(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】側孔が開閉自由な気管切開チューブ
(51)【国際特許分類】
A61M 16/04 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
A61M16/04 Z
(21)【出願番号】P 2018550206
(86)(22)【出願日】2017-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2017040056
(87)【国際公開番号】W WO2018088385
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2016218317
(32)【優先日】2016-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516335094
【氏名又は名称】梅▲崎▼ 俊郎
(73)【特許権者】
【識別番号】591071104
【氏名又は名称】株式会社高研
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】梅▲崎▼ 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智之
(72)【発明者】
【氏名】須田 雅俊
【審査官】関本 達基
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04037605(US,A)
【文献】国際公開第2016/038323(WO,A1)
【文献】特開2007-050020(JP,A)
【文献】特開2006-130015(JP,A)
【文献】特表2011-500211(JP,A)
【文献】特開2000-033121(JP,A)
【文献】特開2001-079090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む気管切開チューブセット。
(1)先端部と基端部を有し湾曲形状を有する気管切開チューブであって、
該気管切開チューブの壁において、側孔が設けられており、該側孔により該気管切開チューブの内腔が外方と連通しており、
該気管切開チューブの壁において、該気管切開チューブの基端部から気管切開チューブの湾曲形状に沿ってかつ該側孔を交差して該先端部方向に伸長するシャッター用ルーメンが設けられており、
シャッターを該シャッター用ルーメンに出し入れすることにより該側孔が開閉自由であること並びに内筒を含まないことを特徴とする、気管切開チューブ、並びに、
(2)
シャッター付人工呼吸器接続用コネクタ
【請求項2】
前記シャッターは、前記シャッター用ルーメンに挿入されている間は、前記側孔が開くことができないことを特徴とする、請求項1に記載の気管切開チューブセット。
【請求項3】
前記シャッター用ルーメンの遠位端は、前記気管切開チューブの壁を通過しないことを特徴とする、請求項1に記載の気管切開チューブセット。
【請求項4】
前記シャッターは、前記シャッター用ルーメンに挿入されている間は、前記側孔が開くことができず、並びに、前記シャッター用ルーメンの遠位端は、前記気管切開チューブの壁を通過しないことを特徴とする、請求項1に記載の気管切開チューブセット。
【請求項5】
さらに、一方向弁を有し、スピーチ用気管切開チューブセットである、請求項1に記載の気管切開チューブセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側孔が開閉自由、特に発声のための側孔が開閉自由な気管切開チューブ及び該気管切開チューブを含む気管切開チューブセットに関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2016-218317号優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
(従来の側孔を有する気管切開チューブ)
上気道(鼻腔、口腔、声門等)に何らかの狭窄がある患者や頻回に気管内の痰の吸引が必要な患者に対して、手術にて前頸部に気管切開口を形成し、この気管切開口から気管に気管切開チューブを挿入して留置することが行われる。
気管切開を行いそして気管切開チューブを留置した患者の呼吸は、上気道を経由せず、気管切開チューブを通して前頸部から行われるため、発声はできなくなる。しかし、発声できない患者は非常な不便を強いられるため、発声ができるように工夫された気管切開チューブが存在する。例えば、呼気を上気道に通すためにチューブ部分の背面側に側孔を設けた気管切開チューブが使われることがある。また、さらに呼気を確実に上気道に通すための発声用弁(バルブ)を気管切開チューブの基端に接続する場合もある。これにより、呼気は気管切開チューブの基端に漏れることなく、全量が側孔を通って上気道に抜けるため、しっかりとした声が出しやすくなる(参照:非特許文献1)。
