(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタのためのミスト抽出システム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/17 20060101AFI20220525BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
B41J2/17 103
B41J2/01 305
(21)【出願番号】P 2019561910
(86)(22)【出願日】2018-05-09
(86)【国際出願番号】 EP2018062157
(87)【国際公開番号】W WO2018206735
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-05-07
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512193425
【氏名又は名称】メムジェット テクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】バテルナ,ダン
(72)【発明者】
【氏名】バララ,ロンメル
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-527058(JP,A)
【文献】特開2011-167926(JP,A)
【文献】特開2006-248026(JP,A)
【文献】特開2011-148255(JP,A)
【文献】特開2003-341109(JP,A)
【文献】特開2004-322529(JP,A)
【文献】特開2004-168050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0279518(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0125170(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0025775(US,A1)
【文献】特表2012-529386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリンタにおいて、
インク収集スロットを有するプラテンであって、前記インク収集スロットが、印刷ゾーンに位置付けられているとともに、前記プラテンの幅を少なくとも部分的に横切って媒体供給方向と垂直に延在している、プラテンと、
前記インク収集スロットに固定された芯棒において、上流側隙間及び下流側隙間が媒体供給方向に対する前記芯棒の両側に画定されている、芯棒と、
前記芯棒を少なくとも部分的に覆うように位置付けられ、前記芯棒から離間したプリントヘッドと、
前記インク収集スロットと流体連通する真空チャンバと
を備え、
前記芯棒が、プラテン面に対して前記上流側隙間から前記下流側隙間の方へ上向きに傾斜した芯表面を
有し、
前記上流側隙間を通る空気流が、前記下流側隙間を通る空気流より多い
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項2】
請求項1に記載のプリンタにおいて、
前記上流側隙間が前記下流側隙間より広い
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項3】
請求項1に記載のプリンタにおいて、
前記インク収集スロットが、前記真空チャンバの方へ延在する側壁を有する
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項4】
請求項1に記載のプリンタにおいて、
少なくとも1つの側壁の下端が、前記プラテンの下面に沿ったインク移行を最小化するためのガードを有する
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項5】
請求項
3に記載のプリンタにおいて、
下流側側壁が、前記プラテン面から前記芯棒の方へ面取りされている
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項6】
請求項
5に記載のプリンタにおいて、
前記下流側側壁が、5~20度の角度で面取りされている
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項7】
請求項
3に記載のプリンタにおいて、
