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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】電磁緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/03 20060101AFI20220525BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20220525BHJP
   F16F 9/05 20060101ALI20220525BHJP
   F16F 9/46 20060101ALI20220525BHJP
   H02K 41/03 20060101ALI20220525BHJP
   B60G 17/00 20060101ALI20220525BHJP
   B60G 17/048 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
F16F15/03 G
F16F15/023 A
F16F9/05
F16F9/46
H02K41/03 A
B60G17/00
B60G17/048
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019017308
(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020125782
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 功
(72)【発明者】
【氏名】近藤 卓宏
(72)【発明者】
【氏名】野間 達也
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-257189(JP,A)
【文献】特開2011-106488(JP,A)
【文献】特開2011-179636(JP,A)
【文献】特開平04-215510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/03
F16F 15/023
F16F 9/05
F16F 9/46
H02K 41/03
B60G 17/00
B60G 17/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体のシリンダと、
前記シリンダの外周に設けられるアウターチューブと、
前記シリンダの内周に移動自在に挿入されるピストンロッドと、
前記シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともに前記ピストンロッドに設けられて前記シリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、
前記伸側室と前記圧側室とを連通する減衰通路と、
前記減衰通路を通過する作動気体の流れに抵抗を与える減衰バルブと
前記ピストンロッドに装着される筒状の可動子と前記シリンダと前記アウターチューブとの間に収容されて前記可動子に対向する筒状の固定子とを有するリニアモータと、
前記ピストンロッドに設けられた筒状のエアチャンバと、前記アウターチューブの外周に設けられて前記エアチャンバ内に出入りする筒状のエアピストンと、前記エアチャンバと前記エアピストンとに架け渡されるダイヤフラムとを有してばね室を区画するエアばねと、
前記ばね室と前記シリンダ内とを連通する接続路とを備えた
ことを特徴とする電磁緩衝器。
【請求項2】
前記接続路に前記接続路を開閉する開閉バルブを備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁緩衝器。
【請求項3】
前記減衰通路を通過する流量をQとし、1より大きな任意の値をαとすると、前記減衰バルブが通過する流量に対して発生する圧力損失は、Qαに比例するように設定されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電磁緩衝器。
【請求項4】
前記固定子は、
前記シリンダの外周に軸方向に沿って積層されて装着される複数の環状の永久磁石を有する界磁を有し、
前記アウターチューブは、前記界磁のバックヨークとして機能する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電磁緩衝器。
【請求項5】
前記減衰通路は、前記ピストンロッド内を通して前記伸側室と前記圧側室とを連通し、
