(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】減速装置用部品の熱処理方法
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220525BHJP
C21D 1/09 20060101ALI20220525BHJP
C21D 9/32 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H1/32 B
C21D1/09 M
C21D9/32 A
(21)【出願番号】P 2020121698
(22)【出願日】2020-07-15
(62)【分割の表示】P 2017005282の分割
【原出願日】2017-01-16
【審査請求日】2020-08-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-218746(JP,A)
【文献】特開2013-040676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
C21D 1/09
C21D 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速装置用部品の熱処理方法であって、
ヘッドからレーザー光を照射することにより前記減速装置用部品を熱処理する熱処理工程を含み、
前記熱処理工程では、前記減速装置用部品に前記レーザー光を照射して焼入れし高硬度領域を形成した後、前記レーザー光を照射済みの範囲の一部に対して前記レーザー光を再照射して低硬度領域を形成し、
前記レーザー光の再照射範囲は、前記減速装置の運転時に付加される荷重が前記高硬度領域に比べて小さい範囲に設定される減速装置用部品の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速装置用部品の熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、偏心揺動型減速装置が記載されている。この減速装置では、偏心体と外歯歯車との間に転動体が配置されており、偏心体の外周面が転動体の転動面を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の偏心体のように、転動体の転動面を構成する部品は、疲労強度の向上を図るため、転動面の高硬度化が要求される。これを実現するため、従来は、熱処理対象となるワークの全体を高硬度化させる熱処理が採用されていた。しかしながら、ワークに高硬度領域と低硬度領域の両方が現れる熱処理を採用することに関する提案はなされていなかった。
【0005】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、減速装置用部品のワークに高硬度領域と低硬度領域が現われる熱処理を好適に採用できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の他の態様は減速装置用部品の熱処理方法に関する。本方法は、減速装置用部品の熱処理方法であって、ヘッドからレーザー光を照射することにより前記減速装置用部品を熱処理する熱処理工程を含み、前記熱処理工程では、前記減速装置用部品に前記レーザー光を照射して焼入れし高硬度領域を形成した後、前記レーザー光を照射済みの範囲の一部に対して前記レーザー光を再照射して低硬度領域を形成し、前記レーザー光の再照射範囲は、前記減速装置の運転時に付加される荷重が前記高硬度領域に比べて小さい範囲に設定される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、減速装置用部品のワークに高硬度領域と低硬度領域が現われる熱処理を好適に採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態の減速装置を示す断面図である。
【
図2】第1実施形態の偏心体と偏心体軸受を拡大して示す断面図である。
【
図3】第1実施形態の各偏心体を正面上側から見た斜視図である。
【
図4】第1実施形態の各偏心体を背面下側から見た斜視図である。
【
図9】第1実施形態の偏心体の熱処理方法を説明するための図である。
【
図10】第2実施形態の減速装置を示す断面図である。
【
図11】第2実施形態の起振体の軸方向に直交する断面での外周面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。また、共通点のある別々の構成要素には、名称の冒頭に「第1、第2」等と付し、符号の末尾に「-A、-B」等と付すことで区別し、総称するときはこれらを省略する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の減速装置10を示す断面図である。本実施形態の減速装置10は、噛合歯車と噛み合う揺動歯車を偏心体により揺動させることで自転させ、その自転成分を出力する偏心揺動型減速装置である。本実施形態の減速装置10は、噛合歯車が内歯歯車22であり、揺動歯車が外歯歯車20となる外歯揺動式減速装置である。
