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7078712HAPLN1を有効成分として含む軟骨再生用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】HAPLN1を有効成分として含む軟骨再生用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20220524BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20220524BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20220524BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220524BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20220524BHJP
   A61L 27/36 20060101ALN20220524BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220524BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K31/728 ZNA
A61P19/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A23L33/17
A61L27/36 312
A61L27/36 410
C07K14/47
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020512483
(86)(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 KR2018009996
(87)【国際公開番号】W WO2019045451
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-02-28
(31)【優先権主張番号】10-2017-0109422
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0098497
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519321708
【氏名又は名称】ハプルサイエンス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】テ・キョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ミン・ジャン
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-527834(JP,A)
【文献】国際公開第2017/123951(WO,A1)
【文献】特表2016-531147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1)蛋白質を有効成分として含む、退化及び/又は損傷した軟骨組織を再生するための軟骨再生用薬学組成物。
【請求項2】
前記HAPLN1蛋白質は、軟骨形成を促進し、関節軟骨を保護することを特徴とする請求項1に記載の軟骨再生用薬学組成物。
【請求項3】
前記HAPLN1蛋白質は、TGF-β受容体Iの発現レベルを上昇させ、軟骨形成能保有細胞の構成比を増大させ、軟骨組織の再生を誘導することを特徴とする請求項1に記載の軟骨再生用薬学組成物。
【請求項4】
ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1)蛋白質を有効成分として含む、退化及び/又は損傷した軟骨組織を再生するための軟骨再生用健康食品組成物。
【請求項5】
ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1)蛋白質を有効成分として含む、退化及び/又は損傷した軟骨組織を再生するための軟骨再生用試薬組成物。
【請求項6】
ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1)蛋白質を有効成分として含む、軟骨細胞の軟骨形成を促進させるための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein 1)を有効成分として含む軟骨再生用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
人体において、骨と骨とが出合う蝶番部位は、ガラス質軟骨(hyaline cartilage)からなる関節軟骨(articular cartilage)が互いに当接し、耐圧力と引っ張り力とを行使し、各関節は、関節嚢(synovial capsule)が滑液(synovial fluid)を湛えており、関節運動による摩擦力を低減させる形態を有する。
【0003】
