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特許7078733核酸、骨移植材及び陽イオン性高分子を含む骨移植用組成物とその製造方法、及びこれを製造するための骨移植用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】核酸、骨移植材及び陽イオン性高分子を含む骨移植用組成物とその製造方法、及びこれを製造するための骨移植用キット
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20220524BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220524BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20220524BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
A61L27/36 110
A61L27/54
A61L27/36 400
A61L27/20
A61L27/18
A61L27/36 311
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020541709
(86)(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 KR2019001176
(87)【国際公開番号】W WO2019151736
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】10-2018-0011586
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515097856
【氏名又は名称】ファーマリサーチ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PHARMARESEARCH CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】キム、イク ス
(72)【発明者】
【氏名】シン、チョル ホ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ミン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ス ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、テ ギュン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ソン オ
(72)【発明者】
【氏名】ソ、ハン ソル
(72)【発明者】
【氏名】コン、ビョン ファン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジョン グク
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-529652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0212471(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)核酸;
b)骨移植材として、自家骨の脱灰した骨基質、同種骨の脱灰した骨基質、異種骨の脱灰した骨基質、合成骨移植材、自家骨粉砕物のいずれか、又はこれらの混合物から選ばれ、粉末状であるもの;
c)陽イオン性高分子として、キットサン、ポリエチレンアミン、ポリ-L-リシン、又はポリアリルアミンから選ばれる1種以上のもの;
を含み、
前記a)核酸とc)陽イオン性高分子との結合がb)骨移植材をホールディングさせて凝集体をなす骨移植用組成物であって、
前記核酸及び前記陽イオン性高分子は、1~20:1の重量比で混合されており、
前記核酸は、骨移植用組成物の全重量を基準に0.001~2重量%で含み、
前記陽イオン性高分子は、骨移植用組成物の全重量を基準に0.001~2重量%で含まれること
ことを特徴とする骨移植用組成物。
【請求項2】
前記結合はイオン結合であることを特徴とする、請求項1に記載の骨移植用組成物。
【請求項3】
前記核酸は、デオキシリボ核酸リボ核酸又はこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の骨移植用組成物。
【請求項4】
前記核酸は、分子量が1~100,000kDaであることを特徴とする、請求項1に記載の骨移植用組成物。
【請求項5】
前記骨移植用組成物は骨形成活性剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の骨移植用組成物。
【請求項6】
前記骨形成活性剤は、成長因子止血剤又はこれらの混合物であることを特徴とする、請求項に記載の骨移植用組成物。
【請求項7】
前記成長因子は、骨形成タンパク質(bone morphogenetic protein,BMP)、骨格シアロタンパク質(bone sialoprotein)、形質転換成長因子(transforming growth factor,TGF)、血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor,PDGF)、血小板豊富血漿(platelet rich plasma,PRP)、繊維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor,FGF)、象牙質シアロタンパク質(dentin sialoprotein)、ポリデオキシリボヌクレオチド(polydeoxyribonucleotide)、ヘパリン結合EGF様成長因子(heparin-binding EGF-like growth factor,HB-EGF)、カドヘリンEGF LAG7-パスG-タイプ受容体3(cadherin EGF LAG seven-pass G-type receptor 3)及び造骨細胞特異的カドヘリン(osteoblast specific cadherin,OB-cadherin)からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項に記載の骨移植用組成物。