前記減衰バルブは、前記ピストンロッド内であって前記可動子の内周側に設けられている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電磁緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁緩衝器は、たとえば、円筒状のリニアモータを備えており、リニアモータが発生する推力を自動車の車体の振動を抑制する減衰力として、或いは、車体の姿勢を制御する制御力として利用する。
【0003】
しかしながら、このような電磁緩衝器では、リニアモータの推力だけでは大きな重量の車体の振動を抑制するのが難しいので、油圧利用のダンパを設けて不足する推力を補っている。
【0004】
具体的には、電磁緩衝器は、ダンパの外周にダンパに並列するようにリニアモータを設けている(たとえば、特許文献1参照)。この電磁緩衝器におけるリニアモータは、ダンパの最外殻を成すインナーケーシングの外周に積層して装着される環状の永久磁石と、油圧ダンパのピストンロッドの先端に前記永久磁石の外周を覆うアウターケーシングの内周に設けたコイルとで構成されている。
【0005】
このように構成された電磁緩衝器では、リニアモータに並列されたダンパを備えており、リニアモータが発生する推力と油圧ダンパが発生する減衰力とで車体の振動を抑制するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-240984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の電磁緩衝器では、リニアモータとは別個独立したダンパを備えており、筒状のリニアモータがダンパの外周に設けられているため、径方向に大型化してしまうので車両への搭載性が悪化するとともに、重量が嵩んでしまう。
【0008】
さらに、ダンパのシールの他、リニアモータ側でもリニアモータ内へのダストや水の浸入を阻止するためのシールが必要であるために、電磁緩衝器の伸縮時の摩擦が大きくなるだけでなく、コストも嵩んでしまう。
【0009】
そこで、本発明は、車両への搭載性の向上と、重量およびコストを低減できるとともに、円滑な伸縮作動を実現できる電磁緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の電磁緩衝器は、非磁性体のシリンダと、シリンダの外周に設けられるアウターチューブと、シリンダの内周に移動自在に挿入されるピストンロッドと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともにピストンロッドに設けられてシリンダ内を伸側室と圧側室とに区画するピストンと、伸側室と圧側室とを連通する減衰通路と、減衰通路を通過する作動気体の流れに抵抗を与える減衰バルブと、ピストンロッドに装着される筒状の可動子とシリンダとアウターチューブとの間に収容されて可動子に対向する筒状の固定子とを有するリニアモータと、ピストンロッドに設けた筒状のエアチャンバとアウターチューブの外周に設けられてエアチャンバ内に出入りする筒状のエアピストンとエアチャンバとエアピストンとに架け渡されるダイヤフラムとを有してばね室を区画するエアばねと、ばね室とシリンダ内とを連通する接続路とを備えて構成されている。
【0011】
このように構成された電磁緩衝器は、シリンダと、ピストンロッドと、ピストンと、減衰通路と、減衰バルブとで構成されるガスダンパと、可動子と固定子とで構成されるリニアモータとが一体不可分に構成されており、リニアモータの可動子がガスダンパ内に収容されるとともに、固定子がシリンダの外周に装着される。
【0012】
そして、電磁緩衝器は、接続路に接続路を開閉する開閉バルブを備えていてもよく、このように構成された電磁緩衝器では、開閉バルブを開弁する場合、ばね室の圧力に依存して減衰力を調整でき、電機子を効果的に冷却できる。
【0013】
また、電磁緩衝器は、通路を通過する流量をQとし、1より大きな任意の値をαとすると、減衰バルブが通過する流量に対して発生する圧力損失は、Qαに比例するように設定されてもよい。このように構成された電磁緩衝器は、アクチュエータとして機能する場合には減衰バルブによる推力低下を抑制でき、ダンパとして機能する場合にはリニアモータの推力低下を減衰バルブが発揮する減衰力で補って車両に適する減衰力を発揮できる。
【0014】
さらに、電磁緩衝器は、シリンダの外周に軸方向に沿って積層されて装着される複数の環状の永久磁石を有する界磁を有し、アウターチューブが界磁のバックヨークとして機能してもよい。このように構成された電磁緩衝器によれば、リニアモータの推力を向上できるとともに界磁を保護できる。
