(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】磁気補償型NMRロータとその設計及び製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/00 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
G01N24/00 510A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021052414
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】10 2020 204 379.5
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591148048
【氏名又は名称】ブルーカー スウィッツァーランド アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Bruker Switzerland AG
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ウィクス
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ギー バウマン
(72)【発明者】
【氏名】マルクス マイヤー
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ウトゥリ
(72)【発明者】
【氏名】ローベルト シャウヴェッカー
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-205223(JP,A)
【文献】特開2017-116322(JP,A)
【文献】特開2009-103517(JP,A)
【文献】米国特許第06741079(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00-24/14
G01N 33/28-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料容器(1)を挿入するための収容部を有するNMRロータ(2)であって、前記試料容器(1)は磁束密度BのNMR磁場が均一な領域におけるNMR測定用の試料物質を含み、前記NMR磁場が均一な領域における磁場ベクトルはz
軸に沿った垂直方向に延び、前記NMRロータ(2)は前記磁場が均一な領域へ前記試料容器(1)が挿入されるときに不均一な磁場成分と少なくとも1つの磁束密度勾配dB/dzとを有する領域を通過する、NMRロータにおいて、
前記NMRロータ(2)は少なくとも2つの異なる材料で構成され、そのうち1つの材料は反磁性の特性を有し、他の1つの材料は非反磁性の特性を有し
、磁束密度Bと磁束密度勾配dB/dzとの積Φ
Zの
大きさが1400T
2
/mを上回る影響下で前記NMRロータ(2)に作用する磁力
が前記NMRロータ(2)の重量による力と同じ方向に作用す
るように、前記異なる材料が前記NMRロータ(2)内又は前記NMRロータ(2)上に幾何学的に分布するよう配置されていることを特徴とするNMRロータ。
【請求項2】
前記積Φ
Zは次式
【数1】
によって与えられ、
このとき|Φ
Z|>1400T
2/
mであり、
V
Rotorは前記NMRロータ(2)の体積を示し、
dVは前記NMRロータ(2)の微小体積要素を示すことを特徴とする、請求項1に記載のNMRロータ。
【請求項3】
前記NMRロータ(2)の少なくとも1つの非反磁性材料
は常磁性の特性を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のNMRロータ。
【請求項4】
少なくとも1つの反磁性材料と少なくとも1つの非反磁性材料が前記NMRロータ(2)内又は前記NMRロータ(2)上に、前記NMRロータ(2)の位置における高磁場NMR磁石の磁束密度Bの前記NMR磁場において次式が成り立つように配置され、
【数2】
ここで、
χ
diaは、前記反磁性材料の磁化率を示し、
χ
non-diaは、前記非反磁性材料の磁化率を示し、
V
diaは、前記NMRロータ(2)における前記反磁性材料の体積を示し、
V
non-diaは、前記NMRロータ(2)における前記非反磁性材料の体積を示し、
dB/drは、前記ロータ(2)の体積における前記NMR磁場の磁束密度の前記z
軸に関して径方向の勾配を示し、
dVは、前記NMRロータ(2)の微小体積要素を示すことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項5】
前記NMRロータ(2)の前記材料のうちの少なくとも1つ
は導電性であり、当該材料は前記収容部を完全には取り囲まないように前記NMRロータ(2)内に配置されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項6】
前記NMRロータ(2)は、前記磁場が均一な領域へ前記試料容器(1)が挿入されるとき前記z
軸に沿って延びるロータ軸を前記収容部の中心に有し、前記NMRロータ(2)は前記ロータ軸を含む対称平面に関して鏡像対称に、及び/又は前記ロータ軸に関して回転対称に構成され、反磁性材料と非反磁性材料が前記NMRロータ(2)内に前記ロータ軸の周りに鏡像対称及び/又は回転対称に分布していることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項7】
前記NMRロータ(2)の前記材料のうちの1つ
が少なくとも2つのロッド状の部品として構成され、前記NMRロータ(2)の基材内の前記ロータ軸と平行に延びる複数の平行ボアの中に配置されることを特徴とする、請求
項6に記載のNMRロータ。
【請求項8】
前記NMRロータ(2)の非反磁性材料と反磁性材料が少なくとも部分的
に混合され
ていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項9】
異なる磁気特性を有する前記NMRロータ(2)の材料が少なくとも部分的に1つ又は複数の層として塗布されていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項10】
前記NMRロータ(2)は、異なる磁気特性を有する少なくとも2つの材料のうちの1つか
ら主として構成されていることを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項11】
前記NMRロータ(2)は、90~95体積%の割合
で前記少なくとも2つの材料であって異なる磁気特性を有する材料のうちの1つから構成され、5~10体積%の割合
で他の材料から構成されることを特徴とする、請求項10に記載のNMRロータ。
【請求項12】
反磁性材料には、プラスチッ
クが含まれることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項13】
非反磁性材料にはチタン、アルミニウム、又は白金が含まれることを特徴とする、請求項1から12のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項14】
前記NMRロータ(2)内又は前記NMRロータ(2)上の前記材料の前記幾何学的な分布は、前記NMRロータ(2)に作用する磁力が0.02N~0.2Nで
