(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】ブレーズド回折格子
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2020546571
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2018033584
(87)【国際公開番号】W WO2020053950
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西原 弘晃
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-092756(JP,A)
【文献】特開平07-253519(JP,A)
【文献】特開2002-148115(JP,A)
【文献】特開平01-141324(JP,A)
【文献】特開2001-092366(JP,A)
【文献】特開平10-209533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面を有する基板と、
前記主表面上に設けられており、断面が鋸歯状に形成された格子溝
であって当該格子溝の延びる方向と直交しかつ前記基板の前記主表面と平行な方向における一方向きにブレーズ方向を規定する前記格子溝を有する樹脂層と、
前記格子溝の表面に沿うように設けられており、ブレーズ面と、前記格子溝の
前記ブレーズ方向の反対側の表面である段差面とを有する金属膜とを備え、
前記主表面と直交する方向における前記金属膜の高さは、前記格子溝上において一定であり、
前記ブレーズ面は、前記ブレーズ方向と前記ブレーズ面との間に鋭角のブレーズ角を形成し、
前記段差面は、前記ブレーズ方向と前記段差面との間に前記ブレーズ角よりも大きく、かつ、90°以下の角度を有する段差角を形成し、
前記主表面と直交する方向における前記金属膜の高さをt(nm)とし、前記段差角をθ(°)とすると、t≧270/cosθの関係を満たす、ブレーズド回折格子。
【請求項2】
t≧682/cosθの関係をさらに満たす、請求項1に記載のブレーズド回折格子。
【請求項3】
前記金属膜は、アルミニウムからなる、請求項1または2に記載のブレーズド回折格子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブレーズド回折格子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特開2009-92687号公報(以下、「特許文献1」という。)には、マスター回折格子を利用してレプリカ回折格子(ブレーズド回折格子)を製造する方法が記載されている。具体的に、この製造方法では、マスター回折格子の格子溝の表面に金属膜を形成し、その金属膜とレプリカ基板とを接着剤(熱硬化性エポキシ樹脂)を介して密着させた後、レプリカ基板をマスター回折格子から剥離させ、金属膜をレプリカ基板に反転接着させることにより、格子面が形成されてなるレプリカ回折格子が製造される。この製造方法で製造された回折格子の金属膜の高さは、格子溝の深さよりも大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるように、金属膜と基板との間に、熱硬化性エポキシ樹脂などの接着剤からなる樹脂層を備えたブレーズド回折格子が知られている。このようなブレーズド回折格子が、高温かつ高湿の環境下に置かれると、水分が金属膜を透過して樹脂層に至り、樹脂層が部分的に膨潤する場合がある。この場合、樹脂層を被覆している金属膜の表面に凹凸が生じてしまい、所望の回折性能が得られないおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、高温かつ高湿の環境下における耐性に優れるブレーズド回折格子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に従ったブレーズド回折格子は、主表面を有する基板と、主表面上に設けられており、断面が鋸歯状に形成された格子溝を有する樹脂層と、格子溝の表面に沿うように設けられており、ブレーズ面と、格子溝のブレーズ方向の反対側の表面である段差面とを有する金属膜とを備える。主表面と直交する方向における金属膜の高さは、格子溝上において一定である。ブレーズ面は、ブレーズ方向とブレーズ面との間に鋭角のブレーズ角を形成する。段差面は、ブレーズ方向と段差面との間にブレーズ角よりも大きく、かつ、90°以下の角度を有する段差角を形成する。主表面と直交する方向における金属膜の高さをt(nm)とし、段差角をθ(°)とすると、t≧270/cosθの関係を満たす。