【0003】
側孔は、発声には必要である。一方、気管切開チューブの内腔から気管内に吸引チューブを入れる際に、側孔から吸引チューブ先端が飛び出てしまう、誤嚥した唾液が側孔から気管切開チューブの内腔に入り込み、肺に達して誤嚥性肺炎になりやすい、肉芽が側孔に入り込んでしまい気管切開チューブが抜けなくなってしまう等の可能性がある。
すなわち、側孔は発声する際には必要であるが、そうでないときには不要である。
この問題を解決する方法として、気管切開チューブの内腔に専用の内筒を差し込むことで側孔を閉じ、内筒を抜くことで側孔を開く方式の気管切開チューブが存在する。しかし、この方法は、内筒を入れた際に、気管切開チューブ内腔がその分狭くなってしまい、換気機能の弱い患者には用いにくいという欠点があった(参照:非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「気管カニューレの種類とその使い分け」第8版(2014年8月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、気管切開チューブの内腔を実質的に狭くすることなく、側孔が開閉自由な気管切開チューブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、以下の2つの構成の気管切開チューブ(A)、(B)は、シャッターを使用することにより、気管切開チューブの内腔を実質的に狭くすることなく、側孔の開閉が自由であることを確認し、本発明を完成するに至った。
以下の構成を有する気管切開チューブ(A)。
先端部と基端部を有し湾曲形状を有する気管切開チューブであって、
該気管切開チューブの壁において、側孔が設けられており、該側孔により該気管切開チューブの内腔が外方と連通しており、
該気管切開チューブの壁において、該気管切開チューブの基端部から気管切開チューブの湾曲形状に沿ってかつ該側孔を交差して該先端部方向に伸長するシャッター用ルーメンが設けられており、
シャッターを該シャッター用ルーメンに出し入れすることにより該側孔が開閉自由であることを特徴とする。
以下の構成を有する気管切開チューブ(B)。
先端部と基端部を有し湾曲形状を有する気管切開チューブであって、
該気管切開チューブの壁において、側孔が設けられており、該側孔により該気管切開チューブの内腔が外方と連通しており、
シャッターを該内腔に出し入れすることにより該側孔が開閉自由であることを特徴とする。
【0007】
すなわち、本発明は以下からなる。
1.先端部と基端部を有し湾曲形状を有する気管切開チューブであって、
該気管切開チューブの壁において、側孔が設けられており、該側孔により該気管切開チューブの内腔が外方と連通しており、
該気管切開チューブの壁において、該気管切開チューブの基端部から気管切開チューブの湾曲形状に沿ってかつ該側孔を交差して該先端部方向に伸長するシャッター用ルーメンが設けられており、
シャッターを該シャッター用ルーメンに出し入れすることにより該側孔が開閉自由であることを特徴とする、
又は、
先端部と基端部を有し湾曲形状を有する気管切開チューブであって、
該気管切開チューブの壁において、側孔が設けられており、該側孔により該気管切開チューブの内腔が外方と連通しており、
シャッターを該内腔に出し入れすることにより該側孔が開閉自由であることを特徴とする、
気管切開チューブ。
2.以下を含む気管切開チューブセット。
(1)前項1に記載の気管切開チューブ
(2)シャッター付コネクタ
3.さらに、一方向弁を有し、スピーチ用気管切開チューブセットである、請求項2に記載の気管切開チューブセット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の気管切開チューブ及び該気管切開チューブを含む気管切開チューブセットは、気管切開チューブの内腔を実質的に狭くすることなく、以下の効果を有する。
(1)側孔を開くことで、発声することができる。
(2)側孔を閉めることで、吸引チューブは側孔から飛び出すことなく正しく挿入することができる。
(3)側孔を閉めることで、肉芽が側孔に入り込んでしまうのを防止することができる。
(4)側孔を閉めることで、人工呼吸器との接続時に、人工呼吸器からの送気が上気道に漏れるのを防ぐことができる。
(5)カフ付き気管切開チューブにおいて、側孔を閉めることで、誤嚥した唾液が側孔から気管切開チューブの内腔に入り込み、肺に達するのを防ぐことができる。
