(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】コンピュータ断層撮影における単一エネルギーデータを用いたアーチファクト低減の方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
A61B6/03 373
A61B6/03 350X
A61B6/03 ZDM
(21)【出願番号】P 2019555023
(86)(22)【出願日】2018-04-06
(86)【国際出願番号】 US2018026538
(87)【国際公開番号】W WO2018187735
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-04-01
(32)【優先日】2017-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518027438
【氏名又は名称】フォト・ダイアグノスティック・システムズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100119781
【氏名又は名称】中村 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】キーラー,マシュー・レン
【審査官】伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-167161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0081071(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0328450(US,A1)
【文献】特開2010-075443(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011005161(DE,A1)
【文献】XI YAN et al.,High-kVp Assisted Metal Artifact Reduction for X-Ray Computed Tomography,IEEE Access,2022年08月25日,Vol.4 ,pp.4769-4776
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ断層撮影におけるアーチファクト補正のための方法であって、
(1)異なるX線エネルギーに関連付けられた複数のデータセット(すなわち、D
1,D
2,D
3...D
n)を取得するステップと、
(2)ステップ(1)において取得された前記異なるエネルギーのデータセットから、複数の予備画像(すなわち、I
1,I
2,I
3...I
n)を生成するステップと、
(3)数学関数を用いて、ステップ(2)において生成された前記予備画像に対し演算を行い(operate on)、画像アーチファクトのソース(すなわち、アーチファクトソース画像(ASI)、ここでASI=f(I
1,I
2,I
3...I
n)である)を識別するステップと、
(4)前記ASIを順投影(forward projecting)してASD=fp(ASI)を生成するステップと、
(5)前記アーチファクトに関連付けられたデータの新たなサブセットを作成するために、元のデータセットD
1,D
2,D
3...D
nを選択し、組み合わせ、それによってアーチファクトが低減されたデータ(ARD)を作成するステップであって、ここでARD=f(ASD,D
1,D
2,D
3...D
n)である、ステップと、
(6)修復されたデータセット(RpD)を生成して、アーチファクトのないデータにおける低エネルギーデータを保持し、前記アーチファクトによる影響を受ける領域に高エネルギーデータを導入するステップであって、ここでRpD=f(ARD,D
1,D
2,D
3...D
n)である、ステップと、
(7)前記修復されたデータから最終的なアーチファクトが低減された画像(RAI)を生成するステップであって、RAI=bp(RpD)であり、ここで、関数bpはデータから画像を生成する任意の関数である、ステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記異なるX線エネルギーに関連付けられた複数のデータセット(D
1,D
2,D
3...D
n)は、単一エネルギー(monoenergetic)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記異なるX線エネルギーに関連付けられた複数のデータセット(D
1,D
2,D
3...D
n)は、異なるエネルギー分布を有する多エネルギー(polyenergetic)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記異なるX線エネルギーに関連付けられた複数のデータセット(D