前記側壁の少なくとも1つが、前記真空チャンバの方へ外向きに広がっている
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項8】
請求項1に記載のプリンタにおいて、
前記芯表面が、前記プラテンに平行な平面に対して1~10度、上向きに傾斜している
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項9】
請求項1に記載のプリンタにおいて、
前記芯表面が、前記プラテンのプラテン面より下に位置付けられている
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項10】
請求項1に記載のプリンタにおいて、
前記芯表面の上流側長手方向縁領域が湾曲している
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項11】
請求項1に記載のプリンタにおいて、
前記芯表面の下流側長手方向縁がある角をなしている
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項12】
請求項1に記載のプリンタにおいて、
前記プラテンが、印刷媒体を支持するための複数の隆起したリブを備え、
プラテン面が、前記リブの上面を備える
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項13】
請求項
12に記載のプリンタにおいて、
前記プラテンが、前記プラテン面上に印刷媒体を引き入れるための複数の真空開口を画定する
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項14】
請求項1に記載のプリンタにおいて、
前記芯棒が前記プラテンの中央部には存在しない
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項15】
請求項
14に記載のプリンタにおいて、
前記プラテンの前記中央部が、上流側媒体ピッカと、媒体供給方向に一直線に並んでいる
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項16】
請求項1に記載のプリンタにおいて、
前記芯棒が、回転可能なシャフト上に取り付けられており、
前記真空チャンバが、前記芯棒がスクレーパを通過して回転するときに、前記芯棒をこするために設置された前記スクレーパを備える
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項17】
請求項1に記載のプリンタにおいて、
第1のプリントヘッド及び第2のプリントヘッドを備え、
前記プラテンが、その幅に部分的に沿ったところで延在する第1及び第2のインク収集スロットを有し、
各インク収集スロットが、その中に受けられたそれぞれの芯棒を有し、
前記第1及び第2のプリントヘッドが、それぞれの芯棒の上方に位置付けられている
ことを特徴とするプリンタ。
【請求項18】
請求項
17に記載のプリンタにおいて、
前記プラテンが、前記第1のプリントヘッドと前記第2のプリントヘッドとの間で延在し、
前記第1及び第2のプリントヘッドを過ぎて供給される印刷媒体を支持するための共通のプラテン面を画定する
ことを特徴とするプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリントヘッドのためのミスト抽出及び粒子収集システムに関する。それらのシステムは主に、ミストノイズを減少させることによって印刷品質を改善し、一方で、ミスト抽出及び粒子収集システムによって占められる空間を最小化するために開発された。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、たとえば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2011/143700号パンフレット、国際公開第2011/143699号パンフレット、及び国際公開第2009/089567号パンフレットに記載されるような広範囲のMemjet(登録商標)インクジェットプリンタを開発している。Memjet(登録商標)プリンタは、シングルパス方式でプリントヘッドを超えて印刷媒体を供給する供給機構を併用した固定プリントヘッドを採用している。したがって、Memjet(登録商標)プリンタは、従来のスキャンインクジェットプリンタよりも遥かに速い印刷速度を提供する。
