(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】毛包上皮幹細胞の培養方法及び培養キット
(51)【国際特許分類】
C12N 5/074 20100101AFI20220525BHJP
【FI】
C12N5/074 ZNA
(21)【出願番号】P 2018020376
(22)【出願日】2018-02-07
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
(72)【発明者】
【氏名】平野 杉
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-249556(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073625(WO,A1)
【文献】特表2009-529886(JP,A)
【文献】特開2008-125540(JP,A)
【文献】国際公開第2017/070506(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217393(WO,A1)
【文献】高分子材料の酸素透過係数に関する分子構造要因解析手法,デンソーテクニカルレビュー,2007年,Volume 12, Number 2,pp. 98-102,https://www.denso.com/jp/ja/-/media/global/business/innovation/review/12-2/12-2-doc-15-ja.pdf
【文献】Chin-Hsiung Hsieh, et al.,Large-scale cultivation of transplantable dermal papilla cellular aggregates using microfabricated PDMS arrays.,Acta Biomaterialia,2011年,Vo.7,p.315-324
【文献】CHACON-MARTINEZ Carlos Andres, et al.,Hair follicle stem cell cultures reveal self-organizing plasticity of stem cells and their progeny.,The EMBO Journal,2017年,Vol.36, No.2,p.151-164
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N5/00-5/28
C12M1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛包上皮幹細胞が懸濁された細胞懸濁液を細胞培養容器に入れることにより、前記毛包上皮幹細胞を播種し、前記毛包上皮幹細胞が前記細胞培養容器の底面に積み重なって集まった集積体を形成させる集積工程と、
前記毛包上皮幹細胞の集積体に、前記集積体を懸濁することなく細胞外マトリックス成分を加え、前記細胞外マトリックス成分と前記毛包上皮幹細胞の集積体との混合物を作製する混合工程と、
前記混合物に培地を加えて培養する培養工程と、
を備える毛包上皮幹細胞の培養方法(上皮系細胞及び間葉系細胞を含む毛包原基を形成する方法を除く。)。
【請求項2】
前記細胞外マトリックス成分がI型コラーゲンである請求項1に記載の毛包上皮幹細胞の培養方法。
【請求項3】
前記細胞培養容器が酸素透過性を有する材質からなる請求項1又は2に記載の毛包上皮幹細胞の培養方法。
【請求項4】
前記混合工程において、前記毛包上皮幹細胞の播種から10分間以上24時間以下の時点で前記集積体に前記細胞外マトリックス成分を加える、
請求項1乃至3のいずれかに記載の毛包上皮幹細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛包上皮幹細胞の培養方法及び培養キットに関する。
【背景技術】
【0002】
毛包上皮幹細胞は、毛髪をつくるための幹細胞であり、通常の培養基板上では、強く接着及び伸展し、強烈な増殖スイッチが入ることで、毛髪再生能を有しない細胞に分化することが知られている。従来では、培養液に成長因子や各種阻害剤を添加して毛包上皮幹細胞を培養する方法(例えば、特許文献1参照)や、毛包上皮幹細胞をマトリゲルで包埋して培養する方法(例えば、非特許文献1参照)により、毛包上皮幹細胞の毛髪再生能を維持する工夫が検討されてきた。
【0003】
一方、本発明者らはこれまで、再生毛包原基の集合体の製造方法を開発してきた(例えば、特許文献2参照)。具体的には、規則的な配置の微小凹部を備えるマイクロ凹版に、間葉系細胞及び上皮系細胞を播種し、酸素を供給しながら共培養することで、毛包原基を形成させる工程を備える方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-249556号公報
【文献】国際公開第2017/073625号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Chacon-Martinez C A et al., “Hair follicle stem cell cultures reveal self-organizing plasticity of stem cells and their progeny.”, EMBO, Vol. 36, No. 2, p151-164, 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、毛髪再生能を維持しながら、毛包上皮幹細胞を大量に増殖させることができる、よりよい培養方法が求められていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、毛髪再生能を維持しながら、毛包上皮幹細胞を大量に増殖させることができる毛包上皮幹細胞の培養方法及び培養キットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る毛包上皮幹細胞の培養方法は、細胞培養容器に、毛包上皮幹細胞を播種し、集積体を形成させる集積工程と、前記毛包上皮幹細胞の集積体に細胞外マトリックス成分を加え、前記細胞外マトリックス成分と前記毛包上皮幹細胞の集積体との混合物を作製する混合工程と、前記混合物に培地を加えて培養する培養工程と、を備える方法である。
上記第1態様に係る毛包上皮幹細胞の培養方法において、前記細胞外マトリックス成分がI型コラーゲンであってもよい。
上記第1態様に係る毛包上皮幹細胞の培養方法において、前記細胞培養容器が酸素透過性を有する材質からなってもよい。
上記第1態様に係る毛包上皮幹細胞の培養方法において、前記酸素透過性を有する材質がポリジメチルシロキサンであってもよい。
【0009】
