(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/32 20060101AFI20220525BHJP
G01M 3/26 20060101ALN20220525BHJP
【FI】
G01N3/32 Z
G01M3/26 P
(21)【出願番号】P 2017192721
(22)【出願日】2017-10-02
【審査請求日】2020-06-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】芳村 友起
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-128207(JP,A)
【文献】特開平05-045247(JP,A)
【文献】特開平11-064193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00- 3/62
G01M 3/00- 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標波形に基づいて制御対象に繰り返し応答波形を出力させる制御装置であって、
前記目標波形と前記制御対象が出力する前記応答波形のうち予め決められた所定ポイントにおける差分に基づいて、前記目標波形を修正して修正波形を求める波形修正部
と、前記修正波形を補正して入力波形を求める誤差補正部と、前記入力波形に基づいて前記制御対象を制御する制御部とを備え、
前記所定ポイントは、前記目標波形のピークが設けられるポイントであって、
前記波形修正部は、前記目標波形の前記所定ポイントにおけるピーク値と前記所定ポイントにおける前記応答波形の出力値との差分に基づいて修正値を求めるとともに、前記修正値を前記目標波形の前記所定ポイントの値に順次加算して前記修正波形を求め、
前記誤差補正部は、前記目標波形と前回制御時に前記制御対象が出力した応答波形との差分に基づいて、前記修正波形を補正して前記制御部へ次回制御時に入力する入力波形を求める
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記誤差補正部は、
前記目標波形と前回制御時に前記制御対象が出力した応答波形との差分と、前記目標波形の最大ピーク値と前記制御対象が
前回制御時に出力した応答波形の最大ピーク値の差に基づいて、前記修正波形を補正して前記制御部へ次回制御時に入力する入力波形を求める
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記誤差補正部は、
前記目標波形の最大ピーク値と前記制御部に前記目標波形を入力した際に前記制御対象が出力した応答波形の最大ピーク値の差である初回ピーク差で、前記目標波形の最大ピーク値と前記制御部へ
の入力波形の入力によって前記制御対象が出力した応答波形の最大ピーク値の差である今回ピーク差を割った値をピーク値比として
算出し、
さらに、前記目標波形
と前回制御時に前記制御対象が出力した応答波形との差分に前記ピーク値比を乗じて補正値を求め、前記修正波形に前記補正値を順次加算して
前記制御部へ入力する入力波形を求める
ことを特徴とする請求項
1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
目標とする波形の信号を繰り返し制御対象へ入力して、制御対象が目標波形通りに応答波形を出力するようにするシステムとしては、たとえば、配管やホースといった試験体の疲労耐久性をテストする圧力試験機や振動試験機がある。
【0003】
圧力試験機や振動試験機には、流体圧を用いた試験機が用いられ、試験機を制御する制御装置は、試験体に対して目標波形に沿った圧力や振動を与えるために、目標波形を入力として試験機のサーボ弁を制御する。
【0004】
具体的には、制御装置は、目標波形に対して試験機が出力する応答波形が目標波形に追従するように、一般的には、圧力試験機にあっては圧力をフィードバックする、振動試験機にあっては変位、速度或いは加速度をフィードバックするフィードバック制御を行う(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の制御装置では、目標波形に急峻なピークが含まれている場合、目標波形をフィードバックループに入力してフィードバック制御を実行しても応答波形のピーク値を目標波形におけるピーク値に一致させられない。
【0007】
