(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20220525BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20220525BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L23/26
C08K3/26
(21)【出願番号】P 2018091279
(22)【出願日】2018-05-10
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-158461(JP,A)
【文献】国際公開第2012/115147(WO,A1)
【文献】特開2011-006680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08L 23/26
C08K 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロタルサイト類化合物の存在下で変性ポリオレフィンを製造して、変性ポリオレフィンおよびハイドロタルサイト類化合物を含有する混合物(1)を得る工程、および
ポリアミドと前記混合物(1)とを混合する工程
を含
み、
前記変性ポリオレフィンのポリオレフィン骨格部分はエチレン・α-オレフィン共重合体であり、
前記エチレン・α-オレフィン共重合体はエチレンから導かれる構造単位を70~99.5モル%およびα-オレフィンから導かれる構造単位を0.5~30モル%含む、
ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは、エンジニアリングプラスチックとしての優れた特性を利用して、自動車分野、電気・電子分野などで幅広く使用されている。これらの分野で用いられる自動車部品、電気部品には、その機能の必要性から耐衝撃性を要求されることがあり、耐衝撃性を付与する方法として、従来、ポリアミドに変性ポリオレフィン樹脂を配合する方法が知られている(特許文献1、2など)。
【0003】
また、ポリアミドに、酸化防止剤または耐熱安定剤としてハイドロタルサイト類が配合されることもある(特許文献3、4など)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-335551号公報
【文献】特開平11-335553号公報
【文献】特開2002-220461号公報
【文献】特開2002-220462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリアミドに変性ポリオレフィンが配合されたポリアミド樹脂組成物から形成された部材、特にエンジン周辺部材には、軽量化を目的とした小型化、薄肉化によって使用の際に部材またはその周辺の温度上昇が過酷となるため、耐熱老化性の観点から長期信頼性のさらなる向上が要求される。
【0006】
そこで本発明は、耐熱老化性の観点から長期信頼性に優れた部材(たとえばベアリング、ベアリングケージ、歯車、スプール、ランプソケットハウジング、ファン、インペラ、電磁弁ハウジング、インテークマニホールド、エアバッグハウジング、クイックコネクター、エンジンカバー、燃料チューブ、結束帯、ファスナー、リテーナー、キャニスター、サーモスタットハウジングまたはジャンクションボックス、特にエンジン周辺部材)を成形するのに適したポリアミド樹脂組成物、およびこのようなポリアミド樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究したところ、ポリアミド樹脂組成物の耐熱老化性を高めることにより、またハイドロタルサイト類化合物の配合方法に工夫を加えることにより上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]
ポリアミドおよびハイドロタルサイト類化合物を含有し、下記要件(1)および/または下記要件(2)を満たし、下記要件(3)を満たし、かつ下記要件(4)を満たすポリアミド樹脂組成物。
要件(1):下記式(1):
衝撃強度保持率
=耐熱老化試験後の衝撃強度/耐熱老化試験前の衝撃強度 …(1)
〔式(1)中、耐熱老化試験とは、前記組成物から作製した試験片を160℃で、500時間、空気中に保持する試験であり、
衝撃強度とは、ASTM D256に準拠して-40℃で測定されるアイゾット衝撃強さである。〕
で表される衝撃強度保持率が60%以上である。
要件(2):下記式(2):
破断点伸び保持率
=耐熱老化試験後の破断点伸び/耐熱老化試験前の破断点伸び …(2)
〔式(2)中、耐熱老化試験とは、前記組成物から作製した試験片を160℃で、500時間、空気中に保持する試験であり、
破断点伸びとは、ASTM D638に準拠して23℃で測定される破断点伸びである。〕
で表される破断点伸び保持率が60%以上である。
要件(3):ASTM D638に準拠して23℃で測定される引張強度が30~90MPaである。
要件(4):ASTM D790に準拠して23℃で測定される曲げ弾性率が1500~4000MPaである。
【0009】
[2]
ハイドロタルサイト類化合物の存在下で変性ポリオレフィンを製造して、変性ポリオレフィンおよびハイドロタルサイト類化合物を含有する混合物(1)を得る工程、および
ポリアミドと前記混合物(1)とを混合する工程