本発明の第2態様に係る毛包上皮幹細胞の培養キットは、酸素透過性を有する材質からなる細胞培養容器と、細胞外マトリックス成分と、培地と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
上記態様の毛包上皮幹細胞の培養方法及び培養キットによれば、毛髪再生能を維持しながら、毛包上皮幹細胞を大量に増殖させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1における毛包上皮幹細胞の調製方法を示す概略工程図である。
【
図2】実施例1における成体マウスから採取された表皮細胞中の毛包上皮幹細胞の存在率を示すグラフ及び表である。
【
図3A】実施例1における細胞F(Magnetic cell sorting(MACS)法で分離されたCD34陽性細胞)をFluorescence activated cell sorting(FACS)法により解析した結果を示すグラフである。
【
図3B】実施例1における免疫染色した細胞F(Magnetic cell sorting(MACS)法で分離されたCD34陽性細胞)の位相差顕微鏡像及び蛍光顕微鏡像(上:核染色像、下:CD34染色像)である。各スケールバーは250μmを示す。
【
図4】実施例1及び比較例1における毛包上皮幹細胞の培養方法を比較した概略工程図である。
【
図5】実施例1における培養1日目から14日目までの毛包上皮幹細胞の顕微鏡像である。各スケールバーは1mmを示す。
【
図6】実施例1及び比較例1における培養14日目の毛包上皮幹細胞でのCD34遺伝子の発現量を示すグラフである。
【
図7A】比較例1における平面培養法で培養した培養1日目から14日目までの毛包上皮幹細胞の顕微鏡像である。各スケールバーは1mmを示す。
【
図7B】比較例1における従来のマトリゲル包埋培養法で培養した培養1日目から14日目までの毛包上皮幹細胞の顕微鏡像である。各スケールバーは1mmを示す。
【
図8】比較例1における培養前及び培養14日目の毛包上皮幹細胞(平面培養及びマトリゲル包埋培養)でのCD34遺伝子の発現量を示すグラフである。
【
図9】実施例2における酸素透過性細胞培養容器(ポリジメチルシロキサン(PDMS)スフェロイドチップ)の作製方法を示す概略工程図である。
【
図10】実施例2における培養1日目から14日目までの毛包上皮幹細胞の顕微鏡像である。各スケールバーは1mmを示す。
【
図11】実施例1、2及び比較例1、2における培養14日目の毛包上皮幹細胞でのCD34遺伝子の発現量を示すグラフである。
【
図12】比較例1及び比較例2における細胞培養容器(培養条件)を比較した概略構成図である。
【
図13】比較例2における培養1日目から14日目までの毛包上皮幹細胞の顕微鏡像である。各スケールバーは1mmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<毛包上皮幹細胞の培養方法>
本実施形態の毛包上皮幹細胞の培養方法は、集積工程と、混合工程と、培養工程と、を備える方法である。
前記集積工程では、細胞培養容器に、毛包上皮幹細胞を播種し、集積体を形成させる。
前記混合工程では、前記毛包上皮幹細胞の集積体に細胞外マトリックス成分を加え、前記細胞外マトリックス成分と前記毛包上皮幹細胞の集積体との混合物を作製する。
前記培養工程では、前記混合物に培地を加えて培養する。
【0013】
本実施形態の培養方法によれば、後述の実施例に示すように、毛髪再生能を維持しながら、毛包上皮幹細胞を大量に増殖させることができる。
従来の毛包上皮幹細胞の培養方法では、細胞を播種する時点から、毛包上皮幹細胞とマトリゲル等の細胞外マトリックス成分とを混合し、毛包上皮幹細胞を分散させた状態で培養を行う。
一方、毛包上皮幹細胞は、生体内において細胞が密集した環境で存在しており、さらに、細胞間には細胞外マトリックス成分が存在している。そのため、本実施形態の培養方法における集積工程で、細胞集積体を形成させた後に、続く混合工程において、細胞集積体に細胞外マトリックス成分を混合することで、生体内に近しい環境を再現することができる。これにより、後述の実施例に示すように、従来の毛包上皮幹細胞の培養方法よりも、優れた毛髪再生能を有する毛包上皮幹細胞を得ることができる。
なお、ここでいう「細胞集積体」とは、細胞培養容器内に播種された細胞が、重力等により底面に積み重なって集まったものを意味する。
本実施形態の培養方法の各工程について、以下に詳細を説明する。
【0014】
[集積工程]
まず、毛包上皮幹細胞を細胞培養容器に播種し、静置培養する。細胞を重力で沈殿させることで、細胞の集積体を形成させる。播種する細胞数は細胞培養容器の大きさに応じて適宜調整することができる。
【0015】
(毛包上皮幹細胞)
本実施形態の培養方法で用いられる毛包上皮幹細胞の由来としては、動物であり、脊椎動物が好ましく、哺乳動物がより好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、チンパンジー及びその他の霊長類;イヌ、ネコ、ウサギ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、ラット(ヌードラットも包含する)、マウス(ヌードマウス及びスキッドマウスも包含する)、モルモット等の家畜動物、愛玩動物及び実験用動物等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、細胞の由来としては、ヒトであることが好ましい。
毛包上皮幹細胞は、被検動物の皮膚組織から単離されたものであってもよく、万能細胞から誘導されたものであってもよい。万能細胞としては、例えば、胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞、人工多能性(iPS)幹細胞等が挙げられる。
また、本実施形態の培養方法で用いられる毛包上皮幹細胞は、単一細胞であってもよく、皮膚組織において毛包上皮幹細胞の周囲に存在する細胞(例えば、色素幹細胞、表皮細胞等)を含む混合細胞であってもよい。
毛包上皮幹細胞であることは、毛包上皮幹細胞のマーカータンパク質(例えば、CD34等)を発現しているか否かで確認することができる。具体的には、例えば、CD34を発現している細胞は、公知の方法(例えば、抗CD34抗体を用いたFluorescence activated cell sorting(FACS)分析、Magnetic cell sorting(MACS)分析、及び、免疫染色法等)を用いて、確認することができる。
【0016】
集積工程における培養条件としては、培養時間は、10分間以上24時間以下(好ましくは、1時間以上2時間以下)とすることができ、培養温度は25℃以上40℃未満(好ましくは、37℃)とすることができる。また、例えば約5%のCO2条件下であってもよい。
【0017】
(細胞培養容器)