制御対象には必ず応答遅れがあり、制御対象が圧力試験機である場合、作動油等の圧力媒体や試験体が弾性を有しているので、
図8に示すように、前記フィードバック制御を実行しても目標波形(図中実線)に対して応答波形(図中破線)におけるピーク部分の波形がなまってしまう。よって、目標波形をフィードバックループに入力してフィードバック制御を実行しても応答波形のピーク値が目標波形のピーク値に一致しない。
【0008】
巨視的に見れば、フィードバック制御を長時間継続していけば、応答波形のピーク値が目標波形に近づくのであるが、目標波形と応答波形のピーク値を精度よく一致させる必要がある試験では、両者のピーク値が一致を見ないのは看過し難い問題である。
【0009】
そこで、本発明の目的は、急峻なピークを含む目標波形のピーク値に制御対象の応答波形のピーク値を精度よく一致させ得る制御装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明の制御装置は、目標波形に基づいて制御対象に繰り返し応答波形を出力させる制御装置であって、目標波形と制御対象が出力する応答波形のうち予め決められた所定ポイントにおける差分に基づいて、目標波形を修正して修正波形を求める波形修正部と、修正波形を補正して入力波形を求める誤差補正部と、入力波形に基づいて制御対象を制御する制御部とを備え、所定ポイントを目標波形中のピークが設けられるポイントとし、波形修正部が目標波形のポイントにおけるピーク値と所定ポイントにおける応答波形の出力値との差分に基づいて修正値を求めるとともに、修正値を目標波形の所定ポイントの値に順次加算して修正波形を求め、誤差補正部は、目標波形と前回制御時に制御対象が出力した応答波形との差分に基づいて、修正波形を補正して制御部へ次回制御時に入力する入力波形を求める。このように構成された制御装置では、修正波形が所定ポイントにおける値が大きくなるように修正された波形となるので、制御対象の制御上の応答遅れ、圧力媒体や試験体の弾性に起因してピーク部分で応答波形がなまってしまっても、応答波形における所定ポイントにおける値を目標波形の所定ポイントにおける値に精度よく一致させ得る。よって、このように構成された制御装置は、フィードバック制御のみでは応答波形を目標波形に一致させ難いピーク部分でも精度良く両者を一致させられる。
【0011】
また、制御装置では、波形修正部が目標波形の所定ポイントにおけるピーク値と所定ポイントにおける応答波形の出力値との差分に基づいて修正値を求め、修正値を目標波形の所定ポイントの値に順次加算して修正波形を求めている。このように制御装置が修正波形を求めると、差分に応じて目標波形が修正されるので、制御装置が制御対象を制御するたびに所定ポイントにおいて応答波形が目標波形に一致するように修正されて応答波形の所定ポイントにおける目標波形への一致も早い。
【0012】
また、誤差補正部は、目標波形と前回制御時に制御対象が出力した応答波形との差分と、目標波形の最大ピーク値と制御対象が前回制御時に出力した応答波形の最大ピーク値の差に基づいて、修正波形を補正して制御部へ次回制御時に入力する入力波形を求めてもよい。このように構成された制御装置では、目標波形を修正した修正波形を補正して制御部への入力波形とするので、所定ポイントにおける目標波形に対する応答波形の一致度を高めつつ、制御回数に伴って応答波形を目標波形に近づける誤差補正も同時に行える。よって、この制御装置によれば、応答波形の全体が目標波形に追従し、かつ、応答波形が目標波形に追従するまでの時間も極めて短くて済む。
【0013】
さらに、誤差補正部は、目標波形の最大ピーク値と制御部に目標波形を入力した際に制御対象が出力した応答波形の最大ピーク値の差である初回ピーク差で、目標波形の最大ピーク値と制御部への入力波形の入力によって制御対象が出力した応答波形の最大ピーク値の差である今回ピーク差を割った値をピーク値比として算出し、目標波形と前回制御時に制御対象が出力した応答波形との差分にピーク値比を乗じて補正値を求め、修正波形に補正値を順次加算して制御部へ入力する入力波形を求めてもよい。このように構成された制御装置によれば、応答波形が目標波形に近づく際に目標波形を大きくオーバーシュートするのが防止されて、目標波形によく追従するようになり、応答波形が目標波形に一致するか充分に近づくと、補正値が非常に小さくなるので、入力波形の補正を自動的に中止する効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の制御装置によれば、急峻なピークを含む目標波形のピーク値に制御対象の応答波形のピーク値を精度よく一致させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施の形態におけるシリンダ制御装置のシステム構成図である。