を含むポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【0010】
[3]
変性ポリオレフィンとハイドロタルサイト類化合物とを混合して混合物(2)を得る工程、および
ポリアミドと前記混合物(2)とを混合する工程
を含むポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、衝撃強度保持率または破断点伸び保持率により表される耐熱老化性が高いことから、耐熱老化性の観点から長期信頼性に優れた部材(たとえば、ベアリング、ベアリングケージ、歯車、スプール、ランプソケットハウジング、ファン、インペラ、電磁弁ハウジング、インテークマニホールド、エアバッグハウジング、クイックコネクター、エンジンカバー、燃料チューブ、結束帯、ファスナー、リテーナー、キャニスター、サーモスタットハウジングまたはジャンクションボックス)に成形することができる。
【0012】
また、本発明の製造方法によれば、衝撃強度保持率または破断点伸び保持率により表される耐熱老化性に優れたポリアミド樹脂組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリアミド樹脂組成物、およびポリアミド樹脂組成物の製造方法をさらに詳細に説明する。
[ポリアミド樹脂組成物]
本発明に係るポリアミド樹脂組成物は、ポリアミドおよびハイドロタルサイト類化合物を含有し、好ましくは変性ポリオレフィンをさらに含有する。また、本発明に係るポリアミド樹脂組成物は、好ましくはフェノール系酸化防止剤をさらに含有する。これらのポリアミド、変性ポリオレフィン、ハイドロタルサイト類化合物およびフェノール系酸化防止剤の詳細は、後述する“ポリアミド樹脂組成物の製造方法”の段落に記載のとおりである。本発明に係るポリアミド樹脂組成物は、後述する任意成分をさらに含んでいてもよい。
【0014】
本発明に係るポリアミド樹脂組成物は、下記要件(1)および/または下記要件(2)を満たし、好ましくは下記要件(1)および下記要件(2)を満たす。
要件(1):下記式(1):
衝撃強度保持率
=耐熱老化試験後の衝撃強度/耐熱老化試験前の衝撃強度 …(1)
〔式(1)中、耐熱老化試験とは、前記組成物から作製した試験片を160℃で、500時間、空気中に保持する試験であり、
衝撃強度とは、ASTM D256に準拠して下記条件で行われるアイゾット衝撃強さである。
温度:-40℃
試験片形状:ASTM D256に準拠した、長さ63.5mm、幅3mm、厚さ12.7mmの試験片であり、ノッチ(切り欠き)付き〕
で表される衝撃強度保持率が60%以上であり、好ましくは65%以上であり、その上限は、たとえば99%、95%または80%であってもよい。
要件(2):下記式(2):
破断点伸び保持率
=耐熱老化試験後の破断点伸び/耐熱老化試験前の破断点伸び …(2)
〔式(2)中、耐熱老化試験とは、前記組成物から作製した試験片を160℃で、500時間、空気中に保持する試験であり、
破断点伸びとは、ASTM D638に準拠して下記条件で行われる引張試験で測定される破断点伸びである。
温度:23℃
試験片形状:ASTM4号ダンベル試験片
試験速度:50mm/分
つかみ具間距離:64mm〕
で表される破断点伸び保持率が60%以上であり、好ましくは65%以上であり、その上限は、たとえば99%、95%または90%であってもよい。
【0015】
衝撃強度保持率および破断点伸び保持率は、たとえば後述する本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法において、ハイドロタルサイト類化合物および任意に酸化防止剤の添加量を増量したり、ハイドロタルサイト類化合物および任意に酸化防止剤を変性ポリオレフィンに予備混練する際(すなわち、後述する工程(1A)または工程(2A))の混錬条件を調整すること、特に温度及びスクリュー回転数を低減したりすることにより増加させることができる。
【0016】
本発明に係るポリアミド樹脂組成物は、さらに下記要件(3)および下記要件(4)を満たす。
要件(3):ASTM D638に準拠して下記条件で行われる引張試験で測定される引張強度が30~90MPaであり、好ましくは40~80MPaである。
温度:23℃
試験片形状:ASTM4号ダンベル試験片
試験速度:50mm/分
つかみ具間距離:64mm
要件(4):ASTM D790に準拠して下記条件で行われる曲げ試験で測定される曲げ弾性率が1500~4000MPaであり、好ましくは1600~3000MPaである。
温度:23℃
試験片形状:ASTM1/8インチ試験片
試験速度:5mm/分
支点間距離:48mm
【0017】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、耐熱老化性(上記要件(1)および/または上記要件(2))および機械的特性(上記要件(3)および上記要件(4))に優れることから、好ましくは自動車部品、電気部品、電子部品、産業部品、工業部品、日用雑貨、家電製品、スポーツ用品、食品包装資材、などに成形される。成形方法は、好ましくは射出成形、押出成形であり、より好ましくは射出成形である。
【0018】
[ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