【0003】
インクミスト(又は、インクエアロゾル)は、インクジェットプリンタ、特に、顕微鏡レベルのインク液滴が通過する媒体上に連続的に噴出される、高速で、ページ幅のインクジェットプリンタにおける長年の問題である。インクミストは、結果として印刷品質の劣化をもたらす可能性があり、より長い印刷ジョブの間、経時的に増大することがある。
【0004】
ミスト抽出システムは一般に、プリントヘッドの近傍からミストを除去するために、媒体プラテンの上及び/又は下での吸引を採用する。たとえば、米国特許出願公開第2011/0025775号明細書は、媒体プラテンの上下に位置付けられた真空収集ポートを介してインクエアロゾルが収集されるシステムを説明している。
【0005】
媒体プラテンより上に真空収集ポートを有するミスト抽出システムは、通常、インクミストを減少させる際により効率的である。そのようなシステムは、印刷中、インクミストをプリントヘッドの近傍から連続的に抽出する。しかしながら、プラテン上方ミスト抽出システムは、プリンタ内で比較的大きな空間を占めるという欠点を有する。複数のページ幅プリントヘッドを有するプリンタでは、媒体供給方向に隣接するプリントヘッドの間の間隔を最小化することが望ましく、プラテン上方ミスト抽出システムは、この重要な間隔に影響を与える可能性がある。
【0006】
他方、プラテン下方ミスト抽出システムは、プリントヘッド間隔には影響を与えないが、そのようなシステムは比較的効率が悪い。吸引が媒体プラテンの開口を通して行われるので、ミスト抽出の機会は、媒体のシート上への印刷の間にのみ現れ、それは、比較的短いページ間の時間、特に、高速プリント中に、プラテン開口への難しい奨励インクミストである。さらにまた、吸引圧力の増加は一般に現実的ではなく、それは、プラテン面の吸引圧力が、印刷中、プラテン面上への印刷媒体の滑らかな供給を可能にする程度に十分低くなければならないためである。
【0007】
プリンタ内で比較的小さい空間を占める、効率的なミスト抽出システムを提供することは望ましいであろう。複数のプリントヘッドを有する印刷システムにおいて、プリントヘッド間の間隔に影響を与えないミスト抽出システムを提供することは、さらに望ましいであろう。
【発明の概要】
【0008】
第1の態様において、
その幅を少なくとも部分的に横切って延在するインク収集スロットを有するプラテンと、
インク収集スロットに受けられた芯棒であって、上流側隙間及び下流側隙間が媒体供給方向に対する芯棒の両側に画定されている、芯棒と、
芯棒を少なくとも部分的に覆うように位置付けられたプリントヘッドと、
インク収集スロットと流体連通する真空チャンバと
を備え、
芯棒が上流側隙間から下流側隙間の方へ上向きに傾斜した芯表面を有する、
プリンタが提供される。
【0009】
第1の態様によるプリンタは有利なことには、特に、芯棒のない他の同一のプリンタに比べて、プリントヘッドの近傍のミストレベルを減少させる。
【0010】
好ましくは、芯棒は、インク収集スロット内に凹設されている。
【0011】
好ましくは、上流側隙間は下流側隙間より広い。
【0012】
好ましくは、インク収集スロットは、真空チャンバの方へ延在する側壁を有する。
【0013】
好ましくは、少なくとも1つの側壁の下端は、プラテンの下面に沿ったインク移行を最小化するためのガードを有する。
【0014】
好ましくは、下流側側壁は、プラテン面から芯棒の方へ面取りされている。
【0015】
好ましくは、下流側側壁は、5~20度の角度で面取りされている。
【0016】
好ましくは、側壁の少なくとも1つは、真空チャンバの方へ外向きに広がっている。
【0017】
好ましくは、芯表面は、プラテンに平行な平面に対して1~10度、上向きに傾斜している。
【0018】
好ましくは、芯表面は、プラテンのプラテン面より下に位置付けられている。
【0019】
好ましくは、芯表面の上流側長手方向縁領域は湾曲している。
【0020】
好ましくは、芯表面の下流側長手方向縁はある角をなしている。
【0021】
好ましくは、プラテンは、印刷媒体を支持するための複数のリブを備え、プラテン面は、リブの上面を備える。
【0022】
好ましくは、プラテンは、プラテン面上に印刷媒体を引き寄せるための複数の真空開口を画定する。
【0023】
代替的な実施形態において、芯棒はプラテンの中央部には存在しない。芯棒のないプラテンの中央部は好ましくは、上流側媒体ピッカと媒体供給方向に一直線に並んでいる。
