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特許7078645カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20220524BHJP
   B29C 41/26 20060101ALI20220524BHJP
   B29C 41/30 20060101ALI20220524BHJP
   D01F 9/12 20060101ALI20220524BHJP
   D21H 13/50 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C01B32/174
B29C41/26
B29C41/30
D01F9/12
D21H13/50
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019560480
(86)(22)【出願日】2018-01-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2018051646
(87)【国際公開番号】W WO2018138109
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】17152775.7
(32)【優先日】2017-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519266409
【氏名又は名称】コンヤール ベー・フェー
【氏名又は名称原語表記】Conyar B.V.
【住所又は居所原語表記】Bellefleur 1, 6662 HP Elst, Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハネケ ブルストゥル
(72)【発明者】
【氏名】モニーク メーウセン-ヴィールツ
(72)【発明者】
【氏名】ロナルト テア ヴァールベーク
(72)【発明者】
【氏名】ルネ ラ ファイユ
(72)【発明者】
【氏名】ヨリト デ ヨング
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリク マートマン
(72)【発明者】
【氏名】マルシン ヤン オットー
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-529640(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045418(WO,A1)
【文献】特表2014-530964(JP,A)
【文献】特表2005-502792(JP,A)
【文献】国際公開第2006/137893(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/174
B29C 41/26
B29C 41/30
D01F 9/12
D21H 13/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
なくとも50質量%のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法であって、以下の段階:
少なくとも1つの酸を含む酸性液体中のカーボンナノチューブを供給する段階、ここで、前記少なくとも1つの酸は100%硫酸のハメットの酸度関数より低いハメットの酸度関数を有し、前記少なくとも1つの酸は90%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する、および
カーボンナノチューブを含む前記酸性液体を成形物品へと成形する段階
を含む、前記方法。
【請求項2】
酸性液体中のカーボンナノチューブの分散液が供給される、請求項1に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項3】
前記酸性液体中に含まれるカーボンナノチューブの少なくとも一部が前記酸性液体中に溶解されており、前記酸性液体中で溶解されたカーボンナノチューブが、カーボンナノチューブを含む前記酸性液体の全体積の少なくとも0.1体積%を構成する、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項4】
カーボンナノチューブを含む前記酸性液体が、天然ロープ中に含まれるカーボンナノチューブを含、請求項1から3までのいずれか1項に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項5】
前記酸性液体中に溶解されているカーボンナノチューブが、カーボンナノチューブを含む前記酸性液体中に含まれる天然ロープの間に分布されている、請求項に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの酸が、90%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する硫酸である、請求項1から5までのいずれか1項に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項7】
前記酸性液体が1つ以上のさらなる酸を含み、その1つ以上のさらなる酸の各々が、100%硫酸のハメットの酸度関数よりも低いハメットの酸度関数を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項8】
前記酸性液体がさらなる酸としてポリリン酸を含む、請求項7に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項9】
カーボンナノチューブを含む前記酸性液体中に含まれるカーボンナノチューブの80質量%未満が個々のカーボンナノチューブへと溶解されている、請求項1から8までのいずれか1項に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項10】
前記成形物品がカーボンナノチューブ繊維であり、少なくとも1つの紡糸孔を通じてカーボンナノチューブを含む前記酸性液体を押出すことにより、カーボンナノチューブを含む前記酸性液体をカーボンナノチューブ繊維へと成形して、カーボンナノチューブ繊維を形成する、請求項1から9までのいずれか1項に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項11】
前記成形物品がカーボンナノチューブペーパーであり、多孔質の収集面を通じてカーボンナノチューブを含む前記酸性液体から酸性液体を除去することにより、カーボンナノチューブを含む前記酸性液体をカーボンナノチューブペーパーへと成形して、カーボンナノチューブペーパーを形成する、請求項1から9までのいずれか1項に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項12】
前記成形物品がカーボンナノチューブテープであり、カーボンナノチューブを含む前記酸性液体を表面上に流延することにより、カーボンナノチューブを含む前記酸性液体をカーボンナノチューブテープへと成形して、カーボンナノチューブテープを形成する、請求項1から9までのいずれか1項に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項13】
前記成形物品が同軸ケーブルであり、前記同軸ケーブルはカーボンナノチューブを含むシールドを含み、前記シールドは中心の導電性のコアと前記中心の導電性のコアを取り囲む絶縁層とを取り囲み、前記中心の導電性のコアと前記中心の導電性のコアを取り囲む絶縁層とを、カーボンナノチューブを含む前記酸性液体を通して引抜成形することによって、カーボンナノチューブを含む前記酸性液体をシールドへと成形し、カーボンナノチューブを含むシールドを含む同軸ケーブルを形成する、請求項1から9までのいずれか1項に記載のカーボンナノチューブを含む成形物品の製造方法。
【請求項14】
カーボンナノチューブを含む前記酸性液体は、少なくとも5μmの長さを有するカーボンナノチューブを含む、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
天然ロープ中に含まれるカーボンナノチューブの少なくとも50質量%が同じカイラリティを有する、請求項4または5に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法、および前記方法によって得られるカーボンナノチューブを含む成型物品に関する。
【0002】
本発明は特にカーボンナノチューブ繊維の製造方法に関するが、カーボンナノチューブを含む他の成型物品、例えばカーボンナノチューブペーパー、カーボンナノチューブテープ、およびカーボンナノチューブを含むシールドを含む同軸ケーブルであって、前記シールドが中心の導電性のコアと、該中心の導電性のコアを取り囲む絶縁層とを取り囲む前記同軸ケーブルも、前記方法によって製造できる。
【背景技術】
【0003】
カーボンナノチューブ繊維を製造するための先行技術の方法は、カーボンナノチューブを超酸中に導入して紡糸液を得ることによって紡糸液を製造する段階を含み、ここで、各々の個々のカーボンナノチューブはばらばらに溶解される。
