IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エコール ポリテクニーク フェデラル デ ローザンヌ (イーピーエフエル)の特許一覧

特許7079202イオン性ポリマーおよびバイオマスの処理におけるその使用
<>
  • 特許-イオン性ポリマーおよびバイオマスの処理におけるその使用 図1
  • 特許-イオン性ポリマーおよびバイオマスの処理におけるその使用 図2-1
  • 特許-イオン性ポリマーおよびバイオマスの処理におけるその使用 図2-2
  • 特許-イオン性ポリマーおよびバイオマスの処理におけるその使用 図3
  • 特許-イオン性ポリマーおよびバイオマスの処理におけるその使用 図4
  • 特許-イオン性ポリマーおよびバイオマスの処理におけるその使用 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】イオン性ポリマーおよびバイオマスの処理におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C08F 212/00 20060101AFI20220525BHJP
   C08F 236/02 20060101ALI20220525BHJP
   C07H 3/02 20060101ALI20220525BHJP
   C07H 5/06 20060101ALI20220525BHJP
   C07H 3/06 20060101ALI20220525BHJP
   C07D 307/50 20060101ALI20220525BHJP
   C07H 1/08 20060101ALI20220525BHJP
   C07C 53/126 20060101ALI20220525BHJP
   C07C 51/487 20060101ALI20220525BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220525BHJP
【FI】
C08F212/00
C08F236/02
C07H3/02
C07H5/06
C07H3/06
C07D307/50
C07H1/08
C07C53/126
C07C51/487
C07B61/00 300
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018546709
(86)(22)【出願日】2017-03-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2017056292
(87)【国際公開番号】W WO2017158117
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-01-21
(31)【優先権主張番号】16160626.4
(32)【優先日】2016-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512008613
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル デ ローザンヌ (イーピーエフエル)
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ダイソン ポール
(72)【発明者】
【氏名】フェイ チャオフー
(72)【発明者】
【氏名】シアンケヴィッチ スヴィアトラナ
(72)【発明者】
【氏名】サヴォグリディス ジョルジオス
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0032038(US,A1)
【文献】特表2016-512569(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105209510(CN,A)
【文献】特表2018-504456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F6-246
C07H3、5
C07D307
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオンと、カチオンを含有するポリマー骨格とからなる式(I)のイオン性ポリマー(IP)
【化1】
(式中、
Rは、置換C-C20アルキルおよび置換C-C10アリールから選択され、ここで、置換基は、H、-SOH、-COOH、-[P(=O)(OH)、-O-SOH、-O-COOH、-O-[P(=O)(OH) ]を含む群から選択され、
Aは、
【化2】
を含む群から選択されるカチオンであり、
R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は各々独立して、結合、H、C-Cアルキル、アリル、-CH 2 -(CH)n-O-(CH)m-CH、C-Cアルコキシ、C-Cアルコキシアルキル、ベンジル、-SOHを含む群から選択され、但し、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7のうちの2つは各々、前記ポリマー骨格との結合であり、
nおよびmは独立して、0、1、2、3、4、5、6から選択され、
xおよびyは各々独立して、1~1000の範囲内から選択される整数であり、
Xは、F、Cl、Br、I、ClO 、BF 、PF 、AsF 、SbF 、NO 、NO 、HSO 、SO 2-、PO 3-、HPO 2-、CFCO 、CFCO 、CO 2-、CFSO 、C-Cカルボキシレート、CN、SCN、OCN、CNO、N 、トシレート、メシレート、トリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロエタンスルホネート、ジ-トリフルオロメタンスルホニルアミノ、ドキュセート、キシレンスルホネートを含む群から選択される)。
【請求項2】
Rが置換Cアリールであり、置換基が、H、-SOHを含む群から選択される、請求項1に記載のイオン性ポリマー。
【請求項3】
式(II)
【化3】
(式中、
Ra、Rb、Rcは各々独立して、H、-SOH、-COOH、-[P(=O)(OH)、-O-SOH、-O-COOH、-O-[P(=O)(OH) ]から選択される)
によって表される請求項1に記載のイオン性ポリマー。
【請求項4】
【化4】
によって表される、請求項1に記載のイオン性ポリマー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の1つ以上のイオン性ポリマーを含む少なくとも1つの表面を有する固体担体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の1つ以上のイオン性ポリマーを組み込んでいるポリマー膜。
【請求項7】
バイオマスからファインケミカルを生成するための、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、請求項5に記載の固体担体または請求項6に記載のポリマー膜の使用。
【請求項8】
前記ファインケミカルが、脂質、糖、フラン化合物およびフミンを含む群から選択される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
バイオマスから、脂質、糖、フラン化合物、および/またはフミンを含む群から選択される1つ以上のファインケミカルを生成する方法であって、
a)バイオマスを準備する工程と、
b)任意選択で、前記バイオマス中の脂質および/または糖の含有量を測定する工程と、
c)任意選択で、前記バイオマスを前処理する工程と、
d)前記バイオマスを触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、前記触媒は、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーもしくは請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーの組み合わせ、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または請求項5に記載の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
e)前記反応混合物中で前記バイオマスを分解して、液相および固相を生成する工程であって、前記液相は1つ以上のファインケミカルを含み、前記固相は残留バイオマスを含む、工程と、
f)前記固相から前記液相の少なくとも一部を単離する工程と、
g)単離した前記液相から1つ以上のファインケミカルを回収する工程と
含む、方法。
【請求項10】
工程d)が、適切な水または有機溶媒および有効量の触媒を前記バイオマスに添加して、反応混合物を形成することを含み、工程e)の分解が、適切な時間の間、工程d)の前記反応混合物を加熱し、続いて室温まで冷却することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
バイオマスから、C5およびC6糖、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体を生成する方法であって、
a)バイオマスを準備する工程と、
b)任意選択で、前記バイオマス中の糖の含有量を測定する工程と、
c)任意選択で、前記バイオマスを前処理する工程と、
d)前記バイオマスを触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、前記触媒は、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーもしくは請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーの組み合わせ、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または請求項5に記載の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
e)前記反応混合物中で前記バイオマスを分解して、第1の液相および第1の固相を生成する工程であって、前記第1の液相はC5オリゴマー糖および/またはC5単糖を含み、分解する工程の時間が延ばされる場合、フルフラールをさらに含むことができ、前記第1の固相は残留物質を含む、工程と、
f)前記第1の固相から前記第1の液相の少なくとも一部を単離する工程と、
g)単離した前記第1の液相からC5オリゴマー糖および/またはC5単糖および/またはフルフラールを回収する工程と、
h)残留物質を含む前記第1の固相を、工程d)と同じ触媒または異なる触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、前記触媒は、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーもしくは請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーの組み合わせ、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または請求項5に記載の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
i)前記反応混合物中の残留物質を含む前記第1の固相をさらに分解して、第2の液相および第2の固相を生成する工程であって、前記第2の液相はC6オリゴマー糖および/またはC6単糖を含み、分解する工程の時間が延ばされる場合、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体ならびに/またはフミンをさらに含むことができ、前記第2の固相は残留物質を含む、工程と、
