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特許7078953高反応性オレフィン機能性ポリマーを作製するための重合開始系および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】高反応性オレフィン機能性ポリマーを作製するための重合開始系および方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/14 20060101AFI20220525BHJP
   C08F 10/10 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
C08F4/14
C08F10/10
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018120424
(22)【出願日】2018-06-26
(65)【公開番号】P2019007003
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】15/635,460
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514060134
【氏名又は名称】インフィニウム インターナショナル リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】505231659
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マサチューセッツ
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ディミトロフ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ジェイ.セベルト
(72)【発明者】
【氏名】トーマス スコーリス
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー ウェーバー
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブ エマート
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ ファウスト
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-074785(JP,A)
【文献】特開2016-210990(JP,A)
【文献】VASILENKO, Irina V. et al.,Cationic polymerization of isobutylene in toluene: toward well-defined exo-olefin terminated medium molecular weight polyisobutylenes under mild conditions,Polymer Chemistry,2017年,issue 8,1417-1425,ISSN: 1759-9962, DOI: 10.1039/c6py02131j
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
約5ppm~約500ppmの極性不純物を含む不純なイソブテンまたはイソブテン含有モノマー供給原料から少なくとも50モル%のエキソ-オレフィン含量を有するポリブテンの調製のための方法であって、該方法は、該不純なイソブテンまたはイソブテン含有供給原料と、ルイス塩基と複合体化したルイス酸触媒とを、実質的にまたは完全に無極性の重合媒体中で接触させる工程、および該イソブテンまたはイソブテン含有供給原料の重合を開始剤により開始させる工程を含み、該ルイス酸触媒は、式R'AlCl2(式中、R'は、ヒドロカルビル基である)のルイス酸であり、該ルイス塩基は、ジヒドロカルビルエーテル(ここで、ヒドロカルビル基はそれぞれ独立して1~8個の炭素原子を有するヒドロカルビル基から選択され、ジヒドロカルビルエーテルの1つまたは両方のヒドロカルビル基は、電子求引基で置換される)であり、該開始剤は、式RX(式中、Xはハロゲン化物(halide)であり、Rは、安定なカルボカチオンを形成し得るヒドロカルビル基であり、基Xに対して基Rを連結する炭素は、第3級、ベンジル性またはアリル性である)の化合物であり、該供給原料中の水の量は、該供給原料中の極性不純物のモル量と少なくとも等しい量から供給原料5mM未満になるように、かつ供給原料1mM以上になるように調節される、方法。
