(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】乗員判別装置、コンピュータプログラム、および記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20220525BHJP
【FI】
G06T7/00 660B
(21)【出願番号】P 2018209803
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名和 佑記
【審査官】片岡 利延
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-128592(JP,A)
【文献】特開2009-48305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが三次元位置情報を有する複数の点要素を含むデータセットを受け付ける入力インターフェースと、
前記データセットに基づいて車室内の乗員の身体部位を判別するプロセッサと、
を備えており、
前記プロセッサは、
前記データセットを複数のデータサブセットに分割することにより、前記車室の少なくとも一部を構成する複数の空間領域の一つに各データサブセットを対応付け、
前記各データサブセットに含まれる前記乗員に対応する前記複数の点要素の数に基づいて、前記身体部位が存在する可能性が高い前記複数の空間領域の一つに対応する高尤度データサブセットを特定し、
前記高尤度データサブセットに基づいて前記身体部位を判別する処理を行ない、
前記複数のデータサブセットは、複数の第一データサブセットと複数の第二データサブセットを含んでおり、
前記複数の第一データサブセットの一つに対応する前記複数の空間領域の一つは、前記複数の第二データサブセットの一つに対応する前記複数の空間領域の一つと部分的に重なっている、
乗員判別装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記複数の空間領域の各々が前記身体部位に対応する幅を有するように前記複数のデータサブセットへの分割を行なう、
請求項1に記載の乗員判別装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記車室内の三次元位置を特定可能な三つの座標軸のうち第一の座標軸に沿って前記データセットを第一座標データサブセットに分割し、
前記三つの座標軸のうち第二の座標軸に沿って前記データセットを第二座標データサブセットに分割し、
前記第一座標データサブセットと前記第二座標データサブセットに基づいて、前記高尤度データサブセットを特定する、
請求項1または2に記載の乗員判別装置。
【請求項4】
前記身体部位は、頭部である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の乗員判別装置。
【請求項5】
前記複数の点要素の各々は、TOFカメラの画素に対応している、
請求項1から4のいずれか一項に記載の乗員判別装置。
【請求項6】
それぞれが三次元位置情報を有する複数の点要素を含むデータセットに基づいて、車室内の乗員の身体部位をプロセッサに判別させるコンピュータプログラムであって、
当該コンピュータプログラムが実行されることにより、当該プロセッサは、
前記データセットを複数のデータサブセットに分割することにより、各データサブセットを前記車室の少なくとも一部を構成する複数の空間領域の一つに対応付け、
前記各データサブセットに含まれる前記乗員に対応する前記複数の点要素の数に基づいて、前記身体部位が存在する可能性が高い前記複数の空間領域の一つに対応する高尤度データサブセットを特定し、
前記高尤度データサブセットに基づいて前記身体部位を判別する処理を行ない、
前記複数のデータサブセットは、複数の第一データサブセットと複数の第二データサブセットを含んでおり、
前記複数の第一データサブセットの一つに対応する前記複数の空間領域の一つは、前記複数の第二データサブセットの一つに対応する前記複数の空間領域の一つと部分的に重なっている、
コンピュータプログラム。
【請求項7】
請求項6に記載のコンピュータプログラムを記憶している記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の乗員の身体部位を判別する装置に関連する。本発明は、当該装置が備えているプロセッサにより実行されるコンピュータプログラム、および当該コンピュータプログラムが記憶された記憶媒体にも関連する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された装置は、乗員の手の画像を光電変換撮像素子で取得する。当該装置は、当該画像に基づいて手の動きを検出することにより、車載機器を操作している乗員を判別する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、手に限られない身体部位の検出を通じて車室内の乗員の姿勢や動作を高い精度で判別することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための一態様は、乗員判別装置であって、
