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特許7079243緑内障手術の成功率を向上させるためにニンテダニブを使用する組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】緑内障手術の成功率を向上させるためにニンテダニブを使用する組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20220525BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20220525BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 31/7072 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20220525BHJP
   A61F 9/007 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALN20220525BHJP
【FI】
A61K31/496
A61P27/06
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P43/00 105
A61K31/407
A61K31/513
A61K31/7072
A61K31/7068
A61K31/52
A61K31/519
A61K31/365
A61P43/00 123
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/06
A61K9/127
A61K9/107
A61F9/007 170
A61F9/007 160
A61K31/5377
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019515766
(86)(22)【出願日】2017-05-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 US2017034792
(87)【国際公開番号】W WO2017210130
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】62/344,870
(32)【優先日】2016-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/344,878
(32)【優先日】2016-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521410762
【氏名又は名称】エイディーエス セラピューティクス リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ニ ジンソン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ロン
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-518064(JP,A)
【文献】国際公開第2016/029191(WO,A1)
【文献】Masoumeh B.Masoumpour et al.,Current and Future Techniques in Wound Healing Modulation after Glaucoma Filtering Surgeries,The Open Ophthalmology Journal,2016年,10,p.68-85,doi:10.2174/1874364101610010068
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ンテダニブまたはその薬学的に許容される塩の治療的有効量含む、緑内障ろ過手術の成功率を向上させるための組成物
【請求項2】
ニンテダニブが、局所用点眼液の形態またはインプラントの形態で投与される、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
術部位における瘢痕形成を減少させるまたは線維化を減少させるのに有効な量のニンテダニブを含む、請求項1に記載の組成物
【請求項4】
前記組成物が、緑内障手術後少なくとも10日間間、
低IOP期間を延長する、
絶対成功率もしくは条件付き成功率のいずれかを上昇させる
のに有効な量のニンテダニブを含むか、または
前記組成物が、ブレブ残存期間を延ばすのに有効な量のニンテダニブを含む
請求項1に記載の組成物
【請求項5】
ニンテダニブが、罹患した眼に挿入される半固体持続放出インプラントまたは固体持続放出インプラント形態で投与される、請求項1に記載の組成物
【請求項6】
ニンテダニブが、溶液、懸濁液または乳濁液からなる群より選択される局所用眼用製剤として投与される、請求項1に記載の組成物
【請求項7】
ニンテダニブ緑内障手術の前、最中、または後に眼に投与される、請求項1に記載の組成物
【請求項8】
前記緑内障ろ過手術が、古典的な線維柱帯切除術法、または、トラベクトーム、隅角鏡検査支援経腔的線維柱帯切除術、エキシマレーザー線維柱帯切除術、および内視鏡毛様体光凝固術からなる群より選択される方法を用いて実施される、請求項1に記載の組成物
【請求項9】
実施される前記緑内障ろ過手術が、眼用ろ過デバイスを移植するための手術である、請求項1に記載の組成物
【請求項10】
前記眼用ろ過デバイスが眼用ステントである、請求項9に記載の組成物
【請求項11】
ニンテダニブが、細胞増殖阻害性代謝拮抗薬と組み合わせて投与される、請求項1に記載の組成物
【請求項12】
前記代謝拮抗薬が、マイトマイシンC、5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、6-アザウラシル、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、およびチオテパからなる群より選択される、請求項11に記載の組成物
【請求項13】
ンテダニブまたはその薬学的に許容される塩の有効量を含む、緑内障ろ過手術に付随する補助的処置のための組成物