【
図2】一実施の形態における制御装置の制御ブロック図である。
【
図4】初回制御時における目標波形と応答波形を示した図である。
【
図5】二回目の制御時における修正波形を示した図である。
【
図6】初回制御時における目標波形、応答波形および誤差補正部で演算される差分を示した図である。
【
図7】二回目の制御時における入力波形、応答波形を示した図である。
【
図8】従来のフィードバック制御のみを実行した際の目標波形と応答波形を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、一実施の形態における制御装置1は、本例では、圧力試験機Aを制御するため、圧力試験機Aが出力する圧力Pを検知する圧力検知部2と、入力波形に従って圧力試験機Aのサーボ弁Vを制御する制御部3と、目標波形を修正して修正波形を求める波形修正部4と、修正波形を補正して制御部3へ入力する入力波形を求める誤差補正部5とを備えて構成されている。制御装置1は、繰り返し入力される目標波形に基づいて繰り返し応答波形の圧力を出力させるよう圧力試験機Aを制御するものである。
【0017】
他方、圧力試験機Aは、出力される流体圧力を制御するサーボ弁Vを備えており、制御装置1によるサーボ弁Vの制御によって、圧力試験機Aが出力する圧力が調整される。なお、圧力試験機Aは、図示はしないが、たとえば、ポンプと、ポンプから圧力流体の供給を受けるブースターシリンダを備えており、ブースターシリンダから出力される流体圧力をサーボ弁Vで調節して、ホース等の試験体Tの内部へ圧力を負荷するものである。サーボ弁Vは、ソレノイドで駆動する比例電磁弁とされており、制御装置1から供給される電流量に応じて試験体Tへ与える圧力を調整する。
【0018】
圧力検知部2は、本例では、圧力試験機Aが出力する圧力を試験体Tへ導く管路Hに設置されており、圧力試験機Aが出力する圧力Pを検知して、制御部3、波形修正部4と誤差補正部5へ入力するようになっている。なお、圧力検知部2は、圧力試験機Aが出力する圧力を検出可能な位置に設ければよい。
【0019】
目標波形は、圧力試験機Aが試験体Tへ負荷すべき圧力を時系列で指示する圧力指令であり、一回の目標波形の入力に対して制御装置1が圧力試験機Aを制御して応答波形の出力が終了すると、再度、制御装置1に入力される。よって、制御装置1は、繰り返し入力される目標波形に対して制御対象である圧力試験機Aに繰り返し応答波形の圧力を出力させる制御を行う。
【0020】
制御部3は、
図2に示すように、本例では、圧力試験機Aが出力すべき圧力(指示圧力)P
*を指示する入力波形と圧力検知部2が検知する圧力Pに基づいて、サーボ弁Vへ与えるべき電流量を指示する制御指令I
*を生成し、サーボ弁Vへ電流を供給する。
【0021】
制御部3に入力される入力波形は、本例では、目標波形を波形修正部4が修正した修正波形をさらに誤差補正部5が補正した波形とされる。ただし、制御部3が最初にサーボ弁Vを制御する初回では、入力波形は、
図3に示すように、試験体Tへ負荷すべき理想的な圧力波形を示す目標波形とされる。目標波形は、予め試験体Tへ負荷したい圧力を時系列に指示する一回分の圧力指令として設定される。目標波形は、一制御周期毎に一つの指示圧力P
*を指示しており、本例では、5000個の目標圧力のデータで構成されている。制御周期は、本例では、0.2msとしているので、目標波形は1s分の目標圧力のデータセットである。本例の目標波形は、
図3に示すように、始点のポイントaから終点のポイントhまでの間に変曲点であるポイントb、ポイントc、ポイントd、ポイントe、ポイントf、ポイントgを備えた波形とされており、指示圧力が0であるポイントa,hの他、各ポイントb,c,d,e,f,gにおいて指示圧力が設定されている。そして、隣りあうポイント同士は、直線で接続される波形となっている。よって、各ポイントb,c,d,e,f,gについて指示圧力を設定すれば、ポイント間のデータを前記条件に従って補完して自動的に目標波形のデータセットを作成できる。また、入力波形もまた、目標波形と同様の5000個の目標圧力のデータで構成される。なお、本例の目標波形は、一例であり、図示した波形以外の波形を目標波形としてもよいのは当然である。
【0022】