それぞれが三次元位置情報を有する複数の点要素を含むデータセットを受け付ける入力インターフェースと、
前記データセットに基づいて車室内の乗員の身体部位を判別するプロセッサと、
を備えており、
前記プロセッサは、
前記データセットを複数のデータサブセットに分割することにより、前記車室の少なくとも一部を構成する複数の空間領域の一つに各データサブセットを対応付け、
前記各データサブセットに含まれる前記乗員に対応する前記複数の点要素の数に基づいて、前記身体部位が存在する可能性が高い前記複数の空間領域の一つに対応する高尤度データサブセットを特定し、
前記高尤度データサブセットに基づいて前記身体部位を判別する処理を行ない、
前記複数のデータサブセットは、複数の第一データサブセットと複数の第二データサブセットを含んでおり、
前記複数の第一データサブセットの一つに対応する前記複数の空間領域の一つは、前記複数の第二データサブセットの一つに対応する前記複数の空間領域の一つと部分的に重なっている。
【0006】
複数の第一データサブセットの一つに対応する複数の空間領域の一つと複数の第二データサブセットの一つに対応する複数の空間領域の一つが部分的に重なるように複数のデータサブセットへの分割が行なわれることにより、乗員の身体部位の大きさの個人差や位置によらず、当該身体部位がいずれかのデータサブセットに対応する空間領域に収まる確率が上がる。これにより、後続する当該身体部位の判別処理の精度を向上できる。したがって、手に限られない身体部位の検出を通じて、車室内の乗員の姿勢や動作を高い精度で判別できる。
【0007】
上記の乗員判別装置は、以下のように構成されうる。
前記プロセッサは、前記複数の空間領域の各々が前記身体部位に対応する幅を有するように前記複数のデータサブセットへの分割を行なう。
【0008】
このような構成によれば、各データサブセットに対応する空間領域と判別対象としての身体部位との対応性が維持されつつ、第一データサブセットに対応する空間領域と第二データサブセットに対応する空間領域が部分的に重なるように複数のデータサブセットへの分割がなされることにより、当該身体部位に対する見かけ上の検出分解能を高めることができる。
【0009】
上記の乗員判別装置は、以下のように構成されうる。
前記プロセッサは、
前記車室内の三次元位置を特定可能な三つの座標軸のうち第一の座標軸に沿って前記データセットを第一座標データサブセットに分割し、
前記三つの座標軸のうち第二の座標軸に沿って前記データセットを第二座標データサブセットに分割し、
前記第一座標データサブセットと前記第二座標データサブセットに基づいて、前記高尤度データサブセットを特定する。
【0010】
三次元情報を有する複数の点要素に対して、当該三次元情報を特定可能な三つの座標軸のうち二つに基づいて複数のデータサブセットへの分割が行なわれることにより、高尤度データサブセットの特定精度を高めることができる。これにより、身体部位の判別に係る後続の処理の精度を高めることができる。
【0011】
上記の乗員判別装置は、以下のように構成されうる。
前記身体部位は、頭部である。
【0012】
頭部の位置や動きからは、様々な情報が得られることが知られている。例えば、運転中における運転者の脇見、居眠り、発作による異常挙動などに係る情報が、頭部の位置や動きから取得されうる。上記の構成によって頭部の判別精度が向上することにより、車室内の乗員についてより多彩な情報が取得されうる。
【0013】
上記の乗員判別装置は、以下のように構成されうる。
前記複数の点要素の各々は、TOFカメラの画素に対応している。
【0014】
このような構成によれば、画像処理を用いる判別処理との統合が比較的容易である。
【0015】
上記の目的を達成するための一態様は、それぞれが三次元位置情報を有する複数の点要素を含むデータセットに基づいて、車室内の乗員の身体部位をプロセッサに判別させるコンピュータプログラムであって、
当該コンピュータプログラムが実行されることにより、当該プロセッサは、
前記データセットを複数のデータサブセットに分割することにより、各データサブセットを前記車室の少なくとも一部を構成する複数の空間領域の一つに対応付け、