【請求項14】
ニンテダニブが、局所用点眼液の形態またはインプラントの形態で投与される、請求項13に記載の組成物
【請求項15】
前記組成物が、手術部位における瘢痕形成を減少させるのに有効な量のニンテダニブを含む、請求項13に記載の組成物
【請求項16】
前記組成物が、緑内障手術後少なくとも10日間間、
低IOP期間を延長する、または
上記で定義された絶対成功率もしくは条件付き成功率のいずれかを上昇させる
のに有効な量のニンテダニブを含む、または、
前記組成物が、ブレブ残存期間を延ばすのに有効な量のニンテダニブを含む
請求項13に記載の組成物
【請求項17】
ニンテダニブが、緑内障ろ過手術の前、最中、または後に眼に投与される、請求項13に記載の組成物
【請求項18】
ニンテダニブが、罹患した眼に挿入される半固体持続放出インプラントまたは固体持続放出インプラントのいずれかの形態で投与される、請求項13に記載の組成物
【請求項19】
ニンテダニブが、溶液、懸濁液、または乳濁液からなる群より選択される局所用眼用製剤として投与される、請求項13に記載の組成物。
【請求項20】
前記緑内障ろ過手術が、古典的な線維柱帯切除術法、または、トラベクトーム、隅角鏡検査支援経腔的線維柱帯切除術、エキシマレーザー線維柱帯切除術、および内視鏡毛様体光凝固術からなる群より選択される方法を用いて実施される、請求項13に記載の組成物
【請求項21】
実施される前記緑内障ろ過手術が、眼用ろ過デバイスを移植するための手術である、請求項13に記載の組成物
【請求項22】
前記眼用ろ過デバイスが眼用ステントである、請求項21に記載の組成物
【請求項23】
ニンテダニブが、細胞増殖阻害性代謝拮抗薬と組み合わせて投与される、請求項13に記載の組成物
【請求項24】
前記代謝拮抗薬が、マイトマイシンC、5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、6-アザウラシル、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、およびチオテパからなる群より選択される、請求項23に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本願は、2016年6月2日に出願された米国仮特許出願第62/344,878号および2016年6月2日に出願された米国仮特許出願第62/344,870号の恩典を主張し、それら各々の全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本開示は、緑内障手術の成功率を向上させるためのニンテダニブを含む眼用組成物およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
緑内障は、多くの場合異常に高い眼圧によって引き起こされる、視神経に損傷を与える一群の眼の状態を表す。緑内障を患った眼において圧を低下させる1つの方法は、外科的に眼中に排出路を作製することである。このタイプの手術は、緑内障ろ過手術、例えば線維柱帯切除術を呼ばれる。緑内障手術では、眼の排出角度の組織の一部が取り除かれ、開口部が作製される。この新しい開口部は、液体を眼から排出する排出路を形成する。それによって液体は新しい開口部を通じて結膜下の貯留層(ブレブ)に比較的容易に排出され得るため、眼圧は低下する。液体はその後、身体により吸収される。
【0004】
緑内障ろ過手術の結果として、手術部位で瘢痕化および線維化が発生する可能性がある。瘢痕化および線維化はしばしば、ろ過力を徐々に低下させ、眼内圧を制御不能にする。過剰な線維化は、瘢痕形成および緑内障ろ過手術の失敗の鍵となる要因である。この失敗を減らすための現在の処置は依然として不十分であり、改善を必要としている。
【発明の概要】
【0005】
概要
特定の局面において、本開示は、ニンテダニブをそのような処置を必要とする対象の眼に投与することによって緑内障手術(例えば、緑内障ろ過手術)の成功率を向上させるための方法を提供する。1つの局面は、それを必要とする対象に、ニンテダニブまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物の有効量を投与する工程を含む、対象における緑内障ろ過手術に付随する補助的処置のための方法を特徴とする。該方法は、緑内障手術の成功率を向上させる。緑内障手術は、例えば、古典的な線維柱帯切除術法、または、トラベクトーム、隅角鏡検査支援経腔的線維柱帯切除術、エキシマレーザー線維柱帯切除術、および内視鏡毛様体光凝固術からなる群より選択される方法を含む。実施される緑内障手術はまた、眼用ろ過デバイスの移植のための手術であり得、眼用ろ過デバイスは眼用ステントである。例えば、眼用ろ過デバイスは、iStentマイクロステント、Hydrusマイクロステント、およびCyPassマイクロステントからなる群より選択され得る。
【0006】
本明細書に開示される方法のいくつかの局面において、対象に投与されるニンテダニブの量は、手術後少なくとも10日間、少なくとも90日間、少なくとも365日間、少なくとも750日間、もしくは少なくとも3650日間の間、低IOP期間を延長するのに、絶対成功率もしくは条件付き成功率のいずれかを上昇させるのに有効であるか、または投与されるニンテダニブの量は、ブレブ残存期間を延ばすのに有効である。
【0007】
いくつかの局面において、ニンテダニブ組成物は、局所用眼用製剤(例えば、局所用点眼液)の形態またはインプラントの形態で投与される。いくつかの例において、ニンテダニブは、罹患した眼に局所投与される局所用眼用製剤に含まれる。特定の態様において、製剤中のニンテダニブの濃度は、組成物の総重量または総容量の0.001%~10%である。特定の局面において、局所用眼用製剤は、溶液、懸濁液、または乳濁液である。別の局面において、ニンテダニブは、罹患した眼に挿入されるインプラント中または半固体持続放出製剤中に存在する。特定の局面において、インプラント内のニンテダニブの量は、1μg~100 mgである。
【0008】