具体的には、制御部3は、
図2に示すように、後述する入力波形演算部53から出力される入力波形が指示する圧力P
**と圧力試験機A(圧力検知部2)から出力される圧力Pとの偏差Eを求める加算部31と、加算部31が求めた偏差EをPID補償して制御指令I
*を求める補償部32と、制御指令I
*通りにサーボ弁Vへ電流を供給するドライバ33とを備えて構成されている。
【0023】
加算部31は、入力波形が指示している圧力P**と圧力検知部2が検知した圧力Pとの偏差Eを求めて補償部32へ入力する。補償部32は、本例では偏差Eを比例積分微分補償してサーボ弁Vへ与える電流を指示する制御指令I*を求める。つまり、制御部3は、本例では、圧力フィードバックによってサーボ弁Vを制御する。なお、補償部32は、本例では、PID補償器とされているが、比例積分補償するPI補償器とされてもよい。
【0024】
そして、求められた制御指令I*は、ドライバ33に入力されて、ドライバ33は、制御指令I*通りにサーボ弁Vに電流を供給する。ドライバ33は、たとえば、オペアンプ等によるアナログ回路やスイッチング素子を備えて、スイッチング素子のオンオフによって電源からサーボ弁Vのソレノイドに供給する電流量を調節可能な回路とされる。
【0025】
波形修正部4は、
図2に示すように、目標波形の予め決められた所定ポイントと圧力検知部2で検知する圧力試験機Aが出力した圧力Pの波形である応答波形の所定ポイントとの差分を求める差分演算部41と、前記差分に基づいて目標波形に加算する修正値を求める修正値演算部42と、求めた修正値を目標波形に加算して今回制御に使用する修正波形を求める修正波形演算部43と、求めた修正値を積算して記憶する記憶部44を備えている。
【0026】
差分演算部41は、所定ポイントにおける目標波形と圧力検知部2で検知する圧力試験機Aが出力した圧力Pの波形である応答波形との差分を求める。差分演算部41は、この目標波形中の所定ポイントにおける値と、応答波形中で目標波形の所定ポイントに対応して圧力試験機Aが出力した圧力Pの値(出力値)との差分を求める。本例では、所定ポイントは、目標波形中の目標圧力のデータの中から特定のデータを指定する形で設定されており、
図3に示すように、目標波形中の最大のピーク値を持つデータに対応するポイントbを所定ポイントとして設定してある。したがって、差分演算部41は、この目標波形中の最大のピーク値と、応答波形中で目標波形の所定ポイントに対応して圧力試験機Aが出力した圧力Pの値(出力値)との差分ΔPを求める。
図4に、初回制御時において入力波形を目標波形として、図中の実線で示す目標波形と、この目標波形の制御部3への入力に対して制御対象である圧力試験機Aが出力した圧力Pの波形である応答波形(図中の波線)を示している。差分演算部41は、所定ポイントである目標波形の最大ピーク値の指示圧力P
*の値と圧力試験機Aが出力する応答波形における所定ポイントにおける圧力Pの値(出力値)との差分ΔPを求める。
【0027】
修正値演算部42は、差分演算部41が演算した差分ΔPに修正係数(ゲイン)を乗じて修正値を求める。記憶部44は、修正値演算部42が順次求めた修正値を順次加算して修正値の積分値を求めて記憶する。つまり、記憶部44は、自身が記憶している積分値に、修正値演算部42が新たに求めた修正値を加算して順次積分値を更新して記憶する。修正波形演算部43は、記憶部44に記憶している積分値と前回に修正値演算部42が求めた修正値を加えて、入力される目標波形に加算して今回制御に使用する修正波形を求める。修正波形演算部43は、具体的には、目標波形における所定ポイントであるポイントbの値を前記積分値と前記修正値を加算して修正し、修正後のポイントbとポイントaとの間と修正後のポイントbとポイントcとの間を直線で接続する波形となるように補完して修正波形のデータセットを生成する。なお、本例では、目標波形が各ポイント間を直線で結んだ波形となっているので、修正波形演算部43は、ポイントa,b間とポイントb,c間を直線で接続する補完を行う。目標波形がポイント間を直線以外の線で結ぶ波形となっている場合には、修正波形演算部43は、ポイント間を結ぶ線の条件に従って補完すればよい。
【0028】
