(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】ペースト印刷用孔版
(51)【国際特許分類】
B41N 1/24 20060101AFI20220525BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
B41N1/24
H05K3/12 610P
(21)【出願番号】P 2018215922
(22)【出願日】2018-11-16
【審査請求日】2021-11-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592173412
【氏名又は名称】株式会社プロセス・ラボ・ミクロン
(72)【発明者】
【氏名】溝尾 数雅
(72)【発明者】
【氏名】千葉 秀貴
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-081027(JP,A)
【文献】特開2001-301352(JP,A)
【文献】実開平05-035339(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0024225(US,A1)
【文献】登録実用新案第3148423(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/24
H05K 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口内部のペーストが凝集破壊を起こしてワーク上に所定の印刷パターンでペーストを印刷するための孔版であって、
厚さが略均一な樹脂製の矩形の平板と、
前記平板の面内に、前記印刷パターンに対応して形成された開口を備え、
前記樹脂は、平滑表面の液滴接触角が表面張力73mN/mの液について90°以下であり、表面張力50mN/mの液について80°以下であ
り、
前記平板の厚さは1~5mmである、
ことを特徴とする、ペースト印刷用孔版。
【請求項2】
前記樹脂は、曲げ弾性率が3GPa以下である、
ことを特徴とする、請求項1に記載のペースト印刷用孔版。
【請求項3】
前記樹脂は、荷重たわみ温度が70℃以上である、
ことを特徴とする、請求項1または2のいずれか1項に記載のペースト印刷用孔版。
【請求項4】
前記樹脂は、ポリエチレン、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、4弗化エチレン樹脂、ポリプロピレンの何れか1種類から選ばれる、
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のペースト印刷用孔版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷に使用されるペースト印刷用孔版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷において、導電性ペーストや塗料、接着剤などの粘性流体(ペースト)を印刷するために、孔版が使用されている。
【0003】
ペースト印刷用孔版は、印刷目的や印刷物により、大きく2つの異なる印刷形態を有する。第一に、ペースト印刷用孔版の面内に形成された開口の内部に充填されたペーストが、ペースト印刷用孔版がワークから離れる(版離れ)ときに、開口内部でスムーズな流動を起こして、開口内部に残留するペーストがなるべく少なく、また、開口形状を保持した状態でワーク上に転写されるタイプ(例えば特許文献1参照)。第二に、開口内部に充填されたペーストが、開口内部で凝集破壊を起こして、その大半が開口内部に残留し、一部がワークに転写されるタイプ(例えば特許文献2参照)である。
【0004】
後者の場合、一定量のペーストを安定してワークに転写させるためには、ペーストが開口内部で適正に凝集破壊を起こす必要があるが、特許文献2のペースト印刷用孔版の素材は、主にガラスエポキシ樹脂または、これにニッケル被覆をしたものが使われている。良好な印刷品質を得るためにはペーストとペースト印刷用孔版の素材の適合性が問題となるが、従来これは考慮されなかったため、例えばペーストと開口内壁の間の摺動性が高くてペーストが粘性流動を起こし、凝集破壊を起こさなかったような場合には、過分なペーストがワークに転写され、不具合のもととなるようなことがあった。
【0005】
また、ワークがプリント基板の様な、ガラスエポキシ樹脂を素材とする場合、ワークに存在する微小な凹凸に対して、同じ素材からなるペースト印刷用孔版では、変形により追従することが出来ず、ワークとの十分な密着性が確保できないため、印刷滲みの原因となっていた。
【0006】
一方、これらの問題に対処し得る別の樹脂等を素材とした場合には、材料が機械による微細加工に適合しない恐れがあり、問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-150656号公報