【0014】
減速装置10は、主に、ケーシング12と、入力軸14と、偏心体16と、偏心体軸受18と、外歯歯車20と、内歯歯車22と、キャリア24とを備える。
【0015】
ケーシング12内には、偏心体16等の減速装置10の内部部品が収容される。
【0016】
入力軸14は、モータ等の駆動装置の駆動軸により回転駆動される。入力軸14は、自らの軸心を回転中心として回転する。本実施形態の入力軸14は駆動軸と一体化されている。
【0017】
偏心体16は、キー等を介して入力軸14と一体回転可能に設けられる。偏心体16は、入力軸14の回転中心を通る回転中心線Lc周りに回転することで外歯歯車20を揺動させる。
【0018】
図2は、偏心体16と偏心体軸受18を拡大して示す断面図である。本実施形態の偏心体16には回転中心線Lcに沿った軸方向に隣り合う第1偏心体16-Aと第2偏心体16-Bとが含まれる。偏心体軸受18、外歯歯車20、内歯歯車22のそれぞれは、第1偏心体16-Aと第2偏心体16-Bのそれぞれに対応して個別に設けられる。この対応する構成要素には、名称の冒頭に「第1、第2」と付し、符号の末尾に「-A、ーB」と付すことで区別する。偏心体16の詳細は後述する。
【0019】
偏心体軸受18は、複数の転動体26と、リテーナ28とを有する。偏心体軸受18は不図示のストッパ等により軸方向に位置決めされる。リテーナ28は、複数の転動体26の相対位置を保持するとともに複数の転動体26を回転自在に支持する。
【0020】
転動体26は、外歯歯車20と偏心体16との間、つまり、揺動歯車と偏心体16との間に配置される。転動体26は、回転中心線Lc周りに周方向に間隔を空けて設けられる。本実施形態の転動体26はころである。詳しくは、転動体26は回転中心線Lcと平行な回転軸を有する円柱状のころである。
【0021】
本実施形態の偏心体軸受18は、専用の内輪、外輪を有していない。この代わりに、偏心体16の外周面が内輪、外歯歯車20の貫通孔20a(後述する)の内周面が外輪の機能を果たす。つまり、偏心体16の外周面は転動体26が周方向に転動する内側転動面30を構成する。また、外歯歯車20の内周面は転動体26が周方向に転動する外側転動面を構成する。
【0022】
図1に戻る。外歯歯車20は、転動体26を介して偏心体16により回転中心線Lc周りに揺動可能に設けられる。外歯歯車20は、内歯歯車22に揺動しながら内接噛合する。外歯歯車20には軸方向に貫通する貫通孔20aが形成され、貫通孔20aの内側には偏心体16や転動体26が配置される。外歯歯車20には複数のピン孔20bが形成される。各ピン孔20bは回転中心線Lcから径方向にオフセットした位置にて周方向に間隔を空けて設けられる。各ピン孔20bには内ピン32が遊嵌している。内ピン32の外周側には内ローラ34が回転自在に組み付けられる。
【0023】
本実施形態の内歯歯車22は、ケーシング12と一体化された内歯歯車本体36と、内歯歯車本体36に支持される外ピン38と、外ピン38の外周側に回転自在に組み付けられる外ローラ40とを有する。外ローラ40は内歯歯車22の内歯を構成する。内歯歯車22の内歯数(外ローラ40の数)は、本実施形態において、外歯歯車20の外歯数より一つ多い。
【0024】
キャリア24は、外歯歯車20より軸方向の一方側に配置される。キャリア24は、外歯歯車20の自転成分と同期して回転可能である。これを実現するため、キャリア24には、内ピン32が圧入されるピン保持孔24aが形成され、内ピン32を介して外歯歯車20の自転成分が伝達される。キャリア24は、ケーシング12に出力軸受42を介して回転自在に支持された出力軸44と一体化されている。
【0025】
以上の減速装置10の動作を説明する。駆動軸が回転すると、駆動軸とともに入力軸14が回転する。入力軸14が回転すると、入力軸14とともに偏心体16が回転中心線Lc周りに回転する。偏心体16が回転中心線Lc周りに回転すると、転動体26を介して外歯歯車20が揺動する。外歯歯車20が揺動すると、外歯歯車20と内歯歯車22の噛合位置が順次ずれる。この結果、外歯歯車20は、入力軸14が一回転するごとに、内歯歯車22との歯数差に相当する分、内歯歯車22に対して相対回転、つまり、自転する。この外歯歯車20の自転成分は内ローラ34及び内ピン32を介してキャリア24に伝達され、キャリア24と一体化されている出力軸44に伝達される。この結果、入力軸14の回転が、外歯歯車20と内歯歯車22の歯数差と、揺動歯車の歯数に応じた減速比で減速されて出力軸44から出力される。
【0026】
図3は、各偏心体16を正面上側から見た斜視図である。
図4は、各偏心体16を背面下側から見た斜視図である。
図5は、偏心体16の側面図である。
図6は、偏心体16の上面図である。本図では、後述する第1低硬度領域50と第2低硬度領域54にハッチングを付して示す。前述の通り、偏心体16には、第1偏心体16-Aと、第2偏心体16-Bとが含まれる。第1偏心体16-Aは第1外歯歯車20-Aを揺動させる第1回転体であり、第2偏心体16-Bは第2外歯歯車20-Bを揺動させる第2回転体である。第1偏心体16-Aと第2偏心体16-Bの間にはこれらを接続する偏心体接続部46が設けられる。第1偏心体16-A、第2偏心体16-B及び偏心体接続部46は一体に成形された一体成形品である。この一体成形品は切削加工等により得られる。この一体成形品は、たとえば、高炭素クロム鋼等の鋼、つまり、金属を素材とする。