【0007】
本ブレーズド回折格子では、段差角がブレーズ角よりも大きくかつ90°以下であるため、格子溝のうち段差面と平行な面と段差面との間における金属膜の厚さ(段差面と直交する方向における金属膜の厚さ)は、格子溝のうちブレーズ面と平行な面とブレーズ面との間における金属膜の厚さ(ブレーズ面と直交する方向における金属膜の厚さ)よりも小さくなる。ただし、t≧270/cosθの関係を満たすことによって、その小さい方の厚さが270nm以上確保される。このため、このブレーズド回折格子が高温かつ高湿の環境下に置かれた場合であっても、水分の樹脂層への進入を抑制することができる。よって、本ブレーズド回折格子は、高温かつ高湿の環境下における耐性に優れる。
【0008】
なお、本発明における「前記主表面と直交する方向における前記金属膜の高さは、前記格子溝上において一定であり」という構成は、金属膜の高さが、金属膜の成膜方法に由来する程度において一定であることを意味しており、数値的に厳密な精度を求めた一定を意味するものではない。
【0009】
また好ましくは、t≧682/cosθの関係をさらに満たす。
このようにすれば、高温かつ高湿の環境下における耐性がより高まる。
【0010】
また好ましくは、金属膜は、アルミニウムからなる。
このようにすれば、有効に反射型のブレーズド回折格子が得られる。
【0011】
この発明に従ったブレーズド回折格子の製造方法は、反転格子溝を有するマスター回折格子を準備する工程を備える。反転格子溝は、ブレーズ面を形成するための第1傾斜部と、第2傾斜部とを有する。第1傾斜部と第2傾斜部とは、一方向に沿って交互に並ぶ断面鋸歯状となる形状を有する。第1傾斜部は、一方向と第1傾斜部との間にブレーズ角と等しい角度を有する第1傾斜角を形成する。第2傾斜部は、一方向と第2傾斜部との間に、第1傾斜角よりも大きく、かつ、90°以下の角度を有する第2傾斜角を形成する。ブレーズド回折格子の製造方法は、さらに、反転格子溝の表面に沿い、かつ、一方向と直交する方向における高さが一定となるように、マスター回折格子上に製膜法によって金属膜を設ける工程と、金属膜上に接着性を有する樹脂を配置する工程と、樹脂上に基板を配置することにより、樹脂からなる樹脂層を介して、金属膜に基板を接着する工程と、マスター回折格子から、基板、樹脂層および金属膜を備えるブレーズド回折格子を取り外す工程とを備える。金属膜を設ける工程は、一方向と直交する方向における金属膜の高さをt(nm)とし、第2傾斜角をθ(°)とする場合に、t≧270/cosθの関係を満たすように、金属膜をマスター回折格子上に設ける工程を含む。
【0012】
この製造方法では、高温かつ高湿の環境下における耐性に優れるブレーズド回折格子を製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、この発明によれば、高温かつ高湿の環境下における耐性に優れるブレーズド回折格子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態のブレーズド回折格子の断面を概略的に示す図である。
【
図2】
図1中の2点鎖線IIで囲まれた範囲の拡大図である。
【
図3】ブレーズド回折格子の製造工程を概略的に示す断面図である。
【
図4】ブレーズド回折格子の製造工程を概略的に示す断面図である。
【
図5】ブレーズド回折格子の製造工程を概略的に示す断面図である。
【
図6】ブレーズド回折格子の製造工程を概略的に示す断面図である。
【
図7】実施例および比較例の構成と試験結果とを示す表である。
【
図8】実施例1のブレーズド回折格子の試験後の外観を示す写真である。
【
図9】
図8に示すブレーズド回折格子の顕微鏡画像である。
【
図10】
図8に示すブレーズド回折格子の表面状態を示す図である。
【
図11】実施例2のブレーズド回折格子の試験後の顕微鏡画像である。
【
図12】
図11に示すブレーズド回折格子の表面状態を示す図である。
【
図13】実施例2のブレーズド回折格子における試験時間と相対回折効率との関係を示すグラフである。
【
図14】比較例のブレーズド回折格子の試験後の外観を示す写真である。
【
図15】
図14に示すブレーズド回折格子の顕微鏡画像である。
【
図16】
図14に示すブレーズド回折格子の表面状態を示す図である。
【
図17】比較例のブレーズド回折格子における試験時間と相対回折効率との関係を示すグラフである。
【
図18】比較例のブレーズド回折格子における波長と回折効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態のブレーズド回折格子の断面を概略的に示す図である。