あるように構成されることを特徴とする、請求項1から13のうちいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載のNMRロータ(2)の設計及び製造方法において、まず前記NMRロータ(2)の基材
の磁化率が決定され、次いで、異なる複数の磁気特性を有する別の材料によ
る前記ロータ(2)の磁気的な補償が、各々の前記NMRロータ(2)について個別に、前記基材の測定結果に基づい
て決定されることを特徴とする方法。
【請求項16】
試料容器(1)を挿入するための収容部を有するNMRロータ(2)であって、前記試料容器(1)は磁束密度BのNMR磁場が均一な領域におけるNMR測定用の試料物質を含み、前記NMR磁場が均一な領域における磁場ベクトルはz軸に沿った垂直方向に延び、前記NMRロータ(2)は前記磁場が均一な領域へ前記試料容器(1)が挿入されるときに不均一な磁場成分と少なくとも1つの磁束密度勾配dB/dzとを有する領域を通過する、NMRロータにおいて、
前記NMRロータ(2)は少なくとも2つの異なる材料で構成され、そのうち1つの材料は反磁性の特性を有し、他の1つの材料は非反磁性の特性を有し、磁束密度Bと磁束密度勾配dB/dzとの積Φ
Z
の大きさが1400T
2
/mを上回る影響下で前記NMRロータ(2)に作用する磁力が、前記NMRロータ(2)の重量による力よりも小さい値になるように、前記異なる材料が前記NMRロータ(2)内又は前記NMRロータ(2)上に幾何学的に分布するよう配置されていることを特徴とするNMRロータ。
【請求項17】
前記積Φ
Z
は次式
【数3】
によって与えられ、
このとき|Φ
Z
|>1400T
2
/mであり、
V
Rotor
は前記NMRロータ(2)の体積を示し、
dVは前記NMRロータ(2)の微小体積要素を示すことを特徴とする、請求項16に記載のNMRロータ。
【請求項18】
前記NMRロータ(2)の少なくとも1つの非反磁性材料は、常磁性の特性を有することを特徴とする、請求項16又は17に記載のNMRロータ。
【請求項19】
少なくとも1つの反磁性材料と少なくとも1つの非反磁性材料が前記NMRロータ(2)内又は前記NMRロータ(2)上に、前記NMRロータ(2)の位置における高磁場NMR磁石の磁束密度Bの前記NMR磁場において次式が成り立つように配置され、
【数4】
ここで、
χ
dia
は、前記反磁性材料の磁化率を示し、
χ
non-dia
は、前記非反磁性材料の磁化率を示し、
V
dia
は、前記NMRロータ(2)における前記反磁性材料の体積を示し、
V
non-dia
は、前記NMRロータ(2)における前記非反磁性材料の体積を示し、
dB/drは、前記ロータ(2)の体積における前記NMR磁場の磁束密度の前記z軸に関して径方向の勾配を示し、
dVは、前記NMRロータ(2)の微小体積要素を示すことを特徴とする、請求項16から18のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項20】
前記NMRロータ(2)の前記材料のうちの少なくとも1つは導電性であり、当該材料は前記収容部を完全には取り囲まないように前記NMRロータ(2)内に配置されていることを特徴とする、請求項16から19のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項21】
前記NMRロータ(2)は、前記磁場が均一な領域へ前記試料容器(1)が挿入されるとき前記z軸に沿って延びるロータ軸を前記収容部の中心に有し、前記NMRロータ(2)は前記ロータ軸を含む対称平面に関して鏡像対称に、及び/又は前記ロータ軸に関して回転対称に構成され、反磁性材料と非反磁性材料が前記NMRロータ(2)内に前記ロータ軸の周りに鏡像対称及び/又は回転対称に分布していることを特徴とする、請求項16から20のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項22】
前記NMRロータ(2)の前記材料のうちの1つが少なくとも2つのロッド状の部品として構成され、前記NMRロータ(2)の基材内の前記ロータ軸と平行に延びる複数の平行ボアの中に配置されることを特徴とする、請求項21に記載のNMRロータ。
【請求項23】
前記NMRロータ(2)の非反磁性材料と反磁性材料が少なくとも部分的に混合されていることを特徴とする、請求項16から21のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項24】
異なる磁気特性を有する前記NMRロータ(2)の材料が少なくとも部分的に1つ又は複数の層として塗布されていることを特徴とする、請求項16から21のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項25】
前記NMRロータ(2)は、異なる磁気特性を有する少なくとも2つの材料のうちの1つから主として構成されていることを特徴とする、請求項16から24のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項26】
前記NMRロータ(2)は、90~95体積%の割合で前記少なくとも2つの材料であって異なる磁気特性を有する材料のうちの1つから構成され、5~10体積%の割合で他の材料から構成されることを特徴とする、請求項25に記載のNMRロータ。
【請求項27】
反磁性材料には、プラスチックが含まれることを特徴とする、請求項16から26のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項28】
非反磁性材料にはチタン、アルミニウム、又は白金が含まれることを特徴とする、請求項16から27のいずれか1項に記載のNMRロータ。
【請求項29】
前記NMRロータ(2)内又は前記NMRロータ(2)上の前記材料の前記幾何学的な分布は、前記NMRロータ(2)に作用する磁力が0.02N~0.2Nであるように構成されることを特徴とする、請求項16から28のうちいずれか1項に記載のNMRロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料容器を挿入するための収容部を有するNMRロータに関し、試料容器は磁束密度BのNMR磁場が均一な領域におけるNMR測定用の試料物質を含み、NMR磁場が均一な領域における磁場ベクトルはz軸に沿った垂直方向に延び、NMRロータは磁場が均一な領域へ試料容器が挿入されるときに不均一な磁場成分と少なくとも1つの磁束密度勾配dB/dzとを有する領域を通過する。
【背景技術】
【0002】
従来技術で「スピナー」とも呼ばれるこのようなNMRロータは、たとえば米国特許第6,741,079B2号明細書≒ドイツ特許第10130283C1号明細書(=参考文献[1])及び米国特許出願公開第5,517,856号明細書≒ドイツ特許第19509062C2号明細書(=参考文献[2])からすでに知られており、これらの文献には種々の試料ホルダも記載されていて、試料ホルダはそこではロータと試料容器とを含んでいる。
【0003】
本発明は、一般に、核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance=”NMR”)の分野を取り扱い、特に、NMR測定用の試料物質が入った試料容器を挿入するためのNMRロータを取り扱う。NMR分光法は、特に試料の組成の分析や、試料中の物質の構造の決定を行う、機器分析の強力な方法である。
【0004】