【0027】
図7は、
図5のA-A線断面図である。本図では偏心体軸受18も併せて示す。偏心体16は筒状をなし、その外周面は本実施形態において円形状をなす。偏心体16の外周面は、回転中心線Lcに対して所定の偏心量eだけ偏心している。第1偏心体16-A及び第2偏心体16-Bの最大偏心方向Paは、回転中心線Lc周りの位相が180度ずれている。ここでの偏心体16の最大偏心方向Paとは回転中心線Lcから偏心量eが生じている方向をいう。別の観点からいうと、最大偏心方向Paは、偏心体16の回転中心線Lcから偏心体16の軸心Cpに延びる方向をいう。ここでの偏心体16の軸心Cpとは、偏心体16の軸方向に直交する断面において偏心体16の外周面がなす形状の重心をいう。本実施形態においては、偏心体16の外周面の形状が円形状であるため、その円形状の中心が偏心体16の軸心Cpとなる。
【0028】
図8は、
図5のB-B線断面図である。
図5、
図8に示すように、偏心体接続部46は、第1偏心体16-Aや第2偏心体16-Bとは異なる外形を持つ筒状をなす。偏心体接続部46は、第1偏心体16-Aの外周面と軸方向に連続する第1外周面部46aと、第2偏心体16-Bの外周面と軸方向に連続する第2外周面部46bとを有する。第1外周面部46aは偏心体接続部46の全外周面を構成する二つの半周面部のうちの一方の半周面部を構成し、第2外周面部46bは他方の半周面部を構成する。偏心体接続部46の外周面は、全周に亘り、第1外周面部46aと第2外周面部46bの組み合わせにより構成されることになる。
【0029】
第1外周面部46aと第2外周面部46bの境界部分には曲率変化部46cが設けられる。曲率変化部46cは、偏心体接続部46の軸方向に直交する断面において、第1外周面部46aの曲率から第2外周面部46bの曲率に変化する境界となる。曲率変化部46cは外向きに凸となる角状をなす。曲率変化部46cは第1外周面部46aから第2外周面部46bに向かうにつれて第2偏心体16-Bから第1偏心体16-Aに近づくように延びている。
【0030】
ここで、各偏心体16の外周面には、第1高硬度領域48と、第1低硬度領域50とが設けられる。
図3~
図6では、偏心体16の外周面のうちハッチングを付していない箇所が第1高硬度領域48であり、ハッチングを付した箇所が第1低硬度領域50である。本実施形態では、一つの偏心体16につき一つの第1高硬度領域48が設けられ、他の箇所には第1低硬度領域50が設けられる。第1低硬度領域50は第1高硬度領域48より表面硬度が低い領域である。ここでの表面硬度とは、偏心体16の外周面を含む表層部の硬度をいう。詳しくは、偏心体16の外周面から深さ方向(法線方向)に所定の範囲(たとえば、1.0mm)に関して、所定の単位深さ(たとえば、0.1mm)毎に測定される全硬度の平均値をいう。第1高硬度領域48と第1低硬度領域50の硬度差は、たとえば、ビッカース硬度で少なくとも50Hv以上の範囲となる。この硬度差は、本実施形態のように、後述するレーザー焼入れによる熱処理を行う場合、通常は150Hv以上の範囲となる。
【0031】
第1高硬度領域48は、後述のように、偏心体16の素材をレーザー焼入れ等により焼入れすることで得られる。第1高硬度領域48の表層部には、たとえば、マルテンサイト等を主相とする焼入れ組織が設けられる。第1低硬度領域50は、後述のように、偏心体16の素材をレーザー焼入れ等により焼入れするうえで、同じ箇所を焼入れすることで得られる。第1低硬度領域50の表層部には、たとえば、フェライトとオーステナイトの混合組織等を主相とする焼戻し組織が設けられる。
【0032】
本実施形態では、
図7に示すように、この第1低硬度領域50を設けるべき範囲として非負荷範囲Saを定めている。この非負荷範囲Saは、偏心体16の軸心Cp周りの範囲のうち、偏心体16の軸心Cpより反最大偏心方向Pbに延びる第1基準線Lb1から±90度の範囲である。ここでの反最大偏心方向Pbとは、最大偏心方向Paとは回転中心線Lcを挟んだ正反対に延びる方向をいう。非負荷範囲Saは、第1偏心体16-Aと第2偏心体16-Bのそれぞれに個別に定めている。第1偏心体16-Aと第2偏心体16-Bとでは位相が180度ずれているため、第2偏心体16-Bの非負荷範囲Saは、図示はしないが、第1偏心体16-Aの非負荷範囲Saと位相が180度ずれた位置に設けられる。第1低硬度領域50は、この非負荷範囲Saに全体が収まるように設けられる。この理由を説明する。
【0033】
偏心体16には、正方向(図中時計回り方向)に回転するとき、最大偏心方向Paに延びる第2基準線Lb2から-90度の範囲Sb内の何れかの箇所に転動体26から最大荷重が付加され、他の範囲にはほとんど荷重が付加されない。また、偏心体16には、逆方向(図中反時計回り方向)に回転するとき、最大偏心方向Paに延びる第2基準線Lb2から+90度の範囲Sc内の何れかの箇所に転動体26から最大荷重が付加され、他の範囲にはほとんど荷重が付加されない。つまり、偏心体16には、偏心体16の回転方向によらず、反最大偏心方向Pbに延びる第1基準線Lb1から±90度の非負荷範囲Saにはほとんど荷重が付加されない。