関節軟骨は、成長板(growth plate)軟骨と共に、軟骨形態のうち、ガラス質軟骨に該当し、そのような軟骨組織の細胞外基質(ECM:extracellular matrix)は、コラーゲンタイプII(typeII collagen)、アグリカン(aggrecan)、ヒアルロン酸(hyaluronan)、HAPLN1(hyaluronan and proteoglycan link protein 1)などが主な成分として、凝集体(aggregate)構造を有する。ここで、ヒアルロン酸鎖に、多数のアグリカンが結合するが、HAPLN1は、それら二つの結合をさらに強く結束させることにより、凝集体を物理的化学的に安定化させる役割を行うと知られている。
【0004】
膝関節において、軟骨の厚みは、約2mmであり、外傷や疾病などにより、面積が1~4mmほど損傷された場合には、自然治癒による再生が可能であるが、20mm程損傷された場合には、自力による再生は困難であり、一般的に、大きい苦痛を伴う。さらに、腫瘍、懐死のようなさまざまな原因により、関節軟骨を完全に失った場合には、関節機能を復元させるために、例えば、人工関節を当該個所に埋め込むというような措置が行われている。しかし、人工関節は、あくまでも関節機能と類似して人工的に構成されたものであり、生体においては、異物であるために、生体適合性維持が困難である。また、人工関節は、生体内における厳格な環境下において、複雑な動作が要求されるために、20年以上維持させることは困難であり、その素材として、利用されている樹脂や金属などの劣化や、摩耗粉の発生などにより、機能低下が苦痛を引き起こす場合もあり、耐久性においても、十分であるとは言えない。従って、人工関節治療を代替するものとして、関節軟骨自体を再生する技術が要望されている。
【0005】
また、最近の研究発表によれば、関節表面を穿孔し、骨形成因子(BMP:bone morphogentic protein)が含有されたコラーゲンを、所望部位に配置することにより、関節軟骨の再生が報告されている。しかし、再生された関節軟骨は、隣接する既存の関節軟骨と連続して形成されず、完全な再生とは言えないのである。また、コラーゲンは、BSE(bovine spongiform encephalopathy)、いわゆる、狂牛病のような問題から、生体適用を回避する傾向もある。従って、生体適用が認められる材料のみを利用し、軟骨を再生させる新規組成物の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】大韓民国登録特許第10-0654904号(2006.11.30.登録)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、軟骨再生用薬学組成物を提供するところにある。
【0008】
本発明の他の目的、は軟骨再生用健康食品組成物を提供するところにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、軟骨再生用試薬組成物を提供するところにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、試験管内で(in vitro)軟骨組織を再生させる方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein 1)を有効成分として含む軟骨再生用薬学組成物、軟骨再生用健康食品組成物、または軟骨再生用試薬組成物を提供する。
【0012】
また、本発明は、ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1)を処理し、試験管内で(in vitro)軟骨組織を再生させる方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、HAPLN1蛋白質は、軟骨形成促進能及び関節軟骨再生能を有し、軟骨細胞のTGF-β受容体Iの発現レベルを上昇させ、軟骨形成能保有細胞の構成比を上昇させ、軟骨組織の再生を誘導することができる。従って、本発明のHAPLN1蛋白質は、TGF-βの信号伝逹を調節する新たな組成物であり、軟骨再生用薬学組成物、軟骨再生用健康食品組成物または軟骨再生用試薬組成物として、有用に活用される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】老化マウスの退化された成長板に対し、HAPLN1蛋白質の反復腹腔投与による軟骨形成能を確認したものであり、(A)は、組織内プロテアグリカンを、サフラニンO/ファーストグリーンFCF(Safranin O/Fast Green FCF:SO/FG)染色法で確認したものであり、(B)は、軟骨形成能を保有した軟骨細胞の存在を、免疫組織化学法(immunohistochemistry)で確認したものである。
図2】マウスの損傷された膝関節組織に対し、関節腔内に投与されたHAPLN1蛋白質の軟骨再生能、を免疫蛍光染色法(immunofluorescence)で確認したものである。
図3】ヒト関節軟骨細胞に対するHAPLN1蛋白質の軟骨形成促進能を確認したものであり、(A)は、軟骨特異遺伝子SOX9、軟骨基質構成物であるアグリカン及びコラーゲンタイプIIの遺伝子発現量を、重合酵素連鎖反応(PCR:polymerase chain reaction)を介して確認したものであり、(B)は、細胞外基質に蓄積されたプロテアグリカンを、サフラニンO/ファーストグリーンFCF染色法で確認したもである。