試料物質は、典型的には固体又は液体の形で、実質的に円筒状の試料管に充填される。測定にあったっては、NMR装置のNMRプローブヘッドの測定領域に試料物質が移される。そこで試料物質は、z方向に均一な磁束密度B0の強力な静磁場に暴露され、それによって試料物質内で核スピンの整列が起こる。次いで、高周波電磁パルスが試料に照射される。これにより高周波電磁場が発生し、NMR装置で検知される。検知されたRF電磁場から試料の特性に関する情報を得ることができる。特にNMR線の位置と強度から、試料の化学組成と試料中での化学結合の状況を推定することができる。たとえば米国特許第9,500,726B2号明細書≒ドイツ特許第102013204131B3号明細書(=参考文献[3])を参照されたい。
【0005】
NMR測定チャンバと、ロータと、試料容器とからなるほとんど「古典的な」構造が、「取り付けスリーブ」との組み合わせではあるが、米国特許第6,686,740B2号明細書≒ドイツ特許第10111674C2号明細書≒欧州特許第1239295B1号明細書(=参考文献[4])に記載されている。積B・dB/dzの値が高いシステムに試料を挿入できるようにする特別な方策は講じられていない。
【0006】
NMR試料用のロータを有する類似の装置が、米国特許出願公開第4,806,868号明細書、米国特許出願公開第4,275,350号明細書、特開昭61-023952号公報、米国特許出願公開第2004/0178793A1号明細書、米国特許出願公開第3,681,683号明細書(=参考文献[5])に記載されている。しかしこの従来技術で焦点となっているのは試料の回転であり、部分的にはその制御である。たとえば、ロータが回転中にガスクッションの上でどのように支持されるかが記載されている。そこでもやはりB・dB/dzの値が高いシステムに試料を挿入できるようにするための特別な方策は講じられていない。
【0007】
特開2001-235526号公報(=参考文献[6])には、NMR試料が「操作棒」を用いて測定ボリュームに挿入される装置が記載されている。このような「操作棒」により、空気圧による挿入/排出が必要なくなり、(たとえば磁力による)抵抗を容易に克服することができる。しかし、通常はB・dB/dzの値が特別に高くなる高磁場磁石では、このような装置は非常に非実用的である。このような磁石は、通常、空間的な広がりが大きく、「操作棒」の長さが数メートルでなければならなくなるからである。このことは、たとえば設置場所で必要な天井の高さに対して非常に不都合に作用する。
【0008】
米国特許出願公開第2002/063561A1号明細書(=参考文献[7])には、NMR試料を軸方向に搬送する装置が記載されており、これを用いてNMR試料をNMR分光計の測定ボリュームへ搬送することができる。この装置によっても、(たとえば磁力による)抵抗を克服することができる。参考文献[7]に記載されている装置の欠点は、複雑であり、(可動部品が使用されるために)故障も起こりやすく、純粋に空気圧による解決策に比べて信頼性に劣ることである。さらに、搬送装置の各部品が測定ボリュームに接近し、そこに広がる磁場の質(とりわけその均一性)に悪影響を及ぼす。さらに、搬送装置の取付けと取外しのために、ある程度の天井の高さが設置場所で必要となる。
【0009】
特開2006-029964号公報(=参考文献[8])では、検査対象の物質(典型的にはフラーレンやカーボンナノチューブ)のNMR緩和時間を短縮するために、磁気特性(反磁性、常磁性、強磁性)が変化する可能性のある材料を、直接、検査対象の物質に混合するか、試料管の表面に塗布することが提案されている。ここでは試料管と試料物質からなるユニットの特性が具体的に変更されているが、それは、磁場軸zに沿ったB*dB/dzプロファイルを特に考慮したうえでのことではない。さらに参考文献[8]に記載されている特別な磁気特性を有する材料は、試料管に塗布されるか検査対象の物質へ混入されるものであり、したがってNMRロータそれ自体に組み込まれてはいない。
【0010】
米国特許第7,656,158B2号明細書≒欧州特許第1918731B1号明細書(=参考文献[9])には、検査対象のNMR物質の容器(たとえば試料管)が、容器内の磁場の乱れを(試料物質そのものの、及び周囲の磁化率を考慮したうえで)小さく保つために、特別な磁化率を有する材料でコーティングされた装置が記載されている。しかし、このことは磁場軸zに沿ったB*dB/dzプロファイルのサイズを特に考慮したうえで行われるのではない。さらに、この従来技術による特別な磁化率を有する材料は、管に塗布されるのであり、すなわち、やはりNMRロータそれ自体に組み込まれてはいない。
【0011】
参考文献[9]と同様に、米国特許出願公開第2009/0066333A1号明細書(=参考文献[10])でも、材料選択にあたって磁化率に留意がなされており、それは特に、試料管の中の検査対象の物質を軸方向に制限するキャップの材料選択にあたってなされている。しかしこの場合にも、焦点となるのは検査対象の物質の位置における磁場の均一性であって、NMRロータが試料容器及び試料物質とともに測定領域に挿入されるときに作用する力ではない。磁場軸に沿ったB*dB/dzプロファイルは考慮に含まれていない。さらに、特別な磁気特性を有する材料は、この場合も、NMRロータそれ自体に組み込まれてはいない。
【0012】
質の高いNMR測定を行えるかどうかは、特に、以下の項目に依存する。すなわち、NMR試料が効果的に温度調節されていること(長期間にわたって高い温度安定性を保ち、試料物質中の温度勾配がない)、NMR実験中に試料が磁場及び/又は磁気中心のRFコイルに対する並進的な相対運動がなく静止していること、並びに、試料を磁気中心で軸外勾配の平均化のために回転させることができ(典型的には20~50Hz)、その際に、試料がきわめて滑らかに動き何にも衝突しないこと、である。
【0013】
通常この問題は、試料物質をガラス管に充填することで解決される。典型的なNMR測定管は米国特許出願公開第2012/0194194A1号明細書(=参考文献[11])に記載されている。そして、このガラス管は栓によって、又は開いた端部の熱溶融によって、閉止される。その後、ガラス管を、たとえばPOM,PEEK,PCTFEなどのプラスチック、又はセラミックからなる回転可能なNMRロータに挟み込む。NMRロータと試料管とからなるこのユニットは、空気圧により(すなわちガス流によって)、NMR装置の磁気ボアの中で上下動させることができる。このガス流(「浮力」)は、通常、下からNMRロータと試料管からなるユニットに向いており、ガス流が生成する浮力がユニットの重量を打ち消すことができる。そのようにして試料をゆっくりと磁石中心に挿入し、測定後に再び排出することができる。
【0014】
試料がNMR装置の磁気中心に位置しているとき、NMRロータは「タービン」と接触する。タービンにある複数の接線方向のガス通路を介して、及びガス流を供給することができる別個の供給源を介して、NMRロータ(及びこれに伴って試料物質を含む試料管)を回転させることができる。このことは、磁場の軸外勾配を平均化し、たとえ勾配が存在する場合でも、細い線幅のNMRスペクトルを得るのにも役立つ。ガラスファイバによって回転数を測定する光学マーキングも、同じくNMRロータに取り付けられている。
【0015】
すでに述べたとおり、質の高いNMR測定を行うには、試料を効果的に温度調節すること非常に重要である。スペクトルの線の「ふらつき」を回避するために、試料の温度をNMR実験の時間全体を通してできる限り一定に保ち、異なるスペクトルを互いに比較できるようにするために、その温度をできる限り所望の目標値に近づける必要がある。さらに、試料物質におけるの線幅の拡大や対流を回避するために、試料物質の空間的な範囲にわたって温度ができる限り一定でなければならない。