このように、制御装置1は、目標波形の入力によって圧力試験機Aを制御する度に修正値を求めるようになっており、一回の制御の度に演算される修正値が目標波形に順次加算されて、修正波形が求められる。換言すれば、修正波形は、修正値が積分されて目標波形に加算されて求められる。よって、目標波形と応答波形とに所定ポイントにおいて差分ΔPが0でないと、基本的には、修正波形は制御装置1が制御を実行する度に修正される。なお、制御の初回では、差分演算部41は差分ΔPを演算しておらず、0を出力するので、修正値演算部42も修正値を0として求め、修正波形演算部43は、入力される目標波形に0を加算する。よって、初回制御時には、修正波形演算部43は、目標波形をそのまま誤差補正部5へ出力するので、波形修正部4は目標波形を修正しない。二回目の制御時には、修正値演算部42は、目標波形における所定ポイントの値と初回制御時に圧力試験機Aが出力した応答波形における前記所定ポイントに対応する値との差分ΔPに修正係数を乗じて修正値を求める。この二回目の制御時には、修正波形演算部43は、目標波形の所定ポイントであるポイントbのデータ値に修正値を加算して修正波形を求めて誤差補正部5へ出力する。このように、波形修正部4は、制御が進むたびに、差分ΔPに応じた修正値を求めて、修正波形を生成する。
【0029】
目標波形におけるポイントbの値に対して応答波形におけるポイントbに対応する値(出力値)との差分ΔPが正の値を持つと、修正係数をK
Sとすると、正のK
S・ΔPの値を持つ修正値が求められる。すると、
図5に示すように、波形修正部4によって生成される修正波形(図中実線)は、目標波形(図中破線)に比較してポイントbにおいてK
S・ΔPだけ大きな値を持つ波形となる。目標波形におけるポイントbの値に対して応答波形におけるポイントbに対応する値(出力値)との差分ΔPが正の値を持ち続けると、修正波形は、ポイントbにおいて目標波形に対して値が大きくなり続け、修正波形に基づいて制御部3が制御した結果、圧力試験機Aの応答波形がポイントbにおいて目標波形に一致すると、波形修正部4における目標波形の修正が停止される。なお、修正値演算部42は、求めた修正値の絶対値が充分に小さく、予め設定した停止閾値以下になると、修正値を0とするようにして、波形修正部4における目標波形の修正を停止させてもよい。
【0030】
なお、記憶部44は、修正値を記憶するのではなく、修正波形演算部43が求めた修正波形を記憶する場合、修正波形演算部43は、記憶部44が前回記憶した修正波形に修正値演算部42が求めた修正値を加算して新たな修正波形を求めるように構成されてもよい。このようにしても、修正値演算部42が順次求めた修正値が目標波形に順次加算されていくのに変わりはないので、修正波形に求めた修正値を加算して修正波形を更新するのと、目標波形に都度求められる修正値を順次加算して修正波形を求めるのは等価である。
【0031】
誤差補正部5は、修正波形を補正して制御部3へ入力する入力波形を求める。誤差補正部5は、
図2に示すように、目標波形と圧力検知部2で検知した圧力試験機Aが出力する圧力Pの波形である応答波形との差分を求める差分演算部51と、前記差分に基づいて今回に制御部3に入力された入力波形に加算する補正値を求める補正値演算部52と、求めた補正値を今回入力された入力波形に加算して次回に制御部3へ入力する入力波形を求める入力波形演算部53と、求めた補正値を記憶する記憶部54を備えている。
【0032】
差分演算部51は、目標波形と圧力検知部2で検知する圧力試験機Aが出力した圧力Pの波形である応答波形との差分を求める。
図6に、初回制御時において入力波形を目標波形として、図中で実線で示す目標波形と、この目標波形の制御部3への入力に対して制御対象である圧力試験機Aが出力した圧力Pの波形である応答波形(図中の波線)を示している。差分は、具体的には、入力波形が指示する一つのデータとしての指示圧力P
**に対する圧力試験機Aが出力した応答波形の圧力Pとの差を時系列にしたデータとなる。よって、目標波形に対して応答波形が
図6に示すように推移すると、これらの差分は、
図6中の下方に示すような波形のデータとなる。また、差分演算部
51は、本例では、
図6に示すように、目標波形に設定される補正対象区間でのみ前記差分を演算する。目標波形は、本例では、途中で指示する指示圧力P
*が一定となる区間を二つ有しており、この区間では、目標波形が指示する指示圧力P
*を制御部3に入力して圧力フィードバックが行われれば、応答波形も目標波形によく追従するため、修正波形を補正する必要がない。よって、このような区間では、補正値を求めるための差分の演算も補正値の演算および記憶も不要となる。よって、補正対象区間は、本例では、目標波形のうち指示圧力P
*に変化がない区間以外の区間、つまり、指示圧力P