【請求項2】
約5ppm~約500ppmの極性不純物を含む不純なイソブテンまたはイソブテン含有モノマー供給原料から少なくとも50モル%のエキソ-オレフィン含量を有するポリブテンの調製のための方法であって、該方法は、該不純なイソブテンまたはイソブテン含有供給原料と、ルイス塩基と複合体化したルイス酸触媒とを、実質的にまたは完全に無極性の重合媒体中で接触させる工程、および該イソブテンまたはイソブテン含有供給原料の重合を開始剤により開始させる工程を含み、該ルイス酸触媒は、式R'AlCl2(式中、R'は、ヒドロカルビル基である)のルイス酸であり、該ルイス塩基は、ジヒドロカルビルエーテル(ここで、ヒドロカルビル基はそれぞれ独立して1~8個の炭素原子を有するヒドロカルビル基から選択され、ジヒドロカルビルエーテルの1つまたは両方のヒドロカルビル基は、電子求引基で置換される)であり、該開始剤は、式RX(式中、Xはハロゲン化物(halide)であり、Rは、安定なカルボカチオンを形成し得るヒドロカルビル基であり、基Xに対して基Rを連結する炭素は、第3級、ベンジル性またはアリル性である)の化合物であり、該供給原料中の水の量は、該供給原料中の極性不純物のモル量と少なくとも等しい量から供給原料5mM未満になるように調節され、反応率が20%~100%である、方法。
【請求項3】
R'が1~12個の炭素を有するアルキル基である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
該ルイス塩基がジヒドロカルビルエーテルであり、ここでヒドロカルビル基はそれぞれ独立して1~8個の炭素原子を有するヒドロカルビル基から選択され、ジヒドロカルビルエーテルの1つまたは両方のヒドロカルビル基は塩素原子で置換される、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
該ルイス塩基がジヒドロカルビルエーテルであり、ここでヒドロカルビル基はそれぞれ独立して1~4個の炭素原子を有するアルキル基から選択され、ジヒドロカルビルエーテルの1つまたは両方のヒドロカルビル基は塩素原子で置換される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ルイス酸およびルイス塩基が、液体無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒または液体芳香族溶媒から選択される溶媒中で複合体化される、請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
該溶媒がヘキサン、トルエンまたはキシレンである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
該無極性重合媒体が、飽和C4炭化水素、不飽和C4炭化水素およびそれらの混合物から選択される、請求項1または2記載の方法。
【請求項9】
該イソブテンまたはイソブテン含有供給原料が、モノマー的に純粋なイソブテン;約20~50%のイソブテン、5%~約50%のブテン-1、約2%~約40%のブテン-2、約2%~約60%のイソ-ブタン、約2%~約20%のn-ブタン、および約0.5%までのブタジエンを含むC4精製所(refinery)カット、ここで、全てのパーセンテージは、C4精製所カットの総質量に基づく質量による;ならびにモノマー的に純粋なイソブテンおよび該C4精製所カットの混合物から選択される、請求項1または2記載の方法。
【請求項10】
該イソブテンまたはイソブテン含有供給原料が、約5ppm~約200ppmの極性不純物を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項11】
約5ppm~約500ppmの極性不純物を含む不純なイソブテンまたはイソブテン含有モノマー供給原料から少なくとも50モル%のエキソ-オレフィン含量を有するポリブテンの調製のための方法であって、該方法は、該不純なイソブテンまたはイソブテン含有供給原料と、ルイス塩基と複合体化したルイス酸触媒とを、実質的にまたは完全に無極性の重合媒体中で接触させる工程、および該イソブテンまたはイソブテン含有供給原料の重合を開始剤により開始させる工程を含み、該ルイス酸触媒は、式R'AlCl2(式中、R'は、ヒドロカルビル基である)のルイス酸であり、該ルイス塩基は、ジヒドロカルビルエーテル(ここで、ヒドロカルビル基はそれぞれ独立して1~8個の炭素原子を有するヒドロカルビル基から選択され、ジヒドロカルビルエーテルの1つまたは両方のヒドロカルビル基は、電子求引基で置換される)であり、該開始剤は、式RX(式中、Xはハロゲン化物(halide)であり、Rは、安定なカルボカチオンを形成し得るヒドロカルビル基であり、基Xに対して基Rを連結する炭素は、第3級、ベンジル性またはアリル性である)の化合物であり、該供給原料中の水の量が、該供給原料中の極性不純物の2倍のモル量に少なくとも等しい量から供給原料5mM未満の量になるように調節される、方法。