図4】マウス関節軟骨細胞に対するHAPLN1蛋白質のTGF-β信号伝逹調節能を確認したものであり、(A)は、HAPLN1蛋白質のTGF-β受容体I調節能を、ウェスタンブロット(western blot)で確認したものであり、(B)及び(C)は、HAPLN1蛋白質のTGF-β受容体I安定化、を重合酵素連鎖反応及びウェスタンブロットで確認したものであり、図4(D)は、HAPLN1蛋白質による細胞表面TGF-β受容体I提示能向上を、ウェスタンブロットで確認したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の発明者らは、老化マウス及び関節軟骨損傷マウスにおいて、ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein 1)蛋白質による軟骨形成促進能及び軟骨再生能を確認した。また、軟骨細胞でも、HAPLN1蛋白質による軟骨形成促進能が有効であり、軟骨細胞のTGF-β受容体Iの提示量増加による信号伝逹調節効果を確認しながら、本発明を完成した。
【0016】
本発明は、ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1)を有効成分として含む軟骨再生用薬学組成物を提供する。
【0017】
望ましくは、前記HAPLN1は、軟骨形成を促進し、関節軟骨を保護することができる。
【0018】
望ましくは、前記HAPLN1は、TGF-β受容体Iの発現レベルを上昇させ、軟骨形成能保有細胞の構成比を上昇させ、軟骨組織の再生を誘導することができる。
【0019】
本発明の組成物が薬学組成物である場合、投与のために、前述の有効成分以外に、薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤を含んでもよい。前述の担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油を有することができる。
【0020】
本発明の薬学組成物は、それぞれ通常の方法により、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾールなどの経口型剤形にしたり、外用剤、坐剤または滅菌注射溶液の形態に剤形化したりして使用することができる。詳細には、剤形化する場合、通常使用する充填剤、重量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤のような希釈剤または賦形剤を使用しても調剤される。経口投与のための固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などを含むが、それらに限定されるものではない。そのような固形製剤は、前記有効成分以外に、少なくとも1以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどを混ぜても調剤される。また、単純な賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も使用される。経口のための液状物、リキッドパラフィン以外に、さまざまな賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを添加しても調剤される。非経口投与のための製剤は、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁液剤、乳剤、凍結乾燥製剤及び坐剤を含む。非水性溶剤及び懸濁液剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性オイル、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが使用される。坐剤の基剤としては、Witepsol、Macrogol、Tween 61、カカオバター、ラウリンバター、グリセロゼラチンなどが使用される。
【0021】
本発明の薬学組成物の適する投与量は、患者の状態及び体重、疾病程度、薬物形態、時間によって異なるが、当業者によっても適切に選択されるが、前記組成物の一日投与量は、望ましくは、0.001mg/kgないし50mg/kgであり、必要により、一日1回ないし数回に分けて投与することができる。
【0022】
また、本発明は、ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1)を有効成分として含む軟骨再生用健康食品組成物を提供する。
【0023】
本発明の組成物が健康食品組成物である場合、さまざまな栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤などの風味剤、着色剤及び充填剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含んでもよい。それ以外に、天然果物ジュース、合成果物ジュース、及び野菜飲料製造のための果肉を含んでもよい。そのような成分は、独立して、または組み合わせて使用することができる。また、健康食品組成物は、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディ類、スナック類、お菓子類、ピザ、ラーメン、ガム類、アイスクリーム類、スープ、飲料水、茶、機能水、ドリンク剤、アルコール及びビタミン複合剤のうちいずれか1つの形態でもある。
【0024】
