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特許7079050スラストころ軸受用保持器及びスラストころ軸受
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】スラストころ軸受用保持器及びスラストころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/54 20060101AFI20220525BHJP
   F16C 19/30 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
F16C33/54 A
F16C19/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018016638
(22)【出願日】2018-02-01
(65)【公開番号】P2018136025
(43)【公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2017031169
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】591071436
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトファインテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】樺山 佳友
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第1380622(US,A)
【文献】実開昭63-106917(JP,U)
【文献】実開昭63-178627(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/54
F16C 19/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のころを転動可能に保持する環状のスラストころ軸受用保持器であって、
前記複数のころを保持する複数の保持穴の外側に形成された外側円環部と、前記保持穴の内側に形成された内側円環部と、前記外側円環部と前記内側円環部とを径方向に連結し、軸方向における前記ころの移動を規制する複数の柱部と、を有する第1及び第2の保持器部材を備え、
前記第1及び第2の保持器部材が互いに同形状に形成されており、
前記第1及び第2の保持器部材の前記外側円環部は、中心軸と平行な軸方向に対して垂直に延設された板状かつ円環状の垂直部と、前記垂直部の径方向外方の端部から軸方向に延設されると共に周方向に沿って複数の円弧状に分割されたフランジ部と、をそれぞれ有し、前記フランジ部が前記垂直部の途中まで延びる分割溝によって分割されており、
前記フランジ部は、前記中心軸からの距離が等しい円弧状の大径部と、前記中心軸からの距離が前記大径部における距離よりも短い円弧状の小径部と、を有し、前記分割溝が前記大径部と前記小径部との間に形成されており、
前記第1の保持器部材の前記大径部と前記第2の保持器部材の前記小径部とを重ね合わせ、かつ、前記第1の保持器部材の前記小径部と前記第2の保持器部材の前記大径部とを重ね合わせた状態で、前記第1の保持器部材と前記第2の保持器部材とが互いに固定されている、
スラストころ軸受用保持器。
【請求項2】
複数のころを転動可能に保持する環状のスラストころ軸受用保持器であって、
前記複数のころを保持する複数の保持穴の外側に形成された外側円環部と、前記保持穴の内側に形成された内側円環部と、前記外側円環部と前記内側円環部とを径方向に連結し、軸方向における前記ころの移動を規制する複数の柱部と、を有する第1及び第2の保持器部材を備え、
前記第1及び第2の保持器部材が互いに同形状に形成されており、
前記第1及び第2の保持器部材の前記内側円環部は、中心軸と平行な軸方向に対して垂直に延設された板状かつ円環状の垂直部と、前記垂直部の径方向内方の端部から軸方向に延設されると共に周方向に沿って複数の円弧状に分割されたフランジ部と、をそれぞれ有し、前記フランジ部が前記垂直部の途中まで延びる分割溝によって分割されており、
前記フランジ部は、前記中心軸からの距離が等しい円弧状の大径部と、前記中心軸からの距離が前記大径部における距離よりも短い円弧状の小径部と、をそれぞれ有し、前記分割溝が前記大径部と前記小径部との間に形成されており、
前記第1の保持器部材の前記大径部と前記第2の保持器部材の前記小径部とを重ね合わせ、かつ、前記第1の保持器部材の前記小径部と前記第2の保持器部材の前記大径部とを重ね合わせた状態で、前記第1の保持器部材と前記第2の保持器部材とが互いに固定されている、
スラストころ軸受用保持器。
【請求項3】
複数のころを転動可能に保持する環状のスラストころ軸受用保持器であって、
前記複数のころを保持する複数の保持穴の外側に形成された外側円環部と、前記保持穴の内側に形成された内側円環部と、前記外側円環部と前記内側円環部とを径方向に連結し、軸方向における前記ころの移動を規制する複数の柱部と、を有する第1及び第2の保持器部材を備え、
前記第1及び第2の保持器部材が互いに同形状に形成されており、
前記第1及び第2の保持器部材の前記外側円環部は、中心軸と平行な軸方向に対して垂直に延設された板状かつ円環状の垂直部と、前記垂直部の径方向外方の端部から軸方向に延設されると共に周方向に沿って複数の円弧状に分割されたフランジ部と、をそれぞれ有し、前記フランジ部が前記垂直部の途中まで延びる分割溝によって分割されており、
前記第1及び第2の保持器部材の前記内側円環部は、中心軸と平行な軸方向に対して垂直に延設された板状かつ円環状の垂直部と、前記垂直部の径方向内方の端部から軸方向に延設されると共に周方向に沿って複数の円弧状に分割されたフランジ部と、をそれぞれ有し、前記フランジ部が前記垂直部の途中まで延びる分割溝によって分割されており、
それぞれの前記フランジ部は、前記中心軸からの距離が等しい円弧状の大径部と、前記中心軸からの距離が前記大径部における距離よりも短い円弧状の小径部と、を有し、前記分割溝が前記大径部と前記小径部との間に形成されており、
前記第1の保持器部材の前記大径部と前記第2の保持器部材の前記小径部とを重ね合わせ、かつ、前記第1の保持器部材の前記小径部と前記第2の保持器部材の前記大径部とを重ね合わせた状態で、前記第1の保持器部材と前記第2の保持器部材とが互いに固定されている、
スラストころ軸受用保持器。
【請求項4】
前記内側円環部の前記フランジ部における前記大径部は、前記外側円環部の前記フランジ部における前記大径部の径方向内側に設けられ、前記内側円環部の前記フランジ部における前記小径部は、前記外側円環部の前記フランジ部における前記小径部の径方向内側に設けられている、
