施例の二酸化炭素濃縮特性を評価するための装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のIL含有積層体は、イオン液体含有液(A)を空隙に保持したイオン液体親和性多孔質層(C)と、イオン液体非親和性多孔質層(B)とを含む。
【0025】
[イオン液体含有液(A)]
イオン液体含有液(A)は、少なくともイオン液体を含んでいる。イオン液体[又は常温溶融塩]は、カチオン(陽イオン)とアニオン(陰イオン)とを主成分(例えば、50重量%以上、好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、通常、実質的に100重量%程度)として含み、常温常圧下(例えば、100℃程度以下、1気圧程度)で液体の形態であればよい。
【0026】
(カチオン)
カチオンとしては、通常、1価の有機カチオン、例えば、アンモニウム類、イミダゾリウム類、ピリジニウム類、ピロリジニウム類、ピペリジニウム類、ホスホニウム類、スルホニウム類などが挙げられる。
【0027】
アンモニウム類としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム[例えば、トリメチル-n-プロピルアンモニウム([N1113)、n-ブチル-トリメチルアンモニウム([N1114)、n-ヘキシル-トリメチルアンモニウム([N1116)、トリエチル-メチルアンモニウム([N2221)、テトラエチルアンモニウム([N2222)、n-ブチル-トリエチルアンモニウム([N2224)、テトラ-n-ブチルアンモニウム([N4444)などのトリC1-6アルキル-C2-10アルキルアンモニウムなど];官能基を有するアンモニウム[例えば、2-ヒドロキシエチル-トリメチルアンモニウム([choline])などのヒドロキシル基を有するアンモニウム;2-メトキシエチル-ジエチル-メチルアンモニウム([N221(2O1))などのエーテル基を有するアンモニウムなど]などが挙げられる。
【0028】
イミダゾリウム類としては、例えば、1,3-ジアルキルイミダゾリウム[例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム([emim])、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウム([bmim])、1-n-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム([hmim])、1-n-オクチル-3-メチルイミダゾリウム([omim])などの1-C2-10アルキル-3-C1-3アルキル-イミダゾリウムなど];官能基を有するイミダゾリウム[例えば、1-メチル-3-ノナフルオロヘキシルイミダゾリウム([Cmim])、1-メチル-3-トリデカフルオロオクチルイミダゾリウム([C13mim])などのフッ化アルキル基を有するイミダゾリウム;1-(3-アミノプロピル)-3-ブチルイミダゾリウム([CNHbim])などのアミノ基を有するイミダゾリウムなど]などが挙げられる。
【0029】
ピリジニウム類としては、例えば、N-アルキルピリジニウム[例えば、N-エチルピリジニウム([Cpy])、N-ブチルピリジニウム([Cpy])などのN-C2-6アルキル-ピリジニウムなど]などが挙げられる。
【0030】
ピロリジニウム類としては、例えば、N,N-ジアルキルピロリジニウム[例えば、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム([Pyr13)、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム([Pyr14)などのN-C1-3アルキル-N-C2-6アルキル-ピロリジニウムなど]などが挙げられる。
【0031】
ピペリジニウム類としては、例えば、N,N-ジアルキルピペリジニウム[例えば、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム([Pip13)、N-ブチル-N-メチルピペリジニウム([Pip14)などのN-C1-3アルキル-N-C2-6アルキル-ピペリジニウムなど]などが挙げられる。
【0032】
ホスホニウム類としては、例えば、テトラアルキルホスホニウム[例えば、トリエチル-ペンチルホスホニウム([P2225)、テトラブチルホスホニウム([P4444)、トリヘキシル-テトラデシルホスホニウム([P666(14))などのトリC1-10アルキル-C2-20アルキルホスホニウムなど]などが挙げられる。
【0033】
スルホニウム類としては、例えば、トリアルキルスルホニウム(例えば、トリエチルスルホニウムなどのトリC2-6アルキルスルホニウムなど)などが挙げられる。
【0034】
これらのカチオンは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのカチオンのうち、通常、アンモニウム類、イミダゾリウム類、ホスホニウム類(例えば、イミダゾリウム類、ホスホニウム類、好ましくはホスホニウム類)である場合が多く、なかでも、1,3-ジアルキルイミダゾリウム(例えば、[emim]などの1-C2-8アルキル-3-C1-2アルキルイミダゾリウムなど)、テトラアルキルホスホニウム(例えば、[P4444などのトリC1-8アルキル-C3-18アルキルホスホニウムなど)である場合が多い。
【0035】
(アニオン)
アニオンとしては、通常、1価の陰イオン、例えば、フッ素含有アニオン、シアノ基含有アニオン、ハロゲンイオン(例えば、塩化物イオン([Cl])、臭化物イオン([Br])、ヨウ化物イオン([I])など)、アルキルスルホネートイオン[例えば、メタンスルホネートイオン([CHSO)などのC1-6アルキルスルホネートイオンなど]、アルキルカルボキシレートイオン[例えば、酢酸イオン([CHCOO])などのC1-6アルキル-カルボキシレートイオンなど]、スルフェートイオン[例えば、メチルスルフェートイオン([CHSO)、エチルスルフェートイオン([EtSO)などのC1-6アルキルスルフェートイオン、ヒドロキシスルフェートイオン([HSO)など]、硝酸イオン([NO)、アミノ酸由来のアニオンなどが挙げられる。
【0036】
フッ素含有アニオンとしては、例えば、トリフラートイオン([CFSO又は[TfO])、ビス(フルオロスルホニル)アミドイオン([(FSON]又は[FSA])、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドイオン([(CFSON]、[TfN]又は[TFSA])[あるいはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン([TFSI])ともいう]、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン([(CFSOC]又は[TfC])などのスルホニル基を有するアニオン;テトラフルオロホウ酸イオン([BF)、トリフルオロメチル-トリフルオロボレートイオン([CFBF)などのホウ素を有するアニオン;ヘキサフルオロリン酸イオン([PF)、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートイオン([FAP])などのリンを有するアニオン;トリフルオロ酢酸イオン([CFCOO]又は[TFA])などのフッ化アルキルカルボキシレートイオンなどが挙げられる。
【0037】
シアノ基含有アニオンとしては、例えば、ジシアナミドイオン([N(CN)又は[DCA])、トリシアノメチドイオン([C(CN))、テトラシアノボレートイオン([B(CN))などが挙げられる。
【0038】
アミノ酸由来のアニオンとしては、例えば、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、β-アラニン(β-Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、チロシン(Tyr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、リシン(Lys)、アルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)、トリプトファン(Trp)、プロリン(Pro)などに対応するカルボキシレートイオンなどが挙げられる。
【0039】
