(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】加熱装置および加熱方法
(51)【国際特許分類】
F27B 17/00 20060101AFI20220525BHJP
F27D 11/02 20060101ALI20220525BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20220525BHJP
F27D 5/00 20060101ALI20220525BHJP
F27D 7/04 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
F27B17/00 B
F27D11/02 A
F27D19/00 A
F27D5/00
F27D7/04
(21)【出願番号】P 2021522311
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2020020284
(87)【国際公開番号】W WO2020241488
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2019102655
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594067195
【氏名又は名称】株式会社九州日昌
(74)【代理人】
【識別番号】110002893
【氏名又は名称】特許業務法人KEN知財総合事務所
(72)【発明者】
【氏名】神吉 利彰
(72)【発明者】
【氏名】木邊 貴大
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特許第6388041(JP,B2)
【文献】特表2011-528501(JP,A)
【文献】特開2005-055152(JP,A)
【文献】特公昭48-008653(JP,B1)
【文献】登録実用新案第3066387(JP,U)
【文献】特開2003-245591(JP,A)
【文献】特開2007-173481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 17/00
F27D 11/02
F27D 19/00
F27D 5/00
F27D 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
距離を隔てて対向して立設された複数の加熱用壁体と、前記複数の加熱用壁体の各々に設けられた複数の発熱手段と、複数の前記加熱用壁体の対向領域に上下方向に距離を隔てて棚状に配置されて前記加熱用壁体からの熱を伝導させる金属製の複数の熱放射部材と、を備え、前記複数の加熱用壁体と前記複数の熱放射部材とは、被加熱物をそれぞれ収容するための複数の収容スペースを上下方向に画定し、前記複数の収容スペースの各々の上下は、対向する前記熱放射部材により画定され、
前記発熱手段は、前記加熱用壁体の奥行方向において、中央部よりも周辺部に高い密度で配置されており、
前記収容スペースは、前記加熱用壁体と前記熱放射部材とにより画定される開口部を前面側および背面側に有し、前記背面側の開口部は、外部から前記収容スペース内に空気が流入するのを防ぐために閉塞部材により閉塞されており、
被加熱物の搬入・搬出時には開放され、加熱時には閉塞される前記前面側の開口部を開閉する開閉ドアをさらに備え、前記開閉ドアは、前記収容スペースの内部は完全には密閉されず、加熱されて膨張した空気が逃げられるように当該開閉ドアと前記前面側の開口部との間に隙間が形成されている、ことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
対向する前記複数の加熱用壁体は、各々の前記収容スペースに面する側の各壁面の互いに対応する位置に直接形成された、平板状の被加熱物の幅方向の各側縁部の裏面を受け止める前記収容スペースの奥行方向に延在する支持面をそれぞれ有する、請求項
1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記複数の加熱用壁体の各々に設けられた少なくとも一の温度センサーと、
前記複数の加熱用壁体の各々に設けられた少なくとも一の温度センサーの検出温度が目標温度の追従するように、前記複数の加熱用壁体にそれぞれ設けられた複数の発熱手段の各々の発熱量を独立に制御する温調手段と、を有する請求項
1又は2に記載の加熱装置。
【請求項4】
請求項
1ないし3のいずれかに記載の加熱装置と、
前記加熱装置を収容するチャンバをさらに有する、加熱システムであって、