【0024】
いくつかの実施形態において、プリンタは、第1のプリントヘッドと第2のプリントヘッドとを備え、プラテンは、その幅に部分的に沿ったところで延在する第1及び第2のインク収集スロットを有し、各インク収集スロットは、その中に受けられたそれぞれの芯棒を有する。本実施形態において、第1及び第2のプリントヘッドは、それぞれの芯棒の上方に位置付けられている。
【0025】
プラテンスロットを介したミスト抽出がプリントヘッドの間の間隔に影響を与えないことが、本発明の利点である。よって、この間隔は、プラテン上方ミスト抽出システムに対応する必要なしに最小化することができる。
【0026】
第1及び第2のプリントヘッドは、媒体供給方向に対して重なり合う配置で位置付けられてもよい。
【0027】
通常、プラテンは、第1のプリントヘッドと第2のプリントヘッドとの間で延在し、第1及び第2のプリントヘッドを過ぎて供給される印刷媒体を支持するための共通のプラテン面を画定する。
【0028】
好ましくは、プラテンは、第1のプリントヘッドと第2のプリントヘッドとの間で延在し、第1及び第2の印刷ゾーンで印刷媒体を支持するための共通面を画定する。
【0029】
好ましくは、プラテンは真空プラテンである。
【0030】
好ましくは、プリントヘッドは、インクジェットプリントヘッドであり、ページ幅印刷技術に基づく複数のプリントヘッドチップを備えてもよい。
【0031】
第2の態様において、
プリントヘッドと、
印刷ゾーンを通って媒体供給方向に沿って搬送される印刷媒体を支持するためにプリントヘッドより下に位置付けられたプラテンであって、媒体供給方向に対して印刷ゾーンの上流側で少なくとも1つの粒子収集スロットを画定しているプラテンと、
粒子収集スロットと流体連通する真空チャンバと
を備え、
プラテンの上面が、媒体供給方向にプラテンに沿って延在する複数の隆起したリブと、リブに対して横方向にプラテンにわたって延在するダム壁とを備え、
ダム壁が、粒子収集スロットの下流側に位置付けられており、
リブが、粒子収集スロットの上流側からダム壁の方へ延在している、
プリンタが提供される。
【0032】
第2の態様によるプリンタは有利なことには、プリンタの印刷ゾーンを紙粉などの粒子の悪影響から保護する。
【0033】
好ましくは、プラテンは、ダム壁と平行に延在するインク収集スロットを有し、インク収集スロットは、ダム壁の下流側の印刷ゾーンに位置付けられている。
【0034】
好ましくは、ダム壁は、インク収集スロットを粒子収集スロットから分離している。
【0035】
好ましくは、芯棒は、インク収集スロット内に受けられている。
【0036】
好ましくは、リブ及びダム壁の上面は同一平面上にある。
【0037】
好ましくは、粒子収集スロットは、複数の別個の粒子収集トラップに分割されている。
【0038】
好ましくは、各リブは、粒子収集スロットに跨がって架橋し、ダム壁にぶつかっている。
【0039】
好ましくは、各リブは、粒子収集スロットの上流側で終了する。
【0040】
好ましくは、各リブは、粒子収集スロットの方へ下向きに湾曲した端部を有する。
【0041】
好ましくは、複数のフィンは、リブと平行にダム壁から延在しており、各フィンは、粒子収集スロットに跨がって架橋している。
【0042】
好ましくは、フィンはリブからオフセットしている。
【0043】
好ましくは、各リブは、一対のフィンの中間に配設されている。
【0044】
好ましくは、ダム壁の一部及び一対の隣接するフィンは、粒子収集トラップを画定している。
【0045】
好ましくは、各リブは、それぞれの粒子収集トラップによって囲まれた端部を有する。
【0046】
好ましくは、フィンは、粒子収集スロットの上流側を越えて延在している。
【0047】
好ましくは、各フィンは、面取りされた上流側端部を有する。
【0048】
好ましくは、リブ、ダム壁、及びフィンの上面は同一平面上にある。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「プリンタ」は、たとえば、従来のデスクトッププリンタ、ラベルプリンタ、印刷機、複写機などの、印刷媒体に記すための任意の印刷装置を表す。1つの実施形態において、プリンタは、枚葉給紙印刷装置である。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「インク」は任意の印刷可能な流体を表し、従来の染料系インク及び顔料系インク、赤外線インク、紫外線硬化インク、3D印刷流体、生物流体、無色インクビヒクルなどを含む。