【請求項8】
前記止血剤は、トロンビン(thrombin)、トロンボプラスチン(thromboplastin)、フィブリノゲン(fibrinogen)、カゼインキナーゼII(casein-kinase II)、組織因子(tissue factor)、エピネフリン(epinephrine)、ゼラチン(gelatin)、ビタミンK(vitamine K)、塩化カルシウム剤(calcium chloride)、塩化アルミニウム-6水和物(aluminium chloride-hexahydrate)及び硫酸アルミニウム(aluminium sulfate)からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項に記載の骨移植用組成物。
【請求項9】
請求項1の骨移植用組成物を製造するための骨移植用キットであって、
a-1)核酸溶液;
b)骨移植材;及び
c-1)陽イオン性高分子溶液;
を含む骨移植用キット。
【請求項10】
前記骨移植用キットは骨形成活性剤をさらに含むことを特徴とする、請求項に記載の骨移植用キット。
【請求項11】
請求項1記載の骨移植用組成物の製造方法であって、
前記核酸に前記骨移植材を混合して核酸-骨移植材混合物を製造する第1段階;及び、
前記核酸-骨移植材混合物にc)陽イオン性高分子を添加して骨移植材をホールディングさせて凝集体を製造する第2段階;或いは
前記陽イオン性高分子に前記骨移植材を混合して陽イオン性高分子-骨移植材混合物を製造する第1段階;及び、前記陽イオン性高分子-骨移植材混合物にa)核酸を添加して骨移植材をホールディングさせて凝集体を製造する第2段階;
を有することを特徴とする骨移植用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸、骨移植材及び陽イオン性高分子を含む骨移植用組成物及びこれを製造するための骨移植用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、骨格系関連疾患が多く増えている。また、スポーツの発達及び生活の質の向上への欲求増大などに伴って骨組織関連疾患を病む患者も増す一方である。
【0003】
人間の先天的・後天的骨疾患による骨変形及び外部的な刺激又は損傷による骨欠損部位を修復するために、骨に代える移植材を患者に移植する。この時に用いられる骨移植材は、起源によって自家骨、同種骨、異種骨、合成骨に分けられる。これらの骨移植材のうち、骨誘導性及び骨形成能に優れた自家骨は一番理想的な骨移植材として評価されるが、自家骨を採取するための付加的な手術が必要であり、これによる合併症及び回復期間が増加する他、多量の骨が必要な場合に十分な量が取られず、採取のための付加的な手術にさらに時間がかかる等の短所もあった。
【0004】
このような問題を克服するために、自家骨を代替可能な種々の骨移植材の開発及び研究が続いており、最近では合成骨移植材に関する研究が広範囲に行われている他、骨形成を促進させるために既存の合成骨と骨伝導性物質、骨誘導性物質を共に適用する研究も活発に行われている。
【0005】
また、損傷又は欠損した骨部位を支持し、周辺組織から欠損部位に新しい新生骨形成を誘導させる骨支持体(scaffold)に関する研究も行われている。このような骨形成誘導を目的とする骨支持体の理想的な目標は、生体活性に優れて感染及び炎症反応がなく、骨欠損部位の支持及び充填が容易であり、体内分解性を有する3次元構造で骨伝導性物質の通路としての機能を有するだけでなく、移植部位に加えられる生理学的応力に耐え得る緩衝力を有する必要がある(Guarino V.,et al.,2007)。しかし、優れた体内活性及び良好な吸水性を有する場合には緩衝力が低下するトレードオフがあり、当該トレードオフを補完、改善した支持体の開発が重要である。
【0006】
そこで、本発明者らは、核酸及び陽イオン性高分子混合物を用いた骨再生研究過程で、核酸及び陽イオン性高分子間の結合によって骨移植材がホールディングされて凝集体を形成することを確認した。また、形成された凝集体は、骨移植材が離れて分散することを防止し、一定の形態の凝集体として製造できるので、骨移植手術の便宜性が増大し、凝集体の形態を一定に維持させる持続性、衝撃を吸収する緩衝力によって骨形成を誘導できる適切な環境を提供することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0007】
従来の先行技術として韓国登録特許第1488716号には、PDRN(核酸)及びキットサン(陽イオン性高分子)を含む歯槽骨再生用キットが記載されているが、本発明の核酸及び陽イオン性高分子間の結合による骨移植材の凝集及びこれによる骨移植時の手術の便宜性増加の効果は記載されていない。また、韓国登録特許第1161784号には、核酸又はキットサンを含む骨パウダーの凝集剤が記載されているが、本発明の核酸と陽イオン性高分子との結合による骨移植材凝集の効果は記載されていない。ヨーロッパ公開特許第2745849号にはPDRN及びキットサンを含む組成物及びその再生医学に必要な細胞増殖促進効果が記載されており、韓国登録特許第1710615号には核酸及びキットサンを含む充填液及びその真皮層生着率増加の効果が記載されているが、両発明とも本発明の骨移植材の凝集体を形成するための核酸及びキットサンの役割及びその効果が記載されていない。