【0034】
この非負荷範囲Saに第1低硬度領域50を設けておけば、第1低硬度領域50に大負荷が付与されず、その第1低硬度領域50に起因する偏心体16の寿命の低下を防止できる。よって、減速装置用部品となる回転体(偏心体16)のワークに高硬度領域と低硬度領域が現われる熱処理(たとえば、レーザー焼入れ)を採用しても、その低硬度領域に起因する寿命低下の影響を排除できる。このため、本実施形態によれば、減速装置用部品のワークに高硬度領域と低硬度領域が現われる熱処理を好適に採用できる。
【0035】
なお、第1低硬度領域50は、偏心体16の外周面において第1基準線Lb1が通る近傍の範囲Sdに設けられていると好ましい。この範囲Sdとは、第1基準線Lb1から±30度の範囲である。この範囲Sdは、偏心体16が回転するとき、転動体26から偏心体16に特に荷重が付加され難い。よって、この範囲Sdに第1低硬度領域50を設けることで、より効果的に第1低硬度領域50に起因する寿命の低下を防止できる。
【0036】
減速装置10の他の特徴を説明する。
図6に示すように、第1低硬度領域50は、各偏心体16それぞれの軸方向の全長に亘る範囲に設けられる。第1低硬度領域50は、偏心体16の軸方向に延びるとともに、偏心体16の軸方向に対して傾斜する帯状をなす。
【0037】
偏心体16の転動面30と転動体26との接触線Ldを考える。この接触線Ldは、偏心体16の転動面30上を転動体26が転動するときに、その転動面30と転動体26が線状に接触する箇所をいう。このとき、第1低硬度領域50がなす帯の幅及び傾斜角度は、接触線Ldが第1低硬度領域50上を通るとき、その接触線Ldが第1高硬度領域48上も通るように設定される。つまり、この接触線Ldが第1低硬度領域50のみの上を通らず、第1高硬度領域48と第1低硬度領域50の両方を通るように設定される。
【0038】
この条件は、転動面30の周方向の全周に亘る範囲のうち、接触線Ldが第1低硬度領域50上を通り得る全ての周方向範囲で満たされる。この条件は、この帯の幅を狭くするほど、又は、この帯の傾斜角度を大きくするほど満たし易くなる。この帯の幅は、偏心体16の軸方向の全長に亘って一定である必要はなく、その軸方向の位置に応じて変化してもよい。ここでの幅とは、偏心体16の周方向に沿った寸法をいう。ここでの傾斜角度とは、偏心体16の外周面上で第1低硬度領域50がなす帯を平面上に展開したときに、偏心体16の軸方向に対して帯の長手方向がなす傾斜角度をいう。
【0039】
これにより、偏心体16の第1低硬度領域50に転動体26が接触するとき、第1高硬度領域48にも転動体26を接触させることができる。よって、偏心体16の第1低硬度領域50にのみ転動体26が接触する場合と比べ、偏心体16の第1低硬度領域50に対する負荷を抑えられ、偏心体16の高寿命化を図ることができる。
【0040】
図3~
図6を参照する。偏心体接続部46の外周面には第2高硬度領域52と第2低硬度領域54とが設けられる。
図3~
図6では、偏心体接続部46の外周面のうちハッチングを付していない箇所が第2高硬度領域52であり、ハッチングを付した箇所が第2低硬度領域54である。これら第2高硬度領域52と第2低硬度領域54の関係は第1高硬度領域48と第1低硬度領域50の関係と同様である。つまり、第2低硬度領域54は第2高硬度領域52より表面硬度が低い領域である。ここでの表面硬度とは、偏心体接続部46の外周面を含む表層部の硬度をいい、前述した通りである。第2高硬度領域52と第2低硬度領域54の硬度差は、たとえば、ビッカース硬度で少なくとも50Hv以上の範囲となる。この硬度差は、本実施形態のように、後述するレーザー焼入れによる熱処理を行う場合、通常は150Hv以上の範囲となる。
【0041】
第2低硬度領域54は、第1領域部分54aと、第2領域部分54bと、第3領域部分54cとを含む。第1領域部分54aは、第1偏心体16-Aの第1低硬度領域50と軸方向に連続する。第1領域部分54aは、偏心体接続部46の第1外周面部46aのうちの周方向の中央部、つまり、周方向の中間部に設けられる。第2領域部分54bは、第2偏心体16-Bの第1低硬度領域50と軸方向に連続する。第2領域部分54bは、偏心体接続部46の第2外周面部46bのうちの周方向の中央部、つまり、周方向の中間部に設けられる。
【0042】
第3領域部分54cは、偏心体接続部46の第1外周面部46aと第2外周面部46bとの境界部分に設けられる。詳しくは、第3領域部分54cは、偏心体接続部46の第1外周面部46aと第2外周面部46bとの一つの境界部分と、もう一つの境界部分とのそれぞれに設けられる。この境界部分には曲率変化部46cが設けられるが、この曲率変化部46cに沿って第3領域部分54cが設けられる。
【0043】