また、前記健康食品組成物は、食品添加物を追加して含んでもよく、食品添加物としての適合いかんは、取り立てての規定がない限り、食品医薬安全処に承認された食品添加物公典の総則、及び一般試験法などにより、当該品目に係わる規格及び基準によって判定する。
【0025】
前記食品添加物公典に収載された品目としては、例えば、、ケトン類、グリシン、クエン酸カリウム、ニコチン酸、ケイ皮酸などの化学的合成品;柿色素、甘草抽出物、結晶セルロース、コーリャン色素、グアガムなどの天然添加物;L-グルタミン酸ナトリウム製剤、麺類添加アルカリ剤、保存料製剤、タール色素製剤などの混合製剤類;などを挙げることができる。
【0026】
このとき、健康食品組成物を製造する過程において、食品に添加される本発明による組成物は、必要により、その含量を適切に加減することができる。
【0027】
また、本発明は、ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1)を有効成分として含む軟骨再生用試薬組成物を提供する。
【0028】
また、本発明は、ヒアルロン酸及びプロテアグリカン連結蛋白質1(HAPLN1)を処理し、試験管内で(in vitro)軟骨組織を再生させる方法を提供する。
【0029】
以下では、実施例を介して、本発明についてさらに詳細に説明する。それら実施例は、ただ、本発明についてさらに具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨により、本発明の範囲が、それら実施例によって制限されるものではないということは、当業界において当業者であるならば、自明であろう。
【実施例
【0030】
実施例1:生体内(in vivo)退化された軟骨組織におけるHAPLN1蛋白質による軟骨再生能分析
1-1.HAPLN1蛋白質の反復腹腔投与による退化された成長板内軟骨形成促進
6週齢の雄C57BL/6マウスを若い(young)群に、20ヵ月齢のC57BL/6マウスを老化(old)群に分類し、老化群には、HAPLN1蛋白質を、リン酸緩衝食塩水(PBS:phosphate buffered saline)に希釈し、0.1mg/kgの用量で、2週間毎日腹腔投与する一方、対照群は、PBSを同等な方法で腹腔投与した。
【0031】
各群マウスの大腿骨及び膝関節の部位を取り、中性緩衝10%ホルマリン(NBF:neutral buffered 10% formalin)で48時間固定させ、連続して10%エチレンジアミン四酢酸(EDTA:ethylenediaminetetraacetic acid)溶液で、7日間脱灰過程を遂行した。次に、各検体をパラフィン(paraffin)に包埋(embedding)し、パラフィンブロックを製造し、sagittal方向に5μm厚の組織切片スライドを製造した。組織学的評価のために、各組織切片スライドの軟骨組織は、サフラニンO/ファーストグリーンFCF(SO/FG)染色法を遂行して視覚化した。染色が完了した組織切片の観察は、Ni-U(Nikon)顕微鏡及びDS-Ri1(Nikon)デジタルカメラを利用して撮影し、その結果を、図1(A)に示した(縮尺バー=1mm)。
【0032】
図1(A)から分かるように、若い対照群(young control)と比較したとき、老化対照群(old control)の成長板は退化し、軟骨組織跡だけ確認することができる一方、HAPLN1蛋白質を反復的に腹腔投与され老化群(old HAPLN1)においては、退化した成長板に軟骨が形成されたことを確認することができた(矢印先)。
【0033】
1-2.HAPLN1蛋白質の反復腹腔投与による軟骨形成能保有軟骨細胞の形成及び増加
前記実施例1-1から、HAPLN1蛋白質の反復腹腔投与によって誘導された軟骨形成部位に、軟骨形成能を保有した細胞の存在いかんを確認するために、当該部位に対し、軟骨特異転写因子(cartilage-specific transcription factor)であるSOX9を、免疫組織化学法(IHC:immunohistochemistry)を利用して染色した。染色が完了した組織切片の観察は、Ni-U(Nikon)顕微鏡及びDS-Ri1(Nikon)デジタルカメラを利用して撮影し、その結果を図1(B)に示した(縮尺バー=1mm)。
【0034】
図1(B)から分かるように、若い対照群(young control)においては、SOX9を発現する細胞を、軟骨組織内に全般的に保有している一方、老化対照群(old control)においては、SOX9を発現する細胞を全く発見することができなかった。しかし、HAPLN1蛋白質を反復的に腹腔投与された老化群(old HAPLN1)の軟骨形成刺激部位において、SOX9を発現する細胞が多数発見されることを確認することができた(矢印)。
【0035】
実施例2:生体内損傷された軟骨組織におけるHAPLN1蛋白質による軟骨再生能分析
7週齢の雄C57BL/6マウスを、次のように3個群に分配した。正常対照群(Sham control群)は、DMM(destabilization of medial meniscus)施術に係わる模擬施術群(sham operation)であり、施術後4週の間、既存の条件で飼育した。ビークル処置群(DMM control群)は、DMM施術後8週の間、既存の条件で飼育しながら、最後の4週の間は、週1回PBSを関節腔内投与した。HAPLN1処置群(DMM HAPLN1群)は、DMM施術後8週の間、既存の条件で飼育しながら、最後の4週の間は、週1回HAPLN1蛋白質を、PBSに1μg/mL濃度に希釈して関節腔内投与した。
