(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】透析液の重炭酸塩量及びナトリウム量をモニタする方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
A61M1/16 163
A61M1/16 111
(21)【出願番号】P 2019505529
(86)(22)【出願日】2017-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2017000942
(87)【国際公開番号】W WO2018024373
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-07-31
(31)【優先権主張番号】102016009442.7
(32)【優先日】2016-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597075904
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100171675
【氏名又は名称】丹澤 一成
(72)【発明者】
【氏名】ガゲル アルフレッド
(72)【発明者】
【氏名】シュテブライン ティルマン
(72)【発明者】
【氏名】ポップ ヨッヘン
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特表昭57-500565(JP,A)
【文献】特開2006-056873(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0008854(US,A1)
【文献】国際公開第2011/132046(WO,A2)
【文献】特表2002-500932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重炭酸塩成分及び酸性ナトリウム成分を添加しながら調製された透析液の重炭酸塩量及びナトリウム量をモニタする方法であって、
a.前記酸性ナトリウム成分を添加して導電率(LF
ist,Na)を測定するステップと、
b.前記重炭酸塩成分を添加し、該重炭酸塩成分の添加による導電率の増加量(ΔLF
ist,Bic)を測定するステップと、
c.前記重炭酸塩成分の添加による期待される導電率の増加量(ΔLF
exp,Bic)を求めるステップと、
d.前記測定された導電率の増加量(ΔLF
ist,Bic)が前記期待される導電率の増加量(ΔLF
exp,Bic)の範囲内にあるかどうかをチェックするステップと、
e.前記重炭酸塩成分及び前記酸性ナトリウム成分の添加後の期待される総導電率(LF
exp,D)を求めるステップと、
f.前記重炭酸塩成分及び前記酸性ナトリウム成分の添加後の総導電率(LF
ist,D)を測定するステップと、
g.前記測定された総導電率(LF
ist,D)が前記期待される総導電率(LF
exp,D)の範囲内にあるかどうかをチェックするステップと、
を含み、ステップa.による前記導電率の前記測定、ステップb.による前記導電率の増加量の前記測定、及びステップf.による前記総導電率の前記測定は、同一の導電率測定セルによって行われる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記酸性ナトリウム成分が最初に添加され、前記酸性ナトリウム成分の前記添加後の前記測定された導電率(LF
ist,Na)をステップf.による前記測定された総導電率(LF
ist.D)から減算することによって、ステップb.による
前記導電率の増加量(ΔLF
ist,Bic
)の測定値が取得される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップc.による前記期待される導電率の増加量(ΔLF
exp,Bic)は、前記重炭酸塩成分の物質から計算される、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップd.による前記期待される範囲は、前記期待される導電率の増加量(ΔLF
exp,Bic)を25%下回る値から前記期待される導電率の増加量(ΔLF
exp,Bic)を25%上回る値にまで及ぶ、
請求項1から3のうちの1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップe.による前記期待される総導電率(ΔLF