【0008】
非特許文献としてKim,S.K.,et al.は、PDRNの骨再生促進効果が記載されているが、本発明の核酸と陽イオン性高分子との結合による骨移植材の凝集及び骨移植手術の便宜性の増加とっいた効果は記載されていない。さらに他の非特許文献としてMartin R.V.,et al.は、組職再生分野においてキットサンの支持体及び骨再生機能が記載されているが、本発明の核酸とキットサンとの結合によるた骨移植材凝集の効果は記載も言及もされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、核酸、骨移植材及び陽イオン性高分子を含む骨移植用組成物及びこれを製造するための骨移植用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、a)核酸;b)骨移植材;及びc)陽イオン性高分子;を含み、前記a)核酸とc)陽イオン性高分子との結合がb)骨移植材をホールディングさせて凝集体をなす骨移植用組成物に関する。
【0011】
前記骨移植用組成物は、a)核酸にb)骨移植材を混合して核酸-骨移植材混合物を製造する第1段階;及び前記核酸-骨移植材混合物にc)陽イオン性高分子を添加して骨移植材をホールディングさせて凝集体を製造する第2段階;からなる過程によって製造できる。
【0012】
前記骨移植用組成物は、c)陽イオン性高分子にb)骨移植材を混合して陽イオン性高分子-骨移植材混合物を製造する第1段階;及び前記陽イオン性高分子-骨移植材混合物にa)核酸を添加して骨移植材をホールディングさせて凝集体を製造する第2段階;からなる過程によって製造できる。
前記結合はイオン結合であり得る。
前記骨移植用組成物は、核酸及び陽イオン性高分子が1~20:1重量比で混合されたものであり得る。
前記核酸は骨移植用組成物の全重量を基準に0.001~2重量%が含まれ得る。
【0013】
前記核酸は、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid,DNA)、リボ核酸(ribonucleic acid,RNA)又はこれらの混合物であり得る。
前記核酸は、分子量が1~100,000kDaであり得る。
前記陽イオン性高分子は、骨移植用組成物の全重量を基準に0.001~2重量%で含まれ得る。
【0014】
前記陽イオン性高分子は、キットサン(chitosan)、ポリエチレンアミン(polyethylene amine)、ポリ-L-リシン(poly-L-lysine)及びポリアリルアミン(polyallylamine)からなる群から選ばれる1種以上であり得、好ましくはキットサンである。
前記骨移植材は、自家骨の脱灰した骨基質、同種骨の脱灰した骨基質、異種骨の脱灰した骨基質、合成骨移植材、自家骨粉砕物又はこれらの混合物であり得る。
前記骨移植用組成物は骨形成活性剤をさらに含むことができる。
前記骨形成活性剤は、成長因子(growth factor)、止血剤又はこれらの混合物であり得る。
【0015】
前記成長因子は、骨形成タンパク質(bone morphogenetic protein,BMP)、骨格シアロタンパク質(bone sialoprotein)、形質転換成長因子(transforming growth factor,TGF)、血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor,PDGF)、血小板豊富血漿(platelet rich plasma,PRP)、繊維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor,FGF)、象牙質シアロタンパク質(dentin sialoprotein)、ポリデオキシリボヌクレオチド(polydeoxyribonucleotide)、ヘパリン結合EGF様成長因子(heparin-binding EGF-like growth factor,HB-EGF)、カドヘリンEGF LAG7-パスG-タイプ受容体3(cadherin EGF LAG seven-pass G-type receptor 3)及び造骨細胞特異的カドヘリン(osteoblast specific cadherin,OB-cadherin)からなる群から選ばれる1種以上であり得る。
【0016】
前記止血剤は、トロンビン(thrombin)、トロンボプラスチン(thromboplastin)、フィブリノゲン(fibrinogen)、カゼインキナーゼII(casein-kinase II)、組織因子(tissue factor)、エピネフリン(epinephrine)、ゼラチン(gelatin)、ビタミンK(vitamine K)、塩化カルシウム剤(calcium chloride)、塩化アルミニウム-6水和物(aluminium chloride-hexahydrate)及び硫酸アルミニウム(aluminium sulfate)からなる群から選ばれる1種以上であり得る。
【0017】
また、本発明は、a-1)核酸溶液;b)骨移植材;及びc-1)陽イオン性高分子溶液;を含む、前記骨移植用組成物を製造するための骨移植用キットに関する。
前記骨移植用キットは骨形成活性剤をさらに含むことができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、a)核酸;b)骨移植材;及びc)陽イオン性高分子;を含み、前記a)核酸とc)陽イオン性高分子との結合がb)骨移植材をホールディング(holding)させて凝集体をなす骨移植用組成物に関する。