【0036】
飼育終了時、施術及び処置が適用された膝組織を摘出し、NBFで48時間固定させ、連続して10% EDTA溶液で7日間脱灰過程を遂行した。次に、各検体をパラフィンに包埋してパラフィンブロックを製造し、sagittal方向に5μm厚の組織切片スライドを製造した。免疫蛍光染色法(IF:immunofluorescence)を利用し、コラーゲンタイプII(Col2:type II collagen)を緑色蛍光に染色し、細胞核は、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を使用して青色蛍光に染色した。染色が完了した組織切片の観察は、Ni-U(Nikon)顕微鏡及びDS-Ri1(Nikon)デジタルカメラを利用して撮影し、その結果を図2に示した(縮尺バー=200μm)。
【0037】
図2から分かるように、正常対照群(Sham control群)で発見されるコラーゲンタイプII発現細胞の数が、ビークル処置群(DMM control群)で大きく減少している一方、HAPLN1処置群(DMM HAPLN1群)において、コラーゲンタイプII発現細胞の数が大きく増加するということを確認することができた(矢印の先)。
【0038】
実施例3:HAPLN1蛋白質の試験管内軟骨形成促進能の分析
3-1.HAPLN1蛋白質によるヒト関節軟骨細胞の軟骨形成能の上昇
ヒト関節軟骨細胞(HAC:human articular chondrocyte)は、10%牛胎児血清(FBS、Gibco)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)、1%非必須アミノ酸(NEAA:non-essentialaminoacid、Gibco)が含まれたDulbecco’s modified Eagle medium/F12 1:1混合(DMEM/F12、Gibco)培地内で、37℃、5%COの条件で培養された。
【0039】
HACの軟骨型性能を試すためのモデルとして、アルギン酸塩ビード(alginate bead)内に細胞を包埋する三次元培養システムを利用した。1.25%アルギン酸塩(alginate)溶液に、HACを均一に混合し、ビード当たり30,000個の細胞が含まれるようにした。それらは、前記成長培地に、50μg/mL L-アスコルビン酸2-リン酸(L-ascorbic acid 2-phosphate)、1% ITS(insulin-transferrin-selenium、Gibco)及び10ng/mL TGF-β1を添加して培養し、HAPLN1処理群は、50ng/mL HAPLN1を追加して添加した。培養は、37℃、5% CO条件で、7日ないし28日間持続させた。
【0040】
培養終了時、アルギン酸塩ビードに包埋されたHACを回収するために、55mM EDTA用液にアルギン酸塩を溶解させた後、500xgで3分間、遠心分離(centrifugation)した。遠心分離後に得られた細胞でもって、RNA抽出及び重合酵素連鎖反応(PCR)を行い、遺伝子発現様相を比較分析し、その具体的な過程は、次の通りである。
【0041】
TRIzol(Thermo Scientific)溶液を利用し、製造社の指示事項により、RNAを抽出した。得られたRNA0.1μgから、oligo-dT20プライマー(primer)と、SuperScript III First-Strand Synthesis Supermix(Invitrogen)を利用し、first-strand cDNAを合成した。得られたcDNAは、iQ SYBR Green Supermix(Bio-rad)を利用し、各関心遺伝子に係わる200nMプライマーと共にPCRを進めた。反応条件としては、最初5分間95℃を維持させた後、95℃で10秒、62℃で15秒、72℃で20秒の3段階過程を45回反復た。増幅信号は、CFX Connect(Bio-rad)でリアルタイム測定され、関心遺伝子の発現量は、それぞれのGAPDH発現量に対する相対値として算出される。その結果を図3(A)にしめし、PCRに使用された各ヒト遺伝子に係わるプライマー配列は、次の通りである。
【0042】
【表1】
【0043】
図3(A)から分かるように、HAPLN1蛋白質は、HACをして、SOX9遺伝子発現を増加させると共に、アグリカン(ACAN:aggrecan)及びコラーゲンタイプII(COL2A1)の遺伝子発現を増加大させるということを確認することができた。
【0044】
3-2.HAPLN1蛋白質によるヒト関節軟骨細胞の細胞外基質内プロテアグリカン蓄積増加
前記実施例3-1から、HAPLN1添加による軟骨基質の細胞外蓄積を評価するために、培養28日目のアルギン酸塩ビードを、NBFで15分間固定し、OCT compound(Sakura)内で液体窒素によって凍結させた。そこから、厚み5μmの凍結切片を得て、アセトン(acetone)固定後、サフラニンO/ファーストグリーンFCF染色で視覚化した。染色された組織切片の観察は、Ni-U(Nikon)顕微鏡及びDS-Ri1(Nikon)デジタルカメラを利用して撮影し、その結果を図3(B)に示した(縮尺バー=250μm)。
【0045】