j)前記第2の固相から前記第2の液相の少なくとも一部を単離する工程と、
k)単離された前記第2の液相から、C6オリゴマー糖および/もしくはC6単糖ならびに/または5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体ならびに/またはフミンを回収する工程と
を含む、方法。
【請求項12】
工程d)が、適切な水または有機溶媒および有効量の触媒を前記バイオマスに添加して、反応混合物を形成することを含み、工程e)およびi)の分解が、適切な時間の間、前記反応混合物を加熱し、続いて室温まで冷却することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記有機溶媒が、アルコール、エーテル、ケトン、DMSO、DME、DMF、THF、イオン性液体を含む群から選択される、請求項10または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記1つ以上のファインケミカルを回収する工程が、濾過、遠心分離または重力沈降によって行われ得る、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記バイオマスの任意選択の前処理が、洗浄、溶媒抽出、溶媒膨潤、粉砕、ミリング、蒸気前処理、爆発性蒸気前処理、希酸前処理、熱水前処理、アルカリ前処理、石灰前処理、湿式酸化、湿式爆砕、アンモニア繊維爆砕、有機溶媒前処理、生物学的前処理、アンモニアパーコレーション、超音波、エレクトロポレーション、マイクロ波、超臨界CO、超臨界HO、オゾン、およびガンマ線照射からなる群から選択される1つ以上の前処理法を使用する、請求項9~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
加熱温度が最大で250℃に維持される、請求項10および12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記バイオマスが、セルロース系、キチン質、油性またはリグノセルロース系の物質を含む群から選択される、請求項9~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオンと、カチオンを含有するポリマー骨格とからなるイオン性ポリマー(IP)を提供する。本発明はまた、膜に組み込まれるか、または固体担体に付着されたイオン性ポリマー、およびバイオマスの処理におけるイオン性ポリマーの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇、カーボンポジティブ処理による環境への影響、および工業化による廃棄物の増加は、将来の工業開発の主要な障害である。近年、燃料およびプラットフォーム化学物質の生産のための古典的な石油化学精製所に代わるものとして、統合された生物精製所への移行の概念が勢いを増している。生物精製所は、実質的に環境負荷を少なくして、石油化学精製所と同じ製品を開発するために化石燃料の代わりにリグノセルロース系バイオマスを使用する。
【0003】
リグノセルロース系バイオマス(または単にバイオマス)は、主にセルロース、ヘミセルロースおよびリグニン、単純な成分に分解され得る大きなポリマー構造から構成され、これらは化学的または生物学的変換のための原材料としてさらに使用され得る。結果として、バイオマスの単純な成分への断片化は、C5およびC6糖、脂質、タンパク質、フェノールおよび無機塩に富む混合物をもたらす。したがって、バイオマスは価値のある化合物の優れた供給源とみなすことができる。炭素源としてバイオマスを利用する生物精製所は、環境および社会にプラスの影響を与える廃棄物の利用という付加的な利益を有する。したがって、バイオマスを単純な成分に分解し、価値のある成分を抽出する効率的な技術は、生物精製所の実装および首尾良い操作にとって重要である。
【0004】
バイオマスから糖を抽出するために、2つの加水分解法:酸加水分解および酵素加水分解が一般に使用される。酸加水分解は希酸または濃酸で行われるが、希酸は高温および高圧を必要とし、一方、濃酸はさらなる処理が起こり得る前に生成物から除去されなければならない。酵素プロセスは、特にリグノセルロース材料からの抽出の場合、セルロースおよびヘミセルロースの加水分解を促進するために、酵素の安定な供給および前処理を必要とする。さらに、酵素によるリグノセルロース処理の場合、pHおよび温度は正確に調節されなければならず、リグニンは、セルロースおよびヘミセルロース変換の前に分離または除去されなければならず、バイオマス前処理段階に追加の工程を加える。したがって、現在の方法は、処理前にセルロースの前処理を使用して、結晶領域の一部を破壊し、セルロース中の非晶質領域のパーセンテージを増加させ、次いで、これは、グルコースへの解重合を加速し、全体的な生成物収率を改善する。生物学的、物理学的、化学的および生理化学的などのいくつかの前処理法が存在する。しかしながら、これらの前処理法は、コストのかかる溶媒を使用するので費用が高く、エネルギー集約的であるか、または時間がかかる。
【0005】
従来の鉱酸加水分解に代わるものとして、固体酸触媒の適用などのいくつかの他の手法が存在し、それらは下流の処理を単純化するので、より環境に優しいと見られる。例えば、スルホン酸(-SOH)官能化固体触媒は、セルロース加水分解に対して非常に効率的な触媒性能を示し、担体の形態に応じて異なる触媒効果を示す。
【0006】
さらなる代替として、イオン性液体(IL)は、従来の方法についての前処理として、または後で酵素と反応するセルロースのための溶媒としてのいずれかで、バイオマスの処理に利用されている。イオン性液体ベースの前処理は、酵素加水分解および酸加水分解の両方において、水性ベースの前処理に対するコスト効率の良い代替物としての可能性を示した。これらの研究により、セルロースの加水分解においてイオン性液体を使用する利点が実証された。セルロースの溶解は、セルロース中のグルコシド結合の利用可能性に起因して反応速度の増加を可能にする。この方法の欠点の1つは最大で98重量%までの濃鉱酸の使用である。HSOは取り扱いに注意が必要であり、揮発性である。別の報告は、再度、セルロースのための溶媒としてILの使用を示唆していたが、セルロースの加水分解のために固体酸触媒を用いた。このシステムはセルロースを単糖に変換する能力を実証したが、不均一の触媒は非効率的な混合に起因して低い収率を有する可能性がある。特許文献1(The Board of Trustees of the University of Alabama)は、バイオマスを処理するための水が実質的に存在しない状態で、イオン性液体(IL)と、ポリアルキレングリコールなどの分画ポリマーとを含む多相(例えば、二相)組成物を含む方法を開示している。
【0007】
最近、酸性単位を含有するILは、バイオマスを選択的に分解する際、およびまた、成分の同時触媒変換においても高い性能を示した。例えば、特許文献2(DeLongら)は、解重合法が、イオン性液体溶媒と、解重合触媒としてのイオン性液体触媒とを含む均一な溶液中にバイオマスを溶解することを含むことを開示している。解重合反応速度はイオン性液体溶媒およびイオン性液体触媒溶液の加熱および撹拌によって促進される。しかしながら、固体酸および/またはILによる加水分解の間の主な欠点は、浸出であり、および/または分離の困難性であり、それらの適用を制限する。
【0008】
食品等級およびヒト消費製品の調製に関しては、イオン性液体および/または他の従来の触媒による製品の汚染が重大な問題である。触媒の生成物中への浸出は、時間のかかる、コストの高い洗浄工程を伴うことになり、食品等級およびヒト消費製品の調製プロセス全体をより高価なものにする。実際に、生成物からのILの分離は複雑になり得、分離プロセスにおいてコストの増加をもたらし得る。さらに、たとえILおよび/または他の従来の触媒の完全な除去が達成されたとしても、このような製品が、厳しい食品法規に起因して、特定の市場において食品等級として決して適格にはならないというリスクが依然として存在する。混合物からのILの回収を容易にするために、ILの成分のポリマー、またはいわゆるイオン性ポリマー(IP)もしくは固体担体に担持されたILが、異なる用途のために文献に提案されている。例えば、ジビニルベンゼン(DVB)を1-ビニルイミダゾールおよびp-スチレンスルホン酸ナトリウムと100℃で共重合し、続いて1,3-プロパンスルトンと反応させ、CFSOHによるイオン交換によって得られたスポンジ様ポリマーPDVB-SOH-[Cvim][CFSO]は、IL中で結晶性セルロースを糖に分解するための効果的な触媒であることが見出された(非特許文献1)。しかしながら、依然として浸出の問題があり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2010/0319862 A1号明細書
【文献】米国特許第8,575,374 B1号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】Fujian Liuら、Depolymerization of crystalline cellulose catalysed by acidic ionic liquids grafted onto sponge-like nanoporous polymers、Chem.Commun.、2013、49、8456-8458
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、バイオマスの処理に使用するのに簡単で安全な、媒体中の成分の浸出を伴わない、高度に触媒活性なイオン性ポリマー(IP)についての必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、アニオンと、カチオンを含有するポリマー骨格とからなる式(I)のイオン性ポリマー(IP)
【化1】
(式中、
Rは、置換C-C20アルキルおよび置換C-C10アリールから選択され、ここで、置換基は、H、-SOH、-COOH、-[P(=O)(OH)]、-[P(=O)(OH)]、-O-SOH、-O-COOH、-O-[P(=O)(OH)]、-O-[P(=O)(OH)]を含む群から選択され、
Aは、
【化2】
を含む群から選択されるカチオンであり、
R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は各々独立して、結合、H、C-Cアルキル、アリル、CH-(CH)n-O-(CH)m-CH、C-Cアルコキシ、C-Cアルコキシアルキル、ベンジル、-SOHを含む群から選択され、但し、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7のうちの2つは各々、ポリマー骨格との結合であり、
nおよびmは独立して、0、1、2、3、4、5、6から選択され、
xおよびyは各々独立して、1~1000の範囲内から選択される整数であり、
Xは、F、Cl、Br、I、ClO 、BF 、PF 、AsF 、SbF 、NO 、NO 、HSO 、SO 2-、PO 3-、HPO 2-、CFCO 、CFCO 、CO 2-、CFSO 、C-Cカルボキシレート、CN、SCN、OCN、CNO、N 、トシレート、メシレート、トリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロエタンスルホネート、ジ-トリフルオロメタンスルホニルアミノ、ドキュセート、キシレンスルホネートを含む群から選択される)
を提供する。
【0013】
本発明のさらなる態様は、本発明の1つ以上のイオン性ポリマーを含む少なくとも1つの表面を有する固体担体を提供する。
【0014】
本発明の別の態様は、本発明の1つ以上のイオン性ポリマーを組み込んでいるポリマー膜を提供する。