(6)従来の気管切開チューブとは異なり、内筒を使用しないので、内筒を再度装着するときに外筒内部に貯留した分泌物を気管内にこそぎ落とす恐れがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(1)気管切開チューブ(A)の全体断面図(側面図)、(2)気管切開チューブ(A)を含む気管切開チューブセットの背面図。
【
図2】(1)気管切開チューブ(B)の全体断面図(側面図)、(2)気管切開チューブ(B)を含む気管切開チューブセットの背面図。
【
図3】(1)シャッター付コネクタ16の上面図、(2)シャッター付コネクタ16の断面図(側面図)。
【
図4】(1)側孔7をシャッター8で閉じた状態の気管切開チューブ(A)、(2)側孔7をシャッター8で閉じた状態の気管切開チューブ(B)
【
図5】(1)弁13を接続する前の気管切開チューブ(A)、(2)弁13を接続した後の気管切開チューブ(A)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明の対象)
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、何ら請求項の範囲を限定するものではない。本発明の気管切開チューブは、以下の気管切開チューブ(A)又は(B)の構成を有する。
(A)以下の構成を有する気管切開チューブ1、
先端部2と基端部3を有し湾曲形状4を有する気管切開チューブ1であって、
気管切開チューブの壁5において、側孔7が設けられており、側孔7により気管切開チューブの内腔9が外方と連通しており、
気管切開チューブの壁5において、気管切開チューブ1の基端部3から気管切開チューブ1の湾曲形状4に沿ってかつ側孔7を交差して先端部2方向に伸長するシャッター用ルーメン6が設けられており、
シャッター8をシャッター用ルーメン6に出し入れすることにより側孔7が開閉自由であることを特徴とする。
(B)以下の構成を有する気管切開チューブ1、
先端部2と基端部3を有し湾曲形状4を有する気管切開チューブ1であって、
気管切開チューブの壁5において、側孔7が設けられており、側孔7により気管切開チューブの内腔9が外方と連通しており、
シャッター8を気管切開チューブの内腔9に出し入れすることにより側孔7が開閉自由であることを特徴とする。
【0011】
{気管切開チューブ(A)}
本発明の気管切開チューブ(A)は、
図1(1)に示すように、先端部2と基端部3を有し湾曲形状4を有する。気管切開チューブ(A)の背面側10の壁5には、側孔7が設けられており、側孔7により気管切開チューブの内腔9が外方(気管切開チューブ1の外側)と連通している。側孔7の位置は、特に限定されないが、湾曲形状4又はその付近に設置することが好ましい。また、気管切開チューブ(A)の背面側10の壁5には、気管切開チューブ1の基端部3から気管切開チューブ1の湾曲形状4に沿ってかつ側孔7を交差(実質的に直角に交差)して先端部2方向に伸長するシャッター用ルーメン6が設けられている。シャッター用ルーメン6の先端は、気管切開チューブの壁5を貫通していない。なお、側孔7の存在により、呼気を上気道に通すことができる。
気管切開チューブ1の材質は、自体公知の気管切開チューブと同様にポリ塩化ビニルやポリウレタン、シリコーンゴム等が用いられる。
【0012】
側孔7に関し、形状は特に限定されないが、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形等を例示することができる。幅は、気管切開チューブ1の径にもよるが、概ね1~10mm程度である。側孔7は、必ずしも1つではなく、複数個に分割されていてもよい。
シャッター用ルーメン6に関し、基端部3側から気管切開チューブの壁5内に側孔7と交差して空洞を形成していれば特に限定されないが、例えば、断面が長方形状の穴を例示することができる。幅は、少なくとも側孔7の幅と同じ又はそれ以上に広く、例えば、側孔7の幅よりも1~3mm大きい幅のシャッター8が通ることができることが好ましい。
【0013】
{気管切開チューブ(B)}
本発明の気管切開チューブ(B)は、
図2(1)に示すように、先端部2と基端部3を有し湾曲形状4を有する。また、気管切開チューブ(B)の背面側10の壁5には、側孔7が設けられており、側孔7により気管切開チューブの内腔9が外方と連通している。なお、側孔7の存在により、呼気を上気道に通すことができる。側孔7の位置は、特に限定されないが、湾曲形状4の付近に設置することが好ましい。
【0014】
(シャッター8)
気管切開チューブ(A)に出し入れするシャッター8は、シャッター用ルーメン6に出し入れできかつ側孔7の開閉ができれば形状、幅、厚さは特に限定されない。
気管切開チューブ(B)に出し入れするシャッター8は、気管切開チューブの内腔9に出し入れできかつ側孔7の開閉ができれば形状、幅、厚さは特に限定されない。