特定の局面において、開示される方法は、ニンテダニブおよび代謝拮抗薬の組み合わせによって実施される。代謝拮抗薬は、マイトマイシンC、5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、6-アザウラシル、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、およびチオテパであり得るがこれらに限定されない。
【0009】
別の局面において、開示される方法は、手術部位での異常な血管新生および線維化を減少させることによって緑内障手術における瘢痕形成を減少させる。特定の局面において、開示される方法は、緑内障手術の失敗を減らすために、手術前、手術と同時、または手術後に実施される。したがって、いくつかの局面において、投与されるニンテダニブの量は、手術部位における瘢痕形成を減少させるのに有効であり、いくつかの局面において、投与されるニンテダニブの量は、手術後少なくとも10日間、少なくとも365日間、または少なくとも3650日間の間、低IOP期間を延長するのに有効である。いくつかの局面において、投与されるニンテダニブの量は、ブレブ残存期間を延ばすのに有効である。
【0010】
本明細書で使用される場合、「1つまたは複数」という用語は、少なくとも1つの、より適切には、1、2、3、4、5、10、20、50、100、500個等の、「1つまたは複数」が言及するものを含む。
【0011】
「対象」という用語は、動物もしくはヒト、または動物もしくはヒトに由来する1つもしくは複数の細胞を表す。好ましくは、対象はヒトである。対象はまた、非ヒト霊長類を含み得る。ヒト対象は、患者として公知であり得る。
【0012】
他に定義がなされていない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本発明において使用される方法および材料が本明細書に記載されているが、当技術分野で公知の他の適切な方法および材料も使用することができる。材料、方法、および実施例は例にすぎず、限定は意図されていない。本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、患者、配列、データベースのエントリー、およびその他の参照文献は、それらの全体が参照により組み入れられる。相反する場合、定義を含めて、本明細書が優先される。
【0013】
[本発明1001]
それを必要とする対象の眼に、ニンテダニブまたはその薬学的に許容される塩の治療的有効量を投与する工程を含む、緑内障ろ過手術の成功率を向上させるための方法。
[本発明1002]
ニンテダニブが、局所用点眼液の形態またはインプラントの形態で投与される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
投与されるニンテダニブの前記量が、手術部位における瘢痕形成を減少させるのに有効である、本発明1001の方法。
[本発明1004]
投与されるニンテダニブの前記量が、手術後少なくとも10日間、少なくとも90日間、少なくとも365日間、少なくとも750日間、もしくは少なくとも3650日間の間、
低IOP期間を延長する、
絶対成功率もしくは条件付き成功率のいずれかを上昇させる
のに有効であるか、または
投与されるニンテダニブの前記量が、ブレブ残存期間を延ばすのに有効である、
本発明1001の方法。
[本発明1005]
ニンテダニブが、罹患した眼に挿入される半固体持続放出インプラントまたは固体持続放出インプラントのいずれかの形態で投与される、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記局所用眼用製剤が、溶液、懸濁液、クリーム、軟膏、ジェル、ジェル形成液、リポソームもしくはミセルを含む懸濁液、噴霧用製剤、または乳濁液である、本発明1001の方法。
[本発明1007]
処置が手術の前、最中、または後に実施される、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記緑内障ろ過手術が、古典的な線維柱帯切除術法、または、トラベクトーム、隅角鏡検査支援経腔的線維柱帯切除術、エキシマレーザー線維柱帯切除術、および内視鏡毛様体光凝固術からなる群より選択される方法を用いて実施される、本発明1001の方法。
[本発明1009]
実施される前記緑内障手術が、眼用ろ過デバイスを移植するための手術である、本発明1001の方法。
[本発明1010]
前記眼用ろ過デバイスが眼用ステントである、本発明1009の方法。
[本発明1011]
前記眼用ろ過デバイスが、iStentマイクロステント、Hydrusマイクロステント、およびCyPassマイクロステントからなる群より選択される、本発明1009の方法。
[本発明1012]
ニンテダニブが、細胞増殖阻害性代謝拮抗薬と組み合わせて投与される、本発明1001の方法。
[本発明1013]
前記代謝拮抗薬が、マイトマイシンC、5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、6-アザウラシル、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、およびチオテパからなる群より選択される、本発明1012の方法。
[本発明1014]
それを必要とする対象に、ニンテダニブまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物の有効量を投与する工程を含む、対象における緑内障ろ過手術に付随する補助的処置の方法。
[本発明1015]
組成物が、局所用点眼液の形態またはインプラントの形態で投与される、本発明1014の方法。
[本発明1016]
前記組成物が、手術部位における瘢痕形成を減少させるのに有効な量のニンテダニブを含む、本発明1014の方法。
[本発明1017]
前記組成物が、手術後少なくとも10日間もしくは少なくとも365日間もしくは少なくとも3650日間の間、
低IOP期間を延長する、または
上記で定義された絶対成功率もしくは条件付き成功率のいずれかを上昇させる
のに有効な量のニンテダニブを含む、本発明1014の方法。
[本発明1018]
投与されるニンテダニブの前記量が、ブレブ残存期間を延ばすのに有効である、本発明1015の方法。
[本発明1019]
ニンテダニブが、緑内障ろ過手術の前、最中、または後に眼に投与される、本発明1014の方法。
[本発明1020]