【0015】
本発明の別の態様は、バイオマスからファインケミカルを生成するための、本発明のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、本発明の固体担体または本発明のポリマー膜の使用を提供する。
【0016】
本発明の別の態様は、バイオマスから、脂質、糖、フラン化合物、および/またはフミンを含む群から選択される1つ以上のファインケミカルを生成する方法であって、
a)バイオマスを準備する工程と、
b)任意選択で、バイオマス中の脂質および/または糖の含有量を測定する工程と、
c)任意選択で、バイオマスを前処理する工程と、
d)バイオマスを触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、触媒は、本発明のイオン性ポリマーもしくは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持された(solid-supported)イオン性ポリマーである、工程と、
e)反応混合物中でバイオマスを分解して、液相および固相を生成する工程であって、液相は1つ以上のファインケミカルを含み、固相は残留バイオマスを含む、工程と、
f)固相から液相の少なくとも一部を単離する工程と、
g)単離した液相から1つ以上のファインケミカルを回収する工程と
含む、方法を提供する。
【0017】
本発明の別の態様は、バイオマスから、C5およびC6糖、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体を生成する方法であって、
a)バイオマスを準備する工程と、
b)任意選択で、バイオマス中の糖の含有量を測定する工程と、
c)任意選択で、バイオマスを前処理する工程と、
d)バイオマスを触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、触媒は、本発明のイオン性ポリマーもしくは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
e)反応混合物中でバイオマスを分解して、第1の液相および第1の固相を生成する工程であって、第1の液相はC5オリゴマー糖および/またはC5単糖を含み、分解する工程の時間が延ばされる場合、フルフラールをさらに含むことができ、第1の固相は残留物質を含む、工程と、
f)第1の固相から第1の液相の少なくとも一部を単離する工程と、
g)単離した第1の液相からC5オリゴマー糖および/またはC5単糖および/またはフルフラールを回収する工程と、
h)残留物質を含む第1の固相を、工程d)と同じ触媒または異なる触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、触媒は、本発明のイオン性ポリマーもしくは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
i)反応混合物中の残留物質を含む第1の固相をさらに分解して、第2の液相および第2の固相を生成する工程であって、第2の液相はC6オリゴマー糖および/またはC6単糖を含み、分解する工程の時間が延ばされる場合、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体ならびに/またはフミンをさらに含むことができ、第2の固相は残留物質を含む、工程と、
j)第2の固相から第2の液相の少なくとも一部を単離する工程と、
k)単離された第2の液相から、C6オリゴマー糖および/もしくはC6単糖ならびに/または5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体ならびに/またはフミンを回収する工程と
を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、一般化された酸性ポリマー調製スキームを示す。さらなる参考に関して:ポリ[1,3-ビ(4-ビニルベンジルイミダゾリウム)-co-4-ビニルベンジルスルホニウム][クロリド]-(IP1)、ポリ[1,3-ビ(4-ビニルベンジルイミダゾリウム)-co-4-ビニルベンジルスルホニウム][硫酸水素塩]-(IP2)、ポリ[1,3-ビ(4-ビニルベンジルイミダゾリウム)-co-4-ビニルベンジルスルホニウム][トリフレート]-(IP3)。
図2-1】LiuらのポリマーとSCGとの反応(上部)の19F NMRスペクトルを示す。
図2-2】反応前(上部)および反応後(下部)の開示ポリマーの19F NMRスペクトルを示す。
図3図3は、イオン性ポリマーIP3調製の一般化されたスキームを示す。
図4図4は、150℃で1時間、イオン性ポリマーIP3によるSCG処理後のオリゴ糖生成物分布を示す。DP-重合度。
図5図5は、IP1ポリ[1,3-ビ(4-ビニルベンジルイミダゾリウム)-co-4-ビニルベンジルスルホニウム][クロリド]との、ならびに混合物IP1ポリ[1,3-ビ(4-ビニルベンジルイミダゾリウム)-co-4-ビニルベンジルスルホニウム][クロリド]とIP2ポリ[1,3-ビ(4-ビニルベンジルイミダゾリウム)-co-4-ビニルベンジルスルホニウム][硫酸水素塩]との反応後にトウモロコシの穂軸から得られたオリゴ糖生成物の分布を示す。G-グルコースモノマー、X-キシロースモノマー;GまたはXの前の数は鎖におけるモノマーの数に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
全ての刊行物、特許出願、特許、並びに本明細書に言及されている他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。本明細書において議論される刊行物および出願は、本出願の出願日前のそれらの開示のためにのみ提供される。本明細書のいかなるものも、本発明が、先行発明によりこのような刊行物に先行する権利を有さないことを認めるものとして解釈されるものではない。加えて、材料、方法および実施例は説明的なものに過ぎず、限定されることを意図しない。
【0020】
矛盾する場合は、定義を含む本明細書が優先する。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本明細書の主題が属する当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に使用される場合、以下の定義は、本発明の理解を容易にするために提供される。
【0021】
「備える(comprise)」という用語は、一般に、含む、すなわち、1つ以上の特徴または構成要素の存在を可能にするという意味で使用される。また、本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、「備える」という言葉は、「からなる」および/または「から本質的になる」という用語で説明される類似の実施形態を含むことができる。
【0022】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」および「その」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数の参照を含む。
【0023】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、本明細書における「Aおよび/またはB」などの語句に使用される「および/または」という用語は、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」および「B」を含むことが意図される。
【0024】
「アリル」基は、構造式HC=CH-CHRを有する置換基であり、ここで、Rは分子の残りである。
【0025】
本発明の態様は、アニオンと、カチオンを含有するポリマー骨格とからなるイオン性ポリマーを提供する。特に、本発明は、アニオンと、カチオンを含有するポリマー骨格とからなる、式(I)のイオン性ポリマー(IP)を提供する。
【化3】
式中、
Rは、置換C-C20アルキルおよび置換C-C10アリールから選択され、ここで、置換基は、H、-SOH、-COOH、-[P(=O)(OH)]、-[P(=O)(OH)]、-O-SOH、-O-COOH、-O-[P(=O)(OH)]、-O-[P(=O)(OH)]を含む群から選択され、好ましくは、Rは、置換Cアリールであり、置換基は、H、-SOHを含む群から選択される。
【0026】
Aは、
【化4】
を含む群から選択されるカチオンであり、
R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は各々独立して、結合、H、C-Cアルキル、アリル、CH-(CH)n-O-(CH)m-CH、C-Cアルコキシ、C-Cアルコキシアルキル、ベンジル、-SOHを含む群から選択され、但し、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7のうちの2つは各々、ポリマー骨格との結合であり、
nおよびmは独立して、0、1、2、3、4、5、6から選択され、
xおよびyは各々独立して、1~1000、好ましくは1~500または1~200、より好ましくは1~100または1~50の範囲内から選択される整数であり、
Xは任意の適切なアニオンであり得る。好ましい実施形態において、Xは、F、Cl、Br、I、ClO 、BF 、PF 、AsF 、SbF 、NO 、NO 、HSO 、SO 2-、PO 3-、HPO 2-、CFCO 、CFCO 、CO 2-、CFSO 、C-Cカルボキシレート、CN、SCN、OCN、CNO、N 、トシレート、メシレート、トリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロエタンスルホネート、ジ-トリフルオロメタンスルホニルアミノ、ドキュセート、キシレンスルホネートを含む群から選択される。
【0027】
いくつかの好ましい実施形態において、C-Cカルボキシレートは、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、ヘキサン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、ピルビン酸塩を含む群から選択される。
【0028】
一実施形態において、本発明は、式(II)のイオン性ポリマー(IP)を提供する。
【化5】
式中、
Aは、
【化6】
を含む群から選択されるカチオンであり、
R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は各々独立して、結合、H、C-Cアルキル、アリル、CH-(CH)n-O-(CH)m-CH、C-Cアルコキシ、C-Cアルコキシアルキル、ベンジル、-SOHを含む群から選択され、但し、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7のうちの2つは各々、ポリマー骨格との結合であり、
nおよびmは独立して、0、1、2、3、4、5、6から選択され、
xおよびyは各々独立して、1~1000、好ましくは1~500または1~200、より好ましくは1~100または1~50の範囲内から選択される整数であり、
Xは、任意の適切なアニオンであり得る。好ましい実施形態において、Xは、F、Cl、Br、I、ClO 、BF 、PF 、AsF 、SbF 、NO 、NO 、HSO 、SO 2-、PO 3-、HPO 2-、CFCO 、CFCO 、CO 2-、CFSO 、C-Cカルボキシレート、CN、SCN、OCN、CNO、N 、トシレート、メシレート、トリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロエタンスルホネート、ジ-トリフルオロメタンスルホニルアミノ、ドキュセート、キシレンスルホネートを含む群から選択され、