このような偏心体接続部46は、後述のように、第1偏心体16-Aの外周面に第1高硬度領域48を設けるための熱処理工程と、第2偏心体16-Bの外周面に第1高硬度領域48を設けるための熱処理工程との二つの工程を経ることで得られる。つまり、偏心体接続部46を高硬度化するための熱処理工程を、第1偏心体16-Aや第2偏心体16-Bの熱処理工程とは別にせずともよくなる。よって、複数の偏心体16を持つ部品に関して、熱処理工数が少なくとも全体を高硬度化した部品を利用できる。
【0044】
図2を参照する。偏心体16の内部には中空部56と第1潤滑油路58とが設けられる。中空部56は軸方向に延びており、その中空部56には入力軸14が差し込まれる。偏心体16の中空部56の一部はケーシング12内に封入された潤滑油の静止状態での油面より低位置に配置される。この潤滑油はオイルでもよいしグリースでもよい。
【0045】
第1潤滑油路58は、中空部56から径方向に延びており、偏心体16の外周面に開口する吹出口58aを有する。偏心体16が回転するとき、偏心体16の中空部56の内部を通して第1潤滑油路58内に潤滑油が入り込む。この潤滑油は、偏心体16の中空部56と入力軸14との間、又は、入力軸14の内部に形成された軸方向に延びる第2潤滑油路(不図示)を通して、第1潤滑油路58内に入り込む。この状態で偏心体16が回転すると、第1潤滑油路58内の潤滑油には遠心力が作用する。この結果、偏心体16の中空部56内の潤滑油を第1潤滑油路58に吸い込みつつ、第1潤滑油路58の吹出口58aから潤滑油が吹き出され、偏心体軸受18や周囲の部品が潤滑油により潤滑される。
【0046】
ここで、第1潤滑油路58の吹出口58aは、
図3、
図4、
図6に示すように、偏心体16の第1低硬度領域50に開口している。吹出口58aは、第1低硬度領域50に全体が収まる形状であり、第1高硬度領域48には形成されない。よって、吹出口58aの開口縁が低硬度となるため、第1高硬度領域48に吹出口58aが開口するよりも耐久性を確保し易くなる。また、第1高硬度領域48に吹出口58aが開口するよりも、偏心体16の外周面に吹出口58aを設けるための加工をし易く、良好な加工性を得られる。
【0047】
次に、前述の偏心体16の熱処理方法を説明する。
図9は、偏心体16の熱処理方法を説明するための図である。本実施形態ではレーザー光を用いたレーザー焼入れによる熱処理を行う。レーザー焼入れを用いた場合、急冷用冷却設備が不要となる、環境負荷が小さい、熱処理歪が小さい等の利点がある。
【0048】
熱処理対象のワークとなる偏心体16は、回転治具(不図示)によって軸心Cp周りに回転可能に支持する。この状態で、ヘッド60からレーザー光62を照射することにより偏心体16の外周面を焼入れする。
【0049】
偏心体16は、第1偏心体16-Aの第1熱処理工程と第2偏心体16-Bの第2熱処理工程とに分けて熱処理する。第1熱処理工程では、
図9(a)に示すように、第1偏心体16-Aの外周面の軸方向の全長に亘る範囲と、偏心体接続部46の第1外周面部46aの軸方向の全長に亘る範囲とにレーザー光62を照射する。同工程では、第1偏心体16-Aに対するレーザー光の照射位置を第1偏心体16-Aの周方向に沿って変化させることで、第1偏心体16-Aの外周面を全周に亘り1プロセスで焼入れする。これを実現するため、第1偏心体16-Aに対するヘッド60の径方向位置は変化させず、回転治具によって第1偏心体16-Aを自らの軸心Cp周りに回転させる。これにより、ヘッド60から第1偏心体16-Aに対する照射位置までの距離(以下、照射距離という)がほぼ一定のままレーザー光が照射される。この1プロセスの焼入れにより、第1偏心体16-Aの外周面のみでなく、偏心体接続部46の第1外周面部46aも焼入れする。
【0050】
第2熱処理工程では、
図9(b)に示すように、第2偏心体16-Bの外周面の軸方向の全長に亘る範囲と、偏心体接続部46の第2外周面部46bの全長に亘る範囲とにレーザー光62を照射する。同工程でも、第2偏心体16-Bに対するレーザー光の照射位置を第2偏心体16-Bの周方向に沿って変化させることで、第2偏心体16-Bの外周面を全周に亘り1プロセスで焼入れする。これを実現するため、回転治具によって第2偏心体16-Bを自らの軸心Cp周りに回転させる。この1プロセスの焼入れにより、第2偏心体16-Bの外周面のみでなく、偏心体接続部46の第2外周面部46bも焼入れする。
【0051】
第1熱処理工程、第2熱処理工程の何れの場合も、偏心体16に対するレーザー光の照射位置を周方向に沿って変化させることで、偏心体16の外周面を全周に亘り焼入れした後、レーザー光を照射済みの範囲の一部に対してレーザー光を再照射する。これにより、レーザー光の再照射範囲には、焼戻しによって、ソフトゾーンと呼ばれる第1低硬度領域50が設けられる。
【0052】
偏心体16の外周面に対するレーザー光の再照射範囲は、たとえば、偏心体16に対するレーザー光の照射開始位置から数mm程度の範囲である。この再照射範囲は、前述した偏心体16の非負荷範囲Saに収まるように設定される。つまり、再照射範囲は、偏心体16の軸心Cp周りの範囲のうち、偏心体16の軸心Cpより反最大偏心方向Paに延びる第1基準線Lb1から±90度の範囲内に収まるように設定される。これにより、偏心体16の非負荷範囲Saには第1低硬度領域50が設けられ、偏心体16の外周面の他の範囲には第1高硬度領域48が設けられる。