【0004】
米国特許第7125502号明細書(US7125502 B2)は、単層カーボンナノチューブを100%硫酸または超酸中に導入し、3日間までの期間の混合の間、無水且つ無酸素に保持して、個別に分散され且つ互いに対して滑動および自己配列できるカーボンナノチューブを得る方法によって製造された、配列された単層カーボンナノチューブの繊維を開示している。前記超酸は個々の単層カーボンナノチューブ間に介在する。
【0005】
国際公開第2009/058855号(WO2009/058855 A2)は、超酸溶剤中のカーボンナノチューブ溶液から加工されたカーボンナノチューブ繊維を開示しており、前記超酸は個々のカーボンナノチューブの間に介在し、ここで超酸中でのカーボンナノチューブの濃度は、該溶液が液晶状態であるような濃度である。国際公開第2013/034672号(WO2013/034672 A2)は、超酸中のカーボンナノチューブを含む紡糸液から押出された低い抵抗率を有するカーボンナノチューブ繊維を開示している。
【0006】
先行技術の方法は、原料として高品質の、つまり少なくとも30のG/D比を有するカーボンナノチューブを必要とし、且つ/またはカーボンナノチューブ繊維へと押出され得る紡糸液を準備するために十分な品質の原料を得るための精製段階を必要とすることが判明している。
【0007】
先行技術の方法は、カーボンナノチューブ繊維へと押出され得る溶液に達するために72時間までの長い混合時間を必要とすることも判明している。
【0008】
国際公開第2009/058855号は、クロロスルホン酸のみが1μmを上回る長さを有するカーボンナノチューブを溶解でき、クロロスルホン酸のみが2層および多層カーボンナノチューブを溶解でき、且つクロロスルホン酸のみが、押出物が引っ張られることを可能にする粘度を溶液が有するために十分に高い濃度までカーボンナノチューブを溶解できることを開示している。
【0009】
カーボンナノチューブ繊維の製造方法におけるクロロスルホン酸の使用は望ましくなく、なぜなら、クロロスルホン酸は比較的高価であり、カーボンナノチューブ(CNT)繊維の製造において必要とされる装置に対して腐食性であり、且つ人体に有害であるとみなされるからである。クロロスルホン酸は多数の供給元からすぐに入手可能ではないことも注記される。
【0010】
国際公開第2006/137893号(WO2006/137893 A2)は、ポリマー不含のカーボンナノチューブ集成材、例えば繊維、ロープ、リボンまたはフィルムの製造方法であって、100%硫酸のプロトン供与力よりも低いプロトン供与力を有する分散液中にナノ繊維を分散し(つまり、超酸は使用しないで)、ナノ繊維の分散液を形成する段階を含み、ここで前記分散液はその質量による主成分として水を含む、前記方法を開示している。特に、前記分散液は、界面活性剤として機能する分散助剤を使用して形成され、得られる分散液は3~11のpHを有する。国際公開第2006/137893号によって提供されるカーボンナノチューブ繊維は10S/cmを上回る、または100S/cmを上回る電気伝導率を有することができる。
【0011】
しかしながら、先行技術の方法をさらに改善し、且つカーボンナノチューブを含む成型物品の特性を改善する必要がまだある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第7125502号明細書
【文献】国際公開第2009/058855号
【文献】国際公開第2013/034672号
【文献】国際公開第2006/137893号
【文献】国際公開第2006/137893号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法を改善し、且つ/またはカーボンナノチューブを含む成型物品の特性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の課題は、請求項1に記載の方法によって解決される。
【0015】
カーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくは少なくとも50質量%のカーボンナノチューブで構成される成型物品を製造するための本発明による方法は、以下の段階:
少なくとも1つの酸を含む酸性液体中のカーボンナノチューブを供給する段階、ここで、前記少なくとも1つの酸は100%硫酸のハメットの酸度関数よりも低いハメットの酸度関数を有し、前記少なくとも1つの酸は90%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する、および
カーボンナノチューブを含む前記酸性液体を成形物品へと成型する段階
を含む。前記ハメットの酸度関数がそれ自体、負の値をもたらすので、本発明について、100%硫酸のハメットの酸度関数よりも低いハメットの酸度関数を有する酸は、ハメットの酸度関数について、100%硫酸のハメットの酸度関数よりも低い絶対値を有することが理解されるべきである。同様に、90%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する酸は、ハメットの酸度関数について、90%硫酸のハメットの酸度関数以上の絶対値を有する。
【0016】
前記の方法は、超酸を使用することなくカーボンナノチューブを含む成型物品の製造を可能にする一方で、前記方法により得られた成型物品は有利な特性、例えば低い抵抗率、高い熱伝導率、および/または高い弾性率を有する。
【0017】
1つの実施態様において、前記方法は、
少なくとも1つの酸を含む酸性液体中のカーボンナノチューブの分散液を供給する段階、ここで、前記少なくとも1つの酸は100%硫酸のハメットの酸度関数よりも低いハメットの酸度関数を有し、前記少なくとも1つの酸は90%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する、および
前記分散液を成形物品へと成型する段階
を含む。
【0018】
他の実施態様において、酸性液体中に含まれるカーボンナノチューブの少なくとも一部は酸性液体中に溶解され、酸性液体中に溶解されたカーボンナノチューブが分散液の全体積の少なくとも0.1体積%を構成する。
【0019】
100%硫酸のハメットの酸度関数より低いが90%硫酸のハメットの酸度関数以上であるハメットの酸度関数を有する、好ましくは分散液中の少なくとも1つの酸を含む酸性液体は、カーボンナノチューブの分散液を得ることを可能にする一方で、前記酸性液体中に含まれるカーボンナノチューブの一部を溶解する。ハメットの酸度関数は、酸性液体中の酸について決定されると理解される。
【0020】
理論に束縛されるものではないが、分散液中に分散されたカーボンナノチューブ間の溶解されたカーボンナノチューブの存在は、分散液の成形物品への成型に際して酸性液体を除去する際に、成型物品の凝集の改善をもたらすと考えられる。溶解されたカーボンナノチューブは、分散液の酸性液体中に分散されたカーボンナノチューブの間での相互作用手段を提供し、それにより、カーボンナノチューブが凝集の間に互いに引きつけられることがもたらされると考えられる。
【0021】
100%硫酸のハメットの酸度関数より低いが90%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する少なくとも1つの酸を含む、好ましくは分散液における酸性液体は、酸性液体中でカーボンナノチューブの天然ロープ(native rope)を保持し、該方法によって製造されるカーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維の特性をさらに改善し、特に、カーボンナノチューブを含む成型物品の抵抗率、熱伝導率および/または弾性率を改善する。
【0022】
1つの実施態様において、酸性液体中の溶解されたカーボンナノチューブは、全体積の少なくとも0.15体積%、好ましくは少なくとも0.25体積%、より好ましくは分散液の全体積の少なくとも0.5体積%を構成し得る。
【0023】
1つの実施態様において、カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法において、前記酸性液体は、天然ロープ中に含まれるカーボンナノチューブを含む。好ましくは、酸性液体中に含まれるカーボンナノチューブの少なくとも10質量%が天然ロープ中に含まれ、酸性液体中に含まれるカーボンナノチューブの好ましくは少なくとも20質量%、より好ましくは少なくとも30質量%、より好ましくは少なくとも40質量%、最も好ましくは少なくとも50質量%が天然ロープ中に含まれる。
【0024】
1つの実施態様において、酸性液体中に溶解されたカーボンナノチューブは、酸性液体中に含まれる天然ロープの間で分布されて、該方法によって製造されるカーボンナノチューブを含む成型物品の特性をさらに改善する。天然ロープの間で分布された酸性液体中に溶解されたカーボンナノチューブは、酸性液体中に分散されたカーボンナノチューブの間の相互作用のための改善された手段をもたらすと考えられる。好ましくは、酸性液体中に溶解されたカーボンナノチューブは、天然ロープの間で均質に分布されて、該方法によって製造されるカーボンナノチューブを含む成型物品の特性をさらに改善する。しかしながら、天然ロープが酸性液体中で膨潤されて、成型物品の改善された特性をもたらすこともできる。