Ra、Rb、Rcは各々独立して、H、-SOH、-COOH、-[P(=O)(OH)]、-[P(=O)(OH)]、-O-SOH、-O-COOH、-O-[P(=O)(OH)]、-O-[P(=O)(OH)]から選択される。好ましくは、Ra、Rb、Rcは、H、-SOHを含む群から選択される。
【0029】
いくつかの好ましい実施形態において、C-Cカルボキシレートは、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、ヘキサン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、ピルビン酸塩を含む群から選択される。
【0030】
別の実施形態において、本発明は以下の式のイオン性ポリマー(IP)を提供する。
【化7】
本発明のイオン性ポリマー(IP)は、限定されないが、適切なイオン種の直接重合、非IPの化学修飾などを含む、いくつかのストラテジーによって合成することができる(例えば、図1を参照のこと)。重合は、異なる手法、例えば、フリーラジカル重合、リビング/制御ラジカル重合、可逆的付加-フラグメンテーショントランスファー、イオンおよび配位重合を含んでもよい。アニオン構造は重合の前または後の選択に従って設計することができる。得られるイオン性ポリマー(IP)は、イオン性モノマーの一般的な特性と、酸性基の存在による固体触媒の可能な特性とを合わせている。本発明の一実施形態において、カチオンおよびアニオンの両方が、AIBNを使用して重合され得るスチレン基を含有する、カチオンおよびアニオンを用いて塩が調製される。それは本質的に非常に簡単な方法であり、イオン性ポリマーは洗浄および濾過によって過剰のAIBNを除去することによって精製される。本発明の特定の実施形態において、1,3-ジ-スチレンイミダゾリウムカチオンおよびスルホン化スチレンアニオンからなる塩が調製される。次いで、純粋な化合物であるこの塩は、ラジカル開始剤AIBNを使用して重合される。イオン性ポリマーは、洗浄および濾過による過剰のAIBNの除去によって精製される。最終工程において、イオン性ポリマーはCFSOHの添加によってプロトン化される。
【0031】
本発明のイオン性ポリマーは、膜に組み込まれてもよいか、または固体担体に付着されてもよい。
【0032】
本発明の別の態様は、本発明のイオン性ポリマーからなる膜を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の1つ以上のイオン性ポリマーを含むポリマー膜を提供する。適切なコポリマー(例えばアクリル酸)を、本発明のイオン性ポリマーの調製に使用される塩に加え、次いでその混合物を重合することによって、ポリマー膜を生成することができる。膜形成のための手法は、イオン性モノマーが適切な有機酸/酸誘導体と共重合される場合、単純なイオン錯体生成によるテンプレートフリー法に基づく(Tauber K.ら、Polym.Chem.、2015、6、4855-4858;Tauber K.ら、ACS Macro Lett.、2015、4(1)、39-42;Zhang S.ら、Chem.Sci.、2015、6、3684-3691を参照のこと)。例として、イオン性モノマーをDMSOに溶解し、60℃で2時間撹拌した。次いで、透明な溶液をガラスプレート上に注ぎ、溶媒を80℃にてオーブン中で蒸発させた。続いて、得られた非多孔性乾燥ポリマーフィルムを、細孔形成および静電的錯体化のために一晩、水性アンモニア(0.2wt%)中に浸漬した。膜はガラスプレートから容易に剥離し、水で数回洗浄し、その後、トリフリック酸水溶液の存在下でプロトン化した。得られた生成物を水で洗浄した。
【0033】
本発明の別の態様は、固体担体に担持されたイオン性ポリマーを提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の1つ以上のイオン性ポリマーを含む少なくとも1つの表面を有する固体担体を提供する。担持されたイオン性ポリマーは、担体としての異なる材料:シリコンまたは炭素(ナノチューブ、ワイヤ)源、グラフェンもしくはグラフェン酸化物、ゼオライト、金属/金属合金または金属/金属合金酸化物に固定化され得る。例として、FeO担体は、高温(500℃)で酸素の存在下で、オーブン中で酸化され、その表面は、その後、HClの存在下でエタノールに溶解したシランの混合物で修飾された。室温で乾燥させた後、担体にイオン性ポリマーおよびAIBNのメタノール溶液を均一に含浸させた。室温で乾燥させた後、得られた材料を95℃のオーブン中に2時間置いた。含浸プロセスを繰り返すことによって、所望のポリマー負荷が達成され得る。別の例は、本発明のイオン性ポリマーを含むステンレス鋼膜である。イオン性モノマー(0.2~0.5、モル比)、アクリル酸(0.1~0.6、モル比)、およびベンゾインエチルエーテル(光開始剤として1wt%)を含有する混合物をメタノールに溶解して均質な溶液を得、次いでこれをステンレス鋼膜上で濡らして分散させ、250nm波長のUV光を照射して室温で光架橋した。
【0034】
イオン性ポリマーの付着は表面グラフト化によっても可能であり、これは、UVまたはO、O、Hまたは空気プラズマによる担体の活性化を必要とする。それは、ポリマー表面上の反応性部位(ラジカル)の作製、続いて、予め形成されたポリマーの共有結合、またはより一般的にはそれらのラジカル部位からのモノマーの重合を含む(Alves P.ら、Colloids and Surfaces B:Biointerfaces、Volume 82、Issue 2、2011年2月1日、371-377;Barbey R.ら、Chem.Rev.、2009、109(11)、5437-5527を参照のこと)。別のコポリマーまたは重合開始剤もまた、(膜形成の場合のように)重合プロセスの間に使用されてもよい。
【0035】
本発明の別の態様は、バイオマスからファインケミカル(高付加価値化学物質)を生成するための、本発明のイオン性ポリマーもしくはその組み合わせの使用、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーの使用を提供する。好ましい実施形態において、ファインケミカルは、脂質(例えば、脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-アシルグリセリド)、糖(例えば、単糖、二糖、オリゴ糖)、フラン化合物(例えば、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMF誘導体)および/またはフミンである。
【0036】
本発明の別の態様は、バイオマスからファインケミカル(高付加価値化学物質)を生成するための、本発明のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーの使用を含む方法を提供する。好ましい実施形態において、ファインケミカルは、脂質(例えば、脂肪酸、モノ-、ジ-およびトリ-アシルグリセリド)、糖(例えば、単糖、二糖、オリゴ糖)、フラン化合物(例えば、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMF誘導体)および/またはフミンである。
【0037】
本発明の文脈において、脂質は、好ましくは、モノ-、ジ-およびトリ-アシルグリセリドまたはヘキサンデセン酸、パルミチン酸、オクタンデセン酸およびステアリン酸などの脂肪酸である。
【0038】
本発明の文脈において、糖は、単糖、二糖、またはオリゴ糖を指す。単糖には、グルコース、フルクトースおよびガラクトース、マンノース、キシロースならびに他のC6およびC5糖が含まれる。二糖には、スクロース、マルトース、ラクトースおよび単糖の他の可能な組み合わせが含まれる。オリゴ糖には、C6および/またはC5糖のより長い鎖が含まれる。いくつかの実施形態において、糖は、1つ以上の単糖、1つ以上のオリゴ糖、またはそれらの混合物である。他の実施形態において、糖は、少なくとも1つのC5~C6単糖および少なくとも1つのオリゴ糖を含む2つ以上の糖である。さらに他の実施形態において、糖は、グルコース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、およびアラビノースから選択される。
【0039】
本発明の方法によって得られる糖は、食品剤として、例えば、甘味剤もしくは香味剤、増量剤として、または発酵および化学変換プロセスのための基質として使用されてもよい。本発明の方法によって得られる糖は、ヒトおよび動物の消費、または非ヒトおよび非動物の消費に使用することができる。好ましい実施形態において、本発明の方法によって得られる糖は、ヒトおよび動物の消費に適した食品グレードの糖である。
【0040】
本発明の文脈において、フラン化合物は、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体、同様にメトキシメチルフルフラール(MMF)などのアルコキシメチルフルフラール;および5-クロロメチルフルフラールなどのハロアルキルフルフラールからなる群から選択される。また、本発明の文脈において、フラン化合物は、本発明の方法によって得られる糖から得られ得る/本発明の方法によって得られる糖に由来し得る。
【0041】
本発明の文脈において、フミンは、本発明の方法によって得られる糖から得られ得る/本発明の方法によって得られる糖に由来し得る。
【0042】
本明細書に使用する場合、「バイオマス」という用語は、本発明の開示された方法およびプロセスの1つまたは複数で使用され得る、生きているまたは死んでいる生物学的物質を指す。バイオマスは、任意のセルロース系、キチン系、油性またはリグノセルロース系の物質を含むことができ、セルロースを含む物質、および任意選択で、ヘミセルロース、リグニン、デンプン、オリゴ糖および/または単糖、バイオポリマー、バイオポリマーの天然誘導体、それらの混合物、ならびに分解産物(例えば、代謝産物)をさらに含む物質を含む。バイオマスはまた、塩、タンパク質および/または脂質などのさらなる成分を含んでもよい。バイオマスは、単一の起源に由来してもよいか、またはバイオマスは、2つ以上の起源に由来する混合物を含んでもよい。バイオマスのいくつかの特定の例としては、限定されないが、バイオエネルギー作物、農業残渣、農業および食品プロセス副産物、都市固形/液体廃棄物、産業固形/液体廃棄物、製紙からのスラッジ、ヤード廃棄物、木材および林業廃棄物が挙げられる。バイオマスのさらなる例としては、限定されないが、トウモロコシ粒、トウモロコシの穂軸、作物残渣、例えば、トウモロコシの皮、トウモロコシ茎葉、草、コムギ、麦わら、干し草、稲わら、スイッチグラス、古紙、サトウキビバガス、ソルガム、大豆、穀物、木(例えば、松)、枝、根、葉、木材チップ、木材パルプ、おがくず、潅木およびブッシュの粉砕により得られる成分、野菜、果物、花、家畜糞尿、多成分飼料、ならびに甲殻類バイオマス(すなわち、キチン質バイオマス)が挙げられる。好ましい実施形態において、バイオマスは、細胞性バイオマス、食品廃棄物/残渣/副流、農業廃棄物、林業廃棄物、木材廃棄物、加工木材、紙、パルプ、藻類、エネルギー作物、成長の速い樹木/植物を含む群から選択される。別の好ましい実施形態において、バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグノセルロースおよびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態によれば、本発明の使用および本発明の方法において、本発明のイオン性ポリマーの混合物を使用することができる。イオン性ポリマー混合物は、本発明の各々のイオン性ポリマーを物理的に混合するか、または適切な酸(例えば、HClおよびHSO)の混合物中でのプロトン付加反応(調製の最終工程)のいずれかによって得ることができる。