図1に示されるように、ブレーズド回折格子1は、基板10と、樹脂層20と、金属膜30とを有する。
【0017】
基板10は、たとえばガラスからなる。基板10は、平坦に形成された主表面10Sを有する。
【0018】
樹脂層20は、基板10上に設けられている。樹脂層20は、基板10の主表面10Sに積層されている。樹脂層20は、エポキシ樹脂などの接着性を有する樹脂からなる。樹脂層20は、断面(基板10の主表面10Sに直交する断面)が鋸歯状に形成された格子溝20Aを有する。格子溝20Aは、上記の断面と直交する方向(
図1の紙面奥行き方向)に沿って直線状に延びる形状を有する。格子溝20Aは、当該格子溝20Aの延びる方向と直交しかつ基板10の主表面10Sと平行な方向の一方向き(
図1の左向き)にブレーズ方向を規定している。格子溝20Aは、第1斜面21と、第2斜面22とを有する。樹脂層20の高さは、数十μm程度に設定される。
【0019】
第1斜面21は、平坦に形成されている。第1斜面21は、格子溝20Aのブレーズ方向と当該第1斜面21との間に、鋭角のブレーズ角θBを形成している。
【0020】
第2斜面22は、平坦に形成されている。第2斜面22は、ブレーズ方向と当該第2斜面22との間に、ブレーズ角θBよりも大きくかつ90°以下の角度を有する段差角θを形成している。上記の断面における第2斜面22の長さは、同断面における第1斜面21の長さよりも小さい。
【0021】
金属膜30は、格子溝20Aの表面に沿うように設けられている。金属膜30は、たとえばアルミニウムからなる。金属膜30は、格子溝20Aの表面に、蒸着やスパッタリングなどの製膜法により形成される。金属膜30は、ブレーズ面31と、段差面32とを有する。
【0022】
ブレーズ面31は、第1斜面21と平行に形成されている。すなわち、ブレーズ面31は、ブレーズ方向と当該ブレーズ面31との間に鋭角のブレーズ角θBを形成している。
【0023】
段差面32は、格子溝20Aのうちブレーズ方向と反対側(
図1の右側)の表面である。段差面32は、第2斜面22と平行に形成されている。すなわち、段差面32は、ブレーズ方向と当該段差面32との間にブレーズ角θBよりも大きくかつ90°以下の角度を有する段差角θを形成している。上記の断面における段差面32の長さは、同断面におけるブレーズ面31の長さよりも小さい。
【0024】
図2は、
図1中の2点鎖線IIで囲まれた範囲の拡大図である。
図2に示されるように、基板10の主表面10Sと直交する方向(
図2の上下方向)における金属膜30の高さtは、格子溝20A上において一定である。なお、「一定」とは、金属膜30の高さtが、金属膜30の成膜方法に由来する程度において一定であることを意味しており、数値的に厳密な精度を求めた一定を意味するものではない。
【0025】
図2に示されるように、ブレーズ面31および段差面32により形成される溝部の下端部30bは、基板10の主表面10Sと直交する方向について、第1斜面21および第2斜面22により形成される格子溝20Aの上端部20tよりも基板10から遠い側に位置している。つまり、金属膜30の高さtは、格子溝20Aの深さdよりも大きく設定されている。
【0026】
ここで、θB<θ≦90°であるため、第2斜面22と段差面32との間における、第2斜面22と直交する方向における金属膜30の厚さx2は、第1斜面21とブレーズ面31との間における、第1斜面21と直交する方向における金属膜30の厚さx1よりも小さくなる。このことは、溝本数(1mmあたりに形成される溝の数)が大きくなるほど顕著になる。具体的に、溝本数が大きくなるほど、段差角θが大きくなるため、金属膜30の高さtとcosθとの積によって表される厚さx2は、溝本数が大きくなるにしたがって次第に小さくなる。
【0027】
このため、金属膜30の高さtを大きくしたとしても、金属膜30の厚さx2が小さい場合、金属膜30のうち第2斜面22と段差面32との間の部位を水分が透過する恐れがある。
【0028】
本実施形態では、高さtは、以下の式(1)を満たすように設定される。
t≧270(nm)/cosθ ・・・(1)
段差角θが90°以下であるため、金属膜30の厚さx2は、270nm以上確保される。
【0029】
より好ましくは、高さtは、以下の式(2)を満たすように設定される。
t≧682(nm)/cosθ ・・・(2)
さらに、高さtは、以下の式(3)を満たすように設定される。
【0030】
t≦2000(nm)/cosθ ・・・(3)
次に、ブレーズド回折格子1の製造方法について、
図3~
図6を参照しながら説明する。
図3~
