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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】散布型肥料
(51)【国際特許分類】
   C05G 3/60 20200101AFI20220525BHJP
   C05D 9/02 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
C05G3/60
C05D9/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018147634
(22)【出願日】2018-08-06
(65)【公開番号】P2019031432
(43)【公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2017153743
(32)【優先日】2017-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上田 真澄
(72)【発明者】
【氏名】中西 睦
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-199325(JP,A)
【文献】特開2008-050267(JP,A)
【文献】特開2007-153699(JP,A)
【文献】特表2013-508256(JP,A)
【文献】特開平08-081317(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0219979(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0266786(US,A1)
【文献】国際公開第2017/075534(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B1/00-21/00
C05C1/00-13/00
C05D1/00-11/00
C05F1/00-17/993
C05G1/00-5/40
A01G2/00-24/60
A01N1/00-65/48
A01P1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子(A)と、多糖(B)と、水とを含有する散布型肥料であって、
前記粒子(A)が金属(a)酸化物及び/又は金属(a)塩であり、
前記金属(a)が、亜鉛、マンガン、鉄、モリブデン、銅、セリウム、銀及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記粒子(A)の体積平均粒子径が1~400nmである散布型肥料(X)。
【請求項2】
前記金属(a)塩が、金属(a)と炭素数1~24のカルボン酸との塩である請求項1に記載の散布型肥料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散布型肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用途では、農作物を安定に生産するため、肥料が用いられている。一般的に肥料は土中混和によって、根から吸収されることで、植物の生長を促進する。一方、土中混和の補助的施肥方法として、肥料を植物(茎及び葉面等)に直接散布する散布型肥料が注目されている。
散布型肥料を用いることで、生理障害の予防、養分不足による生育不良の早期回復、そして病害虫抵抗性の増強等が期待されている(特許文献1)。
しかし、従来の散布型肥料では、植物の生育及び病害の抑制が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第1887132号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、植物の生育により有効であり、病害抑制性能にも優れた散布型肥料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、粒子(A)と、多糖(B)と、水とを含有する散布型肥料であって、
前記粒子(A)が金属(a)酸化物及び/又は金属(a)塩であり、
前記金属(a)が、亜鉛、マンガン、鉄、モリブデン、銅、セリウム、銀及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記粒子(A)の体積平均粒子径が1~400nmである散布型肥料(X)である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の散布型肥料(X)は、以下の効果を奏する。
(1)植物の生育性に優れる。
(2)植物の病害抑制性能に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<粒子(A)>
本発明における粒子(A)は、金属(a)酸化物及び/又は金属(a)塩である。
前記金属(a)は、亜鉛、マンガン、鉄、モリブデン、銅、セリウム、銀及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
金属(a)のうち、植物の生育性及び病害抑制の観点から、好ましいのは、亜鉛、マンガン、鉄、モリブデン、銅であり、更に好ましいのは亜鉛である。
前記金属(a)塩を構成する酸としては、種々の有機酸及び無機酸が挙げられる。
前記の有機酸としては、炭素数1~24のカルボン酸(ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸及びステアリン酸等)及び炭素数1~24のスルホン酸(メタンスルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸等)等が挙げられる。