これらのアニオンは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのアニオンのうち、通常、フッ素含有アニオン(例えば、[TFSA]などのスルホニル基を有するアニオンなど)、シアノ基含有アニオン(例えば、[DCA])など)、アミノ酸由来のアニオン(例えば、プロリン由来のアニオン([Pro])、グリシン由来のアニオン([Gly])など)、なかでも、[Pro]などのアミノ酸由来のアニオンである場合が多い。
【0040】
代表的なイオン液体としては、例えば、アンモニウム類、イミダゾリウム類及びホスホニウム類から選択されるカチオンと、フッ素含有アニオン、シアノ基含有アニオン及びアミノ酸由来のアニオンから選択されるアニオンとを含むイオン液体などが挙げられる。具体的には、例えば、アンモニウム類とフッ素含有アニオンとを組み合わせたイオン液体(例えば、[N1114][TFSA]、[choline][TFSA]など);イミダゾリウム類とフッ素含有アニオンとを組み合わせたイオン液体(例えば、[emim][TFSA]、[emim][TfO]、[emim][BF]、[bmim][TFSA]、[bmim][TfC]、[bmim][TfO]、[bmim][BF]、[bmim][PF]、[bmim][TFA]、[hmim][TFSA]、[omim][TFSA]、[Cmim][TFSA]など);イミダゾリウム類とシアノ基含有アニオンとを組み合わせたイオン液体(例えば、[emim][DCA]、[emim][C(CN)]、[emim][B(CN)]、[bmim][DCA]、[bmim][C(CN)]、[bmim][B(CN)]など);ホスホニウム類とアミノ酸由来のアニオンとを組み合わせたイオン液体(例えば、[P4444][Pro]、[P2225][Pro]、[P2225][Gly]など)などが挙げられる。
【0041】
これらのイオン液体は、単独で用いてもよく、相溶可能である限り2種以上組み合わせて使用することもできる。イオン液体は、用途に応じて適宜選択でき、例えば、二酸化炭素分離精製用途の場合、イミダゾリウム類とフッ素含有アニオンとを組み合わせたイオン液体(例えば、1,3-ジアルキルイミダゾリウムとスルホニル基を有するフッ素含有アニオンとを組み合わせたイオン液体、好ましくは[emim][TFSA]などの1-C2-6アルキル-3-C1-2アルキルイミダゾリウムとスルホニル基を有するフッ素含有アニオンとを組み合わせたイオン液体など);イミダゾリウム類とシアノ基含有アニオンとを組み合わせたイオン液体(例えば、1,3-ジアルキルイミダゾリウムとシアノ基含有アニオンとを組み合わせたイオン液体、好ましくは[emim][DCA]などの1-C2-6アルキル-3-C1-2アルキル-イミダゾリウムとシアノ基含有アニオンとを組み合わせたイオン液体など);ホスホニウム類とアミノ酸由来のアニオンとを組み合わせたイオン液体(例えば、テトラアルキルホスホニウムとアミノ酸由来のアニオンとを組み合わせたイオン液体、好ましくは[P4444][Pro]などのトリC1-8アルキル-C3-18アルキルホスホニウムとプロリン又はグリシン由来のアニオンとを組み合わせたイオン液体など)が好ましく、なかでも、[P4444][Pro]などのトリC2-6アルキル-C4-16アルキルホスホニウムとプロリン由来のアニオンとを組み合わせたイオン液体が好ましい。
【0042】
また、イオン液体含有液(A)は、前記イオン液体とともに、イオン液体以外の他の液体(又は第2の液体)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。第2の液体としては、イオン液体と相溶可能な限り特に制限されず、揮発性が比較的低い液体である場合が多い。本発明のIL含有積層体を二酸化炭素分離膜として利用する場合、第2の液体としては、促進輸送剤、例えば、ヒドロキシル基を有するアミン類(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどのモノ乃至トリC2-6アルカノールアミンなど)、ポリアミン類[例えば、(ポリ)エチレンポリアミン(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなど)などの(ポリ)C2-6アルキレンポリアミンなど]などのアミン類などが挙げられる。
【0043】
これらの第2の液体(例えば、促進輸送剤)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの第2の液体(例えば、促進輸送剤)のうち、(ポリ)C2-6アルキレンポリアミンなどのポリアミン類、なかでも、トリエチレンテトラミンなどの(ポリ)C2-4アルキレンポリアミンなどが好ましい。第2の液体として、促進輸送剤を含むと、意外なことに、二酸化炭素分離膜として使用する場合における透過係数(又は二酸化炭素の透過速度)が向上できる場合がある。
【0044】
この理由は定かではないが、以下のように推測される。一般的に、イオン液体は、二酸化炭素をある程度の選択性で物理的に吸着するため、脱離(又は透過)し易い性質を有するのに対して、促進輸送剤は、二酸化炭素と化学的に相互作用するため、より選択的に吸着(又は分離能を向上)できるものの、脱離し難いという性質を有する。そのため、イオン液体に促進輸送剤を添加すると、二酸化炭素分離膜の透過係数(又は透過速度)の低下が予想される。しかし、アミン類と、イオン液体中のアニオン(特に、プロリンアニオン([Pro])などのアミノ酸由来のアニオンなど)との親和性が高い(又は分散状態がよい)ことが関係するためか、アミン類が二酸化炭素の透過(又は脱離)を阻害しない程度に二酸化炭素と相互作用できることが推測される。そのため、二酸化炭素分離膜の透過係数(又は透過速度)が向上することが考えられる。
【0045】
イオン液体の割合は、イオン液体含有液(A)全体に対して、例えば、10重量%以上(例えば、30重量%以上)程度の範囲から選択でき、例えば、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、実質的に100重量%程度であってもよい。
【0046】
イオン液体含有液(A)が第2の液体を含む場合において、イオン液体と第2の液体(例えば、アミン類)との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/99~99/1程度の範囲から選択でき、例えば、10/90~90/10(例えば、20/80~80/20)、好ましくは25/75~75/25(例えば、30/70~70/30)、さらに好ましくは40/60~60/40(例えば、45/55~55/45)程度であってもよい。イオン液体の割合が少なすぎると、二酸化炭素を効率よく分離(又は透過)できないおそれがある。
【0047】
[IL非親和性多孔質層(B)(又は第1の多孔質層(B))]
IL非親和性多孔質層(B)は、内部に多数の孔(細孔又は空隙)を有しており、その表面(内部の空隙における表面(又は壁面)を含んでいてもよい)は、通常、疎水性(IL親和性多孔質層(C)に対して、相対的に疎水性)である場合が多い。また、前記空隙は、独立孔を含んでいてもよく、含んでいなくてもよいが、厚み方向に連通する連通孔(又は貫通孔)を少なくとも含んでいる。IL非親和性多孔質層(B)[IL非親和性多孔質層(B)を構成する材質、又はIL非親和性多孔質層(B)形成成分]は、樹脂(例えば、熱可塑性樹脂)を主成分として[IL非親和性多孔質層(B)全体に対して、例えば、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上(実質的に100重量%程度)の割合で]含んでいてもよい。成形性などに優れる点から、IL非親和性多孔質層(B)は、通常、熱可塑性樹脂で形成された多孔質膜(多孔膜、多孔性膜又は微多孔膜)である場合が多い。
【0048】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリアルキレンアリレート樹脂など)ポリカーボネート系樹脂(例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールF型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールS型ポリカーボネート樹脂などのビスフェノール型ポリカーボネート樹脂など)、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド樹脂など)、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素樹脂、セルロース誘導体などが挙げられる。
【0049】
これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの熱可塑性樹脂のうち、ポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂及びセルロース誘導体(例えば、ポリオレフィン系樹脂及びフッ素樹脂)から選択される少なくとも1種の樹脂を含む場合が多い。