【0016】
通常、NMR管は直径が≦10mmであり、試料物質の充填高さは典型的には20mm~80mmである。試料の温度調節は、従来、目的の温度に予熱され、試料管の外面に沿って下から流れる第3のガス流によって行われていた。温度制御における乱れとは、たとえば、RFパルスなどによる試料物質自体におけるパワーの消散、電気的なシムコイルにおける消散、あるいはプローブヘッド内の冷却されたRFコイルにより形成されたヒートシンクへの熱放散である。
【0017】
タービンは(及びそれに伴ってNMRロータも)、磁気中心の上方に、典型的には30mm~200mmだけ離れて位置している。すなわちNMRロータは多くの場合、磁場の均一な「平坦部」にはもはや位置しておらず、磁場がすでに軸方向の勾配を有する領域に位置している。
【0018】
動作時には、試料管とNMRロータからなるユニットに対して以下の複数の力が作用する。
・下向きの力を発生させる、試料とNMRロータからなるユニットの重量。
・NMRロータとボア壁との間、又はNMRロータとタービンとの間で作用する摩擦力。特にNMRロータとボアとの間の間隙が非常に小さく選択されている場合には、このような摩擦力を考慮すべきである。
・上昇ガス流により生成される浮力。試料が排出されるとき、浮力が試料の上昇運動をもたらす程度の大きさに、すなわち重量、摩擦力、及びその他の力を上回る程度の大きさに、上昇ガス流が選択される。試料が挿入されると、影響を受けやすい試料が磁石中心にゆっくりと滑り込み、タービンに穏やかに接触する程度に、上昇ガス流が選択される。
・温度調節ガスによって引き起こされる浮力。温度調節ガスの流量は、試料内で生じる温度勾配が、許容される最大値よりも小さくなるように選択されなければならない(この最大値は、高分解能測定の場合、1mKのオーダーである)。そのために必要な温度調節ガスの流量は、温度調節ガスの比熱容量と、干渉する熱源のサイズに依存する。典型的な温度調節ガス流は400l/h~1000l/hである。
【0019】
上昇ガスの流量は、いかなる状況のもとでも負になるべきでない。これは、たとえば「試料を吸い込む」ポンプを用いれば可能である。しかしそれは、ボアの中で負圧が生じることになり、汚染物質(たとえばダスト)がNMR分光計の最も感度の高い部分に侵入するという欠点がある。
【0020】
NMR測定中、上昇ガス流はオフにされる。
【0021】
温度調節ガスは、NMR測定中にはいかなる状況でもオフにすることができない。そうしないと、測定の品質が大幅に低下するからである。試料の挿入中及び排出中には、温度調節ガス流を理論的にはオフにすることができる。しかしそれは推奨できない。そのためにボア内の一部のコンポーネントの温度が変化するからである。次のNMR測定が開始されるとき、これらのコンポーネントがまず熱平衡に達しなければならず、それが長くかかる可能性がある。これにより分光計を使用することができる時間が短くなる。したがって、実験が進行していない時間中にも温度調節ガス流をオンのままにしておくのが好ましい。
【0022】
このようにして、ガス流内部の対流を最小限に抑えることができるので、温度調節ガス流を下から上に向かって垂直方向に流すことも好ましい。
【0023】
・液体試料のNMR測定の場合(少なくともシミング中、場合により実験そのものの間)、検査対象の液体が入った試料管をz軸を中心として回転させる。典型的な回転数は毎秒20~50回転である。このとき試料管は、それがしっかりと挟み込まれているNMRロータとともに回転する。軸外勾配を決定するためのこの回転は、数kHzの回転数で行われる、いわゆる「マジックアングル」を中心としてしばしば適用される明らかに高速の固体試料の回転と混同してはならない。
【0024】
NMRロータ及び試料管からなるユニットと磁場との相互作用により、さまざまな力が発生する。特に注目すべきは次のものである。
・渦電流によって生じる力。試料が磁石中心に挿入されるとき、又は磁石中心から排出されるとき、閉じた導電性の電流経路が存在していると、NMRロータに渦電流が形成される可能性がある。これは「渦電流ブレーキ」のように機能する。
・試料管、NMRロータ、及び試料物質自体の間の相互作用によって生じる力。強磁性体は、通常は、NMRロータや試料管の製造時に大量又は高濃度で使用されることはない。NMR磁石で典型的に見られる非常に大きい磁場との相互作用が大きくなりすぎるからである。
【0025】
代わりに、通常は、慣用語で「非磁性」と呼ばれるが厳密には反磁性又は常磁性である材料が用いられる。磁化Mおよび体積Vの反磁性、常磁性、強磁性、及びフェリ磁性の材料は、磁束密度Bの不均一な磁場で次の力を受ける。
F=(M*V)∇B
このとき非反磁性材料はより高い磁場が存在する方向に引き寄せられ、反磁性材料はより低い磁場が存在する方向に引き寄せられる。材料の磁化Mは、印加される磁束密度Bと磁化率χとに依存する。
M=(χ/μ0)B
反磁性材料では、磁化は印加される磁場と反対方向を向き、磁化率については-1<χ<0、典型的にはχ=-10-9・・・-10-6が当てはまる。反磁性材料の例はH2OやCuである。非反磁性材料についてはχ>0、典型的にはχ=10-6・・・10-2が常磁性材料について当てはまる。常磁性材料の例はO2、Al、Ptなどである。
【0026】
NMRロータは、通常、反磁性であるPOMやPEEKなどの材料でできている。高磁場NMRでは、同じく反磁性である水性試料物質がしばしば使用される。
【0027】
比較のため、強磁性材料ではχ=10+2・・・10+5であり、すなわち、磁場との相互作用は反磁性材料や常磁性材料の場合よりも何倍も大きく、したがって強磁性材料はNMRロータの製作には通常使用されない。
【0028】
上に掲げた両方の式が示すとおり、NMRロータ、試料管、及び試料物質からなるユニットに対して作用する力は、それぞれの材料特性と積B・∇Bとに依存する。
【0029】
上に説明した従来の解決法は、新式の磁石、特に電流密度がきわめて高いインサートコイル(たとえばHTS材料からなる)を磁石で使用する超高磁場磁石の場合、磁束密度Bの磁場と磁場勾配dB/dzとの積(すなわちB
*dB/dz)が、設計上、ボア内のz軸に沿って非常に高い値に達し得るという欠点がある。これは特にインサートコイルの縁部領域で発生する。
図3の複合図は、例として、典型的な高磁場磁石<1.1GHzと、典型的な超高磁場磁石>1.1GHzとについて、z軸に沿ったB
*dB/dzの曲線を示している。
【0030】
B・dB/dzの値が高いと、NMRロータの磁気特性によって生じる力が大きくなる。NMRロータが強い磁場と磁場勾配の影響のもとで磁気的に完全に中性になる(いわば「非磁性」になる)ようにNMRロータの材料を定義することは、技術的に事実上不可能である。
【0031】
このことは具体的には、極端な場合、反磁性NMRロータをNMR分光計の磁気中心に挿入することができず、また、非常に大きな上昇ガス流がなければ非反磁性NMRロータを磁気中心から排出できないことを意味する。反磁性NMRロータの自重だけでは、温度調節ガスの影響のもとで浮き上がらないようにNMRロータを十分に押し下げるのにもはや十分ではない。非反磁性NMRロータは磁石中心の方向にしっかりと押し付けられ、それにより、極端な場合、排出(”Eject”)のために必要な上昇ガス流が大きくなりすぎるか、もしくは(このほうが明らかに多くのケースで該当するが)試料回転時のNMRロータとタービンとの間の摩擦力が大きくなり、特に温度上昇につながる。
