(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】渋滞発生抑圧走行制御方法及び車両走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/14 20060101AFI20220525BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20220525BHJP
B60K 31/00 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
B60W30/14
F02D29/02 301C
B60K31/00 Z
(21)【出願番号】P 2017100528
(22)【出願日】2017-05-22
【審査請求日】2020-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】赤荻 三和子
(72)【発明者】
【氏名】浅見 武
(72)【発明者】
【氏名】宮袋 隼
(72)【発明者】
【氏名】松田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴暢
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-257635(JP,A)
【文献】特開平10-151967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
F02D 29/02
B60K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行状態に基づいてエンジン制御を行い前記車両の走行速度を制御可能に構成されてなる電子制御ユニットを具備してなる車両走行制御装置における渋滞発生抑圧走行制御方法であって、
前記車両が高速道路走行中に、
所定の微少時間に対するアクセル開度の変化量が、所定の値、又は、所定の範囲内にあり、かつ、速度低下が発生したと判定された場合、前記車両の実際のアクセル開度と車速から前記アクセル開度の補正量をマップ検索し、
前記補正量は前記速度低下を補償して速度低下発生前の定速走行状態とするに必要なアクセル開度の増分であって、前記実際のアクセル開度を前記増分だけ増すアクセル開度の補正を行い、前記速度低下発生前のアクセル開度に対応する速度での定速走行を維持可能とすることを特徴とする渋滞発生抑圧走行制御方法。
【請求項2】
車両の走行状態に基づいてエンジン制御を行い前記車両の走行速度を制御可能に構成されてなる電子制御ユニットを具備してなる車両走行制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記車両が高速道路走行中に、
所定の微少時間に対するアクセル開度の変化量が、所定の値、又は、所定の範囲内にあり、かつ、速度低下が発生したと判定された場合、前記車両の実際のアクセル開度と車速から前記アクセル開度の補正量をマップ検索し、
前記補正量は前記速度低下を補償して速度低下発生前の定速走行状態とするに必要なアクセル開度の増分であって、前記実際のアクセル開度を前記増分だけ増すアクセル開度の補正を行い、前記速度低下発生前のアクセル開度に対応する速度での定速走行を維持可能に構成されてなることを特徴とする車両走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行状態を制御する車両走行制御装置に係り、特に、高速道路走行における走行性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車両においては、快適で安全な走行を実現するため、様々な視点から、その走行制御のための装置が数多く提案、開示されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
例えば、高速道路における車両走行にあっては、渋滞の発生を極力抑え、快適な高速走行の維持等の観点から、無駄なブレーキングは極力回避することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上り坂での高速走行や、下り坂から上り坂となる箇所に形成された凹状のいわゆるサグ部と称されるところを高速走行する場合には、次述するように一台の車両の運転手の運転が大きな渋滞を招く要因となることがある。
【0006】
高速道路において、例えば、アクセル開度をほぼ一定の状態にして、ほぼ定速走行してる状態において、上り坂やサグ部に差し掛かった場合、アクセル開度を増すことなくそれまでのアクセル開度を維持する運転者も存在する。
このような場合、運転者自身は、ほぼ速度一定の走行を維持しているつもりであっても、上り坂の傾斜やサグ部の規模によって、車速は当然徐々に低下してゆく。
【0007】