【請求項12】
該供給原料中の水の量が、該供給原料中の極性不純物の3倍の量に少なくとも等しい量から供給原料5mM未満の量になるように調節される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
該供給原料中の水の量が、供給原料約0.05mM~5mM未満までの量になるように調節される、請求項2記載の方法。
【請求項14】
該供給原料中の水の量が、供給原料約0.2~約2mMの量になるように調節される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
該複合体が、約0.2mM~約200mMのルイス酸-ルイス塩基複合体の供給原料1リットル当たりのミリモル濃度で、該イソブテンまたはイソブテン含有供給原料と接触される、請求項1または2記載の方法。
【請求項16】
該重合プロセスが連続して実施される、請求項1または2記載の方法。
【請求項17】
該ポリブテン生成物が少なくとも70モル%のエキソ-オレフィン含量を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項18】
該ポリブテン生成物が、約400ダルトン~約4000ダルトンの数平均分子量(Mn)を有する、請求項1または2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物含有イソブチレンまたはイソブチレンを含む混合されたC4ヒドロカルビル供給原料から高反応性オレフィンポリマーを作製する方法に関し、ここで該ポリマー鎖の少なくとも50モル%は、末端二重結合を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
末端に反応性ビニリデンを有するMn=500~3000のオレフィンポリマーを生成し得るイソブチレン(IB)またはイソブチレン(IB)を含有するC4流(stream)(例えば、ラフィネート1) (HR-PIB)のカチオン性重合のための触媒系には、高い商業的価値がある。アルコールまたはエーテルとのBF3複合体に基づく触媒は、商業的に使用されているが、それらは一般的に低温および高度に精製された原料(feed)を必要とする(特許文献1)。ハロゲン化アルミニウムまたはハロゲン化アルキルアルミニウムおよびエーテルのルイス酸-ルイス塩基複合体も、ある範囲の媒体で種々の共開始剤(co-initiator)と共に開示されている。開始剤は主に、ハロゲン化アルキル、H2O、HClまたはROHである(例えば、非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
複雑な(elaborate)原料浄化(clean-up)を伴わない連続プロセスを使用して(商業的スケールアップに適した)無極性媒体中で高いモノマー反応率および高いビニリデンを得ることは困難であった(elusive)。ジクロロメタンなどの極性媒体中で良好に働く触媒は、しばしば無極性飽和炭化水素媒体中では働かない(非特許文献3)。
【0004】
近年強調される進歩の1つは、1つ以上の電子求引基を有するエーテル(例えば、ビス-2-クロロ-エチルエーテル、CEE)は、二塩化アルキルアルミニウムが、共開始剤としてのt-ブチルクロリドの存在下で高収率のHR-PIBを生じるカチオン性重合を開始することを可能にすることにおいて特に有用であったということである(特許文献2)。ルイス酸-ルイス塩基複合体が強すぎたか(高い結合エネルギー)または生じるt-ブチルオキソニウムイオンが安定すぎたかのいずれかのために、電子求引基の非存在下ではジアルキルエーテルは無極性媒体中での重合を阻害した(非特許文献4)。これは重合の速度を非常に遅くして商業的に価値のないものにした。
【0005】
適切な結合エネルギーの複合体を用いても、少量のアセトンまたはメタノールなどの極性の不純物が重合を妨げるかまたは阻害することが分かっている。例えば、わずか30ppmのアセトンは、2000ppmのEtAlCl2・CEE複合体の存在下でIBの重合を劇的に減速させる。IB重合を阻害し得る他の極性不純物としては、高級アルコール、ケトン、エーテル、アセトニトリルおよびプロピオン酸などのカルボン酸が挙げられる。多くの商業的供給原料中の極性原料不純物の総量は、5~約200ppmであり得る。