exp,D)は、前記酸性ナトリウム成分及び前記重炭酸塩成分の物質から計算される、
請求項1から4のうちの1項に記載の方法。
【請求項6】
前記期待される総導電率の範囲は、前記期待される総導電率(ΔLF
exp,D)を5%下回る値から前記期待される総導電率(ΔLF
exp,D)を5%上回る値にまで及ぶ、
請求項1から5のうちの1項に記載の方法。
【請求項7】
前記調製された透析液は、濃度の変化時に透析液の前記重炭酸塩量及び前記ナトリウム量をモニタするために透析機械のダイアライザから時々分離される、
請求項1から6のうちの1項に記載の方法。
【請求項8】
前記範囲を上回った時又は下回った時に、ユーザに対するアラーム及び/又は対応する情報の出力が生成される、
請求項1から7のうちの1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ナトリウム量の範囲又は前記重炭酸塩量の範囲が上回られるか又は下回られるとすぐに、どちらが先に上回られたか又は下回られたかに応じて、アラームが引き起こされ及び/又は前記対応する情報の出力が行われる、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも2つの成分から透析液を調製するための調製装置であって、前記調製装置は、重炭酸塩成分を有する容器(「重炭酸塩容器」)と、酸性ナトリウム成分を有する容器(「ナトリウム容器」)とを有し、前記調製装置は
、
前記酸性ナトリウム成分の添加後の流体の導電率(LF
ist,Na)を測定する
ための導電率測定セルと
、
前記重炭酸塩を含む成分の添加による導電率の増加量(ΔLF
ist,Bic)を測定する
ための導電率測定セルと
、
前記酸性ナトリウム成分及び前記重炭酸塩成分を含む前記透析液の総導電率(LF
ist,D)を測定する
ための導電率測定セルとを有し
、
前記調製装置は、前記重炭酸塩成分の前記添加による前記導電率の前記増加量(ΔLF
ist,Bic)が
前記重炭酸塩成分の前記添加により期待される導電率の増加量(ΔLF
exp,Bic)の範囲内にあるかどうか、及び前記測定された総導電率(LF
ist,D)が、期待される総導電率(LF
exp,D)の範囲内にあるかどうかをチェックするように構成されたチェックユニットを有し
、
前記挙げられた導電率測定セルは同一の導電率測定セルである、
ことを特徴とする調製装置。
【請求項11】
前記酸性ナトリウム成分の添加後の流体の導電率(LF
ist,Na
)を測定するための導電率測定セルは、前記ナトリウム容器の下流に配置される、
請求項10に記載の調製装置。
【請求項12】
前記重炭酸塩を含む成分の添加による導電率の増加量(ΔLF
ist,Bic
)を測定するための導電率測定セルは、前記重炭酸塩容器の下流に配置される、
請求項10又は11に記載の調製装置。
【請求項13】
前記酸性ナトリウム成分及び前記重炭酸塩成分を含む前記透析液の総導電率(LF
ist,D
)を測定するための導電率測定セルは、前記ナトリウム容器及び前記重炭酸塩容器の下流に配置される、
請求項10から12のうちの1項に記載の調製装置。
【請求項14】
前記調製装置は、前記範囲を上回ったこと又は下回ったことが検出された時にアラームを引き起こし、及び/又は情報を出力するように構成された、アラームユニット、及び/又はユーザに情報を出力するための出力ユニットを有する、
請求項10から13のうちの1項に記載の調製装置。
【請求項15】
前記調製装置は、前記重炭酸塩容器と連通する供給管路が開口するとともに前記ナトリウム容器と連通するさらなる供給管路が開口する主要管路を有し、及び/又は、前記主要管路は、
水の容器又は供給源と連通し、及び/又は、前記導電率測定セルは、前記供給管路の両開口部の下流に配置される、
請求項10から14のうちの1項に記載の調製装置。
【請求項16】
前記水はRO水である、請求項15に記載の調製装置。
【請求項17】
前記調製装置は、前記調製された透析液が透析機械のダイアライザの透析側を流れるように前記ダイアライザと流体連通することができ、前記調製装置は、前記調製された透析液を時々前記ダイアライザを迂回して誘導できるように前記ダイアライザの周囲に通じる迂回管路を有する、
請求項10から16のうちの1項に記載の調製装置。
【請求項18】
請求項10から17のうちの1項に記載の調製装置を有する、