請求項3に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項5】
前記フランジ部は、周方向における前記柱部と重なる位置にて分割溝によって分割されている、
請求項1乃至4の何れか1項に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項6】
前記フランジ部の分割数が、2つ以上かつ前記保持穴の数以下である、
請求項1乃至5の何れか1項に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項7】
前記フランジ部は、周方向に等分割されており、複数の前記大径部と、前記大径部と同数の複数の前記小径部と、を有し、前記大径部と前記小径部とが周方向に交互に設けられている、
請求項1乃至6の何れか1項に記載のスラストころ軸受用保持器。
【請求項8】
複数のころと、
請求項1乃至の何れか1項に記載のスラストころ軸受用保持器と、
を備えたスラストころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラストころ軸受用保持器及びスラストころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対向配置された2つのレースの間に複数のころを転動可能に介在させたスラストころ軸受が知られている。スラストころ軸受は、例えば、車両のトランスミッションにおいて非回転部材と回転部材との間に介挿され、回転軸方向のスラスト力を受けながら回転部材の回転を円滑にするために用いられている。
【0003】
スラストころ軸受では、複数のころが2つのレースの間に配置された保持器に転動可能に保持されている。スラストころ軸受に用いられる保持器として、2枚の板材を組み合わせたもの(以下、二枚保持器という)が知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【0004】
特許文献1,2に示されるように、二枚保持器は、一方の板材である外側保持器と、他方の板材である内側保持器とを組み合わせて構成されている。外側保持器と内側保持器とは、外側保持器内に内側保持器を収容した状態で、外側保持器の外周に加締め加工を施すことで、一体化されている。
【0005】
外側保持器と内側保持器には、複数のころを保持する複数の保持穴がそれぞれ形成されている。保持穴の幅はころの直径よりも小さい部分を有して形成されており、ころを外側保持器及び内側保持器の保持穴の周縁に係止させることで、ころの保持器からの脱落が抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-064428号公報
【文献】特開平5-180218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の二枚保持器は、外側保持器と内側保持器の形状を異ならせる必要があるため、製造時にそれぞれに応じたプレス加工工程が必要であり、製造工程の簡素化及び低コスト化の観点から改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、製造工程の簡素化及び低コスト化を図ったスラストころ軸受用保持器及びスラストころ軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、複数のころを転動可能に保持する環状のスラストころ軸受用保持器であって、前記複数のころを保持する複数の保持穴の外側に形成された外側円環部と、前記保持穴の内側に形成された内側円環部と、前記外側円環部と前記内側円環部とを径方向に連結し、軸方向における前記ころの移動を規制する複数の柱部と、を有する第1及び第2の保持器部材を備え、前記第1及び第2の保持器部材が互いに同形状に形成されており、前記第1及び第2の保持器部材の前記外側円環部は、中心軸と平行な軸方向に対して垂直に延設された板状かつ円環状の垂直部と、前記垂直部の径方向外方の端部から軸方向に延設されると共に周方向に沿って複数の円弧状に分割されたフランジ部と、をそれぞれ有し、前記フランジ部が前記垂直部の途中まで延びる分割溝によって分割されており、前記フランジ部は、前記中心軸からの距離が等しい円弧状の大径部と、前記中心軸からの距離が前記大径部における距離よりも短い円弧状の小径部と、を有し、前記分割溝が前記大径部と前記小径部との間に形成されており、前記第1の保持器部材の前記大径部と前記第2の保持器部材の前記小径部とを重ね合わせ、かつ、前記第1の保持器部材の前記小径部と前記第2の保持器部材の前記大径部とを重ね合わせた状態で、前記第1の保持器部材と前記第2の保持器部材とが互いに固定されている、スラストころ軸受用保持器を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するため、複数のころを転動可能に保持する環状のスラストころ軸受用保持器であって、前記複数のころを保持する複数の保持穴の外側に形成された外側円環部と、前記保持穴の内側に形成された内側円環部と、前記外側円環部と前記内側円環部とを径方向に連結し、軸方向における前記ころの移動を規制する複数の柱部と、を有する第1及び第2の保持器部材を備え、前記第1及び第2の保持器部材が互いに同形状に形成されており、前記第1及び第2の保持器部材の前記内側円環部は、中心軸と平行な軸方向に対して垂直に延設された板状かつ円環状の垂直部と、前記垂直部の径方向内方の端部から軸方向に延設されると共に周方向に沿って複数の円弧状に分割されたフランジ部と、をそれぞれ有し、前記フランジ部が前記垂直部の途中まで延びる分割溝によって分割されており、前記フランジ部は、前記中心軸からの距離が等しい円弧状の大径部と、前記中心軸からの距離が前記大径部における距離よりも短い円弧状の小径部と、をそれぞれ有し、前記分割溝が前記大径部と前記小径部との間に形成されており、前記第1の保持器部材の前記大径部と前記第2の保持器部材の前記小径部とを重ね合わせ、かつ、前記第1の保持器部材の前記小径部と前記第2の保持器部材の前記大径部とを重ね合わせた状態で、前記第1の保持器部材と前記第2の保持器部材とが互いに固定されている、スラストころ軸受用保持器を提供する。
【0011】