【図面の簡単な説明】
【0051】
本発明の実施形態を、添付図面を参照しながら一例としてのみ説明する。
【0052】
【
図1】
図1は、2つのプリントヘッドとプラテンとを有するプリンタの概略側面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態によるプラテンの底面斜視図である。
【
図5】
図5は、インク収集スロット及び芯棒の拡大された上面斜視図である。
【
図6】
図6は、インク収集スロット及び芯棒の断面斜視図である。
【
図7】
図7は、プリント機構の断面側部斜視図である。
【
図8】
図8は、第2の実施形態によるプラテンの上面図である。
【
図10】
図10は、回転可能な芯棒を有するプラテンの一部の斜視図である。
【
図12】
図12は、粒子収集トラップを有するプラテンの一部の斜視図である。
【
図14】
図14は、代替的な粒子収集トラップを有するプラテンの一部の斜視図である。
【
図15】
図15は、芯棒のまわりの空気流のコンピュータモデルを示す。
【
図16】
図16は、芯棒のまわりのミスト流のコンピュータモデルを示す。
【
図17】
図17は、さまざまなミストレベル測定値からの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
第1の実施形態
図1を参照すると、第1及び第2の固定されたプリントヘッド3を備えるプリンタ1が示され、プリントヘッドは、一方が媒体供給方向Fに対して他方の下流側に位置付けられている。固定された真空プラテン7は、プリントヘッドのそれぞれの印刷ゾーン4を通して供給される印刷媒体9(たとえば、紙)のシートを支持するために、プリントヘッドの下に位置付けられる。プラテン7は、媒体シート9がプリントヘッド3を通り過ぎる水平軌道で供給されるように構成されたプラテン上面8を有し、プラテンは、プラテン面に対して印刷媒体を引き寄せるための吸引力を提供する。よって、印刷媒体は、媒体がそれぞれのプリントヘッド3の離間した印刷ゾーン4を通って進むとき、プラテン7に対して平坦な状態で安定して支持されている。
【0054】
プラテン7は、必要に応じて、又は、紙詰まりを解消するために、キャッピング及び/又は保守管理の介入を可能にするように、プリントヘッド3の方へ且つプリントヘッド3から離れるように昇降可能であってもよい。保守管理及び/又はキャッピングの介入を可能にするためにプラテンを昇降及び水平移動させるための適切な配置は、米国特許第8,523,316号明細書に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。さらに、又は、あるいは、各プリントヘッド3は、プラテン7の方へ且つプラテン7から離れるように昇降可能であってもよい。保守管理及び/又はキャッピングの介入を可能にするためにプリントヘッドを昇降及び水平移動させるための適切な配置は、米国特許第9,061,531号明細書に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
図2に示されるように、プリントヘッド3は、媒体供給方向Fにおいて部分的に重なり、各プリントヘッドは、画像(図示せず)の約半分を印刷する。適切なアルゴリズムが、当該技術分野において知られている技術を使用して、2つのプリントヘッド間の任意のステッチアーチファクトを隠すために採用されてもよい(たとえば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,394,573号明細書参照)。よって、一対の重なり合うA4サイズのプリントヘッドが、たとえば、A3シート上への印刷に使用されてもよい。
【0056】
入力ローラアセンブリ15は、プラテン7の上流側に位置付けられた入力ローラ(上部入力ローラ16A及び下部入力ローラ16B)の1つ又は複数の対から構成される。入力ローラアセンブリ15は、媒体シート9の前縁を受けて、上流側プリントヘッドの印刷ゾーン4の方へ媒体供給方向Fに沿ってシートを供給するように構成される。出力ローラアセンブリ21は、媒体供給方向Fに対してプラテン7の下流側に位置付けられた出力ローラ(上部出力ローラ22A及び下部出力ローラ22B)の1つ又は複数の対から構成される。出力ローラアセンブリ21は、プラテン7から媒体シート9を受けて、プリンタ1の出口トレイ(図示せず)へシートを運搬するために構成される。中間ローラアセンブリ25は、プラテン7内に少なくとも部分的に埋め込まれ、2つのプリントヘッド3の間に位置付けられた中間ローラ(上部中間ローラ24A及び下部中間ローラ24B)の対から構成される。中間ローラアセンブリ25は、第1の入力ローラアセンブリ15から媒体シート9を受けて、出力ローラアセンブリ21の方へシートを供給するために構成される。