【0006】
驚くべきことに、出願人らは、少量の水の存在により、触媒としてアルキルAlCl2・CEEおよび開始剤としてハロゲン化アルキルを使用して行われる重合に対して、IBおよびIB含有原料流中に一般的に存在するある範囲の極性不純物により生じる負の効果が驚く程改善されることを見出した。本方法により、高価な原料浄化設備を用いずに、より広範な供給原料を使用し得るより低コストの方法が可能になる。水自体はIBの重合について通常共開始剤として作用し得るが(特許文献3)、反応を制御し、かつ不純な原料流を用いて妥当なモノマー反応率(monomer conversion)を得るために、共開始剤としてのハロゲン化アルキルの存在が必要である。水の量も重要である。典型的にIB重合のための共開始剤として水を使用する場合、水は一般的に5~100、例えば10~50mMの濃度で存在する(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第7,411,104号
【文献】米国特許第9,156,924号
【文献】米国特許出願公開公報2016/0333123 A1
【非特許文献】
【0008】
【文献】Macromolecules 2010, 43(13), pp 5503-5507
【文献】Polymer 2010, 51, pp 5960-5969
【文献】Macromolecules, 2012, 45, pp 3318-3325
【文献】Macromolecules, 2014, 47 (6), pp 1959-1965
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ハロゲン化アルキルの存在下では、この水の量はビニリデン末端基選択性(vinylidene end-group selectivity)の低下を引き起こし得る。一方、水が少なすぎる場合、特に水のモル濃度が原料流中の不純物の濃度よりも低い場合は、重合に対する極性不純物の阻害効果は完全には除去されない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕約5ppm~約500ppmの極性不純物を含む不純なイソブテンまたはイソブテン含有モノマー供給原料から少なくとも50モル%のエキソ-オレフィン含量を有するポリブテンの調製のための方法であって、該方法は、該不純なイソブテンまたはイソブテン含有供給原料と、ルイス塩基と複合体したルイス酸触媒とを、実質的にまたは完全に無極性の重合媒体中で接触させる工程、および該イソブテンまたはイソブテン含有供給原料の重合を開始剤により開始させる工程を含み、該ルイス酸触媒は、式R'AlCl2(式中、R'は、ヒドロカルビル基である)のルイス酸であり、該ルイス塩基は、ジヒドロカルビルエーテル(ここで、ヒドロカルビル基はそれぞれ独立して1~8個の炭素原子を有するヒドロカルビル基から選択され、ジヒドロカルビルエーテルの1つまたは両方のヒドロカルビル基は、電子求引基で置換される)であり、該開始剤は、式RX(式中、Xはハロゲン化物(halide)であり、Rは、安定なカルボカチオンを形成し得るヒドロカルビル基であり、基Xに対して基Rを連結する炭素は、第3級、ベンジル性またはアリル性である)の化合物であり、該供給原料中の水の量は、該供給原料中の極性不純物のモル量と少なくとも等しい量から供給原料1リットル当たり5mM未満になるように調節される、方法、
〔2〕R'が1~12個の炭素を有するアルキル基である、前記〔1〕記載の方法、
〔3〕該ルイス塩基がジヒドロカルビルエーテルであり、ここでヒドロカルビル基はそれぞれ独立して1~8個の炭素原子を有するヒドロカルビル基から選択され、ジヒドロカルビルエーテルの1つまたは両方のヒドロカルビル基は塩素原子で置換される、前記〔1〕記載の方法、
〔4〕該ルイス塩基がジヒドロカルビルエーテルであり、ここでヒドロカルビル基はそれぞれ独立して1~4個の炭素原子を有するアルキル基から選択され、ジヒドロカルビルエーテルの1つまたは両方のヒドロカルビル基は塩素原子で置換される、前記〔3〕記載の方法、
〔5〕ルイス酸およびルイス塩基が、液体無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒または液体芳香族溶媒から選択される溶媒中で複合体化される、前記〔1〕記載の方法、
〔6〕該溶媒がヘキサン、トルエンまたはキシレンである、前記〔5〕記載の方法、
〔7〕該無極性重合媒体が、飽和C4炭化水素、不飽和C4炭化水素およびそれらの混合物から選択される、前記〔1〕記載の方法、