1,D
2,D
3...D
n)は、多色の高、中、および低エネルギーのエネルギー分布を有する多エネルギーである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(3)において用いられる数学関数は、アーチファクトを生成する物体の領域を位置特定するバイナリ画像を作成する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(3)において用いられる数学関数は、アーチファクトの影響(impact)の度合い(degree)の尺度(measure)を作成し、ここで、物体がより大きなマイナスの影響(impact)を有する場合、より強い値が生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記画像アーチファクトは、物体における高X線減衰を有する点において生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記物体における点は金属を含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には撮像システムに関し、より詳細には、コンピュータ断層撮影(CT)撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ断層撮影は、複数の視点からのX線投影を用いて3次元(3D)データセットを構築する。このプロセスの結果として、「CT」画像が生成される。3Dデータセット内の各点は、空間内の物体における対応する点のX線減衰特性を記述する。薬剤、材料診断および空港セキュリティにおいてCTスキャナが用いられる。
【0003】
金属はX線を大きく減衰させ、これに起因して、再構築画像においてアーチファクトを生じる。結果として、これらのアーチファクトをなくす努力がなされてきたが、これまでに開発されてきた全ての手法は、例えば、計算オーバヘッド、画像精度等の様々な不利点を被る。
A.背景
コンピュータ断層撮影デバイスは、対象物体を通じて検出器のセットに送信されるX線のソースを有する。各検出器は、ソースをその検出器に接続する経路に沿って生じるX線減衰の量を測定する。この減衰データは、場合によっては、検出されたX線強度が検出器の表面上に投影される物体の影を表す限り、投影データとして知られている。異なる視野角から取得された投影データの多くのセットを用いて、物体の完全な3D形状および減衰特性を数学的に再構築することができる。「逆投影」として知られている数学的変換は、X線投影の観測データを生成することになる物体の形状および組成を特定する本質的に幾何学的な問題を解決する。
【0004】
図1は、CTスキャンにおけるいくつかの共通の構成要素および概念を示す。通常、X線ソース1はX線2を放出し、そのうちのいくらかが物体4を通過し、X線検出器のアレイ5によって検出される。X線ソース1および検出器5は、通常、中心点3の周りを方向6に回転する回転ガントリ6A上に搭載され、これにより、複数の配向から物体を通じたX線減衰を測定することが可能になり、それによって、物体4の完全な3D形状および減衰特性を再構築するのに用いられる投影データが生成される。
【0005】
X線は、物体を通じた距離を通過するにつれ指数関数的に強度が低減し、これを考慮することにより、幾何学的観点からX線信号を解釈することが可能になる。以下の式1は、或る材料を通過するときのX線の指数関数的減衰を記述する式である。ここで、Iは、或る材料を通過した後のX線強度であり、I0は妨害なしでのX線強度であり、xは、X線が通過した材料の量であり、muは、所与の材料およびX線エネルギーの定数である。
【0006】
式1 I(x)=I0e(-x mu)
対象物体を精査するのに用いられるX線が単一のエネルギー(色)である例では、式1は容易に反転される。
【0007】
式2 X=-ln(I/I0)/mu
式2は、muが定数であると仮定して、IおよびI0を知ることによって、X線が通過した材料の幾何学的長さを特定することができることを暗に意味する。不都合なことに、物体を通る経路の材料特性(mu)および長さの双方が配向と共に変動し得る。この問題に対する近似解は、逆投影として知られる。X線検出器データを逆投影して、物体の近似画像を生成することができ、ここで、画像内の各点は、物体における対応する点のX線減衰の尺度である。
B.金属アーチファクトを生成する例示的なメカニズム
ここで、背景に関して、再構成画像内のアーチファクトの生成につながる2つのメカニズムが説明される。これらの2つのメカニズムは、飽和およびビームハードニングである。
1.飽和した減衰