*に変動がある区間を補正対象区間として設定されている。具体的には、
図6に示すように、補正対象区間は、目標波形の一番先頭のデータから1000個目までの範囲と3000個目から3400個目までの範囲に設定されている。このように、補正対象区間は、データ順の番号を指定して設定するほか、目標波形は時系列の目標圧力のデータであるから時間によって範囲を設定してもよい。
【0033】
補正値演算部52は、差分演算部51が演算した差分と、ピーク値比と、補正係数とを乗じて補正値を求める。入力波形演算部53は、補正値演算部52が求めた補正値に記憶部54に記憶している前回に補正値演算部52が求めた補正値を加えて、入力される修正波形に加算して次回に制御部3へ入力する入力波形を求める。記憶部54は、自身が記憶している補正値に、補正値演算部52が新たに求めた補正値を加算して順次補正値を更新して記憶する。このように、制御装置1は、入力波形の制御部3への入力によって圧力試験機Aを制御する度に補正値を求めるようになっており、一回の制御の度に演算される補正値が修正波形に順次加算されて、入力波形が求められる。換言すれば、入力波形は、補正値が積分されて修正波形に加算されて求められる。よって、入力波形と修正波形とに差分が0でないと、基本的には、入力波形は制御装置1が制御を実行する度に補正される。なお、制御の初回では、差分演算部51は差分を演算しておらず、0を出力するので、補正値演算部52も補正値を0として求める。制御の初回では、前述したように波形修正部4も目標波形を出力するので、入力波形演算部53は、入力される目標波形に0を加算する。よって、初回制御時には、入力波形演算部53は、目標波形をそのまま制御部3へ入力するので、入力される目標波形を補正せずにそのまま出力する。二回目以降の制御では、波形修正部4が目標波形を修正して修正波形を出力し、補正値演算部52も補正値を求めるので、誤差補正部5は、修正波形に補正値を加算して入力波形を生成して制御部3へ出力するようになる。
【0034】
なお、記憶部54は、補正値を記憶するのではなく、入力波形演算部53が求めた入力波形を記憶する場合、入力波形演算部53は、記憶部54が前回記憶した入力波形に補正値演算部52が求めた補正値を加算して新たな入力波形を求めるように構成されてもよい。このようにしても、修正波形に、順次補正値演算部52が求めた補正値が加算されていくのに変わりはないので、入力波形に求めた補正値を加算して入力波形を更新するのと、目標波形に都度求められる補正値を順次加算して入力波形を求めるのは等価である。
【0035】
ここで、補正値演算部52の演算内容について詳しく説明する。前記したピーク値比は、目標波形の最大ピーク値と圧力試験機Aが制御の初回に出力した応答波形の最大ピーク値の差である初回ピーク差で、目標波形の最大ピーク値と圧力試験機Aが今回の制御時に出力した応答波形の最大ピーク値の差である今回ピーク差を割った値である。最大ピーク値は、波形の最大値とされており、
図6に示したところでは、
図6中実線で示す目標波形のポイントbにおける最大ピーク値P1と圧力試験機Aが制御初回に出力した応答波形の最大ピーク値P2の差を初回ピーク差δiniとする。なお、初回の制御時には、目標波形が補正されずにそのまま入力波形とされているので、差分は、
図6の下方に示された波形の如くに求められて補正値が求められ、続く次回制御時には、修正波形に補正値が加算されて入力波形とされる。
図7に示すように、二回目の制御時において、入力波形が
図7中実線のように補正され、その入力波形に対して応答波形が
図7中破線のように推移すると、
図7中一点鎖線で示す目標波形の最大ピーク値P1と圧力試験機Aが今回出力した応答波形の最大ピーク値P3の差が今回ピーク差δnowとなる。補正値演算部52は、初回ピーク差δiniと今回ピーク差δnowとを求め、ピーク値比を演算する。二回目の制御時において、ピーク値比αは、α=δnow/δiniで演算される。三回目の制御時には、また、目標波形の最大ピーク値P1と応答波形のピーク値との差として今回ピーク差δnowが求められ、初回ピーク差δiniは、制御の初回に求められると制御中は一定の値とされる。
【0036】
補正値演算部52は、差分演算部51が演算した差分をεとし、ピーク値比をαとし、補正係数をKHとすると、補正値を補正値=KH・ε・αを演算して求める。
【0037】