【文献】特開2010-103352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、上記事情に鑑み、ペーストの転写性とペーストの滲みの観点から、良好なペースト印刷性を有し、さらに機械加工性にも優れたペースト印刷用孔版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、開口内部のペーストが凝集破壊を起こしてワーク上に所定の印刷パターンでペーストを印刷するための孔版であって、厚さが略均一な樹脂製の矩形の平板と、前記平板の面内に、前記印刷パターンに対応して形成された開口を備え、前記樹脂は、平滑表面の液滴接触角が表面張力73mN/mの液について90°以下であり、表面張力50mN/mの液について80°以下であり、前記平板の厚さは1~5mmである、ことを特徴とする、ペースト印刷用孔版である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のペースト印刷用孔版であって、前記樹脂は、曲げ弾性率が20GPa以下である、ことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2のいずれか1項に記載のペースト印刷用孔版であって、前記樹脂は、荷重たわみ温度が70℃以上である、ことを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載のペースト印刷用孔版であって、前記樹脂は、ポリエチレン、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、4弗化エチレン樹脂、ポリプロピレンの何れか1種類から選ばれる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、樹脂の撥液性が適度な範囲に設定されているため、開口内に充填されたペーストは、開口内壁との濡れ状態を示すものの、ペースト印刷用孔版がワークから離れるときに、流動を起こすほどの濡れとはならず、ペーストは凝集破壊を起こし、一部のみがワークに転写され、それ以外は開口内に残留することとなり、常に適量のペーストを、印刷することが可能となる
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、樹脂の曲げ弾性率がワークより低いため、樹脂がワークの凹凸や歪みに追従しやすいため、ペースト印刷用孔版がワークに適正に密着するので、ペーストの滲みがなく、精度のよいペースト印刷が可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、樹脂の荷重たわみ温度が所定の温度以上であるため、機械加工で開口を形成する際に、樹脂の熱溶融によるバリの発生が少なく、綺麗な形状に加工できるので、適正にペースト印刷を行うことが可能となる。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、樹脂材料を選択することで、印刷するペーストに適したペースト印刷用孔版を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る、ペースト印刷用孔版の概略正面図(a)とX-Xの断面図(b)である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る、ペースト印刷用孔版による概略印刷工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、図面において、図面中の各部の構成の大きさ、間隔、数、その他詳細は、視認と理解の助けのために、実際の物に比べて大幅に簡略化・省略化して表現している。
【0016】
図1は、ペースト印刷用孔版1の概略正面図(a)と側面断面図(b)である。ペースト印刷用孔版1は、平板2と、その面内に、プリント基板(ワーク)Bへの印刷パターンに対応して形成された開口3から構成される孔版である。
【0017】
平板2は一辺が200~500mmの略長方形状をしており、厚さは、1~5mmであり、面内で略均一に成形されている。
【0018】
平板2を構成する樹脂は、平滑表面の液滴接触角が所定の範囲の場合、開口3の内壁に、ペーストが適度に濡れ広がるとともに、除去もしやすい。液滴接触角がこの範囲にあることで、印刷後の版離れ時に、
図2のように適正に凝集破断を起こして適量がプリント基板Bに転写されるとともに、印刷後の洗浄時には、内壁への残留が少なく次回使用時に支障がない。本実施の形態の場合、表面張力73mN/mの液について90°以下であり、表面張力50mN/mの液について80°以下の材料からなる。
【0019】
また、樹脂材料は、曲げ弾性率が所定の数値以下の場合、主なプリント基板Bの材料であるガラスエポキシ樹脂より低いため、プリント基板Bの凹凸に対してペースト印刷用孔版1が追従することができる。本実施の形態では、20GPa以下、好ましくは3GPa以下の材料を使用している。
【0020】
さらに、樹脂材料は、荷重たわみ温度が所定の値以上の場合、機械加工時の熱により樹脂が融解しにくくなる。本実施の形態の場合、70℃以上、好ましくは100℃以上の材料を使用している。
【0021】
以上の特性を有する樹脂材料として、本実施の形態では、ポリエチレン、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、4弗化エチレン樹脂、ポリプロピレンの何れか1種類から選択した。