単一の検出器を有するCT撮像システムを用いた以下の簡略化された例は、信号飽和のメカニズムが画像にどのように影響を及ぼし得るかを示す(実際のCTシステムは、複数の検出器のアレイを用いて、設計された視野内の任意の場所に位置する複雑な形状の物体を忠実に再構築するが、単一の検出器を用いる以下の例は、飽和概念を適切に実証することができる)。
【0008】
図2は、X線ソース9および単一の検出器7が一連の角度位置1~9を通じて対象物体の周りで回転するときの、このソースおよび検出器のロケーションを示す(ソース位置は、「s」で示され、検出器位置は「d」で示される)。更なる増分ソース位置s10~s18および検出器位置d10~d18(図示せず)は、ソース位置s1~s9および検出器位置d1~d9にわたって取得されるデータをミラーリングする。
【0009】
各回転位置において検出される信号の量は、上記の式1によって記述されるように、X線が通過する材料の長さに関連する。
図3において、青いドットは、角度位置の関数としてX線信号を示す。
図2において、ソース位置2(s2)または3(s3)に関連付けられたX線経路は、僅かな量の材料を通過するのに対し、ソース位置7(s7)のX線経路は、物体の最も長い範囲を通過することに留意されたい。この効果は、
図3において描写(mirror)される。ここで、ソース位置3(s3)において最小X線減衰が見られ、ソース位置7(s7)において最大X線減衰が見られる。
【0010】
金属は、X線を大きく減衰させる。X線検出器は、X線のますます小さな量を検出可能になることが理想的であるが、検出器「ノイズ」および光子量子化が、検出器の感度に対し実際の物理的な制限を課す。この結果を示すために、前の例を検討するが、可能な限り最も低い検出可能信号に対し制限を課す。
図3において、「×」はデータのトランケートされたバージョンを表し、これは、低X線束における限られた検出の影響を模倣する。
図3における飽和信号が、角度位置6~8において(および角度位置15~17において)理想的な信号が生じるよりも大幅に低い測定X線減衰を生じることに留意されたい。現実世界のシステムは、通常、低X線束で検出可能性の連続ロールオフを有するが、例示の目的で、これは
図3に示すような急なトランケーションとしてモデル化され得る。
図4は、
図3のモデルトランケートデータと一致する物体の形状の「予測」である(すなわち、
図3のモデルトランケートデータを逆投影して画像を形成するとした場合、
図4に示す物体が結果として得られる)。
【0011】
実際には、高減衰レベル(例えば、金属を含む物体を走査するときに生じるもの等)が小さな信号レベルと相関付けられることにより、結果として、或る最小値に効果的にトランケートされた検出器データが得られる。幾何学的に、上記で論考した単純化された例では、これは、(例えば走査範囲内に存在する金属によって)高度に減衰されたX線経路のための長い固定した経路長に変換される。多くの検出器を有する完全なシステムでは、これは、密な物体を通る最も長いX線経路と自己整合した縞目を有して現れる。
2.ビームハードニング
CT産業では、X線ソースは通常、「スペクトルが広い」。全てのエネルギーのX線光子が同時に放出され、X線減衰の平均度合い(mu)は、X線が通過した材料の量と共に変動する。しかしながら、ソースの広いX線スペクトル内で、より高いエネルギーのX線(より低いmu)よりも、より低いエネルギーのX線がより迅速に減衰する(より高いmu)。より低いエネルギーのX線の減衰がより高いというこの問題は、「ビームハードニング」として知られる。
【0012】
中程度のビームハードニングは、物体の中心において再構築されたCT値の僅かな低減として現れ得る(「ディッシング」効果)。より極端なビームハードニング効果は、上記で説明した飽和アーチファクトにより似た画像アーチファクトを引き起こす可能性がある。例として、
図5は、より極端なビームハードニングの効果を示す。金属を含む物体は、通常、より低いエネルギーのX線の高い減衰に起因して、より極端なビームハードニング効果を生じる。
【0013】
ビームハードニングに対処するための複数の方法が開発されてきた。
最も直接的な方法は、単一のX線エネルギーを生成する単一エネルギーX線ソースを用いることである。単一エネルギーソースを用いて取得されたデータは、ビームハードニングの効果にほとんど影響されない。しかしながら、この手法は高価であり、このためほとんどの用途に実際的でない。
【0014】
別の方法は、材料のmu値が、水のmu値に非常に近いと仮定し、多エネルギーX線ソースのための距離とX線強度との間の関係を記述する式(式1に類似している)を開発することである。この手法は、ほとんどの生体組織が水のX線減衰に類似したX線減衰を有する医用CTにおいてかなり良好に機能する。しかしながら、この手法は、物体が金属を含む場合に良好に機能しない。より詳細には、全てのmu値が水のmu値に近いことを仮定する単純なビームハードニング補正は、走査範囲内に金属が存在する場合のビームハードニングを正しく補正せず、画像内に縞目が生じることになる。
