(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】アクリルゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/08 20060101AFI20220525BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20220525BHJP
C08K 7/10 20060101ALI20220525BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20220525BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20220525BHJP
【FI】
C08L33/08
C08K3/34
C08K7/10
C09K3/10 E
C09K3/10 N
C09K3/10 Q
F16J15/3232 201
(21)【出願番号】P 2017182667
(22)【出願日】2017-09-22
【審査請求日】2020-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤史
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-015575(JP,A)
【文献】特開平11-302491(JP,A)
【文献】特開2010-159377(JP,A)
【文献】特開2006-118576(JP,A)
【文献】特開2015-030819(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0035235(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/08
C08K 3/34
C08K 7/10
F16J 15/3232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点Tgが-42℃以下のアクリルゴム100重量部に対し、
平均粒径5~6μmの融剤焼成けい藻土40~85重量部および炭素繊維5~25重量部を配合し、かつこれら充填剤の合計量が50重量部以上である、大気側にサイドリップを設けたドライブトレイン用オイルシールの架橋成形に用いられる架橋剤含有アクリルゴム組成物。
【請求項2】
充填剤合計量が50~110重量部である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のアクリルゴム組成物を架橋成形して得られた、大気側にサイドリップを設けたドライブトレイン用オイルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴム組成物に関する。さらに詳しくは、ドライブトレイン用オイルシールの架橋成形などに用いられる架橋剤含有アクリルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランスミッション、ディファレンシャルギヤ等の駆動系ユニットであるドライブトレイン用のオイルシールとしては、-35~+150℃という使用環境温度から、パッキン材としてアクリルゴムのシールが使用されている。しかしながら、中南米のような冠水路を走行するような環境下では、泥水が浸入することでシール摺動部に異物が噛み込み、シールの摩耗による油漏れ不具合を発生させてしまう。
【0003】
そのため、大気側にサイドリップを設ける形状に変更することで、泥水やダストに対して耐性を持たせている。
図1は、サイドリップ端面当りのオイルシールの断面形状を示しており、ここで符号Aは大気側を、符号Bは油側を、符号1はメインリップを、符号2はサイドリップを、符号3はデフレクタを、そして符号4は締め代をそれぞれ指示している。
【0004】
しかるに、かかるオイルシールにあっては、端面当てでシール寿命を持たせる一方で、サイドリップ/デフレクタ間での潤滑不良による鳴き発生の問題がみられる。通常、サイドリップ摺動部位には、潤滑不良による摩擦・摩耗を防ぐためグリースが塗布されているが、泥水によりグリースが流されたり、経年使用によってグリースの残留がなくなることで、シールの摩耗が進行し、また潤滑状態が悪化し、サイドリップ/デフレクタ間でシール鳴きという不具合が発生し、ユーザークレームにつながるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ドライブトレイン用オイルシールなどの架橋成形に用いられる架橋剤含有アクリルゴム組成物であって、それを架橋成形してドライブトレイン用オイルシールとして用いたとき、シールの摩耗が進行し、グリースがないドライ潤滑下においても鳴きを発生しないアクリルゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、ガラス転移点Tgが-42℃以下のアクリルゴム100重量部に対し、平均粒径5~6μmの融剤焼成けい藻土40~85重量部および炭素繊維5~25重量部を配合し、かつこれら充填剤の合計量が50重量部以上である、大気側にサイドリップを設けたドライブトレイン用オイルシールの架橋成形に用いられる架橋剤含有アクリルゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