本発明に係るポリアミド樹脂組成物の製造方法の1つの態様(以下「ポリアミド樹脂組成物の製造方法(1)」とも記載する。)は、
ハイドロタルサイト類化合物の存在下で変性ポリオレフィンを製造して、変性ポリオレフィンおよびハイドロタルサイト類化合物を含有する混合物(1)を得る工程(以下「工程(1A)」とも記載する。)、および
ポリアミドと前記混合物(1)とを混合する工程(以下「工程(1B)」とも記載する。)
を含むことを特徴としている。
【0019】
また、本発明に係るポリアミド樹脂組成物の製造方法のもう1つの態様(以下「ポリアミド樹脂組成物の製造方法(2)」とも記載する。)は、
変性ポリオレフィンとハイドロタルサイト類化合物とを混合して混合物(2)(すなわち、変性ポリオレフィンおよびハイドロタルサイト類化合物を含有する混合物)を得る工程(以下「工程(2A)」とも記載する。)、および
ポリアミドと前記混合物(2)とを混合する工程(以下「工程(2B)」とも記載する。)
を含むことを特徴としている。
【0020】
《ポリアミド》
ポリアミドは、重合可能なアミノカルボン酸類、もしくはそのラクタム類、またはジカルボン酸類およびジアミン類などを原料とし、これらの開環重合または重縮合により得られるものである。
【0021】
アミノカルボン酸類の具体例としては、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ラクタム類の具体例としては、バレロラクタム、カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウロラクタムが挙げられ、これらの中でもカプロラクタムおよびラウロラクタムが好ましく、ε-カプロラクタムがさらに好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ジカルボン酸類の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸およびオクタデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、
シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、ならびに
フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸およびナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸
が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
ジアミン類の具体例としては、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン(MDP)、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,13-ジアミノトリデカン、1,14-ジアミノテトラデカン、1,15-ジアミノペンタデカン、1,16-ジアミノヘキサデカン、1,17-ジアミノヘプタデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,19-ジアミノノナデカンおよび1,20-ジアミノエイコサンなどの脂肪族ジアミン、
シクロヘキサンジアミンおよびビス-(4-アミノヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン、ならびに
キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン
が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
ポリアミドは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリアミドの具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66系共重合体、ナイロン66/6T系共重合体(T:テレフタル酸)、ナイロン6T/6I系共重合体(I:イソフタル酸)およびナイロン6T/M5T系共重合体(M5:2-メチルペンタメチレンジアミン、T:テレフタル酸)が挙げられ、これらの中でもナイロン6およびナイロン6を主成分とするポリアミド混合物が好ましい。
【0026】
ポリアミドの、23℃、98%硫酸中1g/100ml濃度で測定した相対粘度は、好ましくは2.0~4.0である。相対粘度がこの範囲にあると、ポリアミド樹脂組成物の成形時の流動性が良好であり、かつポリアミド樹脂組成物から機械的特性に優れた成形品を製造することができる。
【0027】
《変性ポリオレフィン》
変性ポリオレフィンは、オレフィン由来の構造単位を主成分として含み、かつヘテロ原子を含む官能基(以下、単に「官能基」ともいう。)を有する構造単位を、好ましくは0.1~3.0質量%、より好ましくは0.2~2.6質量%の割合で含む重合体である。この割合は、たとえば国際公開第2015/011935号の[0067]~[0071]に記載の方法で特定することができる。
【0028】
前記官能基としては、たとえばカルボン酸基(無水カルボン酸基を含む)、エステル基、エーテル基、アルデヒド基およびケトン基が挙げられる。
官能基を有する構造単位は、たとえばオレフィン重合体を変性反応させることで導入することができる。