【0015】
ビームハードニングの補正のための他の手法は、金属の存在下でより良好に機能することができるが、これらは多くの場合、複数の再構築(逆投影)および/またはデータモデル化(順投影)を伴い、計算コストが高くなり得る。
【0016】
近年、2つの異なる多エネルギーX線ソースの使用を伴う別の方法が開発されている。2つのソースは異なる多エネルギースペクトルを有し、一方は通常、他方よりも高いエネルギーである。これらの2つの多エネルギースペクトルを共に処理して、合成単一エネルギーデータを生成し、最終的に、合成単一エネルギー画像を生成することができる(Photo Diagnostic Systems, Inc.およびWilliam A. Worstell他によって出願された、米国特許出願公開第2017/0023498A1号、METHOD AND APPARATUS FOR PERFORMING MULTI-ENERGY (INCLUDING DUAL ENERGY) COMPUTED TOMOGRAPHY (CT) IMAGINGを参照されたい。この特許出願は、参照により本明細書に援用され、2つの異なる多エネルギーX線ソースをどのように用いて合成単一エネルギー画像を生成するかの記述を提供する)。そのような合成単一エネルギー画像は、ビームハードニングの効果に対しより耐性があるが、複数の広スペクトル測定値から導出される合成単一エネルギーデータは概算であり、幅広い一般的な材料減衰反応を想定しなくてはならない。このため、2つの異なる多エネルギーX線ソースを用いて生成された合成単一エネルギー画像は、金属のビームハードニング効果をやはり完全に補正するものではない。
C.金属アーチファクト補正
以下で、走査範囲内の金属の存在によってマイナスの影響を受けた走査データを補正するためのいくつかの一般的な手法が説明される。
【0017】
金属アーチファクト補正の第1のクラスは、未加工データ空間(すなわち、ファノグラム(fanogram)、サイノグラムまたは投影空間)内の金属により汚染されたデータの識別および置き換えを伴う。最も単純な手法は、金属により汚染されたデータ領域を、近傍の汚染されていない検出器チャネルからのデータの補間により置き換えることを伴う(Willi Kalender, Robert Hebel, Johannes Ebersberger, 「Reduction of CT Artifacts Caused by Metalic Implants」、Radiology, vol164, no.2, pp 576 (1987) and Gary Glover, Norbert Pelc, 「An algorithm for the reduction of metal clip artifacts in CT reconstructions」、Med. Phys., vol 8, no. 6, pp 799-807 (1981)を参照されたい)。この手法の単純性に起因して、この「サイノグラム完成」方法が高度に研究および評価されてきた。これらの補間方法は、問題となっている金属が同種設定内に埋め込まれる狭い範囲の事例において有効であるとみなされてきた。例えば、腹部内の金属ステープルである。これらの補間方法は、補間のために用いられる隣接する検出器チャネルが、隣接する組織と異なるデータ値を有するとき、例えば、ステープルが骨および軟組織付近にある場合に失敗する。加えて、これらの方式は、通常、物理的物体と一致する値を生成することが保証されていない単純な線形補間または多項式補間に依拠する。通常、このクラスの金属アーチファクト補正は、いく
つかのアーチファクトを低減するが、多くの場合に新たなアーチファクトを生成する。
【0018】
第2のクラスの金属アーチファクト補正は、サイノグラム値を置き換えるための「事前確率」の使用を伴う。より詳細には、この手法により、金属を含む画像の領域が識別され、なまし値と置き換えられ、次に順投影され検出器空間に戻される。次に、これらの新たな検出器値を用いて、金属により汚染された検出器値を置き換える。これにより、置換データが画像空間内の現実物体と自己矛盾がなく、単純な補間方式を用いるときに生成されるアーチファクトのうちのいくつかがなくなることを確実にする。医用用途では、画像内の金属アーチファクトは、水または骨に関連付けられた値に安全に限定することができ、次に、この事前の知識が医用CTアーチファクト補正において利用される。セキュリティ用途における事前確率の使用は、より広い範囲の材料に遭遇することに起因して、より大きな課題を課す。この方法の更なる精緻化は、更なるフィルタリングおよび補間ステップを含む(Gary Glover, Norbert Pelc, 「An algorithm for the reduction of metal clip artifacts in CT reconstructions」, Med. Phys., vol 8, no. 6, pp 799-807 (1981) and K. Y. Jeong and J. B. Ra, 「Reduction of artifacts due to multiple metallic objects in computed tomography」, Proc. SPIE, vol 7258, p. 72583E (2009))。このクラスの金属アーチファクト補正は、依然としてその効能が制限されており、このクラスの金属アーチファクト補正が完全な画像の順投影を伴うことから、計算コストが高くなり得る。