細胞培養容器は、観察のしやすさ、スクリーニング効率から、複数のウェルが規則的に1つの基板に配置されているものが好ましい。本明細書においては、基板に配置された個々のウェルを細胞培養容器と想定する。このようなものとしては、市販のものを用いてもよいし、特許文献3(国際公開第2017/073625号)に記載の方法等で作製してもよい。
【0018】
また、基板におけるウェルの密度は、例えば20個/cm2以上500個/cm2以下とすることができ、例えば50個/cm2以上250個/cm2以下とすることができ、例えば100個/cm2以上200個/cm2以下とすることができる。密度が上記範囲であることにより、哺乳動物の毛穴(特に、ヒトを含む霊長類の毛穴)の密度と同程度の密度で毛包上皮幹細胞が配置された状態で培養することができる。
【0019】
ウェルの開口部の直径及び深さについて、毛包上皮幹細胞の集積体を収容し培養できる大きさであれば特別な限定はないが、直径については、哺乳動物の毛穴と同程度の大きさとすることができ、例えば、20μm以上1mm以下とすることができる。また、深さについては、例えば1mm以下とすることができる。
【0020】
細胞培養容器の材質は、細胞培養に適したものとすることができ、特別な限定はない。例えば、透明なガラス、ポリマー材等が挙げられる。中でも、酸素透過性を有するポリマー材が好ましい。酸素透過性を有するポリマー材として具体的には、例えば、フッ素樹脂、シリコンゴム(例えば、ポリジメチルシロキサン(poly(dimethylsiloxane):PDMS)等)等が挙げられる。これらの材質を単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本明細書において、「酸素透過性」とは、分子状の酸素を透過し、細胞培養容器のウェル内まで到達させる性質を表している。具体的な酸素透過率としては、約100cm3/m2・24h・atm以上5000cm3/m2・24h・atm以下であってよく、約1100cm3/m2・24h・atm以上3000cm3/m2・24h・atm以下であってよく、約1250cm3/m2・24h・atm以上2750cm3/m2・24h・atm以下であってよい。なお、「24h」は24時間を意味し、「atm」とは、気圧をの単位を意味する。すなわち、上記単位「cm3/m2・24h・atm」は、1気圧の環境下において、24時間で透過する酸素の1m2あたりの容量(cm3)を表している。酸素透過率が上記範囲である材質からなる細胞培養容器を使用することにより、十分な量の酸素を毛包上皮幹細胞に供給でき、毛髪再生能がより優れる毛包上皮幹細胞が得られる。
【0022】
また、細胞培養容器は、後述の実施例に示すように、市販の細胞培養容器を用いてもよく、鋳型を作製し、PDMSを原料として細胞培養容器を一から作製してもよい。市販の細胞培養容器としては、例えば、住友ベークライト社製のPrimeSurface(登録商標) 96Uプレート等が挙げられる。
【0023】
(培地)
培地としては、特別な限定はなく、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基本培地とすることができる。
【0024】
培地に含まれる無機塩は、細胞の浸透圧平衡の維持を助けるために、及び、膜電位の調節を助けるためのものである。
無機塩としては、特別な限定はなく、例えば、カルシウム、銅、鉄、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛等の塩が挙げられる。塩は、通常、塩化物、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、及び、重炭酸塩の形で用いられる。
一般的に、培地中の無機塩の重量オスモル濃度は、例えば200mOsm/kg以上400mOsm/kg以下とすることができ、例えば280mOsm/kg以上350mOsm/kg以下とすることができ、例えば280mOsm/kg以上310mOsm/kg以下とすることができ、例えば280mOsm/kg以上300mOsm/kg未満とすることができ、例えば280mOsm/kgとすることができる。
【0025】
炭水化物としては、特別な限定はなく、例えば、グルコース、ガラクトース、マルトース、フルクトース等が挙げられる。
一般的に、培地中の炭水化物(好ましくは、D-グルコース)の濃度としては、0.5g/L以上2g/L以下であることが好ましい。
【0026】
アミノ酸としては、特別な限定はなく、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、及び、それらの組み合わせ等が挙げられる。
一般的に、培地に含まれるグルタミンの濃度は0.05g/L以上1g/L以下(通常、0.1g/L以上0.75g/L以下) とすることができる。培地に含まれるグルタミン以外の各アミノ酸は、0.001g/L以上1g/L以下(通常、0.01g/L以上0.15g/L以下) とすることができる。アミノ酸は合成由来でもよい。
【0027】
ビタミンとしては、特別な限定はなく、例えば、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシンアミド(ビタミンB3)、D-パントテン酸ヘミカルシウム(ビタミンB5)、ピリドキサール/ピリドキサミン/ピリドキシン(ビタミンB6)、葉酸(ビタミンB9)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、アスコルビン酸(ビタミンC)、カルシフェロール(ビタミンD2)、DL-αトコフェロール(ビタミンE)、ビオチン(ビタミンH)、メナジオン(ビタミンK)、塩化コリン、myo-イノシトール等が挙げられる。
【0028】
培地は、さらに抗生物質、血清、成長因子、ホルモン、又は、ROCK阻害剤等を含んでいてもよい。
【0029】
抗生物質としては、例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシン、アンピシリン、ミノマイシン、カナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタシン、タイロシン、オーレオマイシン等、通常の動物細胞の培養に用いられるものが挙げられる。これらの抗生物質を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
一般的に、培地に含まれる抗生物質の濃度は、特別な限定はなく、例えば0.1μg/mL以上100μg/mL以下とすることができる。
【0030】
血清としては、例えば、FBS/FCS(Fetal Bovine/Calf Serum)、NCS(Newborn Calf serum)、CS(Calf Serum)、HS(Horse Serum)等が挙げられ、これらに限定されない。
一般的に、培地に含まれる血清の濃度は、例えば2質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0031】