またさらに、本発明は、上記目的を達成するため、複数のころを転動可能に保持する環状のスラストころ軸受用保持器であって、前記複数のころを保持する複数の保持穴の外側に形成された外側円環部と、前記保持穴の内側に形成された内側円環部と、前記外側円環部と前記内側円環部とを径方向に連結し、軸方向における前記ころの移動を規制する複数の柱部と、を有する第1及び第2の保持器部材を備え、前記第1及び第2の保持器部材が互いに同形状に形成されており、前記第1及び第2の保持器部材の前記外側円環部は、中心軸と平行な軸方向に対して垂直に延設された板状かつ円環状の垂直部と、前記垂直部の径方向外方の端部から軸方向に延設されると共に周方向に沿って複数の円弧状に分割されたフランジ部と、をそれぞれ有し、前記フランジ部が前記垂直部の途中まで延びる分割溝によって分割されており、前記第1及び第2の保持器部材の前記内側円環部は、中心軸と平行な軸方向に対して垂直に延設された板状かつ円環状の垂直部と、前記垂直部の径方向内方の端部から軸方向に延設されると共に周方向に沿って複数の円弧状に分割されたフランジ部と、をそれぞれ有し、前記フランジ部が前記垂直部の途中まで延びる分割溝によって分割されており、それぞれの前記フランジ部は、前記中心軸からの距離が等しい円弧状の大径部と、前記中心軸からの距離が前記大径部における距離よりも短い円弧状の小径部と、を有し、前記分割溝が前記大径部と前記小径部との間に形成されており、前記第1の保持器部材の前記大径部と前記第2の保持器部材の前記小径部とを重ね合わせ、かつ、前記第1の保持器部材の前記小径部と前記第2の保持器部材の前記大径部とを重ね合わせた状態で、前記第1の保持器部材と前記第2の保持器部材とが互いに固定されている、スラストころ軸受用保持器を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造工程の簡素化及び低コスト化を図ったスラストころ軸受用保持器及びスラストころ軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るスラストころ軸受の平面図である。
図2】(a)は図1のA-A線断面におけるスラストころ軸受の断面図であり、(b)はそのB部拡大図、(c)は加締め部分の拡大図である。
図3】(a)は第1の保持器の平面図、(b)は第2の保持器の平面図である。
図4】(a)は第1の実施の形態の一変形例に係るスラストころ軸受の平面図であり、(b)はその第1の保持器の平面図である。
図5】(a)は第1の実施の形態の一変形例に係るスラストころ軸受の平面図であり、(b)はそのC-C線断面図である。
図6】(a)は第1の実施の形態の一変形例に係るスラストころ軸受の平面図であり、(b)はそのD-D線断面図である。
図7】(a)は第1の実施の形態の一変形例に係るスラストころ軸受の平面図であり、(b)はそのE-E線断面図、(c)はその第1の保持器の平面図である。
図8】(a)は第1の実施の形態の一変形例に係るスラストころ軸受の平面図であり、(b)はそのF-F線断面図、(c)はその第1の保持器の平面図である。
図9】(a)は第1の実施の形態の一変形例に係るスラストころ軸受の平面図であり、(b)はそのG-G線断面図、(c)はその第1の保持器の平面図である。
図10】第1の実施の形態の一変形例に係るスラストころ軸受を示し、(a)は第1の保持器部材の正面図、(b)は第2の保持器部材の背面図、(c)は第1及び第2の保持器部材を組み合わせてなるスラストころ軸受の平面図、(d)は(c)のH-H線断面図である。
図11】第1の実施の形態の一変形例に係るスラストころ軸受を示し、(a)は第1の保持器部材の正面図、(b)は第2の保持器部材の背面図、(c)は第1及び第2の保持器部材を組み合わせてなるスラストころ軸受の平面図、(d)は(c)のI-I線断面図である。
図12】(a)は本発明の第2の実施の形態に係るスラストころ軸受の平面図であり、(b)は(a)のJ-J線断面図である。
図13】(a)は第2の実施の形態のスラストころ軸受の保持器を構成する第1及び第2の保持器部材のうち第1の保持器部材を示す平面図であり、(b)は(a)における第1の保持器部材のK-K線断面図である。
図14】第2の実施の形態の第1の変形例を示し、(a)は第1の保持器部材の正面図、(b)は第2の保持器部材の背面図、(c)は第1及び第2の保持器部材を組み合わせてなるスラストころ軸受の平面図、(d)は(c)のL-L線断面図である。
図15】第2の実施の形態の第2の変形例を示し、(a)は第1の保持器部材の正面図、(b)は第2の保持器部材の背面図、(c)は第1及び第2の保持器部材を組み合わせてなるスラストころ軸受の平面図、(d)は(c)のM-M線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態及びその変形例について、図1乃至図11を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0015】
図1(a)は、本実施の形態に係るスラストころ軸受の平面図であり、図1(b)及び(c)は、保持穴の変形例を示す説明図である。また、図2(a)は図1のA-A線断面におけるスラストころ軸受の断面図であり、図2(b)はそのB部拡大図、図2(c)は加締め部分の拡大図である。
【0016】
(スラストころ軸受1の全体構成)
図1及び図2に示すように、スラストころ軸受1は、複数の円柱状のころ2と、複数のころ2を転動可能に保持する環状の保持器(スラストころ軸受用保持器)3と、を備えている。また、図示していないが、スラストころ軸受1は、保持器3を挟み込むように対向して配置され、複数のころ2が転動する軌道面を有する一対のレースを有している。
【0017】
スラストころ軸受1は、例えば車両のトランスミッションに用いられ、軸状の回転部材と、トランスミッションハウジング等の非回転部材との間に介挿され、保持器3に保持された複数のころ2の転動により、軸方向のスラスト力を受けながら回転部材の回転を円滑にするものである。
【0018】
(保持器3の説明)
図3(a)は第1の保持器部材の平面図、図3(b)は第2の保持器部材の平面図である。図1~3に示すように、保持器3は、第1の保持器部材4と第2の保持器部材5とを組み合わせてなる二枚保持器である。
【0019】
第1の保持器部材4と第2の保持器部材5とは、共に金属からなり、鋼板をプレス等によって打ち抜き及び屈曲して形成される。第1及び第2の保持器部材4,5は、複数のころ2を保持する複数の保持穴6の外側に形成された外側円環部7と、保持穴6の内側に形成された内側円環部8と、外側円環部7と内側円環部8とを径方向に連結し、軸方向におけるころ2の移動を規制する複数の柱部9と、をそれぞれ有している。
【0020】
保持穴6は、第1及び第2の保持器部材4,5の径方向に沿って長辺が延び、第1及び第2の保持器部材4,5を厚さ方向(軸方向)に貫通する主に長方形状の貫通孔である。第1及び第2の保持器部材4,5には、放射状に配置された複数のころ2を転動可能に保持するように、複数のころ2と同数(本実施の形態では16個)の複数の保持穴6が放射状に形成されている。保持穴6の短辺方向の幅は、ころ2の直径よりも小さく形成されており、これにより保持穴6からのころ2の離脱が抑止されている。