【0053】
第1熱処理工程、第2熱処理工程の何れの場合でも、前述のソフトゾーンが偏心体16の軸方向に対して傾斜する帯状をなすように、ヘッド60の位置やヘッド60からのレーザーの照射角度が調整されている。これにより、偏心体16の軸方向に対して傾斜する帯状をなす第1低硬度領域50が設けられる。
【0054】
第1熱処理工程にて第1偏心体16-Aを軸心Cp周りに回転させるとき、ヘッド60から第1偏心体16-Aまでの照射距離や、ヘッド60から偏心体接続部46の第1外周面部46aまでの照射距離は、第1偏心体16-Aの回転位置によらず同等となる。一方、ヘッド60から偏心体接続部46の第2外周面部46bまでの照射距離は、前述の第1偏心体16-Aまでの照射距離や、偏心体接続部46の第1外周面部46aまでの照射距離より小さくなる。この結果、偏心体接続部46は、第1外周面部46aの全体が焼入れされ、第2外周面部46bは焼入れされない。このとき、第1外周面部46aは周方向両側の曲率変化部46cを含む範囲が焼入れされる。
【0055】
このように得られた中間処理品に第2熱処理工程を行うと、偏心体接続部46の第2外周面部46bの全体が焼入れされる。このとき、第2外周面部46bの曲率変化部46cは再照射されることになる。これにより、偏心体接続部46の曲率変化部46cや周辺部には第2低硬度領域54の第3領域部分54cが設けられることになる。
【0056】
(第2実施形態)
図10は、第2実施形態の減速装置10を示す断面図である。本実施形態の減速装置10は、内歯歯車122と噛み合う外歯歯車120を撓み変形させつつ回転させることで外歯歯車120を自転させ、その自転成分を出力する撓み噛み合い型減速装置である。
【0057】
減速装置10は、主に、ケーシング112と、一対のキャリア114と、起振体116と、起振体軸受118と、外歯歯車120と、内歯歯車122とを有する。
【0058】
ケーシング112は、円筒状の部材であり、その内側に一対のキャリア114が配置される。一対のキャリア114は、剛性を持つ円筒状の部材であり、その内側に起振体116が配置される。一対のキャリア114は、起振体116の軸方向に間隔を空けて配置される。一方のキャリア114-A (図中右側のキャリヤ。以下、入力側キャリア114-Aという)は、ケーシング112に回転不能に組み付けられ、ボルト穴114aにねじ込まれるボルト(不図示)により、モータ等の駆動装置に連結される。他方のキャリア114-B(図中左側のキャリヤ。以下、出力側キャリア114-Bという)は、ケーシング112に主軸受124を介して回転自在に支持される。出力側キャリア114-Bは、駆動装置から入力された回転を出力するための出力部として機能する。
【0059】
起振体116は、筒状部材であり、その軸直角断面形状は楕円状に形成される。本出願において、楕円とは、幾何学的に厳密な楕円形状に限られず、長軸と短軸を有する略楕円形状を含む。起振体116は、一対のキャリア114に対して軸受126を介して回転自在に両持ち支持される。起振体116には、駆動装置の駆動軸が接続される。起振体116は、その駆動軸によって、自らの軸心を回転中心として回転駆動される入力軸として機能する。また、起振体116は、外歯歯車120を撓み変形させる回転体として機能する。
【0060】
起振体軸受118は、起振体116と外歯歯車120の間に配置される。起振体軸受118は、外歯歯車120の第1外歯部120b(後述する)を回転自在に支持する第1起振体軸受118-Aと、外歯歯車120の第2外歯部120c(後述する)を回転自在に支持する第2起振体軸受118-Bとを含む。
【0061】
起振体軸受118は、複数の転動体128と、リテーナ130と、外輪132とを有する。リテーナ130は、複数の転動体128の相対位置を保持するとともに複数の転動体128を回転自在に支持する。外輪132は、複数の転動体128の外周側に配置される。外輪132は、可撓性を持ち、外歯歯車120と同様、複数の転動体128を介して起振体116により楕円状に撓み変形させられる。
【0062】
転動体128は、起振体116と外歯歯車120の間に配置される。転動体128は、起振体116の回転中心に沿って延びる回転中心線Le周りに周方向に間隔を空けて設けられる。本実施形態の転動体128はころである。詳しくは、転動体128は、回転中心線Leと平行な回転軸を有する円柱状のころである。
【0063】
本実施形態の起振体軸受118は、専用の内輪を有していない。この代わりに、起振体116の外周面が内輪の機能を果たす。起振体116の外周面は転動体128が転動する内側転動面134を構成する。詳しくは、起振体116の外周面は、第1起振体軸受118-Aの第1転動体128-Aが転動する第1内側転動面134-Aと、第2起振体軸受118-Bの第2転動体128-Bが転動する第2内側転動面134-Bとを有する。第1内側転動面134-Aと第2内側転動面134-Bは軸方向に連続するとともに同一の断面形状である。