【0029】
変性反応させるための化合物(変性剤)の好ましい例としては、不飽和カルボン酸およびその誘導体等が挙げられる。不飽和カルボン酸またはその誘導体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸およびエンドシス-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸(商標))等の不飽和カルボン酸または不飽和ジカルボン酸、ならびにこれらの酸ハライド、アミド、イミド、酸無水物およびエステル等の誘導体などが挙げられる。これらの中でも、不飽和ジカルボン酸またはその酸無水物が好ましく、マレイン酸、ナジック酸およびこれらの酸無水物がより好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。無水マレイン酸は、変性前のオレフィン重合体との反応性が比較的高く、無水マレイン酸同士の重合等が生じにくく、基本構造として安定な傾向があり、このため、安定した品質の変性ポリオレフィンを得られるなどの様々な優位点がある。
【0030】
変性ポリオレフィンのポリオレフィン骨格部分の例としては、エチレン系重合体、プロピレン系重合体およびブテン系重合体が挙げられ、好ましくはエチレン・α-オレフィン共重合体が挙げられる。前記α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンおよび1-デセン等の炭素数3~10のα-オレフィンが挙げられる。前記エチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレンから導かれる構造単位を好ましくは70~99.5モル%、より好ましくは80~99モル%含み、α-オレフィンから導かれる構造単位を好ましくは0.5~30モル%、より好ましくは1~20モル%含む。
【0031】
変性ポリオレフィンの製造方法の一例として、オレフィン重合体を変性剤(たとえば、不飽和カルボン酸およびその誘導体)でグラフト変性させる方法が挙げられる。
ポリオレフィンのグラフト変性は、公知の方法で行うことができ、たとえば、ポリオレフィンを有機溶媒に溶解し、得られた溶液に不飽和カルボン酸またはその誘導体およびラジカル開始剤などを加え、通常60~350℃、好ましくは80~190℃の温度で、0.5~15時間、好ましくは1~10時間反応させる方法により行うことができる。
【0032】
ポリオレフィンを溶解させる有機溶媒の例としては、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ならびにペンタン、ヘキサンおよびヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0033】
ポリオレフィンのグラフト変性の他の方法の例としては、溶媒非存在下で、押出機などでポリオレフィンと、変性剤(たとえば、不飽和カルボン酸およびその誘導体)とをラジカル開始剤を用いて反応させる方法が挙げられる。この場合、反応温度は、通常、ポリオレフィンの融点以上、たとえば100~350℃であり、反応時間は、通常、0.5~10分間である。
【0034】
ラジカル開始剤の例としては、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3,2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサンおよび1,4-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどの公知のラジカル開始剤が挙げられる。ラジカル開始剤は、変性前のポリオレフィン100質量部に対して、通常0.001~1質量部の割合で用いられる。
【0035】
変性ポリオレフィンの密度(ASTM D1505に準拠して測定)は、好ましくは850~950kg/m3であり、より好ましくは855~930kg/m3である。
密度が上記範囲にあると、変性ポリオレフィンとポリアミドとの弾性率差が十分となり、耐衝撃性改良効果を十分に大きくすることが可能である。
【0036】
また、変性ポリオレフィンのメルトフローレート(190℃、2.16kg荷重、ASTM D1238に準拠して測定)は、好ましくは0.1~100g/10分であり、より好ましくは0.1~50g/10分である。
【0037】
メルトフローレートが上記範囲にあると、ポリアミド樹脂組成物の成形時の流動性が良好であり、かつポリアミド樹脂組成物から機械的特性に優れた成形品を製造することができる。
【0038】
ポリアミド樹脂組成物の製造方法(1)では、工程(1A)において、上述したポリオレフィンの変性が、ハイドロタルサイト類化合物の存在下で行われる。
変性ポリオレフィンは、ポリアミドの質量:変性ポリオレフィンの質量が、好ましく099.9~40:0.1~60、より好ましくは99~50:1~50(ただし、合計を100とする。)となる割合で配合される。両者の割合がこの範囲にあると、引張特性、曲げ特性および耐衝撃性にバランスよく優れたポリアミド樹脂組成物を製造することができる。
【0039】
《ハイドロタルサイト類化合物》
ハイドロタルサイト類化合物は、2価および3価の金属の複合水酸化物からなる正に帯電した基本層と、アニオンおよび水を有する負に帯電した中間層とからなる層状の無機化合物であり、一般式:
[M2+
1-xM3+
x(OH)2]x+[An-
x/n・mH2O]x-
〔M2+は、Mg2+、Zn2+などの2価の金属イオンであり、
M3+は、Al3+、Fe3+などの3価の金属イオンであり、
An-は、CO3
2-、Cl-、NO3
-などのn価アニオンであり、
xは、0<x≦0.33を満たす正の数であり、
mは、0または正の数である。〕
で表される。
【0040】
ハイドロタルサイト類化合物としては、天然のハイドロタルサイトの他、従来公知の合成ハイドロタルサイトが挙げられる。市販品の例としては、DHT-4A(登録商標)(協和化学工業(株))が挙げられる。
【0041】
レーザー回折散乱法により測定されるハイドロタルサイト類化合物の平均2次粒子径(D50)は、好ましくは0.2~2μm、より好ましくは0.3~1.5μmである。
また、BET法により測定されるハイドロタルサイト類化合物の比表面積は、好ましくは1~50m2/g、好ましくは5~40m2/gである。
【0042】
ハイドロタルサイト類化合物は、ポリアミドおよび変性ポリオレフィンの合計100質量部に対して、好ましくは0.001~1質量部、より好ましくは0.005~0.5質量部となる割合で配合される。ハイドロタルサイト類化合物の割合が上記範囲にあると、耐熱老化性に優れたポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0043】
《任意成分》
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法においては、ポリアミド、変性ポリオレフィンおよびハイドロタルサイト類化合物に、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、滑剤、スリップ剤、核剤、難燃剤、油剤、顔料、染料、またはガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ウオラストナイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、タルク、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、カオリン、微粉末シリカ、マイカ、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの無機あるいは有機の充填剤を配合してもよい。
【0044】
<酸化防止剤>
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法においては、ポリアミド樹脂組成物の耐熱老化性をさらに高めるために、好ましくは前記酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤が配合される。
フェノール性酸化防止剤としては、従来公知のフェノール性酸化防止剤が挙げられ、たとえば下式(p1)~(p25)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
市販品の例としては、IRGANOX(登録商標)1010、1076、1330、1425WL、3114、B220、MD-1024(BASF社)、CYANOX(登録商標)1790(サイアナミド社)、SUMILIZER(登録商標)GA-80(住友化学(株))などを挙げることができる。
【0050】
これらの中でも、変性ポリオレフィンないし変性前のポリオレフィンとの相溶性の観点からアミド構造を有さない化合物、たとえば、式(p2)、(p3)、(p10)または(p23)で表される化合物が好ましく、式(p2)または(p23)で表される化合物がより好ましい。
【0051】
フェノール系酸化防止剤は、ポリアミドおよび変性ポリオレフィンの合計100質量部に対して、好ましくは0.001~1質量部、より好ましくは0.005~0.5質量部となる割合で配合される。フェノール系酸化防止剤の割合が上記範囲にあると、耐熱老化性に優れたポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0052】
(ポリアミド樹脂組成物の製造方法)
ハイドロタルサイト類化合物を、ポリアミドおよび変性ポリオレフィンと一度に混合した場合、得られたポリアミド樹脂組成物は、上述した衝撃強度保持率または破断点伸び保持率によって評価される耐熱老化性が十分ではない。これは、ハイドロタルサイト類化合物が、ポリアミド樹脂組成物全体に均一に分散せず、その極性によりポリアミド近傍に偏在してしまうことが原因であると推測される。
【0053】
一方、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法(1)では、工程(1A)でポリオレフィンを、ハイドロタルサイト類化合物および任意にフェノール系酸化防止剤等の任意成分の存在下で変性して変性ポリオレフィンを製造し、次いで工程(1B)でポリアミドと得られた変性ポリオレフィン(通常、変性ポリオレフィンおよびハイドロタルサイト類化合物を含む組成物として得られる。)と必要に応じて任意成分とを混合することにより、ポリアミド樹脂組成物が製造される。また、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法(2)では、工程(2A)で変性ポリオレフィンと、ハイドロタルサイト類化合物および任意にフェノール系酸化防止剤等の任意成分とを混合して変性ポリオレフィン混合物を調製し、次いで工程(2B)でポリアミドと変性ポリオレフィン混合物と必要に応じて任意成分とを混合することにより、ポリアミド樹脂組成物が製造される。このように製造されるポリアミド樹脂組成物は、ハイドロタルサイト類化合物を、ポリアミドおよび変性ポリオレフィンと一度に混合して製造されるポリアミド樹脂組成物と比べて、耐熱老化性に優れている。これは、工程(1A)または工程(2A)を設けることによって、ハイドロタルサイト類化合物が、ポリアミド近傍だけでなく変性ポリオレフィン近傍にも十分に分散するためであると推察される。