【0032】
動作状態では、磁力がNMRロータの重量をそれほど強く打ち消さず、それが温度調節ガスの影響のもとで浮き上がり始めるのが好ましい。さもないと、振動が発生し(NMRロータがガスの影響下で静止位置から浮き上がり、そのためにより多くのガスがNMRロータの下方を流れ、圧力が低下し、NMRロータが再び降下する)、このような振動はNMR測定の品質にきわめて有害である。極端な場合、磁力がNMRロータの重量を非常に強く打ち消す可能性があるため、ロータ(及びこれに伴ってNMR測定試料)の位置が十分に定義されなくなる。
【0033】
さらに動作状態では、NMRロータが磁力(径方向の偏心が小さい場合の復元力)によって径方向に調心されると好ましい。従来の構成(磁石<1.1GHzにおける反磁性NMRロータ)では、この要請は通常満たされる。NMRロータの場所で基準B・dB/dr>0が満たされるからである。それに対して磁石>1.1GHz、B・dB/drの反対の符号をもつ領域が存在する可能性があり、そこでは主として非反磁性NMRロータのほうが好ましいことになる。NMRロータの位置でのB・dB/drの符号、反磁性と非反磁性との体積分率の比、及び存在する各材料の磁化率のほか、NMRロータに生じる径方向の力も、NMRロータにおける材料の径方向の分布に依存する。固定半径r=10mmの場合のz軸に沿ったB・dB/drの典型的な推移が、例として
図4に示されている。超高磁場磁石ではB・dB/drは負の値をとり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
それに対して本発明の課題は、冒頭に述べたタイプのNMRロータをできる限りコストのかからない技術的手段で改良して、既知で一般的な構造における上述の欠点を回避することである。特に、本発明の課題は、NMR試料のNMR測定を特に強い磁場のもとでより容易に実行することであり、このときNMR測定の品質が可能な限り高く、かつNMR試料の取扱いが、とりわけ磁場の均一な領域への挿入が、できる限り簡易であることである。
【課題を解決するための手段】
【0035】
詳細に見ると比較的要求の厳しいこの課題は、本発明により、驚くほど簡易であると同時に低コストでありながら非常に効果的な手段で解決される。すなわち、NMRロータが少なくとも2つの異なる材料で構成され、そのうち1つの材料が反磁性の特性を有し、他の1つの材料が非反磁性の特性を有し、大きさが1400T2/mを上回る、磁束密度Bと磁束密度勾配dB/dzとの積ΦZの影響下でNMRロータに作用する磁力が、NMRロータの重量による力と同じ方向に作用するか、NMRロータの重量による力よりも小さい値になるように、異なる材料がNMRロータ内又はNMRロータ上に幾何学的に分布するよう配置されている。
【0036】
NMR磁場の不均一な領域において、本発明によるNMRロータに作用する磁力Fmag,zは、次の関係を満たす。
【0037】
【数1】
ここでχとBは位置に依存する。磁化率χは材料ごとに異なる。
【0038】
本発明によるNMRロータ内又はNMRロータ上における各材料の幾何学的な分布は、磁束密度Bとその不均一成分dB/dzとを有するNMR磁場の影響下でのNMR測定動作時に、ユニットに生じる磁力が0.02N~0.2Nであり、好ましくは0.05Nよりも大きいことを保証する磁気特性を有するよう設計されるのがよい。流体タービンが原因で動作中にNMRロータに作用する可能性のあるガスの動的な力を考慮すると、用途によっては合計で0.2Nを超える力がロータに作用するため、これを補償する必要がある。
【0039】
異なる材料の種類が選択され、かつこれらの材料がロータ内又はロータ上に以下の様に配置されるのが好ましい。すなわち、磁束密度Bとその不均一成分dB/dzとを有するNMR磁場の影響下で、ロータ、試料容器、及び試料物質からなるユニットにおいて、NMR測定動作での回転時に機械的なモーメント及び不均衡が生じないように材料が配置されることが好ましい。さらにNMRロータは、動作中の磁場の影響下でのNMR磁場Bのその不均一成分dB/dzの所定の推移と、ロータの回転とにより、このNMR磁石の中で径方向に自己調心されるように設計する必要がある。
【0040】
前述したとおり、NMRロータは少なくとも2つの異なる材料で構成され、そのうち1つは反磁性の特性を有し、他の1つは非反磁性の(通常は常磁性、強磁性、又はフェリ磁性の)特性を有する。とりわけ、これにより、特にNMR試料の取扱いも、特に磁場の均一な領域への挿入も、大幅に簡易化される。
【0041】
NMR磁石にNMRロータが挿入されるとき、又はNMR磁石からNMRロータが排出されるとき、ロータは磁石ボア全体、又は少なくともそのほぼ全部の長さを通過する。したがって本発明によるNMRロータは、それぞれの場合に作用する、すべての範囲の磁力に対して設計する必要がある。
【0042】
大きさが1400T2/mを上回る、磁束密度Bと磁束密度勾配dB/dzとの積ΦZの影響下でのNMRロータに作用する磁力が、NMRロータの重量による力と同じ方向に作用するか、NMRロータの重量による力よりも小さい値に数値的に低くなるということが要求され、この要求により、NMRロータも磁場の均一な領域へ安全に到達し、挿入時に均一な領域の外部に「滞留」しないことが保証される。
【0043】
原則として、NMRシステムにおける試料容器と試料物質とを含むNMRロータの排出は、下方から吹き込まれる圧縮空気によって行われる。その際には、本発明によるNMRロータが使用されるNMR分光計の磁石は垂直ボアを有し、垂直ボアにおいて、ボア軸が垂直方向の重力ベクトルと実質的に平行に延びていることが前提となる。
【0044】
したがって、「ブルートフォース」アプローチ、すなわち、十分に高い圧力又は十分に高いガス流量を用いると、最適に設計されていないロータであっても、磁石によって磁石中心の方向に引き寄せられ、ボアから再び出てくる可能性がある。
【0045】
しかしこのことは、本発明によるNMRロータの異なる磁性材料を適切に寸法決めすることで、NMRロータに作用する磁力が好ましくはNMRロータの重量による力の50%未満になるようにNMRロータを設計することによって、可能な限り回避されるべきである。
【0046】
本発明によるNMRロータのある種の実施形態であって、積ΦZが次式
【0047】
【数2】
によって与えられるものが特に好ましく、
このとき|Φ
Z|>1400T
2/m、好ましくは|Φ
Z|>1500T
2/m、特に好ましくは|Φ
Z|>2000T
2/mであり、
V
RotorはNMRロータの体積を示し、
dVはNMRロータの微小体積要素を示す。
【0048】
このように大きな値のΦZに適合するNMRロータは、中心部における23Tを超える、しばしば25Tを超える、さらには場合により28Tを超える、高い磁束密度を特徴とする、もっとも強力で最新型のNMR磁石での使用に適している。このような高い磁束密度により、特に高い分解能と特に高い信号対雑音比でNMR測定を行うことができる。実用上の理由(実験室の広さ、輸送)から、このような最高性能の磁石も可能な限りコンパクトでなければならない。このために、ボアに沿った磁場勾配dB/dzが急峻に(大きく)なり、これもまた積ΦZの大きな値の一因となる。こうした値の大きいΦZに適合するため、ここで説明しているNMRロータにより、この種のNMR磁石における測定が可能となる。