ニンテダニブが、罹患した眼に挿入される半固体持続放出インプラントまたは固体持続放出インプラントのいずれかの中に存在する、本発明1014の方法。
[本発明1021]
前記局所用眼用製剤が、溶液、懸濁液、または乳濁液である、本発明1014の方法。
[本発明1022]
前記緑内障ろ過手術が、古典的な線維柱帯切除術法、または、トラベクトーム、隅角鏡検査支援経腔的線維柱帯切除術、エキシマレーザー線維柱帯切除術、および内視鏡毛様体光凝固術からなる群より選択される方法を用いて実施される、本発明1014の方法。
[本発明1023]
実施される前記緑内障手術が、眼用ろ過デバイスを移植するための手術である、本発明1014の方法。
[本発明1024]
前記眼用ろ過デバイスが眼用ステントである、本発明1023の方法。
[本発明1025]
前記眼用ろ過デバイスが、iStentマイクロステント、Hydrusマイクロステント、およびCyPassマイクロステントからなる群より選択される、本発明1023の方法。
[本発明1026]
ニンテダニブが、細胞増殖阻害性代謝拮抗薬と組み合わせて投与される、本発明1001の方法。
[本発明1027]
前記代謝拮抗薬が、マイトマイシンC、5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、6-アザウラシル、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、およびチオテパからなる群より選択される、本発明1026の方法。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面からならびに特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】過剰な瘢痕形成を減少させて緑内障手術の成功率を向上させる例示的なメカニズムを示すフローチャートである。
図2】ウサギモデルにおける緑内障ろ過手術後のブレブ残存率を示すグラフである。
図3】ウサギモデルにおける緑内障ろ過手術後の眼圧(IOP)を示すグラフである。
図4】本明細書に開示される方法にしたがう臨床研究における緑内障ろ過手術の絶対成功率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
緑内障は、網膜神経節細胞(「RGC」)の死滅、一部視野喪失、および視神経萎縮を特徴とする一群の疾患である。緑内障は、世界で失明の一番の原因である。この疾患の進行を制御するため、可能であればそれを遅らせるために、眼圧(「IOP」)を低下させるのに有効な様々な処置選択肢が利用可能である。処置選択肢は、例えば、薬物療法(すなわち、IOP降下薬)、レーザー眼科手術、および/または従来的な外科的方法、例えば緑内障ろ過手術(またはろ過手術もしくは線維柱帯切除術としても公知)を含む。
【0016】
先進国では局所用IOP降下薬が幅広く用いられているものの、世界の他の地域では、特に閉塞隅角緑内障に対して、緑内障手術が未だに多く行われている。緑内障手術は、長期的にみて費用の安さという利点を有し、1日に複数回の適用を必要とする局所用点眼液に関連するコンプライアンスの問題に対処する必要がない。伝統的な緑内障ろ過手術および線維柱帯切除術は、失敗率が高く(Schlunck et al. Exp Eye Res. 2016; 142:76-82)、眼用ろ過デバイス、例えば緑内障用排出路デバイスを移植する方法もまた、長期的失敗の問題を抱えている(Amoozgar et al. Curr Opin Ophthalmol. 2016;27(2):164-9)。この失敗は、排出路を閉塞する線維化および瘢痕形成が後に続く過剰な術後創傷治癒に起因するものである。手術による組織に対する損傷は、しばしば、炎症促進因子および繊維形成促進因子を誘導し、これらが異常な細胞外マトリクスの変化および線維化を引き起こす。これらの因子によって誘導される筋線維芽細胞過増殖は、その後、過剰な線維化および瘢痕形成を引き起こす。
【0017】
代謝拮抗薬マイトマイシンC(MMC)は、緑内障手術の最中または後に抗瘢痕化剤として投与される。別の代謝拮抗薬5-フルオロウラシル(5-FU)もまた、主として経過観察中に局所注射により使用される(Schlunck et al. Exp Eye Res. 2016; 142:76-82)。これらの代謝拮抗薬は、高速増殖性線維芽細胞を妨害することによって作用する。それらの活性は選択的でなく、副作用をもたらすことが公知である。例えば、その抗細胞分裂活性は、場合によっては、手術後のブレブ漏出を引き起こすことがある。緑内障手術のより良い術後管理は、未だ満たされていない医学的要望である。
【0018】
緑内障手術後の瘢痕形成は複数の要因により引き起こされるため、1つの経路のみを標的化することは、手術の成功率を向上させる上で十分でないことがある。本開示は、以下の鍵となる特性を有する組成物を眼に投与することによって緑内障手術の成功率を向上させる。(1)該組成物は複数の重要な病理学的経路を同時に阻害し、これらの経路は以下で議論され;(2)該組成物は、標的部位へのより効果的な薬物送達を達成するよう、抗体薬と対照的な低分子薬を用い;(3)該組成物は、手術部位への使い勝手の良い一貫性のある薬物送達のために、点眼液またはインプラントのいずれかの形態の局所用製剤であり;かつ(4)該組成物はニンテダニブを含み、これは緑内障ろ過手術の成功率を向上させる上で相加的または相乗的効果を達成するよう代謝拮抗薬と組み合わせて使用され得る。
【0019】
本開示は、手術の前、最中、または後にニンテダニブを含む局所用製剤(例えば、局所用点眼液、インプラント)を使用する方法を提供する。ニンテダニブは、求められる効果を達成するために、血管内皮成長因子(「VEGF」)受容体(「VEGFR」)1~3、血小板由来成長因子受容体(「PDGFR」)αおよびβならびに線維芽細胞成長因子受容体2(「FGFR2」)を阻害する要件を満たす。
【0020】