【0025】
1つの実施態様において、酸性液体中で溶解されたカーボンナノチューブは、分散液中で液晶相を形成する。好ましくは、液晶相は、分散液の酸性液体中で分散されたカーボンナノチューブの間に分布される。
【0026】
1つの実施態様において、カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法は、酸性液体中のカーボンナノチューブを、好ましくは分散液として供給する段階を含み、前記酸性液体中の少なくとも1つの酸は、90%硫酸のハメットの酸度関数以上、好ましくは95%硫酸のハメットの酸度関数以上、より好ましくは96%硫酸のハメットの酸度関数以上、より好ましくは97%のハメットの酸度関数硫酸以上、より好ましくは98%硫酸のハメットの酸度関数以上、より好ましくは99%硫酸のハメットの酸度関数以上、さらにより好ましくは99.8%硫酸のハメットの酸度関数以上、さらにより好ましくは99.9%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する硫酸である。完全に理解されているわけではないが、酸性液体中で溶解されたカーボンナノチューブが酸性液体中に分散されたカーボンナノチューブ間の相互作用手段をもたらすので、硫酸濃度の上昇は、得られるカーボンナノチューブを含む成型物品の密度を高めることが見出されたと考えられる。
【0027】
90%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する少なくとも1つの酸を含む酸性液体は、国際公開第2006/137893号に教示されるとおり、3~11のpHの範囲を遙かに下回るpH値を有する。
【0028】
1つの実施態様において、カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法において、酸性液体は1つ以上のさらなる酸を含み、その1つ以上のさらなる酸の各々が、100%硫酸のハメットの酸度関数よりも低いハメットの酸度関数を有する。
【0029】
1つの実施態様において、カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法において、前記酸性液体は、さらなる酸としてポリリン酸を含む。好ましくは、酸性液体は10質量%以下のポリリン酸、好ましくは5質量%以下のポリリン酸、より好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下のポリリン酸を含む。1つの実施態様において、酸性液体中のカーボンナノチューブの改善された分散を得るために、酸性液体は0.1質量%以上のポリリン酸、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上のポリリン酸を含んで、カーボンナノチューブを含む成型物品の特性をさらに改善する。
【0030】
1つの実施態様においては、カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法において、酸性液体中のカーボンナノチューブの分散液を供給する段階は、分散液中に含まれるカーボンナノチューブの80質量%未満が個々のカーボンナノチューブへと溶解され、好ましくは70質量%未満、好ましくは50質量%未満、好ましくは40質量%未満、より好ましくは30質量%未満、さらにより好ましくは20質量%未満、最も好ましくは10質量%未満の、分散液中に含まれるカーボンナノチューブが個々のカーボンナノチューブへと溶解されることを含む。
【0031】
カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法は、カーボンナノチューブ繊維の製造方法であることができ、好ましくは紡糸口金における少なくとも1つの紡糸孔を通じて酸性液体中のカーボンナノチューブの酸性液体を押出すことにより、酸性液体中の供給されたカーボンナノチューブをカーボンナノチューブ繊維へと成型して、カーボンナノチューブ繊維を形成する。
【0032】
カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法は、カーボンナノチューブペーパーの製造方法であることができ、好ましくは分散液である酸性液体を、例えばセルロースに基づく紙の製造において、または湿式不織布の製造において使用されるような多孔質の収集面を通じて除去することによって、酸性液体中のカーボンナノチューブの供給物をカーボンナノチューブペーパーへと成型する。
【0033】
カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法は、カーボンナノチューブテープの製造方法であることができ、ここで、カーボンナノチューブを含む酸性液体を表面上に、好ましくは、例えばポリオレフィンテープの製造において使用されるようなカレンダーのローラー表面上に流延することによって、カーボンナノチューブを含む酸性液体をカーボンナノチューブテープへと成型する。
【0034】
カーボンナノチューブを含む成型物品の製造方法は、同軸ケーブルの製造方法であることができ、前記同軸ケーブルはカーボンナノチューブを含むシールドを含み、そのシールドは、中心の導電性のコアと、該中心の導電性のコアを取り囲む絶縁層とを取り囲み、ここで、中心の導電性のコアおよび該中心の導電性のコアを取り囲む絶縁層を、カーボンナノチューブを含む酸性液体を通して引抜成型することによって、カーボンナノチューブを含む酸性液体がシールドへと成型される。
【0035】
分散液は、液体中に分布された固体粒子の混合物である。本発明における分散液との用語は、分散液中に含まれる全てのカーボンナノチューブの一部だけが、個々の単独のカーボンナノチューブへと溶解されている、つまり分散液中に含まれるカーボンナノチューブの80質量%未満が個々の単独のカーボンナノチューブへと溶解されていることを意味すると理解される。溶液との用語は、分散液中に含まれる全てのカーボンナノチューブの大部分が、個々の単独のカーボンナノチューブへと溶解されている、つまり分散液中に含まれるカーボンナノチューブの90質量%より多くが個々の単独のカーボンナノチューブへと溶解され、分散液中に含まれるカーボンナノチューブの好ましくは95質量%より多く、より好ましくは98質量%より多くが、個々の単独のカーボンナノチューブへと溶解されていることを意味すると理解される。
【0036】
好ましくは、本発明によるカーボンナノチューブ繊維の製造方法において供給される分散液は、分散液中に含まれるカーボンナノチューブの70質量%未満が酸性液体中で個々のカーボンナノチューブへと溶解されており、より好ましくは50質量%未満、より好ましくは40質量%未満、より好ましくは30質量%未満、さらにより好ましくは20質量%未満、最も好ましくは10質量%未満の、分散液中に含まれるカーボンナノチューブが個々のカーボンナノチューブへと溶解されている分散液である。
【0037】
本発明による方法は、任意の品質のカーボンナノチューブを使用して、カーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ(CNT)繊維の製造を可能にする。カーボンナノチューブの品質はG/D比によって定義され、それは例えば514nmの波長でのラマン分光法を使用して測定される。本発明による方法は、任意のG/D比を有するカーボンナノチューブを使用して、カーボンナノチューブを含む物品、好ましくはカーボンナノチューブ(CNT)繊維の製造を可能にする。しかしながら、本発明による方法は特に、15未満のG/D比、10未満のG/D比、またはさらには5未満、例えば5~10、好ましくは6~9、より好ましくは7~8の範囲のG/D比を有する、低品質のカーボンナノチューブを原料として使用して、カーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ(CNT)繊維の製造を可能にする。
【0038】
超酸、例えばクロロスルホン酸中で全てのカーボンナノチューブを個々に溶解する段階を含む先行技術の方法は、高いG/D比、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも30のG/D比を有するカーボンナノチューブを必要とする。
【0039】
1つの実施態様において、本発明によるカーボンナノチューブ繊維の製造方法において供給される分散液は、少なくとも10のG/D比、好ましくは少なくとも25のG/D比、より好ましくは少なくとも50のG/D比を有するカーボンナノチューブを含んで、成型物品の特性をさらに改善し、特に、カーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ(CNT)繊維の抵抗率を低下させる。
【0040】