前記各データサブセットに含まれる前記乗員に対応する前記複数の点要素の数に基づいて、前記身体部位が存在する可能性が高い前記複数の空間領域の一つに対応する高尤度データサブセットを特定し、
前記高尤度データサブセットに基づいて前記身体部位を判別する処理を行ない、
前記複数のデータサブセットは、複数の第一データサブセットと複数の第二データサブセットを含んでおり、
前記複数の第一データサブセットの一つに対応する前記複数の空間領域の一つは、前記複数の第二データサブセットの一つに対応する前記複数の空間領域の一つと部分的に重なっている。
【0016】
上記の目的を達成するための一態様は、上記のコンピュータプログラムを記憶している記憶媒体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、手に限られない身体部位の検出を通じて車室内の乗員の姿勢や動作を高い精度で判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態に係る乗員判別システムの構成を示している。
【
図2】
図1の乗員判別システムが搭載される車両の一部を示している。
【
図3】
図1の乗員判別装置により実行される処理の流れを示している。
【
図4】
図1の乗員判別装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図5】
図1の乗員判別装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図6】
図1の乗員判別装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図7】
図1の乗員判別装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図8】
図1の乗員判別装置により実行される処理を説明するための図である。
【
図9】
図1の乗員判別装置により実行される処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面を参照しつつ、実施形態例について以下詳細に説明する。以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0020】
図1は、一実施形態に係る乗員判別システム1の構成を模式的に示している。乗員判別システム1は、TOF(Time of Flight)カメラユニット2と乗員判別装置3を含んでいる。
図2は、乗員判別システム1が搭載される車両4の一部を示している。
【0021】
TOFカメラユニット2は、
図2に示される車両4の車室41内における適宜の位置に配置され、運転者5を含む車室41の少なくとも一部の画像を取得する。
【0022】
TOFカメラユニット2は、発光素子と受光素子を備えている。発光素子は、検出光として例えば赤外光を出射する。出射された検出光は、対象物によって反射され、戻り光として受光素子に入射する。検出光が発光素子より出射されてから戻り光が受光素子に入射するまでの時間が測定されることにより、戻り光を生じた対象物までの距離が算出される。TOFカメラユニット2により取得される画像を構成する複数の画素の各々について当該距離が算出されることにより、各画素は、画像における二次元的な位置座標(U,V)に加えて、当該画素に対応する対象物の一部までの距離(奥行き)を示す距離情報d(U,V)を含む。
【0023】
TOFカメラユニット2は、取得された画像に対応する画像データセットを出力する。画像データセットは、複数の画素データセットを含んでいる。複数の画素データセットの各々は、取得された画像を構成する複数の画素の対応する一つに関連づけられている。複数の画素データセットの各々は、位置座標(U,V)と距離情報d(U,V)を含んでいる。すなわち、複数の画素データセットの各々は、三次元位置情報を有している。画像データセットは、データセットの一例である。複数の画素データセットは、複数の点要素の一例である。
【0024】
乗員判別装置3は、車両4における適宜の位置に搭載される。乗員判別装置3は、TOFカメラユニット2から提供される画像データセットに基づいて、車室41内の運転者5の頭部51を判別するための装置である。運転者5は、乗員の一例である。頭部51は、乗員の身体部位の一例である。
【0025】
図1に示されるように、乗員判別装置3は、入力インターフェース31を備えている。入力インターフェース31は、TOFカメラユニット2から出力された画像データセットを受け付ける。
【0026】
乗員判別装置3は、プロセッサ32を備えている。プロセッサ32は、入力インターフェース31に入力された画像データセットに基づいて、運転者5の頭部51を判別する処理を実行する。