【0049】
本発明に基づいて構成されるNMRロータの特に好ましい別の実施形態は、NMRロータの少なくとも1つの非反磁性材料が、好ましくはすべての非反磁性材料が、常磁性の特性を有することを特徴とする。
【0050】
常磁性材料は、(不均一な磁場においてはより高い磁場の方向に引き寄せられるので)反磁性の基材に作用する、より低い磁場の方向への力を補償するのに理想的に適している。
【0051】
強磁性材料やフェリ磁性材料も、不均一な磁場においてより高い磁場の方向に引き寄せられるが、その磁化率はχ=10+2...10+5と非常に高いため、(機械的な製造公差と量の決定における不正確さの理由により)反磁性材料の厳密な補償を実現するのは非常に困難である。常磁性材料は典型的にはχ=10-6...10-2の磁化率を有しており、すなわち、これは強磁性又はフェリ磁性の材料よりも4~11桁小さいなる。したがって、強磁性又はフェリ磁性の材料よりもはるかにに正確に所望の力の作用を調整することができる。
【0052】
この別の実施形態の好ましい発展例では、少なくとも1つの反磁性材料と少なくとも1つの非反磁性材料がNMRロータ内又はNMRロータ上に、NMRロータの位置における高磁場NMR磁石の磁束密度BのNMR磁場において、次式が成り立つように配置され、
【0053】
【数3】
ここで、
χ
diaは、反磁性材料の磁化率を示し、
χ
non-diaは、非反磁性材料の磁化率を示し、
V
diaは、NMRロータにおける反磁性材料の体積を示し、
V
non-diaは、NMRロータにおける非反磁性材料の体積を示し、
dB/drは、ロータの体積におけるNMR磁場の磁束密度のz軸に関して径方向の勾配を意味し、
dVは、NMRロータの微小体積要素を意味する。
【0054】
このようなNMRロータは、高磁場磁石の不均一な磁場の中で自己調心されるという利点を有し、それば、インサートコイルの電流密度が非常に高いため、高磁場磁石が径方向に負の勾配B・dB/drを有し得るからである。この自己調心は、検査対象の試料物質が入った試料容器が、磁場が最も均一で質の高いNMR測定に最も適している中心領域にいわば自力で到達することを補助する。NMRロータがz軸を中心として回転させて、試料容器の領域での軸外勾配を決定すると、磁気的な自己調心によりほぼ完全な同心性を実現するのに役立つ。
【0055】
本発明の別の好ましい実施形態では、NMRロータの材料のうちの少なくとも1つが、特に常磁性材料が、それが導電性である場合に、収容部を完全には取り囲まないようにNMRロータ内に配置される。これは、特に循環電流を防止することを意図している。
【0056】
NMRロータを磁場の均一な領域に挿入する際、またはこの領域から排出する際、導電性材料に循環電流が発生し、ロータが熱くなる。このような加熱が非常に大きく、測定される試料物質の温度が上昇する可能性がある。これにより、影響を受けやすい物質(生物学的試料など)では、物質の破壊すら起きる可能性がある。
【0057】
さらに循環電流は(磁場との相互作用により)渦電流ブレーキのように作用し、すなわち、ロータが所望の運動方向(典型的には挿入の場合は下向き、排出の場合は上向き)に逆らうように見える。このことは、挿入が、重力のみによってなされる場合に、非常にゆっくりと行われ、排出には高いガス流及び/又は圧力が必要になることを意味し得る。
【0058】
本発明の別の好ましい実施形態は、NMRロータが、磁場の均一な領域へ試料容器が挿入されたときz軸に沿って延びるロータ軸を収容部の中心に有し、NMRロータはロータ軸を含む対称平面に関して鏡像対称に、及び/又はロータ軸に関して回転対称に構成され、反磁性材料と非反磁性材料が、NMRロータ内に、ロータ軸の周りに鏡像対称及び/又は回転対称に分布していることを特徴とする。
【0059】
たとえばNMRロータは、ロータ軸を中心として円筒状の収容部を有してもよい。円筒軸に垂直なロータの断面は、一般的に円形であるため、収容部は円柱対称性を有し、したがって特に製造が容易である。ただし、特殊な用途では、たとえば楕円形などの別の形状の円筒断面も考えられる。さらに、本発明によるNMRロータは多重対称性を有してもよく、たとえば外側縁部に回転を流体駆動するための畝が存在してもよい。
【0060】
一部の用途では、検査される物質が測定中に配置される液体ボリュームが、たとえば長方形や楕円形の断面を有する試料容器も使用される。このような試料容器(通常は「スロットチューブ」と呼ばれる)は、特別な条件下でより高い信号対雑音比を実現する。このようなチューブ用のNMRロータは、場合によっては単に鏡像対称になる可能性もある。
【0061】
また、鏡像対称の配置は、循環電流が形成されないように導電性材料を配置すると同時に、z軸を中心とする回転を損なう可能性のあるロータの不均衡を解消するのにも適している。
【0062】
個々の構成に特に柔軟性があるこれらの実施形態の好ましい発展例では、NMRロータの材料のうちの1つが、好ましくは非反磁性材料が、特に好ましくは常磁性材料が、少なくとも2つのロッド状の部品の形態であり、NMRロータの基材内に、ロータ軸と平行に延びる複数の平行ボアの中に配置される。平行ボアとロッド状の部品は、ロータ軸を中心としてできるだけ対称に配置する必要がある。実際のNMR測定でロータに挿入されるロッド状の部品よりも多くのボアがある変形例も考えられる。たとえば12個のボアを設け、個々のケースでは6つにだけ常磁性又は非反磁性の材料を装填してもよい。このようにして、ロータの磁気特性を、現場における実際の、かつ変化する可能性もある状況に合わせて、個別に最適化することができる。
【0063】
ロッド状の補償材料を用いた上記の実施形態は、特に簡易かつ低コストに製作することができる。さらにこの実施形態は、循環電流が発生しないよう導電性材料を配置し、同時に、z軸を中心とする回転を損なう可能性のあるロータの不均衡を解消するのにも理想的に適している。
【0064】
代替として、別の好ましい発展例では、NMRロータの非反磁性材料と反磁性材料が少なくとも部分的に、好ましくは均一に混合されていてもよく、特に粒子がプラスチック中に混合されている、好ましくは常磁性粒子が反磁性プラスチック中に混合されていてもよい。本発明のこれらの変形例は、たとえば従来の射出成形プロセスによって、特に簡易かつ安価に製作することができる。
【0065】
大量の「補償粒子」を簡易かつ安価に、均等に分散させることができるという利点がある。巨視的なレベルでは、ロータ材料は実際に磁気的に完全に中性であり、それと同時に均一な密度を有するように見え、このことは不均衡と磁気特性に関して有利である。
【0066】
別の代替的な発展例では、異なる磁気特性を有するNMRロータの材料が少なくとも部分的に1つ又は複数の層として塗布されている。この製造方法は技術的にも制御が容易で、非常に正確な結果が得られる。
【0067】
NMRロータは、異なる磁気特性を有する少なくとも2つの材料のうちの1つから、好ましくは反磁性材料から、主として構成されている、本発明によるNMRロータの実施形態も特に好ましい。これらの実施形態は、通常の実験室において、おそらく一般的に使用されるであろう。
【0068】
ロータは通常、基材から作られ、その後、上記のいずれかの方法で補償材料が混合又は塗布される。低磁場磁石用の従来のロータに、超高磁場磁石で使用するために改造することもでき、たとえばボアに補償用のロッドを挿入したり、補償用の層を塗布したりすることも可能である。本体の製作に適している典型的な材料は、冒頭に述べたPOM、PEEK、又はPCTFEであり、すなわち反磁性材料である。