【0021】
なお、図1(b)及び(c)に示すように、柱部9に設けた突起によってころ2を抜け止めしてもよい。図1(b)に示す例では、第1及び第2の保持器部材4,5の径方向における保持穴6の中央部に互いに向かい合う一対の突起91を設け、これらの突起91によってころ2を抜け止めしている。また、図1(c)に示す例では、第1及び第2の保持器部材4,5の径方向における保持穴6の両端部にそれぞれ一対の突起92を設け、これらの突起92によってころ2を抜け止めしている。これらの変形例において、第1及び第2の保持器部材4,5の周方向に向かい合う突起91,92の間隔はころ2の直径よりも
小さい。すなわち、保持穴6の短辺方向の幅は、少なくとも一部においてころ2の直径よりも小さく形成されていればよい。
【0022】
内側円環部8は、中心軸Oと平行な軸方向に対して垂直に延設された板状かつ円環状の垂直部81と、垂直部81の内周側の端部から軸方向に延設された短円筒状のフランジ部82と、を一体に有する。垂直部81とフランジ部82との接続部分は丸みを帯びた形状に形成されている。
【0023】
外側円環部7は、中心軸Oと平行な軸方向に対して垂直に延設された板状かつ円環状の垂直部71と、垂直部71の径方向外方の端部から軸方向に延設されたフランジ部72と、を一体に有する。垂直部71とフランジ部72との接続部分は丸みを帯びた形状に形成されている。フランジ部72の詳細については後述する。
【0024】
外側円環部7の垂直部71と内側円環部8の垂直部81とは、軸方向における同じ位置に同軸状に配置されている。また、外側円環部7のフランジ部72と内側円環部8のフランジ部82とは、垂直部71,81から軸方向の同じ方向に延出されている。柱部9は、軸方向に対して垂直に(径方向に沿って)形成されており、両円環部7,8の垂直部71,81同士を連結している。
【0025】
(外側円環部7のフランジ部72の説明)
本実施の形態に係る保持器3では、第1及び第2の保持器部材4,5における外側円環部7のフランジ部72は、周方向に沿って複数の円弧状に分割されており、中心軸Oからの距離が等しい円弧状の大径部74と、中心軸Oからの距離が大径部74における距離よりも短い円弧状の小径部75と、をそれぞれ有している。本実施の形態では、複数の大径部74と複数の小径部75とが周方向に沿って交互に設けられている。また、大径部74及び小径部75は、それぞれ中心軸Oを軸心とする仮想の同軸の円筒体に沿った形状とされている。
【0026】
小径部75の外径(外周面の中心軸Oからの距離)は、大径部74の内径(内周面の中心軸Oからの距離)よりも若干小さくされる。以下、第1の保持器部材4における大径部74及び小径部75を、大径部74a及び小径部75aとし、第2の保持器部材5における大径部74及び小径部75を、大径部74b及び小径部75bとする。
【0027】
本実施の形態では、第1の保持器部材4と第2の保持器部材5を同じ形状とすることにより、部品を共通化して製造工程の簡素化及び低コスト化を図っている。そして、両保持器部材4,5を同じ形状とするために、両保持器部材4,5のフランジ部72に大径部74と小径部75をそれぞれ形成し、第1の保持器部材4の大径部74aと第2の保持器部材5の小径部75bとを重ね合わせ、かつ、第1の保持器部材4の小径部75aと第2の保持器部材5の大径部74aとを重ね合わせた状態で、両保持器部材4,5を互いに位置決めしている。
【0028】
図2(c)に示すように、両保持器部材4,5は、大径部74の先端部を径方向内方に変形させることで加締め固定されている。より具体的には、両保持器部材4,5は、大径部74の先端部を径方向内方に変形させ、当該先端部を小径部75の基端部(曲げにより湾曲している部分)に係止させることで互いに固定されている。加締め加工により大径部74の先端部は若干潰れて先細形状になっている。大径部74の先端部は、加締め対象となる相手側の保持器部材4,5(柱部9及び垂直部71)よりも軸方向外方に突出しないようにするのが望ましい。この際、第1保持器部材4の大径部74aと第2保持器部材5の大径部74bの一方のみを加締め固定する片面かしめとしてもよいし、両方を加締め固定する両面加締めとしてもよい。片面加締めとするか両面加締めとするかは、スラストころ軸受1の用途(要求される両保持器部材4,5の保持力)等に応じて適宜選択可能である。両面加締めとした場合、保持器3の略全周にて加締め加工が行われることになるので、従来のように外側保持器の外周を内側保持器に加締めた場合と略同等の保持力が得られることになる。
【0029】
また、両保持器部材4,5を組み合わせた状態においては、小径部75a,75bの先端部が垂直部71に接触している。小径部75a,75bは、その先端部を垂直部71に当接させることにより、両保持器部材4,5の軸方向における位置関係を定める役割を果たしている。大径部74a,74bは小径部75b,75aの全体を覆う必要がある(上述の加締め固定を行うために大径部74aの先端部が垂直部71の基端部まで延びている必要がある)ため、大径部74a,74bの垂直部71からの軸方向延出長は、小径部75a,75bの垂直部71からの軸方向延出長よりも長くなっている。
【0030】
フランジ部72は、分割溝73を形成することにより周方向に分割されている。この分割溝73は、フランジ部72から垂直部71の途中まで延びるように形成されている。なお、垂直部71は、分割溝73により周方向に分割されていない。分割溝73は、隣り合う大径部74や小径部75の間に形成され、大径部74や小径部75を形成する際の曲げ加工を容易にし、曲げ加工に伴う垂直部71の変形が近傍の形状に影響を及ぼさないようにする役割を果たす。なお、後述する他の実施の形態や変形例において、フランジ部72,82を形成する曲げ加工によって保持穴6と柱部9と垂直部71,81の変形を抑制したい場合の全てにおいて適宜、分割溝73を設けてもよい。
【0031】
また、分割溝73が周方向における保持穴6と重なる位置(つまり保持穴6の径方向外方の位置)に形成された場合、分割溝73と保持穴6間の垂直部71が狭くなって機械的強度が低下し、曲げ加工により大径部74aと小径部75bを形成する際等に保持穴6に歪みが発生してころ2に干渉する等の不具合が発生するおそれが生じる。よって、このような歪みを抑制するために、フランジ部72は、周方向における柱部9と重なる位置にて分割されることが望ましい。なお、ここでいう「周方向における柱部9と重なる位置」とは、柱部9が配置されている周方向位置であり、すなわち柱部9の径方向外方の位置を意味している。