ことを特徴とする透析機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重炭酸塩成分及び酸性ナトリウム成分を添加しながら調製した透析液の重炭酸塩量及びナトリウム量をモニタする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析は、慢性腎不全の重要な治療法である。血液透析では、浄化すべき患者の血液がダイアライザの膜の一方側に沿って誘導される。膜の他方側には透析液が配置され、血液と透析液との間の濃度勾配に起因して血液から膜を横切って透析液中に物質が拡散する。治療中に患者から命に係わる物質が連続して引き出されるのを防ぐために、透析液にはこれらの物質を生理的濃度で提供する必要がある。これについては、電解質カルシウム、マグネシウム及びカリウムに加えて主にナトリウム及び重炭酸塩(炭酸水素塩)が極めて重要である。
【0003】
先行技術からは、水を加えながら2つの濃縮物から必要な透析液を調製することが知られている。この点、一方の濃縮物は主にナトリウムを含み、他方の濃縮物は主に重炭酸塩を含む。
【0004】
透析標準であるIEC 60601-2-16(第3版及び第4版)では、透析液の誤った組成に起因する患者へのあらゆるリスクを防ぐ独立保護システムが必要とされている。
【0005】
欧州特許第0,597,817号からは、透析液の調製装置を有する透析機械が知られている。この調製装置は、水源と連通する主要管路を有し、主要管路内には、ナトリウム濃縮物容器と連通する第1の供給管路と、重炭酸塩濃縮物容器と連通する第2の供給管路とが開口する。主要管路を流れる流体にポンプを介してこれらの濃縮物が混合されると、使用できる状態の透析液が得られる。主要管路内のナトリウムを含む濃縮物の開口部の下流には、導電率測定セルが配置される。主要管路内の重炭酸塩濃縮物の開口部の下流には、さらなる導電率測定セルが配置される。バランス室(balancing chamber)とダイアライザとの間には、第3の導電率測定セルが配置される。
【0006】
このような透析機械には、設計が比較的複雑であるという不利な点がある。
【0007】
独国特許出願公開第3416057号からは、主要管路内への濃縮物管路の開口部の下流に導電率測定セルが配置された透析機械が知られている。導電率測定セルは、ダイアライザに流入する透析液の導電率を特定するのに役立つ。このようにすると、確かに総導電率をチェックすることはできるが、独国特許出願公開第3416057号には、透析液の重炭酸塩量をモニタすることは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】欧州特許第0597817号明細書
【文献】独国特許出願公開第3416057号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】IEC 60601-2-16(第3版及び第4版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の根底にある目的は、最初に示した種類の方法を、透析液のナトリウム量及び重炭酸塩量のモニタリングをできる限り単純かつ確実に行えるようにさらに発展させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法によって達成される。
【0012】
従って、この方法は、所与の(時間的)順序で実行することも、他のいずれかの可能な順序で実行することもできるステップとして、
a.酸性ナトリウム成分を添加して導電率(LFist,Na)を測定するステップと、
b.重炭酸塩成分を添加し、重炭酸塩成分の添加による導電率の増加量(ΔLFist,Bic)を測定するステップと、
c.重炭酸塩成分の添加による期待される導電率の増加量(ΔLFexp,Bic)を求めるステップと、
d.測定された導電率の増加量(ΔLFist,Bic)が期待される導電率の増加量(ΔLFexp,Bic)の範囲内にあるかどうかをチェックするステップと、
e.重炭酸塩成分及び酸性ナトリウム成分の添加後の期待される総導電率(LFexp,D)を求めるステップと、
f.重炭酸塩成分及び酸性ナトリウム成分の添加後の総導電率(LFist,D)を測定するステップと、
g.測定された総導電率(LFist,D)が期待される総導電率(LFexp,D)の範囲内にあるかどうかをチェックするステップと、