当業者にとって、カーボンナノチューブのバッチは、直径、長さおよびカイラリティにおける分布、および一般に層数における分布を有することが明らかである。本発明において使用されるカーボンナノチューブは任意の種類のカーボンナノチューブ、例えば単層カーボンナノチューブ(SWNT)、2層カーボンナノチューブ(DWNT)、数層、つまり3または4層を有するカーボンナノチューブ(FWNT)、5層以上を有する多層カーボンナノチューブ(MWNT)およびそれらの混合物であって、その平均外径の少なくとも10倍、好ましくはその外径の少なくとも100倍、より好ましくはその外径の少なくとも1000倍、さらにより好ましくはその外径の少なくとも5000倍、最も好ましくはその外径の少なくとも10000倍の平均長さを有するものを意味すると理解されるべきである。前記カーボンナノチューブは、端部が開いたカーボンナノチューブまたは閉じたカーボンナノチューブであってよい。
【0041】
カーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維の、本発明による製造方法において供給されるカーボンナノチューブを含む酸性液体は、半導体型のカーボンナノチューブ、半金属型のカーボンナノチューブおよび/または金属型のカーボンナノチューブを含み得る。好ましくは、分散液中に含まれるカーボンナノチューブは、半金属型のカーボンナノチューブまたは金属型のカーボンナノチューブであって、カーボンナノチューブを含む成型物品における、好ましくはカーボンナノチューブ繊維における抵抗率を下げる。最も好ましくは、分散液中に含まれるカーボンナノチューブは、金属型のカーボンナノチューブである。
【0042】
1つの実施態様において、分散液中のカーボンナノチューブの大半は、最大4層、好ましくは最大3層、より好ましくは最大2層を有するカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブの大半との用語は、分散液中の全てのカーボンナノチューブの少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも75質量%、より好ましくは少なくとも90質量%、さらにより好ましくは少なくとも95質量%、最も好ましくは少なくとも98質量%が、最大4層、好ましくは最大3層、より好ましくは最大2層を有するカーボンナノチューブであって、得られるカーボンナノチューブを含む成形物品の、好ましくは得られるカーボンナノチューブ繊維の抵抗率、熱伝導率および/または機械的特性を改善することを意味すると理解される。1つの実施態様において、分散液中のカーボンナノチューブの全てが、最大4層、好ましくは最大3層、より好ましくは最大2層を有するカーボンナノチューブである。5層以上を有する多層カーボンナノチューブ(MWNT)は一般に、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、または数層のカーボンナノチューブよりも多くの数の欠陥を有する。カーボンナノチューブを含む成型物品、例えばカーボンナノチューブ繊維における低い抵抗率を得るためには2層カーボンナノチューブが本質的に最も適していると考えられるのだが、数層のカーボンナノチューブのほうが遙かに速く製造できるので、カーボンナノチューブを含む成型物品、例えばカーボンナノチューブ繊維のより経済的な製造方法を可能にする。
【0043】
1つの実施態様において、本発明による方法は、少なくとも50質量%のカーボンナノチューブ、好ましくは少なくとも75質量%、より好ましくは少なくとも90質量%、さらにより好ましくは少なくとも95質量%、最も好ましくは少なくとも98質量%のカーボンナノチューブからなる、カーボンナノチューブを含む成型物品、例えばカーボンナノチューブ繊維、カーボンナノチューブペーパーまたはカーボンナノチューブテープをもたらす。
【0044】
1つの実施態様において、本発明による方法は、100質量%のカーボンナノチューブからなる、カーボンナノチューブを含む成型物品、例えばカーボンナノチューブ繊維、カーボンナノチューブペーパーまたはカーボンナノチューブテープをもたらす。
【0045】
この発明において使用されるカーボンナノチューブ繊維との用語は、紡糸されたカーボンナノチューブの最終製品および任意の中間製品を含むと理解されるべきである。例えばそれは、紡糸孔から吐出される分散液の液体流、凝集媒体中に存在するような部分的および完全に凝集された繊維、延伸された繊維を包含し、且つそれはストリップされた、中和された、洗浄された、および/または熱処理された最終繊維製品も包含する。繊維との用語は、フィラメント、糸、リボンおよびテープを含むと理解されるべきである。繊維は、ミリメートルから事実上無限までの範囲の任意の所望の長さを有することができる。好ましくは、繊維は少なくとも10cm、より好ましくは少なくとも1m、より好ましくは少なくとも10m、最も好ましくは少なくとも1000mの長さを有する。
【0046】
好ましくは、酸性液体中に含まれるカーボンナノチューブは、少なくとも1μm、より好ましくは少なくとも2μm、さらにより好ましくは少なくとも5μm、さらにより好ましくは少なくとも15μm、さらにより好ましくは少なくとも50μm、最も好ましくは少なくとも100μmの平均長さを有する。国際公開第2009/058855号は、クロロスルホン酸のみが1μmを上回る長さを有するカーボンナノチューブを溶解でき、クロロスルホン酸のみが2層および多層カーボンナノチューブを溶解でき、且つクロロスルホン酸のみが、紡糸孔からの押出物が引っ張られること可能にするために十分に高い粘度を溶液が有するために十分に高い濃度までカーボンナノチューブを溶解できることを開示している。
【0047】
カーボンナノチューブが少なくとも1μmの平均長さを有する場合、低い抵抗率、高い熱伝導率および/または高い弾性率を有するカーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維を製造できる。カーボンナノチューブの平均長さの増加は、カーボンナノチューブを含む成型物品の特性、特にカーボンナノチューブを含む成形物品の、好ましくはカーボンナノチューブ繊維の抵抗率、熱伝導率および/または弾性率を改善することを可能にする。
【0048】
本発明による方法は、酸性液体中への混合前に、例えば残留する金属触媒粒子およびアモルファスの炭素質不純物を除去するために、酸性液体中に含まれるカーボンナノチューブを精製段階に供することを必要としない。従って該方法は、カーボンナノチューブを酸性混合物中へと混合する前のカーボンナノチューブの精製段階を除外できる。米国特許第7125502号明細書は、気相酸化および塩酸水溶液処理によって、単層カーボンナノチューブを精製して、残留する鉄金属触媒粒子およびアモルファスの炭素質不純物を除去することを開示している。
【0049】
分散液中に含まれるカーボンナノチューブは、約30質量%までの不純物、例えばアモルファスカーボンおよび/または触媒残留物、好ましくは20質量%まで、より好ましくは10質量%まで、最も好ましくは5質量%までの不純物を含有し得る。
【0050】
しかしながら、本発明による方法は、カーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維の特性、特にカーボンナノチューブを含む成型物品の抵抗率、熱伝導率および/または弾性率を改善するために、任意に精製段階を含むことができる。
【0051】
カーボンナノチューブを任意の公知の方法によって製造できる。カーボンナノチューブを例えば化学気相堆積(CVD)システムにおいて合成でき、ここで、カーボンナノチューブは基板上にアレイ状で成長する。理論に束縛されるものではないが、カーボンナノチューブは、アレイ状での合成の間、密に詰められており、高度に配列されており、且つカーボンナノチューブの特性に関して、例えばアレイ状で成長するカーボンナノチューブのカイラリティに関して、高い秩序を有すると考えられる。一般に入手可能な合成されたカーボンナノチューブは、少なくとも部分的に天然ロープの形態である。
【0052】
天然ロープとの用語は、アレイ状に成長した主に平行なカーボンナノチューブの集合体であって、アレイ状に成長したままの秩序を保っているものを意味すると理解される。天然ロープは好ましくは30~200nmの範囲の直径を有する。
【0053】
天然ロープ中に含まれるカーボンナノチューブは、半導体型、半金属型または金属型であってよい。好ましくは、天然ロープ中に含まれるカーボンナノチューブは、半金属型または金属型の性質を有し、カーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維における抵抗率を下げる。最も好ましくは、天然ロープ中に含まれるカーボンナノチューブは、金属型の性質を有する。
【0054】
好ましくは、分散液中に含まれる天然ロープは、金属型のバンド構造、半金属型のバンド構造または半導体型のバンド構造を有する。好ましくは、分散液中の天然ロープは、金属型のバンド構造または半金属型のバンド構造を有する。最も好ましくは、分散液中の天然ロープは、金属型のバンド構造を有する。
【0055】