【0019】
第3のクラスの金属アーチファクト補正は、順投影および逆投影の多くのサイクルを用いて、測定データと一致する可能性が最も高い画像を導出する、反復的再構築プロセスに依拠することになる。この手法は、金属アーチファクトを低減するための最も効果的な手段のうちの1つであるが、多くの場合複雑であり、計算コストが高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本願発明の一実施例は、例えば、コンピュータ断層撮影における単一エネルギーデータを用いたアーチファクト低減の方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
低エネルギー単色X線ソースで撮像された物体は、放射線不透過物体と透過物体との間の高度なコントラストを示す一方で、高エネルギー単色X線ソースで撮像された物体は、材料間の比較的低いコントラストを示す。同様に、高エネルギーのX線は、金属によって妨害される可能性がより低く、高エネルギーX線データから生成された画像は、より少ない金属アーチファクトを被る。
【0022】
本発明は、双方の利点を最大にするようにして高エネルギーデータおよび低エネルギーデータを組み合わせる。金属が測定に影響を及ぼしていないデータの領域では、その高コントラスト特性に起因して低エネルギーデータが好ましいのに対し、金属による影響を受ける領域では、アーチファクトに対するその固有の抵抗に起因して、高エネルギーデータが好ましい。
【0023】
単一エネルギーデータは、直接的または間接的手段によって取得することができる
この方法は、金属アーチファクトを低減するための、単純で計算コストの低い手段を表す。
【0024】
本発明の代替形態において、異なるエネルギー(単一エネルギーまたは多エネルギー)を有するデータセットが用いられてもよい。
本発明の1つの好ましい形態では、コンピュータ断層撮影におけるアーチファクト補正のための方法が提供され、この方法は、
(1)異なるX線エネルギーに関連付けられた複数のデータセット(すなわち、D1,D2,D3...Dn)を取得することと、
(2)ステップ(1)において取得された異なる複数のエネルギーのデータセットから複数の予備画像(すなわち、I1,I2,I3...In)を生成することと、
(3)数学関数を用いて、ステップ(2)において生成された予備画像に対し演算を行い、画像アーチファクトのソース(すなわち、アーチファクトソース画像(ASI)であり、ここで、ASI=f(I1,I2,I3...In)である)を識別することと、
(4)ASIを順投影してASD=fp(ASI)を生成することと、
(5)アーチファクトに関連付けられたデータの新たなサブセットを作成するために、元のデータセットD1,D2,D3...Dnを選択し、組み合わせることであって、それによって、アーチファクトが低減されたデータ(ARD)を作成し、ここで、ARD=f(ASD,D1,D2,D3...Dn)であることと、
(6)アーチファクトのないデータにおける低エネルギーデータを保持し、アーチファクトによって影響を受ける領域に高エネルギーデータを導入するように、修復されたデータセット(RpD)を生成することであって、ここで、RpD=f(ARD,D1,D2,D3...Dn)であることと、
(7)修復されたデータから最終的なアーチファクトが低減された画像(RAI)を生成することであって、RAI=bp(RpD)であり、ここで、関数bpは、データから画像を生成する任意の関数であることと、
を含む。
【0025】
本発明のこれらの目的および特徴、ならびに他の目的および特徴は、添付の図面と共に検討される、本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明によってより完全に開示され、明らかにされる。添付の図面において、類似の符号は類似の部分を指す。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】X線ソース、X線、回転中心、走査される対象物体、X線検出器のアレイ、回転方向および回転ガントリを含むCTの一般的な要素を示す概略図である。
【