【0050】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂(例えば、ポリ-4-メチル-1-ペンテン樹脂など)などが挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。ポリオレフィン系樹脂のうち、通常、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂(特にポリエチレン系樹脂)であることが多い。
【0051】
ポリエチレン系樹脂は、エチレンホモポリマー(エチレン単独重合体)であってもよく、エチレンコポリマー(エチレン系共重合体)であってもよい。
【0052】
コポリマーにおいて、エチレンと共重合可能なモノマー(共重合性モノマー)としては、例えば、α-オレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、1-オクテン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどのα-C3-20オレフィン)、アルカジエン(例えば、1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエンなどの非共役アルカジエン、ブタジエン、イソプレンなどの共役アルカジエンなど)、エチレン系不飽和カルボン酸及びその酸無水物[例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸など]、(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレートなど]、カルボン酸ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステルなど)などが挙げられる。これらの共重合性モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのモノマーのうち、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンなどのα-C3-10オレフィンが汎用される。
【0053】
共重合体の形態としては、ブロック共重合、ランダム共重合、交互共重合、グラフト共重合などが挙げられ、通常、ランダム共重合、交互共重合であることが多い。ポリエチレン系樹脂において、エチレン(エチレン単位)と共重合性モノマー(共重合性モノマー単位)との割合(モル比)は、例えば、エチレン/共重合性モノマー=50/50~100/0、好ましくは60/40~99/1、さらに好ましくは65/35~95/5(例えば、70/30~90/10)程度であってもよい。
【0054】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン(LLDPE)などが挙げられる。また、ポリエチレン系樹脂は、チーグラー触媒などを用いた重合体であってもよいが、分子量分布の狭い重合体が得られる点から、メタロセン触媒を用いたメタロセン系樹脂であってもよい。これらのポリエチレン系樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0055】
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンホモポリマー(プロピレン単独重合体)であってもよく、プロピレンコポリマー(プロピレン系共重合体)であってもよい。
【0056】
コポリマーにおいて、プロピレンと共重合可能なモノマー(共重合性モノマー)としては、例えば、エチレン、前記ポリエチレン系樹脂の項に例示した共重合性モノマー(ただし、プロピレンを除く。)などが挙げられる。これらのモノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのモノマーうち、エチレンや1-ブテンなどのα-C2-6オレフィンが汎用される。共重合体の形態としては、ブロック共重合、ランダム共重合、交互共重合、グラフト共重合などが挙げられ、通常、ランダム共重合、交互共重合であることが多い。ポリプロピレン系樹脂において、プロピレン(プロピレン単位)と共重合性モノマー(共重合性モノマー単位)との割合(モル比)は、プロピレン/共重合性モノマー=90/10~100/0、好ましくは95/5~100/0、さらに好ましくは99/1~100/0程度であってもよい。
【0057】
ポリプロピレン系樹脂は、アタクチックであってもよいが、耐熱性を向上できる点から、アイソタクチック、シンジオタクチックなどの立体規則性を有する構造が好ましく、アイソタクチック重合体であってもよい。また、ポリプロピレン系樹脂は、チーグラー触媒などを用いた重合体であってもよいが、分子量分布の狭い重合体が得られる点から、メタロセン触媒を用いたメタロセン系樹脂であってもよい。これらのポリプロピレン系樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0058】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン共重合体[例えば、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PFEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(PETFE)など]などが挙げられる。
【0059】
これらのフッ素樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのフッ素樹脂のうち、通常、PTFE、溶媒可溶性フッ素樹脂(例えば、PVDFなど)などである場合が多い。
【0060】
セルロース誘導体としては、例えば、セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類などが挙げられる。これらのセルロース誘導体は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。セルロース誘導体のうち、通常、セルロースエステル類である場合が多い。
【0061】
セルロースエステル類には、セルロース有機酸エステル、セルロース有機酸エステル・エーテル、セルロース無機酸エステル、セルロース有機酸・無機酸混合エステルなどが含まれる。
【0062】
セルロース有機酸エステルとしては、例えば、セルロースアシレート[セルロースジアセテート(DAC)、セルローストリアセテート(TAC)などのセルロースアセテート;セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースC3-6アシレート;セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)などのセルロースアセテート-C3-6アシレートなど]、芳香族有機酸エステル(セルロースフタレート、セルロースベンゾエートなどのセルロースC7-12芳香族カルボン酸エステルなど)などが挙げられる。
【0063】
セルロース有機酸エステル・エーテルとしては、例えば、アセチルメチルセルロース、アセチルエチルセルロース、アセチルプロピルセルロースなどのC2-6アシルセルロースC1-6アルキルエーテル;アセチルヒドロキシエチルセルロース、アセチルヒドロキシプロピルセルロースなどのC2-6アシルセルロースヒドロキシC2-6アルキルエーテルなどが挙げられる。
【0064】
セルロース無機酸エステルとしては、例えば、硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどが挙げられる。
【0065】
セルロース有機酸・無機酸混合エステルとしては、例えば、硝酸酢酸セルロースなどが挙げられる。
【0066】
これらのセルロースエステル類は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのセルロースエステル類のうち、セルロースアセテートなどのセルロース有機酸エステル、硝酸セルロースなどのセルロース無機酸エステル、なかでも、TACなどのセルロースアシレートである場合が多い。
【0067】
これらの熱可塑性樹脂のうち、ポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂、セルロース誘導体(特に、ポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂、容易に入手できる観点からはポリオレフィン系樹脂)が好ましく、なかでも、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリα-C2-3オレフィン系樹脂(特に、ポリエチレン系樹脂)、PTFE、PVDFなどのフッ素樹脂(特に、PVDF)が好ましい。