【0069】
実際には、NMRロータが90~95体積%の割合で、好ましくは約92.5体積%の割合で、異なる磁気特性を有する少なくとも2つの材料のうちの1つから構成され、5~10体積%の割合で、好ましくは約7.5体積%の割合で、他の材料から構成される、これらの実施形態の発展例が特に好ましいことが判明している。ここで留意すべきは、体積パーセントは、使用される特定の材料の磁化率に依存することである。上に挙げた値は、もっとも一般的な反磁性材料と常磁性材料の磁化率から得られるものである。製造公差に起因する量の変動がそれらの絶対量に比して小さくなるように、使用する各材料の量が十分に多く組み込まなければならないように、磁化率を選択するのが好ましい。
【0070】
反磁性材料にはプラスチック、たとえばPOM、PEEK、もしくはPCTFEが含まれ、及び/又はセラミック、たとえばガラスセラミック、特に雲母がホウケイ酸マトリクスに埋設されたもの、もしく機械加工可能な窒化アルミニウムセラミックが含まれる、本発明の実施形態がきわめて特に好ましい。POM、PEEK、又はPCTFEは、優れた機械加工性、機械的特性、及び多くの化学物質に対する耐久性によって特徴づけられる。特にセラミック素材は高温に強いという特徴があり、このことは高温域でのNMR測定を可能にする。
【0071】
本発明によるNMRロータの上記の実施形態の別の好ましい変形例では、非反磁性材料には、特に常磁性材料には、チタン、アルミニウム、又は白金が含まれる。これらの材料は、高品質で高純度のものを容易に入手することができる。また、半製品を様々な形態で入手できるため、迅速かつ低コストで製造することが可能である。
【0072】
加えて又は代替として、本発明に従って構成されるNMRロータの別の実施形態では、NMRロータ内又はNMRロータ上の材料の幾何学的な配分は、NMRロータに作用する磁力が0.02N~0.2Nであり、好ましくは最大0.05Nであるように構成されていてもよい。
【0073】
このような力の上限と下限は実際の動作においてで特に効果的であることが実証されており、多くの実際の実験条件(たとえば400l/h~1000l/hの異なる温度調節ガス流、5~50Hzの試料回転、NMR磁石中での1.2GHzまでの1H共振周波数)のもと、良好な結果が得られ、試料の入ったロータを一方では磁場の均一な領域へ問題なく挿入して再び排出することができ、他方では測定中にタービン上で静止して振動がないようにすることができる。
【0074】
本発明の範囲はまた、本発明による、上記の種のNMRロータ装置を設計及び製造する方法も含み、この方法は、まずロータの基材の、好ましくは反磁性材料の、磁気感受率が決定され、次いで、異なる複数の磁気特性を有する別の材料による、好ましくは常磁性材料による、NMRロータの磁気的な補償が、各々のNMRロータごとに個別に、基材の測定結果に基づいて、特に使用される高磁場NMR磁石の固有の特性を考慮したうえで、決定されることを特徴とする。試料物質の種類ごとに、その磁化率及び溶剤(通常は水溶液、アセトンなど)の磁化率に応じて、専用のNMRロータが製造されることが好ましい。
【0075】
この方法により、磁気特性を一般的に使用されている条件にほぼ完全に合わせることができるため、過度の労力をかけずに、NMR超高磁場分光計から可能な限り最良の結果を得ることができる。NMR超高磁場分光計の総コストと比べると、上に説明した方法による追加コストはごくわずかであるが、NMR測定の品質に決定的な貢献を果たす。
【0076】
本発明のさらなる利点は、明細書及び図面から明らかとなる。同様に、上に挙げた特徴及び後で説明する特徴を、それぞれを単独で、又は複数の任意の組合せとして、本発明に基づいて使用することもできる。図示及び説明されている各実施形態は完結した列挙として理解されるべきではなく、むしろ、本発明を説明するための例示としての性質を有する。
【0077】
本発明は図面に示されており、実施形態を参照しながらより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【
図1a】反磁性材料からなるケーシングと、非反磁性材料からなる円筒状のインサートとを有する本発明によるNMRロータの第1の実施形態を示す模式的な垂直断面図であり、図面の下側領域には、軸に垂直な平面による模式的な半断面図が示されている。
【
図1b】
図1aと同様であるが、反磁性材料からなるケーシングに、非反磁性材料からなるロッドを挿入するために軸と平行に延びるボアが設けられている、本発明によるNMRロータの第2の実施形態を示す。
【
図2】NMRロータと挿入された試料管とを有する試料ホルダを測定位置に担持するNMRプローブヘッドを有する、従来技術によるNMR分光計の断面を示す模式的な垂直断面図である。
【
図3】NMR分光計を(図面の見やすさのためにプローブヘッドなしで)示す模式的な垂直断面図であり、その右側に、磁束密度Bと磁束密度勾配dB/dzとの積Φ
Zのz方向における典型的な推移を、磁場強度<1.1GHzを有するマグネットシステムについて(実線)、及び磁場強度≧1.1GHzを有する超高磁場磁石について(点線)示す図である。
【
図4】半径r=10mmのもとでの磁束密度Bと磁束密度勾配dB/drとの積Φ
rの径方向(z軸に対して垂直)における典型的な推移を、磁場強度<1.1GHzを有するマグネットシステムについて(点線)、及び磁場強度≧1.1GHzを有する超高磁場磁石について(実線)示す図である。
【
図5】NMRロータの典型的な実施例についての具体的な数値を含む表である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
図面の
図1a及び
図1bは、それぞれ、
図2に詳細に示す従来技術のNMR分光計にこれらの改良を組み込むことにより得られる、本発明によるNMRロータの好ましい実施形態を模式的な図面で示す。
【0080】
このようなNMRシステム、通常、NMR分光計は、z軸に沿って磁束密度Bを有する均一な静磁場を生成するためのNMRマグネットシステム7を有し、測定時には、RF送受信コイルシステム4と、NMR測定により検査される試料物質が動作中に入る(通常は試料管の形の)NMR試料容器1を収容するためにz方向に延びる開口部とを有するプローブヘッド6とを有する。試料物質が入るNMR試料容器1(図面では見やすさのために図示していない)は、NMRロータ2(=「スピナー」)を備えた試料容器によって保持され、NMR測定のために試料ホルダとともにNMRプローブヘッド6に挿入され(=”inject”)、測定後に同じく一緒に再び排出される(=”eject”)。試料ホルダは、磁場の均一な領域に挿入されるときに、不均一な磁場成分と少なくとも1つの磁束密度勾配dB/dzとを有する領域を通過する。NMR測定動作のとき、通常は回転可能なNMRロータ2は、NMRステータ3(「タービン」)の上、又はNMRステータ3や圧縮空気装置により生成された気流の上に載り、このとき、NMR測定が行われる試料物質の少なくとも一部が磁場の均一な領域に位置している。
【0081】
本発明によるNMRロータ2は、従来技術の既知のNMRロータに比べて、少なくとも2つの異なる材料から構成され、そのうち1つの材料が反磁性の特性を有し、他の1つが非反磁性の特性、好ましくは常磁性の特性を有するという特徴がある。本発明によると、大きさが1400T2/mを上回る、磁束密度Bと磁束密度勾配dB/dzとの積ΦZの影響下でNMRロータ2に作用する磁力が、NMRロータ2の重量による力と同じ方向に作用するか、又は、NMRロータ2の重量による力よりも小さい値になるように、異なる材料が、NMRロータ2内又はNMRロータ2上に幾何学的に分布するよう配置されている。