【0064】
外歯歯車120は、起振体116の外周側に配置される。外歯歯車120は、可撓性を持つ環状部材である。外歯歯車120は、複数の転動体128を介して起振体116により楕円状に撓み変形させられる。外歯歯車120は、起振体116の長軸方向の両側部分が内歯歯車122と内接噛合している。外歯歯車120は、筒状のベース部120aと、ベース部120aの外周側に一体的に形成された第1外歯部120b及び第2外歯部120cを有する。第1外歯部120bは軸方向の一方側に配置され、第2外歯部120cは軸方向の他方側に配置される。外歯歯車120は、起振体116が回転すると、内歯歯車122との噛合位置を周方向に変えつつ、起振体116の形状に合うように撓み変形する。
【0065】
内歯歯車122は、剛性を持つ環状部材である。内歯歯車122は外歯歯車120の外周側に配置される。内歯歯車122には、外歯歯車120の第1外歯部120bが内接噛合する第1内歯歯車122-Aと、外歯歯車120の第2外歯部120cが内接噛合する第2内歯歯車122-Bとが含まれる。第1内歯歯車122-Aは、第1外歯部120bの外歯数より内歯数が2i(iは1以上の自然数)だけ多く、第2内歯歯車122-Bは、第2外歯部120cの外歯数と同数の内歯数である。第1内歯歯車122-Aは入力側キャリア114-Aに一体的に形成されており、第2内歯歯車122-Bは出力側キャリア114-Bに一体的に形成される。
【0066】
以上の減速装置10の動作を説明する。
駆動軸が回転すると、駆動軸とともに起振体116が回転する。起振体116が回転すると、内歯歯車122との噛合位置を周方向に変えつつ、起振体116の形状に合うように外歯歯車120が連続的に撓み変形させられる。第1外歯部120bは、起振体116が一回転するごとに、第1内歯歯車122-Aとの歯数差に相当する分、第1内歯歯車122-Aに対して相対回転(自転)する。このとき、起振体116の回転は、第1内歯歯車122-Aとの歯数差に応じた減速比で減速されて外歯歯車120が自転する。
【0067】
第1外歯部120bは、第2外歯部120cと同位相で一体に回転する。第2内歯歯車122-Bは、第2外歯部120cと歯数が同じであるため、起振体116が一回転した前後で第2外歯部120cとの相対的な噛合位置が変わらないまま、第1外歯部120bと同じ自転成分で同期して回転する。この第1外歯部120bの自転成分は第2内歯歯車122-Bを介して出力側キャリア114-Bに伝達される。この結果、入力軸14の回転が減速されて出力側キャリア114-Bから出力される。
【0068】
図11は、起振体116の軸方向に直交する断面での外周面を示す図である。本実施形態の起振体116の外周面にも、第1実施形態の偏心体16の外周面と同様、第1高硬度領域48と第1低硬度領域50とが設けられる。本図では、起振体116の外周面のうちハッチングを付していない箇所が第1高硬度領域48であり、ハッチングを付した箇所が第1低硬度領域50である。本実施形態では、起振体116に一つの第1低硬度領域50が設けられる。これらの関係は、第1実施形態の第1高硬度領域48と第1低硬度領域50と同様である。
【0069】
本実施形態では、この第1低硬度領域50を設けるべき範囲として非負荷範囲Saを定めている。この非負荷範囲Saは、起振体116の回転中心線Le周りの範囲のうち、回転中心線Leより起振体116の短軸方向Peに沿って延びる第3基準線Lb3から±45度の範囲である。ここでの短軸方向Peとは、起振体116の断面形状がなす楕円の短軸方向をいう。この短軸方向Peは、起振体116の回転中心線Leから外周面までの距離が最小となる位置を短軸位置と呼ぶとき、二つの短軸位置を結ぶ直線が延びる方向とも捉えられる。第1低硬度領域50は、この非負荷範囲Saに全体が収まるように設けられる。この理由を説明する。
【0070】
起振体116には、正方向(図中時計回り方向)に回転するとき、回転中心線Leより長軸方向Pfに沿って延びる第4基準線Lb4から-45度の範囲Se内の何れかの箇所に最大荷重が付加され、他の範囲にはほとんど荷重が付加されない。また、起振体116には、逆方向(図中反時計回り方向)に回転するとき、長軸方向Pfに延びる第4基準線Lb4から+45度の範囲Sf内の何れかの箇所に最大荷重が付加され、他の範囲にはほとんど荷重が付加されない。つまり、起振体116には、回転中心線Leより短軸方向Peに沿って延びる第3基準線Lb3から±45度の非負荷範囲Saにはほとんど荷重が付加されない。
【0071】
この非負荷範囲Saに第1低硬度領域50を設けておけば、第1低硬度領域50に大負荷が付与されず、その第1低硬度領域50に起因する起振体116の寿命の低下を防止できる。よって、減速装置用部品となる回転体(起振体116)のワークに高硬度領域と低硬度領域が現われる熱処理を採用しても、その低硬度領域に起因する寿命低下の影響を排除できる。このため、本実施形態によれば、減速装置用部品のワークに高硬度領域と低硬度領域が現われる熱処理を好適に採用できる。
【0072】