前記チャンバは、底部に大気を取り込むためのる吸気口と天井部に大気を排出する排気口を通じて当該チャンバ内を換気する換気機構を有する、加熱システム。
【請求項5】
請求項
1ないし3のいずれかに記載の加熱装置、または、請求項
4に記載の加熱システムを用いて被加熱物を加熱する、加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置および加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、液晶表示パネルなどの構成部材であるガラス基板等の板状物を熱処理する加熱気体循環方式のクリーンオーブンが使用されている(例えば、特許文献1参照。)。このクリーンオーブンは、ガラス基板などの被熱処理物を恒温槽内に収容し、この恒温槽内においてファンによって循環する加熱気体を用いて被加熱物の熱処理を行うものである。
加熱気体循環方式のクリーンオーブンの場合、ガラス基板などの被加熱物を多段状に収容する構造を採用しやすいので、スペース効率に優れている反面、加熱温度分布を均一化することが困難であり、加熱気体の攪拌によりクリーン度が低下する可能性が高い。また、被加熱物が比較的軽量である場合、加熱気体の循環対流によって被加熱物が所定の位置から移動することがある。
【0003】
特許文献2は、内部に発熱体を有する放熱板の両面に遠赤外線放射セラミックスの薄層が被覆され、この放熱板の加熱によって両面から遠赤外線を放射する両面加熱式の遠赤外線パネルヒータからなる多数の棚状ヒータが、炉本体内に上下方向に一定間隔で多段配置され、これらの棚状ヒータの間に形成される各空間部分をそれぞれ乾燥室とした加熱炉を開示している。
【0004】
特許文献3は、対向して立設された加熱用壁体と、その間に、棚状に配置され、加熱用壁体からの伝導熱で加熱された複数の熱放射部材とを備え、これらの熱放射部材の間の各空間をを収容スペースとして被加熱物であるガラス基板を収容し、上下の熱放射部材からの放射熱で加熱処理している。各収容スペースは区画されているため、温度分布の均一性も優れ、熱気の上昇に起因する上部空間における熱蓄積現象が発生しない。また、加熱空気の吹付を行わないので、クリーンな加熱処理を実現している。
【0005】
また、特許文献4は、特許文献3の加熱装置において、一対の加熱用壁体の内側に密着する一対の伝熱壁体を設け、この伝熱壁体の間に熱放射部材を棚状に配置して、温度均一性を高めた加熱装置を開示している。
【0006】
特許文献5では、特許文献3の区画構造でもまだ上側の収容スペースの温度が下側の収容スペースよりも高くなるという問題を解消するために、加熱用壁体における電気ヒータの配置間隔を加熱用壁体の下部より上部で大きくすることにより、上部より下部での発熱量を大きくしている。また、加熱用壁体の途中に断熱部を設けて熱が上方に伝導しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-56141号公報
【文献】特開2001-317872号公報
【文献】特開2013-200077号公報
【文献】特開2005-352306号公報
【文献】特開2005-055152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献3~5では、多段に設けた収容スペースに被加熱物を配置して加熱する加熱装置を開示しており、上部の収容スペースと下部の収容スペースとの温度差の問題については、上記各方法で対応している。
一方、上記各収容スペースの水平方向の温度分布については、中央部より周辺部の方が熱が外部に逃げやすいため、温度が低下しやすいという問題がある。このうち、左右方向の温度分布については、左右に加熱用壁体を配置することにより対策されているが、奥行方向の温度分布の問題についての対策は、開示されていない。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、温度分布の均一性及びクリーン度の安定性に優れた加熱装置および加熱方法を提供することにある。
特に、多段式の加熱装置の奥行方向の温度分布の均一性を実現できる、加熱装置および加熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の加熱装置は、距離を隔てて対向して立設された複数の加熱用壁体と、前記複数の加熱用壁体の各々に設けられた複数の発熱手段と、複数の前記加熱用壁体の対向領域に上下方向に距離を隔てて棚状に配置されて前記加熱用壁体からの熱を伝導させる金属製の複数の熱放射部材と、を備え、前記複数の加熱用壁体と前記複数の熱放射部材とは、被加熱物をそれぞれ収容するための複数の収容スペースを上下方向に画定し、前記複数の収容スペースの各々の上下は、対向する前記熱放射部材により画定され、
