(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】健康な組織を放射線から予防する放射線治療システム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
A61N5/10 H
A61N5/10 M
A61N5/10 Q
(21)【出願番号】P 2019535997
(86)(22)【出願日】2017-09-12
(86)【国際出願番号】 IB2017055487
(87)【国際公開番号】W WO2018047142
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-08-04
(32)【優先日】2016-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】519087240
【氏名又は名称】コングスベルグ ビーム テクノロジー アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】クレーヴェン,ペール ホーヴァル
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/146945(WO,A1)
【文献】特開2013-215616(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0024300(US,A1)
【文献】米国特許第8644571(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元放射線ターゲット(3)の動きに応答してリアルタイムに動作できる放射線治療システムであって、
放射線治療患者(4)の体内に位置する
前記3次元放射線ターゲット(3)に粒子ビーム(6a、6b、6c)を照射するように配置され、空間内の位置及び調整を個々に制御できる粒子ビーム源(1a、1b、1c)と、
前記3次元放射線ターゲットの移動方向及び速度を含む
前記3次元放射線ターゲット(3)の空間内の位置及び方向を監視すると共に、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の放射経路に位置する
前記3次元放射線ターゲット(3)を囲む身体組織(5)の組織特性を監視するように配置された画像化システム(2)と、を備え、
前記放射線治療システムは
粒子ビーム制御システム(7)を有し、
該粒子ビーム制御システム(7)は、
放射線治療セッション中に
リアルタイムに調整できるものであって、
前記画像化システム(2)から前記
3次元放射線ターゲット(3)の位置及び方向に関する情報と前記組織特性に関する情報を受信し、
前記組織特性に関する受信情報に基づいて、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)に曝されて
はならない身体組織(5)を識別して、
前記
3次元放射線ターゲット(3)及び/又は前記
3次元放射線ターゲット(3)を囲む身体組織(5)の移動に応答し、前記粒子ビーム源(1a、1b、1c)の個々の位置及び調整、及び/又は前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の個々の特性を、
(i)前記粒子ビーム(6a、6b、6c)のブラッグピーク(Bragg peak)又は拡大ブラッグピーク(spread out Bragg peak:SOBP)を、前記放射線ターゲット(3)内の所定のビーム交差領域(8)で交差させ、
(ii)前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の放射経路
を、前記粒子ビーム(6a、6b、6c)に曝され
てはならないと識別された前記身体組織を通って伝達されないよう
に、リアルタイムに調整することを特徴とする、放射線治療システム。
【請求項2】
前記粒子ビーム(6a、6b、6c)の個々の特性は、粒子ビームエネルギー、粒子ビーム周波数、及び粒子ビーム減衰のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の放射線治療システム。
【請求項3】