【0015】
また、電磁緩衝器は、通路がピストンロッド内を通して伸側室と圧側室とを連通し、減衰バルブがピストンロッド内であって可動子の内周側に設けられていてもよい。このように構成された電磁緩衝器では、径方向にスペースが必要な減衰バルブを採用する場合であっても、可動子の内周側に減衰バルブが配置されるので、ストローク長を確保しやすくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電磁緩衝器によれば、車両への搭載性の向上と、重量およびコストを低減できるとともに、円滑な伸縮作動を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施の形態の電磁緩衝器の縦断面図である。
図2】減衰バルブの圧力損失特性を示した図である。
図3】一実施の形態の第一変形例における電磁緩衝器の縦断面図である。
図4】一実施の形態の電磁緩衝器のピストン速度に対して発生する力の特性を示した図である。
図5】一実施の形態の第二変形例における電磁緩衝器の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における電磁緩衝器D1は、図1に示すように、非磁性体のシリンダ1と、シリンダ1の外周に設けられるアウターチューブ4と、シリンダ1の内周に移動自在に挿入されるピストンロッド2と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるとともにピストンロッド2に設けられてシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン3と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路Pと、減衰通路Pを通過する作動気体の流れに抵抗を与える減衰バルブVと、ピストンロッド2に装着される筒状の可動子Mとシリンダ1とアウターチューブ4との間に収容されて可動子Mに対向する筒状の固定子Sとを有するリニアモータLMと、ピストンロッド2に設けた筒状のエアチャンバ14とアウターチューブ4の外周に設けられてエアチャンバ14内に出入りする筒状のエアピストン15とエアチャンバ14とエアピストン15とに架け渡されるダイヤフラム16とを有してばね室SRを区画するエアばねASと、ばね室SRとシリンダ1内とを連通する接続路CPとを備えて構成されている。
【0019】
以下、電磁緩衝器D1の各部について詳細に説明する。シリンダ1は、筒状であって非磁性体で形成されており、シリンダ1の外周にはシリンダ1との間に環状隙間を形成する軟磁性体で形成された筒状のアウターチューブ4が設けられている。アウターチューブ4の図1中上端には、シリンダ1の図1中上端に嵌合する環状のロッドガイド5が装着されており、アウターチューブ4の図1中下端にはシリンダ1の図1中下端に嵌合するキャップ6が装着されている。なお、キャップ6には、車両の車輪側部材への装着を可能とするブラケット6aが設けられている。
【0020】
ピストンロッド2は、ロッドガイド5の内周に挿通されてシリンダ1内に移動自在に挿入されており、先端の外周にピストン3が設けられている。なお、図示はしないが、ピストンロッド2の基端である図1中上端には、車両の車体への装着を可能とするブラケットが設けられる。また、ロッドガイド5の内周には、シール部材5aが設けられており、シリンダ1内が気密に密封されている。
【0021】
ピストン3は、シリンダ1内に摺動自在に挿入されており、シリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2とに区画している。伸側室R1と圧側室R2には、気体が充填されている。
【0022】
また、ピストンロッド2の外周には、可動子Mとしての筒状の電機子が装着されている。さらに、ピストンロッド2の可動子Mよりも図1中上方の側部から開口して先端に通じる減衰通路Pが設けられている。減衰通路Pは、伸側室R1と圧側室R2とを連通している。また、減衰通路Pの途中には、減衰バルブVとしてオリフィスが設けられている。本実施の形態では、減衰バルブVは、通過する作動気体の流量をQとし、減衰バルブVが通過する流量に対して発生する圧力損失をPLとし、1より大きな任意の値をαとし、任意の係数をβとすると、減衰バルブVの圧力流量特性は、図2に示すように、PL=β×Qαとなるように設定されている。つまり、減衰バルブVが通過する流量に対して発生する圧力損失PLは、Qαに比例するように設定されている。