を含み、ステップa.による導電率の測定、ステップb.による導電率の増加量の測定、及びステップf.による総導電率の測定は、同一の導電率測定セルによって行われる。
【0013】
本発明によれば、重炭酸塩成分の添加による期待される導電率の増加量を測定された導電率の増加量と比較し、このようにして透析液の重炭酸塩濃縮物が望ましい範囲内にあるかどうかを結論付ける。
【0014】
ナトリウム濃度のモニタリングは、測定された総導電率、すなわち酸性ナトリウム成分の添加後の及び重炭酸塩成分の添加後の測定された透析液の導電率の比較に基づいて行われる。この比較に基づいて、ナトリウム濃度が望ましい範囲内にあるかどうかを結論付けることができる。
【0015】
これらの導電率測定には単一の導電率センサが使用され、このことは既知の構成に対する単純化を意味する。この方法を使用すれば、単一の導電率センサを用いて重炭酸塩濃度とナトリウム濃度の両方をモニタすることが可能である。
【0016】
パラメータは、透析液の総導電率、又はその経時的な変化である。本発明による方法は、例えば2つの独立した及び/又は異なる限界値窓によって、透析液の重炭酸塩及びナトリウムの偏差標準に必要とされる限界をモニタするために使用することができる。透析液は、成分(酸性ナトリウム成分及び重炭酸塩成分)を別個に計量供給(metering in)することによって得られることが好ましい。
【0017】
「酸性ナトリウム成分(acidic sodium component)」という用語は、ナトリウムイオンを含む媒質、具体的にはナトリウムイオンと少なくとも1つの酸とを含む濃縮物のいずれかの望ましい構成を含む。ナトリウム成分は、Ca、Mg、Cl、K及び任意にさらなる物質などのさらなる電解質を含むことが好ましい。ナトリウム成分が主にナトリウムイオンを含むようにすることが好ましい。
【0018】
酸性ナトリウム成分は、完成した透析液中の主なナトリウム源であり、すなわち完成した透析液の主なナトリウム部分は酸性ナトリウム成分に由来することが好ましい。
【0019】
「重炭酸塩成分(bicarbonate component)」という用語は、重炭酸イオンを含む媒質、具体的には重炭酸イオンを含む濃縮物のいずれかの望ましい構成を含む。重炭酸塩成分は、重炭酸塩に加えてNaイオンなどの電解質を含むことが好ましい。重炭酸塩成分が主に重炭酸イオンを含むようにすることが好ましい。
【0020】
重炭酸塩成分は、塩基性(basic)であることが好ましい。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、重炭酸塩成分が酸を含まない。
【0022】
本発明の枠組みにおいて使用する「測定(measurement)」という用語は、例えば導電率などのパラメータの直接的な測定を含むとともに、2つの直接的に測定した導電率の値を減算することによって取得される値などの、測定の基になる値の直接的な測定も含む。
【0023】
本発明の枠組みにおいて使用する「添加(adding/addition)」という用語は、ある成分を水などの別の成分に混合すること、及びこの成分を提示することを含む。従って、「酸性ナトリウム成分の添加」という表現は、例えばRO水などの異なる成分の酸性ナトリウム成分を添加する場合と、この成分を提示する場合の両方、すなわちナトリウムを含む濃縮物とRO水との混合として理解されたい。
【0024】
本発明の考えられる実施形態では、酸性ナトリウム成分と水とを混合し、その一部を導電率測定セルに導いてこれらの導電率を測定する。次に、第2のステップにおいて重炭酸塩成分を添加して総導電率を求めることができる。測定された総導電率から(重炭酸塩成分を添加する前の)水と酸性ナトリウム成分との混合物の測定された導電率を減算することにより、重炭酸塩成分の添加による導電率の増加量の測定を行うことができる。
【0025】
測定された導電率の増加量が特定の範囲から外れている場合には、重炭酸塩濃度が所望の重炭酸塩濃度に対応していないと結論付けることができる。
【0026】
測定された総導電率が特定の範囲から外れている場合には、ナトリウム濃度が所望のナトリウム濃度に対応していないと結論付けることができる。透析液の総導電率は、主にナトリウム濃度の変化の影響を受けやすい。
【0027】
このように、単一の導電率センサによって重炭酸イオンの量とナトリウムイオンの量の両方を恒久的に、又は透析液の調製中の合間にモニタすることができる。
【0028】