学説に拘束されるものではないが、VEGFに加えて胎盤成長因子(「PIGF」)をブロックする必要性から、すべてのVEGFRメンバーを阻害することが重要であることが理解される。PIGFは、病的な血管新生および炎症にのみ影響し、緑内障手術に関連する問題により大きく寄与する(Van Bergen et al. J Cell Mol Med. 2013; 17(12): 1632-43)。緑内障ろ過手術の場合、開示される方法はまた、瘢痕形成におけるその機能ゆえに、FGFR2を阻害する。本明細書に開示される局所用製剤は、手術の前、最中、および後の使い勝手の良い処置を可能にする。本開示によって提供される緑内障手術の成功率を向上させるメカニズムは、図1にまとめられており、同図は、適切な眼用製剤中のニンテダニブが、PIGF、VEGF、PDGF、FGFを含む、過剰な創傷治癒に関与する鍵となる病理学的因子のシグナル経路を同時にブロックすること、および瘢痕形成を減少させることによって緑内障手術の成功率を上げることを示している。
【0021】
本明細書で使用される場合、「緑内障手術の成功率を向上させる」という用語は、手術後少なくとも10日間、少なくとも90日間、少なくとも365日間、少なくとも750日間、または少なくとも3650日間の間、低下したIOP(すなわち、低IOP)期間を延長すること、手術後一定期間の間(例えば、少なくとも10日間、少なくとも90日間、少なくとも365日間、少なくとも750日間または少なくとも3650日間)手術前基準値に対するIOPの減少率を上昇させること、一定期間、絶対(完全としても公知)成功率(正常IOP範囲内で維持されておりいずれの緑内障治療もなしで基準値に対してIOPが減少している患者の比率と定義される)を上昇させること、一定期間(例えば、少なくとも10日間、少なくとも90日間、少なくとも365日間、少なくとも750日間、または少なくとも3650日間)、条件付き成功率(正常IOP範囲内で維持されており緑内障治療を用いて基準値に対してIOPが減少している患者の比率と定義される)を上昇させること、一定期間(例えば、少なくとも10日間、少なくとも90日間、少なくとも365日間、少なくとも750日間、または少なくとも3650日間)、ブレブの等級および残存率を向上させることを意味する。
【0022】
本明細書で使用される場合、「正常IOP」または「正常IOP範囲」は、約5 mmHg~約22 mmHg、または約10 mmHg~約21 mmHgの間のヒトの眼の眼圧を表す。
【0023】
「処置(treatment)」、「処置する(treating)」、「処置する(treat)」等の用語は、本明細書において、一般に所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを表すために使用される。この効果は、疾患もしくはその症状の完全もしくは部分的予防という点で予防的であり得、ならびに/または疾患および/もしくはその疾患に起因する副作用の部分的もしくは完全な安定化もしくは治癒という点で治療的であり得る。「処置」という用語は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の処置を包含し、(a)疾患および/もしくは症状が、その疾患もしくは症状を発症しやすい体質であり得るが未だそれを発症していると診断されていない対象において発症することを予防すること;(b)疾患および/もしくは症状を抑制すること、すなわち、それらの進展を停止させること;または(c)疾患症状を軽減すること、すなわち、その疾患および/もしくは症状を退行させることを含む。処置を必要とする者は、すでに発病している者(例えば、高IOPを有する者、感染症を有している者等)およびその予防が望まれる者(例えば、緑内障に対する罹病性が増大した者、高IOPを有すると疑われる者等)を含む。
【0024】
ニンテダニブ{メチル(3Z)-3-{[(4-{メチル[(4-メチルピペラジン-1-イル)アセチル]アミノ}フェニル)アミノ](フェニル)メチリデン}-2-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-6-カルボキシレート}は、本明細書に記載されるようにキナーゼ阻害物質である。ニンテダニブは主として、例えば血管内皮成長因子受容体(VEGFR1~3)、血小板由来成長因子受容体(PDGFRαおよびβ)、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR1~4)を含む受容体型チロシンキナーゼを阻害する。
【0025】
製剤および投薬レジメン
本明細書に記載される方法は、有効成分として本明細書に記載される方法により同定される化合物を含む薬学的組成物の製造および使用を含む。薬学的組成物自体も含まれる。
【0026】
薬学的組成物は典型的に、薬学的に許容される賦形剤を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される賦形剤」または「薬学的に許容される担体」という語は、薬学的投与に適した生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を含む。
【0027】
本明細書で使用される「薬学的に許容される塩」という語句は、哺乳動物への投与に関して安全かつ有効であり、所望の生物学的活性を有する関心対象の化合物の塩を意味する。薬学的に許容される酸性塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、過リン酸塩、I 0 イソニコチン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、ピルビン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、パントテン酸塩、重酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチジン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、サッカリン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩およびパモ酸(すなわち、I,I'メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエート))塩を含むがこれらに限定されない。適切な塩基性塩は、15アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛、ビスマス、およびジエタノールアミン塩を含むがこれらに限定されない。