【0027】
図3を参照しつつ、プロセッサ32によって行なわれる処理の流れを説明する。プロセッサ32は、まず画像データセットに対して予備処理を実行する(STEP1)。
【0028】
各画素データサブセットに含まれる位置座標(U,V)と距離情報d(U,V)は、画像中心座標が(cX,cY)と定義された場合、次式を用いてカメラ座標系における三次元空間上の点(X,Y,Z)に変換されうる。fは、TOFカメラユニット2が備えるレンズの焦点距離を表している。
【0029】
【0030】
プロセッサ32は、上式に基づいて、位置座標(U,V)と距離情報d(U,V)からカメラ座標系における三次元空間上の点(X,Y,Z)への変換を行なう。なお、位置座標(U,V)と距離情報d(U,V)からカメラ座標系における三次元空間上の点(X,Y,Z)への変換は、TOFカメラユニット2に内蔵されたプロセッサによって行なわれてもよい。この場合、TOFカメラユニット2から出力される画像データセットに含まれる複数の画素データセットの各々は、位置座標(X,Y,Z)を含む。位置座標(X,Y,Z)は、三次元位置情報の一例である。各画素データセットは、点要素の一例である。
【0031】
カメラ座標系における位置座標(X,Y,Z)は、運転者5を原点とする車両座標系における位置座標(L,W,H)に変換されうる。W軸は、車両4の左右方向に延びる座標軸である。例えば、W軸の座標値は、運転者5から見て原点よりも右方において正の値をとり、原点よりも左方において負の値をとる。L軸は、車両4の前後方向に延びる座標軸である。例えば、L軸の座標値は、原点よりも前方において正の値をとり、原点よりも後方において負の値をとる。H軸は、車両4の上下方向に延びる座標軸である。例えば、H軸の座標値は、原点よりも上方において正の値をとり、原点よりも下方において負の値をとる。
【0032】
プロセッサ32は、各画素データセットについてカメラ座標系における位置座標(X,Y,Z)から車両座標系における位置座標(L,W,H)への変換を行なう。原点は、例えば運転者5の腰骨に対応する位置として選ばれる。車両座標系への座標変換は、周知の座標回転変換、平行移動変換、スケール変換などを用いて行なわれうる。
【0033】
続いてプロセッサ32は、処理対象とされる空間領域を限定する処理を行なう。具体的には、TOFカメラユニット2から取得された画像データセットから、限定された空間領域に対応する複数の画素データセットが抽出される。
【0034】
図4の(A)は、TOFカメラユニット2から取得された画像データセットIDの一例を示している。
図2に示されるように、運転席に着座した運転者5の頭部51は、車室41の上部に位置している蓋然性が高い。したがって、処理対象とされる空間領域が当該車室41の上部に限定される。例えば、限定された空間領域は、W軸の座標値が-510mm~360mm、L軸の座標値が-280mm~700mm、H軸の座標値が430mm~750mmの範囲である空間領域として定義されうる。
図4の(B)は、限定された空間領域に対応する複数の画素データセットPDの一例を示している。抽出された複数の画素データセットPDもまた、データセットの一例である。
【0035】
空間領域を限定する処理が行なわれることにより、後述する頭部51の判別処理の負荷が軽減されうる。しかしながら、この処理は省略されてもよい。
【0036】
次に、
図3に示されるように、プロセッサ32は、TOFカメラユニット2から取得された画像データセットIDまたは上記のように抽出された複数の画素データセットPDを複数のデータサブセットDSに分割する(STEP2)。
【0037】
図5の(A)は、L軸とH軸により形成されるLH座標平面に射影された複数の画素データセットPDを示している。プロセッサ32は、LH座標平面に射影された複数の画素データセットPDを複数のデータサブセットDSに分割することにより、車室41の一部を構成する複数の空間領域(車室空間領域)の一つに各データサブセットDSを対応付ける。
【0038】
各データサブセットDSに対応する車室空間領域は、L軸に沿う所定の幅dLを有している。複数のデータサブセットDSは、複数の第一データサブセットDS1と複数の第二データサブセットDS2を含んでいる。複数の第一データサブセットDS1の一つに対応する複数の車室空間領域の一つは、複数の第二データサブセットDS2の一つに対応する複数の車室空間領域の一つと部分的に重なっている。
【0039】
次に、
図3に示されるように、プロセッサ32は、高尤度データサブセットLDSを特定する(STEP3)。高尤度データサブセットLDSは、運転者5の頭部51が存在する可能性が高い車室空間領域に対応するデータサブセットDSである。