図3(B)から分かるように、HAPLN1蛋白質が含まれた培地で培養されたHACのアルギン酸塩ビードにおいては、その対照群に比べ、サフラニンOによって染色されたプロテアグリカンの蓄積が大きく増加したということを確認することができた。
【0046】
実施例4:HAPLN1蛋白質によるTGF-β信号伝逹調節能分析
4-1.HAPLN1蛋白質によるマウス関節軟骨細胞のTGF-β受容体I(TβR1)の蛋白質量増加
5日齢のICRマウスの両足関節軟骨から、未成熟マウス関節軟骨細胞(iMAC:immature murine articular chondrocyte)を分離した。得られたiMACは、10% FBS(Gibco)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)、1% NEAA(Gibco)が含まれたDMEM/F12(Gibco)培地内で、37℃、5% CO条件で培養された。
【0047】
プレート底に高密度に培養されたiMACに、100ng/mL HAPLN1を3時間ないし72時間処理した後で細胞を収集し、RIPA(radioimmunoprecipitation assay)緩衝液内で蛋白質を抽出した。その後、ウェスタンブロット(western blot)を行い、TGF-β受容体I(TβR1)、ALK1(activin receptor-like kinase 1)、TGF-β受容体II(TβR2)及びGapdhの蛋白質発現レベルを確認し、その結果を図4(A)に示した。
【0048】
図4(A)から分かるように、HAPLN1蛋白質により、iMACのTGF-β受容体I(TβR1)の蛋白質発現レベルが上昇することを確認することができた。一方、ALK1(activin receptor-like kinase 1)及びTGF-β受容体II(TβR2)の発現レベルは、変動がないということを確認することができた。
【0049】
4-2.HAPLN1蛋白質によるマウス関節軟骨細胞のTGF-β受容体I(TβR1)の安定性上昇
前記実施例4-1で示されたHAPLN1蛋白質によるTGF-β受容体I(TβR1)蛋白質レベル上昇が、安定性上昇による結果であるということを検証するために、同一実験条件下で、24時間及び72時間培養した細胞から、蛋白質レベルを比較した3種遺伝子の発現様相を比較分析すると共に、蛋白質生合成(de novo synthesis)を制限した環境において、HAPLN1によるTGF-β受容体I(TβR1)蛋白質レベル上昇を検証した。
【0050】
そのためのRNA抽出及びPCR過程は、次の通りである。
【0051】
TRIzol(Thermo Scientific)溶液を利用し、製造社の指示事項により、RNAを抽出した。得られたRNA 0.1μgから、oligo-dT20プライマーとSuperScript III First-Strand Synthesis Supermix(Invitrogen)とを利用し、first-strand cDNAを合成した。得られたcDNAは、iQ SYBR Green Supermix(Bio-rad)を利用し、各関心遺伝子に係わる200nMプライマーと共にPCRを進めた。反応条件としては、最初5分間95℃を維持させた後、95℃ 10秒、61℃ 15秒、72℃ 20秒の3段階過程を45回反復た。増幅信号は、CFX Connect(Bio-rad)でリアルタイム測定され、関心遺伝子の発現量は、それぞれのGapdh発現量に係わる相対値として算出された。その結果を、図4(B)に示し、PCRに使用された各マウス遺伝子に係わるプライマー配列は、次の通りである。
【0052】
【表2】
【0053】
また、プレート底に高密度に培養されたiMACに、10μM、シクロヘキシミド(CHX)を処理して露出させる間、シクロヘキシミド(CHX)を処理する0.5時間前(pre)あるいは0.5時間後(post)、から200ng/mL HAPLN1を処理した。シクロヘキシミド(CHX)処理24時間後、PBSでプレートを、細胞が付着した状態で洗浄し、細胞を収集し、RIPA緩衝液内で蛋白質を抽出した。抽出された溶解物(cell lysate)にウェスタンブロットを行い、TGF-β受容体I(TβR1)、ALK1(activin receptor-like kinase 1)、TGF-β受容体II(TβR2)及びGapdhの蛋白質発現レベルを確認し、その結果を図4(C)に示した。
【0054】
図4(B)と図4(C)とから分かるように、HAPLN1蛋白質により、iMACのTGF-β受容体I(TβR1)、ALK1(activin receptor-like kinase 1)、TGF-β受容体II(TβR2)のうちいずれも、その遺伝子発現が誘導あるいは抑制されないということを確認することができた。一方、HAPLN1蛋白質により、TGF-β受容体I(TβR1)は、、蛋白質発現レベルが変動していないALK1(activin receptor-like kinase 1)及びTGF-β受容体II(TβR2)とは異なり、その発現レベルが上昇するということを確認することができた。それは、HAPLN1蛋白質がTGF-β受容体I(TβR1)遺伝子に対する転写を誘導せず、その蛋白質の半減期を増大させたものであるということを示し、それは、iMACが保有したTGF-β受容体I(TβR1)蛋白質の安定性ガ上昇したということを示すのである。
【0055】
4-3.HAPLN1蛋白質によるマウス関節軟骨細胞のTGF-β受容体I(TβR1)の細胞表面積提示量増加