好ましくは、天然ロープ中のカーボンナノチューブの少なくとも50質量%が同じカイラリティを有し、より好ましくは天然ロープ中のカーボンナノチューブの少なくとも75質量%、さらにより好ましくは少なくとも90質量%、さらにより好ましくは少なくとも95質量%、最も好ましくは少なくとも98質量%が同じカイラリティを有する。1つの実施態様において、天然ロープ中の全てのカーボンナノチューブは同じカイラリティを有する。
【0056】
本発明による方法は、先行技術の方法のようにカーボンナノチューブの大半を超酸溶剤中に個々に溶解して紡糸液をもたらす必要がない。
【0057】
本発明による方法は、カーボンナノチューブの特性に関して、例えばアレイ状に成長されたカーボンナノチューブのカイラリティに関して高い秩序を有する天然ロープ中に含まれる、カーボンナノチューブを含む分散液を供給することを可能にする。
【0058】
1つの実施態様において、分散液中に含まれるカーボンナノチューブの少なくとも10質量%が天然ロープ中に含まれ、分散液中に含まれるカーボンナノチューブの好ましくは少なくとも20質量%、より好ましくは少なくとも30質量%、さらにより好ましくは少なくとも40質量%、最も好ましくは少なくとも50質量%が天然ロープ中に含まれる。1つの実施態様において、酸性混合物中に含まれる全てのカーボンナノチューブが天然ロープ中に含まれる。
【0059】
本発明による方法は、カーボンナノチューブを含む酸性液体を、好ましくは紡糸口金における少なくとも1つの紡糸孔を通じて押出して、紡糸されたカーボンナノチューブ繊維を形成する段階を含むことができ、得られるカーボンナノチューブ繊維が天然ロープを含み得ることを可能にする。
【0060】
1つの実施態様において、本発明による方法を使用して製造されるカーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維中に含まれるカーボンナノチューブの少なくとも50質量%が天然ロープ中に含まれ、好ましくは本発明による方法を使用して製造されるカーボンナノチューブを含む成型物品中に含まれるカーボンナノチューブの少なくとも75質量%、より好ましくは少なくとも90質量%、さらにより好ましくは少なくとも95質量%、最も好ましくは少なくとも98質量%が天然ロープ中に含まれる。1つの実施態様において、本発明による方法を使用して製造されるカーボンナノチューブを含む成型物品中に含まれる全てのカーボンナノチューブが天然ロープ中に含まれる。
【0061】
酸性液体中に含まれる、および/または本発明による方法を使用して製造されるカーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維中に含まれる天然ロープの長さは、1μm~5mmの範囲であってよい。好ましくは、天然ロープの長さは5μm~3mmの範囲、より好ましくは10μm~1mmの範囲である。天然ロープの長さの増加は、カーボンナノチューブを含む成型物品の特性を改善すること、例えばカーボンナノチューブを含む成形物品の抵抗率を低下させることを可能にする。しかしながら、5mmを上回る長さを有する天然ロープは、分散液を製造する工程にとって次第により困難になる。
【0062】
1つの実施態様において、本発明による方法において供給される酸性液体は、酸性液体中に分散されている、酸性液体中のカーボンナノチューブを含み、且つそのカーボンナノチューブの一部は酸性液体中に溶解されており、ここで、酸性液体は酸、好ましくは硫酸を含み、前記酸は100%硫酸のハメットの酸度関数よりも低いハメットの酸度関数であるが少なくとも90%硫酸のハメットの酸度関数を有し、カーボンナノチューブを含む成型物品の特性を改善するために、特にカーボンナノチューブを含む成型物品の抵抗率を低下させるために有利である長いカーボンナノチューブの加工を可能にし、酸性液体中でより容易に溶解されることができ且つカーボンナノチューブを含む成型物品の凝集を改善できる、好ましくは1μm未満の長さを有する短いカーボンナノチューブと混合される。酸性混合物中に溶解された短いカーボンナノチューブは、成型物品中で長いカーボンナノチューブの間の接着剤として作用できる。
【0063】
本発明による方法において供給される酸性液体は有利には、100%硫酸のハメットの酸度関数よりも低いハメットの酸度関数を有する硫酸と混合されたカーボンナノチューブを含み、ここで酸性液体は、少なくとも90%硫酸の酸度を有する硫酸と、好ましくは10質量%以下のポリリン酸とを含み、そのことにより、長期の製造サイクルに耐えることが既に知られている装置、例えば硫酸内にアラミドポリマーを含む紡糸液からアラミド繊維を製造するために使用される装置の使用が可能になる。好ましくは、分散液は、95%硫酸以上、より好ましくは96%硫酸以上、より好ましくは97%硫酸以上、より好ましくは98%硫酸以上、より好ましくは99%硫酸以上、より好ましくは99.8%硫酸以上、より好ましくは99.9%硫酸以上の酸度を有する硫酸と混合されたカーボンナノチューブを含む。100%硫酸のハメットの酸度関数より低いハメットの酸度関数を有する硫酸は、米国特許第7125502号明細書の方法において必要とされるような無水の酸ではない。さらには、100%硫酸のハメットの酸度関数よりも低いハメットの酸度関数を有する硫酸の酸度の低下は、酸性液体の発煙性を低下させ、そのことは健康および安全の観点から有利である。
【0064】
本発明による方法において供給される分散液は、カーボンナノチューブと1つ以上の酸性液体とを混合することによって形成できる。カーボンナノチューブと1つ以上の酸性液体とを混合するための方法は特に限定されない。本発明による方法は100%硫酸のハメットの酸度関数より低いハメットの酸度関数を有する1つ以上の酸中のカーボンナノチューブの分散液を供給する段階を含み、特にクロロスルホン酸に比して腐食性が低いので、すぐに利用可能な装置、例えばミキサー、好ましくはスピードミキサー、ニーダ、好ましくはZブレードニーダ、またはOmega(登録商標)分散機を使用すること、または(半)連続式のせん断装置、例えば押出機、例えば一軸スクリュー押出機または好ましくは二軸スクリュー押出機、または二軸ニーダの使用を可能にする。好ましくは、本発明による方法において供給される分散液を、(半)連続式のせん断装置を使用してカーボンナノチューブと1つ以上の酸性液体とを混合することによって形成して、連続的な製造を可能にする且つ/または分散液の脱ガスを可能にする。
【0065】
本発明による方法は、100%硫酸のハメットの酸度関数よりも低いハメットの酸度関数を有する酸性液体中のカーボンナノチューブの好ましくは分散液を供給する段階を含み、ここで分散液中の酸性液体は、90%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する硫酸と、好ましくは10質量%以下のポリリン酸とを含み、分散液中へいくらかの水が包含されることを許容するのに対し、クロロスルホン酸は無水に保たれなければならない。これは、カーボンナノチューブが酸性液体中に混合される前に完全に乾燥されていないカーボンナノチューブを使用することを可能にする。カーボンナノチューブに付着するいくらかの水が、酸性液体の一部となることがある。
【0066】
本発明による方法は、全てのカーボンナノチューブを個々の単独のカーボンナノチューブへと溶解するためのクロロスルホン酸の使用を必要とせず、そのことにより、塩素不含または非常に限られた量の塩素しか含まないカーボンナノチューブ繊維の製造が可能になる。
【0067】
好ましくは、本発明による方法は、10000ppm未満の塩素、より好ましくは1000ppm未満、最も好ましくは100ppm未満の塩素を含む、カーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維を製造するために使用できる。
【0068】
本発明による方法を、いくらかの硫黄、好ましくは100~10000ppmの範囲の硫黄を含む、カーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維を製造するために使用して、カーボンナノチューブを含む成形物品の抵抗率を下げることができる。
【0069】
1つの実施態様において、本発明による方法において供給される分散液は、100%硫酸のハメットの酸度関数よりも低いハメットの酸度関数を有する硫酸の混合物中に分散されたカーボンナノチューブを含むことができ、ここで、酸性液体は上記のとおり、90%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する硫酸と、好ましくは10質量%以下のポリリン酸とを含む。90%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する硫酸と、ポリリン酸とを含む酸性液体は、硫酸のみに比して、分散液中でのカーボンナノチューブのより良好な分散を得ることを可能にし、且つ特に分散液中で天然ロープを保持し、且つ該方法によって製造されたカーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維の特性、特にカーボンナノチューブを含む成型物品の抵抗率、熱伝導率および/または弾性率を改善することを可能にする。
【0070】