このように制御装置1は構成されており、目標波形が繰り返し入力される。目標波形の入力に対して波形修正部4が目標波形を修正して修正波形を生成し、誤差補正部5が修正波形を補正して入力波形を生成する。こうして得られた入力波形が入力される制御部3は、入力波形が指示する指示圧力P**と圧力検知部2が検知する圧力Pとに基づいて圧力フィードバック制御を行い圧力試験機Aが出力する圧力を制御する。一回の目標波形の入力に対して制御装置1が圧力試験機Aを制御するのを一回目(初回)の制御とし、前述した通り、初回では目標波形がそのまま入力波形として制御部3に入力される。
【0038】
一回目の制御時において入力波形である目標波形と制御部3による圧力フィードバック制御によって圧力試験機Aが出力する圧力の応答波形には差が生じる。二回目の制御時では、目標波形の制御装置1への入力に対して、初回の入力波形である目標波形と実際に検知された圧力波形である応答波形との差分が演算され、修正値演算部42と補正値演算部52が前述の演算を行ってそれぞれ修正値と補正値が求められる。
【0039】
よって、二回目の制御では、波形修正部4によって目標波形が修正されて修正波形が生成され、誤差補正部5によって修正波形に補正値が加算され修正波形が補正されて入力波形が生成される。一回目の制御では、目標波形は入力波形とされているので、二回目の制御で入力される入力波形は、目標波形が修正値によって修正された後、修正波形に補正値が加算されて補正される。二回目の制御によって得られる入力波形と応答波形は、目標波形に対して修正値によって修正されるとともに補正値が加算されるために、
図5に示すように、ポイントbにおいてピーク値が大きくなるとともに、補正対象区間において振幅が上下に大きくなる波形となる。二回目の制御では、このように入力波形が補正されるため、応答波形も目標波形が制御部3に入力される一回目の制御の時の応答波形よりも、目標波形に近づく波形となる。以降、制御回数を重ねると順次入力波形が補正されて、応答波形が目標波形に近づいていく。
【0040】
そして、波形修正部4が所定ポイントにおける目標波形と圧力検知部2で検知する圧力試験機Aが出力した圧力Pの波形である応答波形との差分に基づいて目標波形を修正して修正波形を生成する。本例の制御装置1は、このように修正波形を求めるので、修正波形が所定ポイントにおける値が大きくなるように修正された波形となり、圧力試験機Aの制御上の応答遅れ、圧力媒体や試験体Tの弾性に起因してピーク部分で応答波形がなまってしまっても、応答波形における所定ポイントにおける値を目標波形の所定ポイントにおける値に精度よく一致させ得る。よって、本発明の制御装置1によれば、急峻なピークを含む目標波形に対して制御対象の応答波形の追従性を向上できる。
【0041】
また、本例の制御装置1では、所定ポイントを目標波形中のピークが設けられるポイントとし、波形修正部4が目標波形のポイントにおけるピーク値と所定ポイントにおける応答波形の出力値との差分に基づいて修正波形を求めるように構成されているので、フィードバック制御のみでは応答波形を目標波形に一致させ難いピーク部分でも精度良く両者を一致させられる。
【0042】
なお、本例の制御装置1では、所定ポイントにて応答波形を目標波形に一致させられるので、所定ポイントを目標波形のピーク以外に設定してもよい。また、所定ポイントを目標波形の複数のポイントに設定すれば、制御装置1は、所定ポイントに選ばれたポイントにおいて応答波形を目標波形に一致させ得る。
【0043】
さらに、本例の制御装置1では、波形修正部4が目標波形の所定ポイントにおけるピーク値と所定ポイントにおける応答波形の出力値との差分に基づいて修正値を求め、修正値を目標波形の所定ポイントの値に順次加算して修正波形を求める。このように制御装置1が修正波形を求めると、差分に応じて目標波形が修正されるので、制御装置1が制御対象である圧力試験機Aを制御するたびに所定ポイントにおいて応答波形が目標波形に一致するように修正されて応答波形の所定ポイントにおける目標波形への一致も早い。なお、波形修正部4における目標波形の修正は、修正値によるもの以外に、差分に応じてゲインを決定して目標波形における所定ポイントの値に前記ゲインを乗じて当該値を修正して、修正波形を求める方法も採用できる。
【0044】