【0068】
これらの熱可塑性樹脂は、慣用の添加剤を含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、防腐剤、殺菌剤、可塑剤、滑剤、着色剤、粘度調整剤、レベリング剤、界面活性剤、帯電防止剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。添加剤の割合は、樹脂100重量部に対して、例えば、50重量部以下、好ましくは30重量部以下(例えば0.01~30重量部)、さらに好ましくは10重量部以下(例えば0.1~10重量部)程度であってもよい。
【0069】
このような熱可塑性樹脂の多孔質膜の調製方法は特に制限されず、慣用の方法、例えば、樹脂溶液の相分離を利用する方法、樹脂フィルムを延伸処理する方法、樹脂フィルムにα線などの高エネルギー線を照射する方法などにより調製してもよい。
【0070】
また、IL非親和性多孔質層(B)は、イオン液体含有液(A)に対する濡れ性(又は接触角)を調整するために、慣用の表面処理(例えば、特開平6-9810号公報に記載の処理、すなわち、フッ化アルキル基を有するエチレン性不飽和モノマー由来の架橋体を付着させる処理など)が施されていてもよい。
【0071】
IL非親和性多孔質層(B)としては、市販品を用いてもよく、例えば、宇部マクセル製(株)「シーポア」、宇部興産(株)製「ユーポア」、メルクミリポア社製「デュラペル」などが挙げられる。
【0072】
IL非親和性多孔質層(B)の平均厚みは、例えば、1~200μm、好ましくは10~150μm、さらに好ましくは15~130μm程度であってもよい。
【0073】
IL非親和性多孔質層(B)の孔径(平均孔径又は平均細孔径)は、例えば、0.001~10μm(例えば、0.01~5μm)程度の広い範囲から選択してもよく、例えば、0.001~1μm(例えば、0.005~0.5μm)、好ましくは0.01~0.4μm(例えば、0.03~0.35μm)、さらに好ましくは0.05~0.3μm(例えば、0.07~0.25μm)程度であってもよい。孔径が小さすぎると、気体透過性が低下するおそれがあり、大きすぎると、イオン液体含有液(A)などが透過して、IL含有積層体に保持できなくなるおそれがある。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、孔径(平均孔径又は平均細孔径)は、水銀圧入法などの慣用の方法により測定できる。
【0074】
IL非親和性多孔質層(B)の空隙率(空孔率又は多孔度)は、多孔質層の製造方法などに応じて、例えば、1~90%(例えば、10~80%)程度の広い範囲から選択してもよく、例えば、20~85%、好ましくは30~80%、さらに好ましくは40~75%程度であってもよい。空隙率が小さすぎると、気体透過性が低下するおそれがあり、大きすぎると、イオン液体含有液(A)が透過して、IL含有積層体に保持できなくなるおそれがある。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、空隙率(空孔率又は多孔度)は、いずれか一方の多孔質層全体[IL非親和性多孔質層(B)全体又はIL親和性多孔質層(C)全体]対する前記多孔質層の空隙の体積割合を表し、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0075】
IL非親和性多孔質層(B)の連通孔率は、例えば、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、実質的に100%)程度であってもよい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、連通孔率は、多孔質層の空隙に対する連通孔の体積割合を表し、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した断面の画像から算出してもよい。
【0076】
IL非親和性多孔質層(B)のイオン液体含有液(A)(例えば、イオン液体など)に対する接触角は、例えば、90°以上(例えば、90~150°)、好ましくは95°以上(例えば、95~148°)、さらに好ましくは100°以上(例えば、100~145°)程度であってもよい。接触角が小さすぎると、イオン液体含有液(A)が透過してしまい、保持できないおそれがある。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、接触角は、前述のような慣用の方法により測定できる。
【0077】
[IL親和性多孔質層(C)(又は第2の多孔質層(C))]
IL親和性多孔質層(C)は、内部に多数の孔(細孔又は空隙)を有しており、その表面(内部の空隙における表面(又は壁面)を含んでいてもよい)は、通常、親水性(IL非親和性多孔質層(B)に対して、相対的に親水性)である場合が多い。また、前記空隙は、独立孔を含んでいてもよく、含んでいなくてもよいが、厚み方向に連通する連通孔(又は貫通孔)を少なくとも含んでいる。IL親和性多孔質層(C)[IL親和性多孔質層(C)を構成する材質、又はIL親和性多孔質層(C)形成成分]は、前記IL非親和性多孔質層(B)の項に記載の樹脂などの有機材料を主成分として含んでいてもよいが、成形性に優れ、かつ機械的特性などに優れる点から、無機材料を主成分として[IL親和性多孔質層(C)全体に対して、例えば、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上(実質的に100重量%程度)の割合で]含むのが好ましい。そのため、IL親和性多孔質層(C)は、前記IL非親和性多孔質層(B)の項に記載の樹脂を親水化処理したもの(例えば、親水化PTFE製多孔質膜、親水化PVDF製多孔質膜など)であってもよいが、通常、無機材料で形成された多孔質膜(多孔膜、多孔性膜又は微多孔膜)である場合が多い。このようにIL親和性多孔質層(C)が無機材料で形成されていると、IL含有積層体に無機材料由来の剛直性を付与できるため、薄くてもIL含有積層体が取り扱い易くハンドリング性を有効に向上できる。特に、気体透過性低下の原因となる膨潤又はゲル化を有効に抑制できるのみならず、寸法安定性も向上できるため好ましい。
【0078】
無機材料としては、通常、金属酸化物、例えば、周期表第4A族金属酸化物(例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウムなど)、第5A族金属酸化物(酸化バナジウムなど)、第6A族金属酸化物(酸化モリブデン、酸化タングステンなど)、第7A族金属酸化物(酸化マンガンなど)、第8族金属酸化物(酸化ニッケル、酸化鉄など)、第1B族金属酸化物(酸化銅など)、第2B族金属酸化物(酸化亜鉛など)、第3B族金属酸化物(酸化アルミニウム、酸化インジウムなど)、第4B族金属酸化物(酸化ケイ素、酸化錫など)、第5B族金属酸化物(酸化アンチモンなど)などが挙げられる。
【0079】
これらの金属酸化物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらの金属酸化物のうち、イオン液体含有液(A)との親和性(又は親水性)、比重などに由来する分散液(又はスラリー)の調製容易性、さらには、入手容易性などの観点から、酸化アルミニウムなどの第3B族金属酸化物、酸化ケイ素などの第4B族金属酸化物(特に、酸化アルミニウムなどの第3B族金属酸化物)などが好ましい。
【0080】
前記無機材料(又は金属酸化物)は粒子状の形態であってもよい。無機材料(又は金属酸化物)の平均粒径は、例えば、個数基準で、0.001~10μm(例えば、0.01~5μm)、好ましくは0.1~3μm(例えば、0.3~2μm)、さらに好ましくは0.5~1.5μm(例えば、0.8~1.2μm)程度であってもよい。本明細書及び請求の範囲において、前記平均粒径は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0081】
粒子の形状は、特に限定されず、球状(又は略球状)、楕円体状、多角体形状(多角錘状、正方体状、直方体状など)、板状、棒状、不定形などが挙げられるが、通常、不定形である場合が多い。また、無機材料は、分散性を向上する点から、表面処理されていてもよく、されていなくてもよい。
【0082】