【0057】
入力ローラアセンブリ15、中間ローラアセンブリ25、及び出力ローラアセンブリ21は、プリンタ1の媒体供給機構の一部を一緒に形成する。媒体供給機構は通常、当該技術分野において知られているように、媒体ピッカ26(
図2)などの他の構成要素を備える。さらに、各ローラアセンブリは媒体幅にわたって延在する単一のローラ、又は、媒体幅にわたって離間した複数のローラを備えてもよい。
【0058】
ここで
図3~6を参照すると、第1の実施形態によるプラテン7は、略平面状であり、一対の重なり合うインク収集スロット30を画定し、各インク収集スロット30は、プラテンの幅を部分的に横切って延在する。プラテン面8は複数のリブ27を備え、各リブは、媒体シート9との低摩擦接触のためのリブ上面28を有する。リブ27の間に位置付けられた複数の真空開口29は、プラテン面8を一緒に画定するリブ上面28上に媒体シート9を引き寄せる真空力を提供する。
図3及び4に最もよく示されているように、複数のローラ開口31は、プラテン内に埋め込まれる下部中間ローラ24Bを受けるために、(インク収集スロット30の間で)プラテン7の中央部全体にわたって配置される。
【0059】
各インク収集スロット30は、芯棒32を含み、印刷中、芯棒の上に位置付けられたそれぞれのプリントヘッド3と一直線に並べられる。芯棒32は、芯棒の本体と係合された支持アーム33によって、それぞれのインク収集スロット30内に固定される。支持アーム33は、取付ブラケット34を介して、プラテン7の下面に固定的に取り付けられる。
【0060】
各芯棒32は通常、吸収性材料の棒から構成され、インク液滴を吸収して、プリントヘッド3から離れるように運ぶ。したがって、芯棒32は、印刷ジョブ中、吐出されたインク液滴を受けることによって、プリントヘッド3のためのスピトゥーン(spittoon)として働く。たとえば、最適なノズルの健全性を維持するために、通常、プリントヘッド3の各ノズルを定期的に作動させることが必要であり、これは、ページ内でのスピトゥーンへの吐出によって実現されてもよい。さらに、以下でさらに詳細に説明されるように、芯棒32及びインク収集スロット30は、印刷中、プリントヘッドの近傍からのエアロゾル(「インクミスト」)の最大限の収集を促進するように構成される。
【0061】
図6に最もよく示されているように、上流側隙間35は、芯棒32とインク収集スロット30の上流側側壁36との間に画定される。同様に、下流側隙間38は、芯棒32とインク収集スロット30の下流側側壁40との間に画定される。芯棒32のいくつかの特徴は、使用中、上流側隙間35に優先的に空気流(及び、ミスト流)を促進するように設計されている。第一に、芯棒32の芯上面42は、下流側隙間38から上流側隙間35の方へ下向きにゆるやかに傾斜している。通常は、勾配は1~10度の範囲である。示される実施形態において、勾配は約4度であるが、当業者は、性能を最適化するために勾配を変化させてもよいと容易に理解するであろう。第二に、芯棒32は、上流側隙間35が下流側隙間38より比較的広いように、インク収集スロット30に位置付けられる。第三に、芯棒32の最上流側の長手方向縁領域44は、角度プロファイルを有する最下流側の長手方向縁46とは対照的に、湾曲したプロファイルを有する。さらにまた、プラテン7下の第1の真空チャンバ50の方へのインク収集スロット側壁36及び40の広がりは、プラテン面8から第1の真空チャンバの方へ空気流を促進し、上流側隙間35及び下流側隙間38におけるインク詰まりを最小化する。各側壁36及び40の下端52は、第1の真空チャンバ50に張り出し、使用中、プラテン7の下面へのインクウィッキングを最小化するガードとして機能する。
【0062】
芯棒32の芯上面42全体は、印刷媒体の下面の好ましくない汚損を避けられるように、プラテン面8より下に位置付けられる。さらにまた、プラテン面8から下流側側壁40の方への浅い面取り54は、印刷媒体の前縁をプラテン面8上に曲げるように構成され、印刷媒体がインク収集スロット30に入ることによって引き起こされる紙詰まりの可能性を最小化する。通常は、面取り角は5~20度である。