【0028】
適切な薬学的組成物を製剤化する方法は、当技術分野で公知であり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st ed., 2005およびDrugs and the Pharmaceutical Sciences: a Series of Textbooks and Monographs (Dekker, NY)シリーズの文献を参照されたい。例えば、溶液、懸濁液、クリーム、軟膏、ジェル、ジェル形成液、リポソームもしくはミセルを含む懸濁液、噴霧用製剤、または眼科用途で使用される乳濁液は、以下の成分を含み得る:滅菌希釈液、例えば注射用水、生理食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒;抗菌剤;抗酸化物質;キレート剤;緩衝液、例えば酢酸、クエン酸、またはリン酸および等張性調整剤、例えば塩化ナトリウムまたはデキストロース。pHは、酸または塩基、例えば塩酸または水酸化ナトリウムを用いて調整され得る。
【0029】
注射用途に適した薬学的組成物は、滅菌性の注射可能な溶液または分散物を即時調製するための滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散物および滅菌粉末を含み得る。それは、製造および保管条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌等の微生物の混入作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)ならびにそれらの適切な混合物を含む、溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、分散物の場合は必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗菌および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成され得る。多くの例で、等張剤、例えば糖、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトールおよび塩化ナトリウムを組成物中に含めることが好ましい。注射可能な組成物の長期的吸収は、吸収を遅らせる作用物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらされ得る。
【0030】
滅菌注射溶液は、適切な溶媒中に必要量の活性化合物を、必要に応じて上記に列挙された成分の1つまたは組み合わせと共に添加し、その後に滅菌ろ過することによって調製され得る。一般に、分散物は、基本分散媒および上記に列挙されたものの中からの必要とされる他の成分を含む滅菌ビヒクルに活性化合物を添加することによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、有効成分および任意の追加の所望の成分の粉末を事前に滅菌ろ過されたその溶液から生成する減圧乾燥および凍結乾燥である。
【0031】
1つの態様において、治療化合物は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを含む制御放出製剤のように、身体からの迅速な排出から治療化合物を保護する担体を用いて調製される。生分解性、生体適合性ポリマー、例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸が使用され得る。そのような製剤は、標準的技術を用いて調製することができ、また商業的に入手することができる。
【0032】
前記薬学的組成物は、投与に関する説明書と共に、コンテナ、パック、またはディスペンサに収容され得る。
【0033】
ニンテダニブの組成物および製剤は、局所的に(例えば局所用眼用製剤として)、または半固体製剤もしくは固体インプラントの挿入によって、または当技術分野で公知の任意の他の適切な方法によって、投与され得る。本明細書に開示される作用物質をそのまま治療に使用することも可能であるが、例えば意図した投与経路および標準的薬務に関して選択された適切な薬学的賦形剤、希釈剤、または担体と混合された薬学的製剤として作用物質を投与することが好ましい場合がある。薬学的製剤は、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、および/または担体と共に、少なくとも1つの活性化合物を含む。
【0034】
本明細書に開示される薬学的組成物は、「治療的有効量」の本明細書に記載される作用物質を含み得る。そのような有効量は、投与される作用物質の効果、または2つ以上の作用物質が使用される場合は、作用物質の併用効果に基づき決定され得る。治療的有効量の作用物質はまた、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびにその個体において所望の応答、例えば少なくとも1つの障害パラメータの改善もしくはその障害の少なくとも1つの症状の改善を誘導する化合物の能力等の要因によって変化し得る。治療的有効量はまた、組成物の任意の毒性または有害効果をその治療上有益な効果が上回る量である。
【0035】
状態の処置のための、本開示の組成物の有効用量は、投与手段、標的部位、ヒトであるか動物であるかによらず、対象の生理学的状態、投与される他の医薬、および処置が予防的であるか治療的であるかを含む多くの異なる要因によって変化する。処置用量は、安全性および有効性を最適化するための当業者に公知の従来的方法を用いて滴定され得る。
【0036】