成長因子としては、例えば、細胞増殖因子、細胞接着因子等が挙げられ、これらに限定されない。
成長因子としてより具体的には、例えば、上皮成長因子(Epidermal growth factor:EGF)、酸性繊維芽細胞成長因子(acidic fibroblast growth factor:aFGF)、塩基性繊維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)、インスリン様成長因子-1(Insulin―like growth factor-1:IGF-1)、マクロファージ由来成長因子(Macrophage-derived growth factor:MDGF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor:PDGF)、腫瘍血管新生因子(Tumor angiogenesis factor:TAF)、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)等が挙げられる。これらの成長因子を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
一般的に、培地に含まれる成長因子の濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下とすることができる。
【0032】
ホルモンとしては、例えば、インスリン、グルカゴン、トリヨードチロニン、副腎皮質ホルモン(ハイドロコーチゾン等)等が挙げられる。これらのホルモンを単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
一般的に、培地に含まれるホルモンの濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下とすることができる。
【0033】
また、成長因子及びホルモンを含む培地添加剤として、ウシ脳下垂体抽出物(Bovine Pituitary Extract:BPE)を用いてもよい。
【0034】
ROCK阻害剤としては、例えば、HA-1077、Y-27632、Thiazovivin、GSK429286A、RKI-1447、GSK180736A、HA-1100、Y-39983、AR-13324、GSK269962、AT13148、K-115、KD025、ZINC00881524、及び、それらの塩が挙げられる。
【0035】
培地として具体的には、塩化カルシウムを含み、無血清であって、上皮成長因子、並びに、必要に応じて任意の抗生物質及び任意のホルモンを添加した公知の上皮系細胞用基本培地を用いることができる。
前記公知の上皮系細胞用基本培地としては、例えば、HuMedia-KB2(クラボウ社製)、角化細胞基本培地2(Keratinocyte Basal Medium 2)(Promo Cell社製)、EpiLife(登録商標) Medium(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)等が挙げられる。
また、上皮成長因子、任意の抗生物質、及び、任意のホルモンを含む上皮系細胞増殖用培地としては、例えば、HuMedia-KG2(クラボウ社製)、角化細胞増殖培地2(Keratinocyte Growth Medium 2)(Promo Cell社製)等が挙げられる。また、これら上皮成長因子、任意の抗生物質、及び、任意のホルモンを含む上皮系細胞増殖用培地に、さらに、任意の成長因子及び任意のROCK阻害剤等を添加してもよい。
【0036】
[混合工程]
次いで、毛包上皮幹細胞の集積体に、細胞外マトリックス成分を加えて、前記細胞外マトリックス成分と前記毛包上皮幹細胞の集積体との混合物を作製する。これにより、続く培養工程において、毛包上皮幹細胞を生体内と近しい環境で培養することができる。混合工程において、細胞外マトリックス成分をゲル化させてもよく、ゲル化させなくてもよい。
【0037】
溶液中の細胞外マトリックス成分の濃度は、ゲル化の有無及びゲルの硬さに応じて、適宜調整することができる。また、細胞外マトリックス成分をゲル化させる場合、ゲル化時間についても、必要とするゲルの硬さに応じて、適宜調整することができる。ゲル化温度等の各種条件については、特別な限定はなく、例えば、37℃のC02インキュベーター内で培養する方法等が挙げられる。また、混合工程で用いられる細胞培養容器としては、上記「[集積工程]」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0038】
(細胞外マトリックス成分)
細胞外マトリックス成分としては、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、IV型、V型、XI型、XVII型等)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン等を含む)より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル)、フィブリン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン等が挙げられる。その他天然物由来の高分子として、ゼラチン、寒天、アガロース等を使用することもできる。それぞれのゲル化に至適な塩等の成分、その濃度、pH等を選択しハイドロゲルを作製することが可能である。また、これらの天然物由来の高分子を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0039】
中でも、細胞外マトリックス成分は、コラーゲン(特に、I型コラーゲン)が好ましい。コラーゲンを含有することにより、より皮膚に近しい組成となり、高い毛包再生効率を実現できる。
【0040】
細胞外マトリックス成分は溶媒に懸濁して用いてもよい。細胞外マトリックス成分を懸濁する溶媒としては、例えば、Ham’s Nutrient Mixtures F-10又はHam’s Nutrient Mixtures F-12等の無血清培地や、細胞外マトリックス成分再構成用の緩衝液(例えば、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、HEPES-Bufferからなる緩衝液等)等が挙げられる。
【0041】
[培養工程]
次いで、混合工程で作製された混合物に培地を加えて培養する。培養工程で用いられる細胞培養容器及び培地としては、上記「[集積工程]」において例示されたものと同様のものが挙げられる。培養条件としては、培養時間は、3日間以上21日間以下(好ましくは、10日間以上14日間以下)とすることができ、培養温度は25℃以上40℃未満(好ましくは、37℃)とすることができる。また、例えば約5%のCO2条件下であってもよい。