かかる状況において、直ぐ後を走る車両の運転者は、車間距離が短くなるので、安全確保のためブレーキを踏むこととなる。
すると、この運転者がブレーキを踏んだ車両の直ぐ後を走る車両との車間距離も短くなるため、その車両の運転者も同様にブレーキを踏む。このようなことが、後続の車両において連鎖的に発生してゆき、遂には、大きな渋滞の発生を招くことがある。
【0008】
上述のような渋滞は、運転者の運転技術や状況判断の適否等に起因するものであり、運転者の運転技術や状況判断のばらつきを補い、快適な高速走行を支援する走行制御技術が望まれる。
【0009】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、運転者の運転技術のばらつき等に拘わらず高速道路での定速走行時の上り坂、サグ部走行における速度低下の抑圧、回避を可能とする渋滞発生抑圧走行制御方法及び車両走行制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る渋滞発生抑圧走行制御方法は、
車両の走行状態に基づいてエンジン制御を行い前記車両の走行速度を制御可能に構成されてなる電子制御ユニットを具備してなる車両走行制御装置における渋滞発生抑圧走行制御方法であって、
前記車両が高速道路走行中に、所定の微少時間に対するアクセル開度の変化量が、所定の値、又は、所定の範囲内にあり、かつ、速度低下が発生したと判定された場合、前記車両の実際のアクセル開度と車速から前記アクセル開度の補正量をマップ検索し、前記補正量は前記速度低下を補償して速度低下発生前の定速走行状態とするに必要なアクセル開度の増分であって、前記実際のアクセル開度を前記増分だけ増すアクセル開度の補正を行い、前記速度低下発生前のアクセル開度に対応する速度での定速走行を維持可能とするよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る車両走行制御装置は、
車両の走行状態に基づいてエンジン制御を行い前記車両の走行速度を制御可能に構成されてなる電子制御ユニットを具備してなる車両走行制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記車両が高速道路走行中に、所定の微少時間に対するアクセル開度の変化量が、所定の値、又は、所定の範囲内にあり、かつ、速度低下が発生したと判定された場合、前記車両の実際のアクセル開度と車速から前記アクセル開度の補正量をマップ検索し、前記補正量は前記速度低下を補償して速度低下発生前の定速走行状態とするに必要なアクセル開度の増分であって、前記実際のアクセル開度を前記増分だけ増すアクセル開度の補正を行い、前記速度低下発生前のアクセル開度に対応する速度での定速走行を維持可能に構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高速道路での定速走行状態において、上り坂やサグ部に差し掛かった際に運転者の積極的なアクセルの踏み込みが無く、不本意な走行速度の低下を招く虞がある場合に、アクセル開度を強制的に増大させて、速度低下を補償可能としたので、上り坂やサグ部であっても定速走行を維持することができ、渋滞発生の可能性が確実に抑圧、防止され、円滑な高速道路の交通状態の維持に寄与することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態における車両走行制御装置の構成例を示す構成図である。
【
図2】
図1に示された車両走行制御装置のエンジン制御用電子制御ユニットにより実行される渋滞発生抑圧走行制御処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【
図3】本発明の実施の形態における渋滞発生抑圧走行制御処理を実行するためにエンジン制御用電子制御ユニットに必要とされる機能をブロックで示したブロック図である。
【
図4】本発明の実施の形態における渋滞発生抑圧走行制御処理が実行された場合の車両が高速道路を定速走行で上り坂やサグ部を通過する際の車速の変化を模式的に示した模式図である。
【
図5】従来の車両において高速道路をアクセル開度一定にして定速走行状態にある場合に、上り坂やサグ部を通過する際の車速の変化を模式的に示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、
図1乃至
図5を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における車両走行制御装置の構成例について、
図1を参照しつつ説明する。
【0014】
車両走行制御装置Sは、エンジン(
図1においては「ENG」と表記)2の動作制御を実行するエンジン制御用電子制御ユニット(
図1においては「エンジンECU」と表記)1を中心に構成されている。