【0044】
本質的に、バイオマスは、使用されるバイオマスの種類、バイオマスの前処理工程、および反応条件(時間、温度、溶媒および他の試薬)に応じて、脂質、糖、フラン化合物、および/またはフミンなどのファインケミカルを得るために、水または有機溶媒中の、本発明の1つ以上のイオン性ポリマー、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーの存在下で加熱される。
【0045】
本発明の別の態様は、バイオマスから、脂質、糖、フラン化合物、および/またはフミンを含む群から選択される1つ以上のファインケミカルを生成する方法であって、
a)バイオマスを準備する工程と、
b)任意選択で、バイオマス中の脂質および/または糖の含有量を測定する工程と、
c)任意選択で、バイオマスを前処理する工程と、
d)バイオマスを触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、触媒は、本発明のイオン性ポリマーもしくは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
e)反応混合物中でバイオマスを分解して、液相および固相を生成する工程であって、液相は1つ以上のファインケミカルを含み、固相は残留バイオマスを含む、工程と、
f)固相から液相の少なくとも一部を単離する工程と、
g)単離した液相から1つ以上のファインケミカルを回収する工程と
含む、方法を提供する。
【0046】
一実施形態において、反応混合物を形成するためにバイオマスを触媒と接触させる工程d)は、適切な水または有機溶媒および有効量の触媒をバイオマスに添加して反応混合物を形成する工程であって、触媒は、本発明のイオン性ポリマーもしくは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程からなり、工程e)の分解は、適切な時間の間、工程d)の反応混合物を加熱し、続いて室温(典型的に20~25℃)まで冷却する工程からなる。
【0047】
本発明の一実施形態は、バイオマスから、脂質、糖、フラン化合物、および/またはフミンを含む群から選択される1つ以上のファインケミカルを生成する方法であって、
a)バイオマスを準備する工程と、
b)任意選択で、バイオマス中の脂質および/または糖の含有量を測定する工程と、
c)任意選択で、バイオマスを前処理する工程と、
d)適切な水または有機溶媒および有効量の触媒をバイオマスに添加して反応混合物を形成する工程であって、触媒は、本発明のイオン性ポリマーもしくは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
e)適切な時間の間、工程d)の混合物を加熱する工程と、
f)室温まで冷却する工程と、
g)1つ以上のファインケミカルを回収する工程と
含む、方法を提供する。
【0048】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、有機溶媒は、アルコール(メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコールなど)、エーテル(ジメトキシエタン、ジグリム、ブチルメチルエーテルなど)、ケトン(メチルイソブチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンなど)、DMSO、DME、DMF、THF、イオン性液体を含む群から選択される。いくつかの実施形態において、本発明の方法において有機溶媒として使用されるイオン性液体は、カチオンおよびアニオン部分を含み、それらは不揮発性であり、したがって容易に含有され得るので、環境に優しい(green)有機溶媒と称される。本発明のイオン性液体に存在するカチオンは、コリン、イミダゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、アンモニウムおよびホスホニウムベースのカチオンであり、ならびに/または
【化8】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は各々独立して、結合、H、C-Cアルキル、アリル、CH-(CH)n-O-(CH)m-CH、C-Cアルコキシ、C-Cアルコキシアルキル、ベンジル、-SOHを含む群から選択される)
を含む群から選択される。
【0049】
本発明のイオン性液体に存在するアニオンは任意の適切なアニオンであってもよい。好ましい実施形態において、アニオンは、F、Cl、Br、I、ClO 、BF 、PF 、AsF 、SbF 、NO 、NO 、HSO 、SO 2-、PO 3-、HPO 2-、CFCO 、CFCO 、CO 2-、CFSO 、C-Cカルボキシレート、CN、SCN、OCN、CNO、N 、トシレート、メシレート、トリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロエタンスルホネート、ジ-トリフルオロメタンスルホニルアミノ、ドキュセート、キシレンスルホネートを含む群から選択される。
【0050】
本発明の方法のいくつかの実施形態において、脂質、糖、フラン化合物、および/またはフミンなどの1つ以上のファインケミカルを回収する工程は、当該分野で公知の任意の技術、例えば、濾過、遠心分離、または重力沈降によって行われ得る。
【0051】
本発明の文脈において、バイオマスを変質または分解することは、バイオマスを変換および加水分解すること、バイオマスから目的の化合物またはファインケミカル、例えば、脂質、糖、フラン化合物および/もしくはフミンを抽出すること、またはバイオマスを目的の化合物もしくはファインケミカルに変質、分解、変換する任意の他の活動も包含する。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態は、バイオマスを変質または分解するために、本発明のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜、および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーを使用して、種々のバイオマスから1つ以上の糖を生成する方法を提供する。
【0053】
いくつかの実施形態において、本発明のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーを使用する本明細書に記載される方法は、セルロースおよび/またはヘミセルロースを、単糖、二糖、および/またはオリゴ糖を含む1つまたは複数の糖に加水分解することができる。
【0054】
本発明の一実施形態は、バイオマスから1つ以上の糖を生成する方法であって、
a)バイオマスを準備する工程と、
b)任意選択で、バイオマス中の糖の含有量を測定する工程と、
c)任意選択で、バイオマスを前処理する工程と、
d)バイオマスを触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、触媒は、本発明のイオン性ポリマーもしくは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
e)反応混合物中でバイオマスを分解して、液相および固相を生成する工程であって、液相は1つ以上の糖を含み、固相は残留バイオマスを含む、工程と、
f)固相から液相の少なくとも一部を単離する工程と、
g)単離した液相から1つ以上の糖を回収する工程と
含む、方法を提供する。
【0055】
いくつかの実施形態において、バイオマスは加水分解プロセスなどの多段階分解に供され得る。例えば、いくつかの実施形態において、C5およびC6糖を含有するバイオマスを、本発明のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーと最初に接触させて、C5オリゴマー糖またはC5単糖のみを回収することができ、反応時間が延ばされる場合にはフルフラールをさらに提供することができ、次いで、適切な溶媒を加えた残留物質を、第2の分解工程(例えば、加水分解工程)においてさらに処理して、C6オリゴマー糖および/またはC6単糖を回収し、さらに反応時間が延ばされる場合には5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびその誘導体を提供することができる。各工程の温度および反応時間は、抽出を最適化するために個別に設定される。典型的には、多段階プロセスは、1段階プロセスと比較して長い反応時間を必要とする。本発明のイオン性ポリマーまたは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせが担持されていない場合、それは残留物質を含む第1の固相に留まる。本発明のイオン性ポリマーまたは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせが担持されている場合、それは担体上に留まる。いずれの場合でも、この多段階プロセスでは、本発明のイオン性ポリマーまたはそれらの組み合わせを添加または再導入する必要はない。したがって、本発明の別の実施形態は、バイオマスから、C5およびC6糖、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体を生成するための方法を提供し、
a)バイオマスを準備する工程と、
b)任意選択で、バイオマス中の糖の含有量を測定する工程と、
c)任意選択で、バイオマスを前処理する工程と、
d)バイオマスを触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、触媒は、本発明のイオン性ポリマーもしくは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
e)反応混合物中でバイオマスを分解して、第1の液相および第1の固相を生成する工程であって、第1の液相はC5オリゴマー糖および/またはC5単糖を含み、分解する工程の時間が延ばされる場合、フルフラールをさらに含むことができ、第1の固相は残留物質を含む、工程と、
f)第1の固相から第1の液相の少なくとも一部を単離する工程と、
g)単離した第1の液相からC5オリゴマー糖および/またはC5単糖および/またはフルフラールを回収する工程と、
h)残留物質を含む第1の固相を、工程d)と同じ触媒または異なる触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、触媒は、本発明のイオン性ポリマーもしくは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
i)反応混合物中の残留物質を含む第1の固相をさらに分解して、第2の液相および第2の固相を生成する工程であって、第2の液相はC6オリゴマー糖および/またはC6単糖を含み、分解する工程の時間が延ばされる場合、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体ならびに/またはフミンをさらに含むことができ、第2の固相は残留物質を含む、工程と、
j)第2の固相から第2の液相の少なくとも一部を単離する工程と、
k)単離された第2の液相から、C6オリゴマー糖および/もしくはC6単糖ならびに/または5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体ならびに/またはフミンを回収する工程と
を含む、方法を提供する。
【0056】
本発明の多段階分解法のいくつかの実施形態において、工程h)における触媒は、プロセスにおいて(第1の固相、膜および/または担体に)既に存在していてもよく、したがってそれは方法の工程d)のものと同じであるか、またはそれは異なっていてもよく、すなわち後で添加されてもよいことが理解される。