〔8〕該イソブテンまたはイソブテン含有供給原料が、純粋なイソブテン;約20~50%のイソブテン、5%~約50%のブテン-1、約2%~約40%のブテン-2、約2%~約60%のイソ-ブタン、約2%~約20%のn-ブタン、および約0.5%までのブタジエンを含むC4精製所(refinery)カット、ここで、全てのパーセンテージは、C4精製所カットの総質量に基づく質量による;ならびに純粋なイソブテンおよび該C4精製所カットの混合物から選択される、前記〔1〕記載の方法、
〔9〕該イソブテンまたはイソブテン含有供給原料が、約5ppm~約200ppmの極性不純物を含む、前記〔1〕記載の方法、
〔10〕該供給原料中の水の量が、該供給原料中の極性不純物の2倍のモル量に少なくとも等しい量から供給原料1リットル当たり5mM未満の量になるように調節される、前記〔1〕記載の方法、
〔11〕該供給原料中の水の量が、該供給原料中の極性不純物の3倍の量に少なくとも等しい量から供給原料1リットル当たり5mM未満の量になるように調節される、前記〔10〕記載の方法、
〔12〕該供給原料中の水の量が、供給原料1リットル当たり約0.05mM~5mM未満までの量になるように調節される、前記〔1〕記載の方法、
〔13〕該供給原料中の水の量が、供給原料1リットル当たり約0.2~約2mMの量になるように調節される、前記〔12〕記載の方法、
〔14〕該複合体が、供給原料1リットル当たり、約0.2mM~約200mMのルイス酸-ルイス塩基複合体のミリモル濃度で、該イソブテンまたはイソブテン含有供給原料と接触される、前記〔1〕記載の方法、
〔15〕該重合プロセスが連続して実施される、前記〔1〕記載の方法、
〔16〕該ポリブテン生成物が少なくとも70モル%のエキソ-オレフィン含量を有する、前記〔1〕記載の方法、
〔17〕該ポリブテン生成物が、約400ダルトン~約4000ダルトンの数平均分子量(Mn)を有する、前記〔1〕記載の方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、高反応性オレフィン機能性ポリマーを作製するための重合開始系および方法が提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の実施に有用なルイス酸としては、式R'AlCl2(式中、R'は、ヒドロカルビル基、好ましくは1~12個の炭素原子を有するヒドロカルビル基、より好ましくは1~12個の炭素を有するアルキル基である)のルイス酸が挙げられる。本明細書で使用する場合、用語「ヒドロカルビル」は、水素および炭素原子を含み、かつ炭素原子を介して化合物の残部に直接結合する化合物の化学基を意味する。該基は、炭素および水素以外の1つ以上の原子(「ヘテロ原子」)を含み得、ただし、該ヘテロ原子は、該基の本質的なヒドロカルビルの性質に影響を及ぼさない。
【0013】
有用なルイス塩基はジヒドロカルビルエーテルであり、ここでヒドロカルビル基はそれぞれ独立して1~8個の炭素原子を有するヒドロカルビル基から選択される。該エーテルのヒドロカルビル基は、分岐鎖、直鎖または環状であり得る。該エーテルのヒドロカルビル基が分岐鎖または直鎖である場合、該ヒドロカルビル基は、好ましくはアルキル基、より好ましくは1~4個の炭素原子を有するアルキル基である。該ジヒドロカルビルエーテルの1つまたは両方のヒドロカルビル基は、電子求引基、特にハロゲン原子、好ましくは塩素原子で置換される。
【0014】
該ルイス酸およびルイス塩基は、例えばルイス酸を、液体無極性非ハロゲン化脂肪族および液体芳香族、例えばベンゼン、クロロベンゼン、トルエンおよびキシレンから選択される溶媒に溶解して溶液を形成し、次いで、該溶液を撹拌しながら該溶液にルイス塩基を添加することにより複合体化され得る。該複合体は、該溶媒と共に重合媒体に添加され得、代替的に、該溶媒は、該複合体の重合媒体への添加前に除去され得る。好ましくは、該溶媒は非ハロゲン化脂肪族または芳香族の溶媒であり、より好ましくはキシレンまたはトルエンであり、最も好ましくはトルエンである。ルイス酸およびルイス塩基がキシレンまたはトルエン中で複合体化される場合、該ルイス塩基をキシレンまたはトルエン溶媒中に溶解して溶液を形成し、次いで該ルイス塩基溶液を撹拌しながらルイス塩基溶液にルイス酸を添加することが好ましい。
【0015】
複合体中のルイス酸 対 ルイス塩基のモル比は、典型的に、約1:1~約1:8、好ましくは約1:1~約1:6、より好ましくは約1:1~約1:3、例えば約1:1~約1:2(例えば約1:1.5)の範囲内に維持される。
【0016】