【0032】
フランジ部72の分割位置(周方向位置)を柱部9の位置(周方向位置)と一致させるために、フランジ部72の分割数は、柱部9の数、すなわち保持穴6の数以下とすることが望ましい。大径部74と小径部75はそれぞれ少なくとも1つは必須となるため、フランジ部72の分割数は、2つ以上保持穴6の数以下であるとよい。本実施の形態では、フランジ部72の分割数を保持穴6の数と等しい16としている。なお、ここでは保持穴6が周方向に沿って1列に形成されている場合を説明したが、例えば保持穴6を内周側と外周側に2列に形成する場合などは、フランジ部72の分割数は、最も外周側に配置されている保持穴6の数以下とすればよい。
【0033】
なお、フランジ部72の分割位置を柱部9の位置と一致させることは必須ではなく、例えば、16個の保持穴6を有する場合に、フランジ部72の分割数を3や21等に設定してもよい。また、ここでは保持穴6の数が16個と偶数である場合を説明したが、保持穴6の数は奇数でもよい。
【0034】
(外側円環部7のフランジ部72の変形例)
本実施の形態では、フランジ部72を周方向に等分割して同数(ここでは8個ずつ)の大径部74と小径部75を形成すると共に、大径部74と小径部75とを周方向に交互に配置している。フランジ部72における大径部74及び小径部75の合計数は、保持穴6の数と同じである。ただし、各大径部74及び各小径部75の周方向の長さ(中心角の大きさ)は互いに異なっていてもよく、同じ形状とした第1の保持器部材4と第2の保持器部材5が組み合わせ可能に構成されていればよい。
【0035】
例えば、図4(a),(b)に示すように、大径部74の周方向長さを、小径部75の周方向長さよりも長くしてもよい。図4(a),(b)の例では、大径部74の周方向長さを、周方向に隣合う大径部74間の隙間の周方向長さと等しくしており、両保持器部材4,5を組み合わせた際に、両保持器部材4,5の大径部74が周方向に隙間無く配置されるように構成されている。これにより、フランジ部72が全体として円筒状となり段差がなくなるため、フランジ部72がスラストころ軸受1を取り付ける部材(あるいは保持器部材4,5の外側に設けられるレース)との干渉により使用時に異音が発生してしまうことを抑制できる。
【0036】
また、図5(a),(b)に示すように、第1及び第2の保持器部材4,5は、フランジ部72が欠損している欠損部(切欠き部)76を有していてもよい。図5(a),(b)の例では、フランジ部72を16個に等分割した上で、等分割された区画のうち隣り合う2区画と、当該2区画と径方向に対向する2区画を欠損部76とした場合を示しているが、欠損部76の位置や大きさはこれに限定されず、両保持器部材4,5が同じ形状となるよう適宜調整することができる。
【0037】
さらに、図6(a),(b)に示すように、フランジ部72は、第1及び第2の保持器部材4,5を組み合わせた際に重なり合わない非重複部77を有していてもよい。図6(a),(b)の例では、第1及び第2の保持器部材4,5の非重複部77が同じ内外径に形成されており、第1及び第2の保持器部材4,5を組み合わせた際に非重複部77の先端面同士が当接するように構成されている。ただし、これに限らず、両保持器部材4,5の非重複部77の内外径が互いに異なっていてもよいし、両保持器部材4,5を組み合わせた際に非重複部77間に隙間が形成されてもよい。
【0038】
さらにまた、両保持器部材4,5を組み合わせた際に、大径部74や小径部75が欠損部76と向き合うように配置されてもよい。つまり、両保持器部材4,5を組み合わせた際に、小径部75と重なり合わない大径部74や、大径部74と重なり合わない小径部75が存在してもよい。この場合、欠損部76と向き合う大径部74や小径部75が非重複部77となる。また、大径部74と小径部75は同数でなくてもよい。フランジ部72の分割数は偶数に限らず、奇数であってもよい。
【0039】
(内側円環部8のフランジ部82の変形例)
本実施の形態では、第1及び第2の保持器部材4,5における内側円環部8のフランジ部82が同じ内外径に形成されており、第1及び第2の保持器部材4,5を組み合わせた際にフランジ部82の先端面同士が当接するように構成しているが、両保持器部材4,5を組み合わせた際にフランジ部82間に隙間が形成されてもよい。
【0040】
また、保持器部材4,5に用いる金属板の板厚が厚く短円筒状のフランジ部82の形成が困難な場合等には、図7(a)~(c)に示すように、フランジ部82を周方向に分割して円弧状の分割片82aが周方向に所定の間隔で配置された構成とし、加工性の向上を図ってもよい。図7の例では、各小径部75と径方向に対向する位置に分割片82aをそれぞれ形成しており、両保持器部材4,5を組み合わせた際に一方の保持器部材4(または5)の分割片82aが、他方の保持器部材5(または4)の分割片82a間の隙間に挿入されるようになっている。各分割片82aの先端部は、垂直部81の側面(径方向内方の端面)に当接している。ただし、分割片82aの数や、分割片82aを設ける位置については、これに限定されるものではない。また、分割片82aの先端部は垂直部81に当接していなくてもよい。なお、フランジ部82の根元に適宜、分割溝を設けてもよい。
【0041】
さらに、図7の例では、分割片82aの周方向長さを、周方向に隣合う分割片82a間の隙間の周方向長さと等しくしており、両保持器部材4,5を組み合わせた際に、一方の保持器部材4(または5)の分割片82aと、当該分割片82aと隣り合う他方の保持器部材5(または4)の分割片82aとが隙間無く配置されるようになっている。これにより、フランジ部82が全体として円筒状となり段差がなくなるため、フランジ部82がスラストころ軸受1を取り付ける部材(あるいは保持器部材4,5の内側に設けられるレース)との干渉により使用時に異音が発生してしまうことを抑制できる。なお、フランジ部82の根元に適宜、分割溝を設けてもよい。
【0042】
なお、図8(a)~(c)に示すように、両保持器部材4,5を組み合わせた際に、一方の保持器部材4(または5)の分割片82aと、当該分割片82aと隣り合う他方の保持器部材5(または4)の分割片82aとの間に隙間があってもよい。隙間を有することにより、両保持器部材4,5を組み合わせる作業が容易になる。
【0043】