前記発熱手段は、前記加熱用壁体の奥行方向において、中央部よりも周辺部に高い密度で配置されている。
、ことを特徴とする。
【0011】
このような構成とすれば、加熱用壁体の奥行方向において、発熱手段が中央部よりも周辺部において高い密度で配置されているので、奥行方向両端部で、発熱量が大きくなる。その結果、加熱用壁体からの熱伝導を受ける熱放射部材も、奥行方向両端部で温度が上がり、表面温度の均一性が高まる。このような熱放射部材が上下に配置された各収容スペース内に被加熱物が配置されると、被加熱物は、上下の熱放射部材から放射される熱によって均一に加熱されるため、温度分布の均一性に優れた加熱処理が実現する。
尚、「高い密度で配置」とは、分離した発熱手段(例えばコイル状ヒータ)を高密度で配置することのみならず、連続的な発熱手段の一部(例えばコイル状ヒータの一巻き分)をその隣接部分と詰めた状態にして配置することも含む。
【0012】
前記発熱手段は、前記加熱用壁体の面内の奥行方向において前記加熱用壁体の略全長に伸びる複数のコイル状ヒータからなり、該複数のコイル状ヒータのうち1以上のコイル状ヒータの巻き線ピッチが、中央部よりも周辺部において狭く設定されていてもよい。このような構成とすることにより、奥行方向において、中央部に比べて温度が低くなりがちな周辺部で、発熱が大きくなり、加熱用壁体の表面温度の均一性が高まる。
【0013】
前記発熱手段は、前記加熱用壁体の面内の奥行方向において前記加熱用壁体の略全長に伸びる複数のコイル状ヒータからなり、該複数のコイル状ヒータが上下方向において、上部よりも下部において狭い間隔で配置されていてもよい。このような構成とすることにより、加熱用壁体において、上部に比べて温度が低くなりがちな下部で、発熱量が大きくなり、加熱用壁体の上下方向表面温度の均一性が高まることにより、熱放射板間の温度の均一性が高まる。
【0014】
好適には、対向する前記複数の加熱用壁体は、各々の前記収容スペースに面する側の各壁面の互いに対応する位置に直接形成された、平板状の被加熱物の幅方向の各側縁部の裏面を受け止める前記収容スペースの奥行方向に延在する支持面をそれぞれ有する、構成を採用できる。このような構成とすることにより、被加熱物を熱放射部材に均一な間隔をとって保持することができ、被加熱物が放射熱で面内均一に加熱される。
【0015】
好適には、前記複数の加熱用壁体の各々に設けられた少なくとも一の温度センサーと、
前記複数の加熱用壁体の各々に設けられた少なくとも一の温度センサーの検出温度が目標温度の追従するように、前記複数の加熱用壁体にそれぞれ設けられた複数の発熱手段の各々の発熱量を独立に制御する温調手段と、を有する構成を採用できる。
この構成により、加熱用壁体間の温度の不均一を補正することができ、加熱処理の均一性が高まる。
【0016】
本発明の加熱システムは、上記いずれかの加熱装置と、前記加熱装置を収容するチャンバをさらに有する、加熱システムであって、前記チャンバは、底部に大気を取り込むための吸気口と天井部に大気を排出する排気口を通じて当該チャンバ内を換気する換気機構を有する、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の加熱方法は、上記いずれかの加熱装置、または、上記加熱システムを用いて被加熱物を加熱する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、温度分布の均一性及びクリーン度の安定性に優れ、少なくとも被加熱物の幅方向サイズの変更に迅速に対応することのできる加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態である加熱装置を示す正面図である。
【
図4A】加熱用壁体における加熱用ヒータの配置の一例を示す断面図である。
【
図4B】加熱用壁体における加熱用ヒータの配置の一例を示す断面図である。
【
図4C】加熱用壁体における加熱用ヒータの配置の一例を示す断面図である。
【
図5】各収容スペースにおける空気の流れを示す説明図である。
【
図6】加熱装置の空調チャンバの一例における空気の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1~
図6に基づいて、本発明の実施形態である加熱装置100について説明する。