図2】X線ソースが単一の検出器と共に一連の角度位置1~9を通じて対象物体の周りで回転するときの、ソースおよび検出器のロケーションを示す概略図である(ソースロケーションは、「s」で示され、検出器は「d」で示される)。
【
図3】
図2に示す物体および光線のジオメトリのためのX線減衰対角度位置のプロットを示すグラフであり、円は理想的なシステムの値を表し、×’は、飽和効果が存在するシステムを表す。
【
図4】
図3の飽和データモデルと一致する物体形状を示す概略図である。
【
図5】極端なビームハードニングアーチファクトを有する
図2の物体を示す概略図である。
【
図6】
図6Aは、上から下に読まれるフローチャートの形態で、金属を識別し、金属による影響を受けたデータ領域内に高エネルギーデータを混合するためのプロセスを示す概略図である。
図6Bは、上から下に読まれるフローチャートの形態で、金属を識別し、金属による影響を受けたデータ領域内に高エネルギーデータを混合するためのプロセスを示す概略図である。
図6Cは、上から下に読まれるフローチャートの形態で、金属を識別し、金属による影響を受けたデータ領域内に高エネルギーデータを混合するためのプロセスを示す概略図である。
図6Dは、上から下に読まれるフローチャートの形態で、金属を識別し、金属による影響を受けたデータ領域内に高エネルギーデータを混合するためのプロセスを示す概略図である。
図6Eは、上から下に読まれるフローチャートの形態で、金属を識別し、金属による影響を受けたデータ領域内に高エネルギーデータを混合するためのプロセスを示す概略図である。
図6Fは、上から下に読まれるフローチャートの形態で、金属を識別し、金属による影響を受けたデータ領域内に高エネルギーデータを混合するためのプロセスを示す概略図である。
図6Gは、上から下に読まれるフローチャートの形態で、金属を識別し、金属による影響を受けたデータ領域内に高エネルギーデータを混合するためのプロセスを示す概略図である。
図6Hは、上から下に読まれるフローチャートの形態で、金属を識別し、金属による影響を受けたデータ領域内に高エネルギーデータを混合するためのプロセスを示す概略図である。
【
図7】
図7Aは、アーチファクトを低減するための一般化されたプロセスを示す概略図である。
図7Bは、アーチファクトを低減するための一般化されたプロセスを示す概略図である。
図7Cは、アーチファクトを低減するための一般化されたプロセスを示す概略図である。
図7Dは、アーチファクトを低減するための一般化されたプロセスを示す概略図である。
図7Eは、アーチファクトを低減するための一般化されたプロセスを示す概略図である。
図7Fは、アーチファクトを低減するための一般化されたプロセスを示す概略図である。
図7Gは、アーチファクトを低減するための一般化されたプロセスを示す概略図である。
図7Hは、アーチファクトを低減するための一般化されたプロセスを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
単一エネルギーデータを用いた金属アーチファクト補正
本発明の好ましい実施形態では、いくつかの単一エネルギーデータセット(近似により導出されるか、実験的に測定されるか、または合成により導出される)を共に用いて、アーチファクトを最小限にし、画像品質を最大限にする。より詳細には、低エネルギー単色X線ソースで撮像された物体は、X線不透過物体と透過物体との間の高度なコントラストを示す一方で、高エネルギー単色X線ソースで撮像された物体は、材料間の比較的低いコントラストを示す。これは、事例的には、高エネルギーのX線が全ての材料を単に通過する傾向が高いのに対し、低エネルギーのX線は、吸収または散乱により材料と相互作用する可能性がより高いことによって説明される。同様に、高エネルギーのX線は、金属によって妨害される可能性がより低く、高エネルギーX線データから生成された画像は、より少ない金属アーチファクトを被る。
【0028】
基本的な着想は、高エネルギーデータおよび低エネルギーデータを、双方の利点を最大限にするように組み合わせることである。金属が測定値に影響を及ぼさないデータの領域において、その高コントラストの特性に起因して低エネルギーデータが好ましいのに対し、金属による影響を受ける領域では、アーチファクトに対するその固有抵抗に起因して、高エネルギーデータが好ましい。
【0029】
単一エネルギー画像を生成することが可能なCTシステムでは、その高コントラストに起因して低エネルギー画像が一般的により望ましい。しかしながら、これらの低エネルギー単一エネルギー画像はまた、金属アーチファクトをより受けやすい。したがって、本発明を用いて、走査されている物体の低減衰領域について低エネルギー単一エネルギーデータを利用し、走査されている物体の高減衰領域について高エネルギー単一エネルギーデータを利用する複合画像を生成する。
【0030】