さらにまた、図9(a)~(c)に示すように、両保持器部材4,5の内側円環部8のフランジ部82を分割溝83により複数に分割し、フランジ部82に複数の大径部84及び小径部85を形成してもよい。つまり、図9(a)~(c)に示す変形例では、両保持器部材4,5の内側円環部8におけるフランジ部82が周方向に沿って複数の円弧状に分割されており、中心軸Oからの距離が等しい円弧状の大径部84と中心軸Oからの距離が大径部84における距離よりも短い円弧状の小径部85とをそれぞれ有している。そして、第1の保持器部材4の大径部84と第2の保持器部材5の小径部85とを重ね合わせ、かつ、第1の保持器部材4の小径部85と第2の保持器部材5の大径部84とを重ね合わせた状態で、第1の保持器部材4と第2の保持器部材5とが互いに固定されている。なお、フランジ部82は、上述の欠損部や非重複部を有していてもよい。
【0044】
また、小径部85の先端部を径方向外方に変形させることで、保持器3の内径側でも加締め固定を行ってもよい。この際、両方の保持器部材4,5の小径部85を加締める両面加締めとしてもよいし、一方の保持器部材4,5の小径部85のみを加締める片面加締めとしてもよい。また、小径部85の加締めを省略し、外側円環部7における加締めのみで両保持器部材4,5を互いに固定してもよい。なお、外側も同様に両面加締めとしても片面加締めとしてもよい。
【0045】
図9の図示例では、外側円環部7のフランジ部72における大径部74の径方向内方に内側円環部8のフランジ部82における小径部85が設けられ、外側円環部7のフランジ部72における小径部75の径方向内方に内側円環部8のフランジ部82における大径部84が設けられている。
【0046】
また、図9に示す変形例をさらに変形して図10に示すように構成してもよい。図10では、(a)に第1の保持器部材4の正面図を示し、(b)に第2の保持器部材5の背面図を示している。また、(c)に第1及び第2の保持器部材4,5を組み合わせてなるスラストころ軸受1を示し、(d)に(c)のH-H線断面図を示している。
【0047】
図9に示す例では、外側円環部7のフランジ部72が分割溝73によって複数の大径部74及び複数の小径部75に分割され、かつ内側円環部8のフランジ部82が分割溝83によって複数の大径部84及び複数の小径部85に分割され、フランジ部72における大径部74及び小径部75の合計数ならびにフランジ部82における大径部84及び小径部85の合計数が保持穴6の数と同じである場合について説明した。しかし、図10に示す例では、外側円環部7のフランジ部72が分割溝73を設けることなく複数の大径部74及び複数の小径部75に分割され、かつ内側円環部8のフランジ部82が分割溝83を設けることなく複数の大径部84及び複数の小径部85に分割され、フランジ部72における大径部74及び小径部75の合計数ならびにフランジ部82における大径部84及び小径部85の合計数が保持穴6の数よりも1つ少ない。具体的には、フランジ部72における大径部74及び小径部75ならびにフランジ部82における大径部84及び小径部85がそれぞれ7つであり、保持穴6の数が15である。なお、適宜、分割溝73,83を設けてもよい。
【0048】
このように、フランジ部72における大径部74及び小径部75の合計数ならびにフランジ部82における大径部84及び小径部85の合計数が保持穴6の数よりも1つ少ないことにより、図10に示す変形例では、複数の保持穴6のうち1つの保持穴6の外径側及び内径側に欠損部76,86が形成されている。なお、図9までの実施の形態及び変形例と同様に、隙間を設けてもよい。
【0049】
また、第1及び第2の保持器部材4,5のフランジ部72における複数の大径部74の周方向長さはそれぞれ互いに等しく、複数の小径部75の周方向長さもそれぞれ互いに等しい。第1及び第2の保持器部材4,5を組み合わせたとき、第1の保持器部材4の複数の大径部74と第2の保持器部材5の複数の大径部74、及び第1の保持器部材4の複数の小径部75と第2の保持器部材5の複数の小径部75は、略隙間なく互いに噛み合わされる。なお、図9までの実施の形態及び変形例と同様に、隙間を設けてもよい。
【0050】
同様に、第1及び第2の保持器部材4,5のフランジ部82における複数の大径部84の周方向長さはそれぞれ互いに等しく、複数の小径部85の周方向長さもそれぞれ互いに等しい。第1及び第2の保持器部材4,5を組み合わせたとき、第1の保持器部材4の複数の大径部84と第2の保持器部材5の複数の大径部84、及び第1の保持器部材4の複数の小径部85と第2の保持器部材5の複数の小径部85は、略隙間なく互いに噛み合わされる。
【0051】
また、図11に示すように、図10に示す変形例をさらに変形し、欠損部76をなくしてもよい。図11では、(a)に第1の保持器部材4の正面図を示し、(b)に第2の保持器部材5の背面図を示している。また、(c)に第1及び第2の保持器部材4,5を組み合わせてなるスラストころ軸受1を示し、(d)に(c)のI-I線断面図を示している。
【0052】
図11に示す変形例では、図10に示す変形例において外側円環部7のフランジ部72に欠損部76が形成された部分を周方向に挟む一対の大径部74及び小径部75の周方向長さを長くし、欠損部76をなくしている。また、図10に示す変形例において内側円環部8のフランジ部82に欠損部86が形成された部分を周方向に挟む一対の大径部84及び小径部85の周方向長さを長くし、欠損部86をなくしている。これにより、フランジ部72,82の複数の大径部74,84の周方向長さは均一ではなく、1つの大径部74,84の周方向長さが他の大径部74,84の周方向長さよりも長くなっている。また、フランジ部72,82の複数の小径部75,85の周方向長さは均一ではなく、1つの小径部75,85の周方向長さが他の小径部75,85の周方向長さよりも長くなっている。これら、他の大径部74,84よりも長い1つの大径部74,84と、他の小径部75,85よりも長い1つの小径部75,85とは、保持孔6の径方向外方及び内方にあたる位置で分割されている。なお、適宜、分割溝73,83を設けてもよい。図9までの実施の形態及び変形例と同様に、周方向の隙間を設けてもよい。
【0053】
なお、以上の説明では外側円環部7で加締めを行うことを前提として説明を行ったが、内側円環部8で加締めを行う場合には、外側円環部7の加締めを省略することが可能である。この場合、外側円環部7のフランジ部72は、大径部74や小径部75を有さない構造であっても許容される。例えば、外側円環部7のフランジ部72を短円筒状として、第1及び第2の保持器部材4,5を組み合わせた際にフランジ部72の先端面同士が当接するように構成してもよい(つまり図2(a)における内側円環部8のフランジ部82と同様の構成としてもよい)。また、外側円環部7のフランジ部72を周方向に分割して複数の分割片とし、加工性の向上を図ってもよい(図7及び図8の内側円環部8参照)。このように、外側円環部7のフランジ部72と、内側円環部8のフランジ部82の少なくとも一方が、大径部と小径部とを有していればよい。