無機酸としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸及びフッ化水素酸等が挙げられる。
これらの酸の内、植物の生育性の観点から好ましいのは有機酸であり、更に好ましいのは炭素数1~24のカルボン酸であり、特に好ましいのは炭素数6~20のカルボン酸である。
また、金属(a)酸化物及び金属(a)塩のうち、植物の病害抑制の観点から好ましいのは金属(a)酸化物である。
【0008】
粒子(A)の体積平均粒子径は、1~400nmであり、好ましくは5~300nm、更に好ましくは10~200nmであり、特に好ましくは10~100nmであり、最も好ましくは10~30nmである。
体積平均粒子径が1nm未満であると、工業的に製造が困難であり、400nmを超えると植物の生育促進及び病害抑制が不十分となりやすい。
粒子(A)の体積平均粒子径は、例えば粒子(A)を含有する本発明の散布型肥料について、動的光散乱法により分析することで測定できる。
具体的には、本発明の散布型肥料0.2gを水200mL中にスターラーを用いて、200rpmで回転させることで分散させたものを試料とし、これをレーザー回折式粒度分布測定装置[マイクロトラック(日機装(株)製)等]にて分析することで、散布型肥料が含有する粒子(A)の体積平均粒子径を測定することができる。
【0009】
粒子(A)は、市販ものでもよいが、公知の方法で製造できる。例えば、金属(a)酸化物及び/又は金属(a)塩を粉砕機により微粉砕して製造してもよく、また、国際公開第2015/087987号に記載の方法により製造してもよい。
【0010】
<多糖(B)>
本発明における多糖(B)としては、トウモロコシデンプン、α化デンプン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
これらの多糖の内、植物の生育性の観点から、好ましいのは、セルロース骨格を有する化合物(ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等)であり、更に好ましいのはカルボキシメチルセルロースである。
【0011】
また、多糖(B)は、25℃における水への溶解度が0.01g/水100g以上であることが好ましい。
【0012】
<散布型肥料(X)>
本発明の散布型肥料(X)は、前記粒子(A)と、多糖(B)と、水とを含有してなる。
散布型肥料(X)の重量に基づく、粒子(A)と多糖(B)との合計重量の割合[(A)と(B)との合計濃度]について、流通時は輸送コスト及び保管コストの観点から高濃度であって、実際の散布時は低濃度とすることができる。
散布時における散布型肥料(X)の重量に基づく、粒子(A)と多糖(B)との合計重量の割合は、散布性及び植物の生育性及び病害抑制の観点から、好ましくは0.1~20重量%、更に好ましくは0.5~15重量%、特に好ましくは1~10重量%である。
また、粒子(A)と多糖(B)との重量比[(A)/(B)]は、植物の生育性及び病害抑制の観点から、好ましくは10/90~90/10、更に好ましくは15/85~85/15、特に好ましくは20/80~80/20である。
【0013】
散布型肥料(X)には、粒子(A)、多糖(B)、水以外に、その他の成分(J)を含んでいてもよい。前記の(J)としては、水溶性の肥料(硫酸アンモニウム等)等が挙げられる。(X)の重量に基づいて、前記の(J)は、好ましくは0~5重量%、更に好ましくは0.1~3重量%である。
【0014】
散布型肥料(X)は、粒子(A)、多糖(B)、水、必要により(J)を混合して製造できる。必要により、分散機を用いてもよい。
【0015】
本発明の植物の生育方法は、本発明の散布型肥料(X)を用いたものである。
本発明の散布型肥料(X)は、植物に散布して用いるものであるが、中でも植物の葉面に散布することで十分な植物の生育性及び病害抑制を発揮できるため、葉面に散布して用いる物であること好ましい。
例えば、葉に散布する場合、葉の面積に対する散布量は、好ましくは1~200g/m、更に好ましくは3~100g/mである。
【0016】
本発明の散布型肥料(X)は、植物の生育性及び病害抑制に有効であるため、農業用途に、特に有用である。
また、散布型肥料(X)が生育促進に有効なのは、仮説ではあるが、植物の有する孔を経由して、散布型肥料(X)に含まれる粒子(A)と多糖(B)との複合体が、効率よく植物に取り込まれ、前記効果を発揮できるためであると考えられる。
【実施例
【0017】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0018】
<実施例1~18及び比較例1~3>
容器に、表1に記載の種類の粒子(A)、多糖(B)及びイオン交換水を、表1に記載の部数で仕込み、スターラーを用いて、200rpmで回転させることで、混合・分散させて、散布型肥料(X-1)~(X-18)及び比較用の散布型肥料(比X-1)~(比X-3)を得た。
【0019】
【表1】
【0020】
なお、表1において使用した各原料は以下のとおりである。
(A-1):酸化亜鉛[体積平均粒子径100nm]
(A-2):酸化亜鉛[体積平均粒子径20nm]
(A-3):酸化亜鉛[体積平均粒子径400nm]
(A-4):ステアリン酸亜鉛[体積平均粒子径150nm]
(A-5):リン酸亜鉛[体積平均粒子径70nm]
(A-6):酸化鉄(III)[体積平均粒子径110nm]
(A-7):酸化マンガン[体積平均粒子径130nm]
(A-8):ステアリン酸銅[体積平均粒子径80nm]
(A-9):酸化銀[体積平均粒子径40nm]
(A-10):酸化モリブデン[体積平均粒子径60nm]
(A-11):酸化セリウム[体積平均粒子径80nm]
(A-12):酸化アルミニウム[体積平均粒子径100nm]
(比A-1):酸化亜鉛[体積平均粒子径440nm]