【0019】
前記骨移植用組成物は、前記a)核酸とc)陽イオン性高分子との結合によってb)骨移植材がホールディングされて凝集体を形成するものであり、前記骨移植用組成物を製造するためには、a)核酸、b)骨移植材及びc)陽イオン性高分子の混合順序が重要である。
【0020】
前記骨移植用組成物は、a)核酸にb)骨移植材を混合して核酸-骨移植材混合物を製造する第1段階;及び前記核酸-骨移植材混合物にc)陽イオン性高分子を添加して骨移植材をホールディングさせて凝集体を製造する第2段階;からなる過程によって製造されたり、或いは、c)陽イオン性高分子にb)骨移植材を混合して陽イオン性高分子-骨移植材混合物を製造する第1段階;及び前記陽イオン性高分子-骨移植材混合物にa)核酸を添加して骨移植材をホールディングさせて凝集体を製造する第2段階;からなる過程によって製造され得る。
【0021】
前記骨移植用組成物の製造段階において、a)核酸とc)陽イオン性高分子を混合し、b)骨移植材を添加する場合は、核酸と陽イオン性高分子間の結合が先になされ、骨移植材のホールディング無しで核酸及び陽イオン性高分子のみ含まれた凝集体が形成されることがあるので、本発明の骨移植用組成物の製造に適さないといえる。
【0022】
前記ホールディング(holding)は、a)核酸とc)陽イオン性高分子とが結合する過程でb)骨移植材の粒子を支えたり固定させて骨移植材を凝集させたり或いは分散されないようにする状態を意味でき、また、a)核酸とc)陽イオン性高分子間の結合によって形成される複合体内にb)骨移植材粒子が含まれたり組み込まれて凝集体が形成されることを意味できる。
前記骨移植材がホールディングされた状態は、外部衝撃及び環境変化にもその状態を維持することができる。
前記結合はイオン結合であり得る。
【0023】
前記イオン結合は、核酸の陰イオンと陽イオン性高分子の陽イオンとの静電気的引力によって生じる結合であり、前記骨移植用組成物に安定な状態の凝集体を形成させる。
【0024】
前記骨移植用組成物は、核酸及び陽イオン性高分子が1~20:1重量比で混合されたものであり得、好ましくは、2~10:1重量比である。前記核酸及び陽イオン性高分子の重量比を外れる場合、本発明の骨移植用組成物が凝集しないことがあり、好ましくない。
【0025】
前記核酸は骨移植用組成物の全重量を基準に0.001~2重量%が含まれ得る。好ましくは0.01~2重量%であり、より好ましくは0.1~2重量%であり、最も好ましくは1~2重量%である。前記核酸が0.001重量%未満で含まれる場合は、骨移植材が凝集しないことがあり、核酸が2重量%を超える場合には、組成物製造過程で核酸が十分に溶解しないことがあるため、好ましくない。
【0026】
前記核酸は、本発明の陽イオン性高分子との結合によって骨移植材をホールディングさせて凝集体を形成するためのものであり、塩基、糖、リン酸で構成されたヌクレオチド(nucleotide)がリン酸結合で重合され、長い鎖状の分子を形成している高分子物質であり得る。好ましくは、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid,DNA)、リボ核酸(ribonucleic acid,RNA)又はこれらの混合物であり得、より好ましくはデオキシリボ核酸である。
【0027】
前記デオキシリボ核酸は、動物又は植物から抽出されて製造されたデオキシリボ核酸であり得、好ましくは魚類から抽出されて製造されたデオキシリボ核酸であり得、より好ましくは魚類の精液又は精巣から抽出されて製造されたオリゴヌクレオチド(oligonucleotide)、ポリヌクレオチド(polynucleotide)、ポリデオキシリボヌクレオチド(polydeoxyribonucleotide)又はこれらの混合物であり得る。
前記魚類はサケ科であり得、好ましくはマス又はサケであり、最も好ましくはサケである。
【0028】
前記核酸は、分子量が1~100,000kDaであり得る。好ましくは、10~10,000kDaであり、最も好ましくは50~3,500kDaである。前記核酸の分子量が1kDa未満の場合には、骨移植材の凝集がし難く、100,000kDaを超える場合には溶解し難いため、好ましくない。
【0029】
前記陽イオン性高分子は、骨移植用組成物の全重量を基準に0.001~2重量%が含まれ得る。好ましくは0.01~2重量%、より好ましくは0.1~2重量%、最も好ましくは1~2重量%である。前記陽イオン性高分子が0.001重量%未満で含まれる場合には骨移植材が凝集しないことがあり、2重量%を超える場合には組成物製造過程で溶解し難いため、好ましくない。
【0030】
前記陽イオン性高分子は本発明の核酸とのイオン結合によって骨移植材をホールディングさせて凝集体を形成するためのものであり、生体適合的なものとして、キットサン(chitosan)、ポリエチレンアミン(polyethylene amine)、ポリ-L-リシン(poly-L-lysine)及びポリアリルアミン(polyallylamine)からなる群から選ばれる1種以上であり得、好ましくはキットサンである。しかし、これに限定されない。
【0031】
前記キットサンは分子量が3~1,000kDaてあり得るが、これに限定されない。前記キットサンの分子量が3kDa未満の場合には骨移植用組成物の凝集力が低下して移植部位の骨支持体としての機能が減少することがあり、1,000kDaを超える場合には溶解し難いため、好ましくない。
【0032】
前記骨移植用組成物は核酸及び陽イオン性高分子が1~20:1重量比で混合されたものであり、このとき、核酸の含有量が骨移植用組成物の全重量を基準に0.001~2重量%となり、陽イオン性高分子が骨移植用組成物の全重量を基準に0.001~2重量%となるようにすることが好ましい。