「開始剤」は、外来性の水の存在下または非存在下およびプロトントラップの存在下で重合を開始し得る化合物として定義される。本発明の開始剤(RX)は、ヒドロカルビルR基、好ましくはアルキルまたはアリール-アルキル基およびX基を含み、ここで、Xに対して基Rを連結する炭素(carbon linking group R to X)は、第三級(tertiary)、ベンジル性(benzylic)またはアリル性(allylic)、好ましくは第三級であり、ヒドロカルビル基は、安定なカルボカチオン(例えば、t-ブチル+)を形成し得、X基はハロゲン化物(halide)、好ましくは塩素である。
【0017】
重合媒体は、飽和および不飽和のC4炭化水素の混合物などの、実質的または完全に無極性の重合媒体でなければならない。
【0018】
本発明の重合方法において、供給原料は、純粋なイソブチレンまたは例えばナフサの熱クラッキング操作または触媒クラッキング操作により生じるC4カット(cut)などのイソブチレンを含有する混合C4ヒドロカルビル供給原料であり得る。したがって、適切な供給原料は、典型的には、原料の総質量に対して少なくとも10質量%および100質量%(例えば20~50%)までのイソブチレンを含む。イソブチレンに加えて、工業的に重要な供給原料としての使用に適した従来のC4カットは、典型的に、約5%~約50%のブテン-1、約2%~約40%のブテン-2、約2%~約60%のイソ-ブタン、約2%~約20%のn-ブタン、および約0.5%までのブタジエン(全てのパーセンテージは総原料質量に対する質量による)を含む。イソブチレンを含む供給原料はまた、少量、例えば典型的に10%未満、好ましくは約5%未満、最も好ましくは1%未満のプロパジエン、プロピレンおよびC5オレフィンなどの他の非-C4重合性オレフィンモノマーを含み得る。本発明によると、供給原料は、極性不純物を除去するために精製されず、5ppm以上、例えば約5~500ppmまたは約5~約200ppmという総量のアセトン、メタノール、アセトニトリル、プロピオン酸などの極性原料不純物を含む。
【0019】
用語「ポリブテン」は、本明細書で使用する場合、イソブチレンのホモポリマーだけでなく、イソブチレンと従来のC4カットの1つ以上の他のC4重合性モノマーおよび5個の炭素原子を含む非-C4エチレン性不飽和オレフィンモノマーとのコポリマーも含むことを意図し、ただしかかるコポリマーは、典型的に、ポリマーの数平均分子量(
【化1】
)に対して、少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも65質量%、最も好ましくは少なくとも80質量%のイソブチレン単位を含む。
【0020】
本発明の方法に使用されるルイス酸-ルイス塩基複合体の量は、ポリブテンポリマー生成物の標的
【化2】
、ブテンの反応率(conversion)およびポリブテンの収率を達成するために、開始剤およびモノマーの濃度、反応時間ならびに温度と共に調節され得る。上述のことを考慮すると、ルイス酸-ルイス塩基複合体は典型的に、液相反応混合物中のブテンモノマーと接触するのに十分な、供給原料1リットル当たり、約0.2mM~約200mM、例えば約1mM~約200mM、好ましくは約5mM~約100mM、より好ましくは約10mM~約50mM、例えば約10mM~約30mMの反応混合物1リットル当たりのルイス酸-ルイス塩基複合体のミリモル濃度の量で使用される。
【0021】
開始剤は典型的に、液相反応混合物中のブテンモノマーと接触するのに十分な、供給原料1リットル当たり、約1mM~約200mM、好ましくは約5mM~約100mM、より好ましくは約10mM~約50mM、例えば約10mM~約30mMの媒体1リットル当たりの開始剤のミリモル濃度かつルイス酸-ルイス塩基複合体の量とは独立した量で使用される。
【0022】
水は、該方法の種々の段階で添加され得る。水は、触媒、開始剤またはモノマー自体と共に添加され得る。少量のトルエンなどの芳香族溶媒の存在は、全ての脂肪族媒体と比べての芳香族媒体中の水の溶解度の増加のために、水の添加を容易にし得る。しかしながら多すぎるトルエンは、望ましくない副反応を生じ得る。最終的な媒体中のトルエンの総量は、好ましくは0~約20%、より好ましくは0~約15%、例えば0~約10%である。反応前の原料を乾燥するための分子ふるいまたはCaCl2を含むガード床(guard bed)は、適切な水の量が反応に添加されることを確実にするために有用であり得る。供給原料中に存在する/供給原料に添加される水のモル濃度は、供給原料中の極性不純物の総モル濃度と少なくとも等しく、より好ましくは供給原料中の極性不純物のモル濃度の少なくとも2倍、例えば少なくとも3倍、約10倍まで、例えば約8倍までであるべきである。供給原料中に存在する/供給原料に添加される水のモル組成は、ビニリデン末端基選択性の低下を引き起こすモル濃度未満、例えば10mM未満、好ましくは5mM未満であるべきである。より具体的には、極性不純物の総量を約5~200ppmと仮定すると、供給原料中に存在する/供給原料に添加される水の量は、供給原料1リットル当たり、好ましくは約0.05mM~5mM未満、好ましくは約0.1mM~約3mM、より好ましくは約0.2~約2mM、例えば約0.3mM~約1mMである。