より詳細には、本発明では、「金属」は予備画像において最初に識別される。この画像は、任意の種類のX線ソース、例えば、多エネルギー、単一エネルギー、高エネルギーまたは低エネルギー等を用いて生成することができる。本発明の目的で、「金属」という用語は、アーチファクトを生成する任意の材料を説明するのに用いられ、特に密な材料、または独特な減衰特性を有する材料を含むことができることに留意されたい。1つの単純な実施形態では、予備CT画像における金属は、画像に減衰閾値を付すことによって識別される。ここで、この閾値よりも高い減衰値を有するピクセルが金属であるとみなされる。非金属材料に関連付けられた値を含む全ての他のピクセルはゼロに設定される。
【0031】
金属を含むことが識別された画像内のピクセルは、次に、「未加工」検出器読み値のいずれが金属によって影響されたかを識別するために順投影される。好ましい実施形態では、金属を含むと識別されたピクセルのみが順投影される。完全な画像を順投影することの他の利点があり得るが、金属による影響を受けた画像部分のみを順投影することにより、計算効率の良いプロセスにつながることに留意されたい。金属を含有する画像部分の順投影により、シミュレートされたデータセットが生成され、ここで、各データロケーションにおける値はX線ソースをセンサに接続する線に沿って観測される金属量に関連し、順投影は、金属がその線に沿ったデータに対し有する影響の度合いの尺度である。本発明の目的で、識別された金属の順投影は、金属による影響を受けたデータのマップとして参照され得る。
【0032】
1つの実施形態では、各検出器に関連付けられたデータ値は、X線ソースをX線検出器に接続する応答線に交差する金属の量に従って補正される。好ましい実施形態では、補正の大きさはバイナリ決定に引き渡され、バイナリ決定において、各データ点が分析され、X線ソースをX線検出器に接続する経路内に任意の金属干渉が存在したか否かが判断される。この好ましい実施形態の実際の実装は、シミュレートされたデータセットを閾値減衰値によって定量化し、いずれのデータ点が金属による影響を受けたか(これは「金属による影響を受けたデータ」と呼ばれる場合がある)を記述するバイナリ識別子を生成する。金属の存在によりマイナスの影響を受けたこれらのデータは、再構築されている物体と幾何学的に一致したままで金属アーチファクトを低減するように修復される必要がある。
【0033】
金属による影響を受けたデータのマップ内で識別されるデータの品質は、低エネルギーX線データにおけるよりも、高エネルギーX線データにおいて、より低いマイナスの影響を受ける。好ましい実施形態では、低エネルギーデータセットの金属による影響を受けたエリアは、高エネルギーデータセットの固定部分を「混合」することによって修復される。低エネルギーデータセットのデータ修復を、金属による影響を受けたことがわかっているエリアに制約することによって、適切な領域において金属を通じて撮像する高エネルギー能力を獲得しながら、低エネルギー画像の所望の高コントラストの形質が適宜保持される。
【0034】
このため、本発明では、ここで
図6A~
図6Hを参照して、物体の画像(
図6A)の金属アーチファクト補正は以下による影響を受け得る。
(1)高エネルギー単一エネルギーX線ソースおよび低エネルギー単一エネルギーX線ソースを用いて物体を走査し、2つの単一エネルギーデータセットを作成すること(
図6B)、
(2)高エネルギー単一エネルギー画像および低エネルギー単一エネルギー画像を生成すること(
図6C)、
(3)ピクセル閾値を用いて、高エネルギー単一エネルギー画像および低エネルギー単一エネルギー画像を金属部分および非金属部分に分離すること(
図6D)、
(4)金属による影響を受けたデータのマップを生成するために、金属に関連付けられたデータの領域を順投影すること(
図6E)、
(5)金属による影響を受けたデータのマップを用いて、高エネルギー単一エネルギー画像および低エネルギー単一エネルギー画像の要素を選択し、組み合わせて、アーチファクトに関連付けられた領域のための画像データの新たなサブセットを生成すること(
図6F)、
(6)上記でステップ(5)において識別された「修復されたデータ」を金属による影響を受けていない領域の画像データと統合して、完全なデータセットを作成すること(
図6G)と、および、
(7)完全なデータセットを用いて、アーチファクトの影響が低減された新たな画像を作成すること(
図6H)。
単一エネルギーおよび/または多エネルギーデータを用いた金属アーチファクト補正(「一般化された補正」)
上記の論考において、金属アーチファクト補正は、単一エネルギーデータの2つのセット(すなわち、高エネルギー単一エネルギーデータおよび低エネルギー単一エネルギーデータ)を用いて達成された。しかしながら、2つの異なるエネルギーレベルの多エネルギーデータを用いて金属アーチファクト補正を達成することも可能である。
【0035】