【0057】
本発明の別の実施形態において、セルロースおよびヘミセルロースを含有するバイオマスの分解反応は、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびその誘導体、フルフラールならびにフミンなどの他の高付加価値化学物質の形成に対して継続することができる。この分解反応において、反応時間は、典型的にはC5/C6オリゴマー糖および/またはC5/C6単糖を得るために必要な反応時間よりも長い。HMFは、多用途プラットフォーム化学物質および他のプラットフォームに対する前駆体および高付加価値化学物質である。したがって、本発明の実施形態は、バイオマスから、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)もしくはその誘導体、フルフラールおよび/またはフミンを生成する方法であって、
a)バイオマスを準備する工程と、
b)任意選択で、バイオマス中の糖の含有量を測定する工程と、
c)任意選択で、バイオマスを前処理する工程と、
d)バイオマスを触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、触媒は、本発明のイオン性ポリマーもしくは本発明のイオン性ポリマーの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
e)反応混合物中でバイオマスを分解して、液相および固相を生成する工程であって、液相は5-ヒドロキシメチルフルフラールもしくはその誘導体、フルフラールまたはフミンを含み、固相は残留バイオマスを含む、工程と、
f)固相から液相の少なくとも一部を単離する工程と、
g)単離した液相から5-ヒドロキシメチルフルフラールもしくはその誘導体、フルフラールまたはフミンを回収する工程と
含む、方法を提供する。
【0058】
任意選択的に、いずれかの使用前に、標準的な方法に基づいてバイオマス中の糖および/または脂質の含有量を測定する。脂質は、メタノール、クロロホルムおよび水の混合物(2:1:0.8、v/v/v)を含むFolch法(Folch J、Lees M、Stanley、GHS、1957、226、497-509)およびその後の相分離を使用して測定/抽出することができる。糖の測定は、例えば、「Determination of Structural Carbohydrates and Lignin in Biomass」についてのNRELプロトコルに従って実施される。例えば、1mlの72%硫酸を100mgのバイオマスに添加した。スラリーを30℃で1時間撹拌し、続いて28mlの脱イオン水を添加した。混合物を120℃で1時間オートクレーブし、室温に冷却し、HPLCによる糖分析および205nm波長でのUV分光光度法を使用した酸可溶性リグニン測定のために使用した。同じ加水分解物を、Bradfordタンパク質アッセイによるタンパク質分析のために使用した。酸加水分解からの残留物を100mLの水で洗浄し、次いで105℃で乾燥させて、Klasonリグニンを測定した。
【0059】
本明細書に記載される方法に使用されるバイオマスの任意選択の前処理は、洗浄、溶媒抽出、溶媒膨潤、粉砕、ミリング、蒸気前処理、爆発性蒸気前処理、希酸前処理、熱水前処理、アルカリ前処理、石灰前処理、湿式酸化、湿式爆砕、アンモニア繊維爆砕、有機溶媒前処理、生物学的前処理、アンモニアパーコレーション、超音波、エレクトロポレーション、マイクロ波、超臨界CO、超臨界HO、オゾン、およびガンマ線照射からなる群から選択される1つ以上の方法を使用する。バイオマスの任意選択の前処理は、例えばバイオマスのミリングを含む。表面反応および物質移動によって制限される反応速度の障害を克服するために、セルロース系物質の結晶化度の減少および比表面積の増加をもたらす、ボールミルによるバイオマスの前処理プロセスが強く推奨される。バイオマスの実施される機械的ボールミルに応じて、構造粒径の減少、セルロースの重合度の減少、およびセルロースの非晶質含有量の増加がある。
【0060】
本明細書に記載される方法において使用される本発明のイオン性ポリマーまたはそれらの組み合わせの有効量は、例えば、バイオマスの種類、バイオマスの量、バイオマス中の糖および/または脂質の含有量、バイオマスに適用される前処理の種類および回数、ならびに反応条件(温度および時間など)を含む、いくつかの要因に依存し得る。本発明のイオン性ポリマーの有効量とは、例えば、1つ以上の所望の糖、脂質または他のファインケミカルおよび高付加価値化学物質(5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)またはその誘導体、フルフラールおよびフミン)を得るためにバイオマスを分解するのに十分な量を指す。いくつかの実施形態において、本発明のイオン性ポリマーの有効量は、バイオマス中の糖の含有量と比較して、通常、0.05:1w/w~10:1w/w、0.5:1w/w~10:1w/w、1:1w/w~1:5w/w、好ましくは0.1:1w/w~1:5w/wである。
【0061】
本明細書に記載される方法に使用されるバイオマス対水の比は、例えば、バイオマスの種類およびバイオマスの量を含む、いくつかの要因に依存し得る。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される方法に使用されるバイオマス対水または有機溶媒(アルコール、エーテル、ケトン、DMSO、DME、DMFなど)の比は、1:100w/v~1:1w/v、好ましくは1:50w/v~1:10w/vの範囲である。
【0062】
本明細書に記載される方法に使用される加熱のための好ましい温度プロファイルは、使用されるバイオマス出発材料、およびまた、生成される、意図されるモノマーおよびオリゴマー混合物に依存する。加熱温度は、好ましくは、最大で250℃、いくつかの実施形態において最大で200℃に維持されるべきである。いくつかの実施形態において、加熱温度は、100℃~250℃、または100℃~200℃、好ましくは120℃~220℃、または120℃~220℃である。好ましくは、小規模の用途では、加熱は、高圧オートクレーブ反応器中で行われ、高圧オートクレーブ反応器は、密閉後、適切な反応時間および温度で加熱される。
【0063】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される方法における適切な反応時間は、バイオマスの種類および量に応じて、例えば、10分~10時間、好ましくは0.5時間~5時間、または1時間~3時間である。
【0064】
いくつかの実施形態において、本発明のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜、および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーを使用して、バイオマスから1つ以上の糖、フラン化合物、および/またはフミンを生成するための方法は、バイオマスの加水分解から生成される糖、フラン化合物、および/またはフミンを回収する工程をさらに含む。典型的に可溶性である、糖およびフラン化合物は、例えば、遠心分離、濾過および重力沈降などの、当該分野で周知の技術を使用して不溶性残留バイオマスから分離することができる。
【0065】
糖、フラン化合物および/またはフミンの回収は、加水分解反応器または分離容器中で実施することができる。例示的な実施形態において、バイオマスから1つ以上の糖、フラン化合物および/またはフミンを生成する方法は、加水分解反応器および分離容器を備えたシステムで実施される。単糖、二糖、オリゴ糖、フラン化合物および/またはフミンを含有する反応器流出物を分離容器に移し、溶媒を分離容器に添加し、次いで連続遠心分離器で溶媒を分離することによって溶媒(例えば、水)で洗浄する。あるいは、別の例示的な実施形態において、残留固体(例えば、残留バイオマス)を含有する反応器流出物は反応容器から除去され、例えば、溶媒(例えば、水)洗浄ストリームを通して多孔質基部(例えば、メッシュベルト)上で固体を運搬することによって洗浄される。ストリームと反応固体との接触後、単糖、二糖、オリゴ糖、フラン化合物および/またはフミンを含有する液相が生成される。任意選択で、残留固体はサイクロンによって分離されてもよい。分離のために使用されるサイクロンの適切な種類は、例えば、接線方向サイクロン、スパークおよび回転分離器、ならびに軸方向およびマルチサイクロンユニットを含んでもよい。
【0066】
別の実施形態において、糖、フラン化合物および/またはフミンの回収はバッチまたは連続的な示差沈降によって実施される。反応器流出物は分離容器に移され、任意選択で、流出物のさらなる処理のために水および/または酵素と合わされる。ある期間にわたって、固体生体物質(例えば残留処理バイオマス)、触媒(例えば本発明のイオン性ポリマー)、および糖含有水性物質、フラン含有水性物質および/またはフミン含有水性物質は、異なる沈降によって複数の相(または層)に分離することができる。一般に、触媒層は底部まで沈降することができ、残留バイオマスの密度に応じて、バイオマス相は水相の上または下にあり得る。相分離がバッチモードで実施される場合、相は、容器の上部または容器の底部の出口のいずれかから連続的に除去される。相分離が連続様式で実施される場合、分離容器は、1つ、2つ、または3つの相が容器から除去されるように、概して、分離容器の側壁上の異なる垂直面に位置する1つまたは1つより多い(例えば、2つ、3つ、4つまたは4つより多い)出口手段を含む。除去された相は後続の容器または他の貯蔵手段に移される。これらのプロセスによって、当業者は、(1)触媒層および水層もしくはバイオマス層を別々に、または(2)触媒層、水層、およびバイオマス層を別々に捕捉することができ、効率的な触媒リサイクル、バイオマスの再処理、および糖の分離を可能にする。さらに、相の除去速度および他のパラメータの制御により、触媒回収効率の増加が可能となる。分離された相の各々の除去に続いて、触媒および/またはバイオマスを水層によって別々に洗浄して、付着した糖、フラン化合物および/またはフミン分子を除去することができる。
【0067】
いくつかの実施形態において、容器から単離された糖、フラン化合物および/またはフミンは、バイオ燃料および他の生物学的生成物を生成するために(例えば、乾燥、発酵のような)さらなる処理工程に供され得る。
【0068】
容器から単離された残留バイオマスは、燃焼燃料として、肥料として、もしくは家畜などの非ヒト動物の飼料源として、またはさらなる後処理のための次の工程に役立ち得る。
【0069】
本発明の別の態様は、高重合度(PD)を有する多糖ポリマーを、特定および/または低い重合度を有する単糖およびオリゴ糖に選択的に変換するための、本発明のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜、および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーの使用を含む方法を提供する。例えば、最適化された条件下で、種々の重合度(DP2-DP12)を有するグルコース/フルクトースまたは糖オリゴマーのみを単離することが可能である。
【0070】
本発明の別の態様は、バイオマスから、脂肪脂質などの脂質を抽出するための、本発明のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜、および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーの使用であって、さらなる触媒および/またはさらなるガス(CO、Hなど)も使用される、使用を含む方法を提供する。例えば、生成物(複数を含む)の連続抽出が、例えば適切な溶媒またはガスを使用して利用されてもよい。例として、超臨界COが脂質を抽出するために本発明のイオン性ポリマーと組み合わせて使用されてもよく、変換を受けた残りの物質をそのままにしておく。Rh、Pt、Pd、それらの錯体、塩または金属酸化物などの触媒がHの存在下で反応系に導入される場合、放出された糖をアルカンに変換することができる。