前記粒子ビーム制御システム(7)は、前記粒子ビーム(6a~6c)のうちの少なくとも1つのビーム経路内に配置された減衰器を動的に調整するように配置されていることを特徴とする、請求項2に記載の放射線治療システム。
【請求項4】
前記粒子ビーム源(1a、1b、1c)の空間内の位置及び調整は、前記粒子ビーム制御システム(7)によって制御されるアクチュエータによって個々に制御されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の放射線治療システム。
【請求項5】
前記画像化システムは、X線コンピュータ断層撮像、画像化システム、磁気共鳴画像化システム、陽子コンピュータ断層画像化システム、及び陽電子放出断層撮像のうちのいずれか1つを含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の放射線治療システム。
【請求項6】
前記粒子ビーム制御システム(7)は、前記放射線治療セッション中に、前記ビーム交差領域(8)を前記
3次元放射線ターゲット(3)の所定の位置に固定するように配置されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の放射線治療システム。
【請求項7】
前記粒子ビーム制御システム(7)は、前記放射線治療セッション中に、所定の経路に沿って
前記3次元放射線ターゲット(3)を横切ってビーム交差領域(8)を掃引するように配置されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の放射線治療システム。
【請求項8】
前記粒子ビーム制御システム(7)は、前記放射線治療セッション中に、ビーム交差領域(8)を前記
3次元放射線ターゲット(3)内の所定の位置に段階的に再配置するように配置されることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の放射線治療システム。
【請求項9】
前記粒子ビームは、陽子ビームであることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の放射線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線療法に関し、より具体的には、組織の周辺(surrounding tissue)に与える損傷を最小限に抑えながら癌腫瘍中の細胞のDNAを破壊する目的で放射線の効果を高める方法に関する。
【0002】
特に、本発明は以下を備える放射線治療システムに関する。
放射線治療患者の体内に位置する3次元放射線ターゲット(three-dimensional radiation target)に粒子ビームを照射するように配置された複数の粒子ビーム源及び、空間内の位置(position)及び調整(alignment)を個々に制御することができる粒子ビーム源と、
放射線ターゲットの移動方向及び速度を含む3次元放射線ターゲットの空間内の位置及び方向(orientation)を監視すると共に、粒子ビームの放射経路に位置する放射線ターゲットの身体組織(body tissue)の周辺の組織特性を監視するように配置された画像化システム(imaging system)と、を備える。
【背景技術】
【0003】
放射線療法を用いた癌治療では、放射線エネルギーが患者の身体の悪性細胞に蓄積されるように、電離放射線(ionizing radiation)を患者に照射する。十分な量のエネルギーが蓄積されると、DNAの破壊及びそれに続く照射細胞の死が生じる。
【0004】
陽子や他の荷電粒子は、放射線療法に適した深部線量曲線(depth-dose curve)を示す。このような放射線は、いわゆるブラッグピーク(Bragg peak)(荷電粒子の軌道の最後の領域における堆積エネルギーの急激な増加)を生成し、ここで荷電粒子はその全エネルギーを失い、堆積線量はゼロに低下する。深さ方向にシフトされ重み付けされたブラッグピークを追加することによって、「拡大ブラッグピーク」(spread-out Bragg peak:SOBP)を発生させることができる。
【0005】
特許文献1は、強度変調陽子治療(intensity-modulated proton therapy)用のシステムを開示しており、そこでは複数の陽子ビームが複数の方向及び角度から患者に与えられる。システムは、陽子ビームのエネルギー分布を制御、構成、又は選択することができ、またビームの位置及び/又は調整を動的に変更することもできる。