エンジン制御用電子制御ユニット1は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、燃料噴射弁(図示せず)を通電駆動するための回路(図示せず)等を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
【0015】
かかるエンジン制御用電子制御ユニット1には、エンジン制御のためのアクセル開度センサ11や、車速センサ12からの検出信号が、他の各種検出信号と共に入力されて、従来のようなエンジン制御処理や、後述する本発明の実施の形態における渋滞発生抑圧走行制御処理等に供されるようになっている。
なお、アクセル開度センサ11は、図示されないアクセルの踏み込み量、換言すれば、アクセル(図示せず)の開度を検出するものである。また、車速センサ12は、車両の走行速度を検出するものである。
これらは、従来から用いられており、良く知られた構成を有してなるものである。
【0016】
また、本発明の実施の形態においては、いわゆる車載ナビゲーション装置(
図1においては「NAVI」と表記)3から、道路情報、特に、車両が高速道路を走行していることを示す情報が適宜な信号形式で入力されて、後述する本発明の実施の形態における渋滞発生抑圧走行制御処理に供されるようになっている。
車載ナビゲーション装置3は、本発明特有のものではなく、汎用性のある従来構成を有してなるものである。
【0017】
次に、
図2には、エンジン制御用電子制御ユニット1により実行される本発明の実施の形態の渋滞発生抑圧走行制御処理の手順を示すサブルーチンフローチャートが、また、
図3には、本発明の実施の形態における渋滞発生抑圧走行制御処理を実行するためにエンジン制御用電子制御ユニットに必要とされる機能をブロックで示したブロック図が、それぞれ示されており、これら2つの図を参照しつつ、本発明の実施の形態の渋滞発生抑圧走行制御処理について説明する。
【0018】
エンジン制御用電子制御ユニット1による処理が開始されると、最初に、車両が高速道路を走行しているか否かが判定される(
図2のステップS102参照)。車両が高速道路を走行しているか否かは、車載ナビゲーション装置3からの高速道路走行情報に基づいて行われる。
【0019】
すなわち、車載ナビゲーション装置3においては、通常、例えば、GPS信号等を基に、車両が何処を走行しているかの認識が行われている。近年の車載ナビゲーション装置においては、技術開発の進歩により、単に、地理的な位置のみでは無く、高速道路を走行しているか否かも認識可能となっており、本発明の実施の形態においては、そのような機能を有する車載ナビゲーション装置3における高速道路走行の情報を流用するものとなっている。
【0020】
しかして、ステップS102において、車両が高速道路を走行していると判定された場合(YESの場合)、次述するステップS104の処理へ進む一方、高速道路は走行していないと判定された場合(NOの場合)、一連の処理が終了されて、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。
【0021】
ステップS104においては、アクセル(図示せず)の開度が一定であるか否かが判定される。アクセル開度が一定か否かの判定には、アクセル開度センサ11により得られた検出信号が用いられる
高速道路走行においては、定速走行がなされることがあり、この場合、アクセル開度は一定とされる。厳密には、アクセル開度が全く変動することなく一定の開度に維持されることは殆どないため、本発明の実施の形態においては、その変動量が所定範囲内であれば、アクセル開度一定(アクセル開度一定状態)と判断されるものとなっている。
【0022】
より具体的には、所定の微小時間に対するアクセル開度の変化量(時間差分)が、所定の値、又は、所定の範囲内にある場合に、アクセル開度一定と判定するのが好適である。
【0023】
ステップS104において、アクセル開度が一定であると判定された場合(YESの場合)、次述するステップS106の処理へ進む一方、アクセル開度は一定ではないと判定された場合(NOの場合)、一連の処理が終了されて、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。
【0024】
ステップS106においては、速度低下が発生しているか否かが判定される。
速度低下が発生しているか否かの判定は、車速センサ12の検出信号に基づいて行われる。
具体的には、所定時間に対する車両速度の低下量が所定値を越える場合に、速度低下が発生していると判定されるものとなっている。なお、この判定における所定時間や所定値は、個々の車両の具体的な仕様等を考慮しつつ、試験結果やシュミレーション等により適切な値を選定するのが好適である。
【0025】
ステップS106において、速度低下が発生していると判定された場合(YESの場合)、次述するステップS108の処理へ進む一方、速度低下は発生していないと判定された場合(NOの場合)、一連の処理が終了されて、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。