IL親和性多孔質層(C)を粒子状の無機材料(又は金属酸化物)を用いて調製すると、粒子間の隙間(空隙)によりIL親和性多孔質層(C)自体の気体透過性を高く調整できるため、積層構造としても気体透過性の低下を有効に抑制できる。また、IL含有積層体(例えば、IL含有積層体におけるIL親和性多孔質層(C)側)の表面に触れても、IL親和性多孔質層(C)の剛直性のためか、内包されたイオン液体含有液(A)が滲出し難いため、イオン液体含有液(A)を液体状態のまま安定に保持し易く、かつIL含有積層体表面のべたつきを有効に抑制できるようである。
【0083】
また、IL親和性多孔質層(C)は、イオン液体含有液(A)(例えば、イオン液体など)に対する濡れ性(又は接触角)を調整するために、慣用の表面処理(例えば、シランカップリング剤による処理など)が施されていてもよい。
【0084】
IL親和性多孔質層(C)の平均厚みは、例えば、0.01~100μm(例えば、0.05~80μm)程度の範囲から選択でき、例えば、0.1~60μm(例えば、0.5~50μm)、好ましくは1~40μm(例えば、3~30μm)、さらに好ましくは4~25μm(例えば、5~20μm)程度であってもよい。平均厚みが大きすぎると、IL含有積層体の重量が増加するおそれがある。
【0085】
IL親和性多孔質層(C)の孔径(平均孔径又は平均細孔径)は、例えば、0.001~10μm(例えば、0.01~5μm)程度であってもよい。孔径が小さすぎると、イオン液体含有液(A)を保持できる量が減少するのみならず、気体透過性が低下するおそれがある。IL親和性多孔質層(C)を無機材料(例えば、金属酸化物粒子など)で形成すると、気体透過性を高く調整し易いようである。
【0086】
IL親和性多孔質層(C)の空隙率(空孔率又は多孔度)は、例えば、1~90%(例えば、10~80%)程度の広い範囲から選択してもよく、例えば、5~70%(例えば、10~60%)、好ましくは15~50%(例えば、20~45%)、さらに好ましくは25~40%(例えば、30~35%)程度であってもよい。空隙率が小さすぎると、イオン液体含有液(A)を保持できる量が減少するのみならず、気体透過性が低下するおそれがある。大きすぎると、イオン液体含有液(A)を安定に保持できなくなるおそれがある。
【0087】
IL親和性多孔質層(C)の連通孔率は、例えば、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、実質的に100%)程度であってもよい。
【0088】
IL親和性多孔質層(C)のイオン液体含有液(A)(例えば、イオン液体など)に対する接触角は、例えば、90°未満(例えば、0°以上90°未満)、好ましくは85°以下(例えば、15~85°)、さらに好ましくは80°以下(例えば、30~80°)程度であってもよい。接触角が大きすぎると、イオン液体含有液(A)を保持し難くなるおそれがある。
【0089】
IL非親和性多孔質層(B)及びIL親和性多孔質層(C)におけるイオン液体含有液(A)(又はイオン液体)に対する接触角の差は、例えば、10°以上(例えば、15~55°)、好ましくは20°以上(例えば、25~50°)、さらに好ましくは30°以上(例えば、30~45°)程度であってもよい。接触角の差が小さすぎると、イオン液体含有液(A)を安定に保持し難くなるおそれがある。また、接触角の差が大きすぎると、イオン液体含有液(A)の目付け量が少ない場合に、IL親和性多孔質層内部で扁平状(又は面方向)に広がらないおそれがある。
【0090】
[IL含有積層体及びその製造方法]
本発明のIL含有積層体は、IL非親和性多孔質層(B)と、IL親和性多孔質層(C)とを備えた積層体(IL未含有積層体)において、IL親和性多孔質層(C)の空隙に、イオン液体含有液(A)を含む液体(又は含浸液)を含浸させる工程(含浸工程)を含んでいてもよい。
【0091】
含浸液は、前記イオン液体含有液(A)のみで構成されていてもよく、イオン液体含有液(A)と溶媒(又は分散媒)とを混合した混合液(溶液又は分散液)であってもよい。イオン液体含有液(A)の換算膜厚を薄膜化し易い観点からは、含浸液は混合液であるのが好ましい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「換算膜厚」は、IL含有積層体が含有するイオン液体含有液(A)を用いて、IL含有積層体と同じ面積を有する液膜を形成した場合の膜厚を意味する。
【0092】
溶媒(又は分散媒)としては、イオン液体含有液(A)よりも揮発性が高い溶媒であるのが好ましく、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなどの低級アルコールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ギ酸メチル、ギ酸エチルなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼンなど)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、ジクロロエタンなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、通常、水、アルコール類(例えば、メタノールなどのC2-6アルカノールなど)などの水性溶媒(又は水溶性溶媒)が使用されることが多い。含浸液におけるイオン液体含有液(A)の濃度は、例えば、0.001~100重量%、好ましくは0.01~50重量%(例えば、0.05~30重量%)、さらに好ましくは0.1~10重量%(例えば、0.1~8重量%)程度であってもよい。
【0093】
含浸液を含浸させる方法は特に制限されず、例えば、含浸液を圧入する方法などであってもよい。詳しくは、IL非親和性多孔質層(B)とIL親和性多孔質層(C)とを備えた積層体(IL未含有積層体)において、IL親和性多孔質層(C)側の積層体表面(又は積層体の最外層)を含浸液と接触させ、反対側(IL非親和性多孔質層(B)側)を減圧する(又は反対側から吸引する)方法により含浸液を含浸してもよい。このような方法により、本発明のIL含有積層体を容易に又は効率よく成形できる。
【0094】
また、含浸液として前記混合液を用いる場合、含浸工程後に溶媒(又は分散媒)を揮発させることにより、IL含有積層体を調製してもよい。溶媒(又は分散媒)を除去することにより、イオン液体含有液(A)の換算膜厚を簡便に調整可能であり、薄膜化も容易である。溶媒を揮発させる方法は特に制限されず、溶媒の沸点や蒸気圧に応じて、適宜加熱及び/又は減圧して揮発させればよい。
【0095】
本発明のIL含有積層体において、イオン液体含有液(A)の含有量は特に制限されず、イオン液体含有液(A)を含有するIL親和性多孔質層(C)の内部の空隙100体積部に対して、100体積部を超えるイオン液体を含んでいてもよい。すなわち、IL含有積層体は、イオン液体含有液(A)を含有(又は保持)するIL親和性多孔質層(C)に隣接して、空隙に入り切らないイオン液体含有液(A)を含む第2のイオン液体含有層を有していてもよい。IL含有積層体の取り扱い性を向上できる観点から、イオン液体含有液(A)を含有(又は保持)するIL親和性多孔質層(C)は、内部の空隙100体積部に対して、100体積部以下、例えば、0.1~100体積部(例えば、1~100体積部)程度の範囲から選択でき、例えば、5~90体積部(例えば、8~85体積部)、好ましくは10~80体積部(例えば、15~75体積部)、さらに好ましくは20~70体積部(例えば、25~65体積部)程度のイオン液体含有液(A)を含んでいてもよい。イオン液体含有液(A)の量が多すぎると、取り扱い性が低下するおそれがある。
【0096】
本発明のIL含有積層体において、イオン液体含有液(A)の換算膜厚は、例えば、0.01~30μm、(例えば、0.05~20μm)、好ましくは0.5~10μm(例えば、0.8~8μm)、さらに好ましくは1~5μm(例えば、1.2~3.2μm)程度であってもよい。換算膜厚が大きすぎると、透過速度が低下するおそれがある。換算膜厚が小さすぎると、耐圧性が低下するおそれがあり、二酸化炭素分離膜として利用する際に、二酸化炭素濃縮能力(又は分離能)が低下するおそれがある。
【0097】
なお、IL非親和性多孔質層(B)と、IL親和性多孔質層(C)とを備えた積層体(IL未含有積層体)は、例えば、IL非親和性多孔質層(B)のいずれか一方の表面に、IL親和性多孔質層(C)を直接又は間接的に積層(又は形成)することにより調製できる。IL親和性多孔質層(C)を積層(又は形成)する方法は、特に制限されず、例えば、圧着、熱融着、接着剤又は粘着剤などによる接着などであってもよい。また、無機材料でIL親和性多孔質層(C)を形成する場合には、慣用の方法、例えば、粉末状の無機材料を焼結する方法などで形成してもよいが、所定の多孔質層を容易に又は効率よく成形でき、取り扱い性も向上できる点から、粒子状(又は粉末状)の無機材料を分散媒に分散した分散液(又はスラリー)を塗布して、塗膜を乾燥する塗布工程を含む方法により形成してもよい。