【0006】
更に特許文献1は、対象ボリュームをサブボリュームに分割するステップと、とりわけ患者の動きに基づいてサブボリュームに線量制約を適用するステップと、陽子治療システム(proton therapy system)の1つ以上の実現可能な構成を見つけるステップと、陽子治療の1つ又は複数の側面を改善又は最適化する陽子ビーム構成を選択するステップと、を含む陽子治療計画を作成する方法を開示している。
【0007】
しかしながら、特許文献1の陽子治療システム及び他の従来技術の放射線治療システムに関連する問題は、治療中の患者の動きが、システムが放射線量を放射線ターゲット内の意図された位置に正確に伝達することを困難にすることである。実際、たとえ患者が拘束されていても、患者の身体内の臓器の動きは依然として呼吸や不随意な筋肉活動から生じ、例えば、鼓動のような運動のように、従来技術の放射線療法システムが正確に放射線量を伝達することを困難にする。
【0008】
したがって、従来技術のシステムを使用して治療計画を作成する時、線量制約は治療中の患者及び/又は臓器の動きに関連する不確実性を考慮に入れる必要がある。実際には、この不確実性は、システムのオペレータが、健康な組織の損傷を避けるために、より低い全体投与量を与えるようにシステムを設定するという結果になり得る。これは、逆に、不確実性が存在しなかった場合よりも効率の悪い治療法となる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2016/0144201号明細書
【文献】米国特許第5,207,223号明細書
【文献】国際公開第02/19908号公報
【文献】PCT/US2008/055069
【文献】米国特許第9,199,093号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、この問題を軽減し、治療中の患者及び/又は臓器の動きに関してより確実性をもたらす放射線療法システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による放射線治療システムは、以下を備えることを特徴とする。
放射線治療システムは、放射線治療セッション中に、
画像化システムから放射線ターゲットの位置及び方向に関する情報と組織特性に関する情報を受信し、
前記組織特性に関する受信情報に基づいて、粒子ビームに曝されてならない身体組織を識別して、
放射線ターゲットの移動に応答し、粒子ビーム源の個々の位置及び調整、及び/又は粒子ビームの個々の特性を、
(i)粒子ビームのブラッグピーク又は拡大ブラッグピーク(SOBP)を放射線ターゲット内の所定のビーム交差領域で交差させ、
(ii)粒子ビームの放射経路は、粒子ビームに曝されないと識別された前記身体組織を通って移動しないように、調整することを含む粒子ビーム制御システムを備えることを特徴とする。
【0012】
したがって、本発明は、粒子ビームを放射するように位置された複数の粒子ビーム源を同時に、且つ協調的に動作させるために粒子ビーム制御システムを使用することに基づいている。粒子ビーム制御システムは、粒子ビーム源の位置及び調整、並びに粒子ビームの特性を決定及び制御して前記ビームを制御するように配置され、したがってそれらが交差して、それらのブラッグピーク(Bragg peaks)、又はそれらの拡大ブラッグピーク(SOBP:spread out Bragg peaks)が、放射線ターゲット内、例えば癌腫瘍内の所定のビーム交差領域内に存在するようになるので、同時に、粒子ビームに曝されないと識別された身体組織を通って粒子ビームが移動するのを防止する。
【0013】
治療セッションの前に、放射線ターゲットの各部分又は領域に与えられるのに必要な照射線量、並びに異なる方向から放射線ターゲットに与えられるべき放射線量を記載した治療計画が確立される。治療計画は通常、放射線ターゲット及び周辺組織、例えば臓器、骨及び他の組織構造の詳細な視覚化に基づいて作成される。治療計画は通常、粒子ビームに曝されるべきではない身体組織及び/又は患者の身体内の領域も特定する。
【0014】