また、本例の制御装置1では、入力される波形に基づいて圧力試験機(制御対象)Aを制御する制御部3と、目標波形と圧力試験機(制御対象)Aが今回出力した応答波形との差分と、目標波形の最大ピーク値と圧力試験機(制御対象)Aが今回出力した応答波形の最大ピーク値の差に基づいて、修正波形を補正して制御部3へ入力する入力波形を求める誤差補正部5を備えている。このように構成された制御装置1では、目標波形を修正した修正波形を補正して制御部3へ入力する入力波形とするので、所定ポイントにおける目標波形に対する応答波形の一致度を高めつつ、制御回数に伴って応答波形を目標波形に近づける誤差補正も同時に行える。よって、この制御装置1によれば、応答波形の全体が目標波形に追従し、かつ、応答波形が目標波形に追従するまでの時間も極めて短くて済む。
【0045】
さらに、本例の制御装置1では、目標波形の最大ピーク値と圧力試験機(制御対象)Aが初回に出力した応答波形の最大ピーク値の差である初回ピーク差で、目標波形の最大ピーク値と圧力試験機(制御対象)Aが今回出力した応答波形の最大ピーク値の差である今回ピーク差を割った値をピーク値比とし、目標波形と目標波形に対して圧力試験機(制御対象)Aが今回出力した応答波形との差分にピーク値比を乗じて補正値を求め、修正波形に補正値を順次加算して入力波形を求めるようになっている。
【0046】
ここで、差分εにピーク値比αを乗じずに、差分εに補正係数KHのみを乗じて補正値を求めると、入力波形は、差分εが0にならなければ、制御回数が増えれば増えるほど、振幅が大きくなる。そのため、何回目かの制御において、応答波形が目標波形に一致するような入力波形が得られても、それ以降の制御で入力波形の振幅が大きくなるように補正されてしまい、応答波形が目標波形を大きくオーバーシュートしてしまう。これに対して、本例では誤差補正部5は、入力波形と応答波形の差分εにピーク値比αを乗じて補正値を求めている。ピーク値比αは、今回のピーク差δnowを初回のピーク差δiniで割った値であるので、応答波形のピーク値が目標波形のピーク値に近づけば近づくほどピーク値比αの値は小さくなっていく。よって、このように補正値を求めると、応答波形が目標波形に近づくと前回の入力波形に対して次回の入力波形は振幅の増幅度合は小さくなる。これにより、応答波形が目標波形に近づく際に目標波形を大きくオーバーシュートするのが防止され、目標波形によく追従するようになる。また、補正値は、目標波形と応答波形の差分ではなく、目標波形より振幅が大きくなる入力波形と応答波形との差分εに基づいて求められるので、目標波形と応答波形の差分を利用するよりも、応答波形が目標波形に追従するまでの時間を短縮できる。なお、補正値を求めるのに際して、差分εに補正係数KHを乗じているが、この補正係数KHは、一回の制御で応答波形が目標波形に近づく量を調整する調整要素であり、値は、任意に設定でき、不要であれば省略できる。
【0047】
以上より、本例の制御装置1では、応答波形が目標波形に近づく際に目標波形を大きくオーバーシュートするのが防止されて、目標波形によく追従するようになり、応答波形が目標波形に一致するか充分に近づくと、補正値が非常に小さくなるので、入力波形の補正を自動的に中止する効果が得られる。
【0048】
なお、補正値をピーク値比αを利用せず、差分εに補正係数KHを乗じるのみで求める場合、目標波形のピーク値と応答波形のピーク値の差に閾値βを設定しておき、目標波形のピーク値と応答波形のピーク値の差の絶対値が閾値β以下となると入力波形の補正を行わないようにするか、補正値を0とするようにしてもよい。閾値βは、応答波形が目標波形に充分追従すると認められる範囲を設定するものであり、任意に設定できる。本例では、ピーク値比αを利用して補正値を求めるので、応答波形が目標波形に一致するか充分に近づくと、補正値が非常に小さくなる。しかしながら、数百万回のオーダー(桁数)で繰り返し試験を行うような場合には、補正値が充分小さくなっても補正値が加算されて入力波形が発散し、制御上発振する可能性がある。よって、ピーク値比αを利用して補正値を求める場合にも、閾値βと目標波形のピーク値と応答波形のピーク値の差の比較判断を行うのが望ましい。
【0049】
また、本例の制御装置1は、目標波形に対して補正対象区間を設定し、補正対象区間外では、前記補正を行わないので、補正値を記憶する記憶部54における記憶容量が小さくて済むので、制御装置1のコストを低減できる。
【0050】
以上より、制御装置1は、繰り返し同一波形の出力が要求されるとともに、圧力媒体や試験体Tの弾性の影響で応答波形が目標波形に一致しづらい圧力試験機Aの制御に最適となる。
【0051】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【符号の説明】
【0052】
1・・・制御装置、3・・・制御部、4・・・波形修正部、5・・・誤差補正部、A・・・圧力試験機