【0054】
(第1の実施の形態及びその変形例の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態及びその変形例によれば、以下に述べる作用及び効果が得られる。
【0055】
(1)保持器3では、第1及び第2の保持器部材4,5のフランジ部72に大径部74と小径部75をそれぞれ形成し、第1の保持器部材4の大径部74と第2の保持器部材5の小径部75とを重ね合わせ、かつ、第1の保持器部材4の小径部75と第2の保持器部材5の大径部74とを重ね合わせた状態で、第1の保持器部材4と第2の保持器部材5とが互いに固定されている。これにより、第1の保持器部材4と第2の保持器部材5とを同形状(同一設計)として部品を共有化すること、すなわち部品点数の削減及び製造工程の削減が可能になり、従来のように形状の異なる二枚の保持器を用いた場合と比較して、製造工程の簡素化及び低コスト化が可能になる。また、フランジ部72を大径部74と小径部75とに分割することで、加締め固定の際に大径部74の先端を変形させやすくなり、加締め性が向上する。
【0056】
(2)フランジ部72が周方向における柱部9と重なる位置にて分割されていることで、分割溝73を形成することによる外側円環部7の機械的強度の低下を抑制でき、例えば、フランジ部72を形成する曲げ加工を行う際に保持穴6が歪んでころ2に干渉してしまう、といった不具合を抑制可能になる。
【0057】
(3)フランジ部72の分割数を2つ以上保持穴6の数以下とすることで、フランジ部72の分割位置を柱部9と重なる位置に設定でき、かつ、大径部74と小径部75を少なくとも1つずつ形成することが可能になる。
【0058】
(4)フランジ部72が、周方向に等分割されており、複数の大径部74と、大径部74と同数の複数の小径部75と、を有し、大径部74と小径部75とが周方向に交互に配置されていることで、大径部74と小径部75とが周方向に規則的に配置された保持器部材4,5を実現でき、両保持器部材4,5を保持する保持力を周方向に均等に分散することが可能になると共に、機械的強度等の設計が容易になる。
【0059】
(5)フランジ部72を周方向に分割する分割溝73を設けることで、大径部74や小径部75を形成する際の曲げ加工が容易にし、曲げ加工に伴う垂直部71の変形が近傍の形状に影響を及ぼさないようにすることができる。
【0060】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図12及び図13を参照して説明する。本実施の形態に係るスラストころ軸受は、第1の実施の形態及びその変形例のうち、図9を参照して説明した変形例に最も近いので、この図9に係る変形例において用いた部材等の名称及び符号を援用し、重複した説明を省略する。
【0061】
図12(a)は、本実施の形態に係るスラストころ軸受1の平面図であり、図12(b)は図12(a)のJ-J線断面図である。図13(a)は、スラストころ軸受1の保持器3を構成する第1及び第2の保持器部材4,5のうち第1の保持器部材4を示す平面図であり、図13(b)は(a)における第1の保持器部材4のK-K線断面図である。なお、図13(a)及び(b)では、第1保持器部材4の各部に対応する第2の保持器部材5の各部の符号をカッコ書きで示している。本実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に、第1保持器部材4と第2の保持器部材5とが互いに同形状に形成されている。
【0062】
図9に示す例では、外側円環部7のフランジ部72における大径部74及び小径部75の合計数ならびに内側円環部8のフランジ部82における大径部84及び小径部85の合計数が、共に保持穴6の数と同じである場合について説明したが、本実施の形態では、外側円環部7のフランジ部72における大径部74及び小径部75の合計数ならびに内側円環部8のフランジ部82における大径部84及び小径部85の数の合計数が保持穴6の数よりも少ない。具体的には、外側円環部7のフランジ部72における大径部74及び小径部75の数がそれぞれ2つ(合計数=4)であり、また内側円環部8のフランジ部82における大径部84及び小径部85の数がそれぞれ2つ(合計数=4)であり、保持穴6の数は44個である。
【0063】
外側円環部7のフランジ部72は、分割溝73によって2つの大径部74及び2つの小径部75に分割され、これらの大径部74及び小径部75がそれぞれ周方向に沿って略90°の範囲にわたって設けられている。内側円環部8のフランジ部82も同様に、分割溝83によって2つの大径部84及び2つの小径部85に分割され、これらの大径部84及び小径部85がそれぞれ周方向に沿って略90°の範囲にわたって設けられている。フランジ部72,82は、分割溝73,83により、第1及び第2の保持器部材4,5の周方向における柱部9と重なる位置にて分割されている。
【0064】
また、本実施の形態では、内側円環部8の大径部84が外側円環部7の大径部74の径方向内側に設けられ、内側円環部8の小径部85が外側円環部7の小径部75の径方向内側に設けられている。これにより、第1及び第2の保持器部材4,5の径方向の幅を確保して強度が保たれている。つまり、内側円環部8の大径部84が設けられた部分では、内側円環部8の垂直部81の径方向幅が狭くなるが、外側円環部7の垂直部71の径方向幅が広く、これにより強度が確保されている。また、外側円環部7の小径部75が設けられた部分では外側円環部7の垂直部71の径方向幅が狭くなるが、内側円環部8の垂直部81の径方向幅が広く、これにより強度が確保されている。このように強度が確保されていることにより、例えば第1の保持器部材4と第2の保持器部材5とを組み合わせる際に、これら保持器部材4,5の一方又は両方が変形してしまうことを抑制することができる。
【0065】
外側円環部7における2つの大径部74の中心軸Oからの距離は互いに等しく、外側円環部7における2つの小径部75の中心軸Oからの距離も互いに等しい。また、図13(b)に示すように、外側円環部7における2つの大径部74の中心軸Oからの距離をD11とし、外側円環部7における2つの小径部75の中心軸Oからの距離をD12とすると、D12はD11よりも短く、小径部75の外径が大径部74の内径よりも若干小さくされている。
【0066】
同様に、内側円環部8における2つの大径部84の中心軸Oからの距離は互いに等しく、内側円環部8における2つの小径部85の中心軸Oからの距離も互いに等しい。また、図13(b)に示すように、内側円環部8における2つの大径部84の中心軸Oからの距離をD21とし、内側円環部8における2つの小径部85の中心軸Oからの距離をD22とすると、D22はD21よりも短く、小径部85の外径が大径部84の内径よりも若干小さくされている。