【0023】
なお、減衰バルブVは、オリフィスの他にもチョークやリーフバルブとされてもよいし、減衰力調整可能な減衰力調整バルブとされてもよい。減衰バルブVを減衰力調整バルブとする場合、減衰バルブVは、たとえば、ピストンロッド2内に設けた減衰通路Pの途中に設けた弁座と、弁座に離着座可能な弁体と、弁体を弁座に対して遠近させる方向に駆動する駆動源或いは弁体を弁座に対して押圧する付勢力を調節可能な付勢力発生源とを備えて流路面積或いは開弁圧を可変にするバルブ等とされればよい。
【0024】
減衰バルブVを減衰力調整バルブとする場合、ピストンロッド2内であって可動子Mの内周側に設けられるのがよい。減衰バルブVは、減衰力調整バルブであるとピストンロッド2内に径方向に大きな収容スペースを確保することが必要な場合が多く、可動子Mと軸方向にずれた位置に設けられると、ピストンロッド2に可動子Mとはずれた位置に大径部が必要な場合がある。可動子Mの外径は、ピストンロッド2よりも大径であって、ピストンロッド2に可動子Mの装着部位以外に大径部が設けられると、この大径部から可動子Mまでの軸方向長さはピストンロッド2のストローク長を減殺してしまう。よって、減衰バルブVを減衰力調整バルブとする場合、ピストンロッド2内であって可動子Mの内周側に配置されると、電磁緩衝器Dのストローク長を確保しやすくなるという利点がある。
【0025】
なお、減衰バルブVを減衰力調整バルブとする場合、可動子Mへの通電によって発生する磁界や後述する界磁による磁界の影響を受けないように、駆動源或いは付勢力発生源をピストンロッド2の図1中上端に設けて、ピストンロッド2を筒状として駆動源或いは付勢力発生源の動力をピストンロッド2内に挿通されるコントロールロッドを介して弁体に伝達するような構成を採用してもよい。
【0026】
また、本実施の形態では、減衰通路Pの全ては、ピストンロッド2に設けられているが、図3に示した第一の実施の形態の第一変形例の電磁緩衝器D1のように、減衰通路Pを形成してもよい。具体的には、可動子Mとピストン3との間に隙間を設け、ピストン3に軸方向に貫通する孔3a,3bを設けるとともに、ピストンロッド2にピストン3と可動子Mとの間から開口して伸側室R1へ通じる孔2aを設ける。そして、これら孔2a,3a,3bを減衰通路Pとして利用すればよい。この場合、ピストン3の図3中上端に積層されて孔3aを開閉するリーフバルブ8と、ピストン3の図3中下端に積層されて孔3bを開閉するリーフバルブ9とを設けて、これらリーフバルブ8,9を減衰バルブVとしてもよい。このようにすると、電磁緩衝器D1の伸長時には、リーフバルブ8が孔3aを閉じてリーフバルブ9が孔3bを開いて作動気体の流れに抵抗を与え、電磁緩衝器D1の収縮時には、リーフバルブ9が孔3bを閉じてリーフバルブ8が孔3aを開いて作動気体の流れに抵抗を与える。よって、このようにすれば、電磁緩衝器D1の伸長時と収縮時とで別個独立に減衰力をチューニングできる。
【0027】
戻って、可動子Mは、ピストンロッド2の外周に装着されるコア11と、コア11の外周に軸方向に所定ピッチで並べて設けられた環状溝でなるスロット11a内に装着される巻線12とを備えて構成されており、本実施の形態では、電機子とされている。なお、スロット11aに装着される巻線12は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。コア11の外周とシリンダ1の内周との間には、環状の空隙が設けられており、コア11とシリンダ1とが直接干渉しないように配慮されている。
【0028】
シリンダ1の外周には、複数の環状の永久磁石10a,10bが積層されて装着されており、これら永久磁石10a,10bは、シリンダ1とアウターチューブ4との間の環状隙間内に収容されている。そして、永久磁石10a,10bは、シリンダ1の内周側に交互にS極とN極の磁界を作用させる界磁を構成しており、この界磁で固定子Sが形成されている。シリンダ1は非磁性体で構成されているので、界磁が発生する磁界は、シリンダ1を透過してシリンダ1内へ作用できる。
【0029】