【0054】
工程(1A)は、変性ポリオレフィンの製造がハイドロタルサイト類化合物および任意にフェノール系酸化防止剤等の任意成分の存在下で行われる点を除いて、従来の変性ポリオレフィンの製造方法と同様の方法で実施することができる。
【0055】
工程(1B)、工程(2A)および工程(2B)は、たとえば、各原料を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど公知の溶融混練機に供給し、用いられるポリアミドの融点に応じて180~330℃の温度で溶融混練する方法により実施することができる。
【0056】
ポリアミド樹脂組成物の製造方法(1)またはポリアミド樹脂組成物の製造方法(2)により、上述した、耐熱老化性および機械的特性に優れた本発明に係るポリアミド樹脂組成物を製造することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
(測定方法)
[変性ポリオレフィンの無水マレイン酸グラフト量]
国際公開第2015/011935号の[0071]に記載の方法で、変性ポリオレフィンにおける無水マレイン酸のグラフト量を特定した。
【0058】
[ポリアミド樹脂組成物の衝撃強度保持率、破断点伸び保持率、引張強度および曲げ弾性率]
「発明を実施するための形態」に記載の方法で、実施例等で得られた組成物等について衝撃強度保持率、破断点伸び保持率、引張強度および曲げ弾性率を測定した。
【0059】
(使用原料)
実施例等で使用された原料は、以下のとおりである。
《ポリアミド》
・アミラン(登録商標) CM1026(ナイロン6、東レ(株)製)
《変性ポリオレフィン》
・変性ポリオレフィンA(エチレン・1-ブテンランダム共重合体の無水マレイン酸変性物、MFR(190℃、2.16kg、ASTM D1238)1.5g/10分、密度(ASTM D1505)872kg/m3、無水マレイン酸グラフト量:0.75質量%)
《未変性ポリオレフィン》
・エチレン系共重合体(エチレン・1-ブテンランダム共重合体、MFR(190℃、2.16kg、ASTM D1238)1.2g/10分、密度(ASTM D1505)870kg/m3)
《ハイドロタルサイト類化合物》
・DHT-4A(協和化学工業(株))
《フェノール系酸化防止剤》
・IRGANOX 1010(BASF社)
【0060】
[実施例1]
10質量部のエチレン系共重合体、0.09質量部の無水マレイン酸、0.0045質量部のパーヘキシン(登録商標)25B(過酸化物、日油(株)製)、0.02質量部のIRGANOX 1010および0.03質量部のDHT-4Aを、二軸押出機((株)日本製鋼所製 TEX30SS、D=30mm、L/D=42)を使用してシリンダー温度250℃、回転数180rpmの条件下で混合し、変性ポリオレフィン混合物(1)を得た。変性ポリオレフィン混合物(1)に含まれる変性ポリオレフィンの無水マレイン酸グラフト量は0.68質量%であった。
【0061】
次いで、90質量部のアミラン CM1026、および10質量部の変性ポリオレフィン混合物(1)を、上記二軸押出機を使用してシリンダー温度245℃、回転数180rpmの条件下で混合し、樹脂組成物(1)を得た。樹脂組成物(1)の評価結果を表1に示す。
【0062】
[実施例2]
10質量部の変性ポリオレフィンA、0.02質量部のIRGANOX 1010および0.03質量部のDHT-4Aを、二軸押出機((株)日本製鋼所製 TEX30SS、D=30mm、L/D=42)を使用してシリンダー温度250℃、回転数180rpmの条件下で混合し、変性ポリオレフィン混合物(2)を得た。
【0063】
次いで、90質量部のアミラン CM1026、および10質量部の変性ポリオレフィン混合物(2)を、上記二軸押出機を使用してシリンダー温度245℃、回転数180rpmの条件下で混合し、樹脂組成物(2)を得た。樹脂組成物(2)の評価結果を表1に示す。
【0064】
[比較例1]
アミラン CM1026の評価結果を表1に示す。
【0065】
[比較例2]
90質量部のアミラン CM1026、および10質量部の変性ポリオレフィンAを、上記二軸押出機を使用してシリンダー温度245℃、回転数180rpmの条件下で混合し、樹脂組成物(3)を得た。樹脂組成物(3)の評価結果を表1に示す。
【0066】
[比較例3]
90質量部のアミラン CM1026、10質量部の変性ポリオレフィンA、0.02質量部のIRGANOX 1010および0.03質量部のDHT-4Aを、上記二軸押出機を使用してシリンダー温度245℃、回転数180rpmの条件下で混合し、樹脂組成物(4)を得た。樹脂組成物(4)の評価結果を表1に示す。
【0067】