図1に示すように、加熱装置100は、距離を隔てて対向配置された複数の加熱用壁体10(10A~10C)と、加熱用壁体10に設けられた発熱手段である複数のコイル状ヒータ11と、複数の加熱用壁体10の対向領域に上下方向(A1―A2方向)に距離を隔てて棚状に配置された複数の熱放射部材12と、上下方向に隣り合う熱放射部材12の間に設けられた被加熱物13の収容スペース14と、を備えている。
【0021】
加熱用壁体10の上端側及び下端側はそれぞれ天板16及び底板17によって連結され、底板17の下面は、架台ユニット30によって支持されている。
【0022】
加熱用壁体10は、ステンレス鋼で形成され、箱型の本加熱装置100の両側面及び中央の仕切り壁をなす構造部材であるとともに、加熱装置の熱源となる部材である。本実施形態では、左側加熱用壁体10A、中央加熱用壁体10B、右側加熱用壁体10Cの3枚からなる。各加熱用壁体10には、正面側から背面側まで水平方向に複数の貫通孔24が開設され、これらの貫通孔24内にそれぞれコイル状ヒータ11が着脱可能に挿入されている。
【0023】
コイル状ヒータ11は、詳細を
図3に示すように、金属管(シース)11sの内部にコイル状に巻いた発熱線11wを収容した構造になっている。
図3では簡略化して示しているが、コイル状に巻いた発熱線11wは右端から左端へ往復し、右端から2本のリード線が延出している。往復の発熱線11wの間及び発熱線11wと金属管11sの間は、粉末状の酸化マグネシウムを固めた絶縁層で絶縁されている。
図3(a)は、発熱線11wの巻き線ピッチが均一で、長手方向で均一な発熱量が得られるコイル状ヒータ11Aの例を示している。
一方、
図3(b)は、発熱線11wの巻き線ピッチが、両端部W1,W1では小さく、中央部W2では大きくし、両端部での発熱量が中央部の発熱量よりも大きくなるように形成したコイル状ヒータ11Bの例を示している。
【0024】
各加熱用壁体10におけるコイル状ヒータ11の配置は、
図4Aに示すように、下部で間隔が狭く上部で間隔が広く配置された全ての貫通孔24に、上記発熱線11wの巻き線ピッチが、両端部で小さく、中央部で大きいコイル状ヒータ11Bが挿入されている。これにより、各加熱用壁体10の上下方向(A1―A2方向)については、コイル状ヒータ11Bの配置間隔の小さい下部で発熱量が大きくなるので、温度が低くなりがちな下部の温度を高めている。また、奥行方向(B1―B2方向)については、温度が低下しがちな奥行方向両端部の発熱量を大きくし、温度分布が均一になるようにしている。
【0025】
但し、コイル状ヒータ11の配置はこれに限られず、例えば
図4Bに示すように、加熱用壁体10の下部の各貫通孔24に、上記発熱線11wの巻き線ピッチが、両端部で小さく、中央部で大きいコイル状ヒータ11Bを挿入し、上部の貫通孔24には、発熱線11wの巻き線ピッチが均一なコイル状ヒータ11Aを挿入してもよい。これにより、前後方向両端部の熱が特に奪われやすい加熱用壁体10の下部の発熱量のみを大きくして、温度分布を均一化できる。
【0026】
また、
図4Cに示すように、加熱用壁体10の最下部と最上部の貫通孔24に、上記発熱線11wの巻き線ピッチが、両端部で小さく、中央部で大きいコイル状ヒータ11Bを挿入し、中間の各貫通孔24には、発熱線11wの巻き線ピッチが均一なコイル状ヒータ11Aを挿入してもよい。これにより、例えば、加熱装置がチャンバ内に設置された場合等に、該チャンバ内の気流で熱が奪われやすい、加熱用壁体10の最上部及び最下部の前後方向両端部の発熱量のみを大きくして、温度分布を均一化できる。
尚、各コイル状ヒータ11の配線は、加熱装置100背面側から延出している。
【0027】
各加熱用壁体10には、また
図1に示すように、正面側から水平方向に別の複数の貫通孔25が開設され、温度センサ15が挿入されている。温度センサ15の検出温度が目標温度に追従するように、各加熱用壁体10にそれぞれ設けられた複数のコイル状ヒータ11の各々の発熱量が、温調手段(図示省略)により独立に制御されている。または、複数のコイル状ヒータ11が複数にグループ化され、グループ毎に発熱量が独立に制御される。
なお、上記したコイル状ヒータ11の構成や配置は、温調手段により発熱手段を制御した際に、加熱用壁体10の温度の均一化を実現するためのものである。言い換えると、外乱等が原因で温調手段のみでは加熱用壁体10の温度の均一化を実現するのは難しいので、コイル状ヒータ11の構成や配置を工夫することで加熱用壁体10の温度の均一化を実現する。
【0028】