培養工程において、後述の実施例に示すように、培養日数を経るにつれて、毛包上皮幹細胞同士が接着及び凝集し、一つの凝集体を形成する。
この培養工程を経ることで、毛髪再生能に優れる毛包上皮幹細胞を大量に得ることができる。
【0042】
[その他の工程]
また、本実施形態の培養方法は、培養工程の後に、さらに、毛包上皮幹細胞のマーカータンパク質の発現を確認する確認工程等を備えてもよい。
毛包上皮幹細胞のマーカータンパク質の発現の確認方法としては、上記「(毛包上皮幹細胞)」において例示された方法と同様の方法が挙げられる。
【0043】
また、本実施形態の培養方法は、培養工程の後に、さらに、得られた毛包上皮幹細胞を1細胞ずつに単離する単離工程等を備えてもよい。単離方法としては、例えば、トリプシン等の酵素処理を行う方法等が挙げられる。
【0044】
<毛包上皮幹細胞の培養キット>
本実施形態の毛包上皮幹細胞の培養キットは、酸素透過性を有する材質からなる細胞培養容器と、細胞外マトリックス成分と、培地と、を備える。
【0045】
本実施形態の培養キットによれば、毛髪再生能を維持しながら、毛包上皮幹細胞を大量に増殖させることができる。
【0046】
本実施形態の培養キットが備える、酸素透過性を有する材質からなる細胞培養容器、細胞外マトリックス成分及び培地は、上記「<毛包上皮幹細胞の培養方法>」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0047】
[その他構成]
本実施形態の培養キットは、上記酸素透過性を有する材質からなる細胞培養容器、上記細胞外マトリックス成分及び上記培地に加えて、さらに、毛包上皮幹細胞のマーカータンパク質に対する抗体(例えば、抗CD34抗体)等を備えていてもよい。これにより、培養して得られた細胞が毛包上皮幹細胞であるか否か(毛髪再生能を維持しているか否か)を確認することができる。
また、本実施形態の培養方法は、上記酸素透過性を有する材質からなる細胞培養容器、上記細胞外マトリックス成分及び上記培地に加えて、さらに、トリプシン等の酵素を備えてもよい。これにより、本実施形態の培養キットを用いて得られた毛包上皮幹細胞を1細胞ずつに単離することができる。
【0048】
<毛包上皮幹細胞の使用用途>
本実施形態の培養方法及び培養キットを用いて得られた毛包上皮幹細胞は、例えば、毛乳頭細胞等の間葉系細胞と共培養することで毛包原基を構築することができる。この毛包原基を移植することで、毛髪を再生できる。
【0049】
本実施形態の培養方法及び培養キットを用いて得られた毛包上皮幹細胞は、例えば、被検動物の創傷部に移植することで、皮膚を再生することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]毛包上皮幹細胞の培養1
まず、成体マウスから皮膚細胞を採取し、毛包上皮幹細胞の存在率を評価した後に、単離して続く試験に用いた(
図1参照)。
【0052】
1.毛包上皮幹細胞の調製
(1)マウス上皮細胞の採取
6~8週齢の雄の成体マウス(C57BL/6jjcl、チャールズリバー社より購入)より背部皮膚を採取し、100mg/Lのペニシリン-ストレプトマイシン(Penicillin-Streptomycin:P/S)(GIBCO社製)を含むダルベッコりん酸緩衝生理食塩水(Dulbecco’s phosphate-buffered saline:DPBS)(GIBCO社製)で洗浄した。次いで、脂肪組織をメスで外科的に除去し、皮膚組織を得た。この皮膚組織を1~1.5cm角に細断し、真皮側を下にして0.25%トリプシン(GIBCO社製)を用いて、37℃で70分間インキュベートした。次いで、ピンセットを用いて真皮層を外科的に除去した。50mL遠心管に皮膚組織を酵素処理した溶液とともに加え、ピペッティングすることで細胞をバラバラにした。次いで、細胞を含む溶液ごと、70μmセルストレイナー(BD falcon社製)を通し、さらに40μmセルストレイナーを通した(BD falcon社製)。次いで、1000rpmで3分間遠心することで、細胞を回収した。回収した細胞はHumedia-KG2培地(KURABO社製)に懸濁した。
【0053】
(2)CD34陽性細胞の存在率の確認
(1)で調製した細胞懸濁液を1000rpmで3分間遠心し、上清を取り除いた。次いで、5mLのPBSに懸濁し、1000rpmで3分間遠心し、上清を取り除く操作を2回行うことで培地を完全に除去した。ここにPBSを加え、1×10
6cells/500mLになるように1.5mLチューブに分注した。次いで、Fluorescence activated cell sorting(FACS)用抗体としてFITC標識抗CD34抗体(BD社製)及びPE標識抗CD49f抗体(R&D Systems社製)を添加し、暗所、on iceで30分間染色した。染色後、1000rpmで、3分間遠心し上清を取り除いた。次いで、5mLのPBSに懸濁し、1000rpm、3分間遠心し、上清を取り除く操作を2回行うことでFACS用抗体を含む溶液を完全に除去した。死細胞の核染色を行うために、7-Amino-Actinomycin D(7-AAD)を添加した。次いで、30μmフィルター付きの試験管に通した後、自動細胞解析分離装置(FACS装置)(ベックマン・コールター社製)を用いて分析を行った。結果を
図2示す。
【0054】
図2から、CD34及びCD49fの両方発現している細胞は、マウス皮膚から採取した表皮系細胞群において6.94%存在することが分かった。また、先行研究(上記非特許文献1参照)において、使用した系統のマウスの表皮細胞群中のCD34及びCD49fの両方発現している細胞の存在率は約5~10%程度であることが報告されており、今回の結果は、この値の範囲であった。
また、
図2の「4」の範囲にあたるCD34(+)、CD49f(-)細胞の存在率は0.66%であり、無視できるほど小さいと判断した。そのため、以降の実験において、CD34陽性(+)細胞(
図2中の「1」及び「4」の範囲に分類された細胞)を用いるとした。
【0055】
(3)CD34陽性細胞の単離
次いで、以下の手順でCD34陽性(+)細胞の回収を行った。全ての操作は氷上で行った。
(3-1)採取したマウス上皮細胞1.0~1.5×107cellsを含む細胞懸濁液を1000rpmで、3分間遠心した後、上清を除去した。次いで、300μLのMACS(Magnetic cell sorting)/FACS buffer(Miltenyl Biotec社製)を加えた。
(3-2)5mLチューブを3つ用意し、(3-1)で調製した細胞懸濁液をそれぞれに10~15μLずつ分注した。各チューブをチューブ1、チューブ2及びチューブ3とし、以下、「(4)各チューブに関する手順)」に記載の操作を行った。