【0033】
前記骨移植材は、自家骨の脱灰した骨基質、同種骨の脱灰した骨基質、異種骨の脱灰した骨基質、合成骨移植材、自家骨粉砕物又はこれらの混合物であり得る。しかし、これに限定されない。
【0034】
前記骨移植材は、粉末状、粒子状、破片状、ブロック状及びペースト状、ゲル状などであり得、好ましくは、粉末状、粒子状、破片状であり、最も好ましくは粉末状である。
【0035】
前記骨移植用組成物は、前記a)核酸、b)骨移植材及びc)陽イオン性高分子が含まれており、b)骨移植材がa)核酸とc)陽イオン性高分子間の結合によってホールディングされて凝集体を形成するものであり、前記骨移植材は骨移植用組成物が含まれている溶液に全て浸り、骨移植材粒子の大部分が核酸及び陽イオン性高分子の結合によってホールディングされて凝集するようにすることが好ましい。したがって、前記骨移植材は、骨移植用組成物の核酸が溶解している核酸溶液と陽イオン性高分子が溶解している陽イオン性高分子溶液の全体積を基準に100%未満で混合することができる。好ましくは、90%以下であり得る。前記骨移植材が核酸溶液と陽イオン性高分子溶液の全体積を基準に100%以上の場合は、溶液中に含まれている核酸及び陽イオン性高分子が全ての骨移植材粒子をホールディングさせないことがあるので、凝集体形成に好ましくない。
前記骨移植用組成物は骨形成活性剤をさらに含むことができる。
前記骨形成活性剤は、前記骨移植用組成物を骨形成活性剤溶液に担持して骨移植用組成物に骨形成活性剤を含浸させることができる。
前記骨形成活性剤は、成長因子(growth factor)、止血剤又はこれらの混合物であり得る。
【0036】
前記成長因子は骨再生活性を促進するものであり、骨形成タンパク質(bone morphogenetic protein,BMP)、骨格シアロタンパク質(bone sialoprotein)、形質転換成長因子(transforming growth factor,TGF)、血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor,PDGF)、血小板豊富血漿(platelet rich plasma,PRP)、繊維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor,FGF)、象牙質シアロタンパク質(dentin sialoprotein)、ポリデオキシリボヌクレオチド(polydeoxyribonucleotide)、ヘパリン結合EGF様成長因子(heparin-binding EGF-like growth factor,HB-EGF)、カドヘリンEGF LAG7-パスG-タイプ受容体3(cadherin EGF LAG seven-pass G-type receptor 3)及び造骨細胞特異的カドヘリン(osteoblast specific cadherin,OB-cadherin)からなる群から選ばれる1種以上であり得る。しかし、これに限定されない。
【0037】
前記止血剤は傷治癒を促進するものであり、トロンビン(thrombin)、トロンボプラスチン(thromboplastin)、フィブリノゲン(fibrinogen)、カゼインキナーゼII(casein-kinase II)、組織因子(tissue factor)、エピネフリン(epinephrine)、ゼラチン(gelatin)、ビタミンK(vitamine K)、塩化カルシウム剤(calcium chloride)、塩化アルミニウム-6水和物(aluminium chloride-hexahydrate)及び硫酸アルミニウム(aluminium sulfate)からなる群から選ばれる1種以上であり得る。しかし、これに限定されない。
【0038】
前記骨移植用組成物は親水性高分子をさらに含むことができ、前記親水性高分子は、カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose)、アルギン酸(alginic acid)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、コラーゲン(collagen)又はこれらの混合物からなる群から選ばれる1種以上であり得る。
前記親水性高分子は本発明の骨移植用組成物の物性を補助し、移植部位の再生効果を増加させることができる。
【0039】
前記骨移植用組成物は、核酸及び陽イオン性高分子間のイオン結合によって骨移植材をホールディングさせて凝集体を形成し、骨再生空間の維持及び細胞外基質の役割のような理想的な支持体の役割を担うことができる。また、前記骨移植用組成物は、患部に移植時に、生体内で骨の圧縮、引張、歪み、捩れなどのような生理学的応力に対応可能な緩衝力を増加させることができる。
【0040】
前記骨移植用組成物は、凝集体を形成することによって骨移植手術時に手術の便宜性を増大させることができ、前記骨移植用組成物中に含まれている核酸及び陽イオン性高分子は生体適合的であるので、生体内分解が可能である。
【0041】
前記骨移植は、外傷や感染、退行性変化、腫瘍切除、歯科疾患などの様々な理由で骨の欠損が発生した場合、骨組織内の空間を充填させ、新生骨の形成を促進するためのものであり、口腔外科又は整形外科的骨損失又は損傷に対する疾患に適用可能である。具体的に、歯牙の本来機能を回復させる歯科手術又は歯牙移植、歯周炎などの歯周疾患、難治性骨疾患、代謝性骨疾患、無形性骨疾患、複合骨折又は種々の骨の骨折が発生した場合、脊椎で骨と関節とを融合させる場合、感染や損傷、老化及び他の生理的な理由で損傷したり或いは様々な事故で損傷した場合、損傷した骨の空間に適用する場合、人工関節のような挿入物の周辺に骨を治癒させるための場合、骨の疾病、骨腫瘍を含む骨疾患によって損失した骨組織内の空間充填、骨折、骨癒合、関節固定が必要な場合、関節軟骨、頭蓋顔面、耳介、鼻、関節などの外傷、先天奇形、異物除去部、老化による変性などが発生する場合に施すことができ、前記骨は人体のいずれの骨であってもよい。