なお、図示はしないが、第1低硬度領域50は、第1実施形態と同様、起振体116の軸方向に延び、かつ、軸方向に対して傾斜する帯状をなしている。この第1低硬度領域50がなす帯の幅及び傾斜角度は、図示はしないが、第1実施形態と同様、起振体116の転動面134と転動体128との接触線Ldが第1低硬度領域50上を通るとき、その接触線Ldが第1高硬度領域48上も通るように設定される。これにより、起振体116の第1低硬度領域50に転動体128が接触するとき、第1高硬度領域48にも転動体128を接触させることができる。
【0073】
本実施形態の熱処理対象のワークとなる起振体116も、第1実施形態と同様、レーザー光を用いたレーザー焼入れにより熱処理を行う。起振体116は、その第1内側転動面134-Aと第2内側転動面134-Bとを含む範囲を同時に熱処理する。この熱処理工程では、これら起振体116の内側転動面134-A、134-Bを含む軸方向の範囲にレーザー光を照射する。同工程では、起振体116に対するレーザー光の照射位置を起振体116の周方向に沿って変化させることで、起振体116の外周面を全周に亘り1プロセスで焼入れする。
【0074】
このとき、第1実施形態と同様、起振体116に対するレーザー光の照射位置を周方向に沿って変化させることで、起振体116の外周面を全周に亘り焼入れした後、レーザー光を照射済みの範囲の一部に対してレーザー光を再照射する。これにより、レーザー光の再照射範囲には、焼戻しによって、ソフトゾーンとなる第1低硬度領域50が設けられる。
【0075】
起振体116の外周面に対するレーザー光の再照射範囲は、前述した起振体116の非負荷範囲Saに収まるように設定される。つまり、再照射範囲は、起振体116の回転中心線Le周りの範囲のうち、回転中心線Leより起振体116の短軸方向Peに沿って延びる第3基準線Lb3から±45度の範囲内に収まるように設定される。これにより、起振体116の非負荷範囲Saには第1低硬度領域50が設けられ、起振体116の外周面の他の範囲には第1高硬度領域48が設けられる。
【0076】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0077】
回転体(偏心体16及び起振体116)の第1高硬度領域48及び第1低硬度領域50はレーザー焼入れすることで得られる例を説明した。これに限られず、ワークに高硬度領域と低硬度領域が現われる熱処理であればよく、たとえば、高周波焼入れ等により得られてもよい。
【0078】
第1実施形態では、噛合歯車が内歯歯車22、揺動歯車が外歯歯車20となる外歯揺動式減速装置を説明した。この他にも、噛合歯車が外歯歯車20、揺動歯車が内歯歯車22となる内歯揺動式減速装置に用いられてもよい。
【0079】
第1実施形態の偏心体16は、入力軸14と別体に構成される例を説明したが、入力軸14と一体に構成されてもよい。
【0080】
第1実施形態の偏心体16は、偏心体軸受18の内輪を兼ねる例を説明したが、内輪を兼ねていなくともよい。この場合、偏心体軸受18の内輪が偏心体16の一部を構成し、その内輪の外周面が偏心体16の外周面を構成する。
【0081】
第1実施形態の内歯歯車22の内歯は、外ローラ40が構成する例を説明したが、これに限られず、たとえば、ケーシング12の内周面に形成されていてもよい。
【0082】
第1実施形態の偏心体16の中空部56には入力軸14が差し込まれる例を説明したが、入力軸14が差し込まれていなくともよい。この場合、偏心体16の中空部56は潤滑油を流す専用の油路として機能してもよく、その内径が実施形態の例より小さくともよい。
【0083】
第1実施形態では、内歯歯車22の軸心位置に偏心体16が配置されるセンタークランク型の偏心揺動型減速装置を例に説明したが、これに限られない。たとえば、内歯歯車22の軸心からオフセットした位置に複数の偏心体が配置される振り分け型の偏心揺動型減速装置に適用してもよい。
【0084】
第2実施形態では複数の内歯歯車122を有する筒型の撓み噛み合い型減速装置を例に説明した。撓み噛み合い型減速装置の種類は、特に限られず、たとえば、内歯歯車が一つのいわゆるカップ型又はシルクハット型の撓み噛み合い型減速装置に適用されてもよい。
【0085】
第2実施形態の起振体116は、起振体軸受118の内輪を兼ねる例を説明したが、内輪を兼ねていなくともよい。この場合、起振体軸受118の内輪が起振体116の一部を構成し、その内輪の外周面が起振体116の外周面を構成する。
【0086】
回転体(偏心体16、起振体116)に対するレーザー光の照射位置を回転体の周方向に沿って変化させるうえで、ヘッド60に対して回転体の軸心周りに回転体を回転させる例を説明した。これに限られず、たとえば、回転体に対してヘッド60を回転体の軸心周りに回転させてもよい。
【符号の説明】
【0087】
10…減速装置、16-A…第1偏心体、16-B…第2偏心体、20…外歯歯車、26…転動体、46…偏心体接続部、46a…第1外周面部、46b…第2外周面部、48…第1高硬度領域、50…第1低硬度領域、52…第2高硬度領域、54…第2低硬度領域、56…中空部、116…起振体、120…外歯歯車、128…転動体。