また、本実施の形態では、主磁極の永久磁石10aと副磁極の永久磁石10bは、ハルバッハ配列にてシリンダ1の内周側に軸方向でS極とN極が交互に現れるように積層されている。図1中で主磁極の永久磁石10aと副磁極の永久磁石10bに記載されている三角の印は、着磁方向を示しており、主磁極の永久磁石10aの着磁方向は径方向となっており、副磁極の永久磁石10bの着磁方向は軸方向となっている。なお、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さは、副磁極の永久磁石10bの軸方向長さよりも長くなっており、可動子Mにおけるコア11と主磁極の永久磁石10aとの間の磁気抵抗を小さくできコア11へ作用させる磁界を大きくできるのでリニアモータLMの推力を向上できる。なお、永久磁石10a,10bは、シリンダ1の内周側に軸方向でS極とN極が交互に現れるように磁界を作用させればよいので、ハルバッハ配列で配列されていなくともよい。その場合には、永久磁石10a,10bは、ともに軸方向長さが等しく、互いに内周に異なる磁極を備えていればよく、交互に積層されればよい。
【0030】
アウターチューブ4は、本実施の形態では、バックヨークとして機能しており、副磁極の永久磁石10bの軸方向長さを短くしても磁気抵抗の低い磁路をアウターチューブ4によって確保できるため、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さを長くする際のリニアモータLMの推力を効果的に向上できる。より詳しくは、永久磁石10a,10bの外周にバックヨークを設けると、磁気抵抗の低い磁路を確保できるので副磁極の永久磁石10bの軸方向長さの短縮に起因する磁気抵抗の増大が抑制される。よって、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さを副磁極の永久磁石10bの軸方向長さよりも長くするとともに永久磁石10a,10bの外周に筒状のバックヨークを設けるとリニアモータLMの推力を大きく向上させ得る。バックヨークとして機能するアウターチューブ4の肉厚は、主磁極の永久磁石10aの外部磁気抵抗の増大を抑制に適する肉厚に設定されればよい。アウターチューブ4は、永久磁石10a,10bがハルバッハ配列とされていない場合でもバックヨークとして機能して磁気抵抗の低い磁路を確保できるのでリニアモータLMの推力を向上させ得る。
【0031】
本実施の形態では、アウターチューブ4は、電磁緩衝器D1のアウターシェルとしても機能しており、永久磁石10a,10bの保護と軸力や横力を受ける強度部材としての役割も果たしている。
【0032】
このように構成された電磁緩衝器D1では、シリンダ1と、ピストンロッド2と、ピストン3と、減衰通路Pと、減衰バルブVとでガスダンパを構成しており、リニアモータLMの可動子Mがガスダンパ内に収容されるとともに、固定子Sがシリンダ1の外周に装着されていて、リニアモータLMとガスダンパとが一体不可分に構成されている。
【0033】
さらに、電磁緩衝器D1には、エアばねASがガスダンパおよびリニアモータLMに一体不可分に構成されている。エアばねASは、図1に示すように、ピストンロッド2の先端に設けた筒状のエアチャンバ14と、アウターチューブ4の外周に設けられてエアチャンバ14内に出入りする筒状のエアピストン15と、エアチャンバ14とエアピストン15とに架け渡されるダイヤフラム16とを有して、ガスダンパの周りにばね室SRを区画している。
【0034】
このばね室SRには、シリンダ1内に充填される気体と同じ気体が充填されており、図示しないコンプレッサや排出弁によってばね室SR内の気体量の調整が可能となっている。また、電磁緩衝器D1が伸長するとエアチャンバ14とエアピストン15とが離間してばね室SRの容積が増大し、電磁緩衝器D1が収縮するとエアチャンバ14とエアピストン15とが接近してばね室SRの容積が減少するので、エアばねASは電磁緩衝器D1の伸縮状況に応じた弾発力を発揮して車体を弾性支持する懸架ばねとして機能する。また、電磁緩衝器D1は、車体を支持するばね室SR内の気体量の調整によって、エアばねASの弾発力の調整とともに車体を上下動させて車高を変化させ得る。
【0035】
ばね室SRは、ロッドガイド5に設けた接続路CPを介してシリンダ1内における伸側室R1に連通されている。さらに、接続路CPには、接続路CPを開閉する開閉バルブ17が設けられている。開閉バルブ17が開弁すると、接続路CPを介してシリンダ1内とばね室SRとが連通されて、ばね室SRとシリンダ1とで気体のやり取りが可能となり、開閉バルブ17が閉弁するとばね室SRとシリンダ1との接続が絶たれて気体が両者を行き来できなくなる。
【0036】
電磁緩衝器D1は、以上のように構成され、以下、その作動について説明する。まず、開閉バルブ17を閉弁した状態における電磁緩衝器D1の作動について説明する。
【0037】