【0098】
前記分散媒としては、例えば、前記含浸液の項に例示した溶媒(又は分散媒)と同様のものなどが挙げられる。これらの分散媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらの分散媒のうち、通常、水が用いられることが多い。分散媒として水を用いる場合、必要に応じて、IL非親和性多孔質層(B)に対する塗布性を改善するために、イソプロパノールなどのアルコール類を少量(例えば、無機材料100重量部に対して、0.01~10重量部、好ましくは0.1~2重量部程度)添加してもよい。
【0099】
また、必要に応じて、結着剤(又はバインダー)[例えば、カルボキシメチルセルロース又はその塩(ナトリウム塩など)、ヒドロキシアルキルセルロース(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、メチルセルロースなどの水溶性樹脂;スチレンブタジエンゴムラテックスなどのラテックスなど]を少量(例えば、無機材料100重量部に対して、0.01~10重量部、好ましくは0.1~2重量部程度)添加してもよい。結着剤は必ずしも必要ではないが、膜厚が大きなIL親和性多孔質層(C)を調製する場合に有効である。
【0100】
分散液中の無機材料の濃度は、分散液全体に対して、例えば、0.1~50重量%、好ましくは1~30重量%、さらに好ましくは3~20重量%(例えば、5~15重量%)程度である。
【0101】
塗布方法としては、特に制限されず、慣用の方法、例えば、ロールコーター法、エアナイフコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、リバースコーター法、バーコーター法、コンマコーター法、ディップ・スクイズコーター法、ダイコーター法、グラビアコーター法、マイクログラビアコーター法、シルクスクリーンコーター法、ディップ法、スプレー法、スピナー法などが挙げられる。これらの方法のうち、バーコーター法が汎用される。なお、必要であれば、分散液(又は塗布液)は複数回に亘り塗布してもよい。
【0102】
塗布工程では、さらに前記分散液を流延又は塗布した後、分散媒を蒸発させて塗膜を乾燥する。乾燥温度は、通常、分散媒の沸点などに応じて選択でき、例えば、50~150℃、好ましくは80~120℃、さらに好ましくは90~110℃程度であってもよい。
【0103】
なお、本発明のIL含有積層体(又はIL非親和性多孔質層(B)と、IL親和性多孔質層(C)とを備えたIL未含有積層体)は、IL非親和性多孔質層(B)及びIL親和性多孔質層(C)の2層構造であってもよく、さらに、前記第2のイオン液体含有層などの他の層(又は第3の層)を含む3層以上の多層構造(例えば、3~5層構造など)であってもよい。第3の層としては、気体が透過可能である限り特に制限されず、例えば、前記第2のイオン液体含有層、支持体層[例えば、金属(ステンレス鋼など)又は樹脂製の網(又はメッシュ)など]、接着剤又は粘着剤層などが挙げられる。これらの第3の層は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。気体透過性の観点から、本発明のIL含有積層体は、2~3層構造(特に、2層構造)であるのが好ましい。また、イオン液体含有液(A)を有効に保持又は固定化できる観点から、IL非親和性多孔質層(B)とIL親和性多孔質層(C)とが隣接して形成されているのが好ましい。
【0104】
このようにして得られる本発明のIL含有積層体は、気体透過性に優れるため、例えば、気体分離膜(気体濃縮膜)などとして利用できる。気体分離膜として利用する場合、通常、イオン液体含有液(A)を含有するIL親和性多孔質層(C)側を気体供給側(供給側又は上流側)、反対側(IL非親和性多孔質層(B)側)を透過側(又は下流側)にして使用することが多い。
【0105】
本発明のIL含有積層体を二酸化炭素分離膜として利用する場合、IL含有積層体の二酸化炭素透過係数は、27℃、1気圧の条件下において、例えば、0.01×10-10cm・cm/(s・cm・cmHg)以上[例えば、0.1×10-10~10×10-10cm・cm/(s・cm・cmHg)]、好ましくは1×10-10cm・cm/(s・cm・cmHg)以上[例えば、1.5×10-10~8×10-10cm・cm/(s・cm・cmHg)]、さらに好ましくは2×10-10cm・cm/(s・cm・cmHg)以上[例えば、2.5×10-10~6×10-10cm・cm/(s・cm・cmHg)]程度であってもよい。
【0106】
また、IL含有積層体の二酸化炭素透過速度は、27℃、1気圧、供給側と透過側との差圧50~100kPa(例えば、65~90kPa程度)、積層体面積約12.57cmの条件下において、例えば、0.001×10-3mL/秒以上(例えば、0.01×10-3~3×10-3mL/秒)、好ましくは0.1×10-3mL/秒以上(例えば、0.3×10-3~2×10-3mL/秒)、さらに好ましくは0.5×10-3mL/秒以上(例えば、1×10-3~2.2×10-3mL/秒)程度であってもよい。
【0107】
なお、二酸化炭素透過係数及び二酸化炭素透過速度は、後述する実施例に記載の方法などにより測定できる。
【実施例
【0108】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例において使用した材料を以下に示す。
【0109】
[材料]
(イオン液体)
emimDCA:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジシアナミド、東京化成工業(株)製
emimTFSA:1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド[又は1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド]、東京化成工業(株)製
4444Pro:テトラブチルホスホニウムプロリネート、特開2014-139149[0034]の記載に準拠して合成した。
【0110】
(第2の液体又は促進輸送剤)
TETA:トリエチレンテトラミン、東京化成工業(株)製。
【0111】
(イオン液体非親和性多孔質層(B))
PE多孔膜:宇部興産(株)製「ユーポア」、ポリエチレン製の多孔質膜、孔径0.1μm、厚み20μm
デュラペル:メルクミリポア社製「デュラペル」、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)性の多孔質膜をフッ素含有モノマーで表面処理したもの、孔径0.22μm、厚み125μm
PVDFフィルター1:メルクミリポア社製「デュラポアGVHP」、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の多孔質膜、孔径0.22μm、厚み125μm
PVDFフィルター2:メルクミリポア社製「デュラポアVVHP」、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の多孔質膜、孔径0.1μm、厚み125μm
セルロースアセテートフィルター:ADVANTEC社製「C020A047A」、セルロースアセテート製の多孔質膜、孔径0.2μm、厚み20μm
桐山ろ紙:(有)桐山製作所製「桐山ロート用ろ紙No5C」、捕集粒子サイズ1μm、厚み200μm。
【0112】
(IL親和性多孔質層(C))
アルミナ粒子:和光純薬工業(株)製「α-アルミナ」、平均粒径(カタログ値):約1μm、個数基準の平均粒径(実測値):0.94μm;不定形。なお、個数基準の平均粒径(実測値)は、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、「JSM-6700F」)にて10000倍に拡大した画像を撮影し、任意の20個の粒子の長径を測定し、得られた長径の平均値を算出して求めた。
親水性PVDFフィルター1:メルクミリポア社製「デュラポアGVWP」、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の多孔質膜を親水化処理(PVDF主鎖に親水性基を化学結合させる処理)したもの、孔径0.22μm、厚み125μm
親水性PVDFフィルター2:メルクミリポア社製「デュラポアVVPP」、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の多孔質膜を親水化処理(PVDF主鎖に親水性基を化学結合させる処理)したもの、孔径0.1μm、厚み125μm。