【0022】
次に、本実施の形態に係るペースト印刷用孔版1によるペースト印刷方法について説明をする。
【0023】
先ず、ペースト印刷用孔版1を、紗を介して一定の張力で金属枠に張設して作製した印刷版を、印刷機に設置し、プリント基板Bに密着させる。
【0024】
次に、ペーストPを印刷面と反対側(スキージ面)に適量供給する。
【0025】
次に、スキージを摺動させて、ペーストPをペースト印刷用孔版1のスキージ面に塗り伸ばすと同時に、開口3に充填させる(
図2(a))。
【0026】
次に、ペースト印刷用孔版1を一定速度で垂直に引き上げ、プリント基板Bから引き離す(
図2(b))。このとき、開口3内のペーストPは、凝集破壊を起こし、完全には抜けず、開口3内部に残留し、一部がプリント基板Bに転写される。
【0027】
(実施例)
表1に列記したNo.1~No.7までの7種類の材料で作製したペースト印刷用孔版1を、紗を介して金属枠に一定の張力で張設して印刷版を作製し、これを用いてペーストPをプリント基板Bへ印刷して、その印刷性を、プリント基板Bへの転写性、ワークへの滲みの程度の観点から評価し(印刷性)、ペーストPの印刷後の孔版の開口3内部の洗浄性についても、ペーストがスムーズに洗い流されるかどうかの観点から評価した(洗浄性)。樹脂材料は、厚さ3mmで、一辺が300mmの平板を用いた。なお、印刷性の評価は、印刷を数回繰り返し、転写されるペーストPの量や形状、またはペーストの滲みを観察して評価をした。また機械加加工後の開口3周辺へのバリの発生とその程度を観察し評価した(加工性)。なお、判定において各記号は、A:製品として問題なく使用可能、B:Aには劣るが、使用可能、C:使用不可を表している。総合的には、C評価の項目がないことを、樹脂材料の適合性の評価基準とした。
【0028】
No.1 ポリエチレン
加工性は荷重たわみ温度が85℃と比較的低めであり、加工後の開口3の周辺にバリがみられたが、使用可能なレベルと評価してBとした。また、印刷性は、曲げ弾性率が0.39GPaと低く可撓性があり、プリント基板Bに良好に密着したため、ペーストPのにじみがなく、また、ペーストが適正に凝集破断を起こし、適量がプリント基板Bに転写されていたので、Aと評価した。さらに、洗浄性も、開口3内部に残留したペーストPが、良好に洗い流されたので、Aと評価した。
【0029】
No.2~No.7の樹脂材料についても、同様の評価をしたところ、表1に示した通りの結果となった。いずれの樹脂材料も、印刷性、洗浄性、加工性について、C評価の項目はなかった。
【0030】
(比較例)
表1に示したRef.1~Ref.3の樹脂材料、金属材料で、実施例1と同様に作製したペースト印刷用孔版1について、実施例と同様の評価を行った。
【0031】
Ref.1 ガラスエポキシ樹脂
印刷性の評価において、プリント基板Bと同じ樹脂材料であるため、プリント基板Bの凹凸へ十分に追従せずに、密着性が悪かったため、ペーストPの滲みが発生した。また、適量よりも多いペーストPがワークに転写されたので、印刷性はCと評価した。これは、73mN/mの接触角が105°と高く、Ref.1と同様に、ペーストPが開口3の内壁に十分に度に濡れずに、版離れ時にスムーズな流動を起こし、過分に開口3から抜けたためと推察される。
【0032】
Ref.2 SUS304、 Ref.3 ニッケル
金属材料であり、印刷性の評価において、プリント基板Bより剛性が高いため、プリント基板Bの凹凸へ十分に追従せずに、密着性が悪かったため、ペーストPの滲みが発生したので、印刷性はCと評価した。
【0033】
【0034】
本実施の形態の発明によれば、樹脂の撥液性が適度な範囲に設定されているため、開口3内に充填されたペーストPは、開口3内壁との濡れ状態を示すものの、ペースト印刷用孔版1がワークから離れるときに、流動を起こすほどの濡れとはならず、ペーストPは凝集破壊を起こし、一部のみがプリント基板Bに転写され、それ以外は開口3内に残留することとなり、常に適量のペーストPを、印刷することが可能となる。
【0035】
また、樹脂の曲げ弾性率がプリント基板Bより低いため、樹脂がプリント基板Bの凹凸や歪みに追従しやすいため、ペースト印刷用孔版Iがプリント基板Bに適正に密着するので、ペーストPの滲みがなく、精度のよいペースト印刷が可能となる。
【0036】
また、樹脂の荷重たわみ温度が所定の温度以上であるため、機械加工で開口を形成する際に、樹脂の熱溶融によるバリの発生が少なく、綺麗な形状に加工できるので、適正にペースト印刷を行うことが可能となる。
【0037】
また、樹脂材料を選択することで、印刷するペーストPに適したペースト印刷用孔版を得ることが可能となる。
【0038】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本願発明の範囲は以上の実施の形態に限られるものではなく、これと同視しうる他の形態に対しても及ぶ。
【符号の説明】
【0039】
1 ペースト印刷用孔版
2 平板
3 開口
B プリント基板(ワーク)
P ペースト