上述したように、この方法の考えられる変形例は、最初に酸性ナトリウム成分を添加し、測定された総導電率から酸性ナトリウム成分の添加後の測定された導電率を減算することにより、ステップb.による重炭酸塩成分の添加による測定された導電率の増加量を取得することを含む。
【0029】
ステップc.による期待される導電率の増加量、すなわち重炭酸塩成分の添加による期待される導電率の増加量は、重炭酸塩成分の物質から計算することができる。
【0030】
本発明では、重炭酸塩濃度及びナトリウム濃度を測定することが可能であり、濃度が望ましい範囲内にあるかどうかをチェックするために、同じ又は異なるサイズの限界値範囲を定義することができる。
【0031】
例えば、期待される重炭酸塩濃度の範囲は、期待される導電率の増加量を25%下回る値から期待される導電率の増加量を25%上回る値にまで及ぶと考えられる。従って、重炭酸塩の目標値範囲は、期待値から開始して上方及び下方に25%広がる。
【0032】
ナトリウム濃度では、期待される範囲が、例えば期待される総導電率の値を5%下回る値から5%上回る値にまで及ぶことができる。
【0033】
本発明では、一般に他の範囲限界も考えられ、これらも対象範囲とする。
【0034】
期待される総導電率が酸性ナトリウム成分の物質及び重炭酸塩成分の物質から計算されるようにすることが好ましい。
【0035】
患者が透析機械に接続されている間に濃度を変更できるようにするために、濃度の変化時に透析液の重炭酸塩量及びナトリウム量をモニタできるように、調製された透析液が時々透析機械のダイアライザから分離されるようにすることができる。従って、患者が影響を受けることなく透析液の「較正」を行うことができる。
【0036】
それぞれの範囲が上回られている場合又は下回られている場合には、アラームを出力し、及び/又は所望の濃度が目標値範囲外にある旨の対応する情報をユーザに出力することができる。
【0037】
これについては、ナトリウム量の範囲又は重炭酸塩量の範囲が上回られるか又は下回られるとすぐに、どちらが先に上回られたか又は下回られたかに応じてアラームが引き起こされ、及び/又は対応する情報の出力が行われると考えられる。従って、最初に残されたモニタリング窓は、アラーム又はその他の情報を出力する。
【0038】
さらに、本発明は、本発明による方法を実行するのに適する、本発明による方法を実行するように設計された手段を有する透析機械、及び/又は透析液の調製装置にも関する。
【0039】
少なくとも2つの成分から透析液を調製するための調製装置は、重炭酸塩成分を有する容器(「重炭酸塩容器」)と、酸性ナトリウム成分を有する容器(「ナトリウム容器」)とを含み、調製装置は、酸性ナトリウム成分の添加後の流体の導電率を測定するための、例えばナトリウム容器の下流に配置された導電率測定セルと、重炭酸塩成分の添加による導電率の増加量を測定するための、好ましくは重炭酸塩容器の下流に配置された導電率測定セルと、酸性ナトリウム成分及び重炭酸塩成分を含む透析液の総導電率を測定するための、好ましくはナトリウム容器及び重炭酸塩容器の下流に配置された導電率測定セルとを有する。透析機械は、重炭酸塩成分の添加による測定された導電率の増加量が期待される導電率の増加量の範囲内にあるかどうか、及び測定された総導電率が期待される総導電率の範囲内にあるかどうかをチェックするように構成されたチェックユニットをさらに有し、挙げられた導電率測定セルは同一の導電率測定セルである、
【0040】
調製装置は、範囲を上回ったこと又は下回ったことが検出された時にアラームを引き起こし、及び/又は情報を出力するように構成された、アラームユニット、及び/又はユーザに情報を出力するための出力ユニットを有することが好ましい。
【0041】
調製装置は、重炭酸塩容器と連通する供給管路が開口するとともにナトリウム容器と連通するさらなる供給管路が開口する主要管路を有することができる。この主要管路は、水の、好ましくはRO水の、容器又は供給源と連通することができる。
【0042】
重炭酸塩成分及び酸性ナトリウム成分は、主要管路を流れる流体、具体的にはRO水に計量供給される。この目的のために、濃縮容器から主要管路内に成分を搬送するポンプを使用することができる。
【0043】
本発明では、成分を含む容器への流入も考えられ、これも対象範囲とする。従って、透析液の調製は、例えば調製のために提供されるRO水又は別の流体が重炭酸塩又はナトリウムを含む容器内を流れることによって、重炭酸塩又はナトリウムを含む溶液が調製されるように行うことができる。その後、例えば主要管路内に濃縮物を導入することによって、又は濃縮容器への流入によって、この溶液中に他方の成分を計量供給することができる。