【0042】
また、本発明は、a-1)核酸溶液;b)骨移植材;及びc-1)陽イオン性高分子溶液;を含む、前記骨移植用組成物を製造するための骨移植用キットに関する。
【0043】
前記骨移植用キットは、a-1)核酸溶液、b)骨移植材及びc-1)陽イオン性高分子溶液が一つのシリンジ又はバイアルに保管されたものであってもよく、骨欠損部に骨移植用組成物を直接注入又は移植可能な形態で保管されたものであってもよい。
【0044】
また、前記骨移植用キットは、a-1)核酸溶液、b)骨移植材、及びc-1)陽イオン性高分子溶液がそれぞれのバイアルに個別に保管されたものであってもよい。
【0045】
また、前記骨移植用キットは、a-1)核酸溶液及びb)骨移植材が混合されているバイアルと、c-1)陽イオン性高分子溶液が入っているバイアルが個別に保管されたものであってもよく、c-1)陽イオン性高分子溶液及びb)骨移植材が混合されているバイアルと、a-1)核酸溶液が入っているバイアルが個別に保管されたものであってもよい。
【0046】
また、前記骨移植用キットは、a-2)粉末状の核酸、b)骨移植材、c-2)粉末状の陽イオン性高分子、d)核酸溶解用緩衝溶液、及びe)陽イオン性高分子溶解用緩衝溶液が入っているバイアルが個別に保管されたものであってもよい。
【0047】
前記骨移植用キットの核酸と陽イオン性高分子は、緩衝溶液に溶解している液剤状又は粉末のような結晶状の形態であり、個別保管した形態であり得るが、これに限定されない。
【0048】
前記d)核酸溶解用緩衝溶液は、精製水、塩化ナトリウム(sodium chloride)、リン酸水素ナトリウム(sodium hydrogen phosphate)、リン酸二水素ナトリウム二水和物(sodium dihydrogen phosphate dihydrate)、二塩基性リン酸ナトリウム十二水和物(sodium phosphate dibasic dodecahydrate)、塩化マグネシウム(magnesium chloride)、塩化カリウム(potassium chloride)、リン酸緩衝食塩水(phosphate buffer saline,PBS)、HEPES(N-(2-hydroxyethyl)-piperazine-N’-2-ethanesulfonic acid)、グリセロール-3-リン酸(glycerol-3-phosphate)又はこれらの混合物であり得、好ましくは、塩化ナトリウム(sodium chloride)、リン酸水素ナトリウム(sodium hydrogen phosphate)、リン酸二水素ナトリウム二水和物(sodium dihydrogen phosphate dihydrate)又はこれらの混合物であり得るが、これに限定するものではない。
【0049】
前記e)陽イオン性高分子溶解用の緩衝溶液は酸性緩衝溶液であり得、好ましくは、精製水、酢酸(acetic acid)、塩酸(hydrochloric acid)、アスコルビン酸(ascorbic acid)、硝酸(nitric acid)、乳酸(lactic acid)又はこれらの混合物であり得、より好ましくは、乳酸、酢酸、又はこれらの混合物であり得るが、これに限定されない。
前記骨移植材は、前記骨移植用キットに共に含まれてもよく、商用化して販売される骨移植材を別に購入して使用してもよい。
【0050】
前記核酸溶液の濃度は当業者の判断によって変えてもよく、好ましくは0.5重量%以上であり得るが、これに限定されない。しかし、核酸溶液の場合、2重量%の核酸溶液を製造するときには、核酸がよく溶解しない製造上の困難があり得る。
【0051】
前記陽イオン性高分子溶液の濃度は当業者の判断によって変えてもよく、好ましくは0.5重量%以上であり、陽イオン性高分子の最大溶解濃度まで使用することができる。
前記骨移植用キットは骨形成活性剤をさらに含むことができ、骨形成活性剤は溶液又は粉末の形態で別個のバイアルに保管されていてもよい。
前記粉末形態の骨形成活性剤を含む骨移植用キットは、骨形成活性剤溶解用の緩衝溶液をさらに含むことができる。
【0052】
前記骨形成活性剤溶解用の緩衝溶液は、骨形成活性剤の活性を維持できる緩衝溶液であり得る。好ましくは、リン酸緩衝食塩水(phosphate buffer saline,PBS)、生理食塩水、細胞培養培地、ぶどう糖輸液、分枝アミノ酸輸液及びリンゲル液として用いられるハルトマン溶液(Hartmann Solution)及びハルトマンデックス(Hartmann Dex)などの栄養分が含まれている液剤であり得、体内に直接入っても滲透圧の変化を起こさない液剤であればいずれも使用可能である。
【発明の効果】
【0053】
本発明は、核酸、骨移植材及び陽イオン性高分子を含む骨移植用組成物及びこれを製造するための骨移植用キットに関する。より具体的に、本発明の骨移植用組成物は、組成物内の核酸と陽イオン性高分子間の結合によって骨移植材がホールディングされて凝集体を形成し、このような凝集体の緩衝力が増加して支持体として働き、移植された部位の新生骨形成を促進することを確認した。また、本発明の骨移植材組成物は凝集性が増加し、骨移植時に手術部位の形態に応じて適用可能なため、手術の便宜性が向上した。
【0054】