【0026】
ステップS106において、速度低下が発生しているとの判定がなされることで、エンジン制御用電子制御ユニット1においては、車両が上り坂、又は、サグ部を走行している状態にあると認識され(
図2のステップS108参照)、次いで、速度補正が開始されることとなる(
図2のステップS110参照)。
【0027】
ここで、速度補正について、
図3に示されたブロック図、並びに、
図4及び
図5に示された模式図を参照しつつ説明する。
速度補正の開始にあたって、まず、その時点のアクセル開度及び車速が読み込まれる。
【0028】
本発明の実施の形態における速度補正は、概括すれば、アクセル開度がほぼ一定と判定されたにも拘わらず、所定の速度低下が発生した場合に、そのアクセル開度に対応した、速度低下が発生する前の定速走行時における速度とするため、運転者のアクセル(図示せず)の踏み込みとは別個に、アクセル開度を強制的に増やして、定速走行における速度の維持を図るものである。
【0029】
そのため、エンジン制御用電子制御ユニット1の適宜な記憶領域には、現時点の実際のアクセル開度と車速に対応するアクセル開度の補正量を求めるための補正マップ21が予め記憶されている(
図3参照)。
【0030】
この補正マップ21は、アクセル開度と車速を入力パラメータとして、現時点のアクセル開度に対して必要な補正量(以下、説明の便宜上「補正アクセル開度」と称する)が読み出し可能に構成されたものである。
補正アクセル開度は、入力された実際のアクセル開度と車速の組み合わせに対応する定速走行の速度を維持するために、この時点のアクセル開度から増やす(アクセル開度の増大)べきアクセル開度の大きさ(増分)を示すものである。
かかる補正マップ21は、試験結果やシミュレーション結果等に基づいて予め定められるものである。
【0031】
アクセル補正マップ21から読み出された補正アクセル開度は、先に述べたように上り坂、又は、サグ部走行状態であるとする条件が成立している(
図2のステップS108参照)場合、この時点におけるアクセル開度に加算されるものである(
図3参照)。そして、補正アクセル開度が加算されることで、この時点のアクセル開度が補正され、加算結果である補正後のアクセル開度は、エンジン制御処理に供されることとなる。しかして、補正されたアクセル開度がエンジン制御処理に供されることで、エンジン1は、そのアクセル開度に対応した車速が生ずるよう回転制御されることとなる。その結果、速度低下発生(
図2のステップS106参照)前の一定とされたアクセル開度に対応する速度での定速走行が維持されることとなる。
【0032】
このように、補正アクセル開度に対応して車速が増加され、上り坂、又は、サグ部走行に対するアクセル開度の不足分に対する補償がなされて、上り坂、又は、サグ部走行に入る前の速度とほぼ変わることなく定速走行が維持されることとなる(
図4参照)。
【0033】
なお、
図3において、論理スイッチ22の入力が零の場合は、上り坂、又は、サグ部を走行していると認識されない場合(
図2のステップS108参照)を意味し、この場合、補正マップ21から読み出された補正アクセル開度によるこの時点のアクセル開度の補正(補正アクセル開度の加算)は行われない。
【0034】
これに対して、従来、高速道路を走行している車両が、上り坂、又は、サグ部の走行状態となっても、運転者の運転技術の習熟度の不足等から、アクセル開度をほぼ一定に維持した状態を続けると、車速は徐々に低下してゆくこととなる(
図5参照)。そのため、後続車両におけるブレーキングを順次誘発し、遂には渋滞発生を招くことがあった。
【0035】
しかしながら、本発明を適用した車両にあっては、高速道路における上り坂やサグ部走行の際に、運転手が積極的にアクセル開度を増さなくとも、上述のように必要なアクセル開度の補正が行われるため、速度低下を招くことがなく、一人の運転者の不適切なアクセル操作に端を発する渋滞の発生が未然に抑圧、防止される。
また、通常、定速走行制御は、その動作開始のためのスイッチ操作を必要とする構成が採られるが、本発明においては、制御開始のための運転手によるそのような操作を行う必要がなく、運転者の負担を増やすことなく快適で安全な走行が実現される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
運転者の運転技術に頼ることなく高速道路での定速走行時の上り坂、サグ部走行における速度低下の抑圧、回避、ひいては渋滞発生の要因発生の抑圧、防止が所望される車両走行制御装置に適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1…エンジン制御用電子制御ユニット
2…エンジン
3…車載ナビゲーション装置
11…アクセル開度センサ
12…車速センサ