【0040】
具体的には、プロセッサ32は、各データサブセットDSに含まれる有意な画素データセットの数を計数する。「有意な画素データセット」とは、運転者5によって検出光が反射されたことにより取得された可能性が高い距離情報D(U,V)を有している画素データセットを意味する。そのような距離情報Dの数値範囲は、TOFカメラユニット2と運転者5との位置関係に基づいて適宜に定められうる。
【0041】
LH座標平面に射影された複数の画素データセットPDの場合、有意な画素データセットを最も多く含むデータサブセットDSに対応する車室空間領域には、運転者5の頭部51と胴体52が含まれている可能性が高い。
【0042】
したがって、
図5の(B)に示されるように、プロセッサ32は、有意な画素データセットを最も多く含むデータサブセットDSを、高尤度データサブセットLDSとして特定する。換言すると、プロセッサ32は、各データサブセットDSに含まれる運転者5に対応する画素データセットの数に基づいて、頭部51が存在する可能性が高い複数の車室空間領域の少なくとも一つに対応する高尤度データサブセットLDSを特定する。
【0043】
次に、
図3に示されるように、プロセッサ32は、特定された高尤度データサブセットLDSに基づいて、頭部の判別を行なう(STEP4)。
【0044】
まず、
図5の(B)に示されるように、プロセッサ32は、運転者5の頭頂部51aを特定する。具体的には、高尤度データサブセットLDSに含まれる有意な画素データセットのうち、最も高い位置にあるものが、頭頂部51aであると特定される。換言すると、高尤度データサブセットLDSに含まれる有意な画素データセットのうち、最も大きなH軸座標値を有するものが、頭頂部51aであると特定される。
【0045】
続いて、
図6の(A)と(B)に示されるように、プロセッサ32は、運転者5の頭部51が含まれる蓋然性の高い頭部空間領域HSRを定義する。頭部空間領域HSRは、特定された頭頂部51aの座標に基づいて定められる。具体的には、国立研究開発法人産業技術総合研究所の人体寸法データベースや独立行政法人製品評価技術基盤機構の人間特性データベースなどに公開されている頭部の大きさに係る情報に基づいて、頭部空間領域HSRのL軸に沿う方向の寸法hdL、H軸に沿う方向の寸法hdH、およびW軸に沿う方向の寸法hdWが定められる。
【0046】
例えば、寸法hdLは、頭頂部51aの座標を中心として176mmの値をとるように定められる。寸法hdHは、頭頂部51aの座標から下方へ146mmの値をとるように定められる。寸法hdWは、頭頂部51aの座標を中心として176mmの値をとるように定められる。
【0047】
続いて、
図7の(A)に示されるように、プロセッサ32は、上記のように定められた頭部空間領域HSRに対応する頭部データサブセットHSDを、複数の画素データセットPDから抽出する。
【0048】
さらに、
図7の(B)に示されるように、プロセッサ32は、頭部データサブセットHSDのうち、上記のように定められた頭部空間領域HSRの重心位置Gに対応する画素データセットを、運転者5の頭部51の位置を示すデータとして特定する。
【0049】
図1に示されるように、乗員判別装置3は、出力インターフェース33を備えている。出力インターフェース33は、特定された運転者5の頭部51の位置を示すデータを出力する。出力されたデータは、後段の認識処理において利用される。例えば、当該データが示す頭部51の位置の経時変化がモニタされることにより、運転者5の頭部51の向き、傾き、動きなどが認識されうる。これにより、運転中における運転者5の脇見、居眠り、発作による異常挙動などが検知されうる。
【0050】
後段の認識処理は、プロセッサ32によって行なわれてもよいし、プロセッサ32とは別のプロセッサによって行なわれてもよい。すなわち、出力インターフェース33は、物理的なインターフェースであってもよいし、論理的なインターフェースであってもよい。
【0051】
図5の(A)を参照して説明した複数の第一データサブセットDS1と複数の第二データサブセットDS2への分割を行なうことの利点について、
図8を参照しつつ説明する。
【0052】
仮に複数の第一データサブセットDS1のみを用いる場合、上記のような高尤度データサブセットLDSを正確に特定できない虞がある。図示された例においては、運転者5の頭部51は、左の第一データサブセットDS1と中央の第一データサブセットDS1に対応する車室空間領域に跨って位置している。他方、車両4のヘッドレスト42は、右の第一データサブセットDS1に対応する車室空間領域内に位置している。この場合、右の第一データサブセットDS1が高尤度データサブセットLDSと特定され、ヘッドレスト42が運転者の頭部であると判別されてしまう虞がある。