これによって、本発明の骨移植用組成物は、骨再生空間の維持及び細胞成長のための効果的な支持体として働いて骨形成を誘導し、様々な骨疾患の治療に有用に用いられると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】核酸及び陽イオン性高分子による骨移植材の凝集の有無を確認した結果を示している。(A)は骨移植材単独の凝集の有無を、(B)は核酸及びキットサンが混合された組成物1の凝集の有無を、(C)は核酸及びキットサンを混ぜた後に骨移植材を混合した組成物2の凝集の有無を、(D)は核酸及び骨移植材を混ぜた後にキットサンを混合した組成物3の凝集の有無を示している。
図2】核酸及び陽イオン性高分子の混合比率による骨移植材の凝集の有無を示している。
図3】核酸及び陽イオン性高分子の濃度及び混合比率による骨移植材の凝集の有無を示している。
図4】核酸及び陽イオン性高分子による骨移植材の凝集力及び骨移植用組成物の緩衝力を確認した結果を示している。(A)は核酸及び陽イオン性高分子を含まない溶液内骨移植材単独の、(B)は核酸及びキットサンを混合した組成物1の、(C)は核酸と骨移植材を混ぜた後にキットサンを混合した組成物3、の凝集力及び緩衝力を示している。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。ただし、本発明はここで説明される実施例に限定されず、他の形態で具体化されてもよい。却って、以下の実施例は、ここで紹介される内容が徹底且つ完全になり、当業者に本発明の思想を十分に伝達するために提供するものである。
<実験例1.核酸及び陽イオン性高分子による骨移植材凝集の確認>
【0057】
核酸としてファーマリサーチプロダクト社のポリヌクレオチド(Polynucleotide、大韓民国、以下、‘核酸’と記載)を使用し、核酸0.2gを9.8mlの緩衝溶液(0.8%塩化ナトリウム、0.25%リン酸水素ナトリウム、0.028%リン酸二水素ナトリウム二水和物)に入れ、熱撹拌機を用いて40~70℃で30~60分間溶解させ、2重量%の核酸溶液を製造した。
【0058】
陽イオン性高分子としてはキットサンを使用し、キットサン0.2gを0.12M乳酸(lactic acid)9.8mlに入れて撹拌機を用いて溶解させ、2重量%キットサン溶液を製造した。
骨移植材としては牛起源の脱灰した異種骨を使用した。
【0059】
前記で製造した核酸溶液とキットサン溶液、骨移植材を下記表1のように混合して作った組成物の物性及び骨移植材の凝集の有無を確認し、その結果を図1に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
図1に示すように、核酸溶液及びキットサン溶液を混合した組成物1(図1B)はゲル(gel)のようにも見られるが、ゲル状態でないながらもピンセットで容易に取り扱えるような物性を示している。核酸溶液及びキットサン溶液を混合した後に骨移植材を混ぜた組成物2(図1C)は、骨移植材が核酸溶液及びキットサン溶液混合物によって凝集せず、何も混合していない骨移植材(図1A)と同様に分散されていることを確認した。一方、骨移植材に核酸溶液をまず混ぜた後、キットサン溶液を混合した組成物3(図1D)は、骨移植材が凝集していることを確認した。
【0062】
また、図1には示していないが、骨移植材とキットサン溶液をまず混ぜた後、核酸溶液を混合した組成物の場合にも、前記組成物3と同様に骨移植材が凝集することを確認した。
【0063】
本明細書では開示していないが、陽イオン性高分子としてキチン、ポリエチレンアミン、ポリ-L-リシン及びポリアリルアミンを用いた場合にも同様の結果を示すことを確認した。
【0064】
これによって、本発明の核酸及び陽イオン性高分子の結合が骨移植材の凝集を誘導することが分かり、核酸、陽イオン性高分子及び骨移植材の混合順序も骨移植材凝集に重要であることが分かった。
<実験例2.核酸及び陽イオン性高分子の混合比率による骨移植材の凝集有無の確認>
【0065】
前記実験例1から確認された核酸及びキットサンによる骨移植材凝集が核酸及びキットサンの混合比率に影響を受けるかどうかを確認するために、核酸及びキットサンの混合比率を変えて骨移植材の凝集の有無を確認した。この時、核酸の濃度は固定させ、キットサンの濃度を変えて混合比率を調節した。
【0066】
前記実験例1の核酸溶液及びキットサン溶液の製造方法と同じ方法により、2重量%の核酸溶液と2重量%、1重量%、0.5重量%及び0.1重量%のキットサン溶液を製造した。組成物の製造は、組成物中の核酸及びキットサンの最終濃度が下記表2に記載の濃度となるように、0.5gの骨移植材に2重量%の核酸溶液1.25mlを分注して混ぜた後、各濃度のキットサン溶液0.25mlを追加して混ぜながら骨移植材の凝集の有無を確認し、その結果を図2に示した。
【0067】
【表2】
【0068】
図2に見られるように、核酸及びキットサンの混合比率によって骨移植材の凝集の有無が変わることを確認した。すなわち、骨移植用組成物に含まれた核酸及びキットサンが5:1(組成物3)、10:1(組成物3-1)及び20:1(組成物3-2)の重量比で混合された場合には骨移植材が凝集するのに対し、100:1(組成物3-3)重量比で混合された場合には骨移植材が凝集せず、分散されていることを確認した。
これによって、骨移植材の凝集の有無において、核酸及び陽イオン性高分子の混合比率が重要であることが分かる。
<実験例3.核酸及び陽イオン性高分子の濃度による骨移植材の凝集有無の確認>
【0069】
前記実験例2から、核酸及びキットサンの混合比率が骨移植材の凝集に重要な働きをすることを確認した。また、核酸及びキットサンの濃度による骨移植材の凝集を確認するために実験を行った。
【0070】