好ましくは、酸性液体は100%硫酸のハメットの酸度関数より低いハメットの酸度関数を有する硫酸とポリリン酸とを含み、その硫酸とポリリン酸とを75/25~99/1の範囲、好ましくは75/25~95/5の範囲、より好ましくは80/20~92.5/7.5の範囲、さらにより好ましくは85/15~90/10の範囲の質量比で含む。
【0071】
本発明による方法を、いくらかのリン、好ましくは100~50000ppmの範囲のリンを含む、カーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維を製造するために使用して、カーボンナノチューブを含む成形物品の抵抗率を下げることができる。リンは例えば、酸性混合物中のポリリン酸に由来することができ、カーボンナノチューブを含む成型物品のin-situのドーパントとして作用する。
【0072】
100%硫酸のハメットの酸度関数より低いハメットの酸度関数を有する少なくとも1つの酸を含む酸性液体中のナノチューブを含む本発明による方法において供給される分散液は、カーボンナノチューブの液晶相を示すことができる。1つの実施態様において、分散液中のカーボンナノチューブの25質量%未満、より好ましくは10質量%未満、より好ましくは7.5質量%未満、さらにより好ましくは5質量%未満、最も好ましくは2.5質量%未満が液晶相中に含有される。
【0073】
1つの実施態様において、本発明による方法において供給される分散液は、カーボンナノチューブを含む液晶相を全く含まない。
【0074】
本発明による方法において供給される分散液は好ましくは、分散液の総質量に対して0.2質量%~25質量%のカーボンナノチューブ、好ましくは0.3質量%~20質量%、より好ましくは0.5質量%~10質量%、さらにより好ましくは1質量%~7質量%、最も好ましくは2質量%~5質量%のカーボンナノチューブを含んで、より経済的な加工を達成する。
【0075】
1つの実施態様において、本発明による方法において供給される分散液は好ましくは、分散液の総質量に対して0.1質量%~2質量%、好ましくは0.2質量%~1質量%、より好ましくは0.3質量%~0.8質量%、さらにより好ましくは0.4質量%~0.6質量%のカーボンナノチューブを含んで、成型物品の特性を改善、特に成形物品、好ましくはカーボンナノチューブ繊維における抵抗率を低減する。前記の低濃度は、特に分散液が、そのような低濃度では分散液中でほどけることがある天然ロープ中のカーボンナノチューブを含む場合、分散液中のカーボンナノチューブが配向することを可能にする。
【0076】
分散液はさらに、ポリマー、凝集剤、界面活性剤、塩、ナノ粒子、染料または得られるカーボンナノチューブを含む成型物品、好ましくはカーボンナノチューブ(CNT)繊維の伝導率を改善できる材料を含むことができる。
【0077】
本発明による方法において供給される、100%硫酸のハメットの酸度関数より低いハメットの酸度関数を有する少なくとも1つの酸であって90%硫酸のハメットの酸度関数以上のハメットの酸度関数を有する前記少なくとも1つの酸と好ましくは10質量%以下のポリリン酸とを含む酸性液体中のカーボンナノチューブの分散液はさらに、成型物品、特にカーボンナノチューブ繊維の機械的特性、特に強度および/または弾性率を改善できるポリマーを含むことができ、その一方で成型物品中の十分な伝導性は保持される。好ましくは、分散液中に含まれるポリマーは、芳香族ポリアミド、より好ましくはパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)である。
【0078】
前記成型物品は、少なくとも50質量%のカーボンナノチューブ、好ましくは少なくとも60質量%、より好ましくは少なくとも70質量%のカーボンナノチューブを含むことができる。前記成型物品は、少なくとも10質量%のポリマー、特に芳香族ポリアミド、好ましくはパラフェニレンテレフタルアミド、好ましくは少なくとも20質量%、より好ましくは少なくとも30質量%のポリマー、特に芳香族ポリアミド、好ましくはパラフェニレンテレフタルアミドを含むことができる。
【0079】
例えば、70質量%のカーボンナノチューブと30質量%のパラフェニレンテレフタルアミドを含む成型物品、特にカーボンナノチューブ繊維を加熱部品として使用でき、なぜなら、比較的高い抵抗率と比較的高い強度とを兼備するからである。例えば、50質量%のカーボンナノチューブと50質量%のパラフェニレンテレフタルアミドとを含む成型物品、特にカーボンナノチューブ繊維を防弾部品として使用できる。
【0080】
分散液中に含まれるカーボンナノチューブの80%未満が個々のカーボンナノチューブへと溶解されている分散液を、好ましくは紡糸口金内の少なくとも1つの紡糸孔へと供給し、その少なくとも1つの紡糸孔を通じて押出して、紡糸されたカーボンナノチューブ繊維を得ることができる。紡糸口金は、例えばカーボンナノチューブモノフィラメントを製造するための1つの紡糸孔から、例えばマルチフィラメントカーボンナノチューブヤーンを製造するための数千までにわたる、任意の数の紡糸孔を含有できる。
【0081】
カーボンナノチューブ(CNT)繊維を得るための方法の1つの実施態様において、好ましくは紡糸口金における紡糸孔は円形であり、10~1000μmの範囲、より好ましくは50~800μmの範囲、さらにより好ましくは200~700μmの範囲の直径を有して、紡糸孔を通じた分散液の押出を改善する。紡糸孔の長さ対直径の比は変化し得る。紡糸孔のL/D比は1~50にわたり得る。好ましくは、紡糸孔のL/D比は30未満、より好ましくは25未満である。好ましくは、紡糸孔のL/D比は少なくとも1、より好ましくは少なくとも2である。
【0082】
選択的な実施態様において、紡糸孔は非円形の断面、例えば楕円形、多葉形または長方形の断面を有して、それらは、断面の2つの対向する側の間の最大距離を定義する大きいほうの寸法と、断面の2つの対向する側の間の最小距離を定義する小さいほうの寸法とを有する。非円形断面の前記の小さいほうの寸法は、好ましくは10~1000μmの範囲、より好ましくは50~800μmの範囲、さらにより好ましくは200~700μmの範囲である。紡糸孔の長さ対非円形の断面の小さい方の寸法の比は変化し得る。紡糸孔のL/M比は1~50にわたり得る。好ましくは、紡糸孔のL/M比は30未満、より好ましくは25未満である。好ましくは、紡糸孔のL/M比は少なくとも1、より好ましくは少なくとも2である。
【0083】
紡糸孔の入口の開口部は、好ましくは長さ対円筒部の直径の比が1より大きい勾配がつけられていることがある。
【0084】
押出されたカーボンナノチューブ(CNT)繊維(紡糸CNTとも称する)は、凝集媒体中に直接的に紡糸されてもよいし、エアギャップを介して凝集媒体中に導かれてもよい。凝集媒体は、凝集浴中に含有されてもよいし、凝集カーテン(coagulation curtain)中に供給されてもよい。凝集浴中の凝集媒体は停滞していてもよいし、凝集浴内側または凝集浴を通じて凝集媒体の流れがあってもよい。
【0085】
紡糸されたカーボンナノチューブ(CNT)繊維は凝集媒体に直接的に入って、CNT繊維が凝集し、カーボンナノチューブ繊維の強度が高まり、カーボンナノチューブ繊維がそれ自体の重量を支持するために十分に強くなることを確実にすることができる。凝集媒体中のカーボンナノチューブ繊維の速度は一般に、カーボンナノチューブ繊維が凝集され且つ任意に中和および/または洗浄された後の、速度駆動ゴデットまたはワインダーの速度によって確立される。
【0086】
エアギャップにおいて、紡糸されたカーボンナノチューブ繊維を延伸して、カーボンナノチューブ繊維の配向を高めることができ、且つエアギャップは紡糸口金と凝集媒体との間の直接的な接触を回避する。エアギャップ内でのカーボンナノチューブ繊維の速度、ひいては延伸率は一般に、カーボンナノチューブ繊維が凝集され且つ任意に中和および/または洗浄された後の、速度駆動ゴデットまたはワインダーの速度によって確立される。
【0087】
好ましくは、押出されたカーボンナノチューブ繊維はエアギャップを介して凝集媒体中に導かれる。
【0088】
カーボンナノチューブ繊維の凝集速度は、凝集媒体の流れによって影響を及ぼされ得る。本発明による方法において、凝集媒体はカーボンナノチューブ繊維と同じ方向に流れることができる。凝集媒体の流速は、カーボンナノチューブ繊維の速度より低い、同じ、または高くなるように選択できる。
【0089】
押出されたカーボンナノチューブ繊維を水平に、垂直に、またはさらには垂直方向に対して角度をつけて紡糸できる。
【0090】
1つの実施態様において、押出されたカーボンナノチューブ繊維は水平に紡糸される。水平紡糸は例えば、凝集浴を浅く保つために有利であることがある。カーボンナノチューブ繊維は、工程の開始時またはカーボンナノチューブ繊維の破壊が生じる際、浅い凝集浴からは比較的容易に回収できる。
【0091】
押出されたカーボンナノチューブ繊維を、直接的に凝集浴中に、水平方向に紡糸できる。押出されたカーボンナノチューブ繊維は、重力によって限定的にしか影響を及ぼされず、且つ液体の凝集媒体によって支持されるので、それ自体の重量下でより小さな破片へと破壊しない。
【0092】