【0113】
[イオン液体の各種基材に対する透過性評価]
基材(又はIL未含有積層体)を直径4cmの円形に切断して、吸引瓶上に設置したろ過器に固定した。固定した基材にイオン液体を滴下し、滴下した面の反対側を差圧が30kPaとなるように減圧した。滴下したイオン液体の基材に対する透過性を目視で確認し、以下の基準で評価した。
【0114】
○:基材を抜けず、かつ滴を形成することなく基材上に広がっていく
△:基材上ではじかれて、滴を形成する
×:基材を抜けてしまう。
【0115】
(実施例1)
前記アルミナ粒子と、水とを混合して、濃度8~10重量%のアルミナ粒子分散液(アルミナ粒子スラリー)を調製した。IL非親和性多孔質層(B)としてのPE多孔膜の上に、得られたアルミナ粒子スラリーをワイヤーバーを用いてバーコーター方式で塗布し、100℃で1分間乾燥してIL親和性多孔質層(C)を形成した。なお、アルミナ粒子スラリーは、乾燥後のIL親和性多孔質層(C)の厚みが5μmとなるように塗布した。得られたIL未含有積層体を用いて、イオン液体に対する透過性を評価した。なお、イオン液体は、固定したIL未含有積層体のIL親和性多孔質層(C)側に滴下し、滴下した面の反対側(IL非親和性多孔質層(B)側)を減圧した。
【0116】
(実施例2)
アルミナ粒子分散液に、アルミナ粒子の重量に対して1重量%のイソプロパノール(IPA)を添加すること、及びIL非親和性多孔質層(B)として、デュラペルを使用すること以外は、実施例1と同様にしてIL未含有積層体を調製し、得られたIL未含有積層体に対するイオン液体の透過性を評価した。
【0117】
(比較例1~8)
IL未含有積層体を形成することなく、表1に記載のIL非親和性多孔質層(B)又はIL親和性多孔質層(C)のみを基材として、イオン液体の透過性を評価した。
【0118】
実施例1~2及び比較例1~8の結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
表1の結果から明らかなように、比較例に比べて、IL未含有積層体を形成した実施例では、イオン液体を透過することなく、液体状態のまま基材に安定に保持できた。
【0121】
[イオン液体含有液(A)量に対する外観の評価]
(実施例3~6)
実施例1で調製したIL非親和性多孔質層(B)としてのPE多孔膜と、IL親和性多孔質層(C)としてのアルミナ粒子膜とのIL未含有積層体を直径4cmの円形に切断し、吸引瓶上に設置したろ過器に固定した。IL親和性多孔質層(C)側にIL含有液(A)を含む含浸液としてemimDCAの水溶液[IL含有液(A)の濃度:0.14重量%(実施例3)、0.28重量%(実施例4)、1.39重量%(実施例5)、5.58重量%(実施例6)]を用いて、IL含有液(A)[emimDCA]の目付け量が表2に記載の値となるように塗布して、IL非親和性多孔質層(B)側から差圧が30kPaとなるように減圧した。次いで、真空乾燥機を用いて積層体を減圧下、60℃で10時間乾燥して、イオン液体含有液(A)を含有する積層体(IL含有積層体)を調製した。得られたIL含有積層体の外観の評価結果を表2に示す。なお、目付け量は、イオン液体含有液(A)塗布前後の積層体の重量変化から算出した。
【0122】
(実施例7~10)
実施例2で調製したIL非親和性多孔質層(B)としてのデュラペルと、IL親和性多孔質層(C)としてのアルミナ粒子膜とのIL未含有積層体を直径4cmの円形に切断し、吸引瓶上に設置したろ過器に固定した。含浸液としてemimDCAの水溶液[IL含有液(A)の濃度:0.14重量%(実施例7)、0.28重量%(実施例8)、1.39重量%(実施例9)、5.58重量%(実施例10)]を用いて、IL含有液(A)[emimDCA]の目付け量が表3に記載の値となるよう塗布して、IL非親和性多孔質層(B)側から差圧が30kPaとなるように減圧した。次いで、真空乾燥機を用いて積層体を減圧下、60℃で10時間乾燥して、IL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体の外観の評価結果を表3に示す。
【0123】
(実施例11~14)
IL含有液(A)を含む含浸液としてのemimDCAの水溶液に代えて、emimTFSAのメタノール溶液[IL含有液(A)の濃度:0.19重量%(実施例11)、0.38重量%(実施例12)、1.91重量%(実施例13)、7.64重量%(実施例14)]を用いて、IL含有液(A)[emimTFSA]の目付け量が表4に記載の値となるよう塗布する以外は、実施例7と同様にして、IL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体の外観の評価結果を表4に示す。
【0124】
(実施例15~18)
IL含有液(A)を含む含浸液としてのemimDCAの水溶液に代えて、P4444Proの水溶液[IL含有液(A)の濃度:0.12重量%(実施例15)、0.25重量%(実施例16)、1.24重量%(実施例17)、4.94重量%(実施例18)]を用いて、IL含有液(A)[P4444Pro]の目付け量が表5に記載の値となるよう塗布する以外は、実施例3と同様にして、IL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体の外観の評価結果を表5に示す。
【0125】
(実施例19~22)
IL含有液(A)を含む含浸液としてのemimDCAの水溶液に代えて、P4444ProとTETAとの等モル混合液を含む水溶液[IL含有液(A)の濃度:0.12重量%(実施例19)、0.25重量%(実施例20)、1.23重量%(実施例21)、4.94重量%(実施例22)]を用いて、IL含有液(A)[P4444Pro/TETA]の目付け量が表6に記載の値となるよう塗布する以外は、実施例3と同様にして、IL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体の外観の評価結果を表6に示す。
【0126】
(実施例23~26)
アルミナ粒子分散液に、アルミナ粒子の重量に対して1重量%のカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩をさらに添加し、乾燥後のIL親和性多孔質層(C)の厚みが15μmとなるように塗布する以外は、実施例1と同様にして、IL未含有積層体を調製した。このIL未含有積層体を用いて、含浸液としてのemimDCAの水溶液[IL含有液(A)の濃度:0.42重量%(実施例23)、0.84重量%(実施例24)、2.09重量%(実施例25)、4.18重量%(実施例26)]を用いて、IL含有液(A)[emimDCA]の目付け量が表7に記載の値となるように塗布すること、及び減圧乾燥を60℃、24時間とすること以外は、実施例3と同様にして、IL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体の外観の評価結果を表7に示す。
【0127】
(実施例27~30)
含浸液としてのemimDCAの水溶液に代えて、P4444Proの水溶液[IL含有液(A)の濃度:0.37重量%(実施例27)、0.74重量%(実施例28)、1.85重量%(実施例29)、3.71重量%(実施例30)]を用いて、IL含有液(A)[P4444Pro]の目付け量が表8に記載の値となるように塗布する以外は、実施例23と同様にして、IL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体の外観の評価結果を表8に示す。
【0128】
なお、表において、IL親和性多孔質層(C)の空隙率εは、下記式により算出した。
【0129】
ε[%]=(1-ρ/ρC0)×100
[式中、εはIL親和性多孔質層(C)の空隙率、ρはIL親和性多孔質層(C)のかさ密度、ρC0はIL親和性多孔質層(C)形成成分の真密度(例えば、25℃程度の室温における真密度)を示す]。
【0130】
表において、「最大目付け量」は、単位面積当たりのIL親和性多孔質層(C)内部の空隙に、含有可能なIL含有液(A)量の最大値を意味し、下記式により算出した。
【0131】
(最大目付量)[g/m]=ρ×(V×ε)/S
[式中、ρはIL含有液(A)の密度(例えば、25℃程度の室温における密度)、VはIL親和性多孔質層(C)の体積(空隙を含む全体積)、εはIL親和性多孔質層(C)の空隙率、SはIL親和性多孔質層(C)(又はIL含有積層体)の面積を示す]。
【0132】