(比A-2):酸化チタン[体積平均粒子径60nm]
上記の(A-1)~(A-12)及び(比A-1)~(比A-2)は、国際公開第2015/087987号公報に記載の方法に基づいて、各原料となる粒子を粉砕し、上記の体積平均粒子径に調節した。なお、各粒子の体積平均粒子径は、後述の粒子(A)を含有する散布型肥料(X)を分析して得られた値である。
【0021】
(B-1):カルボキシメチルセルロース[製品名:ダイセルCMC1130、(株)ダイセル製]
(B-2):アクリル酸デンプン[製品名:アクリル酸デンプン300、三洋化成工業(株)製]
(B-3):α化デンプン[製品名:SWELSTARPD-1、旭化成(株)製]
(B-4):トウモロコシデンプン[製品名:コーンスターチW、日本食品化工(株)製]
(B-5):ヒドロキシプロピルセルロース[製品名:NISSO HPC、日本曹達(株)製]
(B-6):ヒドロキシプロピルメチルセルロース[製品名:TC-5E、信越化学工業(株)製]
(B-7):ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート[製品名:Shin-Etsu AQOAT AS-LF、信越化学工業(株)製]
(B-8):ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート[製品名:Shin-Etsu AQOATHPMCP50、信越化学工業(株)製]
(比B-1):ポリアクリル酸[重量平均分子量5,000、富士フィルム和光純薬(株)製]
【0022】
得られた各散布型肥料(X)について、以下の方法で、含有する粒子(A)の体積平均粒子径、生育促進性及び病害抑制性能を評価した。
【0023】
<含有する粒子(A)の体積平均粒子径>
得られた各散布型肥料(X)0.2gを水200mL中にスターラーを用いて、200rpmで回転させることで分散させたものを試料とし、これをレーザー回折式粒度分布測定装置[マイクロトラック(日機装(株)製)]により分析することで、粒子(A)の体積平均粒子径を測定した。
【0024】
<生育促進性>
得られた各散布型肥料(X)を、それぞれ<キュウリ>10株、<トマト>10株に、葉の面積に対して10g/mになるようにスプレーで散布した。
次に、ビニールハウス内で22℃に温調しながら、2週間生育した。2週間後、植物の土壌から露出した植物の重量から、以下の式(1)における「生育促進性」を求め、評価を行った。結果を表1に示した。生育促進性が高い程、植物の生育性に優れることを示す。
生育促進性=(植物の重量)×100/(ブランクにおける植物の重量) (1)
なお、式(1)における「ブランクにおける植物の重量」とは、各散布型肥料(X)を用いなかった以外は、同様に試験した場合の「植物の重量」を意味する。
また、各「植物の重量」は、まず、各株からランダムに採取した10個の植物について、その重量を数平均し(各植物について10株分の数平均値を得る)、その後10株分の数平均値を更に数平均することで、算出した。
【0025】
<病害抑制性能>
各得られた各散布型肥料(X)を散布した植物について、土壌病原菌であるFusarium oxysporum、Mucor plumbeus、Penicillium expansum、又は、Botrytis cinereaによる病害に対する抑制能を、以下の方法で評価した。
【0026】
各散布型肥料(X)を、それぞれ<キュウリ>10株、<トマト>10株に、葉の面積に対して10g/mになるようにスプレーで散布した。
次に、ビニールハウス内で22℃に温調しながら、1日生育後に、葉全面にFusarium oxysporum、Mucor plumbeus、Penicillium expansum、又は、Botrytis cinereaのイオン交換水懸濁液〔土壌病原菌の濃度:5×10個/mL濃度[濃度は分光吸光光度計を用いた濁度法により測定した。(測定波長:600nm)]〕をスプレー接種した。これらの菌はいずれも独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手し、10cmの滅菌済みペトリディッシュ上においてポテトデキストロース寒天培地(富士フィルム和光純薬(株)製)中で24℃7日静置することで事前に調整したものである。
接種から13日後葉に発生した病斑の葉面1cm当たりの病斑部(壊死部及び崩壊部の合計)の面積を用いて、以下の方法で評価した。
葉面積計にて、ランダムで選択した葉20枚の葉面積を測定した後、各葉に生じた病斑部を顕微鏡によって観察し、画像処理ソフト(ソフトウェア名:イメージJ)によって、定量化することで、以下の式(2)で求めた「病害抑制率」で評価を行った。結果を表1に示した。病害抑制率が高い程、植物の病害抑制能に優れることを示す。
病害抑制率=100-(葉面1cm当たりの病斑部面積)×100/(ブランクにおける葉面1cm当たりの病斑部面積) (2)
なお、式(2)における「ブランクにおける葉面1cm当たりの病斑部面積」とは、各散布型肥料(X)を用いなかった以外は、同様に試験した場合の「葉面1cm当たりの病斑部面積」を意味する。
また、各「葉面1cm当たりの病斑部面積」は、まず、各株からランダムに選択した20枚の葉について、その「葉面1cm当たりの病斑部面積」を数平均し(各植物について10株分の数平均値を得る)、その後10株分の数平均値を更に数平均することで、算出した。
【0027】
表1の結果から、実施例1~18の本発明の散布型肥料(X)は、比較例1~3の比較用の散布型肥料と比べて、植物の生育促進性及び病害抑制性能に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の散布型肥料(X)は、植物の生育性、植物の生育促進及び病害抑制性能に優れるため、園芸用途、農業用途に、きわめて有用である。