【0063】
図7は、各芯棒32と関連付けられた第1の真空チャンバ50を示すプリンタ1の断面側部斜視図である。各第1の真空チャンバ50は、各インク収集スロット30に適切に制御された真空圧力を提供する、真空源(図示せず)に接続された開口ロッド52を含む。
【0064】
第2の真空チャンバ51は、第1の真空チャンバ50から流体隔離されており、印刷媒体をプラテン面上に引き寄せる真空圧力を真空開口29に提供する。通常、インク収集スロット30を通しての最適なインクミスト収集のために必要とされる真空圧力は、最適な媒体の安定性のために真空開口29で必要とされる真空圧力より小さい。よって、第1の真空チャンバ50及び第2の真空チャンバ51は通常、別々の真空源に接続されている。
【0065】
第2の実施形態
図8及び9は、第2の実施形態によるプラテン70を示す。第2の実施形態によるプラテン70では、各芯棒32は、2つの区域32A及び32Bに分割されており、プラテンの中央部72には、芯棒(及び、インク収集スロット30)が存在しない。よって、プリントヘッド3はそれぞれ、プラテン70の中央部72で芯棒を覆わない対応する部分を有する。プラテン70の中央部72は、媒体供給方向Fにおいて、プラテンの上流側の媒体供給経路の対応する中央部に位置付けられている媒体ピッカ26と一直線に並べられる。媒体ピッカ26は通常、上流側で紙粉を発生させ、その紙粉は、主にプラテンの中央部72に堆積する。第1の実施形態によるプラテン7では、紙粉は、上流側隙間35及び下流側隙間38に詰まることがあり、さらに、芯棒32の芯上面42上に堆積することがある。この堆積した紙粉は、インクと混ざると、媒体シート9の下面に好ましくないインク滲みを引き起こすことがある。しかしながら、第2の実施形態による代替的なプラテン70では中央部72には芯棒32がなく、これは、この領域に集められた紙粉が、芯棒上に堆積する可能性がない、又は、上流側隙間35及び下流側隙間38に詰まる可能性がないことを意味する。したがって、第2の実施形態によるプラテン70は有利なことには、第1の実施形態によるプラテン7と比較して、媒体シート9の下面へのインク滲みを最小化する。
【0066】
第3の実施形態
第2の実施形態によるプラテン70の潜在的な欠点は、インク収集スロット30がインク収集スロットのない中央部72ではスピトゥーン機能を実現できないことである。この場合、ページ内での吐出が、任意のページ間での吐出に依存することなく、最適なノズルの健全性を維持するために使用されてもよい。
【0067】
あるいは、又は、さらに、芯棒32上で紙粉がインクと混ざる問題は、
図10及び11に示される第3の実施形態によって対処されてもよい。
図10は、芯棒32が回転可能なシャフト76上に取り付けられた、第3の実施形態によるプラテン75の一部を示す。
図11A及び11Bを参照すると、スクレーパ77は、芯棒32の芯上面42がスクレーパを通過して回転するときに、芯棒32の芯上面42をこするために、真空チャンバ50に設置される。
図11Aは、上記のような最適なインクミスト収集のために、その基準位置(印刷位置)にある芯棒32を示し、一方、
図11Bは、清掃位置にある芯棒を示し、芯棒は回転途中であり、スクレーパ77は芯上面42をこすっている。よって、芯棒32の定期的な回転が、芯上面42から紙粉又は他の微粒子を除去するために使用されてもよく、それによって、インク及び紙粉の混合と関連付けられた問題を最小化する。
【0068】
第4の実施形態
第3の実施形態によるプラテン75の潜在的な欠点は、芯棒32の定期的な回転のための、設計及び要件の機械的複雑さの増加である。
図12~14に示される第4の実施形態によるプラテン80では、プラテンに沿って印刷ゾーン4の方へ押し流される粒子は、印刷ゾーンの上流側で、粒子収集スロット82によって捕捉される。プラテン80のいくつかの機能は、印刷媒体の空気流に混入した粒子(たとえば、紙粉)が印刷ゾーン4に到達する前に、それらの除去を促進する。したがって、粒子収集スロット82は、粒子とインクミストとの混合を最小化することによって印刷ゾーン4を保護するように設計されており、それによって、印刷媒体上のインクストリークを減少させる。
【0069】
図12は、印刷ゾーン4に位置付けられた(芯棒32を含んでもよい)インク収集スロット30の上流側に粒子収集スロット82を有するプラテン80の一部を示す。ダム壁84は、媒体供給方向に垂直に、プラテン80全体にわたって延在し、インク収集スロット30を粒子収集スロット82から分離する。