電磁緩衝器D1が外力によって伸長作動する場合、ピストン3がシリンダ1に対して図1中上方へ移動して、伸側室R1を縮小して圧側室R2を拡大する。すると、作動気体は、縮小される伸側室R1から減衰通路Pおよび減衰バルブVを介して拡大する圧側室R2へ移動する。減衰バルブVを作動気体が通過するために、通過する流量に応じて圧力損失が発生して、伸側室R1の圧力が上昇して伸側室R1と圧側室R2の圧力に差が生じるので、電磁緩衝器D1は、ダンパとして機能して伸長作動を妨げる減衰力を発生する。電磁緩衝器D1の伸長作動によってばね室SRを拡大するので、エアばねASの弾発力は減少する。また、電磁緩衝器D1は、リニアモータLMを備えているので、リニアモータLMが発生する推力を伸長作動を抑制する減衰力として利用できる。これに対して、リニアモータLMの推力で電磁緩衝器D1を積極的に伸長させて電磁緩衝器D1をアクチュエータとして機能させ得る。
【0038】
電磁緩衝器D1が外力によって収縮作動する場合、ピストン3がシリンダ1に対して図1中下方へ移動して、圧側室R2を縮小して伸側室R1を拡大する。すると、作動気体は、縮小される圧側室R2から減衰通路Pおよび減衰バルブVを介して拡大する伸側室R1へ移動する。減衰バルブVを作動気体が通過するために、通過する流量に応じて圧力損失が発生して、圧側室R2の圧力が上昇して圧側室R2と伸側室R1の圧力に差が生じるので、電磁緩衝器D1は、ダンパとして機能して収縮作動を妨げる減衰力を発生する。電磁緩衝器D1の収縮作動によってばね室SRを収縮するので、エアばねASの弾発力は増大する。また、電磁緩衝器D1は、リニアモータLMを備えているので、リニアモータLMが発生する推力を収縮作動を抑制する減衰力として利用できる。これに対して、リニアモータLMの推力で電磁緩衝器D1を積極的に収縮させて電磁緩衝器D1をアクチュエータとして機能させ得る。
【0039】
リニアモータLMが短絡された状態で外力によって駆動させられた場合に発電しつつ発生可能な推力の発生限界は、図4中の波線に示したようになっており、この場合のリニアモータLMの推力は、固定子Sに対する可動子Mの移動速度、つまり、電磁緩衝器D1のシリンダ1に対するピストン3の軸方向の相対速度であるピストン速度が高速に到達するまではピストン速度の上昇に応じて大きくなるが高速を超えるとピストン速度の上昇に応じて小さくなっていく。なお、図4は、電磁緩衝器D1が全体として発生可能な力(リニアモータLMの推力とガスダンパの減衰力の総和の力)の特性を図示したものであり、図中の第一象限は電磁緩衝器D1が伸長作動を呈して伸長を妨げる減衰力を発揮する場合の特性を示し、図中の第二象限は電磁緩衝器D1が収縮作動を呈して収縮を助長する推力を発揮する状態における特性を示し、第三象限は電磁緩衝器D1が収縮作動を呈して収縮を妨げる減衰力を発揮する状態における特性を示し、第四象限は、電磁緩衝器D1が伸長作動を呈して伸長を助長する推力を発揮する状態における特性を示している。
【0040】
そして、本実施の形態の減衰バルブVの圧力損失の特性は、流量が少ない場合には小さく、流量が多くなると大きくなる特性を示すように設定されている。減衰バルブVを通過する流量は、ピストン速度に比例して多くなり、電磁緩衝器D1が発生する減衰力は、減衰バルブVが発生する圧力損失に比例する。よって、本実施の形態における電磁緩衝器D1では、減衰バルブVの圧力損失をチューニングして、リニアモータLMが発生可能な推力の上限が低下する分を補うようにして、電磁緩衝器D1が減衰バルブVのみで減衰力を発生する場合の減衰力特性を図4中の一点鎖線で示すように設定している。このようにすると、リニアモータLMが発生可能な最大推力と減衰バルブVによって発生される減衰力の総和は、図4中実線で示すようになる。よって、電磁緩衝器D1は、ピストン速度が高速となっても必要十分な減衰力を発生できる。また、電磁緩衝器D1をリニアモータLMの推力で積極的に伸縮させてアクチュエータとして利用する場合には、減衰バルブVが発揮する減衰力が電磁緩衝器D1の伸縮を妨げる抵抗として働いてしまう。しかしながら、減衰バルブVが通過する流量に対して発生する圧力損失PLをQαに比例するように設定しているので、電磁緩衝器D1を積極的に伸縮させる場合のピストン速度では、減衰バルブVによって発生する減衰力を非常に小さくすることができる。よって、減衰バルブVが通過する流量に対して発生する圧力損失PLをQαに比例するように設定すると、積極的に電磁緩衝器D1を伸縮させて電磁緩衝器D1をアクチュエータとして機能させる場合には、減衰バルブVによる推力低下を抑制できるとともに、電磁緩衝器D1がダンパとして機能する場合にはリニアモータLMの推力低下を減衰バルブVが発揮する減衰力で補って車両に適する減衰力を発揮できる。