図6は、ブレーズド回折格子の製造工程を概略的に示す断面図である。
【0031】
この製造方法は、準備工程と、離型膜形成工程と、金属膜形成工程と、樹脂供給工程と、基板接着工程と、取り外し工程とを有する。
図3は、離型膜形成工程後の状態を示している。
図4は、金属膜形成工程後の状態を示している。
図5は、基板接着工程後の状態を示している。
図6は、取り外し工程を示している。
【0032】
準備工程では、マスター回折格子40を準備する。マスター回折格子40は、石英ガラスなどからなる。マスター回折格子40は、断面が鋸歯状に形成された反転格子溝40Aを有する。反転格子溝40Aは、格子溝20Aを反転させた形状を有する。反転格子溝40Aは、金属膜30のブレーズ面31を形成するための第1傾斜部41と、金属膜30の段差面32を形成するための第2傾斜部42とを有する。第1傾斜部41は、ブレーズ面31と対応する形状を有する。第2傾斜部42は、段差面32に対応する形状を有する。第1傾斜部41と第2傾斜部42とは、一方向(ブレーズ方向と平行な方向)に沿って交互に並ぶ形状を有する。
【0033】
離型膜形成工程では、マスター回折格子40の反転格子溝40A上に、油などの離型剤を供給することにより、離型膜50を形成する。離型膜50は、反転格子溝40Aの表面に沿う形状を有する。
【0034】
金属膜形成工程は、離型膜50の表面(反転格子溝40Aの表面)に沿うように離型膜50上に金属膜30を設ける工程である。この金属膜形成工程では、離型膜50上に、蒸着やスパッタリングなどの製膜法によって、金属膜30を形成する。具体的に、金属膜形成工程では、金属膜30の高さtが一定となり、かつ、上記式(1)を満たすように、製膜法によって金属膜30を離型膜50上に設ける。このとき、金属膜30の高さtは、上記式(1)および上記式(3)を満たす値に設定されることが好ましく、上記式(2)および上記式(3)を満たす値に設定されることがより好ましい。
【0035】
樹脂供給工程では、金属膜30上に、接着性を有する樹脂(たとえばエポキシ樹脂)を配置(供給)する。樹脂供給工程では、金属膜30上に、ほぼ均一に樹脂を配置する。
【0036】
基板接着工程では、樹脂上に基板10を配置(載置)することにより、金属膜30と基板10との間に樹脂からなる樹脂層20を形成するとともに、その樹脂層20を介して金属膜30に基板10を接着する。具体的に、基板接着工程では、樹脂供給工程で配置された樹脂が硬化する前に、その樹脂に基板10の主表面10Sが接するように樹脂上に基板10を配置する。そして、その樹脂が硬化することによって樹脂層20が形成され、その樹脂層20を介して基板10が金属膜30に接着される。
【0037】
取り外し工程では、マスター回折格子40から、基板10と樹脂層20と金属膜30とを備えるブレーズド回折格子1を取り外す。
【0038】
以上の工程を経ることにより、
図6に示されるように、第1傾斜部41に対応する形状を有するブレーズ面31と、第2傾斜部42に対応する形状を有する段差面32とを有する、ブレーズド回折格子1が製造される。
【0039】
このようにして製造されたブレーズド回折格子1では、金属膜30の厚さx2は、厚さx1よりも小さくなるものの、その小さい方の厚さx2が270nm以上確保される。このため、このブレーズド回折格子1が高温かつ高湿の環境下に置かれた場合であっても、水分の樹脂層20への進入を抑制することができる。よって、ブレーズド回折格子1は、高温かつ高湿の環境下における耐性に優れる。
【0040】
また、金属膜30の高さtが上記式(2)を満たすことにより、ブレーズド回折格子1の高温かつ高湿の環境下における耐性がより高まる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例および比較例について説明する。いずれの実施例および比較例においても、ガラスからなる基板10と、エポキシ樹脂からなる樹脂層20と、アルミニウムからなる金属膜30とを有するブレーズド回折格子1を用いた。
図7は、実施例および比較例の構成と試験結果とを示す表である。実施例および比較例の構成は、
図7に示されるとおりである。
【0042】
(実施例1)
図7の実施例1に示されるブレーズド回折格子1を、温度60℃、湿度85%の環境(高温かつ高湿の環境)下に1000時間置いた。
図8は、実施例1のブレーズド回折格子の試験後の外観を示す写真である。
図9は、
図8に示すブレーズド回折格子の顕微鏡画像である。
図10は、
図8に示すブレーズド回折格子の表面状態を示す図である。
図10において、縦軸は、ブレーズド回折格子1の表面の高さを示し、横軸は、基板10の主表面10Sと平行な方向についてのブレーズド回折格子1の表面の位置を示す。