【0070】
リブ27は、媒体供給方向と平行に、プラテン80に沿ってダム壁84の方へ長手方向に延在する。粒子収集スロット82を介した粒子の除去を最大化するために、粒子収集スロットは、複数の別個の粒子収集トラップ83に分割される。
図12及び13に示されるように、複数のフィン86は、粒子収集スロット82に跨がって架橋するように、ダム壁84から上流方向に延在する。リブ27、ダム壁84、及びフィン86の上面はすべて、プラテン80に沿って搬送される印刷媒体を支持するために同一平面上にある。
【0071】
各粒子収集トラップ83は、ダム壁84の一部と、一対の隣接するフィン86とによって画定される。フィン86は、リブ27の対の中間に位置付けられ、それにより、フィン及びリブは、粒子収集スロット82の上流側に沿って互いに貫入している。この配置は、リブ27と並んで長手方向に進む傾向がある粒子の捕捉を最大化する。よって、各リブ27の両側に並んで進む粒子は、粒子トラップ83に入り、ダム壁84にぶつかる、且つ/又は、粒子収集スロット82に直接吸引される。フィン86の面取りされた上流側端部87は、リブ27の下向きに湾曲した下流側端部88とともに、粒子が粒子収集トラップ83に入ることをさらに促進する。
【0072】
粒子収集トラップ83は通常、真空開口29の真空圧力を制御する第2の真空チャンバ51と流体連通する。
【0073】
図14は、フィン86が存在せず、リブ27が粒子収集スロット82に跨がって架橋してダム壁84に合流する、粒子収集トラップ83の代替的な構成を示す。
【0074】
コンピュータシミュレーション
図15及び16は、
図3及び4に関連して本明細書で説明されたような、芯棒32のまわりの空気流及びミスト流の本出願人のコンピュータモデリングを示す。
図10から、芯棒32は、印刷ゾーン4から離れた上流側隙間35に空気流を優先的に導くことが分かる。同様に、
図11を参照すると、印刷ゾーン4の領域で生成されたインクミストは、上流側隙間35に優先的に導かれている。
【実施例】
【0075】
ミストレベル測定値
図3及び4に示される芯棒32の有効性は、
図7に示される種類の第1のテストプリンタ(「機械1」)でテストされた。テストプリンタ(「機械1」)には、各プリントヘッド3(「プリントヘッド1」及び「プリントヘッド2」)の近傍のインクミストを測定するために設置されたDusttrak(商標)エアロゾルモニタが装着された。2つのテスト画像は、機械1を使用してA3シート上に別々の印刷運転で印刷された。プリントヘッド1及び/又はプリントヘッド2の近傍のミストレベルは、印刷運転中、毎秒測定された。比較のために、芯棒32を有していない他の同一のテストプリンタ(「機械2」)が、同じテスト画像を印刷するために使用された。基準インクミストレベル測定値も印刷なしで記録された。これらのミストレベル測定値の結果は以下の表1に示され、
図17は表1のミストレベル測定値を要約している。
【0076】
これらの結果から、芯棒32を有するテストプリンタ(「機械1」)が、芯棒を有していない同じテストプリンタ(「機械2」)より一貫して優れていることが明確に分かる。特に、機械1での印刷運転A、C、E、及びGは、機械2での印刷運転B、D、F、及びHよりもかなり低いミストレベルを示した。結果は、ミスト抽出の機会が、インク収集スロットが印刷媒体で覆われていないときの媒体シートの間にのみ存在するという事実を考慮すると特に驚くべきものであった。それにもかかわらず、機械1は、プリントヘッド3の近傍のインクミストを減少させることに著しく有効であった。特に、インクミストレベルは、印刷運転E及びGにおいて、プリントヘッド2の基準ミストレベルに匹敵した。したがって、本発明によるプリンタ及び芯棒の配置は、ミスト抽出に関して著しく、驚くべき利点を有すると結論づけられた。
【0077】
本発明は2つの重なり合う固定されたプリントヘッドに関して説明されたが、もちろん、本発明は、媒体供給経路に沿って配置される任意の数のプリントヘッド(すなわち、1つ又は複数)に適用可能であってもよいことが理解されるであろう。複数のプリントヘッドの場合、プリントヘッドは、重なり合ってもよく、重なり合わなくてもよく、又は、一直線に並べられてもよい。
【0078】
言うまでもなく、本発明は例示のみによって説明されてきたが、詳細部分は、添付の特許請求の範囲に定められた本発明の範囲内で変更されてもよいことが理解されるであろう。