【0067】
第1の保持器部材4の外側円環部7と第2の保持器部材5の外側円環部7とは、第1の保持器部材4の大径部74と第2の保持器部材5の小径部75とが重ね合わされ、かつ、第1の保持器部材4の小径部75と第2の保持器部材5の大径部74とが重ね合わされている。また、第1の保持器部材4の内側円環部8と第2の保持器部材5の内側円環部8とは、第1の保持器部材4の大径部84と第2の保持器部材5の小径部85とが重ね合わされ、かつ、第1の保持器部材4の小径部85と第2の保持器部材5の大径部84とが重ね合わされている。
【0068】
第1の保持器部材4と第2の保持器部材5とは、このように大径部74,84と小径部75,85とが径方向に重ね合わされた状態で、図9に示した変形例と同様に、片面加締め又は両面加締めによって互いに固定される。
【0069】
(第2の実施の形態の変形例)
次に、第2の実施の形態の第1及び第2の変形例について図14,15を参照して説明する。
【0070】
図14(a)~(d)は、第2の実施の形態の第1の変形例を示している。図15(a)~(d)は、第2の実施の形態の第2の変形例を示している。図14及び図15において、(a)は第1の保持器部材4の正面図を示し、(b)は第2の保持器部材5の背面図を示している。また、(c)は第1及び第2の保持器部材4,5を組み合わせてなるスラストころ軸受1を示し、(d)は(c)のL-L線及びM-M線断面図を示している。
【0071】
図12及び13に示す例では、外側円環部7のフランジ部72が分割溝73によって複数の大径部74及び複数の小径部75に分割され、かつ内側円環部8のフランジ部82が分割溝83によって複数の大径部84及び複数の小径部85に分割された場合について説明した。しかし、図14に示す第1の変形例では、外側円環部7のフランジ部72が分割溝73を設けることなく複数の大径部74及び複数の小径部75に分割され、かつ内側円環部8のフランジ部82が分割溝83を設けることなく複数の大径部84及び複数の小径部85に分割されている。また、図14に示す第1の変形例では、外側円環部7のフランジ部72及び内側円環部8のフランジ部82に欠損部76,86が形成されている。なお、適宜、分割溝73,83を設けてもよい。
【0072】
また、図14に示す第1の変形例では、第1及び第2の保持器部材4,5のフランジ部72における複数の大径部74の周方向長さはそれぞれ互いに等しく、複数の小径部75の周方向長さもそれぞれ互いに等しい。第1及び第2の保持器部材4,5を組み合わせたとき、第1の保持器部材4の複数の大径部74と第2の保持器部材5の複数の大径部74、及び第1の保持器部材4の複数の小径部75と第2の保持器部材5の複数の小径部75は、略隙間なく互いに噛み合わされる。なお、図9までの実施の形態及び変形例と同様に、隙間を設けてもよい。
【0073】
同様に、第1及び第2の保持器部材4,5のフランジ部82における複数の大径部84の周方向長さはそれぞれ互いに等しく、複数の小径部85の周方向長さもそれぞれ互いに等しい。第1及び第2の保持器部材4,5を組み合わせたとき、第1の保持器部材4の複数の大径部84と第2の保持器部材5の複数の大径部84、及び第1の保持器部材4の複数の小径部85と第2の保持器部材5の複数の小径部85は、略隙間なく互いに噛み合わされる。欠損部76,86は、3つの保持孔6の径方向外方及び内方にあたる範囲に形成されている。なお、図9までの実施の形態及び変形例と同様に、隙間を設けてもよい。
【0074】
図15に示す第2の変形例は、図14に示した第1の変形例をさらに変形し、欠損部76,86をなくしたものである。この第2の変形例では、第1の変形例において外側円環部7のフランジ部72に欠損部76が形成された部分を周方向に挟む一対の大径部74及び小径部75の周方向長さを長くし、欠損部76をなくしている。また、第2の変形例では、第1の変形例において内側円環部8のフランジ部82に欠損部86が形成された部分を周方向に挟む一対の大径部84及び小径部85の周方向長さを長くし、欠損部86をなくしている。これらの周方向長さが長く形成された1つの大径部74,75と小径部74,85とは、保持孔6の径方向外方及び内方にあたる位置で分割されている。なお、適宜、分割溝73,83を設けてもよい。図9までの実施の形態及び変形例と同様に、周方向の隙間を設けてもよい。
【0075】
(第2の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本発明の第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態について述べた(1)~(5)の作用及び効果に加え、以下に述べる作用及び効果が得られる。
【0076】
(6)外側円環部7のフランジ部72における大径部74及び小径部75の合計数ならびに内側円環部8のフランジ部82における大径部84及び小径部85の数の合計数が保持穴6の数よりも少ないので、第1の保持器部材4と第2の保持器部材5との組み合わせが容易となる。
【0077】
(7)第1及び第2の保持器部材4,5において、内側円環部8の大径部84が外側円環部7の大径部74の径方向内側に設けられ、内側円環部8の小径部85が外側円環部7の小径部75の径方向内側に設けられているので、第1及び第2の保持器部材4,5の径方向幅を狭くしても強度が保たれる。
【0078】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、第1及び第2保持器部材4,5が共に金属である場合を説明したが、片面加締めとする場合、加締め加工を行わない側の保持器は、PA66(ナイロン66)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂から構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1…スラストころ軸受、2…ころ、3…保持器(スラストころ軸受用保持器)、4…第1の保持器部材、5…第2の保持器部材、6…保持穴、7…外側円環部、71…垂直部、72…フランジ部、73…分割溝、74,74a,74b…大径部、75,75a,75b…小径部、76…欠損部、77…非重複部、8…内側円環部、81…垂直部、82…フランジ部、82a…分割片、82b…隙間、84…大径部、85…小径部、76…欠損部、9…柱部、O…中心軸
図1
図2
図3
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図15