【0071】
本発明のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜、および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマーは、当該分野で公知の方法(Young,G.ら、Separation and Purification Technology 72、118-121(2010);Choi,S.-A.ら、Algal Research、3、44-48(2014);Kim,Y.-H.ら、Bioresource Technology 109、312-315(2012);Sahena,F.ら、A review.Journal of Food Engineering 95、240-253(2009)を参照のこと)に従ってバイオマスから脂質を抽出するために使用され得る。
【0072】
本発明の方法は、バイオマスをファインケミカル、単純な成分、ならびにその後の誘導体および商品に変換するための、多様な化学、バイオテクノロジーならびに他の工業的および非工業的用途に使用することができる。
【0073】
本発明のイオン性ポリマーまたはそれらの組み合わせおよび本発明の方法は、先行技術のポリマー化合物および方法と比較して、いくつかの利点を有する。例えば、イオン性ポリマーの浸出は観察されなかった。これにより、本発明のイオン性ポリマーを、バイオマス処理に使用し、回収された糖を食品等級の製品とみなすことができる。さらに、本発明のイオン性ポリマーは水中で作用し、イオン性液体溶媒およびいくつかの場合、任意の他の有機溶媒についての必要性が存在しない。先行技術の他のポリマー化合物はイオン性液体(IL)中で作用するので、生成物の分離はより複雑である。本発明のイオン性ポリマーおよび方法を使用すると、生成物は水中にあり、濾過によって容易に分離することができる。また、反応は水中で実施され、反応条件を変えると、重合度の異なる生成物のバリエーションが得られる。一般に、反応は短い反応時間内で起こる。本発明の方法は、中程度の温度、典型的には150℃未満の温度で操作されるが、先行技術の方法は150℃を超える温度を必要とする。さらに、本発明のイオン性ポリマーおよび方法は、より少ない副生物を提供し、これは、所望の生成物のより容易な回収を可能にする。
【0074】
バイオマスの加水分解、変質または分解のための、本発明のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、本発明のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または本発明の固体担体に担持されたイオン性ポリマー、ならびにそれらの使用の重要な利点は、バイオマスからの上述の有用なファインケミカル(高付加価値化学物質)の分解および選択的抽出のためのワンポットシステムにおけるそれらの使用である。
【0075】
本発明のさらなる例
1. アニオンと、カチオンを含有するポリマー骨格とからなる式(I)のイオン性ポリマー
【化9】
(式中、
Rは、置換C-C20アルキルおよび置換C-C10アリールから選択され、ここで、置換基は、H、-SOH、-COOH、-[P(=O)(OH)]、-[P(=O)(OH)]、-O-SOH、-O-COOH、-O-[P(=O)(OH)]、-O-[P(=O)(OH)]を含む群から選択され、
Aは、
【化10】
を含む群から選択されるカチオンであり、
R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は各々独立して、結合、H、C-Cアルキル、アリル、CH-(CH)n-O-(CH)m-CH、C-Cアルコキシ、C-Cアルコキシアルキル、ベンジル、-SOHを含む群から選択され、但し、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7のうちの2つは各々、ポリマー骨格との結合であり、
nおよびmは独立して、0、1、2、3、4、5、6から選択され、
xおよびyは各々独立して、1~1000の範囲内から選択される整数であり、
Xは、F、Cl、Br、I、ClO 、BF 、PF 、AsF 、SbF 、NO 、NO 、HSO 、SO 2-、PO 3-、HPO 2-、CFCO 、CFCO 、CO 2-、CFSO 、C-Cカルボキシレート、CN、SCN、OCN、CNO、N 、トシレート、メシレート、トリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロエタンスルホネート、ジ-トリフルオロメタンスルホニルアミノ、ドキュセート、キシレンスルホネートを含む群から選択される)。
【0076】
2. Rが置換C-C20アルキル、好ましくはC-C10アルキルであり、ここで、置換基は、H、-SOH、-COOH、-[P(=O)(OH)]、-[P(=O)(OH)]、-O-SOH、-O-COOH、-O-[P(=O)(OH)]、-O-[P(=O)(OH)]を含む群から選択される、例1に記載のイオン性ポリマー。
【0077】
3. Rが置換C-C10アリール、好ましくはC-Cアリールであり、ここで、置換基は、H、-SOH、-COOH、-[P(=O)(OH)]、-[P(=O)(OH)]、-O-SOH、-O-COOH、-O-[P(=O)(OH)]、-O-[P(=O)(OH)]を含む群から選択される、例1に記載のイオン性ポリマー。
【0078】
4. Rが置換Cアリールであり、置換基が、H、-SOHを含む群から選択される、例1または例3に記載のイオン性ポリマー。
【0079】
5. 式(II)
【化11】
(式中、
Ra、Rb、Rcは各々独立して、H、-SOH、-COOH、-[P(=O)(OH)]、-[P(=O)(OH)]、-O-SOH、-O-COOH、-O-[P(=O)(OH)]、-O-[P(=O)(OH)]から選択される)
によって表される例1に記載のイオン性ポリマー。
【0080】
6.
【化12】
によって表される例1に記載のイオン性ポリマー。
【0081】
7. 例1~6のいずれか一つに記載の1つ以上のイオン性ポリマーを含む少なくとも1つの表面を有する固体担体。
【0082】
8. 例1~6のいずれか一つに記載の1つ以上のイオン性ポリマーを組み込んでいるポリマー膜。
【0083】
9. バイオマスからファインケミカルを生成するための、例1~6のいずれか一つに記載のイオン性ポリマーもしくはそれらの組み合わせ、例7に記載の固体担体または例8に記載のポリマー膜の使用。
【0084】
10. ファインケミカルが、脂質、糖、フラン化合物およびフミンを含む群から選択される、例7に記載の使用。
【0085】
11. バイオマスから、脂質、糖、フラン化合物、および/またはフミンを含む群から選択される1つ以上のファインケミカルを生成する方法であって、
a)バイオマスを準備する工程と、
b)任意選択で、バイオマス中の脂質および/または糖の含有量を測定する工程と、
c)任意選択で、バイオマスを前処理する工程と、
d)バイオマスを触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、触媒は、例1~6のいずれか一つに記載のイオン性ポリマーもしくは例1~6のいずれか一つに記載のイオン性ポリマーの組み合わせ、例1~6のいずれか一つに記載のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または例7に記載の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
e)反応混合物中でバイオマスを分解して、液相および固相を生成する工程であって、液相は1つ以上のファインケミカルを含み、固相は残留バイオマスを含む、工程と、
f)固相から液相の少なくとも一部を単離する工程と、
g)単離した液相から1つ以上のファインケミカルを回収する工程と
含む、方法。
【0086】
12. 工程d)が、適切な水または有機溶媒および有効量の触媒をバイオマスに添加して、反応混合物を形成することを含み、工程e)の分解が、適切な時間の間、工程d)の反応混合物を加熱し、続いて室温まで冷却することを含む、例11に記載の方法。
【0087】
13. ファインケミカルが糖である、例11または12に記載の方法。
【0088】
14. バイオマスから、C5およびC6糖、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体を生成する方法であって、
a)バイオマスを準備する工程と、
b)任意選択で、バイオマス中の糖の含有量を測定する工程と、
c)任意選択で、バイオマスを前処理する工程と、
d)バイオマスを触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、触媒は、例1~6のいずれか一つに記載のイオン性ポリマーもしくは例1~6のいずれか一つに記載のイオン性ポリマーの組み合わせ、例1~6のいずれか一つに記載のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または例7に記載の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
e)反応混合物中でバイオマスを分解して、第1の液相および第1の固相を生成する工程であって、第1の液相はC5オリゴマー糖および/またはC5単糖を含み、分解する工程の時間が延ばされる場合、フルフラールをさらに含むことができ、第1の固相は残留物質を含む、工程と、
f)第1の固相から第1の液相の少なくとも一部を単離する工程と、
g)単離した第1の液相からC5オリゴマー糖および/またはC5単糖および/またはフルフラールを回収する工程と、
h)残留物質を含む第1の固相を、工程d)と同じ触媒または異なる触媒と接触させて反応混合物を形成する工程であって、触媒は、例1~6のいずれか一つに記載のイオン性ポリマーもしくは例1~6のいずれか一つに記載のイオン性ポリマーの組み合わせ、例1~6のいずれか一つに記載のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜および/または例7に記載の固体担体に担持されたイオン性ポリマーである、工程と、
i)反応混合物中の残留物質を含む第1の固相をさらに分解して、第2の液相および第2の固相を生成する工程であって、第2の液相はC6オリゴマー糖および/またはC6単糖を含み、分解する工程の時間が延ばされる場合、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体ならびに/またはフミンをさらに含むことができ、第2の固相は残留物質を含む、工程と、
j)第2の固相から第2の液相の少なくとも一部を単離する工程と、
k)単離された第2の液相から、C6オリゴマー糖および/もしくはC6単糖ならびに/または5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)およびHMFの誘導体ならびに/またはフミンを回収する工程と
を含む、方法。
【0089】
15. 工程d)が、適切な水または有機溶媒および有効量の触媒をバイオマスに添加して、反応混合物を形成することを含み、工程e)およびi)の分解が、適切な時間の間、反応混合物を加熱し、続いて室温まで冷却することを含む、例14に記載の方法。
【0090】