【0041】
なお、減衰バルブVの圧力損失特性は、前述した特性に限定されるものではなく、他の特性であっても、ピストン速度が高速となった際にリニアモータLMの推力低下を補えればよい。また、減衰バルブVが減衰力調整可能な減衰力調整バルブである場合には、電磁緩衝器D1が発生する減衰力の調整が可能であり、電磁緩衝器D1がアクチュエータとして機能する場合には減衰バルブVが作動気体の流れに与える抵抗を最小にして減衰バルブVによる推力低下を抑制できる。
【0042】
つづいて、開閉バルブ17を開弁した状態における電磁緩衝器D1の作動を説明する。開閉バルブ17を開弁すると、シリンダ1内の伸側室R1とエアばねASのばね室SRとが連通される。電磁緩衝器D1が収縮作動を呈する場合、圧側室R2が縮小されて伸側室R1が拡大するが、圧側室R2はばね室SRに直接連通されないので、圧力変動は開閉バルブ17が閉弁した場合と同じであり、変化はない。よって、開閉バルブ17が開弁していても電磁緩衝器D1が収縮作動する場合には、前述した開閉バルブ17が閉弁した状態の電磁緩衝器D1の収縮作動時と略同様の減衰力を発揮する。逆に、電磁緩衝器D1が伸長作動を呈する場合、縮小される伸側室R1内はばね室SRに連通されるので、伸側室R1内の圧力はばね室SRの圧力と等圧となる。そのため、電磁緩衝器D1は、開閉バルブ17を開弁すると、ばね室SR内の圧力に応じて伸長作動を抑制する減衰力を発揮する。よって、開閉バルブ17を開弁する場合、ばね室SR内の圧力を高くすれば、電磁緩衝器D1の伸側の減衰力は大きくなり、ばね室SR内の圧力を低くすれば、電磁緩衝器D1の伸側の減衰力は小さくなる。このようにばね室SR内の圧力を調整すれば、電磁緩衝器D1の伸側の減衰力を調節できるのである。また、開閉バルブ17を開弁する場合、車体積載重量が大きくなるとばね室SR内の圧力が高くなるので、車体積載重量に感応して電磁緩衝器D1の伸側の減衰力を変化させ得る。また、開閉バルブ17を開弁させてばね室SRとシリンダ1とを連通させた状態で圧力を調整した後、開閉バルブ17を閉弁すれば、シリンダ1内の圧力を調整でき、ばね室SRの圧力に依存せずに電磁緩衝器D1の減衰力を調整できる。
【0043】
また、本実施の形態の電磁緩衝器D1は、ピストン3がシリンダ1に摺動自在に挿入されており、可動子Mがピストンロッド2に装着されるとともにシリンダ1の外周に固定子Sが装着されているので、可動子Mが固定子Sに対して同心に保たれるために、リニアモータLMの推力低下を招かない。また、本実施の形態では、界磁を固定子Sとしてシリンダ1の外周に装着する構造を採用しているが、シリンダ1が非磁性体であるため、可動子Mとしての電機子を装着したピストンロッド2を界磁が装着されたシリンダ1内に挿入する組立工程にあっても、可動子Mと固定子Sとの接触が回避されるので、組立工程時に永久磁石10a,10bを保護できる。なお、ピストン3は、本実施の形態では、可動子Mよりもピストンロッド2の先端に設けられているが、可動子Mよりもピストンロッド2の基端側に設けられてもよい。また、図5に示した第一の実施の形態の第二変形例の電磁緩衝器D1のように、ピストン3の他に、ピストンロッド2にシリンダ1の内周に摺接するスライダ13を設けて、可動子Mをピストン3とスライダ13との間に配置するようにすれば、電磁緩衝器D1に横力が作用しても可動子Mの固定子Sに対する偏心を阻止できるので、電磁緩衝器D1は、安定した減衰力を発揮できる。
【0044】
このように、本発明の電磁緩衝器D1は、非磁性体のシリンダ1と、シリンダ1の外周に設けられるアウターチューブ4と、シリンダ1の内周に移動自在に挿入されるピストンロッド2と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるとともにピストンロッド2に設けられてシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン3と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路Pと、減衰通路Pを通過する作動気体の流れに抵抗を与える減衰バルブVと、ピストンロッド2に装着される筒状の可動子Mとシリンダ1とアウターチューブ4との間に収容されて可動子Mに対向する筒状の固定子Sとを有するリニアモータLMと、ピストンロッド2に設けた筒状のエアチャンバ14とアウターチューブ4の外周に設けられてエアチャンバ14内に出入りする筒状のエアピストン15とエアチャンバ14とエアピストン15とに架け渡されるダイヤフラム16とを有してばね室SRを区画するエアばねASと、ばね室SRとシリンダ1内とを連通する接続路CPとを備えて構成されている。