例えば、シャッター8は、弾性のある長方形の板形状であり、気管切開チューブ1の湾曲形状4に合わせた湾曲が設けられていても良い。また、シャッター8の先端(先端部2側)は、シャッター用ルーメン6に入れやすいように、角を落とす、あるいは角を丸めてあっても良い。
シャッター8の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ナイロン、ポリアレート、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、その他のプラスチック、金属等が用いられる。
【0015】
(シャッター付コネクタ16)
シャッター付コネクタ16は、少なくともシャッター8及びコネクタ14で構成されている(参照:
図3)。コネクタ14は、自体公知の市販のコネクタ(参照:非特許文献1)を採用することができる。さらに、シャッター付コネクタの気管切開チューブ用固定部17を有してもよい。
シャッター付コネクタの気管切開チューブ用固定部17は、シャッター8が不用意に抜け落ちない又は気管切開チューブ1からの離脱を防ぐために、気管切開チューブ1の弁・コネクタ用固定部15と結合、嵌合、連結、係止、ネジ(オスネジ、メスネジ)の関係であっても良い。
【0016】
(弁13)
弁13は、自体公知の市販の弁(参照:非特許文献1)を採用することができる。弁の気管切開チューブ用固定部18は、気管切開チューブ1からの離脱を防ぐために、気管切開チューブ1の弁・コネクタ用固定部15と結合、嵌合、連結、係止、ネジ(オスネジ、メスネジ)の関係であっても良い。
弁13は、一方向弁であれば、発声用弁とすることができる。一方向弁(発声用弁)は、吸気時は弁が開き、呼気時には弁が閉じる構造である。
【0017】
(気管切開チューブセット)
気管切開チューブセットは、少なくとも気管切開チューブ1、シャッター付コネクタ16を含み、さらに必要に応じて以下を含む。
○ネックプレート(フレーム)12:気管切開チューブ1の基端部3の付近にはチューブの軸と直交するようにネックプレート12が設けられていても良い。ネックプレート12の両端に開けられている穴にヒモを通して頸部に回すことで、気管切開口に留置した気管切開チューブ1が不用意に抜けないよう固定できる。
○カフ:気管切開チューブ1の先端部2付近にカフが設けられていても良い。カフは空気で膨らませることができるバルーンであり、カフを膨らませることで気管と気管切開チューブ1の隙間を塞ぐことができる。これにより、人工呼吸器と接続した際に、人工呼吸器から送られた空気が、気管と気管切開チューブ1の隙間から上気道に漏れることを防ぐことができる。
なお、カフを設けた場合には、カフを膨らませるための通気ルーメンを気管切開チューブ1壁部分にチューブの軸方向に沿って設け、外部から空気の出し入れができるようにする必要がある。
○カフを膨らませるチューブ
○吸引チューブ:カフが設けられている場合、カフ上に貯留した唾液などを吸引するためのチューブ
【0018】
(スピーチ用気管切開チューブセット)
スピーチ用気管切開チューブセットは、少なくとも気管切開チューブ1、シャッター付コネクタ16、一方向弁である弁13を含む。
【0019】
(気管切開チューブ1の使用態様)
患者が発声する必要のない時は、シャッター8をシャッター用ルーメン6に挿入し、側孔7を閉じておく(塞いでおく){
図4(1)、(2)}。側孔7が閉じることで、吸引チューブは側孔7から飛び出すことなく正しく挿入され、肉芽が側孔7に入り込んでしまうのを防止する。また、発声しないときには、人工呼吸器や人工鼻(加湿用のフィルター)を接続することがあるので、シャッター付コネクタ16のコネクタ14(例えば、JIS規格で設定)を介して接続できる。人工呼吸器を気管切開チューブ1に接続する場合には、シャッター8をシャッター用ルーメン6に挿入して側孔7を閉じることで上気道への空気漏れを防ぐことができる。
患者が発声する必要がある時は、シャッター8をシャッター用ルーメンから抜き取り、代わりに一方向弁である弁13を気管切開チューブ1に接続する(装着する){
図5(1)(2)}。
【産業上の利用可能性】
【0020】
気管切開チューブの内腔を実質的に狭くすることなく、側孔が開閉自由な気管切開チューブを提供することができる。
【符号の説明】
【0021】
1.気管切開チューブ
2.先端部
3.基端部
4.湾曲形状
5.気管切開チューブの壁
6.シャッター用ルーメン
7.側孔
8.シャッター
9.気管切開チューブの内腔
10.背面側
11.腹面側
12.ネックプレート
13.弁
14.コネクタ
15.弁・コネクタ用固定部
16.シャッター付コネクタ
17.シャッター付コネクタの気管切開チューブ用固定部
18.弁の気管切開チューブ用固定部