16. 分解する工程の時間が、少なくとも10分間、少なくとも30分間、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも3時間、少なくとも5時間、少なくとも7時間、または少なくとも10時間、延ばされる、例14または15に記載の方法。
【0091】
17. 有機溶媒が、アルコール、エーテル、ケトン、DMSO、DME、DMF、THF、イオン性液体を含む群から選択される、例12、13、15または16に記載の方法。
【0092】
18. 有機溶媒が、アルコール、エーテル、ケトン、DMSO、DME、DMF、THFを含む群から選択される、例12、13、15または16に記載の方法。
【0093】
19. 適切な時間が、10分~10時間、好ましくは0.5時間~5時間または1時間~3時間である、例12、13、15、16または17に記載の方法。
【0094】
20. 例1~6のいずれか一つに記載のイオン性ポリマーを組み込んでいる膜が、例8の膜である、例11~19のいずれか一つに記載の方法。
【0095】
21. 1つ以上のファインケミカルを回収する工程が、濾過、遠心分離または重力沈降によって行われ得る、例11~20のいずれか一つに記載の方法。
【0096】
22. バイオマスの任意選択の前処理が、洗浄、溶媒抽出、溶媒膨潤、粉砕、ミリング、蒸気前処理、爆発性蒸気前処理、希酸前処理、熱水前処理、アルカリ前処理、石灰前処理、湿式酸化、湿式爆砕、アンモニア繊維爆砕、有機溶媒前処理、生物学的前処理、アンモニアパーコレーション、超音波、エレクトロポレーション、マイクロ波、超臨界CO、超臨界HO、オゾン、およびガンマ線照射からなる群から選択される1つ以上の前処理法を使用する、例11~21のいずれか一つに記載の方法。
【0097】
23. 加熱温度が最大で250℃に維持される、例12、13、15~22のいずれか一つに記載の方法。
【0098】
24. バイオマスが、セルロース系、キチン質、油性またはリグノセルロース系の物質を含む群から選択される、例11~23のいずれか一つに記載の方法。
【0099】
当業者は、本明細書に記載される発明が、具体的に記載されたもの以外の変形および変更を受けやすいことを理解するであろう。本発明は、その趣旨または本質的な特徴から逸脱することなく、そのような全ての変形および変更を含むことを理解されたい。また、本発明は本明細において言及または指示されている工程、特徴、組成物および化合物の全てを、個々にまたは集合的に、ならびに前記工程または特徴の任意のおよび全ての組み合わせまたは任意の2つ以上を含む。したがって、本開示は、例示された全ての態様におけるものとみなされるべきであり、限定的なものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示され、等価な意味および範囲内に入る全ての変更は本発明に包含されることが意図される。
【0100】
前述の説明は、以下の実施例を参照して、より完全に理解されるであろう。しかしながら、このような実施例は本発明を実施する方法の例であり、本発明の用途および範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0101】
イオン性ポリマーの調製
イオン性ポリマーIP3(ポリ[1,3-ビ(4-ビニルベンジルイミダゾリウム)-co-4-ビニルベンジルスルホニウム][トリフレート])調製の一般化スキームを図3に示し、各工程の詳細を以下に提供する。
【0102】
- ビ-ビニルベンジル-イミダゾリウムクロリド([Bvbim][Cl])の調製:
ジクロロメタン(50mL)中の1-トリメチルシリルイミダゾール(0.100mol)およびクロロメチルスチレン(0.242mol)の混合物を還流下で24時間加熱した。溶媒および塩化トリメチルシリル(Me3SiCl)を減圧下で除去し、残った固体をジエチルエーテル(3×15mL)で洗浄し、真空下で24時間乾燥させた。
【0103】
- モノマー[Bvbim][vbSO]の調製:
[Bvbim]Cl(0.1mol)および4-ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(0.1mol)の混合物を、室温にてHO中で6時間混合した。その後、反応混合物をジクロロメタン(3×20ml)でデカントし、有機相を各回から合わせ、ローターバップ(rotar vap)中で乾燥させた。
【0104】
- ポリマーポリ-[Bvbim][vbSO]の調製:
モノマー[Bvbim][vbSO](1g)を、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(0.5wt%)の存在下で、25mlのエタノール/HO(4:1)混合物中で一晩還流し、濾過し、ジエチルエーテルで洗浄した。
【0105】
- ポリマープロトン化ポリ-[Bvbim-vbSOH][OTf]ポリ[1,3-ビ(4-ビニルベンジルイミダゾリウム)-co-4-ビニルベンジルスルホニウム][トリフレート]:
中性ポリマー(1g)およびトリフルオロメタンスルホン酸(CFSOH)(0.32g)を20mlのHO中で1時間一緒に混合した。その後、得られた酸性ポリマーをジエチルエーテル(3×50ml)で洗浄し、真空下で一晩乾燥させた。
【0106】
- 本発明の他のイオン性ポリマーの合成
上記1-トリメチルシリルイミダゾールを本発明の式(I)(上記参照)の別のカチオンAと置換すると、異なるカチオンを有する代替のイオン性ポリマーの合成が達成される。カチオンの官能化は異なるアプローチに従って実施することができる(例えば、Chem.Rev.、2014、114(20)、pp PR1-PR70、DOI:10.1021/cr500106xを参照のこと)。例として、官能化イミダゾールの従来の方法は、酢酸中のジケトン、ビスアルデヒド、およびNHOAcの混合物を5時間還流することである(以下に示すように、Chem.Rev.、2014、114(20)、pp PR1-PR70、DOI:10.1021/cr500106xを参照のこと)。
【化13】
【0107】
続いて、得られた生成物にシリル化処理を行い、トリメチルシリル官能化有機化合物を得る。さらに、広範囲のC2置換イオン性モノマーは、塩基(有機または無機)および所望の官能基(以下に示される)の存在下で、標準的なアルキル化化学によって調製することができる(Molecules 2009、14(6)、2235-2245;doi:10.3390/molecules14062235を参照のこと)。
【化14】
【0108】
セルロース分解
30mgのセルロース(予備的にボールミルした)、30mgのイオン性ポリマーIP2(ポリ[1,3-ビ(4-ビニルベンジルイミダゾリウム)-co-4-ビニルベンジルスルホニウム][硫酸水素塩])および3mlのHOをガラスバイアルに入れた。バイアルを密封し、次いで反応混合物を150℃で1時間加熱した。反応後、混合物を室温に冷却し、水(10ml)で希釈し、さらなる分析のために濾過した。残渣を105℃で一晩(12時間)乾燥させ、26wt%グルコースおよびフルクトース(3:1の比)を含む93±2wt%の可溶化を測定した。
【0109】
ポリマー再利用例
上記から回収されたポリマーの一部をガラスバイアルに戻す。30mgの追加のセルロースおよび3mlのHOを添加し、混合物を上記のように処理する。反応後、反応混合物を分離し、生成物を回収し、ポリマーを複数回再使用することができる。
【0110】
キチン加水分解
高価値の生成物であるd-グルコサミン(GlcN)は、本発明のイオン性ポリマー(IP)の存在下で共溶媒により増強した加水分解を介して、キチンから優れた収率で得ることができる。50~80%のGlcNの最終収率は、添加されたIPに依存して、水-有機溶媒の混合物中で、165~200℃にて1~3時間で達成され得る。
【0111】
脂質調製
100mgの使用済みコーヒー粉末(SCG)、30mgのイオン性ポリマーIP3および3mlのHOを反応器に入れた。反応器を密封し、次いで反応混合物を200℃で4時間加熱した。反応後、混合物を室温に冷却し、6mlのヘキサンを液体画分に加え、残留物を残した。1時間混合した後、有機層を回収し、ヘキサンを蒸発させた。濃縮脂質を乾燥させ、秤量し、分析した。得られた脂質は、ヘキサンデカン酸、オアルミチン酸(oalmitic acid)、オクタンデカン酸およびステアリン酸であり、これらは主要な抽出生成物として同定された。
【0112】
追加の触媒および/または追加のガス(COおよび/またはH)を使用することができ、ならびに生成物の連続抽出プロセスを利用することができる。
【0113】
使用済みコーヒー粉末(SCG)分解(特定の重合度(DP))
100mgのSCG、30mgのイオン性ポリマーIP3および3mlのHOをガラスバイアルに入れた。バイアルを密封し、次いで反応混合物を135℃で1時間加熱した。反応後、混合物を室温に冷却し、水(10ml)で希釈し、さらなる分析のために濾過した。残留物を105℃で一晩乾燥させ、70±2wt%の可溶化を測定した。反応温度を150℃に1時間上昇させたとき、90±2wt%が可溶化され、両方の場合に糖であるオリゴ糖および単糖を得た。オリゴ糖および単糖の形態の最終生成物の分布を図4に示す(SCGを150℃で処理した場合)。
【0114】
トウモロコシの穂軸の単糖およびオリゴ糖への変換
400mgのトウモロコシの穂軸を35mgのIP1(または20 IP1および15 IP2および3mlの水と154℃で3時間混合した。反応後、混合物を室温まで冷却し、水で希釈し(25mlまで)、さらに分析するために濾過した。
【0115】
イオン性ポリマー混合物は、それぞれのイオン性ポリマーを物理的に混合するか、または適切な酸(例えば、HClおよびHSO)の混合物中でのプロトン化反応(調製の最終工程)によって得ることができる。
【0116】
トウモロコシの穂軸からのフラン化合物(HMFおよびフルフラール)の生成
HMFおよびフルフラール(それぞれ25%および75%の収率)は、いかなる金属触媒の添加もなしに、溶媒としての水中の本発明のIPを用いてトウモロコシの穂軸から得ることができる。トウモロコシの穂軸250mgに、35mgのIP3および10mLのHOを加える。200℃にて4時間混合する。結果:25%のHMFおよび75%のフルフラール。
【0117】
糖からのフラン化合物の生成
フルクトースからHMFまたはHMF/MMFを得ることができる。300mgのフルクトースに、100mgのIP3、27mgのNHCl、0.1mlのHOおよび4mlのMeOHを添加する。150℃で2時間混合する。結果:98%変換、HMF収率25%、MMF収率37%、およびレブリン酸メチル20%。
【0118】
浸出試験-イオン性ポリマーであるポリ-[Bvbim-vbSOH][OTf]と、従来技術のスポンジ様ポリマーPDVB-SOH-[Cvim][CFSO]との比較
浸出試験は、これらのポリマーがバイオマスを処理するために使用される場合、反応媒体中の本発明のイオン性ポリマーおよび従来技術のスポンジ様ポリマーPDVB-SOH-[Cvim][CFSO]の存在を決定するために実施した。報告されたポリマーにおける浸出プロセスの確認は、19F NMRによって観察された。濾過された、生成物を含有する水相では、本発明のイオン性ポリマーは検出されなかった。先行技術のスポンジ様ポリマーを試験した場合、このポリマーは生成物中に検出された(図2のスペクトル参照)。結果として、従来技術のスポンジ様ポリマーの適用は、溶液中に微量のトリフレートが流出するので、浸出が汚染を引き起こし得、分別製品(例えば、食品等級の製品)のさらなる処理に影響を及ぼし得る場合には不可能である。それとは対照的に、本発明のイオン性ポリマーは、バイオマスの処理に使用される場合、加水分解の前後いずれにおいても19Fの存在を示さず、任意の実用的な用途についてその利点を実証する。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5