熱放射部材12は、加熱用壁体10の対向領域に上下方向に距離を隔てて棚状に配置されて前記加熱用壁体10からの熱を伝導させる部材である。本実施形態では、両側の加熱用壁体10に形成された溝に嵌め込まれて棚状に配置されている。各熱放射部材12は、表面に黒色メッキを施したアルミニウム板で形成され、すぐれた熱放射機能が得られるようになっている。
【0029】
各収容スペース14は、両側の加熱用壁体10と、上下の熱放射部材12とで画定されたスペースで、被加熱物を1枚ずつ収容して、上下の熱放射部材12からの放射熱で加熱処理するようになっている。加熱用壁体10は、各々の収容スペース14に面する側の各壁面の互いに対応する位置に、収容スペースの奥行方向(B1―B2方向)に延在する溝10tが形成され、その溝10tの下側内面が、平板状の被加熱物13の幅方向の各側縁部の裏面を受け止める支持面となっている。所定の搬送装置を用いて、被加熱物をその左右方向両端部が各溝10tに入るように搬入し、前記支持面に載置することができる。被加熱物13の両側縁部が熱的に開放されていると被加熱物13の温度が両側縁部で不均一となりやすい。このため、溝10tの支持面を通じて被加熱物13の両側縁部に直接伝熱することで、被加熱物13の温度の均一化を図っている。
【0030】
各収容スペース14の前面14a(
図2参照)は、開口している。前面14aを開口させることで、収容スペースの内部で加熱されて膨張した空気が外部に逃げられるようになっている。背面14b側が閉塞されているので、収容スペースの内部で加熱されて膨張した空気が外部に逃げたとしても、外部から収容スペース14内に空気が流入しにくい構造となっている。
なお、前面14aの開口の大きさによっては、開口部を開閉する開閉ドア(図示省略)を設けることができる。この開閉ドアは、被加熱物13の搬入・搬出時には開放され、加熱時には閉塞される。但し、開閉ドアの閉塞時にも、収容スペースの内部は完全には密閉されず、加熱されて膨張した空気が逃げられるように開閉ドアと開口部との間に隙間を形成することができる。これにより、収容スペース14の内部で加熱されて膨張した空気が外部に逃げるだけで、収容スペース14の内部には外部から空気が流入しないので、収容スペース14内で対流が形成されにくくすることができる。
【0031】
図5に示すように、各収容スペース14の背面14b側は、背壁部材26により閉塞され、この背壁部材26に、収容スペース14内に気体を導入可能な給気経路27が設けることができる。これにより、
図5の矢印Gのように、収容スペース14の背面14b側から前面14a側へ気体が流れ、前記隙間から収容スペース14外に排出されるようになっている。この気体とは、被加熱物表面の酸化を防ぐための不活性ガスや、被加熱物13表面と特定の化学反応を起こさせるためのガス等が挙げられる。
尚、この気体の流れは、パーティクルを巻き上げない程度のごく弱い層流となるように流量を調整している。
【0032】
最上部の2枚の熱放射部材12の間及び最底部の2枚の熱放射部材12の間は、それぞれ被加熱物13を導入しない空きスペースで、空気の断熱層を形成するための断熱スペース20T,20Bである。
【0033】
架台ユニット30は、加熱装置100が設置される床面に配置され、底板17及びその上の加熱装置本体を搭載している。加熱装置100の熱が床面に伝達しないようにする断熱機能や、床面の振動が加熱装置本体に伝達しないようにする防振機能等を備えている。
【0034】
架台ユニット30を含む加熱装置100本体は、外部からのパーティクルの混入を防ぐためや、排熱がクリーンルーム等の設置場所の他の装置に影響することを防ぐために、
図6に示すように、チャンバ200内に配置してもよい。このチャンバ200では、チャンバ天井の排気口220に設けたブロワファン230により、チャンバ200内部の加熱装置100の熱排気を排出し、これにより負圧になったチャンバ200内部に、左下の吸気口210より外気を導入している。吸気口210の内側にはHEPAフィルター(図示省略)が設けられ、外部からのパーティクルの混入を防いでいる。
【0035】
次に、このように構成された本発明の加熱装置100の動作について
図1~
図4Aを参照して説明する。
加熱装置100を使用する場合、所定の搬送装置を用いて、各収容スペース14の前面14aの開口部を通じて各被加熱物をそれぞれの収容スペース14に搬入する。コイル状ヒータ11に通電を開始すれば、所定のプログラムに従って熱処理を行うことができる。
図示しない温調手段により、各温度センサ15の検出温度が目標温度になるように、複数のコイル状ヒータ11の発熱量が個々にまたはグループ毎に独立に制御される。
【0036】