1つの実施態様において、押出されたカーボンナノチューブ繊維は、管の形状の凝集浴中に直接的に紡糸され、その際、凝集媒体はカーボンナノチューブ繊維と同じ方向に流れることができる。凝集媒体の流速は、管に供給される流速、および輸送管の直径によって決定され、カーボンナノチューブ繊維の速度に対する任意の所望の値に設定することができる。
【0093】
選択的に、前記の管が、より大きな凝集浴の内側で凝集媒体に浸されていることがある。カーボンナノチューブ繊維がなければ、管の内側の凝集媒体の流速は、凝集浴の液面と輸送管の出口との高さの違いによって決定される。
【0094】
押出されたカーボンナノチューブ繊維を、エアギャップを通じて垂直に紡糸した後、凝集媒体を含有する凝集浴に入れてもよいし、凝集媒体を含有する凝集浴に水平に直接的に紡糸してもよい。
【0095】
1つの実施態様において、押出されたカーボンナノチューブ繊維を直接的に、またはエアギャップを介して、回転する凝集浴中に紡糸できる。回転する凝集浴の回転速度を押出されたカーボンナノチューブ繊維の押出速度より高くして、カーボンナノチューブ繊維に張力を印加できる。
【0096】
選択的に、任意の延伸および/またはアニーリング段階の前に、カーボンナノチューブ繊維が凝集に起因して十分な強度を得るまで、回転する凝集浴の回転速度を、押出されたカーボンナノチューブ繊維の押出速度と同じにして、カーボンナノチューブ繊維の引張りを防ぐことができる。アニーリングとは、張力下で高められた温度で処理し、アニーリングの間、カーボンナノチューブ繊維の延伸が好ましくは2%未満に非常に限定されることを意味すると理解される。
【0097】
任意の延伸段階の前に、例えばカーボンナノチューブ繊維が凝集に起因して十分な強度を得るまで、回転する凝集浴の回転速度を、押出されたカーボンナノチューブ繊維の押出速度より低くして、カーボンナノチューブ繊維の緩和を可能にすることができる。
【0098】
任意の延伸段階の前に、カーボンナノチューブ繊維が凝集に起因して十分な強度を得るまで、押出されたカーボンナノチューブ繊維を収集および輸送するために、凝集浴の内側にコンベヤベルトを備えることができる。
【0099】
選択的に、押出されたカーボンナノチューブ繊維を、エアギャップを用いてまたは用いないで、凝集媒体のカーテンへと垂直に紡糸することができる。凝集媒体のカーテンは、オーバーフローシステムを使用することにより容易に形成できる。
【0100】
1つの実施態様において、押出されたカーボンナノチューブ繊維を、例えばアラミド繊維の紡糸から知られるようなローター紡糸工程において紡糸できる。
【0101】
押出されたカーボンナノチューブ繊維を、直接的に凝集媒体中に垂直に上向きに、または水平と垂直との間の角度をつけて上向きに、つまり重力に逆らう方向に紡糸することができる。重力に逆らう方向にカーボンナノチューブ繊維を押出すことは、紡糸されたCNT繊維の密度が凝集媒体の密度よりも低い場合に特に好ましい。工程の開始時に、押出されたカーボンナノチューブ繊維は凝集浴の上端に向かって浮かび、そこでカーボンナノチューブ繊維を表面から拾い上げることができる。
【0102】
凝集媒体を含有する凝集浴は管の形状であってよく、ここで、凝集媒体は管の底部から上部へと流れることができる。凝集媒体の流速は、管に供給される流速、および輸送管の直径によって決定され、カーボンナノチューブ繊維の速度に対する任意の所望の値に設定することができる。
【0103】
適した凝集媒体または凝集剤は例えば硫酸、好ましくは酸性分散液中に含まれる硫酸の酸度よりも低い酸度を有する硫酸、例えば14%硫酸、PEG-200、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、エーテル、水、アルコール、例えばメタノール、エタノールおよびプロパノール、アセトン、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランおよびそれらの任意の混合物である。凝集剤は溶解された材料、例えば界面活性剤またはポリマー、例えばポリビニルアルコール(PVA)を含有できる。繊維中で捕捉されてその特性を強化できる作用物質、例えば限定されずにポリマー、界面活性剤、塩、ナノ粒子、染料、および伝導率を改善できる材料、例えばヨウ素を、凝集媒体に添加することも可能である。好ましくは、凝集媒体は水またはアセトンを含む。凝集剤は、カーボンナノチューブ以外に、本発明による方法において供給される酸性分散液の比較的少量の1つ以上の成分を、例えば工程における凝集剤の再循環に起因して含有することがある。
【0104】
1つの実施態様において、凝集媒体は、本発明による方法において供給される分散液中の水の濃度よりも高い水の濃度を有する。好ましくは、凝集媒体は、本発明による方法において供給される分散液中に含まれる硫酸の酸度よりも低い酸度を有する硫酸を含む。
【0105】
好ましくは、前記方法は、紡糸されたカーボンナノチューブ繊維を、好ましくは少なくとも0.8、好ましくは少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも1.1、より好ましくは少なくとも1.2、より好ましくは少なくとも2、さらにより好ましくは少なくとも5、最も好ましくは少なくとも10の延伸比で延伸する段階を含み、カーボンナノチューブ(CNT)繊維の特性を改善、特に弾性率および/または引張強度を高める。延伸比の増加は、得られるカーボンナノチューブ繊維の直径を低減するためにも利用できる。
【0106】
好ましい実施態様において、カーボンナノチューブ繊維は円形または丸い断面を有する。好ましくは、カーボンナノチューブ(CNT)繊維は、1~200μmの範囲、より好ましくは2~100μmの範囲、さらにより好ましくは5~50μmの範囲、最も好ましくは15~35μmの範囲の直径を有する。
【0107】
選択的な実施態様において、カーボンナノチューブ繊維は任意の非円形の断面、例えば楕円形、多葉形または長方形の断面を有して、それらは、断面の2つの対向する側の間の最大距離を定義する大きいほうの寸法と、断面の2つの対向する側の間の最小距離を定義する小さいほうの寸法とを有する。カーボンナノチューブ繊維の非円形の断面の小さい方の寸法は、好ましくは1~200μmの範囲、より好ましくは2~100μmの範囲、さらにより好ましくは5~50μmの範囲、最も好ましくは15~35μmの範囲である。
【0108】
紡糸されたカーボンナノチューブ繊維の延伸は1段階の工程で適用でき、ここで、紡糸孔を通じて分散液を押出し、紡糸されたカーボンナノチューブ繊維を延伸し、且つ任意に、凝集、ストリップ、中和および/または洗浄、乾燥および/または巻き取りを、1つの連続した工程において行う。
【0109】
選択的に、延伸されたカーボンナノチューブ繊維を2段階法で製造できる。第1の工程段階において、紡糸孔を通じて分散液を押出し、紡糸されたカーボンナノチューブ繊維を任意に凝集、ストリップ、中和および/または洗浄、および巻き取りする。引き続き、紡糸され且つ任意に凝集、ストリップ、中和および/または洗浄されたカーボンナノチューブ繊維をボビン上に巻取ることができ、且つ巻出し、延伸および/またはアニーリングを、別の延伸工程において行うことができる。
【0110】
1段階法において、延伸比は、カーボンナノチューブ繊維の巻取速度の、紡糸孔中の分散液の空塔速度に対する比を意味すると理解されるべきである。空塔速度は、紡糸孔を通じて押出された分散液の体積流量(m3/s)を、紡糸孔の断面積(m2)で除算することにより計算できる。選択的に、カーボンナノチューブ繊維は2段階法の別の工程段階において延伸され、その延伸比は、延伸後のカーボンナノチューブ繊維の巻取速度の、巻出速度に対する比を意味すると理解されるべきである。
【0111】
好ましくは、分散液の品質をさらに改善するため、カーボンナノチューブを含む分散液を、紡糸孔に供給する前に、1つ以上のフィルタを通す。1つ以上のフィルタ中の開口部の寸法を、そのフィルタ中の開口部が、1つ以上の紡糸孔を閉塞させ得る分散液からの材料の塊を除去できるように十分に小さくなるように選択できる。1つ以上のフィルタ中の開口部の寸法を、そのフィルタ中の開口部が、分散液中のカーボンナノチューブの濃度が高まらないことを確実にするために十分に大きくなるように選択できる。
【0112】
好ましくは、紡糸孔を通じた分散液の押出を改善するために、1つ以上のフィルタ中の開口部の寸法は、紡糸孔の小さいほうの寸法よりも小さい。好ましくは、1つ以上の紡糸孔の小さいほうの寸法の、フィルタ中の開口部の直径に対する比は少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも1.5、最も好ましくは少なくとも2.0である。
【0113】
紡糸され且つ凝集されたカーボンナノチューブ繊維をワインダー上に収集できる。巻取速度は、好ましくは少なくとも0.1m/分、より好ましくは1m/分、さらにより好ましくは少なくとも5m/分、さらにより好ましくは少なくとも50m/分、最も好ましくは少なくとも100m/分である。
【0114】
紡糸され且つ凝集されたカーボンナノチューブ繊維を任意に、好ましくは水で、中和および/または洗浄し、引き続き乾燥させることができる。
【0115】