いくつかの例において、局所用眼用製剤は、溶液、懸濁液、クリーム、軟膏、ジェル、ジェル形成液、リポソームもしくはミセルを含む懸濁液、噴霧用製剤、または乳濁液である。いくつかの例において、局所用眼用製剤はまた、安定化剤、界面活性剤、ポリマー系担体、ジェル化剤、有機共溶媒、pH活性成分、浸透圧活性成分から選択される1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含み、保存剤を含むかまたは含まない。いくつかの例において、持続放出半固体製剤、持続放出固体製剤、または眼用インプラントが、罹患した眼に挿入される。いくつかの態様において、持続放出半固体製剤、持続放出固体製剤、または眼用インプラントはさらに、薬学的に許容される賦形剤を含む。いくつかの例において、持続放出半固体製剤、持続放出固体製剤、または眼用インプラントは、マルチキナーゼ阻害物質、代謝拮抗物質、またはそれらの組み合わせ、ならびにポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PLGA)およびポリ乳酸ポリグリコール酸コポリマーから選択される生分解性ポリマーを含む。
【0037】
組成物または製剤の投与は、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、またはそれ以上であり得る。頻度は、その処置の処置維持期で、例えば、毎日または1日2回の代わりに2日または3日に1回に削減され得る。用量および投与頻度は、処置医の判断に基づき、例えば、本発明の方法により処置される状態の疾患の臨床兆候、病理学的兆候ならびに臨床および亜臨床症状、ならびに患者の病歴を考慮して調整され得る。
【0038】
処置に使用するのに必要とされる本明細書に開示される作用物質の量は、投与経路、処置を必要とする状態の性質、ならびに患者の年齢、体重、および状態によって変化すること、および究極的にはそれは担当医の裁量であることが理解されるであろう。組成物は典型的に、有効量のニンテダニブを含む。動物試験にしたがい予備的用量が決定され得、そして当技術分野で受け入れられているやり方にしたがいヒトへの投与のための用量のスケーリングが実施され得る。
【0039】
処置の長さ、すなわち、日数は、その対象を処置する医師によって容易に決定されることであるが、処置の日数は、約1日~約365日の範囲であり得る。本発明の方法により提供される場合、処置の有効性は、その処置が成功したかどうか、または追加の(または改変された)処置が必要かどうかを決定するために、処置過程の間モニタリングされ得る。
【0040】
治療化合物の用量、毒性、および治療効果は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効である用量)を決定するために、細胞培養物または実験動物において、標準的な薬学的手法により決定され得る。ニンテダニブの剤形は、当業者によって容易に決定され得、例えば、例えば当技術分野で公知の標準的方法にしたがう用量、安全性、および有効性の決定に関する文献に報告されている動物モデルにおいておよび臨床研究において取得され得る。具体的な配合、投与経路および用量は、患者の状態に照らして、個々の医師によって選択され得る。
【0041】
本発明の方法において使用するための組成物は、組成物の総重量または総容量の0.001%~10%の濃度のニンテダニブを含み得る。例えば、水性組成物は、0.001%、0.01%、0.1%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、5.0%、または最大10%のニンテダニブを含む。
【0042】
当業者によく知られているように、水溶液の眼への投与は、ドロッパーまたはピペットまたは他の専用の滅菌デバイスからの(例えば、ニンテダニブ溶液の)「点眼」または複数回の点眼の形態であり得る。そのような点眼は典型的に、最大50マイクロリットルの容量であり得るが、それよりも少ないもの、例えば10マイクロリットル未満でもあり得る。
【実施例
【0043】
本発明は以下の実施例でさらに説明されるが、これらの実施例は特許請求の範囲に記載される発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
実施例1:ウサギ緑内障手術モデル
ウサギ緑内障手術モデルを用いて、緑内障ろ過手術の成功率を向上させるための本明細書に開示される方法の使用を説明する。詳細に、構築されたウサギ緑内障ろ過手術モデルを用いて、手術後の創傷治癒イベントに対するニンテダニブ0.2%溶液の効果を研究する。手術法は、Wong et al.(Wong et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2003; 44(3): 1097-1103)に記載されている。簡潔に説明すると、表層8-0シルク角膜けん引縫合糸を慎重に配置し、眼を引き下ろす。円蓋部結膜フラップを持ち上げ、その後に結膜下腔の鈍的切開を、輪部に沿っておよそ5 mmおよび後方に8 mm行う。マイクロ硝子体網膜(MVR)ブレードを用いて、輪部から3~4 mm後方まで、表層強膜切開を行い、角膜実質への強膜トンネルを作製する。22ゲージ、25 mm静脈内カニューレ(Venflon 2; Becton Dickinson, Oxford, UK)を、カニューレ針が透明な角膜内で視認できるまで前方に向かって強膜トンネルに通す。前房への進入は、カニューレ針を用いて行い、その後、カニューレが瞳孔野中心まで進んだら引き抜く。カニューレの強膜側端部を、挿入ポイントから1 mm突出するように斜めに切り落とし、10-0ナイロン縫合糸を配置してチューブを強膜表面に固定する。この結膜切開を、2本の割り込ませた縫合糸および針(B/V 100-4; Ethicon)に取りつけられた中央のマットレス型10-0ナイロン縫合糸を用いて封鎖し、水密性の封鎖を行う。手術の最後に、点滴薬クロラムフェニコールおよびBetnesol-N(Glaxo Wellcome, Uxbridge, UK)軟膏を各々1滴ずつ染み込ませる。
【0045】
20匹のメスのニュージーランドホワイト(2~2.4 kg、12~14週齢;Charles River)を、実験開始前に5日間順応させる。緑内障手術を、記載されている通りに左眼に対して行う。手術後、ウサギを2つのグループに分け、1つのグループをビヒクルで処置し、もう一方をニンテダニブ0.2%溶液で処置する。処置は、手術後直ちに開始し、この処置は、2週間の間のTIDとする。手術によって形成されるブレブの残存率および眼圧(IOP)を28日間追跡する。研究の最後に瘢痕組織の組織学的分析を行う。
【0046】
結果