【0023】
重合反応は、バッチまたは連続プロセスとして実施され得る。工業スケールでは、重合反応は、好ましくは連続的に実施される。連続プロセスは、管形反応器、管束反応器(tube-bundle reactor)もしくはループ反応器、または反応材料が連続して循環する管形反応器もしくは管束反応器、あるいは撹拌タンク反応器(好ましくはガラス、炭素鋼またはモネル(Monel))中で実施され得る。
【0024】
環または分岐の形成とは異なって、直線状または鎖状の重合を誘導するための重合反応は液相中で実施される。したがって、周囲温度下で気体である原料を使用する場合、液相中に原料を維持するために、反応圧を調節することおよび/または原料を不活性溶媒もしくは液体希釈剤中に溶解することが好ましい。原料を含む典型的なC4カットは、圧力下で液体であり、溶媒または希釈剤を必要としない。該方法による使用に適した典型的な希釈剤としては、プロパン、ブタン、ペンタンおよびイソブタンなどのC3~C6アルカンが挙げられる。
【0025】
典型的に、ルイス酸-ルイス塩基複合体は、部分的または完全に溶媒に溶解した液体として、または固体として反応器に導入される。好ましくは、重合は、反応温度でC4原料を液体状態に維持するのに十分な圧力でまたはより高い圧力で実施される。開始剤は、ルイス酸-ルイス塩基複合体と共に、液体形態で、モノマー原料もしくは反応混合物に導入され得るか、または好ましくは、ルイス酸-ルイス塩基複合体添加ラインとは別のラインにより、液体形態でモノマー原料もしくは反応混合物に導入される。
【0026】
液相反応混合物温度は、冷却コストおよび望ましくない副反応を最小化するために、典型的に、約-30℃~約+50℃、好ましくは約-10℃~約+30℃、より好ましくは約-5℃~約+20℃、例えば約0℃~約+15℃となるように、従来の手段により調節される。
【0027】
反応器中の触媒の均一な分配を確実にするために、混合により、またはバッフルプレートもしくは振動バッフルなどの適切なバッフルを用いて、または反応器管の断面を、適切な流速が確立されるような大きさにすることにより、反応器内容物の乱流(レイノルズ数>100、好ましくは>1000)を発生し得る。
【0028】
重合されるブテンの定常状態滞留時間は、約1~約300分、例えば2~約120分、好ましくは約4~約60分または約5~約45分(例えば約6~約30分)であり得る。
【0029】
典型的に、本発明の方法は、約20%~約100%まで、好ましくは約50%~約100%、より好ましくは約70%~約100%、例えば80%~100%、90%~100%または95%~100%の範囲のイソブチレン反応率を達成する様式で実施される。温度調節および触媒供給速度の併用により、約400ダルトン~約4000ダルトン、好ましくは約700ダルトン~約3000ダルトン、より好ましくは約1000ダルトン~約2500ダルトンの
【化3】
;典型的には約1.1~約4.0、好ましくは約1.5~約3.0の分子量分布(MWD)、ポリマーの総モルに対して、50モル%より高い、好ましくは60モル%より高い、より好ましくは70モル%より高い、例えば約80モル%~約95モル%のエキソ-オレフィン含量;約20モル%より低い、例えば約15モル%より低い、好ましくは約10モル%より低い、より好ましくは約5モル%より低い四置換オレフィン含量;および約10モル%より低い、例えば約5モル%より低い、好ましくは約2モル%より低い、より好ましくは約1モル%より低い塩素含量を有するポリブテンの形成が可能になる。
【0030】
ポリマーの標的分子量が達成されると、ポリマー生成物は反応器から排出され得、重合触媒を不活性化して重合を終結する媒体に通され得る。適切な不活性化媒体としては、水、アミン、アルコールおよび苛性化物(caustics)が挙げられる。次いで、ポリイソブチレン生成物は、残存C4炭化水素および低分子量オリゴマーの留去により分離され得る。好ましくは、残存量の触媒は、通常、水または苛性化物を使用した洗浄により除去される。
【0031】