シールの鳴きは、低速域(10~100rpm)で特に摩擦係数が高くなるスティックスリップにより発生しているため、その摩擦特性をコントロールすることで鳴きを抑制することができる。鳴きの抑制の手段として、アクリルゴムに配合する充填剤の種類と配合量とを適正化することで、摩耗係数を下げることができる。
【0009】
本発明において、ガラス転移点Tgが-42℃以下の超耐寒グレードのアクリルゴム100重量部に対し、平均粒径5~6μmの融剤焼成けい藻土40~85重量部および炭素繊維5~25重量部を配合し、かつこれら充填剤の合計量が50重量部以上、好ましくは50~110重量部である架橋剤含有アクリルゴム組成物が提供され、それを架橋成形してドライブトレイン用オイルシールとして用いたとき、グリースがないドライ潤滑下においても潤滑状態を良化させ、サイドリップ/デフレクタ間の鳴きを抑制することができる。
【0010】
さらに、潤滑状態が良化するため、シールの摩耗を和らげ、シール寿命の向上にもつながってくる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】サイドリップ端面当りのオイルシールの断面形状を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
アクリルゴムとしては、ガラス転移点Tgが-42℃以下の超耐寒グレードのものが用いられる。実際には、市販品、例えばユニマテック製品PA404Kなどがそのまま用いられる。ガラス転移点Tgが-31℃のアクリルゴムなどを用いると、鳴きの防止などはできても、耐寒性を満足させない。
【0013】
かかるアクリルゴムは、そこに共重合されている官能基含有単量体の官能基を利用して、ジアミン、硫黄、金属石けんなどで架橋される。用いられる架橋剤の量は、アクリルゴム100重量部に対して約0.1~2.0重量部、好ましくは約0.1~1.0重量部である。
【0014】
けい藻土は、けい藻の遺骸からなるけい酸質の堆積物であり、普通はこれに粘土、火山灰、有機物などが混在しており、本発明ではそれをソーダ灰などの融剤の存在下で焼成した平均粒径5~6μmのものが用いられる。実際には、市販品、例えば中央シリカ製品シリカ6B、オプライト製品W3005-Sなどがそのまま用いられる。
【0015】
平均粒径5~6μmの融剤焼成けい藻土は、結晶質のシリカ成分が多く、アクリルゴム100重量部当り40~85重量部の割合で用いられる。これよりも多く用いられると分散性が悪化し、一方これよりも少なく用いられると鳴きを防止することができない。ここで、融剤焼成されていない珪藻土を用いると、ゴムの耐摩耗性が劣るようになる。
【0016】
炭素繊維としては、好ましくはピッチ系炭素繊維が用いられ、それの平均繊維長が0.1mm以下のものが望ましい。具体的には、市販品、例えば大阪ガスケミカル製品S2404Nなどがそのままあるいは必要に応じて表面処理して用いられる。
【0017】
炭素繊維量については、その割合を増す程耐鳴き性には有利であるが、製品コストの点からはアクリルゴム100重量部に対して25重量部が限度であり、結局5~25重量部の割合で用いられる。これよりも少なく用いられると、鳴きを防止することができない。
【0018】
平均粒径5~6μmの融剤焼成けい藻土と炭素繊維とは、その合計量がアクリルゴム100重量部当り50重量部以上、好ましくは50~110重量部の割合で用いられる。
【0019】
これよりも少ない合計量では、鳴きがみられるようになり、一方あまり多すぎると、混練性の悪化、耐圧縮永久歪特性の低下(値の上昇)、炭素繊維のコストデメリットがみられるようになる。
【0020】
本発明では、これら以外の充填剤、例えばカーボンブラックをアクリルゴム100重量部当り70重量部以下、好ましくは10~50重量部用いることもできる。
【0021】
組成物の調製は、上記各成分の他、架橋上、物性上要求される各種配合剤を加え、オープンロール、ニーダなどを用いる任意の混練手段によって行われ、調製されたアクリルゴム組成物は、約150~200℃で約3~30分間の条件下でヒートプレスによる架橋手段で一次架橋され、さらに必要に応じて約150~230℃で約5~22時間オーブン架橋(二次架橋)される。
【実施例】
【0022】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0023】
実施例1
アクリルゴム(ユニマテック製品PA404K、Tg:-44℃) 100重量部
融剤焼成けい藻土(中央シリカ製品シリカ6B、平均粒径約5~6μm) 40 〃
炭素繊維(大阪ガスケミカル製品S2404N、平均繊維長0.04mm) 10 〃
FEFカーボンブラック(東海カーボン製品シーストSO) 50 〃
老化防止剤(大内新興化学製品ノクラックCD) 2 〃