【0053】
しかしながら、複数の第二データサブセットDS2を加えることにより、左の第二データサブセットDS2に対応する車室空間領域に運転者5の頭部51が収まることが判る。したがって、左の第二データサブセットDS2が高尤度データサブセットLDSとして特定されうる。
【0054】
すなわち、第一データサブセットDS1に対応する車室空間領域と第二データサブセットDS2に対応する車室空間領域が部分的に重なるように複数のデータサブセットDSへの分割が行なわれることにより、運転者5の頭部51の大きさの個人差や位置によらず、頭部51がいずれかのデータサブセットDSに対応する車室空間領域に収まる確率が上がる。これにより、後続する頭部51の判別処理の精度を向上できる。したがって、手に限られない身体部位の検出を通じて、車室41内の運転者5の姿勢や動作を高い精度で判別できる。
【0055】
なお、偏りなく頭部51をいずれかのデータサブセットDSに対応する車室空間領域に収めるために、第一データサブセットDS1に対応する車室空間領域と第二データサブセットDS2に対応する車室空間領域の重なり量は、当該車室空間領域の幅の半分であることが好ましい。
図5の(A)に示される例においては、重なり量は、dL/2とされる。
【0056】
図5の(A)に示される分割された車室空間領域の幅dLは、人の頭部に対応する寸法として予め定められうる。「人の頭部に対応する寸法」は、例えば国立研究開発法人産業技術総合研究所の人体寸法データベースや独立行政法人製品評価技術基盤機構の人間特性データベースなどに公開されている頭部の大きさに係る情報に基づいて定められうる。換言すると、プロセッサ32は、分割された複数の車室空間領域の各々が判別対象としての頭部に対応する幅dLを有するように、TOFカメラユニット2から取得された画像データセットIDまたは抽出された複数の画素データセットPDを、複数のデータサブセットDSに分割する。
【0057】
このような構成によれば、各データサブセットDSに対応する車室空間領域と判別対象としての頭部51との対応性が維持されつつ、第一データサブセットDS1に対応する車室空間領域と第二データサブセットDS2に対応する車室空間領域が部分的に重なるように複数のデータサブセットDSへの分割がなされることにより、頭部51に対する見かけ上の検出分解能を高めることができる。
【0058】
図3に示されるように、複数のデータサブセットDSへの分割処理(STEP2)は、複数の第一座標データサブセットへの分割処理(STEP21)と複数の第二座標データサブセットへの分割処理(STEP22)を含みうる。第一座標データサブセットは、車室41内の三次元位置を特定可能な三つの座標軸のうち第一の座標軸に基づくデータサブセットである。第二座標データサブセットは、当該三つの座標軸のうち第二の座標軸に基づくデータサブセットである。
【0059】
図5の(A)を参照して説明されたデータサブセットDSは、第一座標データサブセットの一例である。すなわち、L軸は、第一の座標軸の一例である。
【0060】
図9の(A)は、W軸とH軸により形成されるWH座標平面に射影された複数の画素データセットPDを示している。プロセッサ32は、WH座標平面に射影された複数の画素データセットPDを複数のデータサブセットDSに分割することにより、車室41の一部を構成する複数の空間領域(車室空間領域)の一つに各データサブセットDSを対応付ける。このように分割された複数のデータサブセットは、第二座標データサブセットの一例である。W軸は、第二の座標軸の一例である。
【0061】
各データサブセットDSに対応する車室空間領域は、W軸に沿う所定の幅dWを有している。幅dWは、人の頭部に対応する寸法として予め定められることが好ましい。複数のデータサブセットDSは、複数の第一データサブセットDS1と複数の第二データサブセットDS2を含んでいる。複数の第一データサブセットDS1の一つに対応する複数の車室空間領域の一つは、複数の第二データサブセットDS2の一つに対応する複数の車室空間領域の一つと部分的に重なっている。
【0062】
なお、偏りなく頭部51をいずれかのデータサブセットDSに対応する車室空間領域に収めるために、第一データサブセットDS1に対応する車室空間領域と第二データサブセットDS2に対応する車室空間領域の重なり量は、当該車室空間領域の幅の半分であることが好ましい。
図9の(A)に示される例においては、重なり量は、dW/2とされる。
【0063】
W軸に基づいて分割された複数のデータサブセットDSに対しても、