各収容スペース14の左右には、加熱用壁体10が配置され、上下には、熱放射部材12が配置されているので、コイル状ヒータ11の熱によって昇温した左右の加熱用壁体10から放射される熱と、これらの加熱用壁体からの熱伝導により発熱する熱放射部材12から上下に放射される熱とによって加熱される。
各加熱用壁体10が目標温度になるように加熱され、各熱放射部材12も加熱用壁体10と同じ温度に加熱されるため、収容スペース14相互間の温度均一性が高い。
ここで、コイル状ヒータ11として、発熱線11wの巻き線ピッチが、両端部で小さく、中央部で大きいコイル状ヒータ11Bを用いたので、加熱用壁体10の奥行方向において、温度が低下しがちな奥行方向(B1―B2方向)両端部の発熱量が大きくなり、温度分布が均一化されている。このため、各収容スペース14内の奥行方向の温度分布も均一化されている。
このため、それぞれの収容スペース14内はむらなく均等に加熱され、加熱装置100全体における温度分布の均一性も良好である。
【0037】
また、各収容スペース14は、上記のように区画されているため、熱気の上昇に起因する上部空間における熱蓄積現象及び過熱現象が発生しない。また、ファンによって加熱気体を攪拌したり、循環させたりすることもないので、クリーン度の安定性も優れており、気体流によって被加熱物が移動することもない。
【0038】
また、各収容スペース14に給気経路27を設けることにより、収容スペース14内の空気を不活性ガスあるいは特定ガスと置き換えることも可能である。このため、不活性ガス導入により被加熱物13の酸化を防止したり、導入された特定ガスとの反応を利用して被加熱物13に表面処理を施したりすることもできる。
【0039】
なお、前述した加熱装置100は本発明に係る加熱装置を例示するものであり、本発明は加熱装置100に限定されない。
例えば、奥行方向の発熱手段の配置密度を中央部よりも周辺部に高くする手段として、本実施形態では、加熱用壁体10において、発熱線11wの巻き線ピッチが両端部で小さく中央部では大きいコイル状ヒータ11Bを、奥行方向に伸びるように配置している。しかし、本発明では、これに限られず、加熱用壁体10において、コイル状ヒータ11Aまたは11Bを、上下方向に伸びるように配置し、奥行方向の配置間隔を両端部で小さく中央部では大きくしてもよい。
また、発熱手段もコイル状ヒータに限られず、その他のヒータや、ヒートパイプとでもよく、これらを上下方向に伸びるように配置し、奥行方向の配置間隔を両端部で小さく中央部では大きくしてもよい。
【0040】
また、本実施形態では、各加熱用壁体10において、各温度センサ15の検出温度が目標温度になるように、各部分に位置するコイル状ヒータ11の発熱量を独立に制御したが、これに限られず、目標とする温度均一性が緩い場合、ゾーンことにコイル状ヒータ11の発熱量を制御したり、すべてのコイル状ヒータの発熱量を一括で制御してもよい。
【0041】
また、本実施形態では、被加熱物の各収容スペース14の前面14aには開閉ドア(図示省略)を設けて開閉できるようにし、背面14bの背壁部材26には給気経路27を設けて気体を供給できるようにしているが、使用条件等によっては、これらを省略しても構わない。
【0042】
また、上記加熱装置100においては、加熱用壁体10、天板16、底板17は、ステンレス鋼で形成され、熱放射部材12は、表面に黒色メッキを施したアルミニウム板で形成されている。ただし、これらの材料に限られず、加熱用壁体10A~10C、天板16、底板17などをアルミニウムやアルミニウム合金(あるいは輻射熱の発散を抑制するため光沢のない表面処理を施したアルミニウムやアルミニウム合金)で形成することもできる。また、熱放射部材12の表面処理についても黒色メッキに限定されず、輻射熱の発散を抑制することのできる表面処理、例えば、光沢のない表面処理を施したものを採用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る加熱装置は、ガラス基板や半導体リードフレームあるいはその他の金属板や合成樹脂板などの各種板状部材の熱処理を行う産業分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10,10A~10C 加熱用壁体
11,11A,11B コイル状ヒータ
11s 金属管(シース)
11w 発熱線
12 熱放射部材
13 被加熱物
14 収容スペース
14a 前面
14b 背面
15 温度センサ
16 天板
17 底板
20T、20B 断熱層
24 貫通孔
25 貫通孔
26 背壁部材
27 吸気経路
30 架台ユニット
100 加熱装置
200 チャンバ
210 吸気口
220 排気口
230 ブロワファン
W1 両端部
W2 中央部