プレート底に高密度に培養されたiMACに、10μMシクロヘキシミド(CHX)を処理して露出させる間、シクロヘキシミド(CHX)を処理する0.5時間前(pre)あるいは0.5時間後(post)から、200ng/mL HAPLN1を処理した。シクロヘキシミド(CHX)処理24時間後、PBSでプレートを、細胞が付着した状態で洗浄し、EZ-Link Sulfo-NHS-LC-Biotin(Thermo Scientific)を2時間反応させ、細胞表面蛋白質をビオチン(biotin)標識した。0.1M グリシン溶液で反応を終結させた後で細胞を収集し、NP-40 lysis buffer(Bioworld)内で蛋白質を抽出した。抽出された溶解物において、ビオチン(biotin)抗体と磁性ビード(magnetic bead)とを利用した免疫沈降法を介して、ビオチン(biotin)が標識された細胞表面蛋白質だけ選択的に抽出し、そのように得られた分画物にウェスタンブロットを行い、TGF-β受容体I(TβR1)、ALK1(activin receptor-like kinase 1)、TGF-β受容体II(TβR2)及びGapdhの蛋白質発現レベルを確認し、その結果を図4(D)に示した。
【0056】
図4(D)から分かるように、HAPLN1蛋白質により、iMACの細胞表面に提示されているTGF-β受容体I(TβR1)蛋白質の発現レベルが上昇していることを確認することができると共に、ALK1(activin receptor-like kinase 1)及びTGF-β受容体II(TβR2)の発現、は変動がないということを確認することができた。
【0057】
以下に、本発明によるHAPLN1を含む組成物の製剤例について説明するが、本発明は、それらを限定するものではなく、単に具体的に説明するものである。
【0058】
<処方例1>薬学組成物の処方例
【0059】
<処方例1-1>散剤の製造
HAPLN1 20mg、乳糖100mg及びタルク10mgを混合し、気密包に充填し、散剤を製造した。
【0060】
<処方例1-2>錠剤の製造
HAPLN1 20mg、とうもろこし澱粉100mg、乳糖100mg及びステアリン酸マグネシウム2mgを混合した後、通常の錠剤の製造方法によって打錠して錠剤を製造した。
【0061】
<処方例1-3>カプセル剤の製造
HAPLN1 10mg、とうもろこし澱粉100mg、乳糖100mg及びステアリン酸マグネシウム2mgを混合した後、通常のカプセル剤製造方法によって前述の成分を混合し、ゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0062】
<処方例1-4>注射剤の製造
HAPLN1 10mg、注射用滅菌蒸溜水適量及びpH調節制適量を混合した後、筒状の注射剤の製造方法により、1アンプル当たり(2ml)前述の成分含量で製造した。
【0063】
<処方例1-5>軟膏剤の製造
HAPLN1 10mg、PEG-4000 250mg、PEG-400 650mg、白色ワセリン10mg、パラオキシ安息香酸メチル1.44mg、パラオキシ安息香酸プロピル0.18mg、及び残量の精製水を混合した後、通常の軟膏剤の製造方法によって軟膏剤を製造した。
【0064】
<処方例2>健康補助食品
【0065】
<処方例2-1>健康食品の製造
HAPLN1 1mg、ビタミン混合物適量(ビタミンAアセテート70μg、ビタミンE 1.0mg、ビタミンB1 0.13mg、ビタミンB2 0.15mg、ビタミンB6 0.5mg、ビタミンB12 0.2μg、ビタミンC 10mg、ビオチン10μg、ニコチン酸アミド1.7mg、葉酸50μg、パントテン酸カルシウム0.5mg)及び無機質混合物適量(硫酸第1鉄1.75mg、酸化亜鉛0.82mg、炭酸マグネシウム25.3mg、第1リン酸カリウム15mg、第2リン酸カルシウム55mg、クエン酸カリウム90mg、炭酸カルシウム100mg、塩化マグネシウム24.8mg)を混合した後、顆粒を製造し、通常の方法によって健康食品を製造した。
【0066】
<処方例2-2>健康飲料の製造
HAPLN 11mg、クエン酸1000mg、オリゴ糖100g、梅濃縮液2g、タウリン1g及び精製水を加え、、全体900mlになるようにし、通常の健康飲料製造方法により、前述の成分を混合した後、約1時間85℃で撹拌加熱した後、作られた溶液を濾過し、滅菌された2L容器に集められて密封滅菌した後、冷蔵保管した。
【0067】
以上、本発明の特定部分を詳細に記述したが、当業界の当業者において、そのような具体的な記述は、単に望ましい具現例であるのみ、それらに本発明の範囲が制限されるものではないという点は、明白である。従って、本発明の実質的な範囲は、特許請求の範囲と、その等価物とによって定義されるものである。
【0068】
本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味、範囲そしてその均等概念から導き出される全ての変更、または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものであると解釈されなければならないのである。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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