前記実験例1の核酸溶液及びキットサン溶液の製造方法と同じ方法により、2重量%、1重量%及び0.5重量%のキットサン溶液と、2重量%、1.5重量%、1重量%、及び0.5重量%の核酸溶液を製造した。組成物の製造は、組成物中の核酸及びキットサンの最終濃度が下記表3に記載の濃度となるように、0.5gの骨移植材に各濃度の核酸溶液1.25mlを分注して混ぜた後、各濃度のキットサン溶液0.25mlを追加して混ぜながら骨移植材の凝集の有無を確認し、その結果を図3に示した。
【0071】
【表3】
【0072】
図3に示すように、組成物中の核酸及びキットサンの濃度は異なるが、混合比率が類似又は同一の組成物3、組成物4-5及び組成物4-9を見ると、組成物4-9は骨移植材が凝集せず、分散されているが、組成物4-5及び組成物3は骨移植材が凝集していることを確認した。このような結果は、組成物4-4及び組成物4-8、組成物3-1及び組成物4-6でも同一に見られた。
【0073】
これによって、骨移植材の凝集の有無が核酸及び陽イオン性高分子の混合比率の他、核酸及び陽イオン性高分子の最終濃度によっても影響を受けることが分かる。
【0074】
前記実験例1~実験例3の結果から、本発明の骨移植用組成物は、核酸及び陽イオン性高分子の混合比率が1~20:1(重量比)であり、核酸が組成物全重量を基準に0.001~2重量%含まれ、陽イオン性高分子が組成物の全重量を基準に0.001~2重量%含まれることが好ましいことが分かった。
<実験例4.核酸及び陽イオン性高分子による骨移植材の凝集力及び骨移植用組成物の緩衝力確認>
【0075】
本発明の骨移植用組成物において、核酸及び陽イオン性高分子による骨移植材の凝集力及び骨移植用組成物の緩衝力を確認するために、前記実験例1の組成物1及び組成物3を使用し、一定の力を加えて組成物の形態変化を確認した。その結果を図4に示した。
【0076】
図4に示すように、骨移植材だけ存在する場合(図4A)には、骨移植材が凝集しておらず、小さい力を加えても容易に分散されることを確認した。骨移植材が含まれておらず、核酸及びキットサンだけ混合されている組成物1の場合(図4B)には、力を加えても組成物が散らばらず、加えた力を除去した時、元来の形態に復帰する復原力及び緩衝力があることを確認した。核酸、キットサン及び骨移植材が混合されている組成物3の場合(図4C)には、骨移植材単独で存在する場合とは違い、骨移植材が凝集して、力を加えても骨移植材の分散無しでその形態が維持されていることから凝集力があることを確認し、また緩衝力もあることを確認した。
【0077】
これによって、本発明の核酸、陽イオン性高分子及び骨移植材を含む骨移植用組成物は、骨移植材を凝集する凝集力によって骨移植材が外部の力によって分散されることを防止し、骨移植及び骨再生過程での物理的な衝撃を補完できる緩衝力によって、形態維持を可能にし、骨移植時の手術便宜性が増大し得ることが分かった。
<実験例5.時間の経過による骨移植用組成物の凝集力維持の確認>
【0078】
本発明の骨移植用組成物において、時間の経過による骨移植用組成物の凝集力減少の有無を確認した。この時、骨移植用組成物の凝集力が減少すると、骨移植材が分散することによる組成物の全重量変化に基づいて凝集力維持の有無を確認した。
前記実験例1の組成物3を使用し、組成物3を製造した直後を基準にして30分間隔で骨移植用組成物の全重量を測定し、その結果を表4に示した。
【0079】
【表4】
【0080】
前記表4から、本発明の骨移植用組成物の全重量に大きな経時変化がないことを確認し、これによって、本発明の骨移植用組成物の凝集力が長時間持続するということが分かった。
【0081】
これによって、本発明の骨移植用組成物は、長時間の手術にも殆ど骨移植用組成物の形状変化無しで高い安定性を有する他、殆ど骨移植材の脱落無しで骨移植材の凝集が長く持続するので、便利な骨移植手術が可能であることが分かった。
<実験例6.骨形成誘導確認>
本発明の骨移植用組成物の骨形成誘導効果を確認するために、骨成長のない部位に骨移植用組成物を移植して新生骨形成の有無を観察した。
【0082】
骨成長がない部位であるネズミの腹筋に、前記実施例1の組成物2及び組成物3、及び対照群として骨移植材だけを移植した後、腹筋及び皮膚を縫合して飼育した。飼育後、移植した腹筋全体を剥離し、脱石灰化過程を経てパラフィンで包埋して組織標本を作製した。作製した組織標本を用いてギームザ染色(Giemsa stain)及びH&E染色を行った後、新生骨組織の量を測定して新生骨形成程度を確認した。
【0083】
その結果、骨移植材だけを処理した対照群の場合、新生骨が殆ど見られず、組成物2を処理した場合も対照群と類似に、新生骨が殆ど見られなかった。これに対し、組成物3を処理した場合には、対照群及び組成物2とは違い、新生骨の量が顕著に増加したことを確認した。
これによって、本発明の骨移植用組成物が骨形成誘導促進効果を有することが分かった。
<実施例1.骨移植用キット製造>
実施例1-1.核酸溶液の製造
【0084】
核酸0.2gを9.8ml緩衝溶液(0.8塩化ナトリウム、0.25%リン酸水素ナトリウム、0.028%リン酸二水素ナトリウム二水和物)に入れて熱撹拌機を用いて40~70℃で30~60分間溶解させ、2重量%の核酸溶液を製造した。
実施例1-2.陽イオン性高分子溶液の製造
陽イオン性高分子としてはキットサンを使用した。
0.2gキットサンを0.12M乳酸(lactic acid)溶液9.8mlに入れて撹拌機を用いて溶解させ、2重量%のキットサン溶液を製造した。
実施例1-3.骨移植用キットの製造
【0085】
前記実施例1-1で製造した核酸溶液が保管されているバイアルと実施例1-2で製造したキットサン(陽イオン性高分子)溶液が保管されているバイアルを組み合わせて、本発明の骨移植用キットを製造した。この時、骨移植材の場合、骨移植材が保管されているバイアルをキットに挿入して骨移植用キットを製造することができる。

図1
図2
図3
図4