治療セッション中に、各粒子ビーム源の位置及び調整は、放射線ターゲットの移動及び/又は周辺組織の移動に応じて調整され、各時点で各粒子ビームの放射経路又は軌道が見つけられ、対象とするビーム交差領域内のブラッグピーク、又は拡大ブラッグピーク(SOBP)を示す時、例えば治療計画に従って、粒子ビームに曝されてはならない患者の体内の敏感な領域又は構造(例えば 中枢神経系及び/又は末梢神経系の構造、眼、照射されていないことが確認された臓器など)及び/又は粒子ビームに望ましくない影響を与える可能性がある患者の体内の領域又は構造(例えば骨)を回避する。粒子ビーム源に対して適切な粒子ビーム軌道が見つからない場合は、粒子ビーム源を一時的に停止させることができる。
【0015】
放射線ターゲットの移動及び/又は粒子ビーム源の再配置(repositioning)及び再調整(realignment)を促す周辺組織の移動は、典型的には、患者の移動によるものでも、患者の内臓の移動によるものでもよい。
【0016】
放射線ターゲットが大きい場合、治療計画では、ビーム交差領域が放射線ターゲットを横切って掃引されることを要求される場合がある。その結果、各粒子ビーム源の位置及び調整は、そのような掃引動作を達成するために調整されることがある。そのような場合は、掃引動作を達成するための粒子ビーム源の再配置及び再調整は、放射線ターゲットの移動及び/又は周辺組織の移動を考慮に入れるための粒子ビーム源の再配置及び再調整と組み合わせることができる。
【0017】
画像化システムは、意図されたターゲット及び粒子ビームの放射経路内に位置する意図されたターゲットの周辺組織をリアルタイム、又は概ねリアルタイムで表現するための基盤を提供できるように、X線コンピュータ断層撮像(X線CT)画像化システム、磁気共鳴画像(MRI)システム、陽子コンピュータ断層撮像(PCT)画像化システム、陽電子放出断層撮像(PET)システム、或いは画像化システムの任意の他のタイプ、又はそれらの組み合わせを備えても良い。
【0018】
ターゲット及び周辺組織のリアルタイム、又は概ねリアルタイムの表現は、ターゲット及び周辺組織の静的表現と、動作の追跡を伴う運動パターンの知識に基づいて、表現をリアルタイムで調整及び更新することができる。動作のリアルタイム追跡は、例えば特許文献2及び特許文献3に開示されているように、超音波又は他の公知の手段を用いて達成することができる。
【0019】
画像化システムによって提供される前記表現に基づいて、粒子ビーム源の位置及び調整並びに粒子ビームの変調は、放射線ターゲット及び周辺組織の動きを動的に補償するように調整され、この調整によって、粒子ビームのブラッグピーク又は拡大ブラッグピーク(SOBP)が、放射線ターゲットの内側の所定のビーム交差領域において交差して維持され、同時に、粒子ビームに曝されないと識別された身体組織を通過しない粒子ビームの放射経路を確立する。このようにして、より効率的な線量伝達(dose delivery)を達成することができ、したがって腫瘍内部の放射線治療の効果を改善し、同時に周囲の健康な組織に伝達される放射線量を減らすことができる。
【0020】
粒子ビームを再配置及び制御する粒子ビーム制御システムの性能により、本発明によるシステムは、放射線ターゲット及び周辺組織の移動を補償すると同時に、ビームを腫瘍を横切って交差する領域を掃引することによって大きな腫瘍を治療するために使用できる。同じ性能を持つので、本発明によるシステムは、治療セッション中に複数の腫瘍を治療するためにも使用することができる。
【0021】
本発明によるシステムは、電子的及びリアルタイムに完全な治療セッションを文書化するために、例えば1つ又は複数のターゲットの各部分における累積放射線量及び治療セッション中に使用されるシステム設定を文書化するために使用することができる。
【0022】
本発明による放射線治療システムは、粒子ビームを生成してそれらを粒子ビーム源に供給するための1つ又は複数の粒子発生器(particle generators)又は加速器(accelerators)を備えることができ、各加速器は1つ又は複数の粒子ビーム又はビームレット(beamlets)を発生するように構成できる。代替的に、各ビーム源は、粒子ビーム又はビームレット自体を生成することが可能である。
【0023】