(3-3)次いで、(3-2)の分注後、残った細胞懸濁液に3mLのMACS/FACS bufferを加え、1000rpmで3分間遠心し、上清を取り除いた。次いで、300μLのMACS/FACS bufferを加えた。その後、抗マウスCD34抗体(eBioscience社製)を30μL加え、暗所にて4℃で30分間静置した。
(3-4)5mLのMACS/FACS bufferを加えた後、1000rpmで3分間遠心した。上清を取り除き、300μLのMACS/FACS bufferに再懸濁した後、30μLのFITC標識抗ラットIgG抗体(Jackson Immuno Research社製)を加え、暗所にて4℃で30分間静置した。
(3-5)5mLのMACS/FACS bufferを加えた後、1000rpmで、3分間遠心し、上清を取り除く操作を2回行うことでFITC標識抗ラット抗体を完全に除去した。次いで、300μLのMACS/FACS bufferに再懸濁した後、30μLの抗FITC抗体結合マイクロビーズ(Miltenyl Biotec社製)を加え、暗所にて4℃で30分間静置した。
(3-6)5mLのMACS/FACS bufferを加えた後、1000rpmで3分間遠心した。上清を取り除き、500μLのMACS/FACS bufferに再懸濁した後、4℃で保管した。磁気細胞分離装置(MACS装置)(Miltenyl Biotec社製)でサンプルを流す前に、15μLのサンプルを15mLチューブに移動し、600μLまでMACS/FACS bufferを加えてメスアップした(以下、このサンプルを含むチューブを「チューブ4」と称する場合がある)。以下、「(4)各チューブに関する手順)」に記載の操作を行った。
(3-7)Miltenyi Biotec社の手順書に従って、(3-6)で調製したサンプルからラベリングした細胞とラベリングされなかった細胞とに分離した。
(3-8)ラベリングされなかった細胞懸濁液600μLを15mLチューブに回収し、4℃で保存した(以下、このラベリングされなかった細胞懸濁液を含むチューブを「チューブ5」と称する場合がある)。以下、「(4)各チューブに関する手順)」に記載の操作を行った。
(3-9)ラベリングされた細胞懸濁液400μLを15mLチューブに回収し、4℃で保存した(以下、このラベリングされた細胞懸濁液を含むチューブを「チューブ6」と称する場合がある)。以下、「(4)各チューブに関する手順)」に記載の操作を行った。
【0056】
(4)各チューブに関する手順(FACS用サンプルの調製)
(4-1)チューブ1(未染色コントロールの調製)
チューブ1に600μLのMACS/FACS bufferを加えて、4℃で保存した。
【0057】
(4-2)チューブ2(バックグラウンドコントロールの調製)
(4-2-1)チューブ2の細胞懸濁液が50μLになるようにMACS/FACS bufferを加え、さらに5μLのFITC標識抗ラットIgG抗体を加え、暗所にて4℃で30分間静置した。
(4-2-2)5mLのMACS/FACS bufferを加えた後、1000rpmで3分間遠心した。上清を取り除き、50μLのMACS/FACS bufferに再懸濁した後、5μLの抗FITC抗体結合マイクロビーズを加え、暗所にて4℃で30分間静置した。
(4-2-3)5mLのMACS/FACS bufferを加えた後、1000rpmで3分間遠心した。上清を取り除き、600μLのMACS/FACS bufferを加えて、4℃で保存した。
【0058】
(4-3)チューブ3(アイソタイプコントロールの調製)
(4-3-1)チューブ3の細胞懸濁液が50μLになるようにMACS/FACS bufferを加え、さらに5μLのラットIgGアイソタイプ抗体(PE標識ラットIgG抗体)(R&D Systems社製)を加え、暗所にて4℃で30分間静置した。
(4-3-2)5mLのMACS/FACS bufferを加えた後、1000rpmで3分間遠心した。上清を取り除き、50μLのMACS/FACS bufferに再懸濁した後、5μLのFITC標識抗ラットIgG抗体を加え、暗所にて4℃で30分間静置した。
(4-3-3)5mLのMACS/FACS bufferを加えた後、1000rpmで3分間遠心した。上清を取り除き、50μLのMACS/FACS bufferに再懸濁した後、5μLの抗FITC抗体結合マイクロビーズを加え、暗所にて4℃で30分間静置した。
(4-3-4)5mLのMACS/FACS bufferを加えた後、1000rpmで3分間遠心した。上清を取り除き、600μLのMACS/FACS bufferを加えて、4℃で保存した。
【0059】
(4-4)チューブ4(プレソートサンプルの調製)
チューブ4に600μLのMACS/FACS bufferを加えて、4℃で保存した。
【0060】
(4-5)チューブ5(ラベリングされなかった細胞の調製)
チューブ5に400μLのMACS/FACS bufferを加えて、4℃で保存した。
【0061】
(4-6)チューブ6(ラベリングされた細胞の調製)
チューブ6に600μLのMACS/FACS bufferを加えて、4℃で保存した。
【0062】
(5)FACS分析
次いで、(4)で調製したチューブ1~6のFACS分析用の各サンプルを用いて、FACS装置を用いて分析し、蛍光強度ごとの細胞数をカウントした。結果を以下の表1及び
図3A(ラベリングされた細胞のFACS解析結果のグラフ)に示す。
【0063】
(6)免疫蛍光染色
また、チューブ6の細胞懸濁液を用いて、CD34の免疫蛍光染色を行い、倒立型位相差蛍光顕微鏡(オリンパス社製、IX-71)を用いて観察した。結果を
図3Bに示す。
【0064】
【0065】
表1及び
図3Aから、CD34陽性(+)細胞の純度は、98.26%であることが分かった。
また、
図3Bから、細胞は培養皿上で接着し生存しており、細胞接着後もCD34の発現を維持していた。
以上のことから、マウス皮膚組織からCD34の発現が維持された毛包上皮幹細胞が単離できたことが確認された。
【0066】
2.毛包上皮幹細胞の培養
(1)上皮系細胞培養培地の調製
Humedia-KG2培地(KURABO社製)に、ウシ胎児血清(Fetal bovine serum:FBS)(SIGMA社製)を5mL、L-グルタミン(和光純薬工業社製)を16mg、10ng/μLの組換えマウス繊維芽細胞成長因子2(Fibroblast growth factor 2:FGF2)(R&D Systems社製)を100μL、100μg/mLの血管内皮細胞成長因子A(Vascular Endothelial Growth Factor-A:VEGF-A)(R&D Systems社製)を10μL及び1mMのY-27632(和光純薬工業社製)を275μL加え、よく攪拌した。次いで、滅菌フィルターに通して、20ng/mLのFGF2、20ng/mLのVEGF-A及び5μMのY-27632を含むHumedia-KG2培地(以下、「上皮系細胞培養培地」と称する場合がある)を調製した。