【0082】
図1aには、特に製造が容易な、本発明によるNMRロータ2の実施形態が図示されている。このNMRロータは、反磁性材料からなるケーシング2aと、非反磁性材料からなるインサート2bとを有し、このインサートは本実施形態では円筒形である。この実施形態では、インサート2bは試料容器用の収容部2cを有する。
【0083】
本発明によるNMRロータ2の別の好ましい実施形態が
図1bに示されている。ここでは反磁性材料からなるケーシング2aに、ロータ軸と平行に(及びそれに伴って測定時にはz軸と平行に)延び、非反磁性材料からなるロッド状のインサート2bを挿入するための複数のボアが設けられている。この実施形態では、ロッド状のインサート2bの非反磁性材料が導電性であってもよい。この材料は、試料管のための収容部を完全には取り囲まないようにNMRロータ2に配置されており、それによりz軸に対して垂直の平面で渦電流が流れることはない。
【0084】
図3は、左側にNMR分光計の垂直断面図を示している。その右側には、磁束密度Bと磁束密度勾配dB/dzとの積Φ
Zのz方向での典型的な推移が示されており、一方では磁場強度<1.1GHzのマグネットシステムについて(実線)、他方では磁場強度≧1.1GHzの超高磁場磁石について(点線)示されている。これにより、それぞれのz位置に分光計でそれぞれ対応するΦ
Z値を割り当てることができる。
【0085】
NMR測定中、測定される試料物質の一部は、NMR装置の測定ボリューム内の試料管(ここでは図面の見やすさの理由から図示していない)の中にある。このことは、z軸上で平坦に延びる積ΦZ=B・dB/dzを有する(当然ながら比較的短い区間の)z断面に相当し、すなわち、NMR測定が行われる均一な磁場領域に相当する。積ΦZはその上方に(及び当然ながらその下方にも)、これよりも著しく高い値を有して推移している。このような不均一な磁場領域ではNMRロータに作用する磁力が非常に高い場合があり、このため、測定試料を入れた試料ホルダをとともに測定前に挿入し、測定後に排出しなければならない。実際の測定中にも、NMRロータは少なくとも部分的に不均一な磁場領域にある。
【0086】
図4は、z軸から10mm離れたz方向に、磁束密度Bとz軸に垂直な径方向の磁束密度勾配dB/drとの積Φ
rの典型的な推移を、磁場強度<1.1GHzのマグネットシステムについて(点線)、及び磁場強度≧1.1GHzの超高磁場磁石について(実線)示している。
【0087】
1.1GHz以上の磁石では、B・dB/drの符号が逆になる領域ができることがわかる。この領域で常磁性のロータ材料が使用されると、この材料に自己調心力が発生する。NMRロータの位置におけるB・dB/drの符号、反磁性と常磁性との体積分率の比、及び存在する各材料の磁化率のほか、NMRロータに生じる径方向の力も、NMRロータにおける材料の径方向の分布に依存する。
【0088】
本発明によるNMRロータが層状に構成される場合、予想される層厚について次のような具体的な数値例を挙げることができる。
・NMRロータの体積が10cm
3であると仮定すると、これは長さが50mm、外径が16mm、中心内径(NMR試料管用)が3mmである円筒にほぼ相当する。
・そのうち0.77cm
3が常磁性材料からなるとすると、最外周の0.6mmが常磁性材料でできていなければならないことになる。したがって、内径が3mm、外径が15.4mmである反磁性の円筒が得られることになる。そして、常磁性材料からなる厚さ0.6mmの層を塗布する(たとえば
図1aの実施形態の場合)。
【0089】
ロッドを有する実施形態(たとえば
図1bに示す)を採用し、たとえば8本のロッドを設けた場合には、各々が0.09625cm
3の体積を有する必要がある。ロッドの長さが5cmの場合、1本のロッドあたりの直径が約1.55mmに相当する。
【0090】
本発明によるNMRロータにとって重要なのは、積ΦZ=B・dB/dzに関して、自身の重量による力よりも小さい磁力を受ける(当該磁力が重量による力と反対を向いている場合)という事実である。試料容器と試料物質はここでは無視することができる。
【0091】
図5の表は、試料容器(=試料管)、試料物質(=ここでは水)、及びスピナー(ここではPCTFE製)の重量による力の典型的な数値を示している。体積1及び体積2は、中空円筒状の試料管とスピナーの有効体積の計算に利用される。この計算から、スピナーが重量による力に大きく寄与することが明らかである。
【0092】
近似的には、磁場勾配はNMRロータの体積全体で一定である。それにもかかわらず積ΦZ=B・dB/dzが大きく変化し、NMRロータの両方の端部がそれぞれ大きく異なる磁力にさらされていることから、正しい幾何学的配置の必要性が生じる。
【0093】
実際には、たとえば反磁性材料と非反磁性材料の異なる分布を有する、複数の異なるNMRロータが(通常はNMR分光計とともに)提供されると、利用者にとって有益である。その場合、分光計の利用者は各々の試料物質(たとえば水溶液/非水溶液)に特に適したNMRロータを選択することができる。
【0094】
NMRロータの基材は反磁性材料でできていることが好ましい。特定の測定装置に合わせて、様々な異なる非反磁性インサートを、好ましくは相応の外径を有する円筒形状のインサートを個別に最適に選択し、反磁性の「ベーススピナー」にある収容穴に嵌めることができる。
【0095】
このようにして、基材の磁化率の変動を理想的かつ個別に補償することができる。
【0096】
上記の本発明のすべての実施形態の特徴は、少なくとも多くの場合において、互いに組み合わせることができる。
【0097】
参考文献リスト
特許性の評価に考慮される文献
[1]米国特許第6,741,079B2号明細書≒ドイツ特許第10130283C1号明細書
[2]米国特許出願公開第5,517,856号明細書≒ドイツ特許第19509062C2号明細書
[3]米国特許第9,500,726B2号明細書≒ドイツ特許第102013204131B3号明細書
[4]米国特許第6,686,740B2号明細書≒ドイツ特許第10111674C2号明細書≒欧州特許第1239295B1号明細書
[5]米国特許出願公開第4,806,868号明細書、米国特許出願公開第4,275,350号明細書、特開昭61-023952号公報、米国特許出願公開第2004/0178793A1号明細書、米国特許出願公開第3,681,683号明細書
[6]特開2001-235526号公報
[7]米国特許出願公開第2002/063561A1号明細書
[8]特開2006-029964号公報
[9]米国特許第7,656,158B2号明細書≒欧州特許第1918731B1号明細書
[10]米国特許出願公開第2009/0066333A1号明細書
[11]米国特許出願公開第2012/0194194A1号明細書
[12]特開2009-103517号公報
[13]ドイツ特許第102014201076B3号明細書
【符号の説明】
【0098】
1 試料容器
2 NMRロータ(=「スピナー」)
2a 反磁性材料からなるNMRロータのケーシング
2b 非反磁性材料からなるNMRロータのインサート
2c 試料容器用の収容部
3 NMRステータ
4 RF送受信コイルシステム
6 NMRプローブヘッド
7 NMRマグネットシステム