【0045】
このように構成された電磁緩衝器D1は、シリンダ1と、ピストンロッド2と、ピストン3と、減衰通路Pと、減衰バルブVとで構成されるガスダンパと、可動子Mと固定子Sとで構成されるリニアモータLMとが一体不可分に構成されており、リニアモータLMの可動子Mがガスダンパ内に収容されるとともに、固定子Sがシリンダ1の外周に装着されている。よって、本発明の電磁緩衝器D1によれば、従来の電磁緩衝器に比較して、径方向の寸法を小型化できるので車両への搭載性が向上し、重量も軽減できる。
【0046】
なお、本実施の形態の電磁緩衝器D1では、開閉バルブ17を設けているので、シリンダ1内とばね室SRとの接続路CP以外での連通を回避するべく、シール部材5aを設置してピストンロッド2の周囲をシールしているが、開閉バルブ17を設けない場合には、シール部材5aも不要となるので、より円滑な伸縮が可能となる。開閉バルブ17を設ける場合であっても、摺動部のシールはシール部材5aのみの設置で足りるから、電磁緩衝器D1の伸縮時の摩擦を低減できるとともにコストも軽減できる。したがって、本発明の電磁緩衝器D1によれば、車両への搭載性が向上し、重量およびコストを低減できるとともに、円滑な伸縮作動を実現できるのである。
【0047】
また、エアばねASにおけるばね室SRをシリンダ1内に連通しているので、ガスダンパ内の温度をばね室SR側へ逃がして、電機子の温度上昇を抑制できる。さらに、ばね室SRとシリンダ1内とが連通されているので、本発明の電磁緩衝器D1では、ばね室SRの圧力の調整によって電磁緩衝器D1の伸側の減衰力を調整できる。
【0048】
そして、本実施の形態の電磁緩衝器D1では、接続路CPに接続路CPを開閉する開閉バルブ17を備えている。このように構成された電磁緩衝器D1では、開閉バルブ17を閉弁させるとシリンダ1とばね室SRの接続を断てるので、ばね室SRを介してシリンダ1内の圧力調整をした後は、ガスダンパをばね室SRから独立させた状態で減衰力を発揮できる。よって、このように構成された電磁緩衝器D1は、開閉バルブを開弁する場合、ばね室SRの圧力に依存して減衰力を調整できる。また、電機子の温度が上昇したら、開閉バルブ17を開弁させてばね室SRへ電機子Eの熱を放熱できるので、電機子を効果的に冷却できる。
【0049】
なお、前述したところでは、固定子Sを界磁として、可動子Mを電機子としているが、シリンダ1の外周にコアと巻線とでなる電機子を装着してこれを固定子Sとし、ピストンロッド2に永久磁石を装着して界磁を形成してこれを可動子Mとすることもできる。
【0050】
また、本実施の形態の電磁緩衝器D1では、減衰通路Pを通過する流量をQとし、1より大きな任意の値をαとすると、減衰バルブVが通過する流量に対して発生する圧力損失は、Qαに比例するように設定されているので、電磁緩衝器D1をアクチュエータとして機能させる場合には減衰バルブVによる推力低下を抑制でき、電磁緩衝器をダンパとして機能させる場合にはリニアモータLMの推力低下を減衰バルブVが発揮する減衰力で補って車両に適する減衰力を発揮できる。
【0051】
さらに、本実施の形態の電磁緩衝器D1では、シリンダ1の外周に軸方向に沿って積層されて装着される複数の環状の永久磁石10a,10bを有する界磁を有し、アウターチューブ4が界磁のバックヨークとして機能するので、リニアモータLMの推力を向上できるとともに界磁を保護できる。
【0052】
さらに、本実施の形態の電磁緩衝器D1では、減衰通路Pがピストンロッド2内を通して伸側室R1と圧側室R2とを連通し、減衰バルブVがピストンロッド2内であって可動子Mの内周側に設けられている。このように構成された電磁緩衝器D1では、径方向にスペースが必要な減衰バルブVを採用する場合であっても、可動子Mの内周側に減衰バルブVが配置されるので、ストローク長を確保しやすくなる。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1・・・シリンダ、2・・・ピストンロッド、2a・・・孔、3・・・ピストン、4・・・アウターチューブ、10a,10b・・・永久磁石、14・・・エアチャンバ、15・・・エアピストン、16・・・ダイヤフラム、17・・・開閉バルブ、CP・・・接続路、D1,D1,D1・・・電磁緩衝器、LM・・・リニアモータ、M・・・可動子、P・・・減衰通路、R1・・・伸側室、R2・・・圧側室、S・・・固定子、V・・・減衰バルブ
図1
図2
図3
図4
図5