したがって、「粒子ビーム源」という用語は、粒子が粒子ビーム源で生成されることを必ずしも意味しないが、粒子ビームが放射線ターゲットに到達する前に、粒子ビームが移動する線形経路の開始点を定義すると理解されるべきである。換言すると、粒子ビーム源は、空間及び調整において固有の位置を有するビーム出口又はノズルと見なすことができ、そこから粒子ビームは放射線ターゲットまで直線的に進むことができる。しかしながら、前述のように、各粒子ビーム源は同じ粒子発生器からの粒子によって供給されてもよい。
【0024】
粒子ビームは、陽子ビームであっても良い。
【0025】
以下では、「粒子ビーム」という用語は、特に明記しない限り、又は文脈から黙示的に理解されていない限り、同一の粒子源から出て同一のビーム経路を有する1つ又は複数の粒子ビーム又はビームレットを意味する。例えば、粒子ビームは、業界内で呼ばれる、「ペンシルビーム」タイプのものであってもよい。代替的に、粒子ビームの輪郭をリアルタイムで調整するための既存の新しい技術を適用することができる。この新しい技術は、画像誘導放射線療法(image-guided radiation therapy:IGRT)又は四次元放射線療法と呼ばれている。
【0026】
粒子ビーム源ごとに、放射線治療システムは、ビーム源の位置及び調整を制御することができるアクチュエータを備えてもよい。
【0027】
粒子ビームが陽子ビームである場合、粒子ビームの軌道は通常永久磁石又は電磁石によって操作され、そのようなアクチュエータシステムでは通常電力供給及び冷却に対する大きな要求がある。例えば、冷却にはエネルギー転送が要求され、又は超伝導のための条件を提供するために、アクチュエータシステムは高エネルギー入力で巨大且つ重い物体を扱うように設計されなければならないかもしれない。ビーム源の位置及び調整を制御するアクチュエータは、ビーム案内システムを機械的にシフトすることによってビーム源を制御する装置によって、又は磁場を電気的に調整することによってビーム案内システムを制御することによって構成することができる。ビーム操作のための2つの方法は組み合わせることができる。
【0028】
各粒子ビーム源と組み合わせて、放射線治療システムはまた、粒子ビームの特性、例えばビーム断面積、ビームエネルギー及びビーム周波数を変調するように構成されているビーム変調装置を備えることができる。この場合、例えば、粒子ビームのうちの少なくとも1つのビーム経路内に位置された減衰器を調整し、例えば、ビーム経路又はその一部に1つ又は複数の減衰器を動的に挿入したり引き出したりすることによって変調が行われる。粒子ビームが粒子ビーム源を出た後に変調装置が粒子ビームと相互作用するように配置されていると有利である。しかしながら、変調装置は、ビームの発生後の任意の段階で粒子ビームと相互作用すればよい。
【0029】
ビーム源の位置及び調整並びにビーム変調、すなわち粒子ビームの特性を個々に制御することによって、粒子ビーム制御システムは、ブラッグピーク又はSOBPがビーム交差領域に確実に収束するように制御する。
【0030】
粒子ビーム制御システムは、個々の粒子ビームの開始及び停止、更に各粒子ビームがビーム交差領域を照射する時間の長さを制御するように構成されてもよい。
【0031】
粒子ビーム制御システムは、ビーム交差領域によって占められる空間内のボリュームが比較的大きくなるように粒子ビームを制御することができる場合、ビーム交差領域は、少なくとも放射線ターゲットが小さい場合には、放射線ターゲット全体を包含することができる。代替的に、粒子ビーム制御システムは、ビーム交差領域によって占められるボリュームが小さくなるように粒子ビームを収束させるように配置されてもよく、その場合、供給される放射線はこの小さなボリュームに収束される。
【0032】
放射線ターゲットがビーム交差領域によって占められるボリュームよりも大きい場合には、ビーム交差領域を放射線ターゲット上で掃引又は走査させて、所望の照射線量を放射線ターゲットの異なる部分に供給することができる。このような掃引又は走査は段階的又は連続的であってもよい。
【0033】