【0067】
(2)集積工程
「1.」で得られた8.0×10
4cellsの毛包上皮幹細胞を100μLの(1)で調製した上皮系細胞培養培地に懸濁して細胞懸濁液を調製した。次いで、細胞懸濁液を非接着96Uウェルプレート(住友ベークライト社製、曲率半径:4.5mm)の各ウェルに分注し、37℃で30分間以上24時間以下程度インキュベートし、重力によって細胞が培養容器の底面に沈殿し、細胞の集積体が形成されたのを確認した(
図4参照)。
【0068】
(3)混合工程
次いで、培地のみを静かに除去し、細胞の集積体の上からマトリゲル(登録商標)(なお、以下、「登録商標」との記載を省略する)(CORNING社製)を静かに加え、37℃で30分間インキュベートすることでゲルを硬化させてマトリゲルと毛包上皮幹細胞の集積体との混合物を得た。
【0069】
(4)培養工程
次いで、マトリゲルと毛包上皮幹細胞の集積体との混合物に上皮系細胞培養培地を加え、14日間培養することで、細胞の密度が毛包上皮幹細胞の再生効率の維持に有用であるかどうかを評価した。経時的な(培養1、4、7、11及び14日目の)細胞の形態変化は倒立型位相差蛍光顕微鏡(オリンパス社製、IX-71)を用いて観察した。結果を
図5に示す。
【0070】
図5から、細胞は培養1日目では密集こそしていたが、細胞同士は離れた状態でいた。しかし、培養4日目から細胞同士が接着及び凝集し始め、培養7日目にはほとんど全ての細胞が一つの凝集体を形成した。
【0071】
(5)CD34の遺伝子発現量の解析
次いで、培養14日目の細胞を回収し、CD34の遺伝子発現量をRT-PCR法により、リアルタイムPCRシステムStep OneTM(Applied Biosystems社製)及びSYBR(登録商標) Green Real-Time PCR Master Mixes(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、測定した。手順は、SYBR(登録商標) Green Real-Time PCR Master Mixesのプロトコルに従って行った。また、以下の表2に示すプライマーを用いた。結果を
図6に示す。
図6において、後述の比較例1(低密度)でのCD34の遺伝子発現量を1としたときの、実施例1(高密度)での相対的なCD34の遺伝子発現量を示している。なお、
図6に示す実施例1でのCD34の遺伝子発現量の考察は、後述する比較例1に記載する。
【0072】
【0073】
[比較例1]毛包上皮幹細胞の培養2
1.毛包上皮幹細胞の調製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、毛包上皮幹細胞を調製した。
【0074】
2.毛包上皮幹細胞の培養
(1)上皮系細胞培養培地の調製
実施例1の「2.(1)」と同様の方法を用いて、上皮系細胞培養培地を調製した。
【0075】
(2)従来法による毛包上皮幹細胞の培養
「1.」で得られた8.0×10
4cellsの毛包上皮幹細胞を20μLの(1)で調製した上皮系細胞培養培地に懸濁し、さらにマトリゲル20μLを加えて、合計40μLの細胞-ゲル混合液を調製した。次いで、細胞-ゲル混合液を24ウェルプレート(BD falcon社製)に滴下し、37℃で30分間インキュベートすることでマトリゲルを硬化させた(
図4参照)。次いで、上皮系細胞培養培地を500μL加えて、14日間培養した(以下、「従来のマトリゲル包埋培養法」と称する場合がある)。対象として、マトリゲルで包埋せずに24ウェルプレート(BD falcon社製)に毛包上皮幹細胞を播種して、同様に14日間培養した(以下、「平面培養法」と称する場合がある)。経時的な(培養1、4、7、11及び14日目の)細胞の形態変化は倒立型位相差蛍光顕微鏡(オリンパス社製、IX-71)を用いて観察した。結果を
図7A(平面培養法)及び
図7B(従来のマトリゲル包埋培養法)に示す。
【0076】
図7Bから、従来のマトリゲル包埋培養法で培養した毛包上皮幹細胞は培養1~4日目では分散しているが、培養7日目には小さな凝集体を形成し始めた。その凝集体は徐々に大きくなり、培養14日目には100~150μm程度の大きさになった。
一方、
図7A及び
図7Bから、平面培養法で培養した毛包上皮幹細胞は、従来のマトリゲル包埋培養法で培養した毛包上皮幹細胞と比較して、細胞増殖が早かった。
【0077】
(3)CD34の遺伝子発現量の解析
試料として、培養前の毛包上皮幹細胞、並びに、従来のマトリゲル包埋培養法及び平面培養法で培養した培養14日目の毛包上皮幹細胞を用いた以外は、実施例1の「2.(5)」と同様の方法を用いて、CD34の遺伝子発現量を解析した。結果を
図6及び
図8に示す。
図6において、比較例1(低密度)は、マトリゲル包埋培養法で培養した培養14日目の毛包上皮幹細胞でのCD34の遺伝子発現量を示す。また、
図8において、平面培養法で培養した培養14日目の毛包上皮幹細胞でのCD34の遺伝子発現量を1としたときの、マトリゲル包埋培養法で培養した培養14日目の毛包上皮幹細胞及び培養前の毛包上皮幹細胞の相対的なCD34の遺伝子発現量を示している。
【0078】
図8から、従来のマトリゲル包埋培養法で培養した毛包上皮幹細胞は、培養14日目でも、培養前の毛包上皮幹細胞とほぼ同様のCD34の遺伝子発現量を示すことがわかった。一方で、平面培養法で培養した毛包上皮幹細胞は、かなり毛髪再生能が低下することがわかった。
【0079】
一般に、毛包上皮幹細胞は、傷等で隣接する細胞との接触が切れると強烈な増殖スイッチが入り、表面を覆うまで増殖することで外界からの細菌侵入を防ぐことが知られている。ただし、この場合、毛包形成能を有していた細胞は単に表面を覆うための細胞へと分化する。平面培養法では、このような環境を意図せず再現していたために、毛髪再生能が低下し、従来のマトリゲル包埋培養法では、比較的温和な速度で増殖させることができたため、毛髪再生能を維持しながら培養できたと考えられる。
【0080】
また、
図6から、従来のマトリゲル包埋培養法で培養した毛包上皮幹細胞よりも、本実施形態の培養方法で培養した毛包上皮幹細胞では、CD34の遺伝子発現量がおよそ2.9倍も向上することが分かった。
以上のことから、マトリゲルを用いて、上皮幹細胞を培養する場合には、細胞を均一に分散させた状態でマトリゲルを用いるよりも、細胞を一か所に集積させた後にマトリゲルを用いて培養したほうが機能維持に有効であることが明らかとなった。
【0081】
[実施例2]酸素透過性細胞培養容器を用いた毛包上皮幹細胞の培養1
1.毛包上皮幹細胞の調製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、毛包上皮幹細胞を調製した。
【0082】
2.酸素透過性細胞培養容器の作製
図9は、酸素透過性細胞培養容器(ポリジメチルシロキサン(PDMS)スフェロイドチップ)の作製方法を示す概略工程図である。