表において、「換算膜厚」は、保持されたIL含有液(A)と等量の液を用いて、IL含有積層体と同じ面積の液膜(直径4cmの円形状)を形成した場合の膜厚を意味し、下記式により算出した。
【0133】
t=(目付け量)/ρ
[式中、tは換算膜厚[μm]、ρはIL含有液(A)の密度(例えば、25℃程度の室温における密度)を示す]。
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【0136】
【表4】
【0137】
【表5】
【0138】
【表6】
【0139】
【表7】
【0140】
【表8】
【0141】
表2~8から明らかなように、実施例のIL含有積層体は、容易に成形可能であり、イオン液体を液体状態のまま安定に保持又は固定できる。特に、実施例3~4、7~8、11~12、15~16、19~20、23~24及び27~28のように、イオン液体含有液(A)の目付け量が最大目付け量以下であれば、IL含有積層体表面がべたつかないだけでなく、触れても液が滲出しないため、イオン液体を液体状態のまま安定に保持(又は固定)しつつ、取り扱い性にも優れていることが分かった。
【0142】
また、IL親和性多孔質層(C)は所望の厚みに容易に調整できるため、IL親和性多孔質層(C)の厚みに応じて最大目付け量を調整できる。そのため、IL含有積層体の取り扱い性を維持しつつ、IL含有液(A)の目付け量(又は換算膜厚)を容易に調整できる。従って、用途に応じて、IL含有積層体の特性(例えば、気体透過性、耐圧性、膜分離特性など)を適宜調整できる。
【0143】
(実施例31)
IL含有液(A)を含む含浸液としてのemimDCAの水溶液に、赤色水性インクをさらに添加したものを用いる以外は、実施例3と同様の方法によりIL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体を粘着テープで挟んで固定して凍結し、剃刀で切断して切片を作製した。この切片の切断面をCCDカメラで観察した結果を図1に示す。図1から明らかなように、IL含有液(A)は、IL親和性多孔質層(C)内部において、IL非親和性多孔質層(B)側に面方向(層状又は扁平状)に広がって分布していることが確認された。そのため、IL含有積層体表面に触れても、イオン液体含有液(A)が付着しないため、取り扱い性に優れると推測される。
【0144】
[二酸化炭素濃縮特性の評価]
温度27℃、1気圧の条件下において、図2に示す装置により、後述する表10に記載の差圧をかけて、IL含有積層体に系外の大気を供給して透過させることにより評価を行った。測定方法の詳細を以下に示す。
【0145】
(気体透過速度の測定)
系内のガスをダイアフラムポンプで吸引し、排気されたガス[IL含有積層体を透過した気体と、この気体を滞留させることなく押し流すためのスイープガス(流入速度60mL/分に制御された大気)との混合気体]を水上置換法で100mLメスシリンダーに採集して、100mLのガスを採集するのに要した時間T100[sec]を計測した。下記式により、IL含有積層体を透過する気体の透過速度v(mL/sec)を算出した。
【0146】
v[mL/sec]=(100-T100)/T100
(式中、vはIL含有積層体を透過した気体の透過速度[mL/sec]、T100はダイヤフラムポンプからの排出ガス100mLを採集するのに要した時間[sec]を示す)。
【0147】
(採取ガス中の二酸化炭素濃度の測定)
ダイヤフラムから排出されるガスの出口を、ガス分析用テドラーバッグ(ジーエルサイエンス(株)製、ポリフッ化ビニル製)に接続し、排出されたガス約400mLを採取した。採取したガスを二酸化炭素濃度分析用検知管((株)ガステック製「GV-100S」)に通気させ、排出ガス中の二酸化炭素濃度C(体積基準)[ppm]を求めた。得られた二酸化炭素濃度Cから、スイープガス中の二酸化炭素濃度(又は大気中の二酸化炭素濃度)Cを差し引くことにより、濃縮により上昇した二酸化炭素濃度(IL含有積層体を通して大気中から供給された二酸化炭素に相当する値)CIL(=C-C)を算出した。
【0148】
上記評価から得られた測定結果に基づいて、IL含有積層体における二酸化炭素濃縮速度[二酸化炭素透過速度又はCO透過速度]vCO2及び二酸化炭素透過係数(CO透過係数)Pを、下記式により算出した。
【0149】
CO2=v×CIL×10-6
(式中、vCO2はIL含有積層体を透過するCOの透過速度[mL/sec]、vはIL含有積層体を透過した気体の透過速度[mL/sec]、CILは濃縮により上昇した(IL含有積層体を通して大気中から供給された)二酸化炭素濃度(体積基準)[ppm]を示す)。
【0150】
P=vCO2/S/p×t
(式中、PはCO透過係数[cm・cm/(s・cm・cmHg)]、vCO2はCO透過速度[mL/sec]、Sは膜面積(IL含有積層体の面積)[cm]、pはIL含有積層体の上流側(供給側)と下流側(減圧側又は透過側)との差圧[cmHg]、tはイオン液体含有液(A)の換算膜厚[cm]を示す)。
【0151】
(実施例32及び34)
含浸液としてのemimDCAの水溶液[IL含有液(A)の濃度:0.14重量%(実施例32)、0.28重量%(実施例34)]を用いて、イオン液体含有液(A)[emimDCA]の目付け量が表9に記載の値となるように塗布する以外は、実施例7と同様にしてIL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体の二酸化炭素濃縮特性の評価結果を表10に示す。
【0152】
(実施例33、35、41及び42)
含浸液としてのemimDCAの水溶液[IL含有液(A)の濃度:0.14重量%(実施例33)、0.28重量%(実施例35)、1.39重量%(実施例41)、5.58重量%(実施例42)]を用いて、イオン液体含有液(A)[emimDCA]の目付け量が表9に記載の値となるように塗布する以外は、実施例3と同様にしてIL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体の二酸化炭素濃縮特性の評価結果を表10に示す。
【0153】
(実施例36~37及び43~44)
含浸液としてのemimTFSAのメタノール溶液[IL含有液(A)の濃度:0.38重量%(実施例36~37)、1.91重量%(実施例43~44)]を用いて、イオン液体含有液(A)[emimTFSA]の目付け量が表9に記載の値となるように塗布する以外は、実施例7と同様にしてIL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体の二酸化炭素濃縮特性の評価結果を表10に示す。
【0154】
(実施例38~39及び45~46)
含浸液としてのP4444Proの水溶液[IL含有液(A)の濃度:0.12重量%(実施例38)、0.25重量%(実施例39)、1.24重量%(実施例45)、4.94重量%(実施例46)]を用いて、イオン液体含有液(A)[P4444Pro]の目付け量が表9に記載の値となるように塗布する以外は、実施例3と同様にしてIL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体の二酸化炭素濃縮特性の評価結果を表10に示す。
【0155】
(実施例40及び47~48)
含浸液としてのP4444ProとTETAとの等モル混合液を含む水溶液[IL含有液(A)の濃度:0.12重量%(実施例40)、1.23重量%(実施例47)、4.94重量%(実施例48)]を用いて、イオン液体含有液(A)[P4444Pro/TETA]の目付け量が表9に記載の値となるように塗布する以外は、実施例3と同様にしてIL含有積層体を調製した。得られたIL含有積層体の二酸化炭素濃縮特性の評価結果を表10に示す。
【0156】
【表9】
【0157】
【表10】
【0158】
表9及び10から明らかなように、実施例32~48のIL含有積層体は、換算膜厚を所望の厚みに調整でき、厚みが薄い実施例32~40では、高い透過速度で二酸化炭素を濃縮できた。なかでも、P4444Proを用いた実施例38~40では、透過速度が高い傾向にあり、第2の液体としてTETAを添加した実施例40では、特に、透過速度が高かった。このことは、TETAと、P4444Pro中のプロリンアニオン([Pro])との親和性が高い(又は分散状態がよい)ことにより、TETAが二酸化炭素の透過(又は脱離)を阻害しない程度に二酸化炭素と相互作用できたためではないかと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明のIL含有積層体は、イオン液体を安定に保持(又は固定)でき、取り扱い性(又はハンドリング性)に優れているため、気体分離膜(又は気体濃縮膜)、例えば、二酸化炭素分離膜などとして有効に利用できる。
図1
図2