図8~
図10に示されるように、試験後、ブレーズド回折格子1の表面の劣化(凹凸の発生)は見られなかった。
【0043】
(実施例2)
図7の実施例2に示されるブレーズド回折格子1を、温度60℃、湿度85%の環境(高温かつ高湿の環境)下に1000時間置いた。
図11は、実施例2のブレーズド回折格子の試験後の顕微鏡画像である。
図12は、
図11に示すブレーズド回折格子の表面状態を示す図である。
図11および
図12に示されるように、試験後、ブレーズド回折格子1の表面の劣化(凹凸の発生)は見られなかった。
【0044】
図13は、実施例2のブレーズド回折格子における試験時間と相対回折効率との関係を示すグラフである。なお、グラフの縦軸は、試験開始時(試験時間が0hのとき)の相対回折効率に対する相対回折効率の変化量を意味する。
図13には、実施例2の結果に加え、リファレンス(実施例2のブレーズド回折格子1を常温、常湿の環境下に置いた場合の結果)も示されている。
図13から、実施例2の相対回転効率の変化の挙動は、リファレンスの相対回転効率の変化の挙動とほぼ同じであることが分かった。すなわち、実施例2のブレーズド回折格子1を高温かつ高湿の環境下に置いたとしても、当該ブレーズド回折格子1を常温、常湿の環境下に置いた場合に比べて、表面の劣化がほぼ見られないという結果が得られた。なお、リファレンスにおいて、500hにおける相対回折効率が0%よりも大きいのは、測定誤差と考えられる。
【0045】
(比較例)
図7の比較例に示されるブレーズド回折格子を、温度60℃、湿度85%の環境(高温かつ高湿の環境)下に869時間置いた。
図14は、比較例のブレーズド回折格子の試験後の外観を示す写真である。
図15は、
図14に示すブレーズド回折格子の顕微鏡画像である。
図16は、
図14に示すブレーズド回折格子の表面状態を示す図である。
図14~
図16に示されるように、試験後、比較例のブレーズド回折格子1の表面に凹部Cの発生(表面の劣化)が確認された。
【0046】
図17は、比較例のブレーズド回折格子における試験時間と相対回折効率との関係を示すグラフである。
図17から、リファレンス(比較例のブレーズド回折格子を常温、常湿の環境下に置いた場合の結果)の相対回転効率と比較例の相対回転効率との差は、時間の経過とともに次第に大きくなることが分かった。すなわち、比較例のブレーズド回折格子を高温かつ高湿の環境下に置いた場合、当該ブレーズド回折格子を常温、常湿の環境下に置いた場合に比べて、時間の経過とともに表面の劣化が進行するという結果が得られた。
【0047】
以上より、温度60℃、湿度85%、1000時間の環境耐性を持つためには、金属膜30の厚さx2が、実施例1と同等の270nm以上が必要であることが分かった。たとえば、溝本数が1800(本/mm)の場合で厚さx2を270nm以上確保するには、金属膜30の高さtを400nm以上にすればよい。
【0048】
ここで、樹脂層20への水分の進入を抑制するために、金属膜30の表面に、SiO
2などの耐湿性を有する材料からなる被膜を設けることが考えられる。
図18は、比較例のブレーズド回折格子における波長と相対回折効率との関係を示すグラフである。このグラフには、表面が、アルミニウムからなる金属膜30で構成される場合の結果と、表面が、アルミニウムからなる金属膜30の表面に設けられたSiO
2からなる50nmの被膜で構成される場合の結果とが示されている。
図18に示されるように、比較例のブレーズド回折格子1では、アノマリーが500nm付近に存在するため、アルミニウムからなる金属膜30の表面に、耐湿性を有する材料からなる被膜が設けられると、著しく相対回折効率が低下することが確認された。このため、比較例のブレーズド回折格子1に耐湿性を有する材料からなる被膜を設けることは、回折効率を踏まえると、樹脂層20への水分の進入を抑制するための手段として、好適なものとはいえない。換言すれば、実施例1および実施例2のように、金属膜30の厚さx2を270nm以上確保することにより、樹脂層20への水分の進入を抑制することと、回折効率の低下を回避することとの双方を達成することができる。
【0049】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
この発明は、ブレーズド回折格子に適用される。
【符号の説明】
【0051】
1 ブレーズド回折格子、10 基板、10S 主表面、20 樹脂層、20A 格子溝、21 第1斜面、22 第2斜面、30 金属膜、31 ブレーズ面、32 段差面、40 マスター回折格子、40A 反転格子溝、41 第1傾斜部、42 第2傾斜部、θ 段差角、θB ブレーズ角。