図9を参照しながら、酸素透過性細胞培養容器の作製方法について、以下に詳細を説明する。
まず、CADソフト、V Carve Pro 6.5を用いて、作製するスフェロイド容器のパターンをコンピューターで設計した。次いで、切削機を用いて、設計したパターンどおりにオレフィン系基板を切削することで、パターンをもつ凹鋳型を作製した。この凹鋳型にエポキシ樹脂(クリスタルリジン:日新レジン社製)を流しこみ、1日硬化させた。次いで、凹鋳型を離型することで、パターンをもつ凸鋳型を形成した。次いで、形成した凸鋳型を24ウェルプレート(BD falcon社製)の底面に固定し、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を流し込み、固化した。次いで、凸鋳型を離型することで、酸素透過性細胞培養容器として、PDMSに規則的なパターンが形成されたPDMSスフェロイドチップを作製した。得られたPDMSスフェロイドチップにおいて、ウェルの深さ(
図9中の「H」)は0.5mm、ウェル開口部の直径(
図9中の「Φ」)は1.0mm、ウェル開口部の中心部から隣接するウェル開口部の中心部までの距離(
図9中の「P」)は1.5mm、曲率半径(図示せず)は0.5mmであった。
【0083】
3.毛包上皮幹細胞の培養
(1)上皮系細胞培養培地の調製
実施例1の「2.(1)」と同様の方法を用いて、上皮系細胞培養培地を調製した。
【0084】
(2)毛包上皮幹細胞の培養
細胞培養容器として、「2.」で作製した酸素透過性細胞培養容器(PDMSスフェロイドチップ)を用いた以外は、実施例1の「2.(2)~(4)」と同様の方法を用いて、毛包上皮幹細胞を14日間培養した。経時的な(培養1、4、7、11及び14日目の)細胞の形態変化は倒立型位相差蛍光顕微鏡(オリンパス社製、IX-71)を用いて観察した。結果を
図10に示す。
【0085】
図10から、毛包上皮幹細胞は培養1日目ではウェル底面に沈殿しており、培養4日目から次第に凝集しはじめ、培養7日目には一つの凝集体を形成し、培養14日目までその形状を維持していた。
【0086】
(3)CD34の遺伝子発現量の解析
試料として、上記(2)で培養した培養14日目の毛包上皮幹細胞を用いた以外は、実施例1の「2.(5)」と同様の方法を用いて、CD34の遺伝子発現量を解析した。結果を
図11に示す。
図11において、上述の比較例1(低密度)でのCD34の遺伝子発現量を1としたときの、実施例1、実施例2及び後述する比較例2での相対的なCD34の遺伝子発現量を示している。なお、
図11に示す実施例2でのCD34の遺伝子発現量の考察は、後述する比較例2に記載する。
【0087】
[比較例2]酸素透過性細胞培養容器を用いた毛包上皮幹細胞の培養2
1.毛包上皮幹細胞の調製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、毛包上皮幹細胞を調製した。
【0088】
2.酸素透過性細胞培養容器の作製
実施例2の「2.」と同様の方法を用いて、酸素透過性細胞培養容器(PDMSスフェロイドチップ)を作製した。
3.毛包上皮幹細胞の培養
(1)上皮系細胞培養培地の調製
実施例1の「2.(1)」と同様の方法を用いて、上皮系細胞培養培地を調製した。
【0089】
(2)毛包上皮幹細胞の培養
細胞培養容器として、「2.」で作製した酸素透過性細胞培養容器(PDMSスフェロイドチップ)を用いた以外は、比較例1の「2.(2)」に記載の従来のマトリゲル包埋培養法と同様の方法を用いて、毛包上皮幹細胞を14日間培養した(
図12参照)。経時的な(培養1、4、7、11及び14日目の)細胞の形態変化は倒立型位相差蛍光顕微鏡(オリンパス社製、IX-71)を用いて観察した。結果を
図13に示す。
【0090】
図13から、毛包上皮幹細胞は、培養1~4日目では分散していたが、培養7日目に小さな凝集体を形成し、培養14日目には100~150μm程度の大きさになった。
【0091】
(3)CD34の遺伝子発現量の解析
試料として、上記(2)で培養した培養14日目の毛包上皮幹細胞を用いた以外は、実施例1の「2.(5)」と同様の方法を用いて、CD34の遺伝子発現量を解析した。結果を
図11に示す。
図11において、上述の比較例1(低密度)でのCD34の遺伝子発現量を1としたときの、実施例1、実施例2及び比較例2での相対的なCD34の遺伝子発現量を示している。
【0092】
図7B及び
図13の顕微鏡像の比較から、酸素透過性細胞培養容器(PDMSスフェロイドチップ)での培養結果と、24ウェルプレートでの培養結果との差は確認できなかった。
しかしながら、
図11に示す比較例1及び比較例2でのCD34の遺伝子発現量の比較から、CD34の遺伝子発現量に大きな差が出ることが分かった。このことから、より酸素が豊富に供給される高酸素環境の方が、毛包上皮幹細胞の機能維持に有効であることが分かった。
【0093】
我々は、呼吸により酸素を取り込み、その酸素は、赤血球と人体に張り巡らされた血管によって体中を巡り細胞まで運搬される。細胞は、この酸素を消費し、ミトコンドリアのクエン酸回路と電子伝達系によって、グルコースからATPを産生する。このエネルギー効率は熱力学的に概算すると約43%となる。一方で、酸素がない嫌気環境下においては、細胞の解糖系のみが働くため、エネルギー効率は急激に減少し2%程度と概算できる。したがって、酸素がうすい状態が続けば、細胞は増殖や機能維持するためのエネルギーを得ることができなくなることが予想される。
一方、通常の培養環境下では、細胞は培地から酸素を受け取るが、その培地への酸素供給は培養上面の気液界面からのみであるため、物質収支が間に合わず酸素は培養とともに消費される。実施例2及び比較例2で用いられたPDMSスフェロイドチップは酸素透過性材料であるため、培養器全体から培地への酸素供給が可能となる。そのため、毛包上皮幹細胞を酸素透過性の高いPDMSスフェロイドチップで培養することで、培養培地への酸素供給を増加させ、細胞の増殖や機能維持に必要な十分なエネルギーを細胞が産生できるようになったのではないかと考えられる。
【0094】
また、
図11から、PDMSスフェロイドチップを用いた本実施形態の培養方法で培養した毛包上皮幹細胞(実施例2)は、従来のマトリゲル包埋培養法で培養した毛包上皮幹細胞(比較例1)よりも約4.2倍のCD34の遺伝子発現量を示した。
以上のことから、PDMSスフェロイドチップは毛包上皮幹細胞の培養に有用である可能性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本実施形態の培養方法及び培養キットによれば、毛髪再生能を維持しながら、毛包上皮幹細胞を大量に増殖させることができる。本実施形態の培養方法及び培養キットにより得られた毛包上皮幹細胞を用いて、優れた毛髪再生能を有する再生毛包原基を作製することができる。
【配列表】