ビーム交差領域を動的に制御するためには、各粒子ビーム源の位置及び調整を動的に制御しなければならない。そのような制御を提供する変数は、「ビーム位置決め変数」と呼ばれることがあり、粒子ビーム源ごとに5つの変数、例えばデカルト座標x、y、yによって表される粒子ビーム源の位置を定義する3つの変数、及び例えば直交するピッチ軸及びヨー軸(yaw axes)に関して測定される回転角によって表されるような粒子ビームのピッチ及びヨー(yaw)を定義する2つの変数を含むことができる。ビーム軸を中心とした粒子ビーム源の回転はブラッグピーク又はSOBPの位置に影響を及ぼさないから、第3の方向座標、即ち、ロールに関する情報は通常は必要ない。
【0034】
粒子ビームの特性を動的に制御するために、粒子ビーム制御システムは、例えばビームエネルギー、ビーム周波数、及びビーム減衰などの変数を制御することができる。そのような制御を提供する変数は、「ビーム特性変数」と呼ばれることがある。これらの変数のうち、ビームの減衰は、粒子ビームの経路に減衰器を動的に挿入及び除去することによって制御できるので、動的制御に最も適したものである。
【0035】
「ビーム位置決め変数」及び「ビーム特性変数」を調整する目的は、各粒子ビームのブラッグピーク又はSOBPの発生の正確な位置決めを確実にすることであり、これにより、各粒子ビームのブラッグピーク又はSOBPは所定のビーム交差領域において正確に生じる。すなわち、粒子ビームのブラッグピーク又はSOPBがビーム交差領域内で交差させられる。ビーム交差領域の範囲は一般に交差する粒子ビームの断面積とそれらのブラッグピークの軸方向範囲によって決定される。ブラッグピークが、堆積エネルギーが最大堆積エネルギーの80%を超える領域として定義される場合、粒子ビームの個々の断面積と粒子ビーム間の角度に応じて、ビーム交差領域のボリュームは通常、50~1000mm3の範囲内に設定することができる。
【0036】
ビーム交差領域における個々の粒子ビームの位置は、通常、+/-0.5mmの精度内に設定されるべきであり、十分な動的特性を提供するために、粒子ビーム源の位置及び調整を制御するアクチュエータは、通常20mm/s以上の速度で動作し、40mm/s2以上の加速度で加速できるように設定する。アクチュエータは、電気モータ及び関連する制御システムを備えてもよい。
【0037】
画像化システムは、速度データ、すなわちターゲットの位置及び姿勢の変化に関するデータと共に、ターゲットの空間内の位置及び方向、すなわち姿勢を連続的に監視するように配置される。更に画像化システムは、ターゲットを囲む組織、特に粒子ビームの経路内にある組織に関する情報を監視するようにも配置される。
【0038】
このデータに基づいて、画像化システムは腫瘍と周囲の組織を動的にマッピングし、患者の身体の関連部分を表す数学的モデル(mathematical model)を構築することができる。様々な種類の組織(骨、肉、臓器、腫瘍など)がマッピングされ、様々な種類の組織が粒子ビームとどのように相互作用するかについての情報を用いて、粒子ビーム制御システムは、各粒子源の位置及び調整、及び粒子ビームの特性、すなわち、上述の「ビーム位置決め変数」及び「ビーム特性変数」を連続的に調整できるので、ビーム交差領域が意図した位置で固定される。粒子ビーム源の設定及びそれらの用途、すなわち照射活動(irradiation activity)及びその計算された効果は、同じ数学的モデルを用いて有利にマッピングすることができるので、実際のリアルタイム照射と身体の様々な部分での累積効果が、例えば各mm3(又は選択されたより大きな又は小さな単位毎)に記録される。
【0039】
画像化システムによって監視された情報はビーム制御システムに転送される。ビーム制御システムは、その情報を処理し、ビーム交差位置にビームを収束させ維持するために、ビーム源位置(beam source positions)、ビーム源調整(beam source alignments)及びビーム変調の最適な組み合わせを動的に自動的に計算し実行する。ビーム交差領域が動いている時、例えばビーム交差領域がターゲット上を掃引することを意図している時、及び/又は、例えば呼吸運動のためにターゲットが動いている時にビーム交差領域がターゲットに追従する時に骨は粒子ビームに対して異なる通常は望ましくない影響を与えるので、ビームの軌道が肋骨などの骨を避けるために個々の粒子ビーム源を動的に移動させることが時には必要である。これは、2つではなく粒子ビーム源毎に5つの軸を動的に制御する必要があるもう1つの理由である。
【0040】