(性能、環境的な影響およびコストの観点から)商業的に好ましい一態様において、ルイス酸はR'AlCl2 (式中、R'は、C1~C4ヒドロカルビルである)であり、具体的にMeAlCl2、EtAlCl2(EADC)、イソ-BuAlCl2またはn-BuAlCl2であり、ルイス塩基は、塩素化ジヒドロカルビルエーテル(CEE)であり、溶媒はISOPARまたはトルエンであり、複合体は、ルイス塩基を溶媒中に溶解して溶液を形成し、次いで、複合体中のルイス酸 対 ルイス塩基のモル比が約1:1~約1:1.5になるような量で、ルイス酸をルイス塩基溶液に添加することにより形成される。
【0032】
本発明は、本発明の範囲内にある全ての可能な態様を列挙することを意図せず、かつそのように解釈されるべきでない以下の実施例についての参照により、さらに理解されよう。
【実施例
【0033】
実施例
実施例1 (バッチ重合反応)
EADC・CEE複合体を、IBの重合の直前に調製した。グローブボックス中で、必要量のエーテルをヘキサン中のEADCに添加して撹拌し、ルイス酸/エーテル複合体を形成し、次いで必要量のヘキサンを添加して、完全に溶解性の0.1M複合体を作製した。MBraunグローブボックス(MBraun, Inc. Stratham, NH)中、乾燥N2雰囲気下で重合を行った。典型的に、必要量のヘキサンを、重合反応器であるスクリュートップ培養チューブ(75mL)に-30℃で入れた。次いで、開始剤(t-BuCl)を反応器に添加した。IBを凝縮して、t-BuClおよびヘキサンを含む重合反応器に分配させた。EADC・CEE複合体を重合温度で反応器に添加して重合を開始させ、水酸化アンモニウム(NH4OH)またはメタノールのいずれかにより終了させた。得られたポリマーをMacromolecules, 2014, 47 (6), pp 1959-1965に記載されるように分析した。
【0034】
実施例2 (連続重合プロセス)
EADC・CEE複合体をグローブボックス中で調製した。必要量のエーテルをヘキサン/トルエン中のEADCに添加して撹拌し、可溶性ルイス酸/エーテル複合体を形成した。最終触媒溶液中のEADCの濃度は7重量%であった。水で前もって飽和したトルエン中のt-BuCl(開始剤)の溶液も、1.2重量%の濃度でグローブボックス中で調製した。モノマー溶液は、シクロヘキサン中で42重量%のイソブチレンを含んだ。
【0035】
該モノマー溶液を、活性アルミナ乾燥カラムに通し、連続的に開始剤溶液と前もって混合し、連続撹拌槽反応器(Continuously Stirred Tank Reactor) (CSTR)中に触媒複合体溶液と一緒に注入した。1000rpmで作動する回転インペラーにより反応器中での混合を提供した。CSTRを冷却槽に浸して温度を調節した。反応器中の圧力を50psigに維持して反応溶液を液体状態に保った。反応器流出液(effluent)と、80重量%イソプロパノールおよび20重量%水の組成のイソプロパノールおよび水の混合物を混合することにより、反応混合物を連続してクエンチした。反応器の前後のイソブチレン組成を比較してガスクロマトグラフィーによりモノマー反応率を算出し、得られたポリマーを実施例1と同様に分析した。
【0036】
開始剤溶液を調製するために水で飽和したトルエンを、反応混合物中0.18重量%のEADC濃度を、2の[CEE]/[EADC]モル比を、1の[t-BuCl]/[EADC]モル比および4℃の反応温度を使用して、84%のイソブチレン反応率を20分の平均滞留時間で維持し、得られたポリマーは86%のエキソ含量および2300のMnを有した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
本発明を説明するために特定の代表的な態様および詳細を提供してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示されるものからの種々の物および方法の変更がなされ得ることは、当業者には明らかであろう。添付の特許請求の範囲は、本発明の範囲を規定する。
【0042】
全ての引用される特許、試験手順、優先権書類および他の引用される書類は、参照による援用が許容される全ての支配圏について、これらの資料が本明細書と一致する程度にまで参照により完全に援用される。
【0043】
本発明の特定の特徴は、一連の数値上限および一連の数値下限によって記載される。本明細書には、これらの限度の任意の組み合わせで形成される全ての範囲が開示される。本明細書に記載される上限および下限、ならびに範囲および比の限度は、独立して組み合され得ること、およびこれらの限度の全ての組み合わせは、そうではないと示されなければ本発明の範囲内にあることが理解されよう。