ワインダーを凝集浴の内側に配置して、凝集されたカーボンナノチューブ繊維をボビン上に巻取りながら洗浄することができ、それは、紡糸された繊維を凝集させるために使用される凝集媒体がカーボンナノチューブ繊維の洗浄のためにも適している場合、例えば凝集媒体が水である場合に特に有用である。ワインダーを完全または部分的にのみ、凝集媒体中に浸漬させることができる。好ましくは、カーボンナノチューブ繊維を収集するボビンは、部分的にのみ凝集媒体中に浸漬されている。
【0116】
しかしながら、ワインダーを凝集浴の外側に配置して、凝集媒体がワインダーの摩耗に及ぼす影響を低減させてもよい。
【0117】
カーボンナノチューブ繊維の乾燥を、任意の公知の乾燥技術、例えば熱風乾燥、赤外線加熱、真空乾燥等によって実施できる。
【0118】
カーボンナノチューブ繊維の乾燥を、カーボンナノチューブ繊維の張力下で、または張力を印加せずに実施できる。
【0119】
乾燥後、繊維を物質、例えば限定されずにヨウ素、カリウム、酸または塩でドープすることによって、抵抗率をさらに改善することができる。
【0120】
1つの実施態様において、カーボンナノチューブ繊維は25質量%までの電荷担体供与材料を含んで、カーボンナノチューブ繊維の抵抗率を低下させることができる。
【0121】
電荷担体供与材料は、特にカーボンナノチューブ繊維が開口端のカーボンナノチューブを含み且つ/または電荷担体供与材料が個々のカーボンナノチューブの間に含まれ得る場合、特にカーボンナノチューブ繊維が閉じたカーボンナノチューブ中を含む場合、個々のカーボンナノチューブ中に含まれることができる。
【0122】
電荷担体供与材料は、例えば限定されずに、酸、好ましくは酸性液体中に含まれる酸、または塩、例えばCaCl2、FeCl3、臭素(Br2)または臭素含有物質および/またはヨウ素(I2)を含み得る。好ましくは、担体供与材料はヨウ素である。
【0123】
好ましい実施態様において、カーボンナノチューブ繊維は、ASTM D7269に準拠して測定される、少なくとも0.3GPa、好ましくは少なくとも0.8GPa、より好ましくは少なくとも1.0GPa、最も好ましくは少なくとも1.5GPaの引張強度を有する。
【0124】
好ましい実施態様において、カーボンナノチューブ繊維は、1000μΩ・cm未満、好ましくは500μΩ・cm未満、より好ましくは100μΩ・cm未満、さらにより好ましくは50μΩ・cm未満の抵抗率を有する。
【0125】
引張強度は、長さ20mmの試料において、3mm/秒の延伸速度で破壊荷重を測定し、その荷重をフィラメントの平均表面積で除算することによって決定される。弾性率は、前記の荷重対伸びの曲線における最も高い傾きをとり、その最も高い傾きの値をカーボンナノチューブ繊維の平均表面積で除算することによって決定される。
【0126】
繊維の表面積は平均直径から決定される。光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡(SEM)との両方を、CNT繊維の断面の表面積を決定するために使用できる。SEM測定(FEI Quanta 400 ESEM FEG)から表面積を決定するために、繊維の直径を倍率約1×104で、長さ20mmの繊維の最低10個の区域について測定できる。
【0127】
光学顕微鏡測定(透過光; Olympus BH60; 550nmフィルタ)については、板紙の片上に繊維をテープ付けすることによって試料を製造した。次に、板紙上の繊維をEpoheat樹脂中に埋め込んだ。硬化後、試料を繊維軸に対して垂直に切断して、研磨した。研磨された表面を光学顕微鏡で画像化し、SISpro Five画像分析ソフトウェアを使用して、埋め込まれた繊維の断面積を測定できる。
【実施例
【0128】
カーボンナノチューブ繊維を、表1に記載されるカーボンナノチューブを含む分散液から紡糸した。カーボンナノチューブを終夜、真空オーブン内、160℃で乾燥させた後、分散液を形成した。
【0129】
抵抗率を、4探針法を使用して測定した。硬質の下地上に繊維を配置し、繊維をまっすぐに保つために十分な張力を印加した。電流を印加するための2つの外側の接触部と、電圧を測定するための2つの内側の接触部とを、繊維表面上で探針を押し付けることによって施与する。Hewlett Packardのマルチメーター34401Aを使用する。接触部の間の様々な距離、様々な繊維の厚さおよび抵抗の値を用いた試験は、結果の良好な再現性を示した。抵抗率を、繊維密度1.3g/cm3を使用して抵抗から計算した。
【0130】
【表1】
【0131】
例1~4
酸性液体中のカーボンナノチューブの分散液を、カーボンナノチューブと酸性液体とを混合することによって準備した。グローブボックス内で、酸性液体とカーボンナノチューブとを容器内で合わせて、CNT材料の濃度を1質量%にした。次いで容器をSpeedmixer type DAC 150.1 FVZ-K内に設置し、60分間、3000rpmで混合した。分散液の外観を、顕微鏡下で判断した。シリンジを通じて分散液を凝集浴中へと押出すことによって、CNT繊維を押出した。凝集浴は水、または特に言及される場合は(例3)アセトンからなった。凝集浴中で、浴を通じてシリンジを動かすことによって、繊維を形成した。
【0132】
【表2】
【0133】
例5~6
100部の99.8%硫酸と、8部のポリリン酸(Merck)とからなる酸性液体中のカーボンナノチューブの分散液を準備した。グローブボックス内で、酸性液体とカーボンナノチューブとを容器内で合わせて、表3に記載されるように予め規定されたCNT材料の濃度にした。次いで容器をSpeedmixer type DAC 800.1 FVZ内に設置し、60分間、1950rpmで混合した。シリンジを通じて分散液を水からなる凝集浴中へと押出すことによって、繊維を押出した。凝集浴中で、浴を通じてシリンジを動かすことによって、繊維を形成した。
【0134】
【表3】
【0135】
例7~10
酸性液体中のカーボンナノチューブの分散液を準備した。グローブボックス内で、酸性液体とカーボンナノチューブとを容器内で合わせて、CNT材料の濃度を3.5質量%にした。表4に記載される様々な酸性液体を使用した。次いで容器をSpeedmixer type DAC 150.1 FVZ-K内に設置し、60分間、3500rpmで混合した。シリンジを通じて分散液を押出すことにより(例7~9)、またはプランジャ型の紡糸機を使用して分散液を押出すことにより(例10)、水からなる凝集浴中に、エアギャップを用いてまたは用いないで、CNT繊維を押出した。
【0136】
【表4】
【0137】
例11~14
99.9%硫酸からなる酸性液体中のカーボンナノチューブの分散液を準備した。グローブボックス内で、酸性液体とカーボンナノチューブとを容器内で合わせて、CNT材料の濃度を1質量%にした。次いで容器をSpeedmixer type DAC 150.1 FVZ-K内に設置し、3500rpmで、40分間(例11~13)、または50分間(例14)混合した。510μmの1つの細管(例11~13)または500μmの3つの細管(例14)を通じて、プランジャ型の紡糸機を使用して、凝集浴中に、エアギャップを用いないで、分散液を押出すことによってCNT繊維を押出した。凝集浴は水からなった。CNT繊維を凝集浴を通じて引き出し、ドラムに巻取った。押出速度および巻取速度を、表5に記載されるように変化させた。
【0138】
【表5】
【0139】
例15~16
99.9%硫酸からなる酸性液体中のカーボンナノチューブの分散液を準備した。グローブボックス内で、酸性液体とカーボンナノチューブとを容器内で合わせて、CNT材料の濃度を1質量%にした。
【0140】
次いで容器をSpeedmixer type DAC 150.1 FVZ-K内に設置し、50分間、3500rpmで混合した。1つの細管(例15)または3つの細管(例16)を通じて、プランジャ型の紡糸機を使用して、凝集浴中に、エアギャップを用いないで、分散液を押出すことによってCNT繊維を押出した。凝集浴は水からなった。CNT繊維を凝集浴を通じて引き出し、ドラムに巻取った。押出速度および巻取速度を、表6に記載されるように変化させた。
【0141】
【表6】
【0142】
例17~19
99.9%硫酸からなる酸性液体中のカーボンナノチューブの分散液を準備した。グローブボックス内で、酸性液体とカーボンナノチューブとを容器内で合わせて、CNT材料の濃度を1質量%にした。次いで容器をSpeedmixer type DAC 800.1 FVZ内に設置し、10分間、1950rpmで混合した。カーボンナノチューブを含むこの酸性液体は、シリンジを使用して押出され得なかった。カーボンナノチューブを含む酸性液体をさらに、Theysohn 20mm二軸スクリュー押出機を使用して混合し、収集した。二軸スクリュー押出機からのカーボンナノチューブを含む収集された酸性液体を引き続き、単独の細管を通じて、シリンジを使用して凝集浴中に、エアギャップを用いないで押出した(例17)。凝集浴は水からなった。例18および19において、二軸スクリュー押出機でさらに混合されたカーボンナノチューブを含む酸性液体を、1つの細管(例18)を通じて、または7つの細管(例19)を通じて、インラインで押出した。
【0143】
【表7】