「ビーム位置決め変数」及び「ビーム特性変数」を調整することは、例えば、参照により本明細書に組み入れられる特許文献4に記載されているように、ブラッグピーク又はSOBPの遠位位置がビーム交差領域で生じるように制御できるようにレンジシフタ(range shifter)を適用することを含んでもよい。
【0041】
荷電粒子のビームのエネルギー損失は、ターゲット内のビーム交差領域に到達する前に通過する組織のカテゴリに応じて、ミリメートル当たりで測定されるように実質的に変化する。空気、肉体、様々な臓器、又は骨組織やこれらそれぞれの路程を通過するか否は、ビーム源からどの距離でブラッグピーク又はSOPBが発生するかに大きな影響を与える。
【0042】
粒子ビーム中の粒子の関連タイプ及び他の関連ビーム特性を考慮に入れると、ターゲット及び周囲組織の数学的モデルは、組織のカテゴリ当たりのmm当たりのエネルギー損失を示すデータを提供することができる。これに関して、例えば、参照により本明細書に組み入れられる特許文献5に記載されているように、3D線量追跡を適用することができる。
【0043】
以下では、添付の図面を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】3つの異なる粒子ビームのブラッグピークを示す図である。
【
図2】本発明による放射線治療システムの一実施形態を開示する図である。
【
図3】本発明による放射線治療システムの一実施形態を開示する図である。
【
図4】本発明による放射線治療システムの一実施形態を開示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
荷電粒子が物質中を移動すると、物質の原子をイオン化し、経路に沿って線量を堆積する。荷電粒子の速度が減少するにつれて、堆積エネルギーは増加する。陽子ビーム、α線、その他のイオン線の場合、粒子が静止する直前に堆積エネルギーがピークになり、その結果、電離放射線のエネルギー損失が物質を通って移動した距離の関数としてプロットされると、結果として得られる曲線は、堆積エネルギーがゼロになる直前に、いわゆるブラッグピーク(Bragg peak)のような顕著なピークを示す。
【0046】
これは、3つの異なる粒子ビームからのブラッグピークを開示する
図1に示されている。
【0047】
図2及び
図3は、本発明による放射線治療システムの一実施形態を開示している。放射線治療システムは、放射線治療患者4の体内に配置された三次元放射線ターゲット3に粒子ビーム6a~6cを放射するように配置された複数の粒子ビーム源1a~1cを備える。
【0048】
放射線治療システムはまた、空間内の位置及び粒子ビーム源1a~1cの調整、並びに各個々の粒子ビーム特性を個々に制御するように配置された粒子ビーム制御システム7を備えている。当該粒子ビーム制御システム7は粒子線6a~6cのブラッグピーク又は拡大ブラッグピーク(SOBP)が、放射線治療セッション中に放射線ターゲット3の内側の所定のビーム交差領域8において交差されるように配置されている。
【0049】
この制御は、例えばデカルト座標x、y、yによって表される各粒子ビーム源の位置を定義する3つの変数及び例えば直交ピッチ軸とヨー軸の周りで測定された回転角によって表されるように、ビーム源から発する粒子ビームのピッチとヨーを定義する2つの変数を制御することを備えても良い。ビーム源の再配置及び/又は再調整は、アクチュエータ、例えばステッピングモータ(図示せず)を用いて達成される。
【0050】
この制御はまた、各粒子ビーム6a~6cのエネルギー、周波数、及び減衰のうちの少なくとも1つを制御することを備える。例えば、制御は、ビーム源1a~1cと患者4との間の粒子ビーム6a~6cの経路内に1つ又は複数の減衰器(図示せず)を動的に挿入及び除去することを含んでもよい。ただし、ビーム源1a~1cに共通の粒子発生器から粒子が供給される場合は、粒子ビームはまた、代替的に、個々のビーム源1a~1cに到達する前に操作されてもよい。
【0051】