ステアリン酸(ミヨシ油脂製品) 1 〃
硫黄(鶴見化学製品) 0.3 〃
加硫促進剤(ステアリン酸カリウム;日本油脂製品ノンサールSK-1) 1.5 〃
以上の各成分をオープンロールで混練し、調製された組成物を180℃、8分間ヒートプレスし、さらに170℃、6時間オーブン加硫(二次加硫)された。
【0024】
加硫物について、次の各項目の測定・評価を行った。
硬さ、引張強度、切断時伸び:JIS K6251-3,6253準拠
異音確認評価:端面当てのシールを作製し、これをデフレクタに接触させ、ドライ
潤滑状態で低速(10rpm)で回転させ、シールとリップ間の音が発生
しないものを○、音の発生ありを×と評価
コスト評価:現行生地対比で生地単価の上昇割合が20%未満を○、20%以上を×
と評価
分散性評価:加硫したテストピース(230×120×2.0mm)について、目視で凝集物が
ないかの確認を行い、凝集物の発生数が5個未満を○、発生数が5個以
上を×と評価
【0025】
参考例
実施例1において、アクリルゴムとしてTg:-31℃のユニマテック製品PA402Kが同量(100重量部)用いられた。
【0026】
得られた結果は、次の表1に示される。
表1
測定・評価項目 実-1 参考例
硬さ (Duro A) 81 83
引張強度 (MPa) 9.4 11.1
切断時伸び(%) 170 180
異音確認評価 ○ ○
コスト評価 ○ ○
分散性評価 ○ ○
【0027】
比較例1~3、実施例2~4
実施例1において、融剤焼成けい藻土量、炭素繊維量およびカーボンブラック量が種々変更された。
【0028】
これらの変更配合量および得られた結果は、次の表2に示される。
表2
比-1 比-2 実-2 実-3 実-4 比-3
〔配合量、重量部〕
けい藻土 0 35 40 60 85 90
炭素繊維 25 15 15 15 15 15
カーボンブラック 60 45 42 30 12 12
〔測定・評価項目〕
硬さ (Duro A) 79 80 80 80 80 81
引張強度 (MPa) 10.8 8.9 9.1 8.5 7.5 7.6
切断時伸び(%) 170 160 160 180 190 190
異音確認評価 × × ○ ○ ○ ○
コスト評価 ○ ○ ○ ○ ○ ○
分散性評価 ○ ○ ○ ○ ○ ×
【0029】
比較例4~6、実施例5~7
実施例1において、融剤焼成けい藻土量を50重量部(ただし、比較例4にあっては85重量部)に固定し、炭素繊維量およびカーボンブラック量が種々変更された。
【0030】
これらの変更配合量および得られた結果は、次の表3に示される。
表3
比-4 比-5 実-5 実-6 実-7 比-6
〔配合量、重量部〕
けい藻土 85 50 50 50 50 50
炭素繊維 0 3 5 15 25 30
カーボンブラック 25 45 42 35 27 25
〔測定・評価項目〕
硬さ (Duro A) 82 81 81 81 80 80
引張強度 (MPa) 8 9.5 9.3 8.7 7.5 7.2
切断時伸び(%) 200 180 180 190 190 190
異音確認評価 × × ○ ○ ○ ○
コスト評価 ○ ○ ○ ○ ○ ×
分散性評価 ○ ○ ○ ○ ○ ○
【0031】
比較例7、実施例8~9
実施例1において、融剤焼成けい藻土と炭素繊維との合計量が50重量部以上となるように留意し(比較例7を除く)、融剤焼成けい藻土量、炭素繊維量およびカーボンブラック量が種々変更された。
【0032】
これらの変更配合量および得られた結果は、次の表4に示される。
表4
比-7 実-8 実-9
〔配合量、重量部〕
けい藻土 40 40 85
炭素繊維 5 10 25
カーボンブラック 55 50 10
〔測定・評価項目〕
硬さ (Duro A) 82 81 79
引張強度 (MPa) 9.6 9.4 7.2
切断時伸び(%) 170 170 190
異音確認評価 × ○ ○
コスト評価 ○ ○ ○
分散性評価 ○ ○ ○
【0033】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 各実施例のものは、異音確認効果、コスト効果および分散性効果のいずれにおいても問題がみられない。参考例のものは、Tg:-31℃のアクリルゴムが用いられており、最近のデフレクタ/サイドリップシールへの低温性の要求を満足させない。
(2) ソーダ灰(融剤)を添加し、焼成することで得られる平均粒径5~6μmの融剤焼成けい藻土は、結晶質のシリカ成分が多いが、これを規定量より多く用いると、分散性が悪化する。
(3) 炭素繊維量については、その割合を増す程耐鳴き性には有利であるが、製品コストの点からは25重量部が限度である。
(4)これより少ない合計量では、異音確認評価が低下するようになる。一方、融剤焼成けい藻土量と炭素繊維の合計量に関しては、あまり多すぎると混練性の悪化、耐圧縮永久歪特性の低下(値の上昇)、炭素繊維のコストデメリットがみられるようになる。
【符号の説明】
【0034】
1 メインリップ
2 サイドリップ
3 デフレクタ
4 締め代