より詳細には、本発明のこの形態において、特異なスペクトル特性を有する材料(例えば高減衰金属)が最初に識別される。最も一般化された補正において、初期材料識別は、材料の領域が単色画像のセットにわたってどのように挙動するかを見ることによって、またはX線吸収スペクトルの共通セットを有する物体を識別することによって行うことができる。上記で論考した好ましい実施形態では、この方法は、高減衰を有する任意の画像領域に対し単純化された。より一般化された事例では、例えば、肺組織または非常に密な骨に類似のスペクトル特性を有する生体組織を優先的に識別することができる。これは、画像内で所望のスペクトル特性を有するエリアを選択するために、数学関数を利用可能な単色画像のセットに(またはいくつかの多色セットに)適用することによって達成される。
【0036】
画像内の領域が金属を含むものとして識別されると、「金属のみ」の領域がデータ空間に順投影され、それによって、影響の度合いが定量化される。最も一般化された例では、選択された材料の順投影を用いて、所与の検出器における測定値に対するその材料の総寄与が定量化される。このパラメータを用いて、単一エネルギーデータセット(または多色データセット)を、選択された材料について最適の特性を有するデータセットに選択的に組み合わせることができる。例えば、肺組織の順投影は、肺組織の測定においていずれの検出器が用いられるかを識別する。これらの肺組織データチャネルについて、関数を用いて、肺を撮像するための単色データセット(または多色データセット)のセットから、最適なデータセットを構築することができる。同様に、骨または金属の撮像に関連付けられたデータを、アーチファクトを最小限にするように構築することができる。全ての事例において、全ての検出器チャネルのためのデータは、その検出器によってサンプリングされた材料について最適化される。
【0037】
このため、本発明では、ここで
図7A~
図7Hを参照して、物体の画像(
図7A)の金属アーチファクト補正を、以下のステップに一般化することができる。
(1)異なるエネルギーに関連付けられた任意の数のデータセット(D
1,D
2,D
3...D
n)を生成または取得する。これらのデータセットは、単一エネルギーであってもよく、または異なるエネルギー分布(すなわち、多色の高、中、および低エネルギー)を有する多エネルギーであってもよい。
図7Bを参照されたい。
【0038】
(2)ステップ(1)において説明された異なる複数のエネルギーデータセットから任意の数の予備画像(I
1,I
2,I
3...I
n)を生成する。
図7Cを参照されたい。
(3)ステップ(2)の予備画像に対し演算を行う数学関数を用いて画像アーチファクトのソースを識別する。この関数は、バイナリ画像(アーチファクトを生成する物体の領域を位置特定する)、またはアーチファクトの影響の度合いの尺度、すなわち、物体がより大きなマイナスの影響を有する場合により強い値を生成することができる。これは、アーチファクトソース画像(ASI)と呼ぶことができる。ここで、ASI=f(I
1,I
2,I
3...I
n)である。
図7Dを参照されたい。
【0039】
(4)画像をモデルデータに転置する数学関数(すなわち、順投影器)を用いる。アーチファクトソースに関連付けられたデータの領域は、アーチファクトソースデータ(ASD)として知られる。アーチファクトソースデータは、ASIの順投影であり、すなわちASD=fp(ASI)である。
図7Eを参照されたい。
【0040】
(5)アーチファクトに関連付けられたデータの新たなサブセットを作成するために、アーチファクトソースデータセットを用いて、元のデータセットD
1,D
2,D
3...D
nを選択し、組み合わせる。これは、アーチファクトが低減されたデータ(ARD)として知られ、ここで、ARD=f(ASD,D
1,D
2,D
3...D
n)である。
図7Fを参照されたい。
【0041】
(6)プラスの画像特性を最適化するような(すなわち、アーチファクトのないデータにおける低エネルギーデータを保持し、金属による影響を受ける領域に高エネルギーデータを導入するような)方式で、データセット内に修復されたデータ(RpD)を構築する。これは、関数RpD=f(ARD,D
1,D
2,D
3...D
n)として一般的に説明される。
図7Gを参照されたい。
【0042】
(7)修復されたデータから、最終的なアーチファクトが低減された画像(RAI)を再構築する、すなわちRAI=bp(RpD)である。ここで、関数bpは、一般的に、データから画像を生成する任意の関数である。
図7Hを参照されたい。
変更形態
本発明のまた更なる実施形態は、本開示を鑑みて当業者には明らかとなることが認識されよう。本発明は、本明細書に開示され、かつ/または図面に示された特定の構造にいかなる形でも限定されるものではなく、本発明の範囲内で任意の変更形態または等価物も含むことを理解されたい。