手術成功の結果は、ビヒクルグループと比較して、ニンテダニブグループにおいて有意に延ばされる。図2は、手術後のブレブの残存曲線を示すグラフを提供する。図2に示されるように、ニンテダニブグループは、ビヒクルグループと比較して実質的に延長されたブレブ残存期間を示す。第28日の研究の最後まで、ビヒクルグループでは1つのブレブも残存しないのに対して、ニンテダニブグループグループでは大部分のブレブが残存する。図3は、手術後追跡期間のIOP曲線を示すグラフである。IOPは、ニンテダニブグループにおいては低い状態(すなわち20 mmHg未満)で維持され、ビヒクルグループでは徐々に上昇した。この差は、統計的に有意である。ブレブの残存およびIOPの変化に加えて、手術部位における瘢痕組織の組織学的分析は、ビヒクルグループよりもニンテダニブグループにおいてより小さい瘢痕組織を示す。
【0047】
この実験からの結果は、ニンテダニブ0.2%溶液が、緑内障手術の成功率を高める(すなわち、延長されたブレブ残存期間、手術後の低IOP期間の延長、および/または線維化/瘢痕化の減少)ことを示す。
【0048】
実施例2:緑内障ろ過手術に対する補助的療法としてのニンテダニブの局所用眼用製剤
臨床研究における線維柱帯切除術の成功率を高めるための補助的療法としての局所用ニンテダニブ0.2%。線維柱帯切除術の成功率に対する局所用ニンテダニブ0.2%の効果を試験するための無作為化、二重盲検、プラセボ対照12ヵ月実験。この研究デザインは、Vandewalle et al(Vandewalle et al. Br J Ophthalmol. 2014, Jan; 98(1):73-8)に記載されている通りとする。
【0049】
初回線維柱帯切除術が予定されている医学的に制御されていない開放隅角緑内障の患者を参加および無作為化させ、ニンテダニブまたはプラセボ溶液のいずれかをTIDで1滴与える。処置は、手術後直ちに開始し、1ヵ月継続する。およそ150名の患者をこの研究に参加させる。
【0050】
手術は、全身または球後麻酔の下で、改定Moorfields技術を用いて熟練の外科医により行う。IOPは、ゴールドマン圧平眼圧測定により測定する。情報を遮断された観察者により2回の測定を行わせ、2つの値が2 mmHg内であった場合に平均IOPを決定するよう平均化する。最初の2回の決定の間の差が>2 mmHgであった場合、3回目の測定を行う。
【0051】
患者は、線維柱帯切除術後第1日、第1、2、および4週目、ならびに第3、6、および12ヵ月目に試験を受ける。すべての患者が、最良矯正視力測定、サイデル試験を含む細隙灯検査、IOP測定および90ジオプターレンズを用いた真菌生体顕微鏡検査を含む総合的な眼科検診を受ける。手術後のIOP降下治療、手術中および手術後の合併症、ならびに外科的介入の回数も記録する。
【0052】
絶対成功率が主要評価項目であり、これは、基準から少なくとも20%減少しかつ光覚喪失のない、≦21 mmHgおよび>5 mmHgの眼圧(IOP)と定義される。
【0053】
結果
IOPは、12ヵ月目の通院時に、ニンテダニブおよびプラセボの両グループにおいて、基準と比較して効果的に減少する。緑内障手術の絶対成功率、すなわち、手術後12ヵ月を超える約20 mmHg未満のIOPの維持は、図4に示されるように、プラセボグループと比較してニンテダニブグループにおいてより高い。6ヵ月後の時点で、差は統計的に有意となる。
【0054】
実施例3:製剤
ニンテダニブ眼用溶液
この薬物製剤は、5.5~8.0のpH範囲の、2-ヒドロキシプロピルβシクロデキストリンまたは他の類似のシクロデキストリンおよび緩衝溶液を用いて調製された等張性眼用溶液である。この製剤の機能性を強化するために、他の粘性剤、滑沢剤、保存剤が添加され得る。この眼用溶液の組成が表1に示されている。
【0055】
(表1)ニンテダニブ眼用溶液
【0056】
ニンテダニブ眼用懸濁液
この薬物製剤は、5.5~8.0のpH範囲の、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび緩衝溶液を用いて調製された等張性眼用懸濁液である。薬物の粒子サイズは40マイクロメートル未満にされている。この製剤懸濁液の機能性を強化するために、他の粘性剤、滑沢剤、可溶化剤、および保存剤が添加され得る。その組成が表2に示されている。
【0057】
(表2)ニンテダニブ眼用懸濁液
【0058】
ニンテダニブ眼用乳濁液
この薬物製剤は、等張性眼用乳濁液である。薬物を混合油相および乳化賦形剤に溶解させ、次いでこれを乳化させ、5.5~8.0のpH範囲の水相と混合する。この乳濁液製剤の機能性を強化するために、他の粘性剤、滑沢剤、可溶化剤、および保存剤が添加され得る。その組成が表3に示されている。
【0059】
(表3)ニンテダニブ眼用乳濁液
【0060】
ニンテダニブ持続放出半固体製剤
この薬物製剤は、等張性持続放出半固体製剤である。薬物を、5.5~8.0のpH範囲の半固体媒体に溶解および/または懸濁させる。この持続放出半固体製剤の機能性を強化するために、他の粘性剤、滑沢剤、可溶化剤、および保存剤が添加され得る。その組成が表4に示されている。
【0061】
(表4)持続放出半固体製剤
【0062】
ニンテダニブ持続放出インプラント
この薬物製剤は、固体インプラントである。薬物を、1つまたは複数のポリマーと混合およびブレンドする。この薬物およびポリマーの混合物を、既定温度で溶解させ、既定の直径サイズを有するフィラメントになるよう押し出す。このフィラメント製剤を、眼組織に移植することができる既定サイズのセグメントに切断する。その組成が表5に示されている。
【0063】
(表5)持続放出インプラント
【0064】
非限定的に、本発明にしたがう方法において使用される実施例組成物は、示されている眼科的に許容される組成物から改変され得る。
【0065】
他の態様
本発明は、その詳細な説明に関連して説明されているが、上記の説明は例示を意図したものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するものではないことが意図されていることが理解されるべきである。他の局面、利点、および改変は添付の特許請求の範囲の範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4