【0044】
導電率測定セルは、供給管路の両開口部の下流に、又は総導電率と重炭酸塩の添加による導電率の増加量とを両方とも測定できるように配置されることが好ましい。
【0045】
調製装置は、透析機械のダイアライザを迂回して、調製された透析液を時々誘導する迂回管路を有することができる。上述したように、完成した透析液が正しく較正されて限界値窓が設定された時に、すなわち重炭酸塩量及びナトリウム量がいずれもそれぞれの望ましい範囲内にある時に、この透析液が治療のみのために使用されることをこのようにして保証することができる。
【0046】
調製装置は、透析機械の一体部品を有することも、又は透析機械とは別個のユニットとして構成することもできる。
【0047】
さらに、本発明は、本発明による少なくとも1つの調製装置を有する透析機械にも関する。
【0048】
図面に示す実施形態を参照しながら本発明のさらなる詳細及び利点をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】単一の導電率測定セルを用いて2つの独立した限界値窓(範囲)によってナトリウム及び重炭酸塩をモニタする概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下で説明する実施形態は、この目的で複数の導電率測定セルを使用する必要なく、2成分系における透析液の導電率測定によって必要な限界をさらにモニタする可能性を表す。ここで、本発明は正確に2つの成分を添加することに限定されず、2つよりも多くの成分を添加することもできる点を指摘しておかなければならない。
【0051】
本発明によれば、重炭酸塩成分と酸性ナトリウム成分とを別個に計量供給することができる。この計量供給は、例えば水、好ましくはRO水、或いはこれらの成分の一方と水又はRO水との混合物から取得された溶液が流れる管路に対して行うことができる。
【0052】
期待される総導電率、及び重炭酸塩成分を添加した後の期待される導電率の増加量は、それぞれの物質に基づいて、又は理論的に期待される透析液の導電率に基づいて計算される。
【0053】
図1によれば、期待される導電率、すなわち完成した透析液の期待される総導電率LF
exp,Dは、後者の物質から数式を用いて計算される。
【0054】
透析液を混合する動作システム、すなわち調製装置は、異なる公差の影響を受ける。この公差の連鎖(tolerance chain)により、完成した透析液、すなわち酸性ナトリウム成分と重炭酸塩成分とを含む透析液の実際に測定された総導電率LFist,Dが、理論的に計算された期待値LFexp,Dから逸脱してしまうことがある。
【0055】
図1の左側(「Naモニタリング」)から分かるように、期待される総導電率LF
exp,Dは、酸性ナトリウム成分の期待される(公称)導電率LF
exp,Naと、重炭酸塩成分の期待される(公称)導電率LF
exp,Bicとで構成される。
【0056】
図1の左側に示す5%の偏差について総導電率LF
exp,Dをモニタすることにより、計算された期待値LF
exp,Dに対する、すなわち目標値からの、ナトリウム濃度の5%偏差を求めることができる。従って、総導電率が取り得る範囲は合計で10%になり、いずれの場合にも期待値から上方及び下方に5%広がる。
【0057】
図1の右側(「Bicモニタリング」)は、以下の構造を有する。
【0058】
導電率LFist,Naは、酸性ナトリウム成分を添加した後の溶液の測定された導電率である。
【0059】
図1の右側のΔLF
exp,Bicは、この溶液に重炭酸塩成分を添加することによる期待される導電率の増加量を表す。この量は、期待される総導電率LF
exp,Dと酸性ナトリウム成分の期待される導電率LF
exp,Naとの差分から計算される。
【0060】
通常、重炭酸塩成分は、重炭酸塩に加えてナトリウムを含む。ナトリウムを含む酸性成分自体の影響、公差に影響される酸性ナトリウム成分の計量の影響、及び重炭酸塩成分の導電率の目標値の計算に使用される水の基本導電率などのさらなる干渉パラメータの影響を考慮する必要がないように、手順は以下の通りである。
【0061】