図3に示されるように、プロセッサ32は、高尤度データサブセットLDSを特定する(STEP3)。前述のように、高尤度データサブセットLDSは、運転者5の頭部51が存在する可能性が高い車室空間領域に対応するデータサブセットDSである。
【0064】
WH座標平面に射影された複数の画素データセットPDの場合、有意な画素データセットを最も多く含むデータサブセットDSに対応する車室空間領域には、運転者5の頭頂部51aが含まれている可能性が高い。
【0065】
したがって、
図9の(B)に示されるように、プロセッサ32は、有意な画素データセットを最も多く含むデータサブセットDSを、高尤度データサブセットLDSとして特定する。換言すると、プロセッサ32は、各データサブセットDSに含まれる運転者5に対応する画素データセットの数に基づいて、頭部51が存在する可能性が高い複数の車室空間領域の少なくとも一つに対応する高尤度データサブセットLDSを特定する。
【0066】
三次元情報を有する複数の画素データセットに対して、当該三次元情報を特定可能な三つの座標軸のうち二つに基づいて複数のデータサブセットDSへの分割が行なわれることにより、高尤度データサブセットLDSの特定精度を高めることができる。これにより、例えば頭頂部51aの特定に基づく頭部51の判別に係る後続の処理の精度を高めることができる。
【0067】
三つの座標軸のうち一つを用いて高尤度データサブセットLDSの特定が行なわれる場合、前述したLH座標平面に射影された複数の画素データセットPDに対する分割処理に代えて、WH座標平面に射影された複数の画素データセットPDに対する分割処理のみがおこなわれてもよい。
【0068】
上述したプロセッサ32の機能は、
図1に示される汎用メモリ34と協働して動作する汎用マイクロプロセッサにより実現されうる。汎用マイクロプロセッサとしては、CPUやMPUが例示されうる。汎用メモリ34としては、ROMやRAMが例示されうる。この場合、ROMには、上述した処理を実行するコンピュータプログラムが記憶されうる。ROMは、コンピュータプログラムを記憶している記憶媒体の一例である。プロセッサ32は、ROM上に記憶されたプログラムの少なくとも一部を指定してRAM上に展開し、RAMと協働して上述した処理を実行する。プロセッサ32は、上述した処理を実現するコンピュータプログラムを実行可能なマイクロコントローラ、ASIC、FPGAなどの専用集積回路によって実現されてもよい。プロセッサ32は、汎用マイクロプロセッサと専用集積回路の組合せによって実現されてもよい。
【0069】
図1に示されるように、乗員判別装置3は、ネットワーク6を介して外部サーバ7と通信可能に構成されうる。この場合、上述した処理を実行するプログラムは、外部サーバ7からネットワーク6を介してダウンロードされうる。外部サーバ7は、コンピュータプログラムを記憶している記憶媒体の一例である。
【0070】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための例示にすぎない。上記の実施形態に係る構成は、本発明の趣旨を逸脱しなければ、適宜に変更・改良されうる。
【0071】
上記の実施形態においては、乗員判別装置3は、運転者5の頭部51を判別するように構成されている。これに加えてあるいは代えて、乗員判別装置3は、運転者以外の乗員の頭部を判別するように構成されうる。これに加えてあるいは代えて、乗員判別装置3は、乗員の頭部以外の身体部位(胴体、腕、脚、手など)を判別するように構成されうる。その場合、分割された各データサブセットDSに対応する車室空間領域の幅(例えばL軸に沿う方向の幅dL、W軸に沿う方向の幅dW)は、判別対象としての当該身体部位に対応する寸法を有することが好ましい。
【0072】
上記の実施形態においては、乗員判別装置3は、TOFカメラユニット2から三次元情報を有する複数の画素データセットを取得している。この場合、画像処理を用いる判別処理との統合が比較的容易である。しかしながら、三次元情報を有する複数の点要素を含むデータセットを乗員判別装置3に提供可能であれば、TOFカメラユニット2に代えて、LiDAR(Light Detection and Ranging)センサユニットなどが使用されうる。
【符号の説明】
【0073】
2:TOFカメラユニット、3:乗員判別装置、31:入力インターフェース、32:プロセッサ、41:車室、5:運転者、51:頭部、ID:画像データセット、PD:画素データセット、DS:データサブセット、DS1:第一データサブセット、DS2:第二データサブセット、LDS:高尤度データサブセット、H:H軸、L:L軸、W:W軸、dL、dW:人の頭部に対応する幅