放射線治療システムは更に、3次元放射線ターゲット3の空間内の位置及び方向を監視し、更に粒子ビーム6a~6cの放射線経路内に位置する放射線ターゲット3を囲む身体組織5の組織特性を監視するように配置された画像化システム2を備える。監視されたデータに基づいて、画像化システムは、ターゲット3と周囲組織5と、を動的にマッピングし、患者の身体の関連部分、すなわち、ターゲット3とターゲット3と粒子ビーム源1a~1cと、の間にある周囲組織を表す数学的モデルを構築するように配置される。このマッピングでは、様々な種類の周囲組織(骨、肉、臓器など)がマッピングされ、様々な種類の組織が粒子ビームとどのように相互作用するかに関する既知の情報、特に、様々な種類の組織がどの程度粒子ビームを減衰させるかに関する情報が数学的モデルの作成に用いられる。
【0052】
動作中、画像化システム2は、ターゲット3及び周囲組織5の空間における位置及び方向を監視し、ターゲット3及び周囲組織5のマップ、並びに患者4の身体の関連部分を表す数学的モデルを継続的に更新する。更新されたマップ及び/又は更新された数学的モデルは、粒子ビーム制御システム7に転送される。
【0053】
粒子ビーム制御システム7は、画像化システム2から受信した情報を処理し、この情報に基づいて、粒子ビーム源を再配置及び/又は再調整し、及び/又は粒子ビーム6a~6cの特性を変更する制御信号を生成するので、ターゲット3の位置及び/又は姿勢の変化を考慮して、粒子ビーム6a~6cのブラッグピーク又は拡大ブラッグピーク(SOBP)が対象とするビーム交差領域8内に維持される。
【0054】
これは、
図3及び
図4に示されており、例えば、患者又は患者の内臓が動くことに起因する、ターゲット3の空間における位置及び/又は方向の変化が、粒子ビーム制御システム7にビーム源1a~1cの位置を変えて再調整するように促す。ターゲットの空間における位置及び/又は方向の変化が小さい場合、ビーム源1a~1cは必ずしも再配置(repositioned)される必要はなく、単に再調整(realigned)されるだけでよい。そのような状況は
図4に示されている。
【0055】
画像化システム2から受信した情報から、粒子ビーム制御システム7は、治療計画によって粒子ビーム6a~6cに曝されるべきではない身体組織も識別する。ビーム源1a~1cを再配置及び再調整をする時、粒子ビーム制御システム7は、身体組織が粒子ビーム6a~cに曝されないようにする。
【0056】
ビーム源1a~1cの再配置及び再調整は、必ずしも放射線ターゲットの移動によって引き起こされるのではなく、身体組織が粒子ビーム1a~1cに曝されずに粒子ビーム6a~6cの放射経路内にもたらされるようにする動きによって引き起こされることもある。例えば、空間内の本質的に同じ場所に放射線ターゲットを残す患者の身体の回転は、回転によって身体組織が粒子ビーム6a~6cの放射経路内に照射されないようになる場合、1つ又は複数のビーム源1a~1cを再配置及び/又は再調整することを必要とする。
【0057】
粒子ビーム制御システム7が粒子ビーム源1a~1cに対する「安全な」放射経路、すなわち身体組織が粒子ビームに曝されないように回避する放射経路を見つけることができない場合、そのような放射経路が見つかるまで、例えばそのような放射線経路が再び利用可能になるように、放射線ターゲット及び周囲の組織が移動するまで、粒子ビーム源は停止されなければならない。
【0058】
対象とするビーム交差領域8は、
図2及び
図3に開示されているように、ターゲット3内の所与の位置に固定されてもよい。代替的に、ビーム交差領域8は、連続的に又は段階的にターゲット3上を掃引するように配置されてもよい。その場合、ビーム源1a~1cを再配置及び/又は再調整する時、ビーム制御システム7はビーム交差領域の新たな位置も考慮に入れなければならない。この場合、ターゲットの空間における位置及び/又は方向の変化、並びに粒子ビーム6a~6cの経路にある組織の組成の変化を補償することも考慮しなければならない。
【0059】
前述の説明では、本発明による装置の様々な態様を例示の実施形態を参照して説明した。説明の目的のために、装置及びその機能の完全な理解を提供するために、特定の数、システム及び構成が述べられた。しかしながら、この説明は限定的な意味で解釈されることを意図していない。開示された主題が関係する当業者には明らかである、例示的な実施形態の様々な修正形態及び変形形態、並びに装置の他の実施形態は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあると見なされる。