第1のステップにおいて、酸性ナトリウム成分及び必要な水のみを計量供給し(計量1)、導電率測定セルを通過させる。これによって取得される導電率LFist,Naは、動作システムの全ての公差を含み、依然として求める必要がある重炭酸塩のモニタリング限界のオフセットとしての役割を果たす。
【0062】
第2のステップにおいて、全ての成分が存在して透析液が最初に完全に混合されるように重炭酸塩成分を添加する(計量2)。透析液の測定された総導電率LFist,Dを採用する。測定された総導電率LFist,Dから、既に求められているナトリウムを含む(重炭酸塩を含まない)透析液の導電率LFist,Naを減算し、従って総導電率に対する重炭酸塩成分の実際の寄与ΔLFexp,Bicを測定する。
ΔLFist,Bic=LFist,D-LFist,Na
【0063】
測定された総導電率LFist,Dから、ステップ1で求めた(水及び公差を含む)酸性ナトリウム成分のオフセットを計算によって除外し、このようにして導電率に対する重炭酸塩成分の寄与を求める。
【0064】
モニタリング限界は、重炭酸塩成分の添加による理論的に期待される導電率の増加量ΔLF
exp,Bic(目標値)から計算することができ、従って必要な目標値に関連することができる。
図1の右側による実施形態では、モニタリング限界が、ΔLF
exp,Bicを25%下回る値からΔLF
exp,Bicを25%上回る値にまで及び、すなわち重炭酸塩溶液の添加による導電率の許容増加量は、ΔLF
exp,Bic*0.75からΔLF
exp,Bic*1.25までの間隔内に存在する。
【0065】
総導電率の限界値を考慮すると、これによってナトリウム及び重炭酸塩についての2つの独立したモニタリング窓がもたらされ、これらは標準要件に従って目標値からのそれぞれの濃度偏差を検出することができる。
【0066】
2チャネル設計を確実にするために、期待値の全ての理論的計算は、透析機械の動作システムとは無関係な保護システムによって行われるようにすることが好ましい。
【0067】
本発明による手順を使用すれば、ナトリウム濃度及び/又は重炭酸塩濃度の変化などの治療中における濃度の変化を考慮することができる。例えば迂回中に、すなわち調製装置を透析機械の水域(water part)から流体的に分離している最中に、システムの反復較正、すなわち対応して変化する濃度値を有する透析液の反復調製を行うこともできる。特定の状況下では、濃度の変化時に反復較正を行わずにモニタリング窓の新たな理論的計算を行うことも考えられる。
【0068】
濃度の変化時又はキャニスタ交換(canister change)時には、再び第1の変形例による方法を実行する必要がある。多少大きな不確実性を受け入れることができる場合には、濃度の変化時又はキャニスタ交換時に第2の変形例による重炭酸塩限界窓の新たな理論的計算が可能である。ナトリウム限界窓は、いつでも再計算することができる。さらに、ナトリウム濃度も常に再測定することができる。
【0069】
単一の導電率測定セルによってナトリウム濃度と重炭酸塩濃度とを同時にモニタするので、酸性ナトリウム成分の計量供給において突然の誤差が生じると、重炭酸塩モニタリング窓が取り残されているという理由でアラームが引き起こされることがある。通常動作時に透析液の総導電率を測定する単一の導電率測定セルは、どの成分から誤差が生じたかを区別できないため、最初に残されたモニタリング窓がアラームを引き起こす。このことは、例えば成分を搬送するポンプの計量誤差が逆方向に起こることもあるというリスク管理を用いて排除することができる。これによって、特定の状況下における導電率の誤差を相互に相殺することができる。リスク管理の視点から複数の誤差が排除される。
【0070】
「導電率(conductivity)」という用語は、ナトリウム及び重炭酸塩の導電率又は量と相関する全てのパラメータを含む点を指摘しておかなければならない。従って、「導電率測定セル(conductivity measurement cell)」という用語は、導電率又はそれと相関する、又はナトリウム及び重炭酸塩の量と相関するパラメータを測定できる全てのセンサを含む。
【0071】
この方法では、通常動作中に透析機械の流体システム(hydraulic system)において酸性ナトリウム成分及び重炭酸塩成分を添加する局所的順序は問題ではない。
【0072】
一般に、本発明による方法のステップの全部又は一部は、連続して、及び/又は複数回、及び/又は繰り返し、及び/又は定期的に実行できる点を指摘しておく。